(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866021
(24)【登録日】2021年4月9日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】形鋼の接合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20210419BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20210419BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20210419BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
E04B1/58 503G
E04B1/98 F
E04B1/24 Q
E01D19/12
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-6989(P2017-6989)
(22)【出願日】2017年1月18日
(65)【公開番号】特開2018-115476(P2018-115476A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】前川 利雄
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−032123(JP,A)
【文献】
特開2010−281055(JP,A)
【文献】
特開平09−003875(JP,A)
【文献】
特開2011−064041(JP,A)
【文献】
実開昭53−110710(JP,U)
【文献】
特開2001−220828(JP,A)
【文献】
特開平06−146405(JP,A)
【文献】
実開昭49−010314(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0023172(US,A1)
【文献】
国際公開第2008/135634(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04B 1/58
E04B 1/98
E01D 19/12
E02D 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の形鋼の端部及び他方の形鋼の端部の板面全体を、当該形鋼の断面形状に対応した断面形状の筒状内面を有した管体の当該筒状内面に直接接触させることにより、一方の形鋼の端部及び他方の形鋼の端部を管体の筒状内面に嵌合させて、当該管体の筒状内面と一方の形鋼の端部との摩擦力及び当該管体の筒状内面と他方の形鋼の端部との摩擦力によって、一方の形鋼と他方の形鋼とを接合したことを特徴とする形鋼の接合方法。
【請求項2】
形鋼は、形鋼の長手方向の端部における板の厚さが形鋼の長手方向の延長端に近付くほど薄くなるように、少なくとも板の一方の板面が形鋼の長手方向の延長端に近付くほど板の他方の板面に近づく傾斜面に形成されており、
管体は、両端開口側に、形鋼の長手方向の端部における傾斜面に嵌合する筒状内面を有しており、
一方の形鋼の長手方向の端部における傾斜面と管体の一方の開口側の筒状内面とを嵌合させるとともに、他方の形鋼の長手方向の端部における傾斜面と管体の他方の開口側の筒状内面とを嵌合させることによって、一方の形鋼と他方の形鋼とを接合したことを特徴とする請求項1に記載の形鋼の接合方法。
【請求項3】
形鋼がH形鋼であり、当該H形鋼は、H形鋼の長手方向の端部における一対のフランジの外表面がH形鋼の長手方向の延長端に近付くほど互いに近づく傾斜面に形成されており、
管体は、両端開口側に、H形鋼の長手方向の端部におけるフランジの傾斜面に嵌合する筒状内面を有しており、
一方のH形鋼の長手方向の端部におけるフランジの傾斜面と管体の一方の開口側の筒状内面とを嵌合させるとともに、他方のH形鋼の長手方向の端部におけるフランジの傾斜面と管体の他方の開口側の筒状内面とを嵌合させることによって、一方のH形鋼と他方のH形鋼とを接合したことを特徴とする請求項1に記載の形鋼の接合方法。
【請求項4】
形鋼がH形鋼であり、当該H形鋼は、H形鋼の長手方向の端部におけるウェブの少なくとも一方の表面がH形鋼の延長端に近付くほどウェブの他方の表面に近づく傾斜面に形成されており、
管体は、両端開口側に、H形鋼の長手方向の端部におけるウェブの傾斜面に嵌合する筒状内面を有しており、
一方のH形鋼の長手方向の端部におけるウェブの傾斜面と管体の一方の開口側の筒状内面とを嵌合させるとともに、他方のH形鋼の長手方向の端部におけるウェブの傾斜面と管体の他方の開口側の筒状内面とを嵌合させることによって、一方のH形鋼と他方のH形鋼とを接合したことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の形鋼の接合方法。
【請求項5】
形鋼がH形鋼であり、
管体は、H形鋼の長手方向の端部における一対のフランジの外表面の半分及びH形鋼の長手方向の端部におけるウェブの外表面の半分に嵌合する内面を有した一対の半割ピースを組み合わせることにより構成され、
一方の半割ピースの内面を、一方のH形鋼の長手方向の端部における外表面の一方の半分及び他方のH形鋼の長手方向の端部における外表面の一方の半分に嵌合させるとともに、他方の半割ピースの内面を、一方のH形鋼の長手方向の端部における外表面の他方の半分及び他方のH形鋼の長手方向の端部における外表面の他方の半分に嵌合させた状態で、一方の半割ピースと他方の半割ピースとを接続することにより、一方のH形鋼と他方のH形鋼とを接合したことを特徴とする請求項1に記載の形鋼の接合方法。
【請求項6】
H形鋼は、フランジの外表面が傾斜面に形成されており、当該傾斜面は、フランジの外表面におけるH形鋼の長手方向と直交する方向における中央側から端側に向けて互いに近づくように傾斜する傾斜面に形成されており、
半割ピースは、傾斜面に形成されたフランジの外表面に嵌合する傾斜内面を備えており、
傾斜面に形成されたフランジの外表面と半割ピースの傾斜内面とを嵌合させたことを特徴とする請求項5に記載の形鋼の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の形鋼の端部と他方の形鋼の端部とを接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一方のH形鋼の端部と他方のH形鋼の端部とを接合する方法としては、添え板と高力ボルトとを用いた周知の接合方法や、一方のH形鋼の端部と他方のH形鋼の端部とが挿入される貫通孔とねじ溝付ボルト孔とを備えた接続金具を用いて貫通孔に挿入されたH形鋼の端部をねじ溝付ボルト孔に螺着されるボルトで固定する接合方法(特許文献1参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−220828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、形鋼としてのH形鋼同士を上述した接合方法により接合した場合、ボルトによる接合であるため、滑動面がなく、滑動面の摩擦によって振動エネルギーを吸収できる構成とはなっていないので、H形鋼の振動を抑制できないという課題があった。例えば梁として使用されるH形鋼同士を上述した接合方法により接合した場合、人の歩行時の床振動を抑制できない。
本発明は、形鋼の振動を抑制できる形鋼の接合方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る形鋼の接合方法は、
一方の形鋼の端部及び他方の形鋼の端部の板面全体を、当該形鋼の断面形状に対応した断面形状の筒状内面を有した管体の当該筒状内面に直接接触させることにより、一方の形鋼の端部及び他方の形鋼の端部
を管体
の筒状内面に嵌合させて、当該管体の筒状内面と一方の形鋼の端部との摩擦力及び当該管体の筒状内面と他方の形鋼の端部との摩擦力によって、一方の形鋼と他方の形鋼とを接合したことを特徴とするので、形鋼と管体の筒状内面とが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によって一方の形鋼及び他方の形鋼の振動エネルギーが吸収され、一方の形鋼と他方の形鋼との接合部の減衰性能が増すので、形鋼の振動を抑制できる。
また、形鋼は、形鋼の長手方向の端部における板の厚さが形鋼の長手方向の延長端に近付くほど薄くなるように、少なくとも板の一方の板面が形鋼の長手方向の延長端に近付くほど板の他方の板面に近づく傾斜面に形成されており、管体は、両端開口側に、形鋼の長手方向の端部における傾斜面に嵌合する筒状内面を有しており、一方の形鋼の長手方向の端部における傾斜面と管体の一方の開口側の筒状内面とを嵌合させるとともに、他方の形鋼の長手方向の端部における傾斜面と管体の他方の開口側の筒状内面とを嵌合させることによって、一方の形鋼と他方の形鋼とを接合したことを特徴とするので、形鋼の長手方向の端部を管体の筒状内面に挿入しやすくなって、形鋼の長手方向の端部と管体の筒状内面とを簡単に嵌合させることができるようになるとともに、形鋼と管体の筒状内面とが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によって一方の形鋼及び他方の形鋼の振動エネルギーが吸収され、一方の形鋼と他方の形鋼との接合部の減衰性能が増すので、形鋼の振動を抑制できる。
また、形鋼がH形鋼であり、当該H形鋼は、H形鋼の長手方向の端部における一対のフランジの外表面がH形鋼の長手方向の延長端に近付くほど互いに近づく傾斜面に形成されており、管体は、両端開口側に、H形鋼の長手方向の端部におけるフランジの傾斜面に嵌合する筒状内面を有しており、一方のH形鋼の長手方向の端部におけるフランジの傾斜面と管体の一方の開口側の筒状内面とを嵌合させるとともに、他方のH形鋼の長手方向の端部におけるフランジの傾斜面と管体の他方の開口側の筒状内面とを嵌合させることによって、一方のH形鋼と他方のH形鋼とを接合したことを特徴とするので、H形鋼の長手方向の端部を管体の筒状内面に挿入しやすくなって、H形鋼の長手方向の端部と管体の筒状内面とを簡単に嵌合させることができるようになるとともに、H形鋼と管体の筒状内面とが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によって一方のH形鋼及び他方のH形鋼の振動エネルギーが吸収され、一方のH形鋼と他方のH形鋼との接合部の減衰性能が増すので、H形鋼の振動を抑制できる。
また、形鋼がH形鋼であり、当該H形鋼は、H形鋼の長手方向の端部におけるウェブの少なくとも一方の表面がH形鋼の延長端に近付くほどウェブの他方の表面に近づく傾斜面に形成されており、管体は、両端開口側に、H形鋼の長手方向の端部におけるウェブの傾斜面に嵌合する筒状内面を有しており、一方のH形鋼の長手方向の端部におけるウェブの傾斜面と管体の一方の開口側の筒状内面とを嵌合させるとともに、他方のH形鋼の長手方向の端部におけるウェブの傾斜面と管体の他方の開口側の筒状内面とを嵌合させることによって、一方のH形鋼と他方のH形鋼とを接合したことを特徴とするので、H形鋼の長手方向の端部を管体の筒状内面に挿入しやすくなって、H形鋼の長手方向の端部と管体の筒状内面とを簡単に嵌合させることができるようになるとともに、H形鋼と管体の筒状内面とが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によって一方のH形鋼及び他方のH形鋼の振動エネルギーが吸収され、一方のH形鋼と他方のH形鋼との接合部の減衰性能が増すので、H形鋼の振動を抑制できる。
また、形鋼がH形鋼であり、管体は、H形鋼の長手方向の端部における一対のフランジの外表面の半分及びH形鋼の長手方向の端部におけるウェブの外表面の半分に嵌合する内面を有した一対の半割ピースを組み合わせることにより構成され、一方の半割ピースの内面を、一方のH形鋼の長手方向の端部における外表面の一方の半分及び他方のH形鋼の長手方向の端部における外表面の一方の半分に嵌合させるとともに、他方の半割ピースの内面を、一方のH形鋼の長手方向の端部における外表面の他方の半分及び他方のH形鋼の長手方向の端部における外表面の他方の半分に嵌合させた状態で、一方の半割ピースと他方の半割ピースとを接続することにより、一方のH形鋼と他方のH形鋼とを接合したことを特徴とするので、一方のH形鋼及び他方のH形鋼における長手方向と直交する方向における一方側及び他方側からそれぞれ半割ピースを一方のH形鋼の端部及び他方のH形鋼の端部に簡単に嵌合させることができるようになるとともに、H形鋼と半割ピースとが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によって一方のH形鋼及び他方のH形鋼の振動エネルギーが吸収され、一方のH形鋼と他方のH形鋼との接合部の減衰性能が増すので、H形鋼の振動を抑制できる。
また、H形鋼は、フランジの外表面が傾斜面に形成されており、当該傾斜面は、フランジの外表面におけるH形鋼の長手方向と直交する方向における中央側から端側に向けて互いに近づくように傾斜する傾斜面に形成されており、半割ピースは、傾斜面に形成されたフランジの外表面に嵌合する傾斜内面を備えており、傾斜面に形成されたフランジの外表面と半割ピースの傾斜内面とを嵌合させたことを特徴とするので、一方のH形鋼及び他方のH形鋼における長手方向と直交する方向における一方側及び他方側からそれぞれ半割ピースを一方のH形鋼の端部及び他方のH形鋼の端部により簡単に嵌合させることができるようになるとともに、H形鋼と半割ピースとが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によって一方のH形鋼及び他方のH形鋼の振動エネルギーが吸収され、一方のH形鋼と他方のH形鋼との接合部の減衰性能が増すので、H形鋼の振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】形鋼の接合方法により接合された大梁を用いた大スパン鉄骨造架構を示す斜視図(実施形態1)。
【
図2】H形鋼及び管体を示す斜視図(実施形態1)。
【
図3】(a)は接合構造の平面図、(b)は接合構造を一方側から見た図、(c)は(a)のA−A断面図(実施形態1)。
【
図4】H形鋼及び管体を示す斜視図(実施形態2)。
【
図5】(a)は接合構造の平面図、(b)は接合構造を一方側から見た図、(c)は(a)のA−A断面図、(d)は(a)のB−B断面図(実施形態2)。
【
図6】H形鋼及び半割ピースを示す斜視図(実施形態3)。
【
図7】(a)は接合構造を一方側から見た図、(b)は(a)のA−A断面図(実施形態3)。
【
図8】H形鋼及び管体を示す斜視図(実施形態4)。
【
図9】(a)は接合構造を一方側から見た図、(b)は(a)のA−A断面図(実施形態4)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
実施形態1に係る形鋼の接合方法は、
図2,
図3に示すように、形鋼としてのH形鋼1の断面形状に対応した断面形状の筒状内面2を有した管体3を用い、一方のH形鋼1A(1)の端部10Aと管体3の一方の開口30A側の筒状内面2とを嵌合させるとともに、他方のH形鋼1B(1)の端部10Bと管体3の他方の開口30B側の筒状内面2とを嵌合させて、当該管体3と一方のH形鋼1Aの端部10Aとの摩擦力及び当該管体3と他方のH形鋼1Bの端部10Bとの摩擦力によって、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとを接合する方法である。
【0008】
即ち、一方のH形鋼1Aの端部10A及び他方のH形鋼1Bの端部10Bを、当該H形鋼1の断面形状に対応した断面形状の筒状内面2を有した管体3の当該筒状内面2に嵌合させて、当該管体3の筒状内面2と一方のH形鋼1Aの端部10Aとの摩擦力及び当該管体3の筒状内面2と他方のH形鋼1Bの端部10Bとの摩擦力によって、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとを接合する。つまり、当該H形鋼の接合方法によって接合されたH形鋼の接合構造は、一方のH形鋼1Aの端部10Aと管体3の一方の開口30A側の筒状内面2とが嵌合状態となり、かつ、他方のH形鋼1Bの端部10Bと管体3の他方の開口30B側の筒状内面2とが嵌合状態となっている。
【0009】
H形鋼1は、長尺鋼材を圧延機で圧延することにより断面H形状に製造されたものであり、「H」の縦板部である一対のフランジ12,13と「H」の横板部であるウェブ14とを備えた構成である。尚、H形鋼1を梁として使用する場合、フランジ12,13が上下に位置される状態に取付けられるので、以後、梁として使用される場合に、上側に位置されるフランジを上フランジ12、下側に位置されるフランジを下フランジ13という。
そして、管体3の筒状内面2は、上下のフランジ12,13の表面に嵌合されるフランジ対応内面22,23と、ウェブ14の表面に嵌合されるウェブ対応内面24とを有した断面H形状の筒状内面である。
管体3は、例えば成形型により製造された金属製の管体により構成される。
【0010】
実施形態1に係るH形鋼の接合方法によって接合されたH形鋼の接合構造によれば、一方のH形鋼1Aの端部10Aと管体3の一方の開口30A側の筒状内面2との接触界面の摩擦力及び他方のH形鋼1Bの端部10Bと管体3の他方の開口30B側の筒状内面2との接触界面の摩擦力、即ち、H形鋼1A,1Bと管体3の筒状内面2とが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によってH形鋼1A,1Bの振動エネルギーが吸収され、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとの接合部の減衰性能が増すので、H形鋼1A,1Bの振動を抑制できるようになる。
【0011】
そして、上述したH形鋼の接合方法により、例えば、
図1に示すように、2本以上のH形鋼1,1…が接合された大梁100を形成し、当該大梁100を鉄骨柱101に接合した大スパン鉄骨造架構200を構築した場合、H形鋼1A,1Bの振動を抑制できて、人の歩行時の床振動を低減できる大スパン鉄骨造架構200を得ることができるようになる。
この場合、例えば、工場にて、一方のH形鋼1A(1)の端部10Aを管体3の一方の開口30A側から筒状内面2に圧入するとともに、他方のH形鋼1B(1)の端部10Bを管体3の他方の開口31側から筒状内面2に圧入することによって、大スパン鉄骨造架構200を形成し、当該大スパン鉄骨造架構200を建築現場に搬入して当該大スパン鉄骨造架構200の両端を鉄骨柱101に溶接等で接合したり、予め鉄骨柱101に溶接等で接合しておいた図外の梁と当該大スパン鉄骨造架構200の両端とを従来のような添え板と高力ボルトとを用いて接合する。
【0012】
実施形態2
図4,
図5に示すように、端部10A,10Bにおける上フランジ12の上面及び下フランジ13の下面が傾斜面12a,13aに形成されて、かつ、端部10A,10Bにおけるウェブ14の両面が傾斜面14a,14bに形成されたH形鋼1A,1Bと、当該H形鋼1A,1Bの端部10A,10Bの断面形状に対応した断面形状の筒状内面2を有した管体3とを用い、一方のH形鋼1Aの端部10Aと管体3の一方の開口30A側の筒状内面2Aとを嵌合させるとともに、他方のH形鋼1Bの端部10Bと管体3の他方の開口30B側の筒状内面2Bとを嵌合させることによって、当該管体3と一方のH形鋼1Aの端部10Aとの摩擦力及び当該管体3と他方のH形鋼1Bの端部10Bとの摩擦力により、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとを接合するようにしてもよい。
【0013】
H形鋼1A,1Bの端部10A,10Bにおける上フランジ12の上面を形成する傾斜面12aは、H形鋼1A,1Bの長手方向(H形鋼の長尺方向)Xの中央側からH形鋼1A,1Bの長手方向の延長端に近付く程、上フランジ12の傾斜面12a以外の上面と平行な下面12bに近付くように傾斜する傾斜面である。
H形鋼1A,1Bの端部10A,10Bにおける下フランジ13の下面を形成する傾斜面13aは、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの中央側からH形鋼1A,1Bの長手方向の延長端に近付く程、下フランジ13の傾斜面13a以外の下面と水平な上面13bに近付くように傾斜する傾斜面である。
H形鋼1A,1Bの端部10A,10Bにおけるウェブ14の両面を形成する傾斜面14a,14bは、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの中央側からH形鋼1A,1Bの長手方向の延長端に近付く程、互いに近付くように傾斜する傾斜面である。
【0014】
即ち、H形鋼1A,1Bは、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおける一対のフランジ12,13の外表面となる上フランジ12の上面及び下フランジ13の下面がH形鋼1A,1Bの長手方向の延長端に近付くほど互いに近づく傾斜面12a,13aに形成されるとともに、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおけるウェブ14の外表面がH形鋼の長手方向の延長端に近付くほど互いに近づく傾斜面14a,14bに形成されている。
また、管体3は、両端開口30A,30B側に、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおける傾斜面12a,13a、14a,14bに嵌合する筒状内面2A,2Bを有した構成である。
そして、以上の構成において、一方のH形鋼1Aの長手方向Xの端部10Aにおける傾斜面と管体3の一方の開口30A側の筒状内面2Aとを嵌合させるとともに、他方のH形鋼1Bの長手方向Xの端部10Bにおける傾斜面と管体3の他方の開口30B側の筒状内面2Bとを嵌合させることによって、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとを接合する。
【0015】
実施形態2によるH形鋼の接合方法及び接合構造によれば、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bを管体3の筒状内面2A,2Bに挿入しやすくなるとともに、一方のH形鋼1Aの端部10Aと管体3の一方の開口30A側の筒状内面2Aとの接触界面の摩擦力及び他方のH形鋼1Bの端部10Bと管体3の他方の開口30B側の筒状内面2Bとの接触界面の摩擦力が、傾斜面同士の接触界面による摩擦力となって、H形鋼1A,1Bと管体3の筒状内面2A,2Bとが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によってH形鋼1A,1Bの振動エネルギーが吸収され、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとの接合部の減衰性能が増すので、H形鋼1A,1Bの振動を抑制できるようになる。
また、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bを管体3の筒状内面2A,2Bに叩き込んだりして圧入する力を調整することによって、嵌合されるH形鋼1A,1Bと管体3の筒状内面2A,2Bとの滑動面同士が滑動する際の摩擦力を調整することが可能となる。
【0016】
尚、実施形態2においては、H形鋼1A,1Bの端部10A,10Bにおけるウェブ14の両面を傾斜面14a,14bに形成したが、ウェブ14の一方の面だけを傾斜面に形成して、管体3の両端開口30A,30B側に、当該H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおける傾斜面に嵌合する筒状内面を形成した構成としてもよい。
また、実施形態2においては、H形鋼1A,1Bの長手方向の端部10A,10Bにおける一対のフランジ12,13の外表面だけをH形鋼1A,1Bの長手方向の延長端に近付くほど互いに近づく傾斜面に形成し、ウェブ14の両面を傾斜面に形成しないようにして、管体3の両端開口30A,30B側に、当該H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおける一対のフランジ12,13の傾斜面に嵌合する筒状内面を形成した構成としてもよい。
また、H形鋼1A,1Bの長手方向の端部10A,10Bにおけるウェブ14の少なくとも一方の表面にのみ、H形鋼1A,1Bの延長端に近付くほどウェブ14の他方の表面に近づく傾斜面に形成し、一対のフランジ12,13の外表面を傾斜面に形成しないようにして、管体3の両端開口30A,30B側に、当該H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおけるウェブ14の傾斜面に嵌合する筒状内面を形成した構成としてもよい。
【0017】
実施形態3
図6,
図7に示すように、一方のH形鋼1A(1)の端部10Aと他方のH形鋼1B(1)の端部10Bとを接合する管体3A(
図7(b)参照)を、一対の半割ピース6A,6Bを組み合わせて構成してもよい。
尚、本明細書では、上下のフランジ12,13の外表面におけるH形鋼1の長手方向Xと直交する方向Yにおける中央位置を基準として、当該中央位置から直交する方向Yの一方側に存在する部分を一方側と定義し、当該中央位置から直交する方向Yの他方側に存在する部分を他方側と定義して説明する。
即ち、一方の半割ピース6Aは、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおける上下のフランジ12,13(一対のフランジ)の外表面の半分である一方側表面、及び、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおけるウェブ14の外表面の半分である一方側表面に嵌合する内面61Aと、上下の接続部62,62とを備えた構成である。
また、他方の半割ピース6は、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおける上下のフランジ12,13の外表面の半分である他方側表面、及び、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおけるウェブ14の外表面の半分である他方側表面に嵌合する内面61Bと、上下の接続部62,62とを備えた構成である。
【0018】
そして、一方の半割ピース6Aの内面61Aと一方のH形鋼1Aの端部10Aにおける一方側表面及び他方のH形鋼1Bの端部10Bにおける一方側表面とを嵌合させるとともに、他方の半割ピース6Bの内面61Bと一方のH形鋼1Aの端部10Aにおける他方側表面及び他方のH形鋼1Bの端部10Bにおける他方側表面とを嵌合させて、上フランジ12の上方において各半割ピース6A,6Bの上の接続部62,62同士を接触させるとともに、下13フランジの下方において各半割ピース6A,6Bの下の接続部62,62同士を接触させた状態で、各半割ピース6A,6Bの上の接続部62,62に形成された図外のボルト通し孔、及び、各半割ピース6A,6Bの下の接続部62,62に形成された図外のボルト通し孔にそれぞれボルト63を通してナット64を締結することにより、一対の半割ピース6A,6Bによって、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとが接合される。
【0019】
即ち、実施形態3では、管体3Aは、H形鋼1A,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおける一対のフランジ12,13の外表面の半分及びH形鋼1,1Bの長手方向Xの端部10A,10Bにおけるウェブ14の外表面の半分に嵌合する内面61A,61Bを有した一対の半割ピース6A,6Bを組み合わせることにより構成される。
そして、一方の半割ピース6Aの内面61Aを、一方のH形鋼1Aの長手方向Xの端部10Aにおける外表面の一方の半分(一方側表面)及び他方のH形鋼1Bの長手方向Xの端部における外表面の一方の半分(一方側表面)に嵌合させるとともに、他方の半割ピース6Bの内面61Bを、一方のH形鋼1Aの長手方向Xの端部10Aにおける外表面の他方の半分(他方側表面)及び他方のH形鋼1Bの長手方向Xの端部10Bにおける外表面の他方の半分(他方側表面)に嵌合させた状態で、一方の半割ピース6Aと他方の半割ピース6Bとを接続することにより、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとを接合した。
【0020】
実施形態3によるH形鋼の接合方法及び接合構造によれば、建築現場において、一方のH形鋼1A及び他方のH形鋼1Bにおける長手方向Xと直交する方向Yにおける一方側及び他方側からそれぞれ半割ピース6A,6Bを一方のH形鋼1Aの端部10A及び他方のH形鋼1Bの端部10Bに簡単に嵌合させることができるようになるとともに、一方のH形鋼1Aの端部10Aと半割ピース6A,6Bの内面61A,61Bとの接触界面の摩擦力及び他方のH形鋼1Bの端部10Bと半割ピース6A,6Bの内面61A,61Bとの接触界面の摩擦力、即ち、H形鋼1A,1Bと半割ピース6A,6Bとが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によってH形鋼1A,1Bの振動エネルギーが吸収され、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとの接合部の減衰性能が増すので、H形鋼1A,1Bの振動を抑制できる。
また、ボルト63及びナット64による締結力を調整することによって、半割ピース6A,6Bと一方のH形鋼1Aの端部10A及び他方のH形鋼1Bの端部10Bとの滑動面同士が滑動する際の摩擦力を調整することが可能となる。
【0021】
実施形態4
図8,
図9に示すように、上フランジ12の上面12a及び下面12bが傾斜面に形成されるとともに下フランジ13の下面13a及び上面13bが傾斜面に形成されたH形鋼1A,1Bと、当該H形鋼1A,1Bの傾斜面に嵌合する傾斜内面61C,61Dを有した一対の半割ピース6C,6Dとを用いて、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとを接合するようにしてもよい。即ち、実施形態4では、一方のH形鋼1Aの端部10Aと他方のH形鋼1Bの端部10Bとを接合する管体3B(
図9(b)参照)を、一対の半割ピース6C,6Dを組み合わせて構成する。
【0022】
図9(b)に示すように、H形鋼1(1A,1B)の上フランジ12の上面12aに形成された傾斜面は、当該上フランジ12の上面12aのH形鋼1の長手方向Xと直交する方向Yにおける中央位置を基準として、当該中央位置から直交する方向Yの一方端に近付くほど下フランジ13に近付くように傾斜する傾斜面15、及び、当該中央位置から直交する方向Yの他方端に近付くほど下フランジ13に近付くように傾斜する傾斜面16である。
H形鋼1の上フランジ12の下面12bに形成された傾斜面は、当該上フランジ12の下面12bのH形鋼1の長手方向Xと直交する方向Yにおける中央位置、即ち、ウェブ14の上端位置から直交する方向Yの一方端に近付くほど下フランジ13から離れるように傾斜する傾斜面17、及び、ウェブ14の上端位置から直交する方向Yの他方端に近付くほど下フランジ13から離れるように傾斜する傾斜面18である。
H形鋼1の下フランジ13の下面13aに形成された傾斜面は、当該下フランジ13の下面13aのH形鋼1の長手方向Xと直交する方向Yにおける中央位置を基準として、当該中央位置から直交する方向Yの一方端に近付くほど上フランジ12に近付くように傾斜する傾斜面19、及び、当該中央位置から直交する方向Yの他方端に近付くほど上フランジ12に近付くように傾斜する傾斜面20である。
H形鋼1の下フランジ13の上面13bに形成された傾斜面は、当該下フランジ13の上面13bのH形鋼1の長手方向Xと直交する方向Yにおける中央位置、即ち、ウェブ14の下端位置から直交する方向Yの一方端に近付くほど上フランジ12から離れるように傾斜する傾斜面21、及び、ウェブ14の下端位置から直交する方向Yの他方端に近付くほど上フランジ12から離れるように傾斜する傾斜面22である。
【0023】
即ち、実施形態4では、H形鋼1は、フランジ12,13の外表面が傾斜面に形成されており、当該傾斜面は、フランジ12,13の外表面におけるH形鋼1の長手方向Xと直交する方向Yにおける中央側から端側に向けて互いに近づくように傾斜する傾斜面、即ち、互いに近づくように傾斜する傾斜面15,17、16,18、19,21、20,22に形成されている。
また、半割ピース6C,6Dは、傾斜面に形成されたフランジ12,13の外表面に嵌合する傾斜内面61C,61D(
図9(b)参照)を備えている。
そして、傾斜面に形成されたフランジ12,13の外表面と半割ピース6C,6Dの傾斜内面61C,61Dとを嵌合させ、一方の半割ピース6Cの上下の接続部62,62と他方の半割ピース6Dの上下の接続部62,62とボルト63及びナット64を用いて接続することにより、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとを接合した。
【0024】
実施形態4によるH形鋼の接合方法及び接合構造によれば、建築現場において、一方のH形鋼1A及び他方のH形鋼1Bにおける長手方向Xと直交する方向Yにおける一方側及び他方側からそれぞれ半割ピース6C,6Dを一方のH形鋼1Aの端部10A及び他方のH形鋼1Bの端部10Bにより簡単に嵌合させることができるようになるとともに、一方のH形鋼1Aの端部10Aと半割ピース6C,6Dの傾斜内面61C,61Dとの接触界面の摩擦力及び他方のH形鋼1Bの端部10Bと半割ピース6C,6Dの傾斜内面61C,61Dとの接触界面の摩擦力、即ち、H形鋼1A,1Bと半割ピース6C,6Dとが嵌合された滑動面同士が滑動する際の摩擦によってH形鋼1A,1Bの振動エネルギーが吸収され、一方のH形鋼1Aと他方のH形鋼1Bとの接合部の減衰性能が増すので、H形鋼1A,1Bの振動を抑制できる。
また、ボルト63及びナット64による締結力を調整することによって、半割ピース6C,6Dと一方のH形鋼1Aの端部10A及び他方のH形鋼1Bの端部10Bとの滑動面同士が滑動する際の摩擦力を調整することが可能となる。
【0025】
本発明の形鋼の接合方法は、H形鋼以外の、I形鋼、T形鋼、山形鋼、溝形鋼等の形鋼同士の接合にも適用可能である。
また、本発明の形鋼の接合方法は、梁として使用される形鋼同士の接合以外にも適用可能である。例えば、ブレース(筋違い)として使用される形鋼同士の接合、小屋組として使用される形鋼同士の接合等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 H形鋼、1A 一方のH形鋼,1B 他方のH形鋼、2 筒状内面、
3,3A,3B 管体、6A〜6D 半割ピース、10A:10B H形鋼の端部、
12 上フランジ、13 下フランジ、14 ウェブ、
12a,13a,14a,14b 傾斜面、15〜22 傾斜面、
61C,61D 傾斜内面。