(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866025
(24)【登録日】2021年4月9日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】スライド式ラッチ錠
(51)【国際特許分類】
E05C 1/04 20060101AFI20210419BHJP
E05C 1/16 20060101ALI20210419BHJP
E05B 65/00 20060101ALI20210419BHJP
E05B 55/04 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
E05C1/04 G
E05C1/16 A
E05B65/00 N
E05B55/04
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-21265(P2017-21265)
(22)【出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2018-127820(P2018-127820A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227401
【氏名又は名称】日東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三田村 恵介
【審査官】
鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−008808(JP,A)
【文献】
特開2007−100360(JP,A)
【文献】
特開2002−004685(JP,A)
【文献】
特開2016−008451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00−85/28
E05C 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖錠時にキャビネットに係止する係止面を備えたロック部と、
前記ロック部を移動可能に支持するケース部と、
を備えたスライド式ラッチ錠であって、
後退したロック部に対して一方向に向けて付勢力をかける付勢力付与手段と、
付勢力付与手段からの付勢力によるロック部のスライド移動時に、キャビネットと係止する方向にロック部の係止面を傾かせる向き変更手段と、
を備えたスライド式ラッチ錠。
【請求項2】
向き変更手段は、付勢力付与手段より上方位置でキャビネットと係止する方向にロック部を傾かせる請求項1に記載のスライド式ラッチ錠。
【請求項3】
向き変更手段は、ロック部又はケース部のいずれかに設けられた突起部と、突起部の進行方向を規制する溝部である請求項1又は2に記載のスライド式ラッチ錠。
【請求項4】
突起部が嵌まり込む嵌込溝を、前記溝部に連ねて設けた請求項1乃至3の何れかに記載のスライド式ラッチ錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式ラッチ錠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、スライド移動可能なラッチ棒にバネを隣接させたスライド式のラッチ錠が知られている。特許文献1に記載の構成においては、取付対象物に押し付けられたラッチ棒は、一旦、バネを圧縮するように移動する。その後、取付対象物とラッチ棒の接触が解除されると、バネの復元力によりラッチ棒が元の位置に戻ろうとする。特許文献1に記載のラッチ錠は、この一連のラッチ棒の動きを利用して、取付対象物に対してラッチ棒が引っ掛かる構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−8808号公報
【0004】
ところで、特許文献1に記載されているようなスライド式のラッチ錠であると、ラッチ棒が直進移動しかしないため、スライド式のラッチ錠が取り付けられたパネルなどが、取付対象物に対してバタつきやすくなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件の発明者は、この点について鋭意検討することにより、解決を試みた。本発明の課題は、スライド式のラッチ錠を備えた物品を取付対象物に対してしっかりと固定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、次のような手段を採用する。すなわち、鎖錠時にキャビネットに係止する係止面を備えたロック部と、前記ロック部を移動可能に支持するケース部と、を備えたスライド式ラッチ錠であって、後退したロック部に対して一方向に向けて付勢力をかける付勢力付与手段と、付勢力付与手段からの付勢力によるロック部のスライド移動時に、キャビネットと係止する方向にロック部を傾かせる向き変更手段と、を備えたスライド式ラッチ錠とする。
【0007】
向き変更手段は、付勢力付与手段より上方位置でキャビネットと係止する方向にロック部を傾かせる構成とすることが好ましい。
【0008】
向き変更手段は、ロック部又はケース部のいずれかに設けられた突起部と、突起部の進行方向を規制する溝部とすることが好ましい。
【0009】
突起部が嵌まり込む嵌込溝を、前記溝部に連ねて設けた構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、スライド式のラッチ錠を備えた物品の取付対象物への取り付けやすさを残しつつ、ラッチ錠を備えた物品を取付対象物に対してしっかりと固定できるようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のスライド式ラッチ錠の斜視図である。
【
図2】本実施形態のスライド式ラッチ錠の断面と取付対象物との係止状態例を示す図である。但し、太矢印はロック部の移動方向を表している。
【
図3】本実施形態のスライド式ラッチ錠の分解斜視図である。
【
図8】ロック部の後面側及び傾動用バネ部材を表す斜視図である。
【
図9】
図7と異なる実施例のケース部の内部を示す図である。
【
図11】実施例4のスライド式ラッチ錠の分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に発明を実施するための形態を示す。
図1及び
図2に示すことから理解されるように、本実施形態のスライド式ラッチ錠1は、鎖錠時にキャビネット2に係止する係止面31を備えたロック部3を備えている。また、このロック部3を移動可能に支持するケース部4を備えている。また、
図2及び
図3に示すことから理解されるように、ロック部3に対して一方向に向けて付勢力をかける付勢力付与手段11を備えている。また、付勢力付与手段11からの付勢力によるロック部3のスライド移動時に、キャビネット2と係止する方向にロック部3を傾かせる向き変更手段12を備えている。したがって、ラッチ錠1を備えた物品を取付対象物に対してしっかりと固定できるようにすることが可能となる。
【実施例1】
【0013】
本実施形態のスライド式ラッチ錠1は、電気電子機器収納用キャビネット2に備えられた外装パネル23を筐体本体21に保持するために用いられる。
図4に示すように、キャビネット2は、天板24と、底板25と、側面枠体22と、扉26を備えている。また、キャビネット2は天板24と、底板25と、二組の側面枠体22とを組み合わせて形成した筐体本体21を骨格としている。本実施形態のスライド式ラッチ錠1は、ケース部4と、ロック部3と、ロック部3をスライド移動させる付勢力の付勢力付与手段11として機能する直動用バネ部材と、ロック部3が移動する際にロック部3の向きを変えるように機能する傾動用バネ部材17により構成されている。
【0014】
本実施形態のケース部4は、
図5に示すように、左側ケース4aと右側ケース4bの二部材を組み合わせることで構成されており、この二部材でロック部3を挟み込む。左側ケース4aと右側ケース4bは、爪状の係合部48を用いて係合固定されている。ケース部4の前面には、ロック部3の操作部33を露出する開口47が設けられており、ケース部4の側面の外側面には、外装パネル23などの係止に用いられる係止部49を備えている。
【0015】
ロック部3は、筐体本体21と係止する係止面31を備えているが、ロック部3の前面に設けられた操作部33を操作することで、筐体本体21との係止状態を解除することができる。ロック部3は、ケース部4により移動可能に支持されている。ロック部3の移動範囲を規制するため、ロック部3には第一の突起部13と第二の突起部14を備えている。この第一の突起部13と第二の突起部14は、
図6に示すように、ロック部3の両側面に設けられている。また、この第一の突起部13が収まる第一の溝部15と、第二の突起部14が収まる第二の溝部16とが、ケース部4に設けられている。向き変更手段12の構成要素である第二の溝部16は、付勢力付与手段11の付勢方向に延び、第一の突起部13の進行方向と異なる方向に第二の突起部14が移動することを許容するように構成されている。より詳しくは、第一の溝部15と第二の溝部16は、
図7に示すことから理解されるように、ケース部4の内側面に設けられており、第一の溝部15は、第一の突起部13の動きが直線状となるように規制する。第二の溝部16は、第二の突起部14の動く方向が第一の突起部13の動く方向と異なり、係止面31を筐体本体21と係止する方向に傾かせるように構成されている。
【0016】
本実施形態の向き変更手段12は、付勢力付与手段11より上方位置でキャビネット2と係止する方向にロック部3を傾かせる構成としており、スライド式ラッチ錠1が取り付けられた外装パネル23などが倒れ込むことを効果的に抑制することができる。
【0017】
図2及び
図5に示されることから理解されるように、ケース部4の下部の内側面には、直動用バネ部材を固定する直動バネ用凸部41を備えている。また、ロック部3の下部には直動用バネ部材を収める直動バネ用凹部34を備えている。この直動バネ用凸部41と直動バネ用凹部34との間に挟まれるように設けられた直動用バネ部材は、ケース部4の内部に押し込まれたロック部3を押し戻すように付勢する。このため、筐体本体21に傾斜面32が押し当てられることによってケース部4の内部に押し込まれたロック部3は、傾斜面32が筐体本体21に押し当てられた状態が解除されることにより、元の位置に復元しようと移動する。この動きにより、ロック部3が筐体本体21に引っ掛かるようになる。
【0018】
図2及び
図8に示されることから理解されるように、本実施形態のロック部3の背面側には、傾動用バネ部材17を収納する凹部35を備えている。傾動用バネ部材17は、凹部35と、ケース部4の背面の内側面との間に挟まれるように設けられ、ロック部3のスライド移動時にロック部3の係止面31を筐体本体21と係止する方向に付勢する。本実施例では、第二の溝部16の前側の部位が、上側になるにつれて、ケース部4の前面方向に傾くように傾斜させているが、傾動用バネ部材17を用いることで、第二の突起部14が第二の溝部16の前側の部位に沿って移動することができる。つまり、第二の突起部14は垂直方向から傾くように移動することができる。一方、第一の突起部13は上下方向、つまりは垂直方向に移動するように第一の溝部15が設けられているため、第一の突起部13の移動方向と第二に突起部14の移動方向は互いに異なるものとなる。このため、直動用バネ部材が押し戻す方向にスライド移動をするにつれて、係止面31を備えたロック部3の上部は前側に傾くように移動する。
【0019】
図7に示されることから理解されるように、本実施形態の第二の溝部16の下部には、ケース部4の前面側に突出するように嵌込溝18を備えている。第二の突起部14が、この嵌込溝18に収まると、ロック部3がこの位置で仮保持されることになる。この嵌込溝18は、係止面31が筐体本体21に引っ掛からない位置で仮保持できるように構成されている。したがって、外装パネル23などの物品に対して複数のスライド式ラッチ錠1を備えている場合、その一部もしくは全部を仮保持した状態とすると、その取り外しを容易にすることができる。なお、傾動用バネ部材17を設けている構成においては、第二の突起部14が嵌込溝18に嵌められた状態を維持することができる。逆に第二の突起部14を嵌込溝18から取り出す場合は、傾動用バネ部材17の付勢力に抗してロック部3を背面側に押圧することになる。このように、突起部が嵌まり込む嵌込溝を、溝部に連ねて設けた構成とすれば、比較的簡素な構成で、ロック部3を仮保持することが可能となる。
【実施例2】
【0020】
本実施例においては、実施例1と異なる点は第二の溝部16の形状であり、
図9に示すように、第二の溝部16が直線的に設けられている。第二の溝部16の延びる方向は、第一の溝部15の延びる方向に対して傾くように定められている。つまり、第二の溝部16の前側と後側の両方について、上方になるにつれて、ケース部4の前面側に位置するように構成している。この溝の前後方向の幅サイズは、第二の突起部14の直径と同じか、それよりやや大きくなるようにする。このような構成とすると、実施例1に示すような傾動用バネ部材17を用いずとも、ロック部3のスライド移動時にロック部3の向きを変更させることができる。
【実施例3】
【0021】
本実施例において実施例2と異なる点は、
図10に示すように、第二の溝部16の下部にケース部4の前面側に突出するように嵌込溝18を設けた点である。傾動用バネ部材17を備えていない構成においても、直動用バネ部材の材料や形状、配置位置を適宜選択すれば、実施例1と同様に第二の突起部14が嵌込溝18に嵌りこんだ状態を維持することができる。
【実施例4】
【0022】
実施例1乃至3においては、ロック部3に突起部を設け、ケース部4に溝部を設けているが、実施例4においては、ケース部4に突起部を設け、ロック部3に溝部を設けている。この際、実施例1乃至3で示したような第一の溝部15や第二の溝部16に関して、上下方向及び前後方向に反転させたものをロック部3に設ければ良い。したがって、
図11に示すように、本実施例では、嵌込溝18は、第二の溝部16の上部側に設けられることになる。
【0023】
向き変更手段12を、ロック部3又はケース部4のいずれかに設けられた突起部と、突起部の進行方向を規制する溝部により構成すれば、比較的簡素な構造で、信頼性の高いものとすることができる。
【0024】
以上、いくつかの実施形態を中心に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、スライド式ラッチ錠を取り付けた外装パネルを側面枠体に係止させる構成である必要は無く、スライド式ラッチ錠を背面板に取り付け、天板に係止させる構成とすることなども可能である。
【0025】
スライド式ラッチ錠は、ロック部の移動する方向が上下方向となるように物品に取り付けるだけに限らず、ロック部が左右方向に移動するように物品に取り付ける構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 ラッチ錠
2 キャビネット
3 ロック部
4 ケース部
11 付勢力付与手段
12 向き変更手段
13 第一の突起部
14 第二の突起部
15 第一の溝部
16 第二の溝部
17 傾動用バネ部材
18 嵌込溝
31 係止面
32 傾斜面