特許第6866040号(P6866040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6866040-内燃機関の制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866040
(24)【登録日】2021年4月9日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 21/08 20060101AFI20210419BHJP
   F02M 26/49 20160101ALI20210419BHJP
【FI】
   F02D21/08 301C
   F02M26/49 301
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-142784(P2017-142784)
(22)【出願日】2017年7月24日
(65)【公開番号】特開2019-23444(P2019-23444A)
(43)【公開日】2019年2月14日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】太古 無限
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−191701(JP,A)
【文献】 特開2009−191791(JP,A)
【文献】 特開2017−044172(JP,A)
【文献】 特開2009−257280(JP,A)
【文献】 特開2014−134189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 21/08
F02M 26/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路における排気浄化用の触媒の下流の箇所と吸気通路の所定箇所とを連通するEGR通路にEGRバルブが設けられた排気ガス再循環装置が付帯する内燃機関を制御する制御装置であって、
内燃機関の気筒への燃料供給を一時中断する燃料カット中に、EGRバルブを開閉操作してEGRバルブの故障の有無を判定するダイアグノーシスを実施するものであり、
燃料カット中に前記ダイアグノーシスを実施したとき、燃料カットの終了直後の時期に気筒に充填される新気の量を演算するにあたり、排気通路における触媒の下流を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサの出力信号によって示される空燃比に応じて、その新気量を減量補正する内燃機関の制御装置。
【請求項2】
排気通路における排気浄化用の触媒の下流の箇所と吸気通路の所定箇所とを連通するEGR通路にEGRバルブが設けられた排気ガス再循環装置が付帯する内燃機関を制御する制御装置であって、
内燃機関の気筒への燃料供給を一時中断する燃料カット中に、EGRバルブを開閉操作してEGRバルブの故障の有無を判定するダイアグノーシスを実施するものであり、
燃料カット中に前記ダイアグノーシスを実施したとき、燃料カットの終了直後の時期に噴射する燃料の量を演算するにあたり、排気通路における触媒の下流を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサの出力信号によって示される空燃比が、触媒の下流を殆どまたは完全に新気のみが流れる状況の下で同空燃比センサの出力信号によって示される空燃比よりもリッチである場合には、そうでない場合と比較して燃料噴射量を減量補正する内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記ダイアグノーシスを実施している最中に、前記空燃比センサの出力信号によって示される空燃比が、触媒の下流を殆どまたは完全に新気のみが流れる状況の下で同空燃比センサの出力信号によって示される空燃比と同等となったならば、その時点から所定時間の経過後、前記新気量または前記燃料噴射量の減量補正量を漸減させる請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記EGR通路が、前記排気通路における前記空燃比センサの設置箇所の近傍または当該空燃比センサよりも上流の箇所に接続されている請求項1、2または3記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置が付帯した内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関には、気筒内での混合気の燃焼温度を低下させてNOxの排出量を削減しつつ、ポンピングロスの低減を図るEGR装置が付随していることが多い。EGR装置は、内燃機関の排気通路と吸気通路とをEGR通路を介して接続し、気筒で発生する燃焼ガスの一部をEGR通路経由で吸気通路に還流させて吸気に混交するものである。EGR通路上には、これを開閉するEGRバルブが設けられており、このEGRバルブの開度操作を通じてEGRガスの還流量を調節することができる。
【0003】
EGRバルブに故障が生じると、適正なEGR制御の妨げとなり、燃焼の不安定化やエミッションの悪化、あるいはノッキングの発生につながる。故に、車両には、EGRバルブの故障の有無をオンラインで診断し、故障を検出した暁にはその事実を運転者に告知するとともに記憶装置に記録を残すダイアグノーシス(自己診断)機構が実装される。
【0004】
EGRバルブのダイアグノーシスは、気筒への燃料供給を一時中断する燃料カット中に実施する。ダイアグノーシスでは、燃料カット中にEGRバルブを敢えて開閉操作し、閉弁時及び開弁時の吸気通路内圧力をそれぞれ計測して、これを基にEGRバルブの故障の有無の判定を行う(例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−252399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関の運転制御を司る電子制御装置(Electronic Control Unit)は、燃料カット中、さらにはEGRバルブのダイアグノーシスを実施するときにも、気筒に流入する新気(空気、または酸素)の量の演算を継続して反復的に実行している。これは、運転者によりアクセルペダルが踏まれたり、シフトレバーまたはセレクトレバーがニュートラルレンジに操作されたりしたことに呼応して燃料カットを終了、気筒への燃料供給を再開する際に、気筒に充填される新気量に見合った燃料噴射量を速やかに決定する必要があることによる。
【0007】
その上で、従来は、ダイアグノーシスの最中にEGR通路経由で吸気通路に流れ込むガスの全量が新気であると見なして、気筒に流入する新気量を算出していた。
【0008】
一方、近時の内燃機関では、EGR装置を構成するEGR通路の入口を、排気通路における排気浄化用の三元触媒の上流ではなく下流に接続するようになっている。触媒の下流を流れる排気ガスは、触媒の上流におけるそれと比較して、煤等の不純物の混入量がより少ないからである。
【0009】
燃料カットを開始すると、気筒及び排気通路に新気が流れ込むようになる。だが、触媒の下流を流れるガスには、燃料カットの開始から暫くの間、燃焼ガス及び/または未燃燃料成分が含まれる。それ故、燃料カットの開始直後にEGRバルブを開くと、新気以外に燃焼ガスや未燃燃料成分を含んだガスが排気通路から吸気通路に還流することとなる。
【0010】
にもかかわらず、還流するガスの全量を新気と見なして気筒に流入する新気量を演算し、当該新気量に比例して燃料噴射量を決定すると、実際に必要な量よりも多くの量の燃料を噴射することとなってしまう。その結果、燃料カットの終了直後の時期に、気筒に充填される混合気の空燃比が過剰にリッチとなり、または混合気中の酸素が不足して燃焼が不安定化し、不当なエンジン回転数の低落が起こる懸念があった。
【0011】
このようなエンジン回転数の低落を回避するためには、燃料カットを開始してからある程度の遅延時間の経過を待ち、しかる後にEGRバルブの開弁を伴うダイアグノーシスを開始することが考えられる。しかしながら、一度の燃料カットの実行期間の長さは比較的短いことも多く、その場合にはEGRバルブのダイアグノーシスを完遂できない、つまりダイアグノーシスの機会が乏しくなるきらいがある。
【0012】
本発明は、以上の問題に初めて着目してなされたものであって、燃料カット中に実施するEGRバルブのダイアグノーシスに起因したエンジン回転の不安定化を防止することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、排気通路における排気浄化用の触媒の下流の箇所と吸気通路の所定箇所とを連通するEGR通路にEGRバルブが設けられた排気ガス再循環装置が付帯する内燃機関を制御する制御装置であって、内燃機関の気筒への燃料供給を一時中断する燃料カット中に、EGRバルブを開閉操作してEGRバルブの故障の有無を判定するダイアグノーシスを実施するものであり、燃料カット中に前記ダイアグノーシスを実施したとき、燃料カットの終了直後の時期に気筒に充填される新気の量を演算するにあたり、排気通路における触媒の下流を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサの出力信号によって示される空燃比に応じて、その新気量を減量補正する内燃機関の制御装置を構成した。
【0014】
並びに、本発明では、排気通路における排気浄化用の触媒の下流の箇所と吸気通路の所定箇所とを連通するEGR通路にEGRバルブが設けられた排気ガス再循環装置が付帯する内燃機関を制御する制御装置であって、内燃機関の気筒への燃料供給を一時中断する燃料カット中に、EGRバルブを開閉操作してEGRバルブの故障の有無を判定するダイアグノーシスを実施するものであり、燃料カット中に前記ダイアグノーシスを実施したとき、燃料カットの終了直後の時期に噴射する燃料の量を演算するにあたり、排気通路における触媒の下流を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサの出力信号によって示される空燃比が、触媒の下流を殆どまたは完全に新気のみが流れる状況の下で同空燃比センサの出力信号によって示される空燃比よりもリッチである場合には、そうでない場合と比較して燃料噴射量を減量補正する内燃機関の制御装置を構成した。
【0015】
前記ダイアグノーシスを実施している最中に、前記空燃比センサの出力信号によって示される空燃比が、触媒の下流を殆どまたは完全に新気のみが流れる状況の下で同空燃比センサの出力信号によって示される空燃比と同等となったならば、その時点から所定時間の経過後、前記新気量または前記燃料噴射量の減量補正量を漸減させることが好ましい。
【0016】
本発明に係る制御装置が制御する内燃機関は、特に、前記EGR通路が、前記排気通路における前記空燃比センサの設置箇所の近傍または当該空燃比センサよりも上流の箇所に接続されているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、燃料カット中に実施するEGRバルブのダイアグノーシスに起因したエンジン回転の不安定化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関及び制御装置の構成を示す図。
図2】同実施形態の制御装置が実行する処理の内容を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークガソリンエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0020】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0021】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。排気通路4における触媒41の上流及び下流には、排気通路4を流れるガスの空燃比を検出するための空燃比センサ43、44を設置する。空燃比センサ43、44はそれぞれ、排気ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO2センサであってもよく、排気ガスの空燃比に比例した出力特性を有するリニアA/Fセンサであってもよい。
【0022】
外部EGR装置2は、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における触媒41の下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク33に接続している。
【0023】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0024】
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサ(エンジン回転センサ)から出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、内燃機関に要求される出力、要求負荷率)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流(特に、サージタンク33内)の吸気温及び吸気圧を検出する吸気温・吸気圧センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関の温度を示唆する冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、触媒41の上流側におけるガスの空燃比を検出する空燃比センサ43から出力される空燃比信号f、触媒41の下流側におけるガスの空燃比を検出する空燃比センサ44から出力される空燃比信号g、ブレーキペダルが踏まれたことまたはブレーキペダルの踏込量を検出するセンサ(ブレーキスイッチやマスタシリンダ圧センサ等)から出力されるブレーキ信号h等が入力される。
【0025】
ECU0の出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度制御信号k、EGRバルブ23に対して開度制御信号l等を出力する。
【0026】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0027】
ECU0は、まず、サージタンク33内の吸気圧及び吸気温、エンジン回転数、EGRバルブ23の開度等から、気筒1に充填される新気(空気、または酸素)の量を算出し、これに見合った基本噴射量TPを決定する。ECU0のメモリには予め、サージタンク33内吸気圧及び吸気温、エンジン回転数、EGRバルブ23の開度等と、気筒1に充填される新気量の推定値との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、現在のサージタンク33内吸気圧及び吸気温、エンジン回転数、EGRバルブ23の開度等をキーとして当該マップを検索し、気筒1に充填される新気量の推定値を知得する。言うまでもなく、基本噴射量TPは、気筒1に充填される新気量に比例する。
【0028】
次いで、平常時は、この基本噴射量TPを、触媒41の上流側及び/または下流側のガスの空燃比に応じて定まるフィードバック補正係数FAFで補正する。一般に、フィードバック補正係数FAFは、空燃比センサ43、44を介して実測される空燃比と目標空燃比(通常、理論空燃比14.6の近傍)との偏差に応じて調整する。即ち、フィードバック補正係数FAFは、実測空燃比が目標空燃比に対してリーンであるときには増加し、実測空燃比が目標空燃比に対してリッチであるときには減少する。この空燃比フィードバック制御は、例えば、内燃機関の冷却水温が所定温度以上であり、燃料カット中でなく、パワー増量中でなく、内燃機関の始動から所定時間が経過し、空燃比センサ43、43が活性中、吸気圧が正常である、等の諸条件が全て成立している場合に行う。
【0029】
そして、内燃機関の状況や環境条件に応じて定まる各種補正係数Kや、インジェクタ11の無効噴射時間TAUVをも加味して、最終的な燃料噴射時間(インジェクタ11に対する通電時間)Tを算定する。燃料噴射時間Tは、
T=TP×FAF×K+TAUV
となる。ECU0は、燃料噴射時間Tだけインジェクタ11に信号jを入力、インジェクタ11を開弁して燃料を噴射させる。
【0030】
他方、ECU0は、所定の燃料カット条件が成立したときに、気筒1への燃料供給を中断する燃料カットを実行する、即ちインジェクタ11からの燃料噴射を停止する。ECU0は、少なくとも、アクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下となり、かつエンジン回転数が燃料カット許可回転数以上に高いことを以て、燃料カット条件が成立したものと判断する。燃料カット中は、スロットルバルブ32をアクセルペダルの踏込量(0または0に近い)に依拠しない所定の開度に開いておくか、スロットルバルブ32を全閉する。
【0031】
ECU0は、燃料カットの開始後、所定の燃料カット終了条件が成立したときに、燃料カットを終了する、即ちインジェクタ11からの燃料噴射を再開する。ECU0は、アクセルペダルの踏込量が閾値を上回った、エンジン回転数が燃料カット復帰回転数まで低下した等のうちの何れかを以て、燃料カット終了条件が成立したものと判断する。燃料カット終了条件の成立以後は、スロットルバルブ32の開度をアクセルペダルの踏込量に応じた開度に追従させることは言うまでもない。
【0032】
本実施形態のECU0は、燃料カット中に、EGRバルブ23のダイアグノーシスを実施する。このダイアグノーシスでは、燃料カット中にEGRバルブ23を敢えて開閉操作し、EGRバルブ23が全閉しているときのサージタンク33内吸気圧、及びEGRバルブ23が所定開度に開いているときのサージタンク33内吸気圧を各々計測する。そして、計測した吸気圧を基に、EGRバルブ23の故障の有無を判定する。例えば、双方の吸気圧の差が判定閾値以上であればEGRバルブ23が正常に作動しており、判定閾値を下回っていればEGRバルブ23が固着する等して正常に作動していないと判断する。
【0033】
ECU0は、燃料カット中、さらにはEGRバルブ23のダイアグノーシスを実施するときにも、気筒1に流入する新気の量の演算を継続して反復的に実行する。EGRバルブ23のダイアグノーシスでは、EGRバルブ23を開弁することから、排気通路4における触媒41の下流を流れるガスの一部がEGR通路21を介して吸気通路3のサージタンク33に還流する。EGRバルブ23の開弁時にEGR通路21経由で吸気通路3に流れ込むこのガスは、燃料カットの開始からある程度以上の時間が経過した後であれば殆どまたは完全に新気であるが、燃料カットの開始から暫くの間は燃焼ガス及び/または未燃燃料成分を少なからず含んでいる。
【0034】
そこで、本実施形態のECU0は、EGRバルブ23のダイアグノーシスを実施する燃料カット中及びその燃料カットの終了直後の時期に気筒1に充填される新気の量を演算するにあたり、一応はEGR通路21経由で吸気通路3に流れ込むガスの全量が新気であると見なした上で(換言すれば、現在のEGRバルブ23の開度が0であると仮定した上で)、現在のサージタンク33内吸気圧及び吸気温、エンジン回転数等を基に、気筒1に充填される新気量の推定値を得る。
【0035】
その上で、ECU0は、空燃比センサ44を介して実測される、排気通路4における触媒41の下流を流れるガスの現在の空燃比に応じて、気筒1に充填される新気量の推定値を減量補正する。新気量を減量する補正量、いわば上記の新気量の推定値を割り引く量は、触媒41の下流を流れるガスの空燃比がリッチであるほど大きくし、リーンであるほど少なくする。図2において、細い実線は上述のマップデータから知得した新気量の推定値を表し、太い破線はその推定値に減量補正を加えた結果の新気量を表している。
【0036】
より具体的には、触媒41の下流を殆どまたは完全に新気のみが流れる場合に空燃比センサ44の出力信号gによって示される(新気に相当する)空燃比から、現在の空燃比センサ44の出力信号gによって示される実測のガスの空燃比を減算して得られる偏差の値が大きいほど、つまりは触媒41の下流を流れるガスの空燃比がリッチであるほど、新気量の推定値に乗ずる割引率を小さくする。ここに言う割引率は、1以下の正数であり、空燃比センサ44の出力信号gによって示される実測のガスの空燃比が新気のそれにほぼ等しいリーンであるときに1となり、実測のガスの空燃比がリッチであるほど1から小さくなる(0に近づく)。ECU0は、上述のマップデータから知得した新気量の推定値に当該割引率を乗ずることで、EGRバルブ23のダイアグノーシスを実施する燃料カット中及び燃料カット終了直後の時期に気筒1に充填される新気の量を算定し、ひいては同時期における燃料噴射量の基本量TPを算定する。気筒1に充填される新気量を割り引く結果、これに比例する基本噴射量TPも割り引かれ、燃料噴射量Tが減少することとなる。
【0037】
尤も、触媒41の下流のガスの空燃比を検出する空燃比センサ44がリニアA/FセンサでなくO2センサであると、必ずしも触媒41の下流を流れるガスの空燃比を精密に把握することができず、ガスの空燃比が目標空燃比(または、理論空燃比)と比較してリッチであるかリーンであるかを読み取ることしかできないことがあり得る。この場合には、当該空燃比センサ44の出力信号gによって示される空燃比が目標空燃比よりもリッチであるならば新気量の推定値に乗ずる割引率をより小さくし、空燃比が目標空燃比よりもリーンであるならばその割引率をより大きくするか1に設定するようにすることが考えられる。
【0038】
また、図2に示しているように、EGRバルブ23のダイアグノーシスを実施している最中に、空燃比センサ44の出力信号gによって示されるガスの空燃比が新気のそれにほぼ等しいリーンとなったならば、その時点t1から所定時間が経過した時点t2以後、気筒1に充填される新気量または燃料噴射量TPを減量する補正量を漸減させる、即ち新気量の推定値に乗ずる割引率を徐々に1に近づける。時点t2以降に排気通路4の触媒41の下流からEGR通路23経由で吸気通路3のサージタンク33に流入するガスは、燃焼ガスや未燃燃料成分を含まない完全な新気に変化してゆくからである。
【0039】
同様に、燃料カット中にEGRバルブ23のダイアグノーシスを完了し、EGRバルブ23を全閉した後も、気筒1に充填される新気量または燃料噴射量TPを減量する補正量を漸減させることが好ましい。
【0040】
本実施形態では、排気通路4における排気浄化用の触媒41の下流の箇所と吸気通路3の所定箇所とを連通するEGR通路21にEGRバルブ23が設けられた排気ガス再循環装置2が付帯する内燃機関を制御する制御装置0であって、内燃機関の気筒1への燃料供給を一時中断する燃料カット中に、EGRバルブ23を開閉操作してEGRバルブ23の故障の有無を判定するダイアグノーシスを実施するものであり、燃料カット中に前記ダイアグノーシスを実施したとき、燃料カットの終了直後の時期に気筒1に充填される新気の量を演算するにあたり、排気通路4における触媒41の下流を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサ44の出力信号gよって示される空燃比に応じて、その新気量を減量補正する内燃機関の制御装置0を構成した。
【0041】
並びに、本実施形態では、排気通路4における排気浄化用の触媒41の下流の箇所と吸気通路3の所定箇所とを連通するEGR通路21にEGRバルブ23が設けられた排気ガス再循環装置2が付帯する内燃機関を制御する制御装置0であって、内燃機関の気筒1への燃料供給を一時中断する燃料カット中に、EGRバルブ23を開閉操作してEGRバルブ23の故障の有無を判定するダイアグノーシスを実施するものであり、燃料カット中に前記ダイアグノーシスを実施したとき、燃料カットの終了直後の時期に噴射する燃料の量を演算するにあたり、排気通路4における触媒41の下流を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサ44の出力信号gによって示される空燃比が、触媒41の下流を殆どまたは完全に新気のみが流れる状況の下で同空燃比センサ44の出力信号gによって示される空燃比よりもリッチである場合には、そうでない場合と比較して燃料噴射量を減量補正する内燃機関の制御装置0を構成した。
【0042】
本実施形態によれば、燃料カットの開始後速やかにEGRバルブ23のダイアグノーシスを開始し、燃焼ガス及び/または未燃燃料成分を含むガスが排気通路4から吸気通路3に還流したとしても、気筒1に充填される新気量を精確に見積もることができ、燃料噴射量をその新気量に見合った適正な量に設定することが可能となる。従って、燃料カット中に実施するEGRバルブ23のダイアグノーシスに起因したエンジン回転の不安定化を防止できる。
【0043】
また、遅延時間の経過を待たず、燃料カットの開始直後からEGRバルブ23のダイアグノーシスを実施することが許容されるので、適切にダイアグノーシスを完遂できるようになり、ダイアグノーシスの機会が必要十分に確保される。
【0044】
前記EGR通路21は、前記排気通路4における前記空燃比センサ44の設置箇所の近傍または当該空燃比センサ44よりも上流の箇所に接続されていることから、当該空燃比センサ44により検出されるガスの空燃比の変動と、EGRバルブ23のダイアグノーシスに伴い排気通路4からEGR通路21経由で吸気通路3に還流するガスの空燃比の変動とのタイムラグが小さくなる。このことは、気筒1に充填される新気量の演算精度を一層高めるために有効となる。
【0045】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成や具体的な処理の手順は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
2…排気ガス再循環(EGR)装置
21…EGR通路
23…EGRバルブ
3…吸気通路
32…スロットルバルブ
4…排気通路
41…触媒
44…空燃比センサ
b…クランク角信号
d…吸気温・吸気圧信号
g…空燃比センサの出力信号
j…燃料噴射信号
l…EGRバルブの開度制御信号
図1
図2