(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866058
(24)【登録日】2021年4月9日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】粘稠消毒剤
(51)【国際特許分類】
A01N 31/02 20060101AFI20210419BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20210419BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20210419BHJP
A01N 59/26 20060101ALI20210419BHJP
A01N 37/36 20060101ALI20210419BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
A01N31/02
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/26
A01N37/36
A01N25/04 103
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-45549(P2015-45549)
(22)【出願日】2015年3月9日
(65)【公開番号】特開2016-166134(P2016-166134A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149181
【氏名又は名称】株式会社大阪製薬
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】稲見 浩之
(72)【発明者】
【氏名】梶原 寛
【審査官】
東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/100851(WO,A1)
【文献】
特表2008−523066(JP,A)
【文献】
特開平01−305043(JP,A)
【文献】
特開2012−131734(JP,A)
【文献】
特開2007−084479(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/111429(WO,A1)
【文献】
特開2007−186505(JP,A)
【文献】
特表2008−523064(JP,A)
【文献】
医薬品インタビューフォーム 「手指消毒用速乾性アルコールジェル ウィル・ステラ Vジェル」 ,2013年12月,[令和1年9月19日検索]、インターネット,URL,https://med.saraya.com/products/pdf/42331interview.pdf
【文献】
医薬品インタビューフォーム 「速乾性すり込み式手指消毒剤 ラビジェル」,日本,2016年,[令和1年9月19日検索]、インターネット,URL,https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2016/11/f9c5795036cab85e653b703c2a977d44.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールと、
リン酸と、
リン酸三ナトリウム塩と、
ヒドロキシエチルセルロースである増粘化合物を含有する粘稠消毒剤であって、
前記増粘化合物の含有割合が0.1重量%〜20重量%であり、
25℃におけるpHが2.5〜5.0であることを特徴とする粘稠消毒剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌だけでなく、ウイルス、特にノロウイルス、ポリオウィルス、アデノウィルスなどのエンベロープを有さないノンエンベロープウイルスに対しても不活化、増殖の抑制、消滅などの効力を発揮する無色澄明の粘性を有する消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、菌だけでなく、ノロウイルス、ポリオウィルス、アデノウィルスなどのエンベロープを有さないノンエンベロープウイルスに対しても増殖の抑制などの効力を有する消毒剤として、アルコールと酸性物質を有効成分として有する製剤が知られるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一般的な消毒用エタノールでは効果のないノンエンベロープウイルスに対して高い有効性を有する消毒剤として、少なくともエタノール又はイソプロピルアルコールのアルコール、乳酸、クエン酸、亜鉛含有化合物をそれぞれ所定量で含有する消毒剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−255101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、市場では、手に付着させた場合に掌からこぼれ落ちにくい、噴霧したときに必要以上に飛び散って壁に付着しない、また、噴霧したときにアルコールなどを吸引しないといった要望があるため、とろみのある、すなわち、水やエタノールなどと比較して粘性の高い消毒剤を所望されることがあるところ、特許文献1の明細書段落0026には各種増粘剤について記載されているものの、実施例には増粘剤を含有した具体例が存在しない。
【0006】
実際に種々増粘剤を用いて、エタノール及び酸を含有する消毒剤について粘度を向上させることを試みたところ、増粘剤がエタノールに溶解せず白濁し沈殿するものであり、増粘剤入りの消毒剤や化粧品を手に擦り込んだ際に生じ得る糊状の剥離物であるヨレが生じたり、べたついたりなど使用感が悪く、全体的に製品化にはほど遠い性状であった。
【0007】
そこで、本発明では、エタノール及び酸を含有する消毒剤について、増粘剤を添加しても白濁沈殿することなく均一に溶解し、さらに増粘剤入りの消毒剤や化粧品を手に擦り込んだ際に生じ得る糊状の剥離物であるヨレが生じたり、べたついたりすることのない使用感が良好な消毒剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)すなわち、エタノールと、リン酸と、
リン酸三ナトリウム塩と、ヒドロキシエ チルセルロースである増粘化合物を含有する粘稠消毒剤であって、前記増粘化合物の含 有割合が0.1重量%〜20重量%であり、25℃におけるpHが2.5〜5.0であ ることを特徴とする粘稠消毒剤である。
【発明の効果】
【0013】
このように構成すれば、エタノール及び酸を含有する消毒剤について、増粘剤を添加しても白濁沈殿することなく均一に溶解し、さらに増粘剤入りの消毒剤や化粧品を手に擦り込んだ際に生じ得る糊状の剥離物であるヨレが生じたり、べたついたりすることのない使用感が良好にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の粘稠消毒剤に関する実施形態について詳しく説明する。なお、説明中における範囲を示す表記のある場合は、上限と下限を含有するものである。
【0015】
本発明におけるエタノールは、菌の生育を阻み、死滅させるとともに、酸と併存することによりノロウイルス、ポリオウィルス、アデノウィルスなどのエンベロープを有さないノンエンベロープウイルスに対しても不活化、増殖の抑制などの効力を有する有効成分である。
【0016】
エタノールの含有割合は、消毒剤に対して40重量%〜99重量%が好ましく、50重量%〜85重量%がさらに好ましく、55重量%〜80重量%がもっとも好ましい。エタノールの含有割合がこの範囲にあると、菌及びウイルスに対し不活化、増殖の抑制などの効力を有するとともに、増粘化合物を均一に分散することができる。
【0017】
本発明における酸は、菌の生育を阻み、死滅させるとともに、エタノールと併存することによりノロウイルス、ポリオウィルス、アデノウィルスなどのエンベロープを有さないノンエンベロープウイルスに対しても不活化、増殖の抑制などの効力を有する有効成分である。
【0018】
酸としては、クエン酸、乳酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸などの有機酸、リン酸、硫酸などの無機酸が好ましい。これらの酸は単独して使用することができるが、二種以上組み合わせて使用することもできる。また、必要に応じてその酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などを併用することができる。
【0019】
酸の含有割合は、消毒剤に対して0.1重量%〜5.0重量%が好ましく、0.2重量%〜4.0重量%がさらに好ましく、0.3重量%〜3.0重量%がもっとも好ましい。酸の含有割合がこの範囲にあると、菌及びウイルスに対し不活化、増殖の抑制などの効力を有するとともに、増粘化合物を均一に分散することができる。
【0020】
本発明における増粘化合物は下記式(1)であらわされる。
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ水素原子、炭素数1〜3の低級アルキル基、ヒドロキシエチル基:−[CH
2CH
2O]
mH、ヒドロキシプロピル基:−[CH
2CH(CH
3)O]
mH、基:−CH
2CH(OH)CH
2O−C
kH
2k+1、基:−[CH
2CH(OH)CH
2O]
m−C
kH
2k+1、又は、基:−[CH
2CH
2O]
mCH
2CH(OH)CH
2O−C
kH
2k+1のいずれか一つである。ただし、すべて同時に水素原子、又は、低級アルキル基である場合を除く。nは50〜5000の整数、mは1〜10の整数、kは6〜22の整数を示す。]
増粘化合物は、消毒剤の粘性を向上させるとともに、手など肌に付け広げたときの使用感を向上させるための化合物であり、具体的にはヒドロキシエチル基が導入されたセルロース誘導体であるヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピル基が導入されたセルロース誘導体であるヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピル基及び低級アルキル基のうちメチル基が導入されたセルロース誘導体であるヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースにステアリルグリシジルエーテルなどの疎水性のアルキル基を有するグリシジルエーテルを反応させて得られる疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチル基及びヒドロキシプロピル基が導入されたセルロースであるヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースなどである。また、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロースにおいては、疎水基がステアリル基だけでなく炭素数6〜22などの中鎖及び長鎖アルキル基を用いることもできる。なお、導入されるヒドロキシエチル基及びヒドロキシプロピル基は、セルロース中の水酸基1つに対して1または複数付加することができ、1〜10付加されていることが好ましい。特に、ヒドロキシエチルセルロースを用いることにより、消毒剤を組成したときに白濁や沈殿が見られないだけでなく、長期間保存したときにも白濁や沈殿が見られない保存安定性が優れる点において好適である。
【0021】
増粘化合物を配合することにより消毒剤の粘度は向上するところ、各種成分を配合して攪拌し均一な無色澄明な溶液となった状態におけるその消毒剤の粘度はJIS K7117−1に記載のブルックフィールド形回転粘度計B形(東機産業株式会社製、商品名「TVB−10M」)を用いた計測において、25℃条件下100〜6000mPa・sであることが好ましく、200〜5000mPa・sであることがより好ましく、300〜2000mPa・sであることが最も好ましい。粘度がこの範囲にあると、消毒液を手などの肌に付着してもただちに流れ落ちることなく、また、塗り広げるときにものばしやすい。
【0022】
増粘化合物の含有割合は、消毒剤に対して0.1重量%〜20重量%が好ましく、0.2重量%〜15重量%がさらに好ましく、0.5重量%〜10重量%がもっとも好ましい。増粘化合物の含有割合がこの範囲にあると、消毒液を手などの肌に付着してもただちに流れ落ちることなく、また、塗り広げるときにものばしやすいとともに、消毒剤中に均一に分散することができる。
【0023】
本発明の粘稠消毒剤には、上記した成分の他に、必要に応じて、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ソルビットなどの保湿剤である多価アルコール、炭酸塩などの発泡剤、非イオン性・アニオン性・カチオン性などの界面活性剤、BHTなどの抗酸化剤、pH調節剤、緩衝剤、香料、色素などを配合することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、数値範囲を示す表現は、上限及び下限を含有する。
【0025】
<実施例1>
容量が200mlのグリフィンビーカーに、エタノールを55.0g、リン酸を1.0g、リン酸三ナトリウム塩を0.5g、グリセリンを2.0g、ヒドロキシエチルセルロース(ダイセルファインケム株式会社製、商品名:HECダイセルSE900)を1.0g、精製水を32.5g加え、均一な無色澄明な溶液になるまで攪拌し、合計92.0gの消毒剤を得た。
【0034】
<比較例1>
ヒドロキシエチルセルロースの代わりにポリアクリル酸ナトリウムを1.0gとした以外は、実施例1と同様に合計92.0gの消毒剤を得た。
【0035】
<比較例2>
ヒドロキシエチルセルロースの代わりにアルギン酸ナトリウムを1.0gとした以外は、実施例1と同様に合計92.0gの消毒剤を得た。
【0036】
<比較例3>
ヒドロキシエチルセルロースの代わりにカルボキシビニルポリマーを1.0gとした以外は、実施例1と同様に合計92.0gの消毒剤を得た。
【0037】
<比較例4>
ヒドロキシエチルセルロースの代わりにカルボキシメチルセルロースを1.0gとした以外は、実施例1と同様に合計92.0gの消毒剤を得た。
【0038】
<比較例5>
ヒドロキシエチルセルロースの代わりにキサンタンガムを1.0gとした以外は、実施例1と同様に合計92.0gの消毒剤を得た。
【0039】
これらの実施例
1、比較例1〜5の組成を表1にまとめて示す。
【0040】
【表1】
【0041】
消毒剤の評価方法については、以下の方法で確認した。
【0042】
外観について、配合した消毒剤を1時間静置し目視にて確認した。無色澄明である物を○と評価し、白濁、くすみが少々生じているときは△と評価し、白濁、くすみ、沈殿物が大きく生じているときは×と評価した。これらのうち、○及び△を良好、×を不良と判断した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0043】
pHについて、pH7(中性リン酸塩)標準液(pH 6.86 at 25℃)をゼロ点とし、pH4(フタル酸塩)標準液(pH 4.01 at 25℃)またはpH9(ホウ酸塩)標準液(pH 9.18 at 25℃)で校正したpH測定器(株式会社堀場製作所製、商品名F-52)を用いて、25℃に補正した値として測定した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0044】
使用感について、配合した消毒剤を掌に滴下して押し広げたときの官能により評価した。ヨレ及びべたつきがない物を○と評価し、多少べたつきを感じる物を△と評価し、ヨレ又はべたつきの少なくとも一つが明らかにある物を×と評価した。これらのうち、○及び△を良好、×を不良と判断した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0045】
また、実施例
1の消毒剤を、40℃の恒温室で6ヶ月静置後に、上記と同様に、外観 、粘度、pH、使用感について評価を行った。外観と使用感の判断基準は上記のとおり である。
【0046】
表1に示すように、実施例
1の消毒剤において、増粘剤を添加しても配合した直後 では白濁沈殿することなく均一な無色澄明に溶解し、さらに増粘剤入りの消毒剤や化粧 品を手に擦り込んだ際に生じ得る糊状の剥離物であるヨレが生じたり、べたついたりす ることのない良好な使用感とすることができた。一方、比較例2〜5の消毒剤において 、配合して1時間後には外観において白濁、くすみ、沈殿物が大きく生じており、粘度 、pHの物性評価、使用感の官能評価を行えるものではなかった。また、比較例1の消 毒剤において、配合して1時間後には、外観において無色澄明であり良好であったが、 使用感においてべたつきがあり実際に使用できるものではなかった。さらに、保存安定 性を40℃の恒温室で加速試験を行ったところ、実施例1の消毒剤において、外観が無 色澄明であり変化がなく良好であり、より好ましい結果となった。