特許第6866469号(P6866469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866469
(24)【登録日】2021年4月9日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】強調磁気共鳴画像の作成方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20210419BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   A61B5/055 380
   A61B5/055 376
   G01N24/00 530Y
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-503623(P2019-503623)
(86)(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公表番号】特表2019-513515(P2019-513515A)
(43)【公表日】2019年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2017057305
(87)【国際公開番号】WO2017178227
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2020年2月7日
(31)【優先権主張番号】1606108.7
(32)【優先日】2016年4月11日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504132021
【氏名又は名称】ジ・インスティチュート・オブ・キャンサー・リサーチ:ロイヤル・キャンサー・ホスピタル
(73)【特許権者】
【識別番号】518359661
【氏名又は名称】ロイヤル・マーズデン・エヌエイチエス・ファウンデーション・トラスト
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ブラックリッジ
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・コリンズ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン・リーチ
【審査官】 亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−060821(JP,A)
【文献】 特開平08−229018(JP,A)
【文献】 特開平10−075938(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0054420(US,A1)
【文献】 特開2011−229654(JP,A)
【文献】 特開2007−167651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 −24/14
G01R 33/20 −33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心のある領域の磁気共鳴(MR)画像を作成する方法であって、
前記関心のある領域にわたる位置で、感MR性の物理的性質の値をマッピングするステップであって、前記マッピングされた値は前記領域の初期MR画像から取得されている、マッピングするステップと、
前記領域にわたる前記位置での前記感MR性の物理的性質の値において推定された不確実性の対応するマップを決定するステップと、
前記領域の強調MR画像を計算するステップであって、前記強調MR画像は、前記初期画像の各位置において、前記感MR性の物理的性質のそれぞれの値とそれぞれの前記推定された不確実性とを組み合わせる関数の値をマッピングし、前記関数は、より高い強調を、相対的に高く推定された不確実性を有する位置よりも、相対的に低く推定された不確実性を有する位置へ適用する、計算するステップとを含
前記推定された不確実性は、前記感MR性の物理的性質の前記値の分散であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記関数は、逆指数強調を前記推定された不確実性に適用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記推定された不確実性は、前記領域にわたる前記感MR性の物理的性質の値の逆モデルから決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記決定するステップにおいて、前記逆モデルは、最小二乗法を用いて前記感MR性の物理的性質の前記値に適合される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記感MR性の物理的性質が、見かけの拡散係数、T1、T2、またはプロトン密度である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記感MR性の物理的性質が見かけの拡散係数であり、前記関数は、より高い強調を、相対的に高い見かけの拡散係数を有する位置よりも、相対的に低い見かけの拡散係数を有する位置に適用する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記関数は、前記見かけの拡散係数に逆指数強調を適用する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記領域にわたる位置での見かけの拡散係数の値をマッピングしている前記初期MR画像は、異なるb値で前記領域にわたる複数の拡散強調画像を取得し、そこから前記初期MR画像を導出することによって取得される、請求項またはに記載の方法。
【請求項9】
関心のある立体を通る、それぞれ平行なスライスである複数の関心のある領域の各々について請求項1からのいずれか一項に記載の方法を実行して、それにより対応する強調MR画像を各スライスに対して取得するステップと、
前記強調MR画像を投影三次元画像として表示するステップとを含む、3D MR画像データを表示する方法。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の方法を実行するように動作可能に構成されたコンピュータシステム。
【請求項11】
請求項10に記載の前記コンピュータシステムを有する磁気共鳴撮像装置。
【請求項12】
請求項1からのいずれか一項に記載の方法を実行するためのコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のプログラムを実行するコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴(MR)撮像法およびシステムに関し、特に、MR拡散強調画像に関する。
【背景技術】
【0002】
全身拡散強調MR撮像(WBDWI)は、前立腺[1、2]、乳房[3]、リンパ腫[4]および骨髄腫[5]を含む原発性悪性腫瘍の範囲からの転移性骨疾患の病期診断および応答評価にとって魅力的なツールになりつつある。WBDWIは、外因性造影剤を必要とせずに、病変組織と健常組織との間に非侵襲性のコントラストを提供し、臨床医に単一の放射線ビューにおいて骨格全体の転移性の程度を検査する能力を提供する。異なる拡散強調(b値)で同じ解剖学的位置での複数の画像を取得することにより、WBDWIは見かけの拡散係数(ADC)、腫瘍の細胞充実度の間接的定量を提供するバイオマーカーの測定も提供する[6]。ADCの定量化は、治療後のADCの増加が腫瘍の壊死を示すと考えられる治療応答の評価に大きな有用性を示している[7]。
【0003】
WBDWIの比較的最近の適用は、computed DWI(cDWI)[8a、8b]である。この技術は、直接測定から得られるものよりも高いb値で画像を合成することにより、良性組織と病変組織との間のコントラストを改善する。これは、病変の誤解の一般的な原因であるT2 shine−through効果を排除し、高いb値画像の信号対ノイズ比を改善するのに役立つことができる。この方法論はまた、全身の容量的腫瘍量(tDV)および広範囲の病変ADC(gADC)の定量化を提供する、WBDWIの研究における疾患の半自動セグメンテーションに対しても利用されており、この両者は治療応答を評価するためのバイオマーカーとして使用してもよい[9]。cDWIは、高b値画像を合成的に作成するためにADC測定と一緒に使用される、モデルフィッティングから取得または推定されるb=0画像(S)の使用に依存している。S画像は、画像化された組織のT1、T2およびプロトン密度の影響を受け、結果としてのcDWIのコントラストは必ずしも組織間のADCの差に起因するとは限らない。さらに、S画像は、一般的にコイルの感度に大きく影響され、視界全体で厳密な信号の不均一性をもたらし、これは、収集ステーション間の「シグナル−ステップ」アーティファクトとして一般的に明示される[1]。そのような画像の不均一性は、施設内および施設間の絶対的な信号強度の違いに起因したWBDWIにおけるセグメンテーション技術の標準化を妨げる。その他、指数関数的強調DW撮像(eDWI)を介して、これらの困難性に対する解決策を提供しようと試みている[10]。この方法論は、Sを全視界にわたって一定の値に設定することで、合成高b値画像を純粋にADCで生成したコントラストで得ることができる。しかしながら、この技術は、ADC計算が撮像ノイズの影響を強く受ける分野には一般的には鋭さに欠けるので、本質的に低コントラスト−ノイズ比(CNR)を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した方法の欠点に対処することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般的には、本発明は、ADCなどの感MR性の物理的性質の値における不確実性を推定し、推定された不確実性を使用して、強調を適用し、MR画像におけるノイズ低減を生じさせることを提案する。そのようなアプローチは、例えば、eDWI画像において観察されたCNRを改善するために使用することができる。
【0006】
従って、第1の態様では、本発明は、
関心のある領域の初期MR画像を取得するステップであって、初期MR画像は、領域にわたる位置で、感MR性の物理的性質の値をマッピングしている、取得するステップと、
領域にわたる感MR性の物理的性質の値において、推定された不確実性の対応するマップを決定するステップと、
領域の強調MR画像を計算するステップであって、強調MR画像は、初期画像の各位置において、感MR性の物理的性質のそれぞれの値とそれぞれの推定された不確実性とを組み合わせる関数の値をマッピングしており、関数は、相対的に高く推定された不確実性を有する位置よりも相対的に低く推定された不確実性を有する位置に対してより高い強調を適用する、計算するステップとを含む関心のある領域の磁気共鳴(MR)画像を生成する方法を提供する。
【0007】
上述したように、強調MR画像は、改善されたCNR特性を有することができる。加えて、強調MR画像は、cDWIにおいて観察され得る信号の不均一性のような、信号の不均一性の影響を受けにくい。
【0008】
本発明の第2の態様は、3DのMR画像データを表示する方法であって、この方法は、
関心のある立体(volume)を通る、それぞれ平行なスライスである複数の関心のある領域の各々について第1の態様の方法を実行し、それにより各スライスに対して対応する強調MR画像を得るステップと、
投影された立体画像として、例えば、関心のある立体の最大強度投影として強調MR画像を表示するステップとを含む、3DのMR画像データを表示する方法を提供する。
【0009】
有利には、この方法は、同じ患者に対して複数の訪問にわたって取得される投影された立体画像の視覚的な比較を改善することができ、それ故、施設間で全身疾患のセグメント化を統一するために使用することができる。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様の方法を実行するように動作可能に構成されたコンピュータシステムを提供する。例えば、関心のある領域の強調MR画像を生成するためのコンピュータシステムは、
関心のある領域の初期MR画像を保管するためのコンピュータ可読媒体であって、初期MR画像は領域にわたる位置で、感MR性の物理的性質の値をマッピングしている、コンピュータ可読媒体と、
領域にわたる感MR性の物理的性質の値における推定された不確実性の対応するマップを決定し、領域の強調MR画像を計算するための1つまたは複数のプロセッサであって、この強調MR画像は、初期画像の各位置で、感MR性の物理的性質のそれぞれの値とそれぞれの推定された不確実性とを結びつける関数の値をマッピングしており、この関数は、相対的に高く推定された不確実性を有する位置よりも相対的に低く推定された不確実性を有する位置により高い強調を適用している、1つまたは複数のプロセッサとを含んでいてもよい。
【0011】
このコンピュータシステムは、初期MR画像、推定された不確実性のマップ、強調MR画像、および(このシステムが第2の態様の方法を実行するように動作可能に構成されている場合)投影立体画像のいずれか1つまたは複数を表示するためのディスプレイを含むことができる。
【0012】
本発明のさらなる態様は、第3の態様のコンピュータシステムを有する磁気共鳴撮像装置を提供する。
【0013】
本発明のさらなる態様は、第1または第2の態様の方法を実行するためのコンピュータプログラム、および第1または第2態様の方法を実行するためのコンピュータプログラムを備えるコンピュータプログラム製品を提供する。
【0014】
本発明の任意の特徴をここで説明する。これらは単独でも、または本発明の任意の態様の任意の組み合わせにおいて適用可能である。
【0015】
この関数は、推定された不確実性に逆指数加重を適用し得る。
【0016】
都合のよいことに、推定された不確実性は、領域にわたる感MR性の物理的性質の値の逆モデルから決定することができる。例えば、決定において、逆モデルは、最小二乗法を用いて感MR性の物理的性質の値にフィッティングされてもよい。
【0017】
推定される不確実性は、感MR性の物理的性質の値の分散であってもよい。
【0018】
感MR性の物理的性質は、見かけの拡散係数、T1、T2、またはプロトン密度であり得る。感MR性の物理的性質が見かけの拡散係数である場合、関数は、相対的に高い見かけの拡散係数を有する位置よりも、相対的に低い見かけの拡散係数を有する位置に、より高い強調を適用してもよく、例えばこの関数は、見かけの拡散係数に逆指数の強調を適用することができる。従って、この機能は、特に、転移性骨疾患の領域を同定するのに役立ち得る。あるいは、感MR性の物理的性質が見かけの拡散係数である場合、関数は、相対的に高い見かけの拡散係数を有する位置よりも、相対的に低い見かけの拡散係数を有する位置に、より低い強調を適用してもよく、例えばこの関数は、見かけの拡散係数に指数関数的な強調を適用することができる。このようにして、この機能は壊死の領域を特定するのに役立つ。領域にわたる位置での見かけの拡散係数の値をマッピングしている初期MR画像は、異なるb値で領域にわたる複数の拡散強調画像を取得し、そこから初期MR画像を導出することによって取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照して例として以下に説明する。
【0020】
図1】(a)は所与の断面積および所与のb値に対する拡散強調MR画像示しており、(b)は複数のそのような画像についてのb値に対するInS(b)のプロットを示しており、プロット内のInS(b)に対する値は(a)に示された画素で得られ、その画素でのADCおよびADCにおける標準偏差σADCについて計算された値を示しており、(c)は他の画素に対するADC計算を繰り返すことにより得られた断面に対するADC画像を示しており、(d)は他の画素に対するσADC計算を繰り返すことによって得られた断面に対するσADCのマップを示している。
図2】(a)は図1(c)のADC画像を示しており、(b)は図1(d)のσADCマップを示しており、(c)はADC画像から導かれたexp{−b・ADC}のマップを示しており、(d)はσADCマップから導かれたexp{−a・σADC}のマップを示しており、(e)はSnc(a,b)=exp{−b・ADC}・exp{−a・σADC}の強調MR画像を示している。
図3】第1の患者について、(a)は基準軸断面に対するσADCマップを示しており、(b)は断面に対する対応するADC画像を示しており、(c)は断面に対するノイズ補正されて、指数関数的に加重された対応するDWI(niceDWI)画像を示しており、画像を計算するために使用された(a,b)の値が示されており、(d)は断面に対する対応する高b値画像(b=900s/mm)を示しており、(e)は病変組織とバックグラウンド組織との間のコントラストを視覚的に最大化するbおよびa値でのniceDWI画像から得られた最大強度投影(MIP)立体を示しており、(f)は通常取得される高b値画像(b=900s/mm)を用いて生成された対応するMIP立体を示している。
図4】第2の患者について、(a)は基準軸断面に対するσADCマップを示しており、(b)は断面に対する対応するADC画像を示しており、(c)は断面に対する対応するniceDWI画像を示しており、画像を計算するために使用された(a,b)の値が示されており、(d)は断面に対する対応する高b値画像(b=900s/mm)を示しており、(e)は病変組織とバックグラウンド組織との間のコントラストを視覚的に最大化するbおよびa値でのniceDWI画像から得られた最大強度投影(MIP)立体を示しており、(f)は通常取得される高b値画像(b=900s/mm)を用いて生成された対応するMIP立体を示している。
図5】第3の患者について、(a)は基準軸断面に対するσADCマップを示しており、(b)は断面に対する対応するADC画像を示しており、(c)は断面に対する対応するniceDWI画像を示しており、画像を計算するために使用された(a、b)の値が示されており、(d)は断面に対する対応する高b値画像(b=900s/mm)を示しており、(e)は病変組織とバックグラウンド組織との間のコントラストを視覚的に最大化するbおよびa値でのniceDWI画像から得られた最大強度投影(MIP)立体を示しており、(f)は通常取得される高b値画像(b=900s/mm)を用いて生成された対応するMIP立体を示している。
図6】バックグラウンドノイズ分散の計算の例を示している。最も低いb値画像の対数からのデータは、ガウスの混合としてモデル化される(a)。最も低い平均値を有するガウス成分は、最も低いb値のmagnitude画像上のバックグラウンドの領域(斜線領域の外側)を分類するために使用される(b)。バックグラウンド領域内のデータは、画像に対するσを推定するために使用される(c)。
図7】複数の取得を通した画像ノイズ分散の直接計算(「真の」と表示され、各ケースにおける左の画像)および平均画像からの推定(「推定された」と表示され、各ケースにおける右の画像)を介したσADCの計算の4つの例を示している。散布図は、真のσADC計算と推定されたσADC計算との間のピクセル単位の相関を示しており、破線は、均等の線を表す。一般的に、両方の技術の間で、特に骨のような動きに影響されない領域(矢印B)において良好な一致がある。動きに影響を受けるこれらの領域は、特に腸、腎臓および脾臓において、計算上の相違をもたらし得る。これらの領域では、推定値は真の値を過小評価する傾向がある(矢印S)。動きに対する非感受性は有利となり得る。右上の例では、真の計算は、肝病変に対するσADCの高い値を明らかにしており、一方、推定された値は、周囲の健康な肝臓(矢印L)とのコントラストをはるかに低く改善している。
図8】(i)従来の高b値画像と、(ii)繰り返しのb値取得が利用可能なniceDWIと、(iii)繰り返しのb値取得が不可能なσADCの推定値とで取得されたniceDWI画像を示している。手法(iii)は、手法(ii)と比較して、精巣(矢印E)のような健康な組織と腫瘍(矢印T)との間で類似のコントラストを提供することができる。手法(ii)および(iii)の両方は、手法(i)に対して、健康組織と病変組織との間のコントラストを改善している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明は、好ましい例示的な実施形態のみを提供するものであり、本発明の範囲、適用性または構成を限定するものではない。むしろ、好ましい例示的な実施形態の以下の説明は、当業者に発明の好ましい例示的な実施形態の実現を可能にする説明を提供するが、本発明の範囲から逸脱することなく要素の機能および配置において様々な変更を加えることができると理解される。
【0022】
本明細書で開示するように、「コンピュータ可読媒体」という用語は、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気RAM、コアメモリ、磁気ディスク記憶媒体、光学記憶媒体、フラッシュメモリ装置、および/または情報を記憶するための他の機械可読媒体を含む、データを記憶するための一つまたは複数の装置を表す。「コンピュータ可読媒体」という用語は、携帯用または固定された記憶装置に限定されず、光学記憶装置、ワイヤレスチャネル、および命令および/またはデータを記憶、格納または搬送することができる様々な他の媒体を含む。
【0023】
さらに、実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア、マイクロコード、ハードウェア記述言語、またはそれらの任意の組み合わせによって実施されてもよい。ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェアまたはマイクロコードで実施される場合、必要なタスクを実行するプログラムコードまたはコードセグメントは、記憶媒体などの機械可読媒体に格納されてもよい。プロセッサは、必要なタスクを実施することができる。コードセグメントは、プロシージャ、ファンクション、サブプログラム、プログラム、ルーチン、サブルーチン、モジュール、ソフトウェアパッケージ、クラス、または命令、データ構造、またはプログラム文の任意の組み合わせを表すことができる。コードセグメントは、情報、データ、引数、パラメータ、またはメモリ内容を渡す、および/または受け取ることによって、別のコードセグメントまたはハードウェア回路に結合されてもよい。情報、引数、パラメータ、データなどは、メモリ共有、メッセージパッシング、トークンパッシング、ネットワーク送信などの任意の適切な手段を介して渡され、転送され、または送信され得る。
【0024】
理論
磁気共鳴画像における信号強度
【数1】

に対するモデルは、
【数2】

によって与えることができ、ここで、
【数3】

は、感MR性の、組織の物理的性質(例えば、ADC、スピン−格子緩和T1、スピン−スピン緩和T2、プロトン密度)を意味し、βはMRIシーケンスパラメータ(例えば、b値、エコー時間、フリップ角)を表し、
【数4】

は撮像システムに対するモデルであり、εはいくつかの確率分布(例えば、ライス分布[11])からの統計ノイズである。一般的に、αはすべて不明であるが、使用者は、MR撮像システムの所与の制約内で、βを選択することができる。従って、組織パラメータの定量化は、逆撮像モデルmβ−1の同定に依存しており、それにより、αのマップは、別個のスキャナ設定βでそれぞれ取得された一連のM個の画像S={S:i=1...M}から推定することができ、
【数5】

画像ノイズεからもたらされる推定の不確実性はηαで表される。
【0025】
計算された画像化は、想定される撮像モデル、
【数6】

を使用して、シーケンスパラメータβのいくつかの任意のセットで画像Sを合成するために、推定された組織パラメータを使用するポストプロセッシング技術である。
【0026】
そのようなプロセスは、臨床スキャナで物理的に利用可能でないβの値で画像コントラストを生成することができ、信号−ノイズ比および結果の画像の幾何学的忠実性を改善することができる[8a、8b]。このアプローチは、撮像モデルmを、出力画像で望ましい性質を有するいくつかの任意の関数
【数7】

で置き換えることにより、さらに一般化することができる[12]:
【数8】
【0027】
しかしながら、本発明はまた、推定されたパラメータの不確実性ηαを計算された画像強調に組み込む。より具体的には、推定された不確実性の分散Σα’を使用してもよく、それによりパラメータ推定に大きな不確実性がある計算された画素は、推定の信頼性が高いこれらの画素と比較して大きく減衰される。そのような関数の例は、逆指数であり、それにより計算された信号強度は、
【数9】

となり、ここで、
【数10】

はノイズ抑制の度合いに影響を与えるユーザ制御可能なパラメータである。
【0028】
とりわけ(この技術のより一般的な適用性に留意しながら)eDWIに焦点を当てると、DWIにおける信号強度は、以下の
【数11】

に従ってモデル化される。ここで、シーケンスパラメータは、必ずしも固有ではないM個のb値のベクトルβDWI=(b,b,...,b)からなる。結果の画像の対数を取ることにより、これは線形方程式:
【数12】

に変換される。
【0029】
逆モデルに適合させるために、標準の最小二乗ルーチンを採用することができる。すなわち、
【数13】

であり、ここで、
【数14】

であり、α’=(ADC’,InS’)である。ADCの推定における分散は、
【数15】

によって与えられることが示され得る。ここで、σは、各画素について計算された、線形フィットからの残差平方和を表す。分散マップに沿ったADCマップの生成が図1に示されており、(a)は所与の断面および所与のb値に対する拡散強調MR画像を示しており、(b)は複数のそのような画像についてのb値に対するInS(b)のプロットを示しており、プロット内のInS(b)に対する値は(a)において示された画素でとられ、およびその画素でのADCに対する計算された値およびADCにおける標準偏差σADCを示しており、(c)は他の画素に対してADC計算を繰り返すことによって得られた断面に対するADC画像を示しており、および(d)は他の画素に対するσADC計算を繰り返すことにより得られた断面に対するσADCマップを示している。
【0030】
σADCの上記計算は、少なくとも3つのb値(M≧3)を取得する必要がある。しかしながら、2つのb値のみが利用可能である場合、単一の画像からの画像ノイズを計算するための多数の方法(例えば[13]参照)のいずれかが、感MR性の物理的性質における不確実性を推定するために使用されてもよく、その一例が付録に記載されている。データサポートがある場合、ADCおよびσADCの推定を改善するために、加重最小二乗推定を使用することができる。σADCのノンパラメトリックな推定は、当業者に周知なブートストラップ手法によっても達成することもできる。また、前述のように、そのような手法はDWIの範囲外で適用することができる。従って、それらは例えば、T1w及びT2wの撮像に適用することができる。
【0031】
ノイズ補正された指数強調DWI(niceDWI)のコントラストは、次のように定義することができる。
【数16】

ここで、bとaは、合成画像における拡散およびノイズ強調の量をそれぞれ制御するユーザ定義可能なパラメータである。逆指数関数の使用は、最終的な画像で望ましい特性を有している。特に、高いb値は、ADCが低い領域において高い信号強度を有する画像をもたらし、高いa値は、適合されたADC推定値の高い信頼度がある領域において高い信号強度を有する画像をもたらす。この手法は、図2に示されており、(a)は図1(c)のADC画像を示しており、(b)は図1(d)のσADCマップを示しており、(c)はADC画像から導かれたexp{−b・ADC}のマップを示しており、(d)はσADCマップから導かれたexp{−a・σADC}のマップを示しており、(e)は強調MR画像 Snc(a,b)=exp{−b・ADC}・exp{−a・σADC}を示している。
【0032】
結果
全身のDW画像は、以下のパラメータ:b値=50/900または50/600/900s/mm、直行拡散符号化方向、STIR脂肪抑制(Tl=180ms)、スライス厚さ=5mm、GRAPPA画像取得(減衰因子=2)を有する1.5T MRIスキャナ(MAGNETOM Aera,Siemens AG、医療部門,エアランゲン,ドイツ)で得られた。画像は、それぞれが全胴体をカバーするように40スライスからなる4ステーションにおける移動テーブルで取得された。各ステーションでの画像は、それぞれ1信号平均(NeX)で3回取得され、個々の拡散符号化方向からのデータが個別にエクスポートされた。従って、最終のデータセットは、各スライス位置で、各b値で取得された9個の画像からなっていた。
【0033】
前立腺癌由来の転移性骨疾患を有する3人の患者に対して、このようにして全身のMR撮像を行った。
【0034】
各患者について、以下の画像(a)から(f)が生成された:
(a)基準軸断面に対するσADCマップ
(b)断面に対する対応するADC画像
(c)断面に対する対応するniceDWI画像。画像を計算するために使用された(a,b)の値が示される。
(d)断面に対する対応する高b値画像(b=900s/mm)画像;
(e)病変組織およびバックグラウンド組織との間のコントラストを視覚的に最大化したb値およびa値でのniceDWI画像から得られた最大強度投影(MIP)立体;
(f)従来法で取得された高b値画像(b=900s/mm)を用いて生成された対応するMIP立体。
【0035】
図3(a)から(f)は、第1の患者のこれらの画像を示す。niceDWIは、ステーション間インターフェースに存在する信号強度のスプリアス不連続性を除去することができ((e)および(f)の上矢印)、病変とバックグラウンドのコントラストを改善することができる((e)および(f)の下矢印)。
【0036】
図4(a)から(f)は、第2の患者のこれらの画像を示す。再び、niceDWIは、ステーション間インターフェースに存在する信号強度のスプリアス不連続性を除去することができる((e)および(f)の上矢印)。また、腎臓や脾臓などの正常組織の存在を取り除くことができる((e)と(f)の下矢印)。
【0037】
図5(a)から(f)は、第3の患者のこれらの画像を示す。再び、niceDWIは、腎臓および脾臓などの正常組織の存在を除去することができる((e)および(f)の矢印)。
【0038】
付録−複数取得のないADC不確定性の推定
1.理論
先の述べたように、ADC計算は、N個の異なるb値から得られる拡散強調画像Sからの線形最小二乗近似を通して達成され得る。
【数17】
【0039】
誤差伝搬により、このようにADC推定値の分散を
【数18】

として推定することが可能である。ここで、
【数19】

式(2)から、
【数20】

および各b値での対数信号(log−signal)の分散の推定が必要であることは明らかである。一つの方法は、
【数21】

による評価に至る各b値でのYのM回の繰り返し測定を実施することである。
【0040】
そのようなデータが不均一分散性であるので定数σを仮定していないことは注目に値する。しかしながら、直接測定が可能でない場合は、以下の近似を使用し得る。非対数ドメインにおける画像ノイズがほぼガウス分布(すなわち、近似S〜N(μ,σ))であると仮定すると、誤差伝搬により、
【数22】

を有しており、それにより
【数23】

を有する[14]。
【0041】
式(4)を介して生成されたσADCのボクセル式のマップのコントラストは、b値のb、および各b値での測定された信号値、Sの選択にのみ依存することは明らかである。絶対測定を決定するには、下記で議論するようにσの推定値が必要である。
【0042】
2.σの推定値
magnitude DW画像のノイズ分散を(例えば、ウェーブレット分解またはハイパスフィルタリングを介して)推定するために、多数のオプションが利用可能である。ここでは、最も低いb値画像からの対数−空間データの混合ガウスモデル(GMM)を使用することの可能性を調査し、バックグラウンドノイズをセグメント化し、元のデータセットにおけるこの領域からσを近似する。低b値の対数−画像Yのデータは、P個のガウス分布
【数24】

からなると考慮している。
【0043】
GMMに続いて、最も低い平均を有するガウス成分がバックグラウンドノイズのクラス、すなわち
【数25】

を表すと仮定する。バックグラウンド画素の分類は次いで、従来の最大事後推定によって簡単となり、そこからノイズ分散を計算することができる(図6に示される)。
【0044】
3.実施例
以下のb値:{50×9;600×9;900×9}で軸方向DW画像が患者から取得された。式(2)および(3)を用いてσADCの黄金律(「真の」)計算が計算され、一方で式(4)および(5)を用いて、各異なるb値での平均画像を含む第2の画像データセットを用いて推定値が計算された。両方の推定方法の実施例は、図7において単一の患者の4つの軸方向位置に対して実証される。σADCの真の値と推定された値との間に良好な一般的対応関係があることが明らかにされる。式(4)を使用するときに、組織内でわずかな過小推定があり、バックグラウンドノイズのわずかな過大推定がある。良好な推定が特に骨などの静的な場所で見られるが、動きにより影響を受ける領域(例えば、腎臓、腸および脾臓)は一般的に過小推定される。この過小推定は有利となることができ、肝臓では、黄金律の技術を使用するときに、転移組織と健全組織との間で極めて少ないコントラストがある。式(4)の運動に対する無感覚は、病変のコントラストを改善する。
【0045】
図8で証明されたものは、(i)従来法で得られた高b値(b900)画像、(ii)各b値での9回の繰り返し取得から計算されたσADCを用いて生成されたniceDWI画像、および(iii)各b値での繰り返し取得が可能でない上で概説された方法論から計算されたσADCを使用して生成されたniceDWI画像、に対する最大強度投影(MIPs)の比較である。これは、異なるb値での繰り返し取得が可能でないところで、上で概説したような手法は、異なるb値での取得が可能である手法と比較して、腫瘍組織(黒い矢印)と精巣などの健全組織(白い矢印)との間に類似の画像コントラストを生成することができる。
【0046】
以下の全ての参考文献は参照により本明細書に組み込まれる。
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[3]Padhani AR, Koh OM, Collins DJ (2011) Whole-body diffusion-weighted MR imaging in cancer: current status and research directions. Radiology 261: 700-718.
[4]van Ufford HM, Kwee TC, Beek FJ, van Leeuwen MS, Takahara T, et al. (2011) Newly diagnosed lymphoma: initial results with whole-body T1-weighted, STIR, and diffusion weighted MRI compared with 18F-FDG PET/CT. AJR Am J Roentgenol 196: 662-669.
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図1
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