(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866567
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】自動調心ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 23/08 20060101AFI20210419BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
F16C23/08
F16C33/78 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-19237(P2016-19237)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-137932(P2017-137932A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 英郎
【審査官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−058337(JP,A)
【文献】
特開2014−001811(JP,A)
【文献】
特開2007−040427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 23/06−23/08
F16C 33/76−33/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に介在された複数の球面ころと、前記外輪の軸方向両端部にそれぞれ設けられるシール部材と、を備える自動調心ころ軸受において、
前記シール部材は、芯金と、弾性体と、を備え、
前記弾性体は、該芯金よりも径方向内側に延びるリップ部と、前記外輪のシール取付溝に嵌合する取付け部と、前記芯金の軸方向内側において前記取付け部と連続して形成されると共に前記球面ころの軸方向端面と対向し、前記球面ころが傾いたときに前記球面ころと当接可能な突出部と、を有することを特徴とする自動調心ころ軸受。
【請求項2】
前記突出部は、前記取付け部の軸方向内側面よりも軸方向内側に突出していることを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動調心ころ軸受に関し、より具体的には、シール部材を備えるシール付自動調心ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動調心ころ軸受は、一般的には、外輪の球面状の外輪軌道面と内輪の複列の内輪軌道面との間に、たる状の球面ころを組み込んだ構造を有しており、外輪軌道面の曲率中心が軸受中心に一致しているため、軸やハウジングのたわみや軸心の不一致が生じると、内輪と外輪の間に所定の調心角度を形成して、自動的に調心できるようになっている(たとえば、特許文献1参照)。また、特許文献1に記載の自動調心ころ軸受では、両端部に装着されるシール部材のリップの位置を外輪の軌道面を含む球面上又はその外側とし、外輪の軌道面の目視検査がしやすくしている。
【0003】
図4は従来の自動調心ころ軸受の平常時の断面図である。
図4に示すように、従来の自動調心ころ軸受10は、外輪11と、内輪12と、外輪11の球面状の外輪軌道面11aと内輪12の複列の内輪軌道面12aとの間に介在された複数の球面ころ13と、該複数のころ13を保持する保持器14と、を備えている。
【0004】
また、従来の自動調心ころ軸受10は、軸受内部に封入した潤滑剤の漏洩や外部から軸受内部への異物の混入を防止するために、外輪11と内輪12との間の軸方向両端部に、芯金21,21´と弾性体22,22´からなるシール部材20,20´を備える。そして、弾性体22,22´の先端部にリップ部22a,22a´を設け、リップ部22a,22a´を内輪12の外周面に接触させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−88949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、
図5に示すように、従来のシール付き自動調心ころ軸受では、装置へ装着する際に、自動調心ころ軸受の調心角度が一定な角度を超える可能性があり、球面ころ13がシール部材20に向けて過度な傾きを発生してしまい、シール部材20の反対側のシール部材20´のリップ部22a´と内輪12との接触状態が崩れ、リップ部22a’と内輪12との間にすきまが発生し、このすきまからごみ等の異物が混入したり、軸受内部の潤滑剤が漏洩してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以上の課題を鑑みて行われたものであり、その目的は、軸受の調心角度を制御することができ、ひいては、シール部材の密封性を維持することができる自動調心ころ軸受を提供することである。
【0008】
発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に介在された複数の球面ころと、前記外輪の軸方向両端部にそれぞれ設けられるシール部材と、を備える自動調心ころ軸受において、前記シール部材は、芯金と、該芯金よりも径方向内側に延びるリップ部を有する弾性体と、を備え、前記弾性体は、前記芯金の軸方向内側において前記球面ころの軸方向端面と対向する突出部を有することを特徴とする自動調心ころ軸受。
(2) 前記弾性体は、前記外輪のシール取付溝に嵌合する取付け部を有し、前記突出部は、前記取付け部の軸方向内側面よりも軸方向内側に突出していることを特徴とする(1)に記載の自動調心ころ軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の自動調心ころ軸受によれば、シール部材の突出部により軸受組立て時の軸受調心角度を制御することができ、ひいては、シール部材の密封性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る自動調心ころ軸受の平常時の断面図であり、(b)は、(a)のI部拡大図である。
【
図2】
図1の自動調心ころ軸受の自動調心時の断面図である。
【
図3】
図1の自動調心ころ軸受のシール部材の突出部の変形例を示す図である。
【
図4】従来の自動調心ころ軸受の平常時の断面図である。
【
図5】従来の自動調心ころ軸受の軸受組立て時の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る自動調心ころ軸受について説明する。なお、説明の便宜のため、
図4に示した従来の自動調心ころ軸受と同一又は同等部分については、同一の符号を付している。ただし、本発明の技術的範囲は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1(a)は、本発明による自動調心ころ軸受の平常時の断面図である。
図1(a)に示すように、本発明による自動調心ころ軸受10は、内周面に球面状の外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に複列の内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪11の外輪軌道面11aと内輪12の内輪軌道面12aとの間に転動自在に介在された複数の球面ころ13と、外輪11の軸方向両端部にそれぞれ設けられるシール部材20,20´と、を備える。外輪軌道面11aの曲率中心は、軸受中心と一致しており、球面ころ13が外輪軌道面11aに沿って摺動することで、一定な調心角度まで調心することができる。
【0013】
また、
図1(b)に示すように、シール部材20,20´は、芯金21,21´と、該芯金21,21´と射出成形により一体に形成され、該芯金21,21´の軸方向外側面を覆うゴム製やエラストマー製の弾性体22,22´を有する。弾性体22,22´は、芯金21,21´よりも径方向内側に延びて内輪12の外周面に接触するリップ部22a,22a´と、外輪11のシール取付溝11bに嵌合する取付け部22b,22b´と、芯金21,21´の軸方向内側において球面ころ13の軸方向端面と対向する突出部22c,22c´とを有する。
【0014】
突出部22c,22c´は、取付け部22b,22b´の径方向内側で、該取付け部22b,22b´と連続して形成されており、芯金21,21´の円筒部分の内周面を覆い、且つ、該円筒部分から芯金21,21´のフランジ部分に亘って形成されている。また、突出部22c,22c´は、取付け部22b,22b´の軸方向内側面よりも軸方向内側に突出している。さらに、突出部22c,22c´の軸方向内側面は、球面ころ13が許容調心角まで傾斜したときの球面ころ13の軸方向端面と略平行に設計されていることが好ましい。
【0015】
ところで、軸受を装置に組み立て時において、
図2に示すように、球面ころ13が傾斜し、それに伴い、内輪12が右側に傾くが、突出部22cの存在により、内輪12は過度な傾きが発生せず、リップ部22a´と内輪12との間にすきまが生じない。また、球面ころ13が右側の軸方向端部に設けられたシール部材20の突出部22cに当接する調心角度においても、左側の軸方向端部に設けられたシール部材20のリップ部22a´が内輪12の外周面と接触する。同様に、左側のシール部材20´にも突出部22c´が設けられているため、球面ころ13が左側の軸方向端部に設けられたシール部材20´の突出部22c´に当接する調心角度においても、右側の軸方向端部に設けられたシール部材20のリップ部22a´が内輪12の外周面と接触する状態を保持することができる。また、球面ころ13が傾いても、球面ころ13は、シール部材20の突出部22cと当接するので、芯金21との当接を防止することができる。
【0016】
なお、突出部22c,22c´の突出度合いを調整することにより、球面ころ13の傾き度合いを任意に制御することができる。
【0017】
従って、本実施形態の自動調心ころ軸受10によれば、シール部材20,20´に突出部22c,22c´を設けることより、調心角度が制御され、球面ころ13の過度な傾きを防止し、ひいては潤滑剤の漏洩ないし軸受内部への異物混入を防止することができる。
【0018】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、適宜、変形、改良等が自在である。
例えば、上記実施形態では、突出部22c,22c’は、取付け部22b,22b´の軸方向内側面よりも軸方向内側に突出しているが、本発明の突出部は、自動調心ころ軸受を装置に組み立てる時の球面ころの傾き度合いを制御できるものであれば、これに限定されない。
【0019】
具体的に、
図3(a)に示す変形例のように、突出部22c,22c´と取付け部22b,22b´の軸方向内側面は面一に形成されてもよい。突出部22c,22c´は、その軸方向内側面でころ13の端面と接触可能となる。
或いは、
図3(b)に示す変形例のように、突出部22c,22c´の軸方向内側面が、取付け部22b,22b´の軸方向内側面よりも軸方向外側に位置していてもよい。突出部の形状は、芯金の湾曲部に沿って段付き形状に形成され、段付き面22c1,22c1´により、
図2に示すころ13の端面と接触可能となる。
図3(a)、(b)に示すいずれの変形例も、
図1(b)と同様に、突出部22c,22c´は軸方向において一定な厚さを有する為、球面ころ13を一定な角度まで傾斜しつつ、球面ころ13の過度傾きを防止することができる。
【符号の説明】
【0020】
10 自動調心ころ軸受
11 外輪
11a 外輪軌道面
11b シール取付溝
12 内輪
12a 内輪軌道面
13 ころ
14 保持器
20,20´ シール部材
21,21´ 芯金
22,22´ 弾性体
22a,22a´ リップ部
22b,22b´ 取付け部
22c,22c´ 突出部