(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、ここで提案される建物および制震装置を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。また、同一の作用を奏する部材・部位には、適宜に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
《建物100》
図1は、建物100に取り付けられた制震装置200を示す正面図である。
図2は、制震装置200のブレースの基部を拡大した部分断面図である。建物100は、
図1および
図2に示すように、基礎101と、下部構造材102と、複数の柱103,104と、上部構造材105とを備えている。
【0012】
基礎101は、上方に突出したアンカーボルト111〜114を備えている。ここで、アンカーボルト111〜114は、建物100の下部構造材102や柱103,104を基礎101に固定する部材である。アンカーボルト111〜114の下部は、基礎101に埋め込まれており、アンカーボルト111〜114の上部は、基礎101から立ち上がっている。アンカーボルト111〜114は、所要の引き抜き強度を備えているとよい。
図1に示す形態では、アンカーボルト111,112には、下部構造材102と制震装置200が固定されている。アンカーボルト113,114には、柱103,104が固定されている。制震装置200が取り付けられるアンカーボルト111,112は、例えば、15kN以上の引き抜き強度を有しているとよい。なお、図示される以外にも、基礎101には、アンカーボルト111〜114の他にも複数のアンカーボルトが設けられている。建物100の下部構造材102および複数の柱は、基礎101に設けられた複数のアンカーボルトによって固定されている。
【0013】
下部構造材102は、基礎101の上に配置されている。ここで、下部構造材102は、基礎101の上に配置される建物100の下部の構造材である。
図1および
図2に示された形態では、基礎101の上に、基礎パッキン101aが取り付けられている。そして、基礎パッキン101aの上に、下部構造材102が重ねられている。下部構造材102は、土台102aと、床合板102bを備えている。土台102aは、基礎パッキン101aの上に重ねられている。床合板102bは、土台102aの上に重ねられている。下部構造材102は、基礎101の上に配置される建物100の下部の構造材であり、土台102aと、床合板102bとからなる構造に限定されない。下部構造材102を構成する部材は、建物100の工法や設計の差異などによって種々変更されうる。
【0014】
複数の柱103,104は、下部構造材102から立ち上がっている。ここで、
図1は、建物100の一部が描かれているに過ぎず、建物100には、柱103,104の他にも複数の柱が設けられている。上部構造材105は、かかる柱103,104を含む建物100の複数の柱103,104によって支持されており、下部構造材102の上方に配置されている。このように、上部構造材105は、複数の柱103,104によって支持され、下部構造材102の上方に配置された建物100の構造材である。例えば、2階建ての家屋であれば、2階の床梁などが、上部構造材105となる。
【0015】
《制震装置200》
制震装置200は、建物100の下部構造材102と、複数の柱のうち一対の柱103,104と、上部構造材105とで囲まれた空間106に配置されている。この実施形態では、下部構造材102と、一対の柱103,104と、上部構造材105とによって、矩形の空間を有する枠組みが構築されている。制震装置200は、当該枠組みの内側に配置されている。ここで、制震装置200は、制震ユニット201と、上側伝達部材202と、下側伝達部材203と、第1締結部材204と、第2締結部材205とを備えている。
【0016】
《制震ユニット201》
図3は、上側伝達部材202と下側伝達部材203とに取付けられた制震ユニット201の左側面図である。
図3では、制震ユニット201が粘弾性体212,213の中心線に沿って部分的に縦断された断面図として図示されている。
制震ユニット201は、
図3に示すように、中間プレート211と、一対の粘弾性体212,213と、一対の外側プレート214,215とを備えている。一対の粘弾性体212,213は、中間プレート211を挟むように配置され、中間プレート211に接着されている。一対の外側プレート214,215は、中間プレート211を挟むように配置された一対の粘弾性体212,213の外側面に重ねられ、かつ、接着されている。
【0017】
《粘弾性体212,213》
粘弾性体212,213には、高減衰性を有する粘弾性ゴム(制震ゴム)が好適に採用されうる。高減衰性を有する粘弾性ゴム(制震ゴム)には、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム素材(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、あるいは、これらのゴムのうち複数のゴム素材を混合したゴム素材に、高減衰性を発揮する添加剤を加えて生成された高減衰性ゴム組成物を用いることができる。高減衰性を発揮する添加剤としては、例えば、カーボンブラックなど、種々の添加剤が知られている。中間プレート211と粘弾性体212,213および外側プレート214,215と粘弾性体212,213とは、加硫接着によって接着されているとよい。
【0018】
この実施形態では、制震ユニット201は、上記下部構造材102と、柱103,104と、上部構造材105とで囲まれた矩形の枠組み内に配置されている。そして、上記下部構造材102と、柱103,104と、上部構造材105とで囲まれた矩形の枠組みの法線方向に、中間プレート211と、一対の粘弾性体212,213と、一対の外側プレート214,215との法線方向が合わせられている。中間プレート211は、一対の粘弾性体212,213が接着された部位から下方に延びている。中間プレート211の下端には、中間プレート211と直交するように取付プレート211aが溶接されている。一対の外側プレート214,215は、
図1に示すように、一対の粘弾性体212,213が接着された部位から左方および右方に延びている。
【0019】
《上側伝達部材202》
上側伝達部材202は、制震ユニット201と上部構造材105とに取り付けられている。この実施形態では、上側伝達部材202は、基部202aと、取付片202b,202cとを備えている。基部202aは、上部構造材105の下面に沿って取り付けられる部位であり、締結具(この実施形態では、ラグスクリューボルト321)によって、上部構造材105に締結されている。取付片202b,202cは、中間プレート211の左方と右方とにおいて、基部202aから下方に延びている。取付片202b,202cは、一対の外側プレート214,215の、一対の粘弾性体212,213から左方および右方に延びた部位にそれぞれ取付けられている。取付片202b,202cと、一対の外側プレート214,215との間には、スペーサ(図示省略)が取り付けられている。このスペーサによって、一対の外側プレート214,215の間隔が維持されている。一対の外側プレート214,215と取付片202b,202cとは、スペーサを介在させた状態で、ボルトナット301によって締結されている。
【0020】
《下側伝達部材203》
下側伝達部材203は、下部構造材102の上に配置され、かつ、制震ユニット201に取り付けられている。さらに下側伝達部材203は、アンカーボルト111,112に挿通される挿通孔203d4(
図2参照)を有しており、アンカーボルト111,112に取付けられている。
【0021】
この実施形態では、下側伝達部材203は、取付部203aと、2本のブレース203b,203cと、基部203d,203eとを備えている。取付部203aは、制震ユニット201に取り付けられる部位である。この実施形態では、取付部203aは、
図1および
図3に示すように、2本のブレース203b,203cの上端に設けられている。そして、取付部203aは、制震ユニット201の中間プレート211に設けられた取付プレート211aに取り付けられている。この実施形態では、取付部203aは、ブレース203b,203cの上端および前後に沿うように折り曲げられたプレート状の部材である。取付部203aは、ブレース203b,203cの上端に対向する面203a1と、ブレース203b,203cの上部を前後に挟む面203a2,203a3とを備えている。2本のブレース203b,203cの上端およびブレース203b,203cの前面と後面を覆うように、ブレース203b,203cの上部に重ねられた状態でブレース203b,203cに溶接されている。ブレース203b,203cの上端に対向する面203a1は、左方及び右方に延びている。そして、当該面203a1は、中間プレート211に設けられた取付プレート211aに重ねられて、ボルトナット302によって取付プレート211aに締結されている。
【0022】
《2本のブレース203b,203c》
2本のブレース203b,203cは、取付部203aから下方に延びている。2本のブレース203b,203cは、下方に延びるにつれて、左右に間隔が拡がっている。2本のブレース203b,203cの中間部には、2本のブレース203b,203cの間隔を維持する横桟203fが取り付けられている。基部203d,203eは、下部構造材102に取り付けられる部位であり、2本のブレース203b,203cの下端に設けられている。
【0023】
《基部203d,203e》
図2は、左側の基部203dを拡大した拡大図である。なお、ここでは、
図2を参照しつつ、左側の基部203dを説明するが、右側の基部203eも左側の基部203dと同様の構造を有しており、かつ、同様の構造によって右側のアンカーボルト112に取り付けられている。基部203dは、
図2に示すように、ベース部203d1と、フランジ部203d2,203d3とを備えている。ベース部203d1は、下部構造材102に沿って取り付けられる部位である。フランジ部203d2,203d3は、ベース部203d1の前後両側から立ち上がり、ブレース203bの端部を前後において挟んでいる。この状態で、フランジ部203d2,203d3とブレース203bの端部とは溶接されている。
【0024】
図1に示すように、基部203dは、基礎101に埋設されたアンカーボルト111に取り付けられる。このため、
図2に示すように、基部203dのベース部203d1には、アンカーボルト111を挿通するための挿通孔203d4が設けられている。この実施形態では、挿通孔203d4は、左右に長い長孔である。制震装置200を取り付ける際、基礎101に設けられたアンカーボルト111,112に対して、制震装置200の基部203d,203eの位置が多少ずれる場合がある。この場合でも、挿通孔203d4は、左右に長い長孔にすることによって、アンカーボルト111,112に基部203d,203eを固定することができる。また、この実施形態では、挿通孔203d4の周囲には、ベース部203d1を補強する補強板203d5が取り付けられている。また、ベース部203d1は、他の締結具(
図1および
図2に示された例では、ラグスクリューボルト322)によっても下部構造材102と締結されている。
【0025】
《第1締結部材204、第2締結部材205》
制震装置200は、
図2に示すように、第1締結部材204と、第2締結部材205によって、アンカーボルト111に締結されている。
第1締結部材204は、アンカーボルト111に締結され、かつ、下側伝達部材203の下面(この実施形態では、ベース部203d1の下面)に当たる位置に配置されている。第2締結部材205は、挿通孔203d4に挿通されたアンカーボルト111に締結され、下側伝達部材203の上面(この実施形態では、基部203dのベース部203d1の上面)に当たる位置に配置されている。つまり、下側伝達部材203の下面において、第1締結部材204が当たる部位では、下側伝達部材203の上面に第2締結部材205が配置されている。
【0026】
第1締結部材204は、具体的には、アンカーボルト111に装着されうるナットで構成されているとよい。また、好適には、第1締結部材204に、つば付きナットを採用してもよい。つば付きナットは、フランジナットなどとも称される。第1締結部材204につば付きナットを採用する場合には、下側伝達部材203の下面につばが向くように、アンカーボルト111に取り付けるとよい。つまり、第1締結部材204は、下側伝達部材203の下面に当たる面に径方向に延びたつばを有しているとよい。この場合、第1締結部材204は、既存のつば付きナットに必ずしも限定されない。例えば、つばは周方向に間欠的に設けられていてもよい。また、第1締結部材204と下側伝達部材203の下面との間に径方向に所要の面積を有するワッシャを取り付けてもよい。また、第1締結部材204としてワッシャとつば付きナットとを組み合わせて用いてもよい。このようにつば付きナットを採用した場合やワッシャを取り付けた場合、第1締結部材204が下側伝達部材203の下面に当たる面積が広くなる。また、第2締結部材205についても、アンカーボルト111に装着されるナットで構成されているとよい。この実施形態では、第2締結部材205には、緩みが防止されるように、2つのナットを重ねた、いわゆるダブルナットが採用されている。第2締結部材205はダブルナットに限定されず、緩み止め機能を備えた種々のナット(いわゆる緩み止めナット)を採用することが好ましい。
【0027】
このように、ここで提案される制震装置200は、第1締結部材204と、第2締結部材205とを備えている。第1締結部材204は、アンカーボルト111,112に締結される締結部(ナットでは、ねじ溝部分)を有し、かつ、下側伝達部材203の下面に当たる位置に配置される部材であるとよい。第2締結部材205は、アンカーボルト111,112に締結される締結部(ナットでは、ねじ溝部分)を有し、かつ、下側伝達部材203の上面に当たる位置に配置される部材であるとよい。
【0028】
大きな地震などで、上部構造材105と下部構造材102との相対的な水平方向の変位を伴うような揺れが、建物100に作用した場合に、この制震装置200は、上部構造材105と下部構造材102との水平方向の相対的な変位に応じて、上側伝達部材202と下側伝達部材203との水平方向の相対的な変位が生じる。この際、制震装置200の下側伝達部材203は、上方に引っ張られるように力を受けたり、下方に押し付けられるように力を受けたりする。
【0029】
この制震装置200によれば、上述したようにアンカーボルト111に取り付けられた第1締結部材204が下側伝達部材203の下面に配置されている。さらに、下側伝達部材203の上面には、アンカーボルト111に取り付けられた第2締結部材205が配置されている。制震装置200の下側伝達部材203が上方に引っ張られるように力を受ける場合には、アンカーボルト111に取り付けられた第2締結部材205によって下側伝達部材203の上面が押さえられる。この場合、アンカーボルト111の引っ張り力を受けるので、下側伝達部材203は上方に引き上げられない。また、制震装置200の下側伝達部材203が下方に押し付けられるように力を受ける場合には、アンカーボルト111に取り付けられた第1締結部材204によって下側伝達部材203の下面が支持される。この場合、アンカーボルト111が圧縮力を受けつつ下側伝達部材203を支持するので、下側伝達部材203は上方に引き上げられない。
【0030】
特に、第1締結部材204によって、下側伝達部材203が下方に押し下げられるのを小さく抑えられるので、下側伝達部材203が下部構造材102に大きくめり込むなど下部構造材102を大きく傷付けるのを防止できる。また、かかる制震装置200が取り付けられた建物100は、第1締結部材204と第2締結部材205の作用によって、下側伝達部材203が上方に引っ張られたり、下方に押し下げられたりするのが小さく抑えられる。そして、制震ユニット201に適切な変位が伝達される。このため、制震ユニット201がより適切に機能するので、地震時の振動が小さく抑えられる。
【0031】
この制震装置200は、下部構造材102の上に配置される下側伝達部材203の下面に第1締結部材204を取り付けるため、下部構造材102の上面には、アンカーボルト111,112が挿通される部位に、少なくとも第1締結部材204が配置可能な窪み(穴)を設ける必要がある。なお、当該穴は第1締結部材204を上下に貫通していてもよい。このような制震装置200は、多くの場合において、下部構造材102や建物100の複数の柱103,104や上部構造材105が取り付けられた後で、建物100に取り付けられる。制震装置200を建物100に取り付ける際、下部構造材102にはアンカーボルト111の外径に応じた貫通孔が形成されているが、第1締結部材204を下側伝達部材203の下面に配置するための窪みが、下部構造材102に形成されていない場合もありうる。例えば、既設の建物を改修して、制震装置200を取り付ける場合には、下部構造材102には、アンカーボルト111の外径に応じた貫通孔が形成されているが、第1締結部材204を下側伝達部材203の下面に配置するための窪みはない。
【0032】
この制震装置200によれば、アンカーボルト111,112が挿通された下部構造材102の挿通孔の周りに第1締結部材204を埋め込むための所要の深さの窪み(穴)を形成するとよい。このような窪みは、下部構造材102の上面を露出させた状態で、例えば、蚤のような工具によって加工できる。このため、現場にて、比較的容易に加工できる。このような点で、この制震装置200は、新設および既設の建物100に対して取り付け易い。また、第1締結部材204は、下側伝達部材203を取り付ける前に、アンカーボルト111,112に取り付けるとよい。
【0033】
この際、第1締結部材204の上面を、下部構造材102の上面に高さを合わせるとよい。第1締結部材204がナットである場合、第1締結部材204の上面は、下部構造材102の上面よりも少し高い位置に合わせておいてもよい。この場合、第1締結部材204を取り付けた後で、アンカーボルト111,112に第2締結部材205を取り付け、第2締結部材205を締め付けるとよい。これによって、第1締結部材204は、下側伝達部材203の下面に当たった位置で、かつ、下部構造材102の上面に第1締結部材204の上面の高さが合った位置に調整される。また、第2締結部材205が、緩み止めナットであることによって、第1締結部材204と第2締結部材205とによって下側伝達部材203がアンカーボルト111,112に固定された状態が維持され、信頼性が向上する。
【0034】
以上、ここで提案される建物および制震装置について、種々説明したが、ここで提案される建物および制震装置は、特に言及されない限りにおいて、上述した実施形態に限定されない。
【0035】
例えば、制震装置200の具体的な構造は、種々変更ができる。また、制震装置の構成要素である制震ユニット201には、粘弾性体212,213を一対のプレート(上述した実施形態では、中間プレート211と、外側プレート214,215)で挟み、一方のプレート214,215を上側伝達部材202に取り付け、他方のプレート211を下側伝達部材203に取り付けた構造が例示されている。制震ユニット201は、特に言及されない限りにおいて、このような構造に限定されない。また、この制震装置200には、
図1に示すように、間柱401や矩形の枠組みの外にブレースが座屈するのを押さえる押さえ材402が適宜に取り付けられてもよい。