特許第6866595号(P6866595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6866595-シンチレータの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866595
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】シンチレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/00 20060101AFI20210419BHJP
   G21K 4/00 20060101ALI20210419BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   C09K11/00 E
   G21K4/00 B
   C09K11/61
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-187974(P2016-187974)
(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公開番号】特開2018-53016(P2018-53016A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 典明
(72)【発明者】
【氏名】礒田 圭
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−084471(JP,A)
【文献】 特許第4821721(JP,B2)
【文献】 特開平08−231952(JP,A)
【文献】 特開2005−171078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00
C09K 11/61
G21K 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化セシウムを含むシンチレータの製造方法において、
シンチレータの表面のセシウムとヨウ素との原子数比(I/(Cs+I))が、0.480〜0.520を満たすように、
蛍光体原料調製時に、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種を添加する工程を含む、シンチレータの製造方法。
【請求項2】
シンチレータを水に溶解させて得られる35質量%シンチレータ水溶液の25℃におけるpHが、4.5〜8.0の範囲内である、請求項1に記載のシンチレータの製造方法。
【請求項3】
シンチレータ中にタリウム原子を含む、請求項1または2に記載のシンチレータの製造方法。
【請求項4】
シンチレータ中のタリウム原子の含有量が、シンチレータに含まれる金属原子100mol%中、0.05〜1.5mol%の範囲内である、請求項3に記載のシンチレータの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場においてX線画像等の放射線画像は病状の診断に広く用いられている。前記放射線画像の撮影は、ヒト等の被験体に所定量の線量の放射線を照射し、被験体を通過した放射線を放射線画像変換装置により可視画像に変換して行われる。
【0003】
前記放射線画像変換装置は、放射線画像を可視画像に変換するシンチレータを備えており、前記シンチレータは、ヨウ化セシウム等を含有する蛍光体からなる。被験体を通過した放射線がシンチレータに達すると蛍光に変換され、この蛍光を受光素子で受光することにより前記可視画像が形成される。
【0004】
放射線画像変換装置やシンチレータの例として、例えば、特許文献1には、蛍光体原料および蛍光体層のpHを所定の範囲内とする放射線画像変換パネルの製造方法が開示されている。また、特許文献2には、蛍光体原料中のセシウムとヨウ素との比が特定の範囲内であるシンチレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4821721号公報
【特許文献2】特開2009−84471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シンチレータには、画像ブレを防ぎ、解像度を向上させるため、残光の低減が求められている。しかしながら、本発明者らは、蛍光体原料として使用するCsI等の製造会社およびロット等の違いによって、製造したシンチレータの残光特性に違いが生じることを発見した。
そこで本発明は、残光特性に優れたシンチレータの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、以下の構成を有するシンチレータの製造方法により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、例えば以下の[1]〜[5]である。
【0008】
[1]金属ヨウ化物を含むシンチレータの製造方法において、シンチレータの表面の前記金属とヨウ素との原子数比(I/(M+I);前記式中、Mは前記金属を表す)が、0.480〜0.520を満たすように、蛍光体原料調製時に、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種を添加する工程を含む、シンチレータの製造方法。
【0009】
[2]シンチレータを水に溶解させて得られる35質量%シンチレータ水溶液の25℃におけるpHが、4.5〜8.0の範囲内である、[1]に記載のシンチレータの製造方法。
【0010】
[3]シンチレータ中にタリウム原子を含む、[1]または[2]に記載のシンチレータの製造方法。
【0011】
[4]シンチレータ中のタリウム原子の含有量が、シンチレータに含まれる金属原子100mol%中、0.05〜1.5mol%の範囲内である、[3]に記載のシンチレータの製造方法。
【0012】
[5]前記金属ヨウ化物が、ヨウ化セシウムを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載のシンチレータの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、残光特性に優れたシンチレータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、シンチレータの蒸着装置の例を示す概念図である。
図2図2は、実施例および比較例で製造したシンチレータの原子数比と、残光または輝度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のシンチレータの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)について詳細に説明する。
<シンチレータの製造方法>
本発明の製造方法は、金属ヨウ化物を含むシンチレータの製造方法に関する。また、本発明の製造方法は、シンチレータの表面の前記金属とヨウ素との原子数比(I/(M+I);前記式中、Mは前記金属を表す)が0.480〜0.520を満たすように、蛍光体原料調製時に、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種を添加する工程を含む。
本発明の製造方法は、以下に説明する、蛍光体原料を調製する工程(1)と前記蛍光体原料からシンチレータを製造する工程(2)とを含むことが好ましい。
【0016】
〔蛍光体原料を調製する工程(1)〕
本明細書において、蛍光体原料とは、後述する工程(2)により、例えば蒸着や焼成をすることによってシンチレータを製造することができる原料をいう。
【0017】
本発明の製造方法によって得られるシンチレータは金属ヨウ化物を含むことから、蛍光体原料中に金属ヨウ化物を含むことが好ましい。
前記金属ヨウ化物としては、例えば、下記式(i)で表される蛍光体が挙げられる。
式(i):MIX・aMIIX'2・bMIIIX''3:zA
【0018】
上記式(i)において、MIは1価の陽イオンになり得る元素、すなわち、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、タリウム(Tl)および銀(Ag)などからなる群より選択される少なくとも1種を表す。
【0019】
IIは2価の陽イオンになり得る元素、すなわち、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびカドミウム(Cd)などからなる群より選択される少なくとも1種を表す。
【0020】
IIIは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)およびランタノイドに属する元素からなる群より選択される少なくとも1種を表す。
【0021】
X、X'およびX''は、それぞれハロゲン元素を表し、X、X'およびX''のうち少なくとも1種はヨウ素である。X、X'およびX''は、それぞれが異なる元素であっても、同じ元素であってもよい。
【0022】
Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag(銀)、TlおよびBi(ビスマス)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。
【0023】
a、bおよびzはそれぞれ独立に、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0≦z<1.0の範囲内の数値を表す。
なお、上記式(i)におけるAは、賦活剤を表す。賦活剤は、Aのハロゲン化物として添加してもよい。Aのヨウ化物として添加した場合は、Aのヨウ化物は、金属ヨウ化物に該当する。
【0024】
前記金属ヨウ化物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
金属ヨウ化物としては、高輝度及び耐吸湿性の観点からヨウ化セシウム(CsI)を含むことが好ましい。
【0025】
蛍光体原料は、タリウム原子を含むことが好ましい。タリウム原子は、賦活剤として働くことができる。タリウム原子は、TlIとして蛍光体原料中に含まれることが好ましい。
【0026】
タリウム原子は、蛍光体原料から製造されるシンチレータ中のタリウム原子の含有量が、シンチレータに含まれる金属原子100mol%中、0.05〜1.5mol%の範囲内となるように、蛍光体原料中に配合することが好ましい。タリウム原子の含有量が前記範囲内であると、残像が抑制されたシンチレータを製造することができる。
【0027】
蛍光体原料は、前記金属ヨウ化物等以外にさらに他の蛍光体を含んでもよい。他の蛍光体としては、X線などの放射線を可視光などの異なる波長に変換することが可能な物質を適宜使用することができる。具体的には、「蛍光体ハンドブック」(蛍光体同学会編・オーム社・1987年)の284頁から299頁に至る箇所に記載されたシンチレータおよび蛍光体や、米国Lawrence Berkeley National LaboratoryのWebホームページ「Scintillation Properties(http://scintillator.lbl.gov/)」に記載の物質などが考えられるが、ここに指摘されていない物質でも、「X線などの放射線を可視光などの異なる波長に変換することが可能な物質」であれば、蛍光体として用いることができる。
【0028】
本発明の製造方法は、蛍光体原料調製時に、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種を添加する工程を含む。なお、前記酸化剤は、ヨウ素化合物以外の酸化剤であり、前記還元剤は、ヨウ素化合物以外の還元剤である。
【0029】
ヨウ素化合物としては、例えば、HI(ヨウ化水素)、I2、HIO3、I25が挙げられ、中でも、HIが好ましい。
酸化剤としては、例えば、H22、HClO3、O2ガスが挙げられる。
【0030】
還元剤としては、例えば、N24(ヒドラジン)、HCOOH、H2S、H2ガスが挙げられ、中でも、N24が好ましい。
ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤は、それぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0031】
ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤は、溶液の状態で添加してもよい。前記溶液の状態にするための溶媒としては、例えば、水が挙げられる。
蛍光体原料の調製方法としては、蛍光体原料調製時に、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種を系中に添加する工程を経ていれば特に制限されないが、具体的には、例えば、金属を含む溶液とヨウ素化合物と混合する方法、金属ヨウ化物を含む溶液と、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種とを混合する方法が挙げられる。
【0032】
まず、金属を含む溶液とヨウ素化合物とを混合する方法について説明する。
前記金属は、前述の金属ヨウ化物に含まれる金属であることが好ましく、具体的には、前記式(i)においてMI、MII、MIII、Aで表される金属等が挙げられる。前記金属は、炭酸塩、水酸化物塩等として用いてもよい。金属を含む溶液に使用される溶媒は、水であることが好ましい。
【0033】
ヨウ素化合物としては、例えば、前述の化合物が挙げられる。ヨウ素化合物は、溶媒と混合し、溶液の状態で用いてもよい。
系中で金属を含む溶液とヨウ素化合物とを混合することにより、蛍光体原料中に金属ヨウ化物を含有させることができる。なお、金属を含む溶液とヨウ素化合物とはどちらを先に系中に添加してもよく、金属を含む溶液中にヨウ素化合物を添加して混合してもよく、ヨウ素化合物を含む系中に金属を含む溶液を添加して混合してもよく、金属を含む溶液とヨウ素化合物とを同時に系中に添加してもよい。また、金属を含む溶液およびヨウ素化合物に加え、さらに、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種を混合することが好ましく、金属を含む溶液とヨウ素化合物と還元剤とを混合することがより好ましい。
【0034】
金属を含む溶液中の金属、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤のそれぞれの配合量は、蛍光体原料からシンチレータを製造した際に、製造したシンチレータの表面の金属(金属ヨウ化物の金属)とヨウ素との原子数比(I/(M+I);前記式中、Mは前記金属を表す)が、0.480〜0.520を満たすように調整する。前記原子数比の測定方法等については、<シンチレータ>の欄で後述する。
【0035】
前記金属に対するヨウ素化合物の配合量を増加させると、蛍光体原料中のヨウ素の配合量が増加するため、シンチレータ表面の金属に対するヨウ素との原子数比を増加させることができる。反対に、前記金属に対するヨウ素化合物の配合量を減少させると、蛍光体原料中のヨウ素の配合量が減少するため、シンチレータ表面の金属に対するヨウ素との原子数比を減少させることができる。
【0036】
酸化剤、還元剤を配合することによって、シンチレータ表面の金属とヨウ素との原子数比を調整することができる理由は、以下の通りであると推測する。酸化剤や還元剤を配合することによって、ヨウ素を、I-、I3-、IO3-等の状態に変化させることができる。I3-、IO3-等を含む化合物、特にCsI3およびCsIO3は不安定であり、加熱によってI2が遊離し易いと考えられる。このため、蛍光体原料中にCsI3、CsIO3等を含むと、シンチレータを製造する際に、蒸着、焼成等によって加熱されることにより、I2が遊離し、製造したシンチレータの表面の金属に対するヨウ素の原子数比を減少させることができる。なお、I2の遊離は、加熱後のシンチレータの質量が、加熱前のシンチレータの質量と比較して減少していることから推測している。このため、酸化剤や還元剤の配合量を調整することによって、蛍光体原料中のI-と、I3-およびIO3-との配合比を調整することができ、その結果、シンチレータ表面の金属とヨウ素との原子数比を調整することができると考えられる。
【0037】
蛍光体原料の調製方法のうち、前記金属を含む溶液とヨウ素化合物とを混合する方法として、具体的には、金属を含む溶液とヨウ素化合物とを混合し、その後、還元剤を添加して混合する方法が好ましい。
【0038】
金属を含む溶液とヨウ素化合物とを混合して、その後、還元剤を添加して混合する場合において、金属を含む溶液とヨウ素化合物とを混合する際、金属を含む溶液は塩基性、ヨウ素化合物は酸性であることが多いことから、それぞれの配合量は、混合後の溶液のpHを目安にして調整することができる。金属を含む溶液とヨウ素化合物とは、混合後の溶液の25℃におけるpHが、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4となる配合量で混合する。なお、このとき、金属を含む溶液とヨウ素化合物とを混合した後の溶液に含まれる金属ヨウ化物の濃度は、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは30〜50質量%である。前記混合後の溶液のpHが前記下限値以上であると、蛍光体原料中のヨウ素量が過剰になりすぎず、I2の析出等を抑制することができるため、シンチレータの表面の金属とヨウ素との原子数比を適切な範囲内に調整することができ、シンチレータの輝度および残光特性を向上させることができる。
【0039】
その後、還元剤を添加する際、還元剤は塩基性であることが多いことから、還元剤の配合量は、上記で調製した金属を含む溶液およびヨウ素化合物の混合溶液と、還元剤との混合後の溶液のpHを目安にして調整することができる。還元剤は、前記混合後の溶液の25℃におけるpHが、好ましくは4〜10、より好ましくは4〜8、さらに好ましくは4〜6となる配合量で混合する。なお、このとき、前記混合後の溶液に含まれる金属ヨウ化物の濃度は、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%である。前記混合後の溶液のpHが前記上限値以下であると、還元剤の添加量が多すぎるといったことがなく、例えば、還元剤としてヒドラジンを用いた際には窒化物など、還元剤に由来する不純物の生成を抑制することができるため、シンチレータの残光および輝度特性を向上させることができる。
【0040】
次に、金属ヨウ化物を含む溶液と、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種とを混合する方法について説明する。
金属ヨウ化物を含む溶液とは、原料に金属ヨウ化物を用い、前記金属ヨウ化物を溶媒に溶解した溶液であってもよく、原料に金属ヨウ化物を含むシンチレータを用い、前記シンチレータを溶媒に溶解した溶液であってもよい。前記金属ヨウ化物としては、例えば、市販されている金属ヨウ化物が挙げられる。前記溶液に用いる溶媒としては、例えば、水が挙げられる。なお、金属ヨウ化物を含む溶液として、シンチレータを溶媒に溶解した溶液を用いる際には、シンチレータを溶媒に溶解した後、不溶物をろ過等で取り除いてから用いることが好ましい。本発明では、金属とヨウ素との比率が様々である金属ヨウ化物を原料に用いた場合においても、その後、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種を添加することにより、シンチレータの表面に含まれる前記金属とヨウ素との原子数比を調整することができる。
【0041】
金属ヨウ化物を含む溶液と、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種とはどちらを先に系中に添加してもよい。
ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤等の配合量によって、シンチレータの表面の金属とヨウ素との原子数比を調整することができる理由は、上述のとおりである。
【0042】
金属ヨウ化物を含む溶液と、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種とを混合する方法として、具体的には、金属ヨウ化物を含む溶液とヨウ素化合物とを混合し、その後、還元剤を混合する方法が好ましい。
【0043】
金属ヨウ化物を含む溶液とヨウ素化合物とを混合する場合において、金属ヨウ化物を含む溶液とヨウ素化合物とは、残光及び輝度特性の観点から、混合後の溶液の25℃におけるpHが、好ましくは2〜8、より好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4となる配合量で混合する。このとき、前記混合後の溶液に含まれる金属ヨウ化物の濃度は、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
【0044】
その後、還元剤を混合する際、還元剤の配合量は、残光及び輝度特性の観点から、上記で調製した金属ヨウ化物を含む溶液およびヨウ素化合物の混合溶液と、還元剤との混合後の溶液の25℃におけるpHが、好ましくは4〜10、より好ましくは4〜8、さらに好ましくは4〜6となる配合量で混合する。このとき、前記混合後の溶液に含まれる金属ヨウ化物の濃度は、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
【0045】
上述のように、「金属を含む溶液とヨウ素化合物とを混合する方法」、「金属ヨウ化物を含む溶液と、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種とを混合する方法」等で蛍光体原料を含む溶液を調製した後、溶媒の種類、量等により大きく異なるが、好ましくは30〜150℃、より好ましくは70〜120℃で、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは3〜8時間乾燥させることが好ましい。
【0046】
蛍光体原料は、蛍光体原料の一部を上記の方法で調製した後、さらに他の成分を追加することで調製してもよい。つまり、例えば、ヨウ化セシウム粒子を、「金属を含む溶液とヨウ素化合物と混合する方法」、「金属ヨウ化物を含む溶液と、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種とを混合する方法」等で製造し、乾燥させた後に、タリウム原子を含む化合物を添加して、蛍光体原料を調製してもよい。
【0047】
〔蛍光体原料からシンチレータを製造する工程(2)〕
工程(2)では、上述のようにして得られた蛍光体原料を用いて、シンチレータを製造する。シンチレータの製造方法としては、例えば、以下で説明する、焼成、蒸着が挙げられる。
【0048】
〈焼成〉
蛍光体原料を、例えば、石英ルツボまたはアルミナルツボ等の耐熱性容器に充填して、電気炉中で焼成を行うことによりシンチレータを製造することができる。
【0049】
焼成温度は、好ましくは200〜1000℃である。焼成時間は、蛍光体原料の充填量、焼成温度等によって異なるが、一般には0.5〜6時間が好ましい。
焼成雰囲気としては、少量の水素ガスを含む窒素ガス雰囲気、少量の一酸化炭素を含む炭酸ガス雰囲気等の弱還元性雰囲気;窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の中性雰囲気;少量の酸素ガスを含む弱酸化性雰囲気が好ましい。
【0050】
なお、前記の焼成条件で一度焼成した後、焼成物を電気炉から取り出して粉砕し、その後、焼成物粉末を再び耐熱性容器に充填して電気炉に入れ、前記と同じ焼成条件で再焼成を行ってもよい。
【0051】
また、焼成物を焼成温度から室温に冷却する際、焼成物を電気炉から取り出して空気中で放冷することによっても所望のシンチレータを得ることができるが、焼成時と同じ、弱還元性雰囲気、中性雰囲気、弱酸化性雰囲気等のままで冷却してもよい。また、焼成物を電気炉内で加熱部から冷却部へ移動させて、弱還元性雰囲気、中性雰囲気、もしくは弱酸化性雰囲気で急冷してもよい。
【0052】
〈蒸着〉
シンチレータは、例えば、公知の蒸着装置を用いて製造することができる。
図1に本発明で使用することが可能な公知の蒸着装置の例を示す。
図1において蒸着装置25は、真空ポンプ29を有する真空容器21内に基板(図示なし)を保持する支持体16を有し、この支持体は回転軸28でモータ(図示なし)に軸着されている。
【0053】
支持体16の下方には蒸着源22a、22b、22c等が配置されており、それぞれの蒸着源には加熱手段(図示なし)が配置されている。蒸着源22a、22b、22c等には、蛍光体原料(例えば、ヨウ化セシウムを含む原料、タリウムを含む原料等)を保持し、加熱することにより保持された成分が基板に蒸着可能に形成されている。
【0054】
蒸着源22a、22b、22c等と基板との間にはシャッター30a、30b、30cが設けられており、蒸着源からの蒸着物質の蒸着量を調整可能に形成されている。なお、図1には、蒸着源およびシャッターはそれぞれa、b、cの3つが記載されているが、蒸着源およびシャッターの数は特に制限されない。
【0055】
シンチレータは、上記のような蒸着装置を用いて、例えばシャッターの開閉により蒸着源の蒸着量を調整して形成することができる。
蒸着によってシンチレータを製造する方法は、具体的には、以下のとおりである。
【0056】
まず、蛍光体原料を抵抗加熱ルツボに充填し、蒸着源とする。支持体を蒸着装置に設置し、支持体と蒸着源との間隔を、好ましくは200〜1000mmに調節する。前記支持体としては、例えば、ポリイミドフィルムが挙げられ、支持体の厚さは、好ましくは50〜500μmである。
【0057】
次に、蒸着装置の真空容器内部にある空気を排気し、Arガス等のガスを導入して蒸着装置の真空容器内における真空度を、好ましくは1×10-5Pa〜1.0Pa(絶対圧)に調節し、好ましくは2〜15rpmの速度で支持体を回転させる。
【0058】
その後、支持体の温度を、好ましくは150〜250℃とし、抵抗加熱ルツボを加熱し蒸着を開始する。支持体の中心部膜厚が好ましくは100〜1000μmとなった時点で蒸着を終了することによって、支持体上にシンチレータを製造することができる。
【0059】
<シンチレータ>
上記のようにして製造されたシンチレータは、シンチレータの表面の金属(金属ヨウ化物の金属)とヨウ素との原子数比(I/(M+I);前記式中、Mは前記金属を表す)が、0.480〜0.520、好ましくは0.490〜0.520、より好ましくは0.500〜0.520である。シンチレータ中の金属原子とヨウ素原子との原子数比が前記範囲内であると、シンチレータは、輝度および残光特性に優れる。前記原子数比は、例えば、X線光電子分光表面分析装置を用いて測定することができる。前記「シンチレータの表面」とは、シンチレータの最表面だけでなく、例えば、X線光電子分光表面分析装置を用いて測定を行った際にはその測定範囲も含まれる。具体的には、「シンチレータの表面」とは、シンチレータの最表面から8nm以下の範囲のことをいう。
【0060】
また、本発明の製造方法で得られるシンチレータは、シンチレータを水に溶解させて得られる35質量%シンチレータ水溶液の25℃におけるpHが、好ましくは4.5〜8.0、より好ましくは5.2〜7.6の範囲内である。シンチレータ水溶液の25℃におけるpHが前記範囲内であると、シンチレータは、残光特性が良好となるため好ましい。特に、シンチレータ水溶液の25℃におけるpHが前記上限値以下であると、シンチレータが灰色化して発光量が著しく低下するといった現象が生じ難くなるため好ましい。
【0061】
また、本発明の製造方法で得られたシンチレータは、金属ヨウ化物を含む。前記金属ヨウ化物は、高輝度および耐吸湿性の観点からヨウ化セシウムを含んでいることが好ましい。
【0062】
前記シンチレータは、さらにタリウム原子を含んでいることが好ましい。シンチレータ中のタリウム原子の含有量は、シンチレータに含まれる金属原子100mol%中、好ましくは0.05〜1.5mol%、より好ましくは0.1〜1.0mol%の範囲内である。前記範囲内でタリウム原子を含むことにより、シンチレータは、輝度、解像度、残像特性等の総合的な特性を良好にすることができる。シンチレータ中のタリウム原子の含有量は、例えば、ICP(誘導結合プラズマ)を用いて測定することができる。
【0063】
本発明の製造方法は、シンチレータの表面の前記金属とヨウ素との原子数比が特定の範囲内となるように、蛍光体原料調製時に、ヨウ素化合物、酸化剤および還元剤から選ばれる少なくとも一種を添加する工程を含む。このため、本発明の製造方法で得られるシンチレータは、残光特性に優れる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0065】
[実施例1]
〈CsI粒子の製造〉
50質量%濃度のCs2CO3水溶液、50質量%濃度のCsOH水溶液、および、55質量%濃度のHI水溶液を、混合後の水溶液の25℃でのpHが2となるよう、それぞれCs2CO3水溶液18.0部、CsOH水溶液35.9部、HI水溶液44.3部の割合で混合した。その後、前記混合後の水溶液に、25℃でのpHが8になるように、10質量%濃度のN24を1.80部添加した。
【0066】
24添加後の水溶液を、70℃で8時間撹拌しながら乾燥させ、LMS(レーザー回析・散乱式粒度分布測定機)で測定した平均粒子径(d50)が約200μmのCsI粒子を得た。
【0067】
〈シンチレータの製造〉
前記CsI粒子9.96gおよびTlI粉末0.038gをそれぞれ秤量し、相対湿度30%の環境下で混合し蛍光体原料を製造した。次に、前記蛍光体原料を、石英セルを用いてN2ガス導入下でロータリーキルンに導入した。導入後、前記蛍光体原料を400℃で2時間加熱焼成した。焼成後の蛍光体原料を所定量アクリルケースに充填し、防湿性保護フィルムを用いて覆い、減圧下で前記防湿生保護フィルムの周辺部をインパルスシーラーにより融着して、封止することにより、シンチレータを製造した。製造したシンチレータ中のタリウム原子の含有量は、シンチレータに含まれる金属原子100mol%中、0.3mol%であった。なお、前記タリウム原子の含有量は、エスアイアイナノテクノロジー社製のICP(誘導結合プラズマ)を用いて測定しており、蛍光体原料中に配合したタリウム原子の配合量と同じであった。
【0068】
[実施例2]
CsI粒子の製造において、50質量%濃度のCs2CO3水溶液、50質量%濃度のCsOH水溶液、および、55質量%濃度のHI水溶液を、混合後の水溶液の25℃でのpHが4となるよう、表1に記載の割合で混合し、その後、前記混合後の水溶液に、25℃でのpHが8になるように、10質量%濃度のN24を表1に記載の割合で添加したこと以外は、実施例1と同様にして、CsI粒子を製造し、このCsI粒子を用いてシンチレータを製造した。
【0069】
[実施例3〜6]
CsI粒子として、市販されているCsI粒子(A)(平均粒子径(d50)200〜400μm)を使用して、30質量%濃度のCsI水溶液を調製した。CsI粒子の製造において、前記30質量%濃度のCsI水溶液および55質量%濃度のHI水溶液を、混合後の水溶液の25℃でのpHが表1に記載の値となるよう表1に記載の割合で混合し、その後、前記混合後の水溶液に、25℃でのpHが表1に記載の値になるように、10質量%濃度のN24水溶液を添加したこと以外は、実施例1と同様にしてCsI粒子を製造し、このCsI粒子を用いてシンチレータを製造した。
【0070】
[比較例1]
CsI粒子の製造において、実施例3〜6で調製した30質量%濃度のCsI水溶液および、55質量%濃度のHI水溶液を、混合後の水溶液の25℃でのpHが表1に記載の値となるよう混合し、その後、N24水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、シンチレータを製造した。
【0071】
[比較例2]
CsI粒子として、実施例3〜6で使用したものと同じCsI粒子(A)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シンチレータを製造した。
【0072】
[比較例3]
CsI粒子として、市販されているCsI粒子(B)(平均粒子径(d50)100〜400μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シンチレータを製造した。
【0073】
〔評価〕
〈原子数比(I/(Cs+I))〉
Vacuum Generators社製のX線光電子分光表面分析装置を用いて、シンチレータの最表面から8nm以下の範囲の原子数比(I/(Cs+I))を測定した。
【0074】
〈pH〉
実施例等で製造したシンチレータを水に溶解させ、35質量%のシンチレータ水溶液を調製し、調製から5分後のシンチレータ水溶液の25℃でのpHを測定した。
【0075】
〈残光〉
シンチレータに管電圧80kVpのバルスX線を照射し、フォトダイオード(浜松ホトニクス社製、S2281−01)に流れる電圧値を測定した。
X線照射後の最大電圧値を示した時間から、33msec後の電圧値を残光として評価した。なお、表1に記載の値は、最大電圧値に対する33msec後の電圧値である。
【0076】
〈輝度〉
シンチレータに管電圧80kVpのX線を照射し、フォトダイオード(浜松ホトニクス社製、S2281−01)に流れる電圧値を測定した。最大電圧値を輝度とした。
原子数比と、残光または輝度との関係を図2に示す。シンチレータの原子数比(I/(Cs+I))が本発明の範囲内である0.480〜0.520の場合、残光が少なく、また、輝度に優れていることが分かる。
【0077】
【表1】
【符号の説明】
【0078】
3 シンチレータ
16 支持体
21 真空容器
22a,22b,22c 蒸着源
25 蒸着装置
26 支持体ホルダー
27 支持体回転機構
28 支持体回転軸
29 真空ポンプ
30a,30b,30c シャッター
図1
図2