(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態にかかる頭外定位処理の概要について説明する。本実施形態にかかる頭外定位処理は、個人の空間音響伝達特性(空間音響伝達関数ともいう)と外耳道伝達特性(外耳道伝達関数ともいう)を用いて頭外定位処理を行うものである。本実施形態では、スピーカから聴取者の耳までの空間音響伝達特性、及びヘッドホンを装着した状態での外耳道伝達特性の逆特性を用いて頭外定位処理を実現している。
【0016】
本実施の形態では、ヘッドホン装着状態でのヘッドホンスピーカユニットから外耳道入口までの特性である外耳道伝達特性が利用されている。そして、外耳道伝達特性の逆特性(外耳道補正関数ともいう)を用いて畳み込み処理を行うことで、外耳道伝達特性をキャンセルする。
【0017】
本実施の形態にかかる頭外定位処理装置は、パーソナルコンピュータ、スマートホン、タブレットPCなどの情報処理装置を有しており、プロセッサ等の処理手段、メモリやハードディスクなどの記憶手段、液晶モニタ等の表示手段、タッチパネル、ボタン、キーボード、マウスなどの入力手段、ヘッドホン又はイヤホンを有する出力手段を備えている。以下の実施形態では、頭外定位処理装置が、スマートホンであるものとして説明を行う。より具体的には、スマートホンのプロセッサは、頭外定位処理を行うためのアプリケーションプログラム(アプリケーション)を実行することで、頭外定位処理が実施される。このような、アプリケーションプログラムは、インターネット等のネットワークを介して入手可能である。
【0018】
実施の形態1.
(頭外定位処理装置の構成)
本実施の形態にかかる頭外定位処理装置100を
図1に示す。
図1は、頭外定位処理装置100のブロック図である。頭外定位処理装置100は、ヘッドホン45を装着するユーザUに対して音場を再生する。そのため、頭外定位処理装置100は、LchとRchのステレオ入力信号SrcL、SrcRについて、頭外定位処理を行う。LchとRchのステレオ入力信号SrcL、SrcRは、CD(Compact Disc)プレーヤなどから出力されるアナログのオーディオ再生信号または、mp3(MPEG Audio Layer-3)等のデジタルオーディオデータである。なお、頭外定位処理装置100は、物理的に単一な装置に限られるものではなく、一部の処理が異なる装置で行われてもよい。例えば、一部の処理がパソコンやスマートホンなどにより行われ、残りの処理がヘッドホン45に内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)などにより行われてもよい。
【0019】
頭外定位処理装置100は、演算処理部110と、ヘッドホン45とを備えている。演算処理部110は、補正処理部50と、頭外定位処理部10と、フィルタ部41、42と、D/A(Digital to Analog)コンバータ43、44と、音量取得部61と、を備えている。
【0020】
演算処理部110は、メモリに格納されたプログラムを実行することで、補正処理部50、頭外定位処理部10、フィルタ部41、42、音量取得部61における処理を行う。演算処理部110は、スマートホンなどであり、頭外定位処理用のアプリケーションを実行する。なお、D/Aコンバータ43、44は、演算処理部110やヘッドホン45に内蔵されていてもよい。また、演算処理部110と、ヘッドホン45との接続は、有線接続であってもよく、Bluetooth(登録商標)等の無線接続であってもよい。
【0021】
補正処理部50は、加算器51と、比率設定部52と、減算器53、54と、相関判定部56と、を備えている。加算器51は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRに基づいて、ステレオ入力信号SrcL、SrcRの同相信号SrcIpを算出する同相信号算出部である。例えば、加算器51は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRを加算して半分にすることで、同相信号SrcIpを生成する。
【0022】
同相信号は、以下の式(1)で得られる。
SrcIp=(SrcL+SrcR)/2 ・・・(1)
【0023】
図2〜
図4にステレオ入力信号SrcL、SrcR、及び同相信号SrcIpの一例を示す。
図2は、Lchのステレオ入力信号SrcLを示す波形図であり、
図3は、Rchステレオ入力信号SrcRを示す波形図である。
図4は、同相信号SrcIpを示す波形図である。
図2〜
図4において、横軸が時間、縦軸が振幅となっている。
【0024】
補正処理部50は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRの再生音量に基づいて、ステレオ入力信号SrcL、SrcRの同相信号SrcIpの比率を減算し調整することで、ステレオ入力信号SrcL、SrcRを補正する。そのため、比率設定部52は、同相信号SrcIpを減算するための比率(減算比率Amp1と称する)を設定する。減算器53は、設定された減算比率Amp1で、同相信号SrcIpをステレオ入力信号SrcLから減算して、Lchの補正信号SrcL’を生成する。同様に、減算器54は、設定された減算比率Amp1で、同相信号SrcIpをRchのステレオ入力信号SrcRから減算して、Rchの補正信号SrcR’を生成する。
【0025】
補正信号SrcL’、SrcR’は以下の式(2)、式(3)で得られる。なお、Amp1は減算比率であり、0%〜100%の値をとることができる
SrcL’=SrcL−SrcIp*Amp1 ・・・(2)
SrcR’=SrcR−SrcIp*Amp1 ・・・(3)
【0026】
図5、
図6に補正信号SrcL’、SrcR’の一例を示す。
図5は、Lchの補正信号SrcL’を示す波形図である。
図6は、Rchの補正信号SrcR’を示す波形図である。ここでは、減算比率Amp1は50%となっている。このように、減算器53は、減算比率に応じて、ステレオ入力信号SrcL、SrcRから同相信号SrcIpを減算する。
【0027】
比率設定部52は減算比率Amp1を同相信号SrcIpに乗じて、減算器53、54に出力している。比率設定部52は、減算比率Amp1を設定するための係数mを格納している。係数mは、再生音量chVolに応じて設定されている。具体的には、比率設定部52は、係数mと再生音量chVolとが対応付けられている係数テーブルを格納している。比率設定部52は、後述する音量取得部61で取得された再生音量chVolに応じて、係数mを変更する。これにより、再生音量chVolに応じて、適切な減算比率Amp1を設定することができる。
【0028】
また、ステレオ入力信号SrcL、SrcRに同相成分がどれくらい含まれているかを判定するため、ステレオ入力信号SrcL、SrcRは、相関判定部56に入力される。相関判定部56は、Lchのステレオ入力信号SrcLとRchのステレオ入力信号SrcRとの相関を判定する。例えば、相関判定部56は、Lchのステレオ入力信号SrcLとRchのステレオ入力信号SrcRとの相互相関関数を求める。そして、相関判定部56は、相互相関関数に基づいて、相関が高いか否かを判定する。例えば、相関判定部56は、相互相関関数と相関閾値との比較結果に応じて、判定を行う。
【0029】
一般的に、相互相関関数が1(100%)は2つの信号が一致した状態つまり相関がある状態、相互相関関数が0は相関が無い無相関の状態、相互相関関数が−1(−100%)は2つの信号のいずれかの正負を逆転した信号が一致した状態つまり逆相関の状態とされる。ここでは、相互相関関数に相関閾値を設けて、相互相関関数と相関閾値を比較している。相互相関関数が相関閾値以上の場合を相関が高い、相関閾値よりも小さい場合を相関が低い、と定義する。例えば、相関閾値は80%とすることができる。また相関閾値は、必ず正方向の値に設定する。
【0030】
相関が低い場合、補正処理部50による補正処理を行わずに、ステレオ入力信号SrcL、SrcRをそのまま頭外定位処理部10に出力する。すなわち、補正処理部50は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRから同相信号を減算せずに、出力する。したがって、補正信号SrcL’、SrcR’とステレオ入力信号SrcL、SrcRとが一致する。換言すると、式(2)、式(3)のAmp1が0となる。
【0031】
相関が高い場合、補正処理部50は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRから同相信号SrcIpに減算比率Amp1を乗算した信号を減算して、補正信号SrcL’、SrcR’として出力する。すなわち、補正処理部50は、式(2)、式(3)に基づいて、補正信号SrcL’、SrcR’を算出する。これにより、ステレオ入力信号SrcL、SrcRから生成される同相成分の比率が調整されたステレオの補正信号SrcL’、SrcR’が生成される。
【0032】
このように、相関が所定の条件を満たす場合、減算器53、54が減算を行う。そして、畳み込み演算部11、12、21、22は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRから同相信号SrcIpが減算された補正信号SrcL’、SrcR’に対して畳み込み処理を行う。一方、相関が所定の条件を満たさない場合、減算器53、54が減算を行わずに、畳み込み処理部11、12、21、22がステレオ再生信号SrcL、SrcRを補正信号SrcL’、SrcR’として、畳み込み処理を行う。すなわち、畳み込み処理部11、12、21、22は、ステレオ再生信号SrcL、SrcRに対して畳み込み処理を行う。相関としては、例えば相互相関関数を用いることができる。そして、補正処理部50は、相互相関関数と相関閾値との比較結果に応じて、減算処理を行うか否か判定する。
【0033】
頭外定位処理部10は、畳み込み演算部11〜12、畳み込み演算部21〜22、増幅器13、14、増幅器23、24、及び加算器26、27を備えている。畳み込み演算部11〜12、21〜22は、空間音響伝達特性を用いた畳み込み処理を行う。頭外定位処理部10には、補正処理部50からの補正信号SrcL’、SrcR’が入力される。
【0034】
頭外定位処理部10には、空間音響伝達特性が設定されている。頭外定位処理部10は、各chの補正信号SrcL’、SrcR’に対し、空間音響伝達特性を畳み込む。空間音響伝達特性はユーザU本人の頭部や耳介で測定した頭部伝達関数HRTFでもよいし、ダミーヘッドまたは第三者の頭部伝達関数であってもよい。これらの伝達特性は、その場で測定してもよいし、予め用意してもよい。
【0035】
空間音響伝達特性は、スピーカから耳元までの4つの伝達特性で、SpLから左耳までの伝達特性Hls、SpLから右耳までの伝達特性Hlo、SpRから左耳までの伝達特性Hro、SpRから右耳までの伝達特性Hrsを有している。そして、畳み込み演算部11は、Lchの補正信号SrcL’に対して伝達特性Hlsを畳み込む。畳み込み演算部11は、増幅器13を介して畳み込み演算信号を加算器26に出力する。畳み込み演算部21は、Rchの補正信号SrcR’に対して伝達特性Hroを畳み込む。畳み込み演算部21は、増幅器23を介して、畳み込み演算信号を加算器26に出力する。加算器26は2つの畳み込み演算信号を加算して、フィルタ部41に出力する。
【0036】
畳み込み演算部12は、Lchの補正信号SrcL’に対して伝達特性Hloを畳み込む。畳み込み演算部12は、畳み込み演算信号を、増幅器14を介して、加算器27に出力する。畳み込み演算部22は、Rchの補正信号SrcR’に対して伝達特性Hrsを畳み込む。畳み込み演算部22は、畳み込み演算信号を、増幅器24を介して、加算器27に出力する。加算器27は2つの畳み込み演算信号を加算して、フィルタ部42に出力する。
【0037】
なお、増幅器13、14、23、24は、所定の増幅率Amp2で畳み込み演算信号を増幅している。また、増幅器13、14、23、24の増幅率Amp2は同じとなっていてもよく、異なっていてもよい。
【0038】
また、音量取得部61は、増幅器13、14、23、24の増幅率Amp2に応じて、再生中の音量(または再生中の音圧レベル)chVolを取得する。なお、音量chVolを取得する方法は特に限定されるものではない。ユーザが操作したヘッドホン45またはスマートホンの音量(Vol)によって、音量chVolを取得してもよい。あるいは、後述する出力信号outL、outRに基づいて、音量chVolを取得してもよい。音量取得部61は、音量chVolを比率設定部52に出力する。
【0039】
図7を参照して、4つの伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを説明する。
図7は、4つの伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを測定するためのフィルタ生成装置200を示す模式図である。フィルタ生成装置200は、ステレオスピーカ5、及びステレオマイク2を備えている。さらに、フィルタ生成装置200は、処理装置201を備えている。処理装置201は、収音信号をメモリなどに記憶する。処理装置201は、メモリ、及びプロセッサなどを備える演算処理装置であり、具体的には、パーソナルコンピュータなどである。処理装置201は予め格納されたコンピュータプログラムに従って処理を行う。
【0040】
ステレオスピーカ5は、左スピーカ5Lと右スピーカ5Rを備えている。例えば、受聴者1の前方に左スピーカ5Lと右スピーカ5Rが設置されている。左スピーカ5Lと右スピーカ5Rは、スピーカから耳元までの空間音響伝達特性を測定するため、測定信号を出力する。例えば、測定信号はインパルス信号やTSP(Time Streched Pule)信号等でもよい。
【0041】
ステレオマイク2は、左のマイク2Lと右のマイク2Rを有している。左のマイク2Lは、受聴者1の左耳9Lに設置され、右のマイク2Rは、受聴者1の右耳9Rに設置されている。具体的には、左耳9L、右耳9Rの外耳道入口乃至鼓膜位置の任意の位置にマイク2L、2Rを設置することが好ましい。なお、マイク2L、2Rは、外耳道入口から鼓膜までの間ならばどこに配置してもよい。マイク2L、2Rは、ステレオスピーカ5から出力された測定信号を収音して、収音信号を取得する。
【0042】
受聴者1は、頭外定位処理装置100のユーザUと同じ人であってもよく、異なる人であってもよい。受聴者1は、人でもよく、ダミーヘッドでもよい。すなわち、本実施形態において、受聴者1は人だけでなく、ダミーヘッドを含む概念である。
【0043】
上記のように、左右のスピーカ5L、5Rから出力された測定信号をマイク2L、2Rで収音することで空間伝達特性を測定する。処理装置201は、測定した空間伝達特性をメモリに記憶する。これにより、左スピーカ5Lから左マイク2Lまでの間の伝達特性Hls、左スピーカ5Lから右マイク2Rまでの間の伝達特性Hlo、右スピーカ5Lから左マイク2Lまでの間の伝達特性Hro、右スピーカ5Rから右マイク2Rまでの間の伝達特性Hrsが測定される。すなわち、左スピーカ5Lから出力された測定信号を左マイク2Lが収音することで、伝達特性Hlsが取得される。左スピーカ5Lから出力された測定信号を右マイク2Rが収音することで、伝達特性Hloが取得される。右スピーカ5Rから出力された測定信号を左マイク2Lが収音することで、伝達特性Hroが取得される。右スピーカ5Rから出力された測定信号を右マイク2Rが収音することで、伝達特性Hrsが取得される。
【0044】
そして、処理装置201は、収音信号に基づいて、左右のスピーカ5L、5Rから左右のマイク2L、2Rまでの伝達特性Hls〜Hrsに応じたフィルタを生成する。具体的には、処理装置201は、伝達特性Hls〜Hrsを所定のフィルタ長で切り出して、頭外定位処理部10の畳み込み演算に用いられるフィルタとして生成する。
図1で示したように、頭外定位処理装置100が、左右のスピーカ5L、5Rと左右のマイク2L、2Rとの間の伝達特性Hls〜Hrsを用いて頭外定位処理を行う。すなわち、補正信号SrcL’、SrcR’を伝達特性Hls〜Hrsに畳み込むことにより、頭外定位処理を行う。
【0045】
図1の説明に戻る。フィルタ部41、42にはヘッドホン45からマイク2L,2Rまでの外耳道伝達特性(ヘッドホン特性ともいう)をキャンセルする逆フィルタLinv、Rinvが設定されている。そして、加算器26、27で加算された畳み込み演算信号に逆フィルタLinv、Rinvをそれぞれ畳み込む。フィルタ部41で加算器26からのLchの畳み込み演算信号に対して、逆フィルタLinvを畳み込む。同様に、フィルタ部42は加算器27からのRchの畳み込み演算信号に対して逆フィルタRinvを畳み込む。逆フィルタLinv、Rinvは、ヘッドホン45を装着した場合に、ヘッドホン45の出力ユニットからマイクまでの特性をキャンセルする。すなわち、外耳道入口近傍にマイクを配置したとき、ユーザ各人の外耳道入口とヘッドホンの再生ユニット間、あるいは鼓膜とヘッドホンの再生ユニット間等の伝達特性をキャンセルする。なお、マイクは、外耳道入口から鼓膜までの間ならばどこに配置してもよい。逆フィルタLinv、Rinvは、ユーザU本人の特性をその場で測定した結果から算出してもよいし、ダミーヘッドまたは第三者等の任意の外耳を用いて測定したヘッドホン特性から算出した逆フィルタを予め用意してもよい。
【0046】
逆フィルタを生成するため、左ユニット45Lは、受聴者1の左耳9Lに向けて測定信号を出力する。右ユニット45Rは、受聴者1の右耳9Rに向けて測定信号を出力する。
【0047】
図7の左のマイク2Lは、受聴者1の左耳9Lに設置され、右のマイク2Rは、受聴者1の右耳9Rに設置されている。具体的には、左耳9L、右耳9Rの外耳道入口乃至鼓膜位置の任意の位置にマイク2L、2Rを設置することが好ましい。なお、マイクは、外耳道入口から鼓膜までの間ならばどこに配置してもよい。マイク2L、2Rは、ヘッドホン45等から出力された測定信号を収音して、収音信号を取得する。すなわち、受聴者1がヘッドホン45、及びステレオマイク2を装着した状態で測定が行われる。例えば、測定信号はインパルス信号やTSP(Time Streched Pule)信号等でもよい。そして、収音信号に基づいて、ヘッドホン特性の逆特性を算出し、逆フィルタが生成される。
【0048】
フィルタ部41は、フィルタ処理したLchの出力信号outLをD/Aコンバータ43に出力する。D/Aコンバータ43は、出力信号outLをD/A変換して、ヘッドホン45の左ユニット45Lに出力する。
【0049】
フィルタ部42は、フィルタ処理したRchの出力信号outRをD/Aコンバータ44に出力する。D/Aコンバータ44は、出力信号outRをD/A変換して、ヘッドホン45の右ユニット45Rに出力する。
【0050】
ユーザUは、ヘッドホン45を装着している。ヘッドホン45は、Lchの出力信号とRchの出力信号をユーザUに向けて出力する。これにより、ユーザUの頭外に定位された音像を再生することができる。
【0051】
このように、本実施形態では、補正処理部50でステレオ入力信号SrcL、SrcRから同相信号SrcIpを減算している。これにより、ヘッドホンで再生することで音量の変動や両耳効果によってより強められた同相成分を抑制し、スピーカ音場と同じになるように、同相信号SrcIpを適切な音量に補正した頭外定位受聴を行うことができる。よって、適切に音像定位処理することが可能となる。例えば、頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターに定位するボーカル等の音像の定位が音量の変動や両耳効果によって強調されるのを抑制することができる。よって、頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターに定位する音像が近く感じやすくなることを防ぐことができる。
【0052】
さらに、補正処理部50において、減算比率Amp1が可変となっている。比率設定部52が、同相信号の減算比率Amp1を再生音量chVolに応じて変更する。すなわち、再生音量chVolが変わると、比率設定部52が減算比率Amp1の値を変更する。このようにすることで、再生音量chVolが変わった場合でも、再生音量chVolに合わせて適切に音像定位処理することができる。すなわち、再生音量chVolが変わった場合でも、両耳効果によってファントムセンターに定位する音像が強調されるのを抑制することができる。
【0053】
(補正処理)
次に、補正処理部50での補正処理について、
図8を用いて説明する。
図8は、補正処理部50での補正処理を示すフローチャートである。
図8に示す処理は、
図1の補正処理部50において実施される。具体的には、頭外定位処理装置100のプロセッサがコンピュータプログラムを実行することで、
図8の処理を実施する。
【0054】
ここでは、減算比率Amp1を求めるための係数として係数m[dB]が設定されている。そして、係数m[dB]は、再生音量chVolに応じた係数テーブルとして、比率設定部52に格納されている。なお、係数m[dB]は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRを何dB下げるかを指定する値である。
【0055】
まず、補正処理部50がステレオ入力信号SrcL、SrcRから1フレーム分を取得する(S101)。次に、音量取得部61が再生音量chVolを取得する(S102)。
【0056】
そして、音量取得部61は再生音量chVolが後述する制御範囲の範囲内か否かを判定する(S103)。再生音量chVolが制御範囲外である場合(S103のNO)、補正処理部50が補正を行わずに、処理を終了する。すなわち、補正処理部50は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRがそのまま出力される。
【0057】
再生音量chVolが制御範囲内である場合(S103のYES)、比率設定部52は、係数テーブルを参照して、係数m[dB]を設定する(S104)。比率設定部52には、上記のように、音量取得部61から再生音量chVolが入力されている。係数テーブルでは、再生音量chVolと係数m[dB]が対応付けられている。比率設定部52は、再生音量chVolに応じて、適切な減算比率Amp1を設定することができる。比率設定部52は、予め係数テーブルを格納している。なお、係数テーブルの作成については後述する。
【0058】
そして、相関判定部56がステレオ入力信号SrcL、SrcRの相関判定を1フレームずつ行う(S105)。具体的には、相関判定部56は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRの相互相関関数が相関閾値(例えば80%)以上であるか否かを判定する。
【0059】
相互相関関数φ
12は、以下の式(4)で与えられる。
【数1】
【0060】
g1(x)は1フレーム分のステレオ入力信号SrcLであり、g2(x)は、1フレーム分のステレオ入力信号SrcRである。式(4)では相互相関関数は自己相関が1になるように正規化が行われている。
【0061】
相互相関関数が相関閾値よりも小さい場合(S105のNO)、補正を行わずに、処理を終了する。ステレオ入力信号SrcL、SrcRの相関が低い、すなわちステレオ入力信号SrcL、SrcRの同相信号SrcIpに同相成分が少ない場合、抽出できる同相信号も少なくなるため補正処理を行わなくてもよい。
【0062】
なお、再生する楽曲や音楽ジャンルに応じて相関閾値を変えてもよい。例えば、クラシックの相関閾値は90%、JAZZの相関閾値は80%、JPOPのようにファントムセンターにボーカルが多く入っているような楽曲の相関閾値は65%等としてもよい。
【0063】
相互相関関数が相関閾値よりも大きい場合(S105のYES)、減算器53、54が減算比率Amp1に応じて、ステレオ入力信号SrcL、SrcRから同相信号SrcIpを減算する(S106)。すなわち、式(2)、式(3)に基づいて、補正信号SrcL’、SrcR’が算出される。
【0064】
そして、ステレオ入力信号SrcL、SrcRの再生中は、S101〜S106の処理を繰り返し行う。すなわち、フレーム毎にS101〜S106の処理が実施される。これにより、再生音量chVolが変わった場合、1フレーム毎に音量の変化を検出するため、ステレオ入力信号SrcL、SrcRの再生中でも、再生音量chVolに合わせた係数mに更新される。
【0065】
ここで、係数m[dB]の単位はデシベル[dB]となっている。そのため、ステレオ入力信号SrcL、SrcRに、係数m[dB]に対する減算比率Amp1は以下の式(5)で求めることができる。
m[dB]=20*log
10(Amp1)
Amp1=10
(m/20) ・・・(5)
【0066】
例えば、m=−6[dB]の場合、Amp1=10^(−6/20)=0.5倍=50%となる。補正信号SrcL’、SrcR’は以下の式(6)、(7)で与えられる。
【0067】
SrcL’=SrcL−SrcIp*10
(m/20) ・・・(6)
SrcR’=SrcR−SrcIp*10
(m/20) ・・・(7)
【0068】
減算比率Amp1は0%より大きく、100%より小さくなる範囲で与えられる。つまり、係数m[dB]については、0<10
(m/20)<100の範囲で与えられる。例えば、Amp1=0%は、補正処理なしとなる。m=0を指定すると、Amp1=100%となるため、係数mの適用範囲は、以下の式(8)により定義することができる。
−∞<m<0 ・・・(8)
【0069】
このように、補正処理部50は、ステレオ入力信号SrcL、SrcRから同相信号SrcIpに減算比率Amp1を乗算した信号を減算することで、補正信号SrcL’、SrcR’を生成している。そして、補正信号SrcL’、SrcR’に基づいて、頭外定位処理部10、フィルタ部41、フィルタ部42が処理を行う。このようにすることで、適切に頭外定位処理することができ、音量の変動や両耳効果によってファントムセンターに定位する音像が強調されることを軽減することができる。係数m[dB]の係数テーブルを用いることで、適切な補正が可能となる。
【0070】
さらに、本実施の形態では、補正処理部50が、再生音量に応じて、減算比率Amp1を変えている。よって、ユーザUが再生音量を上げても、ファントムセンターの音像だけがユーザUに近づくことがなくなる。これにより、適切に頭外定位処理することができ、スピーカ音場と同等の音場を再現することができる。減算比率は、ユーザ入力により変更されてもよい。例えば、ユーザがファントムセンターに定位する音像の位置が近いと感じた場合、ユーザが減算比率を高くするための操作を行う。このようにすることで、適切な頭外定位処理を行うことができる。
【0071】
さらに、ステレオ入力信号SrcL、SrcRの相関に応じて、補正処理部50が補正を行うか否かを決定している。ステレオ入力信号SrcL、SrcRの相関が低い場合、同相成分がほとんど含まれず補正による効果が少ないため、補正処理を行わない。すなわち、SrcL’=SrcL、SrcR’=SrcRとなる。このようにすることで、余分な補正処理を省略し、演算の処理量を軽くすることができる。
【0072】
また、係数m[dB]は目標とするスピーカの特性(係数)とすることができる。後述する頭外定位ヘッドホンのファントムセンターに定位する音像の音量とスピーカのファントムセンターに定位する音像の音量の関係から、スピーカのファントム音像の音量と等しくなるような係数m[dB]を設定することができる。係数m[dB]は以下に述べる実験により得られた係数テーブルから求められる。
【0073】
ここで、係数テーブルを求めるために行われた実験について説明する。ステレオスピーカが生成するファントムセンターの音像の音量とステレオヘッドホン及び頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターの音像の音量について、再生方法の違いにより両耳効果の大きさが変化するかどうかを検証するための実験を行った。
【0074】
しかし、ステレオヘッドホンまたは頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターの音像の音量とステレオスピーカが生成するファントムセンターの音像の音量をそのまま比較することは難しい。また、ファントムセンターの音量は感覚量であるため、比較するためには物理指標に置き換えて評価する必要があった。
【0075】
そこで、受聴者1の正面にセンタースピーカ(
図9参照)を配置し、センタースピーカが生成する音像の音量を基準として、センタースピーカの音像の音量とステレオスピーカが生成するファントムセンターの音像の音量、センタースピーカの音像の音量とステレオヘッドホン及び頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターの音像の音量を比較することで、相対的にステレオスピーカが生成するファントムセンターの音像の音量とステレオヘッドホン及び頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターの音像の音量を比較した。
【0076】
具体的には、センタースピーカが生成する音像の音量とステレオスピーカが生成するファントムセンターの音像の音量が同じ大きさに聴こえた時の耳元における音圧レベルを求める。次に、センタースピーカの音像の音量とステレオヘッドホン及び頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターの音像の音量が同じ大きさに聴こえた時の耳元における音圧レベルを求める。これによって、センタースピーカが生成する音像の音量の耳元における音圧レベルを介して、ステレオスピーカが生成するファントムセンターの音像の音量の耳元に置ける音圧レベルとステレオヘッドホン及び頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターの音像の音量の耳元における音圧レベルを比較した。
【0077】
センタースピーカが生成する音像の音量の耳元における音圧レベルを基準音圧レベルとすると、基準音圧レベルを介して、ステレオスピーカ、ステレオヘッドホン、頭外定位ヘッドホンの再生音量を5[dB]ずつ上げた時に、ステレオスピーカが生成するファントムセンターの音像の音圧レベルとステレオヘッドホン及び頭外定位ヘッドホンが生成するファントムセンターの音像の音圧レベルが基準音圧レベルに対してどのように変化するかをプロットした耳元音圧レベルのグラフを求めた。
【0078】
実験では、
図9に示す測定装置300を用いている。測定装置300は、ヘッドホン45と、ステレオスピーカ5と、センタースピーカ6と、処理装置301とを備えている。処理装置301は、メモリ、及びプロセッサなどを備える演算処理装置であり、具体的には、パーソナルコンピュータなどである。処理装置301は予め格納されたコンピュータプログラムに従って処理を行う。例えば、処理装置301は、ステレオスピーカ5、及びヘッドホン45に実験用の信号(例えば、ホワイトノイズ)を出力する。
【0079】
ステレオスピーカ5は、
図7と同様の構成となっている。また、左スピーカ5Lと右スピーカ5Rは、受聴者1の正面を0°とした時に水平面上において同じ見開き角になる角度に配置し、さらに受聴者1から等距離に配置する。このとき、
図7に示したスピーカ配置と同じ距離、同じ角度となる配置が好ましい。
【0080】
センタースピーカ6は、左スピーカ5Lと右スピーカ5Rとの中間に配置されている。すなわち、センタースピーカ6は、受聴者1の前方正面に配置されている。したがって、センタースピーカ6の左側には、左スピーカ5Lが配置され、右側に右スピーカ5Rが配置されている。
【0081】
ヘッドホン45から信号を出力する場合、受聴者1は、ヘッドホン45を装着する。また、ステレオスピーカ5、又はセンタースピーカ6から信号を出力する場合、受聴者1は、ヘッドホン45を取り外す。
【0082】
発明者らは、まず基準音圧レベルが72[dB]において、ステレオスピーカ6、ステレオヘッドホン、頭外定位ヘッドホンと、基準となるセンタースピーカからホワイトノイズを耳元で同じ音圧レベルになるように提示して、各出力系のゲインを合わせた。次に、基準音圧レベルを±5[dB]ずつ変化させた時に、以下の(a)〜(c)において、ファントムセンターに定位する音像が基準音圧レベルに対して同じ音量に聴こえる音量を聴感実験で求め、耳元の音圧レベルが変化する様子を線で結びグラフを生成した。
(a)ステレオスピーカが生成するファントムセンターの音像(以下ステレオスピーカのファントム音像とする)
(b)ステレオヘッドホンが生成するファントムセンターの音像(以下ヘッドホンスルーのファントム音像とする)
(c)頭外定位ヘッドホンのファントムセンターの音像(以下頭外定位ヘッドホンのファントム音像とする)
【0083】
(a)〜(c)の耳元における音圧レベルのグラフを比較したところ、ある特定の範囲においてヘッドホンスルー及び頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルが、ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルより大きくなることが分かった。つまり、スピーカよりヘッドホンで再生した方が、両耳効果が高くなることが分かった。
【0084】
本発明において、開発者は予め前記のような実験を行い、音圧レベルのグラフから係数を算出する。本発明では、前記実験の結果から算出した係数テーブルを用いる。
【0085】
前記実験の結果から(a)ステレオスピーカのファントム音像、(b)ヘッドホンスルーのファントム音像、及び(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像において、基準音圧レベルを介して比較したファントム音像の耳元での音圧レベルを聴感実験で評価したグラフを
図10、
図11に示す。
図10は、ヘッドホン45として開放型ヘッドホンを用いた場合の結果を示すグラフである。
図11は、ヘッドホン45として、密閉型ヘッドホンを用いた場合の結果を示すグラフである。
【0086】
また、
図10、
図11は、62[dB]から97[dB]の範囲で、5[dB]毎に基準音圧レベルを変化させた時に(a)〜(c)が基準音圧レベルを介して各ファントムセンターの音圧レベルが聴感上で同じ音量に聞こえた時の耳元における音圧レベルを線で結んだグラフを示している。
図10、
図11において、横軸は、基準音圧レベル[dB]を示す。縦軸は、聴感から求めた基準音圧レベルと同じ大きさに聴こえる各ファントムセンターの音像の耳元における音圧レベル[dB]を示す。
【0087】
例えば、
図10の基準音圧レベル72dBにおいて、(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元音圧レベルは80dBを示している。これは、基準音圧レベルであるセンタースピーカが生成する音像の音量を72dBで提示したとき、(a)ステレオスピーカのファントム音像耳元における音圧レベルを80dBで提示すると同じ音量に聴こえるということになる。
【0088】
また、
図10の基準音圧レベル72dBにおいて、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元音圧レベルは67dBを示している。これは、基準音圧レベルであるセンタースピーカが生成する音像の音量を72dBで提示したとき、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像耳元における音圧レベルを67dBで提示すると同じ音量に聴こえるということになる。
【0089】
これらのことから、同じ基準音圧レベル72dBを提示したときに、(a)ステレオスピーカのファントム音像と(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像では、音の提示する方法によって耳元における音圧レベルが異なることが分かる。さらに、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像は(a)ステレオスピーカのファントム音像よりも少ない音圧レベルで同じ音量に聴こえていることが分かる。
【0090】
図10の基準音圧レベルが62[dB]において、(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルは、(b)ヘッドホンスルーのファントム音像と(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルよりも10〜12[dB]程度高くなっている。すなわち、(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルは、(b)ヘッドホンスルーのファントム音像、及び(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルよりも10〜12[dB]高いにもかかわらず、聴感上同程度に聴こえていることになる。したがって、ヘッドホン45を用いた場合、ステレオスピーカ5を用いた場合よりも両耳効果が高くなる。すなわち、横軸に示す基準音圧レベルが同じ大きさの場合の3つの音圧レベルのグラフを比較すると、スピーカとの音圧レベルの差が大きいほど、両耳効果が大きく働いているということができる。
【0091】
また、
図10の基準音圧レベル92[dB]において、(a)ステレオスピーカのファントム音像と(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルが等しくなる。すなわち、基準音圧レベル92[dB]において、(a)ステレオスピーカのファントム音像と(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルは聴感上同程度に聴こえるということになり、基準音圧レベル92[dB]以上においてはヘッドホンによる両耳効果は影響せず、ファントムセンターの音像の音量は強められていないということになる。
【0092】
反対に、
図10の基準音圧レベルが97[dB]において、(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルは、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルよりも小さくなる。したがって、基準音圧レベル97[dB]において、ステレオスピーカ及び頭外定位ヘッドホンのファントムセンターの音像の耳元における音圧レベルが逆転している。すなわち、基準音圧レベルが92[dB]を超える97[dB]では、ヘッドホンで提示したファントムセンターの音量は実際のステレオスピーカよりも大きな音で聴こえていることになる。
【0093】
さらに、
図10では、(a)ステレオスピーカのファントム音像と(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像では、グラフの傾きが異なっている。よって、(a)ステレオスピーカのファントム音像と(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像では音圧レベルの上がり方が異なっていることが分かる。具体的には、(a)ステレオスピーカのファントム音像のグラフの傾きが(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像のグラフの傾きよりも小さくなっている。すなわち、(a)ステレオスピーカのファントム音像と(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像では、基準音量を上げた時の音圧レベルの上がり方がそれぞれ異なるということになる。よって、(a)ステレオスピーカのファントム音像と(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像では音圧レベルの上がり方をそれぞれに設定する必要があるということになる。また、(b)と(c)でもグラフの傾きが異なるため、(a)と(c)の時と同様のことが言える。
【0094】
ここで、(a)〜(c)の聴感によるファントム音像の音圧レベル差を説明するため、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルと(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルの差分(以下、音圧レベル差Yと称する)を
図12、
図13に示す。なお、音圧レベル差Yは、基準音圧レベルが同じ場合において、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルから(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルを引いた値である。
図12は、
図10に示すグラフの音圧レベル差Yを破線で示し、
図13は、
図11に示すグラフの音圧レベル差Yを破線で示す。横軸は基準音圧レベル[dB]であり、縦軸は音圧レベル差Yである。
【0095】
図12、
図13に示すように、音圧レベル差Yが上昇し始める基準音圧レベルを閾値Sとする。音圧レベル差が0[dB]を超える基準音圧レベルを閾値Pとする。閾値Pは、閾値Sよりも大きい値である。すなわち、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルが(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルよりも大きくなる基準音圧レベルが閾値Pとなる。
図12では閾値Sが77[dB]、閾値Pが92[dB]となる。
図12では閾値Sが72[dB]、閾値Pが87[dB]となる。閾値Sと閾値Pは、開放型や密閉型などヘッドホンのタイプに応じて異なる値を示している。
【0096】
閾値Pは、(c)頭外定位ヘッドホンのファントムセンター音像の耳元における音圧レベルが(a)ステレオスピーカのファントムセンター音像の耳元における音圧レベルと同程度の音圧レベルとなる。閾値Pよりも再生音量chVolが小さい場合、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルは(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルよりも小さくなる。一方、閾値Pよりも再生音量chVolが大きい場合、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルは(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルよりも大きくなる。
【0097】
閾値P、及び閾値Sに基づいて、係数m[dB]が設定される。ここで、係数m[dB]の設定方法について、
図14を用いて説明する。
図14は、係数m[dB]の設定方法を示すフローチャートである。なお、以下の各処理はコンピュータプログラムを実行することで行われてもよい。例えば、処理装置301のプロセッサが、コンピュータプログラムを実行することで、
図14に示す処理を実施する。もちろん、一部又は全部の処理について、ユーザまたは開発者が実施してもよい。
【0098】
まず、処理装置301は、基準音圧レベルに対して、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルと(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルを算出する(S201)。これらの音圧レベルのグラフは、開発者が予め実験を行い、係数テーブルとして用意しておく。本実施例では、前記実験から算出した係数テーブルを用いる。
【0099】
なお、各々の音圧レベルのグラフは、ヘッドホンの機種毎に用意することが好ましい。また、基準音圧レベルの調整範囲は特に限定されるものではない。
【0100】
次に、処理装置301は、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルと(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルの音圧レベル差Yを求める(S202)。そして、処理装置301は、音圧レベル差Yに基づいて、閾値Sを設定する(S203)。閾値Sは、音圧レベル差Yが上昇し始める基準音圧レベルとなる。
【0101】
次に、処理装置301は、音圧レベル差Yに基づいて、閾値Pを設定する(S204)。閾値Pは、音圧レベル差Yが0[dB]を越える基準音圧レベルである。音圧レベル差Yが0[dB]を超えない場合、0[dB]を越えない最大値を閾値Pとして設定することができる。すなわち、基準音圧レベルの最大値を閾値Pとすることができる。例えば、
図13において、基準音圧レベルが62[dB]〜97[dB]の範囲で音圧レベル差Yが0[dB]を超える基準音圧レベルは92[dB]となる。すなわち、92[dB]を閾値Pとすることができる。
【0102】
そして、処理装置301は、閾値P、及び閾値Sに基づいて、係数m[dB]の係数テーブルを生成する(S205)。係数テーブルは、頭外定位処理時の再生音量chVol(
図1参照)と係数m[dB]とが対応付けられたテーブルである。したがって、
図12、
図13の横軸である基準音圧レベルと頭外定位処理時の再生音量chVolが置き換えられる。すなわち、横軸の基準音圧レベルを音量取得部61が取得した再生音量chVolとすることで、係数テーブルが設定される。
【0103】
図12、
図13において、係数テーブルでの係数m[dB]の値を実線で示している。再生音量chVolが閾値Sより小さい場合、係数m[dB]を閾値Sでの音圧レベル差Yとする。すなわち、再生音量chVolが閾値Sより小さい場合、係数m[dB]は閾値Sでの音圧レベル差Yで一定となる。再生音量chVolが閾値S以上、閾値P以下の場合、音圧レベル差Yがそのまま係数m[dB]となる。例えば、再生音量chVolが大きくなるにつれて、係数m[dB]が大きくなっていく。再生音量chVolが閾値Pよりも大きい場合、係数m[dB]を最大値となる。なお、係数m[dB]が閾値Pよりも大きい場合、係数m[dB]、は0[dB]未満の固定値となっている。
【0104】
したがって、頭外定位処理時において、再生音量chVolが閾値Sよりも小さい場合、係数m[dB]は最小値で一定となる。再生音量chVolが閾値S以上、閾値P以下の場合、再生音量chVolの増加とともに、係数m[dB]が単調増加する。再生音量chVolが閾値Pよりも大きい場合、係数m[dB]が最大値で一定となる。なお、再生音量chVolが閾値Sよりも小さい場合、減算される同相信号SrcIpも小さくなるため、補正処理を行わなくてもよい。
【0105】
このように係数テーブルを求めることで、実際のヘッドホンとスピーカとの音量差を加味した補正信号を生成することができる。すなわち、再生音量に応じて、減算比率Amp1が適切な値となる。これにより、ステレオ入力信号から同相信号を適切に減算することができる。すなわち、再生音量に応じて変化する音量差に応じて、適切に補正することができる。
【0106】
ヘッドホン音像の同相成分の減算比率を調整することで、ヘッドホンの両耳効果によってファントムセンターに定位する音像が強調されることを軽減することができる。よって、ユーザUが音量を変えてもファントムセンターの音像の位置だけ近付くことがなく、スピーカ音場と同じになるような音場を再現することができる。ヘッドホンの両耳効果によって変化するファントムセンターの音像の音圧レベルは、出力する再生音量chVolの大きさによって非線形的に変化する。
【0107】
このように、処理装置301は、音圧レベル差Yに基づいて、閾値S、及び閾値Pを設定している。また、再生音量chVolが閾値S以上、閾値P以下の範囲内にある場合、再生音量chVolに応じて、係数m[dB]は、単調増加する。これにより、再生音量が大きくなるほど、同相信号の成分が小さくなるため、音量の変動やヘッドホンの両耳効果による影響を適切に軽減することができる。
【0108】
また、
図12、
図13に示すように、ヘッドホンのタイプに応じて、閾値P及び閾値Sが異なる。よって、ヘッドホンの機種毎に閾値P及び閾値Sを設定して、係数テーブルを作成することが好ましい。すなわち、ヘッドホン機種毎に実験を行い、(a)ステレオスピーカのファントム音像、及び(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の音圧レベルを求める。そして、各々の耳元における音圧レベルに基づいて、音圧レベル差Yを求めて、閾値S、及び閾値Pが設定される。なお、閾値S、及び閾値Pの設定、及び係数テーブルの設定の一部または全部は、ユーザまたは開発者が行ってもよく、コンピュータプログラムにより自動で行われてもよい。また、(b)ヘッドホンスルーのファントム音像については実施しなくてもよい。
【0109】
(係数mの設定の変形例1)
上記の説明では、音圧レベル差Yが0[dB]となる基準音圧レベルを閾値Pとしたたが、変形例では、異なる方法で閾値Pを設定している。具体的には、音圧レベル差Yの近似関数Y’によって、閾値Pを設定している。
図15は、変形例にかかる方法で閾値Pを設定した場合の、係数m[dB]を設定するための処理を示すフローチャートである。
【0110】
なお、頭外定位処理装置の基本的構成、及び処理については、上記と同様であるため、詳細な説明を省略する。(a)ステレオスピーカのファントム音像、及び(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像についても、上記と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0111】
まず、処理装置301は、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像の耳元における音圧レベルと(a)ステレオスピーカのファントム音像の耳元における音圧レベルを算出する(S301)。次に、処理装置301は、(c)頭外定位ヘッドホンのファントム音像と(a)ステレオスピーカのファントム音像の音圧レベル差Yを求める(S302)。そして、処理装置301は、音圧レベル差Yに基づいて、閾値Sを設定する(S303)。S301〜S303の処理は、S201〜S203の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0112】
次に、処理装置301が音圧レベル差Yの近似関数Y’を求める(S304)。近似関数Y’は、基準音圧レベルがS以上の範囲から算出される。近似関数Y’は線形近似により算出される。
図16に、
図11、
図13に示された密閉ヘッドホンにおける頭外定位ヘッドホンのファントム音像の音圧レベル、音圧レベル差の場合の近似関数Y’を破線で示す。
図16では、Y’=x−86.2の線形近似で近似している。
【0113】
なお、近似関数Y’は線形近似により算出されていてもよく、2次以上の多項式により算出されていてもよい。あるいは、移動平均により、近似関数Y’が算出されていてもよい。近似することで、平均的な係数m[dB]を求めることができる。
【0114】
処理装置301が、近似関数Y’に基づいて、閾値Pを設定する(S305)。そして、近似関数Y’の値が0[dB]となる基準音圧レベルxの値を閾値Pとする。
図16に示すグラフでは、x=86.2[dB]でY’=0となるため、閾値P=86.2[dB]となる。
【0115】
そして、処理装置301が、閾値S、閾値P、及び近似関数Y’に基づいて、係数テーブルを生成する(S306)。
図16には、係数テーブルが合わせて示されている。再生音量chVolが閾値Sより小さい場合、係数m[dB]が閾値Sでの音圧レベル差Yとなる。すなわち、再生音量chVolが閾値Sより小さい場合、係数m[dB]は閾値Sでの音圧レベル差Yで一定となる。あるいは、閾値Sより小さい場合、補正処理をしないようにしてもよい。
【0116】
再生音量chVolが閾値S以上、閾値P以下の場合、係数m[dB]が近似関数Y’の値となる。例えば、再生音量chVolが大きくなるにつれて、係数m[dB]が大きくなっていく。再生音量chVolが閾値Pよりも大きい場合、係数m[dB]が近似関数Y’の最大値で固定となる。
【0117】
このように、閾値P、及び係数テーブルを設定したとしても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。音量が変わった場合でも、適切に音像定位処理することができる。すなわち、音量の変動やヘッドホンの両耳効果によってファントムセンターに定位する音像が強調されるのを抑制することができる。
【0118】
実施の形態2.
実施形態2では、係数テーブルとして、デシベルから換算した比率の係数[dB]ではなく、直接比率を%指定した係数m[%]が設定されている。すなわち、再生音量chVolに対して、直接比率を%指定した係数m[%]が対応付けられて、係数テーブルとして設定されている。すなわち、係数m[%]が式(2)、(3)のAmp1に一致する。さらに、係数m[%]は、頭外定位再生を行った場合、ユーザUの聴感に応じて設定されている。
【0119】
図17を用いて、係数テーブルの設定処理について説明する。
図17は、係数テーブルの設定処理を示す。まず、処理装置301が閾値Sを設定する(S401)。ここでは、ユーザUがヘッドホン45を装着して頭外定位処理された信号を受聴したときの聴感から、制御範囲の最小となる閾値Sを入力する。
【0120】
次に、処理装置301が閾値Pを設定する(S402)。ここでは、S401の処理と同様に、ユーザUがヘッドホン45を装着して頭外定位処理された信号を受聴したときの聴感から、制御範囲の
最大となる閾値Pを入力する。例えば、閾値Sは72[dB]、閾値Pを87[dB]とすることができる。そして、閾値S、及び閾値Pは、メモリなどに記憶される。閾値S、及び閾値Pは、ユーザ入力に応じて設定されてもよい。
【0121】
そして、処理装置301は、閾値S、及び閾値Pに基づいて、係数テーブルを生成する(S403)。ここで、
図18を用いて、係数テーブルについて説明する。係数テーブルの係数m[%]は、閾値S、及び閾値Pに基づいて、3段階に設定されている。例えば、閾値Sよりも小さい再生音量chVolでは、係数m[%]を0[%]としている。閾値S以上、閾値P未満の再生音量chVolでは、係数m[%]を15[%]としている。閾値P以上の再生音量chVolでは、係数m[%]を30[%]としている。
【0122】
このように、再生音量chVolの増加に応じて、係数m[%]が段階的に増加するように係数テーブルが設定されている。もちろん、係数m[%]の値は3段階に限らず、4段階以上に増加してもよい。閾値S、及び閾値Pの間に範囲において、係数m[%]が複数設定されていてもよい。係数m[%]は0%より大きく、100%よりも小さい範囲で設定される。
【0123】
なお、Amp1=係数m/100[%]を含む係数テーブルを用いた場合、補正信号は、式(6)、式(7)の代わりに、以下の式(9)、式(10)に基づいて算出される。
SrcL’=SrcL−SrcIp*m/100 ・・・(9)
SrcR’=SrcR−SrcIp*m/100 ・・・(10)
【0124】
本実施の形態において、頭外定位処理方法については、実施の形態1と同様であるため、詳細な説明を省略する。例えば、
図8に示したフローにしたがって頭外定位処理を行うことができる。そして、係数を設定するS104において、係数m[dB]ではなく、係数m[%]を設定すればよい。また、ステレオ再生信号から同相信号を減算するS106において、式(6)、式(7)の代わりに、上記の式(9)、式(10)を用いればよい。
【0125】
変形例2.
実施の形態2では係数テーブルを参照して、再生音量chVolに応じた係数mを設定したが、変形例2では、ユーザUが聴感に応じて、係数mを設定している。例えば、ユーザUが頭外定位処理されたステレオ再生信号を受聴中において、聴感に応じて同相成分の減算比率を変えてもよい。
【0126】
例えば、ユーザUが頭外定位ヘッドホンから生成されたファントムセンターに定位するボーカルの音像が近いと感じた場合、係数[%]を大きくするための入力を行う。例えば、ユーザUがタッチパネルを操作することでユーザ入力を実施する。そして、ユーザ入力が受け付けられた場合に、頭外定位処理装置100は係数m[%]を大きくする。例えば、ファントムセンター音像が近いとユーザUが感じた場合、係数m[%]を大きくする操作を行う。反対に、ファントムセンター音像が近いとユーザUが感じた場合、係数m[%]を小さくする操作を行う。変形例2においても、係数m[%]が0[%]、15[%]、30[%]等と段階的に増減するようにすることができる。
【0127】
さらに、ユーザ入力による係数の設定と、再生音量に応じた係数の設定を組み合わせてもよい。例えば、再生音量に応じた係数で頭外定位処理装置100が頭外定位処理を行う。ユーザが頭外定位処理された再生信号を受聴した時の聴感に応じて、ユーザが係数を変更する操作を行ってもよい。さらに、ユーザが再生音量を調整する操作を行った場合に、係数mを変更するようにしてもよい。
【0128】
なお、係数m[dB]が−6[dB](つまり、m[%]=50%)を超えると、左右のバランスが崩れた聴感となることがある。そのため、−6[dB]を係数m[dB]の上限として、係数テーブルに−6[dB]以下の値を設定してもよい。
【0129】
等感曲線から求めた係数はあくまで理想値であり、係数mの設定値次第では左右の音量のバランスが崩れることがある。実際の楽曲に合わせて、理想値よりも小さな値に調整する等してもよい。同相信号を抽出するアルゴリズムはあくまで一例であり、この限りでない。例えば、適応アルゴリズムを用いて同相信号を抽出してもよい。
【0130】
上記の頭外定位処理、及び測定処理のうちの一部又は全部は、コンピュータプログラムによって実行されてもよい。上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non−transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0131】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。