特許第6866680号(P6866680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866680
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20210419BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20210419BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   H01L23/36 D
   B32B27/00 D
   B32B27/18 Z
【請求項の数】5
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-29373(P2017-29373)
(22)【出願日】2017年2月20日
(65)【公開番号】特開2017-168825(P2017-168825A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2020年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-45514(P2016-45514)
(32)【優先日】2016年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】澤口 壽一
(72)【発明者】
【氏名】柏村 岳
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 豪
(72)【発明者】
【氏名】坂口 香織
【審査官】 川原 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−210597(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132691(WO,A1)
【文献】 特開平05−248788(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/145961(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
H01L 23/29
H01L 23/34−23/36
H01L 23/373−23/427
H01L 23/44
H01L 23/467−23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱ベース基板と、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む熱伝導性絶縁接着部材と、熱を発生し得る部材を含む発熱体とを有する複合部材であって、
前記熱伝導性絶縁接着部材は、前記放熱ベース基板の一方の面に設けられており、
前記熱伝導性絶縁接着部材の放熱ベース基板側とは反対側の面に前記熱を発生し得る部材を含む発熱体が設けられており、
前記熱伝導性絶縁接着部材は、下記条件(1)〜(3)の全てを満たし、
前記熱伝導性絶縁接着部材の厚みdに対する、放熱ベース基板の熱伝導性接着部材と接する面の表面粗さ(Ra(i))との比率(Ra(i))/d)が0.5%以下であり、
前記熱伝導性絶縁接着部材の厚みdに対する、発熱体の熱伝導性接着部材と接する面の表面粗さ(Ra(ii))との比率(Ra(ii)/d)が0.5%以下である、
複合部材。

(1)熱伝導性フィラーが熱伝導性球状フィラー(X)を含有し、窒化ホウ素粒子を含有し得る熱伝導性絶縁層(A)と、熱伝導性フィラーが窒化ホウ素粒子を含有し、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し得る熱伝導性絶縁層(B)とを有する。
(2)前記熱伝導性絶縁層(A)と前記熱伝導性絶縁層(B)とは、前記熱伝導性絶縁層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されている。
(3)最も外側に位置する前記熱伝導性絶縁層(Aout)における熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XA)が、前記熱伝導性絶縁層(B)に含有し得る熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XB)よりも高い。
【請求項2】
熱伝導性絶縁接着部材の厚みdが40〜1100μmである、請求項1記載の複合部材。
【請求項3】
熱伝導性絶縁接着部材の空隙率が0.2以下である、請求項1または2記載の複合部材。
【請求項4】
前記熱伝導性絶縁層(Aout)の不揮発成分全体積中の熱伝導性フィラーの占有体積率が、50%よりも多く90%以下である、請求項1〜3いずれか1項記載の複合部材。
【請求項5】
熱を発生し得る部材がパワー半導体素子である、請求項1〜4いずれか1項記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材に関し、詳しくはパワー半導体装置に好適な複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
家電、産業ロボット、輸送機器等の電力駆動機器はパワー半導体モジュールが搭載されている。パワー半導体素子は高電流・電圧下においても駆動が可能であるが、一方で、電力損失により発熱が生じモジュールが高温環境下に曝されるため、パワー半導体モジュールには効率的な放熱構造の存在が不可欠である。この理由から、一般に、パワー半導体モジュールには、ヒートシンクに代表される放熱用部材が樹脂等の絶縁体を介して接続されている。
【0003】
放熱効率を高めるためには、前記樹脂等の接続部材の熱伝導率を高めることが必須であり、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素等の熱伝導性セラミック粒子である、熱伝導性フィラーを分散させた熱伝導性絶縁接着部材を用いる方法が知られている。
例えば、特許文献1には、金属板、はんだ層、及び半導体チップがこの順に積層された半導体モジュールと、放熱部材とを含むパワー半導体装置であって、前記金属板と前記放熱部材との間に、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂硬化剤、α−アルミナ、および窒化ホウ素等とを含有するエポキシ樹脂組成物の硬化体が配置されたパワー半導体装置が開示されている。
【0004】
また、このような電子部品の発熱を逃す熱伝導性絶縁接着部材には、絶縁性を有する熱伝導性フィラーとして窒化ホウ素粒子が用いられる場合があるが、窒化ホウ素粒子は鱗片状であり、鱗片の面に並行な方向、即ち熱伝導性絶縁接着部材の面方向では熱伝導性は高いが、鱗片の面に直行する方向、即ち熱伝導性絶縁接着部材の厚み方向には熱伝導性は低いという特徴がある。
そのため、熱伝導性絶縁接着部材の膜厚方向への熱伝導性を向上させるには窒化ホウ素粒子をシート内で「立てる」必要がある。
【0005】
窒化ホウ素粒子を「立てる」手段のひとつとして、窒化ホウ素の1次粒子を造粒した造粒物を用いる方法がある。しかし、熱伝導性絶縁接着部材を熱を発生し得る部材と放熱ベース基板との間に挟む際に、圧力がかかった場合、造粒物が崩れ、窒化ホウ素粒子の一次粒子が寝てしまい熱伝導性が低下する場合がある。
【0006】
特許文献2には、気孔率が低く硬い窒化ホウ素粒子の造粒体を使うことで、圧力による窒化ホウ素粒子の造粒体の崩壊を防止し、熱伝導性の低下を抑制しようとする技術が開示されている。
【0007】
特許文献3には、柔らかく変形しやすい窒化ホウ素粒子の造粒体を用い、造粒体が完全に崩壊しない程度に変形することで圧力を緩和し、熱伝導性の低下を抑制しようとする技術が開示されている。
【0008】
特許文献4には、窒化ホウ素等の熱伝導性フィラーを含む層に平滑な接着層を貼り合せ、熱伝導性フィラーを含む層表面の凹凸を埋めて接着力の向上を図ろうとする技術が開示されている。
【0009】
特許文献5には、大きさの異なる3種類の熱伝導性フィラーを含む樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも一方の面上に配置された接着剤層とを備えた多層樹脂シートが記載され、接着剤層にも酸化アルミウム等のフィラーを含有し得る旨開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016−155985号公報
【特許文献2】特開2010−157563号公報
【特許文献3】特開2015−34269号公報
【特許文献4】特開2013−39834号公報
【特許文献5】WO2012/046814
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし近年、エレクトロニクス分野において、特に電子機器の小型化、軽量化、高密度化、及び高出力化が著しく進み、それに伴い要求される信頼性、性能のレベルも高くなっている。中でも、電子回路の高密度化、高出力化に伴う絶縁信頼性や、発熱から電子部材の劣化を防ぐための放熱性(熱伝導性)の性能向上が強く求められている。
また、部材の軽量化を狙い、上記課題を高分子材料を用いて克服しようとする試みも始まり、絶縁性を高めた高分子材料に熱伝導性粒子を混合した熱伝導性絶縁接着部材の開発も進んでいるが、パワー半導体装置に好適な複合部材として、近年要求される、高い熱伝導性と絶縁性との両立は、十分ではないのが現状である。
特に、絶縁性能を長期に渡り維持し続けることは、パワー半導体等高出力デバイスの信頼性を確保する上で必須であるが、近年要求される高い絶縁信頼性を十分に満たすものがないのが現状である。
【0012】
すなわち本発明の目的は、従来よりも熱伝導性、特に絶縁信頼性性能に優れる複合部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、好ましくはパワー半導体等に用いられる複合部材が、放熱ベース基板と、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む熱伝導性絶縁接着部材と、熱を発生し得る部材を含む発熱体とを有しており、かつ前記熱伝導性絶縁接着部材が、特定の層構成を有しており、さらに熱伝導性絶縁接着部材と接する放熱ベース部材および発熱体の表面粗さRaとの比率が、特定の範囲にあることで、高い熱伝導性と絶縁性との両立が可能となることを見出したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、熱疲労に対する耐久性に優れる複合部材を提供でき、パワー半導体装置の熱疲労に対する信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の熱伝導性絶縁接着部材の一例を示す断面図である。
図2】本発明の熱伝導性絶縁接着部材の別の一例を示す断面図である。
図3】本発明の複合部材の一例を示す断面図である。
図4】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図5】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図6】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図7】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図8】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の複合部材は、放熱ベース基板と、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む熱伝導性絶縁接着部材と、熱を発生し得る部材を含む発熱体とを有しており、
前記熱伝導性絶縁接着部材は、前記放熱ベース基板の一方の面に設けられており、
前記熱伝導性絶縁接着部材の放熱ベース基板側とは反対側の面に前記熱を発生し得る部材を含む発熱体が設けられている。
そして、前記熱伝導性絶縁接着部材は、下記条件(1)〜(3)の全てを満たし、
前記熱伝導性絶縁接着部材の厚みdに対する、放熱ベース基板の熱伝導性接着部材と接する面の表面粗さ(Ra(i))との比率(Ra(i))/d)が0.5%以下であり、
前記熱伝導性絶縁接着部材の厚みdに対する、発熱体の熱伝導性接着部材と接する面の表面粗さ(Ra(ii))との比率(Ra(ii)/d)が0.5%以下であることを特徴とする。

(1)熱伝導性フィラーが熱伝導性球状フィラー(X)を含有し、窒化ホウ素粒子を含有し得る熱伝導性絶縁層(A)と、熱伝導性フィラーが窒化ホウ素粒子を含有し、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し得る熱伝導性絶縁層(B)とを有する。
(2)前記熱伝導性絶縁層(A)と前記熱伝導性絶縁層(B)とは、前記熱伝導性絶縁層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されている。
(3)最も外側に位置する前記熱伝導性絶縁層(Aout)における熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XA)が、前記熱伝導性絶縁層(B)に含有し得る熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XB)よりも高い。
【0017】
このように、特定の層構成を有する熱伝導性絶縁接着部材において、熱伝導性絶縁層(B)が最外層とならないように熱伝導性絶縁層(A)と熱伝導性絶縁層(B)とが積層されてなり、かつ、発熱体の、熱伝導性絶縁接着部材と接する面、および放熱ベース基板の表面粗さRaとの関係が特定の条件を満たすことで、熱伝導性絶縁接着部材の熱伝導性が非常に優れ、高い絶縁性との両立が可能となる。
【0018】
《熱伝導性絶縁接着部材》
熱伝導性絶縁接着部材は、熱伝導性絶縁接着シートから形成することができ、放熱ベース基板と熱を発生し得る部材を含む発熱体との間に配置される。熱を発生し得る部材を含む発熱体から出た熱は、熱伝導性絶縁接着部材を介して放熱ベース基板へ伝播されることで、モジュールが効率良く冷却される。
【0019】
熱伝導性絶縁接着部材は、主に熱伝導性球状フィラー(X)を含有する熱伝導性絶縁層(A)と主に窒化ホウ素粒子を含有する熱伝導性絶縁層(B)を有し、前記熱伝導性絶縁層(B)が最外層とはならないように両層が交互に積層されている。
従って、本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、熱伝導性絶縁層(A)/熱伝導性絶縁層(B)/熱伝導性絶縁層(A)を最小単位とし、奇数の層より成る。熱伝導性絶縁層(A)のうち外部に位置する層を最外層(Aout)という。
【0020】
また、熱伝導性絶縁接着シートは、単層樹脂シートを用い、熱伝導性絶縁層(A)と前記熱伝導性絶縁層(B)とが、熱伝導性絶縁層(B)が最外層には位置しないように交互に積層することで形成することができる。
【0021】
このように、基材との密着性や絶縁性を高めるように設計された熱伝導性絶縁層(A)と、高い熱伝導性を発現できるように設計された熱伝導性絶縁層(B)とが、熱伝導性絶縁層(A)が最外層となるように積層され、機能分離構成を有していることにより、熱伝導性と絶縁性との両立が可能となる。
【0022】
さらに、本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、下記条件(1)〜(3)の全てを満たし、
前記熱伝導性絶縁接着部材の厚みdに対する、放熱ベース基板の熱伝導性接着部材と接する面の表面粗さ(Ra(i))との比率(Ra(i))/d)が0.5%以下であり、
前記熱伝導性絶縁接着部材の厚みdに対する、発熱体の熱伝導性接着部材と接する面の表面粗さ(Ra(ii))との比率(Ra(ii)/d)が0.5%以下であることにより、冷熱サイクル試験の際、放熱ベース基板や熱を発生し得る部材の膨張・伸縮から発生する応力を緩和することが可能であり、パワー半導体装置としての熱疲労に対する信頼性(絶縁性、熱伝導性)が向上する。
【0023】
(1)熱伝導性フィラーが、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し、窒化ホウ素粒子を含有し得る熱伝導性絶縁層(A)と、熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素粒子を含有し、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し得る熱伝導性絶縁層(B)とを有する。
(2)前記熱伝導性絶縁層(A)と前記熱伝導性絶縁層(B)とは、前記熱伝導性絶縁層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されている。
(3)最も外側に位置する前記熱伝導性絶縁層(Aout)における熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XA)が、前記熱伝導性絶縁層(B)に含有し得る熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XB)よりも高い。
【0024】
なお、それぞれの熱伝導性絶縁層(A)または熱伝導性絶縁層(A)における熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率とは、熱伝導性絶縁層における熱導電性フィラー、バインダー樹脂、硬化剤等の不揮発分合計100質量%中の、熱伝導性球状フィラー(X)の含有量(質量%)である。
【0025】
本発明においては、熱伝導性絶縁接着部材の厚みは、40〜1100μmであることが好ましい。絶縁性、熱伝導性、ハンドリング、熱応力緩和の観点から、好ましくは、50〜1000μmであり、特に好ましくは、100〜800μmである。
厚みを40μm以上にすることで耐久性および絶縁性が向上する。厚みを1100μm以下にすることで熱伝導性を良好に保つことができる。
【0026】
熱伝導性接着部材の絶縁性は、デバイスが正常に動作するためには絶縁性が強く求められることから、0.5kV以上、好ましくは2kV以上の絶縁破壊電圧を有することが好ましい。
絶縁破壊電圧は、例えば、鶴賀電機株式会社製のTM650耐電圧試験器等を用いて測定することができる。
【0027】
{熱伝導性絶縁層(A)}
熱伝導性絶縁層(A)は、熱伝導性フィラーが熱伝導性球状フィラー(X)を含有し、窒化ホウ素粒子を含有し得る熱伝導性絶縁層であり、主に熱伝導性球状フィラー(X)を含有する。また、最も外側に位置する前記熱伝導性絶縁層(Aout)となる。
【0028】
熱伝導性絶縁層(A)は、熱伝導性球状フィラー(X)と窒化ホウ素粒子とバインダー樹脂との合計100質量%中、熱伝導性球状フィラー(X)を30〜90質量%、窒化ホウ素粒子を0〜30質量%含むことが好ましい。
前記熱伝導性絶縁層(A)中の熱伝導性球状フィラー(X)の含有量(質量%)は、熱伝導性の点から30質量%以上、塗膜形成性の点から90質量%以下であり、望ましくは50〜80質量%の範囲である。
本発明の熱伝導性絶縁接部材は、熱伝導性絶縁層(B)よりも、相対的に熱伝導性球状フィラー(X)を多く含む熱伝導性絶縁層(A)を、最外層になるように交互に積層した構成を有する。
また、最も外側に位置する熱伝導性絶縁層(Aout)における熱伝導性球状フィラー(X)の含有量(XA質量%)が、熱伝導性絶縁層(B)に含有し得る熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XB質量%)よりも高いことで、発熱体や放熱ベース基板の凹凸への追従性・接着性が向上する。
【0029】
{熱伝導性絶縁層(B)}
熱伝導性絶縁層(B)は、熱伝導性フィラーが窒化ホウ素粒子を含有し、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し得る熱伝導性絶縁層である。
【0030】
熱伝導性絶縁層(B)は、主に窒化ホウ素粒子を含有する熱伝導性絶縁層(B)であり、高い熱伝導率を有し、熱伝導性絶縁接着部材全体の熱伝導性を高める機能を担う。
熱伝導性絶縁層(B)は、熱伝導性球状フィラー(X)と窒化ホウ素粒子とバインダー樹脂との合計100質量%中、窒化ホウ素粒子を30〜90質量%含み、熱伝導性球状フィラー(X)を0〜30質量%含むことが好ましい。
熱伝導性絶縁層(B)中の窒化ホウ素粒子の含有量は、熱伝導性の点から30質量%以上、膜形成性の点から90質量%以下であり、望ましくは40〜80質量%の範囲である。
【0031】
熱伝導性絶縁層(B)は、30質量%以下の範囲で熱伝導性球状フィラー(X)を併用してもよい。
【0032】
鱗片状の窒化ホウ素粒子に対しては、熱伝導性球状フィラー(X)がジャマ板の機能を担い、鱗片状の窒化ホウ素粒子が熱伝導性絶縁層(B)中で「立ち」やすくなる。
造粒窒化ホウ素粒子に対し、熱伝導性球状フィラー(X)を併用すると、造粒窒化ホウ素粒子に圧力をかけても崩れにくくなるが、熱伝導性球状フィラー(X)が30質量%を超えると、相対的に熱伝導性絶縁層(B)等中の窒化ホウ素粒子量が少なくなり熱伝導性が低下したり、バインダー樹脂量が不足し、膜形成性が低下したりする場合がある。
併用する熱伝導性球状フィラー(X)の種類は、熱伝導性絶縁層(A)で用いられているものと同じである必要はない。
【0033】
<空隙率>
本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、空隙率が0.2以下であることが好ましい。
熱伝導性絶縁接着部材は、発熱体と放熱ベース基板との間に挟まれ使用される。そのため、発熱体から生じた熱を効率的に放熱部材に伝え、さらに十分な絶縁性を確保するために空隙率は0.2以下であることが好ましく、さらに0.15以下であることが望ましい。空隙率が0.2以下であることにより絶縁性がより優れたものとなり、シートの凝集力が向上し、機械的強度や接着力が良好となり、空気・水分のシート内部への侵入を防止し、耐久性が向上する。
【0034】
本発明でいう空隙率は以下の式にて求められる。
空隙率=1−(熱伝導性絶縁接着シートの実測密度/熱伝導性絶縁接着シートの理論密度)
熱伝導性絶縁接着シートの実測密度=熱伝導性絶縁シート質量(g)/熱伝導性絶縁接着シート体積(cm
熱伝導性絶縁接着シートの理論密度=単層樹脂シート(A’)および単層樹脂シート(B’)の質量の和(g)/同体積の和(cm
単層樹脂シート(A’)および単層樹脂シート(B’)の体積=同質量(g)/同密度(g/cm
窒化ホウ素粒子、熱伝導性球状フィラー(X)等の密度は一般的なものを用いる。
バインダー樹脂その他の有機成分の密度は仮に1とする。
【0035】
熱伝導性絶縁接着シートに空隙がない場合、実測密度と理論密度が等しくなり、空隙率=0となる。
仮に熱伝導性絶縁接着シートの実測重量に対し体積が無限大に大きい場合、実測密度≒0となり、空隙率≒1となる。
熱伝導性絶縁接着シートが空隙を含み実測密度が理論密度を下回る場合、空隙率は0〜1の値となる。
【0036】
なお、発熱体と放熱ベース基板との間に挟まれた状態での空隙率が測定困難な場合は、熱伝導性絶縁性接着シートに剥離シートを貼った状態で、挟んで使用する場合と同様の条件で加圧プレスした後、空隙率を測定することにより、空隙率を求めることができる。
発熱体と放熱ベース基板との間に挟まれた状態での空隙率を予測することにより、熱伝導性絶縁接着シートの使用条件を設定することができる。
【0037】
本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、主に窒化ホウ素粒子を含有し、空隙の多い単層樹脂シート(B’)の両面を、主に熱伝導性球状フィラーを含有する単層樹脂シート(A’)で挟み、加圧することより得られる。主に熱伝導性球状フィラーを含有する単層樹脂シート(A’)は、含まれる熱伝導性フィラーが球状なので、無溶剤状態でも単層樹脂シート(A’)が加圧・加熱により容易に変形しやすい。その結果、単層樹脂シート(A’)中に含まれ、単層樹脂シート(B’)との積層界面近傍に位置していた熱伝導性球状フィラー(X)やバインダー樹脂、および含まれ得る窒化ホウ素粒子の一部が、加圧・加熱により、空隙の多い単層樹脂シート(B’)内の空隙を埋め、熱伝導性絶縁接着部材全体の空隙率を低減することができる。
そして、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し、変形しやすい熱伝導性絶縁層(A)が最外層に位置することにより、熱を発生し得る部材を含む発熱体や放熱ベース基板の凹凸への追従性・接着性が向上でき、その点からも熱伝導性が向上できたものと考察する。
【0038】
<最外層の占有体積率>
また、本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、最も外側に位置する熱伝導性絶縁層(Aout)の不揮発成分全体積中の熱伝導性フィラーの占有体積率が、50%よりも多く90%以下であることが好ましい。
【0039】
熱伝導性絶縁層(A)は、熱伝導性絶縁接着部材において最外層(Aout)となり、発熱体や冷却器と直接接触する層であるため、接着性と共に高い熱伝導性が必要とされる。そのため、最外層(Aout)もしくは単層樹脂シート(A’)中における熱伝導性球状フィラー(X)、窒化ホウ素粒子、及びバインダー樹脂の合計体積100%中、含まれる熱伝導性球状フィラーと窒化ホウ素粒子を合わせた占有体積は50%より多いことが好ましく、接着性等の実用物性を鑑みると、更に好ましくは、50%より多く、90%以下であることが好ましい。
【0040】
占有体積率(vol%と呼ぶ)は次のようにして算出することができる。
熱伝導性球状フィラーの重量(g)÷フィラー比重(g/cm)・・・(1)
窒化ホウ素粒子の重量(g)÷窒化ホウ素粒子比重(g/cm)・・・(2)
熱伝道性フィラー以外のその他の成分(g)÷1(g/cm)・・・(3)
体積%=100×{((1)+(2))/((1)+(2)+(3))
※熱伝道性フィラー以外のその他の成分は、計算を容易にするため比重を1g/cmとした。
なお、本発明では、用いるバインダー樹脂、熱伝導性球状フィラー、及び窒化ホウ素粒子は不揮発性成分であるため、例えば、シート(A’)やシート(B’)を加圧、加熱した前後で不揮発性成分中の上記占有体積率は変化しないとみなす。
【0041】
なお、加圧・加熱により、単層樹脂シート(A’)中に含まれていた熱伝導性球状フィラー(X)、バインダー樹脂および含まれ得る窒化ホウ素粒子がどの程度単層樹脂シート(B’)に移行し、単層樹脂シート(B’)の空隙率を埋めたのかを特定する手段がないこと(若しくは特定には非現実的な多大な労力を要すこと)、そして本発明で用いるバインダー樹脂、熱伝導性球状フィラー(X)、及び窒化ホウ素粒子は不揮発性成分であることから、単層樹脂シート(A’)や単層樹脂シート(B’)を加圧、加熱した前後で、占有体積率は変化しないとみなすことができるため、単層樹脂シート(A’)中に含まれていた各成分の量をもって、層(Aout)中の量とし占有体積率を求めることができる。
【0042】
なかでも、熱伝導性絶縁接着部材は、空隙率が0.2以下かつ、最も外側に位置する熱伝導性絶縁層(Aout)中の、熱伝導性フィラーの占有体積率が、50体積%よりも多く90%体積以下であることが好ましい。このような熱伝導性絶縁接着部材である場合、窒化ホウ素粒子をシート内で「立て」つつ、熱伝導性絶縁接着部材中の空隙を出来るだけ少なくできるほか、最外層となる熱伝導性絶縁層(Aout)中に含まれる熱伝導性球状フィラー(X)の効果で流動性が増し、発熱体や放熱ベース基板の表面凹凸への追従性が上がる。更には熱伝導性を有する最外層となる熱伝導性絶縁層(Aout)が熱伝導性絶縁接着部材内の空隙を埋める役割をし、熱伝導性絶縁接着部材内部の熱伝導性能を活かすことができ、高い熱伝導性と絶縁性の両立が可能とすることができる。
【0043】
<熱伝導性絶縁接着シート>
熱伝導性絶縁接着部材を形成する熱伝導性絶縁接着シートは熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む単層樹脂シートを用いて形成することができる。
熱伝導性フィラーが熱伝導性球状フィラー(X)を含有し、窒化ホウ素粒子を含有し得る熱伝導性絶縁層(A)を形成するための単層樹脂シート(A’)、および、熱伝導性フィラーが窒化ホウ素粒子を含有し、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し得る熱伝導性絶縁層(B)を形成するための、単層樹脂シート(B’)を用い、熱伝導性絶縁層(A)と熱伝導性絶縁層(B)とが、前記熱伝導性絶縁層(B)が最外層には位置しないように交互に積層することで、熱伝導性絶縁接着シートが得られる。
また、このとき、最も外側に位置する熱伝導性絶縁層(Aout)における熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XA質量%)が、熱伝導性絶縁層(B)に含有し得る熱伝導性球状フィラー(X)の含有質量率(XB質量%)よりも高いことを特徴とする。

【0044】
このように、基材との密着性や絶縁性を高めるように設計された熱伝導性絶縁層(A)と、高い熱伝導性を発現できるように設計された熱伝導性絶縁層(B)とが、熱伝導性絶縁層(A)が最外層となるように積層され、機能分離構成を有していることが必要である。
【0045】
また、本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、主に熱伝導性球状フィラー(X)を含有する最外層(Aout)の外側を、剥離性シートで覆うこともできる。
【0046】
本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、放熱ベース基板と熱を発生し得る部材を含む発熱体との間に挟まれ使用される。そのため、熱を発生し得る部材を含む発熱体から生じた熱を効率的に放熱ベース基板に伝え、さらに十分な絶縁性を確保するために空隙率は0.2以下であることが好ましく、さらに0.15以下であることが望ましい。空隙率が0.2を超えると十分な絶縁性が得られなかったり、シートの凝集力が低下し機械的強度や接着力が低下したり、空気・水分がシート内部に侵入したりしやすくなり耐久性が低下する恐れがある。
また、一般的に電荷は細く尖った部分に密集しやすいという性質を持っており、例えば、熱を発生し得る部材を含む発熱体と、熱伝導絶縁接着部材との接合面が粗く凹凸部が存在する場合、つまりRa値が大きい場合には、複合部材とした際に、膜厚が薄くなるという理由だけでなく、表面の凸部に集中した電荷を起点にして絶縁破壊に至るケースも多くある。ここで、熱伝導性絶縁接着部材が空隙率が0.2以下の緻密な膜を形成しているということは、電荷の通り道となる空気層が少ない、ということを意味することから、より絶縁信頼性を高めることが可能となる。
【0047】
{単層樹脂シート}
熱伝導性絶縁接着シートは、熱伝導性絶縁層(A)を形成する単層樹脂シート(A’)、および熱伝導性絶縁層(B)を形成する単層樹脂シート(B’)を積層し、形成することができる。
単層樹脂シートは、熱伝導性フィラーおよびバインダー樹脂を含む塗液を調製し、これを剥離性シートに塗工後、液状分散媒を揮発乾燥し、剥離性シート付きの単層樹脂シートとすることができる。
単層樹脂シートが含有する熱伝導性フィラー中の、熱伝導性球状フィラー(X)、および窒化ホウ素粒子の含有量と、バインダー樹脂等の不揮発分の含有量を調製することで、それぞれ、熱伝導性絶縁層(A)、または熱伝導性絶縁層(B)を形成するための単層樹脂シートが得られる。
【0048】
熱伝導性絶縁層(A)を形成するための単層樹脂シート(A’)は、熱伝導性フィラーが熱伝導性球状フィラー(X)を含有し、窒化ホウ素粒子を含有し得る熱伝導性絶縁層を形成するためのシートであり、主に熱伝導性球状フィラー(X)を含有する。また、最も外側に位置する前記熱伝導性絶縁層(Aout)を形成する。
【0049】
単層樹脂シート(A’)は、熱伝導性球状フィラー(X)と窒化ホウ素粒子とバインダー樹脂との合計100質量%中、熱伝導性球状フィラー(X)を30〜90質量%、窒化ホウ素粒子を0〜30質量%含むことが好ましい。
前記単層樹脂シート(A’)中の熱伝導性球状フィラー(X)の含有量(質量%)は、熱伝導性の点から30質量%以上、塗膜形成性の点から90質量%以下であり、望ましくは50〜80質量%の範囲である。
【0050】
熱伝導性絶縁層(B)を形成するための単層樹脂シート(B’)は、熱伝導性フィラーが窒化ホウ素粒子を含有し、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し得る熱伝導性絶縁層を形成するためのシートである。
【0051】
単層樹脂シート(B’)は、主に窒化ホウ素粒子を含有するため、高い熱伝導率を有し、熱伝導性絶縁接着部材全体の熱伝導性を高める機能を担う。
単層樹脂シート(B’)は、熱伝導性球状フィラー(X)と窒化ホウ素粒子とバインダー樹脂との合計100質量%中、窒化ホウ素粒子を30〜90質量%含み、熱伝導性球状フィラー(X)を0〜30質量%含むことが好ましい。
単層樹脂シート(B’)中の窒化ホウ素粒子の含有量は、熱伝導性の点から30質量%以上、膜形成性の点から90質量%以下であり、望ましくは40〜80質量%の範囲である。
【0052】
熱伝導性絶縁層(B)は、30質量%以下の範囲で熱伝導性球状フィラー(X)を併用してもよい。
【0053】
鱗片状の窒化ホウ素粒子に対しては、熱伝導性球状フィラー(X)がジャマ板の機能を担い、鱗片状の窒化ホウ素粒子が単層樹脂シート(B’)中で「立ち」やすくなる。
造粒窒化ホウ素粒子に対し、熱伝導性球状フィラー(X)を併用すると、造粒窒化ホウ素粒子に圧力をかけても崩れにくくなるが、熱伝導性球状フィラー(X)が30質量%を超えると、相対的に単層樹脂シート(B’)等中の窒化ホウ素粒子量が少なくなり熱伝導性が低下したり、バインダー樹脂量が不足し、膜形成性が低下したりする場合がある。
【0054】
単層樹脂シートは、必要に応じて、難燃剤、充填剤、その他各種添加剤を含むことができる。
難燃剤としては例えば、水酸化アルミニウム、および水酸化マグネシウム、リン酸化合物等が挙げられる。
添加剤として例えば、基材密着性を高めるためのカップリング剤、吸湿時・高温時の信頼性を高めるためのイオン捕捉剤・酸化防止剤、およびレベリング剤等が挙げられる。
【0055】
[熱伝導性フィラー]
本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、熱伝導性フィラーを含有し、熱伝導性絶縁層(A)は、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し、窒化ホウ素粒子を含有し得る。熱伝導性絶縁層(B)は、窒化ホウ素粒子を含有し、熱伝導性球状フィラー(X)を含有し得る。
【0056】
(熱伝導性球状フィラー(X))
熱伝導性球状フィラー(X)は、窒化ホウ素粒子以外の、球状である熱伝導性フィラーであれば、従来公知の熱伝導性フィラーを用いることができる。
熱伝導性球状フィラー(X)としては、例えば、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム等の金属窒化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸金属塩、ケイ酸カルシウム等のケイ酸金属塩、水和金属化合物、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、炭化ケイ素またはこれらの複合物等が挙げられる。これらは、1種類でもよいし複数の種類を併用することもできる。
球形度、熱伝導性、絶縁性の観点からアルミナまたは窒化アルミニウムの少なくとも一方であることが望ましい。
【0057】
本発明において球状であるとは、例えば、「円形度」であらわすことができ、この円形度とは、粒子をSEM等で撮影した写真をから任意の数の粒子を選び、粒子の面積をS、周囲長をLとしたとき、(円形度)=4πS/L2として表すことができる。円形度を測定するには、各種画像処理ソフト、または画像処理ソフトを搭載した装置を使用することができるが、本発明では、東亜医用電子(株)製フロー式粒子像分析装置FPIA−1000を用いて粒子の平均円形度を測定した際の平均円形度が0.9〜1のものをいう。好ましくは、平均円形度が0.96〜1である。
【0058】
熱伝導性球状フィラー(X)の大きさは、特に制限されないが、熱伝導性の観点から、平均粒子径10μm〜100μmの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、平均粒子径10μm〜50μmの範囲であると良い。熱伝導性球状フィラー(X)の平均粒子径が10μmよりも小さいと熱伝導性を発現するために必要な充填量が増えるが、その際、比表面積が大きいために空隙ができやすくなり、絶縁性を損なう恐れがある。また、平均粒子径が100μmを超えると、熱伝導性は有利になるが、塗液中で沈降するなど塗工の際の不具合を生じる可能性がある。
【0059】
(窒化ホウ素粒子)
本発明では種々の窒化ホウ素粒子を用いることができ、例えば、鱗片状、凝集体、造粒体等を使用することができる。
窒化ホウ素粒子は熱伝導性に異方性を有するため、鱗片状の一次粒子を造粒した造粒窒化ホウ素粒子が好適に用いられる。しかし、変形しにくい造粒窒化ホウ素粒子では圧力をかけても空隙が残りやすいため、特に、易変形性造粒窒化ホウ素粒子を用いることが好ましい。窒化ホウ素粒子をシート内で「立て」つつ、シート内の空隙を出来るだけ少なくし、最外層がシート内部の熱伝導性能を活かすことにより、高い熱伝導性と絶縁性の両立が可能となるために好ましい。
【0060】
本発明でいう易変形性造粒窒化ホウ素粒子とは、平均一次粒子径が0.1〜15μmの窒化ホウ素粒子を造粒してなる、平均粒子径が2〜100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下の窒化ホウ素粒子の凝集体である。
易変形性造粒窒化ホウ素粒子は、熱伝導性絶縁接着シートを形成する際の圧力を調整し、変形を適度な範囲に調整することで、空隙率の低下と熱伝導性を両立することが容易であるため好適に用いられる。
【0061】
本発明において「一次粒子」とは、単独で存在することができる最小粒子を表し、「平均一次粒子径」とは、走査型電子顕微鏡で観察される一次粒子径の長径を意味する。「一次粒子径の長径」とは、球状粒子については一次粒子の最大直径を意味し、六角板状または円板状粒子については、それぞれ厚み方向から観察した粒子の投影像における最大直径または最大対角線長を意味する。具体的に「平均一次粒子径」は、300個の粒子の長径を上記方法により測定し、その個数平均として算出する。
圧縮変形率10%に要する平均圧縮力は、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCT−210)を用い、測定領域内で無作為に選んだ10個の粒子について、粒子を10%変形させるための荷重を測定し、求めることができる。
【0062】
[バインダー樹脂]
本発明で使用されるバインダー樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、ゼラチン、スチレン−無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、および塩素化ポリウレタン樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂は、1種または2種以上を用いることができる。
【0063】
上記の中でも、柔軟性の観点からはウレタン系樹脂もしくはポリアミド樹脂が好適に用いられ、電子部品として用いる際の絶縁性および耐熱性等の観点からはエポキシ系樹脂が好適に用いられる。
【0064】
バインダー樹脂としては、バインダー樹脂自体硬化するか、もしくは適当な硬化剤との反応により硬化するものを用いることができる。
【0065】
バインダー樹脂に反応基としてカルボキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基等を有する場合、これと反応し得る硬化剤として2官能以上の、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレート等を含んでもよい。
【0066】
[熱伝導性絶縁接着シートの製造方法]
本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、例えば以下のような方法で得ることができる。
熱伝導性球状フィラーと窒化ホウ素粒子とバインダー樹脂との合計100質量%中、熱伝導性球状フィラー(X)を30〜90質量%、窒化ホウ素を0〜30質量%、液状分散媒、および必要に応じて他の任意成分を含有する塗液(A‘’)を調製し、これを剥離性シートに塗工後、液状分散媒を揮発乾燥し、剥離性シート付きの単層樹脂シート(A’)を作製する。
【0067】
別途、同様にして熱伝導性球状フィラー(X)と窒化ホウ素粒子とバインダー樹脂との合計100質量%中、窒化ホウ素粒子を30〜90質量%含み、熱伝導性球状フィラー(X)を0〜30質量%、液状分散媒、および必要に応じて他の任意成分を含有する塗液(B‘’)を調製し、これを離形性シートに塗工後、溶剤を揮発乾燥し、剥離性シート付きの単層樹脂シート(B’)を作製する。
【0068】
しかる後、剥離性シート付きの単層樹脂シート(B’)の剥離性シートとは反対側と、剥離性シート付きの単層樹脂シート(A’)の剥離性シートとは反対側とを重ね合せる。重ね合せる際、加圧することもできる。
次いで単層樹脂シート(B’)の表面を覆っていた剥離性シートを剥がし、露出した単層樹脂シート(B’)の表面に、他の剥離性シート付きの単層樹脂シート(A’)の剥離性シートとは反対側を重ね合せ、[剥離性シート/単層樹脂シート(A’)/単層樹脂シート(B’)/単層樹脂シート(A’)/剥離性シート]という状態の積層体を得る。
そして、前記積層体を加圧することにより、単層樹脂シート(A’)/単層樹脂シート(B’)/単層樹脂シート(A’)を一体化し、「熱伝導性絶縁層(Aout)/熱伝導性絶縁層(B)/熱伝導性絶縁層(Aout)]を形成可能な熱伝導性絶縁接着シートを得る。
両面の剥離性シートを剥がしてから加圧することもできる。
加圧圧着方法は特に限定されず、公知のラミネーターまたはプレス処理機を使用することができる。加圧する際には加熱することが好ましい。
【0069】
熱伝導性絶縁接着シートは、最も基本的な「層(Aout)/層(B)/層(Aout)]という積層構成の他、「層(Aout)/層(B)/層(A)/層(B)/層(Aout)]や「層(Aout)/層(B)/層(A)/層(B)/層(A)/層(B)/層(Aout)]となるように、任意の膜厚に合わせて交互に積層することもできる。
【0070】
単層樹脂シート(A’)形成用の前記塗液(A‘’)、単層樹脂シート(B’)形成用の前記塗液(B‘’)は、熱伝導性フィラー、バインダー樹脂、溶剤、および必要に応じて他の任意成分を撹拌混合することで製造することができる。
撹拌混合には一般的な撹拌方法を用いることができる。撹拌混合機としては特に限定されないが、例えば、ディスパー、ミキサー、混練機、スキャンデックス、ペイントコンディショナー、サンドミル、らいかい機、メディアレス分散機、三本ロール、およびビーズミル等が挙げられる。
【0071】
撹拌混合後は、塗液(A‘’)および塗液(B‘’)から気泡を除去するために、脱泡工程を経ることが好ましい。脱泡方法としては、特に制限されないが、例えば、真空脱泡、および超音波脱泡等が挙げられる。
【0072】
剥離性シートとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムに離型処理したものが挙げられる。
【0073】
剥離性シートへの塗液(A‘’)および塗液(B‘’)の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ナイフコート、ブレードコオート、コンマコート、ダイコート、リップコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、グラビアコート、フレキソコート、ディップコート、スプレーコート、スクリーンコート、ディスペンサー、インクジェットおよびスピンコート等が挙げられる。
【0074】
単層樹脂シート(A’)および単層樹脂シート(B’)の膜厚、単位面積当たりの塗布質量は特に規定しないが、単層樹脂シート(B’)の膜厚に対し、単層樹脂シート(A’)の膜厚が相対的に十分厚い場合、積層により効果的に空隙を減少できる。例えば、[層(A)/層(B)/層(A)]の熱伝導性絶縁接着シートの場合、熱伝導性絶縁層(A)形成用の単層樹脂シート(A’)の膜厚は熱伝導性絶縁層(B)形成用の単層樹脂シート(B’)の半分程度であることが好ましいが、各単層樹脂シートの厚みは、最終的に得られる[層(A)/層(B)/層(A)]の空隙率と熱伝導率を見ながら、積層時の加圧・加熱条件を勘案し決定することができる。
加圧圧着時の温度および圧力は適宜選択することが出来るが、高圧にしすぎると窒化ホウ素粒子が「寝て」しまい熱伝導性が低下し、低すぎると熱伝導性絶縁接着シート内に空隙が残り、熱を発生し得る部材を含む発熱体と放熱ベース基板との間に挟み使用する際の熱伝導性が低下する場合がある。
【0075】
加圧プレス処理方法は特に限定されず、公知のプレス処理機やラミネーターを使用することができる。加圧プレス時の温度は適宜選択することが出来るが、熱硬化性接着シートとして使用するのであれば、バインダー樹脂の熱硬化が起こる温度以上で加熱することが望ましい。必要に応じて、減圧することにより大気圧との差で加圧プレスすることができる。
【0076】
本発明の熱伝導性絶縁接着シートは、主に熱発生源としての電子部材(熱を発生し得る部材を含む発熱体)と冷却器(放熱ベース基板)との間をつなぎ、熱を効率良く逃がす用途に用いられる。放熱対象の物品としては特に制限はないが、例えば、集積回路、ICチップ、ハイブリッドパッケージ、マルチモジュール、パワートランジスタ、パワー半導体パッケージ、面抵抗器、及びLED(発光ダイオード)用基板等の種々の電子部品や、建材、車両、航空機、および船舶等に用いられ、熱を帯びやすく、性能劣化を防ぐためにその熱を外部に逃がす必要がある物品等が挙げられる。
【0077】
《放熱ベース基板》
本発明の放熱ベース基板について説明する。
放熱ベース基板とは、熱を発生し得る部材を含む発熱体から発生した熱を最終的に逃がすための部材であり、本発明の放熱ベース基板としては、公知のものを使用することができる。
【0078】
本発明の放熱ベース基板は、熱伝導性絶縁接着部材の厚みdに対する、発熱体の熱伝導性接着部材と接する面の表面粗さRa(Ra(i))との比率(Ra(i)/d)が、0.5%以下である。これにより絶縁性と耐久性を向上することができる。
【0079】
熱伝導性接着部材の厚み(d)に対する放熱ベース基板の(Ra(i))の比率が、0.001%以上0.5%以下であることが好ましく、より好ましくは、0.4%以下である。
【0080】
また、放熱ベース基板は、熱伝導性絶縁接着部材と接触する面の表面粗さ(Ra(i))が0.1〜2μmであることが好ましく、0.2〜1.7μmがさらに好ましい。放熱ベース基板のRaを0.1以上とすることで、アンカー効果によって熱伝導性絶縁接着部材との密着性が上がるため耐久性が向上する。放熱ベース基板の表面粗さ(Ra(i))を2以下とすることで、放熱ベース基板の凸部の高さが抑制されるため絶縁性が向上する。
表面粗さRaは、算術平均粗さRaを指し、規定された中心線平均粗さであり、その基準粗さを1mmとした場合の中心線平均粗さである。測定は、JIS B0601‘2001に準じて行うことができる。
【0081】
放熱ベース基板は金属やセラミックスが好適に使用され、特に限定はないが、例えば、アルミニウム、銅、鉄、タングステン、モリブデン、マグネシウム、銅―タングステン合金、銅―モリブデン合金、銅―タングステンーモリブデン合金、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが挙げられ、単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0082】
放熱ベース基板は、放熱効率を高めるためにフィンを取り付けてもよい。フィンとしては、公知のものを使用することができる。フィンの形状としては、特に限定はないが、例えば、ストレートフィン型、ウェイビーフィン型、オフセットフィン型、ピンフィン型、コルゲートフィン型などが挙げられ、使用目的により適宜選択して用いることができる。
【0083】
《発熱体》
本発明における発熱体は、熱を発生し得る部材を含み、熱を発生し得る部材単独、または、金属板等の導電性部材上にはんだ等の接合剤を介して熱を発生し得る部材が積層された形態等が挙げられる。
【0084】
本発明の発熱体は、熱伝導性絶縁接着部材の厚みdに対する、発熱体の熱伝導性接着部材と接する面の表面粗さRa(Ra(ii))との比率(Ra(ii)/d)が、0.5%以下である。これにより絶縁性と耐久性を向上することができる。
【0085】
熱伝導性接着部材の厚みdに対する放熱ベース基板の(Ra(ii))の比率は、0.001%以上0.5%以下であることが好ましく、より好ましくは、0.4%以下である。
【0086】
発熱体の表面粗さ(Ra(ii))、すなわち熱伝導性絶縁接着部材と接する、熱を発生し得る部材または導電性部材の表面の粗さは、0.1〜2μmであることが好ましく、0.2〜1.7μmがさらに好ましい。
このように、熱を発生し得る部材、または導電性部材において熱伝導性絶縁接着部材と接触する面は、放熱ベース基板で説明した同様の理由に加え、電荷は細く尖った部分に密集しやすいという性質があるため絶縁性の観点からも、表面粗さ(Ra(ii))は、0.1〜2μmであることが好ましい。
【0087】
本発明の熱を発生し得る部材とは、集積回路、ICチップ、ハイブリッドパッケージ、マルチモジュール、パワートランジスタ、パワー半導体素子、面抵抗器、及びLED(発光ダイオード)用基板等の種々の電子部品などが挙げられる。また、他に、建材、車両、航空機、および船舶等に用いられ、熱を帯びやすく、性能劣化を防ぐためにその熱を外部に逃がす必要がある物品等が挙げられる。特に、前述の熱伝導性絶縁接着部材は、パワー半導体モジュールに好適に用いることができる。
【0088】
パワー半導体モジュールの形態には特に制限はないが、一般的に、パワー半導体素子が金属板等の導電性部材上にはんだ等の接合剤を介して積層された積層体であり、さらに前記積層体が樹脂で封止されている構造をとる。この導電性部材と前記放熱ベース基板とが、前述の熱伝導性絶縁接着部材を介して接続されている。この構造により、パワー半導体モジュールが駆動した際に生じる熱が放熱ベース基板へと効率よく伝播し、放熱がされる。
【0089】
パワー半導体モジュールに使用される導電性部材としては、例えば、銀、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、スズ、鉄、鉛などの金属や、それらの合金、カーボンなどが挙げられ、回路パターンが形成されていてもよい。これらは、樹脂やセラミック上に積層されていてもよい。
【0090】
前記導電性部材は、パワー半導体素子と熱伝導性絶縁接着部材との間に積層されており、パワー半導体で生じた熱を熱伝導性絶縁接着部材への伝える役割も果たす。そのため、結果的に前記放熱ベース基板への伝熱が効果的に行われ、パワー半導体素子の放熱が促進される。
【0091】
このように本発明の複合部材は、熱伝導性と絶縁性を両立し、密着性や耐久性も良好なことから、家電、産業ロボット、輸送機器などの電子機器やパワー半導体モジュールのほか、建材、車両、航空機、および船舶にも広く使用することができる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例において、「部」および「%」は特に明記しない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」を表す。Mwは質量平均分子量を表す。
【0093】
熱伝導性フィラーの平均粒子径、円径度、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力の測定方法は以下の通りである。
<平均粒子径>
熱伝導性球状フィラーの平均粒子径は、Malvern Instruments社製粒度分布計マスターサイザー2000を用いて測定した。測定の際には乾式ユニットを用い、空気圧は2.5バールとした。フィード速度はサンプルにより最適化した。
【0094】
<円形度>
熱伝導性球状フィラーの円形度は、東亜医用電子(株)製フロー式粒子像分析装置FPIA−1000を用いて平均円形度を測定した。トルエン10mlに測定したい粒子約5mgを分散させて分散液を調製し、超音波(20kHz、50W)を分散液に5分間照射し、分散液濃度を5,000〜2万個/μlとした。この分散液を用い、上記装置により測定を行い、円相当径粒子群の円形度を測定し、平均円形度を求めた。
【0095】
<圧縮変形率10%に要する平均圧縮力>
易変形性凝集体の圧縮変形率10%に要する平均圧縮力は微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCT−210)を用い、測定領域内で無作為に選んだ10個の粒子について、粒子を10%変形させるための荷重を測定した。その平均値を圧縮変形率10%に要する平均圧縮力とした。
【0096】
続いて実施例、および比較例で使用した材料を以下に示す。
[熱伝導性フィラー]
球状フィラー1:球状アルミナAO-509(平均粒子径=10μm、円径度=0.99)
球状フィラー2:球状アルミナCB-A20S(平均粒子径=21μm、円径度=0.98)
球状フィラー3:球状アルミナDAW45(平均粒子径=41μm、円径度=0.98)
窒化ホウ素粒子1:Agglomerates100(凝集タイプ、平均粒子径=65−85μm)
窒化ホウ素粒子2:PTX-60(造粒タイプ、平均粒子径=55−65μm)
【0097】
[バインダー樹脂]
<樹脂合成例1>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、多塩基酸化合物としてプリポール1009(クローダジャパン社製)を86.8質量部、5−ヒドロキシイソフタル酸を27.3質量部、ポリアミン化合物としてプリアミン1074(クローダジャパン社製)を146.4質量部、イオン交換水を100質量部仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分後とに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で、1時間保持し、温度を低下させた。
最後に、酸化防止剤を添加し、温度が100℃以下になったらトルエンと2−プロパノールの質量比1/1の混合溶剤で固形分40%に希釈し、Mw=19,000、酸価=14.5mgKOH/g、フェノール性水酸基価=32.3mgKOH/gのフェノール性水酸基含有ポリアミド樹脂(樹脂1)の溶液を得た。
【0098】
<樹脂合成例2>
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、および窒素導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸とアジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールとから得られたポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP−1011」、Mn=1006)401.9質量部、ジメチロールブタン酸12.7質量部、イソホロンジイソシアネート151.0質量部、およびトルエン40質量部を仕込み、窒素雰囲気下90℃3時間反応させ、これにトルエン300質量部を加えてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。
次に、イソホロンジアミン27.8質量部、ジ−n−ブチルアミン3.2質量部、2−プロパノール342.0質量部、トルエン396.0質量部を混合したものに、得られたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液815.1質量部を添加し、70℃3時間反応させ、トルエン144.0質量部および2−プロパノール72.0質量部で希釈し、固形分30%、Mw=54,000、酸価=8mgKOH/gのポリウレタンポリウレア樹脂(樹脂2)の溶液を得た。
【0099】
[その他成分]
<硬化剤>
硬化剤1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート1001)の50%トルエン溶液。
【0100】
<溶剤>
トルエンと2−プロパノールをあらかじめ質量比で1対1で混合したものを、以下混合溶剤とする。
【0101】
[放熱ベース基板]
放熱ベース基板1:Ra0.2μm、厚さ2mmのアルミニウムブロック
放熱ベース基板2:Ra0.1μm、厚さ2mmのアルミニウムブロック
放熱ベース基板3:Ra1.7μm、厚さ2mmのアルミニウムブロック
放熱ベース基板4:Ra2.0μm、厚さ2mmのアルミニウムブロック
放熱ベース基板5:Ra1.0μm、厚さ2mmのアルミニウムブロック
【0102】
[導電性部材]
導電性部材1:Ra0.2μm、2mmの銅ブロック
導電性部材2:Ra0.1μm、2mmの銅ブロック
導電性部材3:Ra1.7μm、2mmの銅ブロック
導電性部材4:Ra2.0μm、2mmの銅ブロック
導電性部材5:Ra1.2μm、2mmの銅ブロック
導電性部材6:Ra2.5μm、2mmの銅ブロック
【0103】
[単層樹脂シートの作製]
<単層樹脂シート1>
樹脂合成例1で得られた樹脂1の溶液を8.6質量部、硬化剤1を2.7質量部、混合溶剤を13.5質量部混ぜ合わせた中に、
平均円形度0.99、平均粒子径10μmである球状アルミナ((株)アドマテックス製アドマファインAO−509、以下「球状フィラーX1」という)21質量部と、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が1.32mNであり、平均粒子径が65〜85μmである造粒窒化ホウ素粒子(スリーエムジャパン株式会社製、Agglomerates100、以下、「窒化ホウ素粒子1」という)4.2質量部を加え、
ディスパー撹拌したのち、超音波攪拌機に2分かけて脱泡して得られた塗液を、6MILのブレードコーターを用いて、剥離性シート(厚さ75μmの離型処理ポリエチレンテレフタレートフィルム)に塗布し、100℃で2分間乾燥し、単層樹脂シート1の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体1を得た。
【0104】
組成から計算した単層樹脂シート1に含まれる、熱伝導性球状フィラー(X)(球状アルミナ)の質量%、窒化ホウ素粒子の質量%は以下の通り。
球状アルミナの質量%=(球状アルミナの質量/シート1各成分の乾燥質量の和)×100
=[21.0/(8.6×0.4+2.7×0.5+21.0+4.2)]×100
=70
窒化ホウ素粒子の質量%=(窒化ホウ素粒子の質量/シート1各成分の乾燥質量の和)×100
=[4.2/(8.6×0.4+2.7×0.5+21.0+4.2)]×100
=14
【0105】
組成から計算した単層樹脂シート1の理論密度は
(シート1各成分の乾燥質量の和)/(シート1各成分の乾燥体積の和)
=(樹脂1の乾燥質量+硬化剤1の乾燥質量+球状アルミナの質量+窒化ホウ素粒子の質量)/[(樹脂1の乾燥質量/樹脂1の密度)+(硬化剤1の乾燥質量/硬化剤の密度)+(球状アルミナの質量/球状アルミナの密度)+(窒化ホウ素粒子の質量/窒化ホウ素粒子の密度)]
=(8.6×0.4+2.7×0.5+21.0+4.2)/[(8.6×0.4/1)+(2.7×0.5/1)+(21.0/3.9)+(4.2/2.3)]
=2.50である。
【0106】
組成から計算した単層樹脂シート1中の熱伝導性球状フィラー(X)と窒化ホウ素粒子を合わせた熱伝導性フィラーの占有体積率は、
(1)熱伝導性球状フィラー(X)の重量(g)÷フィラー比重(g/cm
=21/3.9
=5.38(cm

(2)窒化ホウ素粒子の重量(g)÷窒化ホウ素粒子比重(g/cm
=4.2/2.3
=1.83(cm

(3)熱伝導性フィラー以外のその他の成分(g)÷1(g/cm
=((8.6×0.4)+(2.7×0.5))/1
=(3.44+1.35)/1
=4.79

体積%=100×{((1)+(2))/((1)+(2)+(3))
=100×{(5.38+1.83)/(5.38+1.83+4.79)}
=60(vol%)
【0107】
<単層樹脂シート2>
樹脂合成例2で得られた樹脂2の溶液を15質量部、硬化剤1を0.6質量部、混合溶剤を9.2質量部を混ぜ合わせた中に、
熱伝導性球状フィラー1を21質量部、窒化ホウ素粒子1を4.2質量部加え、ディスパー撹拌したのち超音波攪拌機に2分かけて脱泡して得られた塗液を用い、単層樹脂シート1同様にして、単層樹脂シート2の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体2を得た。
【0108】
<単層樹脂シート3>
樹脂合成例1で得られた樹脂1の溶液を12.4質量部、硬化剤1を3.9質量部、混合溶剤を10.6質量部混ぜ合わせた中に、
平均円形度0.98、平均粒子径が21μmである球状アルミナ(昭和電光株式会社製CB−A20S、以下、「球状フィラー2」という)を16.5質量部と、窒化ホウ素粒子1を6.6質量部加え、
ディスパー撹拌したのち超音波攪拌機に2分かけて脱泡して得られた塗液を用い、3MILのブレードコーターを用いた以外は単層樹脂シート1と同様にして、単層樹脂シート3の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体3を得た。
【0109】
<単層樹脂シート4>
樹脂合成例1で得られた樹脂1の溶液を8.6質量部、硬化剤1を2.7質量部、混合溶剤13.5質量部、平均円形度0.98であり、平均粒子径が41μmである球状アルミナ(デンカ株式会社製DAW−45、以下、「熱伝導性球状フィラー3」という)を21質量部、窒化ホウ素粒子2を4.2質量部とした以外は、単層樹脂シート1と同様にして、単層樹脂シート4の 一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体4を得た。
【0110】
<単層樹脂シート5>
樹脂合成例1で得られた樹脂1の溶液を6.5質量部、硬化剤1を2質量部、混合溶剤を15.1質量部、熱伝導性球状フィラー1を26.4質量部用いた以外は、単層樹脂シート1と同様にして、単層樹脂シート5の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体5を得た。
【0111】
<単層樹脂シート6>
樹脂合成例1で得られた樹脂1の溶液を8.1質量部、硬化剤1を2.5質量部、混合溶剤を21.4質量部、熱伝導性球状フィラー1を6.5質量部、窒化ホウ素粒子1を11.5質量部とした以外は、単層樹脂シート1と同様にして、単層樹脂シート6の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体6を得た。
単層樹脂シート1と同様の計算をして得た単層樹脂シート6の理論密度は2.02であった。
【0112】
<単層樹脂シート7>
樹脂合成例2で得られた樹脂2の溶液を14.1質量部、硬化剤1を0.6質量部、混合溶剤17.4質量部、熱伝導性球状フィラー1を6.5質量部、窒化ホウ素粒子1を11.5質量部とした以外は、単層樹脂シート1と同様にして、単層樹脂シート7の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体7を得た。
【0113】
<単層樹脂シート8>
樹脂合成例1で得られた樹脂1の溶液を8.1質量部、硬化剤1を2.5質量部、混合溶剤を21.4質量部、熱伝導性球状フィラー2を6.5質量部、窒化ホウ素粒子1を11.5質量部とし、3MILのブレードコーターを用いた以外は、単層樹脂シート1と同様にして、単層樹脂シート8の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体8を得た。
【0114】
<単層樹脂シート9>
樹脂合成例1で得られた樹脂1の溶液を8.1質量部、硬化剤1を2.5質量部、混合溶剤を21.4質量部、熱伝導性球状フィラー3を6.5質量部、窒化ホウ素粒子2を11.5質量部とした以外は、単層樹脂シート1と同様にして、単層樹脂シート9の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体9を得た。
【0115】
<単層樹脂シート10>
樹脂合成例1で得られた樹脂1の溶液を12.1質量部、硬化剤1を3.8質量部、混合溶剤を18.3質量部、窒化ホウ素粒子1を15.8質量部とした以外は、単層樹脂シート1と同様にして、単層樹脂シート10の一方の面が剥離性シートで覆われた中間積層体10を得た。
【0116】
単層樹脂シートの組成(固形分重量部)を表1に記す。
【0117】
【表1】
【0118】
[熱伝導性絶縁接着シートの製造]
<熱伝導性絶縁接着シート1>
中間積層体1から10cm×10cmの大きさで2枚、中間積層体6から10cm×10cmの大きさで1枚を切出した。剥離性シートを除いた、単層樹脂シート1の質量は0.876gと0.849g、単層樹脂シート6の質量は1.039gであった。
【0119】
中間積層体1の剥離性シートとは反対側と、中間積層体6の剥離性シートとは反対側とを合わせ、ロールラミネーターにて貼り合せた。
次に中間積層体6側の剥離性シートを剥離し、露出した単層樹脂シート6の表面に、他の中間積層体1の剥離性シートとは反対側を同様に貼り合せ、両面が剥離性シートで覆われた熱伝導性絶縁接着シート1の積層体を得た。
なお、ラミネート条件は、ロール温度上下80℃、ラミネート圧0.6MPa、速度0.5m/分とした。
【0120】
熱伝導性絶縁接着シート1の理論密度は、以下の通り。
理論密度=単層樹脂シートの質量の和(g)/同体積の和(cm
=(シート1の質量(g)+シート6の質量(g))/(シート1の体積(cm)+シート6の体積(cm))
=(シート1の質量(g)+シート6の質量(g))/[(シート1の質量/シート1の理論密度)+(シート6の質量/シート6の理論密度)]
=((0.876+0.849)+1.039)/((0.876+0.849)/2.50+1.039/2.02)
=2.29となる。
【0121】
次いで、10cm×10cmの大きさの熱伝導性絶縁接着シート1の両面が剥離性シートで覆われた積層体を5cm×5cmの大きさに4分割する。
そのうちの1片の積層体を剥離性シートのついた状態で1MPaの圧力で180℃、1時間熱プレスを行った後、両面の基材を剥離し4隅および中央の膜厚を株式不会社ニコン製DIGIMICROSTANDMS−5Cで測定した平均値は138μmであった。
また、前記積層体から、両面を覆っていた剥離性シートを除いた熱伝導性絶縁接着シート1の質量は0.688gであった。
【0122】
熱プレス後の熱伝導性絶縁接着シート1の実測密度は以下の通り。
実測密度=熱伝導性絶縁接着シート質量(g)/熱伝導性絶縁接着シート体積(cm
=熱プレス後の熱伝導性絶縁接着シート1の単位面積当たりの質量(g/cm)/熱プレス後の熱伝導性絶縁接着シート1の厚さ(cm)
=[0.688/(5×5)]/(138/10000)=1.99となる。
【0123】
ここから熱プレス後の熱伝導性絶縁接着シート1の空隙率は、
空隙率=1−(実測密度/理論密度)
=1−1.99/2.29=0.13となる。
【0124】
<熱伝導性絶縁接着シート2>
中間積層体1、中間積層体6の代わりに、それぞれ中間積層体2、中間積層体7を用いた以外は、熱伝導性絶縁接着シート1の製造例と同様にして、3層構成の熱伝導性絶縁接着シート2の両面が剥離性シートで覆われた積層体を得た。
【0125】
<熱伝導性絶縁接着シート3>
中間積層体1、中間積層体6の代わりに、それぞれ中間積層体3、中間積層体8を用いた以外は、熱伝導性絶縁接着シート1の製造例と同様にして、3層構成の熱伝導性絶縁接着シート3の両面が剥離性シートで覆われた積層体を得た。
【0126】
<熱伝導性絶縁接着シート4>
中間積層体4から10cm×10cmの大きさで3枚、中間積層体9から10cm×10cmの大きさで2枚を切出し、熱伝導性絶縁接着シート1の製造例の貼り合せ作業を繰り返し、中間積層体4と中間積層体9が交互に積層された5層構成の熱伝導性絶縁接着シート4の両面が剥離性シートで覆われた積層体を得た。
【0127】
<熱伝導性絶縁接着シート5>
中間積層体4から10cm×10cmの大きさで5枚、中間積層体9から10cm×10cmの大きさで4枚を切出し、熱伝導性絶縁接着シート1の製造例と同様の貼り合せ作業を繰り返し、中間積層体4と中間積層体9が交互に積層された5層構成の熱伝導性絶縁接着シート5の両面が剥離性シートで覆われた積層体を得た。
【0128】
<熱伝導性絶縁接着シート6>
中間積層体4から10cm×10cmの大きさで9枚、中間積層体9から10cm×10cmの大きさで8枚を切出し、熱伝導性絶縁接着シート1の製造例と同様の貼り合せ作業を繰り返し、中間積層体4と中間積層体9が交互に積層された13層構成の熱伝導性絶縁接着シート6の両面が剥離性シートで覆われた積層体を得た。
【0129】
<熱伝導性絶縁接着シート7>
中間積層体1、中間積層体6の代わりに、中間積層体5のみ3枚を用いた以外は、熱伝導性絶縁接着シート1の製造例と同様の貼り合せ作業を繰り返し、3層構成の熱伝導性絶縁接着シート7の両面が剥離性シートで覆われた積層体を得た。
【0130】
<熱伝導性絶縁接着シート8>
中間積層体1、中間積層体6の代わりに、中間積層体10のみ3枚を用いた以外は、熱伝導性絶縁接着シート1の製造例と同様の貼り合せ作業を繰り返し、3層構成の熱伝導性絶縁接着シート7の両面が剥離性シートで覆われた積層体を得た。
【0131】
上記、熱伝導性絶縁接着シート1〜8の理論密度、プレス後の実測密度、空隙率を表2に示す。
熱伝導性絶縁接着シート2〜8の理論密度、及びプレス後の実測密度は、熱伝導性絶縁接着シート1と同様の方法で算出した。
【0132】
【表2】
【0133】
[実施例1]
得られた熱伝導性絶縁接着シート1を、表3に示す表面粗さRaを有する発熱体と、放熱ベース基板との間に挟み、150℃、1MPaで60分間プレスをし、熱伝導性試験片1を得た。
【0134】
[実施例2〜8]
実施例1の熱伝導性絶縁接着シート、放熱ベース基板、および発熱体を、表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性試験片2〜8を得た。
【0135】
[比較例1〜3]
実施例1の熱伝導性絶縁接着シート、放熱ベース基板、および発熱体を、表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較用熱伝導性試験片1〜3を得た。
【0136】
得られた熱伝導性試験片を用いて測定した、熱伝導率、および絶縁破壊電圧の結果を表3に示す。
なお、発熱体と放熱ベース基板のRa、熱伝導率、および絶縁破壊電圧は下記の方法で測定を行った。
【0137】
[放熱ベース基板、発熱体の表面粗さ(Ra)]
Raは、
TAYLOR HOBSON社製の接触式表面粗さ計「FORM TALYSURF i60」を使用し、2μm針、測定速度0.5mm/s、フィルタをロバストガウシアンフィルタ、測定長さ5mm、カットオフ値0.8mmの条件で放熱ベース基板および、導電性部材の熱伝導性絶縁接着剤が接触する面の表面粗さRaを測定した。測定場所を変えて得られた5か所のRaの平均値を放熱ベース基板、発熱体(導電性部材)のRaとした。
【0138】
<熱伝導率の測定方法>
熱伝導性絶縁接着シートを15mm角に切り出し、15mm×15mm、厚さ0.2mmの放熱ベース基板としてのアルミニウム及び導電性部材としての銅との間に挟み、加熱プレスをし、熱伝導率測定用サンプルを作製した。
サンプル表面に金を蒸着し、カーボンスプレーによりカーボンを被覆した後、キセノンフラッシュアナライザーLFA447NanoFlash(NETZSCH社製)にて、試料環境25℃での熱拡散率を測定した。比熱容量はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の高感度型示差走査熱量計DSC220Cを用いて測定した。密度は組成からの計算値を用いた。これらのパラメータから、熱伝導率を求めた。
【0139】
<絶縁破壊電圧の測定>
表3に示すRaを有する発熱体(40mm×40mm、厚さ2mmの銅ブロック(C1020P(1/2H)))(A)、中央部に25mmφの穴を打ち抜いた、50mm×50mm、厚さ25μmのポリイミドフィルム(B)、熱伝導性絶縁接着シート(40mm×40mm)(C)、表3に示すRaを有する放熱ベース基板(40mm×40mm、厚さ2mmのアルミブロック(A3003P(H24))(D)を準備し、A/B/C/B/Dの構成となるように積層し、加熱150℃、加圧2〜3MPaの条件で60分間熱プレスし圧着した。
上記で得られたサンプルを、25℃50%RH環境で1晩静置した後、鶴賀電機株式会社製「TM650 耐電圧試験機」を用い、25℃50%RH環境で、サンプルをフッ素系不活性液体(スリーエムジャパン株式会社製 フロリナートFC−3283)中に浸漬した状態で、0kVから10kVを100秒間で変化させるプログラムを用い、閾値電流2mAとし、絶縁破壊した時の電圧を読み取り絶縁破壊電圧とした。
【0140】
【表3】
【0141】
<実施例9>
[パワー半導体装置の作製]
両面に回路が形成されたセラミックス回路基板上の、一方の面に半田を介してパワー半導体素子を接合し、他方の面に銅製のヒートスプレッダを接触させ、パワー半導体素子を接合している側全体をエポキシ樹脂で封止し、パワー半導体モジュールを得た。
前記ヒートスプレッダに、熱伝導性絶縁接着シート4の製造例で得た熱伝導絶縁接着シートが接するよう、熱伝導性絶縁接着部材前駆体、アルミニウム板の順に積層し、1MPaで150℃、60分間プレスをし、パワー半導体装置を得た。熱伝導絶縁接着部材が接する前記導電性部材であるヒートスプレッダのRaは0.2μm、放熱ベース基板であるアルミニウム板のRaは0.2μm、プレス後の熱伝導性接着部材の厚みは260μmであった。
【0142】
[パワー半導体装置の耐久性試験]
得られたパワー半導体装置を、−40℃〜120℃の冷熱サイクルを3000サイクルさせた。その後、パワー半導体装置を断面方向に切断し、熱伝導性絶縁接着部材の剥離、ボイドの状態を冷熱サイクル未実施物とともにSEM(走査型電子顕微鏡)で確認し比較した。その結果、パワー半導体装置は冷熱サイクル前後で状態の変化がなく、セラミックス回路基板とアルミニウム板との間の熱伝導性絶縁接着部材には、剥離やボイドの発生は認められなかった。
【0143】
このように、本発明の複合部材は熱伝導性、絶縁性が良く、耐久性にも優れていることが確認できた。
【符号の説明】
【0144】
100、200、201、202、203、204:複合部材
1:熱を発生し得る部材
1a:パワー半導体素子
2:熱伝導性絶縁接着部材
3:放熱ベース基板
4:導電性部材
5:半田
6:封止剤
7:発熱体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8