(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記路盤材の弾性係数と前記エトリンガイト生成量との関係は、圧縮試験により得られる、前記エトリンガイト生成量に対する前記路盤材の圧縮強度の分布、および前記路盤材の圧縮強度に対する前記路盤材の弾性係数の分布に基づいて定められる、請求項1に記載のエトリンガイトの許容生成量の推定方法。
前記路盤材に含まれる硫黄の総量に対するエトリンガイトの生成に寄与した硫黄量の比率である転換率、および前記許容生成量のエトリンガイトを生成するのに要する硫黄量に基づいて、前記硫黄の前記許容含有量を決定する、請求項3に記載の硫黄の許容含有量の決定方法。
溶出試験により得られる前記路盤材の硫黄の溶出率、および前記許容生成量のエトリンガイトを生成するのに要する硫黄量に基づいて、前記硫黄の前記許容含有量を決定する、請求項3に記載の硫黄の許容含有量の決定方法。
溶出試験により得られる、前記許容生成量のエトリンガイトを生成するのに要する硫黄量に相当する前記路盤材の硫黄の総溶出量に基づいて、前記硫黄の前記許容含有量を決定する、請求項3に記載の硫黄の許容含有量の決定方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0028】
<<1.エトリンガイト生成および路盤膨張に関するメカニズム>>
高炉徐冷スラグ系路盤材(以下、単に、「路盤材」ともいう。)を製造する際には、まず、高炉から排滓された高炉スラグを徐々に冷却し、重機などで人頭大に破砕したのち、適切なサイズ(例えば、0−25mm、0−40mmなど)となるよう破砕機を用いて破砕することが行われる。得られた材料は、そのままの状態で水に触れると含有する硫黄が多硫化イオンとなり、水が黄色を示してしまう。そのため、当該材料を大気中でしばらくヤード積みすることによるエージング処理が行われる。かかるエージング処理は、材料を産出する製鉄所や炉により異なるが、数週から数カ月の期間行われる。その後、エージング処理後の材料である高炉徐冷スラグは、路盤材として出荷され、活用される。
【0029】
道路用鉄鋼スラグの一例であるHMS25には高炉徐冷スラグが主に用いられ、品質規格値としてTA法に用いる等値換算係数は0.55である。そのための材料の品質基準として、所要の粒度分布範囲を満足しかつ、締固め成形体の修正CBRが80%以上、一軸圧縮強度(14日)が1.2N/mm
2以上を満足することが求められる。特に強度が不十分な場合、必要な要件を満たすために、高炉徐冷スラグに高炉水砕スラグ、製鋼スラグを混合する場合もある。
【0030】
この高炉徐冷スラグを用いた路盤材において、膨張性硫酸塩水和物が過剰に生成すると、膨張の要因となる。また、膨張性硫酸塩水和物の過剰生成・膨張には、数年から10数年かかることが経験上知られている。以下に、膨張性硫酸塩水和物のうち、特に高炉徐冷スラグを含む路盤材の強度発現に伴い生成されるエトリンガイトの反応式を示す。高炉徐冷スラグにはCaO:40〜43%程度、Al
2O
3:12〜15%程度、SiO
2:31〜34%程度、MgO:5〜7%程度、その他に微量であるが硫黄Sが0.4〜2%程度含まれている。硫黄は、主に溶解しやすいCaSの形態で含まれているが、経時的水和・酸化により、以下の反応式1のように二水石膏(CaSO
4・2H
2O)が生成する。
【0031】
CaS → CaS
n → CaS
2O
3 → CaSO
4・2H
2O↓
・・・(反応式1)
【0032】
その後、生成した二水石膏を原料として、別途溶解したAl、Caと反応して以下のエトリンガイトの生成反応式(反応式2)に基づいて、エトリンガイト(3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2O)が生成される。
【0033】
3Ca
2++2[Al(H
2O)
6]
3++3CaSO
4・2H
2O+12OH
−+14H
2O
→ 3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2O↓ ・・・(反応式2)
【0034】
上述したように、エトリンガイトは水との水和反応による圧縮強度を発現する物質である。エトリンガイトにより発現される圧縮強度は、路盤材としての利用のために求められる。その一方で、エトリンガイトの過剰な生成による水和膨張により路面隆起が引き起こされ、舗装道路の施工後に路面の隆起や割れが生じることが知られている。路盤材におけるエトリンガイトの生成は、常温で数年から十数年かけて進行すると言われている。そのため、舗装道路の施工時において路面隆起が見られない場合であっても、施工時から数年後において路面隆起が生じる可能性がある。したがって、舗装道路の施工段階において、圧縮強度が高く耐久性があり、かつ、半永久的に路面隆起を生じさせないような路盤材を用いることが求められる。
【0035】
本発明者らは、現場での現象観察を行った結果、路盤の膨張変形がアスファルト等の周囲の構造物により拘束されることにより路盤に生じ得る内部応力が、路盤を形成する路盤材の圧縮強度を上回ることによって、路面隆起が引き起こされることを突き止めた。以下、エトリンガイトの過剰な生成により路面隆起が生じるメカニズムについて説明する。
【0036】
図1は、エトリンガイトの過剰な生成による路面隆起の発生メカニズムを説明するための概要図である。
図1に示すように、舗装道路1は、水平断面視において地表側からアスファルト2、上層路盤3、および下層路盤4により構成される。上層路盤3は一般的に、高炉徐冷スラグ系路盤材により形成されている。ここで、上層路盤3においてエトリンガイトが過剰に生成したとする。エトリンガイトが過剰に生成されると路盤材が膨張しようとするため、当該路盤材により形成される上層路盤3が全体的に膨張しようとする。この場合、アスファルト2および下層路盤4との界面における面内方向の摩擦により上層路盤3の変形が拘束されるので、上層路盤3において内部応力が生じる。一方で、エトリンガイトの生成により、上層路盤3の圧縮強度(路盤強度)も上昇する。
【0037】
上層路盤3の圧縮強度が上層路盤3において生じる内部応力よりも高い場合、上層路盤3の膨張は上層路盤3の変形を拘束する力により抑制されるため、膨張隆起は生じない。しかしながら、当該内部応力が当該圧縮強度よりも高い場合、上層路盤3の変形を拘束する力による上層路盤3の膨張の抑制が効かなくなる。この場合、
図1に示すように、上層路盤3の膨張隆起が生じ、アスファルト2の変形または割れを生じさせてしまう。
【0038】
このように、エトリンガイトの生成により路盤に生じる内部応力が路盤の圧縮強度を上回る場合に、路盤の変形を拘束することが困難となり、路面隆起が生じる。このような内部応力および圧縮強度は、ともに、エトリンガイトの生成量に応じて増加する。そこで、本発明者らは、当該内部応力が当該圧縮強度を上回らないエトリンガイトの生成量の限界値(以下、許容生成量と称する)を予測することができれば、路面隆起の発生を回避しつつ、かつ路盤材の強度を確保することができると想定した。以下、本発明の一実施形態に係るエトリンガイトの許容生成量の推定方法について説明する。
【0039】
<<2.エトリンガイトの許容生成量の推定方法>>
本実施形態に係るエトリンガイトの許容生成量の推定方法(以下「許容生成量の推定方法」と称する)は、
(1)路盤材により形成される路盤に生じ得る内部応力を算出すること。
(2)算出された内部応力と路盤材の圧縮強度とを比較して、内部応力が圧縮強度を上回るときのエトリンガイト生成量を「エトリンガイトの許容生成量」として推定すること。
により構成される。
【0040】
上述したように、内部応力は、路盤周囲による変形拘束によって当該路盤内部に生じ得る内部応力である。
図2は、路盤内部に生じ得る内部応力の発生メカニズムを説明するための概要図である。
図2Aは、無拘束状態における路盤膨張を示す路盤を示す概要図である。
図2Bは、膨張変形を拘束することにより生じる内部応力について説明するための概要図である。
【0041】
図2Aに示すように、無拘束状態における路盤がエトリンガイトの生成により一軸方向に膨張したとする。この膨張率εは、一軸のひずみ値に相当する。ここで、無拘束状態において膨張率εを示す路盤が、周囲から変形拘束されているとする。この場合、
図2Bに示すように、路盤は膨張しないものの、路盤内部において内部応力σ(N/mm
2)が生じる。この内部応力σは、変形を完全に拘束した場合が最大値となり、下記式(1)に示す式により求められる。
【0043】
ここで、Eは路盤材の弾性係数(N/mm
2)である。路盤材の弾性係数Eは、路盤材に対する一軸圧縮試験により算出される値である。例えば、本実施形態に係る弾性係数Eは、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験」において規定される変形係数E
50(N/mm
2)であってもよい。本実施形態においては、弾性係数Eは変形係数E
50であるとして説明する。
【0044】
これらの膨張率εおよび弾性係数Eは、エトリンガイト生成量E
t(質量%)に応じて変化する値である。路盤材中のエトリンガイトが増加するにつれて水和膨張するので、エトリンガイト生成量E
tに応じて膨張率εは増加する。また、弾性係数Eは、エトリンガイト生成量の増加による硬化の進行により増加するので、エトリンガイト生成量E
tの増加に応じて弾性係数Eは増加する。よって、式(1)から、内部応力σもエトリンガイト生成量E
tの増加に応じて増加すると考えられる。ここで、本発明者らは、内部応力σを、エトリンガイト生成量E
tを変数とする関数として、式(2)を仮定した。
【0045】
σ=f
1(E
t) ・・・(2)
ここで、f
n(E
t)とは、エトリンガイト生成量E
tを変数とする関数である。また、nは任意の整数により示される識別子である。
【0046】
また、膨張率εおよび弾性係数Eは、ともにエトリンガイト生成量E
tに応じて変化する。そのため、本発明者らは、膨張率εまたは弾性係数Eを、エトリンガイト生成量E
tを変数とする関数として、式(3)および式(4)を仮定した。
【0047】
ε=f
2(E
t) ・・・(3)
E=f
3(E
t) ・・・(4)
【0048】
つまり、内部応力σは、式(1)〜式(4)より、式(5)のように表される。
【0049】
σ=f
2(E
t)・f
3(E
t) ・・・(5)
【0050】
以上より、本発明者らは、エトリンガイト生成量E
tと膨張率εとの関係を示す式(3)、およびエトリンガイト生成量E
tと弾性係数Eとの関係を示す式(4)を設定することにより、エトリンガイト生成量E
tに対応する内部応力σが算出できることを見出した。
【0051】
膨張率εおよび弾性係数Eと
、エトリンガイト生成量E
tとの関係は、無拘束膨張試験、および一軸圧縮試験により得られる結果に基づいて定められる。以下、膨張率εおよび弾性係数Eと
、エトリンガイト生成量E
tとの関係の設定方法について、具体的な例を用いて説明する。なお、以下に定められる各関係式はあくまでも一例である。すなわち、以下に定められる関係式を定義する具体的なパラメータは、各試験の供試体の条件、または、膨張試験および一軸圧縮試験により得られる結果等に応じて、その都度変更され得る。
【0052】
まず、エトリンガイト生成量E
tと路盤材の膨張率εとの関係を定めた。エトリンガイト生成量E
tと路盤材の膨張率εの関係は、路盤材の膨張試験から得られるエトリンガイト生成量E
tに対する膨張率εの分布から求められる。
【0053】
路盤材の膨張試験は、以下の手順で行われた。まず、複数の高炉徐冷スラグにエトリンガイト生成促進剤としての少量の石膏を混合した路盤材を、CBRモールド(本実施形態では、φ=150mm、H=127mm)に充填した。充填後、所定の期間、当該路盤材を養生した。養生後の路盤材のエトリンガイト生成量および膨張率がそれぞれ測定された。エトリンガイト生成量は、固体NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)法を用いて測定された。膨張率は、養生前後の路盤材のCBRモールドの軸方向への伸び量から算出された。
【0054】
図3は、エトリンガイト生成量に対する膨張率の分布を示すグラフである。
図3に示すように、エトリンガイト生成量と膨張率とは相関性が認められる。そのため、エトリンガイト生成量と膨張率との関係について、膨張率の分布についての近似直線から、式(6)のように定めることができる。
【0056】
式(6)の右辺は、式(3)の右辺f
2(E
t)に相当する。なお、
図3に示した例においては、膨張率εは、式(7)に示す関係式で表現される。
【0057】
ε=0.16E
t−0.12 ・・・(7)
【0058】
次に、エトリンガイト生成量E
tと路盤材の弾性係数Eとの関係を定めた。本実施形態においては、エトリンガイト生成量E
tと圧縮強度q
u(N/mm
2)との関係、および圧縮強度q
uと弾性係数Eとの関係に基づいて、エトリンガイト生成量E
tと路盤材の弾性係数Eとの関係を定めた。これにより、エトリンガイト生成量E
tに対する路盤材の弾性係数Eの分布が直接的に得られない場合であっても、圧縮強度q
uと弾性係数Eとの関係が既に行われた試験等により得られていれば、その試験結果を利用することができるからである。したがって、計算モデルの精度が向上する。なお、エトリンガイト生成量E
tに対する路盤材の弾性係数Eの関係が直接的に得られている場合、式(4)によりエトリンガイト生成量E
tに対する路盤材の弾性係数Eの関係が表現されてもよい。また、当該関係を用いて、内部応力σが算出されてもよい。
【0059】
圧縮強度q
uとエトリンガイト生成量E
tとの関係、および弾性係数Eと圧縮強度q
uとの関係は、式(8)および式(9)のように定義される。
【0060】
q
u=f
4(E
t) ・・・(8)
E=f
5(q
u) ・・・(9)
【0061】
式(4)に定義された弾性係数Eとエトリンガイト生成量E
tとの関係は、式(8)および式(9)を用いて、式(10)のように表される。つまり、エトリンガイト生成量E
tと圧縮強度q
uとの関係、および圧縮強度q
uと弾性係数Eとの関係を個々に用いた場合においても、エトリンガイト生成量E
tと弾性係数Eとの関係を定義することは可能である。
【0062】
E=f
5(f
4(E
t)) ・・・(10)
【0063】
圧縮強度q
uおよび弾性係数Eは、路盤材に対する一軸圧縮試験により得られる。一軸圧縮試験は以下の手順で行われた。まず、複数の高炉徐冷スラグにエトリンガイト生成促進剤としての少量の石膏を混合した路盤材を、CBRモールド(本実施形態では、φ=150mm、H=127mm)に充填した。充填後、所定の期間、当該路盤材を養生した。養生後、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験」に規定される圧縮試験により、圧縮強度q
uおよび弾性係数Eが測定された。
【0064】
図4は、エトリンガイト生成量に対する路盤材の圧縮強度の分布を示すグラフである。
図4に示すように、エトリンガイト生成量の増加に応じて、圧縮強度は増加する。ただし、エトリンガイト生成量が増加するにつれて、圧縮強度の増加率は減少する傾向にある。
【0065】
また、
図4を参照すると、同程度のエトリンガイト生成量を有する路盤材であっても、圧縮強度の分布にはばらつきが含まれる。上述したように、路盤内の内部応力が圧縮強度よりも大きくなったときに、路盤が破壊され、路面が隆起する。したがって、路盤破壊を生じさせないエトリンガイトの許容生成量を推定するうえでは、圧縮強度を安全側に(すなわち低強度側に)見積もることが好ましい。
【0066】
エトリンガイト生成量E
tを変数とする圧縮強度q
uの関数f
4(E
t)は、式(11)のように表される。なお、エトリンガイト生成量E
t=0の場合、圧縮強度q
uも0であると仮定している。
【0068】
図4に示した例では、圧縮強度の分布に基づいて近似曲線を設定した場合、式(12)で示す関数が得られる。
【0069】
q
u=4.91E
t0.54 ・・・(12)
【0070】
ただし、式(12)で定義される曲線は、
図4に示すとおり、圧縮強度の分布を近似する曲線であるので、圧縮強度試験により得られた圧縮強度の値よりも高強度側の値を示す場合がある。そのため、上述したとおり、式(11)に示される関数は、圧縮試験により得られた圧縮強度よりも低強度側を包絡するように設定されることが好ましい。
【0071】
例えば、当該曲線は、圧縮試験により得られた圧縮強度q
uのうち大半を下回るように設定されることが好ましい。しかし、当該曲線が過大に安全側となるように設定されると、エトリンガイトの許容生成量の設定そのものが困難となる。そのため、当該曲線は、圧縮強度q
uの分布のばらつきの値を用いて、統計学的に設定されてもよい。例えば、当該分布が正規分布またはワイブル分布であると仮定して、下側限界が所定の割合となるように当該曲線が設定されてもよい。下側限界は、例えば2.5%、または5%等であってもよい。圧縮強度q
uの分布のばらつき具合を考慮することにより、圧縮強度q
uとエトリンガイト生成量E
tとの関係に基づいて定められる曲線をより合理的に設定することができる。
【0072】
本実施形態においては、エトリンガイト生成量E
tを変数とする圧縮強度q
uの関係式は、圧縮強度q
uの分布のばらつきを考慮して安全側に設定される。これにより、
図4に示すように、圧縮試験により得られた圧縮強度q
uを全て下回るように、エトリンガイト生成量E
tと圧縮強度q
uの関係を定めることができる。
図4に示した例においては、エトリンガイト生成量E
tを変数とする圧縮強度q
uの関係式は下記式(13)のように定められる。
【0073】
q
u=4.00×E
t0.54 ・・・(13)
【0074】
なお、圧縮強度の分布のばらつきが小さいときは、式(12)で示したように、圧縮強度の分布に基づいて得られる近似曲線そのものが、エトリンガイト生成量E
tを変数とする圧縮強度q
uの関係式として用いられてもよい。
【0075】
また、本発明者らは、高炉徐冷スラグを主原料とした路盤材のエトリンガイト生成量に対する圧縮強度の分布は、路盤材の配合に依存しないことを発見した。
図5は、各種の路盤材についての、エトリンガイト生成量に対する圧縮強度の分布を示すグラフである。
図5に示した圧縮強度q
uの分布は、高炉徐冷スラグの含有率が100%である路盤材、高炉徐冷スラグの含有率が80%および製鋼スラグの含有率が20%である路盤材、高炉徐冷スラグの含有率が45%および製鋼スラグの含有率が55%である路盤材、並びに高炉徐冷スラグの含有率が95%およびFA(フライアッシュ)の含有率が5%である路盤材からそれぞれ得られたものである。なお、
図5に示した各種の路盤材の圧縮強度の分布は、
図4に示した圧縮強度の分布と同一であり、当該分布は一定の相関を示している。すなわち、高炉徐冷スラグを主原料とした路盤材のエトリンガイト生成量と圧縮強度との関係を定義するうえで、路盤材の配合は圧縮強度の分布に対して影響を及ぼさないと考えられる。よって、本実施形態に係るエトリンガイトの許容生成量の推定方法において、複数の種類の路盤材に対して、単一の関係式を用いることが可能である。
【0076】
次に、圧縮強度と弾性係数の関係の定義について説明する。
図6は、路盤材の圧縮強度に対する弾性係数の分布を示すグラフである。
図6に示すように、圧縮強度q
uの増加に応じて、弾性係数Eは増加する。また、弾性係数Eの分布にはばらつきが含まれる。路面隆起を生じさせないエトリンガイトの許容生成量を推定するうえでは、内部応力σを算出するためのパラメータである弾性係数Eを高めに見積もることが好ましい。内部応力σが低く見積もられると、推定された許容生成量よりも少ないエトリンガイト生成量で路面隆起が生じ得るからである。
【0077】
圧縮強度q
uを変数とする弾性係数Eの関数f
5(q
u)は、式(14)のように表される。なお、圧縮強度q
uが0の場合、弾性係数Eも0である。
【0079】
例えば、
図6に示した圧縮強度の分布に基づいて近似曲線を設定した場合、式(15)で示す関数が得られる。
【0080】
E=143.15q
u0.89 ・・・(15)
【0081】
ただし、式(15)で定義される曲線は、
図6に示すとおり、弾性係数Eの分布を近似する曲線であるので、圧縮強度試験により得られた弾性係数Eの値よりも低弾性係数側の値を示す場合がある。そのため、上述したとおり、式(15)に示される関数は、圧縮試験により得られた弾性係数よりも高弾性係数側を包絡するように設定されることが好ましい。
【0082】
例えば、当該曲線は、圧縮試験により得られた弾性係数のうち少なくとも大半を上回るように設定されることが好ましい。しかし、当該曲線が過大に高弾性係数側となるように設定されると、エトリンガイトの許容生成量の設定そのものが困難となる。そのため、当該曲線は、弾性係数の分布のばらつきの値を用いて、統計学的に設定されてもよい。例えば、当該分布が正規分布またはワイブル分布であると仮定して、上側限界が所定の割合となるように当該曲線が設定されてもよい。上側限界は、例えば2.5%、または5%等であってもよい。弾性係数の分布のばらつき具合を考慮することにより、弾性係数Eと圧縮強度q
uとの関係に基づいて定められる曲線をより合理的に設定することができる。
【0083】
本実施形態においては、圧縮強度q
uを変数とする弾性係数Eの関係式は、弾性係数の分布のばらつきを考慮して高弾性係数側に設定される。これにより、
図6に示すように、圧縮試験により得られた弾性係数Eのほとんどを上回るように、圧縮強度q
uと弾性係数Eの関係を定めることができる。
図6に示した例においては、エトリンガイト生成量E
tを変数とする圧縮強度q
uの関係式は下記式(16)のように定められる。
【0084】
E=270.0q
u0.98 ・・・(16)
【0085】
なお、弾性係数の分布のばらつきが小さいときは、式(14)で示したように、弾性係数の分布に基づいて得られる近似曲線そのものが、圧縮強度q
uを変数とする弾性係数Eの関係式として用いられてもよい。
【0086】
次に、式(6)、式(11)および式(14)により定義される式に基づいて設定される関係式f
n(E
t)を式(5)に適用させることにより、エトリンガイト生成量E
tに対応する内部応力σを算出する。本実施形態では一例として、式(7)、式(13)および式(16)により定義される関係式を式(5)に適用させることにより、エトリンガイト生成量E
tに対応する内部応力q
uを算出する。なお、単純にエトリンガイト生成量E
tを式(7)、式(13)および式(16)に代入することにより内部応力σを算出することも可能である。しかしながら、路盤材中のエトリンガイトの生成に伴って、弾性係数Eは逐次変化する。そのため、本実施形態においては、エトリンガイト生成量E
tの増分ΔE
tに応じた内部応力σの増分Δσを逐次的に積算することにより、エトリンガイト生成量E
tにおける内部応力σを算出した。これにより、内部応力σの算出精度を向上させることができる。以下、本実施形態に係る内部応力σの算出方法について説明する。
【0087】
ステップi+1(i=0、1、2、・・・)における内部応力σ
i+1の増分Δσ(=σ
i+1−σ
i)は、式(17)のように示される。
【0089】
内部応力σ
iの値をi=0から順次求めることにより、エトリンガイト生成量E
tと内部応力σとの関係を求めることができる。したがって、エトリンガイト生成量E
tに対する内部応力σを算出することができる。なお、エトリンガイト生成量E
tの増分ΔE
tは、例えば、0.1%程度である。
【0090】
次いで、エトリンガイトの許容生成量E
t,lim(質量%)の推定を行う。許容生成量E
t,limの推定は、内部応力σと圧縮強度q
uとの大小関係の比較により行われる。具体的には、式(17)を用いて示されるエトリンガイト生成量E
tと内部応力σとの関係と圧縮強度q
uの大小を比較することにより、内部応力σが圧縮強度q
uを上回るときのエトリンガイト生成量を許容生成量E
t,limとして推定することが行われる。
【0091】
本実施形態においては、式(13)に示されたエトリンガイト生成量E
tと圧縮強度q
uとの関係を示す関係式、および式(17)から得られるエトリンガイト生成量E
tと内部応力σとの関係を示す関係式を用いて、エトリンガイトの許容生成量E
t,limを推定した。各関係式を用いることにより、エトリンガイトの許容生成量E
t,limを明確に定めることが可能である。
【0092】
図7は、エトリンガイト生成量に対する内部応力および圧縮強度の関係の一例を示すグラフである。実線は内部応力σとエトリンガイト生成量E
tの関係を示す曲線であり、破線は圧縮強度q
uとエトリンガイト生成量E
tの関係を示す曲線である。
図7に示す内部応力σとエトリンガイト生成量E
tの関係を示す曲線は、上記式(17)から得られる曲線である。また、
図7に示す圧縮強度q
uとエトリンガイト生成量E
tの関係を示す曲線は、上記式(13)および式(16)から得られる曲線である。
【0093】
図7に示すように、グラフの交点に対応するエトリンガイト生成量よりもさらにエトリンガイト生成量が高くなる場合において、内部応力σが圧縮強度q
uを上回る。この場合、路面隆起が生じ得る。逆に、当該交点に対応するエトリンガイト生成量よりもエトリンガイト生成量が低い場合、圧縮強度q
uが内部応力σよりも高くなる。この場合、路面隆起は生じ得ない。つまり、グラフの交点に対応するエトリンガイト生成量E
tが、路面隆起の発生を左右する目安となる。したがって、グラフの交点に対応するエトリンガイト生成量E
tを許容生成量E
t,limとして路盤材に含まれる成分を調整すれば、路面隆起の発生を回避することができる。
図7に示した例においては、エトリンガイトの許容生成量E
t,limは、約3.6質量%と推定される。
【0094】
なお、
図7に示した例では、エトリンガイト生成量E
tに対する圧縮強度q
uおよび内部応力σの関係を示す曲線を用いてエトリンガイトの許容生成量E
t,limが推定されたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、エトリンガイト生成量E
tに対する圧縮強度の分布と、エトリンガイト生成量E
tに対する内部応力σの関係を示す曲線とを比較することにより、エトリンガイトの許容生成量E
t,limが推定されてもよい。より具体的には、圧縮強度のプロット点が、エトリンガイト生成量E
tに対する内部応力σの関係を示す曲線を下回るときのエトリンガイト生成量E
tが許容生成量E
t,limとして推定されてもよい。ただし、エトリンガイト生成量E
tに対する圧縮強度q
uの関係式が既に式(13)等で定義されている。この関係式を用いることにより、曲線の交点がエトリンガイトの許容生成量E
t,limに相当するので、許容生成量E
t,limを明確に定めることができる。よって、エトリンガイト生成量E
tに対する圧縮強度q
uおよび内部応力σの関係を示す曲線を用いてエトリンガイトの許容生成量E
t,limを推定することが好ましい。
【0095】
以上、エトリンガイトの許容生成量E
t,limの推定方法について説明した。本実施形態に係る推定方法によれば、エトリンガイト生成量に対する路盤材の膨張率、圧縮強度、および弾性係数の関係から、エトリンガイト生成量に対する内部応力が算出される。また、算出された内部応力と圧縮強度との大小関係を比較することにより、エトリンガイトの許容生成量が推定される。このエトリンガイトの許容生成量は、路面隆起の発生の有無の境界値となる。したがって、路盤材中のエトリンガイトの生成量が許容生成量を上回らないように調節すれば、路面隆起の発生を回避しつつ、路盤材の強度を向上させることができる。
【0096】
以上より、本実施形態によれば、路盤材の原料となる高炉徐冷スラグに対する処理のための設備または試薬等を用いずとも、容易に、かつ低コストで路面隆起の発生を回避することが可能となる。
【0097】
なお、本実施形態に示した各関係式および各図示した試験結果等は、あくまでも本実施形態の一例にすぎない。例えば、式(6)、式(11)および式(14)に示す各関係式の各係数は、試験結果ごとに得られる分布に応じて適切に設定される。また、式(6)、式(11)および式(14)に示した関係式自体も、試験結果から得られる分布の傾向に応じて、適宜線形または非線形の近似式に変更され得る。
【0098】
<<3.硫黄の許容含有量の決定方法>>
本実施形態に係るエトリンガイトの許容生成量の推定方法による推定結果は、例えば、以下に説明する高炉徐冷スラグを含む路盤材の材質の規定に用いられ得る。特に、路盤材に含まれる硫黄成分が、路盤材中のエトリンガイトの生成に関して重要な成分である。つまり、路盤材に含まれる硫黄成分を調整することにより、エトリンガイトの生成量を、許容生成量よりも低く抑えることが可能となる。以下、エトリンガイトの生成量を許容生成量よりも低く抑えるための、路盤材中の硫黄の許容含有量S
limの決定方法について説明する。
【0099】
エトリンガイトの化学式は、上述したように、3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2Oである。エトリンガイトを構成するカルシウム、アルミナ、および硫黄は全て高炉徐冷スラグに含まれる成分である。これらの各成分が高炉徐冷スラグから溶出され、エトリンガイトが生成される。
【0100】
ここで、高炉徐冷スラグに含まれるカルシウムCaO、アルミナAl
2O
3、および硫黄Sの含有量(質量%)は、以下の表1のとおりである。
【0102】
硫黄は、カルシウムおよびアルミナと比較して含有量が顕著に少ない。つまり、高炉徐冷スラグから溶出される各成分のうち、硫黄が、エトリンガイトの生成を律速する。したがって、路盤材に含まれる硫黄の含有量(または溶出量)を管理することにより、エトリンガイトの許容生成量を上回らないような路盤材、つまり路面隆起が生じ得ない路盤材を作製することが可能となる。
【0103】
ここで、本実施形態に係る推定方法により推定されたエトリンガイトの許容生成量をE
t,limとする。エトリンガイトの分子量は上記の化学式から1254.7である。また、エトリンガイトに含まれる硫黄の分子量は96である。したがって、路盤材の質量をM
S(g)とすると、許容生成量E
t,limに相当する硫黄の質量(硫黄量)は、0.077(=96/1254.7)×E
t,lim×M
S(g)となる(ここで、0.077×E
t,limを、許容生成量E
t,limのエトリンガイトを生成するのに要する硫黄含有量S
cor(質量%)とする)。
【0104】
つまり、路盤材に含まれるS
cor×M
Sの質量分の硫黄が全てエトリンガイトに転換された場合に、エトリンガイトの許容生成量E
t,limに相当するエトリンガイトが生成され得る。よって、質量がM
Sである路盤材に含まれる(または溶出される)硫黄の質量が、S
cor×M
Sより少なければ、施工後の路盤における路面隆起の発生を回避することができる。
【0105】
例えば、表2に示す硫黄を含有する高炉徐冷スラグと製鋼スラグにより路盤材を構成する際に、エトリンガイトの許容生成量E
t,limに相当する硫黄含有量が0.276%の場合における、路盤材を構成する高炉徐冷スラグと製鋼スラグの混合率の設定方法の事例を以下に示す。
【0107】
ここで、高炉徐冷スラグの混合率a(%)、製鋼スラグの混合率b(%)の場合
0.63×a/100+0.07×b/100=0.276(質量%)
a+b=100(%)
の関係より、a=37% b=63%と設定することができる。
【0108】
このように、エトリンガイトの許容生成量E
t,limに基づいて、路盤材の硫黄の許容含有量S
limを設定することができる。ここで、硫黄の許容含有量の具体的な設定方法として、硫黄の含有量をベースとする設定方法と、硫黄の溶出量をベースとする設定方法が挙げられる。まず、含有量をベースとする設定方法について説明する。
【0109】
エトリンガイトの路盤材中での生成は、数年のスパンをかけて徐々に進行する。エトリンガイトの生成速度は、路盤材の鉱物組成や環境条件の影響により異なる場合もある。そのため、路盤材に含まれる硫黄がエトリンガイトに転換されるとは限らない。そこで、路盤材に含まれる硫黄の総量に対する、通常の舗装の設計寿命期間(10年〜20年)においてエトリンガイトの生成に寄与した硫黄量の比率(転換率)を用いて、許容含有量S
limを決定してもよい。例えば、当該転換率をXとすると、路盤材の硫黄の許容含有量S
limは、許容生成量E
t,limのエトリンガイトを生成するのに要する硫黄含有量S
cor(0.077×E
t,lim)の1/X倍(転換率Xの逆数)以下であることが好ましい。硫黄の含有量が、硫黄含有量S
corの1/X倍より大きいと、路盤材の膨張による路面隆起が確実に生じるためである。
【0110】
例えば、エトリンガイトの許容生成量E
t,limが本実施形態の一例として示された3.6質量%である場合、S
cor=0.276質量%となる。したがって、例えば、転換率X=0.6であるとすると、許容含有量S
lim値の上限値は0.47質量%となる。
【0111】
転換率Xは、エトリンガイトの水和反応が生じる路盤の環境によって異なる。例えば、転換率Xは、路盤材の鉱物組成、または路盤が敷設された土地もしくは気候等の環境条件によって異なる。このような転換率Xは、過去の実測値またはシミュレーション等による予測によって設定される。転換率Xは、路盤の環境に応じて、0.1〜1の値を取り得る。転換率Xを用いて硫黄の許容含有量S
limを定めることにより、硫黄含有量の高いスラグを路盤材の原料として、当該許容含有量S
limを超えない程度に使用することができる。したがって、路面隆起を回避しつつ、路盤材の製造コストを下げることができる。
【0112】
各現場における路盤を構成する路盤材の硫黄含有量、エトリンガイト生成量の実測値、含有する硫黄が全てエトリンガイトに転換するとした場合におけるエトリンガイト生成量の理論計算値(予測値)、並びに当該実測値および当該予測値に基づいて算出された転換率X(=実測値/予測値)の例を、表3に示す。
【0114】
また、上述したように、路盤材に含まれる硫黄が、環境によっては全てエトリンガイトに転換する場合も考えられる。そのため、路盤材の硫黄の許容含有量S
limは、許容生成量E
t,limのエトリンガイトを生成するのに要する硫黄含有量S
corとしてもよい。これにより、より確実に路面隆起を回避することができる。
【0115】
例えば、エトリンガイトの許容生成量E
t,limが本実施形態の一例として示された3.6質量%である場合、S
cor=0.276質量%となる。したがってこの場合、許容含有量S
limの上限値は、0.276質量%となる。
【0116】
また、路盤材の硫黄の許容含有量は、溶出量をベースとして設定されてもよい。例えば、路盤材に含まれる硫黄の含有量、路盤材の溶出試験において溶出された硫黄の溶出量に基づいて得られる溶出率を用いて、硫黄の許容含有量S
limが設定されてもよい。より具体的には、液固比が10である溶出試験(路盤材100g、純水1L)において、供試体である路盤材の硫黄含有量がS
inc(質量%)であり、供試体から硫黄がS
sol(mg)溶出するとする。なお、この場合の溶出量は、総溶出量である。1回の溶出操作で全量溶出しない場合は、溶媒を交換して繰り返し溶出操作を行い、硫黄がほぼ溶出しなくなるまで上記溶出操作を実施し、各溶出操作により得られた溶出量の合計が総溶出量となる。S
incおよびS
solから路盤材の溶出率P
sol(=S
sol/S
inc)が求められる。したがって、路盤材の硫黄の許容含有量S
limは、許容生成量E
t,limのエトリンガイトを生成するのに要する硫黄含有量S
corを溶出率P
solで除した値となる。これにより、溶出試験の結果を用いて硫黄の許容含有量S
limを設定することができる。
【0117】
例えば、上記の溶出試験を行った結果、溶出率P
solが80%であったとする。エトリンガイトの許容生成量E
t,limが本実施形態の一例として示された3.6質量%である場合、硫黄含有量S
cor=0.276質量%となる。したがって、許容含有量S
limの上限値は、0.35質量%となる。
【0118】
また、路盤材の溶出試験において溶出された硫黄の総溶出量をベースとして、硫黄の許容含有量S
limを設定してもよい。例えば、エトリンガイトの許容生成量E
t,limが本実施形態の一例として示された3.6質量%である場合、路盤材1kgあたりの硫黄の許容含有量は2760mg/kgとなる(すなわち、許容含有量S
limは0.276質量%である)。これは、液固比が10である溶出試験(路盤材100g、純水1L)において、硫黄の許容溶出量は、276mg/Lに相当する。したがって、硫黄の総溶出量に基づいて、硫黄の許容含有量S
limを設定することが可能である。
【0119】
ここで、上記路盤材に含まれる硫黄は、材料の比表面積が大きいほど、また細かい粒ほど早く溶出すると考えられる。このことから、実際に使用する路盤材の粒度よりも、当該路盤材を破砕あるいはふるい分けして得られる細かい粒度の材料で溶出試験を実施することで、溶出量の決定を迅速に行うことが可能であることを、本発明者らは見出した。以下、細かい粒度の材料を用いた硫黄の総溶出量の決定方法について説明する。
【0120】
図8は、最大粒径をそれぞれ20mm、2.0mm、180μm(これらを調整粒径と称する)に調整した高炉徐冷スラグの溶出試験(条件:環境省告示第18号準拠、振幅4〜5cm、回転数200rpm、試験時間180分、溶媒500mL、溶質50g、液固比10、分析前処理として溶出液を0.45μmメンブレンフィルターにて濾過)を同一条件で実施したときの、高炉徐冷スラグの最大粒径と硫黄の溶出量との関係を示すグラフである。
図8に示すように、調整粒径が小さいほど、硫黄の溶出量が大きくなることが確認できる。
【0121】
このように調整粒径以下の粒を選別し、選別された粒を用いて溶出試験を行うことで、硫黄の総溶出量を短時間で評価することが可能である。そして、この溶出試験において得られた硫黄の溶出量と、溶出試験で用いられた各試料に対応する調整粒径とから、硫黄の溶出量と路盤材に含まれる粒の最大粒径との関係が取得される。そして、この関係に基づいて、用いる路盤材に実際に含まれる粒の最大粒径から、路盤材の総溶出量を決定することが可能である。例えば、
図8の場合、総溶出量と路盤材に含まれる粒の最大粒径との関係は、総溶出量=−11.781×最大粒径+493.77と表すことができる。したがって、路盤材の最大粒径を上記関係式に代入することにより、硫黄の総溶出量を得ることができる。
【0122】
また、
図9は、0.18mm以下に調整した3種類の高炉徐冷スラグ(スラグA、スラグB、スラグC)の繰り返し溶出試験における、繰り返し数と硫黄の溶出量との関係を示すグラフである。
図9に示すように、硫黄の溶出量は、繰り返し回数とともに低下する傾向にある。この初期における繰り返し試験での硫黄の溶出量の低下の傾向に基づいて初期以降における繰り返し試験での硫黄の溶出量を外挿予測し、かかる予測値を積分することで、硫黄の総溶出量を決定することが可能である。
【0123】
また、高炉徐冷スラグを溶質として得られる溶出液の電気伝導度を用いて、路盤材の硫黄の総溶出量を決定することも可能である。
図10は、同一銘柄の高炉徐冷スラグの硫黄の溶出量と溶出液の電気伝導度との関係を示すグラフである。
図10に示すように、硫黄の溶出量と溶出液の電気伝導度とは明らかな相関が存在する。このことから、例えば、硫黄の総溶出量を、溶出液の電気伝導度から予測して求めることも可能である。
【0124】
具体的には、複数の検量用路盤材の各々について、予め硫黄の溶出量を測定しておく。そして、相異なる硫黄の溶出量を示す当該複数の検量用路盤材の各々を溶質として得られる溶出液の電気伝導度を測定しておき、硫黄の溶出量と当該電気伝導度との関係を取得しておく。そして、測定対象である路盤材を溶質として得られる溶出液の電気伝導度を測定し、上記の関係を用いて、測定された電気伝導度から当該路盤材の硫黄の溶出量を決定する。そして、繰り返し溶出操作ごとに得られる溶出液の電気伝導度から決定される硫黄の溶出量の合計を、硫黄の総溶出量として決定することができる。
【0125】
また、その他の硫黄の総溶出量の測定方法として、JIS K 0102に準拠した方法を用いることも可能である。また、例えば、パックテスト(登録商標、共立理化学研究所製)を用いて硫酸イオンを測定することで、簡易に硫黄の総溶出量を測定することもできる。なお、パックテストを用いる場合、他の溶出成分による干渉防止のため、溶出液を純水で希釈し、溶出した硫黄分のうち硫酸イオン以外の成分を、過酸化水素水などを用いて強制的に酸化することが好ましい。これにより、硫酸イオンをより正確に測定することができる。
【0126】
また、硫黄の総溶出量をより正確かつ効率的に測定するために、溶出液の溶媒を適切なタイミングで交換することが好ましい。
図11は、種類の異なる高炉徐冷スラグ(スラグ1〜スラグ9)についての溶出試験における溶出操作時間(振とう時間とも称する)と溶出液の電気伝導度との関係を示すグラフである。
図11に示すように、溶出液の電気伝導度は、溶出操作の開始後20〜40分程度で収束する傾向にあることが分かる。すなわち、かかる溶出操作時間が経過するころには、溶出液中において溶出されたイオンが飽和していることが考えられる。そこで、かかる溶出操作時間を目安として溶媒を新たに交換して繰り返し溶出試験を行うことにより、硫黄の総溶出量をより正確かつ効率的に測定することが可能となる。
【0127】
以上、本実施形態に係る路盤材の硫黄の許容含有量の決定方法について説明した。本実施形態によれば、エトリンガイトの許容生成量に基づいて、路盤材の硫黄の許容含有量を決定することができる。これにより、路盤材に対する設備または試薬等を用いた処理を行わなくとも、高炉徐冷スラグを含む路盤材の各種原料の硫黄含有量に基づいて各種原料の配合率を調整するだけで、路面隆起を生じさせない路盤材を作製することが可能となる。
【実施例】
【0128】
次に、本発明の実施例について説明する。本発明の効果を確認するために、本実施例では、エトリンガイトの許容生成量のE
t,limの有効性について検証した。なお、以下の実施例は本発明の効果を検証するために行ったものに過ぎず、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0129】
まず、施工後10年以上経過した複数の路盤から路盤材を採取し、複数の実施例に係る路盤材のエトリンガイト生成量を測定した。エトリンガイト生成量は、上述したように固体NMR法により測定された。
【0130】
測定されたエトリンガイト生成量と、上記実施形態に係るエトリンガイトの許容生成量の推定方法により推定されるエトリンガイトの許容生成量E
t,limを比較した。また、実際の路面隆起の発生の有無と上記の比較結果とを照合し、許容生成量E
t,limの推定結果の有効性について評価した。
【0131】
なお、本実施例に係る許容生成量E
t,limは、上記実施形態に係る式(7)、式(13)、式(16)および式(17)を用いて得られる3.6質量%である(
図7参照)。
【0132】
表4は、各実施例に係る路盤材の配合、施工後の経過年数、エトリンガイト生成量および路面隆起の発生の有無を示す表である。下記表4において、路面隆起が発生した場合は○、路面隆起が発生しなかった場合は×とした。
【0133】
【表4】
【0134】
上記表4に示すように、実施例1〜4においては、いずれもエトリンガイト生成量が許容生成量E
t,lim=3.6質量%を超える値であった。また、実施例1〜4に係る路盤材においては、いずれも路面隆起が発生した。
【0135】
一方、実施例5に係る路盤材のエトリンガイト生成量は、測定部位に応じて多少ばらつきが存在するものの、いずれも許容生成量E
t,lim=3.6質量%を下回る値であった。また、実施例5に係る路盤材においては、路面隆起が発生しなかった。
【0136】
以上、本実施例によれば、許容生成量E
t,limを超えると路面隆起が生じ、許容生成量E
t,limを下回ると路面隆起が生じなかった。したがって、本発明に係る推定方法が路面隆起を発生させないエトリンガイトの生成量を推定することについて有効であることが示された。
【0137】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。