特許第6866729号(P6866729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6866729位相調整回路、インバータ回路及び給電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866729
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】位相調整回路、インバータ回路及び給電装置
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/08 20060101AFI20210419BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20210419BHJP
   H03L 7/081 20060101ALN20210419BHJP
【FI】
   H03L7/08 210
   H03L7/08 220
   H02M7/48 A
   H02M7/48 E
   !H03L7/081
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-70730(P2017-70730)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-174414(P2018-174414A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 弘行
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−248018(JP,A)
【文献】 特開2005−151608(JP,A)
【文献】 特開平10−268964(JP,A)
【文献】 Pao-Chuan Lin et al.,Implementation of a PLL-based High Frequency Resonant AC Power Supply,SICE Annual Conference 2008,米国,IEEE,2008年 8月,pp.1329-1334
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/00− 7/26
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を供給する回路電源、該直流電力を交流電力に変換するドライブ回路及び該ドライブ回路を制御する制御回路を有しかつ負荷の共振周波数に追従するよう発振周波数を調整可能なインバータ回路に用いられる位相調整回路であって、
基準信号を入力する基準信号入力端子と、前記インバータ回路から前記負荷に出力される交流信号が分岐されて得られる帰還信号を入力する帰還信号入力端子と、前記基準信号と前記帰還信号との位相差に基づく出力信号を出力する出力端子と、を有する位相同期回路と、
前記出力信号が分岐された第一出力信号を入力し、入力された第一出力信号を前記基準信号として前記基準信号入力端子へ出力するフィルタ回路と、
前記出力信号が分岐された第二出力信号を入力し、入力された第二出力信号の位相を遅延させて前記制御回路に出力するディレイ回路と、
を備え
前記フィルタ回路は、共振周波数が前記インバータ回路の可変可能な周波数範囲内の高周波数側に設定された疑似負荷が前記インバータ回路に接続されている状態において、前記基準信号の立ち上がりが前記負荷に出力される交流信号が分岐された信号のゼロクロスポイントに合うように前記第一出力信号を遅延可能に構成されており、
前記ディレイ回路は、共振周波数が前記インバータ回路の可変可能な周波数範囲内の低周波数側に設定された疑似負荷が前記インバータ回路に接続されている状態において、前記第二出力信号の立ち上がりエッジが前記負荷に出力される交流信号が分岐された信号のゼロクロスポイントに合うように前記第二出力信号を遅延可能に構成されている、
相調整回路。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、
第1容量素子、コイル素子及び抵抗値が可変の第1抵抗素子を含み、
高周波側では低周波側よりも位相変化量が大きいフィルタ特性を有する、
求項1に記載の位相調整回路。
【請求項3】
前記ディレイ回路は、第2容量素子及び抵抗値が可変の第2抵抗素子を含む、
求項1または2に記載の位相調整回路。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の位相調整回路を含む前記インバータ回路。
【請求項5】
請求項4に記載のインバータ回路を含む給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相を調整する機能を有する位相調整回路、これを用いたインバータ回路及び給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ回路は、モータや高周波電力の発生装置等において直流や交流から所望の周波数の交流を生成することに用いられている。インバータ回路に接続される負荷が共振負荷である場合、負荷の共振周波数にずれが生じるようになる。インバータ回路の変換の効率の低下を防ぐため、インバータ回路には負荷の共振周波数に追従して発振周波数を調整する回路が設けられている。発振周波数を調整する公知の回路は、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−318509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、公知の発振周波数の調整では、共振周波数が大きく(例えばインバータ回路の可変周波数の最小値から最大値まで)変化した場合、インバータ回路の発振周波数と負荷の共振周波数との間に誤差が生じ、インバータ回路の変換効率が低下するという不具合がある。このような誤差は、負荷やインバータ回路、さらには発振周波数を調整する回路自身の部品等の性能のばらつきによって生じるものであり、個体ごとにその大小が異なっている。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、負荷の共振周波数に対応して可変可能な周波数範囲内においてインバータ回路の発振周波数を調整した際におけるインバータ回路の変換効率の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の位相調整回路は、直流電力を供給する回路電源、該直流電力を交流電力に変換するドライブ回路及び該ドライブ回路を制御する制御回路を有しかつ負荷の共振周波数に追従するよう発振周波数を調整可能なインバータ回路に用いられる位相調整回路であって、基準信号を入力する基準信号入力端子と、前記インバータ回路から前記負荷に出力される交流信号が分岐されて得られる帰還信号を入力する帰還信号入力端子と、前記基準信号と前記帰還信号との位相差に基づく出力信号を出力する出力端子と、を有する位相同期回路と、前記出力信号が分岐された第一出力信号を入力し、入力された第一出力信号を前記基準信号として前記基準信号入力端子へ出力するフィルタ回路と、前記出力信号が分岐された第二出力信号を入力し、入力された第二出力信号の位相を遅延させて前記制御回路に出力するディレイ回路と、を備え、前記フィルタ回路は、共振周波数が前記インバータ回路の可変可能な周波数範囲内の高周波数側に設定された疑似負荷が前記インバータ回路に接続されている状態において、前記基準信号の立ち上がりが前記負荷に出力される交流信号が分岐された信号のゼロクロスポイントに合うように前記第一出力信号を遅延可能に構成されており、前記ディレイ回路は、共振周波数が前記インバータ回路の可変可能な周波数範囲内の低周波数側に設定された疑似負荷が前記インバータ回路に接続されている状態において、前記第二出力信号の立ち上がりエッジが前記負荷に出力される交流信号が分岐された信号のゼロクロスポイントに合うように前記第二出力信号を遅延可能に構成されていることを特徴とする。
【0006】
本発明のインバータ回路は、上記位相調整回路を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の給電装置は、上記インバータ回路を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
負荷の共振周波数に対応して可変可能な周波数範囲内においてインバータ回路の発振周波数を調整した際におけるインバータ回路の変換効率の低下を抑制する技術を提供することができる。


【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態の位相調整回路、インバータ回路及び給電装置を示した模式的な回路図である。
図2図1に示した位相調整回路を拡大して示した図である。
図3図1に示した位相調整回路と比較される比較例の従来型の位相調整回路の回路図である。
図4図2図3に示した位相調整回路を流れる各信号を示した図である。
図5図2の位相調整回路により位相を調整した場合の各信号を示した図である。
図6図2に示したフィルタ回路の可変抵抗素子の抵抗値を変更した場合のインバータ回路の発振周波数と帰還信号fの位相との関係を示した図である。
図7図3に示したインバータの発振周波数と負荷の共振周波数とを比較した図である。
図8図2に示したインバータの発振周波数と負荷の共振周波数とを比較した図である。
図9】比較例のインバータ回路と本実施形態のインバータ回路とのマッチング周波数と変換効率を比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
図1は、本発明の一実施形態の位相調整回路10、インバータ回路3及び給電装置1を示した模式的な回路図である。図2は、図1に示した位相調整回路10を拡大して示した図である。以下、給電装置1、インバータ回路3及び位相調整回路10について順に説明する。
(給電装置)
図1に示した給電装置1は、電界結合の非接触型の給電装置である。給電装置1は、インバータ回路3、位相調整回路10及び負荷5を備えている。
負荷5は、共振コイル51、52と、共振コンデンサ53、54及び抵抗素子55を備えている。負荷5の共振周波数は、共振コイル51、52のインダクタンス及び共振コンデンサ53、54の容量によって決まる。給電装置1の電力の供給は、抵抗素子55を通じて行われる。
共振コンデンサ53、54の容量は、負荷5が一定の条件の下にある場合、負荷5に流れる電流に応じて直線的に変化することが知られている。また、非接触型の給電装置である給電装置1では、共振コンデンサ53、54の値が給電装置1と被給電側の装置との接触状態によっても変化する。本実施形態の給電装置1は、このような各素子の機能の誤差に起因する以外の原因による共振周波数の変化にも高精度に追従して常に高いインバータ回路の変換効率を維持することが可能である。
【0011】
(インバータ回路)
インバータ回路3は、位相調整回路10を含んでいる。そして、位相調整回路10の他、インバータ回路電源31から供給された直流電力を高周波交流にするドライブ回路311、312、313、314と、ドライブ回路313、312、313、314を制御するPWM(Pulse Width Modulation)制御回路33と、を有している。なお、本実施形態では、インバータ回路電源31は直流電圧、直流電流を供給するものとする。
インバータ回路3は予め定められた範囲においてドライブ回路311、312、313、314による変換後の周波数(発振周波数)が変更可能な発振周波数可変の素子である。なお、本実施形態では、インバータ回路3を、例えば1.5MHzから2.0MHzまで変更可能な素子とする。
【0012】
(位相調整回路)
位相調整回路10は、図1図2に示すように、基準信号(REF)Srを入力する基準信号入力端子13aと、帰還信号(F/B)Sfを入力する帰還信号入力端子13bと、基準信号と帰還信号との位相差に基づく出力信号(PLLout)Soを出力する出力端子13cと、を有する位相同期回路であるPLL(Phase Locked Loop)回路13を備えている。
また、位相調整回路10は、基準信号入力端子13a及び出力端子13cに接続され、PLL回路13を含む回路本体の発振周波数が第1レベルである場合に基準信号Srの位相を遅延させる第1回路であるフィルタ回路25を備えている。さらに、位相調整回路10は、出力端子13cに接続され、回路本体の発振周波数が第1レベルよりも低い第2レベルである場合に出力信号Soを遅延させる第2回路であるディレイ回路27を備えている。
上記構成において、「回路本体」とは、位相調整回路10が接続される被接続側の回路をいい、本実施形態では位相調整回路10を含むインバータ回路3を指す。上記したように、インバータ回路3は1.5MHzから2MHzの範囲で周波数が可変であるから、「第1レベル」は2MHz、「第2レベル」は1.5MHzである。
【0013】
フィルタ回路25は、第1容量素子である容量素子16、コイル素子15及び抵抗値が可変の第1抵抗素子である可変抵抗素子17を含んでいる。フィルタ回路25は、RLC直列回路であり、容量素子16は出力信号(PLLout)Soに対して電流の位相を90度進めるように作用する。コイル素子15は出力信号(PLLout)Soに対して電流の位相を90°遅らせるように作用する。また、抵抗素子55は、RLCフィルタ特性のGAINを変化させる。電流が遅れるか進むかは、容量素子16の容量Cと電流の角速度ωとの積Cωの逆数(1/Cω)と、コイル素子15のインダクタンスLと角速度ωとの積(Lω)の大小関係によって決まり、その位相差は抵抗素子の抵抗値Rによって決定される。そして、1/CωとLωの差分と抵抗素子の抵抗値Rとをベクトル合成すると、そのベクトルの向きにより電流の位相が決定される。
上記構成によれば、コイル素子15のインダクタンスLを一定にして可変抵抗素子17の抵抗値を変化させることにより、フィルタ回路25において基準信号Srの位相を任意に調整することができる。
【0014】
ディレイ回路27は、第2容量素子である容量素子21及び抵抗値が可変の第2抵抗素子である可変抵抗素子19を含んでいる。ディレイ回路27においては、入力された出力信号Soが容量素子21の容量と可変抵抗素子19の抵抗値Rで決まる時定数τだけ遅延して出力される。このため、ディレイ回路27では、可変抵抗素子19の抵抗値を変化させることによって時定数τを変更し、出力信号Soを任意に遅延させて出力することができる。遅延された信号は、バッファ回路22を介してインバータ回路3に出力される。なお、バッファ回路22は、帰還信号Sfを遅延させる主因となる素子である。
また、上記容量素子、コイル素子及び可変抵抗素子の具体的な構成は、フィルタ回路25、ディレイ回路27が信号の位相を調整する機能を有する限りにおいて、どのようなものであってもよい。
【0015】
ここで、位相調整回路10の動作を説明する。位相調整回路10では、PLL回路13の基準信号入力端子13aに基準信号Srが入力される。また、帰還信号入力端子13bには帰還信号Sfが入力される。PLL回路13は図示しない位相比較器、ローパスフィルタ及び電圧制御発振器等を備えている。基準信号Sr及び帰還信号Sfは、PLL回路13の位相比較器において位相が比較され、その差分に応じた出力信号Soを出力端子13cから出力する。このとき、本実施形態では、フィルタ回路25が設けられていることにより、負荷5の共振周波数が2MHzに近い範囲(高領域)において基準信号Srが遅延する。このため、位相比較器は、遅延した帰還信号Sfと基準信号Srとの位相差を比較することになる。
また、出力信号Soは、ディレイ回路27を通過することにより、負荷5の共振周波数が1.5MHzに近い範囲(低領域)において遅延する。遅延した出力信号Soは、分岐されて基準信号入力端子13aからPLL回路13に基準信号Srとして入力する。
出力信号Soは、バッファ回路22から制御回路33に入力し、インバータ回路3による周波数の追従制御に利用される。インバータ回路3から負荷5に出力される信号は分岐され、NOT回路11において反転、パルス化された後、帰還信号Sfとして基準信号入力端子13aからPLL回路13に入力される。
以上の動作により、位相調整回路10は、負荷5に実際に出力される信号と制御回路33に出力した制御信号との差異に基づく出力信号Soを生成することができる。そして、両者の差異が小さくなるように制御回路33を繰り返しフィードバック制御することにより、出力信号Soの周波数を所望の周波数に合わせることができる。
【0016】
次に、以上説明した位相調整回路10の効果について、比較例をあげながら説明する。図3は、本実施形態の位相調整回路10と比較される従来型の位相調整回路70(比較例の回路)の回路図である。位相調整回路70は、基準信号入力端子73a、帰還信号入力端子73b及び出力端子73cを備えるPLL回路73、NOT回路71、可変抵抗素子75及び抵抗素子76、バッファ回路72を備えている。PLL回路73は、PLL回路13と同様に、出力信号Soを分岐して基準信号Srとして出力端子73cに入力し、帰還信号を反転、パルス化して帰還信号入力端子73bから帰還信号Sfとして入力している。なお、位相調整回路70において、可変抵抗素子75及び容量素子76はNOT回路71から出力されたパルス信号の位相を調整するためRC回路を構成している。
【0017】
図4(a)、図4(b)は、本実施形態の位相調整回路10を流れる各信号を示している。図4(a)、図4(b)のいずれにおいても、横軸は時間を、縦軸は基準信号Sr(i)、出力信号So(PLL OUT:ii)、共振電流波形(NOT回路11を通る以前の帰還信号Sf:iii)、共振電流波形の反転波形(iv)、パルス化された帰還信号Sf(v)及びPLL回路13において比較される帰還信号Sf(F/B比較波形:vi)を示している。
図4(a)に示した波形は、インバータ回路3に擬似的な負荷を接続し、擬似的な負荷の共振周波数を1.5MHz(低領域)にして測定したものである。また、図4(b)に示した波形は、インバータ回路3に擬似的な負荷を接続し、擬似的な負荷の共振周波数を2.0MHz(高領域)にして測定したものである。図4(a)は、低領域において測定された信号を示し、図4(b)は、高領域において測定された信号を示している。
【0018】
先ず、図4(a)、図4(b)を用い、比較例の従来型の位相調整回路70において起こる課題を説明する。低領域、高領域のいずれにおいても、基準信号Sr及び出力信号Soの間には位相のずれが生じている。このようなずれは、バッファ回路22やインバータ回路3を構成する素子の機能の誤差やばらつきによって生じている。PLL回路73においては、帰還信号Sf(共振電流)が反転、パルス化される。このとき、出力信号Soと共振電流の位相との間にずれが生じると、帰還信号Sfを一定の閾値thと比較した場合にパルス化されたF/Bパルスのパルス幅に誤差が生じることになる。F/Bパルスの幅に誤差が生じると、帰還信号Sfのパルス幅にも誤差が生じるので、PLL回路73における帰還信号Sfと基準信号Srの結果生成される出力信号Soによる共振周波数の追従性が低下する。位相調整回路70の追従性の低下は、インバータ回路の周波数変換効率を低下させるために好ましくない。
【0019】
以上の点に鑑み、本実施形態の位相調整回路10は、図4(a)の(ii)に示すように、低領域においては出力信号Soの位相を遅らせ、出力信号Soの位相を帰還信号Sf(共振電流)の位相と一致させている。このようにすると、パルス化された帰還信号Sfのパルス幅に誤差が生じることがなく、PLL回路13において帰還信号Sfと基準信号Sr(出力信号So)との位相を正確に比較することができる。
出力信号Soの位相を遅らせることは、ディレイ回路27の可変抵抗素子19の抵抗値を変更することによって行われる。本実施形態では、可変抵抗素子19の抵抗値を、図4(a)に示した基準信号Srと共振電流波形との差分d1が実質的に0になるように調整する。なお、差分d1は、出力信号Soの立ち上がりエッジと共振電流のゼロクロスポイントとの差分である。本実施形態のディレイ回路27による位相の調整は、出力信号Soの立ち上がりを共振電流のゼロクロスポイントに合わせ込むように行われる。
【0020】
また、本実施形態の位相調整回路10は、図4(b)の(i)に示すように、高領域においては基準信号Srの位相を遅らせ、基準信号Srの位相を帰還信号Sf(共振電流)の位相と一致させている。このようにすると、パルス化された帰還信号Sfのパルス幅に誤差が生じることがなく、PLL回路13において帰還信号Sfと基準信号Sr(出力信号So)との位相を正確に比較することができる。
基準信号Srの位相を遅らせることは、フィルタ回路25の可変抵抗素子17の抵抗値を変更することによって行われる。本実施形態では、可変抵抗素子17の抵抗値を、図4(b)に示した帰還信号Sfと共振電流波形との差分d2が実質的に0になるように調整する。なお、差分d2は、基準信号Srの立ち上がりエッジと共振電流のゼロクロスポイントとの差分である。本実施形態のフィルタ回路25による調整は、基準信号Srの立ち上がりを共振電流のゼロクロスポイントに合わせ込むように行われる。
【0021】
図5は、図4(a)に示した調整の結果得られる位相調整回路10を流れる各信号を示している。図5の横軸は時間を、縦軸は基準信号Sr(i)、出力信号So(PLL OUT:ii)、共振電流波形(NOT回路11を通る以前の帰還信号Sf:iii)、共振電流波形の反転波形(iv)、パルス化された帰還信号Sf(v)及びPLL回路13において比較される帰還信号Sf(F/B比較波形:vi)を示している。図5に示したように、基準信号Srの位相と共振電流波形の位相とが一致しているため、共振電流波形の適正な値が閾値thと比較されている。このため、図5(iv)に示したF/Bパルスのパルス幅は、適正な時間に維持されるようになる。
【0022】
図6は、フィルタ回路25の可変抵抗素子17の抵抗値を高抵抗値VRhとした場合と、低抵抗値VRuとした場合のインバータ回路3の発振周波数と帰還信号Sfの位相との関係を示している。図6の横軸は発振周波数を示し、縦軸は帰還信号Sfの位相を示している。図6から、フィルタ回路25の可変抵抗素子17は、発振周波数が比較的高い領域において帰還信号Sfの位相を変化させることに効果的であることが分かる。
このように、低領域における位相のずれをディレイ回路27で調整し、高領域における位相のずれをフィルタ回路25で調整することは、ディレイ回路27及びフィルタ回路25のコイルのインダクタンスや容量素子の容量の選択及び可変抵抗素子の抵抗値の設定によって実現できる。
本実施形態では、例えば、図2に示した位相調整回路10において、可変抵抗素子17の抵抗値を100Ω、可変抵抗素子19の抵抗値を10Ω、コイル素子15のインダクタンスを120μH、容量素子21の容量を100pF、容量素子16の容量を22pFとした場合に低領域。高領域のいずれにおいても85%以上の周波数変換効率を得ることができた。
【0023】
図7は、位相調整回路70を含むインバータの発振周波数と負荷の共振周波数とを比較した図である。また、図8は、位相調整回路10を含むインバータ回路3の発振周波数と負荷5共振周波数とを比較した図である。図7図8のいずれにあっても、横軸は負荷の共振周波数、横軸はインバータの発振周波数を示している。共振周波数と発振周波数とが一致する場合、インバータ回路は最大の周波数変換効率を得ることができる。
図7に示した直線Roは、位相調整回路70において実際に得られる共振周波数と発振周波数との関係を示している。また、直線Iは、理想的な共振周波数と発振周波数との関係を示している。位相調整回路70において可変抵抗素子75及び容量素子C76を中心周波数fMで調整することにより、共振周波数と発振周波数とが一点で交わるものの、低領域及び高領域における直線Iと直線Roとの誤差が発生する。
一方、本実施形態の位相調整回路10によれば、図8中に示したように実際の特性が直線R1の場合、可変抵抗素子19により低域周波数における誤差が小さくなるよう調整して直線R2の特性とし、さらに高域周波数の誤差が小さくなるよう可変抵抗素子17を調整する。これにより、低域周波数から高域周波数において従来型の位相調整回路70の特性より、理想特性Iに近づけることが可能になる。
【0024】
図9は、位相調整回路70を備えるインバータ回路(比較例の回路)と本実施形態のインバータ回路との負荷5のマッチング周波数と変換効率を比較して示した図である。図9の横軸はマッチング周波数を示し、縦軸は変換効率を示している。図9中の菱形のプロットは位相調整回路70を備えるインバータ回路のものであり、正方形のプロットは本実施形態のインバータ回路3のものである。図9から明らかなように、本実施形態のインバータ回路3は、低領域から高領域に亘って比較例の回路よりも高い変換効率を得ることができる。
具体的には、図9によれば、比較例の従来型の位相調整回路70は、発振周波数が1.57MHzにおいて85.5%の比較的高い周波数変換効率を得ることができるが、発振周波数が1.7MHzにおいては85.1%、発振周波数が1.7MHzにおいては85.1%、発振周波数が1.79MHzにおいては76.1%、発振周波数が1.93MHzにおいては63.6%と高領域に向かうにしたがって周波数変換効率が下がっている。一方、本実施形態の位相調整回路10は、発振周波数が1.62MHzにおいては周波数変換効率が89.2%、発振周波数が1.74MHzにおいては88%、発振周波数が1.83MHzにおいては86.5%、発振周波数が1.95MHzにおいては85%と、低領域から高領域まで高い周波数変換効率を得ることができる。
【0025】
以上説明したように、低領域、高領域においてそれぞれ独立に位相を調整することができる本実施形態は、低領域から高領域の範囲において十分高い周波数の追従性を得ることができる。
なお、以上の調整は、インバータ回路3または給電装置1を出荷する前の検査時に行われる。基準信号Srと帰還信号Sfとの間の位相のずれは、製品ごとに異なるため、可変抵抗素子17、19の調整量は製品ごとに異なっている。このため、可変抵抗素子17、19の調整は、製品ごとに行うことが望ましい。
【0026】
上記実施形態および実施例は以下の技術思想を包含するものである。
(1) 基準信号を入力する基準信号入力端子と、帰還信号を入力する帰還信号入力端子と、前記基準信号と前記帰還信号との位相差に基づく出力信号を出力する出力端子と、を有する位相同期回路と、前記基準信号入力端子及び前記出力端子に接続され、前記位相同期回路を含む回路本体の発振周波数が第1レベルである場合に前記基準信号の位相を遅延させる第1回路と、前記出力端子に接続され、前記回路本体の発振周波数が前記第1レベルよりも低い第2レベルである場合に前記出力信号を遅延させる第2回路と、を備える、位相調整回路。
(2) 前記第1回路は、第1容量素子、コイル素子及び抵抗値が可変の第1抵抗素子を含むフィルタ回路である、(1)の位相調整回路。
(3) 前記第2回路は、第2容量素子及び抵抗値が可変の第2抵抗素子を含むディレイ回路である、(1)または(2)の位相調整回路。
(4) (1)から(3)のいずれか一つに記載の位相調整回路を含む、インバータ回路。
(5) (4)のインバータ回路を含む給電装置。
【符号の説明】
【0027】
1・・・給電装置
3・・・インバータ回路
5・・・負荷
10・・・位相調整回路
11・・・NOT回路
13・・・PLL回路
13a・・・基準信号入力端子
13b・・・帰還信号入力端子
13c・・・出力端子
15・・・コイル素子
16・・・容量素子
17、19・・・可変抵抗素子
21・・・容量素子
22・・・バッファ回路
25・・・フィルタ回路
27・・・ディレイ回路
33・・・PWM制御回路
31・・・インバータ回路電源
51、52・・・共振コイル
53、54・・・共振コンデンサ
311、312、313、314・・・ドライブ回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9