特許第6866730号(P6866730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866730
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】ガス分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20210419BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20210419BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20210419BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20210419BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20210419BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20210419BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20210419BHJP
   F24F 3/14 20060101ALI20210419BHJP
   F24F 6/04 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   B01D69/08
   B01D53/22
   B01D69/12
   B01D69/10
   B01D71/64
   B01D69/02
   C08G73/10
   F24F3/14
   F24F6/04
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-70741(P2017-70741)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-171570(P2018-171570A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】細井 克馬
(72)【発明者】
【氏名】星野 治利
(72)【発明者】
【氏名】叶木 朝則
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−167852(JP,A)
【文献】 特開2007−090348(JP,A)
【文献】 特開2004−055534(JP,A)
【文献】 特開2002−172311(JP,A)
【文献】 特開平05−212255(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0134550(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキン層(分離層)と多孔質層(支持層)とから構成される非対称構造を有し、水蒸気透過速度(P’H2O)が350×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上408×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以下であり、水蒸気と窒素の透過速度比(P’H2O/P’N2)が500以上2200以下であり、中空糸膜での引張破断伸度が25%以上119%以下であり、150℃の熱水中で22時間熱水処理した後の中空糸膜の破断伸度が熱水処理前の40%以上87%以下を保持し、
下記一般式(1):
【化1】
〔式(1)中、Bはテトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットであり、Aはジアミン成分に起因する2価のユニットである。〕
で表されるポリイミドで構成され、
前記テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物を含み、
前記ジアミン成分が、ジアミノジフェニルエーテル類を含むことを特徴とするガス分離膜。
【請求項2】
前記中空糸膜での破断強度が2.3kgf/mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガス分離膜の製造方法であって、
ポリイミドと、フェノール系溶媒と脂肪族アルコールとを含む溶媒とを含むポリイミド溶液を用いて、乾湿式相転換法を行う工程を含む、ガス分離膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のガス分離膜を用いて、水蒸気を含有する混合ガスから水蒸気を分離する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキン層と多孔質層とから構成される非対称構造を有するガス分離膜であって、膜透過成分の膜透過速度が大きく、中空糸ガス分離膜として実用レベル以上の機械的性質を持っていて、かつ水に対して優れた耐加水分解性を有するガス分離膜、およびその製造方法に関する。さらに、本発明は、該ガス分離膜を用いたガス分離方法、特に除湿方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々のガス分離工程においてガス分離膜が使用されている。これらの多くは、ガス選択透過性が高いガラス状ポリマーで形成されたガス分離膜である。一般的に、ガラス状ポリマーで形成されたガス分離膜は、ガスの選択透過性(分離度)は高いが、ガス透過係数(透過速度)が小さいという短所がある。このため、ガラス状ポリマーで形成されたガス分離膜の多くは、多孔質層(支持層)と薄いスキン層(分離層)とから構成される非対称構造、すなわちガスの透過抵抗を生じる分離層を薄くして、ガス透過速度が小さくなり過ぎないようにする構造を有している。
【0003】
ガス分離膜は、中空糸ガス分離膜モジュールとして好適に用いられる。中空糸ガス分離膜モジュールは、通常、多数の中空糸膜からなる中空糸膜束を、少なくとも混合ガスの導入口と、透過ガスの排出口と、未透過ガスの排出口とを有する容器内に収納して構成される。中空糸ガス分離膜モジュールにおいては、混合ガスは中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給され、中空糸膜に接して流れる間に混合ガス中の特定成分(膜透過成分)が選択的に膜を透過し透過ガスの排出口から回収され、特定成分(膜透過成分)が除かれたガスが非透過ガスの排出口から回収されることによって、ガス分離がおこなわれる。
【0004】
非対称構造の膜では、膜透過成分が膜を透過する透過速度の律速過程は、通常はスキン層を透過する過程である。多孔質層を透過する過程は透過抵抗が比較的小さいので、膜透過成分が膜を透過する透過速度への影響は、多くの場合、実際上は無視できる。
【0005】
しかしながら、膜透過成分の膜を透過する透過速度が極めて大きい場合には、膜透過成分が膜を透過する透過速度は、膜透過成分がスキン層を透過する過程のみならず多孔質層を透過する過程によっても実際上無視できない影響を受ける。特に、膜透過成分が水蒸気の場合は、水蒸気が膜を透過する透過速度が他の無機ガスに比べて極めて大きい(数百倍から数千倍に達する)ので、膜を透過する水蒸気の透過速度は多孔質層の透過抵抗によって実際上無視できない影響を受ける。このため、水蒸気が膜を透過する透過速度を大きくした高性能除湿膜の開発が求められていた。
【0006】
一方、非対称膜において単に多孔質層の多孔性を高めて、膜透過成分が膜を透過するときの透過抵抗をより小さくすることによって膜透過成分が膜を透過する透過速度を大きくしようとすると、透過速度は大きくできるが多孔質層が担うべき膜の支持機能、即ち機械的強度が低下するので、向上された透過速度と実用レベルの機械的強度の両方を併せ持つ実用的な高性能ガス分離膜を得ることは困難であった。また、高強度材料の選択によって機械的強度を向上させる試みもあるが、高強度材料は一般的にガス透過係数がより小さいという問題があった。
【0007】
特許文献1においては、少なくとも1種類のポリイミドを含む2種類以上のポリマーの混合物で非対称膜を形成することによって、多孔質層の膜透過成分が膜を透過するときのガス透過抵抗を小さくしながら、かつ、膜の機械的強度を実用レベル以上に保持し得るガス分離膜について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−172311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の発明においても、水蒸気の透過速度は十分でなく、さらなる改善が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい態様は以下のとおりである。
【0011】
1. スキン層(分離層)と多孔質層(支持層)とから構成される非対称構造を有し、水蒸気透過速度(P’H2O)が350×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上であり、水蒸気と窒素の透過速度比(P’H2O/P’N2)が500以上であり、中空糸膜での引張破断伸度が25%以上であり、150℃の熱水中で22時間熱水処理した後の中空糸膜の破断伸度が熱水処理前の40%以上を保持することを特徴とするガス分離膜。
【0012】
2. 前記中空糸膜での破断強度が2.3kgf/mm以上であることを特徴とする、上記1に記載のガス分離膜。
【0013】
3. ポリイミドで構成されることを特徴とする上記1または2に記載のガス分離膜。
【0014】
4. 前記ポリイミドが、下記一般式(1):
【0015】
【化1】
〔式(1)中、Bはテトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットであり、Aはジアミン成分に起因する2価のユニットである。〕
で表され、前記テトラカルボン酸成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む、上記3に記載のガス分離膜。
【0016】
5. 前記テトラカルボン酸成分が、さらに2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物を含む、上記4に記載のガス分離膜。
【0017】
6. 前記ジアミン成分が、ジアミノジフェニルエーテル類を含む、上記4または5に記載のガス分離膜。
【0018】
7. 上記3〜6のいずれかに記載のガス分離膜の製造方法であって、
ポリイミドと、フェノール系溶媒と脂肪族アルコールとを含む溶媒とを含むポリイミド溶液を用いて、乾湿式相転換法を行う工程を含む、ガス分離膜の製造方法。
【0019】
8. 上記1〜6のいずれかに記載のガス分離膜を用いて、水蒸気を含有する混合ガスから水蒸気を分離する方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の非対称ガス分離膜は、ガス透過速度が大きく、かつ実用レベルに十分な機械的性質を有する。このため、本発明のガス分離膜を用いると、ガス分離速度が大きく高効率でよりコンパクトな高性能中空糸ガス分離膜モジュールを提供でき、高効率のガス分離を実現できる。特に、水蒸気を含む混合ガスから水蒸気を除去する(除湿する)場合には、極めて高効率に除湿を実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態のガス分離膜の一態様は、スキン層(分離層)と多孔質層(支持層)とから構成される非対称構造を有し、水蒸気透過速度(P’H2O)が350×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上であり、水蒸気と窒素の透過速度比(P’H2O/P’N2)が500以上であり、中空糸膜での破断伸度が25%以上であり、150℃の熱水中で22時間熱水処理した後の中空糸膜の破断伸度が熱水処理前の40%以上を保持する。本実施形態のガス分離膜は、透過速度が大きく、中空糸膜にしたときの機械的性質を実用レベル以上に保持し、かつ、水に対して優れた耐加水分解性を有する。以下、詳細に説明する。
【0022】
本発明のガス分離膜は、主としてガス分離性能を担う極めて薄い緻密層(好ましくは厚さが0.001〜5μm)とその緻密層を支える比較的厚い多孔質層(好ましくは厚さが10〜2000μm)とを有する非対称構造を有する。ガス分離膜は、有効表面積が広く、耐圧性が高いという利点を持つため、非対称中空糸膜を形成することが好ましく、内径が約10〜3000μmで外径が約30〜7000μmの非対称中空糸膜であることがより好ましい。
【0023】
本発明のガス分離膜は、高い水蒸気透過速度を有する。具体的には、ガス分離膜は、水蒸気透過速度(P’H2O)が、350×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上であるのが好ましく、370×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以上であるのがより好ましい。上限は特に限定されないが、通常は1000×10−5cm(STP)/cm・sec・cmHg以下である。なお、本明細書において、「STP」は、0℃、1atmを意味し、「Standard Temperature and Pressure」の略語である。
【0024】
本発明のガス分離膜は、ガスの選択透過性(分離度)が高く、水蒸気と窒素の透過速度比(P’H2O/P’N2)が、500以上であるのが好ましく、1000以上であるのがより好ましい。また、該透過速度比の上限は特に限定されないが、通常100000以下である。なお、本明細書において、膜の水蒸気透過速度(P’H20)と、水蒸気と窒素の透過速度比(P’H2O/P’N2)は、35℃におけるものである。
【0025】
本発明において、ガス分離膜の機械的強度は、膜を中空糸としたときの引張試験における破断強度または破断伸度で表される。これらは温度23℃にて、引張試験機を用いて試料の有効長20mm、引張速度10mm/分で測定した値である。破断強度は中空糸膜の引張破断時の応力を中空糸の膜断面積で除した値[単位:kgf/mm]であり、破断伸度は中空糸の元の長さをL、引張破断時の長さをLとしたときの100×(L−L)/Lの値[単位:%]である。
【0026】
ガス分離膜は、中空糸膜を形成したときの破断伸度が、25%以上であるのが好ましく、30%以上であるのがより好ましく、40%以上であるのがさらに好ましく、60%以上であるのがよりさらに好ましく、上限は限定されないが、通常1000%以下である。
【0027】
ガス分離膜は、中空糸膜を形成したときの破断強度が、2.3kgf/mm以上であるのが好ましく、2.5kgf/mm以上であるのがより好ましく、3.0kgf/mm以上であるのがさらに好ましく、上限は限定されないが、通常100kgf/mm以下である。
【0028】
ガス分離膜を中空糸膜としたときの破断強度または破断伸度が上記範囲内にあると、機械的強度が高く、容易に破損または破断することなく取扱うことができるので、工業的にモジュール化(ガス分離膜モジュールへの組立て及び加工)をすることができる。更に、このような機械的強度を持った中空糸膜を用いたガス分離膜モジュールは、優れた耐圧性や耐久性を持つので特に有用である。また、分離膜モジュール内の中空糸膜は、供給され中空糸の内側や外側を流れて排出されるガスの流量、流速、圧力、温度、及び、それらの変動によって、連続的又は断続的に変形応力を受けるが、本願発明のガス分離膜で構成される中空糸膜は、破断伸度が25%以上であり、好ましくはさらに破断強度が2.3kgf/mm以上であることにより、破損または破断が発生しにくい。
【0029】
さらに、本発明のガス分離膜は耐水性および耐熱水性に優れる。ガス分離膜の耐水性および耐熱水性は、ガス分離膜を中空糸膜にして、温度150℃の熱水中で22時間熱水処理をおこなった後の引張試験における破断伸度の保持率(100×熱水処理後の破断伸度/熱水処理前の破断伸度[単位:%])で表す。
【0030】
本発明において、ガス分離膜を中空糸膜とし、これを温度150℃の熱水中で22時間熱水処理した後の破断伸度の保持率は、40%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましい。
【0031】
本発明のガス分離膜を構成する材料は、特に限定はされないが、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート等が挙げられる。これらのうち、ガス分離膜はポリイミドで構成されるのが好ましい。
【0032】
本発明のガス分離膜を構成するポリイミドの好ましい一態様として、下記一般式(1)の反復単位で示される芳香族ポリイミドについて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
【化2】
【0034】
上記式(1)中、Bはテトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットであり、Aはジアミン成分に起因する2価のユニットである。一般式(1)で表される芳香族ポリイミドを構成するユニットについて以下に詳述する。
【0035】
ユニットBは、テトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットであり、下記式(B1)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造からなるユニットB1および下記式(B2)で示されるビフェニル構造からなるユニットB2から選ばれる少なくとも一種のユニットであることが好ましい。例えば、ユニットBは、好ましくは10〜70モル%、より好ましくは20〜60モル%のユニットB1と、好ましくは90〜30モル%、より好ましくは80〜40モル%のユニットB2を含み、実質的にユニットB1およびユニットB2からなることが好ましい。ジフェニルヘキサフルオロプロパン構造が10モル%未満でビフェニル構造が90モル%を越えると、得られるポリイミドのガス透過性能が低下して、高性能ガス分離膜を得ることが難しくなる場合がある。一方、ジフェニルヘキサフルオロプロパン構造が70モル%を越えビフェニル構造が30モル%未満になると、得られるポリイミドの機械的強度が低下する場合がある。
【0036】
また、ユニットBは、下記式(B3)で示されるフェニル構造に基づく4価のユニットを含むこともできる。式(B3)で示されるフェニル構造に基づく4価のユニットは、ユニットB全量に対し、0〜30モル%、好ましくは10〜20モル%が好適である。
【0037】
【化3】
【0038】
さらに、ユニットBは、ユニットB1、B2、B3以外のその他のテトラカルボン酸に起因する4価のユニットB4を含んでもよい。
【0039】
ユニットAは、ジアミン成分に起因する2価のユニットであり、下記式(A1)で表されるユニットA1および下記式(A2)で表されるユニットA2から選ばれる少なくとも一種を含むのが好ましい。
【0040】
【化4】
式(A2)中、Arは、下記化学式(Ar1)〜化学式(Ar6)で示される残基の群から選ばれる1種以上の2価の残基である。
【0041】
【化5】
【0042】
【化6】
【0043】
【化7】
【0044】
【化8】
【0045】
【化9】
【0046】
【化10】
【0047】
本発明の一態様として、ユニットAが、式(A1)で表されるユニットA1および/または式(A2)で表されるユニットA2を有するとき、ユニットAの全ユニット量に対し、ユニットA1およびユニットA2の合計が90〜100モル%であるのが好ましい。
【0048】
また、本発明の一態様として、ユニットAの全ユニット量に対し、ユニットA1が50モル%以上であるのが好ましく、70モル%以上であるのが好ましく、90モル%以上であるのがさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0049】
次に、芳香族ポリイミドの前記各ユニットを導入できるモノマー成分について説明する。
【0050】
テトラカルボン酸成分とは、一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドに、4価の残基Bを導入することができる成分のことである。
【0051】
前記式(B1)で示されるジフェニルヘキサフルオロプロパン構造からなるユニットは、テトラカルボン酸成分として、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、その二無水物、又はそのエステル化物を用いることによって得られる。前記(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸類としては、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、3,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、それらの二無水物、又はそれらのエステル化物を好適に用いることができるが、特に4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、その二無水物、又はそのエステル化物がましく、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物がより好ましい。
【0052】
前記式(B2)で示されるビフェニル構造からなるユニットは、テトラカルボン酸成分として、ビフェニルテトラカルボン酸、その二無水物、又はそのエステル化物などのビフェニルテトラカルボン酸類を用いることによって得られる。前記ビフェニルテトラカルボン酸類としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、それらの二無水物、又はそれらのエステル化物を好適に用いることができるが、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、その二無水物、又はそのエステル化物が好ましく、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。
【0053】
前記式(B3)で示されるフェニル構造に基づく4価のユニットは、ピロメリット酸およびその酸無水物等のピロメリット酸類を用いることによって得られる。このピロメリット酸類は、機械的性質を高めるうえで好適であるが、その量が多すぎると製膜時のポリマー溶液が凝固する等、不安定になって中空糸を形成することが困難になる場合がある。
【0054】
ユニットB4を与えるその他のテトラカルボン酸成分は、上記で示される化合物以外のテトラカルボン酸類であり、本発明の効果を損なわず、場合によっては性能をさらに改良し得る化合物が選ばれる。例えば、ジフェニルエ−テルテトラカルボン酸類、ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸類、ナフタレンテトラカルボン酸類、ジフェニルメタンテトラカルボン酸類、ジフェニルプロパンテトラカルボン類等を挙げることができる。
【0055】
ジアミン成分とは、一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミドに、2価の残基Aを導入することができる成分のことである。
【0056】
ジアミン成分としては、以下のものが挙げられる。残基A1を導入するための芳香族ジアミン成分としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(44DADE)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34DADE)、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル(24DADE)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(33DADE)、2,3’−ジアミノジフェニルエーテル(23DADE)、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル(22DADE)等のジアミノジフェニルエーテル類を挙げることができる。その中でも、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(44DADE)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34DADE)が特に好ましい。
【0057】
残基A2を導入するためのジアミン成分としては、化学式(Ar1)で示されるAr基を有するビス(アミノフェノキシ)ベンゼン類、化学式(Ar2)で示されるAr基を有するビス(アミノフェノキシ)ビフェニル類、化学式(Ar3)で示されるAr基を有するビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン類、化学式(Ar4)で示されるAr基を有するビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン類、化学式(Ar5)で示されるAr基を有するビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン類、化学式(Ar6)で示されるAr基を有するビス(アミノフェノキシ)ナフタレン類が挙げられる。
【0058】
化学式(Ar1)で示されるAr基を有するビス(アミノフェノキシ)ベンゼン類としては、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられ、その中でも、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPEQ)が特に好ましい。
【0059】
化学式(Ar2)で示されるAr基を有するビス(アミノフェノキシ)ビフェニル類としては、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル等が挙げられ、その中でも、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルが特に好ましい。
【0060】
化学式(Ar3)で示されるAr基を有するビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン類としては、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ(4−フェニル))プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ(4−フェニル))プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ(3−フェニル))プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ(3−フェニル))プロパン等が挙げられ、その中でも、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ(4−フェニル))プロパンが特に好ましい。
【0061】
化学式(Ar4)で示されるAr基を有するビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン類としては、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ(4−フェニル))ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ(4−フェニル))ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ(3−フェニル))ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェノキシ(3−フェニル))ヘキサフルオロプロパン等が挙げられ、その中でも、2,2−ビス(4−アミノフェノキシ(4−フェニル))ヘキサフルオロプロパンが特に好ましい。
【0062】
化学式(Ar5)で示されるAr基を有するビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン類としては、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン等が挙げられ、その中でも、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホンが特に好ましい。
【0063】
化学式(Ar6)で示されるAr基を有するビス(アミノフェノキシ)ナフタレン類としては、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ナフタレン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ナフタレン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ナフタレンを挙げることができる。その中でも、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ナフタレンが好ましい。
【0064】
本発明の好ましい一態様として、ガス分離膜を構成するポリイミドが、式(1)において、ユニットBの全ユニット量に対し、40モル%以上が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に基づくユニットであり、かつ、ユニットAの全ユニット量に対し、50モル%以上、より好ましくは80モル%以上が4,4’−ジアミノジフェニルエーテルに基づくユニットであるポリイミドを、60重量%以上(100重量%であってもよい)含むのが好ましい。
【0065】
本発明のさらに好ましい一態様として、ガス分離膜を構成するポリイミドが、式(1)において、ユニットBの全ユニット量に対し、40モル%以上が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に基づくユニットであり、10モル%以上が2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物に基づくユニットであり、かつ、ユニットAの全ユニット量に対し、50モル%以上、より好ましくは80モル%以上が4,4’−ジアミノジフェニルエーテルに基づくユニットであるポリイミドを、60重量%以上(100重量%であってもよい)含むのが好ましい。
【0066】
ポリイミドは、1種のみであってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
<ポリイミド溶液の調製>
本発明のポリマー溶液の調製方法の一態様として、ポリイミド溶液の調製方法について説明する。ポリイミド溶液の調製は、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し次いで加熱して加熱イミド化するか又はピリジンなどを加えて化学イミド化する2段法、または、有機極性溶媒中にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃好ましくは130〜200℃程度の高温で重合イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機極性溶媒に対するテトラカルボン酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの固形分濃度が5〜50重量%程度好ましくは5〜40重量%になるようにするのが好適である。
【0068】
有機極性溶媒としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノールのようなフェノール類、2個の水酸基をベンゼン環に直接有するカテコール、レゾルシンのようなカテコール類、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール(後述のパラクロロフェノールに同じ)、3−ブロムフェノール、4−ブロムフェノール、2−クロロ−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノール類などからなるフェノール系溶媒;又はN−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類からなるアミド系溶媒;あるいはそれらの混合溶媒などを好適に挙げることができる。これらのうち、アミド系溶媒およびフェノール系溶媒が好ましく、フェノール系溶媒がより好ましく、ハロゲン化フェノール類がさらに好ましく、4−クロロフェノールが特に好ましい。
【0069】
重合イミド化して得られたポリイミド溶液は、後述するように、そのまま直接紡糸に用いることもできる。また、例えば得られたポリイミド溶液をポリイミドに対し非溶解性の溶媒中に投入してポリイミドを析出させて単離後、改めて有機極性溶媒に所定濃度になるように溶解させて芳香族ポリイミド溶液を調製し、それを紡糸に用いることもできる。
【0070】
<ガス分離膜の製造方法>
本発明の非対称ガス分離膜は、ポリマー溶液を用いて、乾湿式相転換法によって好適に得ることができる。乾湿式相転換法は、ポリマー溶液を凝固液と接触させて相転換させながら膜を形成する公知の方法である。乾湿式相転換法は、膜形状にしたポリマー溶液の表面の溶媒を蒸発させて薄い緻密層(分離層)を形成し、次いで凝固液(ポリマー溶液の溶媒とは相溶し、ポリマーは不溶な溶剤)に浸漬し、その際生じる相分離現象を利用して微細孔を形成して多孔質層(支持層)を形成させる相転換法であり、Loebらが提案(例えば、米国特許3133132号)したものである。
【0071】
ポリマー溶液に含まれるポリマーは、特に限定されないが、上述のポリイミドを含むことが好ましく、ポリイミドをポリマー全量に対し50重量%以上含むのがより好ましく、70重量%以上含むのがさらに好ましく、100重量%であってもよい。
【0072】
本発明においては、乾湿式相転換法に用いるポリマー溶液の溶媒が、ポリマーを溶解できる溶媒と脂肪族アルコールとを含むことが好ましい。ポリマー溶液が脂肪族アルコールを含むことにより、膜透過成分(例えば水蒸気)の透過速度が大きく、中空糸膜にしたときの機械的強度が十分に高く、かつ、耐熱水性が高いガス分離膜を得ることができる。
【0073】
ポリマーを溶解できる溶媒は、有機極性溶媒が好ましく、モノマーを重合してポリマーを合成するときに用いた有機極性溶媒であってもよい。本発明の一態様として、ポリマーがポリイミドである場合、有機極性溶媒はポリイミドを溶解できるものであればよく、上述のポリイミド溶液の調製に用いられる有機極性溶媒を例示できる。
【0074】
ポリマー溶液の溶媒として含まれる脂肪族アルコールは、沸点が、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。脂肪族アルコールは、1価の脂肪族アルコールであっても2価以上の脂肪族多価アルコールであってもよく、脂肪族多価アルコールであるのが好ましく、3価以上の多価アルコールが好ましい。
【0075】
ポリマー溶液の溶媒としての1価の脂肪族アルコールは、非環式のものが好ましく、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、例えば炭素数1〜7個である。1価の脂肪族アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール等のプロパノール類、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール等のブタノール類、アミルアルコール、イソアミルアルコール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール等のペンタノール類、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール等のヘキサノール類、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール等のヘプタノール類等が挙げられる。これらのうち、エタノールが好ましい。
【0076】
ポリマー溶液の溶媒としての脂肪族多価アルコールは、非環式のものが好ましく、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、炭素数は、例えば、好ましくは2〜10個、より好ましくは3〜8個である。脂肪族多価アルコールは、2価以上のアルコールを意味し、3価以上のアルコールであることが好ましい。脂肪族多価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−、1,3−又は2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,7−ヘプタンジオール、3−メチル−1,7−ヘプタンジオール及び4−メチル−1,7−ヘプタンジオール等の2価の脂肪族アルコール溶媒、グリセリン、ジグリセリン等の3価以上のアルコール溶媒が挙げられる。これらのうち、グリセリンを用いると、均一な多孔質層を形成しやすく、機械的強度および耐熱水性に優れた中空糸膜を得ることができる。
【0077】
脂肪族アルコールは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0078】
ポリマー溶液中の脂肪族アルコールの含有量は、ポリマー溶液の全重量に対して、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%である。脂肪族アルコールの含有量が該範囲内にあると得られる中空糸の透過性能及び機械特性に優れる。また、ポリマー溶液を後述の紡糸工程に用いる場合、ポリマー溶液の固形分濃度は10〜20重量%が製膜上好ましい。また、ポリマー溶液の溶液粘度(回転粘度)は、紡糸工程における吐出温度で50〜15000ポイズが好ましく、特に100〜10000ポイズであると、中空糸状などの吐出後の形状を安定に得ることが出来るので好ましい。
【0079】
脂肪族アルコールは、ポリマーが溶解した溶液に混合してもよいし、単離されたポリマーと有機極性溶媒と脂肪族アルコールとを同時に混合してもよい。混合の際は、ポリマーが有機極性溶媒に溶解するように加熱してもよい。
【0080】
本発明のガス分離膜の製造方法の好ましい一態様として、ポリマーと、ハロゲン化フェノールと脂肪族アルコールとの混合溶媒とを含むポリマー溶液を用いて、乾湿式相転換法によるのが好ましい。より好ましい一態様としては、ポリイミドと、パラクロロフェノールと、グリセリンとを含むポリマー溶液を用いて、乾湿式相転換法によりガス分離膜を形成するのが好ましい。
【0081】
本発明の一態様として、ポリマー溶液を用いて乾湿式相転換法により中空糸膜を製造する方法を以下説明する。
【0082】
中空糸膜の製造方法は、通常、紡糸工程(紡糸ドープ吐出工程)、凝固工程、洗浄工程、乾燥工程および熱処理工程を含む。これらの各工程は、中空糸を連続的に送り出し/引き取りをしながら中空糸を連続的に処理することが必須の工程と、ボビン等に巻いた状態でバッチ処理しても、または連続的に処理してもよい工程とがある。
【0083】
まず、紡糸工程(紡糸ドープ吐出工程)において、紡糸ドープ液の吐出のために使用される紡糸ノズルは、紡糸ドープ液を中空糸状体に押し出すものであればよく、チューブ・イン・オリフィス型ノズルなどが好適である。通常、押し出す際のポリマー溶液(好ましくはポリイミド溶液)の温度範囲は、ドープ液に含まれるポリマー、溶媒の種類、粘度等によるが、例えば、好ましくは約20℃〜150℃、より好ましくは30℃〜120℃である。また、ノズルから押し出される中空糸状体の内部へ気体または液体を供給しながら紡糸がおこなわれる。
【0084】
紡糸工程から連続する凝固工程では、ノズルから吐出された中空糸状体が、一旦、大気中または窒素等の不活性ガス雰囲気中等に押し出され、引き続き、凝固浴に導かれ、凝固液に浸漬される。凝固液は、ポリマー成分を実質的には溶解せず且つポリマー成分の溶媒と相溶性があるものが好適である。特に限定するものではないが、水や、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどの低級アルコール類や、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどの低級アルキル基を有するケトン類など、あるいは、それらの混合物が好適に用いられる。また、ポリマー溶液がポリイミド溶液であって、ポリイミド溶液の溶媒がアミド系溶媒であるときは、アミド系溶媒の水溶液も好ましい。
【0085】
凝固工程では、ノズルから中空糸形状に吐出されたポリマー溶液がその形状を保持できる程度に凝固させる一次凝固液に浸漬し、案内ロール等に巻き取られ、次いで完全に凝固させるための二次凝固液に浸漬するのが好ましい。一次凝固液と二次凝固液は同一の凝固液でも構わないし、別々の凝固液でもかまわない。また、凝固液槽を多数化することでポリイミド溶液中の溶媒を効率的に抽出する事も可能である。
【0086】
紡糸工程及び凝固工程は、中空糸を連続的に送り出し/引き取りをしながら中空糸を連続的に処理する連続処理工程であるのが好ましい。
【0087】
次の洗浄工程では、必要によりエタノール等の洗浄溶媒で洗浄し、次いで置換溶媒、例えばイソペンタン、n−ヘキサン、イソオクタン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素を使用して、中空糸の外側および内側の凝固液および/または洗浄溶媒を置換する。
【0088】
次の乾燥工程では、置換溶媒を含む中空糸を適当な温度で乾燥する。そして、熱処理工程において、好ましくは、用いられたポリイミド等のポリマーの軟化点又は二次転移点よりも低い温度で、熱処理を行うことで、非対称ガス分離中空糸膜が得られる。
【0089】
洗浄・乾燥・熱処理工程は、中空糸を連続的に送り出し/引き取りをしながら中空糸を連続的に処理する連続処理工程でも良いし、ボビン等に巻いた状態でバッチ処理してもよい。
【0090】
本発明の中空糸膜である非対称ガス分離膜はモジュール化して好適に用いることができる。中空糸膜の内径は約30〜500μmのものが好適である。通常のガス分離膜モジュールは、例えば、適当な長さの中空糸膜100〜1000000本程度(好ましくは100〜200000本)を束ね、その中空糸束の両端部を、中空糸の少なくとも一方の端が開口状態を保持した状態になるようにして、熱硬化性樹脂などからなる管板で固着し、得られた中空糸束と管板などからなる中空糸膜エレメントを、少なくとも混合ガス導入口と透過ガス排出口と非透過ガス排出口とを備える容器内に、中空糸膜の内側に通じる空間と中空糸膜の外側へ通じる空間とが隔絶するように収納し取り付けることによって得られる。管板は、O−リングや接着剤などによって容器に密閉して取り付けられる。このようなガス分離膜モジュールでは、混合ガスが混合ガス導入口から中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給され、中空糸膜に接して流れる間に混合ガス中の特定成分が選択的に膜を透過し、透過ガスが透過ガス排出口から、膜を透過しなかった非透過ガスが非透過ガス排出口からそれぞれ排出されることによって、ガス分離が行われる。
【0091】
本発明の非対称ガス分離膜は、種々のガス種を高分離度(透過速度比)で分離回収することができるが、耐水性、耐熱水性に優れることから、特に水蒸気を分離するのに用いるのが好適である。本発明のガス分離膜を用いて水蒸気を分離する場合、即ち、除湿をおこなう場合、前記のガス分離膜モジュールに、水蒸気を含有する混合ガスを中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給し、水蒸気を選択的に膜の透過側へ透過し、未透過ガスとして除湿されたガスを極めて効率よく得ることが出来る。また、透過ガス側の空間に例えば供給された混合ガスと向流になる方向にキャリアガスを流して透過ガスの回収を促進してもよく、その際、キャリアガスとして非透過ガスを用いてもよい。
【0092】
本発明のガス分離膜は、水蒸気透過速度が極めて大きいので、除湿及び/又は加湿を極めて効率よく好適におこなうことができる。除湿を行う場合、本発明のガス分離膜を備えるガス分離膜モジュールに、水蒸気を含有する混合ガスを中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給することによって、水蒸気を選択的に膜の透過側へ透過して非透過ガスとして除湿されたガスを極めて効率よく得ることができる。特に、水蒸気を含有する混合ガスは中空糸膜の内側へ供給し、中空糸膜の外側の空間へ乾燥したキャリアガスを混合ガスと向流になるように導入することがより高効率で除湿ができるので好ましく、更に、キャリアガスとしてガス分離膜の非透過側で得られる除湿されたガスの一部をリサイクルして用いることが簡便なキャリアガスの導入方法として好ましい。加湿する場合には、水蒸気をより多量に含有する(水蒸気分圧が高い)混合ガスを中空糸膜の内側あるいは外側に接する空間へ供給し、中空糸膜の反対側の空間へ水蒸気をより少量含有する(水蒸気分圧が低い)ガスを供給することによって、水蒸気が膜を選択的に透過して、水蒸気をより少量含有するガスを容易に加湿することができる。特に、水蒸気をより多量に含有する混合ガスと水蒸気をより少量含有するガスは中空糸膜を挟んで向流となるように供給することが高効率になるので望ましい。
【0093】
更に、本発明のガス分離膜を用いることによって、燃料電池用の供給ガスの除湿及び/又は加湿を好適に行うことができる。固体高分子型燃料電池は、一般に水素イオン伝導性の固体高分子電解質膜の両側を、白金触媒を担持したカーボン電極で挟み込んで積層した発電素子と、それらの各電極に水素等の燃料ガスあるいは酸素等の酸化性ガスを供給したり電極からの排出ガスを排出するための配流機能を備えたセパレータや更にその外側に配置した集電体などを積層して構成されている。この電池では、固体高分子電解質膜が乾燥すると、イオン伝導度が低下するとともに、固体高分子電解質膜と電極との接触不良をおこして出力の急激な低下をきたすため、固体高分子電解質膜が一定の湿度を保つように制御することが重要である。このため、供給ガス(燃料ガス及び/又は酸化性ガス)の加湿(水分が多すぎる場合は加湿の代わりに除湿)をおこなうことが必要である。前記供給ガスの加湿方法として分離膜を用いることは既に提案されている。特開平3−269958号公報にはテトラフルオロエチレン樹脂からなる多孔質膜を用いることが開示されている。中空糸状多孔質膜を用いることによって単位面積当たりの透過膜面積を大きくし、加湿性能を高めることが特開平8−273687号公報や特開平8−315838号公報に開示されている。しかしながら、これらの加湿膜では加湿性能が十分でないという問題、および、長時間水と膜が接触していると膜の燃料電池の供給ガス側に水がしみ出て液滴が生成するという問題があった。更に、自動車用などの燃料電池では、燃料電池の排出ガス中の水分を分離膜によって選択的に透過させて燃料電池の供給ガスへリサイクルして使用する方法が検討されているが、前記の多孔質膜では燃料電池の排出ガス中の水分以外の成分を燃料電池の供給ガスへ混入させるなどの問題もあった。
【0094】
本発明のガス分離膜を燃料電池用に用いる場合、固体高分子型燃料電池が運転される100℃前後の耐熱水性も極めて良好である。さらに、本発明のガス分離膜は、スキン層(分離層)と多孔質層(支持層)とから構成される非対称構造を有しているので、燃料電池で長時間使用したとき、燃料電池の供給ガス側の膜面に水がしみ出て液滴が生成するという不都合や、燃料電池の排出ガス中の水分以外の成分を燃料電池の供給ガスへ混入させるといった問題が生じにくい。また、ガス分離膜がポリイミドから構成される場合は、燃料電池用に用いる時に要求される耐熱性、耐薬品性などにも優れる。
【実施例】
【0095】
次に、本発明における中空糸ガス分離膜の製造とその特性について、実施例により具体的に説明する。尚、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0096】
実施例における各測定方法は下記のとおりである。
【0097】
(中空糸膜の水蒸気透過性能の測定方法)
約10本の中空糸膜と、ステンレスパイプと、エポキシ樹脂系接着剤とを使用して有効長が80mmの透過性能評価用のエレメントを作成し、これをステンレス容器に装着してペンシルモジュールとした。このペンシルモジュールの中空糸の内側へ、15℃の飽和水蒸気を含む窒素ガスを5kgfG/cmの圧力で一定量供給し、膜の出口側から得られる乾燥ガスを、製品ガスとした。膜の透過側を大気圧とし、更に膜の供給側と非透過側に十分な水蒸気の分圧差を稼ぐため、水蒸気濃度の低い製品ガスの20%を更に透過側へ供給した。供給ガス、製品ガスの露点は、鏡面式の露点計で検出し、水蒸気分圧を求めた。測定した水蒸気量(水蒸気分圧)と供給ガス量及び有効膜面積から膜の水蒸気透過速度(P’H2O)を算出した。尚、これらの測定は35℃でおこなった。
【0098】
(中空糸膜の窒素ガス透過性能の測定方法)
約10本の中空糸膜と、ステンレスパイプと、エポキシ樹脂系接着剤とを使用して有効長が80mmの透過性能評価用のエレメントを作成し、これをステンレス容器に装着してペンシルモジュールとした。それに5kgfG/cmの窒素純ガスを供給して透過流量を測定した。測定した透過窒素ガス量と供給圧力及び有効膜面積から窒素ガスの透過速度を算出した。尚、これらの測定は35℃でおこなった。
【0099】
(中空糸膜の引張破断強度および引張破断伸度の測定)
引張試験機を用いて、温度23℃にて、有効長20mm、引張速度10mm/分で測定した。
【0100】
(中空糸膜の耐加水分解性の測定)
中空糸膜を、密閉容器中で水に浸漬し、150℃のオーブン中で22時間加熱した。容器を冷ました後、中空糸を取り出し、100℃で30分乾燥させて水分を取り除いた後、引張試験により破断伸度を測定した。熱水処理後の破断伸度を熱水処理前の破断処理で除することにより、破断伸度保持率を求め、これを耐加水分解性の指標とした。
【0101】
<実施例1>
(ポリイミド溶液の調製)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s−BPDA)14.3gと、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(以下、6FDA)9.2gと、4,4−ジアミノ−ジフェニルエーテル(以下、44DADE)14.0gを、溶媒のパラクロロフェノール(以下、PCP)184gと共にセパラブルフラスコ中にて重合温度190℃で6時間重合し、ポリマー濃度が16重量%のポリイミド溶液を得た。得られたポリイミド溶液にグリセリンを22g添加し、190℃で1時間攪拌することにより、最終的に100℃における溶液粘度が2000ポイズ、ポリマー濃度が14.5重量%のポリイミド溶液を得た。
【0102】
(非対称中空糸膜の製造方法)
得られたポリイミド溶液を、400メッシュの金網で濾過したあと、中空糸紡糸ノズル(円形開口部外径1000μm、円形開口部スリット幅200μm、芯部開口部外径600μm)から吐出させ、吐出した中空糸状体を窒素雰囲気中に通した後、0℃の75重量%エタノール水溶液からなる凝固液に浸漬し湿潤糸とした。これを50℃のエタノール中に2時間浸漬し脱溶媒処理を完了し、更に、70℃のイソオクタン中に3時間浸漬洗浄して溶媒を置換後、100℃で30分乾燥し、その後250℃で30分の熱処理を行った。得られた中空糸膜はいずれも、外径寸法320μm、内径寸法200μm、膜厚60μmのものであった。
【0103】
得られた中空糸膜のガス透過性能と機械的特性、耐加水分解性を前記の方法によって測定した。結果を表1に示す。
【0104】
<実施例2〜7、比較例1〜5>
ポリイミドの組成、グリセリン濃度、ポリマー溶液の固形分濃度を表1のようにした以外は実施例1と同様の方法でポリイミド中空糸を得た。実施例3と比較例2においては、2種類の異なるポリイミド(成分Aと成分B)とを重量比で7:3で混合して用いた。比較例4および比較例5は表1に記載の中空糸膜を用いた。それぞれの中空糸膜のガス透過性能と機械的特性、耐加水分解性を前記の方法によって測定した。結果を表1に示す。
【0105】
<実施例8>
グリセリンに代えてエタノールを用い、ポリイミドの組成、エタノール濃度、ポリマー溶液の固形分ポリマー濃度を表1のようにした以外は実施例1と同様の方法でポリイミド中空糸を得た。得られた中空糸膜のガス透過性能と機械的特性、耐加水分解性を前記の方法によって測定した。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のガス分離膜は、ガス透過速度をより向上させた非対称膜であり、しかも、実用レベルの機械的強度と耐加水分解性を有する。このため、本発明のガス分離膜を用いれば、ガス分離速度が向上したより高効率でよりコンパクトな高性能中空糸ガス分離膜モジュールを提供でき、高効率のガス分離を実現できる。また、本発明のガス分離膜は、好ましくは、ハロゲン化フェノールと脂肪族アルコールとの混合物を溶媒として用いたポリマー溶液を、乾湿式相転換法により形成することにより得ることができる。
【0108】
特に、本発明のガス分離膜は、水蒸気を含む混合ガスから水蒸気を除去する(除湿する)場合には、極めて高効率に、除湿を実施することが可能になる。