(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866797
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫方法及びタイヤ加硫装置
(51)【国際特許分類】
B29C 33/04 20060101AFI20210419BHJP
B29C 35/04 20060101ALI20210419BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20210419BHJP
【FI】
B29C33/04
B29C35/04
B29L30:00
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-148276(P2017-148276)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-25803(P2019-25803A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有二
【審査官】
正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−274741(JP,A)
【文献】
特開2015−123704(JP,A)
【文献】
特開平05−024045(JP,A)
【文献】
特開2016−214778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/00−35/18
B29D 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に未加硫の空気入りタイヤを投入する一方で、タイヤ内部の加硫室に連通する空間で化学反応を起こし、該化学反応により生じる反応熱で加熱加圧媒体を生成し、該加熱加圧媒体を前記加硫室内に充填した状態で前記空気入りタイヤの加硫を行うことを特徴とするタイヤ加硫方法。
【請求項2】
酸化カルシウム粉末とアルミニウム粉末を含む発熱剤と水との化学反応により前記加熱加圧媒体を生成することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ加硫方法。
【請求項3】
空気入りタイヤの外表面を成形する金型と、タイヤ内部の加硫室に連通する空間に収容された第1の物質と、該第1の物質と化学反応を起こして反応熱を生じさせる第2の物質と、該第2の物質を前記空間に供給することで前記第1の物質と前記第2の物質との化学反応により加熱加圧媒体を生成する媒体生成手段とを備えることを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項4】
前記第1の物質が水であり、前記第2の物質が酸化カルシウム粉末とアルミニウム粉末を含む発熱剤であることを特徴とする請求項3に記載のタイヤ加硫装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤを加硫する方法及び装置に関し、更に詳しくは、ボイラー等の大型設備を設置することなくタイヤ加硫インターナル用の加熱加圧媒体を準備することができ、それによって、設備コストの低減、メンテナンスコストの低減、エネルギー損失の回避を可能にしたタイヤ加硫方法及びタイヤ加硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤを加硫する場合、金型内にセットされたグリーンタイヤの内側にブラダーを挿入し、タイヤ内部の加硫室内に加熱加圧媒体として飽和水蒸気(スチーム)や温水を充填すると共に金型を外部から加熱することで加硫を行うことが一般的である(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このような加硫方法においては、飽和水蒸気や温水を準備するためにボイラー等の大型設備を設置することが必要である。しかしながら、タイヤ加硫装置と共にボイラー等の大型設備を設置する場合、設備コストが増大するばかりでなく、メンテナンスコストも増大するという問題がある。
【0004】
また、ボイラーで作られた飽和蒸気や温水をタイヤ加硫装置まで搬送するには比較的長距離の配管を設置する必要があるが、このような搬送経路において飽和水蒸気や温水に温度低下が生じ、その温度低下によるエネルギー損失も無視できないレベルで存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−15487号公報
【特許文献2】特開2012−218299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ボイラー等の大型設備を設置することなくタイヤ加硫インターナル用の加熱加圧媒体を準備することができ、それによって、設備コストの低減、メンテナンスコストの低減、エネルギー損失の回避を可能にしたタイヤ加硫方法及びタイヤ加硫装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明のタイヤ加硫方法は、金型内に未加硫の空気入りタイヤを投入する一方で、タイヤ内部の加硫室に連通する空間で化学反応を起こし、該化学反応により生じる反応熱で加熱加圧媒体を生成し、該加熱加圧媒体を前記加硫室内に充填した状態で前記空気入りタイヤの加硫を行うことを特徴とするものである。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明のタイヤ加硫装置は、空気入りタイヤの外表面を成形する金型と、タイヤ内部の加硫室に連通する空間に収容された第1の物質と、該第1の物質と化学反応を起こして反応熱を生じさせる第2の物質と、該第2の物質を前記空間に供給することで前記第1の物質と前記第2の物質との化学反応により加熱加圧媒体を生成する媒体生成手段とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ加硫方法では、金型内に未加硫の空気入りタイヤを投入する一方で、タイヤ内部の加硫室に連通する空間で化学反応を起こし、該化学反応により生じる反応熱で加熱加圧媒体を生成し、該加熱加圧媒体を加硫室内に充填した状態で空気入りタイヤの加硫を行うことにより、ボイラー等の大型設備を設置することなくタイヤ加硫インターナル用の加熱加圧媒体を準備することができる。そのため、ボイラー等の大型設備を必要とする従来技術に比べて、設備コストを低減すると共に、メンテナンスコストを低減することができる。また、加硫室に連通する空間はタイヤ加硫装置内又はその近傍に配設可能であるので、ボイラーからタイヤ加硫装置までの加熱加圧媒体の配管を不要とし、エネルギー損失を回避することができる。
【0010】
本発明のタイヤ加硫方法において、酸化カルシウム粉末とアルミニウム粉末を含む発熱剤と水との化学反応により加熱加圧媒体を生成することが好ましい。このような発熱剤は水分と反応して発熱し、タイヤ加硫に使用可能な加熱加圧媒体を生成する。この場合、生成される加熱加圧媒体は、高温高圧の温水又は水蒸気である。
【0011】
また、本発明のタイヤ加硫装置は、空気入りタイヤの外表面を成形する金型と、タイヤ内部の加硫室に連通する空間に収容された第1の物質と、該第1の物質と化学反応を起こして反応熱を生じさせる第2の物質と、該第2の物質を上記空間に供給することで第1の物質と第2の物質との化学反応により加熱加圧媒体を生成する媒体生成手段とを備えることにより、上述したタイヤ加硫方法を実施することができる。
【0012】
本発明のタイヤ加硫装置において、第1の物質は水であり、第2の物質は酸化カルシウム粉末とアルミニウム粉末を含む発熱剤であることが好ましい。この場合、加硫室に連通する空間に収容された水と、酸化カルシウム粉末とアルミニウム粉末を含む発熱剤との化学反応により、高温高圧の温水又は水蒸気からなる加熱加圧媒体を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示す子午線半断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示す子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示すものである。
【0015】
図1に示すように、このタイヤ加硫装置は、空気入りタイヤTの外表面を成形する金型10と、空気入りタイヤTの内側に挿入される筒状のブラダー20と、該ブラダー20を操作する中心機構30と、該ブラダー20の内側に形成される加硫室Vに供給される加熱加圧媒体を生成する媒体生成手段40と、金型10を加熱する加熱手段50とを備えている。
【0016】
金型10は、空気入りタイヤTのサイドウォール部を成形するための下側サイドプレート11及び上側サイドプレート12と、空気入りタイヤTのビード部を成形するための下側ビードリング13及び上側ビードリング14と、空気入りタイヤTのトレッド部を成形するための複数のセクター15とから構成され、その金型10の内側で空気入りタイヤTを加硫成形するようになっている。なお、金型10の構造は特に限定されるものではなく、図示のようなセクショナルタイプのモールドのほか、二つ割りタイプのモールドを使用することも可能である。
【0017】
ブラダー20は、その下端部が下側ビードリング13と下側クランプリング21との間に把持され、その上端部が上側クランプリング22と補助リング23との間に把持されている。中心機構30は、空気入りタイヤTの中心位置に配置されていて鉛直方向に昇降自在に構成されたセンターポスト31を有しており、上側クランプリング22がセンターポスト31の上端部に固定されている。
図1に示すような加硫状態において、ブラダー20は空気入りタイヤTの径方向外側に向かって拡張した状態にあるが、加硫後に空気入りタイヤTを金型10内から取り出す際には上側クランプリング22が上方に移動し、それに伴ってブラダー20が空気入りタイヤTの内側から抜き取られるようになっている。
【0018】
媒体生成手段40は、センターポスト31と下側ビードリング13との間に配設された環状の水槽41と、該水槽41に接続された給水管42及び排水管43と、該水槽41に併設された発熱剤供給装置44とから構成されている。水槽41内に形成された空間Sは加硫室Vに対して連通している。給水管42から供給される水は第1の物質45として水槽41内の空間Sに収容される。給水管42から供給される水は常温の水であっても良いが、例えば、電気ヒーター等により予熱された温水であっても良い。一方、発熱剤供給装置44は水槽41内の空間Sに第2の物質46として適量の発熱剤を供給するように構成されている。水を収容した空間Sに発熱剤が供給されると、水と発熱剤との化学反応により加熱加圧媒体が生成される。この場合、加熱加圧媒体として高温高圧の水蒸気(スチーム)が生成され、それが加硫室V内に充填される。
【0019】
加熱手段50は、金型10を構成する下側サイドプレート11、上側サイドプレート12及びセクター15に付設されていて、加熱手段50により金型10を加熱することにより、空気入りタイヤTの加硫が行われるようになっている。加熱手段50の配置及び構造は特に限定されるものではない。
【0020】
上述したタイヤ加硫装置を用いて空気入りタイヤTを加硫する場合、金型10内に未加硫の空気入りタイヤTを投入し、その空気入りタイヤTの内側にブラダー20を挿入し、タイヤ内部の加硫室Vに連通する空間Sで水と発熱剤との化学反応を起こし、その化学反応により生じる反応熱で加熱加圧媒体(水蒸気)を生成する。そして、生成された加熱加圧媒体を加硫室V内に充填すると共に、加熱手段50により金型10を外側から加熱することで空気入りタイヤTを加硫する。
【0021】
上述したタイヤ加硫方法によれば、タイヤ内部の加硫室Vに連通する空間Sで化学反応を起こし、その化学反応により生じる反応熱で加熱加圧媒体を生成し、その加熱加圧媒体を加硫室V内に充填した状態で空気入りタイヤTの加硫を行うので、ボイラー等の大型設備を設置することなくタイヤ加硫インターナル用の加熱加圧媒体を準備することができる。そのため、ボイラー等の大型設備を必要とする従来技術に比べて、設備コストを低減すると共に、メンテナンスコストを低減することができる。また、加硫室Vに連通する空間Sはタイヤ加硫装置内又はその近傍に配設可能であるので、ボイラーからタイヤ加硫装置までの加熱加圧媒体の配管を不要とし、エネルギー損失を回避することができる。
【0022】
図2は本発明の他の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示すものである。
図2において、
図1と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。
【0023】
本実施形態においては、その装置構成は
図1の実施形態と同じであるが、タイヤ内部の加硫室V及びそれに連通する空間Sに第1の物質45として水が充填され、第2の物質46として発熱剤が使用されている。この場合、水を収容した空間Sに発熱剤が供給されると、水と発熱剤との化学反応により高温高圧の温水が生成され、その温水がタイヤ加硫インターナル用の加熱加圧媒体として使用される。このように水蒸気のみならず温水を加熱加圧媒体として利用することも可能である。
【0024】
発熱剤としては、酸化カルシウム粉末とアルミニウム粉末を含む混合粉末を使用することができる。このような混合粉末が水分と接触することにより、第一段階として水酸化カルシウムと反応熱が発生し、第二段階として水酸化カルシウムとアルミニウムとが反応して更に反応熱を発生する。その際の熱化学方程式は以下の通りである。
CaO+H
2O→Ca(OH)
2+15.2kcal・・・(1)
2Al+3Ca(OH)
2→3CaO・Al
2O
3+3H
2+47kcal・・・(2)
【0025】
空気入りタイヤTを加硫するにあたって、発熱剤の投与量は上記熱化学方程式に基づいて適宜選択することができる。タイヤサイズにもよるが、例えば235/40R18相当のタイヤを加硫する場合には、発熱量が120kcal〜1000kcal(0.5MJ〜4.0MJ)となるように発熱剤の投与量を調整することが好ましい。このような投与量を選択することにより、タイヤ加硫工程を実施することができる。
【0026】
また、水蒸気を加熱加圧媒体として用いる方法を想定したとき、例えば250cc〜1000ccの水に対して30g〜120gの酸化カルシウム粉末と30g〜120gのアルミニウム粉末を投与すれば良い。
【0027】
発熱剤としては、上述のような粉末をそのまま投与することが可能であるが、例えば、固形成分を透過せずに水分だけを透過可能な袋や容器に詰めた状態で投与することも可能である。このような袋や容器は例えば不織布から構成することができる。この場合、加硫終了時に発熱剤の反応生成物を内包した袋や容器を容易に回収することができる。
【0028】
上述した実施形態では、水と発熱剤との化学反応により生じる反応熱で加熱加圧媒体を生成する場合について説明したが、本発明はボイラーに依存せずにタイヤ内部の加硫室に連通する空間における化学反応を利用して加熱加圧媒体を生成するものであるので、その化学反応の種類は特に限定されるものではない。高温高圧の加熱加圧媒体を生成し得る化学反応であれば適宜利用することができる。
【0029】
また、上述した実施形態では、タイヤ内部の加硫室とそれに連通する空間が実質的に一体的な空間を形成する場合について説明したが、タイヤ内部の加硫室とそれに連通する空間は互いに分離されていて、両者が短い配管で連結された構造であっても良い。但し、エネルギー損失を回避するために、そのような配管は可及的に短くすることが望ましい。
【実施例】
【0030】
実施例1:
タイヤサイズ235/40R18の空気入りタイヤを製造するにあたって、金型内に未加硫の空気入りタイヤを投入する一方で、タイヤ内部の加硫室に連通する空間で水と発熱剤との化学反応を起こし、該化学反応により生じる反応熱で加熱加圧媒体を生成し、該加熱加圧媒体を加硫室内に充填した状態で空気入りタイヤの加硫を行った。発熱剤としては、酸化カルシウム粉末とアルミニウム粉末を含む発熱剤を使用した。より具体的には、加硫室に連通する空間内に収容された0.5リットルの水(初期温度60℃)に対して60gの酸化カルシウム粉末と60gのアルミニウム粉末を含む発熱剤を投与することにより、温度200℃、圧力1.55MPaの水蒸気を生成し、これを加熱加圧媒体として使用した。
【0031】
実施例2:
タイヤサイズ235/40R18の空気入りタイヤを製造するにあたって、金型内に未加硫の空気入りタイヤを投入する一方で、タイヤ内部の加硫室に連通する空間で水と発熱剤との化学反応を起こし、該化学反応により生じる反応熱で加熱加圧媒体を生成し、該加熱加圧媒体を加硫室内に充填した状態で空気入りタイヤの加硫を行った。発熱剤としては、酸化カルシウム粉末とアルミニウム粉末を含む発熱剤を使用した。より具体的には、加硫室及びそれに連通する空間内に収容された圧力1.6MPa、50リットルの水(初期温度60℃)に対して2.2kgの酸化カルシウム粉末と2.2kgのアルミニウム粉末を含む発熱剤を投与することにより、温度200℃、圧力1.6kPaの温水を生成し、これを加熱加圧媒体として使用した。
【0032】
上述した実施例1,2のタイヤ加硫方法によれば、タイヤ加硫装置にボイラー等の大型設備を設置することなくタイヤ加硫インターナル用の加熱加圧媒体を準備することが可能であり、しかも、実用上全く問題がない空気入りタイヤを得ることができた。
【符号の説明】
【0033】
10 金型
11 下側サイドプレート
12 上側サイドプレート
13 下側ビードリング
14 上側ビードリング
15 セクター
20 ブラダー
30 中心機構
40 媒体生成手段
45 第1の物質(水)
45 第2の物質(発熱剤)
50 加熱手段
S 空間
V 加硫室