(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866835
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】流体クロマトグラフ用送液ポンプ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/32 20060101AFI20210419BHJP
F04B 49/06 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
G01N30/32 C
F04B49/06 321Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-231310(P2017-231310)
(22)【出願日】2017年12月1日
(65)【公開番号】特開2019-100832(P2019-100832A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】征矢 秀樹
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7-72130(JP,A)
【文献】
特開2015-202014(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104101658(CN,A)
【文献】
特開2005-55179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N30/32
F04B49/00−51/00
H02P8/00−8/42
F04B1/00−7/06
F04B23/00−23/14
F04B53/00−53/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にポンプ室が設けられているとともに、前記ポンプ室に液を流入させるための入口、及び前記ポンプ室から液を流出させるための出口を有するポンプヘッドと、
前記ポンプ室内に先端部が挿入されたプランジャと、
ステッピングモータ、及び前記ステッピングモータの各モータコイルの電流値をチョッピングによって定電流制御するとともに、前記各モータコイルを、流れる電流が徐々に上昇する電流上昇フェーズと流れる電流が徐々に低下する電流低下フェーズのいずれかのフェーズにしてマイクロステップ駆動を行なうように構成されたモータ駆動部を含み、前記プランジャを一軸方向で往復動させるように構成されたプランジャ駆動部と、を備え、
前記モータ駆動部は、前記電流低下フェーズにあるモータコイルの最大電流値が所定値以下であるときの当該モータコイルに対するチョッピング周波数を、前記電流上昇フェーズにあるモータコイルの最大電流値が前記所定値以下のときの当該モータコイルに対するチョッピング周波数よりも低くするように構成されている、流体クロマトグラフ用送液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフや超臨界流体クロマトグラフなどの流体クロマトグラフにおいて、移動相を送液するために用いられる送液ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフや超臨界流体クロマトグラフにおいて、移動相を送液するための送液ポンプには、2台のプランジャポンプを相補的に動作させて連続的な送液を行なうダブルプランジャポンプなどが一般的に用いられる。
【0003】
プランジャポンプのプランジャの駆動部には、回転数を高精度に制御することができるステッピングモータが用いられる。ステッピングモータには高い回転トルクと回転精度が要求されるため、ステッピングモータの駆動方式として、定電流駆動にマイクロステップ駆動を組み合わせた駆動方式を採用することが望ましい。
【0004】
定電流駆動は、ステッピングモータの各モータコイルに一定の直流電源を印加してモータコイルに流れる電流を電圧として読み取り、その電圧値が設定電圧を超えないようにモータコイルへの電圧の印加のオン/オフを切り替えるチョッピングを行なうものである。
【0005】
マイクロステップ駆動は、各モータコイルに流れる電流が時間変化するように設定電圧を一定時間ごとに変化させ、一方の励磁相の電流が徐々に上昇して他方の励磁相の電流が徐々に低下するようにすることで、モータのステップ角をより細かく分割するものである。マイクロステップ駆動では、各モータコイルが、流れる電流が上昇していく電流上昇フェーズ、又は流れる電流が低下していく電流低下フェーズとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロステップ駆動では、ステッピングモータが滑らかに回転するために、各モータコイルを流れる電流の波形がサインカーブを描くことが好ましい。しかしながら、各モータコイルの実際の電流波形は理想的なサインカーブにはなっておらず、それに起因してステッピングモータの回転にムラが生じ、送液ポンプの送液流量に乱れが生じていることがわかった。近年の液体クロマトグラフや超臨界流体クロマトグラフでは、検出器の高感度化が進んでおり、移動相の流量の僅かな乱れがノイズなって分析結果に現れ、分析精度に影響を与える。
【0007】
そこで、本発明は、プランジャを駆動するステッピングモータの回転精度を高め、送液ポンプの送液精度を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
定電流駆動では、モータコイルを流れる電流値Iを電圧値Vに変換してモニタし、その電圧値Vが設定電圧V
SETを超えないように所定の周期でチョッピングしている。マイクロステップ駆動で制御の対象となるモータコイルの電流値とは、モータコイルを流れる電流の一定の周期における平均値I
AVEであり、この平均値I
AVEが
図3に示されるようなサインカーブを描くことが理想的である。なお、一定の周期における平均電圧をV
AVE、電流モニタ用抵抗の抵抗値をRとすると、モータコイルを流れる電流の平均値I
AVEは、
I
AVE=V
AVE/R (1)
と表すことができる。
【0009】
例えば、32分割マイクロステップ駆動の場合は、設定電圧V
SETを32段階で変化させていく。N=0〜32とすると、設定電圧V
SETは、
V
SET=V
0×sin((N/32)×π/2) (2)
と設定する。この場合、平均モニタ電圧V
AVEは、例えば以下のようになることが理想的である。
V
AVE=V
1×sin((N/32)×π/2) (3)
【0010】
そして、V
AVEとV
SETの関係は、
V
AVE≒(V
SET+V
MIN)/2 (4)
となる。V
MINはモニタ電圧Vが設定値V
SETに達してモータコイルへの電圧印加がオフにされた後、次にモータコイルへの電圧印加がオンにされる直前の電圧値である。
【0011】
しかし、設定電圧V
SETが小さい領域では、
図7に示されているように、モータコイルへの電圧印加がオフにされた後、次に電圧印加がオンにされるまでの周期Tよりも早くモニタ電圧Vが0(電流が0)となってしまう。そのため、チョッピング周波数がある程度高くないと、モータコイルへの電圧印加がオフにされた後、次にオンにされるまでの間でモータコイルを流れる電流が0となる時間が長くなり、上記(4)の関係が成立せずに電流上昇フェーズの立ち上がり部分の電流値波形が理想的なサイン波形から大きくずれることなる。
【0012】
そこで、設定電圧V
SETが小さい領域、すなわち電流上昇フェーズの立ち上がりの領域と電流下降フェーズの終端の領域のチョッピング周波数を高くすることが考えられる。
図8、
図9は、それぞれ電流上昇フェーズの立ち上がりの領域と電流下降フェーズの終端の領域のチョッピング周波数を高くしたときのモニタ電圧の波形である。
図8及び
図9からわかるように、同じ周波数でチョッピングしているにも拘わらず、電流上昇フェーズの立ち上がり領域の電流よりも電流低下フェーズの終端領域の電流のほうが高くなる。その結果、設定電圧V
SETが小さい領域でのチョッピング周波数を単に高くするだけでは、電流低下フェーズの終端領域で電流が十分に低下せず、電流値の波形が理想的なサインカーブから大きくずれる場合があることがわかった。
【0013】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。
【0014】
本発明に係る流体クロマトグラフ用送液ポンプは、内部にポンプ室が設けられているとともに、前記ポンプ室に液を流入させるための入口、及び前記ポンプ室から液を流出させるための出口を有するポンプヘッドと、前記ポンプ室内に先端部が挿入されたプランジャと、ステッピングモータ、及び前記ステッピングモータの各モータコイルの電流値をチョッピングによって定電流制御するとともに、前記各モータコイルを、流れる電流が徐々に上昇する電流上昇フェーズと流れる電流が徐々に低下する電流低下フェーズのいずれかのフェーズにしてマイクロステップ駆動を行なうように構成されたモータ駆動部を含み、前記プランジャを一軸方向で往復動させるように構成されたプランジャ駆動部と、を備えたものである。そして、前記モータ駆動部は、前記電流低下フェーズにあるモータコイルの最大電流値が所定値以下であるときの当該モータコイルに対するチョッピング周波数を、前記電流上昇フェーズにあるモータコイルの最大電流値が前記所定値以下のときの当該モータコイルに対するチョッピング周波数よりも低くするように構成されている。
【0015】
ここで、モータコイルの最大電流値とは、モータコイルを流れる電流をモニタするためのモニタ電圧Vが設定電圧V
SETに達したときの電流値である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の流体クロマトグラフ用送液ポンプでは、プランジャを駆動するステッピングモータのマイクロステップ駆動を行なうモータ駆動部が、電流低下フェーズにあるモータコイルの最大電流値が所定値以下であるときの当該モータコイルに対するチョッピング周波数を、電流上昇フェーズにあるモータコイルの最大電流値が前記所定値以下のときの当該モータコイルに対するチョッピング周波数よりも低くするように構成されているので、電流上昇フェーズの立ち上がり部分でのチョッピング周波数を高めながら電流低下フェーズの終端部分でのチョッピング周波数を低くすることができ、モータコイルを流れる電流値波形を理想的なサイン波形に近づけることができる。これにより、プランジャを駆動するステッピングモータの回転精度が向上し、それによって送液ポンプの送液精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】送液ポンプの一実施例を示す1つのプランジャポンプの概略構成図である。
【
図2】同実施例のモータ駆動部の構成の一例を示す概略構成図である。
【
図3】モータコイルを流れる電流が描く理想的な波形の一例を示す図である。
【
図4】電流上昇フェーズでの所定値以下の設定電圧の領域におけるモニタ電圧の波形の一例を示す図である。
【
図5】電流上昇フェーズでの所定値を超えている設定電圧の領域におけるモニタ電圧の波形の一例を示す図である。
【
図6】電流下降フェーズでの所定値以下の設定電圧の領域におけるモニタ電圧の波形の一例を示す図である。
【
図7】電流上昇フェーズでの所定値以下の設定電圧の領域においてチョッピング周波数が低いときのモニタ電圧の波形の一例を示す図である。
【
図8】電流上昇フェーズの立ち上がりの領域でチョッピング周波数を高くしたときのモニタ電圧の波形の一例を示す図である。
【
図9】電流下降フェーズの終端の領域でチョッピング周波数を高くしたときのモニタ電圧の波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の送液ポンプの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、送液ポンプを構成する1つのプランジャポンプ2の構成を示している。移動相を連続的に送液する送液ポンプは、2つ以上のプランジャポンプを相補的に動作させるものであるが、この実施例では、便宜的に1つのプランジャポンプ2についてのみ説明する。
【0020】
プランジャポンプ2は、内部にポンプ室4を有するポンプヘッド3と、ポンプボディ6を備えている。ポンプヘッド3はポンプボディ6の先端に設けられている。ポンプヘッド3には、ポンプ室4に液を流入させる入口とポンプ室4から液を流出させる出口が設けられている。ポンプヘッド3の入口側と出口側に、液の逆流を防止する逆止弁16、18がそれぞれ設けられている。
【0021】
ポンプ室4にはプランジャ10の先端が摺動可能に挿入されている。プランジャ10の基端はポンプボディ6内に収容されたクロスヘッド8によって保持されている。クロスヘッド8は送りネジ14の回転によりポンプボディ6内で一軸方向(図において左右方向)に移動し、それに伴ってプランジャ10が一軸方向に移動する。ポンプボディ6の基端部に送りネジ14を回転させるステッピングモータ12が設けられている。
【0022】
ステッピングモータ12はモータ駆動部20により駆動される。クロスヘッド8、ステッピングモータ12、送りネジ14、及びモータ駆動部20は、プランジャ10を一軸方向へ駆動するプランジャ駆動部を構成している。
【0023】
モータ駆動部20の構成の一例を
図2に示す。なお、
図2はステッピングモータ12の一方の励磁相を駆動する回路のみを図示しており、実際には他方の励磁相を駆動するための同様の回路が存在する。この実施例は、ステッピングモータ12がユニポーラモータである場合の例である。
【0024】
モータ駆動部20のうち制御部24以外の回路構成は、一般的なステッピングモータ駆動回路である。ステッピングモータ12のモータコイル12aに対する直流電源からの電圧VCCの印加のオン/オフをスイッチング素子Q1、Q2によって切り替えるように構成されている。モータコイル12aを流れた電流が電流モニタ用抵抗R1を流れるように構成し、モータコイル12aを流れた電流を電流モニタ用抵抗R1で電圧に変換して、モニタ電圧Vとしてコンパレータ22に取り込むように構成されている。
【0025】
コンパレータ22は、モニタ電圧Vを設定電圧V
SETと比較し、その比較信号が制御部24に入力される。設定電圧V
SETは、モータコイル12aを流れる電流が
図3に示されるようなサインカーブを描くように、制御部24によって、例えば32段階で時間変化させられる。各段階において、制御部24は、モニタ電圧Vが設定電圧V
SETを超えないように、スイッチング素子Q1、Q2のオン/オフを所定の周期で切り替えてチョッピングによる定電流制御を行なう。すなわち、制御部24は、所定の周期でスイッチング素子Q1、Q2をオンにし、モニタ電圧Vが設定電圧V
SETに達したときにスイッチング素子Q1、Q2をオフにする。
【0026】
制御部24は、モータコイル12aのフェーズと設定電圧V
SETの大きさに応じて、チョッピング周波数を多段階的に変更するように構成されており、少なくともモータコイル12aが電流上昇フェーズにあるときの設定電圧V
SETが所定値以下の領域とその所定値を超える領域、モータコイル12aが電流下降フェーズにあるときの設定電圧V
SETが所定値以下の領域の3つの領域のそれぞれはチョッピング周波数が異なる。「設定電圧V
SETが所定値以下の領域」とは、電流上昇フェーズの立ち上がりと電流下降フェーズの終端の領域である。「所定値」は、例えば設定電圧の最大値に対する割合(例えば、20%)として設定することができる。
【0027】
制御部24は、モータコイル12aが電流上昇フェーズにあるときの設定電圧V
SETが所定値以下の領域では、
図4に示されているように、周期T1でスイッチング素子Q1、Q2をオンにする。周期T1は、モニタ電圧Vの波形が
図7のような不連続な波形にならないように設定された周期である。一方で、設定電圧V
SETが所定値を超える領域では、
図5に示されているように、周期T1よりも長い周期T2でスイッチング素子Q1、Q2をオンにする。
【0028】
さらに、制御部24は、モータコイル12aが電流下降フェーズにあるときの設定電圧V
SETが所定値以下の領域では、
図6に示されているように、周期T3でスイッチング素子Q1、Q2をオンにする。周期T3は、周期T1よりも長く周期T2よりも短い周期である。
【0029】
すなわち、この実施例では、電流下降フェーズの設定電圧V
SETが所定値以下の領域でのチョッピング周波数F3(=1/T
3)が、電流上昇フェーズの設定電圧V
SETが所定値以下の領域でのチョッピング周波数F1(=1/T
1)よりも小さく設定されるように構成されている。これにより、電流低下フェーズの終端の領域においてモータコイル12aからエネルギーが抜ける時間が増え、電流波形を理想的なサインカーブに近づけることができる。
【0030】
このように、ステッピングモータ12のモータコイル12aを流れる電流の波形を理想的なサインカーブに近づけることで、ステッピングモータ12のマイクロステップ駆動における各ステップでの位置精度が向上し、回転ムラが抑制されて回転精度が向上する。それに伴い、プランジャ10の動作制御の精度が向上するので、送液流量の安定性が向上する。
【符号の説明】
【0031】
2 プランジャポンプ
3 ポンプヘッド
4 ポンプ室
6 ポンプボディ
8 クロスヘッド
10 プランジャ
12 ステッピングモータ
12a モータコイル
14 送りネジ
16,18 逆止弁
20 モータ駆動部
22 コンパレータ
24 制御部