特許第6866933号(P6866933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製鉄株式会社の特許一覧
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866933
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210419BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20210419BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20210419BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   C22C38/00 301W
   C22C38/06
   C22C38/16
   C21D9/46 T
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-555380(P2019-555380)
(86)(22)【出願日】2018年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2018043274
(87)【国際公開番号】WO2019103121
(87)【国際公開日】20190531
【審査請求日】2020年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2017-225763(P2017-225763)
(32)【優先日】2017年11月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】平島 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】豊田 武
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−173151(JP,A)
【文献】 特開2008−138231(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/171427(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/136810(WO,A1)
【文献】 特開昭61−159528(JP,A)
【文献】 特開2000−290748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.01%以上0.20%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:3.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.004%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.004%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトを30体積%以上70体積%以下含み、
前記フェライトとマルテンサイトを合計で90体積%以上含み、
残部組織が10体積%以下であり、
前記フェライトの平均結晶粒径が0.5μm以上5.0μm以下であり、前記マルテンサイトの平均結晶粒径が1.0μm以上10μm以下であり、前記残部組織が存在する場合、前記残部組織の平均結晶粒径が1.0μm以上10μm以下であることを特徴とする、熱延鋼板。
【請求項2】
更に、質量%で、
Nb:0.01%以上0.20%以下、
Ti:0.01%以上0.15%以下、
Mo:0.01%以上1.0%以下、
Cu:0.01%以上0.5%以下、及び
Ni:0.01%以上0.5%以下
のうちから選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
(a)請求項1又は請求項2に記載の組成を有する鋼素材を鋳造後冷却することなくそのまま熱間圧延するか又は一旦室温まで冷却し、次いで1100℃以上1350℃以下に加熱して熱間圧延する熱間圧延工程であって、前記熱間圧延工程が鋳造後の鋼素材を複数の圧延スタンドに連続して通過させることによって仕上圧延することを含み、前記仕上圧延の全ての圧延スタンドにおける圧延温度がA点以上であり、かつ前記仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延が、圧延温度:A点以上Ae3点未満、ひずみ速度:1.0〜50/秒、及びパス間時間:10秒以内の条件下で行われ、前記条件を満たす全てのパスの総ひずみ量が1.4以上4.0以下である熱間圧延工程、
(b)仕上圧延された鋼板を20℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する冷却工程であって、前記冷却が前記熱間圧延工程後10秒以内に開始される冷却工程、並びに
(c)前記鋼板を室温以上300℃未満の温度範囲で巻き取る巻取り工程
を含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の熱延鋼板の製造方法。
ここで、A点は下記(式1)で求められる温度であり、Ae3点は下記(式2)で求められる温度である。
A(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo (式1)
Ae3(℃)=919−266C+38Si−28Mn−27Ni+12Mo (式2) 式中、C、Si、Mn、Cu、Ni及びMoは各元素の含有量(質量%)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の構造部品や骨格、ホイールディスクの素材として好適な、疲労特性と伸びフランジ性に優れた引張強度590MPa以上の熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼材の機械的性質を高める手法として、その鋼材の組織中の結晶粒を微細化することが有効であることが知られている。結晶粒の微細化については種々の研究・開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、C:0.01〜0.20重量%、Si:1.00重量%以下、Mn:2.00重量%以下、Al:0.10重量%以下、N:0.0070重量%以下、Nb:0.005〜0.15重量%を含む鋼塊又はスラブを、Nb≦0.015重量%の場合、Tc=850+139000×〔Nb重量%〕×〔C重量%+12/14N重量%〕以下に加熱し、Nb>0.015重量%の場合、Tc=961+51000×〔Nb質量%〕×〔C質量%+12/14N質量%〕以下に加熱し、850〜Ar3−50℃の温度範囲で熱間圧延後、冷却速度30℃/秒以上で冷却した後、450℃〜150℃の温度範囲で巻取ることで、平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上、ベイナイトとマルテンサイトを含む組織の面積率が20%以下で、残部の面積率が平均粒径10μm以下のフェライトの混粒組織からなる強度、延性、靱性及び疲労特性に優れた熱延高張力鋼板を製造することが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、成分がwt%で、C:0.01〜0.10%、Si:1.5%以下、Mn:1.0超〜2.5%、P:0.15%以下、S:0.008%以下、Al:0.01〜0.08%、Ti,Nbの1種又は2種の合計:0.32〜0.60%、残部Feおよび不可避的不純物からなる連続鋳造スラブを1100℃超の温度に加熱した後、仕上圧延温度をAr3点以上として熱間圧延した後、10〜150℃/sの冷却速度にて冷却し、巻取温度を500〜700℃として巻き取ることで、フェライト量が面積率で95%以上であり、かつフェライトの平均結晶粒径が2.0〜10.0μmであり、組織中にマルテンサイトおよび残留オーステナイトを含まず、引張強さが490MPa以上である伸びフランジ性に優れた超微細フェライト組織高強度熱延鋼板を製造することが提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、質量%で、C:0.03〜0.9%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.01〜5.0%、Al:0.001〜0.5%、N:0.001〜0.1%、Nb:0.003〜0.5%、Ti:0.003〜0.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C%+(12/14)N%≧(12/48)Ti%+(12/48)Nb%+0.03%を満たす鋼片を鋳造まま、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま一度500℃〜室温までの温度に冷却した後に、Ac3点−100℃〜Ac3点未満の温度に加熱し、圧延するかもしくは圧延することなくそのまま500℃〜室温までの温度に冷却速度を0.1〜50℃/秒として冷却し、再び700℃以下550℃以上の温度に加熱し、700℃以下550℃以上の温度で熱間圧延を行うに際して、1パスの圧下率を20%以上として1パスまたはパス間時間を10秒以内とした連続する2パス以上の加工を、歪速度を1〜200/秒、総歪量を0.8以上5以下となる条件で行った後、放冷することを特徴とする結晶粒の微細な高張力鋼の製造方法が提案されている。特許文献3の実施例では、この方法により、フェライトの結晶粒径が最小で0.6μmまで微細化されることが具体的に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−29480号公報
【特許文献2】特許第3725367号公報
【特許文献3】特許第4006112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
材料の高強度化は一般的に疲労特性や伸びフランジ性等の材料特性を劣化させるため、これらの材料特性を劣化させずに高強度化を図ることが高強度の熱延鋼板を開発する上で重要となる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の熱延高張力鋼板では、組織がフェライトとマルテンサイト及びベイナイトとの複合組織となっており、組織間の硬度差に起因して伸びフランジ性が低いという課題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の超微細フェライト組織高強度熱延鋼板では、フェライトが主相のため強度が低く、また、Nb及びTiの含有量が多いため、経済性が悪いという課題があった。
【0010】
また、特許文献3に記載の高張力鋼の製造方法では、圧延前に冷却工程を挟むことで炭化物等の析出が促進される虞があり、その後の再加熱工程もAc3点−100℃〜Ac3点未満の比較的低い温度であるため、このような析出物が析出した場合にはその固溶が難しく、最終的に得られる組織において粗大な析出物が残留して、結果として必ずしも十分に高い伸びフランジ性を達成できない場合があった。
【0011】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、疲労特性と伸びフランジ性に優れた引張強度590MPa以上の熱延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、熱延鋼板中のフェライトと残部組織の硬度差を低減させる手法、さらに経済性を考慮してNb及びTiを必須の成分としない結晶粒の微細化手法についても鋭意研究した。その結果、フェライトとマルテンサイトのように組織間の硬度差が大きい複相組織鋼においても、同一粒内のフェライトの平均方位差が大きい場合には、伸びフランジ性が改善されることを見出した。また、Nb及びTiを含有していなくても、熱延鋼板の製造プロセスにおいて圧延温度、ひずみ速度、パス間時間及び総ひずみ量を最適化することにより、圧延中にフェライト変態を生じさせてフェライトの平均結晶粒径を5.0μm以下まで微細化できることを見出した。そして、このようにして生じたフェライト中には高密度の転位が導入されているため転位強化が生じ、同一粒内のフェライトの平均方位差も大きいため、高強度を有し、疲労特性と伸びフランジ性にも優れた熱延鋼板を得ることが可能となることをさらに見出した。
【0013】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
[1]質量%で、
C:0.01%以上0.20%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:3.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.004%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.004%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトを30体積%以上70体積%以下含み、
前記フェライトとマルテンサイトを合計で90体積%以上含み、
残部組織が10体積%以下であり、
前記フェライトの平均結晶粒径が0.5μm以上5.0μm以下であり、前記マルテンサイトの平均結晶粒径が1.0μm以上10μm以下であり、前記残部組織が存在する場合、前記残部組織の平均結晶粒径が1.0μm以上10μm以下であることを特徴とする、熱延鋼板。
[2]更に、質量%で、
Nb:0.01%以上0.20%以下、
Ti:0.01%以上0.15%以下、
Mo:0.01%以上1.0%以下、
Cu:0.01%以上0.5%以下、及び
Ni:0.01%以上0.5%以下
のうちから選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記[1]に記載の熱延鋼板。
[3](a)上記[1]又は[2]に記載の組成を有する鋼素材を鋳造後冷却することなくそのまま熱間圧延するか又は一旦室温まで冷却し、次いで1100℃以上1350℃以下に加熱して熱間圧延する熱間圧延工程であって、前記熱間圧延工程が鋳造後の鋼素材を複数の圧延スタンドに連続して通過させることによって仕上圧延することを含み、前記仕上圧延の全ての圧延スタンドにおける圧延温度がA点以上であり、かつ前記仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延が、圧延温度:A点以上Ae3点未満、ひずみ速度:1.0〜50/秒、及びパス間時間:10秒以内の条件下で行われ、前記条件を満たす全てのパスの総ひずみ量が1.4以上4.0以下である熱間圧延工程、
(b)仕上圧延された鋼板を20℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する冷却工程であって、前記冷却が前記熱間圧延工程後10秒以内に開始される冷却工程、並びに
(c)前記鋼板を室温以上300℃未満の温度範囲で巻き取る巻取り工程
を含むことを特徴とする、熱延鋼板の製造方法。
ここで、A点は下記(式1)で求められる温度であり、Ae3点は下記(式2)で求められる温度である。
A(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo (式1)
Ae3(℃)=919−266C+38Si−28Mn−27Ni+12Mo (式2)
式中、C、Si、Mn、Cu、Ni及びMoは各元素の含有量(質量%)である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高強度でかつ極めて良好な伸びフランジ性と疲労特性を有する熱延鋼板を得ることができ、本発明を自動車の構造部品等に適用すれば、自動車の安全性を確保しつつ車体重量を軽減でき、環境負荷を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<熱延鋼板>
本発明の熱延鋼板は、所定の組成を有し、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトを30体積%以上70体積%以下含み、前記フェライトとマルテンサイトを合計で90体積%以上含み、残部組織が10体積%以下であり、前記フェライトの平均結晶粒径が0.5μm以上5.0μm以下であり、前記マルテンサイトの平均結晶粒径が1.0μm以上10μm以下であり、前記残部組織が存在する場合、前記残部組織の平均結晶粒径が1.0μm以上10μm以下であることを特徴としている。
【0016】
以下、本発明の熱延鋼板について具体的に説明する。まず、本発明の熱延鋼板の化学成分(組成)の限定理由について説明する。なお、以下の化学成分を表す%は、すべて質量%を意味する。
【0017】
[C:0.01%以上0.20%以下]
Cは、固溶強化と、焼入れ性を向上させ、残部組織に低温変態相であるマルテンサイトを生成させて熱延鋼板の強度を確保するために必要な元素であり、そのためには最低でも0.01%以上が必要である。C含有量は0.02%以上、0.04%以上又は0.05%以上であってもよい。一方、0.20%を超えるCは、加工性及び溶接性を劣化させる。従って、C含有量は0.20%以下とする。C含有量は0.18%以下、0.16%以下又は0.15%以下であってもよい。
【0018】
[Si:1.0%以下]
Siは靱性を劣化させる粗大な酸化物やセメンタイトを抑制し、固溶強化にも寄与する元素であるが、含有量が1.0%を超えると熱延鋼板の表面性状が著しく劣化し、化成処理性や耐食性の低下を招く。したがって、Si含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.9%以下又は0.8%以下である。Si含有量は0%であってもよく、例えば0.01%以上、0.02%以上又は0.4%以上であってもよい。
【0019】
[Mn:3.0%以下]
Mnは、固溶して鋼の強度増加に寄与するとともに、焼入れ性を高める元素である。一方、Mnが3.0%を超えると、その効果が飽和するばかりか、凝固偏析によるバンド状組織を形成して加工性及び耐遅れ破壊特性を劣化させる。従って、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.8%以下又は2.0%以下とする。Mn含有量は0%であってもよく、例えば0.5%以上、1.0%以上又は1.4%以上であってもよい。
【0020】
[P:0.040%以下]
Pは、固溶して鋼の強度増加に寄与する元素であるが、粒界、特に旧オーステナイト粒界に偏析し、低温靱性や加工性の低下を招く元素でもある。このため、P含有量は極力低減することが好ましいが、0.040%までの含有は許容できる。したがって、P含有量は0.040%以下とする。好ましくは0.030%以下、より好ましくは0.020%以下である。P含有量は0%であってもよいが、過度に低減しても精錬コストの増大に見合う効果が得られないため、好ましくは0.001%、0.002%以上、0.003%以上又は0.005%以上である。
【0021】
[S:0.004%以下]
Sは、Mnと結合して粗大な硫化物を形成し、熱延鋼板の加工性を低下させる。そのため、S含有量は極力低減することが好ましいが、0.004%までの含有は許容できる。したがって、S含有量は0.004%以下とする。好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.002%以下である。S含有量は0%であってもよいが、過度に低減しても精錬コストの増大に見合う効果が得られないため、好ましくは0.0003%以上、0.0005%以上又は0.001%以上である。
【0022】
[Al:0.10%以下]
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度を向上させるのに有効な元素である。しかし、Alの過剰な添加は酸化物系介在物の増加を招き、熱延鋼板の靱性を低下させるとともに、疵発生の原因となる。したがって、Al含有量は0.10%以下とする。好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.08%以下である。Al含有量は0%であってもよいが、過度に低減しても精錬コストの増大に見合う効果が得られないため、好ましくは0.005%以上、0.008%以上又は0.01%以上である。
【0023】
[N:0.004%以下]
Nは、窒化物形成元素と結合することにより窒化物として析出し、結晶粒の微細化に寄与する。しかし、0.004%を超えると、固溶Nとして存在するようになり、靱性を低下させる。このため、N含有量は0.004%以下とする。好ましくは0.003%以下である。N含有量は0%であってもよいが、過度に低減しても精錬コストの増大に見合う効果が得られないため、好ましくは0.0005%以上、0.0008%以上又は0.001%以上である。
【0024】
以上が本発明の熱延鋼板の基本成分であるが、本発明の熱延鋼板は、例えば靱性向上や高強度化等を目的として、必要に応じて、Nb:0.01%以上0.20%以下、Ti:0.01%以上0.15%以下、Mo:0.01%以上1.0%以下、Cu:0.01%以上0.5%以下、及びNi:0.01%以上0.5%以下のうちから選ばれる1種又は2種以上を含有することができる。
【0025】
[Nb:0.01%以上0.20%以下]
Nbは、炭窒化物の形成を介して鋼板の強度と疲労強度の増加に寄与する元素である。このような効果を発現させるためには、Nb含有量を0.01%以上とする必要がある。例えば、Nb含有量は0.02%以上又は0.03%以上であってもよい。一方、Nb含有量が0.20%を超えると、変形抵抗が増加するため、熱延鋼板の製造時の熱間圧延の圧延荷重が増加し、圧延機への負担が大きくなり過ぎて圧延操業そのものが困難になる恐れがある。また、Nb含有量が0.20%を超えると、粗大な析出物を形成して熱延鋼板の靱性が低下する傾向にある。したがって、Nb含有量は0.20%以下とする。例えば、Nb含有量は0.15%以下又は0.10%以下であってもよい。
【0026】
[Ti:0.01%以上0.15%以下]
Tiは、微細な炭窒化物を形成して結晶粒を微細化することにより、鋼板の強度と疲労強度を向上させる。この様な効果を発現させるためには、Ti含有量を0.01%以上とする必要がある。例えば、Ti含有量は0.02%以上、0.04%以上又は0.05%超であってもよい。一方、Ti含有量が0.15%を超えて過剰になると、上記した効果が飽和する上、粗大な析出物の増加を招き、鋼板の靱性低下を招く。したがって、Ti含有量は0.15%以下とする。好ましくは0.14%以下又は0.10%以下である。
【0027】
[Mo:0.01%以上1.0%以下]
Moは、焼入れ性を高め、鋼板の高強度化に寄与する元素である。このような効果を得るためにはMo含有量を0.01%以上とする必要がある。例えば、Mo含有量は0.02%以上又は0.03%以上であってもよい。しかし、Moは、合金コストが高く、1.0%を超えると溶接性を劣化させる。したがって、Mo含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.5%以下又は0.4%以下である。
【0028】
[Cu:0.01%以上0.5%以下]
Cuは、固溶して鋼の強度増加に寄与する元素である。また、Cuは、焼入れ性を向上させる。これらの効果を得るためには、Cu含有量を0.01%以上とする必要がある。例えば、Cu含有量は0.05%以上又は0.1%以上であってもよい。しかし、Cu含有量が0.5%を超えると熱延鋼板の表面性状の低下を招く。したがって、Cu含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.4%以下又は0.3%以下である。
【0029】
[Ni:0.01%以上0.5%以下]
Niは、固溶して鋼の強度増加に寄与し、また、焼入れ性を向上させる元素である。これらの効果を得るためには、Ni含有量を0.01%以上とする必要がある。例えば、Ni含有量は0.02%以上又は0.1%以上であってもよい。しかし、Niは、合金コストが高く、0.5%を超えると溶接性を劣化させる。したがって、Ni含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.4%以下又は0.3%以下である。
【0030】
その他の元素については、本発明の効果を妨げない範囲で含まれていてもよい。即ち残部が実質的に鉄であればよい。例えば耐遅れ破壊特性の向上を目的に、Ca、REM(希土類金属:Rare−Earth Metal)等をそれぞれ0.005%以下含有してもよい。熱間加工性を向上させる微量元素等を含有することもできる。
【0031】
本発明の熱延鋼板において、上記成分以外の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、熱延鋼板を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明の熱延鋼板に対して意図的に添加した成分ではないものを包含するものである。また、不純物とは、上で説明した成分以外の元素であって、当該元素特有の作用効果が本発明に係る熱延鋼板の特性に影響しないレベルで当該熱延鋼板中に含まれる元素をも包含するものである。
【0032】
次に、本発明に係る熱延鋼板の組織の限定理由について説明する。
【0033】
[同一粒内の平均方位差0.5°以上5.0°以下のフェライト:30体積%以上70体積%以下]
本発明の熱延鋼板の組織は、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトを30体積%以上70体積%以下含む。
【0034】
ここで、本発明において「同一粒内の平均方位差」とは、隣接する粒の方位差が15°以上のものを1つの結晶粒と定義した場合に、ある1つの結晶粒内に存在する結晶の乱れを表す指標である。通常のフェライト変態により生じたフェライトでは、同一粒内の平均方位差は0.0°であることがほとんどである。一方、本発明のように圧延中にフェライト変態が生じた場合、フェライトにも加工が施されるため、フェライト粒内に結晶の乱れが生じ、同一粒内の平均方位差が大きくなる。マルテンサイトとの硬度差を低減させるためには、同一粒内の平均方位差が0.5°以上である必要がある。一方、同一粒内の平均方位差が5.0°を超えると、フェライトの延性が劣化する。したがって、同一粒内の平均方位差は0.5°以上5.0°以下とする。より好ましくは0.7°以上3.5°以下である。
【0035】
本発明に係る熱延鋼板において、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトが30体積%よりも少なくなると、細粒組織の分率が低下し、十分な疲労特性を確保するのが困難になるため、上記フェライトの体積率は30体積%以上とする。また、上記フェライトの体積率を増やすためには熱間圧延時の圧下率を上げるか又は熱間圧延時の温度を低くする必要があるが、70体積%を超えるような条件にした場合には、同一粒内の平均方位差が5.0°を超える可能性が高くなり、フェライトの延性が劣化し、伸びフランジ性が低下する恐れがある。したがって、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトの体積率は30体積%以上70体積%以下とする。好ましくは35体積%以上若しくは40体積%以上であり、及び/又は65体積%以下若しくは60体積%以下である。
【0036】
[同一粒内の平均方位差0.5°以上5.0°以下のフェライトとマルテンサイトの合計90体積%以上、及び残部組織10体積%以下]
本発明に係る熱延鋼板は、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトとマルテンサイトを合計で90体積%以上、好ましくは95体積%以上又は100体積%含む。残部組織は、特に限定されないが、例えば、ベイナイト、同一粒内の平均方位差が0.5°未満のフェライト、及び残留オーステナイトの1種若しくは2種以上を含むか、又はベイナイト、同一粒内の平均方位差が0.5°未満のフェライト、及び残留オーステナイトの1種若しくは2種以上からなる。残部組織が10体積%よりも多くなると、所望の強度及び/又は伸びフランジ性を達成することが難しくなるため、残部組織は10体積%以下とする。より好ましくは、残部組織は5体積%以下であり、0体積%であってもよい。また、残部組織が10体積%超であって、当該残部組織のベイナイト分率が比較的高い場合には、疲労特性が低下することがある。
【0037】
[同一粒内の平均方位差0.5°以上5.0°以下のフェライトの平均結晶粒径:0.5μm以上5.0μm以下]
本発明において「平均結晶粒径」とは、隣接する粒の方位差が15°以上のものを1つの結晶粒と定義した場合に算出される値とする。同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトの平均結晶粒径が5.0μmを超えると、疲労強度や靱性が劣化するため、平均結晶粒径は5.0μm以下である必要がある。一方、平均結晶粒径を0.5μmよりも小さくするためには、圧延時に大ひずみ加工が必要となり、圧延機に大きな負荷がかかるとともに、同一粒内の平均方位差が5.0°を超える可能性が高くなる。このため、平均結晶粒径は0.5μm以上とする。したがって、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトの平均結晶粒径は0.5μm以上5.0μm以下であり、好ましくは0.7μm以上若しくは1.0μm以上であり、及び/又は4.5μm以下若しくは4.0μm以下である。
【0038】
[マルテンサイトと残部組織の平均結晶粒径:1.0μm以上10μm以下]
マルテンサイト及び存在する場合には残部組織の平均結晶粒径は、1.0μmよりも小さくなるとマルテンサイトや残部組織に含まれるベイナイト等が高強度化し、上記フェライトとの硬度差が大きくなり、伸びフランジ性が劣化する。また、10μmよりも大きくなると、疲労特性と靱性の劣化が懸念される。したがって、マルテンサイトと残部組織、特にベイナイトの平均結晶粒径は1.0μm以上10μm以下であり、好ましくは1.5μm以上若しくは2.0μm以上であり、及び/又は8.0μm以下若しくは5.0μm以下である。
【0039】
各相又は組織の同定や平均結晶粒径の算出は、走査型電子顕微鏡で撮像した組織写真を用いた画像処理や後方散乱電子回折像解析(EBSP又はEBSD)によって行うことができる。
【0040】
より具体的には、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下のフェライトの体積率は、以下のようにして決定される。鋼板の板幅をWとしたとき、鋼板の幅方向で片端から1/4W(幅)又は3/4W(幅)位置において、鋼板の幅方向を圧延方向からみた断面(幅方向断面)が観察面となるように試料を採取し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置で、鋼板の幅方向200μm×厚さ方向100μmの矩形領域を0.2μmの測定間隔でEBSD解析する。ここでEBSD解析は、例えば、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡とEBSD検出器で構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施する。ここで、方位差は、上記により測定した各測定点の結晶方位情報に基づき、隣接する測定点同士の結晶方位の差を求めたものである。この方位差が15°以上であるとき、隣接する測定点同士の中間を粒界と判断し、この粒界によって囲まれる領域を本発明において結晶粒と定義する。この結晶粒の同一粒内の方位差を単純平均して平均方位差を計算する。そして、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトの結晶粒の面積率を求め、これを同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトの体積率とする。なお、同一粒内の平均方位差の算出は、EBSD解析装置に付属のソフトウェアを用いて求めることができる。また、マルテンサイトも同一粒内の平均方位差が0.5°以上となる可能性があるが、マルテンサイトは形状がラス状の組織を呈することから、SEM像においてラス状の組織を有するものはマルテンサイトとし、その面積率をマルテンサイトの体積率とする。
【0041】
本発明における「同一粒内の平均方位差0.5°以上5.0°以下のフェライト」、「マルテンサイト」、及び「残部組織」のそれぞれの平均結晶粒径は、上記のEBSD解析により求めた値を用いて決定される。具体的には、方位差15°以上の境界を粒界として、下記式で算出される値を平均結晶粒径とする。式中、Nは平均結晶粒径の評価領域に含まれる結晶粒の数、Aiはi番目(i=1、2、・・、N)の粒の面積、diはi番目の結晶粒の円相当直径を示す。これらのデータはEBSD解析により容易に求められる。
【数1】
【0042】
本発明によれば、上記の化学成分(組成)及び組織を満たすことで、高強度でかつ疲労特性と伸びフランジ性に優れた熱延鋼板を得ることができる。したがって、本発明に係る熱延鋼板を自動車の構造部品などに適用した場合には、必要な強度を確保したまま板厚を薄くすることができ、自動車の燃費向上に貢献できるようになる。
【0043】
<熱延鋼板の製造方法>
次に、本発明に係る熱延鋼板の製造方法について説明する。
【0044】
本発明に係る熱延鋼板の製造方法は、
(a)上で説明した化学成分(組成)を有する鋼素材を鋳造後冷却することなくそのまま熱間圧延するか又は一旦室温まで冷却し、次いで1100℃以上1350℃以下に加熱して熱間圧延する熱間圧延工程であって、前記熱間圧延工程が鋳造後の鋼素材を複数の圧延スタンドに連続して通過させることによって仕上圧延することを含み、前記仕上圧延の全ての圧延スタンドにおける圧延温度がA点以上であり、かつ前記仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延が、圧延温度:A点以上Ae3点未満、ひずみ速度:1.0〜50/秒、及びパス間時間:10秒以内の条件下で行われ、前記条件を満たす全てのパスの総ひずみ量が1.4以上4.0以下である熱間圧延工程、
(b)仕上圧延された鋼板を20℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する冷却工程であって、前記冷却が前記熱間圧延工程後10秒以内に開始される冷却工程、並びに
(c)前記鋼板を室温以上300℃未満の温度範囲で巻き取る巻取り工程
を含むことを特徴としている。
ここで、A点は下記(式1)で求められる温度であり、Ae3点は下記(式2)で求められる温度である。
A(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo (式1)
Ae3(℃)=919−266C+38Si−28Mn−27Ni+12Mo (式2) 式中、C、Si、Mn、Cu、Ni及びMoは各元素の含有量(質量%)である。
【0045】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0046】
[(a)熱間圧延工程]
熱間圧延工程は、上で説明した化学成分(組成)を有する鋳造後の鋼素材を複数の圧延スタンドに連続して通過させることによって仕上圧延することを含む。また、仕上圧延の前又は仕上圧延における圧延スタンド間の圧延途中でデスケーリングを行ってもよい。本発明の方法では、仕上圧延は、後で説明するように、圧延中にフェライト変態を生じさせるために低ひずみ速度で行われる。したがって、仕上圧延は、このような低ひずみ速度での圧延が容易な連続鋳造と仕上圧延を連結した直送圧延によって行うことが好ましい。しかしながら、一般的な熱延方法であるスラブの再加熱−粗圧延−仕上圧延のような手法を取ってもよい。その場合、スラブ加熱温度は、スラブの均質化のため1100℃以上とし、オーステナイト粒径の粗大化を防止するため1350℃以下とする。また、鋼素材の製造方法は、特定の方法には限定されず、上記した化学成分を有する溶鋼を、転炉等で溶製し、連続鋳造等の鋳造方法でスラブ等の鋼素材とする常用の方法のいずれも適用することができる。
【0047】
(仕上圧延の全ての圧延スタンドにおける圧延温度:A点以上)
本発明の方法では、仕上圧延は、鋳造したままの鋼素材すなわち鋳造直後の鋼素材又は加熱後の鋼素材を複数の圧延スタンドに連続して通過させることによって行われ、仕上圧延の全ての圧延スタンドにおける圧延温度が下記(式1)で求められるA点以上である。
A(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo (式1)
式中、C、Mn、Cu、Ni及びMoは各元素の含有量(質量%)である。
A点未満になると、圧延中のフェライト変態に加え、温度の低温化に伴うフェライト変態が生じるようになる。後者のフェライト変態によって生じるフェライトは結晶粒径が大きく、引張強度や疲労強度の低下を招く。また、このようなフェライトが生じすることで組織分率の制御も困難になる。よって、全ての圧延スタンドにおける温度はA点以上である必要がある。例えば、全ての圧延スタンドにおける温度は1100℃以下であってもよい。
【0048】
(仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延の圧延温度:A点以上Ae3点未満)
この圧延温度が下記(式2)で求められるAe3点以上になると、圧延中にフェライト変態をさせることが困難になるため、Ae3点未満とする。
Ae3(℃)=919−266C+38Si−28Mn−27Ni+12Mo (式2)
式中、C、Si、Mn、Ni及びMoは各元素の含有量(質量%)である。
また、A点未満になると、圧延中のフェライト変態に加え、温度の低温化に伴うフェライト変態が生じるようになる。後者のフェライト変態によって生じるフェライトは結晶粒径が大きく、引張強度や疲労強度の低下を招く。また、このようなフェライトが生じすることで組織分率の制御も困難になる。したがって、仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延の圧延温度はA点以上Ae3点未満とする。
【0049】
(仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延のひずみ速度:1.0〜50/秒)
圧延中にフェライト変態を生じさせるためには、ひずみ速度が低速の方が好ましい。ひずみ速度が50/秒を超えた場合、フェライト変態をさせるのに必要な圧下量が大きくなり、圧延機への負荷が増加する。また、加工発熱が大きくなり、圧延温度がAe3点以上となる可能性が高くなる。よって、ひずみ速度は50/秒以下とする。また、ひずみ速度が1.0/秒未満の場合、圧延機のロールによる抜熱の影響が大きくなり、圧延温度がA点未満となる可能性が高くなる。したがって、ひずみ速度は1.0/秒以上50/秒以下とする。より好ましくは1.5/秒以上、30/秒以下である。
【0050】
(仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延のパス間時間:10秒以内)
パス間時間は、圧延スタンド間でのひずみの回復や再結晶挙動に影響を与える。パス間時間が10秒を超えると、スタンド間でのひずみの回復及び再結晶が生じ、前の圧延パスで蓄積したひずみが解放されてしまうため、圧延中にフェライト変態を生じさせることが困難になる。したがって、パス間時間は10秒以内とする。好ましくは8.5秒以内、7秒以内又は5秒以内である。例えば、パス間時間は1秒以上であってよい。
【0051】
(総ひずみ量:1.4以上4.0以下)
上記仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延が、圧延温度:A点以上Ae3点未満、ひずみ速度:1.0〜50/秒、及びパス間時間:10秒以内の条件を満たす全てのパスの総ひずみ量は1.4以上4.0以下とする。この総ひずみ量は圧延中に生じるフェライト変態量とそのフェライト粒内の平均方位差及びマルテンサイトの微細化に大きな影響を与える。総ひずみ量が1.4未満では、十分な量のフェライト変態を生じさせることが困難であり、また、マルテンサイト結晶粒径が粗大化する。一方、総ひずみ量が4.0を超えると、圧延中に生じたフェライトの同一粒内の平均方位差が5.0を超え、フェライトの延性が低下する。それに加えて、圧延中のフェライト変態量が大きくなり、マルテンサイト量が減少するため強度不足を招く。したがって、当該総ひずみ量は1.4以上4.0以下とする。好ましくは1.6以上3.5以下である。
【0052】
上記の圧延条件が連続しない場合には、圧延中にフェライト変態を生じさせることができなくなるか及び/又は圧延中に生じたフェライトがオーステナイトへ逆変態を起こし、結果として最終組織のフェライト分率が小さくなり、得られる熱延鋼板の伸びが低下する。また、最終パスが圧延条件を満足しない場合には、最終パスでフェライトからオーステナイトへの逆変態が生じ、最終組織のフェライト分率が減少して伸びが低下するか及び/又はフェライトが回復してマルテンサイトとの硬度差が大きくなり、伸びフランジ性が低下する。あるいはまた、最終パスの圧延温度がA点未満になると、圧延中のフェライト変態に加え、温度の低温化に伴うフェライト変態が生じるようになり、後者のフェライト変態によって生じるフェライトは結晶粒径が大きく、引張強度や疲労強度の低下を招く。したがって、仕上圧延の最終パスを含む2パス以上の連続した圧延は、圧延温度:A点以上Ae3点未満、ひずみ速度:1.0〜50/秒、及びパス間時間:10秒以内の条件下でかつ当該条件を満たす全てのパスの総ひずみ量が1.4以上4.0以下となるように行うことが必要である。
【0053】
(粗圧延)
本発明の方法では、例えば、板厚調整等のために、仕上圧延の前に鋼素材に対して粗圧延を行ってもよい。粗圧延は、所望のシートバー寸法が確保できればよく、その条件は特に限定されない。
【0054】
[(b)冷却工程]
本発明の方法によれば、仕上圧延された鋼板は、冷却工程において、20℃/秒以上の平均冷却速度で冷却され、当該冷却は上記の熱間圧延工程後10秒以内に開始される。熱間圧延工程終了後から冷却開始までに10秒を超えると、フェライトの回復が生じてマルテンサイトとの硬度差が大きくなり、得られる熱延鋼板の伸びフランジ性が低下する。好ましくは、冷却は熱間圧延工程後9秒以内又は8秒以内に開始される。また、平均冷却速度が20℃/秒未満では、フェライト中のひずみが回復して軟化し、マルテンサイトとの硬度差が大きくなり、伸びフランジ性の低下が生じる。したがって、熱間圧延工程後の冷却の平均冷却速度は20℃/秒以上とする。好ましくは40℃/秒以上である。平均冷却速度の上限は、特に限定されないが、例えば100℃/秒以下であってもよい。
【0055】
[(c)巻取り工程]
上記冷却工程において冷却停止温度まで冷却された鋼板は、巻取り工程において室温以上300℃未満の温度範囲で巻き取られる。冷却工程後に直ちに鋼板の巻取りが行われるため、巻取温度は冷却停止温度にほぼ等しい。巻取温度が300℃以上になると、ポリゴナルフェライト又はベイナイトが多量に生成するため、引張強度及び疲労強度が低下する。従って、冷却停止温度となる巻取温度は300℃未満とする。例えば、巻取温度は250℃以下又は200℃以下であってもよい。
【0056】
なお、巻取り後、熱延鋼板には常法に従って調質圧延を施してもよく、また、酸洗を施して表面に形成されたスケールを除去してもよい。或いは更に、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき等のめっき処理や、化成処理を施してもよい。
【0057】
本発明の熱延鋼板について説明したのと同じ組成を有する鋼素材を鋳造後、上で説明したように熱間圧延、その後の冷却及び巻取り操作を実施することで、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下であるフェライトを30体積%以上70体積%以下含み、前記フェライトとマルテンサイトを合計で90体積%以上含み、残部組織が10体積%以下であり、前記フェライトの平均結晶粒径が0.5μm以上5.0μm以下であり、前記マルテンサイトの平均結晶粒径が1.0μm以上10μm以下であり、前記残部組織が存在する場合、前記残部組織の平均結晶粒径が1.0μm以上10μm以下である熱延鋼板を確実に製造することができる。それゆえ、上記の製造方法によれば、疲労特性と伸びフランジ性に優れた引張強度590MPa以上の熱延鋼板を提供することが可能である。
【0058】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
表1に示す化学成分の溶鋼を転炉で溶製した。次いで、これらの鋼素材を表2に示す熱間圧延、冷却及び巻取り条件により板厚3.0mmの熱延鋼板を製造した。表1に示す成分以外の残部はFe及び不純物である。また、製造した熱延鋼板から採取した試料を分析した成分組成は、表1に示す鋼の成分組成と同等であった。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2-1】
【0062】
【表2-2】
【0063】
表2中の「加熱温度」はスラブを再加熱する場合の温度であり、「直送」は連続鋳造と仕上圧延を連結させた直送圧延で仕上圧延を実施したことを表す。また、「F1」〜「F7」は仕上圧延における圧延スタンドを示しており、各欄における「圧延温度」はスタンド入側の温度を示しており、「パス間時間」は当該スタンドを出た直後から、次のスタンドに到達するまでの時間を表す。また、「T」は熱間圧延工程後(仕上圧延終了後)から冷却開始までの時間を表す。また、仕上圧延後の冷却は水冷によるものとし、途中に空冷区間を有しない水冷設備に鋼板を通過させることにより行った。冷却時の冷却速度は、水冷設備導入時から水冷設備導出時に至るまでの鋼板の温度降下幅を、水冷設備に対する鋼板の所要通過時間で除した平均速度で表す。
【0064】
得られた熱延鋼板から試験片を採取し、組織観察(走査型電子顕微鏡及びEBSD)、引張試験、穴広げ試験、並びに両振り平面曲げ試験法による疲労試験を行った。組織観察は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(TSL製HIKARI検出器)で構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施し、同一粒内の平均方位差の算出は、EBSD解析装置に付属のソフトウェア(OIM AnalysisTM)を用いて求めた。また、前記穴広げ試験は、試験片に10mmφの打ち抜き穴(初期穴:穴径d0=10mm)を開け、バリを上にして頂角60度の円錐ポンチで板厚を貫通する割れが発生するまで初期穴を押し上げ、割れ発生時の穴計d1mmを測定し、下記式にて穴広げ率λ(%)を求めるものである。これらの結果を表3に示す。
λ=100×(d1−d0)/d0
【0065】
【表3】
【0066】
表3中の「α1相」は同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下のフェライトを表し、「M相」はマルテンサイトを表す。また、「残部組織」としてはベイナイトを含み、他に同一粒内の平均方位差が0.5°未満のフェライト及び/又は残留オーステナイトを含んでいた。表3より、実施例の熱延鋼板は、いずれも引張強度が590MPa以上であって伸びフランジ性と疲労特性に優れていることがわかる。なお、ここで言う伸びフランジ性に優れているとは、λが90%以上を意味し、疲労特性に優れているとは疲労限度比(疲労強度/引張強度)が0.50以上であることを意味する。
【0067】
一方、本発明の範囲を外れる比較例の熱延鋼板は、伸びフランジ性及び/又は疲労特性が劣化している。比較例4は、仕上圧延の最終パス等の圧延温度がAe3点以上であるために圧延中にフェライト変態が生じなかった。結果として、フェライトの細粒組織(同一粒内の平均方位差0.5°以上5.0°以下のフェライト:30体積%以上70体積%以下、並びに当該フェライトの平均結晶粒径:0.5μm以上5.0μm以下)が得られないために、伸びフランジ性とともに疲労特性が劣化している。比較例5は、冷却速度が20℃/秒よりも遅いため、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下のフェライトに回復が生じ、残部組織の分率が増加し、結果としてマルテンサイトとの硬度差が増加して伸びフランジ性が劣化している。比較例10は、巻取温度(冷却停止温度)が300℃以上のため、残部組織のベイナイト分率が増加し、すなわち残部組織が10体積%を超えて増加し、結果として引張強度及び疲労特性が劣化している。比較例13は、熱間圧延工程後(仕上圧延完了)から冷却開始までに10秒超経過しており、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下のフェライトに回復が生じて残部組織の分率が増加し、引張強度が低下するとともに、マルテンサイトとの硬度差が増加して伸びフランジ性が劣化している。
【0068】
比較例16は、仕上圧延中に圧延温度がA点未満になっており、圧延中に温度低下に伴うフェライトが生成したため、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下のフェライトの粒径が5.0μmを超えて大きくなっており、疲労特性が低下している。比較例28は、総ひずみ量が1.4未満となっており、同一粒内の平均方位差が0.5°以上5.0°以下のフェライトの体積率が30体積%未満に減少し、細粒組織の分率が少なく、また、マルテンサイトの結晶粒径も粗大化しているため、疲労特性が劣化している。比較例29は、熱間圧延、冷却及び巻取りの各条件は満足しているが、C量が多いため、組織中のセメンタイト量が多くなり、穴広げ性が低下しており、伸びフランジ性が劣化している。同様に、比較例30は、熱間圧延、冷却及び巻取りの各条件は満足しているが、Mn量が多いため、組織中にバンド組織が形成され、穴広げ性が低下しており、伸びフランジ性が劣化している。