(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
iDCにより発現される1つの抗原が異種反応性(xeno-reactivity)、同種反応性(allo-reactivity)、新反応性(neo-reactivity)または自己免疫からなる群から選択される細胞傷害性または体液性免疫応答を誘導することができる抗原である、請求項1または2に記載の組成物。
対象の免疫不全が電離放射線によって引き起こされる免疫不全、少なくとも1つの細胞毒性薬の投与によって引き起こされる免疫不全、原発性免疫不全および病原体によって引き起こされる免疫不全からなる群から選択される免疫不全である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
ヒト機能性B細胞または機能性ヒト抗体の試験のための、またはヒトにおける使用のための薬物、インプラントまたはデバイスの試験のための、再生されたヒト機能性B細胞および機能性ヒト抗体を有するマウスの使用であって、再生されたヒト機能性B細胞および機能性ヒト抗体を有するマウスは、
以下の工程
a)マウスを免疫不全とすること;
b)ヒト造血幹細胞を対象に移植すること;および
c)少なくとも1つの抗原および少なくとも1つのサイトカインを発現する請求項1または2に記載の誘導されたヒト樹状細胞(iDC)をマウスに投与し、それによってヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導すること
を含む方法により生産される、使用。
【発明の概要】
【0009】
1つの局面において、本願発明は、医薬としての使用のための、
a)ヒトDC前駆細胞のDCへの自律分化(self-differentiation)を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原;
を発現するように操作された誘導された樹状細胞(iDC)に関する。
【0010】
他の局面において、本願発明は、HSCの移植後の免疫不全対象の免疫系の再生における使用のための、
a)ヒトDC前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原;
を発現するように操作されたiDCに関する。
【0011】
さらに他の局面において、本願発明は、リンパ系に(lymphatically)広がる癌またはリンパ向性病原体により引き起こされる疾患の処置のための医薬としての使用のための、
a)ヒトDC前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原;
を発現するように操作されたiDCに関する。
【0012】
さらに他の局面において、本願発明は、以下の工程
a)造血幹細胞を対象に移植すること;および
b)少なくとも1つの抗原およびDC前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインを発現するように操作されたiDCを対象に投与すること
を含む、免疫不全対象における免疫系を再生するための方法に関する。
【0013】
さらに他の局面において、本願発明は、本願発明の方法により生産される機能的な異種免疫系を有する動物モデルに関する。
【0014】
さらに他の局面において、本願発明は、ヒト免疫系の試験のための、またはヒトにおける使用のための薬物、インプラントまたはデバイスの試験のための、本願発明の方法により生産されるヒト化免疫系を有するマウスの使用に関する。
【0015】
さらに他の局面において、本願発明は、少なくとも1つのインテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクターを含むiDCであって、当該ベクターは、
a)ヒトDC前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原
の発現を介在する、iDCに関する。
【0016】
さらに他の態様において、本願発明は、以下の工程
a)適当なドナーに由来するサンプルから前駆細胞を単離すること;
b)ヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原の発現をなし遂げるように、細胞を操作すること
を含む、iDCを産生するための方法に関する。
【0017】
発明の詳細な説明
本願発明が以下に詳細に記載される前に、本願発明が、本明細書に記載されている特定の方法論、プロトコールおよび試薬が変化し得るとき、本明細書に記載されている特定の方法論、プロトコールおよび試薬に限定されないと理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、特定の態様のみを記載する目的のためであり、添付の特許請求の範囲のみにより限定される本願発明の範囲を限定することを意図しないと理解されるべきである。他に定義されていない限り、本明細書において使用される全ての専門および科学用語は、当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。好ましくは、本明細書において使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)”, Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. and Kolbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland)に記載されているとおりに定義される。
【0018】
本願明細書および以下に続く特許請求の範囲にわたって、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む」なる用語、および「含み」および「含むこと」のような変形語は、記載された整数または工程または整数または工程の群の包含を意味するが、任意の他の整数または工程または整数または工程の群の排除を意味しないと理解する。
【0019】
いくつかの文書が本願明細書の本文にわたって引用されている。上記または下記の本願明細書において引用されているそれぞれの文書(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、指示書、GenBank受入番号配列寄託などを含む)を、出典明示によりその内容を本願明細書に包含させる。本願発明が以前の発明の理由でかかる記載に先行する権利がないと認めると解釈すべきでない。
【0020】
本願発明のiDCの記載
本願発明は、
a)ヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原
を発現するように操作されたiDCに関する。
【0021】
本願において以下でさらに記載される方法および使用のために有用なiDCは、少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原の発現によって自律分化する(self-differentiate)ように誘導される樹状細胞である。
【0022】
樹状細胞の「自律分化」なる用語は、少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原の内在性発現によって刺激される適当な前駆細胞から樹状細胞の発達を示す。「自律分化」なる用語は、分化過程中の増殖培地へのサイトカインの添加を排除しない。しかしながら、DC前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインの内在性発現はこの過程のために必要とされる、すなわちiDCが少なくとも1つのサイトカインの発現をなし遂げるように操作されないとき、自律分化は起こらない。iDCの操作は、好ましくは、インビトロで行われる処理である。
【0023】
好ましい態様において、前駆細胞の樹状細胞への分化のために必要とされる全てのサイトカインおよび抗原は、前駆細胞および得られるiDCによって内在的に発現される。
【0024】
樹状細胞に分化することができるあらゆる細胞が、本願発明のiDCに適当な前駆細胞である。したがって、「前駆細胞」なる用語は、多能性幹細胞および造血幹細胞を含む。好ましくは、樹状細胞に対する前駆細胞は単球、さらに好ましくは末梢血単球である。好ましくは、当該単球は、細胞表面上のCD14の存在により特徴付けられる。CD14
+CD16
−であるヒト単球は古典的な単球と考えられ、CD14
+CD16
+細胞は非古典的な単球である。両方の型の単球が好ましい。単球は、GM−CSF、M−CSF、G−CSFに対する受容体およびケモカイン受容体CCR1、CCR2およびCCR5を発現する。したがって、前駆細胞は、CD14、CD16、GM−CSF、M−CSF、G−CSF、CCR1、CCR2およびCCR5からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現により定義される。さらに好ましくは、前駆細胞は、少なくとも2、3または4つの前記遺伝子の発現により特徴付けられる。さらに、好ましくは、CD3、CD19、CD20およびCD56はT−リンパ球、B−リンパ球およびナチュラルキラー細胞に対するマーカーであるため、前駆細胞はCD3、CD19、CD20およびCD56を発現しない。受容体または表面マーカーの発現は、受容体または表面マーカーに特異的に結合する標識された抗体および標識の検出の使用を含む当該分野で既知の方法により決定することができる。標識は、共焦点顕微鏡または蛍光活性化細胞分類(FACS)を含む種々の当該分野で既知の方法によって検出および/または定量され得る。
【0025】
iDCに対する前駆細胞は、好ましくは、霊長類、齧歯動物、ネコ、イヌ、ブタ、ウシおよびヒツジからなる群から選択される生物体に由来する。霊長類は、好ましくは、ヒト、チンパンジーまたはマカクザル、より好ましくはヒトである。齧歯動物は、好ましくは、マウスまたはラット、より好ましくはマウスである。
【0026】
とりわけ好ましい態様において、iDCは造血幹細胞のドナー(単数または複数)に由来する。
【0027】
好ましくは、適当な前駆細胞は、表面上にCD14を発現する細胞を選択することによって、骨髄または血液(末梢または臍帯血)に由来する。
【0028】
「操作」なる用語は、DC前駆細胞またはDCによって天然に発現されないか、またはそのレベルで天然に発現されない1つ以上のサイトカインおよび/または1つ以上の抗原の発現をもたらす処理を示すために使用される。好ましい態様において、細胞は、1つ以上のサイトカインおよび/または1つ以上の抗原をコードする核酸配列を含むベクターの導入により操作される。これらをコードする核酸配列は1つのベクターまたは別々のベクターに含まれること、例えば1つ以上のサイトカインをコードする核酸配列は1つのベクターに含まれ、1つ以上の抗原をコードする核酸配列は別のベクターに含まれることが可能である。別の好ましい態様において、DC前駆細胞またはDCは、ヒトゲノムにおいて天然にコードされるが、通常、これはDC前駆細胞またはDCにおいて発現しないか、または発現が抑制されているサイトカインおよび/または抗原を発現するように操作される。これは、それぞれのサイトカインおよび/または抗原をコードする遺伝子の近接においてプロモーターおよび/またはエンハンサー配列の導入を含む当該分野で既知の方法によってなし遂げられ得る。プロモーターが導入されるとき、それらをそれぞれの遺伝子のコード領域の上流に、これらのプロモーターが内在性サイトカインおよび/または抗原の発現を指向する方法において導入することが好ましい。好ましくは、強い構成的プロモーターは、ウイルスプロモーター、例えばCMV前初期プロモーターまたはSV40プロモーターまたはハウスキーピング遺伝子のプロモーターのように導入される。別の態様において、必要に応じてサイトカインおよび/または抗原の発現および発現レベルの適応を可能にする調節性プロモーター系を使用する。かかる調節可能なプロモーター系は、例えばTet
on、Tet
offまたはlacリプレッサー系を含む。再び、サイトカインおよび抗原に対して異なるプロモーター系、例えばサイトカインに対して調節可能なプロモーターおよび抗原に対して構成的プロモーターが、使用され得る。ベクターを使用するアプローチは、異種プロモーター/エンハンサーを導入するアプローチと組み合わせることができる、例えば細胞は、それぞれのサイトカイン遺伝子の近接への適当なプロモーター/エンハンサーの導入によってヒトゲノムにおいてコードされる1つ以上のサイトカインを発現するように操作され、1つ以上の抗原をコードする核酸配列を含むベクターでトランスフェクトされ得る。
【0029】
抗原またはサイトカインの「内在性発現」なる用語は、樹状細胞自身および/またはその前駆細胞による当該分子の生産を示す。当該内在性発現は、上記で概説されているとおり、当該サイトカインまたは抗原をコードする細胞遺伝子の上方制御によって、またはサイトカインまたは抗原の組換え発現によって介在される。
【0030】
細胞遺伝子の上方制御は、好ましくは、組織特異的、誘導的または構成的プロモーターのコントロール下で細胞遺伝子の転写活性化によってなし遂げられる。特定の遺伝子の転写を活性化することができる核酸、または、細胞中に発現されると、内在性サイトカイン遺伝子の転写を誘導する調節タンパク質、例えば転写因子をコードする核酸で細胞をトランスフェクトすることも好ましい。しかしながら、サイトカインまたは抗原の組換え発現を使用することが、一般的に容易であり、したがって好ましい。
【0031】
「組換え発現」なる用語は、樹状細胞またはその前駆細胞における遺伝子の発現であって、当該遺伝子は細胞に導入される核酸分子に含まれる発現を示す。真核細胞に外来核酸分子を導入するための方法は当該分野でよく知られている。原則として、樹状細胞の発達または機能を損なうことなく、細胞によって少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原の所望の発現をもたらす限り、任意のこのような方法を使用することができる。
【0032】
したがって、本願発明の好ましい態様において、ヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原の発現を誘導するためのiDCの操作は、DCまたはその前駆細胞への当該タンパク質をコードするベクターの導入である。
【0033】
ベクター
好ましくは、サイトカインおよび抗原をコードする遺伝子は、哺乳動物細胞における使用のための発現ベクターを使用して導入される。このようなベクターは、通常、複製起点(必要なとき、以下参照)、発現される遺伝子の前に位置するプロモーターを、所望によりトランスにおいてエンハンサー、任意の必要なリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写ターミネーター配列と共に含む。次に、かかる発現ベクターは、少なくとも1つの抗原および少なくとも1つのサイトカインの発現を介在するために使用され得る。
【0034】
好ましい態様において、本願発明の発現ベクターは、プラスミド;ファージミド;ファージ;コスミド;人工染色体、特に人工哺乳動物染色体;ノックアウトまたはノックイン構築物;ウイルス、特にアデノウイルス、ワクシニアウイルス、弱毒化したワクシニアウイルス、カナリアポックスウイルス、ヘルペスウイルス、特に単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ライノウイルス、フィロウイルス、および上記ウイルスの操作された型;ビロゾーム(virosome);裸の(naked)DNA、リポソーム;ウイルス様粒子;および核酸被覆粒子、特にゴールドスフィアを含み、本質的にそれらを構成するか、またはそれらからなる。レトロウイルスは、好ましくはレンチウイルスである。
【0035】
組換えウイルスベクターの産生を可能にするプラスミドの例は、pFastBac1(Invitrogen Corp., Carlsbad CA)、pDCCMV(Wiznerowicz et al., “Double-copy bicistronic retroviral vector platform for gene therapy and tissue engineering: application to melanoma vaccine development.” GeneTher. 1997 Oct;4(10):1061-8.)およびpShuttle−CMV(Q-biogene, Carlsbad, California)を含む。特に、レンチウイルスベクター(LV)、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターのようなウイルスベクターが好ましい。
【0036】
LVは、単球およびDCへの効率的な、長続きする、非毒性の、および非免疫原性の遺伝子送達を得ることができるアプローチを提供する。レンチウイルスは、細胞核輸送機構による認識することができる、レンチウイルスの組み込み前の複合体の核親和性の(karyophilic)特性によって、非増殖性細胞に感染することができる。LVは、初代静止細胞、培養において増殖停止された細胞、ならびに最終分化した細胞に形質導入することができる。レンチウイルスのパッケージングシステムは、Naldiniらの次の三者(tripartite)一過性のトランスフェクション処理Naldini Lら“In vivo gene delivery and stable transduction of nondividing cells by a lentiviral vector”. Science. Apr 12 1996;272(5259):263-267)により最初に開発され、HIVの4つのアクセサリー遺伝子(
vif、
vpr、
vpuおよび
nef)をウイルス力価または形質導入効率に影響することなく当該ウイルスのパッケージングシステムから欠失させた「第2世代」LVに後に発展された(Dull Tら. “A third-generation lentivirus vector with a conditional packaging system”. J Virol. 1998;72(11):8463-8471)。したがって、このシステムにおける残る唯一の補助遺伝子は、Rev応答配列(RRE)と共に、その同種結合配列として、ウイルス生産中の核からベクターおよびパッケージング構築RNAの効率的な輸送のために必要とされるrevである。したがって、毒性ならびに組換えの可能性の両方が、「第2世代」LVにおいて低下される。当該パッケージングシステムにおける改良と並行して、3’長い末端反復(LTR)において400ヌクレオチド欠失を一般的に含む自己不活性化(SIN)LV設計が開発された(Zufferey Rら “Self-inactivating lentivirus vector for safe and efficient in vivo gene delivery”. J Virol. Dec 1998;72(12):9873-9880)。野生型ウイルスでのベクター動員(mobilization)および複製コンピテントLVの後の生産のリスクは、SINベクターに対して大幅に減少させる。
tat−独立プロモーターを有する自己不活性化ベクターは、「第3世代」LVと称されている。ほとんどの場合、LVは、ユビキタス細胞表面リン脂質に結合し、それにより広い宿主範囲を達成すると報告されているラブドウイルスエンベロープタンパク質である、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−G)で偽型化される(pseudotyped)(すなわち、異種エンベロープタンパク質でコーティングされる)。
【0037】
したがって、本願発明の好ましい態様において、レンチウイルスベクターは、第1世代LV、第2世代LVまたは第3世代LVである。とりわけ好ましい態様において、LVは、優れた安全性プロフィールを有するため、第3世代、すなわち自己不活性化LVである。LVは、好ましくは、他のウイルスが起源である天然エンベロープで偽型化されるか、または特定の細胞の感染を標的とするように分子を含む操作されたエンベロープで偽型化される。特定の細胞の感染を標的とするベクターの使用は、オフ標的(off-target)細胞(非DCまたは非DC前駆体)の感染を回避する安全性を増加させ、したがって、とりわけ好ましい。
【0038】
とりわけ好ましいインテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクターは、配列番号:1により定義される核酸配列を有する変異インテグラーゼを有する。
【0039】
インテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクターの使用は、組込事象が評価することが困難であるという結果を伴う挿入突然変異を引き起こし得るため、iDCの安全性を増加させる。驚くべきことに、本願発明の基本となる試験において、インテグラーゼ欠損型ベクターは細胞分裂中に消え、自身で複製できないけれども、なお、分化したDCにおいて抗原およびサイトカインの安定なおよび永続的な発現を可能にすることを見出した。
【0040】
アデノウイルスが発現ベクターとして使用される場合、コード配列は、アデノウイルス転写/翻訳コントロール複合体、例えば、後期プロモーターおよび三者リーダー配列に結合され(ligate)得る。興味ある遺伝子は、インビトロまたはインビボ組換えによってアデノウイルスのゲノム中に挿入され得る。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域El、E3またはE4)における挿入は、感染された細胞において生存可能であり、それぞれのハイパーサイトカイン(hypercytokine)を発現することができる組換えウイルスをもたらす。使用されるウイルスベクターは複製能力のないように修飾されることが好ましい。
【0041】
導入遺伝子の安定な発現を可能にするために、発現ベクターは、細胞のゲノムから独立して複製を可能にする複製起点が提供されるべきであるか、または第1および/または第2の細胞のゲノムに組み込まれるべきであり、またはそれは複製しない細胞の核においてエピソームとして安定に維持され得る。第1の場合、発現ベクターはエピソーム的に維持される。適当な複製起点は、SV40または他のウイルス(例えば、ポリオーマ、Adeno、CMV、VSV、BPV)供給源に由来し得る。第2の場合、発現ベクターがゲノム、例えば染色体に組み込まれるとき、複製起点を提供することを必要としない。後者の場合、エピソームは、レトロウイルス、レンチウイルスまたはさらに具体的にはHIVの二本鎖DNAコピーを含む組み込み前の複合体に対応する。したがって、本願発明の基本となる試験において、エピソーム的に複製せず、iDCのゲノムに組み込まれないインテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクターが、iDCの自律分化を誘導し、生存能力を数週間維持するために、およびHSCの移植後の免疫不全宿主において免疫系の再生をサポートするために適当であることを驚くべきことに見出した。したがって、宿主細胞のゲノムに組み込まれない複製能力のないベクターがとりわけ好ましい。
【0042】
少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原の発現を指向するために、それらをコードする遺伝子は、細胞の転写機構によって認識される内部プロモーターおよび/またはエンハンサー作動的に連結される。適当なプロモーターは、哺乳動物細胞のゲノム(例えば、MHCIIプロモーター、EF1アルファプロモーター)または哺乳動物ウイルス(例えば、サイトメガロウイルスプロモーター、脾臓フォーカス形成ウイルスSFFVプロモーター)に由来し得る。樹状細胞、またはその前駆細胞における上記遺伝子の発現を可能にするプロモーターがとりわけ好ましい。
【0043】
原則として、抗原提示細胞において転写的に活性であるすべてのプロモーターが、iDCまたはその前駆細胞における抗原およびサイトカインの発現を可能にするレンチウイルスベクターの構築のために使用することができる。したがって、プロモーターは、好ましくは、共刺激リガンド(B7.1/CD80、B7.2/CD86、CD70)、DC成熟マーカー(CD83)およびDCマーカー(CD1c/BDCA−1、CD141/BDCA−3、CD209、CD40)からなる群から選択される。
【0044】
構成的早期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターにより、または抗原提示細胞限定主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHCII)プロモーターにより駆動されるGM−CSFおよびIL−4を発現するLVで形質導入されるマウス骨髄前駆細胞は、インビトロおよびインビボでDC自律分化を効果的に誘導した(Pinchaら, 2011) (Pincha Mら. Lentiviral vectors for induction of self-differentiation and conditional ablation of dendritic cells. Gene Ther. 2011,Aug;18(8):750-764.)。したがって、これらの2つのプロモーターがとりわけ好ましい。さらに、他の一般的に使用される構成的プロモーター(SV40、UBC、EF1α、PGKおよびCAGG)の使用は、ヒトiDCの生産用のLV設計のために好ましい。例えばドキシサイクリンまたはタモキシフェンで、誘導することができるプロモーターもまた使用することができる。
【0045】
SV40ウイルスの早期および後期プロモーターは、両方ともSV40ウイルス複製起点も含むフラグメントとしてウイルスから容易に得られるため、特に有用である。ウイルス複製起点に位置するHindIII部位からBglII部位にわたる約250bp配列を含む限り、小型または大型SV40フラグメントも使用され得る。
【0046】
本明細書において使用される「作動可能に連結」は、発現コントロール配列が興味あるコード配列の発現を効果的にコントロールできるように遺伝的構築物に組み込まれることを意味する。
【0047】
特定の開始シグナルもまた、コード配列の効率的な翻訳のために必要とされ得る。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接配列を含む。ATG開始コドンを含む外因性翻訳調節シグナルが、さらに、提供される必要があり得る。当業者は容易にこれを決定し、必要なシグナルを提供することができる。開始コドンは、挿入物全体の翻訳を保証するために所望のコード配列のリーディングフレームでインフレーム(またはインフェーズ)でなければならないことが知られている。これらの外因性翻訳調節シグナルおよび開始コドンは、種々の起源の、天然および合成の両方のものであってよい。
【0048】
哺乳動物細胞によって単一の多シストロン性(multicistronic)RNAにおいていくつかのサイトカインおよび抗原の共発現を可能にするために、「2A」エレメントを含むベクター設計が使用され得る。2A様配列は、高度に保存されている天然ウイルスエレメントであり、コンセンサスモチーフ(2A、Asp−Val/Ile−Glu−X−Asn−Pro−Gly;2B、Pro)を含む短いポリペプチド配列(約20アミノ酸長)であり、2Aグリシンおよび2Bプロリン間の開裂を引き起こす。当該開裂は、2Aエレメントがグリシンおよびプロリン残基間のペプチド結合形成をスキップするようにリボソーム活性を修飾し、個々の複数のタンパク質産物の放出を引き起こすリボソーム「スキッピング」メカニズムによって起こると考えられる(Donnelly MLら. “Analysis of the aphthovirus 2A/2B polyprotein ’cleavage’ mechanism indicates not a proteolytic reaction, but a novel translational effect: a putative ribosomal ’skip’.” J Gen Virol. May 2001;82(Pt 5):1013-1025)。最近の試験は、単一のオープンリーディングフレーム(ORF)転写産物から個々のタンパク質として多数の遺伝子の同時の共発現のための多シストロン性ベクターを作るために2A様cis−作用性ヒドロラーゼエレメント(CHYSEL)を利用している(Chinnasamy Dら. “Multicistronic lentiviral vectors containing the FMDV 2A cleavage factor demonstrate robust expression of encoded genes at limiting MOI”. Virol J. 2006;3:14; Szymczak AL, Vignali DA. “Development of 2A peptide-based strategies in the design of multicistronic vectors”. Expert Opin Biol Ther. May 2005;5(5):627-638)。多シストロン性ベクターの構築における2Aシステムの特定の利点は、単一のプロモーターのみの使用の実現可能性である。これらの小さいサイズによって、単一のベクター構築物は、複数のタンパク質の発現のためにいくつかの2Aエレメントを利用することができる。2A様エレメントは、等モル比で開裂の高い効率で複数のタンパク質産物の発現を可能にする(de Felipe Pら. “E unum pluribus: multiple proteins from a self-processing polyprotein”. Trends Biotechnol. Feb 2006;24(2):68-75)。ベクターにおける異種2Aエレメントは、相同組換えを回避し、レンチウイルスベクターの安定性を維持する。ベクターにおいて使用することができる様々な型の2A−エレメントは、口蹄疫ウイルス(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(E2A)、トーセア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス(T2A)およびブタテシオウイルス(teschovirus)−1(P2A)を含む。
【0049】
あるいは、内部リボソーム侵入部位(IRES)が使用され得る。通常、真核生物において、翻訳は、5’−キャップ認識が翻訳開始複合体の集合のために必要とされるため、mRNA分子の5’末端のみで開始することができる。IRESは、内部翻訳開始と呼ばれるプロセスによってメッセンジャーRNA(mRNA)配列の中央で翻訳開始を可能にするヌクレオチド配列である。ウイルスIRESは、例えば、ピコルナウイルス、肝炎ウイルスまたはポリオウイルスにおいて見られる。細胞IRESは、例えば線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、インシュリン様増殖因子2(IGF−II)、C−myc、L−myc、Pim−1、タンパク質キナーゼ、p58PITSLREまたはp53をコードするmRNAにおいて見られる。2Aエレメントと同様に、異種IRESは、いくつかのタンパク質産物への1つのmRNA翻訳のためにベクターにおいて組み合わせることができる。
【0050】
したがって、2つ以上のポリペプチド、例えば抗原およびサイトカインをコードするベクターにおいて、当該ポリペプチドをコードする核酸配列は、好ましくは2AエレメントまたはIRESによって分離される。本願発明における使用のためのとりわけ好ましい2Aエレメントは、配列番号:5および6により定義される。
【0051】
発現の効率は、適当な転写エンハンサーエレメントおよび転写ターミネーターの包含によって増強され得る。真核性発現において、元のクローン化セグメント内に含まれなかったとき、転写ユニットに適当なポリアデニル化部位(例えば、5’−AATAAA−3’)も組み込むことを一般的に望む。一般的に、ポリA付加部位は、転写終結の前の位置でタンパク質の終結部位の約30から2000ヌクレオチド「下流」に置かれる。
【0052】
プロドラッグ、例えばガンシクロビルの投与時にインビボでiDCの薬理学的除去を可能にするベクターにおいて自殺遺伝子、例えばHSV−TKの包含(Pincha Mら Lentiviral vectors for induction of self-differentiation and conditional ablation of dendritic cells. Gene Ther. 2011,Aug;18(8):750-764)、またはあるいは、小分子医薬を使用して条件付き二量化を可能にするヒトFK506結合タンパク質(FKBP)に融合される修飾されたヒトカスパーゼ9の使用(Strathoofら, An inducible caspase 9 safety switch for T-cell therapy, Blood. 2005 June 1; 105(11): 4247-4254)は、インビボで操作されたiDCの安全性を増加させるために使用することができる。したがって、好ましい態様において、ベクターは、さらに自殺遺伝子をコードする。当該遺伝子は、好ましくは、HSV−TKまたはヒトFK506結合タンパク質に融合される修飾されたヒトカスパーゼ9である。
【0053】
抗原
好ましくは、iDCによって発現される抗原は、異種反応性、同種反応性、新反応性または自己免疫からなる群から選択される細胞傷害性または体液性免疫応答を誘導することができる抗原である。
【0054】
「異種反応性」なる用語は、別の生物種、好ましくは病原体によって発現されるタンパク質に対する免疫応答の誘発を示す。
【0055】
「同種反応性」なる用語は、同じ種由来のドナーから移植された細胞または組織によって発現されるタンパク質に対する免疫応答の誘発を示す。
【0056】
「新反応性」なる用語は、iDCを受ける対象の変異タンパク質に対する免疫応答の誘発を示す。好ましくは、新反応性は癌抗原に向けられる。
【0057】
「自己免疫」なる用語は、免疫細胞介在免疫応答を生じる生物体において発現されるタンパク質に対する免疫応答の誘発を示す。一般的には、自己免疫は、免疫寛容のメカニズムの除外によって引き起こされる。好ましくは、自己免疫は、変異されることなく癌細胞によって異常に過剰発現されるタンパク質に向けられる。
【0058】
異種反応性を誘導するとりわけ好ましい抗原は、pp65(ヒトサイトメガロウイルスに由来する)、NS3(C型肝炎ウイルスに由来する)およびgagおよびenv(ヒト免疫不全ウイルスに由来する)からなる群から選択される。
【0059】
とりわけ好ましい癌抗原、すなわち新反応性または自己免疫を誘発する抗原は、TRP2、MART1、WT1およびチロシナーゼ(全て黒色腫に由来する)およびWT1、Her2/neuおよびBRCA1/2(全て乳癌に由来する)からなる群から選択される。
【0060】
配列番号:2によって示される核酸によってコードされるpp65の使用がとりわけ好ましい。異なるトリプレットが同じアミノをコードすることができるように遺伝子コードは縮重していることが理解されるべきである。したがって、本願発明はまた、配列番号:2と同じアミノ酸配列をコードする全ての核酸配列に関する。同じアミノ酸をコードする異なるトリプレットが異なる種において異なる効率で翻訳されるため、コドン最適化による核酸配列の最適化が本願によって考えられる。
【0061】
全長タンパク質または免疫原性ペプチド性エピトープとしてのOVAとしても知られている実験的抗原ニワトリ卵オボアルブミンの使用がとりわけ好ましい。
【0062】
さらに、ベクターによって含まれる核酸配列によってコードされる少なくとも1つの抗原は、免疫学的に同一である前記抗原の1つの変異体であり得る。
【0063】
抗原に対して「変異体」なる用語は、抗原から少なくとも1、2、3、4、5、8、10、15または20個のアミノ酸の欠失および/または置換によって得られるタンパク質を示す。好ましくは、変異体は、抗原と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%、99.8%または99.9%配列同一性を有する。少なくとも1、2、3、4、5、8、10、15または20個のアミノ酸のC−末端および/またはN−末端欠失によって得られる変異体がとりわけ好ましい。
【0064】
さらに、「変異体」なる用語は、完全長抗原の少なくとも5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80または90個のアミノ酸を保持する上記抗原のフラグメントを示す。
【0065】
抗原の全ての変異体またはフラグメントが抗原と免疫学的に同一であることが好ましい。2つ以上の抗原が同じ抗体、T細胞またはB細胞により認識されるとき、「免疫学的に同一」である。同じ抗体、T細胞またはB細胞による2つ以上の免疫原性ポリペプチドの認識は、当該抗体、T細胞またはB細胞の「交差反応性」としても知られている。好ましくは、同じ抗体、T細胞またはB細胞による2つ以上の免疫学的に同一のポリペプチドの認識は、全てのポリペプチドにおいて同一の、または類似のエピトープの存在による。。類似のエピトープは、同じ抗体またはB細胞受容体のFab領域によって、または同じT細胞受容体のV領域によって結合されるために十分な構造および/または電荷特性を共有する。抗体、T細胞受容体またはB細胞受容体の結合特性は、好ましくは、問題になっているエピトープへの受容体の結合親和性により定義される。2つの免疫原性ポリペプチドは、低いアフィニティー定数を有するポリペプチドのアフィニティー定数が、高いアフィニティー定数を有するポリペプチドのアフィニティー定数の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%であるとき、本願により理解されるとき「免疫学的に同一」である。受容体へのポリペプチドの結合親和性を決定するための方法、例えば、平衡透析または酵素免疫吸着法(ELISA)は当該分野でよく知られている。好ましくは、2つ以上の「免疫学的に同一の」ポリペプチドは、少なくとも1つの同一のエピトープを含む。
【0066】
サイトカイン
iDCによって発現されるサイトカインは、それ自体または1つ以上のさらなるサイトカインと組み合わせて、樹状細胞への前駆細胞の分化を誘導する、および/またはTまたはB細胞を刺激して、発達させる、生存能力を維持する、または適応免疫応答を備える(mount)ことができる任意のサイトカインである。さらに、少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原を発現するiDCは、本願においてさらに以下で示される方法および使用に対して適当であることが必要である。特に、DCは、幹細胞移植後に免疫不全宿主において機能的免疫系の再生を支持する全てのサイトカインを発現させなければなならい。
【0067】
好ましくは、iDCは、GM−CSF、IL−4、IFN−α、IL−15、TGF−B、TNF−α、FLT3L、IL−3およびCD40Lからなる群から選択される少なくとも1つのサイトカインを発現する。
【0068】
さらに好ましくは、iDCは、(i)FLT3LおよびIL−3;(ii)FLT3LおよびCD40L;(iii)FLT3LおよびIFNα;(iv)GM−CSFおよびIFN−αおよびIL−15;(v)GM−CSFおよびIFN−αおよびTNF−α;および(vi)GM−CSFおよびIFN−αおよびTGF−Bからなる組合せの群から選択されるサイトカインの組合せを発現する。
【0069】
より好ましくは、iDCは、(i)GM−CSFおよびIFN−α;(ii)GM−CSFおよびIL−4;および(iii)GM−CSFおよびIL−15からなる組合せの群から選択されるサイトカインの組合せを発現する。
【0070】
核酸配列GM−CSFは配列番号:3に挙げられ、IFNαをコードする核酸は配列番号:4に挙げられる。遺伝子コードは、異なるトリプレットが同じアミノをコードすることができるように縮重していることが理解されるべきである。したがって、本願発明はまた、配列番号:3および4によってコードされるアミノ酸配列と同じアミノ酸配列をコードする全ての核酸配列に関する。同じアミノ酸をコードする異なるトリプレットが異なる種において異なる効率で翻訳されるため、コドン最適化による核酸配列の最適化が本願により構想される。
【0071】
iDCの産生
さらに、本願発明は、以下の工程
a)適当なドナーに由来するサンプルから前駆細胞を単離すること;
b)ヒトDC前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原の発現をなし遂げるように、細胞を操作すること
を含む、iDCを産生するための方法に関する。
【0072】
好ましくは、上記方法は、以下の工程
a)適当なドナーに由来するサンプルから前駆細胞を単離すること;
b)遺伝子導入方法を増強する、および/または前駆細胞の樹状細胞への発達を刺激するサイトカインの存在下で適当な培地中で前駆細胞をインキュベートすること、
c)当該細胞を、ヒトDC前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの抗原の発現のために適当である少なくとも1つのベクターでトランスフェクトすること、または形質導入すること
を含む。
【0073】
上記全ての定義はまた、この態様に適用する。
【0074】
遺伝子導入方法を増強するサイトカインは、トランスフェクション前または中に増殖培地加えられると、外来核酸の摂取の効率を増加させるサイトカインである。この目的のために、GM−CSF、IL−4またはそれらの組合せが好ましい。
【0075】
この方法によって産生されるiDCは、適当な培地におけるさらなる使用までに培養され得る。しかしながら、当該iDCはまた、患者に投与されるまで、冷凍貯蔵され得る。生存細胞の冷凍保存のための方法は当業者に知られている。
【0076】
本願発明の好ましい態様において、前駆細胞はヒトドナーに由来するCD14を発現する末梢血単球であり、方法の工程a)における培地はGM−CSFおよびIL−4を、またはGM−CSFおよびIFNαを補われている。この態様は、好ましくは、前記サイトカインの発現のためのインテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクターの使用を含み、少なくとも1つの抗原は工程c)において使用される。好ましくは、抗原はpp65である。この態様は、実施例の部においてより詳細に記載されている。
【0077】
本願発明のiDCの治療的使用
さらに、本願発明は、医薬としての使用のための上記iDCに関する。
【0078】
さらに、本願発明は、造血幹細胞(HSC)の移植後の免疫不全対象の免疫系の再生における使用のための上記iDCに関する。
【0079】
好ましくは、対象は、霊長類、齧歯動物、ネコ、イヌ、ブタ、ウシおよびヒツジからなる群から選択される生物体である。霊長類は、好ましくは、ヒト、チンパンジーまたはマカクザル、より好ましくはヒトである。齧歯動物は、好ましくは、マウスまたはラット、より好ましくはマウスである。
【0080】
マウスは、好ましくは、NOD−Rag1
nullIL2Ry
null−NRG、NOD/LtSz−SCID/IL2Ry
null−NSGおよびNOD/SCID/IL2Ry
null−NOGからなる群から選択される血統に属する。Balb/c−Rag1
nullIL2Ry
nul;NOD−SCID、NOD−SCID β2m
nullのようなヒト化マウスの産生のために使用された高齢マウス血統がまた好ましい。加えて、マウスにおいてヒトMHCIまたはMHCIIまたはヒト細胞の発達に重要であるヒトサイトカイン(例えば、GM−CSF、IL−3、IL−7、IL−15)を発現する新しいトランスジェニックまたはノックインマウス血統もまた使用することができる。
【0081】
本願発明の1つのとりわけ好ましい態様において、マウスは、
(i)Prkdc遺伝子の両方の対立遺伝子における突然変異;
(ii)IL2−受容体ガンマ鎖をコードする遺伝子の両方の対立遺伝子における突然変異;および
(iii)KITt受容体をコードする遺伝子における突然変異
により特徴付けられる。
【0082】
突然変異(i)および(ii)は、好ましくは機能喪失の突然変異、すなわち遺伝子産物の生産を防止するか、または非機能性遺伝子産物の生産を引き起こす突然変異である。突然変異(iii)は、好ましくは、限定された機能のKIT−受容体をもたらすか、または定義された条件下で遺伝子産物の形成を阻害する条件付きnull−突然変異である。条件付きnull−突然変異の産生のための方法は当業者によく知られている。
【0083】
好ましくは、マウスはNODマウスである。さらに好ましくは、それはNOD Sirpa対立遺伝子を有する。
【0084】
このマウスは、NSGマウスとしても称され、DE 10 2012 207 453に記載されている。これは、当該マウスおよびその産生に関する限り、出典明示により包含させる。
【0085】
免疫不全
「免疫不全」なる用語は、年齢、性別および一般的な生活環境、例えば栄養状態に対して対象にマッチする同じ種の平均的個体と比較して、免疫応答障害により特徴付けられる対象の免疫系の任意の状態を示す。当該免疫不全は、好ましくは、細菌、ウイルス、真菌または他の単細胞の真核生物によって引き起こされる感染症に対する対象の感受性の増加、または悪性腫瘍に対する感受性の増加を引き起こす、以下に定義される免疫細胞の少なくとも1つのグループの数の減少または機能障害により引き起こされる。
【0086】
当該分野において、「免疫抑制」および「免疫不全」患者間で区別され、後者は前者よりも弱い免疫応答を示す。しかしながら、本願において使用されるとき「免疫不全」なる用語は、軽感染の頻度の増加から、例えばX−連鎖重症複合免疫不全において観察することができる免疫系の全部門のほとんど完全な欠失までの、免疫系のあらゆる種類の起こり得る障害を包含する。
【0087】
免疫系は、2つの主な部門、適応免疫系および先天性免疫系を含む。
【0088】
病原体に対する先天性免疫系の応答は、所定の病原体に特異的ではない。先天性免疫系は、むしろ、多くの病原体に共通の分子構造に特異的なパターン認識受容体に頼る。自然免疫応答を介在する細胞は、肥満細胞、食細胞(樹状細胞、マクロファージおよび好中球)およびナチュラルキラー細胞である。
【0089】
適応免疫系の応答は、所定の抗原に特異的であり、したがって、当該抗原に限定される。適応免疫系の細胞は、成熟中に乱雑にそれぞれの細胞において個々に形成される抗原受容体を有する。したがって、適応免疫系は、多数の異なる受容体を有する様々な細胞を含む。対象が病原体に遭遇すると、病原体の抗原に特異的な受容体を有する細胞の亜集団の増殖が誘導される。あとで、病原体が身体から除去されると、いくつかのこれらの細胞は記憶細胞の集団を形成し、当該病原体に再び遭遇するとき、免疫応答のより迅速な増加を可能にする。
【0090】
適応免疫応答はT−リンパ球およびB−リンパ球によって介在される。
【0091】
T−リンパ球には2つの主要なグループがある:(i)表面上のCD4−受容体の発現により特徴付けられるT−ヘルパー細胞は、受容体に適当な抗原が結合すると、種々のサイトカインを生産する。当該サイトカインは免疫系の他の細胞を活性化する。特に、マクロファージの殺菌機能およびB−リンパ球による抗体の分泌を刺激する。(ii)表面上のCD8−受容体の発現により特徴付けられる細胞傷害性T細胞(CTL)は、ウイルスまたは他の病原体によって感染されている細胞を認識して殺す、および腫瘍細胞を認識して殺す。主要組織適合遺伝子複合体I(MHCI)によって提示される抗原に対するCTL活性化は、Tヘルパー細胞によって促進される。
【0092】
B−リンパ球は、受容体により認識される抗原に特異的な抗体を分泌する。
【0093】
その原因に依存して、免疫不全は永続性または一過性であり得る。先天的な遺伝子異常による原発性免疫不全は一般的に永続性である。免疫不全が電離放射線または細胞毒性薬によって引き起こされるとき、その期間は医薬または放射線の量に依存する。当該量が対象における全ての造血幹細胞を殺すために十分に高いとき、免疫不全は永続性である。造血幹細胞の一部だけが殺されるとき、残りの造血幹細胞が異なる造血系に再び存在することができると、免疫不全は解決する。
【0094】
好ましくは、対象の免疫不全は、電離放射線によって引き起こされる免疫不全、少なくとも1つの細胞毒性薬の投与によって引き起こされる免疫不全、原発性免疫不全および病原体によって引き起こされる免疫不全からなる群から選択される免疫不全によって引き起こされる。2つ以上の前記免疫不全が対象に存在し得ることも予期される。
【0095】
電離放射線によって引き起こされる免疫不全は、当該放射線に対する予想外の、または意図的な暴露によって引き起こされ得る。一般的に、電離放射線に対する意図的な暴露は、癌の処置として行われる。電離放射線は、主に、迅速に分裂する細胞を殺す。したがって、癌細胞は、多くの場合、迅速な増殖により特徴付けられるため、種々の癌の治療に適している。しかしながら、造血幹細胞を含む免疫系の細胞もまた、電離放射線に対して高度に感受性である。したがって、当該細胞は癌の放射線治療の過程で損傷し得る。当該損傷は、固形癌の臓器または組織特異的照射の望ましくない副作用であり得る。しかしながら、とりわけ免疫系の幹細胞の変性から生じる白血病の場合、全ての造血幹細胞の完全な根絶が、しばしば最後の手段である。この場合、照射後の同種異系の造血幹細胞の移植は、患者の生存のために必要である。
【0096】
癌の放射線療法において使用される電離放射線の典型的なタイプは、X線、電子ビーム(エネルギー範囲4から20MeV)、粒子放射線(プロトン、ニュートロン、イオン原子核)およびコバルト−60、ラジウム−226、セシウム−137またはイリジウム−192のような供給源由来のガンマ放射線である。
【0097】
原発性免疫不全は、対象における少なくとも1つのタイプの免疫細胞の発達を損なうか、または完全に阻害する遺伝子異常によって引き起こされる。
【0098】
好ましくは、原発性免疫不全は、X−連鎖重症複合免疫不全(SCID)、アデノシンデアミナーゼ欠損症およびIL−7Rα−鎖欠損症からなる群から選択される。好ましくは、X−連鎖SCIDは、IL−2RGの突然変異によって引き起こされる。
【0099】
造血幹細胞の移植によって処置される免疫不全はまた、電離放射線および/または少なくとも1つの細胞毒性薬の投与によって悪化する原発性免疫不全であり得ることが理解されるべきである。
【0100】
少なくとも1つの細胞毒性薬の投与によって引き起こされる免疫不全はまた、癌治療の典型的な効果である。癌治療において使用される細胞毒性薬は、頻繁に、癌細胞に加えて免疫細胞(造血幹細胞を含む)を殺す。通常使用される細胞毒性薬の用量で、患者における全ての造血幹細胞が殺されるとは限らないため、当該免疫不全は一般的に一過性である。それにもかかわらず、造血幹細胞移植がこの状態のケアとして考えられるとき、本願発明の方法は有用である。
【0101】
他のタイプの処置にもはや応答しない特定の癌(例えばホジキンリンパ腫)の重症例では、「高用量化学療法」と呼ばれる化学療法の一種が使用される。他の化学療法レジメンにおける細胞毒性薬の用量は、結果として生じる免疫不全を最小限にするように選択されるが、対象の免疫系の完全な破壊は高用量化学療法の計画的な効果である。この理由のため、対象は、高用量化学療法の完了後に、自家または同種異系の造血幹細胞移植を受ける。
【0102】
典型的な細胞毒性薬は、トポイソメラーゼIまたはIIの任意の阻害剤、例えば、カンプトテシン(トポI)またはエトポシド(トポII);DNAをインターカレート(interchelate)任意の化合物、例えば、ドキソルビシンを含む。アルキル化物質、抗代謝産物、抗生物質、エポチロン、核受容体アゴニストおよびアンタゴニスト、白金化合物、インターフェロンおよび細胞周期依存性タンパク質キナーゼ(CDK)の阻害剤、シクロオキシゲナーゼおよび/またはリポキシゲナーゼの阻害剤、白金配位錯体、エチレンイミン、メチルメラミン(methylmelamine)、トラジン(trazine)、ビンカアルカロイド、ピリミジンアナログ、プリンアナログ、スルホン酸アルキル、葉酸アナログ、アントラセンジオン、置換ウレア、メチルヒドラジン誘導体、特にアセジアスルホン(acediasulfone)、アクラルビシン、アンバゾン、アミノグルテチミド、L−アスパラギナーゼ、アザチオプリン、ブレオマイシン、ブスルファン、ホリナートカルシウム、カルボプラチン、カペシタビン(carpecitabine)、カルムスチン、セレコキシブ、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダプソーン、ダウノルビシン、ジブロムプロパミジン、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エンジイン、エピルビシン、エポチロンB、エポチロンD、リン酸エストラムスチン、エトポシド、フラボピリドール、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、ホスフェストロール、フラゾリドン、ゲムシタビン、ヘキサメチルメラミン、ヒドロキシカルバミド、ヒドロキシメチルニトロフラントイン、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イドクスウリジン、イホスファミド、イリノテカン、リュープロリド、ロムスチン、ルルトテカン、マフェニドスルフェートオラミド(mafenide sulfate olamide)、メクロレタミン、メゲストロールアセテート(megastrolacetate)、メルファラン、メパクリン、メルカプトプリン、メトトレキサート、メトロニダゾール、マイトマイシンC、ミトポドジド、ミトタン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、ナリジクス酸、ニフラテル、ニフロキサジド、ニフララジン(nifuralazine)、ニフルチモックス、ニムスチン、ニモラゾール(ninorazole)、ニトロフラントイン、ナイトロジェンマスタード、オレオムシン(oleomucin)、オキソリン酸、ペンタミジン、ペントスタチン、フェナゾピリジン、フタリルスルファチアゾール、ピポブロマン、プレドニムスチン、プロイシン、プロカルバジン、ピリメタミン、ラルチトレキセド、ラパマイシン、ロフェコキシブ、ロシグリタゾン、サラゾスルファピリジン、スクリフラビニウムクロライド(scriflavinium chloride)、セムスチン、ストレプトゾシン、スルファカルバミド、スルファセタミド、スルファクロロピリダジン、スルファジアジン、スルファジクラミド(sulfadicramide)、スルファジメトキシン、スルファチアゾール(sulfaethidole)、スルファフラゾール、スルファグアニジン、スルファグアノール、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、コトリモキサゾール、スルファメトキシジアジン、スルファメトキシピリダジン、スルファモキソール、スルファニルアミド、スルファペリン、スルファフェナゾール、スルファチアゾール、スルフイソミジン、スタウロスポリン、タモキシフェン、タキソール、テニポシド、ターチポシド(tertiposide)、チオグアニン、チオテパ、チニダゾール、トポテカン、トリアジクオン、トレオスルファン、トリメトプリム、トロホスファミド、UCN−01、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、ビノレルビン、およびゾルビシン、またはそれらのそれぞれの誘導体またはそれらの類似体が特に好ましい。
【0103】
病原体によって引き起こされる免疫不全は、対象のウイルスまたは細菌での感染によって引き起こされる。当該病原体は、例えば宿主細胞としてそれらを使用することによって、免疫系の細胞と直接的に相互作用するとき、または間接的な手段によって、免疫不全を引き起こす。間接的な手段は、免疫細胞の活性または前駆細胞からの成熟免疫細胞の産生を調節する物質の分泌を含む。さらに、病原体は、宿主生物の細胞によるこのような化合物の分泌を誘導し得る。本願で言及されるとき、病原体によって引き起こされる免疫不全は、好ましくはヒト免疫不全ウイルス(HIV)での感染によって引き起こされる。
【0104】
免疫系の再生
「免疫不全対象の免疫系の再生」なる用語は、免疫不全対象の免疫系の全体的な機能の改良に関する。
【0105】
好ましくは、少なくとも1つのタイプの免疫細胞の数および/または活性が増加される。さらに好ましくは、適応または先天性免疫系の活性が増加される。また好ましくは、B−リンパ球またはT−リンパ球の活性および/または数が増加される。
【0106】
よりさらに好ましくは、免疫系の両方の部門における免疫細胞の数および/または免疫系の両方の部門の活性が増加される。
【0107】
より好ましくは、免疫系の再生の結果として、年齢、性別および栄養状態にマッチする健常個体および免疫系がHSCの移植および本願発明のiDCの投与によって再生されている対象の免疫系の機能間に有意な差異はない。したがって、より好ましくは、免疫系の再生は免疫不全を完全にケアする。
【0108】
しかしながら、移植されるHSCのレシピエントは、宿主の免疫系の残りによる移植されるHSCの拒絶反応を抑制するために、または移植片対宿主病に対抗するために、免疫抑制療法を必要とし得ると予期される。かかる免疫抑制療法の必要性は、本願において理解されるこの用語は、移植されるHSCから生じる免疫系の起こり得る機能を示すのみであるため、免疫系の再生をあまり完全に与えない。
【0109】
HSCの移植
「造血幹細胞の移植」なる用語は、ある対象(「ドナー」)からの造血幹細胞(HSC)を含む材料を得ること、およびHSCを含む調製物を同じか、または異なる対象(「レシピエント」)に投与することのプロセスを示す。
【0110】
最も簡単な場合には、ドナーから生産されるHSCを含む材料は、さらなる処置工程なしにレシピエントに投与される。末梢血、臍帯血および骨髄に由来するHSC調製物は、その中に含まれる細胞型の濃縮または枯渇なしに、直接的に対象に投与され得る。これらの場合、HSCを含む調製物は、ドナーから得られる材料と同一である。
【0111】
しかしながら、ドナーに由来する材料からのT−リンパ球を枯渇させることによってレシピエントに投与される調製物を生産することが好ましい。これは、ドナーから生産される材料からCD8−陽性および/またはCD3−陽性である細胞を取り出すことによりなし遂げることができる。CD34−陽性である細胞が対象に投与されるHSCの調製を強化する(enrich)ことも好ましい。HSCが末梢血に由来するとき、対象への投与の前に、CD34−陽性である細胞を強化することが好ましい。特定の表面抗原を有する細胞の枯渇または濃縮のための手段および方法は、当該分野で慣用であり、例えば実施例の部に記載されている。
【0112】
対象に移植されるHSCは、当該分野で知られているあらゆる方法により生産され得る。一般的には、ドナーの骨髄は移植のためのHSCの供給源である。この方法において、HSCはドナーの大骨から取り出される。
【0113】
しかしながら、アフェレーシスによる末梢血からの幹細胞の生産は、最も一般的な方法となっている。HSCが生産される前に、ドナーは顆粒球コロニー刺激因子を受け、末梢血におけるHSCの量を増加させる。アフェレーシスは、全血から白血球(HSCを含む)を分離するために使用される。白血球は移植における使用のために貯蔵されるが、血漿および赤血球はドナー循環に戻される。
【0114】
HSCのさらなる供給源は臍帯血である。臍帯血は胎盤および出生後の臍帯から生産される。臍帯血は、成体末梢血において通常見られるよりも高い濃度のHSCを有する。
【0115】
本願発明の文脈において、幹細胞は前記3つの供給源の1つに由来することが好ましい。
【0116】
HSCの移植は自家または同種異系である。
【0117】
自家幹細胞移植において、HSCのドナーおよびレシピエントは同一である、すなわち、対象に投与される調製物により含まれるHSCは、同じ対象に由来する。対象の免疫不全が高用量化学療法によって引き起こされるとき、HSCの自家移植が好ましい。この場合、HSCを含む材料は高用量化学療法の開始前に対象から生産することができ、HSCを含む調製物を高用量化学療法の完了後に対象に投与することができる。
【0118】
HSCの同種異系の移植は、1つ以上の対象からのHSC含む材料の生産および異なる対象への第1の対象のHSCを含む調製物の投与を含む。したがって、ドナーおよびレシピエントは同一ではない。HSCの同種異系の移植の特別な場合はHSCの異種の移植である。この場合、HSCのドナーおよびレシピエントは異なる種に属する。HSCの同種異系の移植は、例えば、ヒト化マウスにおいてヒト免疫系のモデルを作るために、実験的に行われる。
【0119】
HSCの異種移植は一般的に、対象が白血病、骨髄腫、重症複合免疫不全、再生不良性貧血または先天性好中球減少症に苦しむときに、行われる。これらの場合、ドナーは、できる限りレシピエントとの多数の免疫学的特性を共有するものから選択される。とりわけ重要なことは、HLA−A、HLA−B、HLA−C、HLA−DRおよびHLA−DQB1遺伝子で一致することである。したがって、本願発明の1つの好ましい態様において、HSCの移植は、ドナーおよびレシピエントがヒトである同種異系の移植である。
【0120】
造血幹細胞の移植と関連する1つの重大なリスクは移植片対宿主病(GVHD)である。当該状態は、レシピエントの組織に対する移植された免疫細胞の応答により特徴付けられる。GVHD、急性および慢性GVHDの2つのサブタイプが存在する。
【0121】
急性GVHDは移植後の最初の3月中に起こり、慢性GVHDはもっと後の発症を有する。両方の型は、関与する免疫細胞のタイプによって、およびサイトカインパターンによって異なる。一般的に、急性GVHDは、慢性GVDHよりもより重度である。急性GVHDは、免疫系を抑制する強力な薬物を必要とし得る。結果として、急性GVHDに罹患し、それに対して処置される多数の患者は、生命に関わる感染を患う。
【0122】
GVHDは、いくつかの組織および臓器:皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓および肺に影響を及ぼす。慢性GVHDはさらに、外分泌腺および結合組織に損傷を与え得る。GVHDは、臓器病変の数および程度に依存して、軽度(グレード1)、中程度(グレード2)または重度(グレード3および4)であり得る。グレード1のGVHDを有する患者は通常、処置を必要とせず、他のグレードは薬理学的免疫抑制を必要とする。
【0123】
GVHDのリスクは、ドナーおよびレシピエント間のヒト白血球抗原(HLA)のミスマッチの数で増加する。この理由のため、HSC移植のドナーおよびレシピエントのHLAタイプは、注意深くマッチさせるべきである。残念ながら、ヒトHLA分子の高い可変性および良いマッチのための必要性は、所定のレシピエントに対する適当なドナーのためのサーチをとても難しくさせる。いくつかの場合において、HSC移植によって処置される疾患が治療できることを超えて進行する前に、適当なドナーを見つけることができない。
【0124】
最も良いドナーは、レシピエントと同じヒト白血球抗原(HLA)−A、−B、−Cおよび−DRB1を有する個体である。しかしながら、前記遺伝子座の1つでのミスマッチは、とりわけ低リスクの疾患を有していない患者において、許容できる。低リスクの疾患は、好ましくは、第1の慢性期における慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群サブタイプ難治性貧血または第1寛解期における急性白血病である。さらなるHLA遺伝子座を分析したとき、HLA−DQ、−DP、−DRB3、−DRB4または−DRB5の単一のミスマッチは許容されるが、これらの第2次遺伝子座での複数のミスマッチは生存率を減少させる(Spellmanら, 2012, “A perspective on the selection of unrelated donors and cord blood units for transplantation”, Blood 120: 259-265)。
【0125】
驚くべきことに、本願発明の基本となる試験において使用されたマウスは、巨視的または臨床的観察(体重、活性、毛の質)による臨床兆候なく、組織学的実験時にGVHDの軽度(グレード1)の兆候のみを示した。これらの結果は、HSCの移植は異種であった、すなわちドナー(ヒト)およびレシピエント(マウス)間でHLA分子のミスマッチは膨大であったが(実施例4参照)、重度のGVHDは観察されなかったことを示した。明らかに、本願発明のiDCの存在は、レシピエントの組織に対する移植された免疫細胞の耐容性を増加させる。
【0126】
したがって、本願発明の別の好ましい態様において、ドナーおよびレシピエントがヒトであり、当該分野で知られているHSC移植の方法によって必要とされるものよりも低いHLAマッチを有する、HSCの移植は同種異系である。
【0127】
特に、HLA−A、HLA−B、HLA−CおよびHLA−DRB1からなる群から選択される遺伝子座の少なくとも2または3つのミスマッチは許容される。この群はまた、HLA遺伝子座の「第1次群」と称される。さらに好ましくは、前記群内の2または3つのミスマッチは許容される。より好ましくは、前記HLA遺伝子座の2つのミスマッチは許容される。
【0128】
HLA−DQ、HLA−DP、HLA−DRB3、HLA−DRB4およびHLA−DRB5からなる群に関して、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4または少なくとも4つのミスマッチが好ましくは許容される。当該群は、HLA遺伝子座の「第2次群」と称される。さらに好ましくは、2または3つのミスマッチは許容される。より好ましくは、2つのミスマッチは許容される。
【0129】
本願発明のとりわけ好ましい態様において、第1次群から選択される遺伝子座の少なくとも2つのミスマッチおよび第2次群から選択される遺伝子座の少なくとも2つのミスマッチは許容される。
【0130】
本願発明のさらに別のとりわけ好ましい態様において、第1次群から選択される遺伝子座の少なくとも2つのミスマッチおよび第2次群から選択される遺伝子座の少なくとも3つのミスマッチは許容される。
【0131】
本願発明のさらに別のとりわけ好ましい態様において、第1次群から選択される遺伝子座の少なくとも2つのミスマッチおよび第2次群から選択される遺伝子座の少なくとも4つのミスマッチは許容される。
【0132】
本願発明の別のとりわけ好ましい態様において、第1次群から選択される遺伝子座の少なくとも3つのミスマッチおよび第2次群から選択される遺伝子座の少なくとも2つのミスマッチは許容される。
【0133】
本願発明のさらに別のとりわけ好ましい態様において、第1次群から選択される遺伝子座の少なくとも3つのミスマッチおよび第2次群から選択される遺伝子座の少なくとも3つのミスマッチは許容される。
【0134】
本願発明のさらに別のとりわけ好ましい態様において、第1次群から選択される遺伝子座の少なくとも3つのミスマッチおよび第2次群から選択される遺伝子座の少なくとも4つのミスマッチは許容される。
【0135】
別の好ましい態様において、HSCの移植は、ドナーがヒトであり、レシピエントが齧歯動物、好ましくは原発性免疫不全、より好ましくは重症複合型免疫不全SCID、例えば、X−連鎖SCID(IL−2RGにおいて突然変異を有する)または組換え活性化遺伝子(RAG−1およびRAG−2)に由来する酵素における重症複合型免疫不全SCIDを有するマウスである異種である。
【0136】
異種のHSC移植の好ましい態様において、レシピエントは本願において上記されているNRGマウスであり、HSCのドナーは霊長類、さらに好ましくはヒトである。
【0137】
さらに、本願発明は、幹細胞移植後に制御性T細胞の内因性再生(Tregs)を可能にするための上記iDCに関する。サプレッサーT細胞として以前は知られていたTregsは、免疫系を調節し、自己抗原に対する耐容性を維持し、自己免疫疾患を破棄するT細胞の亜集団である。マウスモデルは、Tregsの調節が自己免疫疾患を処置し、臓器移植を容易にすることができることを示唆した。マウス試験は、実験的自己免疫の阻害において産生および操作された寛容原性DCのインビトロでの治療的ワクチン接種の効率を示した。ドナー由来CD4(+)CD25(+)FOXP3(+)制御性T細胞(Treg)の適合移植は、ミスマッチ骨髄移植モデルにおいてマウスを移植片対宿主病から保護した。同様の戦略を研究するヒトにおける第1の臨床試験からの結果は、いくつかの群によって実証されており、同種異系の幹細胞移植後の重度の合併症、例えば移植片対宿主病の防止のためのTregsの有効性を確認するように見える。ヒトにおいて、Tregsは、CD4
+/CD127
−CD25
hiまたはCD4
+/CD127
−CD25
hiFOXP3
+細胞として免疫表現型的に定義することができる。したがって、本願発明のiDCは、HSC移植のレシピエントが経験する移植片対宿主病を処置するために使用され得る。
【0138】
さらに、本願発明は、リンパ系に広がる癌またはリンパ向性病原体により引き起こされる疾患の処置のための医薬としての使用のための上記iDCに関する。
【0139】
本願発明のiDCは、リンパ管を通ってリンパ節に優先的に移動する。この理由のため、とりわけリンパ節に関与する疾患の処置のために適している。
【0140】
癌の1つの特徴は、転移形成を引き起こす身体中に全身的に広がる能力である。転移が存在するとき、原発性腫瘍の外科的切除または照射は、疾患をケアする十分ではない。転移が少ないとき、外科手術および/または放射線治療が当該転移を除去するために使用され得る。しかしながら、ほとんどの場合、転移の数は、あまりに播種性であり、前記手段による除去ができない。癌疾患の時点で、全身療法、例えば化学療法は、ケアの機会を維持する残された処置の唯一の手段である。しかしながら、多くの場合、化学療法は全ての癌細胞を殺すことができないか、または癌が薬物に対する耐性を獲得する。したがって、癌細胞の全身的拡がりを防止することが極めて重要である。
【0141】
2つの主な経路、すなわち循環系およびリンパ系が癌の全身性拡散のために存在する。後者の場合、腫瘍細胞はリンパ管排出(draining)領域に移動し、そこで腫瘍が発生する。次に、当該細胞は所属リンパ節へ移動する。これらのリンパ節は「センチネルリンパ節」としても知られている。リンパ節排出の特定の領域の分析は腫瘍の外科的切除の日常的な一環であり、センチネルリンパ節における癌細胞の存在または非存在は、疾患の病期および適当な処置の選択のための重要なパラメーターである。センチネルリンパ節における癌細胞の存在は予後不良と関連する。
【0142】
本願発明のiDCは、リンパ節に存在する癌細胞の死を介在する可能性を有し、したがって疾患のさらなるリンパ拡散をブロックする。当該iDCのこの使用のために、それらは問題になっている癌細胞によって提示される抗原を発現することが好ましい。
【0143】
本願発明によって処置される好ましい癌は、黒色腫および乳癌、血液学的悪性腫瘍(白血病、リンパ腫)、神経学的悪性腫瘍(神経膠腫、グリア芽腫)、前立腺癌、肺癌、大腸癌および肝臓癌からなる群から選択される。黒色腫および乳癌の処置がとりわけ好ましい。
【0144】
好ましくは、リンパ系に広がる癌の処置のためのiDCは、TRP2、MART1、WT1およびチロシナーゼ(全て黒色腫に由来する)およびWT1、Her2/neuおよびBRCA1/2(全て乳癌に由来する)からなる群から選択される少なくとも1つの抗原を発現する。
【0145】
リンパ系において主にまたは排他的に見られる病原体が存在する。かかる疾患の治療において使用するために、iDCは、好ましくは、それぞれの病原体によって発現もされる少なくとも1つの抗原を発現する。
【0146】
病原体は、好ましくは、ウイルス、細菌、真菌および単細胞の真核生物からなる群から選択される。さらに好ましくは、それはウイルス、より好ましくはHIVである。好ましくは、HIVの処置における使用のためのiDCは、抗原gagおよびenvを発現する。
【0147】
免疫系を再生するための方法
さらに、本願発明は、以下の工程
a)造血幹細胞を対象に移植すること;および
b)少なくとも1つの抗原およびヒトDC前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインを発現するように操作されたiDCを対象に投与すること
を含む、免疫不全対象における免疫系を再生するための方法に関する。
【0148】
iDCおよびその治療的使用のための上記全ての定義はまたこの態様に適用される。
【0149】
上記方法は、好ましくは、ヒト化免疫系を有するマウスを産生するために使用される。したがって、対象は、好ましくはマウスである。さらに好ましくは、当該マウスは、NOD−Rag1
nullIL2Ry
null−NRG、NOD/LtSz−SCID/IL2Ry
null−NSGおよびNOD/SCID/IL2Ry
null−NOGからなる群から選択される血統に属する。
【0150】
好ましくは、HSCはヒトに由来し、抗原はpp65である。さらに、iDCは抗原pp65およびサイトカイン(i)GM−CSFおよび(ii)インターフェロン−αまたはインターロイキン−4またはインターロイキン−15を発現することが好ましい。さらに好ましくは、この発現はベクターによって介在され、より好ましくは、インテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクターによって介在される。
【0151】
この態様によって産生されるマウスは、HSCの移植前または後に本願発明のiDCを受けなかったマウスと比較して改善された機能を有するヒト化免疫系を有する。
【0152】
このタイプの異種のHSC移植は、齧歯動物、好ましくはマウスにおいてヒト免疫系を創造する。かかるヒト免疫系を有する動物は、研究のための重要なツールであり、倫理的なまたはロジスティック(logistic)な理由のためにヒトにおいて行うことができない特定の実験のために使用され得る。残念ながら、この動物モデルはいくつかの欠乏症を有する。ヒトHSCの移植後に、リンパ組織はほんのわずかに発生する。驚くべきことに、ヒトHSCの移植後に本願発明のヒトiDCのマウスへの投与は、当該処置されたマウスにおいてヒトT細胞およびDCを含むリンパ節の改善された再構成をもたらし、したがって、これらのマウスはヒト免疫系のより良いモデルとなる。
【0153】
ヒト化免疫系(HIS)に基づく現在利用できるマウスモデルは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を介して抗原エピトープを提示する標的細胞を認識し、溶解することができる機能性T細胞、特に機能性細胞傷害性T細胞の乏しい発生を示す。これと対照的に、本願発明によって産生されるヒト免疫系を有するマウスは、発生頻度の増加および改善されたT−リンパ球活性を示す。加えて、本願発明によって産生されるヒト免疫系を有するマウスは、ヒト免疫グロブリン(例えばIgM、IgG)および抗原特異的ヒト抗体の生産と相関している成熟B細胞の発生頻度の増加を示した。加えて、本願発明によって産生されるヒト免疫系を有するマウスは、胸腺におけるヒトT細胞の増強された発生およびTregの通常発生を示した。
【0154】
したがって、本願発明の別の好ましい態様は、上記方法によって産生されるヒト化免疫系を有するマウス、およびヒト免疫系の試験のための、またはヒトにおけるその使用のための薬物、インプラントまたはデバイスの試験のための当該マウスの使用に関する。好ましい使用は、当該マウスモデルでのヒト適応免疫系の試験である。
【0155】
インプラントが人体において炎症を引き起こすことが望ましくないため、本願発明のヒト化マウスモデルにおけるインプラントの試験がとりわけ好ましい使用である。
【発明を実施するための形態】
【0185】
第1の局面において、本願発明は、医薬としての使用のための、
a)ヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原;
を発現するように操作された誘導された樹状細胞(iDC)に関する。
【0186】
第2の局面において、本願発明は、造血幹細胞(HSC)の移植後の免疫不全対象の免疫系の再生における使用のための、
a)ヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原;
を発現するように操作されたiDCに関する。
【0187】
第3の局面において、本願発明は、ベクターがレンチウイルスベクターである、局面2のiDCに関する。
【0188】
第4の局面において、本願発明は、レンチウイルスベクターがインテグラーゼ欠損型である、局面3のiDCに関する。
【0189】
第5の局面において、本願発明は、少なくとも1つの抗原を発現するiDCがヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインを発現する、局面2から4のいずれかのiDCに関する。
【0190】
第6の局面において、本願発明は、サイトカインがGM−CSF、IL−4、IFN−α、IL−15、TGF−B、TNF−α、FLT3L、IL−3およびCD40Lからなる群から選択される、局面5の方法に関する。
【0191】
第7の局面において、本願発明は、iDCが(i)FLT3LおよびIL−3;(ii)FLT3LおよびCD40L;(iii)FLT3LおよびIFNα;(iv)GM−CSFおよびIFN−αおよびIL−15;(v) GM−CSFおよびIFN−αおよびTNF−α;および、(vi)GM−CSFおよびIFN−αおよびTGF−Bからなる群から選択されるサイトカインの組合せを発現する、局面6のiDCに関する。
【0192】
第8の局面において、本願発明は、iDCによって発現される1つの抗原が、異種反応性、同種反応性、新反応性または自己免疫からなる群から選択される細胞傷害性または体液性免疫応答を誘導することができる抗原である、局面2から7のいずれかのiDCに関する。
【0193】
第9の局面において、本願発明は、対象の免疫不全が、電離放射線によって引き起こされる免疫不全、少なくとも1つの細胞毒性薬の投与によって引き起こされる免疫不全、原発性免疫不全および病原体によって引き起こされる免疫不全からなる群から選択される免疫不全である、局面2から8のいずれかのiDCに関する。
【0194】
第10の局面において、本願発明は、造血幹細胞移植が自家である、局面2から9のいずれかのiDCに関する。
【0195】
第11の局面において、本願発明は、幹細胞移植が異種である、局面2から9のいずれかのiDCに関する。
【0196】
第12の局面において、本願発明は、対象がヒトである、局面2から11のいずれかのiDCに関する。
【0197】
第13の局面において、本願発明は、リンパ系に広がる癌またはリンパ向性病原体により引き起こされる疾患の処置のための医薬としての使用のための、
a)ヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原
を発現するように操作されたiDCに関する。
【0198】
第14の局面において、本願発明は、少なくとも1つのインテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクターを含むiDCであって、当該ベクターが、
a)ヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカイン;および
b)少なくとも1つの抗原
の発現を介在するiDCに関する。
【0199】
第15の局面において、本願発明は、以下の工程
a)造血幹細胞を対象に移植すること;および
b)少なくとも1つの抗原およびヒト樹状細胞(DC)前駆細胞のDCへの自律分化を誘導する少なくとも1つのサイトカインを発現するように操作された誘導された樹状細胞(iDC)を対象に投与すること
を含む、免疫不全対象における免疫系を再生するための方法に関する。
【0200】
第16の局面において、本願発明は、対象がマウスであり、HSCがヒトに由来する、局面15の方法に関する。
【0201】
第17の局面において、本願発明は、マウスが樹状細胞の内在性T細胞および内在性前駆細胞の存在により特徴付けられる、局面16の方法に関する。
【0202】
第18の局面において、マウス血統が(TおよびB細胞を含む)適応免疫系の機能不全または欠損に至る原発性免疫不全を有する、局面16または17の方法。
【0203】
第19の局面において、本願発明は、マウスが、NOD−Rag1
nullIL2Ry
null−NRG、NOD/LtSz−SCID/IL2Ry
null−NSGおよびNOD/SCID/IL2Ry
null−NOGからなる血統の群から選択される、局面16から18のいずれかの方法に関する。
【0204】
第20の局面において、本願発明は、ベクターが抗原pp65およびサイトカイン(i)GM−CSFおよび(ii)インターフェロン−αおよび/またはインターロイキン−4の発現を介在する、局面15から19のいずれかの方法に関する。
【0205】
第21の局面において、本願発明は、局面16から20のいずれかの方法により生産される再生された免疫系を有するマウスに関する。
【0206】
第22の局面において、本願発明は、ヒト免疫系の試験のための、またはヒトにおける使用のための薬物、インプラントまたはデバイスの試験のための、局面21のマウスの使用に関する。
【0207】
以下の実施例は単に、本願発明を説明することを意図する。実施例は、決して特許請求の範囲を限定しない。
【実施例1】
【0208】
材料および方法
レンチウイルスベクターの構築およびインテグラーゼ欠損レンチウイルスの作製
自己不活性化(SIN)レンチウイルスバックボーンベクターおよびCMV−pp65とホタルルシフェラーゼLV−fLUCを発現する単シストロン性ベクターは以前に記載されている(Salguero, G. et al., 2011, "Preconditioning therapy with lentiviral vector-programmed dendritic cells accelerates the homeostatic expansion of antigen-reactive human T cells in NOD.Rag1-/-.IL-2rgammac-/- mice." Hum Gene Ther 22: 1209-1224)。ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を発現する二シストロン性レンチウイルスベクターおよびP2Aエレメントを間に入れたヒトインターフェロンアルファ(LV−G2α)(RRL−cPPT−CMV−hGMCSF−P2A−hIL4)の構築は、以前に記載されているように、構成され広範に特徴付けられている(Daenthanasanmak, A. et al., 2012, "Integrase-defective lentiviral vectors encoding cytokines induce differentiation of human dendritic cells and stimulate multivalent immune responses in vitro and in vivo." Vaccine 30: 5118-5131)。すべての構築物の構造的完全性は、制限消化およびプロモーターおよび導入遺伝子のシーケンシング分析によって再確認した。レンチウイルスの大規模作製は、以前に記載されているように、ヒト胚性腎臓293T細胞の一過性同時トランスフェクションによって行った(Stripecke, R., 2009, "Lentiviral vector-mediated genetic programming of mouse and human dendritic cells." Methods Mol Biol 506: 139-158.)。インテグラーゼ欠損レンチウイルスを生成するために、同時トランスフェクションにおいて4つのパッケージングプラスミド:サイトカインを発現するレンチウイルスベクターを含有するプラスミド、インテグラーゼ遺伝子にD64V点突然変異を含有するgag/POLを発現するプラスミド(pcDNA3g/pD64V.4xCTE)、revを発現するプラスミド(pRSV−REV)、およびVSV−Gエンベロープをコードするプラスミド(pMD.G)を使用した。ウイルス上清を回収し、超遠心分離によって濃縮し、力価を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)(Cell Biolabs,Inc. San Diego、USA)を使用してp24抗原濃度を見積もることによって評価した。P24相当物/mlの1μgは、約1×10
7の感染性ウイルス粒子/mlに相当する。
【0209】
ヒトCD34陽性末梢血の幹細胞の単離
G−CSF(Granocyte、Chugai Pharma)での造血幹細胞動員レジメンに付した造血成体幹細胞移植成体ドナーの白血球アフェレーシスから末梢血単核細胞(PBMC)を得た。全ての試験を、ハノーヴァー医科大学の倫理審査委員会によって承認されたプロトコールに従って行った。CD34磁気細胞単離キット(Miltenyi Biotech、Bergisch−Gladbach、Germany)を用いてMACSによってCD34+細胞を陽性選択した。2回の磁気での陽性選択の後にフローサイトメトリーによる評価で得られた細胞の純度は97%超であり、CD3+T細胞の混入は0.2%未満であった。
【0210】
従来のヒトIFNαおよびSmyleDCの生成
自家CD34陰性PBMC画分を使用して、CD14単離ビーズ(Miltenyi Biotech)を用いるCD14
+単球のさらなる陽性選択を行った。レンチウイルス遺伝子導入のために、単球を、形質導入前に8時間、組換えヒトGM−CSFおよびIL−4(それぞれ50ng/ml、Cellgenix、Freiburg、Germany)の存在下の無血清Cellgro培地での培養液中に維持した。SmyleDC/pp65の生成のために、5×10
6のCD14
+単球を、5μg/ml硫酸プロタミン(Valeant、Dusseldorf、Germany)の存在下、両方のID−LV−G2αの5(2.5μg/mL p24相当物に対応する)の感染多重度(M.O.I)で16時間形質導入した。形質導入後、Smyle/pp65 DCをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、さらに、無血清Cellgro培地での培養液中に維持した。従来のIFN−α−DCの産生のために、上記のように、単球をID−LV−pp65と共にインキュベートした。16時間の形質導入後、LVを除去し、細胞を、組換えヒトGM−CSF(50ng/ml)およびIFN−α(1,000U/ml、PBL InterferonSource、New Jersey、USA)の存在下で、培養液中に維持した。SmyleDCを培地中でサイトカインなしでインキュベートしながら、Con−IFN/pp65のためのサイトカインを3日毎に補充した。iDCを培養の7、14および21日後に採取した。マウスの免疫化のために、形質導入後、1日目にSmyle/pp65または7日目にCon−IFN/pp65 DCを、PBSに再懸濁し、皮下注射に使用した。生菌数の数は、トリパンブルー排除によって決定した。
【0211】
ヒトHSCのマウス移植
NOD.Cg−Rag1
tm1MomIl2rg
tmlWjl(NOD;Rag1
−/−;IL−2rγ
−/−、NRG)マウスを飼育し、IVCシステム(BioZone、United Kingdom)での病原体を含まない条件下で維持した。マウスが関与するすべての手順は、ニーダーザクセン州によって審査および承認され、ハノーヴァー医科大学の動物施設のガイドラインに従った。HSC移植については、4週齢のマウスを、
137Csカラム照射器(gammacell、会社、国)を使用して亜致死照射した(450cGy)。マウスレシピエントの尾静脈に5×10
5のヒトCD34+末梢血HSCを静脈内注射した。ヒト造血細胞の生着をモニタリングするために、マウスをヒトHSC移植後の異なる時点(6、10および13)で採血し、最終分析のために20週目で屠殺した。DC免疫化のために、Smyle/pp65またはCon−IFN/pp65 DCを培養プレートから収集し、PBSの100μL中に5×10
5細胞の濃度で再懸濁した。HSC再構成マウスに、27ゲージの針を使用して、マウスの右後肢に皮下注射することによりDC懸濁液を、HSC移植後10および11週目に注射した。
【0212】
フローサイトメトリー分析
ヒトHSC再構成マウスにおけるヒト造血細胞の生着を、以下のマウス抗ヒト抗体:PerCP抗CD45、Alexa700抗CD19、Pacific blue抗CD4、APC抗CD3、PE−Cy7抗CD8、FITC抗CD45RA、PE抗CD62L(Biolegend)、PE抗CD14、FITC抗Lineage陽性、APC抗CD11c、PE抗CD123(Becton Dickinson)を用いて末梢血および脾臓で評価した。末梢血分析のために、血液を室温で5分間、赤血球溶解バッファー(0.83%塩化アンモニウム/20mM Hepes、pH7.2)との2回のインキュベーションにより溶解し、続いて冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で安定化し、300gで5分間の遠心分離を行った。細胞を4℃で30分間抗体と共にインキュベートした。採取した脾臓細胞を、赤血球溶解バッファー(0.83%塩化アンモニウム/20mM Hepes、pH7.2)で5分間処理し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、氷上で30分間抗体と共にインキュベートした。洗浄工程後、細胞をPBSに再懸濁し、LSRフローサイトメーター(Becton Dickinson)で取得した。DC表現型の特徴付けのために、以下の抗ヒト抗体:PE抗CD80、PerCP抗HLA−DR、APC抗CD86、APC抗CD83(Becton Dickinson)を使用した。DC染色のために、細胞を収集し、PBSで1回洗浄し、氷上でマウスIgG(50μg/mL)と共に15分間インキュベートし、続いて抗体と共にインキュベートした。細胞を洗浄し、細胞固定液(Becton Dickinson)に再懸濁し、さらにFACSCaliburサイトメーターを用いて分析した。分析は、FlowJoソフトウェア(Tree Star,Inc.)を用いて行った。
【0213】
ヒトT細胞生着の組織学および免疫組織化学的分析
ヒトHSC再構成NRGまたはC57Bl6野生型マウスからのLNを採取し、凍結保存のための最適切削化合物(optimal cutting temperature compound)(O.C.T.Sakura Finetek、Torrance、CA、USA)に包埋した。凍結切片(5μm)をアセトンで固定し、モノクローナル抗マウスまたはヒトCD3(eBioscience、San Diego、CA、USA)、抗マウスまたはヒトCD11c(eBioscience)、抗マウスLYVE−1(Dako)、抗CD31マウス(BD Bioscience)で染色した。免疫蛍光分析をAXIOCAM蛍光顕微鏡(Zeiss)で行った。
【0214】
インビボ(in vivo)生物発光イメージング分析
マウスをケタミン(腹腔内に100mg/kg)およびキシラジン(腹腔内に10mg/kg)で麻酔し、d−ルシフェリンの水溶液(腹腔内に150mg/kg)をイメージングの5分前に注射した。マウスを電荷結合素子カメラ(IVIS 200、Xenogen、Cranbury、NJ、USA)の暗いチャンバーに入れ、弱い照明下でグレースケール体表面基準画像(デジタル写真)を撮影した。光源のスイッチを切った後、動物の体内のルシフェラーゼ発現細胞から放出され、組織を透過した光子を、Igor(Wavemetrics、Seattle、WA、USA)上のオーバーレイとしてソフトウェアプログラムLiving Image(Xenogen)を使用して、5分間までの規定時間にわたって定量した。解剖学的な局在化について、光強度(青、最小強度;赤、最大強度)を表す疑似カラーイメージをLiving Imageで生成し、グレースケール基準画像上に重ねた。定量した発光は、動物の表面上に平均化光子放射輝度で構成され、光子/sec/cm
2/sr(sr=ステラジアン)として表わされる。
【0215】
マウスLNおよび脾臓から回収されたpp65−CTLの機能分析
CMV−pp65に対する免疫応答を評価するために、各群からの脾細胞を採取しプールし、APCコンジュゲート抗ヒトCD3で染色し、XDPセルソーター(Beckman Coulter)を用いて選別した。ヒトCD3
+細胞を、抗ヒトIFN−γでコーティングした96ウェルELISPOTプレートにウェル当たり10.000細胞の密度で播種し、pp65重複ペプチドプール(Miltenyi)の10μg/mLの存在下で一晩インキュベートした。CMV、エプスタイン−バールウイルスおよびインフルエンザウイルスエピトープ(PANA Tecs GmbH、Tuebingen、ドイツ)の混合物に対応するCEFリコールペプチドプールをポジティブコントロールとして使用した。翌日、細胞を洗浄し、プレートをさらに、ビオチンコンジュゲート抗ヒトIFN−γ抗体、続いてアルカリホスファターゼコンジュゲートストレプトアビジンと共にインキュベートした。プレートをNBT/BCIP液体基質を使用して発色させ、AELVIS ELISPOTリーダー(AELVIS GmbH、ハノーヴァー、ドイツ)で分析した。LNから得られたリンパ球の分析のために、細胞をSmyleDCまたはSmyleDC/pp65の存在下で7日間エキソビボで増殖させ、ELISPTプレート上のpp65重複ペプチドプールに曝露し、IFN−γスポットをカウントした。
【0216】
HSC−NRGマウスでの免疫グロブリン産生
再構成20週間後(第2のSmyleまたはIFN−conDCの8週間後)にHSC−NRGマウスから血漿を採取し、別のところで記載したように(Becker, P. D. et al., 2010, "Generation of human antigen-specific monoclonal IgM antibodies using vaccinated "human immune system" mice" PLoS One 5)、全ヒトIgMおよび全ヒトIgGの存在についてELISAによりスクリーニングした。全IgMおよびIgGの決定を、96ウェルプレートをAffiniPure F(ab’)
2フラグメントヤギ抗ヒトIgM(Fc5μ特異的、Jackson ImmunoResearch)またはAffiniPureヤギ抗ヒトIgG(Fcγフラグメント特異的、Jackson ImmunoResearch)のいずれかでコーティングすることによって行った。既知のIgM(0.8mg/ml)およびIgG(10.4mg/ml)濃度を有する対照ヒト血清タンパク質キャリブレータ(Dako)を、試料と比較する標準として使用した。コーティング後、プレートをELISA洗浄バッファー(PBS、0.5%Tween−20)中で洗浄し、4%ミルクでブロックし、さらにマウス血漿の連続希釈物(1:5の希釈で開始)と共にインキュベートした。酵素コンジュゲート検出抗体を、HRPコンジュゲート抗IgGについては1:2500の希釈で添加し、HRPコンジュゲート抗IgMについては1:5000の希釈で添加した(両方ともJackson ImmunoResearchから)。TMB基質/停止溶液(Biosource)を、ELISAアッセイの発色のために使用した。
【0217】
統計分析
パラメトリック(t検定)とノンパラメトリック(Kruskall−Wallis)統計分析を行って、HIS−NRGマウスにおける造血系統の生着についての群間の差を比較した。Graph prismバージョン5ソフトウェアで分析を行った。すべての検定は両側であり、P<0.05を有意とみなした。
【0218】
結果
LV−誘導Smyle/pp65生成および特徴付け
本発明者らは最近、ヒト単球におけるヒトGM−CSFとIFNαの構成的発現を促進するために使用されるインテグラーゼ欠損(ID)−LVが、インビボで高活性の状態、高い生存力および生着特性を持つ非常に成長したIFNα−DCを誘導したことを示した(Daenthanasanmak, A. et al., 2012, "Integrase-defective lentiviral vectors encoding cytokines induce differentiation of human dendritic cells and stimulate multivalent immune responses in vitro and in vivo" Vaccine 30: 5118-5131)。「Smyle」(自己分化した、骨髄由来の、レンチウイルスによって誘発される)DCと名付けられたこれらのLV誘導DCは、CMV外皮ウイルスタンパク質pp65の発現のためにID−LVと共に追加的に同時形質導入することができる。Smyle/pp65はインビトロおよびインビボで抗CMV特異的CTL応答を強力に促進した。ここでは本発明者らは、GCSF動員造血幹細胞ドナーから得られた白血球アフェレーシスを用いて、Smyle/pp65 DC生成の実現可能性をテストすることを目的とした(
図1A)。簡単に言えば、Smyle/pp65生成のために、GCSF動員HSCTのドナーの白血球アフェレーシスから得たPBMCの磁気選択によりCD14
+細胞を単離し、GM−CSFおよびIL−4で前処理し、続いて、GM−CSFおよびIFN−αを発現する二シストロン性LVと、CMV−pp65を発現するLVと共に一晩LV同時形質導入した。LVを除去した後、Smyle/pp65は、サイトカインの補充なしに培養液中に維持した。pp65を発現する従来のIFNα_DC(Con−IFN/pp65)は、同様にLV−pp65で形質導入し、組換えヒトGM−CSFとIFNαで三日おきに補充される培養液中で維持された単球細胞で生産された。細胞は、それらの分化状態、生存力および表現型の安定性を決定するために、3週間まで細胞を培養した。本発明者らは、培養7日目でCon−IFN/pp65とSmyle/pp65 DCの同等のレベル(45%対35.6%、P>0.05)を回収することができた(
図1B)。重要なことは、培養14日目ですでにCon−IFNよりも3倍高い回収レベル(35.4%対14.2%、P=0.021)をSmyle/pp65が示した。DC培養3週間後に、Smyle/pp65とCon−IFN/pp65の両方が有意に生存能力を失ったが、まだSmyle/pp65は、Con−IFN/pp65と比較してより高いレベルを示した(17%対5%、P<0.05)。本発明者らはまた、培養期間を通じてSmyle/pp65とCon−IFN/5pp65の分化状態を評価した。pp65の同時発現を細胞内染色およびフローサイトメトリー分析によって確認した。CMV−pp65の発現レベルは、Con−IFN/pp65 DCにおけるよりもSmyle/pp65においてより高く維持された(55%対21.2%、P=0.014)(
図1C)。培養7日目には、Smyle/pp65とCon−IFN/pp65の両方が、CD11c、CD86およびMHC−II(HLA−DR)の高発現レベルによって特徴付けられる典型的なDC分化表現型を表示した(
図1D)。CD80およびCD83の発現によって示されるように、両方のタイプの細胞は、同等の成熟状態を示した。Smyle/pp65は、14日および21日のより長い培養期間で免疫表現マーカーの安定的な発現を維持した。組換えサイトカインの存在下での培養にもかかわらず、Con−IFN/pp65 DCは脱分化し、分化および成熟マーカーの発現を失った。
【0219】
培養液中に維持されたSmyle/pp65およびCon−IFN/pp65の両方は、いくつかの内因性の上方制御されたサイトカインを分泌した。これらのサイトカインは培養上清中に蓄積し、サイトカインアレイ分析によって検出できた。即ち、IFN−g、IL−10、IL−12、IL−13、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、MCP−1およびTNF−αが、Con−IFN/pp65の全体の増強した活性化を示した(
図2)。IL−1β、4、6、8、12の蓄積レベルは、Con−IFN/pp65培養物についてより高く、このことは、これらの細胞は継続的にいくつかのサイトカインの高レベルに曝露されてはいるものの、関連免疫表現マーカーの発現を維持することに関してそれらの機能は減少したことを意味している。
【0220】
Smyle/pp65はヒトHSC移植後のリンパ球コンパートメントの回復をサポートする。
HSC移植設定で免疫再構成を誘導するSmyle/pp65の可能性を評価するために、本発明者らは最初に4週齢の亜致死的放射線照射NOD.Ragl
−/−.IL2rγ
−/−(NGR)マウスにヒトCD34
+細胞を導入することによって(HIS)のヒト化免疫系モデルを樹立した。HSCT後6週目ですでに末梢血中のCD3
+ヒトT細胞を検出し(0.35%)、それはCD34
+HSC導入後20週間で8.6%の平均頻度に到達した(データは示さず)。ヒトCD19
+B細胞が、84%(6週目)から77%(20週目)までのレベルで、検出可能なヒトCD45
+細胞内で優勢であった(データは示さず)。HIS−NRGのHSC再構成の20週間後に、ヒトCD45
+細胞は全脾臓細胞の3.9%に対応し、CD19
+B細胞がヒト細胞含量の過半数(84%)に相当した。ヒトCD3
+Tリンパ球はヒトCD45発現細胞の7.8%に対応し、CD4
+およびCD8
+を1:1の比で含有していた(データは示さず)。
【0221】
次に本発明者らは、Smyle/pp65での免疫がHIS−NRGマウスにおける免疫再構成を改善するかどうかを評価した。本発明者らは、HSCT後10週後のDCの1回の注射、続いて1週間後のブースト注射で構成されるプライム/ブースト免疫スキームに従った。LV形質導入直後に採取したSmyle/pp65または7日間培養したCon−IFN/pp65の皮下注射によって免疫化を行った。以前に記載されているように(Salguero, G. et al., 2011, "Preconditioning therapy with lentiviral vector-programmed dendritic cells accelerates the homeostatic expansion of antigen-reactive human T cells in NOD.Rag1-/-.IL-2rgammac-/- mice" Hum Gene Ther 22: 1209-1224)、DC細胞懸濁液(5×10
5)を右側腹部に注射した。非免疫化マウスを対照に供した(
図3A)。まず、本発明者らは末梢血中のヒトCD45
+細胞の再構成に対するDC注射の効果を評価した。10週目の免疫前ではヒトCD45
+の頻度はすべての群で同等であった。プライム/ブースト免疫1週間後、Smyle/pp65で免疫したマウスは、非免疫対照と比較して、ヒトCD45
+細胞の有意に上昇したレベルを示した(1.7%対0.64%、p=0.01)。CD45
+細胞の頻度はCon−IFN/pp65免疫マウスでは有意により高くはなかった(対照と比較して1.6%、P=0.09)。重要なことには、CD45
+の有意に上昇したレベルは、対照マウスと比較してSmyle/pp65免疫後8週間維持された(1.9%対0.2%、P=0.03)。Con−IFN/pp65でワクチン接種したマウスもまた、血中CD45
+細胞のより高いが有意ではないレベルを示した(1.3%対0.2%、P=0.08)。次に本発明者らは、DC免疫後のT細胞コンパートメントを分析した。Smyle/pp65免疫は、対照マウスと比較して末梢血中のCD3
+頻度の初期の有意な増加につながり(0.16%対0.03%、P<0.04)、HSCT後20週目で対照と比較してヒトT細胞の長期生着をサポートした(1.8%対0.03%、P=0.04)(
図3B)。顕著なことには、Con−IFN/pp65免疫はHIS−NRGマウスにおけるヒトCD3
+T細胞のレベルの初期の増加も長期的な増加も誘導しなかった(対照と比較して、0.15%、P=0.26 DC注射後+1週;0.37%、P=0.31 DC注射後+8週)。DC免疫後8週目でのCD45
+細胞のうちのヒトTリンパ球の相対頻度の分析により、Smyle/pp65免疫化マウスでのCD3
+コンパートメントの有意な上昇頻度が、対照と比較して(59.7%対8.6%、P=0.0001)およびCon−IFN/pp65と比較して(59.7%対21.7%、P=0.001)、示され、そして、ヒトCD45
+細胞の長期の生着がこれらのマウスにおけるヒトT細胞コンパートメントの拡大により決定されることが確認された。
【0222】
本発明者らはさらに、HSC再構成20週間後のワクチン接種および対照マウスからの脾臓の細胞含量を分析した(
図4)。Smyle/pp65で免疫したマウスは、ヒトCD45
+の有意により高い生着レベルを、非免疫化マウスに比較して(19.1%対3.1%、P=0.007)およびCon−IFN/pp65免疫化マウスに比較して(19.1%対5.9%、P=0.01)、示した。したがって、対照マウスと比較して、Smyle/pp65免疫化マウスでヒトCD3
+細胞のより高い頻度が観察され(10.1%対0.31%、p=0.007)、全ヒトCD45
+細胞の40.8%に相当した(
図4A)。Con−IFN/pp65免疫はCD3
+細胞の頻度を上昇させず(対照に対して0.17%、P=0.5)、脾臓におけるCD45
+細胞の僅か3.9%に相当した。CD3
+T細胞中のリンパ球サブセットの分布をさらに再構成NRGマウスの脾臓で分析した(
図4B)。本発明者らは三つの群CD3
+/CD8
+細胞間に有意差を観察しなかったが(対照、51%;Con−IFN/pp65 40.9%;Smyle/pp65 44.2%、P>0.05)、非免疫化コントロールと比較して、Smyle/pp65免疫化脾臓細胞におけるCD8
+/CD45RA
+/CD62L
+ナイーブ細胞の有意に減小したレベルを観察した(12.3%対37.49%、P=0.03)。これに反して、Smyle/pp65におけるCD8
+/CD45RA
−CD62L
−エフェクターメモリーT細胞の頻度は、対照NRGマウスよりも有意に高かった(38.5%対19.5%、p=0.04)。CD8
+T細胞サブセットの同様ではあるが有意ではない分布が、ナイーブ集団(14.5%)とエフェクターメモリー(24.7%)集団についてCon−IFN/pp65 DCで注射したマウスで見出された。CD3
+/CD4
+頻度の分析では、全CD4
+T細胞についてマウス群の間で統計学的な差は認められなかった(対照、44.7%;Con−IFN/pp65 34.7%;Smyle/pp65 50%、P>0.05)。それにもかかわらず、Con−IFN/pp65とSmyle/pp65の免疫による、対照と比較したナイーブ細胞の減少とエフェクターメモリーT細胞の増加がまた見られたが有意ではなかった。これらのデータを一緒に考慮すると、HSCT後のヒトSmyle/pp65免疫が、T細胞コンパートメントの迅速かつ持続的な再構成を推進し、主にエフェクターメモリー表現型でより少ない程度のCD4
+で、CD8
+T−の増殖を著しくサポートした。
【0223】
Smyle/pp65免疫は末梢リンパ節の再構成を誘導する。
次に本発明者らは、HSC再構成20週間後のリンパ節(LN)の存在について、Smyle/pp65またはCon−IFN/pp65 DCで注射したマウスを分析した。本発明者らは、Smyle/pp65で注射したマウスで高い頻度のLN形成を検出したが(65%)、他方、対照マウスまたはCon−IFN/pp65で注射したマウスはLN構造の低い発生を示した(それぞれ11%および28%)(
図5A)。動物体の異なる領域におけるLNの頻度の定量により、DCの注射部位と対応する流入領域におけるLNの形成との間の強い相関関係が明らかになった(
図5B)。鼠径(57%)、腸骨(35%)および腋窩(56%)のLNが、同じサイドでの対照マウスにおけるLNの完全な不存在に比較して、Smyle/pp65で免疫化したマウスで観察された。重要なことには、Con−IFN/pp65注射によっては、腸骨LNの形成は誘導されず、マウスにおいて鼠径および腋窩LNの形成のみをそれぞれ14%および28%で誘導した。
【0224】
次いで本発明者らは、Smyle/pp65で免疫化したNRGのマウスから得られたLNの免疫組織学的分析を行った。再構成されたNRGからのLNにおけるLN構造は、野生型C57BL/6から得られた正常な野生型LNに比べて、B細胞濾胞性の欠如を示した(
図6)。ヒト化LNは、主にヒトCD3
+T細胞によって満たされ、本発明者らはまたヒトDC(CD11c+)の存在を観察した。LNは、マウスリンパ血管細胞(LYVE−1)およびマウス内皮血管CD31マーカーに陽性の細胞の層によってカプセル化された。重要なことには、本発明者らはまた、形成LN内の基本的な血管組織のプロセスを示唆する、マウスCD31に陽性の高内皮細静脈(HEV)に似た構造の存在を観察した。
【0225】
次いで本発明者らは、注射されたSmyle/pp65 DCがHIS−NRGマウスで形成された再構成LNに移行することができるかどうかを評価した。Smyle/pp65を、ホタルルシフェラーゼ(LV−fLUC)を発現するLVと共に、それらがルシフェリンへの曝露の際に生物発光を作り出すことができるように、同時形質導入した。免疫6週間後にHSC−NRGマウスの後肢の、LNがより頻繁に見出される右側(
図7)に、Smyle/pp65−fLUCを注射した。DC移行のための対照として、本発明者らは反対側の脇腹にfLUC−Smyle/pp65を注射した。fLUC−Smyle/pp65の生着および移行を、インビボ生物発光イメージングによって毎週追跡した。本発明者らは、反対側の脇腹の同じ場所に比べて、DC注射後21日目の注射側のLN位置に生物発光シグナルの蓄積を見出した。さらに、マウスを安楽死させ、LNが露出したところ、Smyle/pp65の発光は、形成された鼠径LNに位置しており、同側腋窩LNだが、腸間膜などの腹腔内LNではなかった(
図7)。このデータは、Smyle/pp65 DCは、特定領域排出LN原基が位置する部位に移行することができ、LN形成をトリガーできることを示している。
【0226】
Smyle/pp65はHIS−NRGマウスにおける特異的免疫応答を誘導する。
Smyle/pp65が末梢血リンパ球(PBL)マウスモデルで抗pp56特異的応答を促進することを本発明者は以前に証明している(Daenthanasanmak, A. et al., 2012, "Integrase-defective lentiviral vectors encoding cytokines induce differentiation of human dendritic cells and stimulate multivalent immune responses in vitro and in vivo." Vaccine 30: 5118-5131)。ここでは本発明者らは、Smyle/pp65免疫再構成NRGマウスがCMV−pp65に対する特異的T細胞応答を促進できるかどうかを評価した。本発明者らは、LN形成におけるSmyle/pp65の有意な効果を観察しているので、まずこれらの知見は、局所的LNでのCMV−pp65に対する増強した抗原特異的反応性と相関するかどうかをテストすることを望んだ。本発明者らは最初に、Smyle/pp65免疫後に再構成されたLNの細胞含量をフローサイトメトリーにより評価した。LN細胞の大部分はヒトCD45
+(77%)で、その73%がCD3
+Tリンパ球に対応し、3.8%がCD19
+B細胞に対応していた(
図8A)。ヒトCD3
+細胞の中で、42%がCD4
+で56%がCD8
+で、両方のT細胞サブセットについてエフェクターメモリー表現型の優位性を有している(それぞれ80%および76%)(
図8B)ことが見出された。CMV−pp65特異的応答を測定するために、LN細胞を、免疫後8週目で単離し、Smyle/pp65 DCの存在下でエキソビボで7日間拡大させた。CMV−pp65抗原を発現しないSmyleDCを対照として供した(
図8C)。DC同時培養後、細胞を回収し、IFN−γでコーティングしたプレートに播種し、CMV−pp65重複プールペプチドで再刺激し、IFN−γ産生についてELISPOTにより分析した。CMV反応性の健康なドナーからのPBMNCをIFN−γ産生のためのポジティブコントロールとして使用した。顕著なことには、抗原なしのSmyleDCの存在下のLN細胞と比較して、LN細胞はエキソビボ拡大後にCMV−pp65に対して有意な反応性を示した(53対18.7スポット、P<0.021、n=5マウスドナー)(
図8C)。さらに本発明者らは、対照、Smyle/pp65およびCon−IFN/pp65免疫化NRGマウスの脾臓からヒトCD3
+T細胞を回収することにより、CMVに対する全身特異的免疫応答を評価した(
図8D)。ヒト組換えIL−7およびIL−15の存在下でのヒト抗CD2、抗CD3および抗CD28ビーズとの48時間インキュベート、続いてIL7/IL15の存在下での追加的7日間のSmyle/pp65 DCとの同時培養により、本発明者らは最初にT細胞の増殖を促進した。CMV−pp65の発現を欠くSmyleDCと同時培養した細胞を対照に供した。Smyle/pp65で免疫しさらにSmyle/pp65で拡大したHSC−NRGマウスの脾臓から回収したT細胞は、対照と比較して、平均化した陽性スポットの有意な増加を示した(33.6スポット対0.5スポット、P<0.05)(
図8D)。それとは反対に、Con−IFN/pp65で注射したマウスの脾臓から回収したT細胞は減少したCMV−pp65を有していた(15.5平均スポット、p>0.05対Smyle/pp65)。
【0227】
HSC−NGRマウスにおける免疫グロブリンの産生
本発明者らは、免疫後に再構成されたNRGマウスDCにおけるBリンパ球コンパートメントを特徴付けした。CD19
+Bリンパ球(これは比較的初期のB細胞集団である)の頻度は、すべての事前免疫群間で有意差はなかった(対照、Con−IFN/pp65およびSmyle/pp65について、それぞれ1.6%、4.5%および2%)(
図9A)。第2のDC免疫後1週目のCD19
+B細胞の全体的レベルは減少したが、Smyle/pp65で注射したNRGマウスは、対照およびCon−IFN/pp65注射マウスに比較して、B細胞のより高い頻度を示した(1.1%対それぞれ0.4%および0.9%、p=0.02)。免疫後8週間によって、B細胞の全体的頻度はすべての群で1未満であった(対照0.18%;Con−IFN/pp65 0.1%;Smyle/pp65 0.37%)。本発明者らはまた、免疫後8週目の脾臓でB細胞を回収することができ、対照マウス(2.5%)、Con−IFN/pp65免疫NRGマウス(5.1%)およびSmyle/pp65免疫NRGマウス(7.8%)で、ヒトCD19
+細胞の有意差は観察できなかった。再構成マウスにおけるヒトB細胞の機能性を評価するために、本発明者らはさらに、DC免疫8週間後のNRGマウスからの血漿中の免疫グロブリン(Ig)G濃度およびM濃度を測定した。顕著なことには、対照マウス(0.78μg/mL)およびCon−IFN/pp65免疫マウス(0.047μg/mL)でのほとんど検出不可能なレベルに比較して、Smyle/pp65注射マウスでの有意なより高いIgGレベル(59.6μg/mL)を見出した。同様に、IgM濃度は、対照マウスおよびCon−IFN/pp65マウス(それぞれ0.15μg/mLおよび0.01μg/mL)に比較して、Smyle/pp65注射マウスからの血漿ではより高かった(26.6%)。
【0228】
考察
DCは、適応TおよびB細胞免疫応答を刺激するための最も効果的な部位であるLNの展開を組織化するための中枢である。上記したiDC(IDLV−SmyleDC/pp65)の様相を用いて、本発明者らはヒトHSCを移植した免疫不全マウス系統におけるDCワクチン接種の効果を評価した。移植されたヒト造血幹細胞前駆体/幹細胞(例えば、CD34
+細胞など)を用いたリンパ球減少性マウスモデルが、マウスでのヒト免疫システムを再構成するために世界中で開発されている(Lepus CM et al. "Comparison of Human Fetal Liver, Umbilical Cord Blood, and Adult Blood Hematopoietic Stem Cell Engraftment in NOD-scid/γc-/-, Balb/c-Rag1
-/-γc
-/-, and C.B-17-scid/bg Immunodeficient Mice". Human immunology. Oct 2009;70(10):790-802)。これらのモデルは、探求されてきており、いくつかの系統での骨髄ニッチでのHSC生着、動員、自己再生、分化などの血液学的再構成のいくつかのステップに従っている。HSCT後のこれらのマウスの長期間(16〜20週間)のフォローアップにより、一般的にCD8
+T細胞の維持が損なわれることが示されている(Andre MC et al. "Long-term human CD34+ stem cell-engrafted nonobese diabetic/SCID/IL-2R gamma(null) mice show impaired CD8+ T cell maintenance and a functional arrest of immature NK cells". J Immunol. Sep 1 2010;185(5):2710-2720.)。ヒトHSC移植マウスは、生存性で機能的なT細胞を含む再生されたLNを展開しなかった。リンパ節は特殊化した組織であり、そこでは排出されたリンパが病原条件(感染症、がんなど)の免疫モニタリングのために濾過される。その特殊化した構造により、リンパ節は、適応免疫応答のプライミングおよび増幅のためにT細胞への抗原提示の最適化を可能にする。ヒト化マウスでLNから生成された抗原特異的CTL応答の証明は、適応免疫応答に重要なヒトサイトカイン(例えば、IL−7、IL−15、GMCSF)のトランスジェニック発現の探索などのすでに利用可能なアプローチを使用して、あるいは単一のヒトMHCクラスIまたはII分子のトランスジェニックアプローチによっては、これまで記載されていない。一方、ここで記載したiDCの免疫アプローチは、免疫欠損宿主に一緒に、いくつかのヒトサイトカインと高度に免疫原性の抗原(いくつかの異なるMHC拘束免疫応答を刺激することが知られている)との組合せを発現するヒト幹細胞移植によって、発現されるすべてのMHC分子に完全にマッチした高度に生存性のヒトプロフェッショナル抗原提示細胞をもたらす。かくして、これらの特性に基づいて、SmyleDC/pp65免疫は、末梢血中を循環するヒトT細胞の絶対的頻度の劇的な増加、pp65CMVウイルス抗原に対するCTL応答、およびマウスにおける適応性ヒト免疫応答が再生されていたことを証明する血漿中のヒトIgGの高レベルをもたらす。
【0229】
さらに、ヒトHSCで再構成された免疫不全マウスにおける適応性TおよびB細胞免疫応答の刺激と同時にリンパ節の再生を促進するiDCの能力は、移植されたヒトHSCからの機能的免疫系の一般的な再生をサポートする特性をiDCが有していることを示す。このように、iDCは、完全に機能的な免疫系の展開を促進し、したがって感染症またはHSC移植後の悪性疾患の再発に対するに感受性を低下させるために、HSCを移植したヒト患者において使用することができる。
【実施例2】
【0230】
(実施例1に基づく、しかし、付加的なデータおよび結果の部分的に拡大させた分析を含む)
材料および方法
レンチウイルスベクターの構築およびインテグラーゼ欠損レンチウイルスの作製
自己不活性化(SIN)レンチウイルスバックボーンベクターおよびCMV−pp65を発現する単シストロン性ベクターは、以前に記載されている(Sato, Caux et al. 1993;Salguero, Sundarasetty et al. 2011)。ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(huGM−CSF)を発現する二シストロン性レンチウイルスベクターおよびP2Aエレメントを間に入れたヒトインターフェロンアルファ(huIFN−α)(LV−G2α)(RRL−cPPT−CMV−hGMCSF−P2A−hIL4)の構築は、以前に記載されたように、構築され広範に特徴付けられている(Daenthanasanmak, Salguero et al. 2012)。全ての構築物の構造的完全性は、制限消化およびプロモーターおよび導入遺伝子のシーケンシング分析によって再確認した。レンチウイルスの大規模作製を、以前に記載されているように、ヒト胚性腎臓293T細胞の一過性同時トランスフェクションによって行った(Stripecke 2009)。インテグラーゼ欠損レンチウイルスを生成するために、同時トランスフェクションにおいて以下の4つのパッケージングプラスミド:サイトカインを発現するレンチウイルスベクターを含有するプラスミド、インテグラーゼ遺伝子にD64V点変異を含有するgag/polを発現するプラスミド(pcDNA3g/pD64V.4xCTE)、revを発現するプラスミド(pRSV−REV)、およびVSV−Gエンベロープをコードするプラスミド(pMD.G)を使用した。ウイルス上清を回収し、超遠心分離によって濃縮し、力価を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)(Cell Biolabs,Inc.、San Diego、USA)を使用してp24抗原濃度を見積もることによって評価した。1μgのp24相当物/mlは、約1×10
7の感染性ウイルス粒子/mlに相当する。
【0231】
ヒトCD34陽性末梢血幹細胞の単離
G−CSF(Granocyte、Chugai Pharma)での造血幹細胞動員レジメンに付した造血性成体幹細胞移植成体ドナーの白血球アフェレーシスから末梢血単核球(PBMC)を得た。全ての試験を、ハノーヴァー医科大学の倫理審査委員会によって承認されたプロトコールに従って行った。造血性幹細胞(HSC)CD34磁気細胞単離キット(Miltenyi Biotech、Bergisch−Gladbach、Germany)を用いてMACSによってCD34
+細胞を陽性選択した。2回の磁気での陽性選択の後にフローサイトメトリーによる評価で得られた細胞の純度は99%超であり、CD3
+T細胞の混入は0.2%未満であった。
【0232】
ヒト従来およびSmyleDCの生成
自家CD34陰性PBMC画分を使用して、CD14単離ビーズ(Miltenyi Biotech)を用いるCD14
+単球のさらなる陽性選択を行った。レンチウイルス遺伝子導入のために、単球を、導入前に8時間、組換えヒトGM−CSFおよびIL−4(それぞれ50ng/ml、Cellgenix、Freiburg、Germany)の存在下の無血清Cellgro培地での培養液中に維持した。SmyleDCの生成のために、5×10
6のCD14
+単球を、5μg/ml硫酸プロタミン(Valeant、Dusseldorf、Germany)の存在下、ID−LV−G2αおよびID−LV−pp65両方の2.5μg/mL p24相当物(5の感染多重度M.O.I.)を用いて形質導入した。16時間の導入後、SmyleDCを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、さらに無血清Cellgro培地での培養液中に維持した。従来の(Conv)DCの産生のために、上記のように、単球をID−LV−pp65と共にインキュベートした。16時間の導入後、LVを除去し、細胞を、組換えヒトGM−CSF(50ng/ml)およびIFN−α(1000U/ml、PBL InterferonSource、New Jersey、USA)の存在下で、7日間培養液中にさらに維持した。サイトカインを3日ごとに補給した。マウス免疫化のために、SmyleDCを導入後直接的にまたはConvDCを培養の7日目に、PBSに再懸濁し、マウス注射に使用した。生存度、DC免疫表現型およびサイトカイン放出を、培養の7、14および21日後に、SmyleまたはConvDCにおいて見積もった。生菌数の数を、トリパンブルー排除によって決定した。
【0233】
ヒトHSCを用いたマウス移植
NOD.Cg−Rag1
tm1Mom Il2rg
tm1Wjl(NOD;Rag1
−/−;IL−2rγ
−/−、NRG)マウスを飼育し、IVCシステム(BioZone、United Kingdom)での病原菌を含まない条件下で維持した。マウスが関与する全ての手順は、ニーダーザクセン州によって審査および承認され、ハノーヴァー医科大学の動物施設によって提供されるガイドラインに従った。HSC移植については、4週齡のマウスを、
137Csカラム照射器(Gammacell 3000 Elan、Canada)を使用して亜致死照射した(450cGy)。マウスレシピエントの尾静脈に5×10
5のヒトCD34
+細胞を静脈内注射した。ヒト造血細胞の生着をモニタリングするために、マウスをヒトHSC移植後の異なる時点(6、10および13)で採血し、最終分析のため20週目で屠殺した。DC注射を、HSC移植後10週で行い、続いて11週目に追加免疫した。簡単に述べると、SmyleまたはConvDCを、培養プレートから収集し、100μLのPBS中に5×10
5細胞の濃度で再懸濁し、27ゲージ針を用いてマウスの右後肢に皮下注射した。
【0234】
フローサイトメトリー分析
ヒトHSC再構成マウスにおけるヒト造血性細胞の生着を、以下のマウス抗ヒト抗体:PerCP抗CD45、Alexa700抗CD19、Pacific blue(PB)抗CD4、APC抗CD3、PE−Cy7抗CD8、FITC抗CD45RA、PE抗CD62L(Biolegend)、PE抗CD14、FITC抗Lineage陽性、APC抗CD11c、PE抗CD123(Becton Dickinson)を用いて末梢血、脾臓およびLNで評価した。ヒトB細胞亜集団の特徴付けについて、次の蛍光色素コンジュゲート抗体:PB抗CD45、Brilliant Violet605抗CD19、PE抗CD27、PE−Cy7抗CD38、FITC抗IgD、Alexa700抗IgG、APC抗IgM、PerCP−Cy5.5抗CD24およびAPC−C7抗CD3を使用した。濾胞性Tヘルパー細胞を、PB抗CD45、Alexa700抗CD14/CD19、FITC抗CD3、APC−C7抗CD4、PerCP−Cy5.5抗CXCR5、APC抗PD1およびPE−Cy7抗ICOSを用いた染色によって特徴付けした。末梢血分析のために、血液を室温で5分間、赤血球溶解バッファー(0.83%塩化アンモニウム/20mM Hepes、pH7.2)との2回のインキュベーションにより溶解し、続いて冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて安定化し、300gで5分間の遠心分離を行った。細胞を4℃で30分間抗体と共にインキュベートした。採取した脾臓細胞を、赤血球溶解バッファー(0.83%塩化アンモニウム/20mM Hepes、pH7.2)で5分間処理し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、氷上で30分間抗体と共にインキュベートした。洗浄工程後、細胞をPBSに再懸濁し、LSR−IIまたはLSR Fortessaフローサイトメーター(Becton Dickinson)で取得した。DC表現型の特徴付けのために、以下の抗ヒト抗体:APC抗CD11c、PE抗CD14、APC抗CD3、PE抗CD80、PerCP抗HLA−DR、APC抗CD86、APC抗CD83(Becton Dickinson)およびFITC抗CMVpp65(Pierce Biotechnology、Rockford、IL)を使用した。DCの染色のために、細胞を収集し、PBSで洗浄し、氷上でマウスIgG(50μg/mL)と共に15分間インキュベートし、続いて抗体と共にインキュベートした。細胞を洗浄し、細胞固定液(Becton Dickinson)に再懸濁し、さらにFACSCaliburサイトメーターを用いて分析した。全ての分析は、FloJo(Tree Star Inc.、Ashland、OR)ソフトウェアを用いて行った。
【0235】
リンパ節ドレナージ分析
後肢リンパドレナージの評価を、以前に記載された方法論(Harrell, Iritani et al. 2008)に適合させた。簡単に述べると、マウスに、20〜30μLの5%エバンスブルーを右後肢に皮下注射した。注射後、色素を、リンパ管に30分間取り込ませた。マウスを、安楽死させ、解剖して、鼠径部および腋窩部の流出LNおよびリンパ管の位置を捜し当てた。
【0236】
マウスLNおよび脾臓から回収されたpp65−CTLの機能分析
CMV−pp65に対するT細胞免疫応答を評価するために、脾細胞を採取し、APCコンジュゲート抗ヒトCD3で染色し、XDPセルソーター(Beckman Coulter)を用いて選別した。ヒトCD3
+細胞を、ヒト抗CD2/CD3/CD28コンジュゲート磁気ビーズ(Myltenyi Biotec)によりビーズ対細胞比1:2において活性化し、200ng/mLのヒト(IL)−2、5ng/mLのヒトIL−7および5ng/mLのIL−15の存在下においてX−Vivo培地において培養した。T細胞を、SmyleDCをDC−T細胞比を1:10でさらなる7日間での同時培養によってさらに増殖させた。LN細胞も、上記のように、採取し、SmyleDCと直接インキュベートした。CMV特異的なIFN−γ産生について、増殖したT細胞(脾臓から単離された)、LNまたはPBMC(CMV反応性健常ドナー由来)(20.000細胞)を、抗ヒトIFN−γでコーティングした96ウェルELISPOTプレートに播種し、10μg/mLのpp65重複ペプチドプール(Miltenyi Biotec)またはペプチドなしの存在下で一晩インキュベートした。翌日、細胞を洗浄し、プレートをさらに、ビオチンコンジュゲート抗ヒトIFN−γ抗体、続いてアルカリホスファターゼコンジュゲートストレプトアビジンと共にインキュベートした。プレートを、NBT/BCIP液体基質を使用して発色させ、AELVIS ELISPOTリーダー(AELVIS GmbH、Hannover、Germany)で分析した。
【0237】
ヒト造血性細胞生着の組織学および免疫組織化学的分析
ヒトHSC再構成NRGまたはC57BL/6野生型マウスからのLNを採取し、凍結保存のための最適切削化合物(8.Sakura Finetek、Torrance、CA、USA)に包埋した。凍結切片(5μm)をアセトンで固定し、モノクローナル抗ヒトCD3(eBioscience、San Diego、CA、USA)、抗ヒトPe−Texas RedコンジュゲートCD8、抗ヒトCD11c(eBioscience)、APC抗ヒトCD19(eBioscience)、抗マウスLYVE−1(Dako)、抗マウスCD31(BD Bioscience)で染色した。免疫蛍光分析をAxiocam蛍光顕微鏡(Zeiss)で行い、画像をAxiowertソフトウェア(Zeiss)を用いて作成した。
【0238】
HSC−NRGマウスにおける免疫グロブリン産生
再構成20週間後、HSC−NRGマウスから血漿を採取し、別のところで記載されたように(Becker, Legrand et al. 2010)、全ヒトIgMおよび全ヒトIgGの存在についてELISAによりスクリーニングした。全IgMおよびIgGの決定を、96ウェルプレートをAffiniPure F(ab’)
2フラグメントヤギ抗ヒトIgM(Fc5μ特異的、Jackson ImmunoResearch)またはAffiniPureヤギ抗ヒトIgG(Fcγフラグメント特異的;Jackson ImmunoResearch)のいずれでコーティングすることによって行った。既知のIgM(0.8mg/ml)およびIgG(10.4mg/ml)濃度を有する対照ヒト血清タンパク質キャリブレータ(Dako)を、試料と比較する標準として使用した。コーティング後、プレートをELISA洗浄バッファー(PBS、0.5%Tween−20)中で洗浄し、4%のミルクでブロックし、さらにマウス血漿の連続希釈物(1:5の希釈で開始)と共にインキュベートした。酵素コンジュゲート検出抗体を、HRPコンジュゲート抗IgGについては1:2500の希釈で添加し、HRPコンジュゲート抗IgMについては1:5000の希釈で添加した(両方ともJackson ImmunoResearchから)。TMB基質/停止溶液(Biosource)を、ELISAアッセイの発色のために使用した。
【0239】
ヒトサイトカインの分析:
DC培養上清およびマウス血漿におけるヒトTh1/Th2サイトカインの検出を、蛍光ビーズに基づく14−plex Luminexアッセイを製造者のプロトコール(Millipore)に従い行った。14−plexアッセイにより、サイトカインGM−CSF、IL−4、TNF−α、IL−6、IL−8、MCP−1、IL−10、IL−1β、IL−5、IL−13、IFN−γ、IL−7、IL−2およびIL−12(p70)が測定された。DC上清およびマウス血漿におけるIFN−αの検出を、市販されているELISAキット(Mabtech、Minneapolis、USA)によって行った。
【0240】
インビボ生物発光イメージング分析
マウスをケタミン(腹腔内に100mg/kg)およびキシラジン(腹腔内に10mg/kg)で麻酔し、d−ルシフェリンの水溶液(腹腔内に150mg/kg)をイメージングのに5分前に注射した。マウスを電荷結合素子カメラ(IVIS 200、Xenogen、Cranbury、NJ、USA)の暗いチャンバーに入れ、弱い照明下でグレースケール体表面基準画像(デジタル写真)を撮像した。光源のスイッチを切った後、動物の体内のルシフェラーゼ発現細胞から放出され、組織を透過した光子を、Igor(Wavemetrics、Seattle、WA、USA)上のオーバーレイとしてソフトウェアプログラムLiving Image(Xenogen)を使用して、5分間までの規定時間にわたって定量した。解剖学的な局在化について、光強度(青色、最小強度;赤色、最大強度)を表す疑似カラーイメージを、Living Imageで生成し、グレースケール参照基準上に重ねた。定量した発光は、動物の表面上に平均化光子放射輝度で構成され、光子/sec/cm
2/sr(sr=ステラジアン)として表わされる。
【0241】
組織中のレンチウイルスコピーの分析に関するリアルタイムPCR
全ゲノムのDNAを、脾臓およびリンパ節(左および右の脇腹)から、QiaAmp DNA血液ミニキット(Qiagen、Hilden、Germany)を用いて、製造業者の指示に従って抽出した。ベクター由来のコピー数を、以前に記載(Maetzig T et al., 2010およびRothe M, et al., 2012)されたように、定量的なリアルタイムPCRによって決定した。上記工程から調製された100ng/2μLのゲノムDNAを、wPRE(マーモット肝炎ウイルスポスト転写性調節エレメント;wPREフォワード:5’−GAGGAGTTGTGGCCCGTTGT(配列番号9)、wPREリバース:5’−TGACAGGTGGTGGCAATGCC(配列番号10)またはPTBP2(ポリピリミジントラクト結合タンパク質2);PTBP2フォワード:5’−TCTCCATTCCCTATGTTCATGC(配列番号11)、PTBP2リバース:5−GTTCCCGCAGAATGGTGAGGTG(配列番号12)に関する、1μLのプライマー混合物と混合された7.5μLのSYBRTaqを含有し、容量を13μLにPCRグレードのヌクレアーゼフリー水を用いて調整している13μLのRQ−PCR混合物に添加した。これらの2つの単位複製配列を含有しているプラスミドベクター(pCR4−TOPO、ハノーヴァー医科大学の実験血液学部門のMichael Rotheの好意により提供された)を、4ログにわたる既知の希釈を用いた標準曲線に使用した。全ての試料を、StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いて分析した。サイクリング条件は、95℃で10分間、40サイクルの95℃で15s、56℃で20sおよび65℃で30sであった。結果を、プライマーペア特異的なリアルタイムPCR効率を利用することによっておよび試料CT値をプラスミドベクター(pCR4−TOPO)を用いて作成された標準曲線と比較することによって定量した。データを、StepOnePlusソフトウェア(Applied Biosystems)によって分析した。
【0242】
GVHDの組織学的分析
皮膚および腸から代表的な試料を、採取し、常法通りホルマリン固定し、パラフィン包埋した。2μm切片を、ブロックから切断し、HEに対して染色した。経験を積んだ血液病理学者が、動物の処置群をブラインドにしたスライドを再検討した。半定量的スコア(Lerner KG et al. Transplant Proc 1974 6:367-371に従って改変)を使用して、組織学的な変化のスコアをつけた。GVHDグレード1は、構造的な変化を伴わない単一または複数のアポトーシス性形態(apoptotic figure)によって規定される。グレード2は、複数のポトーシス性形態およびクリプトまたは皮膚付属物の脱落を示す。グレード3は、付加的な表面ネクローシスおよびクリプトまたは皮膚付属物の重篤な欠損を示す。
【0243】
統計分析
パラメトリック(t検定)およびノンパラメトリック(Kruskall−Wallis)統計分析を行って、NRGマウスにおけるヒト造血系統の生着について群間の差を比較した。Graph prismバージョン5ソフトウェアで分析を行った。すべての検定は両側であり、p<0.05を有意とみなした。
【0244】
結果
SmyleDCの生成およびインビトロでの特徴付け
ID−LVを用いる、huGM−CSF、huIFN−αおよびCMV−pp65ウイルス性抗原のヒト単球への遺伝子導入により、インビトロおよびインビボで持続性SmyleDC(Lerner KG et al. Transplant Proc 1974 6:367-371)が生成された。本発明者らは、これらの条件下、緑色蛍光タンパク質(GFP)を量的遺伝子レポーターとして用いて、10〜50%の間の伝達効率を観察した。本発明者らは、本発明者らのプロトコールを適合させて、G−CSF−動員HSCドナーから得られたPBMCからのCD34−フラクションからDCを生成させた(
図10)。対照ConvDCを、単球にpp65を発現するID−LVベクター(
図11A)を導入することによって生産し、組換え型huGM−CSF/huIFN−αの存在下での培養で維持した。SmyleDCの生成について、単球は、加えて、huGM−CSF/huIFN−α導入遺伝子を発現するバイシストロニックID−LVを同時形質導入され(
図11A)、サイトカインの非存在下で維持された。蓄積されたヒトIFN−α(2.0ng/mL)およびGM−CSF(0.3ng/mL)のレベルを、21日までの連続培養において検出した(
図11B)。ConvDCと比較して、SmyleDC培養は、有意に高い細胞生存度(7日目、45対36%、p>0.05;14日目、35対14%、p=0.021;21日目、17対5%、p<0.05、
図11C)および細胞内pp65発現(14日目にピーク、55対21%、p=0.014、
図11D)を提示した。本発明者らはDCにおいてpp65を量的遺伝子レポーターとして検証していないが、このデータはGFPをマーキング遺伝子として用いる本発明者らの経験と相関する。培養の21日後、両方のDCタイプは単球マーカーCD14
+の発現を喪失し(
図11E)、他方で、DC表面マーカーCD11c、HLA−DR、CD86、CD83およびCD80はSmyleDCにおいて持続性に発現した(
図11F)。ConvDCおよびSmyleDCによって分泌されるサイトカインの分析により、化学誘引性タンパク質MCP−1およびIL−8のng/mlレベルでの高い安定的な産生が明らかにされた(
図11G)。ConvDCは、高レベルのDC2−タイプインターロイキンIL−6およびIL−4も分泌した。いくつかの他のサイトカインが両方の培養についてより低いpg/ml濃度(IL−7、IL−10、IL−12、IL−13、IL−1β、IL−2、IL−5およびIFN−γ)で検出可能であったことは、混合性のDC1−およびDC2−タイプのサイトカインパターンを示している。
【0245】
SmyleDC/fLucを用いて免疫され、光学的なイメージングによって分析されたNRGマウスはインビボで高い生存度を示す
2日目に、ホタルルシフェラーゼを発現するレンチウイルスベクターを用いて標識されたSmyleDCをs.c.でNRGマウス(n=7)に注射(injectred)し、生物発光シグナルを注射後14、30および45日に非観血的に測定した。全てのマウスは、45日までに注射部位において検出可能な生物発光シグナルを示した(
図12)。
【0246】
ヒトCD34
+細胞のNRGへの移植に続くSmyleDC免疫化により、T細胞増殖の増加がもたらされた。
本発明者らは、2回陽性選択し、高度に純粋(>99%)な成体ヒトCD34
+HSCを亜致死的に放射線照射した4週齡NRGマウスに移した。CD34
+細胞移植後10週、ヒト造血再構成は、プラトーに達し、安定になった(ヒトCD45
+細胞に相当する2〜5%のPBMC)。本発明者らは、DC免疫化前、異なる試験群におけるPBLにおいてヒトCD45
+頻度に統計的に有意な差を観察しなかった(データ示さず)。したがって、マウスは、HCT後に、異なる免疫化群にランダムに割り当てられ、同じHCTドナーの単球(5×10
5細胞)を用いて生産されたDCのプライム−ブースター免疫を右後部脇腹へのs.c.注射によって受け取った(
図10B)。本発明者らは、非免疫化マウス対同じCD34
+ドナーからの単球を用いて生産されたConvDCおよびSmyleDCを用いて免疫化したマウスの長期(20週)の造血性および免疫再構成を比較した。SmyleDC免疫化後10週、>10pg/mlレベルのヒトGM−CSF、IL−5、MCP−1およびIFN−γならびにより低いレベルのいくつかの他のヒト因子(IL−12、IL−1β、IL−6、IL−10、IL−8、IL−4、IL−13)が血漿中に検出可能であったことから、SmyleDC免疫化の持続的効果が示された(
図13A)。この時点で、ConvDCおよび対照を用いて免疫化したマウスの血漿中のヒトサイトカインのレベルは、劇的により低いものであった。20週の終了時点で、本発明者らは、対照およびConvDC群の間でヒトCD45
+、B(CD19
+)およびT細胞(CD3
+)の頻度において有意な差を観察しなかった(
図13B)。しかしながら、ヒトCD45
+細胞の頻度は、SmyleDC免疫化マウスに関して有意に高かった。注目すべきことに、ヒトCD45
+細胞の量を分析したところ、ヒトT細胞の相対的な頻度はSmyleDCワクチン接種の際に有意に上昇(50%まで)していたが、他方で、ヒトB細胞(CD19
+として規定される)の相対的な頻度は有意に減少していた(SmyleDCにおいて30%まで)(
図13C−D、表1)。実際、SmyleDCプライム−ブースター免疫(HCT後13週)の1週後でさえ、T細胞増殖における上昇は既に有意であった。HCT後20週に、CD3
+CD4
+ヘルパーT細胞は、SmyleDCを用いて免疫したマウスの最も頻繁なT細胞集団(平均30%)を代表し、CD3
+CD8
+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は明らかに検出可能であった(PBLにおけるヒトT細胞の平均20%)(
図13E−F、表1)。
【0247】
SmyleDC免疫後のリンパ節およびリンパ流の再生
屠殺後分析の際の最も著しい所見の1つは、SmyleDCを用いて免疫したマウスにおける末梢リンパ節の検査からきており:LNは鼠径部および腋窩部領域で明らかに可視であった(
図14A)。共通のサイトカイン受容体γ鎖の発現を欠いているNRGマウスが欠陥性リンパ発生および不活性のLN小節を提示すること(Cao, Shores et al. 1995)およびヒトHCTの後でさえ、末梢性LNの再生がレスキューされず、LNは剖検においてたいていが小さいかまたは同定可能ではないことが長く知られている。SmyleDCを用いて免疫したマウスは、それぞれ、コホートの90%および70%まで目立って活性な腋窩部および鼠径部LNを示した。ConvDC免疫により、より低い頻度において腋窩部(66%)および鼠径部(33%)LNがもたらされた(
図14B)。著しくは、右側でのSmyleDC免疫化と対応するリンパ性流出軸の同側でのLNの形成の間に強い相関性があった。HCT後20週で、体幹下部(鼠径部LN)から体幹上部(遠位の腋窩部流出LN)の機能的なリンパ性ドレナージを確認するために、本発明者らは、SmyleDC免疫部位に近いNRGマウスの皮下に5%エバンスブルーを注射した。インクにより注射部位に隣接する流出鼠径部LNが染色され、青色のシグナルがリンパ管から遠位の腋窩部LNに移動した。正常なリンパ系を有する免疫コンピテント(Immune competent)なC57BL/6マウスは類似するインクのドレナージパターンを示し、他方で、非免疫マウスまたはConvDCを用いて免疫したマウスは障害性のドレナージを示した(データ示さず)。
【0248】
再生されたリンパ節は、ヒトT細胞およびB細胞を分化の異なる段階で含有する。
SmyleDC−免疫化マウスから外植されたLNの免疫組織学的分析は、リンパ球の大量の浸潤を明らかにしたが、ほんの僅かの領域が野生型C57BL/6マウスから得られた正常に発生したLNにおいて観察された胚中心の解剖学的構造に似ている(データ示さず)。免疫蛍光分析は、ヒトCD3
+T細胞を用いて優勢な再増殖を示した(データ示さず)。ヒトCD11c
+DCは、皮質において検出されたまたはマウスリンパ性内皮細胞(LYVE−1)と共局在していた。本発明者らは、マウス内皮CD31マーカー(内皮性の細静脈の可能性が最も高い)に陽性の管構造も検出した。LNのフローサイトメトリー分析により、ヒトCD45
+細胞(77%)、CD3
+Tリンパ球(73%)および僅か3.8%のCD19
+B細胞(
図14C)が明らかにされた。ヒトCD3
+細胞内では、56%がCD4
+であり、42%がCD8
+であった(
図14D)。著しくは、両方のT細胞サブセットについて、本発明者らは、約80%のCD45RA
−CD62L
−エフェクターメモリー細胞、10〜20%の中心的なメモリー細胞、および5%未満のナイーブT細胞(
図14E−F)を観察した。濾胞性Tヘルパー細胞(Tfh)を同定するために、SmyleDC−免疫化マウスから外植されたLNをプールし、4.2%のCD3
+集団に相当する、CD4
+CXCR5
+hiPD−1
+ICOS
+細胞に関して分析した(
図14G)。ヒト扁桃が、約8%のTfh細胞頻度を示した(
図14G)。本発明者らは、プールしたLNにおけるB細胞亜集団も検査し、それをヒト扁桃と比較した(データ示さず)。CD24
hiCD38
hi移行性B細胞は、ヒト化LN(0.4%)および扁桃(2.4%)において全CD19
+細胞のマイナー集団に相当する(
図14H)。ナイーブB細胞(IgD
+CD24
intCD38
int)は、ヒト化LNにおいて、扁桃におけるよりも頻度が低かった(5.9%対43.9%)。驚いたことに、本発明者らは、ヒト化LNにおいて、扁桃と比較して、CD27
hiCD38
hi最終分化型プラズマ芽球の頻度が劇的に高いことを見出した(49.1%対0.7%)(
図14H)。
【0249】
SmyleDCは、隣接性(adjascent)および遠位性LNに移動した。
SmyleDC−免疫化マウスに引き続いてルシフェラーゼ遺伝子を用いてマークしたSmyleDCを注射した注射部位の非侵襲性の光学的イメージング分析により、生物発光放出細胞の隣接する鼠径部LNの領域への移動が明らかにされた(
図15)。注射部位におけるおよびLN領域における生物発光シグナルは、注射後7〜21日に増加した。SmyleDC/LUC注射後21日外植した局所性および遠位性LNは、生物発光シグナルを示した。そのデータは、SmyleDCが免疫再生されたHIS−NRGマウスにおいて局所性および遠位性LNに移動できることを実証する。これらの結果を強めることとして、ヒト骨髄球性およびプラズマ細胞様DCは、SmyleDCを用いて免疫したマウスにおいて、ConvDCおよび対照におけるよりも、高い絶対数で検出可能であった(
図16)。これは潜在的に、内因性に再生されたDC前駆体がLNにおいてDCに分化することを刺激する、LNにおけるSmyleDCのパラ分泌効果を示している。加えて、SmyleDC注射部位に隣接性のLNの高感度リアルタイムPCR分析により、レンチウイルスベクターの検出可能なコピー(1細胞ごとに0.78+/−0.43コピー)が示された。LVコピーも、免疫側と反対側のLNにおいて(0.05+/−0.04コピー/細胞)および脾臓(0.58+/−0.49コピー/細胞)において、検出可能であり、SmyleDCのリンパ性器官への全身性移動が確認された。
【0250】
ヒト成熟TおよびB細胞の絶対数の増加は、SmyleDC免疫化マウスの脾臓において検出することができる。
HCT後20週、SmyleDC−免疫化マウスは、非免疫化マウス(p=0.0028)と比べて、脾臓におけるヒトCD3
+T細胞の絶対数(858,487)において100倍を超える増加を示した(
図17A)。ConvDCを用いて免疫したマウス(6,394細胞/脾臓、132倍低い、p=0.02対SmyleDC)および対照マウス(4,459細胞/脾臓、192倍低い、p=0.0007対SmyleDC)は、脾臓へのCD3
+細胞の高レベルの増殖/ホーミングを支持できなかった(表1)。末梢血において以前に見積もられたより低い相対的な頻度と対照的に、脾臓における絶対的なCD19
+Bリンパ球量は、SmyleDC−免疫化マウス(406,672細胞/脾臓)において、ConvDC−免疫化(82,065細胞/脾臓、5倍より低い、p=0.37)および対照マウス(15,639細胞/脾臓、26倍より低い、p=0.0034)におけるよりも有意に高かった。組織学的には、ヒトTおよびB細胞が、小節に似ているクラスター内で相互作用することが見出された(データ示さず)。Tリンパ球サブセットの組成を、さらに分析した。SmyleDCマウスの脾臓におけるThおよびCTL細胞の平均数は、それぞれ370,086および81,649細胞/脾臓であった(
図17B−C)。これは、ConvDC免疫化(それぞれ、13,976および7,937細胞/脾臓、p=0.0046および0.038対SmyleDC)の後にまたは非免疫対照(CD4
+に関して1,943、p=0.0035およびCD8
+に関して52、p=0.021対SmyleDC)に見出された数よりも有意に高かった。ナイーブおよびエフェクターTヘルパーおよびCTLの両方が、絶対的な細胞数の点で増加した(
図17B−C)。HIS−NRGマウスの脾臓において稀に観察される濾胞性T細胞は、SmyleDC免疫化後(対照群において、僅か12細胞/脾臓と比較して、(p=0.0023)、平均で9,425のTfh細胞/脾臓で検出可能であり、ConvDC群においては検出可能なTfh集団はなかった(
図17D)。脾臓におけるB細胞亜集団の詳細な分析により、移行性B細胞(対照6,732、ConvDC 29,028およびSmyleDC 77,454細胞/脾臓)の数において有意な差は明らかにされなかった(
図17E)。しかしながら、SmyleDC−免疫化は、他の群と比較して、成熟B細胞(83,454細胞/脾臓)およびプラズマ芽球/プラズマ細胞(91,522細胞/脾臓)の有意な目立った増殖を導いた。
【0251】
SmyleDC免疫は、抗−pp65T細胞免疫応答を誘導する
本発明者らは、養子性huPBL/T細胞導入前のSmyleDCを用いたNRGマウスの免疫化が、インビボで抗−pp65特異的なT応答を増強することを以前示した(Daenthanasanmak, Salguero et al. 2012)。ここで、本発明者らは、SmyleDCが、HCT後pp65に対して反応性の内因性に発生するヒトT細胞を刺激できるかどうかを評価した。ヒトCD3
+細胞を、HCT後20週脾臓またはLNからFACSソートした。免疫アッセイを実行するため十分なT細胞数を得るため、脾臓からのT細胞を、抗CD2/CD3/CD28コンジュゲートビーズの存在下において3日増殖させ、SmyleDC プラス サイトカイン(IL−2、IL−7、IL−15)を用いて7日間さらに同時培養した(
図10C)。T細胞を、抗原性刺激(NoAg)の非存在下においてまたはpp65オーバーラップペプチドプール(pp65pp)を用いてIFN−γ−被覆プレートに一晩播種し、IFN−γ−ELISPOTによって分析した。SmyleDC−免疫化マウスからの脾細胞は、pp65−反応性T細胞の、ConvDC−免疫化マウス(33.6スポット対15.5スポット、3連の平均、p=0.25)または対照マウス(1スポット未満、p<0.05)よりも、高い頻度を示した(
図18A)。SmyleDC−免疫化マウス(n=4)からの個々のLNから単離され、SmyleDC プラス サイトカインを用いて7日間培養されたT細胞も、pp65ペプチドに対して反応した(pp65:53スポット対抗原なし:18.7スポット、p=0.021)。CMV−反応性ドナーからのPBMCを、アッセイのためのポジティブコントロールとして使用した(
図18B)。
【0252】
SmyleDC免疫化は、免疫グロブリンおよびpp65−特異的な体液性応答を誘導する
本発明者らは、脾臓におけるIgGメモリーB細胞の頻度における有意な増加、同様に、免疫グロブリンレベルが検出の限界に近かった対照群と比べて、SmyleDC免疫化の際に血漿IgMおよびIgGの生成を観察した(
図18C−E)。pp65に対して特異的なIg反応性を、組織内開発したELISAシステムに関して、CMV血清陽性の全身性エリテマトーデス(SLE)患者から得られた血漿をポジティブコントロールとして用いて見積った。ConvDC−免疫化または対照マウスからの血漿中に検出可能なシグナルはなかったが、抗−pp65 IgGおよびIgMは、それぞれ、4/22および11/22マウスの血漿において見出された(
図18F−G)。著しくは、これらの機能的な抗原特異性のヒトTおよびB細胞応答にもかかわらず、本発明者らは、これらのマウスにおいて、HCT後6から20週の重量モニタリングによって評価される、GVHDの如何なる徴候も検出しなかった(
図19A)。10匹のSmyleDCを用いて免疫したマウスのコホートはHCT後40週維持され、本発明者らは遅発性GVHDの臨床徴候も疾患の如何なる巨視的な臨床徴候も観察しなかった。このような状況ではあるが、本発明者らは、一般に影響される組織(すなわち、皮膚および腸)におけるGVHDの徴候について、H&E染色および光学顕微鏡によって、いくつかのマウス(n=4)を組織病理学的に分析した。本発明者らは、アポトーシス小体の検出に対応する、4匹のマウスのうち2匹については皮膚においておよび4匹のマウスのうち3匹の腸において、穏やかなグレード1のGVHDのみを観察した(
図19B−C)。
【0253】
PCRによるマウスの組織におけるSmyleDCの検出。
レンチウイルスベクターにおけるWPREエレメントの検出のため定量的なリアルタイムPCR法を使用し、標準対照として、組み込まれたLV配列の3コピーを含有している293T細胞系統を用いた。SmyleDCの分析により、1細胞ごとに7.5コピーのベクターがもたらされた。ヒトCD34
+細胞を移植し、SmyleDCを用いて免疫したNRGマウス(n=4)から収集された脾臓の分析は、1細胞ごとに0.58+/−0.49コピーを示した。ヒトCD34
+細胞を移植し、SmyleDCを用いて免疫したNRGマウス(n=4)から収集されたLNの分析は、隣接性LNについて1細胞ごとに0.78+/−0.43コピーおよび反対側LNについて1細胞ごとに0.052+/−0.041コピーを示した。そのデータにより、皮膚に注射したSmyleDCの局所性および遠位性LNおよび脾臓への移動能力が確認された(表2)。
【0254】
考察
このHIS−NRGモデルを用いるヒトHCT設定におけるSmyleDCの有効性を実証するための前臨床検証研究は、末梢リンパ節の発生を含むTおよびB細胞最終適応免疫再構成効果の完全な範囲が観察されたことから、我々の予想を超えていた。ConvDCおよびSmyleDCの両方は、G−CSF動員HCTドナーから単離された単球を用いて生産できた。SmyleDCは、ConvDCよりも、インビトロでより高い生存度および関連性のある免疫性細胞表面マーカーおよびサイトカインの発現について持続性の自己分泌活性化を示した。HCT後10週のSmyleDCの皮下投与および別の10週後の血漿分析は、ConvDC−免疫化または対照マウスにおけるよりも、実質的に高いレベルのいくつかのヒトサイトカイン(GM−CSF、IL−5、MCP−1、IFN−γ、IL−13、TNF−α、IL−8、IL−4)を明らかにした。これは、有意に高い頻度のヒトT細胞、高い絶対数のエフェクターメモリーT細胞ならびに血液、脾臓およびLNにおける最終分化型の血漿B細胞の検出に関連づけられた。HCT後20週の免疫モニタリングにより、これらの細胞効果がpp65−特異的なT細胞および抗体応答を伴うことが示された。データを総合すると、pp65を発現するConvDCを用いた免疫化は、非免疫マウスと比べて、免疫モジュレーションをある程度示したが、SmyleDCの効果は明らかにより著明であった。これらの差は、頑強な抗原提示のため、効率的にシグナルする、サイトカインおよびケモカインを産生する、移動する、誘引するおよび他の細胞の免疫系と相互作用するために、投与後に十分に長く持続する、有糸分裂後および非複製性の抗原提示細胞が関与する細胞療法の必要性を強調する。
【0255】
NRGマウスにおける、これらの新しいインビボ所見によっても、機能的な免疫系を有するヒト化マウスの生成を改善する、新規の進歩が導かれ得る。免疫不全マウスにおいて免疫再構成を誘導するための、いくつかのトランスジェニックおよびワクチン接種アプローチが過去10年間評価されてきたにもかかわらず、最終的におよび機能的に分化したTおよびB細胞へのヒト造血系発生に取り組むための適切なインビボ実験モデルを欠いている。インビボでのHCT後のヒト免疫再構成を実験的に再現するために、Schultz、Ishikawaおよび同僚は、CD34
+HSCを、共通のインターロイキン−2受容体ガンマ鎖(IL2Rγ)(NOD/Rag1null/IL2Rγ
null−NRG、NOD/LtSz−scid/IL2Rγ
null−NSG、またはNOD/SCID/IL2Rγ
null−NOG)を欠いている異なるタイプの免疫不全マウス系統に移植して、CD34
+細胞導入後8から10週ヒト造血系統の再構成をもたらす先駆けとなった(Ishikawa, Yasukawa et al. 2005;Shultz, Brehm et al. 2012)。しかしながら、HSCの供給源および細胞移植のための方法とは関係なく、ヒト化マウスは、最適以下のレベルのリンパ球再構成、抗原特異的な細胞性および体液性応答の欠乏または低いレベルならびに全体性アネルギーを掲示した(Lepus, Gibson et al. 2009;Andre, Erbacher et al. 2010)。HISマウスの非効率的なリンパの発生においてインパクトを与える因子には、ヒト組織適合性分子の非存在および乏しいヒト化サイトカイン環境が含まれる。この欠乏を克服するため、組換え型サイトカインのデリバリー(Chen, Khoury et al. 2009;O'Connell, Balazs et al. 2010)、HPCに沿った胎性リンパ組織の移植(Biswas, Chang et al.2011;Hu and Yang 2012)または主要組織適合性分子(MHC)クラスI(Shultz, Saito et al.2010)およびII(Danner, Chaudhari et al. 2011)もしくは極めて重要な造血性サイトカイン(Willinger, Rongvaux et al. 2011)を構成的に発現するトランスジェニック系統の使用を含むアプローチが最近記載された。一部は改善されるが、これらの戦略では、ヒトウイルスチャレンジに対するBおよびT細胞応答における限定的な改善を許容するものであった。G−CSF−動員成体造血性幹細胞を用いたHCT移植に関する以前の報告と一貫して、本発明者らは、非免疫対照マウスにおけるTリンパ球の低い相対頻度(すなわち、20%未満)を観察し、これはConvDC−免疫化を用いて得られた結果でも反映されていた。反対に、既報告のように、循環ヒトB細胞(ここではCD19
+細胞として規定される)の相対頻度は、対照マウスにおいて80%よりも一般に高かった。SmyleDC/pp65免疫化はPBLにおける相対的なB細胞頻度の減少をもたらしたが、脾臓およびリンパ節においては絶対的なB細胞量の増加に関連していた。注目すべきことに、これらの組織におけるTおよびB細胞の高い再増殖割合は、免疫活性化と関連する成熟型の表現型と相関する。重要なことに、HSC移植マウスにおける再構成されたリンパ構造の存在を記載している報告はわずかである(Sun, Denton et al. 2007;Marodon, Desjardins et al. 2009;Singh, Singh et al. 2012)。
【0256】
ヒト臍帯血または胎性の肝臓を用いて、それにより、我々の研究(G−CSF−動員成体血液を用いる)におけるよりも、高い割合のヒト細胞移植(>60%)に達することによって、ヒトCD34
+HCTを改善できるにもかかわらず、既報告のLN構造は未公開(anecdotal)であるかまたは観察に非常に長い期間を必要とする(Lang, Kelly et al. 2013)。これらのデータは、機能的なおよび持続性のDCが、ヒト化マウスにおける完全な免疫機能に向けて、リンパ球を活性化する、動員する、および最終的に成熟させるために、HCT後に末梢リンパ節およびリンパ流の再生に関して必要とされえることを含意する。したがって、ヒト化マウスモデルにおけるLNおよびリンパの発生に付随する機能的なDCの存在を増進させることは、適応免疫の予測的な研究に関してこれらのモデルを用いるための「必須的制約(conditio sine qua non)」でありえる。早期のT細胞発生が我々の有効性研究の焦点ではなかったが、我々は、脾臓において見出された高い絶対的なナイーブおよびメモリー/エフェクターT細胞数が、これらのヒト化マウスにおける真正の高い胸腺形成(thymopoiesis)を反映することを予測する。究極的には、この「ヒト内因性再生全身性リンパ節(human endogenously regenerated systemic lymph node)」(「HERS−LN」)の新規様式により、ヒト免疫系、抗原提示、TおよびB細胞最終活性化の発生のならびにHCTプロトコール、ワクチンおよび免疫調節性分子の前臨床試験の有用な解釈の、より詳細な機構的なインビボ研究が将来において許容される。
【0257】
がん免疫療法のための単一のトリシストロニックレンチウイルスベクターを用いて生成されるレンチウイルス−誘導型DCの安全性評価、アップスケール(up−scalling)および臨床開発は、我々のグループの進行中の作業である(Pincha, Sundarasetty et al. 2012; Sundarasetty, Singh et al. 2013)。単一のトリシストロニックレンチウイルスベクターを用いてpp65を同時発現するSmyleDCの生産は、CMV−血清陰性ドナーまたは臍帯血からの幹細胞移植物を受ける移植患者を免疫する臨床治験へのトランスレーションのために進行中である(Daenthasanmak, Salguero et al, in "Example 3")。加えて、SmyleDC/pp65は、神経膠腫および乳癌に対する自己細胞免疫療法製品として、将来においても探索されるだろう、というのも、HCMVは、これらのタイプのがんのウイルス性の標的として最近関係付けられているからである。
【実施例3】
【0258】
実験の目的
最近のこの研究において、本発明者らは、2種の完全にヒト化されたマウスHCTモデルを使用し、臨床前の単一3シストロンインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターを用いてインビボで生じさせたSmyleDC/pp65を評価した。本発明者らは、いくつかの有効性および安全パラメータを試験し、ヒトCD34
+幹細胞を移植された照射NRGマウスで、効力の証明を確立した(新生仔UCBとの比較における、G−CSF動員成体HSC)。本発明者らは、これらのヒト化HCTマウス予測モデルで、SmyleDC/pp65による、内因的に発生した細胞傷害性T細胞の増殖およびHCMV pp65抗原に対する液性免疫の応答性を増進する適応免疫効果を実証した。
【0259】
結果
樹状細胞の回復、生存能力およびアイデンティティに及ぼす3シストロンベクターの影響
間を空けた異種2Aエレメント(豚テシオウイルス由来のP2Aおよび口蹄疫ウイルス由来のF2A)を用いた3シストロン自己不活性化レンチウイルスベクターID−LV−G2αpp65(
図21A)を設計した。水疱性口内炎−Gタンパク質(VSV−G)でシュードタイピングした第三世代インテグラーゼ欠損レンチウイルスの大規模バッチを記載(Daenthanasanmak et al.,2012)の通りに生成した。p24キャプシドタンパク質の濃度を測定することによってウイルス力価を決定したところ、正常範囲(3シストロン:7μg/ml、n=10;2シストロン:9.4μg/ml、n=10)の力価を得た。形質導入された293T細胞における、導入遺伝子GM−CSF、IFN−α、およびpp65すべての発現を、ウエスタンブロットおよび免疫検出による溶解物および細胞上清の分析によって確認した。GM−CSFおよびIFN−αタンパク質は、主に分泌され、細胞上清中に検出可能であった。ウエスタンブロット解析は、専らpp65タンパク質のみの細胞内発現を示し、これは、細胞内染色およびフローサイトメトリー分析によって確認された。健常ドナーから得られた単球を感染多重度(MOI)5のID−LV−G2αpp65ベクターに一晩曝露し、続いて7日間、組み換えサイトカインなしでエキソビボ(ex vivo)培養したところ、平均して、形質導入に使用された単球の20%が回復した(これと比較して、対照の2シストロンベクターでは32%であった)。本発明者らが、細胞回復に及ぼすMOIの用量効果を観察したところ、MOI=5が最も一貫した細胞の回復(データは示されていない)をもたらした。2シストロンベクターによる形質導入と3シストロンベクターによる形質導入では、更なる培養によって生細胞数が同程度減少した(インプットに対して14日目には8%、21日目には5%)。これは、1つのベクター内で分化サイトカインとシスで与えた場合、pp65には毒性作用または形質導入作用がないことを実証するものである(
図21b)。免疫表現型マーカー(HLA−DR
+/CD86
+)の安定性およびSmyleDC/pp65における細胞内pp65発現の検出可能レベルを、最長21日間のエキソビボ培養期間の間分析したが、細胞は、約1カ月間の培養の後、最終的に老化し、死滅した(
図21c、d)。DC培養の7日目に、活性化された単球に由来するDCで典型的な免疫表現型DCマーカー(HLA−DR
+、HLA−ABC
+、CD11c
+、CD80
+、CD86
+の頻度が高い)のパネルについて、さらなる詳細な分析を行ったところ、免疫学的に重要なマーカーの発現への、pp65抗原による有害な影響は示されなかった。推定上の単球(<10%CD14
+)、形質細胞様DC(<40%CD123
+)および最終分化したDC(<10%CD83
+)マーカーを発現している細胞が低頻度で察された(
図21e)。pp65の同時発現は、内因的に上方制御されているいくつかのサイトカイン(10pg/mlまでの低レベルから中程度レベル:IL−5、IL−12p、IL−10、IL−7、IL−6、IL−4、およびTNF−α;1〜10ng/mlの高レベル:IL−8およびMCP−1)またはベクター内で同時発現されるトランスジェニックGM−CSFおよびIFN−αサイトカイン(それぞれ平均約1.0ng/mlおよび4.6ng/mlで検出可能(n=3))の分泌にも影響を及ぼさなかった(
図21f)。結論として、本発明者らの観察では、ベクター内においてシスで同時発現されるpp65による、SmyleDC/pp65の生存能力または分化への有害作用は見られなかった。
【0260】
臍帯血単球からのSmyleDC/pp65の産生
インフォームドコンセントの下、ハノーヴァー医科大学(Hannover Medical School)のObstetrics Clinicで出産する産婦によって提供されたヒト臍帯血由来の試料で、臍帯血バンクを構築した。単核細胞は、フィコール分離によって単離し、凍結保存するか、CD34
+造血幹細胞濃縮を行った。CD34陽性および陰性画分の両方をドナー試料ごとに凍結保存した。CD14
+単球は、CD34陰性画分からMACSによって濃縮した。それらの単球は、本発明者らが以前に記述したプロトコールを使用して、ヒトGM−CSF−IFNa−pp65をコードしているウイルスで形質導入され、同じドナーからのCD34
+細胞が移植されているマウスに投与された。DC分化免疫表現型およびpp65抗原発現を分析するために、SmyleDC/pp65細胞の一部を培養で7日間維持した。
【0261】
SmyleDC/pp65におけるID−LV−G2αpp65の組み込みパターン
ID−LV配列の組み込みパターンは、ベクター注入されたマウスの肝細胞で以前に示されており(Matrai et al.,2011)、ID−LVは、マウスDCおよびヒトDCのインビトロ形質導入にも試みられている(Negri et al.,2012)が、ID−LVの組み込みパターンは、形質導入された単球またはDCについてはこれまで特徴付けられていなかった。DCは、有糸分裂後の複製しない細胞であるが、潜在的に発癌性の遺伝子座に組み込みが偏ると、遺伝毒性作用の素因となりうる。バックボーンLV−G2αpp65ベクターの組み込みパターンを評価するために、インテグラーゼコンピテント(IC−LV)またはインテグラーゼ欠損(ID−LV)ベクターを用いて作製したSmyleDC/pp65を10、20、および30日間培養し、組み込まれたベクターのコピー数を比較した。10日目、IC−LVで作製したSmyleDC/pp65の1細胞当たりの組み込まれたコピー数は、ID−LVで作製したSmyleDC/pp65(1細胞当たり0.3コピー)より4倍多かった(1細胞当たり1.2コピー)。両方の培養とも、組み込まれたコピー数/細胞は、更なる培養(20日目)によって、そして細胞が老化に達した際に、連続的に低減した(約30日;IC−LV:1細胞当たり0.3コピー;ID−LV:1細胞当たり0.1コピー)(
図22a)。遺伝的に改変された単球のクローン貢献を、レンチウイルス形質導入の10、20、および30日後の時点に、高スループットの組み込み部位(IS)分析(Schmidt et al.,2007)でモニターした。線形増幅媒介(LAM)PCRおよび次世代シーケンシングによって、IC−LVで形質導入された単球では、3.000箇所のユニークな染色体位置にマップされた>40.000のIS配列が検出され、ID−LVで形質導入された単球では、>1.500のユニークな染色体位置にマップされた>14.000のIS配列が検出された。染色体当たりの組み込み部位の分布は偏っていなかった。すなわち、組み込みの数は、どちらのベクタータイプでも、全体的に、染色体の大きさと相関していた。すなわち、比較的大きな1番染色体では10箇所を超える組み込みが検出され、21番染色体ではほぼ1箇所の組み込みが検出された。遺伝子内または遺伝子から距離+/−10kb以内におけるウイルス組み込みの数に関する分布は、両方のベクタータイプで同様であり、大部分の組み込みは遺伝子の外側(
図22b)、特に、転写開始部位の上流5kbまで(
図22c)であった。形質導入の全時点におけるISの過半数は、5%よりかなり低く、場合により、少数が、回収した配列読み取りの最高5%にまで達した。挿入を最も高頻度で示した10箇所の遺伝子座は、時点ごとにかなり多様であった(
図22d)。とりわけ、ID−LVで形質導入された単球は、ゴルジン(golgin)抗原7(GOLGA7)をコードする遺伝子の遺伝子座への再発性の挿入を示した。GOLGA7を含む遺伝子座は、すべての時点のID−LVにおいて、最も高頻度のISであったが、この頻度は経時的に低下した。両方のタイプのベクターで挿入が起こった共通の遺伝子座の他のものには、WDR74(マウスにおける胚盤胞形成に必要とされるタンパク質)、ジンクフィンガータンパク質37A(ZNF37A)およびテンシン相同膜貫通ホスファターゼ(TPTE)がある。これらすべてのタンパク質のRNA発現は、通常は遍在的であり、ヒトにおける未知の発癌機能を有する白血球で検出できる。
【0262】
SmyleDC/pp65のHCMV感染症はインビトロにおけるウイルス複製を妨げる
単球由来DCは、HCMV感染を受けやすいことが知られており、それらが活性化されたDCに分化する際に、ウイルス複製が観察された(Riegler et al.,2000)。したがって、SmyleDC/pp65の安全に関する1つの重要な側面は、この細胞産物が、例えばHCMV血清陽性ドナーから作製された場合、HCMVの伝染をなお許容するかどうかであった。この点について検討するため、異なるタイプのレンチウイルスベクターを導入したDC、すなわち、GM−CSFおよびIFN−αを発現するSmyleDCならびにGM−CSFおよびIL−4を同時発現するSmartDCを比較した(Daenthanasanmak et al.,2012)。樹状細胞を、MOI 2で、GFPを発現している遺伝子組み替えウイルス株HCMV−TB40/Eに感染させた。以前に記述されている通り(Sinzger et al.,2008)、感染したヒト線維芽細胞(HF)をポジティブコントロールとして使用した。染色されていない細胞を蛍光顕微鏡検査を使用して観察した。緑色蛍光シグナルは細胞の感染を示す。この実験では、蛍光シグナルは、IFN−αを発現していないSmartDCで10日目に観察されるのみであった(
図24a)。これらの結果をFACS分析で確認した。感染の7日後には、HF細胞の約50%が感染していた。これは、フローサイトメトリー分析によってGFP
+細胞として示された。SmartDC培養における細胞の約0.5%はHCMV感染を示したが、SmyleDCおよびSmyleDC/pp65細胞は、ほぼベースラインのGFP
+細胞(<0.06%)を示した。ウイルス持ち越しによる人為現象の可能性を排除するために、MOI 1でこの実験を繰り返し、ウイルス感染の後に、細胞をしっかりと洗浄した(5回)。GFP発現の動態分析は、感染後2日目から10日目までHCMV感染したHFの量が増大したことを示した(
図24a)。SmartDCでは、GFP
+細胞の頻度は、最初2%であり、4日目には0.2%に減少しており、その後10日目には0.6%まで増加した。SmyleDCおよびSmyleDC/pp65でも、最初の感染が約2%であったが、培養におけるその後の時点でさえ、GFP
+細胞の頻度は0.06%未満であった。これらの分析は、CD80をモニターすることによって補われた。CD80は、活性化されたDCで上方制御されるが、HCMV感染後に調整されることが示されている(Moutaftsi et al.,2002)重要な同時刺激マーカーである。偽感染した細胞では、上記3つのタイプのDCで、CD80の発現が同程度であった(細胞の50%で検出可能)。一方、HCMV感染において、SmartDCではCD80発現が下方制御された(10日目に細胞の20%で検出可能)が、SmyleDC、とりわけSmyleDC/pp65では、ウイルス感染後に増大した(10日目に細胞の80%で検出可能)(
図24b)。細胞が新しいビリオンを放出できたかどうか評価するために、各時点から収集した上清をプラークアッセイによって分析した(
図24c)。感染したHFは、4日目に多量のウイルス放出を示し(1.4×10
6pfu/ml)、10日目(1.35×10
6pfu/ml)まで徐々に減少し、培養細胞の大部分が溶解した。DC培養の0日目には、残存量のウイルスが検出できたのみであった(120〜300pfu/ml、DC表面に付着し、その後放出された、残っていた持ち越しウイルスを反映している可能性がある)(
図24c)。培養の4日目まで、すべてのDC群で、放出ウイルスが検出不能であった。SmartDCでは、6日目にウイルスの放出が始まり(5pfu/ml)、これは10日目(35pfu/ml)まで徐々に増大した。対照的に、SmyleDCまたはSmyleDC/pp65細胞上清では、その後のウイルス放出が観察されなかった。したがって、たとえDCが最初に感染していたとしても、SmyleDCおよびSmyleDC/pp65によるIFN−α発現は、IL−4を発現するSmartDCよりも、HCMVの感染および放出をより強くコントロールしているようであった。
【0263】
自家SmyleDC/pp65によるCTLのインビトロ刺激および増殖
CD4
+ヘルパーT細胞およびCD8
+CTLは両方とも、初期HCMV感染(Gamadia et al.,2003)およびHCT後におけるHCMVの再活性化(Einsele et al.,2002)におけるウイルス複製の制御において、個体を保護するのに必要である。SmyleDC/pp65が、HCMV血清応答陽性HDから得られた両方のタイプのT細胞(形質導入後の7日目に採取した)を活性化することができたかどうかを、フローサイトメトリー分析に基づく16h IFN−γキャッチアッセイを使用して評価した(n=3)(
図25a)。対照群として、本発明者らは、無刺激、pp65ペプチドプールによる刺激(このアッセイの標準的なポジティブコントロール)、およびpp65抗原を提示していないSmyleDCを含めた。これらの健常ドナーおよび短いアッセイ条件では、本発明者らは、pp65ペプチドで刺激した際に、IFN−γ産生CD4
+またはCD8
+細胞の頻度の増加を観察しなかった。pp65ペプチドによる刺激とは対照的に、SmyleDC/pp65で刺激されたCD3
+T細胞では、IFN−γ産生CD4
+T細胞(18倍、p<0.05)およびCD8
+T細胞(5倍、p<0.05)の頻度の有意な増大が生じた。pp65抗原を提示していないSmyleDCは、IFN−γ産生CD4
+およびCD8
+細胞に対する、より弱いが、一貫した刺激を示した。これは、放出されたIFN−αが、T細胞を活性化して、IFN−γを産生させる直接的な刺激作用(Hervas-Stubbs et al.,2011)による可能性が高い。
【0264】
抗原特異的なCD8
+エフェクター細胞の活性化に及ぼすpp65発現の作用をさらに明らかにするため、本発明者らは、CTLを増殖させて以降の機能アッセイ用に十分な数になるように、A
*02;B
*07ドナー(n=3、HCMV血清応答陽性)から得られたDCおよびT細胞の2つの連続したミクロ培養を行った(
図25b)。精製された自家CD8
+T細胞と同時培養されたSmyleDC/pp65は、刺激となる組み換え体サイトカイン(IL−2、−7および−15)の存在下におけるT細胞の維持と比較して、7倍高いT細胞増殖をもたらした。注目すべきことに、SmyleDCとCTLの同時培養も、より高いT細胞増殖(12倍)をもたらした。これは、刺激が部分的に恒常性作用により、抗原に依存しないことを示す。ミクロ培養系における同様の増殖は、SmyleDC/pp65とCD3
+T細胞との同時培養の後でも観察された。それでも、唯一SmyleDC/pp65の存在下で増殖したCTLは、高頻度のpp65特異的なT細胞を示し、これをペンタマー染色によって分析した(A
*02拘束性エピトープpp65 a.a.495〜503:平均=7.7%、P値<0.05;B
*07拘束性エピトープpp65 a.a.417〜426:平均6.4%、P値<0.1)(
図25b)。SmyleDCまたはSmyleDC/pp65で刺激され、インビトロ増殖したCTLを、その後、細胞傷害性機能について評価された。A
*02(KA
*02)またはB
*07(KB
*07)を構成的に発現するように遺伝的に改変され、高レベルのpp65抗原を発現するようにレンチウイルスで形質導入されたK562細胞を標的として使用した(
図25c)。CTLを、異なったエフェクター対標的(E:T)比で4時間同時インキュベートし、乳酸脱水素酵素(LDH)の放出について細胞上清を評価した。SmyleDCと共に増殖したCTLは、KA
*02またはKB
*07標的との同時インキュベーションの際に、標的においてpp65抗原が発現したかしないかに関わらず、類似した細胞傷害性の作用を示した。対照的に、SmyleDC/pp65で刺激されたCTLは、pp65を発現するK562標的細胞を用量依存的により効果的に溶解させた(
図25c)。このデータは、pp65特異的なT細胞刺激を生み出すようにベクターを導入したDCにおけるpp65同時発現のインビトロ作用を確認した。
【0265】
ヒト成体CD34
+細胞を移植され、SmyleDC対SmyleDC/pp65で免疫処置されたNRGマウスの造血再構成
CD8
+増殖に及ぼすSmyleDC/pp65のインビボ作用を実証し、B細胞および液性応答に及ぼす可能性のある適応作用を評価するために、4週齢の放射線照射されたNRGマウスに、磁気ビーズを用いた2ラウンドの選択の後にG−CSF動員幹細胞ドナーから得られたCD34
+細胞を移植した(
図26a)。HCTの10週後に、末梢血の分析によって、ヒト造血細胞の生着がすべてのマウスで同等のレベルであることが確認された。この時点における、マウス細胞と比較したヒトCD45
+細胞の平均頻度は約2.5%であった。このHCTヒト化マウスモデルについて本発明者らが以前に観察した通り(実施例3参照)、過半数のヒト細胞(80〜90%)はB細胞(CD45
+/CD19
+細胞と定義する)であった。ヒトT細胞の頻度は、それよりかなり低く、ヘルパーT細胞(CD45
+/CD4
+細胞と定義される;1〜6%)が明らかに優性であったが、CTLは極めて低い頻度(CD45
+/CD4
+細胞と定義される;最大3%まで)であった。したがって、適応造血再構成、すなわちT細胞およびB細胞の増殖に及ぼす作用を評価するために、同じHSCドナー材料から精製されるCD14
+単球を「自家」SmyleDCまたはSmyleDC/pp65を製造するのに使用した。HCT後の10週目および11週目に単回の初回刺激/追加刺激としてDCワクチン接種を行った。HCT後の13週目に中間PBL分析を行った後、巨視的病理検査および組織収集を行うために、20週目にマウスを屠殺した。最初に、本発明者らは、血中で検出可能なヒトT細胞およびB細胞の動態分析を行った。SmyleDCまたはSmyleDC/pp65で免疫処置されたマウスは、13〜20週目に、ヒトヘルパーT細胞(平均50%)およびCTL細胞(30%)両方の頻度の顕著な増大を示した(
図26b)。このモデルを使用した本発明者らのグループの以前の結果は、免疫処置されていないHCT対照が、20週目において、10週目と同様に、ヒトヘルパーT細胞とCTLを同様のレベルで示したことを示した(「実施例2」参照)。付随して、最後の免疫処置(13週目)の2週間後とは対照的に、DC初回刺激/追加刺激(20週目)の9週間後に観察された作用は劇的であった。この点で、最も高頻度のヒト細胞はT細胞であり、これは、両方のワクチン群でCD4
+T細胞が約40%を占めていた。一方、本発明者らは、SmyleDC免疫処置では平均的17%のCD8
+T細胞を観察し、SmyleDC/pp65免疫処置では平均30%のCD8
+T細胞を観察した(p>0.5)(
図26b)。CD4/CD8比(SmyleDCでは2.6、SmyleDC/pp65では1.5、p=0.07)を低下させるSmyleDC/pp65のより顕著な作用を示すこれらの結果は、本発明者らのインビトロT細胞刺激アッセイと結果と一致しており、CTL増殖に及ぼすpp65発現の作用を実証するものである。同時に、分析の20週目に、両方の免疫処置群におけるB細胞の頻度が、10週目における初期の90%と比較して、約10%まで有意に低下した(
図26c)。したがって、これらの結果は、免疫処置の際に、ベクターを導入されたDCが、HSCの発生の優先順位をなんらかの方法でB細胞からT細胞に切り替えることができたことを示した。本発明者らは、脾臓におけるヒトT細胞(37%Th、18%CTL、および33%B細胞)の優性な再増殖を観察した。脾臓内の細胞の約33%がヒトCD45
+リンパ球であった。これは、PBLに比べて3倍高い頻度である。骨髄でも同様に高頻度のヒトTリンパ球が検出された(約17%がヒト細胞;このうち、35%がTh、26%がCTL、29%がB細胞)。脾細胞における表現型T細胞マーカーの分析は、マウス部分集団(SmyleDCではn=5およびSmyleDC/pp65ではn=2)でのみ可能であった。ナイーブ、セントラルメモリー、およびエフェクターメモリーの頻度がさらに均衡していたSmyleDC免疫処置とは大きく異なり、SmyleDC/pp65で免疫処置されたマウスから分析されたTh細胞は、より優性なエフェクターメモリー表現型を示し、ナイーブ細胞は残存レベルしか示さなかった(
図26d)。同時に、エフェクターメモリーCTLの頻度は、SmyleDC/pp65免疫処置後よりもわずかに高かった。したがって、B/T細胞コンパートメントだけが免疫処置後に変わったのではなく、T細胞活性化のレベルも変わったのである。本発明者らは、マウスの移植片対宿主病のいずれの徴候もモニターした。T細胞の頻度および活性化の劇的な上昇にもかかわらず、GVHDが観察されたのは、SmyleDC/pp65で免疫処置された16匹のマウスのうちのわずか1匹であった。PBL分析は、PBL、脾臓、および骨髄でエフェクターメモリーThおよびCTL細胞の頻度が高いことを示した。
【0266】
HCT後におけるSmyleDC/pp65の機能性および恒常性ヒトT細胞およびB細胞作用
様々な造血系列の再構成に及ぼす作用に加えて、本発明者らは、SmyleDC/pp65で免疫処置されたHISマウスの機能的免疫応答に関するいくつかの特性を特徴付けた。PBL−CD34
+HSCを移植され、SmyleDC/pp65で免疫処置されたマウスは、マウス血漿で検出可能だったいくつかのヒトサイトカインのレベルの劇的な増加を示した(
図27a)。これらのサイトカインは、偏りの無いTh1/Th2パターンを反映したものであり、IL−5(好酸球活性化に関連)およびMCP1(単球およびマクロファージの移動および浸潤を調節するケモカイン)に加えて、Th1型のサイトカイン(10pg/mlまで:IL−5(IL−β);10pg/ml超:IFN−γ、GM−CSF、TNF−α、IFN−α)も、Th2型のサイトカイン(10pg/mlまで:IL−12、IL−4、IL−10、IL−6、IL−8;10pg/ml超:IFN−γ)も検出された。注目すべきことに、MCP1を例外として、これらのサイトカインは、SmyleDC免疫処置後のマウス血漿では検出可能でなかった。これは、T細胞およびB細胞との免疫シナプスを安定化させ、広範なヒトサイトカインおよびケモカインの産生を促進する、DCによる内因性pp65抗原提示の重要な役割を示す。
【0267】
抗pp65特異的なT細胞応答を評価するため、SmyleDC/pp65で免疫処置されたマウスの脾細胞をプールし、選別されたヒトTh細胞およびCTLをCD2/CD3/CD28ビーズで非特異的に活性化し、更なる分析を可能にするためにSmyleDC/pp65と共にさらにインビトロ増殖させた。ELISPOTアッセイを使用して、1週間の刺激の後における抗pp65応答を評価した。T細胞にpp65をパルス添加した後、本発明者らは、CD8
+T細胞とCD4
+T細胞の両方の応答性(定量化されたIFN−γ陽性スポットとして測定される)を観察したが、pp65ペプチドをパルス添加されなかったCD4
+も活性化されたので、CD8
+T細胞応答性のみがpp65に特異的であることが示された(
図27b)。
【0268】
もう1つの重要な免疫モニタリングパラメータは、HCTおよび免疫処置の後のマウスの血清転換であった。とりわけ、幾つかのタイプのヒト免疫グロブリンがSmyleDC/pp65免疫処置後に検出可能であった(IgA、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、およびIgGM)(
図27c)。SmyleDCワクチン中に抗原がない場合には、本発明者らは、IgM産生しか観察することができなかった。したがって、SmyleDC/pp65の抗原提示は、B細胞発生中に、Ig−スイッチを促進した。pp65に対して特異的な血漿免疫グロブリン応答性の分析は、検出可能なレベルのIgMを示した(
図27d)。
【0269】
ヒト臍帯血CD34
+細胞を移植され、様々な用量のSmyleDC/pp65で免疫処置されたNRGマウスの造血再構成
UCBは、極めて未熟な分化段階にあるHSCおよび前駆細胞の豊かな供給源である。それ故、レンチウイルスベクターを導入したDCの、インビボ造血再構成における作用について検討するより厳格なモデルとして、本発明者らは、UCBから単離されたCD34
+細胞をHSCの供給源として用いた。UCB単球からのSmyleDC/pp65の生成は、本発明者らの標準的なプロトコールを使用して可能だった。NRGマウスへのCD34
+UCBTの導入は、1用量1.5×10
5個の細胞を放射線照射された4週齢のマウスにi.v.注射することで、再現性をもって確立することができた(
図28a)。本発明者らは、PBL−CD34
+モデルについて行ったように、すなわち、HCT後の10週目および11週目に、免疫処置されていないマウスをSmyleDC/pp65で免疫処置されるマウスと比較した。加えて、HSCがより未熟な状態にあり、かつ潜在的によりアネルギー性の環境にあることを考慮に入れて、本発明者らは、さらに初期、HCT後の6週目および7週目にも、SmyleDC/pp65免疫処置を投与した(
図28b)。免疫処置されていない対照マウスは、HCTの10週間後に、循環リンパ球の60〜80%がヒト起源であり、そのうち>90%をB細胞が占め、約10%をT細胞が占めることを示した(
図28b)。HCT後の10週目から16週目まで、本発明者らは、血中におけるTh細胞およびCTLの頻度が連続的かつ漸進的に増加し、Thのピークが20%となり、CTLのピークが10%となることを観察した。CD4/CD8比は、SmyleDC/pp65による1回の初回刺激/追加刺激ワクチン接種では変わらなかった(対照の3.1に対して、ワクチン接種されたマウスの16週目では2.6、p=0.45)が、2回の初回刺激/追加刺激SmyleDC/pp65ワクチン接種の後には、最後の16週目の時点で、CD4/CD8比の低下が観察された(1.6、p=0.09)。B細胞の頻度は、SmyleDC/pp65免疫処置の後、影響されなかった(すべての群で、ワクチン接種の前の約90%から16週目の約50%までの範囲にあった)。これらのことが見出されたのに加えて、より強力なSmyleDC/pp65免疫処置によって、HCT後の10週目から16週目までの時点における、より高頻度のエフェクターメモリーCTL(それぞれ9%と29.5、p=0.1、
図28c)に関する量的作用も示した。脾臓では、強力な4×SmyleDC/pp65免疫処置の後に、全CTL(対照マウス1.1×10
6に対して2.7×10
6、p=0.18)、ナイーブCTL(対照マウス0.3×10
6に対して0.8×10
6、p=0.46)、およびEM CTL(対照マウス0.3×10
6に対して1×10
6、p=0.18)の絶対細胞数が増加した(
図28c)。
【0270】
SmyleDC/pp65免疫処置は胸腺T細胞発生を強化する
本発明者らは、臍帯血幹細胞再構成に由来する成熟T細胞の増殖が末梢胸腺外事象であるのか、または胸腺内でT細胞の発生を強化するSmyleDC/pp65免疫処置の結果でもありえたのかを評価した。本発明者らは、SmyleDC/pp65(2×)で免疫処置されたマウスの胸腺において、有意に高い頻度の二重陽性CD4
+/CD8
+およびCD3
+lo;TCRαβ
−T細胞前駆体を観察した(
図28d)。これは、胸腺T細胞発生の回転率が高くなっており、その結果、CTLの数が多くなりうることを示す。そのようなCTLは、次いで、末梢における(LNおよび脾臓で)後続の抗原刺激および成熟T細胞への進行のためにナイーブT細胞として血中に動員される可能性がある。
【0271】
SmyleDC/pp65免疫処置は胸腺T細胞発生を強化する
耐容性と関連づけられているT細胞系列におけるSmyleDC/pp65の影響を評価するため、本発明者らは、CD4
+FoxP3
+CD25
+CD127
−調節性T細胞(Treg)の頻度を調べた。SmyleDC/pp65免疫処置は、成熟して機能的なヒトCTLの再構成およびUCBT後の液性応答を改善したが、調節性CD4
+FoxP3
+CD25
+CD127
−T細胞の中程度ではあるが、注目すべき程度の増殖も観察された。とりわけ、4×SmyleDC/pp65免疫処置は、血中におけるその頻度を増大させた(6.7%;4×SmyleDC/pp65対対照、p=0.06、
図28e)。エフェクターおよび免疫寛容誘導性細胞の均衡のとれた再生は、移植片対宿主病(GVHD)の発症に対抗する免疫寛容誘導性能力を与えている可能性がありうる。注目すべきことに、UCB由来のHSCを移植され、16週間まで継続的に観察されたマウスは、GVHDを発病しなかった。
【0272】
機能的なヒト免疫系で再構成されたNRGマウスにおける無徴候または軽度のグレード1 GVHD
造血幹細胞の異種移植の後、完全に機能するヒト免疫系をマウスで再構成する場合、マウスの移植片対宿主病が懸念される。結局、レシピエントのHLA分子は、ドナーのHLA分子とはまったく適合しない。この理由から、上述の実施例で使用された動物をGVHDの徴候および症状について評価した。評価は、腸の炎症および/または調節性免疫細胞の頻度などの解剖的な特徴に基づくものであった。解剖的な評価は、熟練した病理学者が行った。評価の結果を表3にまとめる。
【0273】
結果は、再構成されたヒト免疫系が、たとえそれが他の点で機能的であっても、マウスにおいてGVHDの中等度または重度の徴候を引き起こさなかったことを示している。したがって,造血幹細胞移植後のレシピエントにおける機能的な免疫系の再構成を補助するための本発明のiDCの使用は、レシピエントの組織に対する、移植された免疫系の耐容性を誘導する可能性を有する。したがって、マウスとヒトの間の白血球抗原の違いは様々なヒトのHLA分子の違いよりも大きいという事実を考えると、本発明のiDCの使用は、移植後のGVDHを最小にするために現在適用されている適合性判断基準を満たさないドナーを使用する同種間のHSC移植を可能にする可能性を有する。iDCのこの使用は、所与の患者のための潜在的ドナーの範囲をかなり広げ、それ故、HLA分子の希少な組合せを有するレシピエントのドナーを見つける可能性を有する。
【0274】
考察
同種異系HSCの移植は、高リスク血液系悪性腫瘍の患者の有効な治療オプションであるが、HCMV感染は、生存をかなりの危険に曝す。本発明者らの結果は、初期CMVプロモーターの制御下に、GM−CSF、IFN−γ、およびHCMV pp65抗原をコードしている3シストロンID−LVが、G−CSF動員されたドナーの末梢血および臍帯血に由来するヒトCD14
+単球を高効率で再プログラムできることを示す。単球をID−LVベクターに1終夜曝露すると、それらは、高い生存能力、免疫学的特性(MHC II、同時刺激分子、および炎症性サイトカインの発現)、ならびにGM−CSF、IFN−γ、およびpp65の構成的発現を有する、7日間自律的に維持されるDCに自己分化する。pp65の異所性発現がIFNシグナリングを阻害する可能性があると以前に報告されている(Browne and Shenk, 2003)が、本発明者らの観察では、この3シストロンベクターにおいてシスに発現されたpp65の有害作用がみられなかった。これは、DCの再プログラムのために、2つのベクターを使用してpp65をトランスで同時発現させた本発明者らの以前の研究を支持する(Daenthanasanmak et al.,2012;Salguero et al.,2011)。
【0275】
MOI 5のID−LVを用いた単球の形質導入の結果、1細胞当たり0.3コピー未満のベクターとなり、組み込みパターンの分析は、高いポリクローナル性があり、以前に記載されているがん原遺伝子クラスターへの偏りがないことを示した。GOLGA7クラスター領域へのID−LVの組み込みが最も高頻度の「ホットスポット」のようであった。これは、活性化樹状細胞に分化する過程にある活性化単球の活性転写領域を反映している可能性がある。GOLGA7は、偏在的に発現されるタンパク質であり、ゴルジから原形質膜までタンパク質を輸送するパルミトイル化酵素として機能する(Ohta et al.,2003)。GOLGA7遺伝子発現は、活性化されたDCで増大する(Cuiffo and Ren, 2010;Li et al.,2000)。DCおよびB細胞活性化の間、MHCIIは、内部小胞から原形質膜へと能動的に外面化され、GOLGA7は、ゴルジ装置を通したタンパク質輸送で重要な役割を有している可能性がある。GOLGA7は、8番染色体における、骨髄単球性白血病におけるトリソミーモザイク現象と関連している領域に位置している(Ripperger et al.,2011)が、原がん遺伝子であると知られているわけではない。しかし、組み込み部位についてIC−LVが何故同じ選好性を示さなかったかは、未だ機構的に解明されてはいない。これは、活性化された単球のゲノムにおけるID−LVの組み換えおよび最終的な組み込みは、IC−LVよりも、転写活性の高い「開いた」ゲノム領域に偏っているかもしれないことを示している。それでも、レンチウイルスベクターを導入したDCのどちらのタイプも、造血幹細胞を遺伝的に改変するのに使用したレンチウイルスベクターの前臨床研究で特徴付けられた最も知られているホットスポット(KDM2A、PACS1およびTNRC6C)(Aiuti et al.,2013)への組み込みを示さなかった。これは、細胞型および活性化刺激によって異なるであろう活発に転写されているクロマチン領域に組み込まれるHIV−1の挙動を反映している。
【0276】
CD34
+およびCD14
+前駆細胞からインビトロ誘導された樹状細胞は、HCMVに極めて感染しやすく、HCMVの完全な複製サイクルを妨げないことが報告されていた(Hertel et al.,2003;Riegler et al.,2000)ので、本発明者らは、安全性に関する潜在的な懸念として、SmyleDC/pp65がHCMVを伝染させうるかどうか調べた。内皮向性株TB40/E−GFPを用いた本発明者らのインビトロ感染研究は、IL−4を発現するSmartDCが、HCMVに、より感染しやすく、HCMVの伝染を引き起こすことから、SmyleDCによるIFN−γの強い発現がウイルス複製を阻害しうることを示した。とりわけ、SmyleDCおよびSmyleDC/pp65をHCMVにインビトロ曝露すると、T細胞を同時活性化するのに極めて重要な同時刺激分子であるCD80の上方制御が起きた。これは、構成的なIFN−γも、これらのDCに及ぼすHCMVの潜在的な免疫抑制作用を妨げたことを示唆する。
【0277】
臨床的に、pp65特異的なCD4
+およびCD8
+T細胞は、HCMVクリアランスで極めて重要な役割を果たすことが実証された。本発明者らの結果から、本発明者らは、CD4
+およびCD8
+T細胞応答を刺激する、ベクターが導入されたDCにおいて内因的に発現されたpp65の明らかな作用をインビトロで観察した。これは、IFN−γ細胞内染色の上方制御およびpp65免疫優性エピトープに対する応答性TCRを有するT細胞の増殖によって検出された。さらに、増殖したpp65特異的なCD8
+T細胞は、pp65抗原を発現している標的細胞に対して、優れた細胞溶解活性を示した。
【0278】
強力なインビトロ抗原性刺激に加えて、SmyleDC/pp65は、HCTおよびUCBTヒト化マウスモデルにおける造血再構成を加速させた。本発明者らのインビトロ結果と同様に、免疫処置に使用されたDCによるpp65抗原の発現は、血中および脾臓内のヒトエフェクターCTLの頻度を量的および/または質的に高めた。SmyleDC/pp65免疫処置の後、胸腺内で新規に発生した、いくつかの組織に生体分布したT細胞は、主にメモリーT細胞となったが、抗原(HCT後のSmyleDC免疫処置)がない場合、本発明者らは、血中におけるナイーブCTL部分集団の増殖を主に観察した。SmyleDCでワクチン接種されたマウスの脾臓および骨髄で観察されたエフェクターメモリーCTL集団の分化を何が推進したかは明らかでない。それらは、PBL−HCT後の免疫処置されていないマウスでも観察されたように、マウス異種抗原に応答性のT細胞を代表しているのかもしれない(実施例2参照)。
【0279】
HCT後におけるヒト化モデルの免疫再構成の限界の1つは、成熟したB細胞の再構成が不十分であることと、Igクラススイッチの欠如である。注目すべきことに、IgM、IgG、およびIgAは、HCT後にSmyleDC/pp65で免疫処置されたマウスにおいて高レベルで検出された(しかし、SmyleDCでは検出されなかった)。これは、pp65抗原は、Igクラススイッチについて、B細胞の成熟に影響を与えているかもしれないという考えを支持している。ヒト化マウスでの研究は、B細胞成熟がエフェクターT細胞の発生と相関していることを実証した(Lang et al.,2013)。したがって,SmyleDC/pp65群によって推進されたpp65特異的なCD4
+T細胞の増殖は、B細胞成熟、Igクラススイッチ、および抗原特異的な特異抗体の分泌に必要なCD40Lなどの極めて重要な成熟因子を提供している可能性がある。GM−CSFおよびIL−4などの組み換え体サイトカインの送達(Chen et al.,2012)またはHLAクラスIもしくはIIのトランスジェニック発現(Jaiswal et al.,2012;Suzuki et al.,2012)など、HISマウスにおける適応免疫応答を改善する努力がいくつかなされている。SmyleDC/pp65は、移植されたHSCと完全にHLA適合し、広範なサイトカインを発現して、強力な抗原性シグナルを提供するので、これらの必要条件のいくつかを満たし得る。
【0280】
若年のヒト患者では、リンパ球枯渇後のT細胞免疫再構成が活発な胸腺リンパ球新生を介して起こりうるが、年配の成人では、主に末梢増殖したクローンの恒常性維持増殖を介して起こる(Williams et al.,2007)。恒常性維持増殖は、末梢T細胞プールの迅速かつ顕著な増殖をもたらし、恒常性維持サイトカインおよびリンパ球減少後の期間における抗原誘発応答に依存している(Williams et al.,2007)。HCMVに対するいくつかのワクチン候補が現在臨床試験で評価されているが、生存力が高く、潜在的に大規模産生が可能であり、抗原性免疫再構成および恒常性維持免疫再構成の両方を提供する個別化されたベクター導入樹状細胞ワクチンは、HCT後およびUCBT後の死亡率および罹患率を下げる有望な臨床技術革新である。
【0281】
HCMVが神経膠腫および乳がんなどの悪性疾患の病原ウイルスでありうることを示した病理学的および臨床的証拠が増加している(Soderberg-Naucler et al.,2013;Taher et al.,2013)。HCMVによる悪性造血細胞の感染は報告されていないが、HCTレシピエントまたはドナーのHCMV陽性血清状態は、急性白血病患者(特に急性リンパ性白血病)の生存に負の影響を与える(Schmidt-Hieber et al.,2013b)。さらに、HCT後早期にHCMV再活性化があった急性骨髄性白血病患者は、再発のリスクの低下を示した。これは、推定上の「ウイルス対白血病」作用(Elmaagacli, 2013;Green et al.,2013)またはHCMVが、白血病再発を増加させる病原ウイルスでありうることを示唆している。したがって,移植片対白血病を改善し、白血病再発率を低下させるという根拠で、HCTの後のHCMVを制御する免疫処置も探究される可能性がある。それ故、高リスクの急性白血病に対する将来の免疫治療臨床試験のために、ウイルス生産の規模を大きくし、医薬品の製造および品質管理に関する基準(GMP)に従ったSmyleDC/pp65生産の検証が開発中である。
【0282】
材料と方法
プラスミド構築およびインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(ID−LV)の生成
レンチウイルスバックボーンベクターRRLは、Luigi Naldini教授(ミラノ大学(Univ. Milan))より贈与された。ベクターRRL−cPPT−CMVp−GM−CSF−P2A−IFN−α(LV−G2α)およびRRL−cPPT−CMVp−pp65(65kDa)の構築は、以前に記載されている(Daenthanasanmak et al.,2012)。LV−GM−CSF−P2A−IFN−α−F2A−pp65(LV−G2α−pp65)を作製するために、口蹄疫ウイルスの2Aエレメント(F2A)が間に入った鋳型として、ヒトGM−CSF−IFN−αおよびpp65のcDNAを使用してオーバーラップPCRを行った。F2Aエレメントを用いたLV構築の戦略は、以前に記載されている(Szymczak and Vignali, 2005)。IFN−αとpp65の間に入るF2Aエレメントを作製するのに使用したプライマーは、F2A/pp65 Forward:5’−CCGGTGAAACAGACTTTGAATTTTGACCTTCTCAAGTTGGCGGGAGACGTGGAGTCCAACCCAGGGCCCATGGAGTCGCGCGGTCGCCGTTG−3’(配列番号7)およびF2A/IFN−α Reverse:5’−TGGGTTGGACTCCACGTCTCCCGCCAACTTGAGAAGGTCAAAATTCAAAGTCTGTTTCACCGGTTCCTTACTTCTTAAACTTTCTTGCA−3’(配列番号8)であった。PCR産物を制限酵素XbaIおよびClaIで消化し、RRL−cPPT−CMVp−MCSベクターの多重クローニング部位に挿入した。すべての構築物の構造完全性を制限消化およびシーケンシング分析によって確認した。大規模レンチウイルス生産は、以前に記載されているように、ヒト胎児由来腎臓293T細胞の一過性同時形質移入によって行った(Stripecke, 2009)。ID−LVの生成は、バックボーンベクターと下記のパッケージングプラスミドの組合せを同時形質移入で使用して行った。D64V点変異を含むgag/polを発現するプラスミド(ハノーヴァー医科大学のAxel Schambach教授より贈与)、およびrevを発現するプラスミド、およびVSV−Gエンベロープをコードするプラスミド。
【0283】
ID−LVでレンチウイルスベクターを導入したDCの作製
末梢血単核細胞(PBMC)は、HLA−A
*02.01/HLA−B
*07.02陽性HCMV応答性の成人健常ボランティアから、白血球アフェレーシスはG−CSF動員ドナーから、臍帯血は、ハノーヴァー医科大学の倫理審査委員会の承認を得た研究プロトコールに従って得た。CD14
+単球からレンチウイルスで誘導されたDCの作製は、以前に記載されている(Daenthanasanmak et al.,2012)。簡潔には、CD14単離ビーズ(Miltenyi Biotech、Bergisch−Gladbach、Germany)を使用してPBMCからCD14
+を単離した。形質導入前の8時間、組み換え体ヒトGM−CSFおよびIL−4(各50ng/ml、Cellgenix、Freiburg、Germany)で単球をあらかじめ調整した。2.5μg/mL p24相当のID−LV−G2α/pp65を使用して、5μg/mlの硫酸プロタミン(Valeant、Dusseldorf、Germany)の存在下、感染多重度(MOI)5で16時間、5×10
6個の単球への形質導入を行った。形質導入後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、無血清X−vivo培地(Lonza)による培養でさらに維持するか、マウスの免疫処置に直接使用した。
【0284】
サイトカインおよび導入遺伝子発現の分析
293T細胞溶解物中および上清中のHCMV pp65タンパク質の検出は、ウエスタンブロット解析(Bio−Rad、Munich、Germany)で測定された。SmyleDC/pp65における細胞内pp65の発現については、以前に記載されているように(Daenthanasanmak et al.,2012)、細胞内染色およびフローサイトメトリーによって行った。最初に、SmyleDCをDC表面抗原について抗ヒトCD14、HLA−DR、HLA−ABC、CD80、CD86、CD83、CD11c、およびCD123モノクローナル抗体の組合せで染色し、次いでBD cytofix/cytoperm溶液(Becton Dickinson GmbH、Heidelberg、Germany)で固定および透過化処理し、HCMV−pp65に対するFITCコンジュゲートマウスモノクローナル抗体(Pierce Biotechnology、Rockford、USA)と共にインキュベートした。分析は、CellQuestソフトウェアを使用したFACS Calibur装置(Becton Dickinson)で行った。SmyleDC培養物の細胞上清中のサイトカインの検出は、製造業者の指示に従って使用した多重luminexビーズキット(Milliplex Milipore、Billerica、USA)によって行った。
【0285】
組み込み分析
10、20および30日間培養で維持されたIC−LVおよびID−LVから生じたSmyleDC/pp65を、以前に記載されているように(Schmidt et al.,2007)、LAM−PCR方法によってウイルスコピー数および組み込み部位分析で評価した。組み込まれたLVのコピー数をqPCRによって定量化した。
【0286】
HCMV−TB40/E GFPの感染およびプラークアッセイ
HCMV TB40/E GFP株を、以前に記載されているように(Sinzger et al.,2008)増殖させたところ、ウイルス力価は1.75×10
7pfu/mlであった。各タイプの標的DCを、各時点(感染の0、2、4、6、8、および10日後(d.p.i))に5×10
5細胞ウェルで6ウェルに播種した。ヒト線維芽細胞(HF)をポジティブコントロールとして使用した。DCおよびHF細胞を24時間HCMV(MOI 2および1で)に感染させた。感染後、細胞をPBSで洗浄し、10%FBSならびに1%のペニシリンおよびストレプトマイシンを補ったDMEMによる培養で維持した。感染した細胞を各時点にGFP分析用に採取し、DCの表面染色のためにPEコンジュゲート抗ヒトCD80を使用した。洗浄後、細胞を1%のパラホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメトリーによって分析した。プラーク形成アッセイのために、各時点に細胞上清を収集し、100μlの無希釈のDC上清または希釈したDC上清(10倍の連続希釈で20μl)を、48ウェルプレートに播種された単層のHF細胞に添加した。各上清および各時点につき2つの2連ウェルを用意した。2時間のインキュベーションの後、感染が細胞と細胞の間でのみ可能であることが確実となるように、500μlのカルボキシメチルセルロースを添加した。感染の4〜10日後にプラーク数を分析した。プラーク数を確認するため、10日目にギムザ染色を使用してプラークを染色した。力価(pfu/ml)は、2連ウェルで計数したプラーク数の平均値×希釈率/希釈液の体積(0.1ml)から計算した。
【0287】
インビトロ刺激されたpp65応答性T細胞の分析
PBMCから自家CD3
+およびCD8
+T細胞を、製造業者のプロトコール(Miltenyi Biotec)に従ってMACSシステムを使用して単離した。10μg/mlのPepTivator CMV−pp65オーバーラップペプチドプール(Miltenyi Biotec)またはDCで16時間刺激されたT細胞のIFN−γ細胞内染色分析のために、T細胞を採取し、APCコンジュゲート抗ヒトCD3、PBコンジュゲート抗ヒトCD4、およびPCy7コンジュゲート抗ヒトCD8抗体で染色した。Cyofix/perm(BD)で4℃、20分間、固定/透過化処理し、洗浄した後、染色のため、抗ヒトIFNγ(ebioscience)を30分間使用した。LSRII(Beckman Coulter)を使用したフローサイトメトリーによって細胞を捕捉し、分析した。ミクロ培養増殖系には、SmyleDCまたはSmyleDC/pp65(7日目)を単離された自家CD8
+T細胞と共に、5%ヒトAB血清を補ったX−vivo培地中、1:10(APC:T細胞)の比率で96ウェルプレートにて同時培養した。1ミクロ培養当たり、ガンマ線照射された自家CD8−フィーダー細胞(2×10
5)を添加した。3日間の後、IL−2(20 IU/ml)(Novartis Pharma GmbH、Germany)、IL−7およびIL−15(各5ng/ml、Cellgenix、Gladbach、Germany)を1日おきに細胞に補充した。7日後の再刺激のために、凍結保存されたDCを解凍し、T細胞に1:10の比率で添加した。再刺激されたT細胞を採取し、計数し、四量体染色によってpp65−応答性について分析した。PEコンジュゲート四量体(HLA−A
*0201−NLVPMVATV、pp65アミノ酸(a.a.)495〜503;HLA−B
*0702−TPRVTGGGAM、pp65 a.a.417〜426;Beckman Coulter)、APCコンジュゲート抗ヒトCD3、PBコンジュゲート抗ヒトCD4、およびPCy7コンジュゲート抗ヒトCD8を使用した。
【0288】
免疫不全NRGマウスへの造血幹細胞移植
NOD.Cg−Rag1
tmlMom Il2rg
tmlWjl(Nod.Rag1
−/−.IL2rγ
−/−、NRG)マウスの繁殖対を、IVCシステム(BioZone、United Kingdom)における病原体のない条件下で繁殖させ、飼育した。マウスが関与するすべての手順は、ニーダーザクセン州によって審査および承認され、ハノーヴァー医科大学の動物施設により提供されたガイドラインに従って行った。MACSシステムでG−CSF動員ドナーから単離された5×10
5個のヒトCD34
+幹細胞または臍帯血から単離された1.5×10
5個のCD34
+細胞を、4週齢の放射線照射されたNRGマウスの尾静脈に移植した。移植後の6/7週目および10/11週目に、初回刺激/追加刺激として5×10
5個の自家SmyleDCまたはSmyleDC/pp65を、後側腹部における皮下注射によってマウスにワクチン接種した。免疫処置前、10週目に、ベースラインフローサイトメトリー分析のために、各マウスから末梢血を収集した。血、血漿、脾臓、および骨髄を収集するために、20週目にマウスを屠殺した。PBL試料を赤血球溶解バッファー(0.83%塩化アンモニウム/20mM Hepes、pH7.2)中で、5分間2回処置し、PBSで洗浄し、ヒト抗体PBコンジュゲート抗CD45、APCコンジュゲート抗CD3、Alexa700コンジュゲート抗CD19、APHCy7コンジュゲート抗CD4、PCy7コンジュゲート抗CD8、FITCコンジュゲート抗CD45RA、PCy5コンジュゲート抗CD62Lで染色した。CD45RA
+CD62L
+陽性の細胞であるナイーブ細胞(N)、Tセントラルメモリー(TCM、CD45RA
−CD62L
−)、およびTエフェクターメモリー(TEM、CD45RA
−CD62L
+)によって、T細胞の部分集団を定義した。分析は、Flowjoソフトウェアを使用したFACS LSRIIフローサイトメーター(Becton Dickinson)で行った。T細胞エフェクター機能アッセイには、ヒトCD4
+およびCD8
+T細胞をMoflo装置(Becton Dickinson)で脾細胞から選別し、マウス(n=3)から得られた、選別されたCD4
+またはCD8
+脾細胞をプールし、CD2/CD3/CD28ビーズ(T細胞活性化キット、Miltenyi Biotec)でSmyleDC/pp65による7日間のインビトロ刺激の前に48時間刺激した。1ウェル当たり50,000個のT細胞を採取し、IFN−γ抗体コーティングされたELISPOTプレートに接種し、pp65ペプチドプールを終夜パルス添加した。プレートを製造業者(Mabtech、Germany)による記載の通りに発色させた。ペプチドをパルス添加されていない細胞を対照として使用した。マウス血漿中のサイトカインおよび免疫グロブリン(IgA、IgM、IgG1、IG2、IgG3、およびIgG4)のレベルを、製造業者のプロトコール(Milliplex Milipore、Billerica、USA)に従ってビーズアレイで定量化した。Treg頻度の分析には、単核細胞を、最初に、PBコンジュゲート抗CD45、FITCコンジュゲート抗CD3、Alexa700コンジュゲート抗CD4、APCコンジュゲート抗CD127、PCy7コンジュゲート抗CD25で表面マーカーについて染色した。Foxp3 fix/permバッファー(ebioscience)で4℃、30分間、固定/透過化処理し、その後洗浄した後、PEコンジュゲート抗Foxp3を使用して30分間染色し、その後洗浄し、さらに細胞捕捉へと進行した。
【0289】
胸腺の分析
胸腺を採取し、続いて単細胞懸濁液をPBコンジュゲート抗CD45、FITCコンジュゲート抗CD3、A700コンジュゲート抗CD4、APCコンジュゲート抗CD3、FITCコンジュゲート抗TCRαβ、およびFITCコンジュゲート抗TCRγδで染色し、その後洗浄し、LSRIIフローサイトメトリーによって分析した。胸腺の様々な発生段階におけるT細胞の分析。
DP:CD45
+/CD4
+/CD8
+、
CD4SP:CD45
+/CD4
+/CD8
−、
CD8SP:CD45
+/CD4
−/CD8
+、
CD3lo:CD45
+/TCRαβ
−/TCRγδ
−、
CD3αβhi:CD45
+/TCRαβ
+、
CD3γδhi:CD45
+/TCRγδ
+。分析は、FloJo(Tree Star Inc.、Ashland、OR)ソフトウェアを使用して行った。
【0290】
統計分析
統計的有意性を決定するのに、ノンパラメトリックマン・ホイットニーT検定統計分析を使用した。すべての検定は片側であり、P<0.05を有意とみなした。データは、GraphPad Prism 5ソフトウェア(San Diego、CA、USA)で分析した。
【0291】
参考
【0292】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0293】
表1:ConvDCで免疫処置された対照または免疫処置されていない対照との比較における、SmyleDCで免疫処置されたマウスの血中および脾臓内のヒトT細胞頻度の有意な増大
【表5】
【0294】
【表6】
【0295】
【表7】
【表8】
【0296】
併せて、以上に示したデータは以下のことを実証した。
【0297】
1.従来のヒトDCワクチン(インビトロまたはインビボにおける生存力が低く、免疫学的に安定でない)と本発明者らのiDC(インビトロおよびインビボで数週間にわたって生存し効力をもつ)との根本的な相違。
【0298】
2.いったん皮下に注射されたiDCの、LN−「原基」にトラフィキングし、CD4
+およびCD8
+細胞(特に、エフェクターメモリー細胞およびセントラルメモリー細胞に代表される)、瀘胞ヘルパーT細胞ならびに成熟B細胞のリクルートメントをもたらす能力。
【0299】
3.iDC投与が、CMVで発現されるタンパク質(pp65)に対する抗原特異的な応答として測定可能な適応CTL応答をもたらすこと。
【0300】
4.マウスで高レベルのヒトIgG産生およびpp65に対する応答性を刺激する(NRGにおけるヒトB細胞の発生中に免疫グロブリンクラススイッチが起こったことを実証する)iDC免疫処置の作用。
【0301】
5.iDCリプログラミングにおける安全性の強化された(これは、挿入変異のリスクを低下させることによって遺伝的プログラミングの安全性を強化する)インテグラーゼ欠損レンチウイルスの適用性。
【0302】
6.iDCの臨床開発および使用に向けた現実的な展望(1.レンチウイルスベクターは、臨床遺伝子治療プロトコールにおいてエキソビボ遺伝子導入用にすでに使用されており、2.本発明者らが用いたHSC供給源は、臨床HSCT用に日常的に使用されており、3.用いられたpp65 CMV抗原は、HSCT後のリンパ球減少性宿主における強力な抗CMV応答を刺激するのに臨床的に重要であるので)。
【0303】
7.GM−CSFおよびIFN−αのみを発現するSmyleDCと、HCMVのpp65抗原をさらに発現するSmyleDC/pp65 iDCとの間の比較は、後者のタイプのiDCが、レシピエントにおけるより高いレベルのヒトサイトカインおよび様々なタイプのヒト免疫グロブリンの存在と有意に相関しており、B細胞およびT細胞のより迅速な増殖を引き起こすことを示す。
【0304】
8.血中および脾臓内で成熟T細胞の増殖が観察されたことに加えて、UCBT後のSmyleDC/pp65免疫処置によって、胸腺におけるT細胞前駆体の頻度が高くなっていることを示した。これは、胸腺細胞増殖を強化する恒常性および/または抗原性シグナルを与えるSmyleDC/pp65の能力を反映している。SmyleDC/pp65免疫処置が、末梢へのナイーブT細胞の移動を強化し、胸腺におけるT細胞前駆体のより定常的な産生を可能にしている可能性もある。
【0305】
9.機能的な適応ヒト免疫系がマウスで効果的に再構成されたのにもかわらず、同様に異種のヒト幹細胞を移植され、pp65免疫原を提示するドナー由来のSmyleDCで免疫処置された58匹のマウスのうち1匹のマウスでしか重度の移植片対宿主病が観察されなかった。残りのマウスでは臨床上のGVHD徴候は観察されなかった。熟練した病理学者によって病理組織学的に分析された4匹のマウスのコホートでは、部分集団のマウスが軽度のグレード1 GVHDを示したのみであった。4回のSmyleDC/pp65投与による免疫処置は、Tregsの頻度を中程度に増大させた。したがって,iDCの使用は、現行の臨床プロトコールが必要とするようにレシピエントと完全に適合していないドナーを使用した造血幹細胞移植における転帰を潜在的に改善しうる。