特許第6867035号(P6867035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867035
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】結晶質薬物ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20210419BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210419BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20210419BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20210419BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20210419BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20210419BHJP
   A61K 31/64 20060101ALI20210419BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   A61K9/14
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61K47/38
   A61K47/18
   A61K47/20
   A61K31/64
   A61K31/216
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-554796(P2017-554796)
(86)(22)【出願日】2016年12月9日
(86)【国際出願番号】JP2016005088
(87)【国際公開番号】WO2017098729
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2019年11月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-241484(P2015-241484)
(32)【優先日】2015年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】東 顕二郎
(72)【発明者】
【氏名】尾曲 克彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】森部 久仁一
【審査官】 梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−543724(JP,A)
【文献】 特表2014−505714(JP,A)
【文献】 特開2004−099442(JP,A)
【文献】 BAUMGARTNER Ramona et al.,Nano-extrusion:A promising tool for continuous manufacturing of solid nano-formulations,International Journal of Pharmaceutics,2014年10月13日,Vol.477,p.1-11,[online],[retrieved on 2016.01.20],Retrieved from the Internet:<URL:http://dx.doi.org/10.1016/j.ijpharm.2014.
【文献】 BASF,Soluplus(R),Technical Information,2010年 7月,03_090801e-04/Page1-8,全文
【文献】 BASF,Kollidon VA64(R),Technical Information,2000年 3月,表紙,p.3-10,裏表紙,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/14
A61K 31/216
A61K 31/64
A61K 47/18
A61K 47/20
A61K 47/32
A61K 47/34
A61K 47/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が150℃以上である結晶質薬物と水溶性高分子を、前記薬物が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して15〜40質量%となるように混合した混合物を、前記薬物の融点より50℃以上低い温度で加熱し、混練することによりナノ粒子化することを特徴とする結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
融点が110℃以下である結晶質薬物水溶性高分子及び界面活性剤を、前記薬物が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して20〜40質量%となるように混合した混合物を、前記薬物の融点より10℃以上高い温度で加熱し、混練することによりナノ粒子化することを特徴とする結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
混合物が、界面活性剤をさらに含むことを特徴とする請求項記載の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
混合物における界面活性剤の含有量が、薬物、水溶性高分子及び前記界面活性剤の合計に対して5質量%以上であることを特徴とする請求項2又は3に記載の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
混合物を加熱し、混練した後、前記混合物を水中に投入することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
結晶質薬物及び水溶性高分子の混合物を加熱し、混練することにより前記結晶質薬物を結晶質ナノ粒子にする方法であって、前記薬物が融点が150℃以上の薬物であり、前記混合物における前記薬物の含有量が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して15〜40質量%であり、加熱温度が前記薬物の融点より50℃以上低い温度であることを特徴とする結晶質薬物のナノ粒子化方法。
【請求項7】
結晶質薬物、水溶性高分子及び界面活性剤の混合物を加熱し、混練することにより前記結晶質薬物を結晶質ナノ粒子にする方法であって、前記薬物が融点が110℃以下の薬物であり、前記混合物における前記薬物の含有量が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して20〜40質量%であり、加熱温度が前記薬物の融点より10℃以上高い温度であることを特徴とする結晶質薬物のナノ粒子化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
結晶質薬物と水溶性高分子を加熱し、混練する結晶質薬物ナノ粒子の製造方法及び結晶質薬物のナノ粒子化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬物を微粒子化すると表面積が増大することにより薬物の溶解速度が増加することが知られており、薬物の微粒子化は、難水溶性薬物の溶解性及び薬物の体内への吸収割合を示すバイオアべイラビリティーを改善する手法の一つに挙げられている。従来の薬物微粒子の調製方法には、ボールミルやロッドミルを用いる乾式粉砕法、ビーズミルを用いる湿式粉砕法、高圧ホモジナイザー法、共沈法、晶析法等がある(特許文献1)。しかし、乾式粉砕法は、バッチ式であるため大量生産が困難であった。また、湿式粉砕法や高圧ホモジナイザー法は、ナノ粒子を得ることはできるが、ナノ粒子が懸濁液状態で得られるため、固形製剤とするには乾燥工程が必要であり、水に化学分解しやすい薬物には適用できないとの問題があった。薬物粒子を有機溶媒中で析出させる共沈法や晶析法では、ナノ粒子を取り出すときに有機溶媒の除去が必要であり、ナノ粒子中へ有機溶媒が残存するとの問題があった。そのため、乾燥工程や有機溶媒が不要であり、簡易に連続的に薬物のナノ粒子を製造できる方法が求められていた。
【0003】
一方、高分子材料を混合する方法の一つとして、加熱溶融混練法が知られている。この方法は、対象物を粉砕するための方法ではなく、薬物に関する分野では、難水溶性薬物と水溶性高分子の混合物を加熱混練することにより、難水溶性薬物が非晶質状態で分散した固体分散体を得るために用いられている(特許文献2)。この固体分散体も、難水溶性薬物の溶解性を向上できるため、難水溶性薬物の溶解性及びバイオアべイラビリティーを改善するために用いられる。しかし、固体分散体自身の安定性に問題があり、非晶質状態が物理的又は化学的に不安定な薬物には用いることができない等の問題がある。また、加熱溶融混練法を、結晶質の薬物粒子を水溶性ポリマーで被覆するためや(特許文献3)、薬物を一旦溶融して賦形剤と混合した後、薬物を再結晶化させるため(特許文献4)に用いることも提案されている。しかしながら、加熱溶融混練法により結晶質薬物ナノ粒子を製造することは提案されていなかった。例えば、特許文献3に記載された方法は、薬物に対して少量の水溶性ポリマーを使用して薬物粒子を水溶性ポリマーで被覆する方法であり、特許文献4に記載された方法では、薬物を再結晶化させることにより結晶質粒子の粒子径を縮小させているが、得られる粒子の平均粒子径はミクロンサイズでありナノサイズではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2005/013938号公報
【特許文献2】特開平5−262642号公報
【特許文献3】特表2001−515029号公報
【特許文献4】特表2014−505714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記問題を解決し、乾燥工程や有機溶媒が不要であり、簡易に連続的に結晶質の薬物ナノ粒子を製造できる結晶質薬物ナノ粒子の製造方法、及び乾燥工程や有機溶媒が不要であり、結晶質薬物を簡易に連続的にナノ粒子化できる結晶質薬物のナノ粒子化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、結晶質薬物のナノ粒子化を検討するにあたり、従来は結晶質薬物ナノ粒子の製造に用いられていなかった加熱溶融混練法に着目した。そして、検討を進めたところ、結晶質の薬物と水溶性高分子を特定の割合で混合し、混合物を加熱混練するときの加熱温度を薬物の融点との関係で特定の範囲とすることにより、加熱混練によってナノサイズの結晶質薬物粒子が得られることを見いだした。具体的には、薬物の割合が薬物と水溶性高分子の合計に対して40質量%以下となるように両者を混合し、加熱温度を薬物の融点より低くする場合には、加熱温度が薬物の融点より50℃以上低くなるように、加熱温度を薬物の融点より高くする場合には、加熱温度が薬物の融点より10℃以上高くなるように加熱して混練することにより、結晶質薬物ナノ粒子が得られることを見いだした。また、薬物の混合割合の下限は、加熱温度を薬物の融点より低くする場合は15質量%であり、加熱温度を薬物の融点より高くする場合は20質量%であった。さらに、界面活性剤を前記混合物中に添加すると、ナノ粒子化がより促進されると共に、得られたナノ粒子の使用時の分散安定性が優れることを見いだした。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)結晶質薬物と水溶性高分子を、前記薬物が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して15〜40質量%となるように混合した混合物を、前記薬物の融点より50℃以上低い温度で加熱し、混練することを特徴とする結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
(2)結晶質薬物と水溶性高分子を、前記薬物が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して20〜40質量%となるように混合した混合物を、前記薬物の融点より10℃以上高い温度で加熱し、混練することを特徴とする結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
(3)混合物が、界面活性剤をさらに含むことを特徴とする上記(1)又は(2)記載の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
(4)混合物における界面活性剤の含有量が、薬物、水溶性高分子及び前記界面活性剤の合計に対して5質量%以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
(5)混合物を加熱し、混練した後、前記混合物を水中に投入することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法。
(6)結晶質薬物及び水溶性高分子の混合物を加熱し、混練することにより前記結晶質薬物を結晶質ナノ粒子にする方法であって、前記混合物における前記薬物の含有量が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して15〜40質量%であり、加熱温度が前記薬物の融点より50℃以上低い温度である、又は前記混合物における前記薬物の含有量が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して20〜40質量%であり、加熱温度が前記薬物の融点より10℃以上高い温度であることを特徴とする結晶質薬物のナノ粒子化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法は、乾燥工程や有機溶媒が不要で、簡易に連続的に結晶質の薬物ナノ粒子を製造できる。また、本発明の結晶質薬物のナノ粒子化方法は、乾燥工程や有機溶媒が不要で、簡易に連続的に結晶質薬物をナノ粒子化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1及び2の製造工程の模式図である。
図2】比較例1及び3の製造工程の模式図である。
図3】実施例1で得られたグリベンクラミド粒子の粒度分布を示す図である。(a)は水分散直後の状態を示し、(b)は6時間静置後の状態を示す。
図4】実施例1で使用したグリベンクラミド原料を電子顕微鏡で観察した画像である。
図5】実施例2で得られたフェノフィブラート粒子の粒度分布を示す図である。(a)は水分散直後の状態を示し、(b)は6時間静置後の状態を示す。
図6】実施例2で使用したフェノフィブラート原料を電子顕微鏡で観察した画像である。
図7】実施例1で使用した原料及び実施例1で得られた加熱溶融混練物のX線回折図である。
図8】実施例2で使用した原料及び実施例2で得られた加熱溶融混練物のX線回折図である。
図9】実施例1及び2で加熱溶融混練物を製造し、懸濁液の凍結乾燥を行うまでの工程の模式図である。
図10】実施例1及び2で使用した原料、並びに実施例1及び2で得られた加熱溶融混練物の懸濁液を凍結乾燥させた試料のX線回折図である。
図11】実施例1及び2で使用した原料及び原料混合物の示差走査熱量分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法は、結晶質薬物と水溶性高分子を、前記薬物が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して15〜40質量%となるように混合した混合物を、前記薬物の融点より50℃以上低い温度で加熱し、混練することを特徴とする。また、本発明の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法は、結晶質薬物と水溶性高分子を、前記薬物が前記薬物及び前記水溶性高分子の合計に対して20〜40質量%となるように混合した混合物を、前記薬物の融点より10℃以上高い温度で加熱し、混練することを特徴とする。本発明における結晶質薬物としては、特に限定されるものではないが、例えば、難水溶性薬物を挙げることができる。難水溶性薬物とは、日本薬局方に規定される「やや溶けにくい」「溶けにくい」「極めて溶けにくい」「ほとんど溶けない」に分類される薬物をいう。結晶質薬物と水溶性高分子の混合物を混練する場合、水溶性高分子を混練可能な程度に軟化させる必要があるので、薬物の融点より50℃以上低い温度で加熱しながら混練する場合は、水溶性高分子が軟化する温度を確保する観点から、例えば、アプレピタント、ピロキシカム、レセルピン、フェニトイン、グリセオフルビン、ニフェジピン、フロセミド、インドメタシン、グリベンクラミド、ニトラゼパム、メフェナム酸、カルバマゼピン、ヒドロコルチゾン、ヒドロクロロチアジド、プレドニゾロン、べラパミル、シロリムス、ジルチアゼム、テオフィリン、ナプロキセン等の融点が150℃以上である薬物を挙げることができる。また、薬物の融点より10℃以上高い温度で加熱し、混練する場合は、高温になり過ぎないようにする観点から、例えば、イブプロフェン、ケトプロフェン、フェノフィブラート、エトフィブラート、ゲムフィブロジム、フェニルブタゾン、トルナフタート、リドカイン、ナブメトン等の融点が110℃以下である薬物を挙げることができる。
【0011】
本発明における水溶性高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン等を挙げることができる。これらの中でも、製剤添加剤として広く用いられており、安価であるという観点から、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを好適に例示することができる。
【0012】
本発明の製造方法では、結晶質薬物と水溶性高分子の混合物を、結晶質薬物の融点より50℃以上低い温度で加熱し、混練する場合は、結晶質薬物が結晶質薬物と水溶性高分子の合計に対して15〜40質量%となるように、結晶質薬物と水溶性高分子とを混合する。得られる粒子径の観点から、結晶質薬物の混合割合は、25〜35質量%が好ましい。また、結晶質薬物と水溶性高分子の混合物を、結晶質薬物の融点より10℃以上高い温度で加熱し、混練する場合は、結晶質薬物が結晶質薬物と水溶性高分子の合計に対して20〜40質量%となるように、結晶質薬物と水溶性高分子とを混合する。得られる粒子径の観点から、結晶質薬物の混合割合は、25〜35質量%が好ましい。
【0013】
本発明の製造方法では、結晶質薬物と水溶性高分子の混合物を、結晶質薬物の融点より低い温度で加熱し、混練する場合は、結晶質薬物の融点より50℃以上低い温度で加熱する。加熱温度の下限は、使用する水溶性高分子が混練可能な程度に軟化する温度以上であれば特に限定されるものではない。加熱温度をかかる範囲の温度とすることにより、混練中、結晶質薬物は融解することなく結晶性を維持したまま存在し、前記混合物に加わるせん断力により結晶質薬物の粒子径が小さくなる。本発明においては、結晶質薬物と水溶性高分子を上記割合で混合することにより、混練によるせん断力が結晶質薬物に効果的に加わると考えられる。また、混練中に結晶質薬物粒子の表面部分の軟化した水溶性高分子中への溶け込みも生じていると考えられ、結晶質の薬物ナノ粒子が得られる。結晶質薬物と水溶性高分子の混合物を、結晶質薬物の融点より高い温度で加熱し、混練する場合は、結晶質薬物の融点より10℃以上高い温度で加熱する。加熱温度の上限は、使用する薬物が分解しない温度であれば特に限定されるものではない。この場合、加熱温度より低い融点を有する薬物は、混練中に融解状態になると考えられ、せん断力により融解状態の薬物のドメインサイズが減少していき、ナノレベルまたは分子レベルで薬物と水溶性高分子が混和する。そして、加熱混練終了後、室温まで冷やされていく過程で、薬物はナノ結晶粒子として析出する。ここで、結晶質薬物と水溶性高分子の混合物を、結晶質薬物の融点より50℃以上低い温度で加熱し、混練するとは、加熱により前記混合物を結晶質薬物の融点より50℃以上低い温度とした状態で混練することをいい、前記混合物を前記温度となるように加熱しながら混練する場合、一旦加熱により前記温度とした混合物の温度を保温等により維持しながら混練する場合も含む。結晶質薬物と水溶性高分子の混合物を、結晶質薬物の融点より10℃以上高い温度で加熱する場合も同様である。また、ナノ粒子とは、ミクロンサイズ未満の平均粒子径を有する粒子、すなわち平均粒子径が1μm未満の粒子のことをいう。
【0014】
本発明の製造方法における加熱混練は、本発明における混合物を所定の温度で加熱し、混練できれば、その具体的な方法は特に限定されるものではないが、例えば、一軸又は二軸のエクストリューダ(混練押出機)等の加熱溶融混練機を用いた方法を挙げることができる。エクストリューダは、混合物を加熱しながら混練できるため、加熱と混練を同時にでき、また混練時の温度調節が容易であるので好適である。中でも混練及び押出し能力の高い二軸のエクストリューダが好ましい。エクストリューダを用いる場合、結晶質薬物と水溶性高分子を本発明における混合比で混合した混合物をエクストリューダの原料供給口に投入し、エクストリューダに備えられたヒ―タで加熱しながらスクリューで混練する。投入された混合物は、スクリューにより混練されながら排出口に向かって押し出される。結晶質薬物と水溶性高分子は、予め混合したものをエクストリューダに投入してもよく、結晶質薬物と水溶性高分子を別々に投入し、混練中に本発明における混合割合となるようにしてもよい。前記混合物を本発明における温度で混練する時間及び混練力は、使用する結晶質薬物と水溶性高分子に応じて適宜選択できる。
【0015】
本発明の製造方法では、結晶質薬物と水溶性高分子の混合物は、さらに界面活性剤を含むことができる。本発明における界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化ミリスチルトリメチルアンモニウム等の陽イオン界面活性剤、Tween、Span又はBrijの商品名で販売されている非イオン性界面活性剤、ポロキサマー等の非イオン性界面活性剤などを挙げることができる。この中でも、水分散時におけるナノ粒子の分散安定性を高める観点から、ドデシル硫酸ナトリウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ポロキサマーを好適に例示できる。結晶質薬物と水溶性高分子の混合物に、さらに界面活性剤を添加することにより、結晶質薬物のナノ粒子化をより促進することができ、また得られたナノ粒子の使用時の分散安定性を向上させることができる。界面活性剤の配合量は、使用する結晶質薬物と水溶性高分子の種類に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、ナノ粒子化を促進し、得られたナノ粒子の使用時の分散安定性を向上させる観点から、結晶質薬物、水溶性高分子及び界面活性剤の合計に対して5質量%以上が好ましい。また、上限は特に制限されるものではないが、製剤化した際の毒性及び安全性の観点から40質量%以下が好ましく、界面活性剤の配合量は、5〜40質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。例えば、エクストリューダを用いる場合、界面活性剤を、結晶質薬物及び水溶性高分子と予め混合して、エクストリューダに投入してもよく、結晶質薬物や水溶性高分子とは別々に投入し、混練中に3成分が本発明における混合割合となるようにしてもよい。
【0016】
本発明の製造方法では、結晶質薬物と水溶性高分子の混合物を加熱し、混練することにより、前記混合物中で結晶質薬物をナノ粒子化することができる。本発明の製造方法により製造されたナノ粒子は、水溶性高分子中に分散しているため、そのまま経口剤に加工することができる。経口剤は、服用後、崩壊し、水溶性高分子が溶けて薬物ナノ粒子が体内に分散されて吸収される。本発明の製造方法では、ナノ粒子の製造にあたり、水や有機溶媒を使用する必要がないため、本発明の製造方法で得られた薬物ナノ粒子は、経口剤に加工するために水の乾燥工程や有機溶媒の除去工程は必要としない。また、本発明では、結晶質薬物と水溶性高分子の混合物をエクストリューダ等の加熱溶融混練機に投入するだけで、結晶質薬物のナノ粒子化ができるので、簡易な工程で連続生産が可能であり、結晶質薬物ナノ粒子の大量生産が可能となる。また、結晶質薬物と水溶性高分子の混合物に界面活性剤をさらに混合することにより、水溶性高分子が溶けて薬物ナノ粒子が体内に吸収されるときの薬物ナノ粒子の分散性がよくなり、体内への吸収性が向上する。さらに、本発明の製造方法では、混合物を加熱し、混練した後、前記混合物を水中に投入することにより、混合物中の水溶性高分子を水中に溶解させ、結晶質薬物ナノ粒子を混合物から分離することができる。特に、界面活性剤を混合物中に添加すると水中での結晶質薬物ナノ粒子の分散安定性が向上するため、得られたナノ粒子を凝集させることなく分離することができる。分離した結晶質薬物ナノ粒子は、濾過、乾燥等により取り出すことができる。
【0017】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
グリベンクラミド(GLB)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、GLB:PVP:SDSの質量比が3:6:1となるようにボルテックスミキサーを用いて5分間混合し、物理的混合物(Physical mixture:PM)を得た。得られたPMを、加熱溶融混練機(HAAKE Minilab II、Thermo scientific社製)を用いて、PMの温度が90℃となるように加熱条件を調整し、スクリュー回転数10、200、350rpm、スループット2g/min、処理回数1〜3回の条件で加熱混練処理を行った。また、PMの温度が115℃となるように加熱条件を調整し、スクリュー回転数350rpm、スループット2g/min、処理回数3回の条件で加熱混練処理を行った。使用した加熱溶融混練機の仕様は、モーター力が0.4kW、スクリューは、円錐形、スクリュー上底の直径が5mm、スクリュー下底の直径が14mm、長さが109.5mmであった。調製温度90℃及び115℃は、PMが押出し可能な温度であった。また、温度は加熱溶融混練機の出口近くで測定した。得られたペレットをボールミル(MM400、Restch社製)を用いて5分間粉砕し、100meshの篩で篩過したものを加熱溶融混練物(Hotmelt extrudate:HME)とした。得られたHMEを薬物濃度0.5mg/mlとなるように蒸留水に分散させ、1分間回転混和を行うことによりHME懸濁液を得た。図1に実施例1の製造工程の模式図を示す。
【実施例2】
【0019】
フェノフィブラート(FFB)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、FFB:PVP:SDSの質量比が3:6:1となるようにボルテックスミキサーを用いて5分間混合し、物理的混合物(Physical mixture:PM)を得た。得られたPMを、加熱溶融混練機(HAAKE Minilab II、Thermo scientific社製)を用いて、PMの温度が90℃となるように加熱条件を調整し、スクリュー回転数10、200、350rpm、スループット2g/min、処理回数1〜3回の条件で加熱混練処理を行った。使用した加熱溶融混練機の仕様は、モーター力が0.4kW、スクリューは、円錐形、スクリュー上底の直径が5mm、スクリュー下底の直径が14mm、長さが109.5mmであった。調製温度90℃は、PMが押出し可能な温度であった。また、温度は加熱溶融混練機の出口近くで測定した。得られたペレットをボールミル(MM400、Restch社製)を用いて5分間粉砕し、100meshの篩で篩過したものを加熱溶融混練物(Hot melt extrudate:HME)とした。得られたHMEを薬物濃度0.5mg/mlとなるように蒸留水に分散させ、1分間回転混和を行うことによりHME懸濁液を得た。図1に実施例2の製造工程の模式図を示す。
【0020】
[比較例1]
グリベンクラミド(GLB)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、GLB:PVP:SDSの質量比が3:6:1となるようにボルテックスミキサーを用いて5分間混合し、物理的混合物(Physical mixture:PM)を得た。得られたPMを、ボールミル(MM400、Restch社製)を用いて5分間粉砕し、100meshの篩で篩過したものを粉砕混合物(Ground mixture:GM)とした。得られたGMを薬物濃度0.5mg/mlとなるように蒸留水に分散させ、1分間回転混和を行うことによりGM懸濁液を得た。図2に比較例1の製造工程の模式図を示す。
【0021】
[比較例2]
PMの温度を130℃、140℃となるように加熱条件を調製し、スクリュー回転数を350rpm、スループットを2g/min、処理回数を3回として、それ以外は実施例1と同じ条件で、加熱溶融混練物(HME)を得て、さらにHME懸濁液を得た。
【0022】
[比較例3]
フェノフィブラート(FFB)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、FFB:PVP:SDSの質量比が3:6:1となるようにボルテックスミキサーを用いて5分間混合し、物理的混合物(Physical mixture:PM)を得た。得られたPMを、ボールミル(MM400、Restch社製)を用いて5分間粉砕し、100meshの篩で篩過したものを粉砕混合物(Ground mixture:GM)とした。得られたGMを薬物濃度0.5mg/mlとなるように蒸留水に分散させ、1分間回転混和を行うことによりGM懸濁液を得た。図2に比較例3の製造工程の模式図を示す。
【0023】
実施例1において、スクリュー回転数350rpm、処理回数3回の条件で得られた加熱溶融混練物中のグリベンクラミド粒子の粒度分布をHME懸濁液を用いて測定した結果を図3に示す。粒度分布は、Nanotrac UPA−UT151(Microtrac社製)を使用して測定した。図3(a)は、水分散直後に測定した結果であり、実施例1で得られたグリベンクラミド粒子は、単峰性の粒度分布を有し、その平均粒子径は約100nmであった。図3(b)は、水分散後25℃の条件下で6時間静置保存後の測定結果であり、実施例1で得られたグリベンクラミド粒子は、6時間静置後も、粒子径に大きな変化は認められず、分散安定性が高いことが示された。また、図4は、使用したグリベンクラミド原料の電子顕微鏡画像である。使用したグリベンクラミド原料の粒子径は数十μm〜数百μmであった。
【0024】
また、実施例2において、スクリュー回転数350rpm、処理回数3回の条件で得られた加熱溶融混練物中のフェノフィブラート粒子の粒度分布をHME懸濁液を用いて測定した結果を図5に示す。図5(a)は、水分散直後に測定した結果であり、実施例2で得られたフェノフィブラート粒子は、単峰性の粒度分布を有し、その平均粒子径は約220nmであった。図5(b)は、水分散後25℃の条件下で6時間静置保存後の測定結果であり、実施例2で得られたフェノフィブラート粒子は、6時間静置後も、粒子径に大きな変化は認められず、分散安定性が高いことが示された。また、図6は、使用したフェノフィブラート原料の電子顕微鏡画像である。使用したフェノフィブラート原料の粒子径は数μm〜数十μmであった。
【0025】
表1は、実施例1において、調製温度90℃で、スクリュー回転数10rpmで処理回数1回、スクリュー回転数200rpmで処理回数1回、スクリュー回転数200rpmで処理回数2回、スクリュー回転数350rpmで処理回数1回、スクリュー回転数350rpmで処理回数2回、スクリュー回転数350rpmで処理回数3回の各条件で得られた加熱溶融混練物及び調製温度115℃で、スクリュー回転数350rpmで処理回数3回の条件で得られた加熱溶融混練物中のグリベンクラミド粒子、比較例1で得られた粉砕混合物中のグリベンクラミド粒子、並びに比較例2で得られた加熱溶融混練物中のグリベンクラミド粒子の水分散直後の平均粒子径と、6時間静置保存後の平均粒子径の測定結果を示したものである。表1に記載された平均粒子径は、各試料について3サンプルを測定し平均したものである。また、表2は、実施例1における調製温度90℃にて調製した試料の各スクリュー回転数及び処理回数の組合せにおけるトルクと滞留時間を測定した結果である。トルクは、物体を回転させる力のことであり、試料にかかるせん断応力の目安となる。滞留時間とは、加熱溶融混練機に投入されたPMが加熱混練されている時間である。トルクは、加熱溶融混練機に付属されている測定器を用いて測定し、滞留時間は、一定時間内に加熱溶融混練機から排出されるペレットの質量を測定することで評価した。また、本願明細書及び図面において、スクリュー回転数と処理回数の組合せを、(スクリュー回転数[rpm],処理回数[回])で表すことがある。例えば、HME(10,1)は、加熱溶融混練物(HME)を得る条件がスクリュー回転数10rpm、処理回数1回であることを表す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
表1の結果から、実施例1で得られた加熱溶融混練物(HME)中のグリベンクラミド粒子は、いずれも平均粒子径が500nm以下であり、ナノ粒子が得られていた。また、6時間静置後も、粒子径に大きな変化は認められず、分散安定性が高いことが示された。一方、比較例1で得られた粉砕混合物(GM)は、平均粒子径が3μmを超えていた。また、比較例2で得られたグリベンクラミド粒子は、分散直後は平均粒子径が500nm以下であったが、6時間静置したものは沈殿が生じていた。表2の結果からは、スクリュー回転数の増加によりトルク値が増加することが認められた。また、HME(10,1)、HME(200,2)およびHME(350,3)では、滞留時間は約5分と同等の値を示した。表1において、滞留時間が等しい、HME(10,1)、HME(200,2)およびHME(350,3)の結果を比べると、スクリュー回転数が増加するにつれ、得られるナノ粒子の粒子径が小さくなっている。これは、スクリュー回転数の増加に伴い、加熱混練中のせん断力が増加し、薬物の粒子サイズが小さくなったと考えられる。また、表1において、スクリュー回転数が等しい、HME(350,1)、HME(350,2)およびHME(350,3)の結果を比べると、滞留時間が増加するにつれ、得られるナノ粒子の粒子径が小さくなった。このことから、加熱混練中に徐々に薬物の粒子サイズが小さくなったことがわかる。
【0029】
表3は、実施例2で、スクリュー回転数10rpmで処理回数1回、スクリュー回転数200rpmで処理回数1回、スクリュー回転数200rpmで処理回数2回、スクリュー回転数350rpmで処理回数1回、スクリュー回転数350rpmで処理回数2回、スクリュー回転数350rpmで処理回数3回の各条件で得られた加熱溶融混練物中のフェノフィブラート粒子、及び比較例3で得られた粉砕混合物中のフェノフィブラート粒子の水分散直後の平均粒子径と、6時間静置保存後の平均粒子径の測定結果を示す。表3に記載された平均粒子径は、各試料について3サンプルを測定し平均したものである。また、表4は、実施例2における上記各スクリュー回転数及び処理回数の組合せにおけるトルクと滞留時間を測定した結果である。トルクと滞留時間の測定は実施例1の場合と同様に行った。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
表3の結果から、実施例2で得られた加熱溶融混練物(HME)中のフェノフィブラート粒子は、いずれも平均粒子径が250nm以下であり、ナノ粒子が得られていた。また、6時間静置後も、粒子径に大きな変化は認められず、分散安定性が高いことが示された。一方、比較例3で得られた粉砕混合物(GM)は、平均粒子径が3μmを超えていた。
表4の結果からは、スクリュー回転数の増加によりトルク値が増加することが認められた。また、HME(10,1)、HME(200,2)およびHME(350,3)では、滞留時間は約5分と同等の値を示した。表3において、滞留時間が等しい、HME(10,1)、HME(200,2)およびHME(350,3)の結果を比べると、得られるナノ粒子の粒子径のスクリュー回転数による変化はみられなかった。また、表1において、スクリュー回転数が等しい、HME(350,1)、HME(350,2)およびHME(350,3)の結果を比べると、得られるナノ粒子の粒子径の滞留時間による変化はみられなかった。これは、実施例2の場合は、加熱混練中において、融解したフェノフィブラートはせん断力により軟化した水溶性高分子とナノサイズまたは分子レベルで混和するためと考えられる。
【0033】
図7は、実施例1に関して行ったX線回折測定の結果である。図中(a)は原料として使用したグリベンクラミド、(b)はポリビニルピロリドン(PVP)、(c)はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(d)は途中で得られる物理的混合物(PM)、(e)は比較例1で得られた粉砕混合物(GM)、(f)〜(k)は、実施例1で得られたグリベンクラミド粒子を含む加熱溶融混練物(GLB HME)であり、スクリュー回転数及び処理回数は、(f)が(10,1)、(g)が(200,1)、(h)が(200,2)、(i)が(350,1)、(j)が(350,2)、(k)が(350,3)である。(a)における2θ=11.72°、19.16°は、グリベンクラミドの結晶に特徴的なピークである。実施例1で得られた(f)〜(k)においても同様のピークが認められることから、実施例1で得られた加熱溶融混練物中のグリベンクラミド粒子は結晶質であることがわかる。
【0034】
図8は、実施例2に関して行ったX線回折測定の結果である。図中(l)は原料として使用したフェノフィブラート、(m)はポリビニルピロリドン(PVP)、(n)はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(o)は途中で得られる物理的混合物(PM)、(p)は比較例3で得られた粉砕混合物(GM)、(q)〜(v)は、実施例2で得られたフェノフィブラート粒子を含む加熱溶融混練物(FFB HME)であり、スクリュー回転数及び処理回数は、(q)が(10,1)、(r)が(200,1)、(s)が(200,2)、(t)が(350,1)、(u)が(350,2)、(v)が(350,3)である。(l)における2θ=14.48°、16.24°は、フェノフィブラートの結晶に特徴的なピークである。実施例2で得られた(q)〜(v)においても同様のピークが認められることから、実施例2で得られた加熱溶融混練物中のフェノフィブラート粒子は結晶質であることがわかる。
【0035】
図10は、実施例1で調製温度90℃、スクリュー回転数350rpm、処理回数3回で得られたグリベンクラミド(GLB)粒子を含む加熱溶融混練物(GLB HME)、及び実施例2でスクリュー回転数350rpm、処理回数3回で得られたフェノフィブラート(FFB)粒子を含む加熱溶融混練物(FFB HME)のそれぞれのHME懸濁液を凍結乾燥させた(図9)試料のX線回折測定の結果である。図中(a)は原料として使用したグリベンクラミド(GLB)、(b)はポリビニルピロリドン(PVP)、(c)はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(d)は途中で得られる物理的混合物(PM)、(e)はGLB HMEのHME懸濁液を凍結乾燥させた試料、(f)は原料として使用したフェノフィブラート(FFB)、(g)はポリビニルピロリドン(PVP)、(h)はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(i)は途中で得られる物理的混合物(PM)、(j)はFFB HMEのHME懸濁液を凍結乾燥させた試料のX線回折測定の結果である。(e)における2θ=11.72°、19.16°はグリベンクラミドの結晶に特徴的なピークであり、(j)における2θ=14.48°、16.24°はフェノフィブラートの結晶に特徴的なピークである。この結果から、実施例1で得られたグリベンクラミド(GLB)粒子及び実施例2で得られたフェノフィブラート(FFB)粒子は、蒸留水中においても結晶質であることがわかる。
【0036】
図11に、実施例1及び2で使用した各成分単独及び3成分混合物の示差走査熱量分析(DSC)測定結果を示す。図中、(a)はグリベンクラミド、(b)はフェノフィブラート、(c)はポリビニルピロリドン、(d)はドデシル硫酸ナトリウム、(e)は、グリベンクラミド、ポリビニルピロリドン及びドデシル硫酸ナトリウムの物理的混合物(PM)、(f)は、フェノフィブラート、ポリビニルピロリドン及びドデシル硫酸ナトリウムの物理的混合物(PM)の結果である。(a)の170℃付近のピークは、グリベンクラミドの融解に由来するピークであり、(b)の79℃付近のピークは、フェノフィブラートの融解に由来するピークである。したがって、グリベンクラミドの融点は170℃であり、フェノフィブラートの融点は79℃であることがわかる。実施例1では、加熱温度がグリベンクラミドの融点より50℃以上低いため、加熱混練中にグリベンクラミドは融解せずに結晶状態を維持していると考えられ、実施例2では、加熱温度がフェノフィブラートの融点より10℃以上高いため、加熱混練中にフェノフィブラートは一度融解すると考えられる。
【実施例3】
【0037】
以下の表5の配合、スクリュー回転数、処理回数及び処理温度で、実施例1と同様に加熱溶融混練物を作製した。得られた加熱溶融混練物中の薬物粒子の平均粒子径は、表5のとおりであった。表5において、MFAはメフェナム酸、IMCはインドメタシンを表す。メフェナム酸の融点は230℃であり、インドメタシンの融点は160℃である。また、HPCはヒドロキシプロピルセルロースを表し、Poloxamer(ポロキサマー)及びCTAB(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)は界面活性剤である。
【0038】
【表5】
【0039】
[比較例4]
以下の表6の配合、スクリュー回転数、処理回数及び処理温度で、実施例1と同様に加熱溶融混練物を作製した。得られた加熱溶融混練物中の薬物粒子の平均粒子径は、表6のとおりであった。
【0040】
【表6】
【0041】
表5の結果から、実施例3で得られた薬物粒子の平均粒子径は280nm以下であり、いずれもナノ粒子であった。また、X線回折測定の結果、得られたいずれのナノ粒子も結晶質であった。比較例4のMFA/PVP/Poloxamerを配合した例は、加熱混練時の温度がMFAの融点より低かったが、その差が40℃しかなかったため、得られたものは非晶質であった。また、GLB/PVP/SDSを4:5:1で配合した例は、薬物であるGLBの混合割合が、GLBとPVPの合計に対して44%であったため、得られた粒子の平均粒子径は3μmを超え、ナノ粒子が得られなかった。GLB/PVP/SDSを1:8:1で配合した例は、薬物であるGLBの混合割合が、GLBとPVPの合計に対して11%であったため、加熱混練時にGLBが融解し非晶質となった。表1のGLB HME(10,1)と表5のGLB HME(10,1)とを比較すると、両者は共にGLBの混合割合が、GLBとPVPの合計に対して33%であり、加熱混練時の温度が90℃であるが、表1のGLB HME(10,1)では、平均粒子径が198.8nmであるのに対し、表5のGLB HME(10,1)では、210nmであった。これは、界面活性剤を配合したことにより、表1のGLB HME(10,1)においては、ナノ粒子化がより促進されたためと考えられる。また、表5のGLB HME(10,1)では、界面活性剤を用いていないため、得られた粒子を他の実施例と同様に蒸留水に分散させることはできなかった。そのため、SDSを溶解させた蒸留水中に超音波処理しながら分散させた。表5の結果はこうして分散させた粒子の平均粒子径を測定した結果である。
【実施例4】
【0042】
以下の表7の配合、スクリュー回転数、処理回数及び処理温度で、実施例2と同様に加熱溶融混練物を作製した。得られた加熱溶融混練物中の薬物粒子の平均粒子径は、表7のとおりであった。表7において、IBUはイブプロフェンを表し、イブプロフェンの融点は76℃である。
【0043】
【表7】
【0044】
[比較例5]
以下の表8の配合、スクリュー回転数、処理回数及び処理温度で、実施例2と同様に加熱溶融混練物を作製した。得られた加熱溶融混練物中の薬物粒子の平均粒子径は、表8のとおりであった。
【0045】
【表8】
【0046】
表7の結果から、実施例4で得られた薬物粒子の平均粒子径は350nm以下であり、いずれもナノ粒子であった。また、X線回折測定の結果、得られたいずれのナノ粒子も結晶質であった。表8の結果から、比較例5のFFB/PVP/SDSを4:5:1で配合した例は、薬物であるFFBの混合割合が、FFBとPVPの合計に対して44%であったため、得られた粒子の平均粒子径は3μmを超え、ナノ粒子が得られなかった。FFB/PVP/SDSを3:15:2で配合した例は、薬物であるFFBの混合割合が、FFBとPVPの合計に対して17%であったため、加熱混練時にFFBが融解し非晶質となった。表3のFFBHME(10,1)と表7のFFBHME(10,1)とを比較すると、両者は共にFFBの混合割合が、FFBとPVPの合計に対して33%であり、加熱混練時の温度が90℃であるが、表3のFFBHME(10,1)では、平均粒子径が212.5nmであるのに対し、表7のFFBHME(10,1)では、230nmであった。これは、界面活性剤を配合したことにより、表3のFFBHME(10,1)においては、ナノ粒子化がより促進されたためと考えられる。また、表7のFFB HME(10,1)では、界面活性剤を用いていないため、得られた粒子を他の実施例と同様に蒸留水に分散させることはできなかった。そのため、SDSを溶解させた蒸留水中に超音波処理しながら分散させた。表7の結果はこうして分散させた粒子の平均粒子径を測定した結果である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の結晶質薬物ナノ粒子の製造方法及び結晶質薬物のナノ粒子化方法は、乾燥工程や有機溶媒が不要で、簡易に連続的に結晶質薬物をナノ粒子化できるので、薬物、特に難水溶性薬物の溶解性改善技術として有用である。
図1
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図7
図8
図9
図10
図11