【実施例2】
【0019】
フェノフィブラート(FFB)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、FFB:PVP:SDSの質量比が3:6:1となるようにボルテックスミキサーを用いて5分間混合し、物理的混合物(Physical mixture:PM)を得た。得られたPMを、加熱溶融混練機(HAAKE Minilab II、Thermo scientific社製)を用いて、PMの温度が90℃となるように加熱条件を調整し、スクリュー回転数10、200、350rpm、スループット2g/min、処理回数1〜3回の条件で加熱混練処理を行った。使用した加熱溶融混練機の仕様は、モーター力が0.4kW、スクリューは、円錐形、スクリュー上底の直径が5mm、スクリュー下底の直径が14mm、長さが109.5mmであった。調製温度90℃は、PMが押出し可能な温度であった。また、温度は加熱溶融混練機の出口近くで測定した。得られたペレットをボールミル(MM400、Restch社製)を用いて5分間粉砕し、100meshの篩で篩過したものを加熱溶融混練物(Hot melt extrudate:HME)とした。得られたHMEを薬物濃度0.5mg/mlとなるように蒸留水に分散させ、1分間回転混和を行うことによりHME懸濁液を得た。
図1に実施例2の製造工程の模式図を示す。
【0020】
[比較例1]
グリベンクラミド(GLB)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、GLB:PVP:SDSの質量比が3:6:1となるようにボルテックスミキサーを用いて5分間混合し、物理的混合物(Physical mixture:PM)を得た。得られたPMを、ボールミル(MM400、Restch社製)を用いて5分間粉砕し、100meshの篩で篩過したものを粉砕混合物(Ground mixture:GM)とした。得られたGMを薬物濃度0.5mg/mlとなるように蒸留水に分散させ、1分間回転混和を行うことによりGM懸濁液を得た。
図2に比較例1の製造工程の模式図を示す。
【0021】
[比較例2]
PMの温度を130℃、140℃となるように加熱条件を調製し、スクリュー回転数を350rpm、スループットを2g/min、処理回数を3回として、それ以外は実施例1と同じ条件で、加熱溶融混練物(HME)を得て、さらにHME懸濁液を得た。
【0022】
[比較例3]
フェノフィブラート(FFB)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を、FFB:PVP:SDSの質量比が3:6:1となるようにボルテックスミキサーを用いて5分間混合し、物理的混合物(Physical mixture:PM)を得た。得られたPMを、ボールミル(MM400、Restch社製)を用いて5分間粉砕し、100meshの篩で篩過したものを粉砕混合物(Ground mixture:GM)とした。得られたGMを薬物濃度0.5mg/mlとなるように蒸留水に分散させ、1分間回転混和を行うことによりGM懸濁液を得た。
図2に比較例3の製造工程の模式図を示す。
【0023】
実施例1において、スクリュー回転数350rpm、処理回数3回の条件で得られた加熱溶融混練物中のグリベンクラミド粒子の粒度分布をHME懸濁液を用いて測定した結果を
図3に示す。粒度分布は、Nanotrac UPA−UT151(Microtrac社製)を使用して測定した。
図3(a)は、水分散直後に測定した結果であり、実施例1で得られたグリベンクラミド粒子は、単峰性の粒度分布を有し、その平均粒子径は約100nmであった。
図3(b)は、水分散後25℃の条件下で6時間静置保存後の測定結果であり、実施例1で得られたグリベンクラミド粒子は、6時間静置後も、粒子径に大きな変化は認められず、分散安定性が高いことが示された。また、
図4は、使用したグリベンクラミド原料の電子顕微鏡画像である。使用したグリベンクラミド原料の粒子径は数十μm〜数百μmであった。
【0024】
また、実施例2において、スクリュー回転数350rpm、処理回数3回の条件で得られた加熱溶融混練物中のフェノフィブラート粒子の粒度分布をHME懸濁液を用いて測定した結果を
図5に示す。
図5(a)は、水分散直後に測定した結果であり、実施例2で得られたフェノフィブラート粒子は、単峰性の粒度分布を有し、その平均粒子径は約220nmであった。
図5(b)は、水分散後25℃の条件下で6時間静置保存後の測定結果であり、実施例2で得られたフェノフィブラート粒子は、6時間静置後も、粒子径に大きな変化は認められず、分散安定性が高いことが示された。また、
図6は、使用したフェノフィブラート原料の電子顕微鏡画像である。使用したフェノフィブラート原料の粒子径は数μm〜数十μmであった。
【0025】
表1は、実施例1において、調製温度90℃で、スクリュー回転数10rpmで処理回数1回、スクリュー回転数200rpmで処理回数1回、スクリュー回転数200rpmで処理回数2回、スクリュー回転数350rpmで処理回数1回、スクリュー回転数350rpmで処理回数2回、スクリュー回転数350rpmで処理回数3回の各条件で得られた加熱溶融混練物及び調製温度115℃で、スクリュー回転数350rpmで処理回数3回の条件で得られた加熱溶融混練物中のグリベンクラミド粒子、比較例1で得られた粉砕混合物中のグリベンクラミド粒子、並びに比較例2で得られた加熱溶融混練物中のグリベンクラミド粒子の水分散直後の平均粒子径と、6時間静置保存後の平均粒子径の測定結果を示したものである。表1に記載された平均粒子径は、各試料について3サンプルを測定し平均したものである。また、表2は、実施例1における調製温度90℃にて調製した試料の各スクリュー回転数及び処理回数の組合せにおけるトルクと滞留時間を測定した結果である。トルクは、物体を回転させる力のことであり、試料にかかるせん断応力の目安となる。滞留時間とは、加熱溶融混練機に投入されたPMが加熱混練されている時間である。トルクは、加熱溶融混練機に付属されている測定器を用いて測定し、滞留時間は、一定時間内に加熱溶融混練機から排出されるペレットの質量を測定することで評価した。また、本願明細書及び図面において、スクリュー回転数と処理回数の組合せを、(スクリュー回転数[rpm],処理回数[回])で表すことがある。例えば、HME(10,1)は、加熱溶融混練物(HME)を得る条件がスクリュー回転数10rpm、処理回数1回であることを表す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
表1の結果から、実施例1で得られた加熱溶融混練物(HME)中のグリベンクラミド粒子は、いずれも平均粒子径が500nm以下であり、ナノ粒子が得られていた。また、6時間静置後も、粒子径に大きな変化は認められず、分散安定性が高いことが示された。一方、比較例1で得られた粉砕混合物(GM)は、平均粒子径が3μmを超えていた。また、比較例2で得られたグリベンクラミド粒子は、分散直後は平均粒子径が500nm以下であったが、6時間静置したものは沈殿が生じていた。表2の結果からは、スクリュー回転数の増加によりトルク値が増加することが認められた。また、HME(10,1)、HME(200,2)およびHME(350,3)では、滞留時間は約5分と同等の値を示した。表1において、滞留時間が等しい、HME(10,1)、HME(200,2)およびHME(350,3)の結果を比べると、スクリュー回転数が増加するにつれ、得られるナノ粒子の粒子径が小さくなっている。これは、スクリュー回転数の増加に伴い、加熱混練中のせん断力が増加し、薬物の粒子サイズが小さくなったと考えられる。また、表1において、スクリュー回転数が等しい、HME(350,1)、HME(350,2)およびHME(350,3)の結果を比べると、滞留時間が増加するにつれ、得られるナノ粒子の粒子径が小さくなった。このことから、加熱混練中に徐々に薬物の粒子サイズが小さくなったことがわかる。
【0029】
表3は、実施例2で、スクリュー回転数10rpmで処理回数1回、スクリュー回転数200rpmで処理回数1回、スクリュー回転数200rpmで処理回数2回、スクリュー回転数350rpmで処理回数1回、スクリュー回転数350rpmで処理回数2回、スクリュー回転数350rpmで処理回数3回の各条件で得られた加熱溶融混練物中のフェノフィブラート粒子、及び比較例3で得られた粉砕混合物中のフェノフィブラート粒子の水分散直後の平均粒子径と、6時間静置保存後の平均粒子径の測定結果を示す。表3に記載された平均粒子径は、各試料について3サンプルを測定し平均したものである。また、表4は、実施例2における上記各スクリュー回転数及び処理回数の組合せにおけるトルクと滞留時間を測定した結果である。トルクと滞留時間の測定は実施例1の場合と同様に行った。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
表3の結果から、実施例2で得られた加熱溶融混練物(HME)中のフェノフィブラート粒子は、いずれも平均粒子径が250nm以下であり、ナノ粒子が得られていた。また、6時間静置後も、粒子径に大きな変化は認められず、分散安定性が高いことが示された。一方、比較例3で得られた粉砕混合物(GM)は、平均粒子径が3μmを超えていた。
表4の結果からは、スクリュー回転数の増加によりトルク値が増加することが認められた。また、HME(10,1)、HME(200,2)およびHME(350,3)では、滞留時間は約5分と同等の値を示した。表3において、滞留時間が等しい、HME(10,1)、HME(200,2)およびHME(350,3)の結果を比べると、得られるナノ粒子の粒子径のスクリュー回転数による変化はみられなかった。また、表1において、スクリュー回転数が等しい、HME(350,1)、HME(350,2)およびHME(350,3)の結果を比べると、得られるナノ粒子の粒子径の滞留時間による変化はみられなかった。これは、実施例2の場合は、加熱混練中において、融解したフェノフィブラートはせん断力により軟化した水溶性高分子とナノサイズまたは分子レベルで混和するためと考えられる。
【0033】
図7は、実施例1に関して行ったX線回折測定の結果である。図中(a)は原料として使用したグリベンクラミド、(b)はポリビニルピロリドン(PVP)、(c)はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(d)は途中で得られる物理的混合物(PM)、(e)は比較例1で得られた粉砕混合物(GM)、(f)〜(k)は、実施例1で得られたグリベンクラミド粒子を含む加熱溶融混練物(GLB HME)であり、スクリュー回転数及び処理回数は、(f)が(10,1)、(g)が(200,1)、(h)が(200,2)、(i)が(350,1)、(j)が(350,2)、(k)が(350,3)である。(a)における2θ=11.72°、19.16°は、グリベンクラミドの結晶に特徴的なピークである。実施例1で得られた(f)〜(k)においても同様のピークが認められることから、実施例1で得られた加熱溶融混練物中のグリベンクラミド粒子は結晶質であることがわかる。
【0034】
図8は、実施例2に関して行ったX線回折測定の結果である。図中(l)は原料として使用したフェノフィブラート、(m)はポリビニルピロリドン(PVP)、(n)はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(o)は途中で得られる物理的混合物(PM)、(p)は比較例3で得られた粉砕混合物(GM)、(q)〜(v)は、実施例2で得られたフェノフィブラート粒子を含む加熱溶融混練物(FFB HME)であり、スクリュー回転数及び処理回数は、(q)が(10,1)、(r)が(200,1)、(s)が(200,2)、(t)が(350,1)、(u)が(350,2)、(v)が(350,3)である。(l)における2θ=14.48°、16.24°は、フェノフィブラートの結晶に特徴的なピークである。実施例2で得られた(q)〜(v)においても同様のピークが認められることから、実施例2で得られた加熱溶融混練物中のフェノフィブラート粒子は結晶質であることがわかる。
【0035】
図10は、実施例1で調製温度90℃、スクリュー回転数350rpm、処理回数3回で得られたグリベンクラミド(GLB)粒子を含む加熱溶融混練物(GLB HME)、及び実施例2でスクリュー回転数350rpm、処理回数3回で得られたフェノフィブラート(FFB)粒子を含む加熱溶融混練物(FFB HME)のそれぞれのHME懸濁液を凍結乾燥させた(
図9)試料のX線回折測定の結果である。図中(a)は原料として使用したグリベンクラミド(GLB)、(b)はポリビニルピロリドン(PVP)、(c)はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(d)は途中で得られる物理的混合物(PM)、(e)はGLB HMEのHME懸濁液を凍結乾燥させた試料、(f)は原料として使用したフェノフィブラート(FFB)、(g)はポリビニルピロリドン(PVP)、(h)はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(i)は途中で得られる物理的混合物(PM)、(j)はFFB HMEのHME懸濁液を凍結乾燥させた試料のX線回折測定の結果である。(e)における2θ=11.72°、19.16°はグリベンクラミドの結晶に特徴的なピークであり、(j)における2θ=14.48°、16.24°はフェノフィブラートの結晶に特徴的なピークである。この結果から、実施例1で得られたグリベンクラミド(GLB)粒子及び実施例2で得られたフェノフィブラート(FFB)粒子は、蒸留水中においても結晶質であることがわかる。
【0036】
図11に、実施例1及び2で使用した各成分単独及び3成分混合物の示差走査熱量分析(DSC)測定結果を示す。図中、(a)はグリベンクラミド、(b)はフェノフィブラート、(c)はポリビニルピロリドン、(d)はドデシル硫酸ナトリウム、(e)は、グリベンクラミド、ポリビニルピロリドン及びドデシル硫酸ナトリウムの物理的混合物(PM)、(f)は、フェノフィブラート、ポリビニルピロリドン及びドデシル硫酸ナトリウムの物理的混合物(PM)の結果である。(a)の170℃付近のピークは、グリベンクラミドの融解に由来するピークであり、(b)の79℃付近のピークは、フェノフィブラートの融解に由来するピークである。したがって、グリベンクラミドの融点は170℃であり、フェノフィブラートの融点は79℃であることがわかる。実施例1では、加熱温度がグリベンクラミドの融点より50℃以上低いため、加熱混練中にグリベンクラミドは融解せずに結晶状態を維持していると考えられ、実施例2では、加熱温度がフェノフィブラートの融点より10℃以上高いため、加熱混練中にフェノフィブラートは一度融解すると考えられる。