(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6867073
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】鉗子装置
(51)【国際特許分類】
A61B 34/30 20160101AFI20210419BHJP
A61B 17/29 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
A61B34/30
A61B17/29
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-572559(P2020-572559)
(86)(22)【出願日】2020年9月10日
(86)【国際出願番号】JP2020034368
【審査請求日】2020年12月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515075692
【氏名又は名称】リバーフィールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122183
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】滝川 恭平
【審査官】
槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特表2018−538065(JP,A)
【文献】
国際公開第2020/044994(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30
A61B 17/28−17/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の把持部と、
前記一対の把持部を保持する支持体と、
前記支持体を回転可能に支持する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸を保持するベース部品と、
前記第1の回転軸と同軸に配置されている複数の第1のプーリと、を備え、
前記第1のプーリは、前記第1の回転軸に対して傾斜するように、該第1の回転軸に回転可能に支持されており、
前記第1のプーリは、前記第1の回転軸が貫通する円形の開口部の中心線に対して、前記第1の回転軸又は前記第1の回転軸が挿入された他の環状部材に対して摺動する内周面が傾斜していることを特徴とする鉗子装置。
【請求項2】
前記第1のプーリは、前記中心線と前記内周面とが成す角が3°〜7°の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の鉗子装置。
【請求項3】
一対の把持部と、
前記一対の把持部を保持する支持体と、
前記支持体を回転可能に支持する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸を保持するベース部品と、
前記第1の回転軸と同軸に配置されている複数の第1のプーリと、を備え、
前記第1のプーリは、前記第1の回転軸に対して傾斜するように、該第1の回転軸に回転可能に支持されており、
前記支持体が保持する、前記一対の把持部を回転可能に支持し、前記支持体に保持される第2の回転軸と、
前記第2の回転軸と同軸に保持される複数の第2のプーリと、
前記複数の第1のプーリと前記複数の第2のプーリとの間に掛けられた複数のワイヤと、を備え、
前記第1のプーリは、掛けられた前記複数のワイヤが前記第2のプーリの外周に向けて外側に広がるように、前記第1の回転軸に対して傾斜しており、
前記ベース部品は、前記第1の回転軸の両端を保持する一対のアームと、前記一対のアームに保持され、前記第1のプーリよりも上流側にある第3のプーリを回転可能に支持する第3の回転軸と、を有し、
前記アームは、前記第3の回転軸を保持する根本部分よりも前記第1の回転軸を保持する先端部分の方が薄肉であることを特徴とする鉗子装置。
【請求項4】
前記先端部分は、前記根本部分よりもアームの周方向の幅が狭いことを特徴とする請求項3に記載の鉗子装置。
【請求項5】
前記第2のプーリの外径は、前記一対のアームの前記根本部分同士の間隔より大きいことを特徴とする請求項3又は4に記載の鉗子装置。
【請求項6】
一対の把持部と、
前記一対の把持部を保持する支持体と、
前記支持体を回転可能に支持する第1の回転軸と、
前記第1の回転軸を保持するベース部品と、
前記第1の回転軸と同軸に配置されている複数の第1のプーリと、を備え、
前記第1のプーリは、前記第1の回転軸に対して傾斜するように、該第1の回転軸に回転可能に支持されており、
前記複数の第1のプーリは、前記支持体を挟んで両側に2つずつ隣接して配置されており、
隣接する2つの前記第1のプーリの一方は、傾斜した状態で前記支持体に当接し、
隣接する2つの前記第1のプーリの他方は、傾斜した状態で前記ベース部品に当接することを特徴とする鉗子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用ロボットのマニピュレータに用いられる鉗子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、術者の負担軽減や、医療施設の省人化を図るためにロボット(マニピュレータ)を利用した医療処置の提案がされている。外科分野では、術者が遠隔操作可能な手術用マニピュレータを操作して患者の処置を行う、手術用マニピュレータシステムに関する提案が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、捕捉具のヨー運動やピッチ運動を実現しつつ、捕捉部を構成する一対の顎部の開閉を実現できるように、複数のプーリに所定の順番で巻き付けられた各ケーブルの駆動を制御するロボット手首部が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016−518160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のロボット手首部は、一対の顎部を開閉させる際に一緒に回転するジョー(Jaw)プーリの直径が小さい。そのため、顎部での操作トルク(把持力)の増大にも限界がある。一方、ジョープーリの直径を大きくすると、ジョープーリを回転可能に支持するヨークの回転軸と同軸に支持されているガイドプーリからジョープーリに向かうケーブルのフリートアングルが大きくなる。そのため、ケーブルがプーリから脱輪したり、プーリのエッジとケーブルとが干渉したりすることで、鉗子をスムーズに制御できないおそれがある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、制御性の良好な新たな鉗子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の鉗子装置は、一対の把持部と、一対の把持部を保持する支持体と、支持体を回転可能に支持する第1の回転軸と、第1の回転軸を保持するベース部品と、第1の回転軸と同軸に配置されている複数の第1のプーリと、を備える。第1のプーリは、第1の回転軸に対して傾斜するように、該第1の回転軸に回転可能に支持されている。
【0008】
この態様によると、第1のプーリが第1の回転軸に対して傾斜することで、第1のプーリに対するワイヤの実質的なフリートアングルが小さくなり、ワイヤが第1のプーリと干渉しにくくなる。なお、第1のプーリが第1の回転軸に回転可能に支持されているとは、第1の回転軸に直接支持されている場合だけでなく、他の部材(例えば、支持部材の一部)を介して回転可能に支持されている場合も含む。
【0009】
第1のプーリは、第1の回転軸が貫通する円形の開口部の中心線に対して、第1の回転軸又は第1の回転軸が挿入された他の環状部に対して摺動する内周面が傾斜していてもよい。これにより、フリートアングルがあるワイヤから受ける力で第1のプーリが自律的に傾斜する。
【0010】
第1のプーリは、中心線と内周面とが成す角が3°〜7°の範囲であってもよい。
【0011】
支持体が保持する、一対の把持部を回転可能に支持し、支持体に保持される第2の回転軸と、第2の回転軸と同軸に保持される複数の第2のプーリと、複数の第1のプーリと複数の第2のプーリとの間に掛けられた複数のワイヤと、を備えてもよい。第1のプーリは、掛けられた複数のワイヤが第2のプーリの外周に向けて外側に広がるように、第1の回転軸に対して傾斜していてもよい。これにより、一対の把持部での操作トルクを増大させやすい直径の大きな第2のプーリを用いても、第1のプーリにおけるワイヤの干渉を抑制できる。
【0012】
ベース部品は、第1の回転軸の両端を保持する一対のアームと、一対のアームに保持され、第1のプーリよりも上流側にある第3のプーリを回転可能に支持する第3の回転軸と、を有してもよい。アームは、第3の回転軸を保持する根本部分よりも第1の回転軸を保持する先端部分の方が薄肉であってもよい。これにより、フリートアングルのあるワイヤが支持体とともに第1の回転軸を中心に屈曲した場合であっても、アームと干渉しにくくなる。
【0013】
先端部分は、根本部分よりもアームの周方向の幅が狭い。
【0014】
第2のプーリの外径は、一対のアームの根本部分同士の間隔より大きい。
【0015】
複数の第1のプーリは、支持体を挟んで両側に2つずつ隣接して配置されており、隣接する2つの第1のプーリの一方は、傾斜した状態で支持体に当接し、隣接する2つの第1のプーリの他方は、傾斜した状態でベース部品に当接してもよい。これにより、第1のプーリが傾斜した際に、第1のプーリの第1の回転軸方向への位置が精度良く決まる。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御性の良好な新たな鉗子装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の形態に係る鉗子装置の斜視図である。
【
図2】
図1の鉗子装置をA方向から見た正面図である。
【
図3】
図1の鉗子装置をB方向から見た側面図である。
【
図4】
図1の鉗子装置をC方向から見た側面図である。
【
図5】
図3に示す鉗子装置10のD−D断面図である。
【
図7】本実施の形態に係るガイドプーリの正面図である。
【
図8】
図7に示すガイドプーリのE−E断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る鉗子装置の斜視図である。
図2は、
図1の鉗子装置をA方向から見た正面図である。
図3は、
図1の鉗子装置をB方向から見た側面図である。
図4は、
図1の鉗子装置をC方向から見た側面図である。
【0021】
各図に示す鉗子装置10は、一対の把持部12a,12bと、一対の把持部12a,12bを保持する支持体14と、支持体14を回転可能に支持する第1の回転軸16と、第1の回転軸16を保持するベース部品18と、第1の回転軸16と同軸に配置されている4つのガイドプーリ20と、一対の把持部12a、12bを回転可能に支持し、支持体14に保持される第2の回転軸22と、第2の回転軸22と同軸に保持される4つのジョープーリ24と、4つのガイドプーリ20と4つのジョープーリ24との間に掛けられた4本のワイヤ26,28,30,32と、支持体14を第1の回転軸16を中心に回転させるためのワイヤ38,40と、を備えている。
【0022】
図5は、
図3に示す鉗子装置10のD−D断面図である。
図6は、
図5の領域Rの拡大図である。
図5および
図6に示すように、ガイドプーリ20は、第1の回転軸16に対して傾斜するように、支持体14の一部である円筒の環状部14aを介して第1の回転軸16に回転可能に支持されている。これにより、ワイヤ26,28,30,32のそれぞれは、ガイドプーリ20に対する実質的なフリートアングルが小さくなり、ガイドプーリ20のガイド溝20aのエッジ20bと干渉しにくくなる。なお、ガイドプーリ20は、支持体14を介さずに第1の回転軸16に直接支持されていてもよい。
【0023】
図7は、本実施の形態に係るガイドプーリ20の正面図である。
図8は、
図7に示すガイドプーリ20のE−E断面図である。本実施の形態に係るガイドプーリ20は、第1の回転軸16が貫通する円形の開口部20cの中心線CLに対して、内周面20dが傾斜している。内周面20dは、第1の回転軸16が挿入された支持体14の環状部14aに対して摺動する。これにより、フリートアングルがあるワイヤから受ける力でガイドプーリ20が自律的に傾斜する。なお、ガイドプーリ20が直接第1の回転軸16に支持されている場合、ガイドプーリ20の内周面20dは、第1の回転軸16の外周面に直接摺動することになる。
【0024】
図8に示すように、ガイドプーリ20は、中心線CLと直交し内径dが最も小さい平面Pから中心線CLに沿って離れるに従って、内径dが徐々に広がるように内周面20dが形成されている。換言すると、内周面20dは、円錐形状やすり鉢形状、あるいはテーパ面として形成されていてもよい。また、平面Pを挟んで内周面20dと反対側の内周面20eも、内周面20dと同様の形状に加工されている。
【0025】
なお、本実施の形態に係るガイドプーリ20は、内周面20d及び内周面20eと中心線CLとが成す角αが3〜7°の範囲である。また、ガイドプーリ20の一方の端面20fは、平面Pに対して角度α傾斜しており、一方の端面20fと内周面20dとの成す角は90°である。また、ガイドプーリ20の他方の端面20gは、平面Pと平行である(中心線CLに対して直交している)。したがって、ガイドプーリ20は平面Pを挟んで左右が非対称の環状部材である。
【0026】
本実施の形態に係るガイドプーリ20は、
図5や
図6に示すように、支持体14を挟んで両側に2つずつ隣接して配置されている。そして、
図6に示すように、2つのガイドプーリ20を並べて環状部14aに装着する際には、他方の端面20g同士が向かい合わせになるようにしている。その結果、隣接する2つのガイドプーリ20の一方(ガイドプーリ20A)は、傾斜した状態で支持体14に当接し、隣接する2つのガイドプーリ20の他方(ガイドプーリ20B)は、傾斜した状態でベース部品18に当接する。これにより、ガイドプーリ20が傾斜した際に、ガイドプーリ20の第1の回転軸方向Xへの位置が精度良く決まる。
【0027】
それぞれのガイドプーリ20は、
図2に示すように、掛けられた複数のワイヤ26,28がジョープーリ24の外周に向けて外側に広がるように、第1の回転軸16に対して傾斜している。これにより、一対の把持部12a,12bでの操作トルクを増大させやすい直径の大きなジョープーリ24を用いても、ガイドプーリ20におけるワイヤの干渉を抑制できる。
【0028】
次に、ベース部品18について説明する。本実施の形態に係るベース部品18は、
図2や
図5に示すように、第1の回転軸16の両端を保持する一対のアーム18a,18bと、一対のアーム18a,18bに保持され、ガイドプーリ20よりも上流側にある4つのガイドプーリ34を回転可能に支持する第3の回転軸36とを有している。なお、本実施の形態に係る第3の回転軸36は、一対のアーム18a,18bのそれぞれに設けられている。
【0029】
アーム18a,18bは、第3の回転軸36を保持する根本部分18cよりも第1の回転軸16を保持する先端部分18dの方が薄肉である。換言すると、先端部分18d同士の間隔は、根本部分18c同士の間隔よりも広い。これにより、
図3に示すように、フリートアングルのあるワイヤ26,28が支持体14とともに第1の回転軸16を中心に屈曲(
図3の矢印F方向)した場合であっても、アーム18a,18bと干渉しにくくなる。
【0030】
また、アーム18a(アーム18b)の先端部分18dの周方向の幅W1は、根本部分18cの周方向の幅W2よりも狭い。これにより、ワイヤとの干渉を考慮する必要のある先端部分18dにU字状の逃がし部を形成しつつ、先端部分18dの周方向の幅よりも根本部分18cの周方向の幅を大きくすることでアームの剛性の低下を抑えられる。
【0031】
また、
図5に示すように、本実施の形態に係るジョープーリ24の外径G1は、一対のアーム18a,18bの根本部分18c同士の間隔G2より大きい。つまり、本実施の形態に係る鉗子装置10は、筒状のベース部品18の内径の大きさの割に外径の大きなジョープーリ24を採用することが可能となる。
【0032】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、手術用ロボットのマニピュレータに利用できる。
【符号の説明】
【0034】
10 鉗子装置、 12a,12b 把持部、 14 支持体、 14a 環状部、 16 第1の回転軸、 18 ベース部品、 18a,18b アーム、 20 ガイドプーリ、 20e,20d 内周面、 22 第2の回転軸、 24 ジョープーリ、 36 第3の回転軸、 CL 中心線。
【要約】
鉗子装置10は、一対の把持部12a,12bと、一対の把持部を保持する支持体14と、支持体14を回転可能に支持する第1の回転軸と、第1の回転軸を保持するベース部品18と、第1の回転軸と同軸に配置されている複数のガイドプーリ20と、を備える。ガイドプーリ20は、第1の回転軸に対して傾斜するように、該第1の回転軸に回転可能に支持されている。