(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定位置毎に異なる上記X線的弾性定数が、上記X線に由来する上記回折X線の半価幅、上記鋳鍛鋼品の化学成分及び上記鋳鍛鋼品の硬さの少なくともいずれかに基づき決定される請求項1に記載の残留応力測定方法。
【背景技術】
【0002】
近年、X線を用いた残留応力測定技術が普及している。この技術は、X線を用いることにより結晶構造を有する被検査体の内部に生じている格子ひずみを測定し、測定結果を残留応力に換算するものである。
【0003】
X線を用いた残留応力測定方法としては、cosα法が知られている。cosα法は、被検査体に対して特定の照射角度でX線を照射し、このX線が被検査体で反射することにより生じる回折X線の強度を二次元で検出し、検出された回折X線の強度分布により形成される回折環に基づいて残留応力を算出する方法である。例えば特許文献1には、cosα法による残留応力の具体的な算出手順が説明されている。
【0004】
特許文献1に記載されたX線回折システムは、レールの任意の測定箇所でX線回折装置を停止させてX線を照射し、イメージングプレートで回折X線を検出し、回折X線が形成する回折環に基づいて残留応力を評価するものである(段落0025)。特許文献1のX線回折システムは、X線回折装置を搭載した車両を移動させながらレールの測定点毎の測定データを蓄積し、測定点毎に測定データの平均値を評価することで、レールの各部の経年劣化をモニタできる(段落0057及び段落0059)。
【0005】
ところで、鋳鍛鋼品は、含有元素の種類、含有元素の濃度、溶鋼を凝固させる際の冷却速度等の製造条件によって内部に局所的な化学成分の偏りを持つ場合がある。この場合には、鋳鍛鋼品の組織及び硬さは完全には均質にならず、鋳鍛鋼品の内部に生じる残留応力も局所的に変化する傾向がある。この傾向は、大型鋳鍛鋼品において特に顕著である。
【0006】
鋳鍛鋼品を被検査体としてX線を用いた残留応力測定が実施される場合、鋳鍛鋼品の不均質な部分が測定位置として選択されると、残留応力の測定結果が大きな誤差を含む可能性がある。このため、鋳鍛鋼品の測定位置毎に残留応力を適切に評価できる残留応力測定方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の残留応力測定方法の実施形態について、図を参照しつつ詳説する。
【0016】
[第一実施形態]
図1に示す残留応力測定方法は、X線を用いた鋳鍛鋼品の残留応力測定方法であって、鋳鍛鋼品にX線を照射する照射工程と、X線に由来する回折X線の強度を二次元で検出する検出工程と、検出工程で検出された回折X線の強度分布により形成される回折環に基づいて残留応力を算出する算出工程とを備えている。当該残留応力測定方法は、鋳鍛鋼品の複数の測定位置のそれぞれにについて残留応力を測定する際に、算出工程で、測定位置毎の回折環と測定位置毎に異なるX線的弾性定数とに基づいて測定位置毎の残留応力を算出する。また、当該残留応力測定方法は、検出工程の後に、検出工程で検出された回折X線の強度を記録する記録工程を備えており、算出工程の前に、測定位置毎にX線的弾性定数を修正するための修正条件を取得する試験工程を備えている。
【0017】
当該残留応力測定方法には、X線照射装置及び二次元検出器を備えるX線応力測定装置が用いられる。当該残留応力測定方法は、鋳鍛鋼品にX線を1回照射する毎に鋳鍛鋼品に対するX線の照射位置を変更する。そして、当該残留応力測定方法は、照射位置毎の回折環と照射位置毎に異なるX線的弾性定数とに基づいて照射位置毎の残留応力を算出する。つまり、当該残留応力測定方法は、鋳鍛鋼品の複数の測定位置で回折環をそれぞれ取得し、測定位置毎に異なるX線的弾性定数を用いて残留応力を算出するものである。
【0018】
<照射工程>
照射工程は、X線照射装置から鋳鍛鋼品にX線を照射する工程である。照射工程は、1回のX線照射において照射位置を変更せずに鋳鍛鋼品にX線を照射する。また、照射工程は、2回目以降のX線照射の前にX線の照射位置を変更する。X線を1回照射する毎に実行されるX線の照射位置の変更は、例えばX線の照射径の5倍以内の距離で行われると好ましい。つまり、複数の測定位置のそれぞれがX線の照射径の5倍以内の間隔で配置されると好ましい。
【0019】
なお、鋳鍛鋼品の内部に生じている残留応力が広い範囲で大きく相違しない場合には、複数の測定位置のそれぞれが、X線の照射径の5倍より大きな間隔で配置されてもよく、例えばX線の照射径の10倍以内の間隔で配置されてもよい。また、鋳鍛鋼品の内部に生じている残留応力が狭い範囲で大きく相違する場合には、複数の測定位置のそれぞれが、X線の照射径と略等しい間隔で隣接するように配置されてもよいし、X線の照射径より小さな間隔で一部が重複するように配置されてもよい。
【0020】
<検出工程>
検出工程は、鋳鍛鋼品に照射されたX線に由来する回折X線の強度を二次元検出器で検出する工程である。鋳鍛鋼品は多結晶体であるため、鋳鍛鋼品に照射されたX線は、多数の結晶においてブラッグの回折条件を満たす角度で回折される。多数の結晶で回折されたX線は、回折X線として二次元検出器で検出される。二次元検出器では回折X線の強度が検出されるが、この回折X線の強度分布は回折環を形成する。
【0021】
<記録工程>
記録工程は、検出工程で検出された回折X線の強度をX線の照射位置毎、すなわち鋳鍛鋼品の測定位置毎に記録する工程である。記録工程は、検出工程で検出された回折X線の強度を記録する際に、二次元検出器における回折X線の強度に関するX線回折情報を初期化する。
【0022】
<試験工程>
試験工程は、鋳鍛鋼品の測定位置毎にX線的弾性定数を修正するための修正条件を取得する工程である。試験工程は、
図2に示すように、試験片を用意する用意工程と、試験片に対して負荷テストを実施する負荷テスト工程と、負荷テストの結果に基づいてX線的弾性定数を修正する修正係数を計算する計算工程とを有している。
【0023】
(用意工程)
用意工程は、鋳鍛鋼品から試験片を用意する工程であり、記録工程で回折X線の強度を記録した複数の測定位置が試験片に含まれるように鋳鍛鋼品を加工する。用意工程は、一つの試験片に複数の測定位置が含まれるように鋳鍛鋼品を加工する工程であってもよいし、複数の試験片のそれぞれに複数の測定位置のそれぞれが含まれるように鋳鍛鋼品を加工する工程であってもよい。なお、鋳鍛鋼品そのものに対する負荷テストが実施可能であり、鋳鍛鋼品の加工が必要でない場合には、用意工程は省略されてもよい。
【0024】
(負荷テスト工程)
負荷テスト工程は、試験片に対して負荷テストを実施する工程である。具体的には、負荷テスト工程は、引張試験機等を用いて試験片に既知の応力を付加した状態で、試験片の複数の測定位置に対してX線を照射し、このX線に由来する回折X線の強度を検出し、この回折X線の強度分布から測定位置毎の残留応力を算出する。回折X線の強度分布に基づいて残留応力を計算する方法としては、cosα法による計算方法が用いられるが、X線的ひずみから直接応力を計算する方法が用いられてもよい。また、この負荷テスト工程における残留応力の算出には、標準的なX線的弾性定数が用いられる。
【0025】
(計算工程)
計算工程は、負荷テストの結果に基づいてX線的弾性定数を修正する修正係数を計算する工程である。具体的には、計算工程は、負荷テストにおける既知の応力に対する測定位置毎の残留応力の比を計算し、この比を測定位置毎のX線的弾性定数の修正係数として取得する。なお、負荷テストにおいて、複数の既知の応力が用いられて複数の比が計算される場合には、修正係数は、精度向上の観点から、測定位置毎に複数の比を平均化することにより求められると好ましい。
【0026】
<算出工程>
算出工程は、二次元検出器で検出された回折X線の強度分布により形成される回折環に基づいてX線の照射位置毎、すなわち鋳鍛鋼品の測定位置毎の残留応力を算出する工程である。算出工程は、測定位置毎の回折環と測定位置毎に異なるX線的弾性定数とに基づいて測定位置毎の残留応力を算出する。具体的には、算出工程は、計算工程で取得した測定位置毎のX線的弾性定数の修正係数に基づいて測定位置毎にX線的弾性定数を修正し、この修正されたX線的弾性定数と回折環とを用いて測定位置毎の残留応力を算出する。回折環に基づいて残留応力を計算する方法としては、cosα法による計算方法が用いられるが、X線的ひずみから直接応力を計算する方法が用いられてもよい。
【0027】
当該残留応力測定方法の各工程の実行手順は以下の通りである。まず、当該残留応力測定方法は、照射工程、検出工程及び記録工程を実行する。X線の照射回数、すなわち測定回数の合計が規定値に達していない場合は、X線の照射位置、すなわち測定位置が変更された後、再び照射工程、検出工程及び記録工程が実行される。一方、測定回数の合計が規定値に達している場合は、試験工程及び算出工程が実行される。
【0028】
(利点)
当該残留応力測定方法は、X線を照射する鋳鍛鋼品の測定位置毎に異なるX線的弾性定数を用いて残留応力を算出するので、鋳鍛鋼品の不均質な部分を含む測定位置にX線が照射される場合であっても、鋳鍛鋼品の測定位置に合わせて適切なX線的弾性定数を選択できる。したがって、当該残留応力測定方法は、鋳鍛鋼品の測定位置毎に残留応力を適切に評価できる。
【0029】
[第二実施形態]
当該残留応力測定方法は、X線を用いた鋳鍛鋼品の残留応力測定方法であるが、試験工程の前に、鋳鍛鋼品の測定位置毎の性質を分析する分析工程を備えるとともに、試験工程の後かつ算出工程の前に、測定位置毎に異なる修正係数を決定する修正係数決定工程を備えている点で第一実施形態の残留応力測定方法とは異なる。当該残留応力測定方法は、照射工程、検出工程及び記録工程については第一実施形態の残留応力測定方法と同様であり、測定回数の合計が規定値に達している場合に実行される
図3に示す処理ついては第一実施形態の残留応力測定方法と異なる。以下、第一実施形態の残留応力測定方法とは異なる点について説明する。
【0030】
<分析工程>
分析工程は、鋳鍛鋼品の測定位置毎の性質を示すパラメータを分析する工程である。鋳鍛鋼品の性質を示すパラメータとしては、回折X線の半価幅、鋳鍛鋼品の化学成分及び鋳鍛鋼品の硬さの少なくともいずれかが用いられる。分析工程は、X線の照射位置毎、すなわち測定位置毎に、回折X線の半価幅、鋳鍛鋼品の化学成分及び鋳鍛鋼品の硬さの少なくともいずれかを分析する。
【0031】
<試験工程>
試験工程は、X線的弾性定数を修正するための修正条件を取得する工程である。試験工程は、
図4に示すように、試験片を用意する用意工程と、試験片に対して負荷テストを実施する負荷テスト工程と、負荷テストの結果に基づいてX線的弾性定数を修正する修正係数を計算する計算工程と、試験片の性質を分析する試験片分析工程と、計算工程で計算した修正係数及び試験片分析工程で分析した試験片の性質間の関係式を導出する導出工程とを有している。なお、この試験工程は、鋳鍛鋼品とは別体の試験片を用いる工程であるので、分析工程等の他の工程より先に実行されてもよい。
【0032】
(用意工程)
用意工程は、鋳鍛鋼品と同等の試験片を用意する工程である。通常、鋳鍛鋼品には、製品の材料特性を検査するための余材が付属しているので、試験片はこの余材から採取されるとよい。
【0033】
(負荷テスト工程)
負荷テスト工程は、試験片に対して負荷テストを実施する工程である。具体的には、負荷テスト工程は、引張試験機等を用いて試験片に既知の応力を付加した状態で、試験片の任意の複数の測定位置に対してX線を照射し、このX線に由来する回折X線の強度を検出し、この回折X線の強度分布から測定位置毎の残留応力を算出する。回折X線の強度分布に基づいて残留応力を計算する方法としては、cosα法による計算方法が用いられるが、X線的ひずみから直接応力を計算する方法が用いられてもよい。また、この負荷テスト工程における残留応力の算出には、標準的なX線的弾性定数が用いられる。
【0034】
(計算工程)
計算工程は、負荷テストの結果に基づいてX線的弾性定数の修正値を計算する工程である。具体的には、計算工程は、負荷テストにおける既知の応力に対する測定位置毎の残留応力の比を計算し、この比を測定位置毎のX線的弾性定数の修正値として取得する。なお、負荷テストにおいて、複数の既知の応力が用いられて複数の比が計算される場合には、修正値は、精度向上の観点から、測定位置毎に複数の比を平均化することにより求められると好ましい。
【0035】
(試験片分析工程)
試験片分析工程は、試験片の性質を示すパラメータを分析する工程である。具体的には、分析工程は、測定位置毎に、回折X線の半価幅、試験片の化学成分及び試験片の硬さの少なくともいずれかを分析する。
【0036】
(導出工程)
導出工程は、計算工程で計算した修正値と試験片分析工程で分析した試験片の性質との間の関係式を導出する工程である。修正値と試験片の性質を示すパラメータとは、測定位置を介して結び付けられている。導出工程は、修正値を縦軸とし、性質を示すパラメータを横軸としたデータ群に対して、二次関数で最小二乗近似することにより近似曲線を求め、この近似曲線を表す式を関係式として導出する。
【0037】
<修正係数決定工程>
修正係数決定工程は、鋳鍛鋼品の測定位置毎にX線的弾性定数を修正するための修正係数を決定する工程である。修正係数決定工程は、分析工程で分析した鋳鍛鋼品の測定位置毎の性質を示すパラメータと、試験工程の導出工程で導出された関係式とに基づいて鋳鍛鋼品の測定位置毎に異なる修正係数を決定する。具体的には、修正係数決定工程は、導出工程で導出された関係式に対し、分析工程で分析した鋳鍛鋼品の性質を示すパラメータを測定位置毎に代入することにより、測定位置毎に異なる修正係数を決定する。
【0038】
<算出工程>
算出工程は、二次元検出器で検出された回折X線の強度分布により形成される回折環に基づいてX線の照射位置毎、すなわち鋳鍛鋼品の測定位置毎の残留応力を算出する工程である。算出工程は、測定位置毎の回折環と測定位置毎に異なるX線的弾性定数とに基づいて測定位置毎の残留応力を算出する。具体的には、算出工程は、修正係数決定工程で決定された測定位置毎に異なる修正係数に基づいて測定位置毎にX線的弾性定数を修正し、この修正されたX線的弾性定数と回折環とを用いて測定位置毎の残留応力を算出する。
【0039】
(利点)
当該残留応力測定方法は、鋳鍛鋼品のX線の照射位置毎に、回折X線の半価幅、鋳鍛鋼品の化学成分及び鋳鍛鋼品の硬さの少なくともいずれかを分析する。そして、当該残留応力測定方法は、この分析結果に基づいて照射位置毎に異なるX線的弾性定数を計算し、これらのX線的弾性定数に基づいて照射位置毎の残留応力を算出する。このため、当該残留応力測定方法は、鋳鍛鋼品の不均質な部分を含む領域にX線が照射される場合であっても、鋳鍛鋼品の照射位置毎に適切なX線的弾性定数を用いて残留応力を算出できる。したがって、当該残留応力測定方法は、鋳鍛鋼品の測定位置毎に残留応力を適切に評価できる。
【0040】
また、回折X線の半価幅、鋳鍛鋼品の化学成分及び鋳鍛鋼品の硬さは、非破壊で測定可能なパラメータであるので、当該残留応力測定方法は、測定対象とする鋳鍛鋼品を破壊することなく測定位置毎に残留応力を適切に評価できる。さらに、当該残留応力測定方法は、鋳鍛鋼品の性質を示すパラメータとして回折X線の半価幅を選択すると、分析工程において記録工程で記録された測定位置毎の回折X線の強度を分析するだけでよいため、分析を簡略化できる。
【0041】
<その他の実施形態>
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0042】
上記第一実施形態及び上記第二実施形態では、X線の照射回数、すなわち測定回数の合計が規定値に達した後に、算出工程が実行されるものについて説明したが、算出工程は、X線を1回照射する毎に実行されるものであってもよい。つまり、残留応力測定方法は、照射工程、検出工程及び算出工程を実行し、測定回数の合計が規定値に達していない場合は、測定位置を変更した後、再び照射工程、検出工程及び算出工程を実行するものであってもよい。この場合、残留応力測定方法は記録工程を備えていなくてもよい。
【0043】
また、上記第一実施形態では、試験工程を備えている残留応力測定方法について説明したが、第一実施形態は、試験工程を備えていなくてもよい。つまり、第一実施形態の残留応力測定方法は、照射工程と、検出工程と、算出工程とを備えていればよい。例えば、鋳鍛鋼品と実質的に同等な材料特性を有する他の鋳鍛鋼品を用意できる場合には、試験工程と同じ手順により同等な鋳鍛鋼品の測定位置とX線的弾性定数の修正係数との関係が予め導出可能となる。同等な鋳鍛鋼品を用いて測定位置と修正係数との関係が予め導出されている場合には、第一実施形態の残留応力測定方法は、予め導出された関係に基づいて算出工程で用いられるX線的弾性定数を測定位置毎に修正できるため、試験工程を無くすことができる。また、このような場合でなくても、予め用意された複数のX線的弾性定数の中から測定位置毎に好適なX線的弾性定数が選択されることによって、試験工程が省略されてもよい。ただし、精度よく適切なX線的弾性定数を選択する観点から、第一実施形態の残留応力測定方法は、試験工程を備えていると好ましい。
【0044】
また、上記第二実施形態では、分析工程、試験工程及び修正係数決定工程を備えている残留応力測定方法について説明したが、第二実施形態は、試験工程を備えていなくてもよい。第二実施形態の試験工程は、導出工程で、X線的弾性定数の修正値と試験片の性質との間の関係式を導出するが、この関係式は一度導出されれば再利用することが可能であるため、既に関係式が導出されている場合は、第二実施形態は、試験工程を省略することができる。
【0045】
上記第一実施形態では、試験工程が鋳鍛鋼品から試験片を用意する用意工程を有するものについて説明したが、鋳鍛鋼品そのものに対する負荷テストが実施可能であり、用意工程が省略される場合には、第一実施形態は、算出工程より前の任意のタイミングで試験工程を実行するものであればよい。例えば、第一実施形態は、照射工程の前に、試験工程を実行するものであってもよい。
【0046】
上記第二実施形態では、試験工程が鋳鍛鋼品と同等の試験片を用意する用意工程を有するものについて説明したが、第二実施形態は、修正係数決定工程より前の任意のタイミングで試験工程を実行するものであればよい。例えば、第二実施形態は、照射工程の前に、試験工程を実行するものであってもよい。
【0047】
上記第二実施形態では、測定回数の合計が規定値に達している場合に分析工程が実行されるものについて説明したが、第二実施形態は、修正係数決定工程より前の任意のタイミングで分析工程を実行するものであればよい。例えば、第二実施形態は、照射工程の前に、分析工程を実行するものであってもよく、検出工程の後に、分析工程を実行するものであってもよい。
【0048】
上記第二実施形態では、用意工程において鋳鍛鋼品と同等の試験片を用意するものについて説明したが、上記第一実施形態と同様に、用意工程において回折X線の強度を記録した複数の測定位置が試験片に含まれように鋳鍛鋼品を加工することによって、鋳鍛鋼品から試験片を用意してもよい。この場合、分析工程において鋳鍛鋼品の性質を示すパラメータは分析済みとなるため、第二実施形態は、試験片分析工程を省略することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[試験片に対する引張試験]
まず、1トンを超える大型鋳鍛鋼品から偏析の多い試験片と偏析の少ない試験片とを切り出した。大型鋳鍛鋼品としては、ベイナイト組織を有するクロム−モリブデン系合金鋼を用いた。また、鋳鍛鋼品の偏析の多い部分には黒いラインが見られるという知識に基づいて、大型鋳鍛鋼品のマクロ組織観察写真によって偏析の多い部分と偏析の少ない部分とを区別した。また、試験片は、長さ70mm×幅12.5mm×厚さ3mmの板状部分を中央に有する棒状体として切り出し、切り出した試験片の板状部分に厚さ約0.1mmの電解研磨処理を施した。
【0051】
引張試験機を用い、2種類の試験片のそれぞれに対して長手方向に引張応力を付与した状態で、引張試験機のロードセルから得られる公称応力とX線を用いて測定した残留応力(以下、X線応力と記す)とを比較する試験を行った。また、X線応力の測定位置は、試験片の電解研磨処理が施された板状部分の6mm×6mmの領域内において等間隔に設定される3×3の9点とした。
【0052】
X線としては、クロムのKα線を用い、コリメータ径を1.0mm、X線の照射距離を80mm、試験片に対するX線の照射角度を35度、X線の照射面積を約6.5mm
2とした。また、鉄の(211)面からの回折X線を二次元検出器で検出した。得られた回折環から残留応力を算出する際に用いるX線的弾性定数については、鉄鋼材料に採用される標準的なものを用いた。具体的には、X線的弾性定数の算出に用いられるヤング率Eを224GPaとし、ポアソン比νを0.28とした。
【0053】
偏析の多い試験片のX線応力は、公称応力を0MPa、269MPa、312MPa、409MPaとして測定した。また、偏析の少ない試験片のX線応力は、公称応力を0MPa、197MPa、396MPaとして測定した。偏析の多い試験片を用いて測定したX線応力と公称応力との関係を示すグラフを
図5に示し、偏析の少ない試験片を用いて測定したX線応力と公称応力との関係を示すグラフを
図6に示す。なお、グラフの実線は9点の測定位置におけるX線応力の平均値を示し、グラフの破線は公称応力を示し、縦に伸びる線分の端部は9点の測定位置におけるX線応力の最大値及び最小値を示している。
【0054】
図5に示すように、偏析の多い試験片におけるX線応力の最大値及び最小値の差は、公称応力が0MPaの時に約80MPa、公称応力が0MPa以外の時に100MPa以上であり、非常に大きいことが確認された。X線応力の最大値及び最小値の差を公称応力で割った割合をX線応力の測定誤差としてさらに検証すると、偏析の多い試験片における測定誤差は、公称応力が269MPaの時に約49%であり、非常に大きな値となることが確認された。また、
図6に示すように、偏析の少ない試験片においてもX線応力の最大値及び最小値の差は、小さくないことが確認された。偏析の少ない試験片についてもX線応力の測定誤差を検証すると、測定誤差は、公称応力が197MPaの時に約17%であり、小さくないことが確認された。
【0055】
以上の通り、X線応力は測定位置毎に大きくばらつくことが確認された。特に偏析の多い試験片におけるX線応力のばらつきは非常に大きいといえる。このばらつきは、測定位置毎に異なるX線的弾性定数を用いてX線応力を算出することにより低減できる。そこで、測定位置毎に異なるX線的弾性定数を計算し、このX線的弾性定数を用いてX線応力を算出する方法について検討した。
【0056】
[試験片の分析]
上述の偏析の多い試験片について、9点の測定位置毎の性質を分析した。試験片の性質を示すパラメータとしては、回折X線の半価幅、試験片の化学成分及び試験片の硬さを採用した。回折X線の半価幅としては、上述のX線を用いた測定で得られた測定位置毎の回折X線の半価幅の平均値と測定位置毎の回折X線の半価幅との差ΔBを採用した。試験片の化学成分としては、下記式(1)を用いて計算された炭素当量Ceqを採用した。また、試験片の硬さとしては、ビッカース硬さHvを採用した。
【数1】
ここで、Cは炭素の含有量、Mnはマンガンの含有量、Siはケイ素の含有量、Niはニッケルの含有量、Crはクロムの含有量、Moはモリブデンの含有量、Vはバナジウムの含有量を示し、各元素の含有量は質量%で表される。
【0057】
[試験片の負荷テスト]
上述の偏析の多い試験片について、既知の応力を付加した状態で、9点の測定位置のX線応力を測定した。そして、既知の応力と測定位置毎のX線応力との比を計算し、この比に基づき測定位置毎のX線的弾性定数の修正係数λを取得した。なお、X線応力の算出には、上述の標準的なヤング率E及びポアソン比νを用いた。
【0058】
[関係式の導出]
測定位置毎に得られたX線的弾性定数の修正係数λを縦軸とし、測定位置毎に得られた回折X線の半価幅の平均値及び半価幅の差ΔB、試験片の炭素当量Ceq又は試験片のビッカース硬さHvを横軸としたデータ群に対し、二次関数で最小二乗近似することにより関係式となる近似曲線を導出した。修正係数λと差ΔBとの関係を示すグラフを
図7に示し、修正係数λと炭素当量Ceqとの関係を示すグラフを
図8に示し、修正係数λとビッカース硬さHvとの関係を示すグラフを
図9に示す。
図7により得られた関係式は下記式(2)であり、
図8により得られた関係式は下記式(3)であり、
図9により得られた関係式は下記式(4)であった。
λ=−139.17(ΔB)
2+1.394(ΔB)+1.0354 ・・・(2)
λ=1.6009(Ceq)
2−4.0859(Ceq)+3.3889・・・(3)
λ=0.0017(Hv)
2−1.0239(Hv)+155.17 ・・・(4)
【0059】
[X線応力の算出]
測定位置毎の差ΔBと上記式(2)で示される関係式とに基づいて、測定位置毎の修正係数λを決定し、この修正係数λに基づいて測定位置毎のX線的弾性定数を計算した。そして、X線を用いた測定で得られた測定位置毎の回折X線の強度分布により形成される回折環と得られた測定位置毎のX線的弾性定数とに基づいて測定位置毎のX線応力を算出した。算出されたX線応力は、標準的なX線的弾性定数を用いて算出したX線応力に比べて測定誤差が小さく、ばらつきが低減したものであることが確認された。
【0060】
測定位置毎の炭素当量Ceqと上記式(3)で示される関係式とに基づいて、測定位置毎の修正係数λを決定し、この修正係数λに基づいて測定位置毎のX線的弾性定数を計算した。そして、X線を用いた測定で得られた測定位置毎の回折X線の強度分布により形成される回折環と得られた測定位置毎のX線的弾性定数とに基づいて測定位置毎のX線応力を算出した。算出されたX線応力は、標準的なX線的弾性定数を用いて算出したX線応力に比べて測定誤差が小さく、ばらつきが低減したものであることが確認された。
【0061】
測定位置毎のビッカース硬さHvと上記式(4)で示される関係式とに基づいて、測定位置毎の修正係数λを決定し、この修正係数λに基づいて測定位置毎のX線的弾性定数を計算した。そして、X線を用いた測定で得られた測定位置毎の回折X線の強度分布により形成される回折環と得られた測定位置毎のX線的弾性定数とに基づいて測定位置毎のX線応力を算出した。算出されたX線応力は、標準的なX線的弾性定数を用いて算出したX線応力に比べて測定誤差が小さく、ばらつきが低減したものであることが確認された。