特許第6867418号(P6867418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6867418被処理物体の表面に1価又は多価イオンを注入する方法及び方法を実施するデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867418
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】被処理物体の表面に1価又は多価イオンを注入する方法及び方法を実施するデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20210419BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20210419BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   H01J37/317 Z
   H01J37/20 A
   H01L21/265 F
   H01L21/265 W
   H01L21/265 603A
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-567736(P2018-567736)
(86)(22)【出願日】2018年4月12日
(65)【公表番号】特表2019-525394(P2019-525394A)
(43)【公表日】2019年9月5日
(86)【国際出願番号】EP2018000200
(87)【国際公開番号】WO2018188804
(87)【国際公開日】20181018
【審査請求日】2018年12月25日
【審判番号】不服-12678(P-12678/J1)
【審判請求日】2020年9月10日
(31)【優先権主張番号】17166644.9
(32)【優先日】2017年4月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ヴュイユ,ピエリ
(72)【発明者】
【氏名】コシャン,ロジェ
(72)【発明者】
【氏名】バザン,ジャン−リュック
(72)【発明者】
【氏名】ミコ,シラ
(72)【発明者】
【氏名】コール,アルネ
【合議体】
【審判長】 瀬川 勝久
【審判官】 松川 直樹
【審判官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−25495(JP,A)
【文献】 特開平5−109642(JP,A)
【文献】 特開2006−213968(JP,A)
【文献】 特開平8−106876(JP,A)
【文献】 特開昭62−154447(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/176850(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然及び合成サファイア、無機ガラス、ポリマーならびにセラミックから作成される時計ガラス用の被処理物体(30)の表面に反射防止表面処理のために1価又は多価イオンを注入する方法であって、前記方法は、前記被処理物体(30)の表面の方に、電子サイクロトロン共鳴(ECR)型イオン源(1)により生成したイオン・ビーム(12)を向けることにあるステップを含み、前記方法は、
・少なくとも1つの1次電子ビーム(28)を生成し、前記1次電子ビーム(28)を、前記1次電子ビーム(28)が前記イオン・ビーム(12)を通過するように向けることであって、前記1次電子ビーム(28)の電子と前記イオン・ビーム(12)のイオンとの再結合によって、前記イオン・ビーム(12)の発散が低減される、前記向けること、及び
・前記1次電子ビームが前記イオン・ビーム(12)を横断した後、標的(32)上での前記1次電子ビーム(28)の反射によって2次電子ビーム(34)を生成すること
にあるステップも含み、前記標的(32)は、前記2次電子ビーム(34)が前記被処理物体(30)の表面上に落下するように向ける、方法。
【請求項2】
前記被処理物体(30)は、非導電性材料又は半導体材料から作製することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被処理物体(30)を作製する材料は、天然及び合成サファイア、無機ガラス、ポリマー並びにセラミックにより形成される群から選択することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被処理物体(30)を作製する材料は、導電性材料であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記被処理物体(30)を作製する材料は、結晶質又は非晶質の金属合金、セラミック、並びに貴金属及び非貴金属により形成される群から選択することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1価又は多価イオンECRイオン源(1)により前記被処理物体(30)の表面に注入する原子は、窒素N、炭素C、酸素O、アルゴンAr、ヘリウムHe及びネオンNeにより形成される群から選択することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
窒素原子は、二窒素前駆体ガスのイオン化によって得、炭素原子は、メタン前駆体ガスのイオン化によって得、酸素原子は、二酸素前駆体ガスのイオン化によって得ることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記被処理物体(30)の表面温度は、遠隔式にリアルタイムで測定することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記被処理物体(30)の表面の電位又は前記被処理物体(30)を支持する台(36)の電位は、リアルタイムで測定することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被処理物体(30)の表面は、1×1016イオン/cm2と15×1016イオン/cm2との間に含まれる範囲内にある少なくとも1つのイオン注入量により処理すること、及び1価又は多価イオン加速電圧は、7.5kVと35kVとの間に含まれることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
天然及び合成サファイア、無機ガラス、ポリマーならびにセラミックから作成される時計ガラス用の被処理物体(30)の表面に反射防止表面処理のために1価又は多価イオンを注入するデバイスであって、前記デバイスは、ECRイオン源(1)及び電子銃(16)を備え、前記ECRイオン源(1)は、イオン・ビーム(12)を生成し、前記電子銃(16)は、1次電子ビーム(28)を生成し、前記ECRイオン源(1)及び前記電子銃(16)は、前記1次電子ビーム(28)が前記イオン・ビーム(12)に交差するように配置し、前記1価又は多価イオン注入デバイスは、標的(32)を更に備え、前記標的(32)は、前記1次電子ビーム(28)が前記イオン・ビーム(12)を通過した後の前記1次電子ビーム(28)の経路上に置き、前記標的(32)は、前記イオン・ビーム(12)のイオンと再結合していない前記1次電子ビーム(28)の電子と前記標的(32)との間の衝突により生成した2次電子ビーム(34)が前記被処理物体(30)の表面上に衝突するように向ける、デバイス。
【請求項12】
前記2次電子ビーム(34)は、前記被処理物体(30)を上に置く台(36)にも衝突することを特徴とする、請求項11に記載の1価又は多価イオン注入デバイス。
【請求項13】
前記デバイスは、前記被処理物体(30)の表面温度を遠隔式にリアルタイムで測定する温度センサ(38)も含むことを特徴とする、請求項11又は12に記載の1価又は多価イオン注入デバイス。
【請求項14】
前記デバイスは、前記被処理物体(30)の表面及び/又は前記被処理物体(30)を支持する前記台(36)の電位を測定する機器(40)を含むことを特徴とする、請求項11から13のいずれか一項に記載の1価又は多価イオン注入デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1価又は多価イオン・ビームにより物体の表面を処理する方法に関し、この物体は、特に、限定はしないが合成サファイアから作製される。この方法は、例えば合成サファイアから作製した物体の表面からの望ましくない反射を低減し、可視波長スペクトルにおけるそのような材料の長期光透過を改善することを目的とする。本発明による方法は、特に、合成サファイア時計ガラスの反射防止表面処理に適用し、その光透過性を改善することを意図する。こうした条件において、時計ガラスの表面は、可視光範囲において良好な反射防止特性を有する。より一般的には、本発明は、任意の種類の導電性材料、半導体材料又は絶縁材料に適用され、本発明によるイオン注入方法により、そのような材料を使用して作製した物体の表面機械特徴、特に耐引掻性を改善することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
サファイア又は鋼玉は、酸化アルミニウム(Al23)の結晶から形成され、その色は、こうした材料内の微量の不純物(酸化物)の存在によって決定される。したがって、チタン及び鉄が存在するとサファイアに青色をもたらし、バナジウムが存在すると青紫色をもたらし、クロムが存在するとピンク色をもたらすことが公知である。最後に、鉄がサファイア内に存在すると、サファイアに黄色又は緑色の外観をもたらす。
【0003】
この配色は、不純物が、材料の透過及び吸収スペクトル、したがってその色を修正するエネルギー準位を鋼玉の禁止ギャップ内に出現させるということにより説明できる。
【0004】
サファイアは、熱処理することができる。かなり軽量若しくはかなり濃色である又はかなりの内包物を有する石が加熱される。この熱処理は、石内に存在する微量の不純物を溶解することによって、色を向上させ、石の輝きを改善するものである。
【0005】
研究室で合成サファイア及びルビーを製造することは、19世紀の初頭以来公知である。こうした合成石の化学組成及び物理特性は、天然石の化学組成及び物理特性と同じである。しかし、合成石は、少なくとも、最も初期の段階で製造された合成石については、合成石の全体的に湾曲する結晶化ラインによって、天然石と区別することができる。
【0006】
合成サファイアは、その高い耐引掻性のために、特に、時計ガラス、又は光学カメラ、特にスマート・フォンのレンズを作製するために使用される。今日では、合成サファイアの生成は工業規模で実施される。
【0007】
合成サファイアの表面は、約15%の入射光を反射することが周知であり、これにより、時計文字板、平坦なコンピュータ画面又は携帯電話画面が表示する情報の読取りが妨げられる。
【0008】
合成サファイア表面の光反射率の値は、フレネルの式を使用して得られ、フレネルの式は、90°の入射角でディオプトリを通過する光線の場合、以下の反射(R)及び透過(T)係数:
R=((n2−n1)/(n2+n1))2
T=4n1×n2/(n2+n1)2
が得られ、式中、n1及びn2は、ディオプトリによって分離されている媒体の反射指数である。
【0009】
エネルギー保存の原理を考慮して、R+T=1が得られる。
【0010】
空気(n1=1)及び合成サファイア(n2=1.76)の場合、上記の式により、R=0.0758、T=1−R=0.9242が得られる。言い換えれば、合成サファイア表面上に直交して落下する7.6%の可視光は反射され、92.4%の可視光は透過する。
【0011】
互いに平行に延在し、互いに離れている受入面及び放出面から形成した合成サファイア条片の場合、光学的損失は、2倍高く、したがって約15%である。この高い反射の周囲光は、例えば、合成サファイア時計ガラスの下に位置する時計文字板によって表示する情報(針、日付表示、装飾)の読取りを困難にする。
【0012】
金属酸化物を付着させることにある反射防止方法があるが、こうした方法は、実施が比較的複雑で高額である。例えば、時計ガラスの場合、使用する方法の1つは、金属酸化物薄膜の真空蒸着(10-5torr)から構成される。無菌室型無塵筐体において、まず、時計ガラスを清浄化ラインで清浄化し、次に、超音波により乾燥させる。次に、真空室のベルジャーに挿入した支持体に時計ガラスを組み付ける。こうした真空室のベルジャー内部の真空は、金属酸化物の昇華による、大気圧よりも低い温度での蒸着を可能にする。蒸着は、金属酸化物をジュール加熱することによって、又は電子銃を使用して酸化物を衝突させることによって達成することができる。真空の質、蒸着速度、及び付着させる膜の厚さは、完全に制御しなければならない。当然、これらの厚さは均一でなければならない。
【0013】
他の、それほど高額ではない種類の気相蒸着があり(物理蒸着又はPVDとしても公知)、この蒸着は、フッ化マグネシウムMgF2(光反射指数1.38)又は氷晶石NaA1F(光反射指数1.35)を付着させることにある。こうした材料の反射指数は、互いに近いが、これらの耐引掻性は、合成サファイアの耐引掻性に劣る。その耐引掻性を改善するために合成サファイア上に作製したPVD蒸着は、引掻きによる傷が付くか又は剥離することがあり、これにより、合成サファイアに対し得ることができるあらゆる利点が完全に除かれる。
【0014】
「合成サファイア」とは、可視光を透過する材料を意味する。合成サファイアは、酸化アルミニウム(Al)から形成される。物理的な言い方では、合成サファイアは、超硬質結晶質材料であり(モース硬度では9に等しい硬度)、鋼玉族に属し、1.76に等しい非常に高い反射指数を有する。
【0015】
より一般的には、本発明は、限定はしないが、合成サファイア、ポリカーボネート、無機ガラス及びセラミック等のあらゆる種類の材料に関する。被処理材料は、導電性であっても、半導体であっても、絶縁性であってもよい。
【0016】
他の公知の表面処理技法は、被処理物体の表面へのイオン注入から構成される。
【0017】
こうしたイオン注入方法は、例えば電子サイクロトロン共鳴型1価又は多価イオン源により被処理物体の表面に衝突させることにある。この種のデバイスは、ECRイオン源としても公知である。
【0018】
ECRイオン源は、電子サイクロトロン共鳴を利用してプラズマを生成する。マイクロ波は、イオン化を目的とする一定量の低圧ガスに、電子サイクロトロン共鳴に対応する周波数で注入するものであり、電子サイクロトロン共鳴は、イオン化される一定量のガスの内部に位置する領域に加えられる磁界によって規定される。マイクロ波は、イオン化される一定量のガス内に存在する遊離電子を加熱する。熱擾乱により、これらの遊離電子は、原子又は分子と衝突し、イオン化することになる。生成されるイオンは、使用するガス種に対応する。このガスは、純ガスであっても、化合物であってもよい。ガスは、固体又は液体材料から得られる蒸気であってもよい。ECRイオン源は、1価イオン、即ち、イオン化度が1に等しいイオン、又は多価イオン、即ち、イオン化度が1よりも高いイオンを生成することができる。
【0019】
本特許出願の範囲において、ECR型1価又は多価イオン源が関係する。かなり手短に言うと、本特許出願に添付の図1に示すように、全体を全体参照数字1により示すECRイオン源は、イオン化される一定量のガス4及び高周波6を導入する噴射段2、プラズマ10を中で生成する磁気閉込め段8、並びにプラズマ10からイオンを抽出し、陽極11a及び陰極11bにより加速可能にする抽出段11を含み、陽極11aと陰極11bとの間には、高電圧を印加する。
【0020】
多価ECRイオン源1の出口で生成したイオン・ビーム12の態様を本特許出願に添付の図2に示す。このイオン・ビーム12は、ECRイオン源1の出口で発散する傾向があることに留意されたい。このことは、全て同じ電気記号を有するイオンが互いに反発する傾向があることにより説明することができる。イオン・ビーム12は、ECRイオン源1の出口で発散する傾向があるため、このことは、被処理物体の表面においてイオンの分散不均一性に関する問題を生じさせる。
【0021】
被処理物体の表面へのイオン注入に関連する別の問題は、1価又は多価イオンが堆積するにつれて、被処理物体の表面に静電位が次第に出現することに関する。実際、被処理物体の表面に注入するイオンの数が多いほど、静電場が高くなり、より多くの被処理物体の表面がECRイオン源から到来するイオンを反発する傾向があり、このことも、被処理物体へのイオン注入方法における、不均一性に関する問題を生じさせる。被処理物体が導電性である場合、遊離電子、又は被処理物体を生成した材料に弱く結合している電子の少なくとも一部が、注入されたイオンと再結合することができる限り、この問題はあまり存在しない。しかし、被処理物体を非導電性材料から作製した場合、電子と1価又は多価イオンとの間の再結合現象は発生せず、被処理物体の表面においてイオンの均一な分散を保証することが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、被処理物体の表面へのイオン注入方法を提供することによって、他の問題に加えて上述の問題を克服することであり、この方法は、特に、物体表面での前記イオンの均一な分散を保証することができる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的で、本発明は、被処理物体の表面に1価又は多価イオンを注入する方法に関し、この方法は、被処理物体の表面の方に、ECR型1価又は多価イオン源により生成したイオン・ビームを向けることにあるステップを含み、方法は、少なくとも1つの1次電子ビームを生成し、この1次電子ビームを、1次電子ビームが多価イオン・ビームを通過するように向けることにあるステップも含む。
【0024】
補完的な特徴によれば、本発明の方法は、1次電子ビームがイオン・ビームを横断した後、標的上での1次電子ビームの反射によって2次電子ビームを生成することにあるステップも含み、標的は、2次電子ビームが被処理物体の表面上に落下するように向ける。
【0025】
本発明の別の特徴によれば、被処理物体は、非導電性材料から作製する。被処理物体を作製する材料は、天然及び合成サファイア、無機ガラス、ポリマー並びにセラミックにより形成される群から選択する。
【0026】
本発明の別の特徴によれば、被処理物体は、導電性材料から作製する。本発明は、特に、結晶質又は非晶質金属合金、並びに貴金属及び非貴金属に関する。
【0027】
本発明の更に別の特徴によれば、被処理物体を作製する材料は、天然及び合成サファイア、無機ガラス、ポリマー、結晶質又は非晶質の金属合金、セラミック、並びに貴金属及び非貴金属により形成される群から選択する。
【0028】
本発明の更に別の特徴によれば、1価又は多価イオンECRイオン源により被処理物体の表面に注入し得る原子は、窒素N、炭素C、酸素O、アルゴンAr、ヘリウムHe及びネオンNeにより形成される群から選択する。
【0029】
本発明の更に別の特徴によれば、窒素原子は、二窒素前駆体ガスのイオン化によって得、炭素原子は、メタン前駆体ガスのイオン化によって得、酸素原子は、二酸素前駆体ガスのイオン化によって得る。
【0030】
本発明の更に別の特徴によれば、被処理物体の表面温度は、温度センサにより遠隔式にリアルタイムで測定する。サファイア物体の表面温度の測定に好適な温度センサは、フランスの企業LumaSense Technologiesが照会番号IN5/9 Plusの名で販売しているものである。
【0031】
本発明の更に別の特徴によれば、被処理物体の表面の電位又は被処理物体を支持する台の電位は、リアルタイムで測定する。
【0032】
したがって、本発明の結果として、特に、多価イオンの電荷が被処理物体の表面上に衝突する前に、電荷を制御することが可能である。
【0033】
少なくとも1つの1次電子ビームを正電荷イオン(又は陽イオン)・ビームの方に向けることによって、少なくとも一部の電子がビーム内の陽イオンと再結合することは明らかである。この再結合は、陽イオンの電荷の低減又は相殺を生じさせるが、運動エネルギーによって運ばれ、被処理物体の表面上に衝突するのは中性粒子であることが非常に多い。
【0034】
ビームの1価又は多価イオンの電荷が低減又は相殺されることは、2つの非常に良い結果を有する:一方では、イオンが静電気により互いに反発する可能性が低くなるため、イオン・ビームがあまり発散しない;もう一方では、被処理物体の表面の電位及び/又は被処理物体を上に置く台の電位は低いため、被処理物体の表面及び台が、ECR源から到来するイオンを反発する可能性が低くなる。したがって、(帯電しているか帯電していないかにかかわらず)被処理物体の表面上に衝突する原子の運動エネルギーをより正確に制御し、したがって、被処理物体の表面上に形成するコーティングの質をより正確に制御することが可能である。
【0035】
被処理物体の表面コーティングの質及び均一性の制御は、2次電子ビームの使用によって更に向上し、2次電子ビームは、1次ビーム電子が標的上に再結合した後に得られ、2次電子ビームの向きは、2次電子が被処理物体の表面上に衝突するように選択する。2次電子は、被処理物体の表面上に落下すると、表面に注入された多価イオンと再結合し、前記イオンの静電荷を低減又は相殺し、このことは、被処理物体の表面及び被処理物体を支持する台の静電位の低減に寄与し、したがって、多価イオンが前記表面によって反発される現象が低減する。
【0036】
最後に、被処理物体の表面の静電位及び/又は前記物体の温度を制御すると、(イオン化されているか否かにかかわらず)被処理物体の表面上に衝突する原子の運動エネルギーを制御する精度を更に向上させる。
【0037】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明による方法の例示的実装形態に対する以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。この例は、添付の図面を参照して、単に非限定的な例として示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】従来技術による、上記で挙げた1価又は多価ECRイオン源の概略図である。
図2図1の1価又は多価ECRイオン源の出口におけるイオン・ビームを示す概略図である。
図3】本発明による、1価又は多価イオンを被処理物体の表面に注入するデバイスの概略図である。
図4】本発明による、図3に示す1価又は多価イオン源デバイスの出口におけるイオン・ビームを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、1価又は多価イオンが被処理物体の表面上に衝突する前に、ECR型の1価又は多価イオン源により生成したイオンの静電荷の全て又は一部を相殺することにある一般的発明概念から進行する。前記イオンの静電荷を低減させることにより、前記イオンの互いへの反発をより少なくし、イオンが生成するビームの発散がより少なくなるようにする。同様に、(中性原子であるかイオン化原子であるかにかかわらず)被処理物体の表面上に衝突する原子は、前記表面に既に注入されているイオンによってあまり反発されず、このため、被処理物体のためのより均一な表面コーティングが得られる。この結果を達成するために、本発明は、電子ビームをイオン・ビームの方に向けることを教示する。電子は、イオン・ビームを通過する際、前記イオンと再結合し、イオンの静電荷を低減又は相殺する。この効果を強化するために、本発明は、電子がイオン・ビームを通過した後の電子の経路上に標的を置き、電子を被処理物体の表面の方に向け直し、被処理物体の表面に既に注入されているイオンの静電荷の低減又は相殺にも寄与するようにすることを提案する。物理特性、特に機械特性(物体表面の硬度の増大)及び光学特性(透過材料から作製した物体の表面反射の低減)を向上させるため、イオン注入及び電荷の相殺によって物体の表面を処理することが本発明の目的である。
【0040】
図3は、本発明による、1価又は多価イオンを被処理物体の表面に注入するデバイスの概略図である。全体を全体参照数字14で示すこのイオン注入デバイスは、図1に示したのと同じ種類のECRイオン源1を含む。
【0041】
本発明によれば、このECRイオン源1に関連付けた電子銃があり、電子銃は、全体を全体参照数字16で示す。公知のように、電子銃は、導電材料から真空に電子を抽出することによって電子ビームを生成するデバイスであり、真空において、電子は電界によって加速される。
【0042】
関係するケースでは、好ましくは、冷陰極電界放出電子銃を使用する。この目的で、電子銃16は、例えば黒鉛から作製し、開口20が中に配置される陽極18、及び極細先端部24をもつ形態の金属陰極22を含む。高電圧は、陽極18と金属陰極22との間の発電器26により印加する。この高電圧の作用下、金属陰極22の端部の先端効果により、かなり強力な電界が生成される。この強力な電界により、金属陰極22の先端部24からのトンネル効果によって電子を抽出し、電子を加速させ、電子ビーム28を生成することが可能であり、電子ビーム28は、陽極18内に配置した開口20を通過するにつれて伝播する。以下に表す理由のため、電子銃16によって放出される電子を1次電子と呼ぶ。
【0043】
一変形形態によれば、金属陰極22の先端部24から電子を抽出することは、熱により支援することができる。
【0044】
本発明によれば、電子銃16が生成する電子ビーム28は、電子ビーム28がイオン・ビーム12を通過するように向けられる。1次電子の一部は、イオン・ビーム12を通過すると、イオンと再結合し、前記イオンの電荷の低減又は相殺を生じさせるが、運動エネルギーによって運ばれ、被処理物体30の表面上に衝突するのは中性原子(又は少なくとも、より低い静電荷を有する原子)であることが非常に多い。
【0045】
本発明の補完的な特徴によれば、1次電子ビーム28の経路上に配置される標的32があり、標的32上に、イオン・ビーム12を通過した後にイオンと再結合していない1次電子が落下する。標的32は、1次電子ビーム28の電子と標的32との間の衝突により生成された2次電子ビーム34が、被処理物体30の表面及び被処理物体30を上に置く台36上に衝突するように向けられる。このケースにおいても、2次電子ビーム34の電子は、被処理物体の表面に注入するイオンの静電荷を相殺又は低減する。
【0046】
本発明の更に別の特徴によれば、被処理物体30の表面温度は、温度センサ38により遠隔式にリアルタイムで測定する。サファイア物体の表面温度の測定に好適な温度センサは、フランスの企業LumaSense Technologiesが照会番号IN5/9 Plusの名で販売しているものである。
【0047】
本発明の更に別の特徴によれば、被処理物体30の表面電位又は被処理物体30を支持する台の電位は、電圧測定機器40によりリアルタイムで測定する。
【0048】
本発明は、1価又は多価イオンを被処理物体の表面に注入するデバイスにも関し、このデバイスは、ECRイオン源1及び電子銃16を備え、ECRイオン源1はイオン・ビーム12を生成し、電子銃は1次電子ビーム28を生成し、ECRイオン源1及び電子銃16は、1次電子ビーム28がイオン・ビーム12を交差するように配置する。
【0049】
1価又は多価イオン注入デバイスは、標的32も含み、標的32は、1次電子ビーム28がイオン・ビーム12を通過した後の1次電子ビーム28の経路上に置かれる。標的32は、1次電子ビーム28の電子と標的32との間の衝突により生成された2次電子ビーム34が、被処理物体30の表面及び被処理物体30を上に置く台36上に衝突するように向けられる。
【0050】
1価又は多価イオン注入デバイスは、被処理物体30の表面温度を遠隔式にリアルタイムで測定する温度センサ38も含む。
【0051】
1価又は多価イオン注入デバイスは、被処理物体30の表面及び/又は被処理物体30を支持する台36の電位を測定する機器40も含む。
【0052】
1次電子ビーム28が交差した後の、ECRイオン源1の出口で生成したイオン・ビーム12の態様を本特許出願に添付の図4に示す。このイオン・ビーム12は、ECRイオン源1を出た後、例えあったとしても、ほとんど発散していないことに留意されたい。このことは、多数のイオンの電荷(「+」で示す)が、1次電子ビーム28の電子(「−」で示す)とイオン・ビーム12のイオンとの再結合によって相殺又は低減されるということにより説明できる。1次電子ビーム28の発散が少なくとも大幅に低減するため、被処理物体30の表面における多価イオンの分散均一性をかなり向上させる。
【0053】
本発明は、たった今説明した実施形態に限定されないこと、及び当業者によって、添付の特許請求の範囲により定義する本発明の範囲を逸脱することなく様々な単純な修正及び変形を想定できることは明らかである。特に、使用するイオン注入量は、1×1016イオン/cm2と15×1016イオン/cm2との間に含まれる範囲内にあること、及び1価又は多価イオン加速電圧は、7.5kVと35kVとの間に含まれることに留意されたい。また、本発明は、より詳細には、限定はしないが、時計ガラス作製のための(天然サファイア又は合成サファイアにかかわらず)サファイア物体の表面処理に適用されることは理解されよう。本発明によるイオン注入方法により、そのようなガラスが反射する入射光の量は著しく低減し、これにより、こうしたガラスの下に置かれる表示部材が表示する情報(針、日付表示、装飾等)の可読性を著しく向上させる。本発明は、他の種類の材料(例えばセラミック又は結晶質若しくは非晶質の金属材料)にも適用され、こうした材料の機械特性、特に耐引掻性は、イオン注入及び電荷中和方法を上記材料に適用すると大幅に改善される。2次電子ビームは、1次電子ビームからの電子、及び1次電子ビームの電極によって標的から抽出された電子の両方を含むことにも留意されたい。最後に、本発明によれば、ECRイオン源は、1価又は多価イオン、即ち、イオン化度が1に等しいか又はイオン化度が1を超えるイオンを生成することができ、イオン・ビームは、全てが同じイオン化度を有するイオンを含み得るか、又は異なるイオン化度を有するイオンの混合から得ることができることに留意されたい。
【符号の説明】
【0054】
1 電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオン源
2 噴射段
4 イオン化される一定量のガス
6 高周波
8 磁気閉込め段
10 プラズマ
11 抽出段
11a 陽極
11b 陰極
12 イオン・ビーム
14 イオン注入デバイス
16 電子銃
18 陽極
20 開口
22 金属陰極
24 先端部
26 発電器
28 1次電子ビーム
30 被処理物体
32 標的
34 2次電子ビーム
36 台
38 温度センサ
40 電圧測定機器
図1
図2
図3
図4