(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
−第1の実施形態−
図1は、第1の実施形態における車両システム1000のブロック構成図である。車両システム1000は、電池100、計測部200、電池制御装置300、車両制御装置400を備え、電池100が蓄積している電荷を車両制御装置400へ電力として供給するシステムである。電池制御装置300が電力を供給する対象の車両制御装置400としては、例えば電気自動車やハイブリッド自動車、電車などが考えられる。車両制御装置400は、電池制御装置300より電池100の充電状態および前記電池の劣化度を受信する。また、電池制御装置300は、車両制御装置400へ後述するSOC制御値を通知する。
【0011】
電池100は、例えばリチウムイオン2次電池などの充電可能な電池である。その他、ニッケル水素電池、鉛電池、電気2重層キャパシタなどの電力貯蔵機能を有するデバイスに対しても、本実施形態を適用することができる。電池100は、単電池セルであっても良いし、単電池セルを複数組み合わせたモジュール構造でも良い。
【0012】
計測部200は、電池100の物理特性、例えば電池100の両端電圧V、電池100に流れる電流(電池電流)I、電池100の電池温度Tなどを計測する機能部であり、各値を計測するセンサ、必要な電気回路などによって構成されている。
【0013】
電池制御装置300は、電池100の動作を制御する装置であり、電池状態推定装置310と記憶部320とを備える。なお、後述するように電池状態を求めるには電池100の内部抵抗値Rも必要であるが、本実施形態では、電池状態推定装置310において、その他の計測パラメータを用いて算出する。
【0014】
電池状態推定装置310は、計測部200により計測された電池100の両端電圧V、電池100に流れる電池電流I、及び電池100の電池温度Tに基づいて、記憶部320に格納されている電池100の特性情報を参照して、電池100のSOCやSOH(劣化度)を算出する。SOCやSOHの算出手法については後述する。
【0015】
記憶部320は、電池100の初期の内部抵抗値R0などの予め知ることができる電池100の特性情報を電池100に応じて記憶している。さらに、電池100の負極の結晶構造が切り替わる相変化領域に該当するSOC範囲を電池100ごとに記憶している。さらに、記憶部320は、電池100に対応して初期の内部抵抗値R0等を記憶している。
【0016】
電池状態推定装置310は、その機能を実現する回路デバイスなどのハードウェアを用いて構成することができる。また、その機能を実装したソフトウェアを、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。後者の場合は、当該ソフトウェアは例えば記憶部320に格納される。
【0017】
記憶部320は、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、磁気ディスクなどの記憶装置を用いて構成される。記憶部320は、電池状態推定装置310の外部に設けてもよいし、電池状態推定装置310の内部に備えるメモリ装置として実現してもよい。記憶部320は、取り外し可能にしてもよい。取り外し可能にした場合、記憶部320を取り替えることによって、特性情報とソフトウェアを簡単に変更することができる。また、記憶部320を複数有し、特性情報とソフトウェアを取り替え可能な記憶部320に分散させて格納することにより、特性情報とソフトウェアを小単位毎に更新することができる。
【0018】
図2は、電池状態推定装置310と記憶部320よりなる電池制御装置300の構成図である。
電池状態推定装置310は、SOC演算部311、内部抵抗判定部312、SOH演算部313を備える。
【0019】
SOC演算部311には、電池100の両端電圧V、電池100に流れる電流(電池電流)I、電池100の電池温度Tなどが入力される。SOC演算部311は、入力された電流と、SOC演算部311によるSOC演算結果の前回値(一周期前の演算結果)とに基づいて、電流の積算値に基づくSOCを演算して出力する。SOCは、例えば、次式(1)で算出される。式(1)において、SOColdは、SOCの前回値である。また、ΔSOCは、前回の演算時から今回の演算時までに流れた電流IによるSOCの変化量であり、Qmaxは電池100の満充電容量、tsは制御周期(電流や電圧等のサンプリング周期)である。
SOC=SOCold+ΔSOC …(1)
ただし、ΔSOC=100×I×ts/Qmaxである。
【0020】
このように、SOC演算部311は、式(1)に基づいて、放電電流を積算し、最大限充電可能な電荷量(全容量)に対し、電池100に残っている電荷量(残存容量)の比を算出してSOCを求める。なお、SOCを求める手法は種々の手法があり、本実施形態ではいずれの手法で求めたSOCを用いてもよい。例えば、電池100の両端電圧(開回路電圧)と電池100のSOCの関係を予めSOCテーブルなどに定義して記憶部320に記憶しておき、検出した電池100の両端電圧に基づいてSOCテーブルを参照することにより、現在のSOCを求めることができる。さらには、この手法および式(1)で求められたSOCを重み付け加算してSOCを求めることもできる。
【0021】
内部抵抗判定部312は、計測部200により計測された電池100の両端電圧V、電池100に流れる電池電流Iに基づいて電池100の内部抵抗値R1を算出する。
SOH演算部313は、SOCおよび温度に対応した初期の内部抵抗値R0と、現時点の内部抵抗値R1とに基づき、例えば、次式(2)によりSOHを算出する。
SOH=100×R1/R0 …(2)
初期の内部抵抗値R0は電池100に対応して記憶部320へ予め記憶されている。SOH演算部313は、通常は、式(2)に基づく演算を制御周期(電流や電圧等のサンプリング周期)などの所定周期毎に更新して出力する。
【0022】
SOH演算部313は、SOC演算部311で算出されたSOC範囲が後述する電池100の相変化領域であれば、SOHの更新を停止する、もしくはSOHの更新割合を小さくして、SOHの更新を抑制する。
【0023】
図3は、電池100の使用時間とSOHとの関係を示すグラフである。電池100が新品時のSOH(図示500)は、電池100が使用時間に応じて劣化しないと仮定した場合を示す。時間が経過した時点のSOH(図示510)は、電池100の使用時間に応じて劣化した状態(SOH100%以上)を示す。一般的に、電池100の使用時間に従いSOHは上昇する。現時点のSOHはSOH演算部313で算出され、SOH演算部313は継続的にSOHを更新している。更新されたSOHは逐次、車両制御装置400へ出力されると共に記憶部103に記憶される。
【0024】
図4は、電池100のSOCと電極電位との関係を示した図である。電池100はリチウムイオン電池であり、負極に黒鉛605系の材料を使用した場合を示す。
電池100の正極電位600は、SOCに対応した正極の電位状態を示したものである。この
図4に示すように、SOCの上昇に伴い、正極電位600は上昇する。電池100の負極電位601は、SOCに対応した負極の電位状態を示したものである。この
図4に示すように、SOCの上昇に伴い、負極電位601は減少(負側に増加)する。
【0025】
図4に示す状態Aは、高SOC時の負極の結晶構造602を示したものである。状態Bは、中SOC時の負極の結晶構造603を示したものである。結晶構造602、603において、リチウムイオン604は、負極で保持されるリチウムイオンの結晶構造の略図であり、黒鉛605は、負極の材料である黒鉛の結晶構造の略図である。負極の結晶構造が状態Aと状態Bとに切り替わる領域は相変化領域Cである。
【0026】
相変化領域Cでは、負極の結晶構造が切り替わる領域であり、状態Aにおける結晶構造の黒鉛605と状態Bにおける結晶構造の黒鉛605が混在している領域である。この相変化領域Cでは、電池100の通電時における電圧挙動が複雑になる為、内部抵抗判定部312による内部抵抗値の演算に誤差が生じる要因になる。電圧挙動が複雑になる理由として、相変化領域C内において、状態Aから状態Bに変化(放電)する際のリチウムイオンの拡散や電気化学的な反応に必要なエネルギー(過電圧)と状態Bから状態Aに変化(充電)する際のリチウムイオンの拡散や電気化学的な反応に必要なエネルギー(過電圧)が異なることが挙げられる。このため、相変化領域Cにおいては、充電や放電で内部抵抗値の値が異なってくる。さらに、車両走行中においては、充電と放電が様々に切り替わるため、現時点までの充放電の履歴によっても内部抵抗値の見え方は様々に異なり得る。内部抵抗値は、電池100の劣化度(SOH)を推定するための情報であり、相変化領域Cのように正確に内部抵抗値を測定することが困難な領域では、SOH演算部313の演算に誤差が生じる。
【0027】
図5は、電池100のSOCと内部抵抗値との関係を示した図である。電池100が放電方向に変化した場合における電池100の内部抵抗値と電池100が充電方向に変化した場合における電池100の内部抵抗値とを計測したものである。相変化領域は、放電方向に変化した場合における内部抵抗値と充電方向に変化した場合における内部抵抗値との差分が所定値以上の領域である。
【0028】
電池100の電極材料の特性により、相変化領域は異なっていて、SOCに応じて複数の相変化領域がみられる場合もある。
図5では、相変化領域が2つの場合を示す。相変化領域C1は、中SOC時の相変化領域を示したものである。相変化領域C2は、高SOC時の相変化領域を示したものである。同じSOC領域でも、電池100の充放電により、内部抵抗値にばらつきが見られる。例えば、相変化領域C2において、放電時に測定した内部抵抗値606と充電時に測定した内部抵抗値607とでは内部抵抗値の差分が大きくなっている。相変化領域は、電池100の劣化度(SOH)や使用環境(温度)で変化し得るため、あらかじめ相変化領域の変化状況を把握し、相変化領域に該当するSOC範囲を電池100ごとに記憶部320に記憶しておく。
【0029】
図6は、電池制御装置300の動作を示すフローチャートである。この例では、SOCが相変化領域である場合はSOH(劣化度)の更新を行わない。
ステップS10で、SOC演算部311は、式(1)に基づいてSOCを算出する。ステップS11で、SOH演算部313は、SOC演算部311で算出されたSOCが電池100に対応して記憶部320に予め記憶された相変化領域内であるかを判定する。SOCが相変化領域内でなければ、ステップS12で、SOH演算部313は、式(2)に基づいてSOHを算出してその結果を出力すると共に、記憶部320に記憶する(SOHの更新)。ステップS11でSOCが相変化領域内であれば、ステップS13に進み、SOH演算部313によるSOHの更新を停止する。その結果、記憶部320には、前回のSOHが保持されたままとなり、SOH演算部313から前回のSOHが出力される。
【0030】
図7(A)は、電池100の充放電を示すグラフ、
図7(B)は、SOCの変化を示すグラフ、
図7(C)は、SOHの変化を示すグラフ、
図7(D)は、SOHの更新状態を示すグラフである。
【0031】
図7(A)に示すような電池100の充放電に伴い、
図7(B)に示すようにSOCは増加と減少を繰り返す。このときのSOCが、電池100の負極材料の特性である相変化領域内にあれば、SOH演算部313の更新を停止しなかった場合は、
図7(C)の破線aで示すように、SOHの演算誤差が増加する。SOCが相変化領域の外になると、SOHの演算誤差が小さくなるため真値に収束する。このように、SOCが相変化領域にある場合は、SOH演算部313の誤差増加によりSOHが信用できなくなるため、SOHの更新を停止する。
図7(D)は、SOHの更新停止の期間を示す。SOHの更新を停止すると、
図7(C)の実線bで示すように、一時的にSOHの演算結果が前回値(一定値)となる。
【0032】
第1の実施形態によれば、SOCが相変化領域にある場合は、SOHの更新を停止する。これにより、電池100の負極の相変化領域において、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。さらに、SOH演算の誤差を低減し、電池100の寿命や性能を正確に把握することが可能となるので、性能低下による電池100の交換時期が正確になり、電池100の寿命限界まで使用することができる。
【0033】
−第2の実施形態−
第1の実施形態で示した、
図1の車両システム1000のブロック構成図、
図2の電池制御装置300の構成図、
図3の電池100の使用時間とSOHとの関係を示すグラフ、
図4の電池100のSOCと電極電位との関係を示した図、
図5の電池100のSOCと内部抵抗値との関係を示した図は、本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。また、式(1)等に基づくSOC演算部311の動作、式(2)等に基づくSOH演算部313の動作は本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。
【0034】
図8は、第2の実施形態における電池制御装置300の動作を示すフローチャートである。第2の実施形態では、SOCが相変化領域である場合はSOH(劣化度)の更新割合を少なくする。
【0035】
具体的には、SOH平均化処理の更新割合をSOCに応じて変化させるような重み係数wを用いて次式(3)より求め、このSOH_平均をSOHとする。
SOH_平均=(1−w)×SOH_平均(前回)+w×SOH …(3)
ここで、重み係数wは 0≦w≦1である。重み係数wは、SOCに対応する値であり、w=k(SOC)で表される。kは補正係数である。SOH_平均(前回)は、式(3)を用いて前回に更新されたSOH_平均である。
【0036】
例えば、重み係数wは、SOCが相変化領域外の場合は重み係数wを1(100%)とすることで、SOHを更新する。SOCが相変化領域内の場合は重み係数wを0<w<1(0%<w<100%)とすることで、SOHの更新割合を変化させる。相変化領域内でSOCに応じて重み係数wを調整するように、SOCと重み係数wの関係をテーブルまたは式により電池100に対応して記憶部320に予め記憶しておく。
図9は、SOCと重み係数wの関係を示す図である。この
図9に示すように、相変化領域の中心部では重み係数wを0に、相変化領域の周辺部では重み係数wを徐々に1から0へ、若しくは0から1へ変化する値に設定しておく。
【0037】
以下、
図8に示すフローチャートを参照して説明する。
ステップS20で、SOC演算部311は、式(1)に基づいてSOCを算出する。ステップS21で、SOH演算部313は、SOC演算部311で算出されたSOCが電池100に対応して記憶部320に予め記憶された相変化領域内であるかを判定する。SOCが相変化領域内でなければ、ステップS22で、SOH演算部313は、式(2)に基づいてSOHを算出してその結果を出力すると共に、記憶部320に記憶する(SOHの更新)。ステップS21でSOCが相変化領域内であれば、ステップS23に進み、ステップS20で算出したSOCに対するSOH更新割合(重み係数w)を記憶部320を参照して求める。
【0038】
続いてステップS24で、ステップS23で求めた重み係数wを用いて、式(3)に基づいてSOH_平均を求め、これをSOHとして記憶部320に記憶すると共に出力する(更新する)。
【0039】
図10(A)は、電池100の充放電を示すグラフ、
図10(B)は、SOCの変化を示すグラフ、
図10(C)は、SOHの変化を示すグラフ、
図10(D)は、重み係数wの状態を示すグラフである。
【0040】
図10(A)に示すような電池100の充放電に伴い、
図10(B)に示すようにSOCは増加と減少を繰り返す。このときのSOCが、電池100の相変化領域内にあり、SOH演算部313の更新割合を変更しなかった場合は、
図10(C)の破線aで示すように、SOHの演算誤差が増加する。SOCが相変化領域の外になると、SOHの演算誤差が小さくなるため真値に収束する。このように、SOCが相変化領域にある場合は、SOH演算部313の誤差増加によりSOHが信用できなくなるため、SOHの更新割合を変更する。
図10(D)は、SOHの更新割合の変更の期間を示す。SOHの更新割合を少なくすると、
図10(C)の実線bで示すように、一時的にSOHの演算結果が前回値(一定値)を反映したものとなる。
【0041】
第2の実施形態によれば、SOCが相変化領域内にある場合は、SOHの更新割合を小さくすることで、SOCが相変化領域内にある場合のSOHの算出誤差を低減する。これにより、電池100の負極の相変化領域において、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。さらに、SOH演算の誤差を低減し、電池100の寿命や性能を正確に把握することができる。
【0042】
−第3の実施形態−
第1の実施形態で示した、
図1の車両システム1000のブロック構成図、
図2の電池制御装置300の構成図、
図3の電池100の使用時間とSOHとの関係を示すグラフ、
図4の電池100のSOCと電極電位との関係を示した図、
図5の電池100のSOCと内部抵抗値との関係を示した図は、本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。また、式(1)等に基づくSOC演算部311の動作、式(2)等に基づくSOH演算部313の動作は本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。また、第2の実施形態で示した、式(3)等に基づく重み係数wを用いたSOH平均化処理は本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。
【0043】
図11は、第3の実施形態における電池制御装置300の動作を示すフローチャートである。本実施形態では、SOCが相変化領域にあり、SOCの更新停止が長時間継続した場合に、SOHの更新割合を変更する。
【0044】
以下、
図11に示すフローチャートを参照して説明する。
ステップS30で、SOC演算部311は、式(1)に基づいてSOCを算出する。ステップS31で、SOH演算部313は、SOC演算部311で算出されたSOCが電池100に対応して記憶部320に予め記憶された相変化領域内であるかを判定する。SOCが相変化領域内でなければ、ステップS32で、SOH演算部313は、式(2)に基づいてSOHを算出してその結果を出力すると共に、記憶部320に記憶する(SOHの更新)。ステップS31でSOCが相変化領域内であれば、ステップS33に進み、SOH演算部313によるSOHの更新を停止する。次に、ステップS34で、SOHの更新停止期間が所定の長時間継続しているかを判定する。長時間継続していなければ、処理を終了し、長時間継続していれば、ステップS35へ進む。ステップS35では、SOH更新割合(重み係数w)を予め定められた値(0<w<1)に変更して、式(3)に基づいてSOH_平均を求め、これをSOHとして記憶部320に記憶すると共に出力する(更新する)。
【0045】
重み係数wは、SOHの演算誤差が増加しないような電池100の通電パターンや環境温度などからあらかじめ把握して記憶部320に記憶しておくことで、真値に近いSOHを演算することができる。なお、重み係数wは、SOHの更新停止期間に応じて可変としてもよい。
【0046】
図12(A)は、電池100の充放電を示すグラフ、
図12(B)は、SOCの変化を示すグラフ、
図12(C)は、SOHの変化を示すグラフ、
図12(D)は、重み係数wの状態を示すグラフである。
【0047】
図12(A)に示すような電池100の充放電に伴い、
図12(B)に示すようにSOCは増加と減少を繰り返す。このときのSOCが、電池100の負極材料の特性である相変化領域内にあり、SOHの更新停止期間が所定の長時間継続している場合は、
図12(D)に示すように、時刻t0で重み係数wを変更する。重み係数wが変更されると、SOCが相変化領域内にあっても、SOH演算部313によるSOHの更新が行われる。その結果、
図12(C)の実線bで示すように、一時的にSOHの演算結果が反映される。すなわち、重み係数wが時刻t0で0から1未満の値に変更されると、式(3)に基づいてSOHが更新される。
【0048】
第3の実施形態によれば、繰り返して演算されるSOCが予め記憶している相変化領域内に継続して留まっていて、SOHの更新を所定時間継続して停止している場合は、SOHの更新割合を小さくしてSOHの更新を行う。これにより、SOCが相変化領域内に継続した場合においても、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。さらに、SOH演算の誤差を低減し、電池100の寿命や性能を正確に把握することができる。
【0049】
−第4の実施形態−
第1の実施形態で示した、
図1の車両システム1000のブロック構成図、
図2の電池制御装置300の構成図、
図3の電池100の使用時間とSOHとの関係を示すグラフ、
図4の電池100のSOCと電極電位との関係を示した図、
図5の電池100のSOCと内部抵抗値との関係を示した図は、本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。また、式(1)等に基づくSOC演算部311の動作、式(2)等に基づくSOH演算部313の動作は本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。
【0050】
図13は、SOHに対するSOCの相変化領域の関係を示した図である。電池100が充放電により劣化すると、SOCの相変化領域は変化する。
図13の例では、電池100が新品時から劣化(SOHが増加)するとSOCの相変化領域範囲が拡大することを示している。第4の実施形態では、SOCの相変化領域範囲がSOHに応じて変化する場合に適用するものである。また、第4の実施形態では、
図13に示すような、SOHとSOCの相変化領域範囲との関係を電池100に応じて予め記憶部320に記憶しておく。
【0051】
図14は、第4の実施形態における電池制御装置300の動作を示すフローチャートである。
ステップS40で、SOC演算部311は、式(1)に基づいてSOCを算出する。ステップS41で、記憶部320を参照して、前回更新したSOHに対応するSOCの相変化領域を取得する。次のステップS42で、SOH演算部313は、SOC演算部311で算出されたSOCがステップS41で取得された相変化領域内であるかを判定する。SOCが相変化領域内でなければ、ステップS43で、SOH演算部313は、式(2)に基づいてSOHを算出してその結果を出力すると共に、記憶部320に記憶する(SOHの更新)。ステップS42でSOCが相変化領域内であれば、ステップS44に進み、SOH演算部313によるSOHの更新を停止する。その結果、記憶部320には、前回のSOHが保持されたままとなり、SOH演算部313から前回のSOHが出力される。
【0052】
第4の実施形態によれば、電池100の負極の相変化領域が変化した場合であっても、変化した相変化領域に応じてSOHの更新を行う。これにより、SOCの相変化領域がSOHに応じて変化する場合に、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。さらに、SOH演算の誤差を低減し、電池100の寿命や性能を正確に把握することが可能となるので、性能低下による電池100の交換時期が正確になり、電池100の寿命限界まで使用することができる。
【0053】
−第5の実施形態−
第1の実施形態で示した、
図1の車両システム1000のブロック構成図、
図2の電池制御装置300の構成図、
図3の電池100の使用時間とSOHとの関係を示すグラフ、
図4の電池100のSOCと電極電位との関係を示した図、
図5の電池100のSOCと内部抵抗値との関係を示した図は、本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。また、式(1)等に基づくSOC演算部311の動作、式(2)等に基づくSOH演算部313の動作は本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。また、第2の実施形態で示した、式(3)等に基づく重み係数wを用いたSOH平均化処理は本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。
【0054】
第5の実施形態では、電池100の劣化度に応じてSOCの相変化領域におけるSOHの更新割合(重み係数w)を変更するものである。
図15は、電池100のSOCと重み係数wの関係を示す図である。
図15に示すように、電池100の新品時と劣化時では相変化領域が異なるので、SOCに対するSOH更新割合(重み係数w)を電池100の新品時のパターンnと劣化時のパターンmとで異ならせる。換言すれば、電池100の劣化度(SOH)に対応してSOCに対するSOH更新割合(重み係数w)を異ならせる。本実施形態では、
図15に示すような、電池100の劣化度(SOH)に対応してSOCと重み係数wのパターンが記憶部320に予め複数記憶されている。
【0055】
図16は、第5の実施形態における電池制御装置300の動作を示すフローチャートである。
ステップS50で、SOC演算部311は、式(1)に基づいてSOCを算出する。ステップS51で、記憶部320を参照して、前回更新したSOHに対応するSOCの相変化領域を取得する。ステップS52で、SOH演算部313は、SOC演算部311で算出されたSOCがステップS51で取得された相変化領域内であるかを判定する。SOCが相変化領域内でなければ、ステップS53で、SOH演算部313は、式(2)に基づいてSOHを算出してその結果を出力すると共に、記憶部320に記憶する(SOHの更新)。ステップS52でSOCが相変化領域内であれば、ステップS54に進む。
【0056】
ステップS54では、前回更新したSOHに対応するSOH更新割合(重み係数w)のパターンを記憶部320より読み出し、このパターンの中からステップS50で算出したSOCに対するSOH更新割合(重み係数w)を取得する。
続いてステップS55で、ステップS54で求めた重み係数wを用いて、式(3)に基づいてSOH_平均を求め、これをSOHとして記憶部320に記憶すると共に出力する(更新する)。
【0057】
本実施形態によれば、電池100が新品時から劣化していき、相変化領域が変化した場合でも、SOHに応じて更新割合(重み係数w)を可変にしてSOHの更新を行う。
図15に示す例では、電池100が劣化(SOH増加)すると、重みwが1より小さい範囲が拡大するため、SOHの更新割合の処理を実施するSOCの範囲も拡大する。これにより、電池100が徐々に劣化していく場合においても、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。さらに、SOH演算の誤差を低減し、電池100の寿命や性能を正確に把握することができる。
【0058】
−第6の実施形態−
第1の実施形態で示した、
図1の車両システム1000のブロック構成図、
図2の電池制御装置300の構成図、
図3の電池100の使用時間とSOHとの関係を示すグラフ、
図4の電池100のSOCと電極電位との関係を示した図、
図5の電池100のSOCと内部抵抗値との関係を示した図は、本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。また、式(1)等に基づくSOC演算部311の動作、式(2)等に基づくSOH演算部313の動作は本実施形態でも同様であるのでその説明を省略する。
【0059】
図17は、第6の実施形態における電池制御装置300の動作を示すフローチャートである。本実施形態では、SOCが相変化領域内に継続し、SOHの更新を所定時間継続して停止している場合は、車両制御装置400へ通知し、車両制御装置400のSOC制御値を変更することで相変化領域外の値となり、SOHの更新を行う。
【0060】
以下、
図17に示すフローチャートを参照して説明する。
ステップS60で、SOC演算部311は、式(1)に基づいてSOCを算出する。ステップS61で、SOH演算部313は、SOC演算部311で算出されたSOCが、電池100に対応して記憶部320に予め記憶された相変化領域内であるかを判定する。SOCが相変化領域内でなければ、ステップS62で、SOH演算部313は、式(2)に基づいてSOHを算出してその結果を出力すると共に、記憶部320に記憶する(SOHの更新)。
【0061】
ステップS61でSOCが相変化領域内であれば、ステップS63に進み、SOH演算部313によるSOHの更新を停止する。次に、ステップS64で、SOHの更新停止期間が所定の長時間継続しているかを判定する。長時間継続していなければ、処理を終了し、長時間継続していれば、ステップS65へ進む。ステップS65では、車両制御装置400へSOC制御値の変更要求を通知する。この通知を受けた車両制御装置400はSOCの制御狙い値を変更する。
【0062】
図18(A)は、電池100の充放電を示すグラフ、
図18(B)は、SOCの変化を示すグラフ、
図18(C)は、SOHの変化を示すグラフである。
【0063】
図18(A)に示すような電池100の充放電に伴い、
図18(B)に示すようにSOCは増加と減少を繰り返す。このときのSOCが、電池100の負極材料の特性である相変化領域内にあり、SOHの更新停止期間が所定の長時間継続している場合は、
図18(C)に示すように、SOC制御値を相変化領域外の値に設定する。SOCが相変化領域外の値に設定されると、SOH演算部313によるSOHの更新が行われる。その結果、
図10(C)の実線bで示すように、SOHの演算結果が反映される。
【0064】
なお、本実施形態では、車両制御装置400から相変化領域外となるSOC制御値に変更することにより、SOH演算部313によるSOHの更新を行わせるようにしたが、車両制御装置400からSOHの更新を行わせる指令を送信し、SOH演算部313はこの指令を受信してSOHの更新を強制的に行うように構成してもよい。
【0065】
第6の実施形態によれば、SOCが相変化領域内に継続し、SOHの更新を所定時間継続して停止している場合は、車両制御装置400へ通知し、車両制御装置400のSOC制御値を相変化領域外の値になるように変更してSOHの更新を行う。これにより、SOCが相変化領域内に継続した場合においても、車両制御装置400のSOC制御によって内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。さらに、SOH演算の誤差を低減し、電池100の寿命や性能を正確に把握することができる。
【0066】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電池制御装置300は、電池100の充電状態を算出するSOC演算部311と、電池100の内部抵抗値に基づいて電池100の劣化
度を更新するSOH演算部313とを備え、SOC演算部311で演算された充電状態が電池100の負極の相変化領域に対応するSOC範囲である場合は、SOH演算部313による劣化度
の更新を抑制する。これにより、電池の内部抵抗値に基づく劣化度の演算誤差を低減することができる。
(2)電池制御装置300において、相変化領域は、電池100が放電方向に変化した場合における電池100の内部抵抗値と電池100が充電方向に変化した場合における電池100の内部抵抗値との差分が所定値以上の領域である。これにより、相変化領域において、電池の内部抵抗値に基づく劣化度の演算に生じる誤差を低減することができる。
(3)電池制御装置300において、電池100の負極材料は黒鉛である。これにより、電池100の負極材料が黒鉛であっても、電池の内部抵抗値に基づく劣化度の演算誤差を低減することができる。
(4)電池制御装置300において、SOC演算部311で演算された充電状態が相変化領域に対応するSOC範囲である場合は、SOH演算部313による劣化度
の更新を停止する。これにより、相変化領域において、電池の内部抵抗値に基づく劣化度の演算誤差を低減することができる。
(5)電池制御装置300において、SOH演算部313は、劣化度
の更新停止期間が継続した場合は、SOH演算部313による劣化度の更新割合を変更して劣化度の
更新を行う。これにより、SOCが相変化領域内に継続した場合においても、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。
(6)電池制御装置300において、SOC演算部311で演算された充電状態が相変化領域に対応するSOC範囲である場合は、SOH演算部313による劣化度の更新割合を少なくする。これにより、電池100の相変化領域において、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。
(7)電池制御装置300において、SOH演算部313は、電池100の劣化度に対応した相変化領域を取得し、SOC演算部311で演算された充電状態が取得した相変化領域に対応するSOC範囲である場合は、劣化度
の更新を停止する。これにより、SOCの相変化領域がSOHに応じて変化する場合に、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。
(8)電池制御装置300において、SOH演算部313は、電池100の劣化度に対応した相変化領域を取得し、SOC演算部311で演算された充電状態が取得した相変化領域に対応するSOC範囲である場合は、劣化度
の更新割合を少なくする。これにより、電池が徐々に劣化していく場合においても、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。
(9)電池制御装置300において、電池100の劣化度に対応して充電状態と更新割合のパターンを記憶する記憶部320を備え、SOH演算部313は、電池100の劣化度に対応する更新割合のパターンを記憶部320より読み出し、読み出したパターンの中からSOC演算部311で演算された充電状態に対する更新割合を取得して劣化度の更新を行う。これにより、電池が徐々に劣化していく場合においても、内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。
(10)電池100の充電状態を算出するSOC演算部311と、電池100の内部抵抗値に基づいて電池100の劣化
度を更新するSOH演算部313と、を備えた電池制御装置300と、電池制御装置300より、電池100の充電状態および電池100の劣化度を受信する車両制御装置400とを備える車両システム1000において、電池制御装置300は、SOC演算部311で演算された充電状態が電池100の負極の相変化領域に対応するSOC範囲である場合は、SOH演算部313による劣化度
の更新を停止し、SOH演算部313による劣化度
の更新停止期間が継続した場合は、更新停止期間が継続していることを車両制御装置400へ通知し、車両制御装置400は、通知を受けてSOC制御狙い値を変更し、相変化領域に対応するSOC範囲外になることで、SOH演算部313による劣化度
の更新を行う。これにより、SOCが相変化領域内に継続した場合においても、車両制御装置400の制御によって内部抵抗値による演算の誤差を低減することができる。
【0067】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の実施形態を組み合わせた構成としてもよい。