特許第6867516号(P6867516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867516
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】圧延機技術の手動変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/085 20060101AFI20210419BHJP
   B21B 35/00 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   F16H3/085
   B21B35/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-567646(P2019-567646)
(86)(22)【出願日】2018年6月13日
(65)【公表番号】特表2020-522656(P2020-522656A)
(43)【公表日】2020年7月30日
(86)【国際出願番号】EP2018065702
(87)【国際公開番号】WO2018229150
(87)【国際公開日】20181220
【審査請求日】2019年12月6日
(31)【優先権主張番号】102017210083.4
(32)【優先日】2017年6月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035426
【氏名又は名称】エス・エム・エス・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(72)【発明者】
【氏名】クリューガー・マティアス
(72)【発明者】
【氏名】メーレリング・フランク
(72)【発明者】
【氏名】カーティク・ナターリエ
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許第102305272(CN,B)
【文献】 特開2017−015128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/00
B21B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの変速段を持ち、圧延技術に使用される手動変速機(1)であって、
回転可能に支持されていて、入力トルクを適用可能である駆動軸(20)と、
回転可能に支持されている第1出力軸(30)と、回転可能に支持されている第2出力軸(40)とであって、第1出力軸(30)と第2出力軸(40)とは平行に配置されていて、入力トルクが駆動軸(20)に適用されると、手動変速機(1)の各変速段において互いに反対方向に回転するように、出力ギヤ段を介して互いに接続されている、第1出力軸(30)及び第出力軸(40)と、
駆動軸(20)と第1出力軸(30)とを、切り替えて接続及び切り離すために設けられている第1クラッチ(50)と、を備え、
第1クラッチ(50)の結合状態では、手動変速機(1)の第1変速段が実現され、駆動軸(20)及び第1出力軸(30)が相互接続されて、駆動軸(20)からの入力トルクが、増速又は減速なく、前記出力ギヤ段への迂回なく、平歯車段なしで、第1出力軸(30)に伝達される、
手動変速機(1)。
【請求項2】
駆動軸(20)と第1出力軸(30)とは、同じ回転軸線に沿って軸方向前後に配置さられていることを特徴とする、請求項1に記載の手動変速機。
【請求項3】
出力ギヤ段は、第1出力軸(30)に固定的に接続されている第1カムローラ(31)と、第2出力軸(40)に固定的に接続されていて第1カムローラ(31)と噛み合い係合状態にある第2カムローラ(41)とを備え、第1カムローラ(31)と第2カムローラ(41)とは同じ直径を有する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の手動変速機。
【請求項4】
第1クラッチ(50)は、係合式クラッチであり、第1出力軸(30)と同軸に配置されていて、第1クラッチ(50)をシフトするために、軸方向に変位可能である第1シフトスリーブ(51)を持つことを特徴とする、請求項1に記載の手動変速機。
【請求項5】
第2変速段において、駆動軸(20)と第2出力軸(40)との間で増速又は減速を実現する駆動ギヤ段を備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の手動変速機。
【請求項6】
駆動ギヤ段は、駆動軸(20)に固定的に接続されている第1平歯車(21)と、第1平歯車(21)に噛み合う第2平歯車(42)とを備え、第2平歯車(42)は、第2出力軸(40)に接続可能であり、これにより第2変速段において、駆動軸(20)からの入力トルクは2つの平歯車(21、42)を経由し変換されて第2出力軸(40)に伝達され、第1平歯車(21)の直径は、第2平歯車(42)の直径より小さいことを特徴とする、請求項5に記載の手動変速機。
【請求項7】
駆動ギヤ段は、駆動軸(20)と第2出力軸(40)とを切り替えて接続する及び切り離すように形成されている第2クラッチ(60)を備え、
第2クラッチ(60)の結合状態では、変速機(1)の第2変速段が実現されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の手動変速機。
【請求項8】
第2クラッチ(60)は、係合式クラッチであり、第2出力軸(40)と同軸に形成されていて、第2クラッチ(60)をシフトするために、軸方向に変位可能である第2シフトスリーブ(61)を持つことを特徴とする、請求項7に記載の手動変速機。
【請求項9】
第1クラッチ(50)と第2クラッチ(60)とは、反対方向に常にいっしょに切り替えられるよう互いに結合されて、第1クラッチ(50)と第2クラッチ(60)とは、機械的に互いに結合されていることを特徴とする、請求項7又は8に記載の手動変速機。
【請求項10】
金属ストリップを圧延する圧延機であって、
第1出力軸(30)と第2出力軸(40)とが、作業ローラ、中間ローラ、又は支持ローラに接続されている、請求項1から9のいずれか一項に記載の手動変速機を備える、圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの変速段を備える手動変速機、特に平歯車カム軸手動変速機に関し、その変速機は、回転可能に取り付けられた駆動軸と、平行に配置されていて、出力段を介して接続されると、それぞれ手動変速機の各変速段において互いに反対方向に回転するように、回転可能に取り付けられた第1出力軸と回転可能に取り付けられた第2出力軸とを有する。手動変速機は、好ましくは、圧延機技術の作業ロールと、中間ロールと、バックアップロールとのいずれかのようなローラ駆動の一部として適用可能である。
【背景技術】
【0002】
圧延機の技術では、平歯車段とカムローラ段を備えた歯車伝動装置がメインフレーム駆動に使用される。平歯車変速段は、入力速度(又は駆動トルク)に対する出力速度(又は出力トルク)の変更に使用される。カムローラ段を介して、そのカムローラ段と結合された上部ローラと下部ローラとは同じ速度で反対方向に駆動される。
【0003】
例えば、特許文献1には、機械ロール用のローラ駆動装置が記載されていて、このローラ駆動装置は、駆動軸と駆動される圧力ローラとの間の手動変速機を有する。
【0004】
基本的に、変速機内の各噛み合いは、噛み合い段の噛み合い周波数とその調和で駆動ラインに振動励起を生成する。駆動列からのこのような振動励起は、特に冷間圧延などの高速圧延プラント、ロールスタンド又はロールセットの(例えば、いわゆる「5分の1オクターブびびり振動」による)自励振動モードを刺激する可能性があり、製品の品質に大きく影響する。臨界的振動励起を回避するために、生産速度の制限がしばしば必要になる。そのような速度に比例した励起では、特に伝達又は減速段の歯が原因となる。これは、カムローラ段に比べてトルク負荷が高いためである。従来型の平歯車ギヤでは、この問題は、変速段が1以上の範囲の比率で設計されている場合、全ての変速段でも発生する。さらに、ギヤの比較的大きな慣性は、駆動列の動的挙動及び振動挙動に悪影響を与える可能性があり、速度制御の最適化に問題が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第4219399号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、改善された振動挙動を有し、それゆえ生産性損失及び品質損失を好ましくは低減可能な、手動変速機、特に圧延機技術で使用するための手動変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の特徴を備えた手動変速機によって達成される。有利な展開は、従属請求項、本発明の以下の説明、及び好ましい実施形態の説明から得られる。
【0008】
少なくとも2つの変速段を備えた手動変速機は、圧延機技術での使用に特に適している。作業ローラと、中間ローラと、鋼又は非鉄金属、いわゆる非鉄金属で作られた金属ストリップなどの冷間圧延ストリップ形状製品用のバックアップロールとの少なくともいずれかのローラの主駆動の一部に適用可能である。
【0009】
変速機には、入力トルクを適用可能で、回転可能に取り付けられた駆動軸がある。例えば、駆動軸は電気モータで駆動されてもよく、すなわち回転において設定される。さらに、変速機は、回転可能に取り付けられた第1出力軸及び回転可能に取り付けられた第2出力軸を備え、それらは軸方向に沿って平行に配置され、出力ギヤ段を介して接続され、各変速段で駆動軸に入力トルクが適用されると、互いに反対方向に、好ましくは同じ速度で回転する。手動変速機は、駆動軸と第1出力軸とを互いに切り替えて接続するように適合された第1のクラッチをさらに備え、第1クラッチの結合状態で、変速機の第1切り替え段階が実現される。駆動軸と第1出力軸は相互に接続されているため、入力トルクは、ギヤ比を超えずに、又は第1出力軸に伝達される。換言すると、第1クラッチの連結状態では、入力トルクは、歯車なしで、比率1で、直接かつ第1出力軸に迂回することなく、駆動軸から伝達される。この目的のために、好ましくは、第1のクラッチの結合状態にある駆動軸と第1出力軸は、しっかりと接続されている。
【0010】
手動変速機の技術的効果を説明する前に、「第1」と「第2」という用語は関連する構成部品の言語上の区別にすぎず、名前の一部として理解されるべきであって、順序、依存関係等を意味するのではない。さらに、駆動軸や第1出力軸のような回転可能に取り付けられた変速機の部材の「複合」に言及するとき、機械的に強固な接続があるかもしれないが、トルク伝達を確保することが重要である。
【0011】
第1クラッチの結合状態では、手動変速機の第1変速段が実現される。歯車の歯に起因する手動変速機の振動励起は、歯なしで、第1クラッチを介して駆動軸と第1出力軸とが相互接続されるため、なくなる。手動変速機の第1変速段では、このようにして、歯のあるギヤ比がなくなる。これには、従来の平歯車段の平歯車のような慣性質量が省かれているので、第1変速段の駆動列のより有利な動的挙動を伴う。さらに、手動変速機は、このため、安価で、コンパクトで、メンテナンスが少ないものとなる。
【0012】
駆動軸及び第1出力軸は、好ましくは、同じ回転軸に沿って軸方向の前後に取り付けられ、それによりコンパクトな設計を実現可能である。この場合、駆動軸と第1出力軸は、別々の構成部材であるが、技術的に接続されているため、単一の軸として機能する。第1クラッチは、特に簡単な構造で、結合状態で信頼性のある堅固な接続を実現可能である。
【0013】
出力ギヤ段は、好ましくは、第1出力軸に固定接続された第1カムローラと、第2出力軸に固定接続され、第1カムローラと噛み合う第2カムローラとを備え、第1カムローラと第2カムローラとはそれぞれ同じ直径を持つ。手動変速機がこのようにギヤとして設計されていると、複数の歯が同時に噛み合うはすば歯車であるため、低振動で均一なトルク伝達が保証される。上記の「堅固な」接続は、一体型のワンピース設計を含むことに留意されたい。反対の回転方向で同じ回転速度を実現するために、2つのカムローラは同じ直径を持つ。そのような構造は、一対のローラの駆動時に特に適用可能である。
【0014】
第1のクラッチは、好ましくは、係合式クラッチであり、特定の実施形態によれば、同心に配置された第1の出力軸を有し、第1のクラッチの回路に対して軸方向に変位可能である。このようにして、駆動軸と第1出力軸の連結と分離、すなわち係合及び係合解除は、第1シフトスリーブを軸方向に変位させて第1クラッチを作動させることにより、技術的に簡単かつ確実な方法で実現される。
【0015】
好ましくは、変速機は、第2変速段における駆動軸と第2出力軸との間の伝達又は減速を、好ましくは減速を実施する、駆動ギヤ段を有する。好ましくは、振動励起の問題が特に関連する場合、約1又は1に等しい比を有する第1変速段は、高いローリング速度に使用される。ただし、システムが振動の影響を受けにくい低いローリング速度は、好ましくは、速度を落として第2変速段で駆動する。
【0016】
好ましくは、駆動歯車段は、駆動軸に固定接続された第1平歯車と、第1平歯車と噛み合い第2出力軸に接続可能な第2平歯車とを有し、第2変速段では、駆動軸からの入力トルクは、2つの平歯車を通って、変換されて第2出力軸に伝達される。ここで、上記の理由から第1平歯車の直径は、好ましくは、第2平歯車の直径よりも小さい。このようにして、第2変速段は、機械的にシンプルで信頼性の高い方法で実現さる。手動変速機は、特に好ましくは、はすば歯車の手動変速機として設計されている。この場合も、上記の「固定」接続は、統合された一体型の列を含むことに留意されたい。
【0017】
好ましくは、駆動ギヤ段は、駆動軸と第2出力軸とを切り替え可能に接続又は切り離すように適合された第2クラッチを有し、第2クラッチの結合状態で、変速機の第2変速段段が実現される。好ましくは、第2クラッチは、第2出力軸と第2平歯車との間で作用する。第1変速段での駆動軸と出力軸間のしっかりとした結合により、平歯車の第2の対をなくす。これは、慣性質量モーメントを省き、駆動列の特に好ましい動的挙動が達成される。
【0018】
好ましくは、第2クラッチは、第2クラッチを切り替えるために軸方向に変位可能な第1クラッチの場合と同様に、特定の実施形態による、第2出力軸を同心に配置した第2出力軸を有する係合式クラッチである。このようにして、第2クラッチを作動させるために第2シフトスリーブを軸方向に変位させることにより、駆動軸及び第2平歯車の第2出力軸からの連結及び切り離し、すなわち係合及び係合解除が技術的に簡単かつ確実な方法で実現される。
【0019】
好ましくは、第1のクラッチと第2のクラッチは、電子的、機械的又はその他の方法で互いに結合され、常に、反対方向に、いっしょに切り替えられる。特に好ましい実施形態によれば、第1クラッチ及び第2のクラッチは、レバー機構などを介して互いに機械的に結合される。切り替えプロセス中に同期して動作する2つのクラッチの機械的結合により、手動変速機のシステム固有の安全性が確保される。
【0020】
開示された手動変速機は、主に圧延機技術、特に金属ストリップの冷間圧延で使用するために設計され、圧延機の技術では、ロールの駆動に起因する振動が製品の品質に大きく影響する。しかし、この手動変速機は、他の分野でも使用可能である。
【0021】
本発明のさらなる有利点及び特徴は、好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。説明に記載されている機能は、機能が矛盾しない限り、単独で実装してもよく、あるいは当該機能の1つ又はそれ以上と組み合わせて実装してもよい。好ましい実施形態の以下の説明は、添付の図面を参照してなされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、第1変速段の状態の平歯車ローラギヤを概略的に示す。
図2図2は、第2変速段の状態の平歯車ローラギヤを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、図面を参照して好ましい実施形態を説明する。この場合、同一、類似、又は同等の要素には同一の参照番号を付け、重複を避けるためにこれらの要素の繰り返しの説明は部分的に省略する。
【0024】
図1及び図2は、平歯車ローラギヤとして例示されている手動変速機1を2つの異なる変速段の状態で示す。
【0025】
変速機1は、駆動軸20と、第1出力軸30と、第2出力軸40とが回転可能に取り付けられた筐体10とを有する。ピボット支承部が図1及び図2に示されているが、明確にするために参照番号はない。駆動軸20と、第1出力軸30と、第2出力軸40とは、この例では平行に配置されている。駆動軸20及び第1出力軸30は、互いに軸方向に後方にあり、互いに堅固に接続されていて、第1クラッチ50を介して取り外し可能である。駆動軸20は、例えば図示しない電動機を介して回転可能である。駆動軸20のトルクは、以下で詳細に説明するように、変速機1で任意に変換され、2つの出力軸30及び40に伝達される。
【0026】
第1クラッチ50の結合状態では、駆動軸20と第1出力軸30とは、歯車なしで互いに堅固に接続されている。好ましくは、第1クラッチ結合50は、2つの軸の確実な接続を実行する。本実施形態では、この目的のために、駆動軸20及び第1出力軸30と同心に配置され、軸方向に摺動可能な第1円筒状シフトスリーブ51が設けられている。連結状態では、第1シフトスリーブ51は、駆動軸20と第1出力軸30とが同時に係合し、それにより2つの軸20及び30が確実に接続される。係合は、直接であってもよく、あるいは図示の実施形態のように、駆動軸20及び第1出力軸30にそれぞれ固定的に接続された第1結合対応部52及び53を介して第1シフトスリーブ51が押される。第1シフトスリーブ51の軸方向の変位により、2本の軸20、30の少なくとも一方がこれと係合しなくなると、第1クラッチ50が解放され、2本の軸20、30が切り離され、それにより独立して回転可能になる。第1シフトスリーブ51の作動は、電気的、空気圧的又は他の方法で実行してもよい。第1クラッチ50は、技術的に異なる方法で実現してもよく、例えば、駆動軸20と第1出力軸30との堅固な接続を非積極的に実施可能であることに留意されたい。
【0027】
図1は、第1クラッチ50が作動し、駆動軸20と第1出力軸30とが強固に連結された状態を示す。それにより、駆動軸20からの入力トルクは、一対一で第1出力軸30に伝達される。
【0028】
第1カムローラ31は、第1出力軸30に固定的に接続されていて、ほぼ一体に形成されている。第1カムローラ31は、第2カムローラ41に接続され、第2カムローラ41は、第2出力軸40に固定的に接続され、第2の出力軸40とほぼ一体に形成されている。2つのカムローラ31及び41は、好ましくは、同じ直径を有し、それにより、加えられた入力トルクで、2つの出力軸30及び40は、同じ速度で反対方向に駆動される。本実施形態における2つのカムローラ31、41は、前述の出力ギヤ段を形成している。カムローラ31及び41に替えて、駆動軸20に加えられる入力トルクで、特定の速度比、好ましくは同じ速度の2つの出力軸30及び40が反対方向であることが保証される限り、他の歯車要素を、好ましくは適切な歯車の形態の要素を、使用してもよい。
【0029】
図1の結合状態(第1変速段)では、図中の矢印で示されるように、トルク伝達が行われる。入力トルクは、駆動軸20と第1出力軸30のしっかりとした接続を介して直接伝達され、第1カムローラ31に迂回することなく、第2カムローラ41、したがって第2の出力軸40を反対方向に駆動する。この力の経路を実現するには、図2に示され、以下で説明する第2の変速段を切り離す必要がある。
【0030】
図2の状態では、駆動軸20と第1出力軸30は切り離されている。すなわち第1クラッチ50の係合が解除されている。駆動軸20に固定的に接続され、駆動軸20とほぼ一体に形成された第1平歯車21は、第2平歯車42と噛み合っている。第2平歯車42は、第2出力軸40に接続可能であり、第2平歯車42の回転により第2出力軸40を駆動可能である。第2平歯車42と第2出力軸40との間には、図1の第1変速段において、すなわち、第1カムローラ31から第2カムローラ41への動力伝達中、第2平歯車42はトルクなしで回転する。
【0031】
第2平歯車42と第2出力軸40との間には、軸方向に移動可能な円筒状の第2シフトスリーブ61により第1クラッチ50と同様にシフト可能な第2クラッチ60が作用する。第2クラッチ60の連結状態では、第2出力軸40と第2平歯車42とが強固に相互接続されている。好ましくは、第2クラッチ60は確実な接続を行う。本実施形態では、このために、第2出力軸40と同心に配置され、軸方向にスライド可能な第2円筒状シフトスリーブ61が設けられている。連結状態では、第2シフトスリーブ61は、第2出力軸40と第2平歯車42とが同時に係合し、それにより、2つの要素が確実に接続される。係合は直接行われるか、あるいは図示の実施形態のように、第2平歯車42及び第2出力軸40にそれぞれ固定的に接続された第2結合対応部62及び63を介して第2シフトスリーブ61を押すようにしてもよい。シフトスリーブ61を軸方向に解放することにより、第2クラッチ60が解放され、第2平歯車42と第2出力軸40とが分離され、それによりそれらが独立して回転可能となる。第1クラッチ50の場合のように、第2シフトスリーブ61の作動は、電気的、空気圧的、又は他の方法で実行してもよい。第2クラッチ60は、技術的に異なる方法で実現してもよく、例えば、接続を非積極的に実施可能であることに留意されたい。
【0032】
図2の結合状態(第2変速段)では、図中の矢印で示されるように、トルク伝達が行われる。すなわち駆動軸20からの入力トルクは、第1平歯車21から第2平歯車42に伝達される。第1平歯車21は、この第2変速段の低減を実現するために、好ましくは、第2平歯車42よりも小さい。同時に、第2クラッチ60が作動し、トルクが第2平歯車42から第2出力軸40に伝達される。これは、トルクを2つのカムローラ41及び31を介して、非切り替え第1クラッチ50により駆動軸20から機械的に分離された第1出力軸30に伝達する。
【0033】
上記の構成によれば、図1の第1変速段は、変速機の入力と出力との間で固定ギヤ比の一つの量(ギヤ比の増減なし)を実現する。この第1変速段では、歯の噛み合いを不要にする。この技術的貢献は、第1クラッチ50によって可能になる。切り替え可能な第1クラッチ50は、第1変速段で、駆動軸20と第1出力軸30とを歯のない堅固な方法で接続する。図2の第2変速段が1に等しくない比率又は減速で接続されている場合、駆動軸20と第1出力軸30は切り離され、その結果、平歯車21及び42を介した歯付きの歯車段が係合する。この目的のために、2つのクラッチ50及び60の「オン」/「オフ」と「オフ」/「オン」との間を反対方向に同期して切り替える。好ましくは、2つのクラッチ50及び60は機械的に結合される。
【0034】
手動変速機1は、好ましくは、いわゆる足場メインドライブ用に設計される。それにより、約1の比率又は1に等しい比率の第1変速段は、高圧延速度に使用され、そこでは、振動励起の問題が特に関連する。一方、システムが振動の影響を受けにくい、低圧延速度は、第2変速段で減速されて駆動される。
【0035】
好ましくは手動の平歯車カム軸変速機のとして構成される上述の変速機1は、第1変速段で平歯車段をなくすことによって、駆動列からの圧延機の振動励起の大幅な低減を可能にする。これには、完全な変速段の平歯車などの慣性質量をなくすため、最初の変速段での駆動列のより好ましい動的挙動も伴う。変速プロセス中に同期して作動する2つのクラッチ50と60の機械的結合により、手動変速機1のシステム固有の安全性が確保される。さらに、手動変速機1は、平歯車段をなくすことで、安価でコンパクトでメンテナンスが簡単である。
【符号の説明】
【0036】
1 手動変速機、ギヤボックス
10 筐体
20 駆動軸
21 第1平歯車
30 第1カムローラ
40 第2出力シャフト
41 第2カムローラ
42 第2平歯車
43 軸受部
50 第1クラッチ
51 第1シフトスリーブ
52、53 第1結合対応部
60 第2クラッチ
61 第2シフトスリーブ
62、63 第2結合対応部
図1
図2