【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
i.抗体の作製と試験
ヘリコバクター・ピロリを微好気環境下で5日間培養した後、遠心分離により集菌してからリン酸緩衝液に再懸濁する操作を繰り返してヘリコバクター・ピロリを洗浄した。洗浄したヘリコバクター・ピロリをリン酸緩衝液で懸濁し、超音波ホモジナイザーを用いて破砕した。破砕したヘリコバクター・ピロリを遠心分離し、その遠心上清を抽出物として得て免疫原とした。
【0042】
得られた免疫原50〜100μgをマウス(BALB/c)に2週間間隔で3〜5回免疫した。免疫後の脾細胞とマウスミエローマ細胞とを融合し、融合された細胞を限外希釈法にてクローニングした。細胞をクローニング後、免疫原を固相化したELISA法でスクリーニングし、ヘリコバクター・ピロリ抗原と反応を示す抗体を産生する細胞(CHP001〜CHP006)を得た。抗体産生が確認された細胞を培養し、培養上清中に産生された抗体をプロテインA又はプロテインGを用いて精製し、各抗体(以下、CHP001〜CHP006と記載することもある)を得た。
【0043】
また、免疫原をウサギ(PHP001〜PHP003)に2週間間隔で3〜5回免疫し、血液を採取して抗血清を得た。得られた抗血清から抗体をプロテインA又はプロテインGを用いて精製し、各抗体(以下、PHP001〜PHP003と記載することもある)を得た。
【0044】
得られた各抗体を組み合わせて試薬を作製し、上述のヘリコバクター・ピロリからの抽出物の希釈系列を試料として、BLEIA法により測定した(試薬及びBLEIA法の詳細は、下記iv.糞便検体中ヘリコバクター・ピロリの検出における、BLEIA法参照)。希釈系列に対して比例的な反応が得られたのは、CHP001、CHP002、CHP003、CHP004、CHP005、CHP006、PHP003から得られた抗体を組み合わせたときであった。
【0045】
続いて、これらの7種の抗体を表1に示す通り組み合わせて作製した試薬13種と、ピロリ抗原検出用EIAキットの市販品A及びBを用いて、糞便検体201例を試料として測定した。なお、作製した試薬13種については、上述のヘリコバクター・ピロリからの抽出物 1.5ng/mLを試料とし、BLEIA法により測定した測定値をカットオフ、すなわち1COI(COI:カットオフインデックス)とし、当該カットオフの発光強度に対する試料の発光強度の比を測定値(COI)として算出した後、1COI未満を陰性、1COI以上を陽性と判定した。その結果、201例のうち172例は全ての試薬で陰性と判定され、26例は全ての試薬で陽性と判定され、各試薬及び市販品A及びBの測定結果は一致したが、3例において各試薬で判定が乖離し、判定が一致しなかった。判定が乖離した3例の糞便検体の結果を表1に示す。表1には、固相に固定化した抗体と、標識に使用した抗体を記載した。
【0046】
最終的に、判定が乖離した3検体において、3例で陰性となったCHP001、3例で陽性となったCHP002、CHP003、及びCHP006を、正確にヘリコバクター・ピロリを検出しうるモノクローナル抗体の候補として選択すると共に、ポリクローナル抗体であるPHP003について、これらの抗体の解析を行った。
【0047】
【表1】
【0048】
ii.抗体の特性評価
[精製リコンビナントヘリコバクター・ピロリ カタラーゼとの反応性]
30%過酸化水素水10μLに0.02mg/mL精製リコンビナントヘリコバクター・ピロリ カタラーゼ(59.4kDa)(Seramun Diagnostica GmbH社製, AGX-5-000-0648)を2μL添加し、カタラーゼ活性を確認した。
【0049】
カタラーゼ活性が確認されたヘリコバクター・ピロリのリコンビナントカタラーゼを、約1%のドデシル硫酸ナトリウム及び約10mMのジチオスレイトールの存在下で95℃以上に15分間加熱して変性させ、電気泳動(SDS-PAGE)した後、ニトロセルロース膜に転写し、1次抗体として各抗体(CHP001、CHP002、CHP003、CHP006)、2次抗体としてHRP標識抗マウス抗体を用い、発光により検出(ウェスタンブロッティング)した。その結果、CHP002、CHP003、CHP006では検出できたが、CHP001では検出できなかった。これにより、CHP002、CHP003、CHP006は、変性カタラーゼと反応できることが確認された。
【0050】
また、固相化抗体を用いない点、試料として糞便検体を用いない点、及びカタラーゼ活性が確認されたヘリコバクター・ピロリのリコンビナントカタラーゼを変性させることなく結合させた磁性粒子並びに酵素で標識した各抗体(CHP001、CHP002、CHP003、CHP006、PHP003)を用いた点を除いて、後述のiv.糞便検体中ヘリコバクター・ピロリの検出における、BLEIA法と同様に、各抗体との反応性を確認した。この結果、CHP001、CHP002、CHP003、CHP006、PHP003のいずれの抗体においても反応が確認された。これにより、CHP001、CHP002、CHP003、CHP006、PHP003は、ネイティブなカタラーゼと反応できることが確認された。
【0051】
[菌株による反応性の比較及び他菌種との反応性]
ピロリ菌のカタラーゼと高い相同性を示す菌としてBacteroides fragilis、Bacillus subtilis、Campylobacter jejuni、ヘリコバクター属として、培養が成功したHelicobacter felis、Helicobacter bizzozeronii、Helicobacter mustelae、及びその他の細菌について交差反応性を確認した。
【0052】
PHP003においてHelicobacter bizzozeronii、Helicobacter mustelaeとの弱い交差反応が認められたが、CHP001、CHP002とCHP003、CHP006では、Bacteroides fragilis、Bacillus subtilis、Campylobacter jejuni、Helicobacter felis、Helicobacter bizzozeronii、Helicobacter mustelae、Escherichia coli、Campylobacter coli、Bacteroides vulgatus、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium breveについて交差反応は認められなかった。
【0053】
iii.抗体が反応するアミノ酸配列の解析
上記CHP001、CHP002、CHP003、CHP006、PHP003について、ペプチドマッピングにより抗体が反応するアミノ酸配列の解析を行った。ペプチドマッピングによるアミノ酸配列解析は、次のiv.糞便検体中ヘリコバクター・ピロリの検出におけるBLEIA法において、試料としてビオチン化ペプチドを用いた点を除き、同様の方法で行った。参考例として、ヘリコバクター・ピロリのリコンビナントカタラーゼと各抗体の反応性についても、同様の方法で確認した。
【0054】
具体的には、アミノ酸配列解析は、以下の工程により行った。
1) 各種抗体を磁性粒子に固相化又は抗体無添加磁性粒子を調製した。
2) 各種抗体固相化磁性粒子又は抗体無添加磁性粒子溶液、各種ビオチン化ペプチド60pmolをそれぞれ混合し、37℃で15分間反応させた。
3) 磁性粒子を洗浄液で洗浄し、洗浄液を除去した後、ストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを添加し、37℃で15分間反応させた。
4) 磁性粒子を洗浄液で洗浄し、洗浄液を除去した後、ルシフェラーゼに対する基質液(ルシフェリン溶液)を添加し、発光強度を測定した。
5) それぞれの試料について、[各種抗体固相化磁性粒子の発光強度]/[抗体無添加磁性粒子の発光強度]を算出した。
6)[各種抗体固相化磁性粒子の発光強度]/[抗体無添加磁性粒子の発光強度]の値が他の配列の算出値と比べて明らかに高いペプチド配列を、抗体が反応するアミノ酸配列と判定した。
*2)〜4)は全自動生物化学発光免疫測定装置BLEIA-1200(栄研化学社製)にて測定した。
結果を以下の表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
iv.糞便検体中ヘリコバクター・ピロリの検出
反応するアミノ酸配列を解析した下記実施例1、2及び比較例1、2の抗体により試薬を調製し、生物発光酵素免疫測定法(BLEIA法、特開平10−239314公報に記載の方法に準じた方法)で、試料(ヒト糞便)中のヘリコバクター・ピロリの測定を行った。
【0057】
試料:
試料は、糞便検体約35mgをBL採便容器(栄研化学)の緩衝液2mLに懸濁後、フィルター濾過して得られた糞便抽出液を試料として用いた。
【0058】
試薬:
実施例1及び2、並びに比較例1〜3の試薬は、以下の通りであった:
〔実施例1〕試薬2:ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼ及び変性カタラーゼに対するモノクローナル抗体2種(固相用抗体:CHP002, 標識用抗体:CHP003);
〔実施例2〕試薬3:試薬2と異なるヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼ及び変性カタラーゼに対するモノクローナル抗体1種(固相及び標識用抗体:CHP006);
〔比較例1〕試薬1:ネイティブカタラーゼ特異的抗体1種(固相及び標識用抗体:CHP001);
〔比較例2〕試薬4:ヘリコバクター・ピロリに対するポリクローナル抗体1種(固相及び標識用抗体:PHP003);
〔比較例3〕市販のELISAヘリコバクター・ピロリ検出キットA。
【0059】
検体:
内視鏡検査、血清抗体価、及び尿素呼気試験により以下の基準で陽性又は陰性と臨床において診断された糞便検体133例をそれぞれ用いた。
陽性:「現感染」:《既往》除菌歴なし、《内視鏡検査》びまん発赤あり、木村・竹本分類C-2以上の萎縮、《H.pylori 感染検査》血清抗体価が10U/ml以上(陰性高値(3〜9U/ml)は尿素呼気試験(UBT)で2.5‰以上)。
陰性:「未感染」及び「既感染」
「未感染」:《既往》除菌歴なし、《内視鏡検査》びまん発赤なし、萎縮なし、《H.pylori 感染検査》血清抗体価が3U/ml未満。
「既感染」:《既往歴》除菌歴あり(除菌成功)又は除菌歴なし、《内視鏡検査》びまん発赤なし、C-2以上の萎縮、《H.pylori 感染検査》血清抗体価が3U/ml未満(陰性高値(3〜9U/ml)は尿素呼気試験(UBT)で2.5‰未満)。
【0060】
測定方法(BLEIA法):
特開平10-239314号公報(抗体と酵素の双方にビオチンを結合)に記載の方法で行い、固相担体として磁性粒子、検出用の酵素にビオチン化ルシフェラーゼ、基質にルシフェリンを使用し、抗体として、試薬1〜4の各抗体を用いた。
1) 各種固相用抗体を磁性粒子に固相化し、各種抗体固相化磁性粒子を作製した。
具体的には、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)中で、市販の磁性粒子1mgに対して5μgの各種抗体を反応させ、希釈液(0.1%BSA、0.09%アジ化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0))で希釈して1.5mg/mLの抗体固相化磁性粒子を作製した。
2) 各種標識用抗体とビオチン化試薬を混合し、各種ビオチン標識抗体を作製した。
具体的には、50mMリン酸緩衝液(pH8.0)中で、各種抗体溶液とSulfosuccinimidyl N-[N'-(D-biotinyl)-6-aminohexanoyl]-6'-aminohexanoate(同仁化学)溶液をモル比1:20で混合し、30℃で2時間反応させ、抗体にビオチンを結合させた。次に50mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いてゲルろ過し、未反応のSulfosuccinimidyl N-[N'-(D-biotinyl)-6-aminohexanoyl]-6'-aminohexanoateを除去し、ビオチン標識抗体溶液を得た。
3) ストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼの作製
具体的には、緩衝液(100mM塩化ナトリウム、4mM EDTA-2Na、0.09%アジ化ナトリウム、0.2% BSAを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0))中で、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で溶解したストレプトアビジン(ロシュ・ダイアグノスティックス)とビオチン化ルシフェラーゼ(キッコーマンバイオケミファ)をモル比1:4で混合し、30℃で2時間反応させて、ストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを作製した。
4) 試薬1〜4の組合せにおいて、それぞれ、ビオチン標識抗体溶液80μLと、試料50μLと、抗体固相化磁性粒子(1.5mg/mL)20μLを混合し、37℃で15分間反応させた。
5) 磁性粒子を含む反応溶液に、BL洗浄液(栄研化学)500μLを加え、BL洗浄液を除去し、この操作を5回繰り返した。続いて、ストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを80μL加えて、37℃で15分間反応させた。
6) 磁性粒子を含む反応溶液にBL洗浄液(栄研化学)500μLを加え、洗浄液を除去し、この操作を5回繰り返した。続いて、BL発光試薬セット(栄研化学)のBL発光試薬1 50μLとルシフェラーゼに対する基質液(ルシフェリン溶液)であるBL発光基質液 50μLを加え、発光強度を測定した。
7) それぞれの試料及びBLEIA‘栄研’H.ピロリ抗原のキャリブレータ1、キャリブレータ2の発光強度から、COI=(試料の発光強度−キャリブレータ1の発光強度)/((キャリブレータ2の発光強度−キャリブレータ1の発光強度)/補正係数)を算出した。
8) 1 COI未満を陰性、1 COI以上を陽性と判定した。
*4)〜8)は全自動生物化学発光免疫測定装置BLEIA-1200にて測定。
【0061】
比較例3の市販キットについては、OD値0.1以上を陽性と判定した。
【0062】
測定結果:
臨床診断の結果と併せて、測定結果を以下の表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すように、臨床診断で陽性109例、陰性24例のとき、比較例3では、感度88%、特異度100%、一致率90%であり、比較例1(CHP001,ネイティブなカタラーゼを検出する抗体を用いたBLEIA法)では、感度96%、特異度100%、一致率97%であった。一方、本願発明の実施例1及び2の「RIPERVVHAKGSGAYGTFTV(配列番号2)」又は「KNPENYFAEVEQAAFSPANV(配列番号3)」に含まれるアミノ酸配列と結合しうる抗体(CHP002, CHP003, CHP006)を用いてカタラーゼを検出するBLEIA法では感度99%、特異度100%、一致率99%となり、本発明に係る抗体によれば、ヘリコバクター・ピロリをより高感度に検出できることが示され、臨床上、有用であることが示された。