(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6867532
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】汚水処理高分子凝集剤の配管閉塞防止装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/56 20060101AFI20210419BHJP
B01D 21/00 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
C02F1/56 Z
B01D21/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-72786(P2020-72786)
(22)【出願日】2020年4月15日
【審査請求日】2020年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】517453564
【氏名又は名称】東京二十三区清掃一部事務組合
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 栄二
(72)【発明者】
【氏名】岸 和英
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−230693(JP,A)
【文献】
特開平04−190098(JP,A)
【文献】
特開2000−117264(JP,A)
【文献】
特開2018−143914(JP,A)
【文献】
特開2011−183314(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3220310(JP,U)
【文献】
中国実用新案第209680731(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/01
B08B 1/00− 1/04
B08B 7/00− 7/04
B08B 13/00
C02F 1/52− 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子凝集剤を混合した汚水の貯槽からの配管途中に管径断面を横切るようにワイヤーを張設したワイヤーカッターを設けたことを特徴とする汚水処理高分子凝集剤の配管閉塞防止装置。
【請求項2】
ワイヤーは複数本であり、相互に交叉させて配設する請求項1記載の汚水処理高分子凝集剤の配管閉塞防止装置。
【請求項3】
ワイヤーカッターは複数段設ける請求項1または請求項2記載の汚水処理高分子凝集剤の配管閉塞防止装置。
【請求項4】
ワイヤーカッターを設けるのは、希釈槽から汚水処理装置への配管途中である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の汚水処理高分子凝集剤の配管閉塞防止装置。
【請求項5】
ワイヤーカッターを設けるのは、汚泥脱水機からポンプまでの配管途中である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の汚水処理高分子凝集剤の配管閉塞防止装置。
【請求項6】
配管径が25Φ、40Φに対して、ワイヤーカッターのワイヤーはステンレス線材0.2mmである請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の汚水処理高分子凝集剤の配管閉塞防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
清掃工場では、排ガス処理、排水処理、飛灰処理、騒音、振動、悪臭など様々な環境対策を実施している。
【0003】
排水処理は、ごみの焼却により発生する汚水には、灰汚水と洗煙汚水の2種類がある。灰汚水は、ごみを焼却した時に、発生する高温の灰を冷やすために使用した水で灰の中に含まれていた、鉛、クロム等の重金属や懸濁物質が入っている。洗煙汚水は、洗煙設備から排出される汚水で、水銀等が含まれている。
【0004】
清掃工場では、これらの汚水を、凝集沈殿、ろ過等の排水処理を行って、有害物質を除去してから、下水道に放流している。
【0005】
排水処理設備は、
図15に示すように、原水槽1→反応槽2→凝集沈殿槽3→ろ過器4→下水道へ放流となる。灰汚水、煙突汚水は原水槽1に集められ、ここが、排水処理設備のスタートとなる。
【0006】
反応槽2では、液体キレートを注入して水銀を処理し、また、pHを調整し、重金属類を除去し易いように不溶化する。さらに、塩化第二鉄等の凝集剤および高分子凝集剤(凝集助剤)を注入し、懸濁物質や不溶化した重金属を凝集させる。この凝集物のかたまりをフロックと呼ぶ。
【0007】
凝集沈殿槽3では、フロックを沈降させ、分離させる。さらに、フロックを引き抜き、沈降を促進させる。引き抜いたフロックは脱水して搬出する。
【0008】
ろ過器4は砂利等のろ過材を敷き詰めたもので、凝集沈殿槽3から送られてくる上澄み液をろ過する。ろ過することにより、凝集沈殿槽3での沈降分離で除去しきれない微細はフロックを除去する。なお、ろ過性能を保つため、定期的に洗浄を行う。
【0009】
図16はこのような処理の様子を模擬実験として示したもので、(1)のビーカーには、灰汚水及び洗煙汚水が入っていて、水が濁っている。ここに、凝集剤・高分子凝集剤(凝集助剤)などの薬品を加えたものが(2)の写真である。
【0010】
凝集剤・高分子凝集剤(凝集助剤)を加えることで、懸濁物質等を凝集させる。この凝集物のかたまりをフロックと呼んでいる。時間をおいたものが(3)の写真である。フロックが沈殿し、水が澄んでいる。
【0011】
凝集剤は、そのままでは沈降しないコロイド粒子(粒子径1nm〜1μm)の表面電荷を中和して粒子同士を結合し、沈降できるフロックを生成させる働きをします。凝集剤には、アルミニウム系、鉄系があり、補助剤として高分子凝集剤がある。
【0012】
高分子凝集剤(凝集助剤)は、凝集剤により生成した微細フロックを吸着架橋作用により、大きなフロックにして沈降分離を促進させる。
【0013】
以上は清掃工場における排水処理の一般的説明であり、これらに関する特許文献は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記鉛、クロム等の重金属や懸濁物質除去のために汚水処理で使用している高分子凝集剤(凝集助剤)は非常に粘度の高い薬品であるため、ゼリー状に凝固して配管内に付着しやすく、たびたび閉塞を起こしており、そのたびに閉塞解除作業を行う必要があった。
【0015】
閉塞解除作業では水によるフラッシング(洗浄作業)を行うため、バルブの切替えがあり、系統を認識しておかないとフラッシングされていない、水が貯槽に逆流する、配管に圧力がかかり墳破する等のミスが発生する。
【0016】
計器が付いていないため、閉塞を解除できたかを確認する術がないため、頃合いをみて通常系統に切替え、吐出を確認しなければならない。
【0017】
なお、ポンプの手前には異物除去用のストレーナが設けることもあるが、ストレーナは本体が網を張設したカゴ体であり、前記高分子凝集剤(凝集助剤)は粘度が高くストレーナを設置すると閉塞を助長させるため、設置できない。
【0018】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、ゼリー状に凝固した高分子凝集剤(凝集助剤)を細分化することで閉塞を未然に防ぐことができるので、閉塞解除作業を行う必要がなくなり、安全性の向上・人為的ミスの縮減などが実現できる汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、高分子凝集剤を混合した汚水の貯槽からの配管途中に管径断面を横切るようにワイヤーを張設したワイヤーカッターを設けたことを要旨とするものである。
【0020】
請求項1記載の本発明によれば、凝集助剤はゼリー状に凝固するということを前提に、ワイヤーを張設したワイヤーカッターで凝固物を細分化して配管を閉塞させないようにすることができる。
【0021】
請求項2記載の本発明は、ワイヤーは複数本であり、相互に交叉させて配設することを要旨とするものである。
【0022】
請求項2記載の本発明によれば、ワイヤーは複数本であり、相互に交叉させて配設することで、ワイヤー相互で囲む空間を小さく形成でき、この空間を通過させることで、凝固物をより細分化できる。
【0023】
請求項3記載の本発明は、ワイヤーカッターは複数段設けることを要旨とするものである。
【0024】
請求項3記載の本発明によれば、ワイヤーを張設したワイヤーカッターで凝固物を細分化するのに、何回か分けて行うことで細分化したものをさらに細分化でき、より確実に細分化できる。
【0025】
請求項4記載の本発明は、ワイヤーカッターを設けるのは、希釈槽から汚水処理装置への配管途中であることを要旨とするものである。
【0026】
請求項4記載の本発明によれば、ワイヤーカッターを設けるのは、希釈槽から汚水処理装置への配管途中であることで、高分子凝集剤(凝集助剤)による凝固物を効果的に裁断して、配管の詰まりを防止できる。
【0027】
請求項5記載の本発明は、ワイヤーカッターを設けるのは、汚泥脱水機からポンプまでの配管途中であることを要旨とするものである。
【0028】
請求項5記載の本発明によれば、ワイヤーカッターを設けるのは、汚泥脱水機からポンプまでの配管途中であることで、高分子凝集剤(凝集助剤)による凝固物を効果的に裁断して、配管の詰まりを防止できる。
【0029】
請求項6記載の本発明は、配管径が25Φ、40Φに対して、ワイヤーカッターのワイヤーはステンレス線材0.2mmであることを要旨とするものである。
【0030】
請求項6記載の本発明によれば、高分子凝集剤(凝集助剤)による凝固物を効果的に裁断して、配管の詰まりを防止するのに好適な配管径とワイヤーカッターのワイヤー太さの組合せを選択できるものである。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置は、ゼリー状に凝固した高分子凝集剤(凝集助剤)を細分化することで閉塞を未然に防ぐことができるので、閉塞解除作業を行う必要がなくなり、安全性の向上・人為的ミスの縮減などが実現できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の設置の説明図である。
【
図2】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の原理を示す説明図である。
【
図3】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の側面図である。
【
図6】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置のワイヤーカッターの第3例を示す説明図である。
【
図7】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置のワイヤーカッターの第4例を示す説明図である。
【
図8】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の第2実施形態と示す説明図である。
【
図9】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の第2実施形態のものを組込んだ配管の斜視図である。
【
図10】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の効果を確認する実験装置の説明図である。
【
図11】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の使用結果を示す説明図である。
【
図12】本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置を使用しない場合の結果を示す説明図である。
【
図13】本発明の水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置を使用した場合の効果を示すグラフである。
【
図14】本発明の水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置を使用しない場合の結果を示すグラフである。
【
図16】清掃工場の排水処理の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の設置の説明図で、図中1は本発明の汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置の設置の説明図で、図中5は高分子凝集剤(凝集助剤)希釈槽、6は注入ポンプを示す。
【0034】
前記のように排水処理設備は、原水槽1→反応槽2→凝集沈殿槽3→ろ過器4→下水道へ放流となるが、この高分子凝集剤(凝集助剤)希釈槽5は反応槽2の一つであり、凝集沈殿槽3以下は汚水処理設備7となる。
【0035】
高分子凝集剤(凝集助剤)希釈槽5と注入ポンプ6との間にはストレーナ8が設置されていたが、本発明はこのストレーナ8の代わりに閉鎖防止装置9を設置した。
【0036】
閉鎖防止装置9は
図3に示すように配管途中に設けるもので、
図4、
図5、
図6、
図7に示すように管径断面を横切るようにワイヤー10aを張設したワイヤーカッター10による。配管径が25Φ、40Φに対して、ワイヤーカッター10のワイヤー10aはステンレス線材0.2mmである
【0037】
ワイヤー10aは複数本であり、相互に交叉させて配設するが、
図7に示すように十字にクロスさせる、
図5に示すように井桁にクロスさせる、および
図4に示すようにその両方を組み合わせるなどで、さらに、他例として
図6に示すように井桁に張ったワイヤー10aにさらに横にしたワイヤー10aを張り増したようなものでもよい。
【0038】
また、図示の実施形態ではワイヤーカッター10は配管に組み込む継手若しくはカップリング形式で、全体形状が円盤状若しくはがドラム状のものである。
【0039】
さらに、前記ワイヤーカッター10は間隔を存して複数個、すなわち、複数段設けるものとする。同じものを並べてもよいが、一段目は割と目が粗いもの、2段面は一段目よりも目の細かいものとすることで、凝集物(フロック)11をより小さく裁断できる。
【0040】
図8は本発明の第2実施形態と示すもので、管12を使用し、その両端の開口面にワイヤー10aを張設して、2段のワイヤーカッター10を一つの管12で形成できるようにした。
【0041】
前記ワイヤーカッター10を両端に仕込んだ管12の端に管継手13を設ければ、
図9に示すように配管途中に簡単にセットすることができる。
図9の符号8はストレーナであるが、このストレーナ8の代わりに本発明の閉鎖防止装置9を配管途中にセットしたものである。
【0042】
このようにして、本発明の閉鎖防止装置9はこれを配管途中に設けることで、
配管内を流れる汚水の高分子凝集剤(凝集助剤)による凝集物11のかたまり(フロック)をワイヤーカッター10のワイヤー10aで切断して細かくし、配管内に付着して管内が閉塞するのを防止できる。
【0043】
図10に本発明の効果の有効性を確認するための試験装置をしめす。端に注射器を利用した吸引器14を取付け、吸引器14の取手を引っ張ると高分子凝集剤(凝集助剤)が吸われる。
【0044】
図11が本発明の閉鎖防止装置9を用いた場合、
図12が使用しない場合の高分子凝集剤(凝集助剤)の状態を示す。
図11では高分子凝集剤(凝集助剤)が細分化されており、有効性が確認できるが、
図12のように本発明の閉鎖防止装置9を用いない場合は、高分子凝集剤(凝集助剤)が凝固したまま吸い上げられてしまう。
【0045】
図13は本発明の閉鎖防止装置9の設置後の流速を示すグラフ、
図14は閉鎖防止装置9の設置前の流速を示すグラグであるが、
図13では高分子凝集剤(凝集助剤)の流量が13L/hと安定しており、適切に添加されていることがわかるが、
図14では高分子凝集剤(凝集助剤)の流量が通常より少なく、閉塞の兆候がある。
【0046】
なお、前記実施形態はワイヤーカッターを設けるのは、希釈槽から汚水処理装置への配管途中としたが、汚泥脱水機からポンプまでの配管途中であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…原水槽 2…反応槽
3…凝集沈殿槽 4…ろ過器
5…高分子凝集剤(凝集助剤)希釈槽
6…注入ポンプ 7…汚水処理設備
8…ストレーナ 9…閉鎖防止装置
10…ワイヤーカッター 10a…ワイヤー
11…凝集物(フロック) 12…管
13…管継手 14…吸引器
【要約】
【課題】ゼリー状に凝固した高分子凝集剤(凝集助剤)を細分化することで閉塞を未然に防ぐことができる汚水処理高分子凝集剤配管閉塞防止装置を提供する。
【解決手段】高分子凝集剤を混合した汚水の貯槽からの配管途中に管径断面を横切るようにワイヤー10aを張設したワイヤーカッター10を設けた。
【選択図】
図1