(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本願明細書において、「発酵飲料」とは、酵母による発酵工程を経て製造される飲料を意味する。本発明に係る発酵飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。また、麦芽を原料とする飲料であってもよく、麦芽を原料としない飲料であってもよく、炭酸ガスを含有する発泡性飲料であってもよく、炭酸ガスを含有していない非発泡性飲料であってもよい。また、発酵工程により得られた発酵液を、アルコール含有蒸留液、水、清涼飲料等と混和して得られた飲料も、発酵飲料に含まれる。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒等を用いることができる。
【0011】
本発明及び本願明細書においては、「ビールらしさ」とは、製品名称・表示にかかわらず、香味上ビールを想起させる呈味のことを意味する。つまり、ビールらしさを有する発泡性飲料(ビール様発泡性飲料)とは、発泡性飲料のうち、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティーを有する飲料を意味する。ビール様発泡性飲料としては、具体的には、ビール、麦芽を原料とする発泡酒、麦芽を使用しない発泡性アルコール飲料、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等が挙げられる。
【0012】
本発明及び本願明細書において、「後味のしまり」とは、「飲料がのどを通過した後に口腔内に残る味(後味)が収斂する感じ」を意味する。「後味のしまりがよい」とは、後味の収斂が速やかであることを意味し、「後味のしまりが悪い」とは、後味が収斂せず、だらっとした広がりがあることを意味する。なお、「後味のしまり」は、後味が残っている点で、後味が消えるスピードが速いことを意味する「キレ」とは異なる。
【0013】
本発明に係る発酵飲料は、苦味価が5B.U.以下である、すなわち、イソα酸として5ppm以下である発酵飲料である。本発明に係る発酵飲料の苦味価としては、2B.U.以下が好ましく、1B.U.以下がより好ましい。
【0014】
本発明及び本願明細書において、苦味価とは、イソフムロンを主成分とするホップ由来物質群により与えられる苦味の指標であり、ビール様発泡性飲料をはじめとする飲料の苦味価は、例えばEBC法(ビール酒造組合:「ビール分析法」8.15 1990年)により測定することができる。具体的には、サンプルに酸を加えた後イソオクタンで抽出し、遠心分離処理後に得られたイソオクタン層の、純粋なイソオクタンを対照に測定した275nmにおける吸光度に定数(50)を乗じた値(B.U.)である。
【0015】
本発明に係る発酵飲料は、苦味価を5B.U.以下とするために、イソα酸又はその前駆物質であるα酸を含む原料の使用量を低く抑えておくことが好ましく、特にホップを原料としない発酵飲料であることが好ましい。ホップを原料とする場合には、その使用量は、最終的に飲料中のイソα酸濃度が5ppm以下となるように調整される。
【0016】
原料として用いられるホップとしては、生ホップであってもよく、乾燥ホップであってもよく、ホップペレットであってもよく、ホップ加工品も含まれる。ホップ加工品としては、ホップから苦味成分を抽出したホップエキスであってもよい。また、イソ化ホップエキス、テトラハイドロイソフムロン、ヘキサハイドロイソフムロン等のホップ中の苦味成分をイソ化した成分を含むホップ加工品であってもよい。
【0017】
本発明に係る発酵飲料は、4−ビニルグアイヤコール(4VG)を含有している。4VGは、クローブ様のスパイシーな香りの成分であり、麦芽の細胞壁のアラビノキシラン層から遊離したフェルラ酸が、煮沸中に脱炭酸されることで生成する。このため、麦芽を原料とする発酵飲料においては、麦芽使用比率が高くなるほど、4VGの含有量が多くなる。本発明に係る発酵飲料の4VG濃度(x)としては、10ppb〜200ppb[10ppb≦x≦200ppb]が好ましく、10ppb〜170ppb[10ppb≦x≦170ppb]がより好ましい。麦芽使用比率が高い発酵飲料では、穀物香が問題となる場合があるが、4VG濃度が200ppb以下であれば、穀物香を充分に低く抑えることができる。
【0018】
本発明に係る発酵飲料の4VGの濃度は、原料として使用する麦芽の量を調整したり、4VG自体を原料として添加することにより調節できる。使用する原料としては、合成の4VGであってもよく、天然物から抽出・精製された4VGであってもよく、4VGを含有する香料であってもよい。なお、飲料中の4VGの濃度は、例えば、C18(ODS)カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析(McMurroughら、Journal of the Institute of Brewing、1996年、第102巻、第327〜332ページ。)により測定できる。HPLCの分析条件としては下記が挙げられる。
【0020】
本発明に係る発酵飲料は、β−ミルセンを含有している。β−ミルセンは、ホップ香気の主要な香気成分であり、青臭い香りを有する。β−ミルセンを適切な濃度で含有させることにより、後味のしまりを改善させることができるが、β−ミルセンの濃度が高すぎると、青臭い香りが強くなりすぎ、異味となるおそれがある。本発明に係る発酵飲料のβ−ミルセン濃度(y)としては、5〜10000ppb[5ppb≦y≦10000ppb]が好ましく、10〜8000ppb[10ppb≦y≦8000ppb]がより好ましく、20〜5000ppb[20ppb≦y≦5000ppb]がさらに好ましい。
【0021】
本発明に係る発酵飲料のβ−ミルセンの濃度は、原料として使用するホップの量を調整したり、β−ミルセン自体を原料として添加することにより調節できる。使用する原料としては、合成のβ−ミルセンであってもよく、天然物から抽出・精製されたβ−ミルセンであってもよく、β−ミルセンを含有する香料であってもよい。なお、発酵飲料のβ−ミルセン濃度の測定方法は特に限定されるものではない。例えば、β−ミルセンの濃度は、攪拌枝吸着抽出法(SBSE法:Stir Bar Sorptive Extraction)により飲料中のβ−ミルセンを攪拌枝に吸着させた後、GC/MSにより測定することができる。
【0022】
本発明に係る発酵飲料は、4VG濃度(x)とβ−ミルセン濃度(y)は、さらに、y≦66.48xを満たすことが好ましい。飲料中の4VGに対して十分量のβ−ミルセンを含有させることにより、後味のしまりを改善できる。
【0023】
本発明に係る発酵飲料は、麦芽を原料として製造された発酵飲料であってもよく、麦芽を原料とせずに製造された発酵飲料であってもよい。麦芽を原料として製造された発酵飲料には、麦芽に由来する各種物質が多く含まれており、麦芽を原料とせずに製造された飲料よりも呈味成分を多く含み、複雑な香味である。本発明においては、麦芽を原料として製造することにより、複雑な香味であり、かつ後味のしまりがよく、嗜好性がより高い発酵飲料が得られる。
【0024】
本発明に係る発酵飲料は、苦味価が5B.U.以下であり、4VG及びβ−ミルセンをそれぞれ適切な量含有している発酵飲料であれば特に限定されるものではない。本発明に係る発酵飲料は、苦味価が低い場合に後味のしまりの悪さが問題となりやすく、本発明の後味のしまり改善効果がより十分に得られることから、発酵ビール様発泡性飲料であることが好ましい。
【0025】
発酵工程を経て製造される発酵ビール様発泡性飲料は、一般的には、仕込(発酵原料液調製)、発酵、貯酒、濾過の工程で製造することができる。
【0026】
まず、仕込工程(発酵原料液調製工程)として、穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上の発酵原料から発酵原料液を調製する。具体的には、発酵原料と原料水とを含む混合物を加温し、澱粉質を糖化して糖液を調製した後、得られた糖液を煮沸し、その後固体分の少なくとも一部を除去して発酵原料液を調製する。
【0027】
まず、穀物原料と糖質原料の少なくともいずれかと原料水とを含む混合物を調製して加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させて糖液を調製する。糖液の原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、大麦や小麦、これらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。本発明においては、用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。麦芽粉砕物を用いることにより、ビールらしさがよりはっきりとした発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。また、本発明において用いられる穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0028】
本発明に係る発酵ビール様発泡性飲料としては、原料の全量に対する麦芽の使用比率は、特に限定されるものではない。例えば、麦芽の使用比率は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。なお、麦芽使用比率は、酒税法の規定に則り測定される。
【0029】
当該混合物には、穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、酵母エキス、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0030】
糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵ビール様発泡性飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35〜70℃で20〜90分間保持する等、常法により行うことができる。
【0031】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖液の濾液に替わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0032】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる。例えば、ホップを煮沸処理前又は煮沸処理中に添加し、ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分、特に苦味成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0033】
煮沸処理後に得られた煮汁には、沈殿により生じたタンパク質等の粕が含まれている。そこで、煮汁から粕等の固体分の少なくとも一部を除去する。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50〜100℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0034】
次いで、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0035】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵ビール様発泡性飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4〜1.0μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0036】
本発明に係る発酵飲料は、アルコール飲料であることが好ましいが、ノンアルコール飲料や低アルコール飲料であってもよい。発酵工程において、発酵度が低くなるように発酵条件を適宜調整したり、得られた発酵液からアルコール分を除去したり、得られた発酵液を希釈する等により、ノンアルコール飲料や低アルコール飲料を得ることができる。
【0037】
本発明に係る発酵飲料が容器詰飲料である場合、本発明に係る発酵飲料を充填する容器としては、特に限定されるものではない。具体的には、ガラス瓶、缶、可撓性容器等が挙げられる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂を成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
【0038】
4VGやβ−ミルセンを原料として添加する場合、煮沸工程による損失を避けるため、煮沸処理後に添加することが好ましく、貯酒工程以降の発酵液に添加することがより好ましい。
【0039】
本発明の効果である4VGとβ−ミルセンによる後味のしまり改善効果を損なわない限度において、貯酒工程以降、容器への充填までのいずれかの時点の発酵液に、各種の添加剤や炭酸水、原料水、アルコール含有蒸留液等を添加してもよい。当該添加剤としては、酸味料、甘味料、イソα以外の苦味料、香味料、着色料、消泡剤、乳化剤、多糖類、水溶性食物繊維、タンパク質若しくはその分解物等が挙げられる。これらはそれぞれ、1種類のみを使用してもよく、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
酸味料としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、リン酸、乳酸、アジピン酸、及びフマル酸等の有機酸が挙げられる。
甘味料としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、及び高甘味度甘味料等が挙げられる。高甘味度甘味料としては、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム、ネオテーム、ステビア、及び酵素処理ステビア等が挙げられる。
イソα酸以外の苦味料としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナリンジン、クワシン、キニーネ、モモルデシン、クエルシトリン、テオブロミン、カフェイン、ゴーヤ、センブリ茶、苦丁茶、ニガヨモギ抽出物、ゲンチアナ抽出物、キナ抽出物等が挙げられる。
【0041】
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン系消泡剤等が挙げられる。
乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等が挙げられる。
【0042】
多糖類としては、でんぷん、デキストリン等が挙げられる。デキストリンは、でんぷんを加水分解して得られる糖質であって、オリゴ糖(3〜10個程度の単糖が重合した糖質)よりも大きなものを指す。
【0043】
水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維(可溶性大豆多糖類)、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。
【0044】
本発明に係る発酵飲料が発泡性飲料である場合、当該飲料が含む炭酸ガス圧は特に限定されるものではなく、発泡性飲料の種類や求める製品品質に応じて適宜調整することができる。例えば、本発明に係る発酵飲料の炭酸ガス圧としては、20℃における炭酸ガス含有量が1.5ガスボリューム(GV)以上であることが好ましく、2.3ガスボリューム(GV)以上であることがより好ましく、2.3〜5.0GVであることがさらに好ましく、2.3〜4.4GVであることがよりさらに好ましい。所望の炭酸ガス圧に調整するために、貯酒工程以降、容器への充填までのいずれかの時点の発酵液に、炭酸ガスを導入してもよい。炭酸ガスの添加は、常法により行うことができる。
【実施例】
【0045】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0046】
<4VG濃度の測定>
以降の実験において、発酵飲料の4VG濃度は、C18(ODS)カラムを用いたHPLC分析(McMurroughら、Journal of the Institute of Brewing、1996年、第102巻、第327〜332ページ。)により測定した。HPLCの分析条件を下記に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
<官能評価>
以降の実験において、飲料の「後味のしまりの良さ」、「穀物香の弱さ」、「青臭さの弱さ」、及び「酸味の弱さ」の官能評価は、次のようにして実施した。
具体的には、6名の訓練されたビール専門パネルにより、基準液1〜4を用いた下記の評価基準に基づいて、1.0〜4.0までの0.1刻み31段階で評価した。各サンプルの評価点は、6名のビール専門パネルの評価点の平均値とした。各サンプルの評価点が2.5点以上の場合に、当該サンプルは対照サンプルと差があると判断した。
【0049】
[基準液]
100℃で60分間煮沸処理した麦芽エキスを終濃度が2質量/容量%、アルコールを終濃度が5容量%、となるように混合した炭酸水(20℃における炭酸ガス含有量が2.9GV)を基準液1(0B.U.)とした。基準液1に、イソα酸を、終濃度が5B.U.となるように混合したものを基準液2、終濃度が10B.U.となるように混合したものを基準液3、終濃度が15B.U.となるように混合したものを基準液4とした。なお、原料としたイソα酸は、イソ化ホップエキスを60分間煮沸処理してβ−ミルセンを揮発させたものを用いた。
【0050】
[後味のしまりの良さ]
1点…しまりがない。基準液1と同程度の後味のしまり。
2点…しまりがあまりない。基準液2と同程度の後味のしまり。
3点…しまりがある。基準液3と同程度の後味のしまり。
4点…しまりがとてもある。基準液4と同程度の後味のしまり。
【0051】
[穀物香の弱さ]
1点…穀物香が強い。基準液1に4VG170ppb添加した液と同程度の穀物香の強さ。
2点…穀物香がやや強い。
3点…穀物香がやや弱い。基準液1に4VG10ppb添加した液と同程度の穀物香の強さ。
4点…穀物香が弱い。
【0052】
[青臭さの弱さ]
1点…青臭さが強い。
2点…青臭さがやや強い。
3点…青臭い香りがやや弱い。
4点…青臭い香りが弱い。基準液1と同程度の青臭い香りの強さ。
【0053】
[酸味の弱さ]
1点…酸味が強い。
2点…酸味がやや強い。
3点…酸味がやや弱い。
4点…酸味が弱い。基準液1と同程度の酸味の強さ。
【0054】
[実施例1]
発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを用いて、ビール様発酵飲料における、4VGとβ−ミルセンの香味に対する影響を調べた。具体的には、麦芽使用比率が5、70、又は100質量%となるように、麦芽粉砕物又は麦芽粉砕物とコーンスターチの混合物を発酵原料として用いた。
【0055】
まず、200Lスケールの仕込設備を用いて、ビール様発酵飲料の製造を行った。仕込槽に、40kgの発酵原料(粉砕麦芽)及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液を煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。次いで、80〜99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)した後、アルコール濃度が5容量%となるように希釈し、β−ミルセンを表3〜8に記載された終濃度となるように添加し、目的のビール様発酵飲料を得た。
【0056】
各ビール様発酵飲料の4VG濃度を測定した。この結果、麦芽使用比率が5質量%のビール様発酵飲料の4VG濃度は10ppbであり、麦芽使用比率が70質量%のビール様発酵飲料の4VG濃度は120ppbであり、麦芽使用比率が100質量%のビール様発酵飲料の4VG濃度は170ppbであった。
【0057】
表3〜8中の「y≦66.48x(5ppb≦y)」欄中、「〇」は、各ビール様発酵飲料が、y≦66.48x(x:4VG濃度、y:β−ミルセン濃度)及び5ppb≦yを満たすことを、「×」は、当該式を満たさないことを示す。なお、麦芽に由来するβ−ミルセンは、煮沸処理により蒸散するため、各ビール様発酵飲料のβ−ミルセン濃度は、熟成後の発酵液に添加したβ−ミルセンの濃度であり、β−ミルセンを別添していない発酵飲料のβ−ミルセン濃度は検出限界値未満(0ppb)であった。
【0058】
各ビール様発酵飲料の「後味のしまりの良さ」、「穀物香の弱さ」、及び「青臭さの弱さ」の官能評価を行った。結果を表3〜8に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
ビール様発酵飲料の後味のしまりは、麦芽比率にかかわらず、添加したβ−ミルセンの濃度依存的に改善される傾向が観察された。一方で、β−ミルセンの濃度が高すぎるビール様発酵飲料では、青臭さが強くなり、嗜好性は低下した。逆に、β−ミルセンの濃度が低いビール様発酵飲料では、穀物臭が強い傾向が観察された。y≦66.48x(x:4VG濃度、y:β−ミルセン濃度)及び5ppb≦yを満たすビール様発酵飲料は、後味のしまりが良好で、穀物臭と青臭さのいずれもが弱い、非常に好ましいビール様発泡性飲料であった。
【0066】
[実施例2]
発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを麦芽使用比率が70質量%となるように用いて、イソα酸を含有するビール様発酵飲料における、4VGとβ−ミルセンの香味に対する影響を調べた。
【0067】
β−ミルセンを表9〜12に記載された終濃度となるように添加し、β−ミルセンと共にイソα酸を終濃度5B.U.又は10B.U.となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、目的のビール様発酵飲料を得た。各ビール様発酵飲料の4VG濃度は120ppbであった。
【0068】
各ビール様発酵飲料の「後味のしまりの良さ」、「穀物香の弱さ」、及び「青臭さの弱さ」の官能評価を行った。結果を表9〜12に示す。
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
【表11】
【0072】
【表12】
【0073】
ビール様発酵飲料の後味のしまりと穀物臭は、イソα酸の含有量(苦味価)にかかわらず、添加したβ−ミルセンの濃度依存的に改善される傾向が観察された。また、ビール様発酵飲料の青臭さは、イソα酸の含有量にかかわらず、β−ミルセンの濃度依存的に強くなった。また、試験区1−0〜1−12、4−0〜4−12、5−0〜5−12において、β−ミルセン濃度が同じ試験区同士を比較したところ、イソα酸の含有量が少ないほど、β−ミルセン無添加の飲料とβ−ミルセンを添加した飲料の後味のしまりの良さの評価点の差が大きく、β−ミルセン添加による後味のしまり改善効果がより高くなる傾向が観察された。
【0074】
また、5B.U.のビール様発酵飲料では、y≦66.48x(x:4VG濃度、y:β−ミルセン濃度)及び5ppb≦yを満たすビール様発酵飲料は、後味のしまりが良好で、穀物臭と青臭さのいずれもが弱い、非常に好ましいビール様発泡性飲料であった。これに対して、10B.U.のビール様発酵飲料では、これらの式を満たす試験区5−3〜5−10は、後味のしまりと穀物臭は改善されていたものの、青臭さは、試験区5−11、5−12と同様に強く、ビール様発酵飲料としては好ましくなかった。
【0075】
[参考例1]
発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを麦芽使用比率が70質量%となるように用いて製造されたビール様発酵飲料における、酸度の香味に対する影響を調べた。
β−ミルセンに代えて乳酸をクエン酸換算で表13に記載された終濃度となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、目的のビール様発酵飲料を得た。各ビール様発酵飲料の4VG濃度は120ppbであった。
【0076】
各ビール様発酵飲料の「後味のしまりの良さ」、「穀物香の弱さ」、「青臭さの弱さ」、及び「酸味の弱さ」の官能評価を行った。結果を表13に示す。
【0077】
【表13】
【0078】
表13に示すように、試験区6−0〜6−5のビール様発泡性飲料では、酸度依存的に後味のしまりが改善される傾向が観察された。しかしながら、充分に後味のしまりが改善された試験区6−5では、酸味が強くなり、ビール様発酵飲料としては好ましくなかった。