特許第6867625号(P6867625)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製鉄株式会社の特許一覧
特許6867625鉄道車両のきしり音評価システム及びこれを用いたきしり音低減システム
<>
  • 特許6867625-鉄道車両のきしり音評価システム及びこれを用いたきしり音低減システム 図000002
  • 特許6867625-鉄道車両のきしり音評価システム及びこれを用いたきしり音低減システム 図000003
  • 特許6867625-鉄道車両のきしり音評価システム及びこれを用いたきしり音低減システム 図000004
  • 特許6867625-鉄道車両のきしり音評価システム及びこれを用いたきしり音低減システム 図000005
  • 特許6867625-鉄道車両のきしり音評価システム及びこれを用いたきしり音低減システム 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867625
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】鉄道車両のきしり音評価システム及びこれを用いたきしり音低減システム
(51)【国際特許分類】
   B61K 9/08 20060101AFI20210419BHJP
   G01H 11/08 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   B61K9/08
   G01H11/08 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-125431(P2017-125431)
(22)【出願日】2017年6月27日
(65)【公開番号】特開2019-6317(P2019-6317A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000182993
【氏名又は名称】日鉄レールウェイテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】特許業務法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 修
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安弘
(72)【発明者】
【氏名】緒方 正剛
(72)【発明者】
【氏名】小村 吉史
(72)【発明者】
【氏名】谷本 益久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 通孝
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−217539(JP,A)
【文献】 特開2006−188158(JP,A)
【文献】 特開2005−231578(JP,A)
【文献】 特開2005−037293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 9/08
G01H 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両が曲線軌道を走行する際に発生する音響を検出して、音響の瞬時音圧に応じた音響信号を出力する音響検出手段と、
前記音響検出手段から出力された音響信号から、予め定めた複数の周波数帯域毎の音響信号成分を抽出する周波数分離手段と、
前記抽出した複数の周波数帯域毎の音響信号成分を複数の周波数帯域毎のデシベル単位で表される音圧レベルに変換する変換手段と、
前記複数の周波数帯域毎の音圧レベルをそれぞれ所定の基準値と比較し、何れかの周波数帯域の音圧レベルが前記基準値を超えている場合には、きしり音が発生していると判定すると共に、何れの周波数帯域の音圧レベルが前記基準値を超えているかに応じて、前記曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側できしり音が発生しているかを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする鉄道車両のきしり音評価システム。
【請求項2】
前記変換手段は、前記抽出した複数の周波数帯域毎に、前記音響信号成分の実効値を算出し、該算出した実効値を対数変換し、該対数変換した実効値を所定時間積分して該所定時間の平均値を算出し、該算出した平均値を前記音圧レベルとする、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両のきしり音評価システム。
【請求項3】
前記周波数分離手段には、前記曲線軌道の内軌側に実際に発生したきしり音の周波数帯域を予め調査することにより設定された該調査した周波数帯域を含む第1周波数帯域と、前記曲線軌道の外軌側に実際に発生したきしり音の周波数帯域を予め調査することにより設定された該調査した周波数帯域を含む第2周波数帯域とが記憶されており、
前記周波数分離手段は、前記音響検出手段から出力された音響信号から少なくとも前記第1周波数帯域及び前記第2周波数帯域の音響信号成分を抽出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両のきしり音評価システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載のきしり音評価システムと、
前記曲線軌道の内軌側及び/又は外軌側にきしり音を低減させるための摩擦係数調整剤を供給する摩擦係数調整手段とを備え、
前記摩擦係数調整手段は、前記曲線軌道の内軌側及び外軌側のうち、前記きしり音評価システムが判定したきしり音が発生している側に摩擦係数調整剤を供給する、
ことを特徴とする鉄道車両のきしり音低減システム。
【請求項5】
前記きしり音評価システムが備える前記音響検出手段及び前記摩擦係数調整手段は、前記曲線軌道付近に設置される又は前記鉄道車両に設置されることを特徴とする請求項4に記載の鉄道車両のきしり音低減システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両のきしり音評価システム及びこれを用いたきしり音低減システムに関する。特に、本発明は、鉄道車両が曲線軌道を走行する際の所定の大きさを超えるきしり音の発生を自動判定可能であると共に、曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側にきしり音が発生しているかを自動判定可能な鉄道車両のきしり音評価システムと、これを用いてきしり音の発生を早期に低減可能なきしり音低減システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が半径の小さい曲線軌道を走行する際に、「キィーキィー」と耳障りな音響を発生しながら走行する場合がある。この音のことを、一般に、きしり音と呼んでいる。きしり音は、鉄道車両が走行する際に発生する騒音の中でも、特に耳障りであるため、低減することが望まれている。
このきしり音は、鉄道車両が有する車輪が所定の固有振動で振動し、その車輪の振動で車輪近傍の空気が振動することで発生すると考えられている。車輪の振動を発生させる力は、車輪と軌道のレールとの間の横すべりによって生じるクリープ力(摩擦力の一種)である。このため、きしり音の発生を防止するために、特殊な車輪である防音車輪を用いる場合がある(例えば、非特許文献1参照)
【0003】
しかしながら、一部の曲線軌道のために鉄道車両の車輪を全て防音車輪にするには、莫大な費用がかかる。このため、きしり音が発生する曲線軌道にのみ、きしり音の発生を低減する対策を施す方法が知られている。具体的には、水や油等の摩擦係数調整剤をレールに散布することで、車輪とレールとの間のクリープ力を減少させて、きしり音の発生を低減させる方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところが、この方法を用いたとしても、散水装置や塗油装置などの摩擦係数調整手段が故障した場合や調整不良の場合には、摩擦係数調整剤がレールに散布されず、きしり音が発生することがある。きしり音が発生したとの報告を受けた場合には、これを解消するべく、鉄道事業者の担当者がきしり音の発生した曲線軌道の現地に赴き、きしり音の発生した原因調査を行う必要がある。
しかしながら、天候や、鉄道車両の走行速度や、摩擦係数調整剤の散布の有無等に依存して、同じ曲線軌道でも、きしり音が発生する場合と発生しない場合とがある。また、きしり音の発生が再現されたとしても、担当者の聞き取りによって判断しているため、担当者の感性に依存して評価結果が異なり、発生したきしり音の程度を定量的に評価したり、曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側できしり音が発生しているかを判定し難い。このため、何度も現地に赴いたり、長期間現地に滞在して詳細な調査を行う必要があり、多大な手間を要すると共に、きしり音の発生を早期に低減することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】西村誠一、「鉄道車輪の防振防音設計」、日本機械学会誌、昭和60年12月、第88巻、第805号、p.78−85
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−231578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、鉄道車両が曲線軌道を走行する際の所定の大きさを超えるきしり音の発生を自動判定可能であると共に、曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側にきしり音が発生しているかを自動判定可能な鉄道車両のきしり音評価システムを提供することを課題とする。また、きしり音の発生を早期に低減可能なきしり音低減システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、曲線軌道を走行する際に発生する音響を騒音計等の音響検出手段で検出し、その出力である音響信号の特定の周波数成分の大小を評価すれば、所定の大きさを超えるきしり音の発生を自動判定可能であることを見出した。また、複数の周波数帯域の周波数成分のうち、大きくなる周波数成分の周波数帯域に応じて、曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側にきしり音が発生しているかを自動判定可能であることを見出した。これは、内軌側と外軌側とで車輪の拘束条件が異なるため、車輪の有する複数の固有振動数のうち、何れの固有振動数が強調されるかが内軌側と外軌側とで異なるためだと考えられる。
【0009】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、鉄道車両が曲線軌道を走行する際に発生する音響を検出して、音響の瞬時音圧に応じた音響信号を出力する音響検出手段と、前記音響検出手段から出力された音響信号から、予め定めた複数の周波数帯域毎の音響信号成分を抽出する周波数分離手段と、前記抽出した複数の周波数帯域毎の音響信号成分を複数の周波数帯域毎のデシベル単位で表される音圧レベルに変換する変換手段と、前記複数の周波数帯域毎の音圧レベルをそれぞれ所定の基準値と比較し、何れかの周波数帯域の音圧レベルが前記基準値を超えている場合には、きしり音が発生していると判定すると共に、何れの周波数帯域の音圧レベルが前記基準値を超えているかに応じて、前記曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側できしり音が発生しているかを判定する判定手段と、を備えることを特徴とする鉄道車両のきしり音評価システムを提供する。
【0010】
本発明に係る鉄道車両のきしり音評価システムによれば、周波数分離手段が、音響検出手段から出力された音響信号から、予め定めた複数の周波数帯域毎の音響信号成分を抽出するため、この複数の周波数帯域をきしり音の周波数帯域に合致させておけば、きしり音以外の騒音を排除することが可能である。そして、変換手段が、周波数分離手段によって抽出された複数の周波数帯域毎の音響信号成分を複数の周波数帯域毎の音圧レベルに変換した後、判定手段が、この音圧レベルを所定の基準値と比較することで、所定の大きさ(すなわち、所定の基準値)を超えるきしり音の発生を自動的に精度良く判定可能である。
また、本発明によれば、判定手段が、何れの周波数帯域の音圧レベルが基準値を超えているかに応じて、曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側できしり音が発生しているかを自動判定することが可能である。
なお、本発明において、「曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側できしり音が発生しているかを判定する」とは、内軌側及び外軌側のうちの何れか一方の側のみできしり音が発生していると判定する場合のみならず、双方の側できしり音が発生していると判定する場合も含む概念である。
【0011】
好ましくは、前記変換手段は、前記抽出した複数の周波数帯域毎に、前記音響信号成分の実効値を算出し、該算出した実効値を対数変換し、該対数変換した実効値を所定時間積分して該所定時間の平均値を算出し、該算出した平均値を前記音圧レベルとする。
【0012】
上記の好ましい構成によれば、所定時間の平均値を音圧レベルとして基準値との比較に用いるため、瞬間的に発生したきしり音は音圧レベルが小さく評価され、継続して発生するきしり音は音圧レベルが大きく評価されるため、真に問題となる(低減を要する)きしり音の発生を的確に検出することが可能である。
【0013】
好ましくは、前記周波数分離手段には、前記曲線軌道の内軌側に実際に発生したきしり音の周波数帯域を予め調査することにより設定された該調査した周波数帯域を含む第1周波数帯域と、前記曲線軌道の外軌側に実際に発生したきしり音の周波数帯域を予め調査することにより設定された該調査した周波数帯域を含む第2周波数帯域とが記憶されており、前記周波数分離手段は、前記音響検出手段から出力された音響信号から少なくとも前記第1周波数帯域及び前記第2周波数帯域の音響信号成分を抽出する。
【0014】
前述のように、車輪の有する複数の固有振動数のうち、何れの固有振動数が強調されるかは、内軌側と外軌側とで異なると考えられる。さらに、何れの固有振動数が強調されるかは、鉄道車両の走行する曲線軌道によっても異なる場合があると考えられる。
このため、上記の好ましい構成のように、きしり音の発生を判定する曲線軌道に実際に発生した(過去に発生した)きしり音の周波数帯域を内軌側と外軌側とに分けて予め調査しておき、この調査した結果に応じた第1周波数帯域(内軌側)と第2周波数帯域(外軌側)とを周波数分離手段に記憶させておき、周波数分離手段がこれら第1周波数帯域及び第2周波数帯域の音響信号成分を抽出するようにすれば、きしり音の発生及びきしり音の発生側(内軌側又は外軌側)をより一層精度良く判定可能である。
【0015】
また、前記課題を解決するため、本発明は、前記何れかのきしり音評価システムと、前記曲線軌道の内軌側及び/又は外軌側にきしり音を低減させるための摩擦係数調整剤を供給する摩擦係数調整手段とを備え、前記摩擦係数調整手段は、前記曲線軌道の内軌側及び外軌側のうち、前記きしり音評価システムが判定したきしり音が発生している側に摩擦係数調整剤を供給する、ことを特徴とする鉄道車両のきしり音低減システムとしても提供される。
【0016】
本発明に係る鉄道車両のきしり音低減システムによれば、摩擦係数調整手段が、曲線軌道の内軌側及び外軌側のうち、きしり音評価システムが判定したきしり音が発生している側に摩擦係数調整剤を供給するため、きしり音の発生を早期に低減することが可能である。また、曲線軌道の内軌側及び外軌側のうち何れか一方の側にのみきしり音が発生していると判定された場合には、当該一方の側にのみ摩擦係数調整剤を供給するため、摩擦係数調整剤を浪費する無駄なコストを削減可能である。
【0017】
なお、本発明に係る鉄道車両のきしり音低減システムにおいて、前記きしり音評価システムが備える前記音響検出手段及び前記摩擦係数調整手段は、前記曲線軌道付近に設置される又は前記鉄道車両に設置される。
すなわち、音響検出手段及び摩擦係数調整手段の双方が曲線軌道付近に設置される場合、音響検出手段及び摩擦係数調整手段の双方が鉄道車両に設置される場合、音響検出手段が曲線軌道付近に設置されて摩擦係数調整手段が鉄道車両に設置される場合、音響検出手段が鉄道車両に設置されて摩擦係数調整手段が曲線軌道付近に設置される場合の、計4つの場合の何れであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るきしり音評価システムによれば、鉄道車両が曲線軌道を走行する際の所定の大きさを超えるきしり音の発生を自動判定可能であると共に、曲線軌道の内軌側及び外軌側のうちの何れの側にきしり音が発生しているかを自動判定可能である。また、本発明に係るきしり音低減システムによれば、きしり音の発生を早期に低減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る鉄道車両のきしり音低減システムの概略構成を説明する図である。
図2】ある曲線軌道で取得した音響信号、抽出した音響信号成分及びDC信号の例を示すグラフである。
図3】等価音圧レベルの算出方法、等価音圧レベルの算出例及び判定結果の例を示す図である。
図4図2に示すものとは異なる曲線軌道で取得した音響信号、抽出した音響信号成分、DC信号及び等価音圧レベルの例を示すグラフである。
図5図2及び図4に示すものとは異なる曲線軌道で取得した音響信号、抽出した音響信号成分、DC信号及び等価音圧レベルの例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る鉄道車両のきしり音評価システム(以下、適宜「評価システム」と略称する)及びきしり音低減システム(以下、適宜「低減システム」と略称する)について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る低減システムの概略構成を説明する図である。
図1に示すように、本実施形態に係る低減システム100の適用対象である鉄道車両は、車体1と、車体1の前後(鉄道車両の走行方向の前後)に配置された一対の台車2と、各台車2の左右に配置され車体1を支持する空気ばね3とを有する。各台車2の前後には、一対の輪軸4が配置されている。図1に示す状態では、鉄道車両の輪軸4が具備する車輪は、曲線軌道(内軌Ra、外軌Rb)を走行している。
【0021】
本実施形態に係る低減システム100は、音響検出手段10と、周波数分離手段20と、変換手段30と、判定手段40と、摩擦係数調整手段50とを備えている。摩擦係数調整手段50を除く、音響検出手段10〜判定手段40が、本実施形態に係る評価システムを構成している。
【0022】
音響検出手段10は、鉄道車両が曲線軌道を走行する際に発生する音響を検出して、音響の瞬時音圧に応じた音響信号を出力する手段である。音響検出手段10としては、例えば、マイクロホンを具備する騒音計を適用可能であり、音響信号として、騒音計の瞬時音圧出力を用いることが可能である。音響検出手段10としては、例えば、リオン社製「普通騒音計NL−52」(検出可能な周波数帯域:20〜20kHz)を適用可能である。本実施形態の音響検出手段10は、曲線軌道付近に設置されているが、本発明はこれに限るものではなく、鉄道車両に設置することも可能である。
【0023】
周波数分離手段20は、音響検出手段10から出力された音響信号から、予め定めた複数の周波数帯域毎の音響信号成分を抽出する手段である。周波数分離手段20としては、例えば、複数の通過周波数帯域を設定可能なバンドパスフィルタ等を用いることが可能である。本実施形態の周波数分離手段20は、音響検出手段10が曲線軌道付近に設置されていることから、同じく曲線軌道付近に設置されている。音響検出手段10が鉄道車両に設置されるのであれば、周波数分離手段20も鉄道車両に設置することが好ましい。
【0024】
本実施形態の周波数分離手段20には、曲線軌道の内軌Ra側に実際に発生したきしり音の周波数帯域を予め調査することにより設定された該調査した周波数帯域を含む第1周波数帯域と、曲線軌道の外軌Rb側に実際に発生したきしり音の周波数帯域を予め調査することにより設定された該調査した周波数帯域を含む第2周波数帯域とが記憶されている。
上記の調査としては、例えば、曲線軌道付近に本実施形態の音響検出手段10を設置し、その音響信号を逐次記憶しておいて、内軌Ra側又は外軌Rb側にきしり音が発生したときに、記憶した音響信号のうち、きしり音が発生した日時に対応する音響信号を周波数解析することで、内軌Ra側に発生したきしり音の周波数帯域と外軌Rb側に発生したきしり音の周波数帯域とを特定することが考えられる。この調査自体にはある程度の手間がかかるものの、一度調査して第1周波数帯域及び第2周波数帯域を設定し終えれば、少なくとも調査した曲線軌道に関しては、次にきしり音が発生する際に同じ第1周波数帯域及び第2周波数帯域を用いることができる場合が多いため、調査を繰り返す必要はないと考えられる。
後述の図2図3に示す例では、対象とする曲線軌道の内軌Ra側に実際に発生したきしり音の周波数を予め調査したところ、周波数が470Hz程度であったため、第1周波数帯域が400〜500Hzに設定されて記憶されている。また、対象とする曲線軌道の外軌Rb側に実際に発生したきしり音の周波数を予め調査したところ、周波数が2000Hz程度及び3100Hz程度であったため、第2周波数帯域が1900〜2100Hz及び3000〜3200Hzに設定されて記憶されている。そして、周波数分離手段20は、音響検出手段10から出力された音響信号から少なくとも第1周波数帯域及び第2周波数帯域の音響信号成分を抽出する。
【0025】
変換手段30は、抽出した複数の周波数帯域(第1周波数帯域及び第2周波数帯域を含む)毎の音響信号成分を複数の周波数帯域毎のデシベル単位で表される音圧レベルに変換する手段である。本実施形態では、以後、この変換手段30による変換後の音圧レベルを「等価音圧レベル」と称する。
具体的には、本実施形態の変換手段30は、等価音圧レベル算出手段31と、データ伝送手段32とを具備する。本実施形態の変換手段30は、曲線軌道付近に設置されている。
【0026】
等価音圧レベル算出手段31は、まず、周波数分離手段20が抽出した複数の周波数帯域毎に、音響信号成分の実効値を算出し、該算出した実効値を対数変換する。具体的には、音圧単位に換算した音響信号成分の実効値がA[Pa]であるとすれば、以下の式(1)に基づき、対数変換される。
対数変換後の実効値[dB]=20log(A/A0) ・・・(1)
ただし、上記の式(1)において、A0=20×10−6[Pa]
以後、この等価音圧レベル算出手段31による対数変換後の実効値を「DC信号」と称する。
【0027】
図2は、ある曲線軌道で取得した音響信号、抽出した音響信号成分及びDC信号の例を示すグラフである。図2(a)において、最も上の信号波形が音響検出手段10から出力された音響信号(音響検出手段10で検出可能な全周波数帯域(OA)の音響信号成分)であり、次の信号波形が第1周波数帯域400〜500Hzの音響信号成分であり、次の信号波形が第2周波数帯域1900〜2100Hzの音響信号成分であり、最も下の信号波形が第2周波数帯域3000〜3200Hzの音響信号成分である。図2(b)は、図2(a)に示す各信号波形のDC信号である。
次に、等価音圧レベル算出手段31は、生成したDC信号を所定時間積分して該所定時間の平均値を算出し、該算出した平均値を等価音圧レベルとする。具体的には、図3(a)に示すように、予め定めたしきい値Thを超える時刻t1からt2までのDC信号の音圧レベルを積分し(図3(a)中にハッチングを施した部分の面積を求め)、これを時間t2−t1で除算することでDC信号の音圧レベルの平均値を算出し、これを等価音圧レベルとする。図3(b)は、図2(b)に示すDC信号から上記のようにして算出した周波数帯域毎の等価音圧レベルの例を示すグラフである。
【0028】
等価音圧レベル算出手段31が算出した等価音圧レベルは、データ伝送手段32に出力される。データ伝送手段32は、入力された等価音圧レベルを、無線LANや公衆回線等を利用して、判定手段40に無線送信する。図2(b)に示すようなDC信号は、音響信号成分の実効値を対数変換したものであるため、図2(a)に示すような音響信号成分(音響信号含む)に比べて、必然的にデータ容量が小さくなっている。さらに、図3(b)に示すように、予め定めたしきい値Thを超えるDC信号の音圧レベルの平均値として算出される等価音圧レベルは、更にデータ容量が小さくなっている。このため、無線送信するのに都合が良い。なお、等価音圧レベルの送信は、逐次送信してもよいが、例えば、鉄道車両の一編成分の等価音圧レベルを纏めて送信することも可能である。
【0029】
本実施形態の判定手段40は、鉄道事業者の管理センターなど曲線軌道から離れた場所に設置されている。
判定手段40は、複数の周波数帯域毎の等価音圧レベルをそれぞれ所定の基準値と比較し、何れかの周波数帯域の等価音圧レベルが基準値を超えている場合には、きしり音が発生していると判定する。上記の基準値は、例えば、感覚的にうるさいと考えられる等価音圧レベルを予め調査することによって決定することが可能である。また、判定手段40は、何れの周波数帯域の等価音圧レベルが基準値を超えているかに応じて、曲線軌道の内軌Ra側及び外軌Rb側のうちの何れの側できしり音が発生しているかを判定する。具体的には、第1周波数帯域の等価音圧レベルが基準値を超えている場合には、曲線軌道の内軌Ra側できしり音が発生していると判定する。また、第2周波数帯域の等価音圧レベルが基準値を超えている場合には、曲線軌道の外軌Rb側できしり音が発生していると判定する。さらには、第1周波数帯域の等価音圧レベルが基準値を超え、なお且つ、第2周波数帯域の等価音圧レベルが基準値を超えている場合には、曲線軌道の内軌Ra側及び外軌Rb側の双方できしり音が発生していると判定する。
図3(c)は、図3(b)に示す等価音圧レベルに基づき判定を行った結果の一例を示す図である。図3(c)に示すように、この例では、第1周波数帯域である400〜500Hzの等価音圧レベルが113dBであり、基準値である100dBを超えている。また、第2周波数帯域である1900〜2100Hzの等価音圧レベルが85dBであり、基準値である80dBを超えている。さらに、第2周波数帯域である3000〜3200Hzの等価音圧レベルが74dBであり、基準値である70dBを超えている。このため、判定手段40は、曲線軌道の内軌Ra側及び外軌Rb側の双方できしり音が発生していると判定することになる。なお、図3(c)に示す例では、実際に内軌Ra側及び外軌Rb側にきしり音が発生していることが確認されていると共に、後述の摩擦係数調整手段50で内軌Ra側及び外軌Rb側に摩擦係数調整剤を供給することで、きしり音が消失したことも確認されている。すなわち、本実施形態に係る低減システム100がきしり音の検出及び低減に有効であることが確認できている。
【0030】
摩擦係数調整手段50は、曲線軌道の内軌Ra側及び/又は外軌Rb側にきしり音を低減させるための摩擦係数調整剤を供給する手段である。本実施形態の摩擦係数調整手段50は、内軌Ra側及び外軌Rb側の双方に摩擦係数調整剤としての水や油などを供給(散布)可能なように、例えば、車体1の走行方向後端における内軌Raに面する位置及び外軌Rbに面する位置に一対(摩擦係数調整手段50a、50b)設置されている。なお、本実施形態の摩擦係数調整手段50は、鉄道車両に設置されているが、本発明はこれに限るものではなく、曲線軌道付近に設置することも可能である。
【0031】
摩擦係数調整手段50は、曲線軌道の内軌Ra側及び外軌Rb側のうち、きしり音評価システム(判定手段40)が判定したきしり音が発生している側に摩擦係数調整剤を供給する。具体的には、本実施形態の判定手段40は、判定結果に基づき、きしり音が発生している側に設置されている摩擦係数調整手段50に対して、摩擦係数調整剤を供給すべき旨の制御信号を無線送信する。制御信号を受信した摩擦係数調整手段50は、制御信号に従って開閉弁等を開くことで、摩擦係数調整剤を供給する。図3(c)に示す例では、きしり音が発生していると判定された内軌Ra側に設置されている摩擦係数調整手段50aに制御信号が送信され、摩擦係数調整手段50aが内軌Ra側に摩擦係数調整剤を供給することになる。さらに、同じく、きしり音が発生していると判定された外軌Rb側に設置されている摩擦係数調整手段50bにも制御信号が送信され、摩擦係数調整手段50bが外軌Rb側に摩擦係数調整剤を供給することになる。
なお、判定手段40は、きしり音が発生していると判定した鉄道車両自体に設置された摩擦係数調整手段50に制御信号を送信してもよいが、摩擦係数調整手段50が制御信号を受信して駆動する際には、当該鉄道車両がきしり音が発生した曲線軌道を既に通過している場合も考えられる。この場合には、きしり音が発生していると判定した鉄道車両に後続する鉄道車両が当該曲線軌道を走行するタイミングで、当該後続の鉄道車両に設置された摩擦係数調整手段50に摩擦係数調整剤を供給すべき旨の制御信号を送信すればよい。
また、本実施形態では、判定手段40が判定結果に基づき、摩擦係数調整手段50に自動的に制御信号を送信する構成について説明したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、判定手段40が、判定結果に応じたアラームを鳴らしたり、具備するモニタ画面に判定結果を表示する構成とし、これを確認した鉄道事業者の担当者が手動操作を行うことで、摩擦係数調整手段50に対して摩擦係数調整剤を供給すべき旨の制御信号を送信する構成を採用することも可能である。
【0032】
図4は、図2に示すものとは異なる曲線軌道で取得した音響信号、抽出した音響信号成分、DC信号及び等価音圧レベルの例を示すグラフである。図4(a)において、最も上の信号波形が音響検出手段10から出力された音響信号(音響検出手段10で検出可能な全周波数帯域(OA)の音響信号成分)であり、次の信号波形が第2周波数帯域4200〜4400Hzの音響信号成分であり、次の信号波形が第2周波数帯域4700〜4900Hzの音響信号成分であり、最も下の信号波形が第2周波数帯域8400〜8600Hzの音響信号成分である。図4(b)は、図4(a)に示す各信号波形のDC信号である。図4(c)は、図4(b)に示すDC信号から算出した等価音圧レベルである。
図4に示す例は、第2周波数帯域4700〜4900Hzで等価音圧レベルが大きくなり、基準値である100dBを超えたため、曲線軌道の外軌Rb側できしり音が発生していると判定された例である。図4に示す例では、実際に外軌Rb側にきしり音が発生していることが確認されていると共に、摩擦係数調整手段50で外軌Rb側に摩擦係数調整剤を供給することで、きしり音が消失したことも確認されている。すなわち、本実施形態に係る低減システム100がきしり音の検出及び低減に有効であることが確認できている。
【0033】
図5は、図2及び図4に示すものとは異なる曲線軌道で取得した音響信号、抽出した音響信号成分、DC信号及び等価音圧レベルの例を示すグラフである。図5(a)において、最も上の信号波形が音響検出手段10から出力された音響信号(音響検出手段10で検出可能な全周波数帯域(OA)の音響信号成分)であり、次の信号波形が第2周波数帯域4200〜4400Hzの音響信号成分であり、次の信号波形が第2周波数帯域4700〜4900Hzの音響信号成分であり、最も下の信号波形が第2周波数帯域8400〜8600Hzの音響信号成分である。図5(b)は、図5(a)に示す各信号波形のDC信号である。図5(c)は、図5(b)に示すDC信号から算出した等価音圧レベルである。
図5に示す例は、第2周波数帯域4200〜4400Hzで等価音圧レベルが大きくなり、基準値である100dBを超えたため、曲線軌道の外軌Rb側できしり音が発生していると判定された例である。図5に示す例では、実際に外軌Rb側にきしり音が発生していることが確認されていると共に、摩擦係数調整手段50で外軌Rb側に摩擦係数調整剤を供給することで、きしり音が消失したことも確認されている。すなわち、本実施形態に係る低減システム100がきしり音の検出及び低減に有効であることが確認できている。
【符号の説明】
【0034】
1・・・車体
10・・・音響検出手段
20・・・周波数分離手段
30・・・変換手段
40・・・判定手段
50・・・摩擦係数調整手段
100・・・鉄道車両のきしり音低減システム
図1
図2
図3
図4
図5