(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鍼治療とは、身体の特定の点(経穴又はツボ)に鍼を刺入又は接触させることにより、ツボを刺激し、ヒトが本来有する自然治癒力、免疫力を高めて、治療、病気の予防を行う方法である。ツボを刺激すると、刺激が経絡を伝わって、気や血の流れがよくなり、スムーズにその先の臓腑に伝わることで、臓腑の機能を活性化し、変調があったとしても自然に修復されるという東洋医学の治療の基本的な考え方に基づいている。病気の治療だけでなく、血行を促進し、筋肉のこりや神経痛などを和らげ、冷え性の緩和、疲労回復にも適用されている。
【0003】
一方、灸治療とは、灸をすえて熱でツボを刺激する治療方法であり、通常、艾を燃やして、その熱でツボを刺激する治療方法である。皮膚の上に、艾しゅをたてて、火をつける透熱灸が一般的であり、灸をすえることで痕が残る有痕灸、痕が残らない無痕灸がある。また、皮膚の上に直接艾を置かず、皮膚と灸の間に、緩衝物をおく間接灸もある。
【0004】
さらに、鍼と灸を組み合わせたものとして、鍼の柄の部分に艾をつけた灸頭鍼もある。鍼がツボを刺激すると同時に、灸の熱が鍼を伝って、身体の深部から温めることができる。灸頭鍼は、鍼治療効果と灸治療効果を兼ね備えていることから、高い治療効果を期待できる。
しかしながら、鍼の上に艾をおいて燃やすことから、施術中において艾が燃え尽きるまで注視する必要がある。また、患者が身動きすると、艾がこぼれ落ちて、患者が火傷をするおそれがある。このような理由から、灸頭鍼は、治療効果が高いものの、特定の患者以外には、一般的に行われないのが実情である。
【0005】
一方、身体を芯から温める方法として、温熱療法がある。現代人は、冷房の効いた室内で長時間過ごしたり、ストレス、運動不足などから、身体が低体温状態にある人が多い。低体温は、免疫力の低下をもたらすため、身体を芯から温める温熱療法は、近年、注目をあびている。
【0006】
温熱療法には、全身を温めることができる、ドーム型の遠赤外線治療器や、特定部位に赤外線をあてることができる、赤外線治療器がある。
全身温熱治療は、本来の東洋医学の考え方に基づくものではなく、患者が本来有している免疫力、治癒力アップには、つながりにくく、また機器も大型で高価である。
この点、特定部位を照射する赤外線治療器は、灸治療の代替として、近年、利用が増加している。灸治療の代替としての温熱治療を行うことができるような温熱器も種々提案されている。
【0007】
例えば、特開平7−303709号公報(特許文献1)には、直接人体患部に当て撫でることができる、遠赤外線温熱器として、温風を受けることで遠赤外線を発生するカーボン成形体を備え、該カーボン成形体からの遠赤外線を伴う温風を外部に排出することができる貫通孔が開設されている遠赤外線温熱器が提案されている。
【0008】
また、特開2007−275084号公報(特許文献2)には、赤外線を使用しないで、灸治療に類似する効果が得られる温灸器が提案されている。鉄粉、活性炭、反応促進剤及び水を含む発熱組成物を円盤状に成形した温灸器で、酸素に暴露されることで発熱反応が開始するが、肌に触れる部分の温度を45〜60℃程度に保持できるというものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1で提案されている温熱治療器は、遠赤外線効果と温風効果により、人体の血行を良くしようとするもので、鍼灸治療の代替として用いるものではない。
【0011】
特許文献2で提案されている温灸器の場合、経穴に局部的な熱刺激を、穏やかに持続性をもって与えることができるという点で、灸治療の代替となり得る。
しかしながら、鍼治療と併用するものではなく、ツボ刺激との相乗効果は得られない。
【0012】
特定部位に照射する赤外線治療器を鍼治療と組み合わせて、すなわち鍼を刺した状態で赤外線を照射することで、灸頭鍼の代替といった試みもある。
【0013】
以上のように、上記温熱器は、鍼治療との併用が困難であったり、鍼治療と併用する場合であっても、患部に赤外線を照射することにとどまるため、ツボ刺激の効果をより高める灸頭鍼の代替技術としては、不十分である。
【0014】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、灸頭鍼に匹敵またはそれ以上の効果を得ることができる鍼治療補助具、さらには経絡療法にも適用できる当該補助具のセット、並びに、これらを用いた灸頭鍼代替キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の鍼治療補助具は、
鍼が挿通できる貫通孔を有する、厚み2〜20mm、直径15〜100mmである炭素製円板
からなる鍼治療補助具であって、鍼治療のために患部に載置し、前記貫通孔に鍼を挿通した状態で、前記鍼治療補助具及び前記鍼に赤外線を照射するように用いられる。
前記貫通孔の直径は、2〜8mmであることが好ましい。また、前記炭素材料は、人造黒鉛であることが好ましい。
【0016】
本発明の別の見地では、上記本発明の鍼治療補助具の2〜10個のセットである経絡療法用セットも包含する。
当該セットに用いられる鍼治療補助具としては、厚み2〜20mm、直径15〜50mmの炭素製円板であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、上記本発明の鍼治療補助具又は経絡療法用セット;前記鍼治療補助具に赤外線を照射する赤外線照射器;及び前記鍼治療補助具の貫通孔に挿通できる鍼を備えた灸頭鍼代替キットも包含する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鍼治療補助具は、炭素製円板といったシンプルな構成であり、使用方法としては、鍼治療の際に載置するだけでよい。そして、炭素材料に基づく遠赤外線効果により施術部位を深部から温めることができるので、安全に且つ簡易に、灸頭鍼と類似の治療効果を得ることができる。よって、施術者に求められる手技、高度な注意を緩和することができる。
さらに、経絡療法において、補助具のセットを用いることで、患者の個体差に応じた経絡療法による治療を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔鍼治療補助具〕
図1は、本発明の鍼治療補助具の一実施形態の構成を示す図である。
図1に示す鍼治療補助具1は、直径(D)が15〜100mm、厚み(t)が1〜20mm、のサイズを有する炭素製円板1Aである。円板1Aのサイズは、施術部位、目的に応じて適宜選択できる。
例えば、腰痛治療や腹部、背面など平面に近い部分の治療の場合には、比較的大きめの炭素製円板を用いることが好ましく、具体的には、直径(D)は20〜100mmが好ましく、より好ましくは25〜50mm、厚み(t)は3〜20mmが好ましく、より好ましくは5〜10mmである。
一方、経絡療法のように、複数箇所に同時に鍼を施術するような場合には、比較的小さめの炭素製円板を用いることが好ましく、具体的には、直径(D)は15〜30mmが好ましく、より好ましくは15〜25mm、厚み(t)は1〜15mmが好ましく、より好ましくは3〜7mmである。
【0021】
円板1Aの中心には、鍼が挿通できる貫通孔2が開設されている。貫通孔2の直径(d)2〜8mm、好ましくは3〜7mm、より好ましくは3〜5mmである。
【0022】
上市されている鍼の長さは、一般に、30〜80mm程度であり、鍼を刺す深さは一般に5〜30mmであることから、円板の厚みは、15mm以下であることが好ましい。円板1Aが分厚くなりすぎると、短い鍼では、鍼を皮膚に刺入れた状態において、鍼の柄が円板1Aの貫通孔2から突出できず、施術者が刺した鍼を上下させたり回転させたりする、いわゆる手技を行うことが困難になる。一方、薄くなりすぎると、炭素製円板1Aの強度が低下し、割れたり、欠けたりしやすくなる。
【0023】
貫通孔2は、鍼を遊嵌できるクリアランスが必要であり、取り出し操作が容易に行うことができるように、少なくとも鍼の直径の2倍以上であることが好ましい。鍼は、施術者が把持する鍼柄と身体に刺入される鍼体とからなり、鍼柄の直径は、1〜1.5mm程度であることから、貫通孔2の直径(d)は、2mm以上、好ましくは3mm以上である。皮膚が薄い部位など、施術部位によっては、15度ほどの角度で傾けて、鍼を刺す場合がある。かかる場合にも適応できるように、貫通孔2の直径dは、鍼の直径の3倍以上であることが好ましい。
一方、貫通孔2の直径dが大きくなりすぎると、円板1Aの炭素部分が小さくなり、補助具1としての強度が低下し、放射する遠赤外線量も少なくなる傾向にある。
【0024】
円板1Aを構成する炭素材料としては、遠赤外線を放射できるものであればよく、いわゆる黒鉛(グラファイト)、カーボン粉末、炭素繊維、炭素繊維複合材料(CCコンポジット)などを用いることができる。これらのうち、好ましくは黒鉛である。
黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛の他、木炭、ピッチや合成樹脂の炭素化物などを用いることができ、より好ましくは人造黒鉛である。人造黒鉛は肌触りが良い。また、容易に身体(施術箇所)の形状に合わせた加工がしやすい。
【0025】
以上のような炭素材料を円板状に成形したものが、本発明にかかる補助具となる。成形用に、バインダーが含まれていてもよい。
炭素材料の円板形への成形方法は特に限定しないが、バインダーと混合して円柱状に押出した後、所定厚みにカットする方法、成形型に充填して加圧する方法、炭素塊を所定円板状に削りだす方法などにより製造することができる。
【0026】
炭素原料として人造黒鉛を用いた場合、成形後に加工粉が付着している場合があるので、かかる場合、加工粉のふき取り、水洗等により、加工粉を予め取り除くことが好ましい。また、成形後、円板成形体の表面を鏡面仕上げしたり、成形体表面を合成樹脂などでコーティングしてもよい。これにより、施術中に、患部に黒鉛粉が付着したりすることを防止できる。
一方、身体が傾斜した部位に補助具を載置する場合、補助具である円板が滑って位置ずれする場合がある。円板の位置ずれは、患部に刺入れている鍼を傾斜させたり、倒すおそれがある。従って、円板の位置ずれ、滑りを防止する必要がある。かかる観点から、円板成形体の表面を粗面加工、さらには滑り止め用の凹凸加工(ローレット、溝加工)などを施してもよい。
【0027】
黒鉛のかさ密度は1.5g/cm
3以上であることが好ましく、より好ましくは1.7g/cm
3以上である。かさ密度が高いほど、熱容量が高くなるので、遠赤外線の放射効果が高く、保温時間を長くできる。
【0028】
〔経絡療法用セット〕
上記構成を有する補助具は、1個の補助具を単独で使用するだけでなく、複数個のセット(経絡療法用セット)として使用することもできる。
すなわち、本発明の経絡療法用セットは、上記本発明の鍼治療補助具2〜10個を1セットとしたものである。後述するように、経絡療法のように、複数の鍼を同時に刺入れ、置鍼する場合に、複数個の補助具を同時に用いる必要があるので、かかる補助具のセットとして用いることが好ましい。
1セット中の補助具は、いずれも同形同サイズであり、好ましくは直径(D)15〜30mmが好ましく、より好ましくは15〜25mm、厚み(t)は2〜15mmが好ましく、より好ましくは3〜7mmの比較的小さめの円板を用いることが好ましい。
【0029】
〔灸頭鍼代替キット〕
本発明の鍼治療補助具又は経絡療法用セットは、灸頭鍼代替に利用できる。すなわち、本発明の灸頭鍼代替キットは、上記本発明の1個又は複数個の鍼治療補助具;前記鍼治療補助具に赤外線を照射する赤外線照射器;及び前記鍼治療補助具の貫通孔に挿通できる鍼を備えたものである。
【0030】
赤外線照射器としては、特定の部位(患部)のみに赤外線を照射できる小型の赤外線照射器である。例えば、高さ50〜70cmで、照射の陰影が25cm〜50cm程度の赤外線照射器を用いることができる。
【0031】
鍼は、従来より鍼治療で用いられている鍼を用いることができる。鍼の材質としては特に限定なく、ステンレス製、銀製、金製などを用いることができる。
【0032】
鍼のサイズも特に限定はなく、従来より鍼治療で用いられているサイズの鍼を用いることができる。具体的には、長さ30mm、40mm、50mm、60mmのものが挙げられる。鍼は、施術者が把持する鍼柄と身体に刺入される鍼体とからなり、鍼体の直径としては、通常0.1〜1mm、より一般的には0.1〜0.5mmである。鍼柄の直径は、1〜1.5mm程度である。
【0033】
複数個の補助具をセットとして用いた灸頭鍼代替キットは、後述するように、経絡療法を、効果的に容易に行うことができる。
【0034】
〔補助具の使用方法〕
上記構成を有する補助具の使用方法について、1個の補助具を単独で使用する場合、複数個の補助具をセットとして使用する場合について、各順に説明する。
【0035】
(1)補助具1個の場合
1個の補助具の使用方法について、
図2に基づいて説明する。
まず、皮膚10のツボ(施術部位)に、刺手で鍼3を挿入する(
図2(a))。鍼3は、施術者が把持する鍼柄4と身体に刺入される鍼体5とからなる。鍼3の挿入について、鍼管を使用する場合には、鍼をツボに挿入した後、鍼管を取り去ればよい。
【0036】
鍼3(鍼体5)を目的の深さまで刺し入れたら、補助具1の貫通孔2に鍼3(鍼柄4)を挿通させるようにして、皮膚10上に補助具1を載置する(
図2(b))。
かかる状態で、赤外線照射器8で、補助具1に向けて、赤外線を照射する(
図2(c))。
【0037】
赤外線の照射時間は、10〜20分程度である。照射時間が短すぎると、補助具1が十分に赤外線エネルギーを吸収できず、ひいては補助具(炭素製円板)による遠赤外線の放射効果が得られにくくなる。一方、30分を超える照射は、患者の負担が多大になる一方、温熱治療効果はほぼ飽和しているからである。
【0038】
炭素製円板1Aは、ツボを熱刺激する役割を有するものであり、赤外線を吸収した後、自ら遠赤外線を放射するという特性を有している。かかる放射は、四方八方に放射されることから、放射される遠赤外線の半分は、ツボ部分に向けて反射することになる。
この点、赤外線治療器では、小型のものであっても、患部から10〜30cm上方からの照射となるため、径10cm以上の領域に赤外線を照射することになる。一方、本発明の補助具では、円板1Aの直径(D)の領域からの熱放射となるので、経穴に集中して遠赤外線を放射することができる。また、炭素製円板は、直接、皮膚上に載置された状態で、遠赤外線を放射しているので、より効率的に、遠赤外線を皮膚表面及び表面近傍に浸透させることが可能であり、その部分を流れる血液を温めることができる。そして、このようにして温められた血液が、患部深部に届けられることで、、患部の深部まで温めることができる。
【0039】
以上のようにして、補助具を用いると、温熱療法として、より高い効果を得ることができる。鍼治療本来の効果に加えて、補助具による温熱療法の効果を併せて得られることから、灸頭鍼の代替にもなる。
一方、炭素材料自体は、温熱器からの光を照射しても適温以上の温度に上がることはないので、火傷等の心配もなく、治療が終了するまでの間、注意して見守る必要もない。また、炭素材料は、生体親和性がよいので、治療の間、皮膚に接触していても、アレルギー等を引き起こすおそれは小さい。
【0040】
またさらに炭素製円板は、単に皮膚に載置するだけなので、鍼のように、一度の施術で廃棄することなく、消毒することで、繰り返し使用できる。特に、炭素材料は、耐腐食性に優れているので、破損などしない限り、繰り返し使用することができる。したがって、コスト面からも艾に匹敵、またはそれ以上に有利である。
【0041】
なお、薄型の円板からなる補助具を用いた場合、
図3に示すように、複数枚の円板1Aを重ねて用いてもよい。
図3は、円板1Aを3枚重ねた場合を示している。
手技に支障がない場合、長い鍼を用いた場合であれば、複数枚重ねることで、円板の合計厚みを分厚くすることができ、これにより、遠赤外線の放射量を増大することができる。
【0042】
(2)複数個の補助具をセットで使用する場合(経絡療法用セットの使用)
鍼治療において、1個のツボだけを刺激する治療法の他に、経絡に沿って複数のツボを同時に刺激する治療方法(経絡療法)がある。
経絡とは、気と知がめぐる通路のことであり、経絡は全身に張り巡らされていることから、刺激されたツボから離れた場所まで、経路を通じて、刺激を伝えることができる。
【0043】
例えば、
図4に示すように、脊椎11にそって、その左右両側に存在する肺兪、心兪、脾兪、胃兪、腎兪、大腸兪に、鍼3a〜3f,3’a〜3’fを同時に刺入れる治療法がある。
図4は、脊椎11に沿って存在する、経絡療法の対象となる全てのツボに、鍼3a〜3f,3’a〜3’fを刺入れた状態を示している。
【0044】
経絡療法として、複数のツボに対して温熱療法を併用しようとすると、広範囲に赤外線照射することになり、携帯型の赤外線照射器では、全てのツボに、万遍なく照射することは困難である。一方、ツボの全てに同レベルの刺激が必要とは限らない。患者によっては、深部まで冷えていて、温熱との併用が必要な部位と、通常の鍼の刺入りの刺激程度で十分である部位とが混在している。かかる場合、本発明の補助具を用いれば、部位に応じて、適切な刺激を与えることができる。施術者が鍼を刺入れた際に、さらに温熱が必要と考えた部位のみに、補助具1を挿通・配置すればよい。
図5は、施術者が温熱を必要と感じた部位(3’a,3b,3e,3f,3’f)のみに補助具1を挿通配置した状態を示している。
【0045】
所定位置に、補助具1をセットした後、補助具1を配置した部分に赤外線を照射してもよいし、全体に赤外線を照射してもよい。全体に赤外線を照射した場合であっても、補助具を載置した場合では、炭素材料の特性に基づき、単一の使用の場合と同様に、円板からの遠赤外線放射により、載置部分の皮膚表面及び表面近傍に、遠赤外線エネルギーが与えられ、載置部分を流れる血液が温められる。載置部分の血液の流れにより、該当位置の深部が温められる。
【0046】
以上のように、本発明の補助具のセットを用いれば、必要な部位のみに、選択的に温熱療法を行うことができ、しかも補助具を用いた温め効果は、単なる赤外線照射による温熱療法と比べて、血液の流れを介してより深部まで高い温め効果が得られる。よって、1台の小型赤外線照射器で、経絡療法を行うことができるので、設備コスト面から有利である。
【0047】
なお、温熱効果を高めるために、鍼治療とともに又は鍼治療とは別に、炭素板を温めたい部位に載置することがある。ここで用いられる炭素板は、鍼が挿通できる貫通孔が開設されている必要はなく、また、形状も円板に限らず、矩形、多角形、星型、ハート型など種々の形状を選択できる。身体部位に載置して、かかる状態で赤外線を照射すると、炭素板の遠赤外線効果及びこれに伴う血液の温め効果により、載置された部位では、身体の深部まで温めることができる。
このような炭素板を、本発明の補助具を用いた鍼治療と併用してもよい。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
補助具として、人造黒鉛(等方性高密度黒鉛、かさ密度1.75g/cm
3)からなる直径20mm、厚み3mmの中央部に直径4mmの貫通穴を有する円板を用いた。
【0049】
冷え性の治療パネラー3人について、上記補助具を用いて、冷え性治療としての鍼治療を以下のようにして行った。患部(中かん、関元)に寸六の六番鍼(長さ48mm、鍼体の直径0.26mm)を刺した後、上記鍼治療補助具である炭素製円板を、鍼に挿通して、患部に載置した。かかる状態で、遠赤外線治療器(株式会社ワコー製の遠赤外線照射器)により、患部の上方15cmから、赤外線を照射した。15分間照射した後、鍼を抜き、次いで補助具を取り去った。
パネラー全員が、補助具を用いないで赤外線照射を併用した鍼治療と比べて、被施術箇所の奥まで温かい感じが持続したとの回答であった。
【0050】
〔その他の実施例〕
実施例1で用いた補助具と同じ人造黒鉛からなる、サイズの異なる下記4種類の円板(補助具)を作製した。それぞれについて、上記と同様にして鍼治療を行ったところ、パネラー全員が、補助具を用いないで赤外線照射を併用した鍼治療と比べて、被施術箇所の奥まで温かい感じが持続したとの回答であった。また、2人のパネラーが、分厚い炭素板の方が、温かいと感じるとの回答であった。
【0051】
i)直径20mmで厚み2mmの円板の中央部に直径4mmの貫通孔が開設された円板
ii)直径20mmで厚み5mmの円板の中央部に直径4mmの貫通孔が開設された円板
iii)直径40mmで厚み3mmの円板の中央部に直径4mmの貫通孔が開設された円板
iv)直径40mmで厚み5mmの円板の中央部に直径4mmの貫通孔が開設された円板
【0052】
〔治療補助具による施術部位の温度上昇効果の確認〕
(1)治療例1:合谷部
左右の手の甲(合谷部)における鍼灸治療に対する治療補助具の効果について測定した。
施術箇所である、左右の手の甲(合谷部)の表面温度を、サーモグラフィカメラ(フリアーシステムズジャパン株式会社製、型番TG165)を用いて、放射率0.95に設定して測定したところ、いずれも34.5℃であった。
左右の合谷部に寸六の6番鍼を刺した後、左手の合谷部に対してだけ、補助具である炭素製円板(直径20mm、厚み5mmの中央部に直径4mmの貫通穴を有する円板)2枚を、鍼に挿通し、載置した。かかる状態で、左右の患部に対して、遠赤外線治療器(株式会社ワコー製の遠赤外線照射器)により、患部の上方15cmから、赤外線を照射した。15分間照射した後、鍼を抜き、次いで補助具を取り去り、左右の手の患部の表面温度を上記サーモグラフィーを用いて測定した。測定の開始は、赤外線照射後20秒後であった。測定開始から、1分毎に10分間、表面温度を測定した結果を
図6に示す。
【0053】
図6において、縦軸は施術部位の表面温度(℃)、横軸は測定開始時を0分としたときの経過時間(分)を示す。実線は左手(補助具使用)の温度、点線は右手(補助具なし)の温度である。患部表面に直接赤外線が照射された右手は、照射直後の温度は左手よりも1℃高かった。補助具を用いた方が発汗が多くなり、熱を奪われたためと思われる(パネラーは、左手の方が施術中、手汗が多かったと答えている)。しかしながら、温度の下降度合いが、補助具を使用した方が緩やかなため、1分後には、補助具あり(左手)の場合と補助具なし(右手)の場合とで同程度となり、それ以降は、左手の方が高温状態が続いた。
この温度測定結果から、補助具を用いた鍼灸治療の方が、患部がより温められたというパネラーの意見(補助具を用いた鍼灸治療効果)を確認できた。
【0054】
(2)治療例2:太衝部及び足三里部
左右の足の太衝部及び足三里部おける鍼灸治療に対する治療補助具の効果について測定した。
施術前の太衝部の表面温度を、治療例1と同様に測定したところ、左右ともに24.7℃であった。また、施術前の足三里部の表面温度は、左足が26.7℃、右足が26.5℃であった。
左右の足の患部に寸三の3番鍼(長さ39mm、直径0.2mm)を刺した後、右足の患部に対してだけ、補助具である炭素製円板(直径40mm、厚み5mmの中央部に直径4mmの貫通穴を有する円板)1枚を、鍼に挿通して、載置した。かかる状態で、左右の施術部に対して、治療例1と同様に、遠赤外線治療器を用いて、施術部の上方15cmから、赤外線を照射した。15分間照射した後、鍼を抜き、次いで補助具を取り去り、左右の手の患部の表面温度を上記サーモグラフィーを用いて測定した。測定の開始は、赤外線照射後20秒後であった。温度変化の測定結果を
図7(太衝部)及び
図8(足三里部)に示す。
【0055】
図7及び
図8からわかるように、いずれの患部においても、補助具を用いた方が、温度の下降度合いが小さく、10分後には、約1℃(太衝部)ないしは2℃(足三里部)、補助具を用いた治療の方が高かった。補助具の併用により赤外線照射による温め効果の持続時間を延長できることがわかった。