特許第6867691号(P6867691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867691
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】階段のノンスリップ材
(51)【国際特許分類】
   E04F 11/17 20060101AFI20210426BHJP
   E04F 11/16 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   E04F11/17 100D
   E04F11/17 100P
   E04F11/17 100R
   E04F11/16 502J
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-36461(P2018-36461)
(22)【出願日】2018年3月1日
(65)【公開番号】特開2019-151989(P2019-151989A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】595111594
【氏名又は名称】株式会社アシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】島村 昌達
(72)【発明者】
【氏名】河野 聖典
(72)【発明者】
【氏名】白川 敦
(72)【発明者】
【氏名】福島 正俊
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和幸
(72)【発明者】
【氏名】廣重 順一
(72)【発明者】
【氏名】赤松 憲
(72)【発明者】
【氏名】菅原 高仁
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−081925(JP,A)
【文献】 特開2002−339535(JP,A)
【文献】 特開平09−189111(JP,A)
【文献】 特開平09−184266(JP,A)
【文献】 特開2017−089298(JP,A)
【文献】 実開昭54−050424(JP,U)
【文献】 実公昭35−029443(JP,Y1)
【文献】 実開昭51−016417(JP,U)
【文献】 特公昭50−016903(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/00−11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
段板(3)の前側上方に位置するコーナー部に切り欠き形成された取付部(4)に装着されるノンスリップ材(1)であって、
取付部(4)の上向きの取付面(5)に受け止められるベース主壁(12)を有し、当該取付面(5)に固定される左右長尺のベース部材(10)と、
接合構造を介してベース部材(10)に係合装着される左右長尺の樹脂製のキャップ部材(11)とからなり、
キャップ部材(11)は、ベース主壁(12)の上面を覆うカバー壁(20)と、ベース主壁(12)の前面を覆う前縦壁(21)とを有し、
前縦壁(21)の下半部(28)に後方に向って凹入して形成された凹入部(30)が左右方向の全長に亘って形成されるとともに、前縦壁(21)の上半部(29)が前方に向って片持ち状に張り出し形成されており、前縦壁(21)の上半部(29)が下方に向って弾性変形可能に構成されており、
接合構造を介してキャップ部材(11)をベース部材(10)に係合装着したとき、キャップ部材(11)の前縦壁(21)の下半部(28)の下端の高さ位置は、ベース部材(10)のベース主壁(12)の下端の高さ位置と一致しており、しかも接合構造を介してキャップ部材(11)をベース部材(10)に係合装着したとき、前縦壁(21)の上半部(29)が、ベース主壁(12)の下端よりも上方に位置するように構成されていることを特徴とする階段のノンスリップ材。
【請求項2】
前縦壁(21)の上半部(29)の突端と前縦壁(21)の最下端とで規定される前縦壁(21)の張り出し寸法(d1)が、2mm〜6mmに規定されている、請求項1記載の階段のノンスリップ材。
【請求項3】
キャップ部材(11)が、接合構造を構成する係合レール(22)を有する第1樹脂部(25)と、該第1樹脂部(25)よりも軟質の樹脂からなる第2樹脂部(26)とを有し、
少なくとも前縦壁(21)の上半部(29)が第2樹脂部(26)で構成されている、請求項1又は2記載の階段のノンスリップ材。
【請求項4】
キャップ部材(11)の前縦壁(21)が、縦断側面視で前方に向って半円弧状に膨出形成された上半部(29)と、後方に向って四分円弧状に陥没形成された凹入部(30)を有する下半部(28)とで構成されている、請求項1乃至3のいずれかひとつに記載の階段のノンスリップ材。
【請求項5】
キャップ部材(11)の前縦壁(21)が、縦断側面視で上下方向に伸びる上ストレート面(40)を有する上半部(29)と、該上ストレート面(40)よりも後方側に位置して上下方向に伸びる下ストレート面(41)を有する下半部(28)とを有する段付状に形成されており、
上ストレート面(40)と下ストレート面(41)との間に凹入部(30)が形成されている、請求項1乃至3のいずれかひとつに記載の階段のノンスリップ材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段を構成する段板の先端に取り付けられる滑り防止用のノンスリップ材に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係るノンスリップ材は、段板の前側上方に位置するコーナー部に切り欠き形成された取付部の取付面に固定されるベース部材と、このベース部材を覆うキャップ部材とを備えるとともに、階段の段鼻となる位置に衝撃吸収用の緩衝要素を備えるが、上記構成を備えるノンスリップ材は、例えば特許文献1、2に公知である。特許文献1のノンスリップ材(段鼻部)を構成するベース部材は、段板(踏み板)の前側端部に位置する角部と、固定具により切欠き部に固定される溝部とを有する。角部は、表層部と、内部に4つの中空孔部を形成する略十字状の芯部とを有している。角部は、昇降時に歩行者が躓いたときに弾性変形して衝撃を吸収することで、歩行者の安全性を確保し得る緩衝要素として機能する。
【0003】
特許文献2のベース部材(すべり止め本体)は、帯状の平板状基部と、平板状基部の前端に形成されて下方へ垂下する前端部とを備える。平板状基部の前端には、内部に中空を有して斜め上方に突出する弧状の緩衝部が形成されている。かかる緩衝部の働きは、特許文献1の角部と同様であり、緩衝部が弾性変形して衝撃を吸収することで、歩行者の安全性を確保する緩衝要素として機能している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−91916号公報
【特許文献2】特開昭53−82026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に示すノンスリップ材では、階段の段鼻部に位置された中空状の緩衝要素が弾性変形することで衝撃を吸収する構成となっており、当該緩衝要素が良好な衝撃吸収力を発揮するためには、緩衝要素の上下方向の厚み寸法を大きくして、緩衝要素の変形可能幅を十分に大きく採ることが必要となる。このため特許文献1、2の構成では、ノンスリップ材の全体の上下方向の厚み寸法が大きくなることが避けられず、ノンスリップ材の薄肉化やコンパクト化に限界がある。また、特許文献1、2の構成では、段板に切り欠き形成される取付部の上下方向の凹み寸法が大きくなること、すなわちノンスリップ材の設置スペースが大きくなる不利もある。以上より特許文献1、2の構成では、段板の取付部やノンスリップ材が大型化して、これらが目立つことが避けられず、ノンスリップ材が装着される階段の外観上の印象を簡素ですっきりとしたものとすることは困難であり、階段のデザイン性が低下するという不都合があった。
【0006】
また、従来のノンスリップ材においては、ノンスリップ材の寸法公差、取付部の加工公差、及び当該取付部に対するノンスリップ材の取付位置の影響については全く考慮されていない。このため、上記の寸法公差等の影響により、段板に装着されたノンスリップ材の取付位置を均一に揃えることができないと、完成された階段のデザイン性や見栄えが悪くなる不利も生じていた。
【0007】
本発明は、以上のような従来のノンスリップ材の抱える問題を解決するためになされたものであり、緩衝要素の薄肉化やコンパクト化を図りながらも、当該緩衝要素が良好な衝撃吸収作用を発揮するとともに、ノンスリップ材の寸法公差等の影響を最小限化して、完成された階段のデザイン性や見栄えが損なわれることのないノンスリップ材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、段板3の前側上方に位置するコーナー部に切り欠き形成された取付部4に装着されるノンスリップ材1を対象とする。このノンスリップ材1は、取付部4の上向きの取付面5に受け止められるベース主壁12を有し、当該取付面5に固定される左右長尺のベース部材10と、接合構造を介してベース部材10に係合装着される左右長尺の樹脂製のキャップ部材11とからなる。キャップ部材11は、ベース主壁12の上面を覆うカバー壁20と、ベース主壁12の前面を覆う前縦壁21とを有する。そして、前縦壁21の下半部28に後方に向って凹入して形成された凹入部30が左右方向の全長に亘って形成されるとともに、前縦壁21の上半部29が前方に向って片持ち状に張り出し形成されており、前縦壁21の上半部29が下方に向って弾性変形可能に構成されている。接合構造を介してキャップ部材11をベース部材10に係合装着したとき、キャップ部材11の前縦壁21の下半部28の下端の高さ位置は、ベース部材10のベース主壁12の下端の高さ位置と一致しており、しかも接合構造を介してキャップ部材11をベース部材10に係合装着したとき、前縦壁21の上半部29が、ベース主壁12の下端よりも上方に位置するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
前縦壁21の上半部29の突端と前縦壁21の最下端とで規定される前縦壁21の張り出し寸法(d1)は、2mm〜6mmに規定されていることが望ましい。
【0010】
キャップ部材11は、接合構造を構成する係合レール22を有する第1樹脂部25と、該第1樹脂部25よりも軟質の樹脂からなる第2樹脂部26とを有するものとして、少なくとも前縦壁21の上半部29が第2樹脂部26で構成されている形態を採ることができる。
【0011】
具体的には、キャップ部材11の前縦壁21は、縦断側面視で前方に向って半円弧状に膨出形成された上半部29と、後方に向って四分円弧状に陥没形成された凹入部30を有する下半部28とで構成することができる。
【0012】
キャップ部材11の前縦壁21が、縦断側面視で上下方向に伸びる上ストレート面40を有する上半部29と、該上ストレート面40よりも後方側に位置して上下方向に伸びる下ストレート面41を有する下半部28とを有する段付状に形成して、上ストレート面40と下ストレート面41との間に凹入部30を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るノンスリップ材1では、前縦壁21の下半部28に後方に向って凹入して形成された凹入部30を左右方向の全長に亘って形成するとともに、前縦壁21の上半部29を前方に向って片持ち状に張り出し形成した。これによれば、前縦壁21の上半部29を裏打ち状に補強・支持されていないものとして、当該上半部29の全体が下方に向って容易に弾性変形するように構成できる。以上より、本発明によれば、ノンスリップ材1の全体の厚み寸法や、段板3の段鼻部に位置する前縦壁21の厚み寸法を過剰に大きくすることなく、ノンスリップ材1や前縦壁21のコンパクト化や薄肉化を図りながら、ノンスリップ材1に良好な衝撃吸収作用を付与することができる。また、本発明のノンスリップ材1を用いれば、段板3の取付部4の凹み寸法を小さくすることができるので、取付部4を設けた分だけ段板3の板厚寸法が過剰に小さくなって、段板3の強度が不用意に低下して、損壊することを防ぐこともできる。当該効果は、取付部4の下方に蹴込み板が配置されており、段板3の下面に蹴込み板の差込装着を許す溝が刻設されており、当該溝の凹み寸法分だけ段板3の厚み寸法が小さくなる木階段の構成において特に有用である。
【0014】
加えて、本発明に係るノンスリップ材1においては、凹入部30を設けることで、当該凹入部30を区画する下半部28の前端面を段板3の先端のコーナー部(段板3の突端部)の後方に位置させて、これら段板3の先端コーナー部と、前縦壁21の下半部28の前端面との間の前後のバラツキを凹入部30で吸収できる。従って、本発明によれば、取付部4の加工公差やノンスリップ材1の寸法公差に起因して、各段板3に装着されたノンスリップ材1の取付位置にバラツキが生じた場合でも、これを目立たなくして、完成された階段のデザイン性や見栄えが損なわれることを防ぐことができる。なお、凹入部30を設けない場合には、図6(b)(c)に示すように取付位置にバラツキが生じると、前縦壁21の下端部と取付部4の境界との間に段差が生じて、段板3を下方から見たときに、当該段差が目立って不揃いな印象を与えて、デザイン性や見栄えが損なわれるおそれがある。
【0015】
ノンスリップ材1の段板3の突端部からの前方への突出部分に歩行者の足先が接触すると、歩行者が躓くおそれがあるため、安全性の観点からは当該突出部分の突出寸法は可及的に小さいものであることが望ましい。一方、当該突出寸法があまりに小さいと、ノンスリップ材1は変形し難くなり、ノンスリップ材1の衝撃吸収作用が低下するおそれがある。本発明においては、凹入部30を設けた分だけ裏打ち状に補強・支持されていない前縦壁21の上半部29の張り出し寸法(前縦壁21の下半部28からの上半部29の張り出し寸法)を大きくすることができるので、当該上半部29が容易に弾性変形できるようにして衝撃吸収作用の向上を図りながら、凹入部30を設けた分だけ、上半部29の段板3の突端部からの前方への突出寸法を小さくすることができるので、歩行者の足先が上半部29に接触する機会を少なくして安全性の向上を図ることができる。つまり、本発明においては、凹入部30を設けることで、安全性の向上と、衝撃吸収作用の向上という、相反する課題を同時に解決することができる。なお、かかる作用効果は、前縦壁21が前方に張り出された状態で段板3の取付部4に装着されることが予定されるノンスリップ材1の形態(図1図11参照)において顕著となる。
【0016】
前縦壁21の上半部29の突端と前縦壁21の最下端とで規定される前縦壁21の張り出し寸法(d1)は、2mm〜6mm(2mm以上、6mm以下)に規定することが望ましい。前縦壁21の張り出し寸法(d1)が上記範囲内であると、前縦壁21のコンパクト化を図りながら、前縦壁21の上半部29に良好な衝撃吸収作用を付与できる。これに対して張り出し寸法(d1)が2mm未満であると、張り出し幅が少なく、衝撃吸収作用が低下するおそれがある。先に述べたような、凹入部30を設けたことに伴う、取付位置のバラツキの吸収作用が良好に発揮されず、不揃いな印象を与えて、階段のデザイン性や見栄えが低下するおそれもある。張り出し寸法(d1)が6mmを超えると、上半部29の復元力が低下するため、衝撃緩衝作用が不良となるおそれがある。取付部4への取付位置によっては、躓きの原因となり、安全性の低下を招来するおそれもある。
【0017】
キャップ部材11が、接合構造を構成する係合レール22を有する第1樹脂部25と、該第1樹脂部25よりも軟質の樹脂からなる第2樹脂部26とを有するものとして、少なくとも前縦壁21の上半部29が第2樹脂部26で構成されていると、前縦壁21の下半部28に凹入部30が形成されていることと相俟って、上半部29に良好な衝撃吸収作用を付与することができる。
【0018】
キャップ部材11の前縦壁21が縦断側面視で前方に向って半円弧状に膨出形成された上半部29と、後方に向って四分円弧状に陥没形成された凹入部30を有する下半部28とで構成されていると、自然で優しい印象をノンスリップ材1、およびこれが適用される階段に付与することができる。段板3の突端部に対してより大きく前縦壁21の上半部29を突出させることができるので、より衝撃吸収作用に優れたノンスリップ材1を得ることができる。
【0019】
キャップ部材11の前縦壁21が、縦断側面視で上下方向に伸びる上ストレート面40を有する上半部29と、該上ストレート面40よりも後方側に位置して上下方向に伸びる下ストレート面41を有する下半部28とを有する段付状に形成すると、上半部29をストレート面とすることで、シンプル且つ洗練された印象をノンスリップ材1、およびこれが適用される階段に付与することができる。特に、ノンスリップ材1の前縦壁21の先端面と、段板3の先端面とを面一とすることができれば、より洗練された印象を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1に係る階段のノンスリップ材を示す縦断側面図である。
図2】本発明のノンスリップ材が適用された階段を示す図である。
図3】本発明の実施例1に係るノンスリップ材の分解断面図である。
図4】本発明の実施例1に係るノンスリップ材の分解斜視図である。
図5】本発明の実施例1に係るノンスリップ材の六面図である。
図6】(a)〜(c)は凹入部を形成しなかったときの問題点を説明するための縦断側面図である。
図7】本発明の実施例1に係るノンスリップ材の装着部への装着例を示す縦断側面図である。
図8】本発明の実施例2に係る階段のノンスリップ材を示す縦断側面図である。
図9】本発明の実施例2に係るノンスリップ材の分解斜視図である。
図10】本発明の実施例2に係るノンスリップ材の六面図である。
図11】本発明の実施例3に係る階段のノンスリップ材を示す縦断側面図である。
図12】本発明の実施例4に係る階段のノンスリップ材を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施例1) 図1図5、及び図7に、本発明に係る階段のノンスリップ材の実施例1を示す。本発明における前後、左右、上下とは、図1図3、及び図4に示す交差矢印と、交差矢印の近傍の前後・左右・上下の表記に従う。図2において、ノンスリップ材1が適用される階段は、左右一対のささら桁2・2と、これらささら桁2・2の間に所定の高さ間隔を置いて架設された複数個の段板3とで構成される。図1図3、及び図4に示すように、段板3は、所定の厚み寸法を有する板材からなり、その前側上方に位置するコーナー部には、ノンスリップ材1を装着するための取付部4が切り欠き形成されている。取付部4は、段板3の幅方向(左右方向)に長く形成された凹部であり、上向きに指向する取付面5と、後端部に形成されて前方に指向する縦壁面6と、左右の両端部に形成されて左右の内方向に指向する側壁面7・7とを有している(図4参照)。
【0022】
取付部4に装着されるノンスリップ材1は、ベース部材10と、ベース部材10に係合装着されるキャップ部材11とで構成される。ベース部材10は、取付面5に受け止められる平板状のベース主壁12と、ベース主壁12の前後端から上向きに突出する前後一対の係止壁13・13とを有する縦断側面視でコ字形に形成された左右長尺の金属成形品(条材)であり、上方開口を有している。図3、及び図4に示すように、ベース部材10の上面の前後方向の中央部には厚肉部15が突設されており、この厚肉部15の上面には、ビス16の位置合わせ用の溝17が左右方向に刻設されている。ビス16はセルフドリリングビスであり、複数本のビス16を厚肉部15の上方から等間隔位置にねじ込み、ベース主壁12と取付面5とを締結することで、ベース部材10は取付部4に固定されている。各係止壁13の上端には、左右方向の全長に亘ってリブ18が内向きに突設されている。
【0023】
キャップ部材11は、ベース主壁12の上面を覆うカバー壁20と、ベース主壁12の前面を覆う前縦壁21とを有する左右長尺の樹脂成形品である。カバー壁20の下面の前後二箇所には、ベース部材10の係止壁13・13と係合する係合レール22・22が突設されている。各係合レール22の上端には、左右方向に長いリブ23が外向きに突設されている。
【0024】
ベース部材10に対してキャップ部材11は、これを上方から押し付けることで装着することができる。具体的には、ビス16により取付面5に固定されたベース部材10に対して、当該ベース部材10の上方開口を覆うようにキャップ部材11のカバー壁20を位置合わせしたのち、キャップ部材11をベース部材10に押し付ける。これにてキャップ部材11の係合レール22・22を互いに接近するように弾性変形させながら、当該係合レール22・22をベース部材10の係止壁13・13の内面に沿わせて圧入することができる。このように係合レール22・22を圧入した状態では、係止壁13・13のリブ18と、係合レール22・22のリブ23とが互いに凹凸係合するので、不用意に抜け外れないようにベース部材10にキャップ部材11を嵌合装着することができる。かかる嵌合装着状態において、キャップ部材11の上面は、段板3の上面と面一となる。以上のような係止壁13、係合レール22、リブ18・23により、本発明の接合構造が構成されている。前縦壁21のカバー壁20からの下方への突出寸法は、係合レール22のそれよりも大きく設定されており、上記の嵌合装着状態において、前縦壁21の下端面は取付面5に接して、ベース部材10の係止壁13の前面を覆うようになっている。
【0025】
キャップ部材11は、先の係合レール22を有する硬質樹脂製の第1樹脂部25と、第1樹脂部25の上方に位置する軟質樹脂製の第2樹脂部26とからなり、これら硬度の異なる2種類の樹脂を2色成形により一体に形成して構成されている。図1図3及び図4に示すように、下方側に位置する第1樹脂部25は、カバー壁20の裏面部分と、係合レール22と、前縦壁21の下半部28の後方部分とを備えている。上方側に位置する第2樹脂部26は、カバー壁20の表面部分と、前縦壁21の上半部29と下半部28の前方部分とを備えている。
【0026】
そのうえで本実施例においては、前縦壁21の下半部28に後方に向って凹入して形成された凹入部30が左右方向の全長に亘って形成されるとともに、前縦壁21の上半部29が前方に向って片持ち状に張り出し形成されており、該上半部29が下方に向って弾性変形可能に構成されている点が着目される。詳しくは、図1に示すように、前縦壁21の上半部29の最前端部に対して該前縦壁21の最下端部は、後方寄りに大きく後退しており、前縦壁21の上半部29は前方に向って大きく片持ち状に張り出し形成されるとともに、前縦壁21の下半部28には、後方に向って凹入する凹入部30が形成されている。本実施例では、キャップ部材11の前縦壁21は、縦断側面視で前方に向って半円弧状に膨出形成された上半部29と、後方に向って四分円弧状に陥没形成された凹入部30を有する下半部28とで構成されており、半円弧状に膨出形成された上半部29が下半部28に対して、前方に向って大きく張り出し形成されている。ここでは、前縦壁21の上半部29の突端と前縦壁21の最下端とで規定される前縦壁21の張り出し寸法(d1:図1参照)は2mm〜6mmに規定され、凹入部30の凹み寸法(d2:図1参照)は2mm〜3mmに設定されている(但し、d1>d2)。前縦壁21の上半部29および下半部28の前面側は軟質の第2樹脂部26で構成されており、前縦壁21の内部は硬質の第1樹脂部25で構成されている。
【0027】
このように前縦壁21の下半部28に凹入部30が形成されていると、前縦壁21の上半部29は裏打ち状に補強・支持されておらず、当該上半部29の全体は下方に向って容易に弾性変形することが可能となる。これにて、上半部29を軟質樹脂で形成したことと相俟って、前縦壁21に上方から衝撃が付与されると、上半部29は容易に下方に弾性変形する。従って、前縦壁21は良好な衝撃吸収作用を発揮するものとなる。
【0028】
また、本実施例1のノンスリップ材1によれば、凹入部30を設けた分だけ段板3の突端部からの上半部29の前方への突出寸法を小さくすることできるので、歩行者の足先が上半部29に接触する機会を少なくして安全性の向上を図ることができる。以上より、本実施例1のノンスリップ材1によれば、安全性の向上と、衝撃吸収作用の向上という、相反する課題を同時に解決することができる。前縦壁21の上半部29を、縦断側面視で前方に向って半円弧状に膨出形成させたので、自然で優しい印象を階段に付与することができる。
【0029】
加えて、本実施例に係るノンスリップ材1によれば、凹入部30を設けることで、常に凹入部30を区画する下半部28の前端面を段板3の先端コーナー部の後方に位置させることができるので、これら段板3の先端コーナー部(突端部)と、前縦壁21の下半部28の前端面との間の前後のバラツキを凹入部30により吸収することができる。従って、本実施例によれば、各段板3に装着されたノンスリップ材1の取付位置にバラツキが生じた場合でも、これを目立たなくして、完成された階段のデザイン性が損なわれることを防ぐことができる。
【0030】
より詳しくは、本実施例に係るノンスリップ材1は、前縦壁21の下半部28と上半部29との境界部が取付部4の突端部と一致すること、換言すれば上半部29のみが段板3から突出することを目標として設計されている(図1参照)。一方、一般的にノンスリップ材1の寸法公差や取付部4の加工公差の影響により、ノンスリップ材1や取付部4の前後幅にバラツキが生じることは避けられず、このため、例えば図6(a)に示すように凹入部30を具備しない構成では、上記バラツキの影響により、取付部4の突端部に対して境界部が前後して、前縦壁21の下端部と取付部4の境界との間に段差が生じて(図6(b)(c)参照)、段板3を下方から見たときに、当該段差が目だって不揃いな印象を与えて、階段の見栄えやデザイン性が悪くなるおそれがある。段板3の先端に位置する取付面5の表面が見える場合(図6(c))や、当該取付面5の表面が見えない場合(図6(a)(b))があり、この点でも不揃いな印象を与えて、階段の見栄えやデザイン性が悪くなるおそれがある。作業者の熟練度により、取付部4に対するノンスリップ材1の取付位置にバラツキが生じたときも同様であり、先の図6(b)(c)に示すような段差が生じて、不揃いな印象を与えて、階段の見栄えやデザイン性が悪くなるおそれがある。左右方向の不陸(左右方向のノンスリップ材1の取付位置のズレ)や、ビス止めの拙さによりベース部材10が浮き上がり、ノンスリップ材1の取付位置にバラツキが生じた場合でも、先の図6(b)(c)に示すような段差が生じて、不揃いな印象を与えて、階段の見栄えやデザイン性が悪くなるおそれがある。かかる不都合は、特に本実施例のノンスリップ材1のように、ベース部材10を取付部4に固定した後に前縦壁21を有するキャップ部材11を装着する構成が採られており、換言すれば、ノンスリップ材1の取付位置を決定するベース部材10に前縦壁21が設けられておらず、ベース部材10の固定作業時に前縦壁21の位置合わせを行うことが不可能な形態において顕著となる。
【0031】
これに対して凹入部30を具備する本実施例のノンスリップ材1では、上記の寸法公差等の影響によりノンスリップ材1の取付位置が前後した場合でも、当該凹入部30の凹み寸法の範囲であれば、前縦壁21の下半部28の前端面が、段板3の突端部から突出することを確実に防ぐことができる。従って、寸法誤差等に起因してノンスリップ材1の取付位置にバラツキが生じた場合でも、これを凹入部30で吸収して目立たなくすることができるので、不揃いな印象を与えたり、階段の統一性やデザイン性が損なわれることを防ぐことができる。経年劣化により段板3に反り、歪み、収縮等の変形が生じた場合でも、予め凹入部30を設けておくことにより、変形により生じたノンスリップ材1の前縦壁21と取付部4との間に生じる隙間を目立たなくできる利点もある。以上より、本実施例1のノンスリップ材1の凹入部30は、寸法誤差等のバラツキ調整を行う目地としての機能を発揮する。
【0032】
なお、図1には、実施例1に係るノンスリップ材1の理想的な装着位置を示したが、実施例1に係るノンスリップ材1の取付部4に対する装着位置は図1に示した位置に限られず、例えば図7に示すように、段板3の突端部と前縦壁21の最下端の前面とが一致するように、ノンスリップ材1を装着することも可能である。
【0033】
(実施例2) 図8〜10に、本発明に係る階段のノンスリップ材の実施例2を示す。この実施例2のノンスリップ材1では、キャップ部材11の前縦壁21が、縦断側面視で上下方向に伸びる上ストレート面40を有する上半部29と、該上ストレート面40よりも後方側に位置して上下方向に伸びる下ストレート面41を有する下半部28とを有する段付状に形成されており、これら上ストレート面40と下ストレート面41との間に凹入部30が形成されている点が先の実施例1と相違する。また、この実施例2のノンスリップ材1では、上ストレート面40が取付部4の先端と一致しており、換言すれば、ノンスリップ材1の前縦壁21の先端面と、段板3の先端面とが面一となることを目標として設計されている点が先の実施例1と相違する。他は実施例1と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。以下の実施例においても同様である。
【0034】
この実施例2では、キャップ部材11の前縦壁21を上下方向に伸びる上ストレート面40としたので、シンプル且つ洗練された印象を階段に付与することができる。特に、ノンスリップ材1の前縦壁21の先端面と、段板3の先端面とを面一とすることができれば、より洗練された印象を階段に付与することができる。なお、前縦壁21の下半部28に凹入部30が形成されているため、前縦壁21が良好な衝撃吸収作用を発揮する点、各段板3に装着されたノンスリップ材1の取付位置にバラツキが生じた場合でも、これを目立たなくして、完成された階段のデザイン性が損なわれることを防ぐことができる点などは、先の実施例1のノンスリップ材1と同様である。
【0035】
(実施例3) 図11に、本発明に係る階段のノンスリップ材の実施例3を示す。この実施例3のノンスリップ材1では、キャップ部材11の下方側に位置する第1樹脂部25が、カバー壁20の裏面部分と、係合レール22と、前縦壁21の下半部28とを備えており、キャップ部材11の上方側に位置する第2樹脂部26が、カバー壁20の表面部分と、前縦壁21の上半部29とを備えている点が、先の実施例1と相違する。また、この実施例3のノンスリップ材1では、前縦壁21の上半部29と下半部28とを異なる色で着色して、各段板3に凹入部30を規定する下半部28の前端面を左右方向に伸びる直線模様として現出させている。これによれば、階段を昇る歩行者に対して、当該直線模様を視認させることができるので、階段の全体に優れた装飾性・デザイン性を付与することができる。また、歩行者に対してより洗練されたシャープな印象を付与することができる。
【0036】
(実施例4) 図12に、本発明に係る階段のノンスリップ材の実施例4を示す。この実施例4のノンスリップ材1では、キャップ部材11の下方側に位置する第1樹脂部25が、カバー壁20の裏面部分と、係合レール22と、前縦壁21の下半部28とを備えており、キャップ部材11の上方側に位置する第2樹脂部26が、カバー壁20の表面部分と、前縦壁21の上半部29とを備えている点が、先の実施例2と相違する。また、この実施例4のノンスリップ材1では、前縦壁21の上半部29と下半部28とを異なる色で着色して、各段板3に凹入部30を規定する下半部28の前端面を左右方向に伸びる直線模様として現出させている。
【0037】
上記実施例以外に、ベース部材10とキャップ部材11とを接合するための接合構造は、係止壁13と係合レール22とに限られず、要はベース部材10に対してキャップ部材11が遊動不能に固定できればよい。ベース部材10の取付部4への固定方法はビス16により固定する形態に限られない。キャップ部材11の上面には滑り止め用の溝を刻設することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ノンスリップ材
3 段板
4 取付部
5 取付面
10 ベース部材
11 キャップ部材
12 ベース主壁
20 カバー壁
21 前縦壁
22 係合レール
25 第1樹脂部
26 第2樹脂部
28 前縦壁の下半部
29 前縦壁の上半部
30 凹入部
40 上ストレート面
41 下ストレート面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12