【実施例】
【0043】
3.実施例
3−1.実施例1(間葉系幹細胞の初代培養)
はじめに、脂肪組織由来間葉系幹細胞を準備した。具体的には、脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた再生医療を受ける予定の患者より、皮下脂肪組織を分取した。当該皮下脂肪組織は、投与用細胞の調製に必要な原料となる。当該皮下脂肪組織を分取した後の剰余を、初代培養に供した。なお、予め、患者から研究利用に関する同意を取得しておいた。
【0044】
皮下脂肪組織を遠心分離(400×gで5分間)に供し、3層に分離した。具体的には、上層から順に脂質画分、脂肪組織画分、及び水性画分の3層に分離した。中層の脂肪組織画分を残して、上層と下層を破棄した。残した脂肪組織画分に対して、組織重量当たり4倍量の0.15%コラゲナーゼ酵素溶液を添加した。37℃で1時間浸透させ、酵素処理を行った。脂肪組織が酵素処理によって分散された後、当該脂肪組織を、遠心分離(400×gで5分間)に供した。間葉系幹細胞を含む間質血管細胞画分として、沈殿画分を30mLのPBS(−)溶液で懸濁した。その後、セルストレーナー(メッシュサイズ70μm径)に懸濁液を通液し、セルストレーナーに捕捉された組織残渣等は破棄した。そして、通液画分を再度遠心分離(400×gで5分間)に供し、沈殿画分を6mLの無血清培養液sf−DOT(バイオミメティクスシンパシーズ社)で懸濁した。細胞懸濁液全量を、T25フラスコ(CellBIND;Corning,3289)に播種し、インキュベータ内(37℃,5%CO
2)に静置して初代培養を開始した。
【0045】
3−2.実施例2(継代培養、P0⇒P1⇒P2)
3日に1回の頻度で培地全交換を実施した。上澄みは破棄して、フラスコ底面上で増殖する細胞を選択的に増殖させた。セミコンフルエントまで増殖したT−25フラスコ内の細胞に対して、2mLの酵素溶液(TrypLE Express;Thermo Fisher Scientific,12604021)を添加し、細胞をフラスコの底面から剥離した(37℃、5分間静置)。細胞をPBS(−)で希釈し、遠心分離(400×gで5分間)に供した。沈殿した細胞を培養液sf−DOTで懸濁し、一部を分取してトリパンブルー染色法による細胞数計測を行った。新たなT75フラスコ(CellBIND;Corning,3290)にsf−DOTで懸濁した細胞を播種し、インキュベータ内(37℃,5%CO
2)に静置して継代培養を行った(P0→P1)。その後も同様の手順で継代培養を行い、必要な細胞数を得た(P1→P2)。
【0046】
3−3.実施例3(培養上清の調製)
まず脂肪組織由来間葉系幹細胞を上述の通りsf−DOTで培養した。同培地で脂肪組織由来間葉系幹細胞をT75フラスコ1枚当たり3000cells/cm
2で播種した。セミコンフルエントに到達した3日目に、PBS(−)で一回洗浄した。その後、培養上清用に、以下の2つの培地を用意した。
(i) 基本培地(DMEM/F12;SIGMA,D8900)、
(ii)基本培地(DMEM/F12;SIGMA,D8900)+低分子量ヒアルロン酸HA4(100μg/ml 添加)
【0047】
これら(i)及び(ii)の培地で更に3日間培養し、各々の上清を回収した。回収した培養上清は0.2μmのPESシリンジフィルター(25mm GD/Xシリンジフィルター(PES 0.2μm滅菌済);6896−2502;GEヘルスケア・ジャパン)でろ過した。ろ過後の培養上清は、解析に使用するまで−28℃で冷凍保管した。
【0048】
上記で得られた培養上清を使用して、以下の3種類の培養上清を調製した。
CM1: 上記(i)に由来する培養上清
H−CM:上記(ii)に由来する培養上清
CM2: 上記(i)に由来する培養上清に、低分子量ヒアルロン酸HA4(100μg/ml)を添加した物
【0049】
3−4.実施例4(培養上清を用いた皮膚線維芽細胞の処理)
正常ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblast(NHDF);Takara,C−12302)を準備した。当該細胞は、Fibroblast medium(Sciencell,2301)で継代及び維持した。NHDFを12 well plate(Corning,3336)の各ウェルに3000cells/cm
2で播種し、一晩培養した。
【0050】
3−5.実施例5(培養上清を用いた表皮角化細胞の処理)
正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocyte(NHEK);Takara,C−12006)を準備した。当該細胞は、Keratinocyte−SFM(ThermoFisher Scientific,17005042)で継代及び維持した。NHEKを12 well plate(Corning,3336)の各ウェルに10000cells/cm
2で播種し、一晩培養した。
【0051】
翌日(播種後16〜24時間)、各種上清(CM1、CM2、H−CM)に培地交換し、さらに3日間培養した(約72時間)。培養後、ReliaPrep RNA Miniprep system(Promega,Z6012)を用いてNHDF及びNHEKからTotal RNAを抽出した。抽出後、500ngのRNAを用いてcDNA合成(PrimeScript RT Master Mix;Takara,RR036A)を行い、更に、定量的PCR(Thunderbird Sybr qPCR Mix;TOYOBO,QPS−201X5)を行った。
【0052】
cDNA合成のためのミクスチャは以下の組成に従って調製した。
5xPrimeScript RT Master Mix 2μl(最終濃度 1 x)
Total RNA 500ng
RNase free H
2O 合計10μlに調整
【0053】
上記ミクスチャを、Applied Biosystems社のVeriti 96 well Thermal Cyclerを用いて、以下の条件で処理した。
37℃ 15分
↓
85℃ 5秒
↓
4℃ ∞
【0054】
合成したcDNA(10μl)は90μlのTE(10mM Tris−HCl pH8.0+1mM EDTA pH8.0)を用いて10倍に希釈した。当該希釈物を、定量PCRに供した。
【0055】
3−6.実施例6(皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞の遺伝子の発現の解析)
より具体的には、当該希釈物を、以下の条件で混合した。
2×THUNDERBIRD Probe qPCR Mix 10μl
5mM Forward Primer 0.4μl
5mM Reverse Primer 0.4μl
H
2O 8.2μl
cDNA(10倍希釈) 1μl
【0056】
上記混合物を、Bio−Rad社のCFX−Connectを用いて、cDNAを増幅させた。PCRサイクルの条件は以下の通りであった。
1.95℃ 1分 (初期変性)
2.95℃ 15秒 (変性)
3.60℃ 30秒 (伸長)
(2〜3のステップを40回繰り返し、ステップ3が終わるたびに蛍光シグナルを検出)
4.65℃〜95℃まで0.5℃刻みで温度を上昇させ、5秒ずつ温度を保持してから蛍光シグナルを検出
【0057】
上記サイクルにて、PCR産物の検出を行い、併せて、Melting curveによるPCR産物の単一性の確認を行った。
【0058】
内部標準(すべての細胞・条件において同じ発現をしているハウスキーピング遺伝子)として、GAPDH(
Glycer
aldehyde 3−
phosphate
de
hydrogenase)を用いた。
各遺伝子を検出するためのプライマー配列は以下の通りであった。
GAPDH Forward primer: 5’ - agccacatcgctcagacac - 3’
GAPDH Reverse primer: 5’ - gcctaatacgaccaaatcc - 3’
Col3A1 Forward primer: 5’ - ctggaccccagggtcttc - 3’
Col3A1 Reverse primer: 5’ - gaccatctgatccagggtttc - 3’
Meprin-α Forward primer: 5’ - gcaccacaactcacactctttt - 3’
Meprin-α Reverse primer: 5’ - ttccacagatgtttgccttc - 3’
Elastin Forward primer: 5’ - ggaggtgttcccggagtc - 3’
Elastin Reverse primer: 5’ - ggtccccactccgtacttg - 3’
p16
INK4a Forward primer: 5’ - gtggacctggctgaggag - 3’
p16
INK4a Reverse primer: 5’ - ctttcaatcggggatgtctg - 3’
HAS1 Forward Primer: 5’ - acgtgcggatccttaaccc - 3’
HAS1 Reverse Primer: 3’ - aggcctagaggaccgctgat - 3’
【0059】
全てのプライマーは株式会社ファスマックから購入した(逆相カラム精製グレード)。
各遺伝子の発現量は、定量PCRで得られた各遺伝子の発現量を、さらにGAPDHの発現量で割って標準化したものを示している。さらに、上清を処理していないコントロール条件での発現量を「1」になるように標準化している。以上のプライマーを用いて増幅したPCR産物は全て単一のものであること(つまり、同一のプライマーで、複数種類の配列が増幅されていないこと)をMelting curveによって確認した。
【0060】
結果を
図1及び
図2に示す。H−CMで処理した皮膚線維芽細胞においては、検証した遺伝子の発現量は、良好な方向に変化していることが確認された。即ち、増加することが望ましいと考えられる遺伝子(Col3A1、Meprin−α、Elastin)の発現量は増加した。一方で、減少することが望ましいと考えられる遺伝子(p16
INK4a)の発現量は減少した。また、H−CMで処理した表皮角化細胞においても、検証した遺伝子の発現量(具体的には、HAS1の発現量)は、良好な方向に変化していることが確認された。
【0061】
特筆すべき点として、こうしたH−CM処理による遺伝子の発現量の変化は、CM2処理による遺伝子の発現量の変化よりも顕著であった。上述したように、CM2は、脂肪組織由来間葉系幹細胞を培地で処理した後からHA4を培地に添加した条件である。一方で、H−CMは、脂肪組織由来間葉系幹細胞を培地で処理する前にHA4を培地に添加した条件である。
【0062】
従って、脂肪組織由来間葉系幹細胞がHA4の刺激を受けて、何かしらの有用な物質を、細胞外に分泌したものと考えられる。そして、その有用な物質の存在により、皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞の遺伝子の発現量を、良好に変化させたものと考えられる。
【0063】
皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞は、皮膚組織に存在する細胞である。従って、こうした遺伝子の発現量の変化は、皮膚の健康状態に良好な影響を及ぼすと考えられる。
【0064】
また、H−CMとCM2の条件の違い及びもたらす結果の違いを考えると、H−CMで処理した細胞を、例えば、皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞のいずれか1つと共培養した場合であっても、同様の効果が得られることが推認される。従って、H−CMの条件で処理した場合には、培養上清だけでなく、培養後の細胞自体も、皮膚の健康状態にとって良好な影響を及ぼすことが推認される。こうした点を検証すべく、次に示すように、実施例7の実験を行った。
【0065】
3−7.実施例7(皮膚線維芽細胞と間葉系幹細胞の共培養)
実施例1〜2と同じ手順にて、脂肪組織由来間葉系幹細胞を準備した。脂肪組織由来間葉系幹細胞をT75フラスコ1枚当たり3000cells/cm
2で播種した。セミコンフルエントに到達した3日目に、PBS(−)で一回洗浄した。その後、培養上清用に、以下の2つの培地を用意した。
(i) 基本培地(DMEM/F12;SIGMA,D8900)、
(ii)基本培地(DMEM/F12;SIGMA,D8900)+低分子量ヒアルロン酸HA4(100μg/ml 添加)
【0066】
これら(i)及び(ii)の培地で更に3日間培養し、各々の細胞を回収した(それぞれを、MSC、及びMSC−H)。
【0067】
上記と並行して、正常ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblast(NHDF);Takara,C−12302)を準備した。当該細胞は、Fibroblast medium(Sciencell,2301)で継代及び維持した。NHDFを6 well plate(CellBIND;Corning,3335)の各ウェルに100,000個の細胞を播種した。そこに、トランスウェル(6 well plate用24mmインサート,0.4μm poreサイズ;Corning,3412)を載せた。トランスウェル内にもFibroblast medium(Sciencell,2301)を適量注ぎ、さらにそこに何も細胞を播種しないコントロール(NHDFのみ)、MSCを播種(NHDF−MSC)、及びMSC−Hを播種した(NHDF−MSC−H)ものを用意した。播種したMSC及びMSC−Hの数はともに100,000個である。尚、用いたトランスウェルはあらかじめPLL(Poly−L−Lysine;Cultrex,3438−100−01)でコーティングすることで、間葉系幹細胞がトランスウェルに張り付くことを可能にしている。コーティングは一晩かけて37℃で行った。そして余分なPLLは滅菌水で洗浄・除去した。
【0068】
脂肪組織由来間葉系幹細胞と正常ヒト皮膚線維芽細胞を3日間共培養した。正常ヒト皮膚線維芽細胞を下側に配置し、脂肪組織由来間葉系幹細胞を上側に配置した。そして、トランスウェルには0.4μmの、細胞より遥かに小さな穴が多数存在しているため、トランスウェル上部の脂肪組織由来間葉系幹細胞が下部に移動し、直接正常ヒト皮膚線維芽細胞と接触して効果を発揮するというより、0.4μmの小さな穴を介して、脂肪組織由来間葉系幹細胞の分泌物が、正常ヒト皮膚線維芽細胞に作用できるようにした。
【0069】
その後、正常ヒト皮膚線維芽細胞のRNAを回収し、上記実施例6と同様の手法で、発現量を確認した。結果を、
図3に示す。MSCとの共培養、及びMSC−Hとの共培養の結果を比較すると、MSC−Hとの共培養の結果の方が、遺伝子の発現に関して良好な方向に変化していることが確認された。即ち、正常ヒト皮膚線維芽細胞において増加することが望ましいと考えられる遺伝子(Col3A1、Elastin)の発現量は増加した。一方で、減少することが望ましいと考えられる遺伝子(p16
INK4a)の発現量は減少した。こうした結果から、培養上清だけでなく、幹細胞自体も、皮膚の健康状態にとって良好な影響を及ぼすことが示された。
【0070】
以上、具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。