【文献】
井上和久 ほか,微粉砕高炉スラグを用いた混合セメントの水和特性,セメント・コンクリート論文集,1993年,No.47,p.124-129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
セメントの一部をフライアッシュで置換してなるフライアッシュ混合セメントは、水酸化カルシウムとフライアッシュのポゾラン反応により、安定なケイ酸カルシウム水和物等の化合物を生成して緻密な組織を形成する。そのため、フライアッシュ混合セメントは、水密性、化学抵抗性、及び、長期強度発現性に優れている。
また、ポゾラン反応による発熱量は、ポルトランドセメントの水和による発熱量に比べて少ないため、フライアッシュ混合セメントの水和熱は、ポルトランドセメントの水和熱よりも少なくなる。また、フライアッシュは、それ自体、球状の微粒子であるから、ボールベアリング作用により、コンクリート等の流動性を向上させることができ、それゆえ、コンクリート等の製造における単位水量を少なくすることができ、フライアッシュ混合セメントを用いた硬化体の乾燥収縮を小さくすることができる。
さらに、フライアッシュ混合セメントは、セメント製造時のCO
2排出量や、原料である石灰石や化石燃料などの天然資源の使用量を少なくすることができる点や、副産物であるフライアッシュを有効活用できる点などで、環境負荷の低減効果を有している。
【0003】
フライアッシュ混合セメントはこのように多くの長所を有するが、一般社団法人セメント協会のホームページによると、2014年度のフライアッシュ混合セメントの生産高は74千t/年である。該生産高は、セメントの総生産高(56,700千t/年)の0.13%に過ぎない。このようにフライアッシュ混合セメントが普及しない理由として、例えば、初期の強度発現性が低いため、所定の強度を得るまでに長期の養生を要する点等が挙げられる。
【0004】
かかるフライアッシュ混合セメントの強度発現性を向上させるための方法として、燃料となる石炭の性状や火力発電所の運転状態により品質が変動するフライアッシュの中から、好ましい品質を有するフライアッシュを評価して選別することなどが提案されている。
例えば、特許文献1では、石炭灰を大量に含む、強度発現性の良好なモルタルやコンクリート組成物のセメント/石炭灰比(質量比)は、石炭灰の20%のスラリー液のpHが11.0以上の場合に、0.5以上、該pHが9.0以上、11.0未満の場合に、0.7以上、該pHが6.0以上、9.0未満の場合に、1.0以上に定めている。
また、特許文献2には、安定的に良好な強度発現性を有するセメントの製造に適したフライアッシュは、リートベルト解析法で求められる格子定数が0.4935nm以下であるα−石英を含み、BET比表面積が5.0m
2/g以下であるものと記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のセメント組成物は、鉄率(I.M.)が1.88〜2.00である普通ポルトランドセメントクリンカー粉末と、石膏と、ブレーン比表面積が5,000cm
2/gを超える石灰石粉末と、フライアッシュ、を含むセメント組成物であって、上記普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量と、上記石膏の量(SO
3換算)の合計100質量%中の、石膏の量(SO
3換算)の割合が、1.0〜3.0質量%であり、上記普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量、上記石膏の量(SO
3換算)、上記石灰石粉末の量、及び上記フライアッシュの量の合計100質量%中、石灰石粉末の割合が1.0〜10.0質量%、フライアッシュの割合が10質量%を超え、40質量%以下であるものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
1.セメント組成物の構成材料
(1)普通ポルトランドセメントクリンカー粉末
本発明で使用する普通ポルトランドセメントクリンカー粉末(以下、単に「セメントクリンカー」ともいう。)の鉄率(I.M.)は、1.88〜2.00、好ましくは1.90〜1.99、より好ましくは1.91〜1.98である。鉄率が1.88未満であると、セメント組成物の強度発現性が低下し、該セメント組成物からなる硬化体の乾燥収縮が大きくなる。鉄率が2.00を超えると、セメント組成物の流動性が低下する。
【0012】
セメントクリンカーの水硬率(H.M.)は、セメントクリンカーの製造の容易性や、セメント組成物の流動性及び強度発現性の観点から、好ましくは2.00〜2.20、より好ましくは2.02〜2.18、特に好ましくは2.05〜2.15である。
セメントクリンカーのケイ酸率(S.M.)は、セメントクリンカーの製造の容易性や、セメント組成物の流動性及び強度発現性の観点から、好ましくは2.40を超え、2.60以下、より好ましくは2.44〜2.58、特に好ましくは2.48〜2.55である。
【0013】
セメントクリンカーの、ボーグ式を用いて算出した3CaO・SiO
2(エーライト;以下、「C
3S」)ともいう。)の含有率は、セメント組成物の流動性、強度発現性の向上、及び、該セメント組成物からなる硬化体の乾燥収縮の低減の観点から、好ましくは53.0〜58.0質量%、より好ましくは53.5〜57.5質量%、特に好ましくは54.0〜57.0質量%である。
また、セメントクリンカーの、ボーグ式を用いて算出した2CaO・SiO
2(ビーライト;以下、「C
2S」ともいう。)の含有率は、セメント組成物の流動性、強度発現性の向上、及び、該セメント組成物からなる硬化体の乾燥収縮の低減の観点から、好ましくは20.0〜24.0質量%、より好ましくは20.5〜23.5質量%、特に好ましくは21.0〜23.0質量%である。
また、セメントクリンカーの、ボーグ式を用いて算出した3CaO・Al
2O
3(アルミネート相;以下、「C
3A」ともいう。)の含有率は、好ましくは8.5〜10.0質量%、より好ましくは8.7〜9.8質量%、特に好ましくは8.8〜9.4質量%である。
さらに、セメントクリンカーの、ボーグ式を用いて算出した4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3(フェライト相;以下、「C
4AF」ともいう。)の含有率は、好ましくは9.5〜11.5質量%、より好ましくは9.7〜11.0質量%、特に好ましくは10.0〜10.8質量%である。
【0014】
また、セメントクリンカーの、ボーグ式を用いて算出したC
3SとC
2Sの質量比(C
3S/C
2S)は、好ましくは4.0以下、より好ましくは2.0〜3.0、特に好ましくは2.1〜2.9である。該比が4.0以下であれば、セメントクリンカーの製造の容易性がより向上し、セメント組成物の強度発現性がより向上する。
【0015】
なお、本明細書中、セメントクリンカー中のC
3S、C
2S、C
3A、C
4AFの各含有率は、セメントクリンカー全量(100質量%)中の割合として、セメントクリンカー原料やセメントクリンカ(焼成物)の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出される。
C
3S(質量%)=(4.07×CaO(質量%))−(7.60×SiO
2(質量%))−(6.72×Al
2O
3(質量%))−(1.43×Fe
2O
3(質量%))
C
2S(質量%)=(2.87×SiO
2(質量%))−(0.754×C
3S(質量%))
C
3A(質量%)=(2.65×Al
2O
3(質量%))−(1.69×Fe
2O
3(質量%))
C
4AF(質量%)=3.04×Fe
2O
3(質量%)
【0016】
セメントクリンカーのフリーライムの含有率は、0.8質量%以下、好ましくは0.05〜0.7質量%、より好ましくは0.1〜0.6質量%である。該含有率が0.8質量%以下であると、セメント組成物の強度発現性がより向上する。
【0017】
セメントクリンカーの原料としては、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料や、珪石、粘土等のSiO
2原料や、粘土等のAl
2O
3原料や、鉄滓、鉄ケーキ等のFe
2O
3原料等を使用することができる。
なお、本発明においては、セメントクリンカーの原料として、前記原料に加えて、産業廃棄物、一般廃棄物及び発生土から選ばれる一種以上を使用することができる。セメントクリンカーの原料として、産業廃棄物、一般廃棄物及び発生土から選ばれる一種以上を使用することは、廃棄物の有効利用を促進させる観点から好ましい。
ここで、産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄物(ただし、後述する「発生土」を除く。)をいう。産業廃棄物としては、例えば、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、製鉄汚泥等)、建設廃材、コンクリート廃材、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰等が挙げられる。
一般廃棄物とは、産業廃棄物以外の廃棄物(ただし、後述する「発生土」を除く。)をいう。一般廃棄物としては、例えば、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。
発生土とは、建設工事に伴い副次的に発生する土砂(例えば、地盤の掘削により生じるボーリング廃土)や汚泥(建設汚泥;例えば、地盤改良工事で生じる、セメントミルクと掘削土の混合物)をいう。
【0018】
本発明で使用する普通ポルトランドセメントクリンカーは、上述した原料を、所望の水硬率、ケイ酸率、鉄率となるように混合した後、好ましくは1,350〜1,550℃(より好ましくは1,400〜1,500℃)で焼成することで製造される。
各原料を混合する方法は、特に限定されるものではなく、慣用の混合装置等を用いて行えばよい。
また、焼成に使用する装置も、特に限定されるものではなく、例えば、ロータリーキルン等を用いればよい。なお、ロータリーキルンを用いて焼成する場合、燃料代替廃棄物(例えば、廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等)を使用することができる。
【0019】
焼成によって得られた普通ポルトランドセメントクリンカー(塊状物)を、ボールミル等の慣用の粉砕装置を用いて粉砕することで、普通ポルトランドセメントクリンカー粉末(粉砕物)を得ることができる。該粉末のブレーン比表面積は、セメント組成物の流動性、及び強度発現性、さらには粉砕のコスト低減の観点から、好ましくは2,500〜3,400cm
2/g、より好ましくは2,600〜3,300cm
2/g、特に好ましくは2,700〜3,200cm
2/gである。
【0020】
(2)石膏
本発明で使用する石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏、および無水石膏等が挙げられる。石膏は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、セメント組成物の流動性および強度発現性の観点から、二水石膏と半水石膏の混合物を用いることが好ましい。二水石膏と半水石膏の合計100質量%中の半水石膏の割合は、セメント組成物の流動性および強度発現性の観点から、SO
3換算で、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは20〜90質量%、特に好ましくは30〜85質量%である。
また、石膏のブレーン比表面積は、セメント組成物の流動性及び強度発現性の観点から、好ましくは5,000〜15,000cm
2/g、より好ましくは6,000〜14,000cm
2/gである。
【0021】
(3)石灰石粉末
本発明で使用する石灰石粉末のブレーン比表面積は、5,000cm
2/gを超えるも
のであり、好ましくは5,200〜15,000cm
2/g、より好ましくは5,400
〜14,000cm
2/g、さらに好ましくは5,500〜13,000cm
2/g、特に好ましくは5,700〜12,000cm
2/gである。ブレーン比表面積が5,000cm
2/g以下であると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
【0022】
(4)フライアッシュ
本発明で使用するフライアッシュのブレーン比表面積は、セメント組成物の流動性及び強度発現性の観点から、好ましくは2,500〜6,000cm
2/g、より好ましくは2,700〜5,500cm
2/g、特に好ましくは3,000〜5,000cm
2/gである。
また、フライアッシュの単位質量中の、Na
2O、K
2O、MgO、SO
3、TiO
2、P
2O
5、及びMnOの各々の質量は、下記式(1)を満たすものが好ましい。
(Na
2O+0.658×K
2O)/(MgO+SO
3+TiO
2+P
2O
5+MnO)=0.10〜1.50 ・・・(1)
上記式(1)から導き出される質量比は、好ましくは0.10〜1.50、より好ましくは0.20〜1.00、さらに好ましくは0.25〜0.80、さらに好ましくは0.28〜0.70、特に好ましくは0.30〜0.60である。該質量比が上記数値範囲内であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。また、該質量比が1.50以下であればセメント組成物からなる硬化体の乾燥収縮をより小さくすることができる。
【0023】
フライアッシュ中の石英の、リートベルト解析法を用いて得られた格子体積の値は、セメント組成物の強度発現性の向上、および、該セメント組成物からなる硬化体の乾燥収縮の低減の観点から、好ましくは113.5〜114.5Å
3、より好ましくは113.6〜114.4Å
3、特に好ましくは113.7〜114.3Å
3である。
なお、フライアッシュは、通常、石英を5〜25質量%の割合で含むものである。
フライアッシュ中の石英の、リートベルト解析法を用いて得られた格子体積の値は、該フライアッシュのX線回析図に基づき、例えば、Bruker社製の解析ソフト(商品名:「TOPAS ver2.1」)、及び、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のPDFデータベースから得られる結晶構造データ(データベースの検索に用いられるICDD nunmber:331161(Quartz))を用いて得ることができる。
【0024】
2.セメント組成物の組成(構成材料の配合)及び製造方法
(1)各材料の割合
本発明のセメント組成物において、普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量と、石膏の量(SO
3換算)の合計100質量%中の、石膏の量(SO
3換算)の割合は、1.0〜3.0質量%、好ましくは1.1〜2.5質量%、より好ましくは1.2〜2.2質量%である。該割合が1.0質量%未満であると、セメント組成物の流動性が低下する。該割合が3.0質量%を超えると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
また、普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量と、石膏の量(SO
3換算)の合計100質量%中の、全SO
3量の割合は、セメント組成物の流動性及び強度発現性の観点から、好ましくは1.5〜3.5質量%、より好ましくは1.7〜3.0質量%である。
【0025】
本発明のセメント組成物において、普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量、石膏の量(SO
3換算)、石灰石粉末の量、及びフライアッシュの量の合計100質量%中、石灰石粉末の割合は、1.0〜10.0質量%、好ましくは2.0〜9.0質量%、より好ましくは3.0〜8.0質量%である。該割合が上記数値範囲内であると、セメント組成物の強度発現性が向上する。
【0026】
本発明のセメント組成物において、普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量、石膏の量(SO
3換算)、石灰石粉末の量、及びフライアッシュの量の合計100質量%中、フライアッシュの割合は、10質量%を超え、40質量%以下、好ましくは13〜35質量%、より好ましくは15〜32質量%である。該割合が10質量%以下であると、セメント組成物の流動性が低下し、該セメント組成物からなる硬化体の乾燥収縮が大きくなる。また、フライアッシュの有効活用を促進する観点から好ましくない。該割合が40質量%を超えると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
【0027】
本発明のセメント組成物は、上述した普通ポルトランドセメントクリンカー粉末、石膏、石灰石粉末、及びフライアッシュの他に、必要に応じて、高炉スラグ粉末と珪石粉末の少なくとも1種を、セメントクリンカー100質量部に対して、5.5質量部以下の量で含んでいてもよい。
【0028】
(2)セメント組成物の製造方法
本発明のセメント組成物の製造方法としては、例えば、以下の(a)〜(b)の方法が挙げられる。
(a)普通ポルトランドセメントクリンカーと石膏を同時に粉砕し、次いで、石灰石粉末(ブレーン比表面積が5,000cm
2/gを超えるもの)とフライアッシュを添加して混合する方法
該方法において、普通ポルトランドセメントクリンカーと石膏の粉砕は、粉砕物のブレーン比表面積が、好ましくは3,000〜3,400cm
2/g、より好ましくは3,100〜3,350cm
2/gとなるまで行うことが好ましい。
(b)普通ポルトランドセメントクリンカーと石膏と石灰石を同時に粉砕し、次いで、フライアッシュを添加して混合する方法
該方法において、普通ポルトランドセメントクリンカーと石膏と石灰石の粉砕は、粉砕物のブレーン比表面積が、好ましくは3,000〜3,400cm
2/g、より好ましくは3,100〜3,350cm
2/gとなるまで行うことが好ましい。なお、該粉砕によって、粉砕物に含まれる石灰石粉末のブレーン比表面積は、5,000cm
2/gを超えるものとなる。
【0029】
本発明のセメント組成物は、水、及び、必要に応じて配合される他の材料(例えば、細骨材、粗骨材、減水剤等)と混合されることによって、ペースト、モルタル、又はコンクリートとして使用される。
減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、又はポリカルボン酸系等の、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、又は高性能AE減水剤を使用することができる。
本発明のセメント組成物を、モルタル又はコンクリートとして使用する場合には、骨材として、モルタルやコンクリートの製造に使用される通常の細骨材(例えば、川砂、陸砂、砕砂等)や粗骨材(例えば、川砂利、山砂利、砕石等)を使用することができる。また、骨材の一部または全部として、溶融スラグ(例えば、都市ゴミ、都市ゴミ焼却灰、及び下水汚泥焼却灰から選ばれる一種以上を溶融して製造されたもの)、高炉スラグ、製鋼スラグ、銅スラグ、碍子屑、ガラスカレット、陶磁器廃材、クリンカーアッシュ、廃レンガ、コンクリート廃材等の廃棄物を使用することもできる。
なお、必要に応じて、本発明の目的に支障のない範囲内で、空気連行剤、消泡剤等の混和剤を使用してもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[普通ポルトランドセメントクリンカーA〜Eの製造]
下水汚泥、石炭灰、発生土等と、石灰石等の一般的なポルトランドセメントクリンカーの原料を用いて、得られる普通ポルトランドセメントクリンカー(A〜E)の水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、及び鉄率(I.M.)が、表1に示す値となるように、セメント組成物の原料を調製した。調製した原料を、ロータリーキルンを用いて、1,450℃で焼成して、塊状物である普通ポルトランドセメントクリンカーA〜Eを得た。
【0031】
【表1】
【0032】
普通ポルトランドセメントクリンカーA〜Eの製造で使用した材料以外の使用材料を以下に示す。
(1)石灰石:粒径30mm程度
(2)二水石膏:排脱二水石膏(粒径0.01〜2mm程度)
(3)細骨材:「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に定める標準砂
(4)減水剤:ポリカルボン酸系高性能AE減水剤、BASFジャパン製、商品名「マスターグレニウムSP8N」
(5)消泡剤:非イオン界面活性剤、日華化学社製、商品名「フォームレックス747」
(6)フライアッシュA〜C:表2に示すもの
(7)水:水道水
【0033】
【表2】
【0034】
[実施例1〜7、比較例1〜5]
表3に示す種類及び割合の普通ポルトランドセメントクリンカー(表3中、「クリンカー」と示す。)と、排脱二水石膏(表3中、「石膏」と示す。)と、石灰石を実機ボールミル(粉砕能力:130トン/時)に投入した後、これらを同時に粉砕して、粉砕物を得た。なお、普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量と、石膏の量(SO
3換算)の合計100質量%中の全SO
3の割合は、2.2質量%である。また、粉砕物中の二水石膏の量と半水石膏の量の合計100質量%中の半水石膏の割合は、SO
3換算で30〜50質量%であった。
得られた粉砕物に表3に示す種類及び割合のフライアッシュを添加した後、混合して、セメント組成物1〜12を製造した。
なお、表3中、石膏の割合(質量%)は、普通ポルトランドセメントクリンカーの量と、石膏の量(SO
3換算)の合計100質量%中の、石膏の量(SO
3換算)の割合を示す。
また、表3中、フライアッシュ及び石灰石の各割合(質量%)は、普通ポルトランドセメントクリンカーの量、石膏の量(SO
3換算)、石灰石の量、及びフライアッシュの量の合計100質量%中、フライアッシュの割合、及び、石灰石の割合を示す。
さらに、セメント組成物1〜12の製造における、フライアッシュを添加する前の粉砕物のブレーン比表面積を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
[比較例6]
普通ポルトランドセメントクリンカーEと排脱二水石膏と石灰石を、実機ボールミル(粉砕能力:130トン/時)に投入した後、これらを同時に粉砕して、ブレーン比表面積が3,280cm
2/gであるセメント組成物13を得た。
なお、普通ポルトランドセメントクリンカーEの量と、石膏の量(SO
3換算)と、石灰石の量の合計100質量%中、普通ポルトランドセメントクリンカーE、石膏(SO
3換算)、及び石灰石の割合は、各々、94.9質量%、1.6質量%、及び3.5質量%である。また、普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量と、石膏の量(SO
3換算)の合計100質量%中の全SO
3の割合は、2.2質量%である。さらに、二水石膏の量と半水石膏の量の合計100質量%中の半水石膏の割合は、SO
3換算で48質量%であった。
なお、セメント組成物13は、市販されている普通ポルトランドセメントに相当するものである。
[比較例7]
セメント組成物13とフライアッシュAを混合して、セメント組成物14を製造した。セメント組成物14(100質量%)中、セメント組成物13の割合は85質量%であり、フライアッシュAの割合は15質量%である。
なお、セメント組成物14は、「JIS R 5213 (フライアッシュセメント)」に規定されているフライアッシュセメントB種に相当するものである。
【0037】
セメント組成物1〜9、11〜13において、セメント組成物中の石灰石粉末のブレーン比表面積は、6,000〜8,000cm
2/gであった。
また、セメント組成物1〜13において、セメント組成物中の普通ポルトランドセメントクリンカー粉末(粉砕物)のブレーン比表面積は、2,800〜2,950cm
2/gであった。
さらに、セメント組成物1〜13において、セメント組成物中の石膏のブレーン比表面積は、8,000〜12,000cm
2/gであった。
なお、セメント組成物中の特定の材料(石灰石粉末や石膏)のブレーン比表面積は、セメント組成物を走査電子顕微鏡(SEM)で観察して、セメント組成物中の材料の粒子を特定し、該粒子の平均粒径を求めた後、該平均粒径から推定することができる。
【0038】
セメント組成物1〜14について、以下の評価を行った。
(1)モルタルフローの測定
水とセメント組成物の質量比(水/セメント組成物)が0.3、細骨材とセメント組成物の質量比(細骨材/セメント組成物)が1.4、消泡剤とセメント組成物の質量比(消泡剤/セメント組成物)が0.001、減水剤とセメント組成物の質量比(減水剤/セメント組成物)が0.0065となる量で、セメント組成物等のこれら材料を混合して、モルタルを調製した。これら材料の混練は、ホバートミキサーを用いて、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠(ただし、混練時間は、ここに記載されている時間よりも2分間長いものとした。)して行った。なお、混練に際して、減水剤と消泡剤は水と同時にミキサーに投入した。
得られたモルタルについて、「JIS A 1171(ポリマーセメントモルタルの試験方法)」に記載されたスランプコーンを用いて、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」のフロー試験に準拠して、混練直後のモルタルフロー値を、15回の落下運動を行わないで測定した。
(2)モルタル圧縮強さの測定
「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して、材齢3日、7日、28日の各時点における、モルタル圧縮強さを測定した。
(3)乾燥収縮の測定
「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して、モルタルを調製し、「JIS A 1129−3(モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法−第3部:ダイヤルゲージ法)」に準拠して、材齢182日におけるモルタルの乾燥収縮の値を測定した。
なお、乾燥収縮の絶対値が小さいほど、乾燥収縮の程度が小さいことを意味する。
結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
表4から、本発明のセメント組成物(実施例1〜7)を用いたモルタルは、モルタルフローおよびモルタル圧縮強さが大きく、かつ、乾燥収縮の値の絶対値が小さいことがわかる。以下、詳しく説明する。
具体的には、セメントクリンカーの種類が異なる以外は、実施例1(セメントクリンカーのI.M.:1.93)と同じセメント組成物である比較例1(セメントクリンカーのI.M.:1.82)と、実施例1を比較すると、比較例1のモルタル圧縮強さ(材齢3日:23.8N/mm
2、材齢7日:37.3N/mm
2、材齢28日:56.5N/mm
2)は、実施例1のモルタル圧縮強さ(材齢3日:27.3N/mm
2、材齢7日:43.8N/mm
2、材齢28日:66.0N/mm
2)よりも小さいことがわかる。
また、セメントクリンカーの種類が異なる以外は、実施例1(セメントクリンカーのI.M.:1.93)と同じセメント組成物である比較例2(セメントクリンカーのI.M.:2.10)と、実施例1を比較すると、比較例2のモルタルフロー(240mm)は、実施例1のモルタルフロー(298mm)よりも小さいことがわかる。
【0041】
また、石灰石粉末の割合が異なる以外は、実施例1(石灰石粉末:4.0質量%)と同じセメント組成物である比較例3(石灰石粉末:0質量%)と、実施例1を比較すると、比較例3のモルタル圧縮強さ(材齢28日:50.6/mm
2)は、実施例1のモルタル圧縮強さ(材齢28日:63.0N/mm
2)よりも小さいことがわかる。
また、石灰石粉末の割合が異なる以外は、実施例1(石灰石粉末:4.0質量%)と同じセメント組成物である比較例4(石灰石粉末:14質量%)と、実施例1を比較すると、比較例4のモルタル圧縮強さ(材齢28日:51.8/mm
2)は、実施例1のモルタル圧縮強さ(材齢28日:63.0N/mm
2)よりも小さいことがわかる。
【0042】
また、フライアッシュの割合が異なる以外は、実施例1(フライアッシュ:22質量%)と同じセメント組成物である比較例5(フライアッシュ:50質量%)と、実施例1を比較すると、比較例5のモルタル圧縮強さ(材齢28日:52.2/mm
2)は、実施例1のモルタル圧縮強さ(材齢28日:63.0N/mm
2)よりも小さいことがわかる。
また、フライアッシュを含まず、市販されている普通ポルトランドセメントに相当する比較例6と、実施例1を比較すると、比較例6のモルタルフロー(252mm)は実施例1のモルタルフロー(298mm)よりも小さく、かつ、比較例6の乾燥収縮の値の絶対値(863)は、実施例1の乾燥収縮の値の絶対値(680)よりも大きいことがわかる。