【文献】
横瀬うららほか,角層セラミドによる肌性状の新規指標,日本香粧品学会誌,2015年 9月30日,Vol. 39, No. 3,p. 196
【文献】
手塚正ほか,種々の皮膚疾患の経表皮水分蒸散量(TEWL)の変化,皮膚,1990年 4月,Vol. 31, No. 2,p. 153-156
【文献】
芋川玄爾,皮膚角質細胞間脂質の構造と機能,油化学,1995年,Vol. 44, No. 10,p. 751-766
【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被験体の無疹部の皮膚角質層、又は皮膚疾患を発症していない被験体の健常部の皮膚角質層、の採取物から調製した脂質試料に含まれる、ノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分とノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分とをそれぞれ定量し、
定量したノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分量のノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分量に対する比を算出し、
算出した比から被験体の皮膚疾患についての肌状態を評価する、
皮膚の健康の評価方法。
皮膚の健康として、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の発症の有無、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の発症の可能性、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の予防の状態、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の進行度、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の傾向(素因)の有無、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の治癒状況、又はアトピー性皮膚炎若しくは乾癬に対する治療効果を評価する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
被験体の皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、ノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分、ノンヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド成分、エステル-ω-ヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド成分、及びエステル-ω-ヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aと、ノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分及びα-ヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bとをそれぞれ定量し(ただし、セラミド成分Aとしてノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分を選択し、セラミド成分Bとしてノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分を選択して定量する場合を除く。)、
定量したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を算出し、
算出した比から被験体の皮膚の健康を評価する、
皮膚の健康の評価方法。
皮膚の健康として、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の発症の有無、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の発症の可能性、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の予防の状態、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の進行度、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の傾向(素因)の有無、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の治癒状況、又はアトピー性皮膚炎若しくは乾癬に対する治療効果を評価する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
肌質として、皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、及び皮膚の落屑からなる群より選ばれる少なくとも1つを評価する、請求項9に記載の方法。
前記皮膚の健康は、皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、ノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分、ノンヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド成分、エステル-ω-ヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド成分、及びエステル-ω-ヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aの成分量の、ノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分及びα-ヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bの成分量に対する比の情報と、皮膚の健康の状態との関連づけに基づいて、前記のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比から評価される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
被験体の無疹部の皮膚角質層、又は皮膚疾患を発症していない被験体の健常部の皮膚角質層、の採取物から調製した脂質試料に含まれる、ノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分とノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分とをそれぞれ定量する定量手段と、
定量したノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分量のノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分量に対する比を算出し、算出した比から被験体の皮膚疾患についての状態を評価する、演算手段、
とを備えた、皮膚の健康の評価装置。
皮膚の健康として、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の発症の有無、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の発症の可能性、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の予防の状態、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の進行度、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の傾向(素因)の有無、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の治癒状況、又はアトピー性皮膚炎若しくは乾癬に対する治療効果を評価する、請求項13に記載の装置。
皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、ノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分、ノンヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド成分、エステル-ω-ヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド成分、及びエステル-ω-ヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aと、ノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分及びα-ヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bとをそれぞれ定量する定量手段(ただし、セラミド成分Aとしてノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分を選択し、セラミド成分Bとしてノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分を選択して定量する場合を除く。)と、
定量したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を算出し、算出した比から皮膚の健康を評価する、演算手段、
とを備えた、皮膚の健康の評価装置。
皮膚の健康として、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の発症の有無、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の発症の可能性、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の予防の状態、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の進行度、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の傾向(素因)の有無、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬の治癒状況、又はアトピー性皮膚炎若しくは乾癬に対する治療効果を評価する、請求項15又は16に記載の装置。
肌質として、皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、及び皮膚の落屑からなる群より選ばれる少なくとも1つを評価する、請求項18に記載の装置。
皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、ノンヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分、ノンヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド成分、エステル-ω-ヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド成分、及びエステル-ω-ヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aの成分量の、ノンヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分及びα-ヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bの成分量に対する比の情報と、皮膚の健康の状態とが関連づけられているデータベースを格納し、
前記データベースの関連づけに基づき、前記演算手段が算出したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比から皮膚の健康を評価する、
請求項13〜19のいずれか1項に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における「質量分析」とは、測定対象物質の定量値を絶対値又は相対値で算出し分析することを含む概念である。
【0018】
本発明の第1の実施態様の皮膚の健康の評価方法では、被験体の皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分量のNS成分量に対する比から、被験体の皮膚疾患についての肌状態の評価を行う。
また、本発明の皮膚の健康の評価方法の第2の実施態様では、被験体の皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分、NH成分、EOH成分及びEOP成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aの成分量の、NS成分及びAS成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bの成分量に対する比から、被験体の皮膚の健康(皮膚疾患についての肌状態、肌質など)の評価を行う。ただし、第2の実施態様では、セラミド成分AとしてNP成分を選択し、セラミド成分BとしてNS成分を選択する場合を除く。
また、本明細書において「セラミド成分A」と表記した場合、第1の実施態様ではNP成分を指し、第2の実施態様ではNP成分、NH成分、EOH成分及びEOP成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分を指す。また、「セラミド成分B」と表記した場合、第1の実施態様ではNS成分を指し、第2の実施態様ではNS成分及びAS成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分を指す。
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明の方法を適用することができる被験体としては、ヒト、並びにサル、チンパンジー、犬、猫、牛、豚、ラット、マウス等のヒト以外の哺乳動物が挙げられる。
【0020】
質量分析を行う、被験体の皮膚角質層の採取物由来の脂質試料を調製するためには、生体から採取した皮膚(頭皮も含む)や細胞、再構成した細胞や皮膚組織などを使用することができる。また、皮膚角質層を採取する部位は、適宜選択することができる。
例えば、本発明においては、皮膚の健康を評価する部位と皮膚角質層を採取する部位が同じ部位であることが好ましい。したがって、皮膚の健康を評価したい部位又はその近傍部位から採取した皮膚角質層から脂質試料を調製することが好ましい。
あるいは、皮膚疾患の発症部位(以下、「皮疹部」ともいう)に隣接する無疹部(皮膚疾患の症状が見られない部位)や、皮膚疾患を発症していない被験体の健常部から皮膚角質層を採取することも好ましい。その理由として、皮膚疾患の患者では、皮疹部での皮膚角質層の採取は負荷が大きいためである。さらに、皮疹部以外の一見正常と思われる無疹部に対して、皮膚疾患についての肌状態(発症の有無、発症の可能性、病態の進行度、治癒の程度や治療効果など)が判定できる。また皮膚疾患を発症していない健常者における素因(皮膚疾患の傾向)の解析が、遺伝子解析や血中成分の分析を行わなくても予測でき、健常者において皮膚疾患の発症の可能性や予防の状態が簡便に判断できる。
また、本発明において皮膚の健康として肌質を評価する場合、肌質を評価する部位と皮膚角質層を採取する部位は適宜選択することができるが、顔面の所定の部位であることが好ましく、頬部であることが好ましい。
【0021】
被験体の所定の部位から皮膚角質層を採取する方法は、常法から適宜選択することができる。例えば、接着テープの接着面を所定の部位に貼り付け、その後接着テープを剥離して皮膚角質層を採取する方法(テープストリッピング法)を好ましく採用することができる。好ましい角層の採取条件としては、フィルムマスキングテープ(寺岡製作所製)やPPSテープ(ニチバン製)を使用する場合を例に説明すると、幅2.5cm程度×長さ3〜5cmのテープを皮膚に貼り付け、その後剥離し、角層を採取する。肌の状態に応じて、この操作を同じ部位で1〜10回程度繰り返し、皮膚の深さ方向で角層を採取する。
この場合、皮膚角質層を採取する部位に対して、体毛や毛髪、表面に存在する皮脂成分、夾雑物などを除去するような前処理を施してもよい。
【0022】
テープストリッピング法などにより採取した皮膚角質層の採取物から、セラミドを含む脂質試料を調製する方法としては、例えば、セラミドの溶解性が高く、かつテープなどの他の成分が溶解し難い溶媒を用いて、採取物からセラミドを抽出することが好ましい。このような溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールが挙げられる。
また、Bligh and Dyer法やFolch法等の常法に従い、脂質試料を調製することもできる。さらに固相によりテープの粘着成分や低極性脂質を除去してもよい。例えば固相抽出用のシリカゲルカートリッジとクロロホルム、メタノール等の溶媒を用いて、テープの粘着成分や低極性脂質を除去するのが好ましい。
【0023】
調製した被験体の脂質試料に含まれるセラミド成分A及びセラミド成分Bを定量する方法は常法から適宜選択することができる。例えば、シリカゲルプレートを利用した薄層クロマトグラフィー法、ガスクロマトグラフィーを用いて脂質試料からセラミド成分A及びセラミド成分Bを分離し、分離したセラミド成分A及びセラミド成分Bをイオン化し、質量分析装置でセラミド成分A及びセラミド成分Bを定量するガスクロマトグラフィー−質量分析法、液体クロマトグラフィーを用いて脂質試料からセラミド成分A及びセラミド成分Bを分離し、分離したセラミド成分A及びセラミド成分Bをイオン化し、質量分析装置でセラミド成分A及びセラミド成分Bを定量する液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)法が挙げられる。本発明では、LC−MS法によりセラミド成分A及びセラミド成分Bを定量することが好ましい。
【0024】
セラミド成分A及びセラミド成分Bの定量は、例えば、
図1に示すような解析システム1を用いて行うことができる。しかし本発明は、これに制限するものではない。
図1に示す解析システム1は、液体クロマトグラフ10、イオン化促進液送液装置20、質量分析装置30及び演算装置40から構成されている。
【0025】
液体クロマトグラフ10は、溶離液a、bを送液するグラジエントポンプ11a、11b、脂質試料溶液dを導入するオートインジェクター12、ガードカラム13、及び分離カラム14を備えている。ここで、脂質試料溶液dとしては、皮膚角質層の採取物から調製した試料溶液を使用する。一方、溶離液a、bとしては、セラミド等の脂質分子群を適度に保持してセラミドのクラス別又は分子種別に分離することが可能であり、不揮発性の酸や塩を高濃度に含まないものが好ましい。例えば、揮発性のギ酸やギ酸アンモニウムを少量含む溶液を溶離液a、bとして用いることが好ましい。溶離液a、bの溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、ギ酸、ギ酸アンモニウム及びこれらの混合溶媒が挙げられる。溶離液a、bとして、例えば2種の溶液(溶離液a:ヘキサン/イソプロパノール/ギ酸=95/5/0.1(v/v/v);溶離液b:ヘキサン/イソプロパノール/50mmol/Lのギ酸アンモニウム水溶液=25/65/10(v/v/v))を使用してグラジエントにより溶出するのが好ましい。
【0026】
ガードカラム13は、分離カラム14の保護のために必要に応じて設けられる。ガードカラム13には通常、分離カラム14と同一の充填剤が充填される。
【0027】
ガードカラム13及び分離カラム14の充填剤としては、例えば、シリカゲル、シリカゲルにオクタデシル基を結合させた逆相カラム、ジオール基、CN基、NH
2基などがシリカゲルに結合した高極性カラムを用いることができる。液体クロマトグラフ10を流れる脂質試料溶液の流速を増加させ、セラミド成分Aとセラミド成分Bを迅速に定量する観点から、本発明で用いる充填剤は粒径が3μm以下のシリカゲルであることが好ましい。
液体クロマトグラフ10を流れる脂質試料溶液の流速は、使用する充填剤などに応じて適宜設定することができる。
【0028】
液体クロマトグラフ10を以上のように構成することにより、セラミド成分A及びセラミド成分Bをそれぞれ分離することができる。液体クロマトグラフ10で分離されたセラミド成分A及びセラミド成分Bは、後段のイオン化装置31に導入されるが、その前にイオン化促進液送液装置20に導入されることが好ましい。なお、イオン化促進液送液装置20はイオン化装置31におけるイオン化を促進させるための装置である。
【0029】
イオン化促進液送液装置20は、イオン化促進液cを送液するためのポンプ21と、分離カラム14からの溶離液とイオン化促進液cとを混合するためのコネクター22とを備える。
【0030】
イオン化促進液cは通常、前述のようにヘキサンなどの低極性溶媒を溶離液として用いた場合に、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法では十分なイオン化効率が得られ難いのを改善するために用いられる。イオン化促進液cとしては、溶離液と良好に混合し、溶離液をイオン化させるのに適した表面張力、粘性、イオン生成能、溶媒和力等の性質を有するものを適宜選択する。例えば、ヘキサンを溶離液a、bに用いた場合のイオン化促進液cとしては、イソプロパノール、エタノール、メタノール等の極性溶媒が好ましく使用される。
イオン化促進液cには、正イオンモードで[M+H]
+や[M+H−H
2O]
+が高感度に検出され、負イオンモードで[M−H]
−や[M+HCOO]
−が高感度に検出されるように、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の塩を添加することが好ましい。あるいは、イオン化促進液cには、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の揮発性の酸を添加してもよい。
【0031】
質量分析装置30は、イオン化装置31と質量分離検出装置32から構成されている。質量分析装置30は、コネクター22を介してイオン化促進液cと溶離液a、bとの混合溶液が導入され、セラミドを含む脂質成分をイオン化し、イオン化した脂質成分の質量分析を行う。
【0032】
質量分析装置30に導入されたセラミド成分A及びセラミド成分Bのイオン化は、イオン化装置31で行われる。
イオン化装置31でのイオン化方法は適宜選択することができる。イオン化方法の具体例としては、ESI、大気圧化学イオン化(APCI)法、大気圧光イオン化法、高速原子衝撃法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法が挙げられる。これらのうち、検出感度の点から、ESI法又はAPCI法が好ましい。
【0033】
質量分離検出装置32は、イオン化装置31で生成したイオンをm/z毎に分離し、検出する。質量分離検出装置32としては、四重極(Q)型質量分析計、イオントラップ(IT)型質量分析計、飛行時間(TOF)型質量分析計等の質量分析計、Q-TOF型質量分析計、IT-TOF型質量分析計等のハイブリッド型質量分析計、トリプル四重極型等のタンデム質量分析計(MS/MS)を用いることができる。これらのうち四重極(Q)型質量分析計が好ましい。
【0034】
本発明において、前記液体クロマトグラフ10と質量分析装置30が一体になった市販の液体クロマトグラフ−質量分析装置を使用してもよい。
【0035】
演算装置40は、液体クロマトグラフ10における保持時間と、質量分析装置30で検出されたm/z及びイオン強度を、3軸に展開して多段マスクロマトグラムを形成する演算手段を有する。
前記演算装置40は、図示しないが、セラミド成分A及びセラミド成分Bそれぞれに該当するセラミドについて、分子種毎に保持時間とm/zとを対応させたデータベースにアクセス可能であることが好ましい。また演算装置40は、前記演算手段により形成された多段マスクロマトグラムを入力データとして、入力された多段マスクロマトグラムに含まれるピークの保持時間とm/zに基づいて上記データベースを検索し、各ピークに対応するセラミド分子種を特定する比較演算手段を有していることが好ましい。また演算装置40は、前記演算手段で形成した多段マスクロマトグラム及び/又は前記比較演算手段で特定した各ピークに対応するセラミド分子種を所望の形式で出力し表示する表示手段を有することが好ましい。
【0036】
演算装置40は、演算手段により形成された多段マスクロマトグラムより、セラミド成分Aの成分量及びセラミド成分Bの成分量を測定する。そして演算装置40は、定量したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を算出する。
【0037】
演算装置40は、算出されたセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比の情報に基づき、評価対象となる被験体の皮膚の健康を評価する演算手段を有する。
演算装置40には、皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれるセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比の情報と、皮膚の健康の状態とを関連づけたデータベースが格納されていることが好ましい。そこで、算出したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比から、前記データベースに格納された関連付けに基づいて、評価対象となる被験体の皮膚の健康を評価する。
【0038】
本発明において、皮膚疾患の発症の有無や進行度等に応じて作成した、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比の数値分布を用いて、算出した被験者のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比から、被験体の皮膚の健康を評価することができる。例えば、セラミド成分AとしてNP成分を選択し、セラミド成分BとしてNS成分を選択する場合、評価する皮膚の健康について、被験者の年代別に作成した、NS成分量に対するNP成分量の比(以下、「NP/NS比」ともいう)の数値分布を用いて、被験者が該当する年代別の平均値に対する被験者のNP/NS比の偏差値を算出し、皮膚の健康の状態の良し悪しを示すことができる。あるいは、皮膚の健康状態とNP/NS比とをプロットしたグラフから、皮膚の健康状態を評価するのに適した基準値を決定する。そして、その基準値と被験者のNP/NS比との比較から、皮膚の健康を評価することができる。さらに、算出したNP成分量とNS成分量、並びにNP成分量のNS成分量に対する比から評価した皮膚の健康の状態を視覚化することもできる。例えば、算出したNP量とNS量をクロマトチャートの面積で示し、面積の大小で皮膚の健康の状態を視覚的に示すことができる。
【0039】
セラミド分子は、スフィンゴイド塩基と脂肪酸がアミド結合した構造を有する化合物である。セラミド分子を構成するスフィンゴイド塩基と脂肪酸の種類(具体的には、置換基の有無や不飽和結合の数及び位置など)により、NPやNSなどの多数のセラミド・クラスが存在する。そしてスフィンゴイド塩基と脂肪酸の炭素原子数が異なる多数のセラミド分子が、同一のセラミド・クラスに存在する。
【0040】
前記セラミド成分Aのうち、本明細書における「NP」とは、フィトスフィンゴシンとノンヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。
また本明細書における「NH」とは、6-ヒドロキシスフィンゴシンとノンヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。
また本明細書における「EOH」とは、6-ヒドロキシスフィンゴシンとエステル-ω-ヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。
また本明細書における「EOP」とは、フィトスフィンゴシンとエステル-ω-ヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。
【0041】
ここで、セラミド成分Aを構成するNP成分、NH成分、EOH成分、及びEOP成分の1例の化学構造を下記に示す。しかし本発明はこれらに制限するものではない。
【0043】
「フィトスフィンゴシン」、「スフィンゴシン」及び「6-ヒドロキシスフィンゴシン」は通常、炭素原子数18の構造のアミノアルコールを指す。しかし、本明細書において「フィトスフィンゴシン」、「スフィンゴシン」及び「6-ヒドロキシスフィンゴシン」は、炭素原子数18以外の構造のアミノアルコールも含めた総称とする。
【0044】
本発明において、NPを構成するフィトスフィンゴシンの炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。また、NPを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。NPの具体例としては、N-ヘキサデカノイル-フィトスフィンゴシン(N-hexadecanoyl-phytosphingosine)、N-オクタデカノイル-フィトスフィンゴシン(N-octadecanoyl-phytosphingosine)、N-テトラコサノイル-フィトスフィンゴシン(N-tetracosanoyl-phytosphingosine)などが挙げられる。
【0045】
本発明において、NHを構成する6-ヒドロキシスフィンゴシンの炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。また、NHを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。NHの具体例としては、N-ヘキサデカノイル-6-ヒドロキシスフィンゴシン(N-hexadecanoyl-6-hydroxysphingosine)、N-オクタデカノイル-6-ヒドロキシスフィンゴシン(N-octadecanoyl-6-hydroxysphingosine)、N-テトラコサノイル-6-ヒドロキシスフィンゴシン(N-tetracosanoyl-6-hydroxysphingosine)などが挙げられる。
【0046】
本発明において、EOHを構成する6-ヒドロキシスフィンゴシンの炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。また、EOHを構成するエステル-ω-ヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数に特に制限はなく、30以上が好ましく、40以上がより好ましく、70以下が好ましく、60以下がより好ましい。EOHの具体例としては、リノール酸エステル-ω-ヒドロキシオクタコサノイル-6-ヒドロキシスフィンゴシン(N-(28-((linoleoyl)oxy)octacosanoyl)-6-hydroxysphingosine)、リノール酸エステル-ω-ヒドロキシトリアコンタノイル-6-ヒドロキシスフィンゴシン(N-(30-((linoleoyl)oxy)triacontanoyl)-6-hydroxysphingosine)、リノール酸エステル-ω-ヒドロキシドトリアコンタノイル-6-ヒドロキシスフィンゴシン(N-(32-((linoleoyl)oxy)dotriacontanoyl)-6-hydroxysphingosine)などが挙げられる。
【0047】
本発明において、EOPを構成するフィトスフィンゴシンの炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。また、EOPを構成するエステル-ω-ヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数に特に制限はなく、30以上が好ましく、40以上がより好ましく、70以下が好ましく、60以下がより好ましい。EOPの具体例としては、リノール酸エステル-ω-ヒドロキシオクタコサノイル-フィトスフィンゴシン(N-(28-((linoleoyl)oxy)octacosanoyl)-phytosphingosine)、リノール酸エステル-ω-ヒドロキシトリアコンタノイル-フィトスフィンゴシン(N-(30-((linoleoyl)oxy)triacontanoyl)-phytosphingosine)、リノール酸エステル-ω-ヒドロキシドトリアコンタノイル-フィトスフィンゴシン(N-(32-((linoleoyl)oxy)dotriacontanoyl)-phytosphingosine)などが挙げられる。
【0048】
前記セラミド成分Bのうち、本明細書における「NS」とは、スフィンゴシンとノンヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。
また本明細書における「AS」は、スフィンゴシンとα-ヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。
ここで、セラミド成分Bを構成するNS及びASの1例の化学構造を下記に示す。しかし本発明はこれらに制限するものではない。
【0050】
本発明において、NSを構成するスフィンゴシンの炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。また、NSを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。NSの具体例としては、N-ヘキサデカノイル-スフィンゴシン(N-hexadecanoyl-sphingosine)、N-オクタデカノイル-スフィンゴシン(N-octadecanoyl-sphingosine)、N-テトラコサノイル-スフィンゴシン(N-tetracosanoyl-sphingosine)などが挙げられる。
【0051】
本発明において、ASを構成するスフィンゴシンの炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。また、ASを構成するα-ヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数に特に制限はなく、8以上が好ましく、16以上がより好ましく、44以下が好ましく、36以下がより好ましい。ASの具体例としては、α-ヒドロキシヘキサデカノイル-スフィンゴシン(α-hydroxyhexadecanoyl-sphingosine)、α-ヒドロキシオクタデカノイル-スフィンゴシン(α-hydroxyoctadecanoyl-sphingosine)、α-ヒドロキシテトラコサノイル-スフィンゴシン(α-hydroxytetracosanoyl-sphingosine)などが挙げられる。
【0052】
後述の実施例でも示すように、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比(具体的には、NP成分量のNS成分量に対する比、NH成分量のNS成分量に対する比、EOH成分量のNS成分量に対する比、EOP成分量のNS成分量に対する比、NP成分量のAS成分量に対する比、NH成分量のAS成分量に対する比、EOH成分量のAS成分量に対する比、EOP成分量のAS成分量に対する比)と、皮膚の健康の状態とが互いに高い相関性を有する。したがって、前記方法により定量したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比から、被験体の皮膚の健康を評価することができる。
【0053】
本明細書において「皮膚の健康の評価」とは、皮膚が健康状態にあるか否かを評価すること、具体的には、皮膚疾患についての肌状態を評価することや肌質を評価することを言う。
ここで「皮膚疾患についての肌状態を評価する」とは、皮膚疾患の発症の有無、皮膚疾患の発症の可能性、皮膚疾患の予防の状態、皮膚疾患の進行度、皮膚疾患の傾向(素因)の有無、皮膚疾患の治癒状況、皮膚疾患に対する治療効果等、皮膚疾患に係る肌の状態を評価すること言う。
本発明における「皮膚疾患」としては、皮膚炎等の炎症性の症状、具体的は、掻痒、紅斑、落屑、鱗屑、漿液性丘疹、水疱などの症状が観察される皮膚疾患が挙げられる。その原因としては、刺激性物質やアレルゲンなどの外的因子により発症するものと、アトピー素因などの内的因子により発症するものがある。また、炎症性の症状を伴う皮膚疾患では、角層におけるバリア機能が損なわれている場合が多い。皮膚疾患の具体例としては、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、魚鱗癬、手湿疹、皮脂欠乏性皮膚炎、白色粃糠疹、単純性苔癬などが挙げられる。本発明は、皮膚疾患として、アトピー性皮膚炎及び乾癬についての肌状態の評価に好適に用いることができる。
また「肌質を評価する」とは、肌の外観(明るさ、キメの細やかさ、落屑の有無、落屑の程度など)、敏感肌、乾燥肌、脂性肌、保湿力に劣った肌、バリア機能に劣った肌、ニキビができやすい肌、スケーリングが生じやすい肌、紅斑が生じやすい肌といった頭皮を含む肌の状態等を評価することを言う。具体的には、本発明によれば、皮膚バリア機能(経皮水分蒸散量)、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、皮膚の落屑(落屑の有無又は程度)等の肌質を評価することを包含する。
【0054】
本発明において、皮膚の健康の評価は、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比と、皮膚の健康との関連づけから予め設定した評価基準に基づいて行う。本発明では、被験体の皮膚角層の採取物から調製した脂質試料の測定結果から得られた、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比から、前記評価基準に基づき被験体の皮膚状態を評価する。
【0055】
評価基準は、以下のように設定することができるが、これに制限するものではない。
評価する皮膚の健康を、目視評価や機器分析等の手段により評価する。これとは別途、前述の方法により皮膚角層の採取物から調製した脂質試料中のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比(以下単に、「成分量比」ともいう)を算出する。そして皮膚の健康の評価結果と成分量比の相関性に基づき、皮膚の健康状態を評価するのに適した基準値を決定し、その基準値により評価基準を設定する。評価基準は、皮膚の健康を評価する対象となる被験体や、評価の目的に応じて、人種別毎、性別毎、被験者の年代別毎に設定することが可能である。
【0056】
例えば、皮膚の健康として皮膚疾患についての肌状態を評価する場合、皮膚の健康の評価結果に基づき、皮膚の健康が健常と判断される被験体から構成される健常群と、健常とは判断されない被験体から構成される非健常群(以下、「トラブル群」ともいう)を作成する。評価を行う皮膚状態に応じて、3群以上の群を作成してもよい。皮膚の健康として肌質を評価する場合も同様に、群を作成する。
そして、各群に属する被験体の成分量比の統計解析結果に基づき、各群を特徴づける成分量比の数値範囲を決定する。この数値範囲は、各群の平均値を中心とした上下の一定範囲に設定することにより決定する。ここで「一定範囲」とは、標準偏差(SD)等の統計数値や、1/2SD値、1/3SD値などを用いてもよいし、予め設定した任意の数値を用いてもよい。各群を特徴づける比の数値範囲は、その範囲内に他の群の平均値が含まれないように設定することが好ましい。そして、各群を特徴づける数値範囲の上限又は下限を、評価基準に用いる基準値とする。
【0057】
基準値を用いた評価基準の設定方法は、例えば、健常群の成分量比の平均値が非健常群の成分量比の平均値よりも高い場合、健常群の成分量比の数値範囲の下限又は非健常群の成分量比の数値範囲の上限を基準値とし、算出した成分量比が基準値以上の場合(又は算出した成分量比が基準値より大きい場合)を「健常である」と評価し、算出した成分量比が基準値未満の場合(又は算出した成分量比が基準値以下の場合)を「非健常である(トラブルがある)可能性がある」と評価する評価基準を設定する。
一方、健常群の成分量比の平均値が非健常群の成分量比の平均値よりも低い場合、健常群の成分量比の数値範囲の上限又は非健常群の成分量比の数値範囲の下限を基準値とし、算出した成分量比が基準値未満の場合(又は算出した成分量比が基準値以下の場合)を「健常である」と評価し、算出した成分量比が基準値以上の場合(又は算出した成分量比が基準値より大きい場合)を「非健常である(トラブルがある)可能性がある」と評価する評価基準を設定することができる。複数の基準値を併用して評価基準を設定しても良い。
【0058】
また、皮膚の健康として、皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚の明るさ若しくは皮膚色、皮膚性状などの肌質などを評価する場合、皮膚の健康の評価結果と成分量比とをプロットしたグラフから、評価基準に用いる基準値を決定し、評価基準を設定してもよい。具体的には、プロットしたグラフにおいて、皮膚の健康の指標(TEWL値、Capacitance、L*値、a*値、スコア値など)に基づき、健常群と非健常群(トラブル群)、又はそれ以上の群に分け、それぞれの群のプロットの分布状態から基準値を決定し、その基準値に基づいて肌質などが健常である否かの評価基準を設定することができる。複数の基準値を併用して評価基準を設定しても良い。
【0059】
本発明の皮膚の健康の評価方法の具体的態様として、腕部におけるアトピー性皮膚炎及び乾癬についての肌状態の評価方法について、具体的な基準値を用いた評価基準について説明する。しかし、本発明はこれらに制限するものではない。
なお、本明細書における「セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比」は、(セラミド成分Aの成分量):(セラミド成分Bの成分量)、(セラミド成分Bの成分量):(セラミド成分Aの成分量)、(セラミド成分Aの成分量)/(セラミド成分Bの成分量)、(セラミド成分Bの成分量)/(セラミド成分Aの成分量)、というように具体的に表すことができる。このような表現形式のうち、下記の説明では「(セラミド成分Aの成分量)/(セラミド成分Bの成分量)」の形式で、「セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比」を示す。しかし本発明は、これ以外の形式で「セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比」を表わしてもよい。
また下記の数値範囲はいずれも、質量基準で示している。
【0060】
本発明の第1の実施態様における具体的基準値を用いた評価基準について説明する。
無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が2.7以上であれば健常であり、2.1未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、1.6未満であれば乾癬の可能性がある、と評価することができる。ここでは基準値として、健常群の平均値−SDと非健常群(皮膚疾患群)の皮疹部の平均値+SDを併用した。
【0061】
次に、本発明の第2の実施態様における具体的基準値を用いた評価基準について説明する。
無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が3.2以上であれば健常であり、2.3未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、1.5未満であれば乾癬の可能性がある、と評価することができる。
無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOH/NS比が0.3以上であれば健常であり、0.3未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、0.2未満であれば乾癬の可能性がある、と評価することができる。
無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOP/NS比が0.1以上であれば健常であり、0.1未満であればアトピー性皮膚炎若しくは乾癬の可能性がある、と評価することができる。
無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/AS比が4.5以上であれば健常であり、2.6未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、2.1未満であれば乾癬の可能性がある、と評価することができる。
無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/AS比が4.9以上であれば健常であり、2.8未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、2.0未満であれば乾癬の可能性がある、と評価することができる。
無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOH/AS比が0.5以上であれば健常であり、0.3未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、0.2未満であれば乾癬の可能性がある、と評価することができる。
無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOP/AS比が0.2以上であれば健常であり、0.1未満であればアトピー性皮膚炎若しくは乾癬の可能性がある、と評価することができる。
前記の基準値の具体例のうち、NH/NS比、EOP/NS比、NP/AS比、NH/AS比、EOH/AS比及びEOP/AS比については、基準値として健常群の平均値−SDと非健常群(皮膚疾患群)の皮疹部の平均値+SDを併用し、EOH/NS比については、基準値として非健常群(皮膚疾患群)の皮疹部の平均値+SDを使用した。
【0062】
皮膚の健康のうち、皮膚バリア機能、角層水分量、落屑、キメ、並びに皮膚色若しくは皮膚の明るさ等の肌質について、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比に基づく評価基準について具体例により説明する。しかし、本発明はこれらに制限するものではない。
【0063】
経皮水分蒸散量(TEWL)が20を超える被験者の頬部から採取した脂質試料のNH/NS比は、ほとんどが1.5未満であった。ここで、一般にTEWLが20以下の場合、皮膚バリア機能が正常、又は皮膚バリア機能が平均以上と評価される(Yamashita Y., et al., Skin Pharmacol. Physiol., 2012, vol. 25, p. 78-85;Gae W. N., et al., Journal of Cosmetics, Dermatological Sciences and Applications, 2014, vol. 4, p. 44-52など参照)。よって皮膚バリア機能に関するNH/NS比の基準値を1.5と決定し、皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が1.5以上の場合、「皮膚バリア機能が正常である」又は「皮膚バリア機能が平均以上であり」、1.5未満の場合、「皮膚バリア機能が非正常の可能性がある」、と評価することができる。
皮膚バリア機能に関して、NH/NS比以外のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比についても適宜基準値を決定し、同様に評価することができる。
【0064】
角層水分量(Capacitance)が60を超える被験者の頬部から採取した脂質試料のEOH/NS比はおおよそ0.15以上であった。よって角層水分量に関するEOH/NS比の基準値を0.15と決定し、皮膚角質層由来の脂質試料のEOH/NS比が0.15以上の場合、「角層水分量が多い」又は「角層水分量が平均以上であり」、0.15未満の場合、「角層水分量が少ない可能性がある」、と評価することができる。
角層水分量に関して、EOH/NS比以外のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比についても適宜基準値を決定し、同様に評価することができる。
【0065】
頬部の落屑がみられる被験者の頬部から採取した脂質試料のEOP/NS比は0.05未満であった。よって落屑に関するEOP/NS比の基準値を0.05と決定し、皮膚角質層由来の脂質試料のEOP/NS比が0.05以上の場合、「落屑が全くみられない」又は「かすかに落屑がみられ」、0.05未満の場合、「落屑がみられる可能性がある」、と評価することができる。
落屑に関して、EOP/NS比以外のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比についても適宜基準値を決定し、同様に評価することができる。
【0066】
頬部から採取した脂質試料のNH/NS比が1.6以上である被験者のキメスコアは、ほとんどが2.5以上で肌のキメが整っていた。よって肌のキメに関するNH/NS比の基準値を1.6と決定し、皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が1.6以上の場合、「キメが整っている」又は「キメが細かく」、1.6未満の場合、「キメが乱れている可能性がある」、と評価することができる。
肌のキメに関して、NH/NS比以外のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比についても適宜基準値を決定し、同様に評価することができる。
【0067】
頬部から採取した脂質試料のNP/AS比が2.0以上である被験者のL
*値は、おおよそ65以上であった。ここで、一般にL
*値が65以上の場合、肌色が明るい、又は健康的な肌色と評価される(Caisey L., et al., International Journal of Cosmetic Science, 2006, vol. 28, p. 427-437など参照)。よってL
*値に関するNP/AS比の基準値を2.0と決定し、皮膚角質層由来の脂質試料のNP/AS比が2.0以上の場合、「肌色が明るい」又は「健康的な肌色であり」、2.0未満の場合、「肌色が暗い可能性がある」又は「肌色が健康的ではない可能性がある」、と評価することができる。
L
*値に関して、NP/AS比以外のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比についても適宜基準値を決定し、同様に評価することができる。
【0068】
a*値が14以上である被験者の頬部から採取した脂質試料のNP/AS比はおおよそ2.0未満であった。よって、a
*値に関するNP/AS比の基準値を2.0と決定し、皮膚角質層由来の脂質試料のNP/AS比が2.0以上の場合、「皮膚の赤みが少なく」、2.0未満の場合、「皮膚の赤みが多い可能性がある」、と評価することができる。
a
*値に関して、NP/AS比以外のセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比についても適宜基準値を決定し、同様に評価することができる。
【0069】
後述の実施例で示すように、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比は皮膚疾患や肌質などの皮膚の健康と高い相関性を示す。したがって、皮膚角質層におけるセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比は皮膚の健康を評価するための指標となり、これを測定することにより簡便かつ的確に皮膚の健康を評価することができる。さらに本発明の皮膚の健康の評価方法によれば、皮膚外用剤の塗布試験や、何らかの機能性食品や医薬品、医薬部外品の摂取試験等において、これらの被験物質の塗布又は摂取によって生じる皮膚角質層におけるセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比の変化量を測定することにより、その被験物質の皮膚疾患の予防若しくは改善、肌質の改善に対する有効性を判断することができる。
【0070】
上述のように、本発明の皮膚の健康の評価方法では、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を指標として、被験体の皮膚の健康の評価を行う。そして、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を指標とすることで、アトピー性皮膚炎、乾癬等の皮膚疾患の発症の有無、皮膚疾患の発症の可能性、皮膚疾患の予防の状態、皮膚疾患の進行度、皮膚疾患の傾向(素因)の有無、皮膚疾患の治癒状況、皮膚疾患に対する治療効果などの肌状態や、皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメや落屑の有無などの肌質など、様々な観点から皮膚の健康を的確に評価することができる。
また本発明の皮膚の健康の評価方法ではセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を指標とする。そのため、本発明の皮膚の健康の評価方法では目的の2種のセラミド・クラス(セラミド成分A及びセラミド成分B)の量を定量すれば算出可能であり、脂質試料に含まれるセラミドの分子種の解析や、セラミド総量、及び各セラミド・クラスがセラミド総量に対して占める割合(組成比)などの算出が不要である。さらには、セラミド成分を規格化するための剥離された角質層の面積、角質層の重量、タンパク質量、細胞数等を用いた定量値などの算出も不要である。よって、本発明の皮膚の健康の評価方法によれば、従来の方法と比較して、皮膚の健康の評価をより簡便に行うことができる。
【0071】
本発明の皮膚の健康の評価方法を利用することで、又は皮膚の健康の評価装置を用いて、皮膚疾患の予防又は改善剤や肌質改善剤をスクリーニングすることができる。具体的には、皮膚疾患の予防又は改善剤や肌質改善剤の候補となる物質を含有する皮膚外用剤、化粧品、医薬品、医薬部外品、食品等を被験体の皮膚に適用し又は経口投与し、本発明の方法を実施して、若しくは皮膚の健康の評価装置を用いて、皮膚外用剤、化粧品、医薬品、医薬部外品、食品等の適用又は投与前後での皮膚の健康の変化を確認し、皮膚疾患の予防若しくは改善作用を奏する物質、又は肌質改善作用を奏する物質を皮膚疾患の予防又は改善剤や肌質改善剤として選択することができる。
【0072】
本明細書において「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止若しくは遅延、又は個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。具体的には、健常群の成分量比の平均値が非健常群の成分量比の平均値よりも高い場合、前述の成分量比のうち少なくとも1つの成分量比、好ましくはすべての成分量比を、前述の基準値より大きい状態に維持することを指す。一方、健常群の成分量比の平均値が非健常群の成分量比の平均値よりも小さい場合、前述の成分量比のうち少なくとも1つの成分量比、好ましくはすべての成分量比を、前述の基準値より小さい状態に維持することを指す。
例えば、アトピー性皮膚炎については、無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が2.1以上、NH/NS比が2.3以上、EOH/NS比が0.3以上、EOP/NS比が0.1以上、NP/AS比が2.6以上、NH/AS比が2.8以上、EOH/AS比が0.3以上、及びEOP/AS比が0.1以上の少なくとも1つの数値範囲、好ましくは全ての数値範囲を維持することを好ましく指す。また、乾癬については、無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が1.6以上、NH/NS比が1.5以上、EOH/NS比が0.2以上、EOP/NS比が0.1以上、NP/AS比が2.1以上、NH/AS比が2.0以上、EOH/AS比が0.2以上、及びEOP/AS比が0.1以上の少なくとも1つの数値範囲、好ましくは全ての数値範囲を維持することをいう。
【0073】
また、本明細書において「改善」とは、疾患、症状若しくは肌質状態の好転若しくは緩和、疾患、症状若しくは肌質状態の悪化の防止若しくは遅延、又は疾患、症状若しくは肌質状態の進行の逆転、防止若しくは遅延をいう。具体的には、健常群の成分量比の平均値が非健常群の成分量比の平均値よりも高い場合、前述の成分量比のうち少なくとも1つの成分量比、好ましくはすべての成分量比が、前述の基準値より大きい状態となることを指す。一方、健常群の成分量比の平均値が非健常群の成分量比の平均値よりも小さい場合、前述の成分量比のうち少なくとも1つの成分量比、好ましくはすべての成分量比が、前述の基準値より小さい状態となることを指す。
例えば、アトピー性皮膚炎については、無疹部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が2.1以上、NH/NS比が2.3以上、EOH/NS比が0.3以上、EOP/NS比が0.1以上、NP/AS比が2.6以上、NH/AS比が2.8以上、EOH/AS比が0.3以上、及びEOP/AS比が0.1以上の少なくとも1つの数値範囲、好ましくは全ての数値範囲となることを好ましく指す。また、乾癬については、無疹部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が1.6以上、NH/NS比が1.5以上、EOH/NS比が0.2以上、EOP/NS比が0.1以上、NP/AS比が2.1以上、NH/AS比が2.0以上、EOH/AS比が0.2以上、及びEOP/AS比が0.1以上の少なくとも1つの数値範囲、好ましくは全ての数値範囲となることを好ましく指す。
【0074】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の皮膚の健康の評価方法、皮膚の健康の評価装置、及び皮膚疾患の予防若しくは改善剤のスクリーニング方法を開示する。
【0075】
<1>被験体の皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分とNS成分とをそれぞれ定量し、
定量したNP成分量のNS成分量に対する比を算出し、
算出した比から被験体の皮膚疾患(好ましくはアトピー性皮膚炎又は乾癬)についての肌状態を評価する、
皮膚の健康の評価方法。
<2>被験体の皮膚角質層の採取物から調製した被験体の脂質試料に含まれる、NP成分、NH成分、EOH成分及びEOP成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aと、NS成分及びAS成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bとをそれぞれ定量し(ただし、セラミド成分AとしてNP成分を選択し、セラミド成分BとしてNS成分を選択する場合を除く。)、
定量したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を算出し、
算出した比から被験体の皮膚の健康を評価する、
皮膚の健康の評価方法。
<3>皮膚の健康の評価として、皮膚疾患(好ましくはアトピー性皮膚炎又は乾癬)についての肌状態を評価するために、
被験体の皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分とNS成分とをそれぞれ定量し、
定量したNP成分量のNS成分量に対する比を算出する方法。
<4>皮膚の健康を評価するために、
被験体の皮膚角質層の採取物から調製した被験体の脂質試料に含まれる、NP成分、NH成分、EOH成分及びEOP成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aと、NS成分及びAS成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bとをそれぞれ定量し(ただし、セラミド成分AとしてNP成分を選択し、セラミド成分BとしてNS成分を選択する場合を除く。)、
定量したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を算出する方法。
【0076】
<5>前記脂質試料が、被験体の無疹部、又は皮膚疾患を発症していない被験体の健常部の皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料である、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の方法。
<6>前記皮膚の健康は、皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分、NH成分、EOH成分及びEOP成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aの成分量の、NS成分及びAS成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bの成分量に対する比の情報と、皮膚の健康の状態との関連づけに基づいて、前記の定量したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比から評価される、前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の方法。
<7>前記皮膚の健康が、皮膚疾患(好ましくはアトピー性皮膚炎又は乾癬)、又は肌質(好ましくは皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、並びに皮膚の落屑からなる群より選ばれる少なくとも1つ、より好ましくは皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、並びに皮膚の落屑)に関するものである、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8>前記セラミド成分をそれぞれLC−MS法で定量する、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の方法。
<9>前記LC−MS法において、液体クロマトグラフィーにより前記セラミド成分をそれぞれ分離し、ESI法、APCI法、大気圧光イオン化法、高速原子衝撃法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化法のいずれか、好ましくはESI法、により、分離したセラミド成分をそれぞれイオン化し、イオン化したセラミド成分をそれぞれ質量分離検出装置で定量する、前記<8>項に記載の方法。
<10>ヒト又はヒト以外の哺乳動物の皮膚の健康を評価する、前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の方法。
<11>皮膚角質層をテープストリッピング法により採取し、採取した皮膚角質層から脂質試料を調製する、前記<1>〜<10>のいずれか1項に記載の方法。
<12>テープストリッピング法により採取した皮膚角質層をメタノールに浸漬し、超音波処理して脂質試料を調製する、前記<11>項に記載の方法。
【0077】
<13>皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分とNS成分とをそれぞれ定量する定量手段と、
定量したNP成分量のNS成分量に対する比を算出し、算出した比から被験体の皮膚疾患(好ましくはアトピー性皮膚炎又は乾癬)についての肌状態を評価する、演算手段、
とを備えた、皮膚の健康の評価装置。
<14>皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分、NH成分、EOH成分及びEOP成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aと、NS成分及びAS成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bとをそれぞれ定量する定量手段(ただし、セラミド成分AとしてNP成分を選択し、セラミド成分BとしてNS成分を選択して定量する場合を除く。)と、
定量したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を算出し、算出した比から皮膚の健康を評価する、演算手段、
とを備えた、皮膚の健康の評価装置。
【0078】
<15>皮膚角質層の採取物から調製した脂質試料に含まれる、NP成分、NH成分、EOH成分及びEOP成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Aの成分量の、NS成分及びAS成分からなる群より選ばれる1種のセラミド成分Bの成分量に対する比の情報と、皮膚の健康の状態とが関連づけられているデータベースを格納し、
前記データベースの関連づけに基づき、前記演算手段が算出したセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比から皮膚の健康を評価する、
前記<13>又は<14>項に記載の装置。
<16>前記皮膚の健康が、皮膚疾患(好ましくはアトピー性皮膚炎又は乾癬)、又は肌質(好ましくは皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、並びに皮膚の落屑からなる群より選ばれる少なくとも1つ、より好ましくは皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、並びに皮膚の落屑)に関するものである、前記<13>〜<15>のいずれか1項に記載の装置。
<17>前記定量手段が、前記セラミド成分をそれぞれLC−MS法で定量する、前記<13>〜<16>のいずれか1項に記載の装置。
<18>前記LC−MS法において、液体クロマトグラフにより前記セラミド成分をそれぞれ分離し、ESI法、大気圧化学イオン化法、大気圧光イオン化法、高速原子衝撃法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化法のいずれか、好ましくはESI法、により、分離したセラミド成分をそれぞれイオン化し、イオン化したセラミド成分をそれぞれ定量する、前記<17>項に記載の装置。
【0079】
<19>前記成分量比が、NP成分量のNS成分量に対する比、NH成分量のNS成分量に対する比、EOH成分量のNS成分量に対する比、EOP成分量のNS成分量に対する比、NP成分量のAS成分量に対する比、NH成分量のAS成分量に対する比、EOH成分量のAS成分量に対する比、又はEOP成分量のAS成分量に対する比である、前記<1>〜<18>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<20>前記NPを構成するフィトスフィンゴシンの炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下であり、前記NPを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下である、前記<1>〜<19>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<21>前記NHを構成する6-ヒドロキシスフィンゴシンの炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下であり、前記NHを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下である、前記<1>〜<19>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<22>前記EOHを構成する6-ヒドロキシスフィンゴシンの炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下であり、前記EOHを構成するエステル-ω-ヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数が30以上、好ましくは40以上であり、その上限値が70以下、好ましくは60以下である、前記<1>〜<19>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<23>前記EOPを構成するフィトスフィンゴシンの炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下であり、前記EOPを構成するエステル-ω-ヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数が30以上、好ましくは40以上であり、その上限値が70以下、好ましくは60以下である、前記<1>〜<19>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<24>前記NSを構成するスフィンゴシンの炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下であり、前記NSを構成するノンヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下である、前記<1>〜<19>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<25>前記ASを構成するスフィンゴシンの炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下であり、前記ASを構成するα-ヒドロキシ脂肪酸の炭素原子数が8以上、好ましくは16以上であり、その上限値が44以下、好ましくは36以下である、前記<1>〜<19>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
【0080】
<26>健常群の前記セラミド成分量比の平均値が非健常群の前記セラミド成分量比の平均値よりも高い場合、
算出したセラミド成分量比が、健常群を特徴づけるセラミド成分量比の数値範囲の下限又は非健常群を特徴づけるセラミド成分量比の数値範囲の上限より大きければ「健常である」と評価し、
算出したセラミド成分量比が、健常群を特徴づけるセラミド成分量比の数値範囲の下限又は非健常群を特徴づけるセラミド成分量比の数値範囲の上限以下であれば「非健常である(トラブルがある)可能性がある」又は「非健常である(トラブルがある)可能性が高い」と評価する、
前記<1>〜<25>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<27>健常群の前記セラミド成分量比の平均値が非健常群の前記セラミド成分量比の平均値よりも低い場合、
算出したセラミド成分量比が、健常群を特徴づけるセラミド成分量比の数値範囲の上限又は非健常群を特徴づけるセラミド成分量比の数値範囲の下限より小さければ「健常である」と評価し、
算出したセラミド成分量比が、健常群を特徴づけるセラミド成分量比の数値範囲の上限又は非健常群を特徴づけるセラミド成分量比の数値範囲の下限以上であれば「非健常である(トラブルがある)可能性がある」又は「非健常である(トラブルがある)可能性が高い」と評価する、
前記<1>〜<25>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
【0081】
<28>皮膚の健康として、皮膚疾患の発症の有無、皮膚疾患の発症の可能性、皮膚疾患の予防の状態、皮膚疾患の進行度、皮膚疾患の傾向(素因)の有無、皮膚疾患の治癒状況、又は皮膚疾患に対する治療効果を評価する、前記<1>〜<27>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<29>前記皮膚疾患がアトピー性皮膚炎又は乾癬である、前記<28>項に記載の方法又は装置。
<30>NP成分量のNS成分量に対する比を指標としてアトピー性皮膚炎について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<31>NP成分量のNS成分量に対する比を指標として乾癬について評価する、前記<1>〜<30>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<32>NH成分量のNS成分量に対する比を指標としてアトピー性皮膚炎について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<33>NH成分量のNS成分量に対する比を指標として乾癬について評価する、前記<1>〜<28>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<34>EOH成分量のNS成分量に対する比を指標としてアトピー性皮膚炎について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<35>EOH成分量のNS成分量に対する比を指標として乾癬について評価する、前記<1>〜<28>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<36>EOP成分量のNS成分量に対する比を指標としてアトピー性皮膚炎について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<37>EOP成分量のNS成分量に対する比を指標として乾癬について評価する、前記<1>〜<28>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<38>NP成分量のAS成分量に対する比を指標としてアトピー性皮膚炎について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<39>NP成分量のAS成分量に対する比を指標として乾癬について評価する、前記<1>〜<28>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<40>NH成分量のAS成分量に対する比を指標としてアトピー性皮膚炎について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<41>NH成分量のAS成分量に対する比を指標として乾癬について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<42>EOH成分量のAS成分量に対する比を指標としてアトピー性皮膚炎について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<43>EOH成分量のAS成分量に対する比を指標として乾癬について評価する、前記<1>〜<30>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<44>EOP成分量のAS成分量に対する比を指標としてアトピー性皮膚炎について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<45>EOP成分量のAS成分量に対する比を指標として乾癬について評価する、前記<1>〜<29>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
【0082】
<46>腕部の無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が2.7以上であれば健常であり、NP/NS比が2.1未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、NP/NS比が1.6未満であれば乾癬の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<45>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<47>腕部の無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が3.2以上であれば健常であり、2.3未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、1.5未満であれば乾癬の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<45>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<48>腕部の無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOH/NS比が0.3以上であれば健常であり、0.3未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、0.2未満であれば乾癬の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<45>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<49>腕部の無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOP/NS比が0.1以上であれば健常であり、0.1未満であればアトピー性皮膚炎若しくは乾癬の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<45>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<50>腕部の無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/AS比が4.5以上であれば健常であり、2.6未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、2.1未満であれば乾癬の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<45>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<51>腕部の無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/AS比が4.9以上であれば健常であり、2.8未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、2.0未満であれば乾癬の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<45>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<52>腕部の無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOH/AS比が0.5以上であれば健常であり、0.3未満であればアトピー性皮膚炎の可能性があり、0.2未満であれば乾癬の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<45>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<53>腕部の無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOP/AS比が0.2以上であれば健常であり、0.1未満であればアトピー性皮膚炎若しくは乾癬の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<45>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
【0083】
<54>健常群の前記セラミド成分量比の平均値が非健常群の前記セラミド成分量比の平均値よりも高い場合、前記セラミド成分量比のうち少なくとも1つのセラミド成分量比、好ましくはすべてのセラミド成分量比が、皮膚の健康の評価基準とする基準値より大きい状態に維持され、
健常群の前記セラミド成分量比の平均値が非健常群の前記セラミド成分量比の平均値よりも小さい場合、前記セラミド成分量比のうち少なくとも1つのセラミド成分量比、好ましくはすべてのセラミド成分量比が、皮膚の健康の評価基準とする基準値より小さい状態に維持されている場合、
皮膚疾患が予防できていると評価する、前記<1>〜<53>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<55>無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が2.1以上の数値範囲が維持されている場合、アトピー性皮膚炎が予防できていると評価する、前記<54>項に記載の方法又は装置。
<56>無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が2.3以上、EOH/NS比が0.3以上、EOP/NS比が0.1以上、NP/AS比が2.6以上、NH/AS比が2.8以上、EOH/AS比が0.3以上、及びEOP/AS比が0.1以上の少なくとも1つの数値範囲、好ましくは全ての数値範囲が維持されている場合、アトピー性皮膚炎が予防できていると評価する、前記<54>項に記載の方法又は装置。
<57>無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が1.6以上の数値範囲が維持されている場合、乾癬が予防できていると評価する、前記<54>項に記載の方法又は装置。
<58>無疹部又は健常部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が1.5以上、EOH/NS比が0.2以上、EOP/NS比が0.1以上、NP/AS比が2.1以上、NH/AS比が2.0以上、EOH/AS比が0.2以上、及びEOP/AS比が0.1以上の少なくとも1つの数値範囲、好ましくは全ての数値範囲が維持されている場合、乾癬が予防できていると評価する、前記<54>項に記載の方法又は装置。
<59>健常群の前記セラミド成分量比の平均値が非健常群の前記セラミド成分量比の平均値よりも高い場合、前記セラミド成分量比のうち少なくとも1つのセラミド成分量比、好ましくはすべての成分量比が、皮膚の健康の評価基準とする基準値より大きい状態となり、
健常群の前記セラミド成分量比の平均値が非健常群の前記セラミド成分量比の平均値よりも小さい場合、前記セラミド成分量比のうち少なくとも1つのセラミド成分量比、好ましくはすべてのセラミド成分量値が、皮膚の健康の評価基準とする基準値より小さい状態となった場合、
皮膚疾患が改善したと評価する、前記<1>〜<53>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<60>無疹部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が2.1以上の数値範囲となった場合、アトピー性皮膚炎が改善したと評価する、前記<59>項に記載の方法又は装置。
<61>無疹部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が2.3以上、EOH/NS比が0.3以上、EOP/NS比が0.1以上、NP/AS比が2.6以上、NH/AS比が2.8以上、EOH/AS比が0.3以上、及びEOP/AS比が0.1以上の少なくとも1つの数値範囲、好ましくは全ての数値範囲となった場合、アトピー性皮膚炎が改善したと評価する、前記<59>項に記載の方法又は装置。
<62>無疹部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/NS比が1.6以上の数値範囲となった場合、乾癬が改善したと評価する、前記<59>項に記載の方法又は装置。
<63>無疹部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が1.5以上、EOH/NS比が0.2以上、EOP/NS比が0.1以上、NP/AS比が2.1以上、NH/AS比が2.0以上、EOH/AS比が0.2以上、及びEOP/AS比が0.1以上の少なくとも1つの数値範囲、好ましくは全ての数値範囲となった場合、乾癬が改善したと評価する、前記<59>項に記載の方法又は装置。
【0084】
<64>皮膚の健康として、肌質を評価する、好ましくは皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、及び皮膚の落屑からなる群より選ばれるいずれかを評価する、前記<1>〜<27>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<65>頬部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が1.5以上であれば皮膚バリア機能が正常又は皮膚バリア機能が平均以上であり、1.5未満であれば皮膚バリア機能が非正常の可能性がある、と評価する、前記<1>〜<27>及び<64>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<66>頬部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOH/NS比が0.15以上であれば角層水分量が多い又は角層水分量が平均以上であり、0.15未満であれば角層水分量が少ない可能性がある、と評価する、前記<1>〜<27>及び<64>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<67>頬部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のEOP/NS比が0.05以上であれば落屑が全くみられない又はかすかに落屑がみられ、0.05未満であれば落屑がみられる可能性がある、と評価する、前記<1>〜<27>及び<64>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<68>頬部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNH/NS比が1.6以上であればキメが整っており又はキメが細かく、1.6未満であればキメが乱れている可能性がある、と評価する、前記<1>〜<27>及び<64>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<69>頬部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/AS比が2.0以上であれば肌色が明るい又は健康的な肌色であり、2.0未満であれば肌色が暗い可能性がある又は肌色が健康的ではない可能性がある、と評価する、前記<1>〜<27>及び<64>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
<70>頬部から採取した皮膚角質層由来の脂質試料のNP/AS比が2.0以上であれば皮膚の赤みが少なく、2.0未満であれば皮膚の赤みが多い可能性がある、と評価する、前記<1>〜<27>及び<64>のいずれか1項に記載の方法又は装置。
【0085】
<71>皮膚疾患(好ましくはアトピー性皮膚炎若しくは乾癬)の予防若しくは改善剤、又は肌質改善剤(好ましくは皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、並びに皮膚の落屑からなる群より選ばれる少なくとも1つの改善剤、より好ましくは皮膚バリア機能、角層水分量、皮膚色若しくは皮膚の明るさ、皮膚のキメ、並びに皮膚の落屑の改善剤)の候補となる物質を被験体の皮膚に適用し、前記<1>〜<70>のいずれか1項に記載の方法を実施して、又は装置を利用して、皮膚疾患の予防若しくは改善剤、又は肌質改善剤の候補となる物質の適用前後での皮膚の健康の変化を確認し、皮膚疾患の予防若しくは改善作用を奏する物質、又は肌質改善作用を奏する物質を皮膚疾患の予防又は改善剤又は肌質改善剤として選択する、皮膚疾患の予防若しくは改善剤、又は肌質改善剤のスクリーニング方法。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
実施例1 アトピー性皮膚炎とセラミド成分との相関性
(1)被験者
皮膚科医院に通院するアトピー性皮膚炎患者8名(16〜36歳)及びその年齢に対応する健常ボランティア7名(25〜37歳)
【0088】
(2)角層機能の測定
アトピー性皮膚炎患者においては腕の皮疹部及び隣接する無疹部、健常者においては腕における患者と同部位に対して、対象部位を洗浄剤にて洗浄した後、5分間馴化した。そして、コルネオメーター(Corneometer CM825、Courage+Khazaka社製)を用いた角層水分量(Capacitance(AU))の測定と、テヴァメーター(Tewameter TM300、Courage+Khazaka社製)を用いた経皮水分蒸散量(TEWL(gm
-2h
-1))の測定を行った。
【0089】
(3)皮膚角質層の採取
アトピー性皮膚炎患者においては角層機能の測定を実施した、腕の皮疹部及び隣接する無疹部、健常者においては腕における患者と同部位にテープ(PPSテープ、ニチバン社製)を押し付け、同一部位から10回連続で皮膚角質層を剥離した(2.5cm×4cm×10枚)。それぞれのテープを半分に切り分け、一方をセラミド成分の解析に供し、もう一方をタンパク質の定量に供した。
【0090】
(4)タンパク質の定量
半分に切り分けたテープに0.1N水酸化ナトリウム、1%SDS水溶液を加え、60℃で2時間加熱してタンパク質を可溶化し、室温まで冷却した。その後2N塩酸を加えて中和し、BCA Protein Assay(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いてBSAによる検量線からタンパク質の定量値を得た。
【0091】
(5)脂質分子の抽出
皮膚角質層を採取したテープに、内部標準物質としてN-heptadecanoyl-sphingosineを50nmol/L含むメタノールを加え、超音波を照射し、脂質分子を抽出した。
【0092】
(6)セラミド成分の粗分画と試料溶液の調製
前記メタノール抽出液を窒素気流下で乾固し、これにクロロホルム/メタノール=99.5/0.5(v/v)を加えて溶解し、固相抽出用シリカゲルカートリッジに適用した。クロロホルム/メタノール=99.5/0.5(v/v)を十分に適用した後、クロロホルム/メタノール=95/5(v/v)を適用し、その溶出液を得た。この溶出液を窒素気流下で乾固した後、ヘキサン/イソプロパノール/ギ酸=95/5/0.1(v/v/v)を加えて溶解し、試料溶液を調製した。
【0093】
(7)セラミド成分の分析条件
液体クロマトグラフと質量分析装置が一体になった分析システムとして、アジレント1100シリーズLC/MSD(ESI、シングル四重極、アジレントテクノロジー社製)を使用した。
分離カラムとしては、Inertsil SIL 100A-3(商品名、ジーエルサイエンス社製、1.5mmφ×150mm(3μm))を使用した。ガードカラムとしては、Inertsil SIL 100A-3(商品名、ジーエルサイエンス社製、1.5mmφ×10mm(3μm))を使用した。
溶離液として、2種の溶液(溶離液A:ヘキサン/イソプロパノール/ギ酸=95/5/0.1(v/v/v);溶離液B:ヘキサン/イソプロパノール/50mmol/Lのギ酸アンモニウム水溶液=25/65/10(v/v/v))を使用した。また、溶離液A及びBのグラジエント条件を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
イオン化促進液としては、イソプロパノール/5mmol/Lのギ酸アンモニウム含有メタノール溶液=50/50(v/v)を使用した。イオン化促進液の流速は0.1mL/分とした。
【0096】
また、質量分析装置における分析条件は以下の通りである。
イオン化法:ESI
極性:正イオン
測定質量範囲:250〜1500
フラグメンター電圧:150V
Vcap電圧:3500V
ネブライザー圧力:20psig
乾燥ガス温度:300℃
乾燥ガス流量:8L/分
【0097】
質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。その後、既知のセラミド分子種についてそれぞれ保持時間及びm/zの情報を格納したデータベースを利用して、多段マスクロマトグラムに含まれる各ピークを同定した。そして、各セラミド分子のピーク面積を求め、内部標準物質に対するピーク面積比を算出し、さらにタンパク質量で除することにより、単位タンパク質量当たりの各セラミド分子の相対量を算出した。これらに予め求めてあるセラミド分子種ごとの検出感度補正係数を乗じることにより、単位タンパク質量当たりの全セラミド総量(絶対量)に対する各セラミド分子種の絶対量の割合(%)を算出した。
さらに、セラミド成分Aとセラミド成分Bにおいて、単位タンパク質量当たりの各セラミド分子種の絶対量から成分量の比(NP/NS比、NH/NS比、EOH/NS比、EOP/NS比、NP/AS比、NH/AS比、EOH/AS比、及びEOP/AS比)を算出した。
【0098】
(8)セラミド定量値と、アトピー性皮膚炎皮疹部と無疹部及び健常者の健常部の角層機能との相関係数の算出
前記(7)で算出した単位タンパク質量当たりの各セラミド分子種の絶対量、各セラミド分子種が全セラミド総量に占める割合、並びにセラミド成分Aの成分量とセラミド成分Bの成分量の比と、前記(2)で計測した角層水分量(Capacitance)と経皮水分蒸散量(TEWL)との間でPearsonの相関係数を算出した。なお、p値が0.05未満のものを有意であると判定した。
【0099】
(9)アトピー性皮膚炎皮疹部と無疹部及び健常者の健常部のセラミド定量値の比較
前記(7)で算出した単位タンパク質量当たりの各セラミド分子種の絶対量、各セラミド分子種が全セラミド総量に占める割合、並びにセラミド成分Aの成分量とセラミド成分Bの成分量の比を、アトピー性皮膚炎の皮疹部、無疹部、健常者の健常部の3群で比較した。Bonferroniの多重比較検定を実施し、p値が0.05未満のものを有意であると判定した。
その結果を表2に示す。なお、下記表2及び後述の表3において、「NP/NS」はNS成分の成分量に対するNP成分量の比を示す。「NH/NS」はNS成分の成分量に対するNH成分量の比を示す。「EOH/NS」はNS成分の成分量に対するEOH成分量の比を示す。「EOP/NS」はNS成分の成分量に対するEOP成分量の比を示す。「NP/AS」はAS成分の成分量に対するNP成分量の比を示す。「NH/AS」はAS成分の成分量に対するNH成分量の比を示す。「EOH/AS」はAS成分の成分量に対するEOH成分量の比を示す。「EOP/AS」はAS成分の成分量に対するEOP成分量の比を示す。
【0100】
【表2】
【0101】
前記表2及び後述の表3中の下記略称は、それぞれ以下のセラミドを指す。
NDS:ノンヒドロキシアシル-ジヒドロスフィンゴシン・セラミド(ジヒドロスフィンゴシンとノンヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。)
ADS:α-ヒドロキシアシル-ジヒドロスフィンゴシン・セラミド(ジヒドロスフィンゴシンとα-ヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。)
AH:α-ヒドロキシアシル-6-ヒドロキシスフィンゴシン・セラミド(6-ヒドロキシスフィンゴシンとα-ヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。)
AP:α-ヒドロキシアシル-フィトスフィンゴシン・セラミド(フィトスフィンゴシンとα-ヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。)
EOS:エステル-ω-ヒドロキシアシル-スフィンゴシン・セラミド(スフィンゴシンとエステル-ω-ヒドロキシ脂肪酸がアミド結合した構造のセラミドを指す。)
【0102】
表2に示すように、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部のセラミドクラス組成は、健常者のセラミドクラス組成とは大きく異なる。しかし、アトピー性皮膚炎患者の無疹部のセラミドクラス組成と健常者のセラミドのクラス組成とでは、NHの絶対量の割合(%)、NPの絶対量の割合(%)、APの絶対量の割合(%)、EOPの絶対量の割合(%)についてのみ顕著な差が認められた。
これに対して、本発明の指標のうち、NP/NS、NH/NS、EOP/NS、NP/AS、NH/AS、EOH/AS、EOP/ASに関しては、アトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者の間に顕著な差が認められた。そしてこれらの成分量比に加えて、EOH/NSについても、角層水分量や経皮水分蒸散量に対しての高い相関性が認められた。
【0103】
実施例2 乾癬とセラミド成分との相関性
(1)被験者
皮膚科医院に通院する乾癬患者10名(36〜74歳)及びその年齢に対応する健常ボランティア9名(39〜76歳)。
【0104】
(2)角層機能の測定
乾癬患者においては腕の皮疹部及び隣接する無疹部、健常者においては腕における患者と同部位に対して、実施例1と同様に角層水分量と経皮水分蒸散量を測定した。
【0105】
(3)皮膚角質層の採取
乾癬患者においては角層機能の測定を実施した、腕の皮疹部及び隣接する無疹部、健常者においては腕における患者と同部位にテープ(PPSテープ、ニチバン社製)を押し付け、同一部位から10回連続で皮膚角質層を剥離した(2.5cm×4cm×10枚)。それぞれのテープを半分に切り分け、一方をセラミド成分の解析に供し、もう一方をタンパク質の定量に供した。
【0106】
(4)タンパク質の定量
半分に切り分けたテープを用いて、実施例1と同様にタンパク質の定量を行った。
【0107】
(5)セラミド成分の分析
皮膚角質層を採取したテープを用いて、実施例1と同様にして、単位タンパク質量当たりの各セラミド分子種の絶対量、単位タンパク質量当たりの全セラミド総量(絶対量)に対する各セラミド分子種の絶対量の割合(%)、並びにNP/NS比、NH/NS比、EOH/NS比、EOP/NS比、NP/AS比、NH/AS比、EOH/AS比、及びEOP/AS比を算出し、乾癬皮疹部と無疹部及び健常者の健常部の角層機能との相関係数と「乾癬皮疹部と無疹部及び健常者の健常部のセラミド定量値の比較」を検討した。
その結果を表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
表3に示すように、乾癬患者の皮疹部のセラミドクラス組成は、健常者のセラミドクラス組成とは大きく異なる。しかし、乾癬患者の無疹部のセラミドクラス組成と健常者のセラミドのクラス組成とでは、NHの絶対量の割合(%)以外では顕著な差が認められていない。
これに対して、本発明の指標のうち、NP/NS、NH/NS、NP/AS、NH/AS、EOH/AS、EOP/ASに関しては、乾癬患者の無疹部と健常者の間にも顕著な差が認められた。そしてこれらの成分量比は、角層水分量や経皮水分蒸散量に対しても高い相関性が認められた。
【0110】
実施例3 肌質とセラミド成分との相関性
(1)被験者
東京近郊に在住の20歳代前半から70歳代前半までの健常女性計210名(平均年齢45.9歳)
【0111】
(2)角質層の採取
各被験者の頬部からテープストリッピング法により同一部位から4回連続で角質層を採取した(2.5cm×4cm×4枚)。テープとしてアクリル系粘着テープ(寺岡製作所製)を使用した。それぞれのテープを半分に切り分け、一方をセラミド成分の解析に供し、もう一方をタンパク質の定量に供した。タンパク質の定量は、半分に切り分けたテープに0.1N NaOH、1% SDS水溶液を加え、60℃で2時間加熱してタンパク質を可溶化し、室温まで冷却した後に2N HClを加えて中和し、BCA Protein Assayを用いてBSAによる検量線からタンパク質の定量値を得た。
【0112】
(3)脂質試料の調製
角質層を採取した前記テープを5mLスクリュー管(マルエム:No.2)内でメタノール1.9mLに浸漬させ、室温で10分間超音波処理し、脂質を抽出した。次いで、このスクリュー管に内部標準(N-heptadecanoyl-D-erythro-sphingosine)を含有するメタノール溶液100μLを加え、脂質溶液を調製した。
【0113】
(4)セラミド成分Aの成分量及びセラミド成分Bの成分量の定量、並びにセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比の算出
液体クロマトグラフ−質量分析装置(Agilent社製、LC/Multi ion source-MS)を用いて、脂質試料に含まれるセラミド成分Aの成分量及びセラミド成分Bの成分量の定量を行った。分離カラムとしては、L-column ODS 2.1mm i.d.×150mm(5μm)を使用した。
溶離液として、2種の溶液(溶離液A:10mmol/L酢酸アンモニウムを含有する50%メタノール溶液;溶離液B:10mmol/L酢酸アンモニウムを含有する2-プロパノール溶液)を使用した。また、溶離液A及びBのグラジエント条件を表4に示す。
【0114】
【表4】
【0115】
また、前記質量分析装置による分析条件は以下の通りである。
イオン源:マルチモードイオンソース
イオン化法:ESI法
検出モード:セラミドの酢酸イオン付加分子([M
+CH
3COO]
-)を負イオンモードでSIM検出
乾燥ガス流量:4L/分
ネブライザー圧力=60psig
乾燥ガス温度:350℃
ベーポライザー温度:200℃
キャピラリー電圧:4000V
チャージング電圧:2000V
【0116】
質量分析装置から得られたデータを、保持時間とm/zとイオン強度との3軸を有する多段マスクロマトグラムに展開した。その後、既知のセラミド分子種についてそれぞれ保持時間及びm/zの情報を格納したデータベースを利用して、多段マスクロマトグラムに含まれる各ピークのうち、セラミド成分A及びセラミド成分B由来のピークを同定した。そして、セラミド成分A及びセラミド成分B由来のピーク面積を求め、内部標準物質に対するピーク面積比を算出し、セラミド成分A及びセラミド成分B由来の相対量を算出した。算出した値に、予め求めてあるセラミド成分A及びセラミド成分Bごとの検出感度補正係数を乗じ、さらにタンパク質量で除することにより、単位タンパク質量あたりのセラミド成分A及びセラミド成分Bの絶対量、並びにセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を算出した。
【0117】
(5)肌質の計測
被験者の肌質を評価する頬部を洗浄し、24℃、湿度40%の環境下で30分間馴化し、さらに20℃、湿度40%の環境下で5分間馴化した後に、下記に示す各種肌質の計測を行った。
【0118】
(i)皮膚色、皮膚の明るさ
分光測色計(CM2002、KONICA MINOLTA社製)を用い、C光源2度視野にてセンサを頬に接触させ、皮膚色及び皮膚の明るさ(L
*値(AU)、a
*値(AU))を計測した。同じ部位での計測を5回行った。そして、最大値及び最小値を棄却し、3回分の平均値を算出した。
【0119】
(ii)皮膚バリア機能
テヴァメーター(Tewameter TM300、Courage+Khazaka社製)を頬に当て、経皮水分蒸散量(TEWL(gm
-2h
-1))を計測した。同じ部位での計測を3回行い、平均値を算出した。なお、経皮水分蒸散量の計測は、測定値の標準偏差が0.1の範囲内に収まったときに停止するよう設定した。
【0120】
(iii)角層水分量
コルネオメーター(Corneometer CM825、Courage+Khazaka社製)を用い、センサを頬に押し当て、角層水分量(Capacitance(AU))を計測した。同じ部位での計測を5回行った。そして、最大値及び最小値を棄却し、3回分の平均値を算出した。
【0121】
(iv)皮膚のキメ
肌スコープ(i-SCOPE USB2.0、MORITEX社製)の50×PLレンズを用い、頬の写真を撮影した。そして、
図2に示す皮膚のキメスコアスケールに基づき、撮影した写真から頬のキメをスコア化した(1.0〜4.0の7段階評価)。
【0122】
(iv)皮膚の落屑
前記(iv)で撮影した写真から、下記評価基準に基づいて落屑の程度をスコア化した(0〜3の4段階)。
<落屑の評価基準>
0:落屑が全くみられない
1:かすかに落屑がみられる
2:落屑がみられる
3:顕著な落屑が見られる
【0123】
(6)セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比と肌質との相関係数の算出
前記(4)で算出したセラミド成分Aの成分量及びセラミド成分Bの成分量の絶対量、並びにセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比と、前記(5)で計測した各肌質の性状値との間でSpearmanの相関係数を算出した。なお、p値が0.05未満のものを有意であると判定した。
その結果を表5に示す。
【0124】
【表5】
【0125】
表5で示すように、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比(セラミド成分Aの成分量/セラミド成分Bの成分量)は、L
*値、角層水分量、及びキメスコアとの間で正の相関性を有していた。一方、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比(セラミド成分Aの成分量/セラミド成分Bの成分量)は、a
*値、TEWL値、及び落屑スコアとの間で負の相関性を有していた。
【0126】
特に、NH/NS比はa*値、TEWL値、角層水分量、キメスコア及び落屑スコアと、有意な相関性を有していた。
EOH/NS比はTEWL値、角層水分量及びキメスコアと、有意な相関性を有していた。
EOP/NS比はa*値、TEWL値、角層水分量、キメスコア及び落屑スコアと、有意な相関性を有していた。
NP/AS比はL*値、a*値、TEWL値、角層水分量、キメスコア及び落屑スコアと、有意な相関性を有していた。
NH/AS比はTEWL値及びキメスコアと、有意な相関性を有していた。
EOH/AS比はTEWL値、角層水分量及びキメスコアと、有意な相関性を有していた。
そして、EOP/AS比はa*値、TEWL値、角層水分量、キメスコア及び落屑スコアと、有意な相関性を有していた。
【0127】
さらに具体例として、各被験者のTEWL値とNH/NS比とをプロットしたグラフを
図3(a)に示す。また、CapacitanceとEOH/NS比とをプロットしたグラフを
図3(b)に示す。また、落屑スコアとEOP/NS比とをプロットしたグラフを
図3(c)に示す。また、キメスコアとNH/NS比とをプロットしたグラフを
図3(d)に示す。また、L*値とNP/AS比とをプロットしたグラフを
図3(e)に示す。さらに、a*値とNP/AS比とをプロットしたグラフを
図3(f)に示す。
図3(a)に示すように、TEWL値が20を超える被験者において、NH/NS比が1.5以上である場合はほとんど観察されなかった。よって、NH/NS比が1.5以上の場合、「皮膚バリア機能が正常である」又は「皮膚バリア機能が平均以上である」と評価することができる。
図3(b)に示すように、角層水分量(Capacitance)が60を超える被験者は、おおよそEOH/NS比が0.15以上であった。よって、EOH/NS比が0.15以上の場合、「角層水分量が多い」又は「角層水分量が平均以上である」と評価することができる。
図3(c)に示すように、落屑スコアが2の被験者のEOP/NS比はいずれも0.05未満であった。よって、EOP/NS比が0.05以上の場合、「落屑が全くみられない」又は「かすかに落屑がみられる」と評価することができる。
図3(d)に示すように、NH/NS比が1.6以上である被験者のキメスコアは、ほとんどが2.5以上で肌のキメが整っていた。よって、NH/NS比が1.6以上の場合、「キメが整っている」又は「キメが細かい」と評価することができる。
図3(e)に示すように、NP/AS比が2.0以上である被験者のL*値は、おおよそ65以上であった。よって、NP/AS比が2.0以上の場合、「肌色が明るい」又は「健康的な肌色である」と評価することができる。
図3(f)に示すように、a*値が14以上である被験者は、おおよそNP/AS比が2.0未満であった。よって、NP/AS比が2.0以上の場合、「肌の赤みが少ない」と評価することができる。
【0128】
表5及び
図3の結果から、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比は、肌質との間で高い相関性を有することが示された。これらの結果は、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比が、皮膚色を含むより多くの皮膚性状値との相関性を精度よく的確に検出する指標であることを示している。また、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を用いて肌質を評価することにより、タンパク質量等での補正による各セラミド分子種の絶対量の算出が不要となるという利点が得られる。すなわち、セラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を指標とすることで、簡便で、かつ様々な観点から的確に肌質を評価することができる。
【0129】
以上のように、皮膚角質層に含まれるセラミド成分Aの成分量のセラミド成分Bの成分量に対する比を指標とすることで、皮膚の健康を簡便かつ的確に評価することができる。