特許第6867833号(P6867833)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6867833インク用バインダー組成物、インク用材料セット及びインク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867833
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】インク用バインダー組成物、インク用材料セット及びインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/107 20140101AFI20210426BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20210426BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C09D11/107
   C08F220/18
   B29C45/14
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-45209(P2017-45209)
(22)【出願日】2017年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-150390(P2018-150390A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】片岡 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】狩野 肇
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−182774(JP,A)
【文献】 特開2013−006889(JP,A)
【文献】 特開平03−114717(JP,A)
【文献】 特開平04−059320(JP,A)
【文献】 特開2017−031320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00− 13/00
C08C 19/00− 19/44
C08F 6/00−246/00
C08F 301/00
B29C 45/00− 45/24
B29C 45/46− 45/63
B29C 45/70− 45/72
B29C 45/74− 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)、及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含み、ガラス転移温度が23℃以上である(メタ)アクリル系重合体と、
架橋剤と、を含有し、
前記構成単位(B)に対する前記架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上である射出成形用のフィルムに用いられるインク用バインダー組成物。
【請求項2】
前記架橋剤が、金属キレート化合物を含有する請求項1に記載のインク用バインダー組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系重合体における前記構成単位(C)の含有率は、全構成単位に対して、2.0モル%以上15モル%以下である請求項1又は請求項2に記載のインク用バインダー組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系重合体において、前記構成単位(B)に対する前記構成単位(C)の含有比率が、モル基準で0.1以上15以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインク用バインダー組成物。
【請求項5】
前記カルボキシ基を有する単量体が、アクリル酸、メタクリル酸及び2−アクリロイルオキシエチルコハク酸からなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインク用バインダー組成物。
【請求項6】
前記塩基性基を有する単量体が、アミノ基又はアミド基を有する単量体である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインク用バインダー組成物。
【請求項7】
前記塩基性基を有する単量体が、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル及びメタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチルからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインク用バインダー組成物。
【請求項8】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)、及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含み、ガラス転移温度が23℃以上である(メタ)アクリル系重合体を含む第1の材料と、
架橋剤を含み、前記構成単位(B)に対する前記架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上である第2の材料と、
を有する射出成形用のフィルムに用いられるインク用材料セット。
【請求項9】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のインク用バインダー組成物と、着色剤と、を含むインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク用バインダー組成物、インク用材料セット及びインクに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電化製品、スマートフォンなどの携帯電話、携帯端末等の部材には加飾された射出成形品が使用されている。加飾された射出成形品は、例えば、透明フィルムの裏面に樹脂を含むインクを印刷することでインク層を形成して加飾フィルムとし、加飾フィルムを圧縮成形にて曲面、凸凹又は平面を有する形状に加工した後に金型に装着し、加飾フィルムのインク層の表面に向けて溶融した樹脂を射出して、樹脂の表面と加飾フィルムとを一体化させることにより製造される。
【0003】
また、加飾フィルムのインク層は、射出成形の際、溶融した高温の樹脂と接触したり、200℃〜300℃程度の高温に加温された金型に保持されたりするなど、過酷な環境に曝される。そのため、加飾フィルムのインク層形成に使用されるインクは、高温下に曝されたとしても、インク層が流動化することによりインクが流れる現象、すなわちインク流れが生じることのない高い耐熱性を有することが要求される。
【0004】
インクの耐熱性は、インクに使用される樹脂の耐熱性に左右されるため、耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂を用いたインクが開発されている。例えば、ポリカーボネート樹脂をバインダー樹脂として用いる耐熱性印刷インキが知られている(例えば、特許文献1参照)。
ところが、ポリカーボネート樹脂は耐候性に劣るという問題があるため、耐候性に優れたアクリル樹脂を用いたインクが開発されている。例えば、結合剤として少なくとも115℃のビカー軟化温度VST(ISO306B)を有するポリ(メタ)アクリレートを使用するインクが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−67838号公報
【特許文献2】特表2005−501161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載のインクでは、耐熱性を高める点から、高い軟化温度を有するアクリル樹脂が使用されているが、高い軟化温度を有するアクリル樹脂は、硬く、脆くなりやすい傾向がある。そのため、インクを用いてインク層が形成されたフィルムは、圧縮成形により加工する際、屈曲又は延伸されることによって、インク層にクラックが生じる場合がある。つまり、耐熱性を有しても、加工性に劣る課題がある。
【0007】
ここで、特許文献2に記載のインクは架橋剤を含んでおらず、クラックを抑制し、かつ耐熱性及び耐候性をより高める点から、このインクに架橋剤を添加することが考えられる。例えば、架橋剤を当量以上添加することで耐熱性が向上し、高温環境下でのインク流れを抑制することができる。しかしながら、インクに架橋剤を添加しすぎた場合、架橋が過度に進行することにより、インク層の粘弾性が高くなり、透明フィルムなどの被印刷基材との密着不良が生じやすくなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、インク層を形成した際、被印刷基材との密着性に優れるインク用バインダー組成物、インク用材料セット及びインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> (メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)、及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含み、ガラス転移温度が23℃以上である(メタ)アクリル系重合体と、架橋剤と、を含有し、前記構成単位(B)に対する前記架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上であるインク用バインダー組成物。
<2> 前記架橋剤が、金属キレート化合物を含有する<1>に記載のインク用バインダー組成物。
<3> 前記(メタ)アクリル系重合体における前記構成単位(C)の含有率は、全構成単位に対して、2.0モル%以上15モル%以下である<1>又は<2>に記載のインク用バインダー組成物。
<4> 前記(メタ)アクリル系重合体において、前記構成単位(B)に対する前記構成単位(C)の含有比率が、モル基準で0.1以上15以下である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインク用バインダー組成物。
<5> 前記カルボキシ基を有する単量体が、アクリル酸、メタクリル酸及び2−アクリロイルオキシエチルコハク酸からなる群より選択される少なくとも1つを含む<1>〜<4>のいずれか1つに記載のインク用バインダー組成物。
<6> 前記塩基性基を有する単量体が、アミノ基又はアミド基を有する単量体である<1>〜<5>のいずれか1つに記載のインク用バインダー組成物。
<7> 前記塩基性基を有する単量体が、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル及びメタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチルからなる群より選択される少なくとも1つを含む<1>〜<6>のいずれか1つに記載のインク用バインダー組成物。
<8> 射出成形に用いられる<1>〜<7>のいずれか1つに記載のインク用バインダー組成物。
【0010】
<9> (メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)、及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含み、ガラス転移温度が23℃以上である(メタ)アクリル系重合体を含む第1の材料と、架橋剤を含み、前記構成単位(B)に対する前記架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上である第2の材料と、を有するインク用材料セット。
【0011】
<10> <1>〜<8>のいずれか1つに記載のインク用バインダー組成物と、着色剤と、を含むインク。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インク層を形成した際、被印刷基材との密着性に優れるインク用バインダー組成物、インク用材料セット及びインクが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のインク用バインダー組成物、インク用材料セット及びインクについて詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本明細書において、組成物中に含まれる各成分の量は、それぞれの成分について複数種を併用する場合は、特に断らない限り、いずれも複数種の成分の合計量を指す。
【0015】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの両方が包含されることを意味する。また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの両方が包含されることを意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者が包含されることを意味する。
【0016】
インク用バインダー組成物とは、(メタ)アクリル系重合体と架橋剤との架橋反応が終了する前の組成物であり、例えば、液状、ペースト状、又は粉末状の組成物を指す。
また、インク層とは、(メタ)アクリル系重合体と架橋剤との架橋反応が終了した後の層であり、例えば固形状の層を指す。
【0017】
<インク用バインダー組成物>
本発明のインク用バインダー組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)、及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含み、ガラス転移温度が23℃以上である(メタ)アクリル系重合体(以下、単に「(メタ)アクリル系重合体ともいう。)と、架橋剤と、を含有し、構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上である。
【0018】
本発明のインク用バインダー組成物は、好ましくは射出成形に用いられるものであり、例えば、自動車、電化製品、スマートフォン等の携帯電話、携帯端末等の部材として用いられる射出成形品を製造する際に用いられる。射出成形品は、具体的には以下のようにして製造される。
まず、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表される透明フィルムの裏面にインク用バインダー組成物を含有するインクを付与(例えば印刷)し、透明フィルムの裏面にインク層を形成することで加飾フィルムとする。加飾フィルムを圧縮成形にて曲面、凸凹又は平面を有する形状に加工し、加工後の加飾フィルムを金型に装着する。そして、加飾フィルムのインク層の表面に向けて溶融した樹脂を射出し、樹脂と加飾フィルムとを一体化させる射出成形を行う。これにより、射出成形品が製造される。
【0019】
従来より、アクリル樹脂を用いたインクは知られており、耐熱性を有し、インク流れが生じにくい点で有利とされている。しかし、アクリル樹脂は耐熱性が高いがゆえに硬くて脆い性質を有しており、インク層を形成した場合にひび割れ(クラックともいう。)が生じやすい。そのため、クラックを抑制し、かつ耐熱性及び耐候性をより高める点から、このインクに架橋剤を添加することが考えられる。しかしながら、インクに架橋剤を添加しすぎた場合、例えば、アクリル樹脂中の構成単位が有するカルボキシ基と架橋剤との架橋反応が過度に進行することにより、インク層の粘弾性が高くなり、透明フィルムなどの被印刷基材との密着不良が生じやすくなるという問題がある。
【0020】
一方、本発明のインク用バインダー組成物は、(メタ)アクリル系重合体と、架橋剤と、を含有し、かつ、(メタ)アクリル系重合体に含まれる構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上である。そのため、本発明のインク用バインダー組成物は、インク層を形成した際、被印刷基材との密着性に優れる。この理由は以下のように推測される。但し、本発明のインク用バインダー組成物は以下の理由によって限定されることはない。
【0021】
まず、本発明のインク用バインダー組成物中の(メタ)アクリル系重合体は、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含む。これにより、構成単位(B)中のカルボキシ基と、構成単位(C)中の塩基性基と、が反応あるいは相互作用することにより、疑似的な架橋構造(以下、単に「疑似架橋」ともいう。)が形成される。さらに、疑似架橋に関与するカルボキシ基は、架橋剤と反応しない、あるいは、架橋剤との反応が抑制されるため、(メタ)アクリル系重合体中のカルボキシ基と、架橋剤と、の架橋が過度に進行せず、インク層が硬くて脆くなりすぎることが抑制される。したがって、インク層の粘弾性が高くなりすぎず、透明フィルムなどの被印刷基材との密着性が向上すると推測される。すなわち、本発明のインク用バインダー組成物中の(メタ)アクリル系重合体は、塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含むことによる疑似架橋により、(メタ)アクリル系重合体中のカルボキシ基と、架橋剤と、の架橋反応が調整されて過度の架橋が抑制され、その結果、耐熱性と耐候性とを保持しつつ、インク層と被印刷基材との密着性が向上すると推測される。また、本発明のインク用バインダー組成物中の(メタ)アクリル系重合体に含まれる構成単位(C)は、被印刷基材に対する濡れ性に向上に寄与するため、インク層と被印刷基材との密着性がより向上すると推測される。
【0022】
また、本発明のインク用バインダー組成物中の(メタ)アクリル系重合体は、ガラス転移温度が23℃以上であるため、例えばスクリーン印刷時のインク層のべたつきを抑制でき、高温時の弾性率に優れ、耐熱性に優れる。さらに、インク層を形成した際、破断強度に優れ、密着性も優れる。
【0023】
また、本発明のインク用バインダー組成物は、(メタ)アクリル系重合体に含まれる構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上である。このため、構成単位(B)中のカルボキシ基と構成単位(C)中の塩基性基との相互作用等による疑似架橋とともに、構成単位(B)中のカルボキシ基と架橋剤との架橋が適度に生じると推測される。そのため、インク層を形成した際に破断強度及び引張伸度に優れ、被印刷基材との密着性を高めることができる。
さらに、(メタ)アクリル系重合体に含まれる構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上であることにより、インク層内における凝集破壊を抑制することができる。
なお、インク層の破断強度及び引張伸度と、インク層の被印刷基材に対する密着性とは相関があり、インク層の破断強度及び引張伸度が高ければ、インク層と被印刷基材との密着性は良好であると判断できる。
【0024】
[(メタ)アクリル系重合体]
本発明のインク用バインダー組成物は、(メタ)アクリル系重合体の少なくとも一種を含有する。(メタ)アクリル系重合体を含むことにより、インク層を形成した際に被印刷基材との密着性に優れる。
【0025】
本発明における(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)、及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含み、ガラス転移温度が23℃以上である。
また、(メタ)アクリル系重合体は、上記に加えて、必要に応じて、更に他の単量体に由来の構成単位を含んでいてもよい。
【0026】
なお、(メタ)アクリル系重合体において、各構成単位の含有比率は、構成単位ごとにモル%の値にて表記する。
【0027】
−(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)−
(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)(以下、単に「構成単位(A)」ともいう。)を含む。なお、構成単位(A)は、カルボキシ基又は塩基性基を含まない単位であり、後述する構成単位(B)及び構成単位(C)を含まない。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。本明細書中において、環状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルには、飽和環構造であるシクロアルキル基(シクロヘキシル基、ジシクロペンタニル基、イソボルニル基等の脂環基)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに加え、不飽和環基(フェニル基、ビフェニル基等の芳香環基)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルも包含される。
【0029】
アルキル基が直鎖状又は分岐状である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、アルキル基の炭素数が1〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が1〜8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
【0030】
アルキル基が直鎖状又は分岐状である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルが挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル及び(メタ)アクリル酸n−ブチルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0031】
アルキル基が環状である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイド(EO)変性クレゾール、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイド(EO)変性ノニルフェノール、(メタ)アクリル酸ビフェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニルが挙げられる。
【0032】
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、単独重合体(ホモポリマー)としたときのガラス転移温度が−20℃以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び単独重合体としたときのガラス転移温度が50℃以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位を(メタ)アクリル系重合体が含むことにより、インク層を形成した際の耐熱性と加工性とのバランスが良好となるように、(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度を調整できる。単独重合体としたときのガラス転移温度が−20℃以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸エチル(−27℃)、アクリル酸n−ブチル(−57℃)、アクリル酸2−エチルヘキシル(−76℃)が挙げられ、単独重合体としたときのガラス転移温度が50℃以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル(103℃)が挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル系重合体における構成単位(A)の含有率は、特に限定されず、インク層を形成した際、被印刷基材との密着性をより良好とする点から、全構成単位に対して75モル%以上98モル%以下であることが好ましく、80モル%以上97モル%以下であることがより好ましく、94モル%以上97モル%以下であることが更に好ましい。
【0034】
(メタ)アクリル系重合体における、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)は、1種単独で又は、2種以上を組み合わせてもよい。例えば、構成単位(A)は、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される少なくとも1つに由来の構成単位であってもよい。
【0035】
−カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)−
(メタ)アクリル系重合体は、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)(以下、単に「構成単位(B)」ともいう。)を含む。
なお、構成単位(B)には、上記の構成単位(A)及び後述する構成単位(C)は含まれない。
【0036】
カルボキシ基を有する単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸(コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、破断強度及び引張伸度のバランスが良好となる点からアクリル酸、メタクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸がより好ましい。
なお、上記のカルボキシ基を有する単量体として、単独重合体としたときのガラス転移温度は、それぞれアクリル酸は166℃、メタクリル酸は185℃、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸は−40℃、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノアクリレート(n≒2)は−30℃である。
(メタ)アクリル系重合体における、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)は、1種単独で又は、2種以上を組み合わせてもよい。
【0037】
構成単位(B)は、下記一般式(1)で表される構成単位を含んでいてもよい。
カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位として、疎水化のためにアルキル鎖の長い構造を配するのではなく、重合体主鎖から分岐した側鎖の末端にカルボキシ基を有する構造の構成単位を有していることで、(メタ)アクリル系重合体の疎水性の向上を図り、耐アルコール性を付与することができる傾向にある。
【0038】
【化1】
【0039】
一般式(1)において、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Lは、アルキレン基、アリーレン基、カルボニル基、及び酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つで構成される2価の連結基を表す。
但し、Lが酸素原子を含む場合、酸素原子は、アルキレン基、アリーレン基及びカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種と結合した基が形成され、−COO−及び−CO−と結合する。
【0040】
Lにおけるアルキレン基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。Lにおけるアルキレン基が直鎖状又は分岐状の場合、アルキレン基の炭素数は、1〜12であることが好ましく、2〜10であることがより好ましく、2〜6であることが更に好ましい。
【0041】
また、Lにおけるアルキレン基が環状の場合、Lとしては脂環基(シクロ環基)が挙げられる。環状のアルキレン基は、炭素数5〜6のシクロ環基であってもよく、具体例としてシクロへキシレンなどが好適である。
【0042】
Lにおけるアリーレン基は、炭素数が6〜10であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。アリーレン基における結合位置は特に制限されない。例えばアリーレン基がフェニレン基の場合、結合位置は1位と4位、1位と2位、及び1位と3位のいずれであってもよく、1位と2位であることが好ましい。
【0043】
Lにおけるアルキレン基及びアリーレン基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、フェニル基などが挙げられる。
【0044】
一般式(1)におけるLで表される2価の連結基は、耐アルコール性をより高める点から、下記の一般式(2)又は一般式(3)で表される2価の連結基であることが好ましい。
【0045】
【化2】
【0046】
一般式(2)及び(3)中、R21〜R24はそれぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数6〜10のアリーレン基を示す。nは0〜10の数を示し、mは1〜10の数を示す。
【0047】
21〜R24におけるアルキレン基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。環状のアルキレンとしては、シクロアルキレンが好ましく、例えばシクロへキシレンがより好ましい。
21〜R24における、アリーレン基及びシクロアルキレン基における結合位置は特に制限されない。アリーレン基が例えばフェニレン基である場合又はシクロアルキレン基が例えばシクロヘキシレン基の場合、結合位置は1位と4位、1位と2位、及び1位と3位のいずれであってもよく、1位と2位であることが好ましい。
【0048】
一般式(2)において、R21及びR22におけるアルキレン基は、それぞれ独立に、炭素数が2〜10であることが好ましく、炭素数が2〜6であることがより好ましい。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロへキシレン基等が挙げられる。
21及びR22におけるアルキレン基は、同一であっても異なっていてもよい。
また、R21及びR22におけるアリーレン基は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。
【0049】
一般式(2)におけるR21及びR22は、耐アルコール性の点から、それぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルキレン基がより好ましく、炭素数2〜6であって直鎖状又は分岐状のアルキレン基であることが更に好ましい。
【0050】
一般式(2)において、nは0〜10の数を表す。(メタ)アクリル系重合体が、一般式(1)で表される構成単位を1種類のみ含む場合には、nは整数であり、2種以上含む場合には、nは平均値である有理数となる。nは0〜4であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。
【0051】
一般式(3)において、R23は、炭素数1〜12のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数2〜4のアルキレン基であることが更に好ましい。
【0052】
24は、炭素数2〜6の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数4〜8の環状アルキレン基(2価のシクロ環基)、又は炭素数6〜10のアリーレン基であることが好ましく、炭素数2〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数5〜6のシクロ環基、又はフェニレン基であることがより好ましく、炭素数2〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、シクロヘキシレン基、又はフェニレン基であることが更に好ましい。
【0053】
一般式(3)において、mは1〜10の数を表す。(メタ)アクリル系重合体が、一般式(1)で表される構成単位を1種類のみ含む場合には、mは整数であり、2種以上含む場合には、mは平均値である有理数となる。mは1〜4であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。
【0054】
上記の中でも、一般式(1)におけるLで表される2価の連結基は、一般式(2)で表される連結基が特に好ましい。Lとして一般式(2)で表される連結基を有していることで、耐アルコール性がより良好なインク層が得られる。
【0055】
一般式(1)で表される構成単位は、例えば、下記一般式(1a)で表される単量体を、(メタ)アクリル系重合体を構成する他の単量体と共重合することにより、(メタ)アクリル系重合体に導入することができる。
【0056】
【化3】
【0057】
一般式(1a)中、R及びLは、一般式(1)におけるR及びLとそれぞれ同義である。
【0058】
一般式(1a)で表される単量体は、常法により製造したものであっても、市販の単量体から適宜選択したものであってもよい。一般式(1a)で表される単量体のうちLが一般式(2)で表される単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ダイマー(好ましくは、一般式(2)におけるnの平均値が約0.4のもの)、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート(好ましくは、一般式(2)におけるnの平均値が約2.0のもの)が挙げられる。これらの単量体は、例えば、「アロニックスM−5600」、「アロニックスM−5300」(以上、東亞合成株式会社製、商品名)として市販されているものを用いることができる。
【0059】
また、一般式(1a)で表される単量体のうちLが一般式(3)で表される単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフマル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸が挙げられる。これらの単量体は例えば「ライトエステルHO−MS」、「ライトアクリレートHOA−MS(N)」、「ライトアクリレートHOA−HH(N)」、「ライトアクリレートHOA−MPL(N)」(以上、共栄社化学株式会社製、商品名)として市販されているものを用いることができる。
【0060】
(メタ)アクリル系重合体における、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)の含有率は、構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上であれば特に限定されず、例えば、インク層を形成した際の耐熱性をより高める点から、全構成単位に対して、0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、1.0モル%以上であることが更に好ましい。また、構成単位(B)の含有率は、インク層を形成した際の加工性を好適に維持し、かつ、他の構成単位、特に後述する構成単位(C)及び架橋剤とのバランスをとり、インク層を形成した際、被印刷基材との密着性をより高める点から、15モル%以下であることが好ましく、12モル%以下であることがより好ましく、5.0モル%以下であることが更に好ましく、2.0モル%以下であることが特に好ましい。
【0061】
−塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)−
(メタ)アクリル系重合体は、塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)(以下、単に「構成単位(C)」ともいう。)を含む。
なお、構成単位(C)には、上記の構成単位(A)及び構成単位(B)は含まれない。
【0062】
塩基性基を有する単量体としては、構成単位(B)中のカルボキシ基と相互作用等することにより、疑似架橋が形成されるものであればよく、例えば、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基等のアミノ基、N原子を含むヘテロ環、アミド基などを有する単量体が挙げられる。中でも、好適に疑似架橋を形成しやすい点から、アミノ基又はアミド基を有する単量体であることが好ましい。
(メタ)アクリル系重合体における、塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)は、1種単独で又は、2種以上を組み合わせてもよい。
【0063】
アミノ基又はアミド基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMMA)、(メタ)アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル(DEMA)、メタクリル酸3−(ジメチルアミノ)プロピル、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチル,N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0064】
アミノ基又はアミド基を有する単量体の中でも、インク層を形成した際、被印刷基材に対する密着性がより高まる点から、アミノ基を有する単量体が好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸3−(ジメチルアミノ)プロピルが挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチルが好ましい。
なお、上記のアミノ基又はアミド基を有する単量体として、単独重合体としたときのガラス転移温度は、それぞれメタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルは18℃、メタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチルは20℃である。
【0065】
(メタ)アクリル系重合体における、塩基性基(好ましくはアミノ基又はアミド基)を有する単量体に由来の構成単位(C)の含有率は、例えば、インク層と、透明フィルムなどの被印刷基材との密着性をより高める点から、全構成単位に対して、0.5モル%以上であることが好ましく、2.0モル%以上であることがより好ましく、2.5モル%以上であることが更に好ましく、3.0モル%以上であることが特に好ましい。また、構成単位(C)の含有率は、他の構成単位、特に構成単位(B)とのバランスをとってインク層を形成した際の被印刷基材との密着性をより高める点から、20モル%以下であることが好ましく、15モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることが更に好ましく、6.0モル%以下であることが特に好ましい。
【0066】
また、(メタ)アクリル系重合体において、構成単位(B)に対する構成単位(C)の含有比率(構成単位(C)/構成単位(B))としては、モル基準で0.1以上15以下が好ましく、0.3以上12以下がより好ましく、1.0以上12以下が更に好ましい。構成単位(C)/構成単位(B)が0.1以上であることにより、インク層を形成した際の引張伸度により優れる傾向があり、構成単位(C)/構成単位(B)が15以下であることにより、インク層を形成した際の破断強度により優れる傾向がある。そのため、構成単位(C)/構成単位(B)が0.1以上15以下であることにより、インク層と、透明フィルムなどの被印刷基材との密着性をより高めることができる。
【0067】
構成単位(B)の含有率及び構成単位(C)の含有率の合計は、インク層と、透明フィルムなどの被印刷基材との密着性をより高める点から、全構成単位に対して、2モル%以上25モル%以下であることが好ましく、3モル%以上17モル%以下であることがより好ましく、4モル%以上10モル%以下であることが更に好ましい。
【0068】
−他の単量体に由来の構成単位−
(メタ)アクリル系重合体は、上記の構成単位(A)〜(C)以外に、他の共重合性単量体に由来する構成単位を更に含んでいてもよい。
他の共重合性単量体としては、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、カルボン酸ビニル単量体、これらの各種誘導体が挙げられる。
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジンが挙げられる。
シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。
カルボン酸ビニル単量体としては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、「バーサチック酸ビニル」(商品名、ネオデカン酸ビニル)が挙げられる。
【0069】
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)には、特に制限はないが、インク層を形成した場合の耐熱性を高める点から、5000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、50000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、インク層を形成した場合の耐熱性と加工性とのバランスを図る点から、1000000以下が好ましく、500000以下がより好ましく、300000以下が更に好ましい。
重量平均分子量は、重合反応温度、時間、有機溶媒の量などにより調整することができる。
【0070】
(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記(1)〜(3)にしたがって測定される値である。
(1)(メタ)アクリル系重合体の溶液を剥離フィルムに塗布し、100℃で2分間乾燥し、フィルム状の(メタ)アクリル系重合体を得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状の(メタ)アクリル系重合体をテトラヒドロフランにて固形分0.2質量%になるように溶解させる。
(3)以下の条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算値として(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)を測定する。
<条件>
・GPC:HLC−8220 GPC〔東ソー株式会社製〕
・カラム:TSK−GEL GMHXL4本使用
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・流速:0.6ml/min
・カラム温度:40℃
【0071】
(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、23℃以上であれば限定されず、インク層を形成した際に、インク流れの発生を抑制し、かつ耐熱性を向上させる点から、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましい。
【0072】
(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、インク層を形成した際、延伸時のインク層の追従がより良好となることで加工性がより高まる点から、60℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましい。
【0073】
(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、下記式の計算により求められる絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算した値である。なお、絶対温度(K)から273を引くことで絶対温度(K)をセルシウス温度(℃)に換算可能であり、セルシウス温度(℃)に273を足すことでセルシウス温度(℃)を絶対温度(K)に換算可能である。
【0074】
【数1】

式中、Tg、Tg、・・・・・及びTgは、単量体1、単量体2、・・・・・及び単量体nそれぞれの単量体を単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度である。m、m、・・・・・及びmは、それぞれの単量体のモル分率である。
【0075】
なお、「単独重合体としたときの絶対温度(K)で表されるガラス転移温度」は、その単量体を単独で重合して製造した単独重合体の絶対温度(K)で表されるガラス転移温度をいう。単独重合体のガラス転移温度は、その単独重合体を、示差走査熱量測定装置(DSC)(セイコーインスツルメンツ株式会社製、EXSTAR6000)を用い、窒素気流中、測定試料10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られたDSCカーブの変曲点を、単独重合体のガラス転移温度としたものである。
【0076】
本発明で用いる(メタ)アクリル系重合体の製造方法は、特に制限されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの方法で単量体を重合して製造できる。なお、(メタ)アクリル系重合体の製造後に本発明におけるインク用バインダー組成物を調製するにあたり、処理工程が比較的簡単かつ短時間で行えることから、溶液重合により製造することが好ましい。
【0077】
溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、及び、必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させる等の方法を使用することができる。なお、(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量は、例えば、反応温度、時間、溶媒量、触媒の種類、量を調整することにより、所望の値に調整できる。
【0078】
(メタ)アクリル系重合体の製造に用いられる重合用の有機溶媒としては、芳香族炭化水素化合物、脂肪系又は脂環族系炭化水素化合物、エステル化合物、ケトン化合物、グリコールエーテル化合物、アルコール化合物などが挙げられる。これらの有機溶媒はそれぞれ1種単独でも、2種以上混合して用いてもよい。また、重合開始剤としては、例えば、通常の重合方法で使用できる有機過酸化物、アゾ化合物が挙げられる。
【0079】
[架橋剤]
本発明のインク用バインダー組成物は、(メタ)アクリル系重合体とともに架橋剤を含有し、構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率は、モル基準で1.0以上である。架橋剤は、一種単独で含有されていてもよく、二種以上が併用されていてもよい。
架橋剤を含むことで、(メタ)アクリル系重合体中に含まれる構成単位(B)中のカルボキシ基と反応して架橋構造が形成される。
なお、本発明のインク用バインダー組成物において、(メタ)アクリル系重合体における構成単位(A)〜(C)の含有率は、例えば、熱分解ガスクロマトグラフィーにより定量することが可能であり、架橋剤の含有率については、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アジリジン化合物はIR(赤外分光法)により、金属キレート化合物はICP−MASS(誘導結合プラズマ質量分析法)によりそれぞれ定量することが可能である。
これにより、本発明のインク用バインダー組成物において、構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率を求めることが可能である。
【0080】
架橋剤としては、(メタ)アクリル系重合体中に含まれる構成単位(B)が有するカルボキシ基と反応して架橋構造を形成できるものであれば特に限定されず、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、金属キレート化合物が挙げられる。イソシアネート化合物、エポキシ化合物等を用いる場合に比べ、ポットライフが長く貯蔵安定性に優れる点から、架橋剤としては、金属キレート化合物が好ましい。
【0081】
金属キレート化合物としては、例えば、アルミニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、ジルコニウムキレート化合物、コバルトキレート化合物が挙げられる。中でも、アルミニウムキレート化合物が好ましい。
【0082】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)が挙げられる。中でも、インク層を形成した場合の耐熱性と加工性とのバランスがより良好になる点で、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)が好ましい。
【0083】
また、アルミニウムキレート化合物としては、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、川研ファインケミカル株式会社製のアルミキレートD、アルミキレートA、ALCH−TRが挙げられる。
【0084】
構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率は、モル基準で1.0以上である。構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率は、インク層を形成した際に破断強度及び引張伸度がより優れ、被印刷基材との密着性をより高めることができる点から、モル基準で2.0以上であることがより好ましく、2.5以上であることが更に好ましい。また、構成単位(B)に対する架橋剤の含有比率は、破断強度及び引張伸度の向上が好適に見られる点から、モル基準で12以下であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることが更に好ましい。
【0085】
[有機溶媒]
本発明のインク用バインダー組成物は、有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒を含むことにより粘度を適宜調整できるため、透明フィルムなどの被印刷基材に対する塗布性(印刷作業性)が向上する。
有機溶媒としては、特に制限はなく、後述するインクに用いられる有機溶媒が挙げられる。
【0086】
[他の成分]
本発明のインク用バインダー組成物は、本発明の効果を著しく損なわない範囲内において、(メタ)アクリル系重合体、架橋剤及び有機溶媒以外の他の成分を更に含んでもよい。
他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、タッキファイヤー、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物などの光安定剤等が挙げられる。
【0087】
<インク用材料セット>
本発明のインク用材料セットは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)、及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含み、ガラス転移温度が23℃以上である(メタ)アクリル系重合体を含む第1の材料と、架橋剤を含み、前記構成単位(B)に対する前記架橋剤の含有比率が、モル基準で1.0以上である第2の材料と、を有する。
【0088】
(メタ)アクリル系重合体を含む第1の材料と、所定量の架橋剤を含む第2の材料と、を用いてインク層を形成した場合、インク用バインダー組成物と同様、インク層と、透明フィルムなどの被印刷基材との密着性を高めることができる。
本発明のインク用材料セットは、(メタ)アクリル系重合体を含む材料と、架橋剤を含む材料と、の2つの材料を有する点で、インク用バインダー組成物と区別される。
また、本発明のインク用材料セットは、例えば架橋剤としてイソシアネート化合物、エポキシ化合物、金属キレート化合物等を用いた場合であっても、(メタ)アクリル系重合体を含む第1の材料と、架橋剤を含む第2の材料とが別々のものであるため、保管中に架橋反応が進行せず、貯蔵安定性に優れる。
【0089】
<インク>
本発明のインクは、インク用バインダー組成物と、顔料、染料等の着色剤と、を含有する。これにより、インク層を形成した場合に、透明フィルムなどの被印刷基材との密着性を高めることができる。
【0090】
なお、本発明のインクは、有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒を含むことにより粘度を適宜調整できるため、透明フィルムなどの被印刷基材に対する塗布性(印刷作業性)が向上する。
有機溶媒としては、特に制限はなく、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンに代表される炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロプロパンに代表されるハロゲン化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールに代表されるアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランに代表されるエーテル系溶媒、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンに代表されるケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸エチルに代表されるエステル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに代表されるポリオール系溶媒、並びにこれらの誘導体等が挙げられる。
【0091】
なお、本発明のインクは、(メタ)アクリル系重合体の重合溶媒として用いられる有機溶媒を含んでいてもよい。本発明のインクが有機溶媒を含むことにより、被印刷基材に対する塗布性を向上させることができる。本発明のインクに含まれる有機溶媒は、(メタ)アクリル系重合体における重合溶媒と同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0092】
本発明のインクは、射出成形用のフィルムに用いられるものであってもよく、例えば、射出成形用のフィルムに印刷され、射出成形品を製造するために用いられるものであってもよい。
【0093】
本発明のインクは、インク用バインダー組成物と同様に、他の成分を含んでいてもよい。
本発明のインクは、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷等の各種印刷に用いることができる。
なお、インク用バインダー組成物に、必要に応じ前述の有機溶媒を加え粘度を調整することでクリアインクとして用いることができる。クリアインクは、本発明のインクと同様に、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷等の各種印刷に用いることができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0095】
<(メタ)アクリル系重合体の製造>
(製造例1)
温度計、攪拌機、及び還流冷却管を備えた反応器内に、メタクリル酸メチル(MMA)58質量部(58.8mol%)、アクリル酸エチル(EA)36質量部(36.6mol%)、アクリル酸(AA)1質量部(1.4mol%)、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMMA)5質量部(3.2mol%)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート67質量部を入れて混合し、反応器内を窒素置換した。その後、得られた混合物を撹拌しながら80℃まで昇温した。その温度を0.5時間保った後、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート50質量部、及び2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.33質量部の混合液を3時間にわたって逐次滴下した。
滴下終了後、4時間重合反応を行った。重合反応終了後の反応混合物をエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートで希釈し、重合体の固形分を30質量%に調整した。
このようにして、(メタ)アクリル系重合体の溶液を得た。
【0096】
(製造例2〜製造例17)
製造例1において、(メタ)アクリル系重合体の製造に用いる単量体を下記表1に示す単量体に変更し、表1に示すガラス転移温度(Tg)となるように重合条件を調整したこと以外は、製造例1と同様にして、(メタ)アクリル系重合体の溶液を得た。
なお、表1に記載の組成は、構成単位ごとにモル%の値を記載している。また、表1中のC/Bは、構成単位(B)に対する構成単位(C)の含有比率(構成単位(C)/構成単位(B))を意味する。
【0097】
なお、下記表1に記載の各成分の詳細は以下の通りである。
・MMA:メタクリル酸メチル((メタ)アクリル酸アルキルエステル)
・EA:アクリル酸エチル((メタ)アクリル酸アルキルエステル)
・BA:アクリル酸n−ブチル((メタ)アクリル酸アルキルエステル)
・AA:アクリル酸(カルボキシ基を有する単量体)
・MAA:メタクリル酸(カルボキシ基を有する単量体)
・HOA−MS:2−アクリロイルオキシエチルコハク酸((一般式(1a)で表される単量体)(商品名:ライトアクリレートHOA−MS(N)、共栄社化学株式会社製)(カルボキシ基を有する単量体)
・M−5300:ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート(一般式(1a)で表される単量体)(商品名:アロニックスM−5300、東亞合成株式会社製)(カルボキシ基を有する単量体)
構造式 : CHCHCOO(C10COO)H 〔n≒2〕
・DMMA:メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(塩基性基を有する単量体)
・DEMA:メタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル(塩基性基を有する単量体)
【0098】
ここで、製造例1〜製造例15では、(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(A)、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)、及び塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含み、ガラス転移温度が23℃以上である。
これに対して、製造例16では、(メタ)アクリル系重合体は、塩基性基を有する単量体に由来の構成単位(C)を含んでいない。また、製造例17では、(メタ)アクリル系重合体は、ガラス転移温度が23℃未満である。
【0099】
(実施例1)
上記の製造例1で得た(メタ)アクリル系重合体の溶液333質量部(重合体の固形分30質量%(100質量部))と、架橋剤である金属キレート化合物としてアルミキレートD(川研ファインケミカル株式会社製のアルミニウムキレート:アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)76質量%イソプロパノール溶液)9.6質量部と、アセチルアセトン(有機溶媒)9.6質量部と、エチレングリコールモノブチルグリコール(有機溶媒)を固形分30質量%になるように適宜調整して容器に計り取り、スパチュラで全体が均一になるまで撹拌混合を行い、バインダー組成物を調製した。
調製されたバインダー組成物に、有機溶媒を加えることで、各種印刷に好ましく用いられる。
なお、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)に対する金属キレート化合物の含有比率(表1中の「架橋剤/B」)は、モル基準で1.0であった。
【0100】
上記で得たバインダー組成物を用い、以下の手順でバインダーシートを作製した。なお、実施例において、インク層は、バインダー組成物により形成され、着色剤を含まない層を意味する。
まず、シリコーン系離型剤で表面処理された剥離フィルムの離型剤処理面に、乾燥後の塗布量が20μmになるようにバインダー組成物をドクターブレードを用いて塗布した。次いで、剥離フィルム上に塗布されたバインダー組成物を、熱風循環式乾燥機を用いて80℃で1時間乾燥させることにより、剥離フィルム上にインク層を形成したバインダーシートを作製した。
【0101】
(実施例2、3)
実施例1において、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)に対する金属キレート化合物の含有比率をそれぞれ3.0又は12.0に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物を調製し、バインダーシートを作製した。
【0102】
(実施例4〜11、14〜19)
実施例1において、上記の製造例1で得た(メタ)アクリル系重合体の溶液に代えて上記の製造例2〜15で得た(メタ)アクリル系重合体の溶液をそれぞれ用い、かつ、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)に対する金属キレート化合物の含有比率を3.0に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物を調製し、バインダーシートを作製した。
【0103】
(実施例12、13)
実施例2において、金属キレート化合物及びアセチルアセトンに代えて下記のイソシアネート化合物及びエポキシ化合物をそれぞれ用いたこと以外は、実施例2と同様にして、バインダー組成物を調製し、バインダーシートを作製した。
・イソシアネート化合物:コロネートL−45E、東ソー株式会社製
・エポキシ化合物:TETRAD−C、三菱ガス化学株式会社製
【0104】
(比較例1)
実施例1において、カルボキシ基を有する単量体に由来の構成単位(B)に対する金属キレート化合物の含有比率を0.5に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物を調製し、バインダーシートを作製した。
【0105】
(比較例2、3)
実施例2において、上記の製造例1で得た(メタ)アクリル系重合体の溶液に代えて上記の製造例16、17で得た(メタ)アクリル系重合体の溶液をそれぞれ用いたこと以外は、実施例2と同様にして、バインダー組成物を調製し、バインダーシートを作製した。
【0106】
(評価)
上記の実施例及び比較例で得られたバインダー組成物及びバインダーシートについて、以下の測定及び評価を行った。測定及び評価の結果は、下記表2に示す。
【0107】
−1.破断強度及び引張伸度−
上述のようにして作製したバインダーシートの破断強度及び引張伸度を以下のようにして測定した。まず、作製したバインダーシートを、30mm×10mmの大きさに切断し、試験片とした。この試験片をテンシロン(AND社製 RTF−1350)で、チャック幅10mm、幅10mmとし、80℃に設定した恒温槽で5分間保持した。次いで80℃雰囲気下で、100mm/minの条件で試験片を引っ張り、試験片が破断するまでの荷重(破断強度)及び伸び(引張伸度)をそれぞれ測定した。そして、下記の評価基準にしたがって破断強度及び引張伸度を評価した。既述のとおり、破断強度及び引張伸度は、いずれも、大きければ被印刷基材との密着性が優れる。評価基準のうち、A又はBが許容範囲である。
<評価基準>
A:破断強度が4MPa以上かつ引張伸度が3×10%以上である。
B:破断強度が1MPa以上4MPa未満かつ引張伸度が3×10%以上である、あるいは、破断強度が4MPa以上かつ引張伸度が1×10%以上3×10%未満である。
C:破断強度が1MPa未満又は引張伸度が1×10%未満である。
【0108】
−2.ポットライフ−
それぞれの実施例及び比較例における調製直後のバインダー組成物を測定サンプルとし、測定サンプルの粘度(η)をBH型粘度計にて測定した。その後、測定サンプルを密閉し、23℃で8時間静置した後、再びBH型粘度計を用い、静置前と同様にして測定サンプルの粘度(η)を測定した。得られた測定値から、初期粘度(η)に対する8時間静置後の粘度(η)の比率(η/η)を求め、下記の評価基準にしたがってポットライフを評価した。η/ηが1に近ければ、粘度変化が小さく、ポットライフが良好であり、印刷作業性に優れる。評価基準のうち、A又はBが許容範囲である。
<評価基準>
A:η/ηの値が1.1倍以下である。
B:η/ηの値が1.1倍より大きく、かつ、2倍以下である。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示すように、実施例で得られたバインダー組成物は、密着性が高く、かつポットライフが長く貯蔵安定性にも優れていた。
これに対して、比較例で得られたバインダー組成物は、いずれも密着性が十分ではなかった。
より詳細には、比較例1では、構成単位(B)に対する金属キレート化合物の含有比率は1.0未満であるため、破断強度が1MPa未満であり、密着性が十分ではなかった。
次に、比較例2では、(メタ)アクリル系重合体中に構成単位(C)が含まれていないため、破断強度が1MPa未満及び引張伸度が1×10%未満であり、密着性が十分ではなかった。
また、比較例3では、(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度が23℃未満であったため、破断強度が1MPa未満であり、密着性が十分ではなかった。