(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記情報生成部は、前記評価対象区間で計測されたレールの高さ情報から、レールの弦高低変位が最も大きい代表箇所を求め、前記評価対象区間の軌道変位情報として複数時点における前記代表箇所のレールの弦高低変位の値を計算することを特徴とする請求項1記載の軌道評価システム。
前記評価部が計算する評価値には、軌道の保守工事後の初期沈下量と、初期沈下後の弦高低変位の変化量とが含まれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軌道評価システム。
鉄道車両に搭載された計測装置により走行中に計測されたレールの高さ情報を蓄積し、
蓄積された前記レールの高さ情報に基づいて複数時点における評価対象区間のレールの弦高低変位の値を含んだ軌道変位情報を生成し、
変位理論式(A)のパラメータα、β、γ、δの初期値及び前記パラメータα、β、γの制約条件を定めて、生成された前記軌道変位情報に下記変位理論式(A)がフィッティングするように一般化簡約勾配法を用いてパラメータα、β、γ、δを求め、
【数2】
ここで、yは弦高低変位、xは施工後の経過度数、αは道床の圧密性、βは圧密過程後の安定性、γは圧密過程の影響度、δは施工直後の残留変位の補正量
フィッティングされた変位理論式(A)を用いて前記評価対象区間の軌道の評価値を計算することを特徴とする軌道評価方法。
【背景技術】
【0002】
軌道は列車荷重を受けて高低方向の変位(以下「高低変位」と言う)が生じる。軌道とは、レール、枕木及び道床などを含んだ線路構造物を意味する。従来、道床つき固めを行った後の道床の沈下量について理論式(1)が確立されている(非特許文献1を参照)。
【数1】
ここで、xは荷重繰り返し数、yはレール上面の沈下量、αは道床の圧密性、βは圧密過程後の安定性、γは圧密過程の影響度である。
保守工事等で道床のつき固めを行った場合、理論式(1)にも示されるように、道床には初期の段階で比較的に大きな高低変位が生じ、その後、緩やかな高低変位が継続することが多い。
【0003】
実際の軌道において道床の沈下量の絶対値を計測することは難しく、通常、軌道の高低変位はレール上の1点と前後の2点との間の相対的な差として計測される。具体的には、1本のレールの任意の2点間に弦を張り、その弦を基準線として、弦の中点の鉛直方向にレールの高さと基準線との差を計測する。このように計測された高低変位は、弦の長さを指定して、例えば「10m弦高低変位」(弦の長さが10mである場合)のように呼ばれる。
従来、鉄道会社においては、軌道の保守工事を行ったときに、施工直後のレールの弦高低変位を計測し、その後、一定の期間(例えば2か月)を開けて、再度、レールの弦高低変位を計測し、これらの計測値に基づいて軌道及び保守工事の評価を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軌道の評価又は保守工事の評価を正確に行うことができれば、これらの評価結果を参考に、軌道のメンテナンスの高効率化を図ることができると期待される。
しかしながら、上記従来のように、単に、軌道の保守工事の施工直後と所定期間後にレールの弦高低変位を計測しただけでは、軌道の高低変位の傾向を正確に把握することは難しい。なせなら、先に述べたように、軌道の高低変位は、保守工事の直後に比較的に大きな初期沈下が生じ、その後に緩やかな高低変位が継続するといった特徴を有する。このため、初期沈下の期間と、その後の緩やかな高低変位の期間とを切り分けることができないと、高低変位の傾向を正確に把握することができない。
【0006】
近年、営業車両の下部に計測装置を搭載し、列車の営業走行中に軌道の様々な部分の計測を行って計測データを収集する線路設備モニタリング装置の導入が進められている。そこで、本発明者らは、線路設備モニタリング装置により収集された多数の計測データと、理論式(1)とを用いて、軌道の高低変位の傾向を正確に把握し、軌道又はその保守工事の正確な評価が行えるのではないかと検討した。
【0007】
しかしながら、線路設備モニタリング装置の計測データから得られる軌道の高低変位に関わる量は、高低変位の絶対値ではなく、レールの高さ位置の前後区間の相対値である弦高低変位である。弦高低変位は、保守工事の直後でも、ゼロにならずに或る値を持つ場合が多い。一方、理論式(1)は、道床つき固めを行ったときに沈下量がゼロとなる。このため、そのままでは、理論式(1)に計測データを適合することができないという課題があった。
本発明は、軌道又はその保守工事を正確に評価し、軌道のメンテナンスの高効率化に寄与できる軌道評価システム又は軌道評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、
鉄道車両に搭載された計測装置により走行中に計測されたレールの高さ情報に基づいて複数時点における評価対象区間のレールの弦高低変位の値を含んだ軌道変位情報を生成する情報生成部と、
前記情報生成部により生成された前記軌道変位情報に下記変位理論式(A)がフィッティングするようにパラメータα、β、γ、δを求める分析部と、
【数2】
ここで、yは弦高低変位、xは施工後の経過度数、αは道床の圧密性、βは圧密過程後の安定性、γは圧密過程の影響度、δは施工直後の残留変位の補正量
前記分析部でフィッティングされた変位理論式(A)を用いて前記評価対象区間の軌道の評価値を計算する評価部と、
を備えることを特徴とする軌道評価システムである。
【0009】
この構成によれば、変位理論式(A)には、道床の沈下量を表わす理論式に備わるパラメータα、β、γと、施工直後の弦高低変位の残留変位の補正量を表わすパラメータδとが含まれるため、保守工事の施工後の実際の弦高低変位の変化に適合可能となる。さらに、鉄道車両から計測されたレールの高さ情報を用いることで、多くのタイミングで計測された多くの弦高低変位のデータを容易に取得することができる。そして、これらの軌道変位情報に変位理論式(A)をフィッティングさせることで、評価対象区間のレールの弦高低変位を良く表わすことのできる関数を求めることができる。そして、この関数に基づいて軌道の正確な評価値を計算することができる。
【0010】
ここで、前記情報生成部は、前記評価対象区間で計測されたレールの高さ情報から、レールの弦高低変位が最も大きい代表箇所を求め、前記評価対象区間の軌道変位情報として複数時点における前記代表箇所のレールの弦高低変位の値を計算するように構成してもよい。
この構成によれば、最も弦高低変位が大きくなる代表箇所について軌道の評価を行うことができる。
【0011】
さらに、前記評価部が計算する評価値には、軌道の保守工事後の初期沈下量と、初期沈下後の弦高低変位の変化量とが含まれるように構成してもよい。
この構成によれば、初期沈下後の弦高低変位の変化量により、その後の弦高低変位の傾向を予測することができる。さらに、初期沈下量のデータにより、総合的な高低変位量の推移を把握することができる。これらにより、軌道及び保守工事の正確な評価を行うことができ、効率的なメンテナンスの策定に寄与することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る軌道評価システムは、
保守工事情報を取得する情報取得部を備え、
前記評価部は、計算された評価値に基づいて、評価対象区間で施工された保守工事の評価を行うように構成してもよい。
この構成によれば、保守工事の評価により、評価対象区間の軌道に対して、施工された保守工事が効果的であったか否かを判断でき、この判断結果により、その後の効率的なメンテナンス計画の策定に寄与することができる。
【0013】
また、本発明に係る軌道評価方法は、
鉄道車両に搭載された計測装置により走行中に計測されたレールの高さ情報を蓄積し、
蓄積された前記レールの高さ情報に基づいて複数時点における評価対象区間のレールの弦高低変位の値を含んだ軌道変位情報を生成し、
変位理論式(A)のパラメータα、β、γ、δの初期値及び前記パラメータα、β、γの制約条件を定めて、生成された前記軌道変位情報に下記変位理論式(A)がフィッティングするように一般化簡約勾配法を用いてパラメータα、β、γ、δを求め、
【数3】
ここで、yは弦高低変位、xは施工後の経過度数、αは道床の圧密性、βは圧密過程後の安定性、γは圧密過程の影響度、δは施工直後の残留変位の補正量
フィッティングされた変位理論式(A)を用いて前記評価対象区間の軌道の評価値を計算する。
【0014】
この軌道評価方法によれば、大きな計算負荷をかけずに評価対象区間のレールの弦高低変位に良く適合した関数を得ることができる。したがって、この関数を用いて、軌道の正確な評価を行うことができ、この評価により、軌道の効率的なメンテナンス計画の策定に寄与することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、軌道又はその保守工事を正確に評価し、軌道のメンテナンスの高効率化に寄与できる軌道評価システム又は軌道評価方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
本発明の実施形態の軌道評価システム1は、軌道の計測データに基づいて軌道の高低変位に関する評価と、軌道の保守工事に関する評価とを行う装置である。軌道とは、レール181、枕木182及び道床183を含む線路構造物を意味する。軌道評価システム1は、コンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)10、RAM(Random Access Memory)11、表示部12、マウス又はキーボード等の操作部13、データ入力用のインタフェース14及び記憶装置15を備える。
【0019】
記憶装置15には、軌道の計測データが格納される計測データ格納部151と、軌道の保守工事の施工実績のデータが格納される保守工事施工実績データ格納部152とが設けられている。また、記憶装置15には、軌道の評価を行うための評価処理プログラム153が格納されている。評価処理プログラム153を実行するCPU10が、本発明に係る情報生成部、分析部及び評価部として機能する。また、保守工事施工実績データを入力するインタフェース14が、本発明に係る情報取得部の一例に相当する。
【0020】
軌道評価システム1は、通信ネットワークNを介して、計測装置102から軌道の計測データを入力する。計測データは、一旦、別のサーバ装置に転送されかつ収集されてから軌道評価システム1に送られてもよい。計測装置102は、商業車両(鉄道車両)100の下部に搭載され、商業車両100の商業運行時に駆動して、計測デバイス101により例えばレール181の上面の高低方向の位置を計測する。計測デバイス101は、特に制限されるものでないが、例えば計測対象の3次元形状を計測する3次元スキャナ及び加速度センサを備え、加速度と計測距離とからレール181の上面の位置を計測できる。計測データには、評価対象区間における各箇所の計測値及び数多くの時点で計測された計測値が含まれる。計測データには、各計測値と計測箇所及び計測日時の情報と対応付けられて登録される。
【0021】
軌道評価システム1は、設備管理サーバ200から保守工事情報として保守工事の施工実績データを入力する。保守工事施工実績データは、施工された保守工事の種類、日時、施工対象の路線及び区間の情報が含まれる。
【0022】
<評価処理>
続いて、軌道評価システム1において実行される評価処理について説明する。
図2は、CPUにより実行される評価処理の手順を示すフローチャートである。
図3は、
図2のステップS14の変位理論式フィッティング処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
評価処理が開始されると、まず、CPU10は、記憶装置15に格納された保守工事実績データから、保守工事の行われた区間を評価対象区間に設定する(ステップS11)。ここでは、複数の評価対象区間が設定されてもよい。次に、CPU10は、計測データ格納部151に格納された計測データから評価対象区間のデータを抽出する(ステップS12)。さらに、CPU10は、評価対象区間のうち代表箇所の10m弦高低変位を収集する(ステップS13)。代表箇所とは、評価対象区間のうち、最大の高低変位を有する箇所であり、CPU10が計測データに基づいて判断する。ステップS11〜S13の処理を実行するCPU10が、本発明に係る情報生成部の一例に相当する。
【0023】
図4は、評価対象区間の10m弦高低変位の時系列データを示すグラフである。
図4に示すように、ステップS13の処理により、評価対象区間の代表箇所の10m弦高低変位の時系列データが収集される。
図4は、日時aに保守工事が実施された評価対象区間のデータを示している。
【0024】
時系列データが収集されたら、CPU10は、収集された時系列データを、次の変位理論式(2)にフィッティングする演算処理を実行する(ステップS14)。ステップS14の処理を実行するCPU10が、本発明に係る分析部の一例に相当する。
【数4】
ここで、yは10m弦高低変位、xは施工後の経過日数、αは道床の圧密性、βは圧密過程後の安定性、γは圧密過程の影響度、δは施工直後の残留変位の補正量を示す。施工後の日数は、本発明に係る「施工後の経過度数」の一例に相当する。高低変位は、列車の通過などの道床に荷重が加わる回数に応じて進行するため、式(2)中の引数xは荷重が加わる回数に比例した量が適用されればよい。本実施形態では、軌道に荷重が加わる回数は、列車の通過回数にほぼ比例し、列車の通過回数は日数に凡そ比例することから、引数xを施工後の経過日数としている。
【0025】
パラメータα、β、γ、δは、保守工事(道床つき固め等)直後の軌道の状態に応じた定数であり、軌道の特性及び保守工事の内容等によって異なる値をとる。さらに、パラメータδは、式(2)に施工直後に残留している高低変位の値を関数中に含めるためのパラメータである。式(2)は10m弦高低変位の経過を表わす式であるため、施工直後でもyはゼロ以外の値をとることがあり、パラメータδの値によって、このような場合に変位理論式(2)をより適合させることが可能となる。
【0026】
変位理論式(2)は、指数関数項と1次関数項とを含む非線形な関数であり、最小二乗法でパラメータα、β、γ、δの最適解を求めることが難しい。そこで、本実施形態では、パラメータに一般化簡約勾配法により、パラメータα、β、γ、δの最適解を求める。一般化簡約勾配法は、パラメータに初期値と制約条件を与え、これらに基づく条件でパラメータを動かし、パラメータの最適解を求める方法である。この方法を採用することで、大きな計算負荷をかけずに変位理論式(2)のフィッティングを行うことができる。
【0027】
図3に示すように、変位理論式フィッティング処理では、先ず、CPU10は、パラメータα、β、γ、δについて、一般化簡約勾配法で使用する初期値を次のように計算する(ステップS21)。
パラメータαは、道床の圧密性を示すパラメータであり、全体的な高低変化に対する指数関数的な変化の影響度を表わす。指数関数的な変化は施工後初期の段階で生じ、指数関数的な高低変位が支配的に表われる期間が、初期沈下(圧密過程)の期間に相当する。一般に、施工後の初期沈下が続く期間は14日程度であることが多いため、x=14のときの指数関数項の影響度合い(exp(−α・14))が、施工直後における指数関数項の影響度合いの1割(exp(0)×0.1)となるようにパラメータαの初期値α
0を計算する。すなわち、exp(−α・14)=0.1となるように、初期値α
0が、次式(3)のように計算される。
【数5】
【0028】
パラメータβは、圧密過程後の安定性を表わし、yの一次関数項の係数である。したがって、パラメータβの初期値β
0は、計測データの一次回帰直線の傾きを最小二乗法で求めた値とする。
【数6】
【0029】
パラメータγは、初期沈下(圧密過程)の大きさを表わす。したがって、次の式(5)、(6)に示すように、上記の一次回帰直線の切片bと、施工直後(x=0)のyの計測値y(x)との差を、パラメータγの初期値γ
0として計算する。
【数7】
【0030】
パラメータδは、変位理論式(2)中のyの初期値y(x=0)の補正項であり、変位理論式(2)はx=0のときにy≒δ−γとなる。そして、yの初期値がゼロとなるようにパラメータδの初期値δ
0を計算する。したがって、初期値δ
0は、上記の一次回帰直線の切片bを用いて、次式(7)のように計算される。
【数8】
【0031】
図5は、フィッティング過程の変位理論式の関数曲線を示すグラフ(A)とフィッティングを完了した変位理論式の関数曲線を示すグラフ(B)である。
図5(A)は、パラメータα、β、γ、δとして初期値α
0、β
0、γ
0、δ
0を与えたときの変位理論式(2)の値を示している。
図5(A)から、初期値が与えられた変位理論式(2)は、計測データと比較して誤差が含まれるものの、計測データに近い値を示していることが分かる。なお、
図5(A)の施工日時aより前のグラフ線は、施工直後の計測データが取得されていないので、指数関数項の影響が無くなるように計算された関数の曲線を示している。
【0032】
初期値が計算されたら、CPU10は、パラメータα、β、γについて、一般化簡約勾配法で使用する制約条件を、次のように計算する(ステップS22)。
先ず、パラメータαについては、初期沈下(圧密過程)は日数の経過に伴って収束すると仮定されるため、α<0は考慮しないでよい。このため式(8)の条件が適用される。一方、本実施形態では、最も高頻度に計測が行われたとしても、1日に1回の計測となることを想定している。このため、1日未満で初期沈下が終了した場合には、初期沈下を評価できず、初期沈下がなかったものと見なされる。したがって、x=1における指数関数項の影響度合い(exp(α×1))が、施工直後の1割以下(exp(0)×0.1)となるαを上限とした。このため、式(9)の条件を適用できる。その結果、式(10)の制約条件が採用される。
【数9】
【0033】
パラメータβについて、式(4)により計算した初期値β
0は初期沈下を含んだ傾きである。このため、初期沈下後の傾きとなるべきβの値は、初期値β
0を超えないと考えられる。したがって、βの制約条件は式(11)、(12)のように設定する。
【数10】
【0034】
パラメータγは指数関数項に乗じられる係数であり、最大に見積もってδ=0の場合においても、指数関数項による変位が、施工直後の計測値y
0=y(x=0)と最後の計測値y
n=y(x=n)との差以上にならないと考えられる。さらに、β≦0のとき指数関数項は下に凸(γ>0)となり、β>0のとき指数関数項は上に凸(γ<0)となる。したがって、γの制約条件は式(13)、(14)のように設定する。
【数11】
【0035】
制約条件が計算されたら、CPU10は、一般化簡約勾配法のアルゴリズムを用いて、変位理論式(2)を計測データにフィッティングする計算を行う(ステップS23)。
図5(B)は、フィッティング完了後の変位理論式(2)の値を示しており、計測データによく合致しているのが分かる。
【0036】
次に、CPU10は、ステップS14で求められた変位理論式(2)を用いて、施工前後の評価値を計算し(ステップS15)、評価結果を記憶装置15に格納する(ステップS16)。
図6は、評価値の一覧表の例を示す図である。ステップS15で計算される評価値には、
図6に示されるように、初期沈下日数、初期沈下量[mm]、施工前変化量[mm/100日]、施工後変化量[mm/100日]、施工前変化量[mm/百万トン]、施工後変化量[mm/百万トン]などが含まれる。
【0037】
初期沈下日数は、1日当たりの沈下量が0.1mmに落ち着くまでの日数を示す。初期沈下量は、初期沈下終了時点までの総沈下量を示す。施工前変化量[mm/100日]及び施工後変化量[mm/100日]は、施工前と施工後における初期沈下終了後の100日当たりの弦高低変位の変化量を示す。施工前変化量[mm/百万トン]と施工後変化量[mm/百万トン]とは、施工前変化量[mm/100日]と施工後変化量[mm/100日]を、軌道を通過する列車の総重量に応じて百万トン毎の変化量に換算した値を示す。
【0038】
ステップS11で複数の評価対象区間が設定された場合、CPU10は、各々の評価対象区間についてステップS12〜ステップS16の処理を実行する。そして、複数の評価対象区間の評価値を計算したら、CPU10は、
図6のような評価結果の一覧を出力する(ステップS17)。
図6の一覧表は、79個の評価対象区間における、年間の列車の通過総重量(「通トン」と記す)、保守工事の施工日、及び、上述の6種類の評価値をそれぞれ示している。
【0039】
このような評価結果により、例えば、
図6に網掛けの行で示したように、継続的に生じる緩やかな弦高低変位が、施工前より施工後の方が大きくなっている評価対象区間を容易に見つけることが可能となる。また、例えば3年後の弦高低変位を予測したり、各評価対象区間におい弦高低変位が要整備基準値に達する期間を予測したりすることが可能となる。
【0040】
続いて、CPU10は、ステップS13で計算した評価値を用いて、幾つかの統計データの集計及び出力を行う(ステップS18)。
図7〜
図9は、評価結果から作成した統計データの第1例〜第3例を示すグラフである。例えば、CPU10は、
図7に示すように、施工後変化量[mm/100日]についてのヒストグラムを作成及び出力してもよい。これにより、例えば3年以内に再度の保守工事が必要となる「繰り返し補修箇所」の数を容易に集計することが可能となる。また、CPU10は、
図8に示すように、施工前変化量と施工後変化量との差を、施工前後の改善量として計算し、改善量についてヒストグラムを作成及び出力してもよい。これにより、保守工事により軌道状態が良化した評価対象区間の数と、悪化した評価対象区間の数等を容易に比較することが可能となる。また、CPU10は、
図9に示すように、初期沈下の日数についてヒストグラムを作成及び出力してもよい。これにより、初期沈下後の検査を行う場合に最適な日数を検討することが容易となる。ステップS15〜S18の処理を実行するCPU10が、本発明に係る評価部の一例に相当する。
【0041】
以上のように、本実施形態の軌道評価システム1及び軌道評価方法によれば、変位理論式(2)に、道床の沈下量を表わす理論式(1)に備わるパラメータα、β、γと、施工直後の弦高低変位の残留変位の補正量を表わすパラメータδとが含まれる。このため、変位理論式(2)は、保守工事の施工後の実際の弦高低変位の変化に適合可能な関数となる。さらに、営業車両の下部に搭載された計測装置102により計測されたレールの高さ情報を取得することで、多くのタイミングで計測された多くの弦高低変位のデータを容易に取得することができる。そして、これらの軌道変位情報に変位理論式(2)をフィッティングさせることで、評価対象区間のレールの弦高低変位を良く表わすことのできる関数を求めることができる。
さらに、本実施形態の軌道評価システム1及び軌道評価方法によれば、求められた変位理論式に基づいて、軌道の高低変位に関する評価値が計算されるので、この評価値を用いて軌道の効率的なメンテナンスの策定を行うことができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、コンピュータが自動的に軌道変位情報の生成から評価値の計算及び出力を行う構成を示したが、例えばパラメータの初期値及び制約条件の計算、評価値の統計グラフの作成など、幾つかの処理を人の手で行うようにしてもよい。また、実施形態で示した初期値及び制約条件の具体的な計算方法は、一例に過ぎない。また、上記実施形態では、変位理論式(2)を具体的に示したが、例えばパラメータδは、δ’=δ+定数のように変形してもよい。例えば、パラメータγは定数であるので、パラメータδは、δ’=δ−γのように変形してもよい。この場合、パラメータδ’は、初期の弦高低変位yを示すこととなる。すなわちy(0)=δ’とすることができる。その他、初期沈下の定義、軌道の計測周期など、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。