【実施例】
【0038】
≪グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造≫
[製造例1]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMH;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;理研ビタミン社製)400g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)100g及びアルカリ触媒として炭酸ナトリウム(高杉製薬社製)0.7gを四ツ口フラスコに仕込み、80℃から94℃まで攪拌しながら昇温し、94℃で120分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却してグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(試作品1)を得た。該エステルの酸価は109.9mgKOH/gであった。
【0039】
[製造例2]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMH;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;理研ビタミン社製)425g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)75g及びアルカリ触媒として炭酸ナトリウム(高杉製薬社製)0.7gを四ツ口フラスコに仕込み、80℃から94℃まで攪拌しながら昇温し、94℃で120分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却してグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(試作品2)を得た。該エステルの酸価は82.2mgKOH/gであった。
【0040】
≪乳化安定性の評価≫
[簡易試験液による評価]
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの構成脂肪酸中のステアリン酸含有量及び酸価に起因する乳化安定性向上効果の差を明確に示すため、乳化剤として構成脂肪酸中のステアリン酸含有量及び/又は酸価の異なるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルのいずれか1種のみを使用した簡易的な処方の水中油型乳化組成物(簡易試験液)を調製し、乳化安定性の評価試験を行った。
【0041】
(1)原材料
1)ナタネ白絞油(日清オイリオ社製)
2)イオン交換水
3)脱脂粉乳(森永乳業社製)
4)ヘキサメタリン酸ナトリウム
5)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル
5−1)試作品1(構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;酸価109.9mgKOH/g)
5−2)試作品2(構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;酸価82.2mgKOH/g)
5−3)市販品1(商品名:ポエムB−10;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量70質量%;酸価95〜120mgKOH/g;理研ビタミン社製)
5−4)市販品2(商品名:ポエムB−30;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量55質量%;酸価95〜120mgKOH/g;理研ビタミン社製)
【0042】
前記原材料の各グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(SMG)について、構成脂肪酸中のステアリン酸含有量及び酸価(メーカー規格値又は測定値)を表1にまとめた。表1から明らかなとおり、試作品1は本発明の条件(A)及び(B)をいずれも満たす本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルであり、試作品2は条件(B)を満たさない比較例、市販品1及び2は条件(A)を満たさない比較例である。
【0043】
【表1】
【0044】
(2)簡易試験液の配合
前記原材料を用いて調製した簡易試験液1〜4の配合組成を表2に示した。この内、簡易試験液1は乳化安定剤として本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(試作品1)を使用した実施例であり、簡易試験液2〜4はそれらに対する比較例である。各試験液は、原材料の合計が200gとなる分量で調製した。なお、後述する目視評価を行いやすくするため、前記原材料のナタネ白絞油は、予め食品用着色料(商品名:リケカラーパプリカ240RG;トウガラシ色素製剤;理研ビタミン社製)を加えて赤色に着色したものを使用した。
【0045】
【表2】
【0046】
(3)簡易試験液の調製
1)300ml容ガラスビーカーにナタネ白絞油以外の原材料を全て所定量ずつ入れ、攪拌しながら80℃に加温して混合及び溶解し、これを水相とした。
2)一方、別の200ml容ガラスビーカーにナタネ白絞油を所定量ずつ入れ、80℃に加温して、これを油相とした。
3)前記水相を、室温下で、TKホモミクサー(型式:MARKII fmodel;プライミクス社製)を用いて3000rpmで5分間攪拌した後、さらに3000rpmで攪拌しながら、ここに前記油相を徐々に加えた。
4)その後、前記水相及び油相の混合物をさらに7000rpmで5分間攪拌して乳化させ、簡易試験液1〜4を得た。なお、各試験液の温度は約58〜59℃であった。
【0047】
(4)乳化安定性の評価試験
得られた簡易試験液1〜4を200mlメスシリンダーに200ml(約192g)ずつ秤量し、ラップフィルムで密封して40℃の恒温器内で2日間静置保存した。保存後、各試験液を目視により観察し、メスシリンダーの目盛りに従って油相(上層;赤色)、乳化相(中間層;ピンク色)及び水相(最下層;半透明)の体積(ml)をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3の結果から明らかなように、本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを使用した実施例である簡易試験液1は、40℃で2日間保存後も油相と水相の分離が見られず、乳化状態が安定していた。一方、比較例の簡易試験液2〜4は、明らかに油相と水相とが分離していた。
【0050】
[コーヒークリームによる評価]
より実用的な処方の水中油型乳化組成物においても本発明の効果が発揮されることを確認するため、前記簡易試験液による評価に用いた各種グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを使用してコーヒークリームを調製し、乳化安定性の評価試験を行った。
【0051】
(1)原材料
1)ナタネ白絞油(日清オイリオ社製)
2)パーム核油(不二製油社製)
3)クルードレシチン(カーギル社製)
4)ソルビタン脂肪酸エステル(商品名:ソルマンS−300V;理研ビタミン社製)
5)イオン交換水
6)カゼインナトリウム(フォンテラ社製)
7)グラニュー糖(伊藤忠製糖社製)
8)リン酸水素二ナトリウム
9)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル
9−1)試作品1(構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;酸価109.9mgKOH/g)
9−2)試作品2(構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;酸価82.2mgKOH/g)
9−3)市販品1(商品名:ポエムB−10;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量70質量%;酸価95〜120mgKOH/g;理研ビタミン社製)
9−4)市販品2(商品名:ポエムB−30;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量55質量%;酸価95〜120mgKOH/g;理研ビタミン社製)
【0052】
(2)コーヒークリームの配合
前記原材料を用いて調製したコーヒークリーム1〜4の配合組成を表4に示した。この内、コーヒークリーム1は乳化安定剤として本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを使用した実施例であり、コーヒークリーム2〜4はそれらに対する比較例である。各コーヒークリームは、原材料の合計が400gとなる分量で調製した。なお、前記原材料のうちクルードレシチン及びソルビタン脂肪酸エステルは、コーヒークリームの製造において一般的に使用される乳化剤の代表例として使用したものであり、本発明の効果に影響するものではない。
【0053】
【表4】
【0054】
(3)コーヒークリームの調製
1)500ml容ガラスビーカーに前記原材料のうちイオン交換水、カゼインナトリウム、グラニュー糖、リン酸水素二ナトリウム及びグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを所定量ずつ入れ、攪拌しながら70℃に加温して混合及び溶解し、これを水相とした。
2)一方、別の200ml容ガラスビーカーに残りの原材料を全て所定量ずつ入れ、80℃に加温して混合及び溶解し、これを油相とした。
3)前記水相を、75℃温浴中で、TKホモミクサー(型式:MARKII fmodel;プライミクス社製)を用いて3000rpmで攪拌しながら、ここに前記油相を徐々に加えた。
4)その後、前記水相及び油相の混合物をさらに5000rpmで3分間攪拌して乳化させた。
5)得られた乳化液を、高圧式均質化処理機(型式:LAB1000;エスエムテー社製)を用いて12MPaの圧力で均質化した。
6)得られた均質化液を25℃まで冷却し、耐熱瓶に入れ、オートクレーブを用いて121℃で20分間加熱殺菌処理を行った。
7)加熱殺菌処理した均質化液を20℃まで冷却し、ポーション容器に5gずつ秤量して密封し、ポーション容器入りのコーヒークリーム1〜4を各2個得た。
【0055】
(4)乳化安定性の評価試験
1)得られたコーヒークリーム1〜4を、−20℃で5日間冷凍保存した。
2)冷凍保存後、さらに25℃の恒温器内で24時間静置し、解凍及び保存した。
3)その後、各コーヒークリームの乳化の状態について評価を行った。評価は、各コーヒークリームの外観を目視により観察し、保存前と変化が無ければ(離水が生じていなければ)「○(良好)」、離水が生じていれば「×(不良)」として記号化した。結果を表5に示す。
4)また、沸騰させた湯で調製したインスタントコーヒー140gに各コーヒークリームを添加し、コーヒーの状態による評価を行った。評価は、各コーヒークリーム添加後のコーヒーの状態を目視により観察し、油浮きやフェザリング(タンパク質の凝集による白色浮遊物)が生じていなければ「○(良好)」、それらが生じていれば「×(不良)」として記号化した。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
表5の結果から明らかなように、本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを使用した実施例であるコーヒークリーム1は、冷解凍を経ても保存前と同等の乳化状態を維持しており、コーヒーに添加した場合でも油浮きやフェザリングが生じなかった。一方、比較例のコーヒークリーム2〜4は、冷解凍により乳化が不安定となり、離水やコーヒーへの添加時における油浮き、フェザリングが生じていた。