特許第6867915号(P6867915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867915
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物用乳化安定剤
(51)【国際特許分類】
   B01F 17/38 20060101AFI20210426BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20210426BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20210426BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20210426BHJP
   A23C 11/04 20060101ALI20210426BHJP
   A23C 11/08 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B01F17/38
   A23D7/00 508
   A23D7/01
   A23L9/20
   A23C11/04
   A23C11/08
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-163200(P2017-163200)
(22)【出願日】2017年8月28日
(65)【公開番号】特開2019-37950(P2019-37950A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安部 孝紀
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−068598(JP,A)
【文献】 特開昭62−095133(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/077385(WO,A1)
【文献】 特開2009−232754(JP,A)
【文献】 特開昭63−226266(JP,A)
【文献】 特開平06−125706(JP,A)
【文献】 特開2014−135921(JP,A)
【文献】 特開平09−143491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 17/00−17/56
A23C 11/04、11/08
A23D 7/00、7/01
A23L 9/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(A)及び(B)を満たすグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを有効成分とすることを特徴とする水中油型乳化組成物用乳化安定剤。
(A)構成脂肪酸100質量%中のステアリン酸の含有量が80質量%以上
(B)酸価が90mgKOH/g以上
【請求項2】
請求項1に記載の水中油型乳化組成物用乳化安定剤を含有することを特徴とするクリーム類
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化組成物に用いる乳化安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水、タンパク質等を含む水相と油脂等を含む油相とを乳化してなる水中油型乳化組成物は、従来、例えば生クリームの代替品としてコーヒー等の飲料にコクやまろやかさを付与する目的(飲料用)、クリームソース等の各種食品の原材料とする目的(調理用)、ホイップして製菓・製パン等の素材とする目的(ホイップ用)等、食品分野において幅広い用途で使用されている。
【0003】
水中油型乳化組成物には、その用途に応じて様々な機能が求められるが、いずれの用途においても共通する必須条件として、流通・保存時の振動、時間経過、温度変化等によっても離水(油相と水相の分離)や増粘・固化(ボテ)を生じない、十分な乳化安定性を有することが求められる。水中油型乳化組成物の乳化安定性が不十分であると、例えば、該組成物を高温の飲料に添加した際、分離した油脂分が飲料表面に浮く油浮き(オイルオフ)や、該組成物中のタンパク質が飲料の熱と酸により凝集して油滴を伴った塊となり浮遊するフェザリング(白色浮遊物)が生じ、飲料の品質が損なわれる等の問題が生じる。特に、近年需要の増大している冷凍保存品等、過酷な流通・保存条件に晒される商品においてはこのような問題が生じやすいことから、水中油型乳化組成物に対し大幅な温度変化にも耐え得る優れた乳化安定性を付与することが課題となっていた。
【0004】
水中油型乳化組成物の乳化安定性を向上させる方法としては、例えば、C6〜C14飽和脂肪酸の和が45質量%以上であり、かつ不飽和脂肪酸が7質量%以下である脂肪酸組成を有する油脂を使用する方法(特許文献1)等、水中油型乳化組成物の原料となる油脂を特定する方法が提案されているが、このような方法では水中油型乳化組成物の処方が制限されてしまう。
【0005】
一方、レシチン及びコハク酸モノグリセライドを添加する方法(特許文献2)、20%塩化ナトリウム水溶液中1重量%濃度で測定した曇点が90℃以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特許文献3)、モノグリセリンコハク酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特許文献4)等、特定の乳化剤を添加する方法も提案されているが、これらの方法でも実用上満足し得る効果は得られていない。
【0006】
このような事情から、水中油型乳化組成物に対してより優れた乳化安定性を付与できる方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−37509号公報
【特許文献2】特開昭62−95133号公報
【特許文献3】特開2002−171926号公報
【特許文献4】特開2003−210968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水中油型乳化組成物に添加することにより、該組成物の乳化安定性を向上させることのできる乳化安定剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを水中油型乳化組成物に添加することで、該組成物の乳化安定性が向上することを見出し、この知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記〔1〕及び〔2〕からなっている。
〔1〕下記条件(A)及び(B)を満たすグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを有効成分とすることを特徴とする水中油型乳化組成物用乳化安定剤。
(A)構成脂肪酸100質量%中のステアリン酸の含有量が80質量%以上
(B)酸価が90mgKOH/g以上
〔2〕前記〔1〕記載の水中油型乳化組成物用乳化安定剤を含有することを特徴とする水中油型乳化組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水中油型乳化組成物用乳化安定剤は、水中油型乳化組成物に添加することで、該組成物の乳化安定性を向上させることができる。
本発明の水中油型乳化組成物用乳化安定剤を含有する水中油型乳化組成物は、乳化安定性に優れ、例えば冷凍保存のような過酷な条件で保存した場合であっても、油相と水相の分離が生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る水中油型乳化組成物用乳化安定剤(以下、「本発明の乳化安定剤」ともいう)は、有効成分として、以下に述べる条件(A)及び(B)を満たすグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(以下、「本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステル」ともいう)を含有する。なお、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(略称:SMG)とは、グリセリンが有するヒドロキシ基のいずれかにコハク酸及び脂肪酸がそれぞれ少なくとも1つエステル結合した化合物である。
【0013】
[条件(A)について]
本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸100質量%中、炭素数18の直鎖の飽和脂肪酸であるステアリン酸の含有量が80質量%以上、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの構成脂肪酸のうち、ステアリン酸以外の部分については、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、ステアリン酸以外の炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)等が挙げられる。
【0015】
[条件(B)について]
また、本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、酸価が90mgKOH/g以上、好ましくは100〜120mgKOH/gであることを特徴とする。該酸価は、「第8版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「40.油脂類試験法」に記載の方法に準じて測定される。
【0016】
本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法に特に制限はなく、例えば、グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸(又はコハク酸)との反応等、自体公知の方法により製造することができる。例えば、その好ましい製造方法の概略は以下のとおりである。
【0017】
即ち、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた通常の反応容器に、構成脂肪酸100質量%中のステアリン酸の含有量が80質量%以上であるグリセリンモノ脂肪酸エステル及び無水コハク酸を80/20〜70/30の質量比で仕込み、必要に応じてアルカリ触媒を添加し、例えば90〜120℃、好ましくは94〜110℃で1〜180分間、好ましくは30〜120分間加熱してエステル化反応を行う。反応生成物の酸価を測定し、これが前記条件(B)を満たす値となった時点を反応の終点とし、前記条件(A)及び(B)を満たす本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを得る。
【0018】
前記構成脂肪酸100質量%中のステアリン酸の含有量が80質量%以上であるグリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、例えば、エマルジーMH(商品名;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;理研ビタミン社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0019】
本発明の乳化安定剤としては、本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルのみをそのまま用いてもよく、あるいは少なくとも本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを含有する製剤を調製し、これを用いてもよい。本発明の乳化安定剤をこのような製剤とする場合、本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステル以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の任意の成分を配合することができる。そのような成分としては、例えば、本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステル以外の乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等)、賦形剤(ブドウ糖、果糖等の単糖類;ショ糖、乳糖、麦芽糖等のオリゴ糖類;デキストリン、粉末水飴等の澱粉分解物;マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等のマルトオリゴ糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、粉末還元水飴等の糖アルコール類;オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム等の加工澱粉類;カゼイン、カゼインナトリウム等の乳清タンパク質等)、流動化剤(第三リン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、二酸化ケイ素、微粒二酸化ケイ素、酸化チタン、タルク等)、増粘安定剤(水溶性ヘミセルロース、アラビアガム、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、ペクチン、ローカストビーンガム等)等が挙げられる。
【0020】
本発明の乳化安定剤の添加対象となる水中油型乳化組成物は、水、タンパク質等を含む水相を連続相とし、該水相中に油脂等を含む油相を分散・乳化してなる組成物であって、食用可能なものであれば特に制限はない。具体的には、例えば、飲料用クリーム(コーヒークリーム)、調理用クリーム、ホイップ用クリーム等のクリーム類、咀嚼機能や嚥下機能の不十分な傷病者等の栄養補給に用いられる流動食等が挙げられる。本発明の乳化安定剤の添加対象としては、これら水中油型乳化組成物の中でもクリーム類が好ましく、とりわけ飲料用クリームが好ましい。
【0021】
ここで、水中油型乳化組成物の製造には、通常、1種又は2種以上の任意の乳化剤が使用されているが、本発明の乳化安定剤は、このような水中油型乳化組成物に通常使用される公知の乳化剤と共に、あるいは該乳化剤の全部又は一部と置き換えて使用することができる。本発明の乳化安定剤と併用する乳化剤に特に制限はないが、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル(本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステル以外)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。
【0022】
本発明の乳化安定剤の水中油型乳化組成物に対する使用量は、該組成物の配合等により異なるが、例えば、該組成物が飲料用クリームである場合、該組成物100質量%に対し、0.01〜2質量%、好ましくは0.1〜1質量%である。使用量がこのような範囲であると、該組成物の風味を害することなく、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0023】
なお、本発明の乳化安定剤を使用して製造される、本発明の乳化安定剤を含有する水中油型乳化組成物(以下「本発明の水中油型乳化組成物」ともいう)も、本発明の一つの態様である。
【0024】
本発明の水中油型乳化組成物の水相を構成する水としては、飲用可能なものであれば特に制限はなく、例えば蒸留水、イオン交換樹脂処理水、逆浸透膜(RO)処理水又は限外ろ過膜(UF)処理水等の精製水、水道水、地下水あるいは涌水等の天然水又はアルカリイオン水等が挙げられる。
【0025】
本発明の水中油型乳化組成物100質量%中の水の含有量に特に制限はなく、タンパク質、油脂、本発明の乳化安定剤、その他の原材料を配合した残余を水とすれば良い。
【0026】
同じく水相を構成するタンパク質としては、動植物由来で食用可能なものであれば特に制限はなく、例えば全卵、卵白、卵黄等の卵タンパク;脱脂乳、脱脂粉乳、全脂肪乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、ホエータンパク、カゼインナトリウム等の乳タンパク;大豆タンパク、小麦タンパク、えんどうタンパク、とうもろこしタンパク等の植物性タンパク;ゼラチン等の動物性タンパク等が挙げられるが、好ましくは乳タンパクである。これらタンパク質は、いずれか1種のみを用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0027】
本発明の水中油型乳化組成物100質量%中のタンパク質の含有量は、該組成物の用途によっても異なるが、例えば、該組成物を飲料用クリームとして用いる場合、0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%であるのがより好ましい。タンパク質の含有量がこのような範囲であると、水中油型乳化組成物の粘度が適切となり、乳化安定性や風味も良好なものが得られる。
【0028】
本発明の水中油型乳化組成物の油相を構成する油脂としては、一般に食品に用いられるものであれば特に制限はなく、例えばパーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂あるいはそれらに硬化、分別、エステル交換等の処理を施した加工油脂が挙げられる。これら油脂は、いずれか1種のみを用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0029】
本発明の水中油型乳化組成物100質量%中の油脂の含有量は、該組成物の用途によっても異なるが、例えば、該組成物を飲料用クリームとして用いる場合、5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%であるのがより好ましい。油脂の含有量がこのような範囲であると、水中油型乳化組成物の粘度が適切となる。
【0030】
また、本発明の水中油型乳化組成物は、前記水、タンパク質、油脂、本発明の乳化安定剤の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常水中油型乳化組成物の製造に用いられる他の任意の成分を含有していても良い。そのような成分としては、例えば、クエン酸三ナトリウム等のクエン酸塩;メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等のリン酸塩;β−カロテン等の着色料;抽出トコフェロール、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル等の酸化防止剤;ミルクフレーバー、バニラ香料、オレンジオイル等の着香料;キシロース、ブドウ糖、果糖等の単糖類;ショ糖、乳糖及び麦芽糖等のオリゴ糖類;デキストリン、水飴等の澱粉分解物;マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等のマルトオリゴ糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、還元水飴等の糖アルコール類;リン酸架橋澱粉等の加工澱粉類;水溶性ヘミセルロース、アラビアガム、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増粘安定剤等が挙げられる。
【0031】
本発明の水中油型乳化組成物を製造する方法に特に制限はなく、自体公知の方法を用いることができる。例えば、該組成物を飲料用クリームとして用いる場合、その好ましい製造方法の概略は次のとおりである。
【0032】
即ち、水、タンパク質、本発明の乳化安定剤及び他の任意の水溶性成分を50〜95℃、好ましくは60〜85℃に加温して混合及び分散又は溶解し、水相とする。一方、油脂及び他の任意の油溶性成分を50〜90℃、好ましくは60〜80℃に加温して混合及び溶解し、油相とする。前記水相を攪拌しながら、ここに前記油相を加えて乳化し、さらに均質化する。得られた均質化液を殺菌処理し、所望により再度均質化処理を行う。なお、本発明の効果を阻害しない限り、本発明の乳化安定剤は、水相又は油相のいずれから添加しても良い。
【0033】
前記水相と油相を乳化するための装置に特に制限はなく、例えば、攪拌機、加熱用のジャケット及び邪魔板等を備えた通常の攪拌・混合槽を用いることができる。装備する攪拌機としては、例えばTKホモミクサー(プライミクス社製)又はクレアミックス(エムテクニック社製)等の高速回転式ホモジナイザーが好ましく用いられる。該ホモジナイザーによる乳化条件としては、例えば実験室用の小型機では、回転数3000〜10000rpm、攪拌時間3〜30分間を例示できる。
【0034】
次に、前記装置で乳化した液を均質化するための均質化処理機としては、例えば高圧式均質化処理機を用いることができ、具体的には、例えばゴーリンホモジナイザー(APV社製)、圧力式ホモジナイザー(エスエムテー社製)、ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ社製)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイデックス社製)、アルティマイザー(スギノマシン社製)、ナノマイザー(ナノマイザー社製)等が好ましく用いられる。該均質化処理機による乳化条件(圧力)としては、装置の仕様により異なり一様ではないが、例えば5〜30MPaを例示できる。均質化処理により、液中の脂質は微細化し、平均粒子径が0.5〜5μm程度となり均一に分散した状態になる。なお、前記均質化処理機に代えて、例えば超音波乳化機等の均質化処理機を用いても良い。
【0035】
前記殺菌処理する方法に特に制限はなく、例えば、レトルト殺菌法、高温短時間殺菌法、超高温殺菌法等が挙げられる。レトルト殺菌法は、例えば、水中油型乳化組成物を耐熱瓶、金属容器、耐熱性パウチ袋等に充填して密封し、オートクレーブ等のレトルト殺菌機により行うことができ、殺菌条件としては、121〜124℃で5〜40分間等が例示される。高温短時間殺菌法による殺菌条件としては、72℃で15秒間、又は80〜85℃で10〜15秒間等が例示される。また、超高温殺菌法による殺菌条件としては、120〜130℃で2秒間、又は150℃で1秒間等が例示される。なお、超高温殺菌法としては、例えば、水中油型乳化組成物に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式等の直接加熱方式、プレートやチューブ等表面熱交換器を用いる間接加熱方式等が挙げられる。殺菌処理済み液は、所望により再度均質化処理機を通した後、熱交換器等を用いて急冷される。
【0036】
本発明の水中油型乳化組成物は、従来の水中油型乳化組成物に比べて乳化安定性に優れているため、流通・保存時の振動、時間経過、温度変化等によっても離水(油相と水相の分離)や増粘・固化(ボテ)を生じにくい。特に、本発明の水中油型乳化組成物は大幅な温度変化にも耐え得る乳化安定性を有していることから、冷凍保存や高温での加熱、高温の飲料への添加が想定される場合において好ましく使用することができる。
【0037】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
≪グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造≫
[製造例1]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMH;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;理研ビタミン社製)400g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)100g及びアルカリ触媒として炭酸ナトリウム(高杉製薬社製)0.7gを四ツ口フラスコに仕込み、80℃から94℃まで攪拌しながら昇温し、94℃で120分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却してグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(試作品1)を得た。該エステルの酸価は109.9mgKOH/gであった。
【0039】
[製造例2]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーMH;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;理研ビタミン社製)425g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)75g及びアルカリ触媒として炭酸ナトリウム(高杉製薬社製)0.7gを四ツ口フラスコに仕込み、80℃から94℃まで攪拌しながら昇温し、94℃で120分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却してグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(試作品2)を得た。該エステルの酸価は82.2mgKOH/gであった。
【0040】
≪乳化安定性の評価≫
[簡易試験液による評価]
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの構成脂肪酸中のステアリン酸含有量及び酸価に起因する乳化安定性向上効果の差を明確に示すため、乳化剤として構成脂肪酸中のステアリン酸含有量及び/又は酸価の異なるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルのいずれか1種のみを使用した簡易的な処方の水中油型乳化組成物(簡易試験液)を調製し、乳化安定性の評価試験を行った。
【0041】
(1)原材料
1)ナタネ白絞油(日清オイリオ社製)
2)イオン交換水
3)脱脂粉乳(森永乳業社製)
4)ヘキサメタリン酸ナトリウム
5)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル
5−1)試作品1(構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;酸価109.9mgKOH/g)
5−2)試作品2(構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;酸価82.2mgKOH/g)
5−3)市販品1(商品名:ポエムB−10;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量70質量%;酸価95〜120mgKOH/g;理研ビタミン社製)
5−4)市販品2(商品名:ポエムB−30;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量55質量%;酸価95〜120mgKOH/g;理研ビタミン社製)
【0042】
前記原材料の各グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(SMG)について、構成脂肪酸中のステアリン酸含有量及び酸価(メーカー規格値又は測定値)を表1にまとめた。表1から明らかなとおり、試作品1は本発明の条件(A)及び(B)をいずれも満たす本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルであり、試作品2は条件(B)を満たさない比較例、市販品1及び2は条件(A)を満たさない比較例である。
【0043】
【表1】
【0044】
(2)簡易試験液の配合
前記原材料を用いて調製した簡易試験液1〜4の配合組成を表2に示した。この内、簡易試験液1は乳化安定剤として本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(試作品1)を使用した実施例であり、簡易試験液2〜4はそれらに対する比較例である。各試験液は、原材料の合計が200gとなる分量で調製した。なお、後述する目視評価を行いやすくするため、前記原材料のナタネ白絞油は、予め食品用着色料(商品名:リケカラーパプリカ240RG;トウガラシ色素製剤;理研ビタミン社製)を加えて赤色に着色したものを使用した。
【0045】
【表2】
【0046】
(3)簡易試験液の調製
1)300ml容ガラスビーカーにナタネ白絞油以外の原材料を全て所定量ずつ入れ、攪拌しながら80℃に加温して混合及び溶解し、これを水相とした。
2)一方、別の200ml容ガラスビーカーにナタネ白絞油を所定量ずつ入れ、80℃に加温して、これを油相とした。
3)前記水相を、室温下で、TKホモミクサー(型式:MARKII fmodel;プライミクス社製)を用いて3000rpmで5分間攪拌した後、さらに3000rpmで攪拌しながら、ここに前記油相を徐々に加えた。
4)その後、前記水相及び油相の混合物をさらに7000rpmで5分間攪拌して乳化させ、簡易試験液1〜4を得た。なお、各試験液の温度は約58〜59℃であった。
【0047】
(4)乳化安定性の評価試験
得られた簡易試験液1〜4を200mlメスシリンダーに200ml(約192g)ずつ秤量し、ラップフィルムで密封して40℃の恒温器内で2日間静置保存した。保存後、各試験液を目視により観察し、メスシリンダーの目盛りに従って油相(上層;赤色)、乳化相(中間層;ピンク色)及び水相(最下層;半透明)の体積(ml)をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3の結果から明らかなように、本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを使用した実施例である簡易試験液1は、40℃で2日間保存後も油相と水相の分離が見られず、乳化状態が安定していた。一方、比較例の簡易試験液2〜4は、明らかに油相と水相とが分離していた。
【0050】
[コーヒークリームによる評価]
より実用的な処方の水中油型乳化組成物においても本発明の効果が発揮されることを確認するため、前記簡易試験液による評価に用いた各種グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを使用してコーヒークリームを調製し、乳化安定性の評価試験を行った。
【0051】
(1)原材料
1)ナタネ白絞油(日清オイリオ社製)
2)パーム核油(不二製油社製)
3)クルードレシチン(カーギル社製)
4)ソルビタン脂肪酸エステル(商品名:ソルマンS−300V;理研ビタミン社製)
5)イオン交換水
6)カゼインナトリウム(フォンテラ社製)
7)グラニュー糖(伊藤忠製糖社製)
8)リン酸水素二ナトリウム
9)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル
9−1)試作品1(構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;酸価109.9mgKOH/g)
9−2)試作品2(構成脂肪酸中のステアリン酸含有量85質量%;酸価82.2mgKOH/g)
9−3)市販品1(商品名:ポエムB−10;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量70質量%;酸価95〜120mgKOH/g;理研ビタミン社製)
9−4)市販品2(商品名:ポエムB−30;構成脂肪酸中のステアリン酸含有量55質量%;酸価95〜120mgKOH/g;理研ビタミン社製)
【0052】
(2)コーヒークリームの配合
前記原材料を用いて調製したコーヒークリーム1〜4の配合組成を表4に示した。この内、コーヒークリーム1は乳化安定剤として本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを使用した実施例であり、コーヒークリーム2〜4はそれらに対する比較例である。各コーヒークリームは、原材料の合計が400gとなる分量で調製した。なお、前記原材料のうちクルードレシチン及びソルビタン脂肪酸エステルは、コーヒークリームの製造において一般的に使用される乳化剤の代表例として使用したものであり、本発明の効果に影響するものではない。
【0053】
【表4】
【0054】
(3)コーヒークリームの調製
1)500ml容ガラスビーカーに前記原材料のうちイオン交換水、カゼインナトリウム、グラニュー糖、リン酸水素二ナトリウム及びグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを所定量ずつ入れ、攪拌しながら70℃に加温して混合及び溶解し、これを水相とした。
2)一方、別の200ml容ガラスビーカーに残りの原材料を全て所定量ずつ入れ、80℃に加温して混合及び溶解し、これを油相とした。
3)前記水相を、75℃温浴中で、TKホモミクサー(型式:MARKII fmodel;プライミクス社製)を用いて3000rpmで攪拌しながら、ここに前記油相を徐々に加えた。
4)その後、前記水相及び油相の混合物をさらに5000rpmで3分間攪拌して乳化させた。
5)得られた乳化液を、高圧式均質化処理機(型式:LAB1000;エスエムテー社製)を用いて12MPaの圧力で均質化した。
6)得られた均質化液を25℃まで冷却し、耐熱瓶に入れ、オートクレーブを用いて121℃で20分間加熱殺菌処理を行った。
7)加熱殺菌処理した均質化液を20℃まで冷却し、ポーション容器に5gずつ秤量して密封し、ポーション容器入りのコーヒークリーム1〜4を各2個得た。
【0055】
(4)乳化安定性の評価試験
1)得られたコーヒークリーム1〜4を、−20℃で5日間冷凍保存した。
2)冷凍保存後、さらに25℃の恒温器内で24時間静置し、解凍及び保存した。
3)その後、各コーヒークリームの乳化の状態について評価を行った。評価は、各コーヒークリームの外観を目視により観察し、保存前と変化が無ければ(離水が生じていなければ)「○(良好)」、離水が生じていれば「×(不良)」として記号化した。結果を表5に示す。
4)また、沸騰させた湯で調製したインスタントコーヒー140gに各コーヒークリームを添加し、コーヒーの状態による評価を行った。評価は、各コーヒークリーム添加後のコーヒーの状態を目視により観察し、油浮きやフェザリング(タンパク質の凝集による白色浮遊物)が生じていなければ「○(良好)」、それらが生じていれば「×(不良)」として記号化した。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
表5の結果から明らかなように、本発明のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを使用した実施例であるコーヒークリーム1は、冷解凍を経ても保存前と同等の乳化状態を維持しており、コーヒーに添加した場合でも油浮きやフェザリングが生じなかった。一方、比較例のコーヒークリーム2〜4は、冷解凍により乳化が不安定となり、離水やコーヒーへの添加時における油浮き、フェザリングが生じていた。