(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るベーンポンプについて説明する。
【0021】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係るベーンポンプ100は、車両に搭載される流体圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の流体圧供給源として用いられる。作動流体は、オイルやその他の水溶性代替液等である。
【0022】
図1及び
図2に示すように、ベーンポンプ100は、ポンプ収容凹部10Aが形成されたポンプボディ10と、ポンプ収容凹部10Aの開口部を覆い、ポンプボディ10に固定されるポンプカバー20と、ポンプボディ10及びポンプカバー20に軸受11,12を介して回転自在に支持される駆動軸1と、駆動軸1に連結されポンプ収容凹部10Aに収容されるロータ2と、ロータ2のスリット2Aに摺動自在に収装されるベーン3と、ロータ2及びベーン3を収容しベーン3の先端部3aが摺接する内周カム面4aを有するカムリング4と、を備える。
【0023】
ベーンポンプ100は、例えばエンジン等の駆動装置(不図示)によって駆動され、駆動軸1に連結されたロータ2が、
図2の矢印で示すように時計回りに回転駆動されることにより流体圧を発生させる。
【0024】
ロータ2には、複数のスリット2Aが放射状に形成される。スリット2Aは、ロータ2の外周に開口部2aを有する。
【0025】
ベーン3は、各スリット2Aに摺動自在に挿入され、スリット2Aから突出する方向の端部である先端部3aと、先端部3aとは反対側の端部である基端部3bと、を有する。スリット2Aの底部側には、スリット2A内において、ベーン3の基端部3bによって背圧室5が区画される。背圧室5には、作動流体としての作動油が導かれる。ベーン3は、背圧室5の圧力によってスリット2Aから突出する方向に押圧される。なお、隣り合う背圧室5同士は、ロータ2の端面に設けられる連通溝2bによって連通している。
【0026】
カムリング4は、略長円形状をした内周面である内周カム面4aと、位置決めピン8が挿通するピン孔4bと、を有する環状の部材である。ベーン3が背圧室5の圧力によってスリット2Aから突出する方向に押圧されると、ベーン3の先端部3aがカムリング4の内周カム面4aに摺接する。これにより、カムリング4の内部には、ロータ2の外周面と、カムリング4の内周カム面4aと、隣り合うベーン3と、によってポンプ室6が画成される。
【0027】
内周カム面4aは、ロータ2の回転中心軸Oからの径が短い短径部141と、短径部141よりもロータ2の回転中心軸Oからの径が長い長径部143と、短径部141から長径部143に向かって徐々にロータ2の回転中心軸Oからの径が長くなる移行部142と、を有する。
【0028】
カムリング4の内周カム面4aは略長円形状であるので、ロータ2の回転に伴って内周カム面4aを摺接する各ベーン3間によって区画されるポンプ室6の容積は、拡張と収縮とを繰り返す。ポンプ室6が拡張する吸込領域では作動油が吸入され、ポンプ室6が収縮する吐出領域では作動油が吐出される。
【0029】
図2に示すように、ベーンポンプ100は、ベーン3が1回目の往復動をする第一の吸込領域、第一の吐出領域と、ベーン3が2回目の往復動をする第二の吸込領域、第二の吐出領域とを有する。ポンプ室6は、ロータ2が1回転する間に、第一の吸込領域にて拡張し、第一の吐出領域にて収縮し、第二の吸込領域にて拡張し、第二の吐出領域にて収縮する。ベーンポンプ100は、2つの吸込領域及び2つの吐出領域を有するが、これに限らず、1つまたは3つ以上の吸込領域及び1つまたは3つ以上の吐出領域を有する構成としてもよい。
【0030】
図1に示すように、ベーンポンプ100は、ロータ2の軸方向一端側に設けられ、ロータ2及びカムリング4の一方の側面に当接する第1サイド部材としてのボディ側サイドプレート30と、ロータ2の軸方向他端側に設けられ、ロータ2及びカムリング4の他方の側面に当接する第2サイド部材としてのカバー側サイドプレート40と、をさらに備える。
【0031】
ボディ側サイドプレート30は、ポンプ収容凹部10Aの底面とロータ2との間に設けられる。ボディ側サイドプレート30には、ロータ2の軸方向一端面が摺接するとともにカムリング4の軸方向一端面が当接する。カバー側サイドプレート40は、ロータ2とポンプカバー20との間に設けられる。カバー側サイドプレート40には、ロータ2の軸方向他端面が摺接するとともにカムリング4の軸方向他端面が当接する。このようにして、ボディ側サイドプレート30とカバー側サイドプレート40は、ロータ2及びカムリング4の両側面に対向する状態で配置される。
【0032】
ボディ側サイドプレート30、ロータ2、カムリング4、及びカバー側サイドプレート40は、ポンプボディ10のポンプ収容凹部10Aに収容される。この状態で、ポンプボディ10にポンプカバー20が取付けられることで、ポンプ収容凹部10Aは封止される。
【0033】
ポンプボディ10のポンプ収容凹部10Aの底面側には、ポンプボディ10とボディ側サイドプレート30によって区画された環状の高圧室14が形成される。高圧室14は、吐出通路62を通じてベーンポンプ100の外部の流体圧機器70に連通する。
【0034】
ポンプカバー20には吸込圧室21が形成され、ポンプ収容凹部10Aの内周面には吸込圧室21と連通する迂回通路13が形成される。迂回通路13は、カムリング4を挟んで対向する位置に二か所設けられる。吸込圧室21は、吸込通路61を介してタンク60に接続される。
【0035】
図3に示すように、ボディ側サイドプレート30は、ロータ2の側面に摺接する摺接面30aと、第一及び第二の吐出領域のそれぞれに対応するように形成される吐出ポート31と、駆動軸1が挿通する貫通孔32と、第一及び第二の吸込領域のそれぞれに対応するように形成される吸込ポート33と、位置決めピン8が挿通するピン孔39と、を有する板状部材である。
【0036】
吐出ポート31は、貫通孔32を挟んで対向する位置に二か所設けられる。各吐出ポート31は、貫通孔32を中心とした円弧状に形成される。吐出ポート31は、ボディ側サイドプレート30を貫通し、ポンプボディ10に形成された高圧室14に連通する。吐出ポート31は、ポンプ室6から作動油が導かれ、導かれた作動油を高圧室14に吐出する。高圧室14に流入した作動油は、吐出通路62を通じてベーンポンプ100の外部の流体圧機器70に供給される(
図1参照)。
【0037】
吸込ポート33は、貫通孔32を挟んで対向する位置に二か所設けられる。吸込ポート33は、ポンプ収容凹部10Aの迂回通路13に対応する位置に形成される。各吸込ポート33は径方向外側に開口する凹形状となるように形成される。各吸込ポート33の外周端はボディ側サイドプレート30の外周面まで達している。吸込ポート33には、吸込圧室21、迂回通路13を通じて作動油が供給され(
図1参照)、吸込ポート33は供給される作動油をポンプ室6内へ導く。
【0038】
ボディ側サイドプレート30の摺接面30aには、溝状の外側ノッチ37及び内側ノッチ36が形成される。外側ノッチ37及び内側ノッチ36は、吐出ポート31における、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6が連通し始める連通開始側の端部に設けられ、吐出ポート31に連通する。外側ノッチ37及び内側ノッチ36は、ロータ2の回転方向に向かって開口面積が徐々に大きくなるように形成される。外側ノッチ37は、内側ノッチ36より外周側に配置され、かつ内側ノッチ36よりもロータ2の回転方向の長さが短くなるように形成される。
【0039】
外側ノッチ37及び内側ノッチ36は、ロータ2の外周面とカムリング4の内周カム面4aとの間に配置される(
図2参照)。外側ノッチ37及び内側ノッチ36が形成されることにより、ロータ2の回転に伴い、ポンプ室6から吐出ポート31への外側ノッチ37及び内側ノッチ36を通じた作動油の流れが促されるため、高圧室14の急激な圧力変動が防止される。
【0040】
ボディ側サイドプレート30の摺接面30aには、貫通孔32を挟んで対向するように形成される一対の背圧溝34と、貫通孔32を挟んで対向するように形成される一対の背圧溝35と、を有する。一対の背圧溝35は、一対の背圧溝34に対して貫通孔32を中心として略90°ずれた位置に設けられる。背圧溝34は、第一及び第二の吸込領域のそれぞれに設けられ、背圧溝35は、第一及び第二の吐出領域のそれぞれに設けられる。
【0041】
背圧溝34,35は、摺接面30aに開口する溝状に形成される。背圧溝34,35は、貫通孔32を中心とした円弧状に形成され、背圧溝34,35と重なる複数の背圧室5と連通する。背圧溝34は、ボディ側サイドプレート30を貫通して形成される連通孔38と連通する。これにより、背圧溝34は、連通孔38を介して高圧室14と連通する(
図1参照)。なお、各背圧室5は連通溝2bによって連通しているので(
図2参照)、背圧溝35は背圧室5、連通溝2bを介して背圧溝34と連通する。つまり、背圧溝35は、背圧室5、連通溝2b、背圧溝34を介して高圧室14と連通する。
【0042】
図1に示すように、カバー側サイドプレート40は、ボディ側サイドプレート30と同様、ロータ2の側面に摺接する摺接面40aと、第一及び第二の吸込領域のそれぞれに対応するように形成される吸込ポート41と、駆動軸1が挿通する貫通孔42と、位置決めピン8が挿通するピン孔(不図示)と、を有する板状部材である。カバー側サイドプレート40は、位置決めピン8によってカムリング4及びボディ側サイドプレート30に対して位置決めされる。
【0043】
吸込ポート41は、貫通孔42を挟んで対向する位置に二か所設けられる。各吸込ポート41は、カバー側サイドプレート40の外縁部の一部を切り欠くようにして形成される。吸込ポート41は、ポンプカバー20に形成された吸込圧室21に連通する。吸込ポート41は、吸込圧室21から供給される作動油をポンプ室6内へ導く。
【0044】
カバー側サイドプレート40の摺接面40aには、上述したボディ側サイドプレート30の一対の背圧溝35と対向するように形成される一対の背圧溝(不図示)と、上述したボディ側サイドプレート30の一対の背圧溝34と対向するように形成される一対の背圧溝44と、を有する。カバー側サイドプレート40の摺接面40aに設けられる各背圧溝は、ボディ側サイドプレート30に設けられる背圧溝と同様の構成であるので、その説明を省略する。
【0045】
次に、ベーンポンプ100の動作について説明する。
【0046】
エンジン等の駆動装置(不図示)の動力によって駆動軸1が回転駆動されると、ロータ2が
図2に矢印で示す方向に回転する。ロータ2の回転に伴って、第一及び第二の吸込領域に位置するポンプ室6が拡張する。これにより、タンク60内の作動油が、
図1において矢印で示すように、吸込通路61、吸込圧室21、吸込ポート41及び吸込ポート33を通ってポンプ室6に吸い込まれる。また、ロータ2の回転に伴って、第一及び第二の吐出領域に位置するポンプ室6が収縮する。これにより、ポンプ室6内の作動油が、吐出ポート31を通って高圧室14に吐出される。高圧室14に吐出された作動油は、吐出通路62を通じて外部の流体圧機器70へと供給される。本実施形態に係るベーンポンプ100では、ロータ2が1回転する間に、各ポンプ室6が作動油の吸込、吐出を2度繰り返す。
【0047】
高圧室14に吐出された作動油の一部は、連通孔38及び背圧溝34を通じて背圧室5に供給され、ベーン3の基端部3bを内周カム面4aに向かって押圧する。したがって、ベーン3は、基端部3bを押圧する背圧室5の流体圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力と、によってスリット2Aから突出する方向に付勢される。これにより、ベーン3の先端部3aがカムリング4の内周カム面4aに摺接しながら回転するので、ポンプ室6内の作動油は、ベーン3の先端部3aとカムリング4の内周カム面4aとの間から漏れることなく吐出ポート31から吐出される。
【0048】
ベーンポンプ100は、
図2に示すように、第一の吸込領域が鉛直上方に位置し、第二の吸込領域が鉛直下方に位置するように車両等に搭載される。
【0049】
ベーンポンプ100は、停止状態が続くと、ベーンポンプ100内の作動油の一部がタンク60へと流下し、背圧室5の圧力も低下する。第一の吸込領域では、スリット2Aの開口面が上方を向いている。このため、第一の吸込領域では、ベーン3が重力によってスリット2Aの底部に落ち込む(
図5参照)。
【0050】
この状態では、スリット2Aに落ち込んだベーン3の先端と内周カム面4aとの間の開口を通じて吐出ポート31と吸込ポート33とが連通する。したがって、ベーンポンプ100の始動時に、
図2に示すベーンポンプ100の下部の第二の吸込領域から第二の吐出領域に向かって移動するポンプ室6によって発生させた吐出圧が、第一の吐出領域の吐出ポート31から第一の吸込領域の吸込ポート33へ逃げてしまう。このため、ベーンポンプ100の始動時に、スリット2Aに落ち込んでいるベーン3がスリット2Aから突出する動作に時間がかかると、ポンプ吐出圧の立ち上がりが遅れるという問題が生じる。
【0051】
そこで、本実施形態では、落ち込んだベーン3が速やかに突出されるように、吸込領域に配置される背圧溝34に、ロータ2の回転に伴ってベーン3をロータ2の径方向外方に向かって強制的に押し出す押出面184を設けた。ボディ側サイドプレート30に形成される背圧溝34と、カバー側サイドプレート40において、背圧溝34と対向する位置に形成される背圧溝44とは同様の形状であるので、以下、ボディ側サイドプレート30の背圧溝34を代表して、その形状について詳細に説明する。
【0052】
図3に示すように、背圧溝34は、連通孔38が設けられる底面と、底面から立ち上がる内周面(溝の側面)と、を有する。背圧溝34の内周面は、ロータ2の径方向外方を向く内側内周面181と、ロータ2の径方向内方を向く外側内周面182と、を有し、摺接面30aに設けられる。
【0053】
内側内周面181の一端は、背圧溝34の始端Xにおいて外側内周面182の一端と接続される。内側内周面181の他端は、背圧溝34の終端P0において外側内周面182の他端と接続される。背圧溝34の始端Xとは、背圧溝34において、ロータ2の回転に伴って背圧室5との連通が開始する位置である。背圧溝34の終端P0とは、背圧溝34において、ロータ2の回転に伴って背圧室5との連通が終わる位置である。
【0054】
図4に示すように、背圧溝34の幅(径方向長さ)方向の中心面C1は、ロータ2の回転方向に沿って延在し、始端X(
図3参照)を通る。
【0055】
背圧溝34の内側内周面181は、ロータ2の周方向に沿って円弧状に形成される内側円弧面183と、内側円弧面183の端点P1から連続して背圧溝34の終端P0まで延在する円弧状の押出面184と、を有する。このように、押出面184は、背圧溝34における、ロータ2の回転に伴って背圧室5との連通が終わる連通終了側の端部に設けられる。
【0056】
内側円弧面183は、ロータ2の回転中心軸Oを中心とする円弧状の面であり、押出面184は、内側円弧面183よりもロータ2の径方向外側に中心が位置する円弧状の面である。
【0057】
背圧溝34の外側内周面182は、ロータ2の周方向に沿って円弧状に形成される外側円弧面185と、外側円弧面185の端点P2から連続して背圧溝34の終端P0まで延在する円弧状の外側接続面186と、を有する。外側円弧面185は、ロータ2の回転中心軸Oを中心とする円弧状の面であり、外側接続面186は、背圧溝34内に中心が位置する円弧状の面である。
【0058】
押出面184は、回転方向に沿って、内側円弧面183の端点P1から背圧溝34の終端P0にかけて徐々に回転中心軸Oからの距離が大きくなるように形成される。背圧溝34の終端P0は、押出面184の終端でもあり、内側円弧面183よりも外側円弧面185に近い位置、すなわち背圧溝34の幅方向の中心面C1よりもロータ2の径方向外側の位置に設定される。
【0059】
つまり、押出面184は、背圧溝34の幅方向の中心面C1よりもロータ2の径方向外方へベーン3の基端部3bを押し出すように形成される。これにより、押出面184の終端を背圧溝34の幅方向の中心面C1よりもロータ2の径方向内側に設定する場合に比べて、スリット2Aからのベーン3の突出量を大きくできる。
【0060】
背圧溝34は、背圧室5の底部5c(スリット2Aの底部)が内側円弧面183に一致するように形成される(
図5参照)。つまり、ロータ2の回転中心軸Oから背圧室5の底部5cまでの距離(径方向長さ)と、内側円弧面183の半径とは、同一の寸法に設定される。
【0061】
図5〜
図7を参照して、本実施形態に係るベーンポンプ100の始動時におけるベーン3の動作について説明する。なお、
図5〜
図7では、背圧溝34とベーン3との位置関係がわかるように、ロータ2によって隠れている背圧溝34を実線で示し、押出面184によって押し出されるベーン3(以下、ベーン3Cと記す)にハッチングを施している。点Qは、ベーン3Cと背圧溝34との接触点を表す。
【0062】
各ベーン3とサイドプレート30,40との間には僅かな隙間が形成されている。車両等に搭載されるベーンポンプ100は、その回転中心軸Oが完全に水平に一致することはほとんどないので、車両等が停止しているときには、各ベーン3が一対のサイドプレート30,40の一方に倒れるように傾いている。
【0063】
例えば、ベーン3Cが傾いて、その基端部3bがボディ側サイドプレート30の背圧溝34に落ち込んでいる場合、
図5に示すように、落ち込んだベーン3の基端部3bが背圧溝34の内側円弧面183に引っ掛かる(接触点Q参照)。
【0064】
ベーンポンプ100の始動時、駆動装置(不図示)が駆動し、ロータ2が回転し始めると、
図6に示すように、ベーン3Cの基端部3bが背圧溝34の内側円弧面183に沿って移動し、内側円弧面183から押出面184に案内される(接触点Q参照)。
【0065】
押出面184は、内側円弧面183に連続して設けられているので、背圧溝34の内側円弧面183に接触しているベーン3Cの基端部3bを押出面184にスムーズに案内することができる。
【0066】
ベーン3Cの基端部3bが押出面184に案内されると、ロータ2の回転に伴って、ベーン3Cの基端部3bが、接触している押出面184によって径方向外方へと押し出される。ロータ2がさらに回転すると、
図7に示すように、ベーン3Cが径方向外方へ最大に押し出される。本実施形態では、ベーン3Cの基端部3bの押出面184に対する接触点Qが終端P0に位置したときに、ベーン3Cが径方向外方へ最大に押し出される。
【0067】
押出面184によりベーン3Cが径方向外方に最大に押し出される最大押出位置は、第一の吸込領域内において、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6と吸込ポート33との連通が終わる連通終了位置B3に設定される。
【0068】
また、本実施形態では、最大押出位置において、ベーン3Cの先端部3aが内周カム面4aに接触するように押出面184が形成されている。このため、ベーン3が径方向外方へ最大に押し出されると、吐出ポート31から吸込ポート33への作動油の流れがベーン3Cによって遮断される。
【0069】
これにより、
図2に示すベーンポンプ100の下部の第二の吸込領域から第二の吐出領域に向かって移動するポンプ室6によって発生させた吐出圧が、第一の吐出領域の吐出ポート31から第一の吸込領域の吸込ポート33へ逃げてしまうことを防止できる。
【0070】
第二の吐出領域において、ポンプ室6により発生させた吐出圧が逃げることなく保持されるので、各背圧室5の圧力が上昇し、スリット2Aに落ち込んでいる他のベーン3(例えば、ベーン3Cの隣りに位置するベーン3)が、背圧室5内の圧力とロータ2の回転に伴って働く遠心力とによって、径方向外方に付勢され、その先端部3aが内周カム面4aに摺接する。
【0071】
これにより、各ポンプ室6が正常に拡縮し、ポンプ吐出圧が所望の圧力まで短時間で上昇する。
【0072】
図8を参照して、ベーン3Cの最大押出位置を設定する領域について説明する。領域A1〜A5は、ロータ2の周方向に沿って設定される領域である。
【0073】
(比較例1)
ベーン3Cの最大押出位置が、領域A1内に設定される場合
領域A1は、第一の吸込領域において、内周カム面4aの短径部141と移行部142との境界位置B1から内周カム面4aの移行部142と長径部143との境界位置B2までの領域である。つまり、領域A1は、内周カム面4aの移行部142に対応する領域である。
【0074】
領域A1内に最大押出位置を設定した場合、ベーン3Cの突出量が内周カム面4aによって制限される。このため、ベーン3が押出面184によって押し出され、先端部3aが内周カム面4aに接触した後、ロータ2の回転に伴い、先端部3aと内周カム面4aとの間に大きな隙間が形成されてしまう場合がある。
【0075】
(実施例1)
ベーン3Cの最大押出位置が、領域A2内に設定される場合
領域A2は、第一の吸込領域において、内周カム面4aの移行部142と長径部143との境界位置B2からロータ2の回転に伴ってポンプ室6と吸込ポート33との連通が終わる連通終了位置B3までの領域である。つまり、領域A2は、内周カム面4aの長径部143に対応する領域であり、かつ、吸込ポート33に対応する領域である。
【0076】
領域A2内に最大押出位置を設定した本実施例1では、領域A1に最大押出位置を設定した比較例1に比べて、最大押出位置におけるベーン3の突出量を大きくすることができる。ベーン3の最大押出位置を長径部143に設定することにより、ベーン3の先端部3aが内周カム面4aに接触した後、先端部3aと内周カム面4aとの間に隙間が形成されることを防止できる。したがって、本実施例1では、最大押出位置を領域A1に設定する比較例1に比べて、ベーンポンプ100の始動時に、ポンプ吐出圧をより速やかに立ち上げることができる。
【0077】
(比較例2)
ベーン3Cの最大押出位置が、領域A5内に設定される場合
領域A5は、第一の吐出領域において、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6が吐出ポート31に連通し始める連通開始位置B5からロータ2の回転に伴ってポンプ室6と吐出ポート31との連通が終わる連通終了位置B6までの領域である。つまり、領域A5は、吐出ポート31に対応する領域である。
【0078】
領域A5内に最大押出位置を設定した場合、ベーン3が径方向外方に最大に押し出されたときに、吐出ポート31と吸込ポート33とが連通してしまう。つまり、第二の吐出領域において、ポンプ室6により発生させた吐出圧が第一の吐出領域の吐出ポート31を通じて第一の吸込領域の吸込ポート33に逃げてしまう。
【0079】
(実施例2)
ベーン3Cの最大押出位置が、領域A4内に設定される場合
領域A4は、第一の吐出領域において、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6がノッチ36に連通し始める連通開始位置B4から吐出ポート31の連通開始位置B5までの領域である。つまり、領域A4は、ノッチ36に対応する領域である。
【0080】
領域A4内に最大押出位置を設定した場合、ベーン3が径方向外方に最大に押し出されたときに、吐出ポート31はノッチ36を介して吸込ポート33と連通される。しかしながら、ノッチ36は、作動油の流路断面積が小さく、ノッチ36を通過する作動油には大きな通過抵抗が作用することになる。したがって、本実施例2では、最大押出位置を領域A5に設定する比較例2に比べて、ベーンポンプ100の始動時に、ポンプ吐出圧をより速やかに立ち上げることができる。
【0081】
(実施例3)
ベーン3Cの最大押出位置が、領域A3内に設定される場合
領域A3は、第一の吸込領域に設けられる吸込ポート33の連通終了位置B3からノッチ36の連通開始位置B4までの領域である。
【0082】
領域A2内に最大押出位置を設定した実施例1では、ベーン3Cが、径方向外方に最大に押し出された後、連通終了位置B3に至る前に、その自重により僅かにスリット2A内に戻るおそれがある。また、領域A4内に最大押出位置を設定した実施例2では、ノッチ36を通じて、吐出ポート31と吸込ポート33とが連通する。
【0083】
これに対して、領域A3内に最大押出位置を設定する本実施例3では、ベーン3が径方向外方に最大に押し出されたときに、吐出ポート31と吸込ポート33との連通が遮断される。したがって、領域A2内に最大押出位置を設定する実施例1に比べて、より効果的にポンプ吐出圧を立ち上げることができる。
【0084】
上記実施例1〜3及び比較例1,2から、ベーン3Cの最大押出位置は、移行部142と長径部143との境界位置B2から吐出ポート31の連通開始位置B5までの領域(領域A2〜A4)内に設定することが好ましい。また、吸込ポート33の連通終了位置B3よりもロータ2の回転方向側に設定することがより好ましく、さらに、ノッチ36の連通開始位置B4よりもロータ2の回転逆方向側に設定することがより好ましい。
【0085】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0086】
本実施形態に係るベーンポンプ100では、背圧溝34における、ロータ2の回転に伴って背圧室5との連通が終わる連通終了側の端部に、ベーンポンプ100の始動時に、ベーン3の基端部3bに接触することにより、ロータ2の回転に伴ってベーン3をロータ2の径方向外方に向かって押し出す押出面184が設けられる。
【0087】
このため、ベーンポンプ100の始動時に、自重によりスリット2Aに落ち込んだ状態のベーン3Cが、押出面184により強制的に径方向外方に向かって押し出され、吐出ポート31から吸込ポート33への作動油の流れが制限される。つまり、第二の吐出領域で発生した吐出圧が、第一の吐出領域を通じて第一の吸込領域へ逃げることが防止される。
【0088】
第二の吐出領域で発生させた吐出圧が逃げることなく保持されるので、各背圧室5の圧力が上昇し、各背圧室5の圧力によって各スリット2Aに落ち込んでいた各ベーン3が各スリット2Aから速やかに突出し、各ベーン3の先端部3aが内周カム面4aに摺接する。これにより、各ポンプ室6が正常に拡縮し、ポンプ吐出圧が所望の圧力まで短時間で上昇する。つまり、本実施形態によれば、ベーンポンプ100の始動時に、ポンプ吐出圧を速やかに立ち上げることができる。
【0089】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0090】
(変形例1)
上記実施形態では、ベーン3Cの基端部3bの押出面184に対する接触点Qが終端P0に位置したときに、ベーン3Cの先端部3aが内周カム面4aに接触する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
図9に示すように、ベーン3Cの基端部3bの押出面184に対する接触点Qが終端P0に位置したときに、ベーン3Cの先端部3aと内周カム面4aとの間に隙間が形成されていてもよい。ベーン3Cを十分に突出させることにより、ベーン3Cの先端部3aと内周カム面4aとの間の隙間を通過する作動油の通過抵抗を大きくすることができる。これにより、ベーン3Cの前後差圧(吐出側圧力−吸込側圧力)を大きくすることができる。
【0091】
このように、本変形例1では、ベーンポンプ100の始動時に、自重によりスリット2Aに落ち込んだ状態のベーン3Cを、押出面184により強制的に径方向外方に向かって押し出し、吐出ポート31から吸込ポート33への作動油の流れが制限される。その結果、第二の吐出領域で発生した吐出圧が、第一の吐出領域の吐出ポート31を通じて第一の吸込領域の吸込ポート33へ逃げてしまうことが抑制される。したがって、本変形例1によれば、上記実施形態と同様、ベーンポンプ100の始動時に、ポンプ吐出圧を速やかに立ち上げることができる。
【0092】
(変形例2)
上記実施形態では、背圧室5の底部5cが、内側円弧面183に一致するように背圧溝34が形成されている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
図10(a)に示すように、背圧室5の底部5cが内側円弧面183よりもロータ2の径方向外側に位置するように形成してもよい。
【0093】
本変形例2では、自重により背圧室5の底部5cに落ち込んだベーン3Cの基端部3bは、内側円弧面183に接触していない。ベーンポンプ100の始動時、ロータ2が回転すると、
図10(b)に示すように、押出面184と背圧室5の底面とが重なり、ベーン3Cの基端部3bが押出面184に接触する。これにより、ベーン3Cが押出面184によって径方向外方に強制的に押し出される。
【0094】
一方、背圧室5の底部5cが内側円弧面183よりもロータ2の径方向内側に位置する場合(不図示)、ベーン3Cが自重によって落ち込む際、内側円弧面183に引っ掛かることなく、背圧室5の底部5cまで落ち込んでしまうことがある。この場合、ベーンポンプ100の始動時、ロータ2が回転してもベーン3Cの基端部3bが押出面184に接触しないので、押出面184によりベーン3Cを押し出すことができない。
【0095】
したがって、背圧溝34は、背圧室5の底部5cが内側円弧面183に一致するように(
図5参照)、または、背圧室5の底部5cが内側円弧面183よりもロータ2の径方向外側に位置するように(
図10(a)参照)形成されることが好ましい。これにより、自重によりスリット2Aに落ち込んだベーン3の基端部3bが押出面184と接触しやすくなる。
【0096】
(変形例3)
背圧溝34の形状は、上記実施形態に限定されない。例えば、
図11に示すように、背圧溝34の端部に底の浅い溝状のノッチ280を形成し、ノッチ280の内側内周面を押出面184としてもよい。
【0097】
(変形例4)
上記実施形態では、ボディ側サイドプレート30及びカバー側サイドプレート40の双方に複数の背圧溝34,35,44を設ける例について説明したが、本発明はこれに限定されない。ボディ側サイドプレート30及びカバー側サイドプレート40の少なくとも一方に背圧溝を設けるようにしてもよい。
【0098】
(変形例5)
上記実施形態では、第一及び第二吸込領域に配置される背圧溝34に押出面184を形成する例(
図3参照)について説明したが、本発明はこれに限定されない。ベーンポンプ100の上部に位置する第一吸込領域に配置される背圧溝34にのみ押出面184を形成してもよい(
図11参照)。なお、上記実施形態のように、第一及び第二吸込領域に配置される背圧溝34に押出面184を形成することにより、サイドプレート30,40を上下逆にしても組み付けることができるので、組付自由度が向上する。
【0099】
(変形例6)
上記実施形態では、背圧溝34,35,44は、溝状に形成することに限定されることはなく、貫通孔として形成してもよい。
【0100】
(変形例7)
上記実施形態では、一対のサイドプレート30,40を設ける例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、カバー側サイドプレート40をポンプカバー20に一体に成形してもよい。この場合、ポンプカバー20がロータ2及びカムリング4の側面に当接するサイド部材として機能する。
【0101】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0102】
ベーンポンプ100は、放射状に形成される複数のスリット2Aを有し、回転駆動されるロータ2と、スリット2Aに摺動自在に収装される複数のベーン3と、ベーン3の先端部3aが摺接する内周カム面4aを有するカムリング4と、ロータ2及びカムリング4の一方の側面に当接するボディ側サイドプレート30と、ロータ2及びカムリング4の他方の側面に当接するカバー側サイドプレート40と、ロータ2とカムリング4と隣り合うベーン3とにより画成されるポンプ室6と、スリット2A内においてベーン3の基端部3bによって区画される背圧室5と、を備え、ボディ側サイドプレート30は、ポンプ室6へ作動油を導く吸込ポート33と、ポンプ室6から作動油が導かれる吐出ポート31と、を有し、ボディ側サイドプレート30及びカバー側サイドプレート40の少なくとも一方は、ロータ2に摺接する摺接面30a,40aに開口し、背圧室5と連通する背圧溝34を有し、背圧溝34における、ロータ2の回転に伴って背圧室5との連通が終わる連通終了側の端部には、ベーンポンプ100の始動時に、ベーン3の基端部3bに接触することにより、ロータ2の回転に伴ってベーン3をロータ2の径方向外方に向かって押し出す押出面184が設けられる。
【0103】
この構成では、ベーンポンプ100の始動時に、自重によりスリット2Aに落ち込んだ状態のベーン3が、押出面184により強制的に径方向外方に向かって押し出され、押し出されたベーン3によって吐出ポート31から吸込ポート33への作動油の流れが制限される。したがって、ベーンポンプ100の始動時に、ポンプ吐出圧を速やかに立ち上げることができる。
【0104】
ベーンポンプ100は、押出面184が、背圧溝34の幅方向の中心面C1よりもロータ2の径方向外方へベーン3の基端部3bを押し出すように形成される。
【0105】
この構成では、スリット2Aからのベーン3の突出量を大きくできる。
【0106】
ベーンポンプ100は、背圧溝34が、ロータ2の周方向に沿って円弧状に形成される内側円弧面183を有し、押出面184が、内側円弧面183に連続して設けられる。
【0107】
この構成では、ロータ2の回転に伴って、背圧溝34の内側円弧面183に沿って移動するベーン3の基端部3bを押出面184にスムーズに案内することができる。
【0108】
ベーンポンプ100は、背圧室5の底部が内側円弧面183に一致するように、または、背圧室5の底部5cが内側円弧面183よりもロータ2の径方向外側に位置するように、背圧溝34が形成される。
【0109】
この構成では、自重によりスリット2Aに落ち込んだベーン3の基端部3bが押出面184と接触しやすくなる。
【0110】
ベーンポンプ100は、内周カム面4aが、ロータ2の回転中心軸Oからの径が短い短径部141と、短径部141よりもロータ2の回転中心軸Oからの径が長い長径部143と、短径部141から長径部143に向かって徐々にロータ2の回転中心軸Oからの径が長くなる移行部142と、を有し、押出面184によりベーン3が径方向外方に最大に押し出される最大押出位置は、ポンプ室6が拡張する吸込領域内における移行部142と長径部143との境界となる境界位置B2から、ポンプ室6が収縮する吐出領域内におけるロータ2の回転に伴ってポンプ室6が吐出ポート31に連通し始める連通開始位置B5までの領域内に設定される。
【0111】
ベーンポンプ100は、最大押出位置が、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6と吸込ポート33との連通が終わる連通終了位置B3から吐出ポート31の連通開始位置B5までの領域内に設定される。
【0112】
ベーンポンプ100は、吐出ポート31に連通する溝状のノッチ36をさらに備え、ノッチ36は、ロータ2の回転方向に向かって開口面積が徐々に大きくなるように形成され、最大押出位置が、境界位置B2からロータ2の回転に伴ってポンプ室6がノッチ36に連通し始める連通開始位置B4までの領域内に設定される。
【0113】
これらの構成では、スリット2Aからのベーン3の突出量を大きくすることができ、吐出ポート31から吸込ポート33への作動油の流れをより効果的に制限できる。
【0114】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。