特許第6867958号(P6867958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867958
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/22 20180101AFI20210426BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20210426BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210426BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20210426BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20210426BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20210426BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20210426BHJP
【FI】
   C09J7/22
   C09J133/04
   C09J11/06
   C09J7/38
   H01L21/68 N
   C09J201/00
   C09J7/35
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-566562(P2017-566562)
(86)(22)【出願日】2017年1月17日
(86)【国際出願番号】JP2017001419
(87)【国際公開番号】WO2017138310
(87)【国際公開日】20170817
【審査請求日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-23825(P2016-23825)
(32)【優先日】2016年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】九津見 正信
(72)【発明者】
【氏名】林 泰則
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀
【審査官】 小出 輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−213922(JP,A)
【文献】 特開2015−149398(JP,A)
【文献】 特開2013−251402(JP,A)
【文献】 特開2013−165128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/22
C09J 7/35
C09J 7/38
C09J 11/06
C09J 133/04
C09J 201/00
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着フィルムXと、粘着剤層Yと、基材フィルムZをX、Y、Zの順に配置した粘着シートであって、
前記接着フィルムXが、基体樹脂と、光重合開始剤、熱重合開始剤、重合禁止剤、帯電防止剤、架橋促進剤、老化防止剤、及び軟化剤から選択される機能成分であり且つ分子量が500以下である第1添加剤(A)を前記接着フィルムX100質量%中に0.05〜20質量%含有し、
前記粘着剤層Yが、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)100質量部と、多官能イソシアネート硬化剤(C)0.5〜10質量部と、前記接着フィルムX中の第1添加剤(A)と同一の機能成分であり且つ分子量が500以下である第2添加剤(D)を含有し、
第2添加剤(D)は、前記粘着剤層Y100質量%中に0.1〜20質量%であることを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記接着フィルムX中での第1添加剤(A)の濃度に対する、前記粘着剤層Y中での第2添加剤(D)の濃度の比は、0.02〜4である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記濃度の比は、0.1〜3.4である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記濃度の比は、0.5〜1.5である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項5】
第2添加剤(D)は、重合禁止剤と熱重合開始剤から選択される、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項6】
第2添加剤(D)は、熱重合開始剤と重合禁止剤から選択される少なくとも1種の機能成分と、光重合開始剤、帯電防止剤、架橋促進剤、老化防止剤、及び軟化剤から選択される少なくとも1種の機能成分を含有する、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記重合禁止剤がメチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、4−メトキシナフトール、1,4−ベンゾキノン、メトキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、N−ニトロソフェニルヒドロシキルアミンアルミニウム塩、1,4−ナフトキノン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル、4−ターシャリー・ブチルカテコール、ジブチルジチオカルバミン酸銅から選択される1種以上である、請求項5又は請求項6に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記熱重合開始剤がベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイドから選択される1種以上である、請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項9】
第2添加剤(D)は、第1添加剤(A)と同一物質である、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記接着フィルムXは、熱硬化性フィルムである、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項11】
前記粘着剤層Yの厚さは、前記接着フィルムXに対して0.1〜4倍の厚さである、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項12】
(a)請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の粘着シートの接着フィルムX側の面にシリコンウエハを貼付けて固定し、シリコンウエハ外周部に沿って切断する工程と、
(b)前記シリコンウエハの他方の面にダイシング用粘着テープを貼り合わせ、さらにダイシング用粘着テープをリングフレームに固定する工程と、
(c)前記粘着シートから、粘着剤層Yと基材フィルムZで構成される粘着テープを剥離する工程と、
(d)接着フィルムX付きシリコンウエハをダイシングする工程と、
(e)前記ダイシング用粘着テープを放射状に拡大してチップ間隔を広げた後、接着フィルムXが付着しているチップを剥離する工程と、
(f)複数のチップを積層し、加熱することで複数のチップを互いに接着させる工程と、
からなる半導体製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造方法として、ウエハや絶縁物基板上に複数の回路パターンを形成して電子部品集合体とした後、電子部品集合体を加工してチップとし、チップをピックアップし、チップの底面に接着剤を塗布し、チップを接着剤でリードフレーム等に固定し、チップを樹脂等で封止して電子部品とする方法が知られている。
【0003】
電子部品集合体を加工してチップを製造する方法としては、電子部品集合体の回路パターンを粘着テープに貼付け、回路パターンの裏面を薄く研磨(バックグラインド)する工程、粘着テープを剥離後、回路パターン面に粘着テープを貼り合せ、更にリングフレームに固定してから個々のチップに切断分離(ダイシング)し、接着剤を用いてチップを積層固定する方法が知られている。また、接着フィルムと粘着テープを積層した多層粘着シートを用いる方法が提案されている(特許文献1〜2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−049509号公報
【特許文献2】特開平02−248064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着フィルムと粘着テープの一体型シートを電子部品の製造に用いることにより、バックグラインドやダイシング後の接着剤の塗布工程を省略できる。接着フィルムと粘着テープの一体型シートは、接着剤を用いる方法に比べ、接着剤部分の厚さ制御や接着剤のはみ出し抑制に優れている。接着フィルムと粘着テープの一体型シートは、チップサイズパッケージ、スタックパッケージ、及びシステムインパッケージやTSV(Through Silicon Via)等の電子部品の製造に利用されている。しかしながら、接着フィルムと粘着テープの一体型シートとした場合は、接着フィルム中の添加剤が粘着テープに移行することがあるため、十分な特性が得られないことが問題となっている。また、接着フィルムと粘着テープの粘着力が低くなると、接着フィルムとの接着性が悪く作業中に剥離し、粘着力が高いと剥離不良となる場合があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、接着フィルムXと、粘着剤層Yと、基材Zを積層してなる粘着シートにおいて、接着フィルムX中の添加剤が粘着剤層Yに移行することによる接着フィルムXの特性変化を抑制することが可能な粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1) 接着フィルムXと、粘着剤層Yと、基材フィルムZをX、Y、Zの順に配置した粘着シートであって、
前記接着フィルムXが、基体樹脂と、光重合開始剤、熱重合開始剤、重合禁止剤、帯電防止剤、架橋促進剤、老化防止剤、及び軟化剤から選択される機能成分であり且つ分子量が500以下である第1添加剤(A)を0.05〜20質量%含有し、
前記粘着剤層Yが、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)100質量部と、多官能イソシアネート硬化剤(C)0.5〜10質量部と、前記接着フィルムX中の第1添加剤(A)と同一の機能成分であり且つ分子量が500以下である第2添加剤(D)を含有し、
第2添加剤(D)は、前記粘着剤層Y100質量%中に0.1〜20質量%であることを特徴とする粘着シート。
(2)前記接着フィルムX中での第1添加剤(A)の濃度に対する、前記粘着剤層Y中での第2添加剤(D)の濃度の比は、0.02〜4である、(1)に記載の粘着シート。
(3)前記濃度の比は、0.1〜3.4である、(1)に記載の粘着シート。
(4)前記濃度の比は、0.5〜1.5である、(1)に記載の粘着シート。
(5) 第2添加剤(D)は、重合禁止剤と熱重合開始剤から選択される、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の粘着シート。
(6) 第2添加剤(D)は、熱重合開始剤と重合禁止剤から選択される少なくとも1種の機能成分と、光重合開始剤、帯電防止剤、架橋促進剤、老化防止剤、及び軟化剤から選択される、(1)〜(5)のいずれか1項に少なくとも1種の機能成分を含有する粘着シート。
(7) 前記重合禁止剤がメチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、4−メトキシナフトール、1,4−ベンゾキノン、メトキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、N−ニトロソフェニルヒドロシキルアミンアルミニウム塩、1,4−ナフトキノン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル、4−ターシャリー・ブチルカテコール、ジブチルジチオカルバミン酸銅から選択される1種以上である、(5)又は(6)に記載の粘着シート。
(8)前記熱重合開始剤がベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイドから選択される1種以上である、(5)〜(7)のいずれか1項に記載の粘着シート。
(9) 第2添加剤(D)は、第1添加剤(A)と同一物質である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の粘着シート。
(10) 前記接着フィルムXは、熱硬化性フィルムである、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の粘着シート。
(11)前記粘着剤層Yの厚さは、前記接着フィルムXに対して0.1〜4倍の厚さである、(1)〜(10)のいずれか1項に記載の粘着シート。
(12)(a)(1)〜(11)のいずれか1項に記載の粘着シートの接着フィルムX側の面にシリコンウエハを貼付けて固定し、シリコンウエハ外周部に沿って切断する工程と、
(b)前記シリコンウエハの他方の面にダイシング用粘着テープを貼り合わせ、さらにダイシング用粘着テープをリングフレームに固定する工程と、
(c)前記粘着シートから、粘着剤層Yと基材フィルムZで構成される粘着テープを剥離する工程と、
(d)接着フィルムX付きシリコンウエハをダイシングする工程と、
(e)前記ダイシング用粘着テープを放射状に拡大してチップ間隔を広げた後、接着フィルムXが付着しているチップを剥離する工程と、
(f)複数のチップを積層し、加熱することで複数のチップを互いに接着させる工程と、
からなる半導体製品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
上記からなる粘着シートにおいては、接着フィルムX中の添加剤の濃度変化が抑制されるので、接着フィルムXの特性変化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において、単量体単位とは単量体に由来する構造単位を意味する。本明細書の部及び%は、特に記載がない限り質量基準とする。本明細書において(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基及びメタアクリロイル基の総称である。(メタ)アクリル酸等の(メタ)を含む化合物等も同様に、名称中に「メタ」を有する化合物と「メタ」を有さない化合物の総称である。また、以下、粘着テープとは、粘着剤層Yと基材Zを積層したものとする。
【0010】
本発明は、接着フィルムXと、粘着剤層Yと、基材フィルムZをX、Y、Zの順に配置した粘着シートであって、前記接着フィルムXが、基体樹脂と、光重合開始剤、熱重合開始剤、重合禁止剤、帯電防止剤、架橋促進剤、老化防止剤、及び軟化剤から選択される機能成分であり且つ分子量が500以下である第1添加剤(A)を0.05〜20質量%含有し、前記粘着剤層Yが、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)100質量部と、多官能イソシアネート硬化剤(C)0.5〜10質量部と、前記接着フィルムX中の第1添加剤(A)と同一の機能成分であり且つ分子量が500以下である第2添加剤(D)を含有し、第2添加剤(D)は、前記粘着剤層Y100質量%中に0.1〜20質量%であることを特徴とする粘着シートである。
【0011】
<接着フィルムX>
本発明の接着フィルムXは、基体樹脂と、第1添加剤(A)を含有する。接着フィルムXは、基体樹脂と第1添加剤(A)を含有する接着剤組成物溶液を作製し、接着剤組成物溶液を基材セパレータ上に所定厚みとなる様に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を乾燥させることで製造できる。
【0012】
(基体樹脂)
基体樹脂の種類は、特に限定されず、例えば、アクリル酸エステル共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド酸、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ゴム、フッ素ゴム及びフッ素樹脂の単体又はこれらの混合物である。
【0013】
(第1添加剤(A))
第1添加剤(A)は、光重合開始剤、熱重合開始剤、重合禁止剤、帯電防止剤、架橋促進剤、老化防止剤、及び軟化剤から選択される機能成分であり且つ分子量が500以下である。第1添加剤(A)は、接着フィルムXに所望の特性を付与するために添加されるものである。接着フィルムX中の第1添加剤(A)の濃度は、0.05〜20質量%であり、好ましくは0.5〜15質量%であり、さらに好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは3〜7質量%である。接着フィルムX中の第1添加剤(A)の量が少なすぎると所望の特性が得られない場合があり、多すぎると接着性が低下する等の問題が生じる場合がある。また、第1添加剤(A)の分子量を500以下としているのは、この分子量が500を超える場合には、第1添加剤(A)が粘着剤層Yに移行しにくいので、接着フィルムX内での第1添加剤(A)機能成分の濃度変化が起こりにくく、本発明を適用する必要性が低いからである。第1添加剤(A)の分子量の下限は特に限定されないが、例えば、100である。第1添加剤(A)は、光重合開始剤、熱重合開始剤、重合禁止剤、帯電防止剤、架橋促進剤、老化防止剤、及び軟化剤のうちの1つ機能成分を含んでもよく、複数の機能成分を含んでもよい。本願明細書において、添加剤の「機能成分」とは、機能に着目した表現であり、互いに異なる物質であっても同一の機能を有する成分は、同一の機能成分である。例えば、第1添加剤(A)が熱重合開始剤と重合禁止剤を含む場合は、第1添加剤(A)は2つ機能成分を含有する。一方、第1添加剤(A)が2つの物質(例えば、メチルヒドロキノンとジブチルヒドロキシトルエン)の重合禁止剤を含む場合、第1添加剤(A)は、1つの機能成分を含有する。第1添加剤(A)が複数の機能成分を含む場合、各機能成分の濃度が上記範囲であることが好ましい。
【0014】
接着フィルムXは、好ましくは熱硬化性フィルムであり、この場合、接着フィルムXは、熱重合開始剤と重合禁止剤の少なくとも一方を好適に含有する。接着フィルムXが熱重合開始剤を含有することによって接着フィルムXが熱硬化される温度が低下し、接着フィルムXが重合禁止剤を含有することによって接着フィルムXが熱硬化される温度が上昇する。このため、接着フィルムXに適量の重合開始剤と重合禁止剤を添加することによって接着フィルムXの熱硬化性が最適化される。また、接着フィルムX中での熱重合開始剤と重合禁止剤の少なくとも一方の濃度が変化すると接着フィルムXの熱硬化性が最適な状態からずれてしまうので、接着フィルムXが熱硬化性フィルムである場合には、熱重合開始剤と重合禁止剤の少なくとも一方の濃度変化を抑制することの意義が特に大きい。
【0015】
光重合開始剤は特に限定されず、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−アセトフェノン、2,2―ジエトキシ−2−アセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]等が挙げられる。
【0016】
熱重合開始剤は特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド、等が挙げられる。
【0017】
重合禁止剤は特に限定されず、例えばメチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、4−メトキシナフトール、1,4−ベンゾキノン、メトキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、N−ニトロソフェニルヒドロシキルアミンアルミニウム塩、1,4−ナフトキノン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル、4−ターシャリー・ブチルカテコール、ジブチルジチオカルバミン酸銅、等が挙げられる。
【0018】
帯電防止剤は特に限定されず、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、p−ジメチルアミノスチレン四級塩化物、及びp−ジエチルアミノスチレン四級塩化物、等が挙げられる。
【0019】
架橋促進剤は特に限定されず、例えばトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、等が挙げられる。
【0020】
老化防止剤は特に限定されず、例えばN−フェニル−1−ナフチルアミン、りん酸2−エチルヘキシルジフェニル、ジフェニルイソデシルホスファイト、亜りん酸トリフェニル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、等が挙げられる。
【0021】
軟化剤は特に限定されず、例えばフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、リン酸トリクレシル、アセチルクエン酸トリブチル、等が挙げられる。
【0022】
<粘着剤層Y>
本発明の粘着剤層Yは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主成分とするものであり、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)100質量部と、多官能イソシアネート硬化剤(C)0.5〜10質量部と、第2添加剤(D)を0.1〜20質量%含有する。
【0023】
((メタ)アクリル酸エステル共重合体(B))
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基を有する単量体及びそれらのエステルモノマーを重合させたポリマー、これらモノマーと共重合可能な不飽和単量体(例えば、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル)とを共重合させたコポリマーがある。本実施形態の粘着テープでは、粘着剤層を構成する粘着剤は、硬化剤を含有することによって、粘着力をより精密に調整することができる。そして、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)を構成するアクリルモノマーの少なくとも一つは、官能基含有単量体を含むものが好ましい。この官能基含有単量体は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)中に0質量%以上10質量%以下配合され重合されていることが好ましい。この官能基含有単量体の配合比が0.01質量%以上であれば、被着体への粘着力が十分強く水周りの発生が抑制される傾向にあり、この官能基含有単量体の配合比が10質量%以下であれば、被着体への粘着力が高くなりすぎないため、糊残りが発生することを抑制できる傾向にある。
【0024】
このアクリルモノマーとしては、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、2−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル単量体が挙げられる。
【0025】
このアクリルモノマーとしては、特に、少なくとも一部に官能基を含有する単量体を有するものが好ましい。この官能基を含有する単量体としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミド基、アミノ基、メチロール基、スルホン酸基、スルファミン酸基又は(亜)リン酸エステル基といった官能基の1種以上を有する単量体が挙げられる。そして、これらの中でも、特に、これらの官能基を有するビニル化合物がよく、好ましくはヒドロキシル基を有するビニル化合物がよい。なお、ここでいうビニル化合物には、後述するアクリレートが含まれるものとする。
【0026】
ヒドロキシル基を有する官能基含有単量体としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートがある。
【0027】
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、アクリルアミドN−グリコール酸、及びケイ皮酸等が挙げられる。
【0028】
エポキシ基を有する単量体としては、例えばアリルグリシジルエーテル、及び(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル等が挙げられる。
【0029】
アミド基を有する単量体としては、例えば(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0030】
アミノ基を有する単量体としては、例えばN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
メチロール基を有する単量体としては、例えばN−メチロールアクリルアミド等が挙げられる。
【0032】
アクリル重合体には、上記以外のビニル単量体を用いてもよく、例えばエチレン、スチレン、ビニルトルエン、酢酸アリル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、バーサテイク酸ビニル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル、(メタ)アクリロニトリル、及びビニルイソブチルエーテル等のビニル化合物等が挙げられる。
【0033】
(多官能イソシアネート硬化剤(C))
多官能イソシアネート硬化剤(C)はイソシアネート基を2個以上有する点以外に特に限定されず、例えば芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0034】
芳香族ポリイソシアネートは特に限定されず、例えば1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4'−トルイジンジイソシアネート、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4',4"−トリフェニルメタントリイソシアネート、ω,ω'−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω'−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω'−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、及び1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0035】
脂肪族ポリイソシアネートは特に限定されず、例えばトリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0036】
脂環族ポリイソシアネートは特に限定されず、例えば3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、及び1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0037】
ポリイソシアネートのうち、入手が容易な芳香族ポリイソシアネートである1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、及び4,4'−トルイジンジイソシアネートが好適に用いられる。
【0038】
これらのイソシアネート化合物は二量体や三量体であってもよく、またイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られるアダクト体であってもよい。
【0039】
多官能イソシアネート硬化剤(C)の配合比は(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)100質量部に対して0.5〜10質量部であり、2〜8質量部が好ましく、4〜6質量部がさらに好ましい。多官能イソシアネート硬化剤(C)が少ないと粘着力が強すぎて粘着テープと接着フィルムXが剥離できない場合がある。多官能イソシアネート硬化剤(C)が過剰であると粘着力が低下し、作業中に接着フィルムXが剥離する場合がある。
【0040】
接着フィルムXと粘着テープの間の粘着力を調整する別の方法として、粘着剤に粘着付与樹脂を添加する方法が挙げられる。粘着付与樹脂は特に限定されず、例えばロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、脂肪族芳香族共重合石油樹脂、脂環族炭化水素樹脂、並びに、これらの変性品、誘導体、及び水素添加品等が挙げられる。
【0041】
粘着付与樹脂の配合量は特に限定されず、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して200質量部以下、好ましくは30質量部以下とすることが好ましい。
【0042】
(第2添加剤(D))
第2添加剤(D)は、接着フィルムX中の第1添加剤(A)と同一の機能成分である。このため、例えば、第1添加剤(A)が熱重合開始剤である場合、第2添加剤(D)も熱重合開始剤であり、第1添加剤(A)が重合禁止剤である場合、第2添加剤(D)も重合禁止剤である。第2添加剤(D)は、重合禁止剤と熱重合開始剤から選択されることが好ましい。また、第2添加剤(D)は、熱重合開始剤と重合禁止剤から選択される少なくとも1種の機能成分と、光重合開始剤、帯電防止剤、架橋促進剤、老化防止剤、及び軟化剤から選択される少なくとも1種の機能成分を含有することが好ましい。第2添加剤(D)は、第1添加剤(A)に含まれていない機能成分を含有してもよい。例えば、第1添加剤(A)が熱重合開始剤のみである場合に、第2添加剤(D)が熱重合開始剤及び重合禁止剤を含有してもよい。一方、第2添加剤(D)に含まれていない機能成分を第1添加剤(A)が含有してもよい。例えば、第1添加剤(A)が熱重合開始剤及び重合禁止剤を含有する場合に、第2添加剤(D)が熱重合開始剤のみを含んでもよい。第1添加剤(A)及び第2添加剤(D)がそれぞれ複数の機能成分を含有する場合、全ての機能成分が共通していることが好ましい。
【0043】
粘着剤層Y中の第2添加剤(D)の濃度は、0.1〜20質量%であり、好ましくは0.5〜17質量%であり、さらに好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは3〜7質量%である。粘着剤層Y中の第2添加剤(D)は、接着フィルムX中の第1添加剤(A)が粘着剤層Yに移行して、接着フィルムX中の第1添加剤(A)の濃度が低下することを抑制する目的で添加する。粘着剤層Y中に第2添加剤(D)が含まれていると、第1添加剤(A)の粘着剤層Yへの移行と第2添加剤(D)の接着フィルムXへの移行が同時に起こるので、第1添加剤(A)と第2添加剤(D)の機能成分が同一であれば、接着フィルムX中での第1添加剤(A)の減少と第2添加剤(D)の増大が打ち消し合って、接着フィルムX中での第1添加剤(A)の機能成分の濃度変化が抑制される。第2添加剤(D)の濃度が低すぎると、第2添加剤(D)の接着フィルムXへの移行が少なすぎて接着フィルムX中での第1添加剤(A)の機能成分の濃度変化抑制の効果が得られにくい。一方、第2添加剤(D)の濃度が高すぎると第2添加剤(D)の接着フィルムXへの移行が多くなりすぎて、接着フィルムX中での第1添加剤(A)の機能成分の濃度が高くなってしまう。第2添加剤(D)が複数の機能成分を有する場合、各機能成分の濃度が上記範囲である。
【0044】
接着フィルムX中の機能成分の濃度変化を抑制するという観点からは、接着フィルムX中の第1添加剤(A)の濃度と粘着剤層Y中の第2添加剤(D)の濃度が近いほど好ましく、濃度比(第2添加剤(D)/第1添加剤(A))は、例えば0.02〜4であり、好ましくは0.1〜3.4であり、さらに好ましくは0.5〜1.5である。第1添加剤(A)と第2添加剤(D)がそれぞれ複数の機能成分を含有する場合、各機能成分について濃度比が上記範囲内であることが好ましい。
【0045】
また、第2添加剤(D)の分子量を500以下としているのは、この分子量が500を超える場合には、第2添加剤(D)が接着フィルムXに移行しにくいので、粘着剤層Y中に第2添加剤(D)を添加することによって、接着フィルムX中での第1添加剤(A)の機能成分の濃度変化を抑制する効果得られにくいからである。第2添加剤(D)の分子量の下限は特に限定されないが、例えば、100である。
【0046】
第2添加剤(D)は、第1添加剤(A)と同一の機能成分であればよく、同一の物質である必要はない。従って、例えば第1添加剤(A)が第1物質(例:メチルヒドロキノン)からなる重合禁止剤である場合に、第2添加剤(D)が第2物質(ジブチルヒドロキシトルエン)からなる重合禁止剤であってもよい。この場合、第1物質が接着フィルムXから粘着剤層Yに移行することによって接着フィルムX中での第1物質の濃度は低下するが、第2物質が粘着剤層Yから接着フィルムXに移行するために、接着フィルムX中での重合禁止剤の濃度の変化が抑制される。但し、接着フィルムXと粘着剤層Yの間での移行のしやすさは物質によって異なっているので、接着フィルムX中での第1添加剤(A)の機能成分の濃度変化をより効果的に抑制すべく、第1添加剤(A)と第2添加剤(D)は、同一物質であることが好ましい。第1添加剤(A)と第2添加剤(D)がそれぞれ複数の物質を含んでいる場合には、全ての物質が共通していることが好ましい。
【0047】
粘着剤層Yの厚さは、接着フィルムXに対して0.1〜4倍の厚さであることが好ましく、0.5〜3倍がより好ましい。接着フィルムXに対し粘着剤層Yの厚さが薄い場合又は厚い場合、接着フィルムX中での第1添加剤(A)の機能成分の濃度変化の抑制が不十分になる場合があるからである。
<基材フィルムZ>
【0048】
基材フィルムZは各種合成樹脂製のシートが使用可能である。基材フィルムZの素材は特に限定されないが、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体、及びアイオノマ樹脂等が挙げられる。基材フィルムにはこれらの樹脂の混合物、共重合体、及び多層フィルム等も使用可能である。
【0049】
基材フィルムZの素材はアイオノマ樹脂を用いることが好ましい。アイオノマ樹脂の中でも、エチレン単位、(メタ)メタアクリル酸単位、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を有する共重合体をNa+、K+、Zn2+等の金属イオンで架橋したアイオノマ樹脂が好適に用いられる。
【0050】
基材フィルムZの成型方法は特に限定されず、例えばカレンダー、Tダイ押出し、インフレーション、及びキャスティング等が挙げられる。基材フィルムの厚さは30〜300μmが好ましく、60〜200μmがより好ましい。
【0051】
基材フィルムZには、接着フィルムXの剥離時における帯電を防止するために、基材フィルムZの片面又は両面に帯電防止剤を塗布して帯電防止処理を施してもよい。
【0052】
<粘着シート>
粘着剤層Yと基材フィルムZを積層してなる粘着テープの、粘着剤層Y側の面に接着フィルムXを貼り付け、粘着シートとする。電子部品の製造に使用する場合には、接着フィルムXと粘着テープの間の粘着力が0.05〜1.0N/20mmであることが好ましい。接着フィルムXと粘着剤テープの間の粘着力が1.0N/20mm以下であると剥離不良の発生が抑制され、粘着力が0.05N/20mm以上であると接着フィルムXを適切に保持できる利点があるからである。このような粘着力を付与すべく、粘着剤層Yは、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)100質量部と、多官能イソシアネート硬化剤(C)0.5〜10質量部とを含有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主成分とするものであることが好ましい。
【0053】
<電子部品の製造方法>
本実施形態の粘着シートを使用した電子部品の製造方法は特に限定されないが、例えば下記の手順が挙げられる。
(1)基材フィルムZ上に粘着剤層Yが形成された粘着テープを作成する。
(2)粘着テープの粘着剤層Y側の面に接着フィルムXを貼り合せ、粘着シートを作成する。
(3)粘着シートの接着フィルムX側の面にシリコンウエハを貼付けて固定し、ウエハ外周部に沿って切断する。
(4)シリコンウエハの他方の面にダイシング用粘着テープを貼り合わせ、さらにダイシング用粘着テープをリングフレームに固定する。
(5)粘着シートから粘着テープを剥離する。これによって接着フィルムXがシリコンウエハ上に残った状態になる。
(6)接着フィルムX付きウエハをダイシングする。この際に接着フィルムXもダイシングされる。
(7)ダイシング用粘着テープを放射状に拡大してチップ間隔を広げた後、チップを剥離する。剥離された各チップにはダイシングされた接着フィルムXが付着している。
(8)複数のチップを積層し、加熱することで複数のチップを互いに接着させる。
【実施例】
【0054】
<実施例1>
実施例1に係る接着フィルムX、粘着テープ及び粘着シートは下記の処方で作成した。
【0055】
(接着フィルムX)
ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂(東都化成社製、型式:PG208GS)とビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、型式:EP828)を35:65の割合(質量比)で混合し、前記エポキシ樹脂100質量部に対しフェノールノボラック系硬化剤(明和化成社製、型式:H−1)を50質量部、及び第1添加剤(A)を含有する接着剤組成物溶液を作製し、接着剤組成物溶液を基材セパレータ上に所定厚さとなる様に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を乾燥させることで接着フィルムXを製造した。厚さは30μmであった。第1添加剤(A)は、接着フィルムX中での濃度が5質量%となるように接着剤組成物溶液に添加した。
第1添加剤(A):分子量220のジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)、市販品。
【0056】
(粘着テープ)
粘着テープの粘着剤層を構成する粘着剤は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)100質量部、多官能イソシアネート硬化剤(C)5質量部、第2添加剤(D)を前記粘着剤中に5質量%含有した粘着剤溶液をPETセパレーターフィルム上に塗布し、乾燥後の厚さが30μmとなるようにし、基材フィルム100μmに積層することで、粘着テープを得た。
【0057】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B):2−エチルヘキシルアクリレート95質量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート5質量%の共重合体、ガラス転移点−67.8℃、合成品。
多官能イソシアネート硬化剤(C):2,4−トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、市販品。
第2添加剤(D):分子量220のジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)、市販品。
基材フィルムZ:エチレン−メタアクリル酸−メタアクリル酸アルキルエステル共重合体のZn塩を主体、MFR値1.5g/10分(JIS K7210、210℃)、融点96℃、三井・デュポンポリケミカル社製、市販品。
【0058】
(粘着シート)
接着フィルムXを粘着テープの粘着剤層Y側の面にラミネートして粘着シートを得た。
【0059】
<実施例2〜17及び比較例1〜6>
第1添加剤(A)の種類及び濃度、多官能イソシアネート硬化剤(C)の配合量、及び第2添加剤(D)の種類及び濃度を表1〜表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法によって、実施例2〜17及び比較例1〜6の粘着シートを得た。
【0060】
<粘着テープの評価方法>
(濃度変化抑制度)
接着フィルムXに粘着テープを2kgローラの1往復で圧着して貼り合せて粘着シートを形成した後、45±2℃オーブンで24時間放置した。常温に戻し接着フィルムXと粘着テープを剥離した後、粘着テープ中の第2添加剤(D)の機能成分の濃度変化をGC−MSにて下記の方法で測定した。移行抑制度は、以下の基準で評価した。
A:濃度変化が10%未満
B:濃度変化が10%以上25%未満
C:濃度変化が25%以上50%未満
D:濃度変化が50%以上75%未満
E:濃度変化が75%以上
【0061】
・測定方法
(1)粘着テープを20mlバイアル瓶に採取し、窒素ガスにて置換、封入する。
(2)175℃×10分加熱し、気相部をGC−MSにて測定する。
(3)接着フィルムX貼り合せ前後の添加剤量を比較し、濃度変化を算出する。
装置名:CombI−PAL−Agilent6890GC−5973N MSシステム
カラム:Hp−5MS 30m×0.25mm×0.25μm
カラム温度:40℃(5分保持) → 10℃/分 → 150℃ → 20℃/分 → 280℃(12.5分保持)
インジェクション温度:250℃
検出器温度:280℃
流量:1ml/分
スプリット:1/50
定流量:7.5psi.(40℃)
【0062】
(剥離性)
粘着シートをシリコンウエハ上に貼り合せ、2kgロ−ラの1往復で圧着し、圧着24時間後に粘着テープと接着フィルムXの界面の粘着力を引張試験機にて下記の方法で測定した。剥離性は、以下の基準で評価した。
◎:粘着力が0.2N/20mm以上0.7N/20mm未満
○:粘着力が0.05N/20mm以上0.2N/20mm未満、又は0.7N/20mm以上1.0N/20mm未満
×:粘着力が0.05N/20mm未満、又は1.0N/20mm以上
【0063】
・測定方法
剥離方法:180°ピ−ル
引張り速度:300mm/分
【0064】
それぞれの実施例1〜17、比較例1〜6の配合と評価結果を表1〜表2にまとめる。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1〜表2の結果から、全ての実施例の粘着シートは、粘着テープ中の添加剤の濃度変化が小さく、剥離性も良好であることが分かった。一方、比較例1の粘着シートは、第1添加剤(A)と第2添加剤(D)の機能成分が互いに異なるために粘着テープ中の第2添加剤(D)の機能成分の濃度変化が大きくなった。比較例2〜3の粘着シートは、第2添加剤(D)の濃度が低すぎるか又は高すぎるために、粘着テープ中の第2添加剤(D)の機能成分の濃度変化が大きくなった。比較例4の粘着シートは、第2添加剤(D)の分子量が大きすぎるために、粘着テープ中の第2添加剤(D)の機能成分の濃度変化が大きくなった。比較例5〜6の粘着シートは、多官能イソシアネート硬化剤(C)の配合量が少なすぎるか又は多すぎるために、剥離性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、上記の粘着シートは、粘着テープ中の添加剤の濃度変化が小さいため接着フィルムX中の添加剤の濃度変化が少なく、剥離性に優れている。そのため、上記の粘着シートは、複数のチップを積層固定する電子部品の製造方法に好適に用いられる。