特許第6868002号(P6868002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868002
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】ゼオライト粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20210426BHJP
   C01B 39/02 20060101ALI20210426BHJP
   C01B 39/04 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C01B39/48
   C01B39/02
   C01B39/04
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-508809(P2018-508809)
(86)(22)【出願日】2017年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2017007415
(87)【国際公開番号】WO2017169427
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-72738(P2016-72738)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏之
(72)【発明者】
【氏名】市川 真紀子
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/090049(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/00−39/54
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ源を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を用いてゼオライト結晶を湿式粉砕することによって、ゼオライト種結晶を形成する工程と、
前記ゼオライト種結晶を含む前記シリカ不飽和アルカリ溶液にシリカ源を添加してシリカ飽和アルカリ溶液を調製する工程と、
前記シリカ飽和アルカリ溶液を密閉加熱してゼオライト粉末を合成する工程と、
を備え
前記シリカ不飽和アルカリ溶液のpHは、11.5以上である、
ゼオライト粉末の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、30%以下である、
請求項1に記載のゼオライト粉末の製造方法。
【請求項3】
前記シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、実質的に0%である、
請求項2に記載のゼオライト粉末の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ不飽和アルカリ溶液は、前記アルカリ源としてエチレンジアミン及び水酸化ナトリウムの少なくとも一方を含む、
請求項1乃至のいずれかに記載のゼオライト粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライト粉末を合成する工程の前に、前記シリカ不飽和アルカリ溶液又は前記シリカ飽和アルカリ溶液に構造規定剤を添加する工程を備える、
請求項1乃至のいずれかに記載のゼオライト粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ゼオライト結晶は、DDR型又はMFI型ゼオライト結晶であり、
前記ゼオライト粉末は、DDR型又はMFI型ゼオライト粉末である、
請求項1乃至のいずれかに記載のゼオライト粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ源とシリカ源を含み、ゼオライト種結晶が分散された原料溶液を用いてゼオライト粉末を合成する手法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。特許文献1では、ゼオライト種結晶が分散されたシリカ源をアルカリ源に混合することによって原料溶液が調製されている。特許文献2では、水とシリカ源の混合物にアルカリ源を添加した後にゼオライト種結晶を分散させることによって原料溶液が調製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/090049号
【特許文献2】特開2004−83375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ゼオライト粉末の粒子径を小さくするほどゼオライト粉末の触媒活性が高まるため、微細なゼオライト種結晶を用いて粒子径の小さなゼオライト粉末を合成したいという要請がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の手法では、微細なゼオライト種結晶を用いると原料溶液中で凝集してしまうため、ゼオライト粉末の粒子径を小さくするにも限界がある。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、粒子径の小さなゼオライト粉末の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るゼオライト粉末の製造方法は、ゼオライト粉末の製造方法は、アルカリ源を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を用いてゼオライト結晶を湿式粉砕することによって、ゼオライト種結晶を形成する工程と、ゼオライト種結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液にシリカ源を添加してシリカ飽和アルカリ溶液を調製する工程と、シリカ飽和アルカリ溶液を密閉加熱してゼオライト粉末を合成する工程とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粒子径の小さなゼオライト粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ゼオライト粉末の製造方法を示すフロー図
図2】ゼオライト結晶分散溶液中のゼオライト結晶を示す模式図
図3】シリカ不飽和アルカリ溶液中で湿式粉砕されたゼオライト種結晶を示す模式図
図4】ゼオライト粉末が合成される様子を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ゼオライト粉末の製造方法)
本実施形態に係るゼオライト粉末の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図1は、ゼオライト粉末の製造方法を示すフロー図である。
【0011】
1.ゼオライト結晶の調製(ステップS1)
まず、ゼオライト結晶を調製する。ゼオライト結晶は、水熱合成など既存の手法により合成したもの、又は、市販のゼオライト結晶を使用することができる。ゼオライト結晶は、溶媒に分散した状態でも、乾燥した状態でもよい。図2は、ゼオライト結晶分散溶液中のゼオライト結晶を示す模式図である。
【0012】
ゼオライト結晶の種類(型)は特に制限されるものではなく、例えばDDR、CHA、RHO、AFX、LTA、MFI、MOR、FER、FAUなどから選択することができる。ゼオライト結晶の種類は特に制限されないが、ゼオライト粉末の効率的な合成を考慮すると、合成されるゼオライト粉末の結晶型と同じであることが好ましい。すなわち、DDR型ゼオライト粉末を合成する場合には、DDR型のゼオライト結晶を用いることが好ましい。DDR型のゼオライト結晶の調製方法の詳細は、「M. J. den Exter, J. C. Jansen, H. van Bekkum, Studies in Surface Science and Catalysis vol.84, Ed. by J. Weitkamp et al., Elsevier (1994)1159−1166」に記載されているとおりである。
【0013】
ゼオライト結晶の平均粒子径は特に制限されるものではなく、100nm以上5000nm以下とすることができる。ゼオライト種結晶を短時間で作製することを考慮すると、ゼオライト結晶の粒子径は、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。ゼオライト結晶の平均粒子径は、ゼオライト結晶が溶液に分散させた状態(以下、ゼオライト結晶分散溶液)の場合は、動的光散乱法による粒度分布測定でのメジアン径(d50)によって規定され、ゼオライト結晶が乾燥した状態の場合には、透過型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像から無作為に選んだ一次粒子10個の面積円相当径(ヘイウッド径)の平均によって規定される。
【0014】
ゼオライト結晶分散溶液の分散媒は特に制限されるものではなく、水、エタノール等のアルコール、又はこれらの混合溶媒などを用いることができる。取り扱い性とコストを考慮すると、分散媒としては水が好ましい。ゼオライト結晶分散溶液におけるゼオライト結晶の含有量は特に制限されるものではないが、例えば1wt%以上30wt%以下とすることができる。
【0015】
2.シリカ不飽和アルカリ溶液の調製(ステップS2)
次に、アルカリ源を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を調製する。
【0016】
アルカリ源としては、有機アルカリ、無機アルカリ、又はこれらの混合物を用いることができる。有機アルカリとしては、エチレンジアミン、ヒドラジン、エタノールアミンなどを用いることができる。無機アルカリとしては、水酸化ナトリウム(NaOH)及び水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)2などのアルカリ土類金属水酸化物、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0017】
有機アルカリを用いる場合、溶媒はなくてもよいが、シリカ(SiO2)の飽和度を小さくするため、水と混合して使用することが好ましい。無機アルカリを用いる場合、溶媒として水、低級アルコール、又はこれらの混合溶媒などを用いることができる。
【0018】
シリカ不飽和アルカリ溶液において、シリカは飽和していない状態である。後述するように、ゼオライト種結晶を効率的に作製することを考慮すると、シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は低いことが好ましい。シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、実質的に0%であることが特に好ましい。なお、シリカ不飽和アルカリ溶液はシリカが不飽和の状態であればよく、シリカ不飽和アルカリ溶液には後述するシリカ源の一部が添加されていてもよい。
【0019】
シリカ不飽和アルカリ溶液のpHは特に制限されるものではないが、後述するように、ゼオライト種結晶の再凝集を抑制することを考慮すると、11以上であることが好ましく、11.5以上であることがより好ましい。
【0020】
3.シリカ不飽和アルカリ溶液を用いた湿式粉砕によるゼオライト種結晶の形成(ステップS3)
次に、ゼオライト結晶をシリカ不飽和アルカリ溶液に添加して湿式粉砕することによって、ゼオライト種結晶を形成する。ここでは、ゼオライト結晶分散溶液を用いた場合について説明する。図3は、シリカ不飽和アルカリ溶液中で湿式粉砕されたゼオライト種結晶を示す模式図である。図3では、シリカ不飽和アルカリ溶液のアルカリ源としてエチレンジアミンを用いた例が示されている。
【0021】
湿式粉砕は、ビーズミル等を用いて行うことができる。粉砕時間は特に制限されるものではないが、例えば30分以上180分以下とすることができる。湿式粉砕によって、ゼオライト結晶分散溶液に含まれるゼオライト結晶が粉砕されてゼオライト種結晶が形成される。この際、ゼオライト結晶の粉砕に伴って生成されるアモルファス成分はシリカ不飽和アルカリ溶液に溶解するため、ゼオライト種結晶がアモルファス成分に取り込まれて凝集することを抑制できる。また、形成されるゼオライト種結晶の間隙にアルカリ源(図3では、エチレンジアミン)が入り込むとともに、ゼオライト種結晶にはシリカ不飽和アルカリ溶液のpH値に応じた固有のゼータ電位が生じるため、ゼオライト種結晶同士は引き離された状態で保持される。
【0022】
ゼオライト種結晶の粒子径は特に制限されるものではなく、例えば10nm以上250nm以下とすることができる。粒子径の小さいゼオライト粉末を合成することを考慮すると、ゼオライト種結晶の粒子径は、170nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。ゼオライト種結晶の平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定でのメジアン径(d50)によって規定される。
【0023】
シリカ不飽和アルカリ溶液におけるゼオライト種結晶の含有量は特に制限されるものではないが、例えば0.1wt%以上15wt%以下とすることができる。
【0024】
4.シリカ飽和アルカリ溶液の調製(ステップS4)
次に、ゼオライト種結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液とシリカ源を純水に添加することによって、シリカ飽和アルカリ溶液を調製する。
【0025】
シリカ源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン、又はこれらの混合物などを用いることができる。
【0026】
シリカ飽和アルカリ溶液において、シリカは飽和している状態である。シリカ飽和アルカリ溶液では、シリカが過飽和の状態であることが好ましい。すなわち、シリカ飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、100%超であることが好ましい。
【0027】
シリカ飽和アルカリ溶液におけるゼオライト種結晶の量は特に制限されるものではなく、シリカ飽和アルカリ溶液におけるゼオライト種結晶の含有量は、例えば1wt%以上10wt%以下とすることができる。
【0028】
5.原料溶液の調製(ステップS5)
次に、シリカ飽和アルカリ溶液にアルミ源やアルカリ源などを必要に応じて添加することによって原料溶液を調製する。
【0029】
アルミ源としては、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどを用いることができる。アルカリ源としては、有機アルカリ、無機アルカリ、又はこれらの混合物を用いることができる。原料溶液の調製に用いるアルカリ源は、シリカ不飽和アルカリ溶液の調製に用いたアルカリ源と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0030】
原料溶液には、構造規定剤(有機テンプレート)を添加してもよい。原料溶液に構造規定剤を添加することによって、合成されるゼオライト粉末におけるケイ素原子の割合を高くして耐酸性を向上させることができる。
【0031】
構造規定剤は特に制限されるものではなく、アミン類や4級アンモニウム塩などを用いることができる。アミン類としては、1−アダマンタンアミン、3−キナクリジナール、及び3−exo−アミノノルボルネンなどの脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。DDR型ゼオライトを合成する場合、構造規定剤としては、これらのうち1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンが特に好ましい。
【0032】
原料溶液に構造規定剤を添加する場合には、構造規定剤を溶媒に添加して超音波処理した後に、構造規定剤をアルカリ源とともに原料溶液に投入することが好ましい。
【0033】
6.ゼオライト粉末の合成(ステップS6)
次に、原料溶液を密閉加熱することによって、ゼオライト粉末を水熱合成する。図4は、ゼオライト粉末が合成される様子を示す模式図である。
【0034】
水熱合成の加熱温度は特に限定されないが、80℃以上200℃以下とすることができる。ゼオライトの効率的な結晶化を考慮すると、水熱合成の加熱温度は100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。また、ゼオライト種結晶と異なる結晶種のゼオライト粉末が合成されることを抑制するには、水熱合成の加熱温度は190℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。
【0035】
水熱合成の加熱時間は特に限定されないが、1時間以上10日以下とすることができる。ゼオライトの十分な結晶化を考慮すると、水熱合成の加熱時間は5時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましい。また、ゼオライト種結晶と異なる結晶種のゼオライト粉末が合成されることを抑制するには、水熱合成の加熱時間は5日以下が好ましく、3日以下がより好ましい。
【0036】
そして、合成されたゼオライト粉末を水洗した後に加熱処理することによって、構造規定剤を焼却する。加熱処理温度は特に制限されないが、350℃以上900℃以下とすることができる。加熱処理時間は、0.5時間以上200時間以下とすることができる。
【0037】
(他の実施形態)
上記実施形態では、ゼオライト結晶分散溶液をシリカ不飽和アルカリ溶液に添加することとしたが、乾式したゼオライト結晶、又はゼオライト結晶分散溶液から回収して乾燥させたゼオライト結晶をアルカリ源に添加してもよい。この場合、乾燥によってゼオライト結晶は凝集しやすいが、シリカ不飽和アルカリ溶液中で湿式粉砕することによって、上述のとおりゼオライト種結晶を形成することができる。なお、ゼオライト結晶は、濾過やデカンテーションによって、又は、ゼオライト結晶分散溶液をそのまま乾燥(例えば、80℃)させることによって、ゼオライト結晶分散溶液から回収することができる。
【0038】
上記実施形態では、シリカ飽和アルカリ溶液に構造規定剤を添加することとしたが、シリカ不飽和アルカリ溶液に構造規定剤を添加してもよい。
【0039】
上記実施形態では、原料溶液の調製工程(ステップS5)において、シリカ飽和アルカリ溶液にアルカリ源を改めて添加することによって原料溶液を調製することとしたが、湿式粉砕に用いるシリカ不飽和アルカリ溶液にアルカリ源の全量を添加してもよい。この場合には、シリカ飽和アルカリ溶液をそのまま原料溶液として用いることもできる。
【実施例】
【0040】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
1.ゼオライト種結晶の作製
特許文献 国際公開第2010/090049号に記載の方法に従って、平均粒子径179nmのDDR型ゼオライト結晶を含むpH11.7のDDR型ゼオライト結晶分散溶液を調製した。
【0042】
次に、純水を加えてDDR型ゼオライト結晶を7wt%含むよう調整したDDR型ゼオライト結晶分散溶液500gにエチレンジアミン(以下、「EDA」という。)30gを加えて、DDR型ゼオライト結晶を含むpH11.9のシリカ不飽和アルカリ溶液を調整した。シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、2%以下であった。このDDR型ゼオライト結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を用いて、ビーズミルで60分湿式粉砕した。そして、純水を加えながらDDR型ゼオライト種結晶を回収することによって、2.9wt%の固形分を含むDDR型ゼオライト種結晶分散溶液(シリカ不飽和アルカリ溶液)を調製した。
【0043】
2.DDR型ゼオライト粉末の合成
EDA6.3gに1−アダマンタンアミン(以下、「1−ADA」という。)1.0gを加えて完全に溶解した。そして、純水169.1gにDDR型ゼオライト種結晶分散溶液52.1gとコロイダルシリカ26.2gを加えて軽く攪拌し、さらに1−ADAを溶解したEDAを加えて60分攪拌することによって、原料溶液(シリカ飽和アルカリ溶液)を調製した。
【0044】
次に、原料溶液を100mlのテフロン(登録商標)容器に移し、熱風乾燥機を用いて水熱合成(120℃、20時間)することによって、DDR型ゼオライト粉末を合成した。
【0045】
次に、実施例1に係るDDR型ゼオライト粉末の平均粒子径を粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、ナノトラック型式UPA−EX150)で測定したところ128nmであった。また、実施例1に係るDDR型ゼオライト粉末の結晶相をX線回折装置(リガク社製、MiniFlex)にて確認したところDDR型であった。
【0046】
(実施例2)
1.ゼオライト種結晶の作製
実施例1と同じ手法によって、平均粒子径183nmのDDR型ゼオライト結晶を含むpH12.1のDDR型ゼオライト結晶分散溶液を調製した。
【0047】
次に、純水を加えてDDR型ゼオライト結晶を7wt%含むよう調整したDDR型ゼオライト結晶分散溶液500gにEDA30gを加えて、DDR型ゼオライト結晶を含むpH12.2のシリカ不飽和アルカリ溶液を調整した。シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、1%以下であった。このDDR型ゼオライト結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を用いて、ビーズミルで90分湿式粉砕した。そして、純水を加えながらDDR型ゼオライト種結晶を回収することによって、3.9wt%の固形分を含むDDR型ゼオライト種結晶分散溶液(シリカ不飽和アルカリ溶液)を調製した。
【0048】
2.DDR型ゼオライト粉末の合成
EDA3.3gに1−ADA0.5gを加えて完全に溶解した。そして、純水91.2gにDDR型ゼオライト種結晶分散溶液19.4gとコロイダルシリカ13.1gを加えて軽く攪拌し、さらに1−ADAを溶解したEDAを加えて60分攪拌することによって、原料溶液(シリカ飽和アルカリ溶液)を調製した。そして、実施例1と同じ手法でDDR型ゼオライト粉末を合成した。
【0049】
次に、実施例1と同じ手法によって、実施例2に係るDDR型ゼオライト粉末の平均粒子径を測定したところ116nmであった。また、実施例1と同じ手法によって、実施例2に係るDDR型ゼオライト粉末の結晶相がDDR型であることを確認した。
【0050】
(実施例3)
1.ゼオライト種結晶の作製
実施例1と同じ手法によって、平均粒子径173nmのDDR型ゼオライト結晶を含むpH11.4のDDR型ゼオライト結晶分散溶液を調製した。
【0051】
次に、純水を加えてDDR型ゼオライト結晶を7wt%含むよう調整したDDR型ゼオライト結晶分散溶液500gに1MのNaOH水溶液20gを加えて、DDR型ゼオライト結晶を含むpH13.4のシリカ不飽和アルカリ溶液を調整した。シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、0.1%以下であった。このDDR型ゼオライト結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を用いて、ビーズミルで90分湿式粉砕した。そして、純水を加えながらDDR型ゼオライト種結晶を回収することによって、3.8wt%の固形分を含むDDR型ゼオライト種結晶分散溶液(シリカ不飽和アルカリ溶液)を調製した。
【0052】
2.DDR型ゼオライト粉末の合成
EDA3.3gに1−ADA0.5gを加えて完全に溶解した。そして、純水90.0gにDDR型ゼオライト種結晶分散溶液20.6gとコロイダルシリカ13.1gを加えて軽く攪拌し、さらに1−ADAを溶解したEDAを加えて60分攪拌することによって、原料溶液(シリカ飽和アルカリ溶液)を調製した。そして、水熱合成を160℃で16時間行ったこと以外は、実施例1と同じ手法でDDR型ゼオライト粉末を合成した。
【0053】
次に、実施例1と同じ手法によって、実施例3に係るDDR型ゼオライト粉末の平均粒子径を測定したところ109nmであった。また、実施例1と同じ手法によって、実施例3に係るDDR型ゼオライト粉末の結晶相がDDR型であることを確認した。
【0054】
(実施例4)
1.ゼオライト種結晶の作製
実施例1と同じ手法によって、平均粒子径173nmのDDR型ゼオライト結晶を含むpH11.4のDDR型ゼオライト結晶分散溶液を調製した。
【0055】
次に、純水を加えてDDR型ゼオライト結晶を7wt%含むよう調整したDDR型ゼオライト結晶分散溶液500gに5MのNaOH水溶液20gを加えて、pH13.9のDDR型ゼオライト結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を調整した。シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、0.1%以下であった。このDDR型ゼオライト結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を用いて、ビーズミルで90分湿式粉砕した。そして、純水を加えながらDDR型ゼオライト種結晶を回収することによって、3.6wt%の固形分を含むDDR型ゼオライト種結晶分散溶液(シリカ不飽和アルカリ溶液)を調製した。
【0056】
2.DDR型ゼオライト粉末の合成
1MのNaOH3.3gに1−ADA0.5gを加えて溶解した。そして、純水90.0gにDDR型ゼオライト種結晶分散溶液20.6gとコロイダルシリカ13.1gを加えて軽く攪拌し、さらに1−ADAを溶解した1MNaOHを加えて60分攪拌することによって、原料溶液(シリカ飽和アルカリ溶液)を調製した。そして、実施例1と同じ手法でDDR型ゼオライト粉末を合成した。
【0057】
次に、実施例1と同じ手法によって、実施例4に係るDDR型ゼオライト粉末の平均粒子径を測定したところ101nmであった。また、実施例1と同じ手法によって、実施例4に係るDDR型ゼオライト粉末の結晶相がDDR型であることを確認した。
【0058】
(実施例5)
1.ゼオライト種結晶の作製
純水に、40wt%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(以下、TPAOH)水溶液とテトラプロピルアンモニウムブロミド(以下、TPABr)を加え、透明になるまで攪拌した。そこに、シリカ源となるコロイダルシリカ(SiO230wt%溶液)を加えて攪拌し、組成比が1SiO2:0.36TPAOH:0.36TPABr:15H2Oの原料溶液を調整した。この原料溶液をテフロン(登録商標)容器に移し、熱風乾燥機を用いて水熱合成(110℃、12時間)することによって、平均粒子径が204nmのMFI型ゼオライト結晶を含むpH12.3のMFI型ゼオライト結晶分散溶液を調製した。
【0059】
次に、純水を加えてMFI型ゼオライト結晶を7wt%含むよう調整したMFI型ゼオライト結晶分散溶液500gに1MのNaOH水溶液50gを加えて、pH13.6のMFI型ゼオライト結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を調整した。シリカ不飽和アルカリ溶液におけるシリカ飽和度は、0.1%以下であった。このMFI型ゼオライト結晶を含むシリカ不飽和アルカリ溶液を用いて、ビーズミルで45分湿式粉砕した。そして、純水を加えながらMFI型ゼオライト種結晶を回収することによって、3.3wt%の固形分を含むMFI型ゼオライト種結晶分散溶液(シリカ不飽和アルカリ溶液)を調製した。
【0060】
2.MFI型ゼオライト粉末の合成
5MNaOH水溶液56.77gにTPABr2.01gと硫酸アルミニウム0.22g、コロイダルシリカ(SiO230wt%溶液)6.00gを加えて攪拌した後、MFI型ゼオライト種結晶分散溶液を15.00g加え、60分攪拌することによって、原料溶液(シリカ飽和アルカリ溶液)を調製した。
【0061】
次に、シリカ飽和アルカリ溶液を100mlのテフロン(登録商標)容器に移し、熱風乾燥機を用いて水熱合成(160℃、20時間)することによって、MFI型ゼオライト粉末を合成した。
【0062】
次に、実施例1と同じ手法によって、実施例5に係るMFI型ゼオライト粉末の平均粒子径を測定したところ154nmであった。また、実施例1と同じ手法によって、実施例5に係るゼオライト粉末の結晶相がMFI型であることを確認した。
【0063】
(比較例1)
EDAを加えずにpH10.4で湿式粉砕することによってDDR型ゼオライト種結晶分散溶液を調製した以外は実施例1と同じ工程にてDDR型ゼオライト粉末を合成した。
【0064】
実施例1と同じ手法によって、比較例1に係るDDR型ゼオライト粉末の平均粒子径を測定したところ148nmであった。また、実施例1と同じ手法によって、比較例1に係るDDR型ゼオライト粉末の結晶相がDDR型であることを確認した。
【0065】
(比較例2)
EDAを加えずにpH10.2で湿式粉砕することによってDDR型ゼオライト種結晶分散溶液を調製した以外は実施例2と同じ工程にてDDR型ゼオライト粉末を合成した。
【0066】
実施例1と同じ手法によって、比較例2に係るDDR型ゼオライト粉末の平均粒子径を測定したところ137nmであった。また、実施例1と同じ手法によって、比較例2に係るDDR型ゼオライト粉末の結晶相がDDR型であることを確認した。
【0067】
(比較例3)
5MNaOHを加えずにpH10.1で湿式粉砕することによってDDR型ゼオライト種結晶分散溶液を調製した以外は実施例4と同じ工程にてDDR型ゼオライト粉末を合成した。
【0068】
実施例1と同じ手法によって、比較例3に係るDDR型ゼオライト粉末の平均粒子径を測定したところ121nmであった。また、実施例1と同じ手法によって、比較例3に係るDDR型ゼオライト粉末の結晶相がDDR型であることを確認した。
【0069】
(比較例4)
1MNaOHを加えずにpH10.6で湿式粉砕することによってMFI型ゼオライト種結晶分散溶液を調製した以外は、実施例5と同じ工程にてMFI型ゼオライト粉末を合成した。
【0070】
実施例1と同じ手法によって、比較例4に係るMFI型ゼオライト粉末の平均粒子径を測定したところ178nmであった。また、実施例1と同じ手法によって、比較例4に係るゼオライト粉末の結晶相がMFI型であることを確認した。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、シリカ不飽和アルカリ溶液を用いてゼオライト結晶を湿式粉砕した以外は比較例1と同じ条件で水熱合成が行われた実施例1では、ゼオライト粉末の平均粒径を小さくすることができた。これは、ゼオライト結晶の粉砕に伴って生成されるアモルファス成分がシリカ不飽和アルカリ溶液に溶解することによって、ゼオライト種結晶がアモルファス成分に取り込まれて凝集することを抑制できたことと、アルカリによって、ゼオライト種結晶にゼータ電位を生じさせて引き離された状態に保持できたことによるものである。
【0073】
また、実施例2,3と比較例2の比較、実施例4と比較例3の比較、及び実施例5と比較例4の比較からも、シリカ不飽和アルカリ溶液を用いてゼオライト結晶を湿式粉砕することによってゼオライト粉末の平均粒径を小さくできることが確認された。
【0074】
また、実施例1,2と実施例3,4の比較から、湿式粉砕に用いるアルカリ源に関わらずゼオライト粉末の平均粒径を小さくできることが確認された。また、ゼオライト粉末の平均粒径は、EDAよりもNaOHを用いた方が、又、pHが高い方が、小さくなりやすいことが分かった。
【0075】
また、実施例1と実施例2の比較から、湿式粉砕時間を90分以上とすることによってゼオライト粉末の平均粒径をより小さくできることが確認された。
【0076】
また、実施例3と実施例4の比較から、湿式粉砕に用いるアルカリ源の濃度を高くすることによってゼオライト粉末の平均粒径をより小さくできることが確認された。
【0077】
また、MFI型ゼオライト粉末を合成した実施例5でも良好な結果を得ることができたことから、本発明の製造方法がDDR型ゼオライト粉末以外にも有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るゼオライト粉末の製造方法によれば、粒子径の小さなゼオライト粉末の製造方法を提供できるためゼオライト分野において有用である。
図1
図2
図3
図4