特許第6868030号(P6868030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868030
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20210426BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210426BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20210426BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C21D8/12 C
   C22C38/00 303U
   C22C38/60
   H01F1/147 175
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-533618(P2018-533618)
(86)(22)【出願日】2016年12月23日
(65)【公表番号】特表2019-506528(P2019-506528A)
(43)【公表日】2019年3月7日
(86)【国際出願番号】KR2016015222
(87)【国際公開番号】WO2017111547
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年7月24日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0185068
(32)【優先日】2015年12月23日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コ,ヒョン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ジン ウク
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン ウ
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−293103(JP,A)
【文献】 特開2000−034521(JP,A)
【文献】 特開昭55−018511(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104726796(CN,A)
【文献】 特開2003−034821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12、 9/46
C22C 38/00−38/60
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:1.0〜4.0%、C:0.01〜0.4%、Bi:0.001〜0.1%、Mn:0.05%以下(0重量%を除く)、Al:0.01%以下(0重量%を除く)、S:0.001%以下(0重量%を除く)、N:0.001%以下(0重量%を除く)、P:0.1%以下(0重量%を除く)、Mo:0.05%以下(0重量%を除く)、Sn:0.1%以下(0重量%を除く)、およびSb:0.05%以下(0重量%を除く)を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなるスラブを加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を熱延板焼鈍する段階、
熱延板焼鈍が完了した熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、
前記冷延板を脱炭焼鈍する段階、および
脱炭焼鈍が完了した電磁鋼板を最終焼鈍する段階、を含み、
前記最終焼鈍する段階は、最終焼鈍を連続的な焼鈍で実施し、
前記熱延板焼鈍する段階の後、熱延板表層部の平均結晶粒粒径が150〜250μmであり、
最終焼鈍する段階の後、結晶粒の直径が20〜500μmの結晶粒の体積比率が80%以上であり、
鋼板の板面に対して誤差範囲15°以下で平行なゴス結晶粒の体積比率が80%以上であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記スラブを加熱する段階において、1100〜1350℃に加熱することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記熱延板焼鈍する段階において、脱炭過程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記熱延板焼鈍する段階は、850℃〜1000℃の温度および50℃〜70℃の露点温度で焼鈍する熱延板焼鈍の第1段階と、1000℃〜1200℃の温度および0℃以下の露点温度で焼鈍する熱延板焼鈍の第2段階とを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記熱延板焼鈍の第1段階を10〜300秒間実施し、前記熱延板焼鈍の第2段階を10〜180秒間実施することを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記冷延板を製造する段階から前記最終焼鈍する段階までは、連続して行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記冷延板を製造する段階および前記脱炭焼鈍する段階は、2回以上繰り返されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記脱炭焼鈍する段階は、850℃〜1000℃の温度および50℃〜70℃の露点温度で焼鈍することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記最終焼鈍する段階は、850℃〜1000℃の温度および70℃以下の露点温度で焼鈍を実施する最終焼鈍の第1段階と、1000℃〜1200℃の温度およびH 50体積%以上の雰囲気で実施する最終焼鈍の第2段階とを含むことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記最終焼鈍の第1段階を10〜180秒間実施し、前記最終焼鈍の第2段階を10〜600秒間実施することを特徴とする請求項9に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、鋼板の結晶方位が{110}<001>である、別名ゴス(Goss)方位を有する結晶粒からなる、圧延方向の磁気的特性に優れた軟磁性材料である。
このような方向性電磁鋼板は、スラブ加熱後、熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延により、通常0.15〜0.35mmの最終厚さに圧延された後、1次再結晶焼鈍と2次再結晶形成のために高温焼鈍を経て製造される。
この時、高温焼鈍時には、昇温率が遅いほど、2次再結晶されるゴス方位の集積度が高まって磁性に優れることが知られている。通常、方向性電磁鋼板の高温焼鈍中の昇温率は、時間あたり15℃以下であって、昇温だけで2〜3日かかるだけでなく、40時間以上の純化焼鈍が必要であるので、エネルギー消耗が大きい工程といえる。また、現在の最終高温焼鈍工程は、コイル状態でバッチ(Batch)形態の焼鈍を実施するため、工程上の次のような困難が発生する。第一、コイル状態での熱処理によるコイルの外巻部と内巻部の温度偏差が発生して各部分で同一の熱処理パターンを適用できず、外巻部と内巻部の磁性偏差が発生する。第二、脱炭焼鈍後、MgOを表面にコーティングし、高温焼鈍中にBase coatingを形成する過程で多様な表面欠陥が発生するため、実歩留まりを低下させる。第三、脱炭焼鈍が終わった脱炭板をコイル形態に巻いた後、高温焼鈍後に再度平坦化焼鈍を経て絶縁コーティングをするため、生産工程が3段階に分けられることによって、実歩留まりが低下する問題点が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.0〜4.0%、C:0.002%以下(0%を除く)、およびBi:0.001〜0.1%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物を含むことを特徴とする。
【0005】
Mnを0.05重量%以下(0重量%を除く)、Alを0.01重量%以下(0重量%を除く)、Sを0.001重量%以下(0重量%を除く)、およびNを0.001重量%以下(0重量%を除く)さらに含むことができる。
Pを0.1重量%以下(0重量%を除く)、Moを0.05重量%以下(0重量%を除く)、Snを0.1重量%以下(0重量%を除く)、およびSbを0.05重量%以下(0重量%を除く)さらに含んでもよい。
結晶粒の直径が20〜500μmの結晶粒の体積比率が80%以上であることが好ましい。
鋼板の板面に対して誤差範囲15°以下で平行なゴス結晶粒の体積比率が80%以上であることができる。
【0006】
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:1.0〜4.0%およびC:0.01〜0.4%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物を含むスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を熱延板焼鈍する段階、熱延板焼鈍が完了した熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を脱炭焼鈍する段階、および脱炭焼鈍が完了した電磁鋼板を最終焼鈍する段階、を含み、熱延板焼鈍する段階の後、熱延板表層部の平均結晶粒粒径が150〜250μmであることを特徴とする。
【0007】
スラブは、Biを0.001〜0.1重量%さらに含んでもよい。
スラブは、Mnを0.05重量%以下(0重量%を除く)、Alを0.01重量%以下(0重量%を除く)、Sを0.001重量%以下(0重量%を除く)、およびNを0.001重量%以下(0重量%を除く)さらに含むことができる。
Pを0.1重量%以下(0重量%を除く)、Moを0.05重量%以下(0重量%を除く)、Snを0.1重量%以下(0重量%を除く)、およびSbを0.05重量%以下(0重量%を除く)さらに含むことが好ましい。
【0008】
スラブを加熱する段階において、1100〜1350℃に加熱することがよい。
熱延板焼鈍する段階において、脱炭過程を含むことができる。
熱延板焼鈍する段階は、850℃〜1000℃の温度および50℃〜70℃の露点温度で焼鈍する熱延板焼鈍の第1段階と、1000℃〜1200℃の温度および0℃以下の露点温度で焼鈍する熱延板焼鈍の第2段階とを含むことが好ましい。
熱延板焼鈍の第1段階を10〜300秒間実施し、熱延板焼鈍の第2段階を10〜180秒間実施することができる。
【0009】
冷延板を製造する段階から前記最終焼鈍する段階までは、連続して行われることが好ましい。
冷延板を製造する段階および前記脱炭焼鈍する段階は、2回以上複数回繰り返されることがよい。
脱炭焼鈍する段階は、850℃〜1000℃の温度および50℃〜70℃の露点温度で焼鈍することができる。
【0010】
スラブは、NiおよびCrのうち1種以上をそれぞれ単独またはこれらの合計量で0.01重量%〜0.1重量%さらに含むことができる。
スラブは、Sbを0.005重量%〜0.06重量%さらに含むことが好ましい。
スラブは、Moを0.001重量%〜0.015重量%さらに含むことがよい。
スラブは、Bi、Pb、Mg、As、Nb、Vのうち1種以上をそれぞれ0.0005重量%〜0.005重量%さらに含むことが好ましい。
スラブを1,050℃〜1,250℃に加熱することができる。
【0011】
最終焼鈍する段階は、850℃〜1000℃および露点温度70℃以下で焼鈍を実施する最終焼鈍の第1段階と、1000℃〜1200℃の温度およびH 50体積%以上の雰囲気で実施する最終焼鈍の第2段階とを含むことができる。
最終焼鈍の第1段階を10〜180秒間実施し、最終焼鈍の第2段階を10〜600秒間実施することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、最終焼鈍時、コイル状態でバッチ(Batch)形態の焼鈍を実施せずに連続的な焼鈍を実施可能な方向性電磁鋼板の製造方法を提供することができる。
また、短時間の最終焼鈍だけでも磁性に優れた方向性電磁鋼板を生産することができる。
また、冷延鋼板を巻取る工程を必要としない。
さらに、結晶粒成長抑制剤を用いない方向性電磁鋼板を提供することができる。
なお、浸窒焼鈍を省略可能で、安定的に磁性に優れた方向性電磁鋼板を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例2でBiを500ppm含有する熱延板を熱延板焼鈍した後に結晶粒分布を分析した結果である。
図2】実施例2でBiを含有しない熱延板を熱延板焼鈍した後に結晶粒分布を分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを、他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及される。
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文章がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
【0015】
ある部分が他の部分の「上に」にあると言及する場合、これは、他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴っていてもよい。対照的にある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
別途に定義しないものの、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は、重量%を意味し、1ppmは、0.0001重量%である。
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0016】
既存の方向性電磁鋼板技術では、結晶粒成長抑制剤としてAlN、MnSなどのような析出物を用いており、すべての工程が析出物の分布を厳格に制御し、2次再結晶された鋼板内に残留した析出物が除去されるようにするための条件によって工程条件がごく制約されていた。
反面、本発明の一実施形態では、結晶粒成長抑制剤としてAlN、MnSなどのような析出物を用いず、2次再結晶を用いない。本発明の一実施形態では、Biを用いることによって、熱延板焼鈍する段階で表層部の結晶粒を効果的に成長させてゴス結晶粒分率を増加させ、磁性に優れた電磁鋼板を得ることができる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.0〜4.0%、C:0.002%以下(0%を除く)、およびBi:0.001〜0.1%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物を含む。
以下、各成分について具体的に説明する。
【0018】
シリコン(Si)は、電磁鋼板の磁気異方性を低下させ且つ比抵抗を増加させて鉄損を改善する。Si含有量が1.0重量%未満の場合には鉄損が劣り、4.0重量%超過の場合、脆性が増加する。したがって、スラブおよび最終焼鈍段階後の方向性電磁鋼板におけるSiの含有量は、1.0重量%〜4.0重量%であってもよい。
炭素(C)は、熱延板焼鈍、冷延板脱炭焼鈍、および最終焼鈍中に表層部のゴス結晶粒が中心部に拡散するために、中心部のCが表層部に抜け出る過程が必要であるため、スラブ中のCの含有量は、0.01〜0.4重量%であってもよい。また、脱炭が完了した最終焼鈍段階後の方向性電磁鋼板における炭素量は、0.0020重量%以下であってもよい。
ビスマス(Bi)は、揮発性が強い偏析元素であって、表層部に位置する場合、表面で揮発して表層部の結晶粒を粗大にする特徴があり、これとは逆に、鋼の中心部では結晶粒を微細化させる効果がある。0.001重量%未満で含む場合、その効果がわずかでありうる。逆に、0.1重量%を超えて添加する時には、表面結晶粒の大きさの不均一性を招くので、0.001〜0.1重量%添加することが好ましい。
【0019】
本発明の一実施形態において、AlN、MnSなどの析出物を結晶粒成長抑制剤として用いないため、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、窒素(N)、硫黄(S)など一般的な方向性電磁鋼板で必須として使用される元素は、不純物の範囲で管理される。つまり、不可避にMn、Al、N、Sなどをさらに含む場合、Mnを0.05重量%以下、Alを0.01重量%以下、Sを0.001重量%以下、およびNを0.001重量%以下でさらに含んでもよい。より具体的には、Alを0.005重量%以下で含むことができる。
また、Pを0.1重量%以下(0重量%を除く)、Moを0.05重量%以下(0重量%を除く)、Snを0.1重量%以下(0重量%を除く)、およびSbを0.05重量%以下(0重量%を除く)さらに含んでもよい。
リン(P)は、ゴス結晶粒形成促進元素であり、過剰添加時、クラック(Crack)を誘発し結晶粒成長を妨げることがある。具体的には、Pを0.001〜0.1重量%含むことができる。
【0020】
モリブデン(Mo)は、熱延板のゴス結晶粒の形成を促進する元素である。脱炭を妨げないものの、過剰添加時、結晶粒の不均衡が発生しうる。具体的には、Moを0.001〜0.05重量%含むことができる。
スズ(Sn)は、ゴス結晶粒形成促進元素であり、過剰添加時、表面偏析で脱炭を妨げて結晶成長を妨げることがある。具体的には、Snを0.001〜0.1重量%含むことができる。
アンチモン(Sb)は、ゴス結晶粒形成促進元素であり、過剰添加時、表面偏析で脱炭を妨げて結晶成長を妨げることがある。具体的には、Sbを0.001〜0.05重量%含むことができる。
【0021】
また、その他の不可避不純物として、Ti、Mg、Caのような成分は、鋼中で酸素と反応して酸化物を形成して、介在物として最終製品の磁区移動を妨げて磁性劣化の原因となりうるので、強く抑制することが必要である。したがって、これらを不可避に含有する場合、それぞれの成分ごとに0.005重量%以下に管理することができる。
電磁鋼板において、結晶粒の直径が20〜500μmの結晶粒の体積比率が80%以上であってもよい。結晶粒の直径が20〜500μmの結晶粒の体積比率が80%未満の場合、結晶粒成長が十分でなくて磁性が低下することがある。
【0022】
鋼板の板面に対して誤差範囲15°以下で平行なゴス結晶粒の体積比率が80%以上であってもよい。ゴス結晶粒の体積比率が80%未満の場合、十分な磁性を確保できないことがある。
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:1.0〜4.0%およびC:0.01〜0.4%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物を含むスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を熱延板焼鈍する段階、熱延板焼鈍が完了した熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を脱炭焼鈍する段階、および脱炭焼鈍が完了した電磁鋼板を最終焼鈍する段階、を含む。
【0023】
以下、各段階ごとに方向性電磁鋼板の製造方法を具体的に説明する。
まず、スラブを加熱する。
スラブの組成については、電磁鋼板の組成に関連して具体的に説明したので、重複した説明は省略する。
スラブ加熱温度は、通常の加熱温度より高い1100℃〜1350℃であってもよい。スラブ加熱時の温度が高い場合、熱延組織が粗大化して磁性に悪影響を及ぼす問題点がある。しかし、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブ内の炭素の含有量が従来より多くて、スラブ加熱温度が高くても熱延組織が粗大化せず、通常の場合、より高い温度で加熱することによって、熱間圧延時に有利である。
【0024】
次に、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱間圧延温度は制限はなく、一実施形態として950℃以下で熱延を終了することができる。
次に、熱延板を熱延板焼鈍する。この時、熱延板焼鈍は、脱炭過程を含むことができる。具体的には、脱炭焼鈍は、オーステナイト単相領域、またはフェライトおよびオーステナイトの複合相が存在する領域で、露点温度50℃〜70℃で実施できる。この時、温度範囲は、850℃〜1000℃であってもよい。また、雰囲気は、水素および窒素の混合ガス雰囲気であってもよい。さらに、脱炭焼鈍時の脱炭量は、0.0300重量%〜0.0600重量%であってもよい。より具体的には、脱炭過程を含むために、熱延板焼鈍する段階は、850℃〜1000℃の温度および50℃〜70℃の露点温度で焼鈍する熱延板焼鈍の第1段階と、1000℃〜1200℃の温度および0℃以下の露点温度で焼鈍する熱延板焼鈍の第2段階とを含むことができる。より具体的には、熱延板焼鈍の第1段階を10〜300秒間実施し、熱延板焼鈍の第2段階を10〜180秒間実施できる。
【0025】
脱炭焼鈍過程において、熱延板表面の結晶粒の大きさは粗大に成長するが、電磁鋼板の内部の結晶粒は微細な組織として残るようになる。このような脱炭焼鈍後の表面部のフェライト結晶粒の大きさは、150μm〜250μmであってもよい。この時、表層部の平均結晶粒粒径を前述した範囲に調節することによって、最終的に製造される方向性電磁鋼板のゴス結晶粒分率を高めることができ、方向性電磁鋼板の磁性を向上させることができる。
次に、熱延板焼鈍が完了した熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。通常の高磁束密度方向性電磁鋼板の製造工程において、冷間圧延は、90%に近い高圧下率で1回実施することが効果的であると知られている。これが1次再結晶粒のうちゴス結晶粒だけが粒子成長に有利な環境を作るからである。
しかし、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、ゴス方位結晶粒の異常な粒子成長を利用せず、脱炭焼鈍および冷間圧延によって発生した表層部のゴス結晶粒を内部拡散させるものであるので、表層部でゴス方位結晶粒を多数分布するように形成することが有利である。
したがって、冷間圧延時の圧下率50%〜70%で冷間圧延を実施する場合、ゴス集合組織が表層部で多数形成される。あるいは55%〜65%であってもよい。
【0026】
次に、冷延板を脱炭焼鈍する。850℃〜1000℃の温度および50℃〜70℃の露点温度で焼鈍することができる。
また、冷間圧延および脱炭焼鈍過程を2回以上複数回実施すると、ゴス集合組織が表層部で多数形成される。
次に、脱炭焼鈍が完了した電磁鋼板を最終焼鈍する。
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、既存のバッチ(batch)方式とは異なり、冷間圧延に続いて連続的に最終焼鈍を実施できる。つまり、冷延板を製造する段階から最終焼鈍する段階までは連続して行われる。したがって、焼鈍分離剤を塗布する必要がない。
【0027】
最終焼鈍する段階は、850℃〜1000℃および露点温度70℃以下で焼鈍を実施する最終焼鈍の第1段階と、1000℃〜1200℃の温度およびHが50体積%以上の雰囲気で実施する最終焼鈍の第2段階とを含むことができる。より具体的には、最終焼鈍の第2段階は、Hが90体積%以上の雰囲気で実施できる。
上述したように、本発明の一実施形態では、結晶粒成長抑制剤として、Bi偏析を用いることができ、AlN析出物を用いない。したがって、AlN、MnSを分解して除去するための純化焼鈍の負担が軽減される。
【0028】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。
実施例1
重量%で、Si:3.23%、C:0.25%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを1250℃の温度で加熱した後、1.6mmの厚さに熱間圧延した。次に、焼鈍温度870℃、露点温度60℃で120秒間焼鈍後、露点温度0℃以下の水素、窒素の混合ガス雰囲気で焼鈍温度1100℃、および下記表1にまとめられた時間の間熱延板焼鈍を実施し、冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延した。
冷間圧延された冷延板は再度、焼鈍温度870℃、露点温度60℃で60秒間焼鈍後、露点温度0℃の水素、窒素の混合ガス雰囲気で焼鈍温度1100℃および50秒間脱炭焼鈍を実施し、冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延した。
【0029】
この後、最終焼鈍時には、900℃の温度で水素、窒素の湿潤(露点温度60℃)混合ガス雰囲気で60秒間脱炭焼鈍を実施した後、1050℃の100体積%H雰囲気で3分間熱処理を実施した。熱延板焼鈍時の1100℃での焼鈍時間と熱延板焼鈍後の表層部の結晶粒の直径、最終電磁鋼板のゴス結晶粒分率および最終電磁鋼板の磁気的特性を測定して、下記表1に示した。
【表1】
表1に示したとおり、熱延板焼鈍時、露点温度0℃以下、焼鈍温度1100℃での焼鈍時間が長くなるほど表層部の結晶粒が成長して、ゴス分率および磁性に優れていることが分かる。しかし、焼鈍時間が適正値より長くなると、内部の結晶粒が成長して冷間圧延後の脱炭焼鈍時に組織が不均一になり、最終磁性が劣る原因となる。
【0030】
実施例2
重量%で、Si:3.22%、C:0.245%、Biを下記表2のように含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを1250℃の温度で加熱した後、1.6mmの厚さに熱間圧延し、続いて、焼鈍温度870℃、露点温度60℃で120秒間焼鈍後、露点温度0℃以下の水素、窒素の混合ガス雰囲気で焼鈍温度1100℃および30秒間熱延板焼鈍を実施し、冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延した。
冷間圧延された板は再度、焼鈍温度870℃、露点温度60℃で60秒間脱炭焼鈍後、露点温度0℃の水素、窒素の混合ガス雰囲気で焼鈍温度1100℃および50秒間焼鈍を実施し、冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延した。
この後、最終焼鈍時には、900℃の温度で水素、窒素の湿潤(露点温度60℃)混合ガス雰囲気で60秒間脱炭焼鈍を実施した後、1050℃の100体積%H雰囲気で3分間熱処理を実施した。熱延板焼鈍時のBi含有量と熱延板焼鈍後の表層部の結晶粒の直径、最終電磁鋼板のゴス結晶粒分率および最終電磁鋼板の磁気的特性を測定して、下記表2に示した。
【表2】
表2に示したとおり、Biを結晶粒成長抑制剤として用いて、熱延板焼鈍後の表層部の結晶粒粒径を適切に調節することができ、ゴス分率および磁性に優れていることが分かる。
【0031】
実施例3
重量%で、Si:3.19%、C:0.24%、Bi:0.05%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを1250℃の温度で加熱した後、1.6mmの厚さに熱間圧延し、続いて、焼鈍温度870℃、露点温度60℃で120秒間焼鈍後、水素、露点温度0℃以下の水素、窒素の混合ガス雰囲気で焼鈍温度1100℃および下記表3に記載された時間の間熱延板焼鈍を実施し、冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延した。
冷間圧延された板は再度、焼鈍温度870℃、露点温度60℃で60秒間脱炭焼鈍後、露点温度0℃の水素、窒素の混合ガス雰囲気で焼鈍温度1100℃および50秒間焼鈍を実施し、冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延した。
この後、最終焼鈍時には、900℃の温度で水素、窒素の湿潤(露点温度60℃)混合ガス雰囲気で60秒間脱炭焼鈍を実施した後、1050℃の100体積%H雰囲気で3分間熱処理を実施した。熱延板焼鈍時の1100℃での焼鈍時間と熱延板焼鈍後の表層部の結晶粒の直径、最終電磁鋼板のゴス結晶粒分率および最終電磁鋼板の磁気的特性を測定して、下記表3に示した。
【表3】
表3に示したとおり、熱延板焼鈍時、露点温度0℃以下、焼鈍温度1100℃での焼鈍時間が長くなるほど表層部の結晶粒が成長して、ゴス分率および磁性に優れていることが分かる。しかし、焼鈍時間が適正値より長くなると、内部の結晶粒が成長して冷間圧延後の脱炭焼鈍時に組織が不均一になり、最終磁性が劣る原因となる。
【0032】
実施例4
重量%で、Si:3.19%、C:0.24%、Bi:0.05%を含有し、P、Sn、Sb、Mo、Al、Mnを下記表4のとおり含み、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを1250℃の温度で加熱した後、1.6mmの厚さに熱間圧延し、続いて、焼鈍温度870℃、露点温度60℃で120秒間焼鈍後、水素、露点温度0℃以下の水素、窒素の混合ガス雰囲気で焼鈍温度1100℃、120秒間熱延板焼鈍を実施し、冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延した。冷間圧延された板は再度、焼鈍温度870℃、露点温度60℃で60秒間脱炭焼鈍後、露点温度0℃の水素、窒素の混合ガス雰囲気で焼鈍温度1100℃および50秒間焼鈍を実施し、冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延した。この後、最終焼鈍時には、900℃の温度で水素、窒素の湿潤(露点温度60℃)混合ガス雰囲気で60秒間脱炭焼鈍を実施した後、1100℃の100体積%H雰囲気で3分間熱処理を実施した。各成分に応じた熱延焼鈍板の表面結晶粒の大きさ、最終電磁鋼板のゴス結晶粒分率および最終電磁鋼板の磁気的特性を測定して、下記表5に示した。
【表4】
【表5】
表4、表5に示したとおり、P、Sn、Sb、Moなどの成分を適切な範囲で追加的に含む時、磁性を向上させる効果が得られることを確認できる。Al、Mnの場合、酸化度が高くて多量含む場合、磁性に有害な方位の結晶粒を形成して、磁性に悪影響を及ぼすことを確認できる。
【0033】
本発明は、実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であることを理解するであろう。そのため、上記の実施例はあらゆる面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。
図1
図2