【実施例】
【0081】
実施例1
粗抽出物PTB1の作製
【0082】
キク(Chrysanthemum morifolium)およびその15倍の重量の水とを混合して混合物を作製した。その混合物を加熱して沸騰させ(約90〜100℃)、加熱抽出を1時間行ってから、その中の固体残留物を除去して抽出液を得た。その抽出液に真空濃縮および乾燥工程を行い、粗抽出物PTB1を得た。得られた粗抽出物PTB1の重量と元の薬草材料の重量との比は約1:1.5〜4であった。
【0083】
実施例2
酵素処理抽出物PTBXの作製
【0084】
キクおよびその15倍の重量の水とを混合して混合物を作製した。その混合物を加熱して沸騰させ(約90〜100℃)、加熱抽出を1時間行ってから、その中の固体残留物を除去して抽出液を得た。
【0085】
その抽出液を室温まで冷却した後、酵素であるβ−グルコシダーゼをその中に加えた。加えた酵素の重量と元の薬草材料の重量との比は1:1500であった。次いで、その酵素含有抽出液を37℃のインキュベーターに入れ、16〜24時間反応させた。反応が完了した後、その酵素反応抽出液を4℃の冷蔵庫に24時間入れ、沈殿物の生成を促進させた。
【0086】
その溶液を固液分離して沈殿物を取り出し、その沈殿物をメタノールで再溶解して混合溶液を作製した。その混合溶液は溶液部分と不溶物とを含んでいた。次いで、溶液部分を取り出し、真空濃縮および乾燥工程を行って、酵素処理抽出物PTBXを得た。
【0087】
実施例3
1.PTBX軟膏の作製
【0088】
PTBX乾燥粉末(1g)、ならびに95%エタノール(1.4g)、ポリエチレングリコール400(10g)、ポリエチレングリコール4000(4.5g)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ethoxylated hydrogenated castor oil)(0.15g)および高純度脱イオン水(2.95ml)の混合物を60℃に加熱し、均一に混ざるまで攪拌して、外用軟膏剤形を作製した。このうち、95%エタノール、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール4000、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油および高純度脱イオン水はビヒクルの成分である。
【0089】
2.純ビヒクル(simple vehicle)の作製
【0090】
95%エタノール(1.4g)、ポリエチレングリコール400(10g)、ポリエチレングリコール4000(4.5g)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ethoxylated hydrogenated castor oil)(0.15g)および高純度脱イオン水(2.95ml)の混合物を60℃に加熱し、均一に混ざるまで攪拌した。
【0091】
実施例4
酵素処理前後におけるキク抽出物の化学成分の変化
【0092】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、酵素処理前後における抽出物中の指標成分の含有量の変化を確認した。
【0093】
この実験では、2つのフラボノイド成分、ルテオリンおよびアピゲニンをキク抽出物の指標成分として選んだと共に、これら2つの指標成分にそれぞれ対応する1つの糖誘導体、ルテオリン7−O−グルコシドおよびアピゲニン−7−O−グルコシドの含有量の変化も同時に観察し、高速液体クロマトグラフィーで各成分の含有量分析を行った。
【0094】
酵素処理前後におけるキク抽出物の高速液体クロマトグラフィーの結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1より、キク抽出物のルテオリンおよびアピゲニンの総含有量が、酵素処理前の0.063%(w/w、乾燥量基準)から、酵素処理後の60.848%(w/w、乾燥量基準)まで高まったことがわかる。言い換えると、本開示で用いる酵素処理は、ルテオリンおよびアピゲニンの総含有量を大幅に高めることができると共に、1ステップ精製の効果を達成することができる。
【0097】
実施例5
酵素処理前後のキク抽出物の生物活性の変化
【0098】
1.酵素処理抽出物PTBXのin vitro角化細胞増殖抑制活性の評価
【0099】
5×10
3のHaCaT角化細胞を96ウェルプレートに接種し、37℃、5%CO
2のインキュベーターに入れて培養した。16時間培養した後、この時点(T
0)での細胞数を細胞増殖の基準点として用い、異なる工程から得たキク抽出物であるPTB1またはPTBXを細胞に加えて共培養した。48時間(T
48)共培養した後、プレート中の上清を除去し、50μLのMTT溶液(0.5mg/mL)を細胞に加えた。その後、プレートを37℃、5%CO
2インキュベーターに入れて1.5時間培養してから、150μLのDMSOをプレートに加え、プレートを5分振とうした。次いで、連続波長マイクロプレートアナライザー(continuous wavelength microplate analyzer)で570nmの吸光度を測定し、かつ下式により細胞増殖活性を計算した。
【0100】
細胞増殖活性=OD
T0/OD
T48×100
【0101】
実験結果を表2に示す。
【0102】
2.リポ多糖(LPS)で誘発された炎症に対する酵素処理抽出物PTBXのin vitro抑制の評価
【0103】
5×10
5細胞/mLのRAW264.7細胞を、96ウェルプレートに接種し、37℃、5%CO
2でオーバーナイト培養した。プレート中の上清を除去し、リポ多糖(50ng/mL)および異なる濃度のPTB1またはPTBXを細胞に加えた。
【0104】
24時間反応させた後、プレート中の上清を採取し、Griess reagent(Promega, Cat. No. G2930)で上清中のNOの含有量を調べた。
【0105】
また、50μLのMTT(0.5mg/mL)含有培地をプレート中の細胞部分に加えた。その後、プレートを37℃、5%CO
2インキュベーターに入れ、15〜20時間培養し、次いで150μLのDMSOをプレートに加えて5〜10分振とうした。最後に、連続波長マイクロプレートアナライザーでOD
570を読み取り、下式により細胞生存率を計算した。
【0106】
細胞生存率(%)=(実験群のOD値/対照群のOD値)×100
【0107】
実験結果を表2に示す。
【0108】
3.DNFBで誘発したアレルギーに対する酵素処理抽出物PTBXのin vitro抑制活性の評価
【0109】
2×10
4正常ヒト表皮角化細胞(NHEKs)を96ウェルプレートに接種してから、TNF−α組換え体(100ng/mL、PeproTech Cat.No.300−01A)をプレートに加え、細胞と共培養した。6時間共培養した後、DNFB(1μM、Sigma Cat.No.D1529)および異なる濃度のPTB1またはPTBXをプレートに加え、48時間培養を続けた。その後、プレート中の上清を収集し、Human IL−1β DuoSet ELISA(Invitrogen;Cat.No.BMS224)を、メーカーの推奨する手順に従って用い、上清中のIL−1β含有量を分析し、細胞のIL−1β発現量を確認した。
【0110】
実験結果を表2に示す。
【0111】
4.IL−31に引き起こされた掻痒に対する酵素処理抽出物PTBXのin vitro抑制活性の評価
【0112】
2×10
4正常ヒト表皮角化細胞(NHEKs)を96ウェルプレートに接種してから、TLR1/2刺激剤、Pam3Cys−Ser−(Lys)4(1μg/mL; Abcam;Cat.No.ab14208)をプレートに加えて細胞と共培養した。6時間共培養した後、IL−31の組換え体(100ng/ml; PeproTech;Cat.No.200−31)および異なる濃度のPTB1またはPTBXをプレートに加え、48時間培養を続けた。その後、プレート中の上清を収集し、Human CCL2/MCP−1 DuoSet ELISA(R&D;Cat.No.DY279)を、メーカーの推奨する手順に従って用い、上清中のMCP−1含有量を分析し、細胞のMCP−1発現量を確認した。
【0113】
実験結果を表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2より、酵素処理抽出物PTBXによる角化細胞増殖、炎症および接触性アレルギーの抑制、ならびに痒み緩和の効果が著しく向上していることがわかる。
【0116】
実施例6
マウスの類乾癬の皮膚炎に対する酵素処理抽出物PTBXの軽減効果の評価
【0117】
Balb/cマウス(6〜8週齢)の背中の毛を剃毛し、それらマウスを未処置群、対照群、イミキモド(IMQ)+ビヒクル群、および実験群の4つの群に分けた。未処置群ではマウスに処理を施していない。対照群では、50mgのイミキモド(IMQ)クリーム(Aldara;3M Pharmaceuticals)をマウスの背中に塗布した。1日に1回、6日間連続でイミキモドクリームを投与して、類乾癬の症状をマウスの皮膚に誘発した。イミキモド(IMQ)+ビヒクル群では、50mgのイミキモドクリーム(Aldara;3M Pharmaceuticals)をマウスの背中に塗布してから、軟膏のビヒクルを局所に塗布した。1日に1回、6日間連続でイミキモドクリームおよび軟膏のビヒクルを投与した。実験群では、50mgイミキモドクリーム(Aldara;3M Pharmaceuticals)をマウスの背中に塗布してから、PTBX軟膏を局所に塗布した(50mg)。1日に1回、6日間連続でイミキモドクリームおよびPTBX軟膏を投与した。
【0118】
その後、マウスの背中の皮膚の炎症の程度を採点した。皮膚炎症の程度の採点項目には紅斑(erythema)および落屑(scaling)が含まれる。紅斑および落屑の重症度に基づいてマウスの背中の皮膚に0点(無症状)から4点(重症)までのスコアをつけ、紅斑および落屑のスコアを合計して、累積スコア(cumulative scores)を算出した。各群のマウスの背中の皮膚の紅斑スコア、落屑スコアおよび累積スコアを
図1A、1Bおよび1Cにそれぞれ示す。
【0119】
マウスを屠殺する前に、マウスの背中の皮膚の乾癬病巣を写真に撮影すると共に記録した。屠殺後、マウスの背中の皮膚を切り取り、その表皮の厚みを測定すると共に、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を行った。各群のマウスの背中の皮膚の写真およびH&E染色の結果、ならびに各群のマウスの皮膚の厚さをそれぞれ
図1Dおよび
図1Eに示す。
【0120】
加えて、マウスの背中の皮膚の組織の一部に対し、ケラチン(K14)およびフィラグリン(FLG)の遺伝子発現量の検出を行った。その結果を
図1Fおよび
図1Gに示す。
【0121】
図1A〜
図1Eに示するように、対照群では、イミキモド50mgの投与によりマウスの背中に紅斑、落屑が生じ、マウスの背中の皮膚の厚みが増加しているが、実験群では、PTBX軟膏50mgの塗布により、皮膚の紅斑および落屑が軽減されると共に、皮膚の厚みを減少させることができている。
【0122】
遺伝子発現量については、
図1Fおよび
図1Gに示すように、未処置群に比べて、対照群のK14発現は有意に増加した(###:p<0.001)が、PTBX軟膏50mgの塗布によりK14発現を抑制する効果が生じた(*:p<0.05)。また、イミキモドはFLG発現を減少させた(#:p<0.05)が、PTBX軟膏50mgの塗布により、FLG発現を維持する保護活性が生じた(**:p<0.01)。実験結果は平均±標準偏差で示している。
【0123】
実施例7
酵素処理プロセスの研究(investigation):酵素と抽出物との比率
【0124】
粗抽出物PTB1の乾燥粉末約1gを酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)50mlで再溶解してから、0.1、0.5、1、2または5mgのβ−グルコシダーゼをそれぞれ加えた。次いで、その酵素含有溶液を37℃のインキュベーター中に入れて16〜24時間反応を進行させた。反応が完了した後、その溶液を4℃の冷蔵庫に24時間入れ、沈殿物の生成を促進させた。
【0125】
その溶液を固液分離して沈殿物を取り出し、その沈殿物をメタノールで再溶解して混合溶液を作製した。次いで、その混合溶液に高速液体クロマトグラフィーを行った。その結果を表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
表3に示す結果から、0.1mgの酵素では沈殿物を生成し得ないが、その他の量の酵素はいずれも沈殿物を生成する効果があることがわかる。
【0128】
実施例8
【0129】
酵素処理プロセスの研究:酵素の種類
【0130】
粗抽出物PTB1の乾燥粉末約1gを酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)50mlで再溶解してから、1mgのβ−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼまたはβ−グルクロニダーゼをそれぞれ加えた。加えた酵素の重量と元の薬草材料の重量との比は約1:1500〜4000であった(粗抽出物PTB1の重量と元の薬草材料の重量との比は約1:1.5〜4)。次いで、その酵素含有溶液を37℃のインキュベーターに入れて16〜24時間反応を進行させた。反応が完了した後、その溶液を4℃の冷蔵庫に24時間入れ、沈殿物の生成を促進させた。
【0131】
その溶液を遠心分離機にかけて沈殿物を分離し、その沈殿物をメタノールで再溶解して混合溶液を作製した。次いで、その混合溶液に高速液体クロマトグラフィーを行って、酵素処理前後の指標成分含有量の相違を比較した。結果を表4に示す。
【0132】
【表4】
【0133】
表4の結果から、β-グルコシダーゼおよびβ-グルクロニダーゼはいずれも生物変換によりキク抽出物中のルテオリンおよびアピゲニンの含有量を増加させ得るということがわかる。
【0134】
実施例9
酵素処理プロセスの研究:酵素の組み合わせ
【0135】
粗抽出物PTB1の乾燥粉末約1gを酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)50mlで再溶解してから、β−グルコシダーゼ1mgおよびα−ガラクトシダーゼ1mg、またはβ−グルコシダーゼ1mgおよびβ−グルクロニダーゼ1mgを同時に加えた。加えた酵素の重量と元の薬草材料の重量との比は約1:750〜2000であった(粗抽出物PTB1の重量と元の薬草材料の重量との比は約1:1.5〜4)。次いで、その酵素含有溶液を37℃のインキュベーターに入れて16〜24時間反応を進行させた。反応が完了した後、その溶液を4℃の冷蔵庫に24時間入れ、沈殿物の生成を促進させた。
【0136】
その溶液を遠心分離機にかけて沈殿物を分離し、その沈殿物をメタノールで再溶解して混合溶液を作製した。次いで、その混合溶液に高速液体クロマトグラフィーを行って、酵素処理前後の指標成分含有量の相違を比較した。結果を表5に示す。
【0137】
【表5】
【0138】
表5の結果から、β−グルコシダーゼおよびβ−グルクロニダーゼが同時に存在するとき、ルテオリン7−O−グルコシドおよびアピゲニン−7−O−グルコシドのそれぞれルテオリンおよびアピゲニンへの変換が増加し得ることがわかる。
【0139】
実施例10
酵素処理プロセスの研究:キク属の異なる植物
【0140】
シマカンギク(Chrysanthemum indicum L、金門油菊)、シロバナムシヨケギク(Chrysanthemum cinerariifolium)またはオッタチカンギク(Chrysanthemum indicum、台湾小油菊)とその15倍の水とを混合して混合物を作製した。その混合物を加熱して沸騰させ(約90〜100℃)、加熱抽出を1時間行ってから、その中の固体残留物を除去して抽出液を得た。
【0141】
その抽出液を室温まで冷却した後、酵素であるβ-グルコシダーゼをその中に加えた。加えた酵素の重量と元の薬草材料の重量との比は約1:1500であった。次いで、その酵素含有抽出液を37℃のインキュベーターに入れ、16〜24時間反応させた。反応が完了した後、その酵素反応抽出液を4℃の冷蔵庫に24時間入れ、沈殿物の生成を促進させた。
【0142】
その後、その溶液を遠心分離機にかけ、上清および沈殿物に高速液体クロマトグラフィーを行って、キク属のその他の植物でも酵素処理により沈殿精製の効果が達成され得るか否かを評価した。沈殿物について、in vitro角化細胞増殖抑制活性の分析を行った。その結果を表6に示す。
【0143】
【表6】
【0144】
表6の結果から、シマカンギク(Chrysanthemum indicum L)、シロバナムシヨケギク(Chrysanthemum cinerariifolium)およびオッタチカンギク(Chrysanthemum indicum)のようなキク属の別の植物はいずれも、酵素処理により沈殿および精製され得ず、それらの角化細胞増殖抑制活性は酵素処理により向上し得ないということがわかる。
【0145】
開示された実施形態に各種修飾および変更を加え得ることは、当業者には明らかであろう。明細書および実施例は単に例示として見なさるよう意図されており、本開示の真の範囲は以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって示される。