特許第6868105号(P6868105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868105
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】データ取得方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
   A61B10/00 H
   A61B10/00 E
   A61B10/00ZDM
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-528330(P2019-528330)
(86)(22)【出願日】2017年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2017025052
(87)【国際公開番号】WO2019008773
(87)【国際公開日】20190110
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】516211569
【氏名又は名称】医療法人社団創知会
(73)【特許権者】
【識別番号】504019456
【氏名又は名称】株式会社MCBI
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】四方田 聡
(72)【発明者】
【氏名】中村 伸
(72)【発明者】
【氏名】安藤 英治
(72)【発明者】
【氏名】朝田 隆
(72)【発明者】
【氏名】中田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】内田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 吉典
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/148199(WO,A1)
【文献】 Hisashi Kito et al.,Comparison of alterations in cerebral hemoglobin oxygenation in late life depression and Alzheimer's disease as assessed by near-infrared spectroscopy,Behavioral and brain,2014年 3月,10:8,doi: 10.1186/1744-9081-10-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与えるステップと、
前記負荷を複数回与えるステップにおいて、前記負荷を与えた際に被験者の脳活動の変化を測定し、測定データを取得するステップと、
験者の認知機能の程度を判別するために前記測定データ間の変化量を取得するステップとを有し、
前記負荷を複数回与えるステップにおいて、被験者に与える前記感覚刺激の強度を、刺激を与えるたびに強くする、データ取得方法。
【請求項2】
複数種類の感覚刺激をそれぞれ複数回被験者に与えるステップと、
複数種類の前記感覚刺激をそれぞれ複数回与えるステップにおいて、前記感覚刺激をそれぞれ与えた際に被験者の脳活動の変化をそれぞれ測定し、それぞれの測定データを取得するステップと、
験者の認知機能の程度を判別するために、複数種類の前記感覚刺激をそれぞれ与えた際にそれぞれ取得した複数種類の前記測定データ間の変化量を組み合わせた結果を取得するステップとをさらに含む、請求項1に記載のデータ取得方法。
【請求項3】
前記感覚刺激を複数回与える場合において、被験者に与える前記感覚刺激は、持続性を有する刺激である、請求項1または2に記載のデータ取得方法。
【請求項4】
前記持続性を有する刺激は、被験者に前記感覚刺激を与える際に、前回の刺激による影響が残存している状態で前記感覚刺激を与えることにより持続性を持たせた刺激である、請求項3に記載のデータ取得方法。
【請求項5】
前記持続性を有する刺激は、冷感覚刺激である、請求項3または4に記載のデータ取得方法。
【請求項6】
前記感覚器は、被験者の手であり、前記感覚刺激は接触刺激である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のデータ取得方法。
【請求項7】
被験者に、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップと、
前記同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップにおいて、前記タスクを与えた際に被験者の脳活動の変化を測定し、測定データを取得するステップと、
験者の認知機能の程度を判別するために前記測定データ間の変化量を取得するステップとを有し、
前記被験者に、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップにおいて、前記タスクの難易度は、後に与えられるタスクの難易度が、前に与えられたタスクの難易度以上となるように設定されている、データ取得方法。
【請求項8】
前記同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクは、計算、記憶、想像、空間認知の少なくともいずれかの認知課題に関するタスクであり、
数種類の前記認知課題のそれぞれについて、前記同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回被験者に与えるステップと、
前記複数種類の前記認知課題のそれぞれについて、前記同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップにおいて、前記タスクを与えた際に被験者の脳活動の変化をそれぞれ測定し、それぞれの測定データを取得するステップと、
験者の認知機能の程度を判別するために、前記複数種類の前記認知課題のそれぞれについて、前記同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを与えた際にそれぞれ取得した複数種類の前記測定データを組み合わせた結果を取得するステップとをさらに含む、請求項7に記載のデータ取得方法。
【請求項9】
前記同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップは、被験者に異なる難易度の計算に関するタスクを繰り返し呈示する、請求項7または8に記載のデータ取得方法。
【請求項10】
前記同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップは、被験者に異なる難易度の記憶および想像を組み合わせたタスクを繰り返し呈示する、請求項7または8に記載のデータ取得方法。
【請求項11】
前記同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップは、被験者に異なる難易度の空間認知に関するタスクを繰り返し提示する、請求項7または8に記載のデータ取得方法。
【請求項12】
前記測定データを取得するステップにおいて、計測部位は、国際10−20法の、F3、F4、P3、P4のいずれかを含んだ範囲に設定されている、請求項1〜11のいずれか1項に記載のデータ取得方法。
【請求項13】
前記測定データを取得するステップは、近赤外分光法によって、被験者の脳血流量の変化を前記脳活動の変化として測定する、請求項1〜12のいずれか1項に記載のデータ取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、認知機能判定方法に関し、特に、脳活動の変化を測定することによって認知機能の程度の判定を行う認知機能判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳活動の変化を測定することによって認知機能の程度の判定を行う認知機能判定方法が知られている。このような認知機能判定方法は、たとえば、国際公開第2012/165602号に開示されている。
【0003】
上記国際公開第2012/165602号には、近赤外分光法を用いて、認知課題実行中の脳血流データを計測する認知機能障害判別システムが開示されている。そして、認知機能障害判別システムは、計測した脳血流データに対して、特徴量抽出を行い、抽出された特徴量とあらかじめ構築しておいた認知機能障害の判定に用いるモデルとにより、被験者の認知機能の判別を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/165602号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記国際公開第2012/165602号に開示されている認知機能障害判別システムは、被験者の脳血流データを計測する際に、複数種類の認知課題を用いているが、課題を与える際に、同一の課題において異なる難易度の課題を複数回与えてはいないと考えられる。しかし、認知課題実行時の脳血流データの計測においては、被験者ごとに課題への慣れや、経験、教育レベルなどのバイアスがかかる。したがって、被験者に対して、共通した一定難易度の認知課題を実行することは、ある被験者にとっては簡単すぎるため脳活動が検出されず、ある被験者にとっては難しすぎるため課題の実行をあきらめてしまうという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、被験者の認知課題に対する適応に個人差がある場合でも、認知機能の程度を判定することが可能な認知機能判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるデータ取得方法は、被験者の感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与えるステップと、負荷を複数回与えるステップにおいて、負荷を与えた際に被験者の脳活動の変化を測定し、測定データを取得するステップと、被験者の認知機能の程度を判別するために測定データ間の変化量を取得するステップとを有し、負荷を複数回与えるステップにおいて、被験者に与える感覚刺激の強度を、刺激を与えるたびに強くする。
【0008】
この発明の第1の局面におけるデータ取得方法では、上記のように、被験者の感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与えるステップと、被験者の脳活動の変化を測定し、測定データを取得するステップと、被験者の認知機能の程度を判別するために測定データ間の変化量を取得するステップとを有し、負荷を複数回与えるステップにおいて、被験者に与える感覚刺激の強度を、刺激を与えるたびに強くする。これにより、被験者の感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与える場合には、課題を理解する必要がない感覚刺激によって認知課題に対する適応の個人差に依存することなく脳活動の変化を測定することができる。また、被験者に異なる難易度のタスクからなる負荷を複数回与える場合には、被験者に応じた難易度のタスクによる脳活動の変化を測定することができる。その結果、被験者の認知課題に対する適応に個人差がある場合でも、認知機能の程度を判定することができる。また、被験者に対して刺激を与える回数が増加するにしたがって、刺激の強度が増加するので、刺激の強度に対する被験者の脳活動の相対変化に基づき、認知機能の程度を判別することができる。
【0009】
上記第1の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、複数種類の感覚刺激をそれぞれ複数回被験者に与えるステップと、複数種類の感覚刺激をそれぞれ複数回与えるステップにおいて、感覚刺激をそれぞれ与えた際に被験者の脳活動の変化をそれぞれ測定し、それぞれの測定データを取得するステップと、被験者の認知機能の程度を判別するために、複数種類の感覚刺激をそれぞれ与えた際にそれぞれ取得した複数種類の測定データ間の変化量を組み合わせた結果を取得するステップとをさらに含む。これにより、複数の観点に基づいて測定したデータを組み合わせた結果に基づいて認知機能の判別を複合的に行うことができる。その結果、被験者の認知機能の程度を判定する精度を向上させることができる。
【0012】
上記第1の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、感覚刺激を複数回与える場合において、被験者に与える感覚刺激は、持続性を有する刺激である。これにより、被験者に対して刺激を与える回数が増加するにしたがって、刺激の影響が蓄積する(残る)ので、刺激の相対強度を徐々に増加させることができる。その結果、刺激を与える回数が増加するにしたがって蓄積される刺激に対する被験者の脳活動の相対変化に基づき、認知機能の程度を判別することができる。なお、本明細書において、持続性を有する刺激とは、刺激付与後にも刺激を受けた感覚が残り、時間経過に伴って徐々に弱まっていく刺激のことである。
【0013】
この場合、好ましくは、持続性を有する刺激は、被験者に感覚刺激を与える際に、前回の刺激による影響が残存している状態で感覚刺激を与えることにより持続性を持たせた刺激である。これにより、容易に感覚刺激の相対強度を徐々に増加させることができる。また、感覚刺激に対する感受性に個人差がある場合でも、感覚刺激の強度変化に対する反応を測定することができる。
【0014】
上記被験者に持続性のある刺激を与えるデータ取得方法において、好ましくは、持続性を有する刺激は、冷感覚刺激である。これにより、たとえば、温感覚刺激と比較した場合、より刺激に対する受容器が多い冷感覚刺激を用いて被験者に刺激を与えることができる。その結果、より活発な脳活動の変化を測定することができる。
【0015】
上記第1の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、感覚器は、被験者の手であり、感覚刺激は接触刺激である。これにより、刺激に対する感度が高い手に直接触れて刺激を与えることができる。その結果、より正確な脳活動の変化を測定することができる。
【0016】
この発明の第2の局面におけるデータ取得方法は、被験者に、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップと、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップにおいて、タスクを与えた際に被験者の脳活動の変化を測定し、測定データを取得するステップと、被験者の認知機能の程度を判別するために測定データ間の変化量を取得するステップとを有し、被験者に、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップにおいて、タスクの難易度は、後に与えられるタスクの難易度が、前に与えられたタスクの難易度以上となるように設定されている。
上記第2の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクは、計算、記憶、想像、空間認知の少なくともいずれかの認知課題に関するタスクであり、複数種類の認知課題のそれぞれについて、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回被験者に与えるステップと、複数種類の認知課題のそれぞれについて、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップにおいて、タスクを与えた際に被験者の脳活動の変化をそれぞれ測定し、それぞれの測定データを取得するステップと、被験者の認知機能の程度を判別するために、複数種類の認知課題のそれぞれについて、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを与えた際にそれぞれ取得した複数種類の測定データを組み合わせた結果を取得するステップとをさらに含む。
【0017】
上記第2の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップは、被験者に異なる難易度の計算に関するタスクを繰り返し呈示する。これにより、同じ問題を繰り返すことによって被験者が計算問題の解答を記憶することを抑制することができる。また、異なる難易度の計算に関するタスクを複数回行うことによって、被験者をタスクに慣れさせることができるので、被験者がタスクを途中でやめることを抑制することができる。また、異なる難易度の計算に関するタスクを複数回行うことにより、被験者に適した難易度のタスクを実行させることができる。その結果、被験者の認知機能の程度を判定する指標として、計算に関する認知機能の程度を得ることができるので、認知機能の程度の判定精度を向上させることができる。
【0018】
上記第2の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップは、被験者に異なる難易度の記憶および想像を組み合わせたタスクを繰り返し呈示する。これにより、異なる難易度の記憶および想像を組み合わせたタスクを複数回行うことによって、被験者をタスクに慣れさせることができるので、被験者がタスクを途中でやめることを抑制することができる。また、異なる難易度の記憶および想像に関するタスクを複数回行うことにより、被験者に適した難易度のタスクを実行させることができる。その結果、被験者の認知機能の程度を判定する指標として、記憶および想像に関する認知機能の程度を得ることができるので、認知機能の程度の判定精度を向上させることができる。
【0019】
上記第2の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、同一種類の認知課題で、かつ、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップは、被験者に異なる難易度の空間認知に関するタスクを繰り返し提示する。これにより、異なる難易度の空間認知に関するタスクを複数回行うことによって、被験者をタスクに慣れさせることができるので、被験者がタスクを途中でやめることを抑制することができる。また、異なる難易度の空間認知に関するタスクを複数回行うことにより、被験者に適した難易度のタスクを実行させることができる。その結果、被験者の認知機能の程度を判定する指標として、空間認知に関する認知機能の程度を得ることができるので、認知機能の程度の判定精度を向上させることができる。
【0020】
上記第1および第2の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、測定データを取得するステップにおいて、計測部位は、国際10−20法の、F3、F4、P3、P4のいずれかを含んだ範囲に設定されている。これにより、脳活動の測定時における計測部位を略一定にすることできる。その結果、測定部位が異なることにより測定データに誤差が生じることを抑制することができる。また、本願発明者らによる後述の試験の結果、F3、F4、P3、P4のいずれかにおいて、負荷に対して有意な脳活動の変化が確認された。そのため、認知機能の程度の判定を、有意な精度で行うことができる。
【0021】
上記第1および第2の局面によるデータ取得方法において、好ましくは、測定データを取得するステップは、近赤外分光法(near-infrared spectroscopy: NIRS)によって、被験者の脳血流量の変化を脳活動の変化として測定する。これにより、NIRS装置を用いて被験者の脳活動の変化を測定することができる。その結果、NIRS装置は、非侵襲であり、磁気共鳴画像(Magnetic Resonances Imaging: MRI)などと比較した場合、大掛かりな設備を必要としないので、被験者の脳活動の変化を簡便に測定することができる。なお、NIRS装置とは、被験者の頭部に装着し、被験者の脳血管中の酸素化ヘモグロビン量の変化を測定することにより、脳活動の変化を測定する装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、上記のように、被験者の認知課題に対する適応に個人差がある場合でも、認知機能の程度を判定することが可能な認知機能判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態による認知機能判定方法を実施するための脳活動測定システムの全体構成を示した模式図である。
図2】本発明の第1実施形態による脳活動を測定する際の測定部位を示した模式図である。
図3】国際10−20法の測定部位を説明するための模式図である。
図4】本発明の第1実施形態による被験者の認知機能の程度を判定するフローを示すフローチャートである。
図5】本発明の第1実施形態による被験者に冷感覚刺激を与える方法を説明するための模式図である。
図6】本発明の第1実施形態によるタスクとレストのタイミングチャートおよび冷感覚刺激の強度の時間変化を示すグラフである。
図7】本発明の第1実施例による認知機能健常者(A)、軽度認知機能障害者(B)、および、アルツハイマー型認知症患者(C)の脳活動の変化の統計結果の模式図である。
図8】本発明の第2実施形態によるタスクとレストのタイミングチャートおよびタスクの難易度の時間変化を示すグラフである。
図9】本発明の第2実施例による認知機能健常者(A)、軽度認知機能障害者(B)、および、アルツハイマー型認知症患者(C)の脳活動の変化の統計結果の模式図である。
図10】本発明の第3実施形態による被験者に記憶および想像に関するタスクを与える方法を説明するための模式図である。
図11】本発明の第3実施形態による被験者に与える記憶および想像に関するタスクを説明するための模式図である。
図12】本発明の第3実施形態によるタスクとレストのタイミングチャートおよびタスクの難易度の時間変化を示すグラフである。
図13】本発明の第3実施例による脳活動の変化に有意差の見られたチャンネル10(A)、チャンネル37(B)、チャンネル45(C)およびチャンネル53(D)の統計結果の模式図である。
図14】本発明の第4実施形態による被験者に空間認知に関するタスクを与える方法を説明するための模式図である。
図15】本発明の第4実施形態による被験者に与える空間認知に関するタスクを説明するための模式図である。
図16】本発明の第4実施形態によるタスクとレストのタイミングチャートおよびタスクの難易度の時間変化を示すグラフである。
図17】本発明の第4実施例による脳活動の変化に有意差の見られたチャンネル2(A)、チャンネル32(B)およびチャンネル52(C)の統計結果の模式図である。
図18】本発明の第5実施形態による被験者の認知機能の程度を判定するフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
[第1実施形態]
まず、図1図3を参照して、本発明の第1実施形態による認知機能判定方法を実施するための脳活動計測システム100の全体構成について説明する。
【0026】
(脳活動計測システムの構成)
第1実施形態による認知機能判定方法を実践するための脳活動計測システム100は、図1に示すように、脳活動計測装置1と、データ処理装置2と、表示装置3とを備えている。
【0027】
脳活動計測装置1は、近赤外分光法(NIRS)を用いて被験者Pの脳活動を光学的に計測し、時系列の計測結果データを生成する装置(光計測装置)である。具体的には、脳活動計測装置1は、NIRS装置である。脳活動計測装置1は、近赤外光の波長領域の計測光を被験者Pの頭部表面上に配置した送光プローブ(図示せず)から照射する。そして、頭部内で反射した計測光を頭部表面上に配置した受光プローブ(図示せず)に入射させて検出することにより、計測光の強度(受光量)を取得する。送光プローブおよび受光プローブは、それぞれ複数設けられ、頭部表面上の所定位置に各プローブを固定するためのホルダ4に取り付けられる。脳活動計測装置1は、複数波長(たとえば、780nm、805nmおよび830nmの3波長)の計測光の強度(受光量)とヘモグロビンの吸光特性とに基づいて、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンおよび総ヘモグロビンの変化量を計測する。これにより、脳活動計測装置1は、脳活動に伴う脳中血流変化を、ヘモグロビン量変化として計測する。
【0028】
次に、データ処理装置2および表示装置3の装置構成について説明する。
【0029】
データ処理装置2は、脳活動計測装置1から送られた計測データの統計処理を行う。すなわち、データ処理装置2は、被験者Pの認知機能の程度を判定するための統計データを算出するように構成されている。データ処理装置2は、CPU、メモリおよびハードディスクドライブなどを備えたPC(パーソナルコンピュータ)により構成されている。
【0030】
表示装置3は、被験者Pに実行させるためのタスクを表示するように構成されている。表示装置3は、液晶ディスプレイなどのモニタである。
【0031】
図2は、第1実施形態において、脳活動計測装置1によって被験者Pの脳の血流量を測定する際の計測部位を示している。また、図3は、国際10−20法における計測部位を示した図である。第1実施形態では、被験者Pの脳活動の測定データを取得する際の計測部位は、図3に示す国際10−20法の、F3、F4、P3、P4のいずれかを含んだ範囲に設定されている。具体的には、国際10−20法の、F3、F4、P3、P4のいずれかを含んだ範囲として、図2に示すような54チャンネルを計測部位に設定する。その際、関心領域(ROI)として、ROI1〜ROI5を設定する。
【0032】
(被験者の認知機能の程度を判定する方法)
次に、図1および図4図6を参照して、第1実施形態による被験者Pの認知機能判定方法について説明する。
【0033】
まず、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法の概要について説明する。図4は、被験者Pの認知機能の程度を判定するフローを示すフローチャートである。第1実施形態では、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、被験者Pの感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与えるか、または、被験者Pに異なる難易度のタスクからなる負荷を複数回与えるステップS1を有する。また、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、負荷を複数回与えるステップにおいて、負荷を与えた際に被験者Pの脳活動の変化を測定し、測定データを取得するステップS2を有する。また、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、測定データ間の変化量に基づいて、被験者Pの認知機能の程度を判別するステップS3を有する。これらのステップによって、被験者Pの認知機能の程度を判定する。
【0034】
(被験者の感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与えるステップ)
次に、図5および図6を参照して、被験者Pの感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与えるステップについて説明する。
【0035】
第1実施形態では、被験者Pに負荷を複数回与えるステップS1は、被験者Pの感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与えるステップである。
【0036】
図5は、被験者Pの感覚器に感覚刺激を与える際の模式図である。図5に示す例では、被験者Pの左の手のひら6aに保冷剤5を当てることよって、被験者Pに冷感覚刺激を与える。すなわち、第1実施形態において、感覚器は、被験者Pの手6であり、感覚刺激は接触刺激である。
【0037】
また、第1実施形態では、被験者Pに与える感覚刺激は、持続性を有する刺激である。持続性を有する刺激は、被験者Pに感覚刺激を与える際に、前回の刺激による影響が残存している状態で感覚刺激を与えることにより持続性を持たせた刺激である。また、第1実施形態では、持続性を有する刺激は、冷感覚刺激である。冷感覚刺激を与えるものとしては、たとえば、保冷剤5である。保冷剤5は、たとえば、4℃に冷却されている。すなわち、被験者Pには、感覚刺激として、4℃に相当する一定の強度を有する冷感刺激を複数回与える。
【0038】
図6は、被験者Pに冷感覚刺激を与える際のタスク期間7aとレスト期間7bとのタイミングチャート7および、冷感覚刺激の強度の時間変化を示すグラフ8である。
【0039】
第1実施形態では、図6のタイミングチャート7に示すように、被験者Pの左の手のひら6aに保冷剤5を当てるタスク期間7aと、閉眼、安静保持状態でのレスト期間7bとを1セットとし、合計5セット繰り返す。タスク期間7aは、たとえば、15秒間である。また、レスト期間7bは、たとえば、15秒間である。被験者Pの左の手のひら6aは、保冷剤5によって冷やされ、その冷却効果が持続(蓄積)することにより、タスクを繰り返すごとに保冷剤5による刺激5aの相対強度が増加していく。すなわち、図8のグラフ8に示すように、タスク期間7aにおいては、時間の経過とともに冷感覚刺激の強度が増加する。また、レスト期間7bにおいては、冷感覚刺激の強度は低下するが、冷感覚刺激がなくなることはない。そして、次のタスク期間7aによって、再び冷感覚刺激の強度が増加し、徐々に冷感覚刺激の強度が増加していく。なお、保冷剤5による刺激5aは、特許請求の範囲の「冷感覚刺激」の一例である。
【0040】
(被験者の認知機能判定方法)
第1実施形態では、被験者Pに保冷剤5による刺激5aを与えた際の、被験者Pの脳血流量の変化に基づいて被験者Pの認知機能の程度を判定する。後述する第1実施例により、冷感覚刺激を複数回与えることによって、被験者Pの認知機能の程度を判定する際に有効なROIおよびそのROIにおける血流量の変化の傾向が確認された。後述する第1実施例では、ROI3(図2参照)が被験者Pの認知機能の程度を判定する際に有効なROIとして確認された。第1実施形態では、ROI3における被験者Pの脳血流量の変化の傾向を、第1実施例で得た実験結果と照らし合わせることにより、被験者Pの認知機能の程度を判定する。
【0041】
[第1実施例]
次に、図7を参照して、第1実施例による被験者Pの認知機能の程度を判定する際の指標を得た実験について説明する。
【0042】
第1実施例では、被験者Pを、60〜84歳までの認知機能健常者(以下、NDCという)、軽度認知機能障害者(以下、MCIという)およびアルツハイマー型認知症患者(以下、ADという)の3つのグループに分け、それぞれのグループの脳活動を測定した。そして、それぞれのグループの脳活動の測定結果を比較することにより、被験者Pの認知機能の程度によって異なる脳活動の傾向を取得した。この課題を行った被験者Pの人数は、NDCが22名、MCIが27名、ADが22名である。なお、平均年齢は、各グループ間での有意差はない。
【0043】
第1実施例では、被験者Pの左の手のひら6aに冷感覚刺激を与えるタスクを行う際、脳活動計測装置1によって、被験者Pの脳血流量の変化を取得し、取得した脳血流量の変化に基づいて、被験者Pの認知機能の程度を判定した。認知機能の程度を判定する方法としては、図2に示す各チャンネルにおいて、タスク開始前5秒間平均の脳血流量と、タスク期間7aの15秒平均の脳血流量との差分をタスク繰り返しごとに求め、特徴量とした。そして、特徴量を被験者群(NDC、MCI、AD)ごとに繰り返し回数ごとに比較した。比較する方法としては、タスク繰り返し回数間の相対的組み合わせペアにて、対応のあるt検定によって有意差検定を行った。
【0044】
図7は、被験者群ごとのt検定の解析結果10を示す図である。図7(A)は、NDCのt検定の解析結果10aである。また、図7(B)は、MCIのt検定の解析結果10bである。また、図7(C)は、ADのt検定の解析結果10cである。図7に示す各図の縦軸は、脳血流量の変化の平均値であり、プロット11は、被験者Pの脳血流量の変化の平均値を示している。また、直線12aおよび12bはそれぞれ、プラスおよびマイナスの標準偏差を示している。また、図7中の「*」印は、有意水準が5%以下であることを示している。また、図7中の「**」印は、有意水準が1%以下であることを示している。
【0045】
各チャンネルの解析の結果、第1実施例では、ROI3(図2参照)の計測データにおいて有意差のある結果が得られた。具体的には、NDCにおいて、1回目のタスクと3回目のタスクとの比較および1回目のタスクと5回目のタスクとの比較によって、有意差p<0.01(有意水準が1%以下であること)が認められた。また、NDCにおいて、1回目のタスクと4回目のタスクとの比較によって、有意差p<0.05(有意水準が5%以下であること)が認められた。一方、MCIおよびADにおいては、各タスク間の有意差は認められなかった。これにより、被験者Pに冷感覚刺激を複数回与えるタスクを行った際に、ROI3において、1回目のタスクで得られた特徴量が、3、4、5回目のタスクで得られた特徴量と比較して大きい場合、NDCを、MCIおよびADから区別することが可能であるとの結果が得られた。
【0046】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0047】
第1実施形態では、上記のように、被験者Pの認知機能判定方法は、被験者Pの感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与えるか、または、被験者Pに異なる難易度のタスクからなる負荷を複数回与えるステップS1を有する。また、被験者Pの認知機能判定方法は、負荷を複数回与えるステップS1において、負荷を与えた際に被験者Pの脳活動の変化を測定し、測定データを取得するステップS2を有する。また、被験者Pの認知機能判定方法は、測定データ間の変化量に基づいて、被験者Pの認知機能の程度を判別するステップS3を有する。これにより、被験者Pの感覚器に感覚刺激からなる負荷を複数回与える場合には、課題を理解する必要がない感覚刺激によって認知課題に対する適応の個人差に依存することなく脳活動の変化を測定することができる。また、被験者Pに異なる難易度のタスクからなる負荷を複数回与える場合には、被験者Pに応じた難易度のタスクによる脳活動の変化を測定することができる。その結果、被験者Pの認知課題に対する適応に個人差がある場合でも、認知機能の程度を判定することができる。
【0048】
また、第1実施形態では、上記のように、感覚刺激を複数回与える場合において、被験者Pに与える感覚刺激は、持続性を有する刺激である。これにより、被験者Pに対して刺激を与える回数が増加するにしたがって、刺激の影響が蓄積する(残る)ので、刺激の相対強度を徐々に増加させることができる。その結果、刺激を与える回数が増加するにしたがって蓄積される刺激に対する被験者Pの脳活動の相対変化に基づき、認知機能の程度を判別することができる。
【0049】
また、第1実施形態では、上記のように、持続性を有する刺激は、被験者Pに感覚刺激を与える際に、前回の刺激による影響が残存している状態で感覚刺激を与えることにより持続性を持たせた刺激である。これにより、容易に感覚刺激の相対強度を徐々に増加させることができる。また、感覚刺激に対する感受性に個人差がある場合でも、感覚刺激の強度変化に対する反応を測定することができる。
【0050】
また、第1実施形態では、上記のように、持続性を有する刺激は、冷感覚刺激である。これにより、たとえば、温感覚刺激と比較した場合、より刺激に対する受容器が多い冷感覚刺激を用いて被験者Pに刺激を与えることができる。その結果、より活発な脳活動の変化を測定することができる。
【0051】
また、第1実施形態では、上記のように、感覚器は、被験者Pの手6であり、感覚刺激は接触刺激である。これにより、刺激に対する感度が高い手に直接触れて刺激を与えることができる。その結果、より正確な脳活動の変化を測定することができる。
【0052】
また、第1実施形態では、上記のように、測定データを取得するステップS2において、計測部位は、国際10−20法の、F3、F4、P3、P4のいずれかを含んだ範囲に設定されている。これにより、脳活動の測定時における計測部位を略一定にすることできる。その結果、測定部位が異なることにより測定データに誤差が生じることを抑制することができる。また、上記冷感覚刺激を与えて被験者Pの脳活動の変化を測定した結果、F3、F4、P3、P4のいずれかにおいて、負荷に対して有意な脳活動の変化が確認された。そのため、認知機能の程度の判定を、有意な精度で行うことができる。
【0053】
また、第1実施形態では、上記のように、測定データを取得するステップは、近赤外分光法によって、被験者Pの脳血流量の変化を脳活動の変化として測定する。これにより、脳活動計測装置1を用いて被験者Pの脳活動の変化を測定することができる。その結果、脳活動計測装置1は、非侵襲であり、MRIなどと比較した場合、大掛かりな設備を必要としないので、被験者Pの脳活動の変化を簡便に測定することができる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、図4および図8を参照して、本発明の第2実施形態による認知機能判定方法について説明する。被験者Pに負荷を複数回与えるステップS1において、被験者Pに冷感覚刺激を複数回与える第1実施形態とは異なり、第2実施形態では、被験者Pに負荷を複数回与えるステップS1において、被験者Pに異なる難易度の計算に関するタスクを複数回与える。なお、上記第1実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0055】
(異なる難易度の計算に関するタスクを複数回与えるステップ)
第2実施形態において、異なる難易度のタスクは、計算に関するタスクである。第2実施形態では、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップS1は、被験者Pに異なる難易度の計算に関するタスクを繰り返し呈示する。また、第2実施形態では、異なる難易度のタスクを複数回与える場合において、タスクの難易度は、第1のタスクの難易度と比較して、第1のタスクよりも後に与えられる第2のタスクの難易度が高くなるように設定されている。
【0056】
図8は、被験者Pに異なる難易度の計算に関するタスクを与える際のタスク期間20aとレスト期間20bとのタイミングチャート20および、計算に関するタスクの難易度の時間変化を示すグラフ21である。第2実施形態では、図8のタイミングチャート20に示すように、被験者Pに計算を行わせるタスク期間20aと、タスク期間20aの前後に無意味な言葉の発音を行うレスト期間20b(前レスト期間および後レスト期間)とを1セットとし、合計5セットの問題を被験者Pに実施させるように設定されている。前レスト期間および後レスト期間では、無意味な言葉を発音することにより、脳血流量の変化を測定する際のベースラインを構築する。タスク期間20aは、たとえば、20秒間である。また、前レスト期間および後レスト期間は、たとえば、それぞれ20秒間である。また、前レスト期間および後レスト期間において発音する無意味な言葉としては、たとえば、「あ、い、う、え、お」である。
【0057】
また、グラフ21に示すように、計算問題の難易度は、セットごとに異なる難易度とし、後に行う問題の難易度を高く設定する。計算問題としては、たとえば、認知症の診断用の、ミニメンタルステート検査(MMSE)で用いられているシリアルセブン(100−7)を改訂した問題を用いることができる。すなわち、異なる難易度の計算に関するタスクとして、100から2を連続で引く問題(100−2)、100から3を連続で引く問題(100−3)、100から7を連続で引く問題(100−7)、101から7を連続で引く問題(101−7)、102から7を連続で引く問題(102−7)を出題する。ここで、偶数の引き算と奇数の引き算とでは、偶数の引き算の難易度が低い。
【0058】
(被験者の認知機能判定方法)
第2実施形態では、被験者Pに異なる難易度の計算に関するタスクを与えた際の、被験者Pの脳血流量の変化に基づいて被験者Pの認知機能の程度を判定する。後述する第2実施例により、被験者Pに異なる難易度の計算に関するタスクを複数回与えることによって、被験者Pの認知機能の程度を判定する際に有効なROIおよびそのROIにおける血流量の変化の傾向が確認された。後述する第2実施例では、ROI2(図2参照)が被験者Pの認知機能の程度を判定する際に有効なROIとして確認された。第2実施形態では、ROI2における被験者Pの脳血流量の変化の傾向を、第2実施例で得た実験結果と照らし合わせることにより、被験者Pの認知機能の程度を判定する。
【0059】
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0060】
[第2実施例]
次に、図9を参照して、第2実施例による被験者Pの認知機能の程度を判定する際の指標を得た実験について説明する。
【0061】
第2実施例においても、上記第1実施例と同様に、被験者Pを、60〜84歳までのNDC、MCIおよびADの3つのグループに分け、それぞれのグループの脳活動を測定した。そして、それぞれのグループの脳活動の測定結果を比較することにより、被験者Pの認知機能の程度によって異なる脳活動の傾向を取得した。この課題を行った被験者Pの人数は、NDCが22名、MCIが27名、ADが22名である。
【0062】
第2実施例では、上記第2実施形態で用いた計算に関するタスクを被験者Pに与え、その際の被験者Pの脳血流量の変化を測定した。第2実施例において、認知機能の程度を判定する方法は、第1実施例と同様に、タスク開始前5秒間平均の脳血流量と、タスク期間20aの20秒平均の脳血流量との差分をタスク繰り返しごとに求め、特徴量とした。そして、特徴量を被験者群(NDC、MCI、AD)ごとに計算問題ごとに比較した。比較する方法としては、タスク繰り返し回数間の相対的組み合わせペアにて、対応のあるt検定によって有意差検定を行った。
【0063】
図9は、被験者群ごとのt検定の解析結果22を示す図である。図9(A)は、NDCのt検定の解析結果22aである。また、図9(B)は、MCIのt検定の解析結果22bである。また、図9(C)は、ADのt検定の解析結果22cである。図9に示す各図の縦軸は、脳血流量の変化の平均値であり、プロット23は、被験者Pの脳血流量の変化の平均値を示している。また、直線24aおよび24bはそれぞれ、プラスおよびマイナスの標準偏差を示している。
【0064】
各チャンネルの解析の結果、第2実施例では、ROI2(図2参照)の計測データにおいて有意差のある結果が得られた。具体的には、NDCにおいて、1回目の問題と2回目の問題との比較によって有意差p<0.01(有意水準が1%以下であること)が認められた。また、MCIにおいても、1回目の問題と2回目の問題との比較および1回目の問題と4回目の問題との比較によって、有意差p<0.01(有意水準が1%以下であること)が認められた。また、NDCにおいて、1回目の問題と4回目の問題との比較、および、1回目の問題と5回目の問題との比較によって、有意差p<0.05(有意水準が5%以下であること)が認められた。また、MCIにおいても、2回目の問題と3回目の問題との比較によって、有意差p<0.05(有意水準が5%以下であること)が認められた。一方、ADにおいては、有意差は認められなかった。これにより、計算に関するタスクを用いた際に、ROI2において、1回目の問題および2回目の問題の特徴量が大きい場合、NDCおよびMCIをADから区別することが可能であるとの結果が得られた。
【0065】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0066】
第2実施形態では、上記のように、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップS1は、被験者Pに異なる難易度の計算に関するタスクを繰り返し呈示する。これにより、同じ問題を繰り返すことによって、被験者Pが計算問題の解答を記憶することを抑制することができる。また、異なる難易度の計算に関するタスクを複数回行うことによって、被験者Pをタスクに慣れさせることができるので、被験者Pがタスクを途中でやめることを抑制することができる。また、異なる難易度の計算に関するタスクを複数回行うことにより、被験者Pに適した難易度のタスクを実行させることができる。その結果、被験者Pの認知機能の程度を判定する指標として、計算に関する認知機能の程度を得ることができるので、認知機能の程度の判定精度を向上させることができる。
【0067】
また、第2実施形態では、上記のように、異なる難易度のタスクを複数回与える場合において、タスクの難易度は、第1のタスクの難易度と比較して、第1のタスクよりも後に与えられる第2のタスクの難易度が高くなるように設定されている。これにより、難易度の低いタスクで被験者Pを慣れさせることができる。その結果、被験者Pが途中でタスクの実行をあきらめてしまうことを抑制することができる。また、異なる難易度のタスクを複数回与えることにより、被験者Pに適した難易度のタスクを実行させることができるので、脳活動が検出されないことを抑制することができる。
【0068】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0069】
[第3実施形態]
次に、図4および図10図12を参照して、第3実施形態による認知機能判定方法について説明する。被験者Pに負荷を複数回与えるステップS1において、被験者Pに冷感覚刺激または異なる難易度の計算に関するタスクを複数回与える第1または第2実施形態とは異なり、第3実施形態では、被験者Pに負荷を複数回与えるステップS1において、被験者Pに異なる難易度の記憶および想像に関するタスクを複数回与える。なお、上記第1および第2実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0070】
(異なる難易度の記憶および想像に関するタスクを複数回与えるステップ)
第3実施形態では、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップS1は、被験者Pに異なる難易度の記憶および想像を組み合わせたタスクを繰り返し呈示する。また、第3実施形態では、異なる難易度のタスクを複数回与える場合において、タスクの難易度は、第1のタスクの難易度と比較して、第1のタスクよりも後に与えられる第2のタスクの難易度が高くなるように設定されている。
【0071】
図10は、被験者Pに記憶および想像に関するタスクを与える際の模式図である。また、図11は、記憶および想像に関するタスクの例を示す模式図である。第3実施形態では、図10に示すように、実験者Eが被験者Pの手6に形が類似している文字を書き、被験者Pがその文字を当てるという方法を難易度別に繰り返し呈示する。具体的には、実験者Eが、閉眼状態の被験者Pの左の手のひら6aに、類似する3文字から2つ、または、3つの文字を連続的に指で書く。
【0072】
図12は、被験者Pに異なる難易度の記憶および想像に関するタスクを与える際のタスク期間30aとレスト期間30bとのタイミングチャート30および、記憶および想像に関するタスクの難易度の時間変化を示すグラフ31である。タスク期間30aは、被験者Pに類似する文字を書く期間である。また、レスト期間30bは、タスク期間30aの前後に設けられ、被験者Pを閉眼状態でリラックスさせる期間である。なお、タスク前のレスト期間30bを前レスト期間とする。また、タスク後のレスト期間30bを後レスト期間とする。前レスト期間および後レスト期間において、脳血流量の変化を測定する際のベースラインを構築する。タスク期間30aは、たとえば、15秒間であり、前レスト期間および後レスト期間は、たとえば、それぞれ20秒間である。また、類似する文字は、たとえば、図11に示す「ス」、「マ」、「ヌ」である。
【0073】
また、タスクの難易度は、図12のグラフ31に示すように、前に行うタスクよりも後に行うタスクの難易度の方が高くなるように設定される。すなわち、タスクの難易度を異ならせるために、2文字を書く第1のタスクを2回行った後、3文字を書く第2のタスクを2回行う。タスクの時間は同じだが、手のひら6aに書く文字数を2文字から3文字に増やすことで難易度を高くする。
【0074】
(被験者の認知機能判定方法)
第3実施形態では、被験者Pに異なる難易度の記憶および想像に関するタスクを与えた際の、被験者Pの脳血流量の変化に基づいて被験者Pの認知機能の程度を判定する。後述する第3実施例により、異なる難易度の記憶および想像に関するタスクを複数回与えることによって、被験者Pの認知機能の程度を判定する際に有効なチャンネルおよびそのチャンネルにおける血流量の変化の傾向が確認された。後述する第3実施例では、図2に示すチャンネル10、チャンネル37、チャンネル45、およびチャンネル53の4チャンネルにおける血流量の変化が、被験者Pの認知機能の程度を判定する際に有効な指標となることが確認された。第3実施形態では、これら4チャンネルにおける被験者Pの脳血流量の変化の傾向を、第3実施例で得た実験結果と照らし合わせることにより、被験者Pの認知機能の程度を判定する。
【0075】
第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0076】
[第3実施例]
次に、図13を参照して、第3実施例による被験者Pの認知機能の程度を判定する際の指標を得た実験について説明する。
【0077】
第3実施例においても、上記第1および第2実施例と同様に、被験者Pを、60〜84歳までのNDC、MCIおよびADの3つのグループに分け、それぞれのグループの脳活動を測定した。そして、それぞれのグループの脳活動の測定結果を比較することにより、被験者Pの認知機能の程度によって異なる脳活動の傾向を取得した。この課題を行った被験者Pの人数は、NDCが21名、MCIが18名、ADが10名である。
【0078】
第3実施例では、上記第3実施形態で用いた、形の似ている文字を被験者Pの手6に書くタスクを複数回被験者Pに与え、その際の被験者Pの脳血流量の変化を測定した。第3実施例において、認知機能の程度を判定する方法は、タスク開始前5秒間平均の脳血流量と、タスク期間30aの平均の脳血流量との差分をタスク繰り返しごとに求め、全繰り返しの平均を特徴量とした。そして、特徴量を各疾患群において、LASSO解析を行った。そして、LASSO解析の結果、各チャンネル(図2参照)の変化量について2群間に寄与するチャンネルを選別した。そして、選別されたチャンネルにおいて、Mann−Whitney U検定によって、2群間の有意差検定を行った。
【0079】
有意差検定により、各チャンネルについての疾患群のBoxチャートを作成し、疾患間の脳血流量の変化について確認した。図13は、記憶および想像に関するタスクを行った際の解析結果32のBoxチャートの例を示す図である。図13(A)は、チャンネル10の解析結果32aである。また、図13(B)は、チャンネル37の解析結果32bである。また、図13(C)は、チャンネル45の解析結果32cである。また、図13(D)は、チャンネル53の解析結果32dである。図13中の各図の縦軸は、脳血流変化量を示している。図13中の黒丸33は、各被験者Pの特徴量を示すプロットである。図13中の三角34aおよび34bは、それぞれ、被験者Pの特徴量の最大値および最小値である。ボックス35内の太線36は、被験者Pの特徴量の中央値であり、ボックス35内の細線37は、被験者Pの特徴量の平均値である。ボックス35の上下の線38aおよび38bは、それぞれ、被験者Pの特徴量のプラスおよびマイナスの1.5SD(標準偏差)である。プラスおよびマイナスの1.5SDの範囲には、被験者Pの特徴量の約87%が含まれる。
【0080】
図2に示した全54チャンネルの解析の結果、第3実施例では、NDCとMCIとの2群間の判別に寄与するチャンネルが、LASSO解析によって9つ得られ、そのうちMann−Whitney U検定によって4つのチャンネル(チャンネル10、チャンネル37、チャンネル45、およびチャンネル53)において有意差が見られた。また、MCIとADとの2群間の判別に寄与するチャンネルがLASSO解析によって6つ得られ、そのうちMann−Whitney U検定によって1つのチャンネル(チャンネル37)において有意差が見られた。図13に示すように、NDCからMCIになると脳血流量が上昇し、MCIからADになると脳血流量が低下する傾向が見られた。
【0081】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0082】
第3実施形態では、上記のように、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップS1は、被験者Pに異なる難易度の記憶および想像を組み合わせたタスクを繰り返し呈示する。これにより、異なる難易度の記憶および想像を組み合わせたタスクを複数回行うことによって、被験者Pをタスクに慣れさせることができるので、被験者Pがタスクを途中でやめることを抑制することができる。また、異なる難易度の記憶および想像に関するタスクを複数回行うことにより、被験者Pに適した難易度のタスクを実行させることができる。その結果、被験者Pの認知機能の程度を判定する指標として、記憶および想像に関する認知機能の程度を得ることができるので、認知機能の程度の判定精度を向上させることができる。
【0083】
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0084】
[第4実施形態]
次に、図4および図14図16を参照して、第4実施形態による認知機能判定方法について説明する。被験者Pに負荷を複数回与えるステップS1において、被験者Pに冷感覚刺激または異なる難易度の計算に関するタスクまたは異なる難易度の記憶および想像に関するタスクを複数回与える第1〜第3実施形態とは異なり、第4実施形態では、被験者Pに負荷を複数回与えるステップS1において、被験者Pに異なる難易度の空間認知に関するタスクを複数回与える。なお、上記第1〜第3実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0085】
(異なる難易度の空間認知に関するタスクを複数回与えるステップ)
図14は、被験者Pに空間認知に関するタスクを与える際の表示装置3に表示する風景写真40の例を示す模式図である。また、図15は、被験者Pが空間認知に関するタスクに回答する際に、被験者Pが確認する地図41の例を示す模式図である。
【0086】
第4実施形態において、空間認知に関するタスクでは、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップS1は、被験者Pに異なる難易度の空間認知に関するタスクを繰り返し提示する。また、第4実施形態では、異なる難易度のタスクを複数回与える場合において、タスクの難易度は、第1のタスクの難易度と比較して、第1のタスクよりも後に与えられる第2のタスクの難易度が高くなるように設定されている。
【0087】
第4実施形態では、図14に示すように、交差点に人が立っており、交差点のそれぞれの角に異なる建造物がある風景写真40を表示装置3に表示する。被験者Pには、図14に示す風景写真40に描かれた建物などが模式図として示された地図41図15参照)を渡し、図14に示す風景写真40の風景が見えるためにはどの位置に立っていればよいかを番号で回答させる。また、事前にやり方を説明した後、タスクを実行する。なお、風景写真40および地図41は、それぞれ、特許請求の範囲の「空間認知に関するタスク」の一例である。
【0088】
図16は、被験者Pに異なる難易度の空間認知に関するタスクを与える際のタスク期間42aとレスト期間42bとのタイミングチャート42および、空間認知に関するタスクの難易度の時間変化を示すグラフ43である。タスク期間42aの前後には、それぞれ前レスト期間および後レスト期間を設ける。タスク期間42aは、たとえば、30秒間である。また、前レスト期間および後レスト期間は、たとえば、それぞれ20秒間である。前レスト期間および後レスト期間には、無意味な言葉(たとえば、「あ、い、う、え、お」)を被験者Pに発音させる。無意味な言葉を発音することにより、脳血流量の変化を測定する際のベースラインを構築する。
【0089】
また、第4実施形態では、図16のグラフ43に示すように、1回目と2回目のタスクは難易度が低く、3回目と4回目のタスクは難易度が高くなるように設定されている。具体的には、建物の配置を変更すること、および、道路や建物の数を増やすことなどによってタスクの難易度を高くし、複数回タスクを実行させる。
【0090】
(被験者の認知機能判定方法)
第4実施形態では、被験者Pに異なる難易度の空間認知に関するタスクを与えた際の、被験者Pの脳血流量の変化に基づいて被験者Pの認知機能の程度を判定する。後述する第4実施例により、異なる難易度の空間認知に関するタスクを複数回与えることによって、被験者Pの認知機能の程度を判定する際に有効なチャンネルおよびそのチャンネルにおける血流量の変化の傾向が確認された。後述する第4実施例では、図2に示すチャンネル2、チャンネル32、およびチャンネル52の3チャンネルにおける血流量の変化が、被験者Pの認知機能の程度を判定する際に有効な指標となることが確認された。第4実施形態では、これら3チャンネルにおける被験者Pの脳血流量の変化の傾向を、第4実施例で得た実験結果と照らし合わせることにより、被験者Pの認知機能の程度を判定する。
【0091】
第4実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0092】
[第4実施例]
次に、図17を参照して、第4実施例による被験者Pの認知機能の程度を判定する際の指標を得た実験について説明する。
【0093】
第4実施例においても、上記第1〜第3実施例と同様に、被験者Pを、60〜84歳までのNDC、MCIおよびADの3つのグループに分け、それぞれのグループの脳活動を測定した。そして、それぞれのグループの脳活動の測定結果を比較することにより、被験者Pの認知機能の程度によって異なる脳活動の傾向を取得した。この課題を行った被験者Pの人数は、NDCが21名、MCIが18名、ADが10名である。
【0094】
第4実施例では、異なる難易度の空間認知に関するタスクを複数回被験者Pに与え、その際の被験者Pの脳血流量の変化を測定した。第4実施例において、認知機能の程度を判定する方法は、タスク開始前5秒間平均の脳血流量と、タスク期間42aの平均の脳血流量との差分をタスク繰り返しごとに求め、全繰り返しの平均を特徴量とした。そして、特徴量をNDCとMCIとにおいて、NDCとADとにおいて、および、MCIとADとにおいて、LASSO解析を行い、各チャンネル(図2参照)の変化量について2群間に寄与するチャンネルを選別し、選別されたチャンネルにおいて、Mann−Whitney U検定によって、2群間の有意差検定を行った。
【0095】
有意差検定により、各チャンネルについての疾患群のBoxチャートを作成し、疾患間の脳血流量の変化について確認した。図17は、空間認知に関するタスクを行った際の解析結果44のBoxチャートの例を示す模式図である。図17(A)は、チャンネル2の解析結果44aである。また、図17(B)は、チャンネル32の解析結果44bである。また、図17(C)は、チャンネル52の解析結果44cである。図17中の各図の縦軸は、脳血流変化量を示している。図17中の黒丸45は、各被験者Pの特徴量を示すプロットである。図17中の三角46aおよび46bは、それぞれ、被験者Pの特徴量の最大値および最小値である。ボックス47内の太線48は、被験者Pの特徴量の中央値であり、ボックス47内の細線49は、被験者Pの特徴量の平均値である。ボックス47の上下の線50aおよび50bは、それぞれ、被験者Pの特徴量のプラスおよびマイナスの1.5SD(標準偏差)である。
【0096】
図2に示した全54チャンネルの解析の結果、第4実施例では、NDCとADとの2群間の判別に寄与するチャンネルが、LASSO解析によって9つ得られ、そのうちMann−Whitney U検定によって3つのチャンネル(チャンネル2、チャンネル32、およびチャンネル52)において有意差が見られた。図17に示すように、NDCからMCI、ADの順に脳血流量が上昇する傾向が見られた。
【0097】
(第4実施形態の効果)
第4実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0098】
第4実施形態では、上記のように、異なる難易度のタスクを複数回与えるステップS1は、被験者Pに異なる難易度の空間認知に関するタスクを繰り返し提示する。これにより、異なる難易度の空間認知に関するタスクを複数回行うことによって、被験者Pをタスクに慣れさせることができるので、被験者Pがタスクを途中でやめることを抑制することができる。また、異なる難易度の空間認知に関するタスクを複数回行うことにより、被験者Pに適した難易度のタスクを実行させることができる。その結果、被験者Pの認知機能の程度を判定する指標として、空間認知に関する認知機能の程度を得ることができるので、認知機能の程度の判定精度を向上させることができる。
【0099】
なお、第4実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0100】
[第5実施形態]
次に、図1および図18を参照して、第5実施形態による認知機能判定方法について説明する。
【0101】
被験者Pに負荷を複数回与えるステップS1(図1参照)において、被験者Pに感覚刺激または異なる難易度のタスクのうち、いずれか1種類を複数回与える第1〜第4実施形態とは異なり、第5実施形態では、被験者Pに負荷を複数回与えるステップS10(図18参照)において、被験者Pに感覚刺激または異なる難易度のタスクのうち、複数種類の感覚刺激または異なる難易度のタスクを複数回与える。なお、上記第1〜第4実施形態と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0102】
第5実施形態では、異なる難易度のタスクは、計算、記憶、想像、空間認知の少なくともいずれかに関するタスクである。また、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、感覚刺激、および、異なる難易度のタスクのうち、複数種類の感覚刺激またはタスクをそれぞれ複数回被験者Pに与えるステップS10を含む。また、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、複数種類の感覚刺激またはタスクをそれぞれ複数回与えるステップS10において、感覚刺激またはタスクをそれぞれ与えた際に被験者Pの脳活動の変化をそれぞれ測定し、それぞれの測定データを取得するステップS11を含む。また、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、複数種類の感覚刺激または異なる難易度のタスクをそれぞれ与えた際にそれぞれ取得した複数種類の測定データ間の変化量を組み合わせた結果に基づいて、被験者Pの認知機能の程度を判別するステップS12を含む。これらのステップによって被験者Pの認知機能の程度の判定を行う。
【0103】
第5実施形態では、ステップS10において、被験者Pに与える複数種類の感覚刺激またはタスクは、2種類を組み合わせてもよいし、3種類を組み合わせてもよいし、4種類全てを組み合わせてもよい。
【0104】
なお、第5実施形態のその他の構成は、上記第1〜第4実施形態と同様である。
【0105】
(第5実施形態の効果)
第5実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0106】
第5実施形態では、上記のように、異なる難易度のタスクは、計算、記憶、想像、空間認知の少なくともいずれかに関するタスクである。また、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、感覚刺激、および、異なる難易度のタスクのうち、複数種類の感覚刺激またはタスクをそれぞれ複数回被験者Pに与えるステップS10を含む。また、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、複数種類の感覚刺激またはタスクをそれぞれ複数回与えるステップS10において、感覚刺激またはタスクをそれぞれ与えた際に被験者Pの脳活動の変化をそれぞれ測定し、それぞれの測定データを取得するステップS11を含む。また、被験者Pの認知機能の程度を判定する方法は、複数種類の感覚刺激または異なる難易度のタスクをそれぞれ与えた際にそれぞれ取得した複数種類の測定データ間の変化量を組み合わせた結果に基づいて、被験者Pの認知機能の程度を判別するステップS12を含む。これにより、複数の観点に基づいて測定したデータを組み合わせた結果に基づいて認知機能の判別を複合的に行うことができる。その結果、被験者Pの認知機能の程度を判定する精度を向上させることができる。
【0107】
なお、第5実施形態のその他の効果は、上記第1〜第4実施形態と同様である。
【0108】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0109】
たとえば、上記第1実施形態では、感覚刺激は冷感覚刺激を用いたが、本発明はこれに限られない。たとえば、温感覚刺激や痛覚刺激を用いてもよい。しかし、温感覚刺激に対する受容体は、冷感覚刺激の受容体よりも数が少ないので、冷感覚刺激と比較した場合、脳活動の変化が得られにくい場合がある。また、痛覚刺激は、痛覚に対する個人差が大きいため、冷感覚刺激を用いることが好ましい。
【0110】
また、上記第1実施形態では、ROI3における脳血流量の変化に基づいて、被験者Pの認知機能の程度を判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。ROI3に含まれるいずれかのチャンネルにおける脳血流量の変化に基づいて被験者Pの認知機能の程度を判定してもよい。また、ROI3の周囲のチャンネルにおける脳血流量の変化を含めて被験者Pの認知機能の程度を判定してもよい。有意差のある結果が得られれば、どの測定位置のデータを用いてもよい。
【0111】
また、上記第1実施形態では、感覚刺激を複数回与える場合において、持続性を有する感覚刺激として、4℃に相当する一定の強度を有する冷感刺激を被検者Pに複数回与える例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、感覚刺激を複数回与える場合において、被験者に少なくとも2段階の強度の複数の感覚刺激を与えてもよい。これにより、強度の異なる刺激に対する被験者Pの脳活動の相対変化に基づき、認知知能の程度を判別することができる。すなわち、感覚刺激を蓄積させなくてもよい。
【0112】
また、上記第1実施形態では、感覚刺激を複数回与える場合において、持続性を有する感覚刺激として、4℃に相当する一定の強度を有する冷感刺激を被検者Pに複数回与える例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、被験者に与える前記感覚刺激の強度を、刺激を与えるたびに強くしてもよい。これにより、被験者Pに対して刺激を与える回数が増加するにしたがって、刺激の強度が増加するので、刺激の強度に対する被験者Pの脳活動の相対変化に基づき、認知機能の程度を判別することができる。すなわち、感覚刺激を蓄積させなくても、感覚刺激を蓄積させることにより被験者Pに与える刺激強度を増加させた上記第1実施形態と同様の効果が得られると考えられる。
【0113】
また、上記第2実施形態では、計算に関するタスクとして、100−2などの問題を用いたが、本発明はこれに限られない。たとえば、100−4など、他の数字を引く問題を用いてもよいし、足し算を用いてもよい。四則演算どんな計算課題でもよい。
【0114】
また、上記第2実施形態では、ROI2における脳血流量の変化に基づいて、被験者Pの認知機能の程度を判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。ROI2に含まれるいずれかのチャンネルにおける脳血流量の変化に基づいて被験者Pの認知機能の程度を判定してもよい。また、ROI2の周囲のチャンネルにおける脳血流量の変化を含めて被験者Pの認知機能の程度を判定してもよい。有意差のある結果が得られれば、どの測定位置のデータを用いてもよい。
【0115】
また、上記第3実施形態では、記憶および想像に関するタスクとして、被験者Pの左の手のひら6aに、「ス、マ、ヌ」を指で書く例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、「コ、ユ、エ」や、「ア、ヤ、マ」などを用いてもよい。文字の形が類似していればどの文字を使用してもよい。
【0116】
また、上記第3実施形態では、被験者Pの認知機能の程度を判定する際に、有効であると確認された4チャンネルを用いて判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。4チャンネルのうち、いずれか2つ以上のチャンネルの組み合わせで判定してもよい。しかし、判定するチャンネル数が多いほど、判定の精度は向上するので、4チャンネルを用いて判定する方が好ましい。また、有意差のある結果が得られれば、どの測定位置のデータを用いてもよい。
【0117】
また、上記第4実施形態では、被験者Pの認知機能の程度を判定する際に、有効であると確認された3チャンネルを用いて判定する例を示したが、本発明はこれに限られない。3チャンネルのうち、いずれか2つのチャンネルの組み合わせで判定してもよい。しかし、判定するチャンネル数が多いほど、判定の精度は向上するので、3チャンネルを用いて判定する方が好ましい。また、有意差のある結果が得られれば、どの測定位置のデータを用いてもよい。
【0118】
また、上記第1〜第5実施形態では、脳活動の計測と並行してデータ処理を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。被験者Pの脳活動の計測を終えた後に、まとめてデータ処理を行ってもよい。
【符号の説明】
【0119】
5a 保冷剤5による刺激(冷感覚刺激)
6、6a 手(被験者の手、感覚器)
40 風景写真(空間認知に関するタスク)
41 地図(空間認知に関するタスク)
図1
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