特許第6868125号(P6868125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868125
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20210426BHJP
   F16H 7/18 20060101ALI20210426BHJP
   F16H 57/031 20120101ALI20210426BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
   F16H57/04 Q
   F16H57/04 C
   F16H7/18 B
   F16H57/031
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-562834(P2019-562834)
(86)(22)【出願日】2018年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2018042214
(87)【国際公開番号】WO2019130878
(87)【国際公開日】20190704
【審査請求日】2020年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2017-252221(P2017-252221)
(32)【優先日】2017年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 務
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−197918(JP,A)
【文献】 特開2016−23794(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103511601(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00
F16H 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑パイプと、前記潤滑パイプが接続されるケース部材と、を有する駆動力伝達装置であって、
前記ケース部材は、
第1ベアリング部材を支持する第1支持部と、
第2ベアリング部材を支持する第2支持部と、
前記第1支持部と前記第2支持部とを接続する第1潤滑油路と、
前記潤滑パイプが挿入され、前記第1潤滑油路と接続されるボス部と、
複数のボルト孔と、
を有し、
前記ボス部は、前記複数のボルト孔のうち隣接する2つのボルト孔に挟まれる位置に配置されている、駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力伝達装置において、
前記第1潤滑油路は、前記第1支持部と前記第2支持部とを結ぶ直線形状を有する、駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の駆動力伝達装置において、
前記ボス部と前記第1潤滑油路とは、直線形状の第2潤滑油路により接続されている、駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3に記載の駆動力伝達装置において、
前記第1潤滑油路と、前記第2潤滑油路とは直交している、駆動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シールリングを介してリークした作動油を、軸受の潤滑油として用いることが開示されている。
特許文献2には、無端状部材ガイド(チェーンガイド、ベルトガイド)に支持された潤滑油供給パイプが開示されている。
【0003】
特許文献1のようにリークした作動油を潤滑油として用いる場合、潤滑油量(リーク油量)にばらつきが生じる。
潤滑油供給パイプ(潤滑パイプ)から供給される潤滑油は、リーク油よりも安定して供給できる。そのため、例えば、潤滑パイプを延長して、潤滑パイプから供給される潤滑油が軸受まで供給されるようにすることで、潤滑油量を安定化させる方法が考えられる。
【0004】
そこで、潤滑パイプを延長して潤滑油を供給するに際して適切な潤滑油供給ラインを確立することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−114161号公報
【特許文献2】特開2011−208796号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、
潤滑パイプと、前記潤滑パイプが接続されるケース部材と、を有する駆動力伝達装置であって、
前記ケース部材は、
第1ベアリング部材を支持する第1支持部と、
第2ベアリング部材を支持する第2支持部と、
前記第1支持部と前記第2支持部とを接続する第1潤滑油路と、
前記潤滑パイプが挿入され、前記第1潤滑油路と接続されるボス部と、
複数のボルト孔と、
を有し、
前記ボス部は、前記複数のボルト孔のうち隣接する2つのボルト孔に挟まれる位置に配置されている。
【0007】
本発明によれば、ボス部を介して潤滑パイプから第1潤滑油路へ潤滑油が供給できるので潤滑油量を安定化させることができる。
ボス部の位置を隣接する2つのボルト孔の間に挟まれた位置としたので、強度向上の機能を付加することができる。
潤滑パイプを延長して潤滑油を供給するに際して適切な潤滑油供給ラインを確立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】チェーン式の無段変速機のバリエータ周りを説明する図である。
図2】サイドカバーを説明する図である。
図3】バリエータにおけるチェーンガイドの配置を説明する図である。
図4】チェーンガイドを説明する斜視図である。
図5】比較例にかかるサイドカバーを説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、駆動力伝達装置が、チェーン式の無段変速機1である場合を例に挙げて説明する。
図1は、チェーン式の無段変速機1のバリエータ2周りを説明する図である。
図2は、サイドカバー13を説明する図であり、図2の(a)は、サイドカバー13を無段変速機1の外側(変速機ケース10とは反対側)から見た平面図である。図2の(b)は、サイドカバー13を変速機ケース10側から見た平面図である。
なお、図2の(b)では、変速機ケース10側の部位と接合される領域にハッチングを付して示している。
【0010】
図1に示すように、車両用のチェーン式の無段変速機1のバリエータ2は、一対のプーリ(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4)と、一対のプーリに巻き掛けられた無端状のチェーン5(無端状部材)と、を有している。
【0011】
プライマリプーリ3は、固定プーリ31と、可動プーリ32とを有している。
固定プーリ31は、回転軸X1に沿って配置された軸部311と、軸部311の外周から径方向外側に延びるシーブ部312とを、有している。
【0012】
可動プーリ32は、固定プーリ31の軸部311に外挿された環状基部321と、環状基部321の外周から径方向外側に延びるシーブ部322と、を有している。
可動プーリ32は、固定プーリ31との相対回転が規制された状態で、軸部311の軸方向(回転軸X1方向)に移動可能に設けられている。
【0013】
固定プーリ31のシーブ部312と、可動プーリ32のシーブ部322は、回転軸X1方向で間隔をあけて対向している。
プライマリプーリ3では、固定プーリ31のシーブ面312aと、可動プーリ32のシーブ面322aの間に、チェーン5が巻き掛けられるV溝33が形成されている。
【0014】
プライマリプーリ3では、可動プーリ32に付設された油室R1への供給圧を調節することで、可動プーリ32が回転軸X1方向に変位する。これにより、シーブ面312a、322aの間のV溝33の溝幅が、供給圧に応じて変更されて、プライマリプーリ3におけるチェーン5の巻き掛け半径が変更される。
【0015】
固定プーリ31の軸部311には、回転軸X1方向の一端部311aと他端部311bに、ベアリング34、35が外挿されている。他端部311bに外挿されたベアリング35は、軸部311の外周に螺合されたナットNにより、回転軸X1方向の位置決めがされている。
【0016】
回転軸X1方向における軸部311の一端部311aは、ベアリング34を介して、変速機ケース10側の支持壁111で回転可能に支持されている。
回転軸X1方向における軸部311の他端部311bは、ベアリング35を介して、サイドカバー13側の支持部131で回転可能に支持されている。
【0017】
図2の(a)に示すように、サイドカバー13は、変速機ケース10の開口を覆う大きさで形成されている。
サイドカバー13の外周部には、ボルト孔133aを有するボルトボス133が設けられている。サイドカバー13の外周部においてボルトボス133は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0018】
図2の(b)に示すように、変速機ケース10側から見てサイドカバー13の外周部には、ボルト孔133aが開口する周壁部135が設けられている。
サイドカバー13の外周部において周壁部135は、周方向の全周に亘って設けられている。この周壁部135は、サイドカバー13を変速機ケース10に組み付ける際に、変速機ケース10側の周壁部(図示せず)に全周に亘って隙間無く接合される。
【0019】
本実施形態では、サイドカバー13側のボルト孔133aを貫通させたボルト(図示せず)を、変速機ケース10側の周壁部(図示せず)に螺入することで、サイドカバー13が変速機ケース10に固定される。
【0020】
サイドカバー13では、周壁部135の内側の領域に、ベアリング35の支持孔16が開口している。
回転軸方向から見て支持孔16の中央部には、固定プーリ31の軸部311(図1参照)との干渉を避けるための凹部161が形成されており、この凹部161には、後記する潤滑油路18との連絡路181が開口している。
【0021】
図1に示すようにセカンダリプーリ4は、固定プーリ41と、可動プーリ42とを有している。
固定プーリ41は、回転軸X2に沿って配置された軸部411と、軸部411の外周から径方向外側に延びるシーブ部412とを、有している。
可動プーリ42は、固定プーリ41の軸部411に外挿された環状基部421と、環状基部421の外周から径方向外側に延びるシーブ部422と、を有している。
可動プーリ42は、固定プーリ41との相対回転が規制された状態で、軸部411の軸方向(回転軸X2方向)に移動可能に設けられている。
【0022】
固定プーリ41のシーブ部412と、可動プーリ42のシーブ部422は、回転軸X2方向で間隔をあけて対向している。
セカンダリプーリ4では、固定プーリ41のシーブ面412aと、可動プーリ42のシーブ面422aとの間に、チェーン5が巻き掛けられるV溝43が形成されている。
【0023】
セカンダリプーリ4では、可動プーリ42に付設された油室R2への供給圧を調節することで、可動プーリ42が回転軸X2方向に変位する。これにより、シーブ面412a、422aの間のV溝43の溝幅が、供給圧に応じて変更されて、セカンダリプーリ4におけるチェーン5の巻き掛け半径が変更される。
【0024】
固定プーリ41の軸部411には、回転軸X2方向の一端部411aと他端部411bに、ベアリング44、45が外挿されている。一端部411aに外挿されたベアリング44は、軸部411の外周に螺合されたナットNにより、回転軸X2方向の位置決めがされている。
【0025】
回転軸X2方向における軸部411の他端部411bは、ベアリング45を介して、変速機ケース10側の支持壁112で回転可能に支持されている。
回転軸X2方向における軸部411の一端部411aは、ベアリング44を介して、サイドカバー13側の支持部132で回転可能に支持されている。
【0026】
軸部411内には、油孔413が設けられている。この油孔413は、軸部411の中心を通る回転軸X2に沿って、軸部411の一端部411aから他端部411b側に向けて直線状に延びている。
【0027】
サイドカバー13では、変速機ケース10との対向部に、ベアリング44の支持孔17が開口している(図2の(b)参照)。回転軸X2方向から見て支持孔17の中央部には、固定プーリ41の軸部411(図1参照)との干渉を避けるための凹部171が形成されている。
図2の(b)に示すように、この凹部171には、後記する潤滑油路18との連絡路182が開口している。
セカンダリプーリ4側の凹部171は、潤滑油路18を介して、前記したプライマリプーリ3側の凹部161に連絡している。
【0028】
図1の(a)に示すように、セカンダリプーリ4側の凹部171では、当該凹部171の中央部に、環状壁部173が設けられている。
環状壁部173は、回転軸X2を囲む円筒形状を有しており、環状壁部173の外周には、軸部411の一端部411a側が外挿されている。この状態において、軸部411の一端部411a側は、環状壁部173で回転可能に支持されている。
【0029】
環状壁部173の内側には、油路14が開口している。
油路14は、サイドカバー13の表面から膨出したリブ140(図2の(a)参照)内に設けられており、油路14には、図示しない油圧制御回路から作動油が供給されようになっている。
油圧制御回路側から油路14に供給された作動油は、固定プーリ41の油孔413内に供給されたのち、セカンダリプーリ4側の油室R2に供給される。
【0030】
この際に、油孔413内に供給される作動油の一部が、環状壁部173と軸部411の一端部411aとの間の隙間を通って、凹部171内に漏出する。
この凹部171に漏出した作動油は、支持孔17で支持されたベアリング44を潤滑する潤滑油として機能する。
【0031】
図2の(a)に示すように、サイドカバー13の表面には、前記したベアリング35、44を支持するための支持部131、132が、紙面手前側に突出して設けられている。
これら支持部131、132は、それぞれ回転軸X1、X2を所定間隔で囲む略円形の外周を有している。
【0032】
支持部131と支持部132は、間隔をあけて設けられており、サイドカバー13の表面には、補強用のリブ180が設けられている。
リブ180は、支持部131と支持部132とに跨がって設けられており、リブ180は、線分L1に沿う直線状に形成されている。
ここで、線分L1は、回転軸X1方向から見て、回転軸X1の径方向に直線状に延びており、この線分L1上に、支持部131と支持部132とが位置している。
【0033】
本実施形態では、リブ180を利用して、前記した潤滑油路18が設けられている(図1の(a)、図2の(a)、(b)参照)。
潤滑油路18は、リブ180の内部に設けられており、潤滑油路18の一端は、サイドカバー13内に設けた連絡路181を介して、プライマリプーリ3側の凹部161に連絡している。
潤滑油路18の他端は、サイドカバー13内に設けた連絡路182を介して、セカンダリプーリ4側の凹部171に連絡している。
【0034】
図2の(a)に示すように、リブ180の長手方向の途中位置には、リブ190の一端190aが接続されている。リブ190は、線分L1に直交する方向に直線状に延びている。
リブ190の他端190bは、サイドカバー13の外周縁130aに設けたボス部136に接続されている。ボス部136は、リブ190よりも大きい外径で形成されている。
サイドカバー13においてボス部136は、周壁部135に一体に連続して形成され、かつ周方向で隣接するボルトボス133、133の間に位置しており、サイドカバー13の外周縁130a側の剛性強度が、ボス部136により高められている。
【0035】
リブ190の内部には、接続油路19が設けられている。接続油路19の一端は、線分L1に直交する方向から、リブ180内の潤滑油路18に連絡している。
接続油路19の他端は、サイドカバー13内に設けた油路15に、ボス部136の部分で連絡している。
【0036】
図1に示すように、サイドカバー13のボス部136において油路15は、軸線Xに沿って直線状に延びている。ここで、軸線Xは、回転軸X1および回転軸X2に平行な直線であり、この軸線Xは、後記するチェーンガイド支持部材7Aの中心軸線と同軸上に位置している。
【0037】
油路15は、接続部151と、接続部151よりも内径が大きい挿入部152と、を有している。これら接続部151と挿入部152は、軸線X上で同心に配置されていると共に、軸線X方向で直列に連なっている。
【0038】
接続部151は、ボス部136の部分で、前記した接続油路19に連絡しており、挿入部152は、サイドカバー13における変速機ケース10との対向面に開口している。
挿入部152には、後記するチェーンガイド支持部材7Aのパイプ状部材71(小径部712)が、軸線X方向から挿入されている。
【0039】
図3は、バリエータ2におけるチェーンガイド9(9A、9B)の配置を説明する図である。なお、図3では、説明の便宜上、一方のチェーンガイド9Aを断面で示すと共に、他方のチェーンガイド9Bを側面で示している。また、チェーン5を簡略的に標記している。
図4は、チェーンガイド支持部材7Aとチェーンガイド9Aを説明する斜視図である。
【0040】
図3に示すように、無段変速機1では、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4とにチェーン5が巻き掛けられており、チェーン5は、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4のV溝33、43(図1参照)で支持されている。
【0041】
そのため、無段変速機1の駆動時には、チェーン5におけるプライマリプーリ3とセカンダリプーリ4との間の領域(巻き掛けられていない領域)に、撓みや振動などの動きが生じる。
無段変速機1は、このチェーン5の動きを規制するためのチェーンガイド9(9A、9B)を有している。
【0042】
チェーンガイド9A、9Bは、プライマリプーリ3の回転軸X1と、セカンダリプーリ4の回転軸X2とを結ぶ線分Lmを挟んで対称となる位置関係で設けられている。
チェーンガイド9A、9Bは、無段変速機1の車両への搭載状態を基準とした鉛直線方向で、上側と下側にそれぞれ設けられている。
【0043】
チェーンガイド9A、9Bは、変速機ケース10とサイドカバー13とに跨がって配置されたチェーンガイド支持部材7A、7Bで揺動可能に支持される(図3図4参照)。
【0044】
図3に示すように、回転軸X1、X2方向から見て、チェーンガイド支持部材7(7A、7B)は、チェーン5の内側で、回転軸X1、X2に沿う向きで設けられている。
チェーンガイド支持部材7(7A、7B)もまた、線分Lmを挟んで対称となる位置関係で設けられている。
【0045】
図1の(b)に示すように、チェーンガイド支持部材7Aは、潤滑油供給部材70と、パイプ状部材71と、を直列に並べて一体に形成したものである。
潤滑油供給部材70は、円筒状の基部701を有している。基部701の外周には、フランジ状の支持板部702、702が、基部701の中心軸(軸線X)方向に間隔をあけて設けられている。
【0046】
基部701の内側には、軸線X方向に直線状に延びる油路72が設けられている。この油路72は、潤滑油供給部材70を軸線X方向に貫通して、パイプ状部材71まで及んでいる。
【0047】
潤滑油供給部材70の油路72では、パイプ状部材71とは反対側(図1の(b)における右側)に、潤滑油チューブ75の一端75a側が挿入されている。
潤滑油チューブ75の他端75b側は、変速機ケース10に設けた油圧供給路12(図1の(a)参照)に挿入されている。
【0048】
図1の(b)に示すように、潤滑油供給部材70の基部701では、軸線X方向における支持板部702と支持板部702との間の領域に、噴射孔703が設けられている。
噴射孔703は、円筒状の基部701を直径線方向に貫通して設けられている。無段変速機1において潤滑油供給部材70は、噴射孔703、703のうちの一方を、プライマリプーリ3に対向させると共に、他方をセカンダリプーリ4に対向させて設けられている(図3、拡大図参照)。
【0049】
潤滑油供給部材70の油路72には、油圧供給路12に接続された潤滑油チューブ75を介して潤滑油OLが供給される。
そのため、油路72に供給された潤滑油OLは、噴射孔703、703から、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4に向けて吹き出されるようになっている。
これにより、バリエータ2(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4、チェーン5)が潤滑油される。
【0050】
図1の(b)に示すように、潤滑油供給部材70と一体に形成されたパイプ状部材71は、大径部711と、小径部712とを有している。
大径部711と小径部712は、軸線X方向で直列に並んで一体に形成されている。
前記した潤滑油供給部材70の油路72は、大径部711を軸線X方向に貫通して、パイプ状部材71の先端71aの近傍まで及んでいる。
小径部712は、軸線X方向の先端が、底壁部713で封止されている。底壁部713の中央には、底壁部713を軸線X方向に貫通して貫通孔713aが形成されている。
【0051】
貫通孔713aは、前記した潤滑油供給部材70側の噴射孔703の内径(開口面積)よりも小さい内径(開口面積)で形成されている。
潤滑油チューブ75を介して油路72に供給された潤滑油OLのうち、噴射孔703から噴射される潤滑油OLのほうが、貫通孔713aから漏出する潤滑油OLよりも多くなるように設定されている。
【0052】
パイプ状部材71の小径部712は、サイドカバー13に設けた油路15の挿入部152に、軸線X方向から挿入されている。
パイプ状部材71の小径部712は、大径部711が、油路15が開口するボス部136の端面134に当接する位置まで、油路15に挿入されている。
【0053】
前記したように、油路15は、前記したボス部136の部分で接続油路19に接続されている(図2の(a)参照)。そして、接続油路19は、潤滑油路18を介して、プライマリプーリ3側の凹部161と、セカンダリプーリ4側の凹部171とに連絡している。
【0054】
そのため、潤滑油チューブ75を介して、チェーンガイド支持部材7Aの油路72に供給された潤滑油OLのうち、油路15に流入した潤滑油OLは、ボス部136の部分で油路15に連絡する接続油路19と、この接続油路19に連絡する潤滑油路18とを通って、プライマリプーリ3側の凹部161と、セカンダリプーリ4側の凹部171とに供給されるようになっている。
【0055】
以下、かかる構成を有する無段変速機1の作用を説明する。
無段変速機1の駆動時には、図示しない油圧制御回路から供給される潤滑油OLが、チェーンガイド支持部材7Aが備える油路72に、潤滑油チューブ75を介して流入する。
油路72に流入した潤滑油OLは、噴射孔703、703から、プライマリプーリ3およびセカンダリプーリ4に向けて吹き出して、バリエータ2(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4、チェーン5)が潤滑される。
【0056】
さらに、潤滑油供給部材70側の油路72に流入した潤滑油OLのうち、パイプ状部材71の油路72に流入した潤滑油OLは、パイプ状部材71の小径部712が挿入された油路15内に、貫通孔713aを通って流入する。
そして、油路15内に流入した潤滑油OLは、接続油路19と潤滑油路18とを通って、プライマリプーリ3側の凹部161と、セカンダリプーリ4側の凹部171とに供給される。
【0057】
これにより、チェーンガイド支持部材7Aの油路72に供給された潤滑油OLの一部が、プライマリプーリ3側の凹部161と、セカンダリプーリ4側の凹部171とに供給されて、最終的にプライマリプーリ3側のベアリング35と、セカンダリプーリ4側のベアリング44とが潤滑される。
【0058】
このように、バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLの既存の油路72を流用することで、ベアリング35とベアリング44を、バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLの一部を用いて潤滑できる。
【0059】
そのため、環状壁部173と、セカンダリプーリ4の軸部411(一端部411a)との間の隙間を通ってサイドカバー13の凹部171内に漏出した作動油の一部を用いて、ベアリング35とベアリング44を潤滑する場合よりも、ベアリング35とベアリング44を積極的に潤滑できるようになっている。
また、バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLの流量のほうが、凹部171内に漏出した作動油の流量よりも制御が可能である。よって、漏出した作動油を用いる場合よりも、ベアリング35とベアリング44を適切に潤滑できる。
【0060】
また、サイドカバー13では、潤滑油路18が内部に形成されたリブ180(図2の(a)参照)が、ベアリング35の支持部131と、ベアリング44の支持部132(第2支持部)とに跨がって設けられている。
さらに、潤滑油OLを潤滑油路18に供給するための接続油路19がリブ190の内部に形成されており、このリブ190が、リブ180の長手方向に沿う線分L1の径方向から、リブ180に接続されている。
【0061】
そのため、サイドカバー13における支持部131と支持部132の間の領域の剛性強度が、互いに交差する向きで配置された2つのリブ180、190で高められている。
よって、ベアリング35、44の積極的な潤滑と、サイドカバー13の剛性強度の確保を両立できるようになっている。
【0062】
以上のとおり、本実施形態にかかる無段変速機1(自動変速機)は、以下の構成を有している。
(1)無段変速機1は、
チェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)と、チェーンガイド支持部材7Aが接続されるサイドカバー13(ケース部材)と、を有する。
サイドカバー13は、ベアリング35(第1ベアリング部材)を支持する支持部131(第1支持部)と、ベアリング44(第2ベアリング部材)を支持する支持部132(第2支持部)と、を有する。
サイドカバー13は、支持部131の凹部161と、支持部132の凹部171とを接続する潤滑油路18(第1潤滑油路)を有する。
サイドカバー13は、チェーンガイド支持部材7Aが備えるパイプ状部材71の小径部712が挿入される油路15と、この油路15を潤滑油路18に接続する接続油路19と、を有する。
油路15と接続油路19とが、ボス部136の部分で接続されている。
サイドカバー13は、複数のボルト孔133aが設けられた周壁部135を有する。
ボス部136は、周壁部135に設けられた複数のボルト孔133aのうち、周方向で隣接する2つのボルト孔133a、133aに挟まれる位置に配置されている。
ボス部136は、少なくともチェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)の挿入方向から見たときに、隣接する2つのボルト孔133a、133aの間に配置されている(図2の(b)参照)。
【0063】
ボス部136内の油路15が、ボス部136の部分で接続油路19に接続されているので、パイプ状部材71側から油路15に供給された潤滑油OLを、潤滑油路18に供給できる。
これにより、ベアリング35を支持する支持部131と、ベアリング44を支持する支持部132に、パイプ状部材71側から油路15に供給された潤滑油OLを供給して、ベアリング35、44を潤滑できる。
パイプ状部材71側から供給される潤滑油は、リーク油ではなく、変速機ケース10に設けた油圧供給路12から供給される潤滑油である。そのため、ベアリング35、44に供給される潤滑油OLの量を安定化させることができる。
【0064】
さらに、図2の(a)に示すように、チェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)の挿入方向から見たときに、ボス部136が、周方向で隣接するボルトボス133、133の間に位置しているので、サイドカバー13の外周縁130aの剛性強度を高めることができる。すなわち、強度向上の機能をサイドカバー13に付加することができる。
また、隣接する2つのボルト孔133a、133aの間(等、厚肉)の部位に、チェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)を受容するボス部136を設けたことで、サイドカバー13でのチェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)の支持が安定する。これにより、重量増を抑えつつ安定した油路接続と、油供給が可能になる。
【0065】
ここで、ボス部136は、チェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)が挿入される油路15(穴)を有する部分として定義される。そして、図1において破線で囲まれた領域の部分がボス部136に相当する。
本実施形態では、ボス部136は、チェーンガイド支持部材7A側(図1における右側)に向って突出する部分を有している。そして、この突出する部分が存在することにより、サイドカバー13内に、より肉厚の部分が形成されている。そのため、この肉厚の部分が、サイドカバー13の剛性の向上に寄与することになる。
また、軸線X方向の厚みが薄いサイドカバー13の場合には、ボス部136が突出する部分を有することにより、チェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)の挿入深度(係合しろ)を深めることができる。これにより、サイドカバー13で支持された、チェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)の接続状態を安定させることができる。
【0066】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(2)第1潤滑油路を構成する潤滑油路18は、サイドカバー13の支持部131と支持部132とを結ぶ直線形状のリブ180内に設けられている。
潤滑油路18もまた、リブ180内で直線形状に形成されている。
【0067】
潤滑油路18を直線形状に形成することにより、潤滑油路18が内部に形成されたリブ180に、サイドカバー13の支持部131と支持部132との間に生じる応力に対する強度リブとしての機能を付加することができる。
【0068】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(3)ボス部136と潤滑油路18とは、直線形状の接続油路19により接続されている。
第2潤滑油路を構成する接続油路19は、直線形状のリブ190内で直線形状に形成されている。
【0069】
接続油路19を直線形状に形成すると、接続油路19を曲線形状に形成した場合や屈曲形状に形成した場合よりも、ボス部136から潤滑油路18までの距離を短くできる。
よって、ボス部136と潤滑油路18とを、より短距離で接続できる。
ボス部136から潤滑油路18までの距離が長くなると、距離が長くなった分だけ、油路抵抗が大きくなる。そうすると、潤滑油OLを供給するポンプへの負荷が大きくなって、無段変速機1を搭載する車両の燃費の悪化が懸念される。
上記のように構成すると、ボス部136から潤滑油路18までの距離が短くなる分だけ油路抵抗が小さくなるので、無段変速機1を搭載する車両の燃費向上が期待できる。
【0070】
また、図5に示すように、従来例に掛かるサイドカバー13Aでは、支持部132内に漏出した潤滑油OLを、リブ137内に設けた接続路137aを介して、支持部131側に供給する構成を採用している。
このサイドカバー13Aの場合、支持部131と支持部132との間の領域の剛性強度を確保するために、支持部131と支持部132とに跨がって、補強用のリブ138を別途設ける必要がある。
【0071】
上記したように、本実施形態にかかるサイドカバー13では、バリエータ2の潤滑に用いられる潤滑油OLであって、油圧制御回路(図示せず)から供給される潤滑油OLを、潤滑油路18に供給して、支持部131と支持部132の内部のベアリング35、44を積極的に潤滑する構成を採用している。
そのため、サイドカバー13には、潤滑油OLを潤滑油路18に潤滑油を供給するための接続油路19が設けられたリブ190が設けられており、このリブ190が、従来例にかかるサイドカバー13Aのリブ138の代わりを果たすようになっている。
さらに、リブ190がリブ180に接続されていることで、支持部131と支持部132との間の領域の剛性強度が高められている。
これにより、支持部131、132に設けたベアリング35、44を積極的に潤滑しつつ、サイドカバー13の剛性強度が高められるようになっている。
【0072】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(4)リブ180とリブ190は直交している。
リブ180内の潤滑油路18と、リブ190内の接続油路19は、直交している。
【0073】
このように構成するとサイドカバー13における支持部131と支持部132の間の領域の剛性強度が、互いに直交する向きで配置された2つのリブ180、190で高められる。
なお、前記した実施形態では、リブ180とリブ190とが直交する場合を例示した。リブ180とリブ190は必ずしも直交している必要はない。リブ190内の接続油路19の距離(道のり)が長くなりすぎない範囲で、リブ180とリブ190とが所定の交差角度を持って接続されていても良い。
【0074】
無段変速機1は、以下の構成を有している。
(4)チェーンガイド支持部材7A(潤滑パイプ)は、無段変速機1が備える一対のプーリ(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4)に向けて、潤滑油OLを噴出する噴射孔703、703(潤滑油噴出孔)を有している。
【0075】
無段変速機1では、バリエータ2を潤滑するための潤滑油OLの一部が、支持部131、132に設けたベアリング35、44の潤滑に用いられる。
すなわち、既存のチェーンガイド支持部材7Aの油路72を延長すると共に、サイドカバー13に、以下の追加加工を施すことで、ベアリング35、44を適切に潤滑できるようにしている。
(a)サイドカバー13に、チェーンガイド支持部材7Aのパイプ状部材71(小径部712)が挿入される油路15を設ける。
(b)サイドカバー13に、油路15と潤滑油路18とを接続する接続油路19を設ける。
【0076】
すなわち、既存のチェーンガイド支持部材7Aの転用と、追加の加工(a)(b)を行うだけで、ベアリング35、44を適切に潤滑できる。
これにより、ベアリング35、44を適切に潤滑できるようにするために、新たな潤滑パイプの追加が不要であるので、コスト増加を抑制することができる。
【0077】
バリエータ2の潤滑油OLは、油圧供給路12を介して供給されるので、油圧制御回路のリーク油を用いてベアリング35、44を潤滑する場合よりも、ベアリング35、44に供給される潤滑油OLの量を適切に調節できる。
これにより、ベアリング35、44の潤滑不足と、潤滑過多を好適に防止できる。
ベアリング35、44の潤滑過多の場合には、過剰に供給された潤滑油OLが、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4の回転に対する抵抗となり、無段変速機1を搭載した車両の燃費が悪化する可能性がある。上記の通り、ベアリング35、44の潤滑過多を好適に防止できるので、かかる事態の発生を好適に防止できる。
【0078】
さらに、以下の構成を追加することで、サイドカバー13の剛性強度を高めている。
(c)油路15と接続油路19とを接続するボス部136を、周方向で隣接する2つのボルト孔133a、133aに挟まれる位置に配置する。
【0079】
これにより、サイドカバー13の周壁部135まわりの剛性強度がより高められる。
【0080】
前記した実施形態では、チェーン式の無段変速機構の場合を例示したが、無段変速機の無端状部材は、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ4との間で回転を伝達可能なものであれば良い。
よって、無端状部材は、両側にスリットを有する板状のエレメントを積層して環状に配置し、エレメントの各々を、スリットを挿通させた環状リングで結束して構成されたベルトであっても良い。
【0081】
前記した実施形態では、駆動力伝達装置が、車両用の自動変速機である場合を例示した。本願発明の駆動力伝達装置は、車両用の自動変速機のみに限定されない。
複数のギアから構成されるギア列であって、少なくとも1つのギアが、ギア列の収容ケース内のオイルを掻き上げ得るように構成された装置にも適用可能である。このような装置として、入力された回転を減速して出力する減速装置が例示される。
【0082】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
図1
図2
図3
図4
図5