(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鋳物製造工程から生ずる廃鋳物砂は毎年莫大な量が発生している。これらの廃鋳物砂の一部は、鋳造業向きの再生砂やセメント工場へ代替原料として利用されているが、それ以外の用途で有効な資源として再利用される量は少なく、過半数は埋め戻し材または再利用されずに埋め立て処分とされているのが現状である。
しかし、現在設置されている最終処分場の埋め立て可能な残余量は減少しており、新たな最終処分場の建設も困難な状況となっている。また、廃鋳物砂には鉛や銅等の重金属も含まれることがあるため、土壌からの溶出を防ぐべく、管理型最終処分場への埋め立てが必要な場合もあり、処分費用の高騰化が問題となっている。このため、廃鋳物砂を廃棄物としてではなく、資源として有効に利用する技術が求められている。
【0003】
従来、こうした廃鋳物砂を資源として利用する技術としては、廃鋳物砂を焼成して有機物成分を除去したり、湿式で不純物を除いたりして再利用可能な状態にすることが行われている(特許文献1〜4)。
【0004】
しかし、上記のような再利用方法では、焼成に多量のエネルギーが必要となったり、不純物の除去のための複雑な工程が不可欠となったりするため、製造コストの高騰化を招来し、大量に発生する廃鋳物砂を処理することは困難となっていた。
【0005】
こうした問題を解決すべく、焼成していない廃鋳物砂が有機物やアンモニアガスや重金属イオンの吸着能に優れていることを利用した吸着剤が開発されている(特許文献5)。さらには、焼成していない廃鋳物砂のゼータ電位がバクテリア等の微生物のゼータ電位と異なり負であることに着目し、廃鋳物砂を焼成することなく、微生物が吸着し易い生物担体として利用する技術が知られている(特許文献6)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、廃鋳物砂を焼成することなく、そのまま吸着剤やバクテリア等の生物が吸着し易い生物担体として利用した場合、水中においてpHがアルカリとなり、環境を悪化させるというおそれがあった。
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、廃鋳物砂を原料とし、製造に要するエネルギーコストが低廉で、環境を汚染する恐れが少なく、生物担体として優れた機能を有し、植物の育成に適した活力ある土壌作りを可能とする環境浄化用粉体及びその製造方法、並びに環境浄化用成形物を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、廃鋳物砂を焼成することなく、そのまま環境浄化用粉体として利用する場合において、水中でpHがアルカリとなるという問題点の解決について鋭意研究を行った。その結果、廃鋳物砂に付着しているアルカリ成分が原因であることを見出し、さらには、このアルカリ成分は加熱処理によって揮散し、除去されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の環境浄化用粉体は、有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれている廃鋳物砂が180℃以上400℃以下となるように加熱処理されており、pH7におけるゼータ電位が−10mV以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の環境浄化用粉体は、有機成分を含み炭素含有量が1質量%以上40質量%以下の廃鋳物砂を原料としており、その廃鋳物砂が400℃以下となるように加熱処理されているため、有機分が未だ燃焼除去されずに残留している。発明者の試験結果によれば、本発明の環境浄化用粉体は、廃鋳物砂に有機物が残留していることに起因して、pH7におけるゼータ電位が−10mV以下となっている。これに対して水中の有機物を分解するバクテリアは正のゼータ電位を有している。(例えば、集菌技術に関する研究〜複合減菌装置の開発〜、埼玉県産業技術総合センター研究報告、第2巻(2004)等)。このため、本発明の環境浄化用粉体は、水中の有機物を分解するバクテリアを静電的に引き寄せるという、生物担体としての優れた機能を発揮する。このため、バクテリアによる被処理水の生物処理にとって極めて都合が良い。また、負のゼータ電位はバクテリアの栄養源となる有機物を引き寄せる効果も発揮する。これらの相乗効果により、バクテリアの活動が活性化され、水系の浄化作用が発揮されることとなる。また、バクテリアによって分解されて生成した窒素分やリン酸等が肥料成分となり、植物の成長が促進される。このため、植栽土や植生基盤材、目砂、目土などに混ぜることにより客土の活力を高めることができ、植物の育成に適した活力ある土壌作りが可能となる。
また、加熱処理は400℃以下という低い温度で行われるため、焼成されていない鋳物砂と同様(特許文献5参照)、アンモニアガスや重金属イオンに対する吸着能を有することが期待できる。
さらには、バクテリアによる被処理水の生物処理やアンモニアガス等に対する吸着能を通じて、臭気についても低減させることができる。
【0011】
これに対して、400℃を超えて廃鋳物砂を加熱処理した場合、廃鋳物砂に含まれる有機物は燃焼除去され、本来の鋳物砂を構成しているケイ砂等が示す正のゼータ電位となるため、バクテリアを静電的に引き寄せるという効果を発揮することはできない。また、バクテリアの栄養源となる有機物を引き寄せる効果も小さい。このため、バクテリアの活動は不活発となり、水系の浄化作用が発揮され難くなる。また、臭気を低減させる効果も低くなる。
【0012】
また、本発明の環境浄化用粉体は、有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれている廃鋳物砂が180℃以上となるように加熱処理されている。本発明者によれば、有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれている廃鋳物砂が180℃以上となるように加熱処理した場合、有機物中に含まれるアルカリ成分が揮発し除去される。このため、この環境浄化用粉体を水中に投じてもpHの変動は小さく、アルカリ側に大きく変化するということはない。このため、環境を悪化させるというおそれが少ない。これに対して、加熱処理をしていない廃鋳物砂では、水中に投じた場合、有機物中に含まれるアルカリ成分が残留しているため、水中に投じた場合、アルカリ側に大きく変化し、環境を悪化させるというおそれが生じる。
【0013】
したがって、本発明の環境浄化用粉体によれば、廃鋳物砂を原料とし、製造に要するエネルギーコストが低廉で、環境を汚染する恐れが少なく、生物担体として優れた機能を有し、植物の育成に適した活力ある土壌作りを可能となる。また、バクテリアによる被処理水の生物処理やアンモニアガス等に対する吸着能を通じて、臭気を低減させる機能も有することとなる。
【0014】
なお、本発明の環境浄化用粉体は、「有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれている廃鋳物砂が180℃以上400℃以下となるように加熱処理されており、・・・・」とされており、いわゆるプロダクト・バイ・プロセスによって表現されているが、これは、廃鋳物砂が180℃以上400℃以下となるように加熱処理されることにより、どのような構造的変化が生じているかが明確でなく、このためプロダクト・バイ・プロセス以外の方法で表現することが不可能・非現実的であることによるものである。
【0015】
本発明の環境浄化用粉体の原料となる廃鋳物砂は、ケイ砂、粘土、デンプン、植物性油及び炭素を含む生砂型からの廃鋳物砂、及び/又は、ケイ砂と有機バインダー樹脂とを含む有機砂型からの廃鋳物砂とすることができる。これらの廃鋳物砂は、有機成分を多く含んでいるため、好適に用いることができる。
【0016】
また、本発明の環境浄化用粉体は前述したように、水中の有機物を分解するバクテリアを静電的に引き寄せるという、生物担体としての優れた機能を発揮するとともに、水中に投じても水質をアルカリ性側に大きく変動させることはないため、これを固化剤で固めて成形することにより、優れた環境浄化用成形物とすることができる。
このような成形物であれば、例えば、水処理用の吸着塔等に環境浄化用成形物充填した場合、圧損が小さくなり、吸着塔からの流出もなく、ハンドリングも容易となる。また、植栽用土として用いた場合、バクテリアを静電的に引き寄せるという、生物担体としての優れた機能を発揮するとともに、隙間が形成されて多くの空気を取り込むことができるため、植物の成育環境が良好となる。
【0017】
固化剤としては、アルギン酸ソーダ、アクリル系の高吸水性樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン樹脂等の有機ポリマー化合物や、酸化(軽焼)マグネシウム等の無機粉末等が挙げられる。また、固化剤とともに無機粉末を加えてもよい。水分調整用無機粉末としては特に限定はないが、溶融スラグ、コンガラ、クリンカーアッシュ、石英、硅砂、粘土等の粉末を用いることができる。また、本発明の環境浄化用粉体は、乾燥した状態としてもよい。
【0018】
また、固化剤を略中性の水溶性ポリマーとし、水分調整用無機粉末の添加によって含水率を適宜調整することができる。ここで、略中性の水溶性ポリマーとは、水に溶解させたときに植物の生育に適切な中性域である5.5〜8.6の範囲となる水溶性ポリマーのことをいい、具体的には、アルギン酸ソーダ、アクリル系の高吸水性樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。このようにして製造された環境浄化用成形物は、固化剤として略中性の水溶性ポリマーを用いているため、pHがほぼ中性となり、環境浄化材料として、樹脂、不織布、スポンジ、繊維、ゴム、紙、木材等に、混合、含浸、固着などして好適に利用することができ、これらは、粉体としたり、ペレット状にしたり、シートやマット状にしたり、任意の形状の成形品とすることもできる。また、アンモニアや重金属などに対する吸着性も期待できる。
発明者らの試験結果によれば、含水率が25質量%未満では造粒が困難となり、篩工程における歩留まりが悪くなる。また、含水率が35質量%を超えると、フレコン内で自重により粒子同士がくっついて大きな塊状となり易くなる。
【0019】
本発明の環境浄化用粉体の製造方法は、有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれている廃鋳物砂が180℃以上400℃以下となるように加熱処理する加熱工程を備えることを特徴とする。
さらには、粒子径に応じて分級する分級工程を備えることも好ましい。こうであれば、目的に応じて様々な粒子径の環境浄化用粉体とすることができる。
【0020】
また、前記加熱工程前に廃鋳物砂を水洗する洗浄工程を備えていてもよい。こうであれば、洗浄工程では廃鋳物砂が水洗されるため、廃鋳物砂に含まれている水溶性の有害物が除去される。このため、有害物の溶出のおそれが少ない浄化材となる。
【0021】
さらには、廃鋳物砂に含まれる鉄類を除去する鉄除去工程を備えていてもよい。こうであれば、浄化材が鉄さびによって固化したり、赤く変色したりするのを防ぐことができる。浄化材の鉄類を除くためには、廃鋳物砂に対して、磁力で鉄類を除去する鉄類除去装置を通過させること等の手段を用いることができる。
【0022】
また、本発明の環境浄化用粉体は、細かく粉砕した廃鋳物砂のスラリーをスプレードライ法によって加熱乾燥して得ることもできる。すなわち、有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれており、平均粒子径が40μm以下の粒子径の廃鋳物砂微細粉に水を加えてスラリーとするスラリー工程と、該スラリーをスプレードライ装置でスラリー乾燥物が180℃以上400℃以下となるように噴霧乾燥して、pH7におけるゼータ電位が−10mV以下である環境浄化用粉体とするスプレードライ工程とを備えることを特徴とする環境浄化用粉体の製造方法である。
【0023】
この方法によれば、スプレードライ工程における噴霧条件(例えばスプレーノズル穴の大きさや噴霧圧等)を制御することにより環境浄化用粉体の粒子径をコントロールすることが可能となり、さらさらとしたハンドリングが容易な顆粒状の粉体とすることができる。このため、河川や湖沼投入した場合において崩壊し難いため、濁りを生ずることも少ない。また、袋詰め作業において埃が立つこともほとんどなく、コンポストや堆肥の製造等において添加剤として使用した際に、分散性、混合性が優れる。さらには、スプレードライ工程において有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれている廃鋳物砂が180℃以上となるように加熱処理されているため、前述したように、有機物中に含まれるアルカリ成分が揮発し除去される。このため、この環境浄化用粉体を水中に投じてもpHの変動は小さく、アルカリ側に大きく変化するということはない。
【0024】
また、スプレードライ工程において有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれている廃鋳物砂が400℃以下となるように加熱処理されているため、有機分が未だ燃焼除去されずに残留しており、残留する有機物によって、pH7におけるゼータ電位が−10mV以下となっている。このため、水中の有機物を分解するバクテリアを静電的に引き寄せるという、生物担体としての優れた機能を発揮する。このため、バクテリアによる被処理水の生物処理にとって極めて都合が良い。また、負のゼータ電位はバクテリアの栄養源となる有機物を引き寄せる効果も発揮する。これらの相乗効果により、ひいてはバクテリアの活動が活性化され、水系の浄化作用が発揮されることとなる。さらには、バクテリアによる被処理水の生物処理やアンモニアガス等に対する吸着能を通じて、臭気を低減させる機能も有することとなる。このため、養豚場や鶏舎やコンポストに環境浄化用粉体を撒いておくことにより、臭気を低減させることができる。
【0025】
また、鋳物工場では鋳物砂をリサイクル使用する場合、微粉となった鋳物砂は製品に悪影響を及ぼすため敬遠され易く、廃鋳物砂としては細かい粒度のものが多くなる傾向にある。一方、スプレー法を用いた製造方法では、平均粒子径が40μm以下という細かい粒子径の廃鋳物砂微細粉をスプレードライするため、鋳物工場から廃棄され易い細かい廃鋳物砂を原料にできる。このため、廃鋳物砂のリサイクル使用に適用し易いという利点を有する。
【0026】
なお、スプレードライ法の種類については特に限定はなく、スラリーを噴霧して乾燥させるものであればよい。例えば、ロータリーアトマイザーを用いたディスク噴射型のスプレードライ装置や、ノズルから噴霧するノズル噴射型のスプレードライ装置等を用いることができる。
【0027】
スプレー法を用いた製造方法では、スラリー工程においてスラリー中に固化剤を添加してもよい。こうであれば、製造された環境浄化用粉体の強度を高めることができる。このため、河川や湖沼投入した場合において、さらに崩壊し難くなり、濁りを生ずることもほとんどなく、さらにハンドリング性に優れた環境浄化用粉体となる。また、袋詰め作業において埃が立つこともない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
環境浄化用粉体の原料となる廃鋳物砂については、鉄鋳物、アルミ鋳物、銅合金鋳物等に用いられた廃鋳物砂を用いることができる。この中でも鉄鋳物に用いられた廃鋳物砂が特に好ましい。アルミ鋳物や銅合金鋳物は軟らかいために削られ易く、アルミや銅合金が多量に混入しているおそれがある。また、銅合金には鉛等の有害な重金属を含むおそれがある。
【0031】
ただし、原料となる廃鋳物砂は、有機成分が炭素含有量として1質量%以上40質量%以下で含まれていなければならない。有機成分がこの範囲で含まれていれば、pH7におけるゼータ電位が−10mV以下(さらに好ましくは−20mV以下)となり、正のゼータ電位を有する水中の有機物を分解するバクテリアを静電的に引き寄せる機能を発揮する。このため、生物担体としての優れた機能を発揮し、バクテリアによる被処理水の生物処理が盛んになされることとなる。また、環境浄化用粉体表面の負のゼータ電位はバクテリアの栄養源となる有機物を引き寄せる効果も発揮する。これらの相乗効果により、ひいてはバクテリアの活動が活性化され、水系の浄化作用が発揮されることとなる。
【0032】
鋳物砂型には、ケイ砂、粘土、デンプン、植物性油、炭素等を含む生砂型や、ケイ砂、フェノール樹脂やフラン樹脂等の有機バインダー樹脂を含む有機砂型があるが、そのどちらも原料として用いることができる。
【0033】
鋳物工場から回収された上記の廃鋳物砂は、まず大きな固形物をスクリーン等により除去される。除去された固形物はロッドミル等で粉砕し、再度スクリーンで分級してもよい。こうして大きな固形物を除去された廃鋳物砂は加熱炉において180℃〜400℃となるように加熱されて、実施形態の環境浄化用粉体となる。
【0034】
こうして得られた環境浄化用粉末は、そのまま浄化材として河川等の浄化に用いることができる。また、環境浄化用粉末に対し、さらに固化剤として普通ポルトランドセメント、酸化マグネシウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等の固化剤を加え、さらに水を加えて造粒装置によって造粒したものを浄化用成形物とすることができる。また、こうして得られた浄化用成形物をさらに加圧成形してブリック状、リング状、板状、円柱状、球状、パイプ状等、目的によって適宜適当な形状に成形することも可能である。
【0035】
また、この環境浄化用粉末に有機バインダーやカルシウム系固化剤や酸化マグネシウム系固化剤等を添加し、さらに水を加え、遊星式混合攪拌機。真空土練機、縦型ミキサー、パグルミキサー等の混合機を用いて混合し、造粒装置によって粒子形状とした後、ストックヤードに貯留して固化するのを待つ。こうして得られた環境浄化用成形物は、水中においても流されることがないため、水中においてBODやCODを減らすための浄化材として用いたり、環境浄化材料として、樹脂、不織布、スポンジ、繊維、ゴム、紙、木材等に、混合、含浸、固着などして好適に利用することができ、これらは、粉体としたり、ペレット状にしたり、シートやマット状にしたり、任意の形状の成形品とすることもできる。また、アンモニアや重金属などに対する吸着性も期待できる。
【0036】
また、この環境浄化用粉末をセメント粉末と混合し、プレミクスモルタル材とすることもでき、塗付したり、型枠に流して固化させた後、型枠から外して環境浄化用成形物としてのコンクリート板とすることもできる。こうして得られたコンクリート板は、生物担体としての優れた機能を発揮する環境浄化用粉末を含有するため、バクテリアによる被処理水の生物処理が盛んになされることとなる。また、バクテリアの栄養源となる有機物を引き寄せる効果も発揮するため、バクテリアの活動が活性化され、水系の浄化作用が発揮されることとなる。なお、生物による水浄化はコンクリート板の表面で行われるため、コンクリート板の表面部分のみを環境浄化用粉末含有のコンクリートとし、内部は通常の骨材を用いたコンクリートとしても、同様の効果を得ることができる。
【0037】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について説明する。
【0038】
(実施例1)
実施例1の環境浄化用粉体は、
図1に示す工程により製造した。
<固形物除去工程S11>
まず固形物除去工程S11として、鉄鋳物工場から廃棄された有機バインダー樹脂を含む有機砂型起因の廃鋳物砂(炭素含有量として4質量%含有)を収集し、50mm及び5mmの2段階のスクリーンに通してガラス、金属、レンガ等の夾雑物を除去し、5mm未満の粒子径の部分を分取した。一方、5〜50mmの分級部分については、ロッドミルで5mm未満の粒子径に破砕して5mm未満の粒子径とした。
【0039】
<洗浄工程S12>
次に洗浄工程S12として、固形物除去工程S11で分取された5mm未満の粒子をスパイラル洗浄機に送り、水洗浄を行った。
【0040】
<鉄除去工程S13>
さらに、洗浄工程S12によって洗浄された5mm未満の粒子中の鉄類を湿式磁選機を用いて除去した。
【0041】
<フィルタープレス工程S14>
水洗浄され、鉄除去された廃鋳物砂をシックナーに送り、水中でゆっくり撹拌しながら沈殿濃縮し、さらにフィルタープレス装置でろ過した。
【0042】
<加熱工程S15>
最後にフィルタープレスされたろ過物が300℃となるように加熱炉内で充分乾燥させて、実施例1の環境浄化用粉体を得た(加熱工程S15)。
【0043】
(比較例1)
比較例1の環境浄化用粉体は、実施例1と同様にして固形物除去工程S11、洗浄工程S12、鉄除去工程S13、フィルタープレス工程S14を行って得られた粉体であり、加熱工程S15は行っていない。
【0044】
(比較例2)
実施例1の加熱工程S15における加熱温度を800°Cとし、その他の工程は実施例1と同様に行った。
【0045】
(実施例2及び実施例3)
実施例2及び実施例3の環境浄化用粉体は、
図2に示す工程により製造した。
すなわち、実施例1と同様にして固形物除去工程S11、洗浄工程S12、及び鉄除去工程S131を行った後、バイブル分級機によって0.15mmφ未満の粒子と、0.15mmφ以上の粒子とに分級した(分級工程S132)。そして、分級された0.15mmφ未満の粒子をフィルタープレス(フィルター工程S14)し、粒子が300℃となるように加熱炉内で充分乾燥させて、実施例2の環境浄化用粉体(微細粒砂)を得た(加熱工程S15)。また、同様に分級された0.15mmφ以上の粒子をフィルタープレス(フィルター工程S14)し、粒子が300℃となるように加熱炉内で充分乾燥させて(加熱工程S15)、実施例3の環境浄化用粉体(細粒砂)を得た(加熱工程S15)。
【0046】
(評 価)
<ゼータ電位の測定>
上記実施例1〜3並びに比較例1及び比較例2の環境浄化用粉体について、ゼータ電位の測定を行った。すなわち、試料(0.01g)をpH7のリン酸緩衝液(100ml)に加え、10分間超音波による分散を行った分散液について、電気泳動光散乱法に基づくゼータ電位測定装置により、25°C下において測定を行った。
【0047】
その結果、表1に示すように、実施例1〜3の環境浄化用粉体のゼータ電位は−32mVから−41mVの範囲にあり、廃鋳物砂が300℃となるように加熱工程を行っているにもかかわらず、加熱工程を行っていない比較例1の環境浄化用粉体よりも負方向に大きなゼータ電位を示した。したがって、実施例1〜3の環境浄化用粉体は、正のゼータ電位を有するバクテリアを静電的に吸着し、バクテリアの生息に適した環境となるため、環境浄化用粉体として好適であることが分かった。また、環境浄化用粉体表面の負のゼータ電位はバクテリアの栄養源となる有機物を引き寄せる効果も発揮する。これらの相乗効果により、ひいてはバクテリアの活動が活性化され、水系の浄化作用が発揮されることが分かった。
一方、廃鋳物砂に対して800℃となるように加熱工程を行っている比較例2の粉体のゼータ電位は−2mVとなった。このことから、比較例2の粉体は正のゼータ電位を有するバクテリアを静電的に吸着する効果は小さく、バクテリアの栄養源となる有機物を引き寄せる効果も劣るため、バクテリアの生息に適した環境とはならず、環境浄化用粉体としては不適であることが分かった。廃鋳物砂に対して800℃での加熱工程を行っている比較例2の粉体のゼータ電位が−2mVであるのは、加熱工程において有機物が酸化分解し、鋳物砂を構成している鉱物であるケイ砂等の本来のゼータ電位が発現したことによるものと考えられる。
【0049】
<懸濁液の水素イオン濃度試験>
実施例1〜3並びに比較例1及び2の環境浄化用粉体について、40gを秤取り、200mlの純水中に加えて撹拌し、懸濁液の水素イオン濃度(pH)をガラス電極によって測定した。測定回数は5回とした。
その結果、表2に示すように、実施例1〜3の環境浄化用粉体はpH6.67〜6.80の範囲内で安定しており、環境基準内の範囲内となった。
これに対して、比較例1の環境浄化用粉体はpH9.0〜9.7となり、環境基準を大幅に超えるアルカリ性の値となった。
また、比較例2の環境浄化用粉体では7.5〜9.2の範囲で安定せず、環境基準を超えることもあった。
これらの結果から、実施例1〜3の環境浄化用粉体は、比較例1及び比較例2の環境浄化用粉体と比較して、微生物の生育環境としてより好適であり、環境に対してより悪影響を与え難いことが分かった。また、これらの結果は、実施例1の環境浄化用粉体を製造するときの加熱工程(
図1におけるステップS15)において、アルカリ成分が揮発して除去されるからであると考えられる。
【0051】
<湖沼水の浄化試験>
上記実施例1の環境浄化用粉体1Lを秤取り、水槽(600mm×300mm×360mm)の底に敷き詰め、さらにI池の湖沼水を57L入れた。設置場所は屋外であり、遮光はしない状態とした。湖沼水を循環ポンプによって毎分8Lの速度で循環させながら所定時間ごとにサンプリングし、表3に示す方法により、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T−N)、全リン(T−P)及びクロロフィルaについて測定した。試験期間は17日間とした。
また、比較例3として、天然砂利についても同様の試験を行った。
【0053】
−結 果−
・化学的酸素要求量(COD)について
化学的酸素要求量(COD)の経時変化を
図3に示す。試験開始後17日目において、実施例1の環境浄化用粉体では、CODの値はほとんど変化しなかったが、比較例1の天然砂利では、試験開始後17日目でCOD濃度の顕著な上昇が認められた。
なお、CODの測定においては、酸化剤として過マンガン酸カリウムを用いているため、実施例1の環境浄化用粉体での試験におけるCOD値には、植物プランクトンによって取り込まれた有機物の分も含まれ得る。このため、実施例1の環境浄化用粉体では、CODの値はほとんど変化しなかったものの、植物プランクトン以外の有機物についての水質の浄化はそれ以上進んでいるものと考えられる。
【0054】
・全窒素(T−N)について
全窒素(T-N)の経時変化を
図4に示す。試験開始後3日において、全窒素(T-N)の濃度変化は、実施例1の環境浄化用粉体,比較例1の天然砂利ともに僅少であったが、試験開始後17日では、両者ともに全窒素(T−N)の濃度は減少した(減少率は実施例1の実施例1で約82%、比較例1の天然砂利で約68%)。
後述するクロロフィルaの濃度が、設置後17日で上昇していることから、全窒素(T−N)の減少は、植物プランクトンの増殖によるものと考えられる。
【0055】
・全リン(T−P)について
全リン(T−P)の経時変化を
図5に示す。実施例1の環境浄化用粉体における全リン(T−P)濃度は、試験開始後1日で約57%(減少率:約43%)、試験開始後3日で36%(減少率:64%)となり、試験開始後17日では、10%(減少率:90%)となった。一方、比較例1の天然砂利における全リン(T−P)濃度は、試験開始後3日において、減少量は僅少であるが、試験開始後17日で約29%(減少率約71%)となった。
以上の結果は、次の理由によるものと考えられる。
すなわち、実施例1の環境浄化用粉体のゼータ電位は−10mV以下であり、正のゼータ電位を有する微生物が吸着しやすく、微生物の栄養源となる有機物を引き寄せる効果も発揮するため、微生物の生息環境が良好となり、原水中のリンが微生物によって固定化され、除去される。
これに対して、比較例3の天然砂利のゼータ電位はそれほど負側に大きく偏っておらず、正のゼータ電位を有する微生物が吸着し難く、微生物の栄養源となる有機物を引き寄せる効果も小さいので、微生物の生息環境が悪くなり、原水中のリンが微生物によって固定化され難くなったと考えられる。
【0056】
・クロロフィルaについて
クロロフィルaの経時変化を
図6に示す。クロロフィルaは、実施例1の環境浄化用粉体及び比較例1の天然砂利ともに、試験開始後1日では減少し、試験開始後3日では、10倍程度の濃度に上昇した。また、試験開始後17日では、実施例1の環境浄化用粉体は約20倍,比較例1の天然砂利は約60倍に上昇した。このように、クロロフィルaの濃度が上昇したのは、この試験が常温かつ日光の入射を許した条件下で行われており、植物プランクトン(例えば藍藻類)が増殖したことが原因である。このことは水槽の状況を示す
図7の写真から判断しても明らかである。すなわち、植物プランクトンの増殖に伴って、全窒素(T−N)及び全リン(T−P)が取り込まれる。植物プランクトンが多くなると粒子同士が凝集して沈降し、全窒素(T−N)及び全リン(T−P)が大きく減少したものと考えられる。
【0057】
以上で述べたように、I池の原水を用いて実施例1の環境浄化用粉体及び比較例1の天然砂利の浄化試験を行ったところ、全りん(T−P)について、実施例1の環境浄化用粉体の低減効果は顕著であり、短時間にリンを吸着する効果を有していた。原水中のリンが微生物によって固定化され、除去された。
また、全窒素(T−N)については、ビオトープサンド,天然砂利ともに設置後17日で大きく減少した。植物プランクトンの増殖に伴う減少であるものと考えられるが、実施例1の環境浄化用粉体は、比較例1の天然砂利と比べ、クロロフィルaの増加が少ない上、全窒素(T−N)の減少量も大きいことから、天然砂利に比べて、植物プランクトンの増殖の抑制効果と全窒素(T−N)の低減効果を有しているものと考えられる。
更に、設置後17日目のCOD値に着目すれば、実施例1の環境浄化用粉体は、比較例1の天然砂利に見られたような濃度の上昇もなく、有機物の分解を効果的に行うことが分かった。
【0058】
<発酵試験>
実施例1の環境浄化用粉体について、以下の方法により発酵促進剤としての効果を評価した。200mlの三角フラスコに滅菌した標準液体培地100mlを入れ、そこへ所定量の発酵菌材(株式会社ミズホ製)と実施例1の環境浄化用粉体0.1gとを加え、常温(5〜10℃)で27日間静置した。また、比較のため、標準液体培地100mlをのみをいれたもの、及び、標準液体培地100mlと発酵菌材と添加したものを用意し、同様に常温(5〜10℃)で27日間静置した。
その結果、
図8に示すように、実施例1の環境浄化用粉体を加えたものは、発酵菌材のみの培地に比べて、発酵促進剤の培地の方が白く濁り液面に白い膜が張っていた。以上の結果から、実施例1の環境浄化用粉体を入れた場合に、入れない場合と比べて発酵が促進されることが分かった。
【0059】
なお、上記実施例では、洗浄工程S12及び鉄除去工程を湿式下で行っているが、全工程を乾式下で行ってもよい。
【0060】
<環境浄化用成形物の製造>
(実施例4)
造粒工程として、前述した実施例1の環境浄化用粉体とMgO系固化材とを遊星式混合攪拌機によって96:4の質量比で混合し、さらにこの混合物100質量部に対し、スラグ骨材を20質量部加えて造粒機で造粒した。次に篩工程として、20mmφの篩によって篩い分けした後、1日間ストックヤードで放置して実施例4の環境浄化用成形物とした。
【0061】
(実施例5)
実施例5では、固化材として略中性の水溶性ポリマーであるアルギン酸ナトリウムを用い、実施例5と同様の方法によって環境浄化用成形物を製造した。
【0062】
(評 価)
上記実施例4及び実施例5の環境浄化用成形物は、造粒物となって固化されているため、水処理用の吸着塔等に環境浄化用成形物充填した場合、圧損が小さくなり、吸着塔からの流出もなく、ハンドリングも容易となる。また、植栽用土として用いた場合、隙間が形成されて多くの空気を取り込むことができるため、植物の成育環境が良好となる。
また、実施例5の環境浄化用成形物の場合には、含水率が25質量%以上であれば歩留まりが良好であり、含水率が35質量%未満であれば、環境浄化用成形物同士が貯留中にくっついて塊状になるという現象を防ぐことができた。
【0063】
−スプレードライ装置を用いた環境浄化用粉体の製造−
(実施例6)
実施例6の環境浄化用粉体は、
図9に示すように、スプレードライ装置を用いて造粒及び加熱を行い製造した。以下詳述する
<固形物除去工程S21>
まず固形物除去工程S21として、鉄鋳物工場から廃棄された有機バインダー樹脂を含む有機砂型起因の廃鋳物砂(炭素含有量として4質量%含有)を収集し、50mm及び5mmの2段階のスクリーンに通してガラス、金属、レンガ等の夾雑物を除去し、5mm未満の粒子径の部分を分取した。一方、5〜50mmの分級部分については、ロッドミルで5mm未満の粒子径に破砕して5mm未満の粒子径とした。
【0064】
<洗浄工程S22>
次に洗浄工程S22として、固形物除去工程S21で分取された5mm未満の粒子をスパイラル洗浄機に送り、水洗浄を行った。
【0065】
<鉄除去工程S23>
さらに、洗浄工程S12によって洗浄された5mm未満の粒子中の鉄類を湿式磁選機を用いて除去した。
【0066】
<粉砕工程S24>
水洗浄され、鉄除去された廃鋳物砂粉砕物を高速回転ハンマーミル等の微粉砕機で粉砕し、粒子径が40μm以下の廃鋳物砂粉砕物とした。
【0067】
<スラリー工程S25>
粉砕工程S24において得られた粒子径が40μm以下の廃鋳物砂粉砕物をスラリー槽に入れ、攪拌機で撹拌しながら水を加えてスラリーとした。
【0068】
<スプレードライ工程S26>
最後にスラリーをスプレードライ装置によって乾燥粉体が300℃となる条件で噴霧乾燥させ、実施例6の環境浄化用粉体を得た。
【0069】
(評 価)
・臭気低減試験
スプレードライ工程S26を経て得られた実施例6の環境浄化用粉体を直径30cm長さ150cmの円筒管に充填し、豚糞が積まれた豚舎の空気を通じたところ、臭気が顕著に低減された。これに対して、同じ円筒管におが粉を充填し、同様の実験を行ったところ、臭気の低減は認められなかった。
・発酵促進試験
実施例6の環境浄化用粉体を豚糞に対して5重量%添加し、堆肥化を行ったところ、3か月で堆肥が完成し、臭気もほとんどなかった。
これに対して、豚糞35重量%+おが粉65重量%の混合物について同様の堆肥化を試みたところ、農地で使用可能な状態となるまで8か月を要し、その間、臭気も著しく、問題となった。
・ハンドリングについての評価
スプレードライ工程S26を経て得られた実施例6の環境浄化用粉体は、40μm以下の廃鋳物砂粉砕物を用いるため、従来、粒径が細かすぎて扱いにくかった廃鋳物砂も原料とすることができる。また、40μm以下の廃鋳物砂粉砕物は2次凝集体を形成しているため、さらさらとしたハンドリングが容易な顆粒状の粉体であり、水中に投じてもすぐに崩壊するということはなく、濁りを生ずることもなかった。また、袋詰め作業において埃が立つこともほとんどなかった。さらには、成形品などの原材料としての使用する場合にも、操作性が大幅に向上した。また、2次凝集体の平均粒径はスプレードライ装置のノズル径及び温度を変更することにより0,020mm〜5mmまで自由に制御することが可能であった。
【0070】
また、この環境浄化用粉体を水中に投じてもpHの変動は小さく、アルカリ側に大きく変化するということはなく、実施例1の環境浄化用粉体と同程度であった。さらには、pH7におけるゼータ電位も−10mV以下であった。以上の結果から、実施例6の環境浄化用粉体も水中の有機物を分解するバクテリアを静電的に引き寄せるという、生物担体としての優れた機能を発揮することが分かった。このため、バクテリアによる被処理水の生物処理にとって極めて都合が良い。また、負のゼータ電位はバクテリアの栄養源となる有機物を引き寄せる効果も発揮する。これらの相乗効果により、ひいてはバクテリアの活動が活性化され、水系の浄化作用が発揮されることとなる。
【0071】
(実施例7)
実施例7の環境浄化用粉体では、実施例6の環境浄化用粉体を製造工程におけるスラリー工程S25においてスラリー中に固化剤としてアルギン酸ソーダを500ppmの濃度となるように加えた。その他については実施例6と同様であり、説明を省略する。
【0072】
実施例7の環境浄化用粉体では、40μm以下の廃鋳物砂粉砕物からなる顆粒状粉体の機械的強度が実施例6の環境浄化用粉体よりもはるかに優れ、指で押しつぶすのが困難なほどであった。また、ハンドリングが極めて容易で、水中に投じても長期間崩壊するということはなく、濁りを生ずることもなかった。また、袋詰め作業において埃が立つこともなかった。
【0073】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。