【実施例】
【0025】
図2は、本発明の一実施例による嚥下機能評価システム1の機能ブロック図である。本実施例の嚥下機能評価システム1は、被検者の摂食嚥下機能を非侵襲的に評価するため、超音波画像診断装置10と、超音波画像診断装置10が出力するBモードのエコー画像を解析する画像解析装置20とを備えている。超音波画像診断装置10が出力するエコー画像信号は、ビデオキャプチャー装置30を介して画像解析装置20に伝送される。
【0026】
超音波画像診断装置10は、装置制御部11と、装置制御部11に接続される超音波プローブ12とを備えている。装置制御部11は、キーボード及び画像モニター等であるユーザインタフェース113と、ビーム形成走査部111と、エコー画像描出部112とを備えている。ビーム形成走査部111は、ビーム走査信号を出力して超音波プローブ12の振動子を励起し、扇状の超音波ビームを被検者の皮下組織内部に向けて放射させる。超音波プローブ12は、皮下組織から反射した超音波エコーを受信し電気信号(エコー電気信号)に変換し、ビーム形成走査部111に送信する。ビーム形成走査部111は、受信したエコー電気信号と、形成した上述のビーム走査信号とをパラレルでエコー画像描出部112に送信する。エコー画像描出部112は、エコー電気信号の振幅、時間、位相差等を解析し、それらの情報に基づいて皮下組織内部の断層構造をBモードエコー画像(超音波断層画像)として描出する処理を行う。
【0027】
超音波画像診断装置10によって演算生成されたエコー画像信号は、HDMI(登録商標)フォーマットでビデオキャプチャー装置30に取り込まれる。ビデオキャプチャー装置30は、画像解析装置20のシステムと互換性や適合性のあるフレームレート及びフォーマットの映像信号に変換し、変換したデジタル画像信号をUSB(Universal Serial Bus)伝送方式で画像解析装置20に出力する。
【0028】
画像解析装置20は、超音波画像診断装置10から送信されたエコー画像信号を、画像処理部21の入力画像フレームメモリ211に取り込み一時的に記録する。データストレージ22には、これら受信したエコー動画像データや、時系列の静止エコー画像データセット等が保存される。
【0029】
本実施例では、摂食嚥下機能を非侵襲的に評価するため、特に食物を飲み込むときの喉の動きをつかさどる主要な筋肉であるオトガイ舌骨筋の超音波断層画像を撮影する。そのために、超音波検査に際しては、
図3に示すように、被検者の顎下部から喉頭部にかけた正中線に沿って超音波プローブ12を逆さに当てて、超音波走査ビームを垂直上向きに放射する。
図4に、超音波検査法により得られた、喉部正中矢状面のエコー画像の一例を示す。
【0030】
領域抽出部212は、当該被検者の喉部エコー画像から、舌骨筋領域を抽出する処理を行う演算処理部である。
図5に、オトガイ舌骨筋領域が抽出されたエコー画像の一例を示す。なお、
図5では、抽出された舌骨筋領域を囲む境界線が、特徴点とそれらをつなぐ白線で示されている。
【0031】
面積計測部213は、エコー画像におけるオトガイ舌骨筋領域に占める画素数、解像度及び画像スケールから、当該被検者の実際の矢状面のオトガイ舌骨筋面積Aを計測する演算処理部である。
図6に、若年者グループ(年齢35.4±13.9歳、被検者数35人)と高齢者グループ(年齢74.5±5.5歳、被検者数69人)とで比較した舌骨筋面積Aの計測結果の一例を示す。同図に示すように、若年者グループと高齢者グループとでは、舌骨筋の面積(大きさ)に有意な差(p値<0.001)が認められる。高齢者に比較して若年者のほうが、嚥下機能が高いという経験則に照らせば、超音波検査で測定される舌骨筋面積を1つの判定要素として、摂食嚥下機能の程度を評価することができるといえる。
【0032】
輝度計測部214は、エコー画像において抽出されたオトガイ舌骨筋領域のエコー輝度の平均を計測する演算処理部である。
図7に、若年者グループ(年齢35.4±13.9歳、被検者数35人)と高齢者グループ(年齢74.5±5.5歳、被検者数69人)とで比較した舌骨筋領域の平均エコー輝度Bの計測結果の一例を示す。なお、本実施例では、エコー輝度の数値を正規化するために、画素値を256階調(0〜255)に変換する8 bit gray scale法を用いている。
【0033】
図7に示すように、若年者グループと高齢者グループとでは、オトガイ舌骨筋のエコー輝度(筋内脂肪量の指標)に有意な差(p値<0.001)が認められる。上述したように、舌骨筋のエコー輝度と摂食嚥下機能性との間には負の相関があるので、超音波検査で計測される舌骨筋の平均エコー輝度を1つの判定要素として、摂食嚥下機能の程度を評価することができるといえる。
【0034】
なお、超音波検査におけるエコー輝度は、ゲインやSTC(sensitivity time control)等の検査条件を同一にしたとしても、診断装置間で微妙に誤差が生じる。そのため、例えば被検者の顎等の骨格領域を対照として撮像した輝度を較正値に用い、舌骨筋領域の輝度をその較正値で補正することが好ましい。
【0035】
変動量計測部215は、被検者が物を飲み込む際に撮影したエコー動画像を解析し、その過程で変化するオトガイ舌骨筋領域の寸法変化量を計測する演算処理手段である。
図8に、弛緩時の舌骨筋領域(白実線)に収縮時の舌骨筋領域(白破線)を重ね合わせたエコー画像の例を示す。
【0036】
変動量計測部215は、例えば
図9(a)、(b)に示すように、嚥下過程で変化するオトガイ舌骨筋領域の長手方向最大径L1の寸法|L1|と、長手方向最小径L2の寸法|L2|を計測し、それらの変化率C=|L2|/|L1|を演算することができる。また、例えば
図9(c)に示すように、変動量計測部215は、舌骨筋領域の最大径L1と最小径L2とがなす角度(変化角度)θを計測することができる。このような、嚥下過程で変化する舌骨筋領域の長手方向径寸法の変化率や、長手方向径の変化角度を、摂食嚥下機能の程度を評価するための判定要素とすることができる。
【0037】
評価判定部216は、面積計測部213、輝度計測部214及び/又は変動量計測部215が計測した判定要素(評価パラメータ)の値に基づいて、摂食嚥下機能性を定量的に評価判定する演算処理手段である。
【0038】
図10に、矢状面のエコー画像から抽出されるオトガイ舌骨筋の面積A及びエコー輝度Bに基づいて、摂食嚥下機能性を判定する基準例を示す。同図は、嚥下機能の低下がみられる高齢者40名と、嚥下機能の低下がみられない高齢者100名と、若年の健常者30名とを含む合計170名の被検者の舌骨筋矢状面領域の面積A及び同領域の平均エコー輝度Bの測定値から導き出したものである。
【0039】
図10の基準によると、舌骨筋領域のエコー輝度Bが第一の閾値以上(71.5≦B)であるとき、又は、舌骨筋領域の面積Aが第二の閾値以下(A≦125.2mm
2)であるとき、被検者の嚥下機能が低下している(要経過観察又は要精密検査)と判定することができる。
【0040】
評価判定部216は、また、これら複数の評価パラメータに重み係数を乗算した線形加重和に基づいて、嚥下機能性を定量的に示す指標値を演算してもよい。例えば、舌骨筋領域の面積A及びエコー輝度Bを評価パラメータとして、下記の数式(1)を用いて、嚥下機能評価指数Iを演算してもよい。
I=k
1×A−k
2×B ・・・数式(1)
ここで、k
1、k
2は、正の重み係数である。
【0041】
更に、評価判定部216は、嚥下過程において変化する、舌骨筋領域の長手方向径寸法|L1|、|L2|の変化率C(=|L2|/|L1|)や、それらの径の変化角度θ(
図9参照)を、嚥下機能評価指数Iの評価パラメータの項に任意で加えてもよい(例えば数式(2))。
I=k
1×A−k
2×B+k
3×C+k
4×θ ・・・数式(2)
ここで、k
1、k
2、k
3、k
4は、正の重み係数である。
嚥下機能評価指数Iの値が小さいほど、嚥下機能が低下していると定量的に評価することができる。
【0042】
また、更に評価判定部216は、上述の嚥下機能評価指数Iから、被検者の「のど年齢」も判定することができる。ここで、
図11は、多数の被検者から得た嚥下評価指数Iと被検者の年齢Yとの関係を回帰分析した図である。同図に示すような回帰関数Fをメモリに記憶しておき、当該被検者の嚥下評価指数Iを関数Fにあてはめることで、容易にのど年齢Yを求めることができる。
【0043】
評価判定部216により評価された判定結果は、結果出力部217により可視化されて画像解析装置20のディスプレイに表示される。また、判定結果のデータは、例えば病院施設内の電子カルテシステム等に出力されてもよい。
【0044】
本実施形態の嚥下機能評価システム1によれば、被検者の嚥下機能を、非侵襲的かつ簡便に評価することができる。これにより、高齢者におけるフレイル進行度合いの予備的判断に貢献することができる。