特許第6868329号(P6868329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6868329
(24)【登録日】2021年4月14日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】嚥下機能評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20210426BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   A61B8/08
   A61B5/11 310
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-20857(P2020-20857)
(22)【出願日】2020年2月10日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】520049684
【氏名又は名称】株式会社ヘルステクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100180080
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】森 隆志
(72)【発明者】
【氏名】出江 紳一
(72)【発明者】
【氏名】和泉 逸平
【審査官】 姫島 あや乃
(56)【参考文献】
【文献】 Takuro BABA, et al.,Age-related Changes in Geniohyoid Muscle Morphology Predict Reduced Swallowing Function,Journal of Oral Health and Biosciences,2017年,Volume.30 Issue.1,Pages.18-25
【文献】 松本 真一 他,コントロール筋を用いたエコー輝度測定の検討,Neurosonology,2015年,vol.28 no.2,pp.49-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/08
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波画像診断装置と、前記超音波画像診断装置が描出した被検者の喉部の超音波断層画像を解析する画像解析装置とを備えた、嚥下機能評価システムであって、
前記画像解析装置が、少なくとも、前記超音波断層画像における、前記被検者の舌骨筋に相当する領域の輝度と、前記領域の幾何学的情報とを判定要素として、当該被検者の嚥下機能性を評価するよう構成されており、そして
前記嚥下機能性の高さを示す指標値を、
指標値=第一重み係数×前記領域の面積−第二重み係数×前記領域の輝度
の式を用いて演算し、演算した指標値に基づいて、前記被検者の嚥下機能性を定量的に評価するよう構成されている、嚥下機能評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像診断装置を用いて、被検者の摂食嚥下機能を非侵襲的かつ簡易的に評価するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療技術の飛躍的な進歩により我が国の平均寿命が延びるなか、健康寿命は、男性で約9年、女性で約13年、平均寿命よりも短いという報告がされている。すなわち、介護を必要とする期間は依然として長く、いかに要介護状態に陥らないようにし健康寿命を延伸するかが、既に超高齢化社会が到来している日本に課せられた喫緊の課題でもある。
【0003】
高齢者においては加齢による様々な生理的予備能の衰えにより、外的なストレスに対する脆弱性が高まり、感染症、手術、事故を契機として要介護状態に陥る場合が増えてくる。このように、加齢とともに環境因子に対する脆弱性が徐々に高まりつつある状態を「フレイル」という。加齢に伴う身体機能の衰えは不可避的ではあるが、フレイルの段階であれば、適切な介入、支援により、要介護に至ることを予防でき、生活機能の維持向上が可能である。健康寿命の延伸に向けた取り組みにおいて、このフレイル段階における的確で効率的な介入、支援等の対策は重要である。しかし、高齢者のフレイルは、社会的、身体的、精神的など、多面的な障害要因や因果関係が複雑に絡み合っている。例えばサルコペニアは嚥下障害を引き起こす可能性があることが報告されている。嚥下障害により摂食が困難になると、それをきっかけに孤食がちになり、栄養状態の悪化のみならず、ひいては認知機能の低下を招くおそれもある。
【0004】
発明者らは、摂食嚥下機能に着目して、高齢者のフレイルがどの程度進行しているかを予備的に判断するための簡便な検査方法の確立を試みている。しかし、現状行われている嚥下機能を診断する方法としては、嚥下内視鏡検査(VE)又は嚥下造影検査(VF)といった侵襲性が高い検査方法しかなく、未だ機能障害には至っていないフレイル段階の高齢者を対象として行う検査方法としては不適であった。
【0005】
超音波画像診断は非侵襲的で簡便に計測できる検査方法である。筋エコーは、筋の萎縮の程度、異常な構造物の有無、筋繊維の走行、エコー輝度などで評価される(例えば非特許文献1参照)。例えば特許文献1には、エコー画像の関心領域における輝度変化曲線の比較に基づいて、疾患部位に対する鑑別診断等を高い精度で行なう超音波診断装置に関する技術が開示されている。
【0006】
発明者らは、若年者のグループと高齢者のグループとの比較において、超音波検査による嚥下筋と骨格筋との関連性を調べた。その結果、舌骨筋の面積と、身長、握力、最大舌圧等の骨格筋に関するパラメータとの間には正の相関があること、舌骨筋のエコー輝度と年齢との間には正の相関があること、舌骨筋のエコー輝度と、身長、握力、最大舌圧等との間には負の相関があることなどの知見を得た(例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−115457号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松本, 田井, 市丸 他著, コントロール筋を用いたエコー輝度測定の検討, 2015年, Neurosonology 28(2), 49 - 53頁
【非特許文献2】T. Mori, S. Izumi, Y. Suzukamo, T. Okazaki, S. Iketani 著, Ultrasonography to detect age-related changes in swallowing muscles, 2019年8月16日, European Geriatric Medicine, URL https://doi.org/10.1007/s41999-019-00223-y
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、現状行われている摂食嚥下機能の検査方法は侵襲性が高く、検査費用も高額であるという課題がある。
本発明は、このような従来の課題に鑑み、高齢者におけるフレイル進行度合いの予備的判断のために、非侵襲的な検査方法である超音波検査をベースに嚥下機能を簡便に評価できる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明は、超音波画像診断装置と、前記超音波画像診断装置が描出した被検者の喉部の超音波断層画像を解析する画像解析装置とを備えた、嚥下機能評価システムであって、前記画像解析装置が、前記超音波断層画像における、前記被検者の舌骨筋に相当する領域の輝度を少なくとも1つの判定要素として、当該被検者の嚥下機能性を評価する嚥下機能評価システムである。
【0011】
嚥下機能評価システムは、前記被検者の嚥下機能性を評価するための前記判定要素が、前記舌骨筋に相当する領域の幾何学的情報を含むものでもよい。
【0012】
また、嚥下機能評価システムは、前記画像解析装置が、前記嚥下機能性の高さを示す指標値を、
指標値=第一重み係数×前記領域の面積−第二重み係数×前記領域の輝度
の式を用いて演算し、演算した指標値に基づいて、前記被検者の嚥下機能性を定量的に評価するものでもよい。
【0013】
また、本発明は、超音波画像診断装置と、前記超音波画像診断装置が描出した被検者の喉部の超音波断層画像を解析する画像解析装置とを備えた、嚥下機能評価システムであって、前記画像解析装置が、前記超音波断層画像における、前記被検者の舌骨筋に相当する領域を抽出し、嚥下過程において変化する、前記領域の長手方向寸法の変化率を少なくとも1つの判定要素として、当該被検者の嚥下機能性を評価する嚥下機能評価システムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非侵襲的な検査である超音波検査により被検者の摂食嚥下機能を簡便に評価することができる。これにより、高齢者におけるフレイル進行度合い等の予備的判断に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例による嚥下機能評価システムの概略構成を示す図である。
図2】嚥下機能評価システムの機能ブロック図である。
図3】嚥下機能評価システムを用いた超音波検査方法を説明するための写真である。
図4】被検者の喉部正中矢状面のエコー画像の一例を示す写真である。
図5】舌骨筋領域が抽出されたエコー画像の一例を示す写真である。
図6】若年者グループと高齢者グループとで比較した舌骨筋面積の計測結果の一例を示す統計図(箱ひげ図)である。
図7】若年者グループと高齢者グループとで比較した舌骨筋領域の平均エコー輝度の計測結果の一例を示す統計図(箱ひげ図)である。
図8】弛緩時の舌骨筋領域(白実線)に収縮時の舌骨筋領域(白破線)を重ね合わせたエコー画像を例示する写真である。
図9】(a)は嚥下過程で変化する舌骨筋の長手方向最大径L1を例示する図であり、(b)は同舌骨筋の長手方向最小径L2を例示する図であり、(c)はそれら最大径L1及び最小径L2の変化角度を例示する図である。
図10】舌骨筋の矢状面における面積及びエコー輝度に基づいて摂食嚥下機能性を判定するための基準を例示する図である。
図11】嚥下評価指数Iと被検者の年齢Yとの関係の回帰分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、高齢者におけるフレイル進行度合いの予備的判断のために、非侵襲的な検査方法である超音波検査をベースに嚥下機能を簡便に評価できるシステムを提供するものである。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態による嚥下機能評価システム1の概略構成を示す図である。嚥下機能評価システム1は、超音波画像診断装置10と、超音波画像診断装置10が描出したBモードの超音波断層画像(以下、「エコー画像」という。)を解析する画像解析装置20とを備えている。超音波画像診断装置10で描出された被検者のエコー画像の映像信号は、一旦、ビデオキャプチャー装置30に取り込まれ、所定形式のデジタルデータに変換されて、画像解析装置20に伝送される。画像解析装置20は、超音波画像診断装置10から伝送される、被検者の喉部のエコー画像をリアルタイムでモニタリングすることができ、また、エコー画像の動画ファイル及び/又は時系列に保存された複数の静止エコー画像を画像解析することで、当該被検者の嚥下機能を定量的に評価することができる。
【0018】
より具体的に、画像解析装置20は、まず、被検者の喉部の矢状面を描出したエコー画像から、オトガイ舌骨筋に相当する領域を抽出する。なお、本明細書において、エコー画像における「オトガイ舌骨筋に相当する領域」を「舌骨筋領域」と略称する。
【0019】
嚥下機能性を評価するための判定要素は、例えば、喉部のエコー画像から抽出された舌骨筋領域の平均エコー輝度を含むことができる。
【0020】
エコー画像上で萎縮筋は、筋厚が減少するだけでなく、白っぽく映る(すなわちエコー輝度が高くなる)傾向にある。また、筋肉のエコー輝度は、筋生検で調べた結果、筋力低下に影響を与えうる筋内脂肪量と強い相関を示すことが知られている。つまり、舌骨筋のエコー輝度と嚥下機能性との間には負の相関があり、舌骨筋のエコー輝度を計測することで、嚥下機能性を定量的に評価することができる。
るといえる。
【0021】
また、嚥下機能性を評価するための判定要素は、喉部のエコー画像から抽出された舌骨筋領域の大きさに関する幾何学的情報を含むことができる。舌骨筋の大きさと嚥下機能性との間には正の相関があり、舌骨筋の大きさに関する幾何学的情報を計測することで、嚥下機能性を定量的に評価することができる。
【0022】
嚥下機能性の判定要素となる幾何学的評価パラメータは、具体的には、舌骨筋領域の面積、舌骨筋領域の長手方向又は短手(筋厚)方向における寸法等の何れか1つ又はこれらの組み合わせを含むことができる。
【0023】
また、嚥下過程における舌骨筋領域の幾何学的な変化の度合いにより、嚥下機能性を評価してもよい。例えば、嚥下過程において変化する、舌骨筋領域の長手方向径寸法の最大変化率を1つの判定要素として嚥下機能性を評価してもよい。
【0024】
また、舌骨筋領域のエコー輝度と、その舌骨筋領域の幾何学的評価パラメータとを組み合わせて、嚥下機能性を評価してもよい。具体的に例えば、舌骨筋領域のエコー輝度が第一の閾値以上であるとき、又は、舌骨筋領域の面積が第二の閾値以下であるとき、被検者の嚥下機能が低下していると判定することができる。また、これら複数の判定要素(評価パラメータ)に重み係数を乗算した線形加重和に基づいて、嚥下機能性を定量的に示す指標値を演算してもよい。
【実施例】
【0025】
図2は、本発明の一実施例による嚥下機能評価システム1の機能ブロック図である。本実施例の嚥下機能評価システム1は、被検者の摂食嚥下機能を非侵襲的に評価するため、超音波画像診断装置10と、超音波画像診断装置10が出力するBモードのエコー画像を解析する画像解析装置20とを備えている。超音波画像診断装置10が出力するエコー画像信号は、ビデオキャプチャー装置30を介して画像解析装置20に伝送される。
【0026】
超音波画像診断装置10は、装置制御部11と、装置制御部11に接続される超音波プローブ12とを備えている。装置制御部11は、キーボード及び画像モニター等であるユーザインタフェース113と、ビーム形成走査部111と、エコー画像描出部112とを備えている。ビーム形成走査部111は、ビーム走査信号を出力して超音波プローブ12の振動子を励起し、扇状の超音波ビームを被検者の皮下組織内部に向けて放射させる。超音波プローブ12は、皮下組織から反射した超音波エコーを受信し電気信号(エコー電気信号)に変換し、ビーム形成走査部111に送信する。ビーム形成走査部111は、受信したエコー電気信号と、形成した上述のビーム走査信号とをパラレルでエコー画像描出部112に送信する。エコー画像描出部112は、エコー電気信号の振幅、時間、位相差等を解析し、それらの情報に基づいて皮下組織内部の断層構造をBモードエコー画像(超音波断層画像)として描出する処理を行う。
【0027】
超音波画像診断装置10によって演算生成されたエコー画像信号は、HDMI(登録商標)フォーマットでビデオキャプチャー装置30に取り込まれる。ビデオキャプチャー装置30は、画像解析装置20のシステムと互換性や適合性のあるフレームレート及びフォーマットの映像信号に変換し、変換したデジタル画像信号をUSB(Universal Serial Bus)伝送方式で画像解析装置20に出力する。
【0028】
画像解析装置20は、超音波画像診断装置10から送信されたエコー画像信号を、画像処理部21の入力画像フレームメモリ211に取り込み一時的に記録する。データストレージ22には、これら受信したエコー動画像データや、時系列の静止エコー画像データセット等が保存される。
【0029】
本実施例では、摂食嚥下機能を非侵襲的に評価するため、特に食物を飲み込むときの喉の動きをつかさどる主要な筋肉であるオトガイ舌骨筋の超音波断層画像を撮影する。そのために、超音波検査に際しては、図3に示すように、被検者の顎下部から喉頭部にかけた正中線に沿って超音波プローブ12を逆さに当てて、超音波走査ビームを垂直上向きに放射する。図4に、超音波検査法により得られた、喉部正中矢状面のエコー画像の一例を示す。
【0030】
領域抽出部212は、当該被検者の喉部エコー画像から、舌骨筋領域を抽出する処理を行う演算処理部である。図5に、オトガイ舌骨筋領域が抽出されたエコー画像の一例を示す。なお、図5では、抽出された舌骨筋領域を囲む境界線が、特徴点とそれらをつなぐ白線で示されている。
【0031】
面積計測部213は、エコー画像におけるオトガイ舌骨筋領域に占める画素数、解像度及び画像スケールから、当該被検者の実際の矢状面のオトガイ舌骨筋面積Aを計測する演算処理部である。図6に、若年者グループ(年齢35.4±13.9歳、被検者数35人)と高齢者グループ(年齢74.5±5.5歳、被検者数69人)とで比較した舌骨筋面積Aの計測結果の一例を示す。同図に示すように、若年者グループと高齢者グループとでは、舌骨筋の面積(大きさ)に有意な差(p値<0.001)が認められる。高齢者に比較して若年者のほうが、嚥下機能が高いという経験則に照らせば、超音波検査で測定される舌骨筋面積を1つの判定要素として、摂食嚥下機能の程度を評価することができるといえる。
【0032】
輝度計測部214は、エコー画像において抽出されたオトガイ舌骨筋領域のエコー輝度の平均を計測する演算処理部である。図7に、若年者グループ(年齢35.4±13.9歳、被検者数35人)と高齢者グループ(年齢74.5±5.5歳、被検者数69人)とで比較した舌骨筋領域の平均エコー輝度Bの計測結果の一例を示す。なお、本実施例では、エコー輝度の数値を正規化するために、画素値を256階調(0〜255)に変換する8 bit gray scale法を用いている。
【0033】
図7に示すように、若年者グループと高齢者グループとでは、オトガイ舌骨筋のエコー輝度(筋内脂肪量の指標)に有意な差(p値<0.001)が認められる。上述したように、舌骨筋のエコー輝度と摂食嚥下機能性との間には負の相関があるので、超音波検査で計測される舌骨筋の平均エコー輝度を1つの判定要素として、摂食嚥下機能の程度を評価することができるといえる。
【0034】
なお、超音波検査におけるエコー輝度は、ゲインやSTC(sensitivity time control)等の検査条件を同一にしたとしても、診断装置間で微妙に誤差が生じる。そのため、例えば被検者の顎等の骨格領域を対照として撮像した輝度を較正値に用い、舌骨筋領域の輝度をその較正値で補正することが好ましい。
【0035】
変動量計測部215は、被検者が物を飲み込む際に撮影したエコー動画像を解析し、その過程で変化するオトガイ舌骨筋領域の寸法変化量を計測する演算処理手段である。図8に、弛緩時の舌骨筋領域(白実線)に収縮時の舌骨筋領域(白破線)を重ね合わせたエコー画像の例を示す。
【0036】
変動量計測部215は、例えば図9(a)、(b)に示すように、嚥下過程で変化するオトガイ舌骨筋領域の長手方向最大径L1の寸法|L1|と、長手方向最小径L2の寸法|L2|を計測し、それらの変化率C=|L2|/|L1|を演算することができる。また、例えば図9(c)に示すように、変動量計測部215は、舌骨筋領域の最大径L1と最小径L2とがなす角度(変化角度)θを計測することができる。このような、嚥下過程で変化する舌骨筋領域の長手方向径寸法の変化率や、長手方向径の変化角度を、摂食嚥下機能の程度を評価するための判定要素とすることができる。
【0037】
評価判定部216は、面積計測部213、輝度計測部214及び/又は変動量計測部215が計測した判定要素(評価パラメータ)の値に基づいて、摂食嚥下機能性を定量的に評価判定する演算処理手段である。
【0038】
図10に、矢状面のエコー画像から抽出されるオトガイ舌骨筋の面積A及びエコー輝度Bに基づいて、摂食嚥下機能性を判定する基準例を示す。同図は、嚥下機能の低下がみられる高齢者40名と、嚥下機能の低下がみられない高齢者100名と、若年の健常者30名とを含む合計170名の被検者の舌骨筋矢状面領域の面積A及び同領域の平均エコー輝度Bの測定値から導き出したものである。
【0039】
図10の基準によると、舌骨筋領域のエコー輝度Bが第一の閾値以上(71.5≦B)であるとき、又は、舌骨筋領域の面積Aが第二の閾値以下(A≦125.2mm2)であるとき、被検者の嚥下機能が低下している(要経過観察又は要精密検査)と判定することができる。
【0040】
評価判定部216は、また、これら複数の評価パラメータに重み係数を乗算した線形加重和に基づいて、嚥下機能性を定量的に示す指標値を演算してもよい。例えば、舌骨筋領域の面積A及びエコー輝度Bを評価パラメータとして、下記の数式(1)を用いて、嚥下機能評価指数Iを演算してもよい。

I=k×A−k×B ・・・数式(1)
ここで、k、kは、正の重み係数である。
【0041】
更に、評価判定部216は、嚥下過程において変化する、舌骨筋領域の長手方向径寸法|L1|、|L2|の変化率C(=|L2|/|L1|)や、それらの径の変化角度θ(図9参照)を、嚥下機能評価指数Iの評価パラメータの項に任意で加えてもよい(例えば数式(2))。

I=k×A−k×B+k×C+k×θ ・・・数式(2)
ここで、k、k、k、kは、正の重み係数である。

嚥下機能評価指数Iの値が小さいほど、嚥下機能が低下していると定量的に評価することができる。
【0042】
また、更に評価判定部216は、上述の嚥下機能評価指数Iから、被検者の「のど年齢」も判定することができる。ここで、図11は、多数の被検者から得た嚥下評価指数Iと被検者の年齢Yとの関係を回帰分析した図である。同図に示すような回帰関数Fをメモリに記憶しておき、当該被検者の嚥下評価指数Iを関数Fにあてはめることで、容易にのど年齢Yを求めることができる。
【0043】
評価判定部216により評価された判定結果は、結果出力部217により可視化されて画像解析装置20のディスプレイに表示される。また、判定結果のデータは、例えば病院施設内の電子カルテシステム等に出力されてもよい。
【0044】
本実施形態の嚥下機能評価システム1によれば、被検者の嚥下機能を、非侵襲的かつ簡便に評価することができる。これにより、高齢者におけるフレイル進行度合いの予備的判断に貢献することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 嚥下機能評価システム
10 超音波画像診断装置
11 装置制御部
12 超音波プローブ
20 画像解析装置
21 画像処理部
22 データストレージ
23 評価判定部
24 結果表示部
30 ビデオキャプチャー装置
111 ビーム形成走査部
112 エコー画像描出部
113 ユーザインタフェース
211 入力画像フレームメモリ
212 領域抽出部
213 面積計測部
214 輝度計測部
215 変動量計測部
216 評価判定部
217 結果出力部
【要約】      (修正有)
【課題】高齢者におけるフレイル進行度合いの予備的判断のため、被検者の嚥下機能を非侵襲的に、また簡便に評価できるシステムを提供すること。
【解決手段】嚥下機能評価システムは、超音波画像診断装置10と、超音波画像診断装置10が描出した被検者の喉部のBモードエコー画像を解析する画像解析装置20とを備える。画像解析装置20は、被検者の喉部矢状面におけるエコー画像から抽出されたオトガイ舌骨筋領域のエコー輝度と、舌骨筋領域の大きさに関する情報とに基づいて当該被検者の嚥下機能性を評価する。また、ものを飲み込む際の嚥下過程において変化する舌骨筋領域の変化量を、嚥下機能性評価のための判定要素に加えてもよい。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11