(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868400
(24)【登録日】2021年4月14日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】筒型電池の封口体、筒型電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/172 20210101AFI20210426BHJP
H01M 50/147 20210101ALI20210426BHJP
H01M 50/543 20210101ALI20210426BHJP
【FI】
H01M2/06 C
H01M2/04 C
H01M2/30 D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-5731(P2017-5731)
(22)【出願日】2017年1月17日
(65)【公開番号】特開2018-116799(P2018-116799A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】漆原 完二
【審査官】
儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−184466(JP,A)
【文献】
特開2008−251213(JP,A)
【文献】
特開2006−313795(JP,A)
【文献】
特開2014−116132(JP,A)
【文献】
実開昭60−059467(JP,U)
【文献】
実開平05−031108(JP,U)
【文献】
米国特許第04207390(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/172
H01M 50/147
H01M 50/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方を底部とした有底筒状の電池缶内に発電要素が密封されてなる筒型電池において、前記電池缶の上部開口を封止する封口体であって、
平板状の端子部の下面に下方に柱状に延長する挿通部を備えた電極端子と、
前記電池缶の開口部内周面に密接する平面形状を有するとともに、上面と下面を連絡する開口が形成された平板状の金属製封口板と、
電気絶縁性の樹脂からなり、前記封口板の上面および下面のそれぞれに面接触する上側および下側の平板部と、当該上側および下側の前記平板部を連絡しつつ前記封口板の開口に挿通される中空筒状の軸部とを有するガスケットと、
を備え、
前記端子部における下面の平面領域内に平板状の段差部が形成され、
前記挿通部は、前記段差部の下面から下方に延長し、
前記段差部の下面には、非円形の平面形状を有して前記挿通部を環状に周回しつつ下方に突出する突起が形成され、
前記ガスケットは、前記上側平板部の下面に非円形の平面形状を有して下方に突出する上側凸部が形成されているとともに、前記下側平板部の上面に非円形の平面形状を有して上方に開口する下側凹部が形成され、
前記封口板の上面には前記開口の周囲に前記上側凸部と係合する平面形状を有する封口板凹部が形成されているとともに、前記封口板の下面には前記開口の周囲に前記下側平板部の前記凹部に係合する封口板凸部が形成され、
前記ガスケットは、前記軸部に前記挿通部が挿通されつつ、前記上側平板部の上面に前記突起が埋没するとともに、前記上側凸部および前記下側凹部が圧縮状態で前記封口板凹部の内面および前記封口板凸部の外面に密接している、
ことを特徴とする筒型電池の封口体。
【請求項2】
請求項1において、前記上側凸部の平面領域は、前記段差部の平面領域を包含していることを特徴とする筒型電池の封口体。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ガスケットが、前記上側凸部を有する上側ガスケットと、前記封口板を挟んで前記上側ガスケット反対側に配置される下側ガスケットとからなり、
前記上側ガスケットと前記下側ガスケットの少なくとも一方に前記軸部が形成され、
前記上側ガスケットの前記封口板と隣接する側に前記上側凸部が形成され、
前記下側ガスケットの前記封口板と隣接する側に、前記下側凹部が形成されている、
ことを特徴とする筒型電池の封口体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記封口板の下面には、前記封口板凹部の裏側として前記封口板凸部が現れていることを特徴とする筒型電池の封口体。
【請求項5】
下方を底部とした有底筒状の電池缶と、当該電池缶の内側に配置されている発電要素と、前記電池缶の開口部を封止するための封口体とを有する筒型電池であって、
前記封口体は、
平板状の端子部の下面に下方に柱状に延長する挿通部を備えた電極端子と、
前記電池缶の開口部内周面に密接する平面形状を有するとともに、上面と下面を連絡する開口が形成された平板状の金属製封口板と、
電気絶縁性の樹脂からなり、前記封口板の上面および下面のそれぞれに面接触する上側および下側の平板部と、当該上側および下側の前記平板部を連絡しつつ前記封口板の開口に挿通される中空筒状の軸部とを有するガスケットと、
を備え、
前記端子部における下面の平面領域内に平板状の段差部が形成され、
前記挿通部は、前記段差部の下面から下方に延長し、
前記段差部の下面には、非円形の平面形状を有して前記挿通部を環状に周回しつつ下方に突出する突起が形成され、
前記ガスケットは、前記上側平板部の下面に非円形の平面形状を有して下方に突出する上側凸部が形成されているともに、前記下側平板部の上面に非円形の平面形状を有して上方に開口する下側凹部が形成され、
前記封口板の上面には前記開口の周囲に前記上側凸部と係合する平面形状を有する封口板凹部が形成されているとともに、前記封口板の下面には前記開口の周囲に前記下側平板部の前記下側凹部に係合する封口板凸部が形成され、
前記ガスケットは、前記軸部に前記挿通部が挿通されつつ、前記上側平板部の上面に前記突起が埋没するとともに、前記上側凸部および前記下側凹部が圧縮状態で前記封口板凹部の内面および前記封口板凸部の外面に密接し、
前記挿通部の下端面が前記発電要素と電気的に接続している、
ことを特徴とする筒型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型電池の封口体および筒型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
筒型電池は、ノートパソコン、デジタルカメラ等、さまざまな電子機器の電源として用いられている。一般的な筒型電池は、電解液を含む発電要素が正負いずれかの電極集電体を兼ねる有底筒状の電池缶内に収容されている。当然のことながら、筒型電池には内容物の漏出を確実に防止しうる高度の密閉性が要求される。そして筒型電池において、電池缶の開口を封止し、電池缶内を密閉するための構成が封口体である。封口体は、電池缶開口の蓋となる金属製封口板に電極端子を電気的に絶縁された状態で取り付けた構造を基本としている。
【0003】
図6は筒型電池101における一般的な封口構造を示す図であり、ここでは正負一方の電極の集電体を兼ねる円筒状の電池缶2の開口12が封口体(以下、従来例に係る封口体110とも言う)によって封止されてなる円筒型電池101を、円筒軸100を含む平面で切断したときの縦断面の一部を拡大した図を示した。なお、以下では、円筒軸100の延長方向を上下方向とするとともに、電池缶2の開口12を上方として上下の各方向を規定することとする。そして、従来例に係る封口体110は、円板状の金属製封口板(以下、封口板120とも言う)、他方の電極の端子(以下、電極端子130とも言う)、金属製ワッシャ(以下、ワッシャ140とも言う)、電気絶縁性の樹脂からなるガスケット150を含んで構成されている。
【0004】
図7は電極端子130を下方から見たときの斜視図であり、
図7に示したように、電極端子130は、円板状の端子部131の下面133に当該端子部131と同軸となる円柱状の挿通部132が下方に向けて延長するように突設されてなる。また、端子部131の下面133には、平面形状が円環状となる突起136が挿通部132と同軸となるように形成されている。
【0005】
図8は従来例に係る封口体110を分解したときの縦断面図である。封口板120は中央に円形の開口121を有する円板状で、その縁が上方に向かって屈曲して周縁折り曲げ部122を形成している。ワッシャ140は単純な円板状で中央に円形の開口141を有している。ガスケット150は封口板120の上面123と下面124のそれぞれに面接触する円板部分(152a、152b)が中空円筒状の軸部153を介して連絡した構造を有している。なお、ここに示したガスケット150は、封口板120の上面123と下面124のそれぞれに面接触する二つのガスケット(150a、150b)から構成されている。上方のガスケット(以下、上側ガスケット150aとも言う)は、下面157aが封口板120の上面123に面接触する円板部
分(以下、上側
平板部152aとも言う)と軸部153とが一体成形されてなる。そして上側ガスケット150aには上側
平板部152aの上面155aから軸部153の内部を経て当該軸部153の下端面156まで貫通する孔151aが形成されている。
【0006】
一方、下方のガスケット(以下、下側ガスケット150bとも言う)は封口板
120の下面124に面接触する円板部
分(以下、下側
平板部152bとも言う)の周囲に下方に垂設される側壁部154を有して、下側
平板部152bを底部とした扁平カップ状に一体成形されている。そして下側
平板部152bの中央には上面157bと下面155bを連絡する円形の開口151bが形成されている。
【0007】
上述した各部品(120、140、150a、150b)と電極端子130とを用いて一体的な封口体110を組み立てるためには、まず、封口板120の開口121に上側ガスケット150aの軸部153を嵌め合い状態で挿通させるとともに、電極端子130の挿通部132を、上側ガスケット150aの孔151a、下側ガスケット150bの開口151b、およびワッシャ140の開口141に順に嵌め合い状態で挿通させる。次いで電極端子130の上面134と挿通部132の下端面135との間を軸100方向に押圧して挿通部132を拡径方向に変形させる。それによって電極端子130の端子部131の下面133と挿通部132の下端面135との間の各部材(150a、120、150b、140)がかしめ付けられ、上側ガスケット150aの軸部153が封口板120の開口121内面と挿通部132の外周面との間で圧縮されて軸部153が封口板120に嵌着される。また、電極端子130における端子部131の下面133に突設されている突起136が上側ガスケット150aの上面155aに食い込む。このようにして一体的な封口体110が完成する。そしてレーザー光線などによって封口板120の周縁折り曲げ部122を電池缶2の上端11の内周に沿って溶接することで電池缶2が封止される。なお円筒型電池の封口構造については例えば以下の特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016−38991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6および
図8に示した従来例に係る封口体110は、電極端子130における円柱状の挿通部132を、封口板120、ガスケット150、およびワッシャ140に形成されている円形の開口や孔(121、151a、151b)に挿通していた。また、電極端子130における端子部131の下面133に形成されている突起136は、平面形状が円形である。そのため電極端子130に強い力が加わると、円柱状の挿通部132が軸100周りに回転し、挿通部132とガスケット150との密着性が低下するという問題があった。挿通部132とガスケット150との密着性が低下すれば漏液が発生する可能性が高くなる。
【0010】
例えば、筒型電池を回路基板に直接実装するために、電極端子にリードタブを溶接などによって取り付ける場合などでは、そのリードタブに外部から強い力が加わると、その力が電極端子にも及ぶ。電池の落下などによって電極端子に強い力が加わる場合もある。従来の筒型電池101における封口体110では、このような場合、挿通部132とガスケット150との密着性が低下する可能性があった。
【0011】
そこで本発明は、電極端子が回転することによる漏液を防止するとともに、密閉性をより向上させた筒型電池の封口体および筒型電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明は、下方を底部とした有底筒状の電池缶内に発電要素が密封されてなる筒型電池において、前記電池缶の上部開口を封止する封口体であって、
平板状の端子部の下面に下方に柱状に延長する挿通部を備えた電極端子と、
前記電池缶の開口部内周面に密接する平面形状を有するとともに、上面と下面を連絡する開口が形成された平板状の金属製封口板と、
電気絶縁性の樹脂からなり、前記封口板の上面および下面のそれぞれに面接触する上側および下側の平板部と、当該上側および下側の前記平板部を連絡しつつ前記封口板の開口に挿通される中空筒状の軸部とを有するガスケットと、
を備え、
前記端子部における下面の平面領域内に平板状の段差部が形成され、
前記挿通部は、前記段差部の下面から下方に延長し、
前記段差部の下面には、非円形の平面形状を有して前記挿通部を環状に周回しつつ下方に突出する突起が形成され、
前記ガスケットは、前記上側平板部の下面に非円形の平面形状を有して下方に突出する上側凸部が形成されているとともに、前記下側平板部の上面に非円形の平面形状を有して上方に開口する下側凹部が形成され、
前記封口板の上面には前記開口の周囲に前記上側凸部と係合する平面形状を有する封口板凹部が形成されているとともに、前記封口板の下面には前記開口の周囲に前記下側平板部の前記凹部に係合する封口板凸部が形成され、
前記ガスケットは、前記軸部に前記挿通部が挿通されつつ、前記上側平板部の上面に前記突起が埋没するとともに、前記上側凸部および前記下側凹部が圧縮状態で前記封口板凹部の内面および前記封口板凸部の外面に密接している、
ことを特徴とする筒型電池の封口体としている。
【0013】
前記上側凸部の平面領域は、前記段差部の平面領域を包含していることを特徴とする筒型電池の封口体とすることもできる。また、前記ガスケットが、前記上側凸部を有する上側ガスケットと、前記封口板を挟んで前記上側ガスケット反対側に配置される下側ガスケットとからなり、前記上側ガスケットと前記下側ガスケットの少なくとも一方に前記軸部が形成され、前記上側ガスケットの前記封口板と隣接する側に前記上側凸部が形成され、前記下側ガスケットの前記封口板と隣接する側に、前記下側凹部が形成されている筒型電池の封口体とすることもできる。前記封口板の下面には、前記封口板凹部の裏側として前記封口板凸部が現れている筒型電池の封口体としてもよい。
【0014】
また本発明の範囲には、下方を底部とした有底筒状の電池缶と、当該電池缶の内側に配置されている発電要素と、前記電池缶の開口部を封止するための封口体とを有する筒型電池も含まれている。そして当該筒型電池の前記封口体は、
平板状の端子部の下面に下方に柱状に延長する挿通部を備えた電極端子と、
前記電池缶の開口部内周面に密接する平面形状を有するとともに、上面と下面を連絡する開口が形成された平板状の金属製封口板と、
電気絶縁性の樹脂からなり、前記封口板の上面および下面のそれぞれに面接触する上側および下側の平板部と、当該上側および下側の前記平板部を連絡しつつ前記封口板の開口に挿通される中空筒状の軸部とを有するガスケットと、
を備え、
前記挿通部は、前記端子部の下面に平板状に形成された段差部の下面から下方に延長し、
前記段差部の下面には、非円形の平面形状を有して前記挿通部を環状に周回しつつ下方に突出する突起が形成され、
前記ガスケットは、前記上側平板部の下面に非円形の平面形状を有して下方に突出する上側凸部が形成されているともに、前記下側平板部の上面に非円形の平面形状を有して上方に開口する下側凹部が形成され、
前記封口板の上面には前記開口の周囲に前記上側凸部と係合する平面形状を有する封口板凹部が形成されているとともに、前記封口板の下面には前記開口の周囲に前記下側平板部の前記
下側凹部に係合する封口板凸部が形成され、
前記ガスケットは、前記軸部に前記挿通部が挿通されつつ、前記上側平板部の上面に前記突起が埋没するとともに、前記上側凸部および前記下側凹部が圧縮状態で前記封口板凹部の内面および前記封口板凸部の外面に密接し、
前記挿通部の下端面が前記発電要素と電気的に接続している。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る筒型電池の封口体および筒型電池によれば、高い密閉性を備えるとともに、外部からの衝撃が電極端子に加わっても電極端子が回転せず、漏液を確実に防止することができる。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例に係る封口体を備えた筒型電池の一例を示す縦断面図である。
【
図3】上記実施例に係る封口体を構成する電極端子の構造を示す図である。
【
図4】上記実施例に係る封口体の分解斜視図である。
【
図5】上記実施例に係る封口体を分解したときの縦断面図である。
【
図7】上記従来例に係る封口体を構成する電極端子の斜視図である。
【
図8】上記従来例に係る封口体を分解したときの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0018】
===筒型電池の構造===
図1に本発明の実施例に係る封口体10を備えた筒型電池1の一例を縦断面図にして示した。
図1に示した筒型電池1は、スパイラル型リチウム一次電池であり、正極集電体を兼ねる電池缶2内に、正極3、負極4、セパレータ5、および非水系有機電解液6が発電要素として収納されているとともに、電池缶2の開口が封口体10によって封止された基本構造を有する。正極3は、スラリー状の正極材料を例えばステンレス製ラス板に塗布したものを所定の大きさに切断した後に乾燥させたものであり、負極4は板状のリチウム金属やリチウム合金(以下、負極リチウム4とも言う)である。そしてこの負極リチウム4と正極3が、例えばポリオレフィン製微多孔膜からなるセパレータ5を介して対向配置されて帯状の電極体に形成されている。そしてその帯状の電極体が巻回された状態で電池缶2内に挿入されている。そして封口体10によって密封された電池缶2内には、リチウム塩を非水系溶媒に溶解させた非水系有機電解液6が充填されている。また正極3と後述する電極端子における挿通部の下面、および負極リチウム4と電池缶2の内面が、それぞれ正極タブ7、および負極タブ8を介して接続されている。なお本発明は、筒型電池の封口体に関するものであり、
図1に示した円筒状の筒型電池に限らず、角筒型など他の形状の筒型電池にも適用できる。もちろん本発明が適用される筒型電池には一次電池も二次電池も含まれる。またアルカリ電池などの他の形式の筒型電池にも適用することができる。
【0019】
===封口体の構造===
図1に示したように、電池缶2の開口端は封口体10によって密封されている。
図2に筒型電池1の上端側を拡大した縦断面図を示した。
図2に示したように、本実施例における封口体10は、
図6に示した従来の筒型電池101における封口体110と同様に、金属からなる円板状の封口板20、電気絶縁性の樹脂からなるガスケット50、電極端子30、およびワッシャ40を備え、これらの部品が円筒軸100と同軸となるように上下方向に配置されている。なおここに示したガスケット50も封口板20を挟んで上下方向に配置される上側ガスケット50aと下側ガスケット50bの二つの部材から構成され、この例では下側ガスケット50bに封口板20の開口21に挿通される軸部53が形成されている。そして電極端子30は、円盤状の端子部31と当該端子部31の下面33に突設されている円柱状の挿通部32を有し、上側ガスケット50a、下側ガスケット50b、およびワッシャ40の中央には、電極端子30の挿通部32が挿通される孔(51a、51b)や開口41が設けられている。そして下側ガスケット50bの軸部53が封口板20の開口21に挿通されつつ、電極端子30の挿通部32が、上方から、上側ガスケット50aと下側ガスケット50bの孔(51a、51b)、およびワッシャ40の開口41に順次挿通されているとともに、挿通部32が軸100の方向に押圧されて上側ガスケット50a、封口板20、下側ガスケット50b、およびワッシャ40がかしめ付けられている。それによって封口体10が一体的な一つの部品として組み立てられている。なお封口板20、ワッシャ40は、鉄材、ステンレス鋼帯等の金属材料からプレス成形により形成することができ、ガスケット50a、50bは、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等の、熱可塑性、電気絶縁性を有する合成樹脂により形成することができる。
【0020】
ここまでの封口体10の構成や構造は
図6に示した従来の筒型電池101における封口体110と同様である。しかし本実施例における封口体10では、電極端子30における円板状の端子部31の下面33の領域内に円板状の段差部37が形成されており、挿通部32は、その段差部37の下面38に形成されている。それによって、電極端子30は、端子部31と段差部37と挿通部31とによって、下方に向かって徐々に縮径する3段円筒状となっている。なお、本実施例における段差部37は円板状であるが、矩形平板状など、平板状であれば、その平面形状はどのようなものであってもよい。そして、挿通部32を周回する突起36は、この段差部37の下面38に形成されている。
【0021】
図3に本実施例に係る封口体10を構成する電極端子30の構造を示した。
図3(A)は電極端子30を下方から見たときの斜視図であり、
図3(B)は電極端子30を下方から見たときの平面図である。この
図3に示したように挿通部32を周回する突起36の平面形状は非円形であり、この例では挿通部32と同軸となる正六角形の輪郭を有する環状に形成されている。そして、電極端子30をかしめて封口体10を組み立てると、
図2に示したように、端子部31の突起36が樹脂製の上側ガスケット50aの上面に食い込んで突起36が上側ガスケット50aに埋没する。このとき、突起36の平面形状が非円形なので、少なくとも、端子部31に軸100周りの力が加わっても電極端子30と上側ガスケット50aとが相対的に回転しなくなる。
【0022】
しかしその一方で、端子部31の下面33に非円形の平面形状を有する突起36を設けただけでは、電極端子30と上側ガスケット50aが一体となって封口板20や下側ガスケット50bに対して回転する可能性がある。そこで本実施例に係る封口体10では、上側ガスケット50aに対して封口板20や下側ガスケット50bが相対的に回転するのを防止するための構造を備えている。
図4に本実施例に係る封口体10を上方から見たときの分解斜視図を示した。また
図5に封口体10を部材毎に分解したときの縦断面図を示した。以下、
図4と
図5を参照しつつ封口体10のより詳細な構造について説明する。まず上側ガスケット50aは、上側
平板部52aの下面57aに中空筒状の凸部58aを備える。この凸部(以下、上側凸部58aとも言う)の平面形状は非円形であり、この例では六角形である。また、上側ガスケット50aの中央には上側
平板部52aの上面55aから上側凸部58aの下端面56aにまで連絡する孔51aが形成されている。
【0023】
また本実施例では、上側ガスケット50aにおける上側
平板部52aの上面55aには、電極端子30における段差部37と係合する上側凹部60が形成されている。この上側凹部60は、封口体10の組み立て後の上下方向の高さを調整するためのものであり、上側凹部60は、必ずしも必要な構成ではない。ここでは、後述する、本実施例の封口体10と、
図6および
図8に示した従来例に係る封口体110との封止性能を比較する際に、双方の封口体(10、110)の組み立て条件を揃えるために凹部37を設けている。具体的には、電極端子(30、130)における端子部(31、131)の上面(34、134)と下面(33、133)を上下方向に同じ圧力で圧縮して封口体(10、110)を組み立てた際に、双方の封口体(10、110)が同じ高さとなるように上側凹部60を設けている。なお、上側凹部60の深さは、上側凹部60の底に段差部37の下面38が確実に当接するように、段差部37の高さ以下となっている。ここでは、上側凹部60の深さと段差部37の高さを同じにしている。
【0024】
円板状の封口板20は周縁に上方に屈曲する周縁折り曲げ部22が形成され、円板中央には円形の開口21を有する。封口板20は、その上面23で上側
平板部52aの下面57aを受けることから、開口21の周辺には、上側ガスケット50aの上側凸部58aに係合する六角形の平面形状を有する凹部(以下、封口板凹部25aとも言う)が設けられている。なお封口板20の下面24には上記封口板凹部25aを設けたことで現れる六角形の平面形状を有する凸部(以下、封口板凸部25bとも言う)が形成されている。そしてこのような構造を有する封口板20は、金属プレス加工によって形成することができ、封口板凹部25aの形状寸法は、上側ガスケット50aの材質、上側凸部58aの形状や突出寸法に応じて設定されている。
【0025】
封口板20の下面24は、下側ガスケット50bの上面57bにより受けられる。そして
図5に示したように、下側ガスケット50bは上方を底部とした扁平カップ状で、底部に対応して円形平面形状を有する下側
平板部52bの周囲に下方に垂設される側壁部54が形成されている。開口51bの周辺には、封口板凸部25bに対応する凹部(以下、下側凹部58bとも言う)が設けられている。そして封口板20の開口21に挿通される中空円筒状の軸部53が当該下側凹部58bの底面59に上方に突出形成され、その軸部53には上端面56bから下側
平板部52bの下面55bに至る開口51bが形成されている。なお下側凹部58bの形状と深さは、封口板凸部25bの形状や突出寸法に応じて決定することができる。
【0026】
上述した各部品からなる封口体10では、上側および下側の各ガスケット(50a、50b)と封口板20において、上側凸部58aが封口板凹部25aに係合し、封口板凸部25bが下側凹部58bに係合する。そして下側ガスケット50bの軸部53が封口板20の開口21に挿通されるとともに、電極端子30の挿通部32が上側および下側の各ガスケット(50a、50b)の孔51aや開口51bとワッシャ40の開口41に挿通された状態で上下方向に圧縮されるように押圧されると、上側および下側のガスケット(50a、50b)における非円形の平面形状を有する上側凸部58aおよび下側凹部58bが圧縮変形して、それぞれの外面および内面が、それぞれに対応する平面形状を有する封口板凹部25aの内面および封口板凸部25bの外面に密着する。それによって電極端子30に軸100周りの力が加わっても電池缶2に強固に溶接された封口板20に対してガスケット50が回動することがない。
【0027】
もちろん上側凸部58aおよび下側凹部58bが封口板凹部25aと封口板凸部25bに密着することは、封口体10による電池缶2の密封性能をより向上させる効果も奏する。さらに電極端子30の突起36が上側
平板部52aに埋没しているため、この突起36が堰となって、挿通部32を下方から上方に伝って端子部31の下面33と上側
平板部52aの上面55aとの境界面を経て電池1の外方に向かう漏液経路が閉鎖される。それによって漏液の可能性をさらに低減させることもできる。
【0028】
ところで、本実施例の封口体10では、封口板20の上面および下面に、上側ガスケット50aの上側凸部58aおよび下側ガスケット50bの下側凹部58bのそれぞれと係合する封口板凹部25aおよび封口板凸部25bが形成されていることから、
図6および
図8に示した従来例に係る封口体110に対し、ガスケット50の厚さ、すなわち上側ガスケット50aの上面55aから下側ガスケット50bの下面55bまでの厚さが大きくなる。もし、電極端子30の端子部31の下面33の形状が、従来の封口体110と同様に段差部37の無い形状であるならば、封口体10の組み立てに際し、その厚いガスケット50を電極端子30の端子部30の下面33とワッシャ40との間で圧縮することになる。そのため、ガスケット50が上下方向に大きく圧縮されず(薄くならず)、上側ガスケット50aの上側凸部58aや下側ガスケット50bの軸部53における拡径方向への変形が小さくなる。その結果、上側凸部58aと封口板20における封口板凹部25aの内周面との密着度、あるいは軸部53と封口板20の開口21の内周面との密着度が低下する可能性がある。また、ガスケット50が上下方向により大きく圧縮されないと、ガスケット50が封口板20を上下方向で押さえつける力も弱くなる可能性がある。そこで、本実施例の封口体10では、電極端子30の端子部31の下面33に段差部37を設け、ガスケット50にこの段差部37の体積分を余分に埋没させ、ガスケット50がより大きく圧縮されるようにしている。
【0029】
なお、本実施例では、封口体10を上方から見たときに、上側ガスケット50aの上側凸部58aの平面領域内に電極端子30の段差部37が包含されている。そのため、段差部37が上側ガスケット50aの上面を下方に押圧したとき、上側凸部58aの形成領域が他の領域よりも選択的に圧縮され,上側凸部58aが拡径方向により変形し易くなる。すなわち、上側凸部58aの外周面が封口板20における封口板凹部25aの内周面により強く密着して、上側ガスケット50aが封口板20に対してより回転し難いようになっている。
【0030】
===封止性能試験===
本実施例に係る封口体10の封止性能を確認するため、本実施例に係る封口体10と、
図6に示した従来例に係る封口体110とを10個ずつ用意した。なお、上述したように、本実施例の封口体10における電極端子30の段差部37の高さや上側ガスケット50aの上側凹部60の深さは、当該封口体10が従来例の封口体110と同じ強度でかしめられて組み立てられた際、従来例の封口体110と同じ高さとなるように設定されている。 そして各封口体(10、110)について、封口板(20、120)に対して電極端子(30、130)を相対的に回転させる封止性能試験を行った。ここでは封口板(20、120)の周囲を治具によって把持し、電極端子(30、130)の端子部(31、131)の周囲をトルク計で把持した。そして封口板(20、120)を固定し、端子部(31、131)に掛ける軸100周りのトルクを増加させていき、電極端子(30、130)が回転し始めたときのトルクを測定した。
【0031】
表 1に上記封止性能試験の結果を示した。
【0032】
【表1】
表1では本実施例と従来例のそれぞれに対応する10個ずつの封口体について、測定したトルクの最大値と最小値を示した。そしてこの表1に示されているように、従来例に係る封口体では30〜40N・cmの回転トルクで電極端子が回転し始めるが、本実施例に係る封口体10では60〜70N・cmの回転トルクで回転し始め、従来例に対し、約2倍のトルクまで耐えられることが確認できた。
【0033】
===その他の実施例===
上記実施例に係る封口体10では、突起36、およびガスケット50と封口板20の係合形状が正六角形であったが、他の多角形状や楕円状など円形でなければ特に限定されない。上記実施例では製造容易性を考慮し、突起36や上記係合形状を形成する平面形状が円筒軸100と同軸であったが、もちろん同軸でなくてもよい。突起36の下端は鋭利な形状でなくてもよく、ガスケット50の破断なども考慮して突起36を上端から下端に向けて一定幅の周壁状に形成したり、下端をR状に丸めたりしてもよい。
【0034】
上記実施例に係る封口体10では、ワッシャ40を設けていたが、ワッシャ40は必ずしも必要はない。しかしワッシャ40を設けることで、かしめによって拡径方向に変形した挿通部32がワッシャ40の開口41の内周に嵌着し、下側ガスケット50bの下側
平板部52bがワッシャ40によって均一に圧縮される。また挿通部32がワッシャ40の開口41に嵌着されるため、挿通部32がガスケット50の孔(51a、51b)から抜けることを確実に防止することができる。
【0035】
上記実施例に係る封口体10では、下側ガスケット50bに軸部53が形成されていたが、上側ガスケット50aに軸部を形成することもできる。この場合は上側凸部58aの下端面56aに下方に突出する軸部を連続させればよい。またガスケットを上側と下側の二つの部品で構成せず一体的な一つの部品として構成してもよい。例えば、金属製の封口板を内型として樹脂製のガスケットをインサート成形すれば、封口板とガスケットを一体的に成形することができる。
【0036】
ガスケット50の軸部53を角筒状など、非円形の中空筒状に形成し、封口板20の開口21の平面形状をこの軸部53の平面形状に係合する形状とすることも考えられる。しかし軸部53を開口21に挿通する際に軸100周りの双方の平面形状が一致しないと却って軸部53の外周面と開口のない周面との間に隙間が生じ、密閉性を劣化させる可能性がある。したがって軸部53と開口21の平面形状は円形である方が望ましい。
【0037】
上記実施例において、封口板20の下面24に突出する封口板凸部25bは、上面23の封口板凹部25aが下面に現れることで形成されていたが、封口板20の上面23を切削して封口板凹部25aを形成し、封口板20の下面24の一部を肉厚にして封口板凸部25bを形成することもできる。もちろん金属プレス加工によって封口板凹部25aと封口板凸部25bを同時に形成すれば、より安価に封口板20を製造することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 筒型電池、2 電池缶、10,110封口体、11 電池缶の上端、20,120 封口板、21 封口部の開口、25a 封口板凹部、25b 封口板凸部、30,130 電極端子、31,131 端子部、32,132 挿通部、36 突起、37 段差部、40,140 ワッシャ、50,150 ガスケット、50a,150a 上側ガスケット、50b,150b 下側ガスケット、51a 上側ガスケットの孔、51b 下側ガスケットの孔、52a 上側
平板部、52b 下側
平板部、53 軸部、58a 上側凸部、58b 下側凹部、60 上側凹部