特許第6868462号(P6868462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868462
(24)【登録日】2021年4月14日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】無線中継装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/38 20150101AFI20210426BHJP
   H04B 7/15 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   H04B1/38
   H04B7/15
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-93846(P2017-93846)
(22)【出願日】2017年5月10日
(65)【公開番号】特開2018-191215(P2018-191215A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岩田 幸一郎
【審査官】 大野 友輝
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0173202(US,A1)
【文献】 特開2005−101986(JP,A)
【文献】 特開2002−185381(JP,A)
【文献】 特表2002−511673(JP,A)
【文献】 特開2003−324383(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/145491(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/38
H04B 7/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板上に形成された受信アンテナであって、第1電磁波を第1RF信号に変換する受信アンテナと、
前記基板上に形成された第1無線ICであって、前記受信アンテナにて得られた前記第1RF信号をベースバンド信号に変換する第1無線ICと、
前記基板上に形成された第2無線ICであって、前記第1無線ICにて得られた前記ベースバンド信号を第2RF信号に変換する第2無線ICと、
前記基板上に形成された送信アンテナであって、前記第2無線ICにて得られた前記第2RF信号を第2電磁波に変換する送信アンテナと、を備えており、
前記第1無線ICと前記第2無線ICとは、前記基板上に形成された配線であって、前記ベースバンド信号を伝送するための配線で接続されており
前記基板は、フレキシブル基板であり、前記受信アンテナと前記送信アンテナとが互いに異なる方向を向くように折り曲げられている、
ことを特徴とする無線中継装置。
【請求項2】
前記基板において前記受信アンテナ及び前記第1無線ICが配置された領域を補強する第1補強板と、前記基板において前記送信アンテナ及び前記第2無線ICが配置された領域を補強する第2補強板と、を更に備えており、
前記基板は、前記第1補強板と前記第2補強板との間が稜線となるように折り曲げられている、
ことを特徴とする請求項に記載の無線中継装置。
【請求項3】
前記受信アンテナ及び前記送信アンテナのそれぞれは、互いに最大利得方向の異なる指向性アンテナである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無線中継装置。
【請求項4】
前記受信アンテナ及び前記送信アンテナのそれぞれは、最大利得方向が可変である指向性アンテナである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無線中継装置。
【請求項5】
前記基板は、液晶ポリマーを基材とする基板である、
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の無線中継装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線中継装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信における通信距離を延長させるために、送信元(例えば基地局)から送信された電波を、送信元から見通しが悪い(又は見通すことができない)場所に存在する受信先(例えば端末)でも受信可能にするための無線中継装置が、例えば、特許文献1,2に開示されている。
【0003】
特許文献1の図1には、電波を透過しない障壁によって隔てられた基地局と端末(特許文献に記載の端末機)との間で無線通信を実現するための無線中継装置が記載されている。この無線中継器は、結合アンテナと中継アンテナとをメタルケーブル(同軸ケーブル及びリボン型フィーダ)を用いて接続した構成である。この無線中継装置では、障壁の両側にまたがるようにメタルケーブルを配置し、障壁によって隔てられた2つの空間のうち基地局側の空間に結合アンテナを配置し、これらの2つの空間のうち端末側の空間に中継アンテナを配置する。結合アンテナを基地局が備えている基地アンテナと結合可能な位置に配置し、且つ、中継アンテナを端末と結合可能な位置に配置することによって、この無線中継装置は、障壁によって隔てられた基地局と端末との間における無線送信を実現する。
【0004】
特許文献2の例えば図1には、屋外に存在する基地局と、屋内に存在する端末(特許文献2に記載の端末局)との間で無線通信を実現するための無線中継装置が記載されている。この無線中継装置は、2つのアンテナと、2つの無線回路と、2つのベースバンド回路と、2つの制御部と、1つのDPRAMとを備えている。この無線中継装置は、一方のアンテナが基地局から電波を受信した場合に、まず、その電波に重畳している無線信号を一方の無線回路を用いてベースバンド信号に変換し、このベースバンド信号を一方のベースバンド回路を用いてデータ信号へ復号化する。その後、このデータ信号を他方のベースバンド回路を用いてベースバンド信号に符号化し、このベースバンド信号を他方の無線回路を用いて無線信号へ変換し、この無線信号を重畳させた電波を他方のアンテナから端末へ送信する。このように、この無線中継器は、基地局と端末との間における無線通信を中継することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−185381号公報(2002年6月28日公開)
【特許文献2】特開2005−101986号公報(2005年4月14日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている無線中継装置においては、中継する電波の周波数が高いほど、メタルケーブルにおける電波の伝送損失が大きくなる。このため、特許文献1に開示されている無線中継装置を、マイクロ波又はミリ波を用いた無線通信に適用した場合、電波の中継効率が大幅に下がったり、基地局と端末機との通信が困難になったりする虞がある。
【0007】
特許文献2に開示されている無線中継装置においては、ベースバンド信号をデータ信号に復号化する処理、及び、このデータ信号をベースバンド信号に符号化する処理が必要となる。この復号化及び符号化の処理は、負荷が大きな処理であるため、特許文献2に開示されている無線中継装置は、無線通信の中継に伴い長い時間遅延が生じるという課題を有する。また、この復号化及び符号化の処理は、負荷が大きな処理であるため、無線中継装置を構成する回路(IC)のコストの増加にもつながる。
【0008】
本発明の一態様は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、マイクロ波又はミリ波を用いた無線通信における無線中継装置において、電波の伝送損失を抑制しつつ、無線通信の中継に伴い生じ得る時間遅延を短縮することである。また、その副次的な目的は、無線中継装置を構成する回路(IC)のコスト増加を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る無線中継装置は、基板と、前記基板上に形成された受信アンテナであって、第1電磁波を第1RF(Radio Frequency:無線周波数)信号に変換する受信アンテナと、前記基板上に形成された第1無線IC(Integrated Circuit:集積回路)であって、前記受信アンテナにて得られた前記第1RF信号をベースバンド信号に変換する第1無線ICと、前記基板上に形成された第2無線ICであって、前記第1無線ICにて得られた前記ベースバンド信号を第2RF信号に変換する第2無線ICと、前記基板上に形成された送信アンテナであって、前記第2無線ICにて得られた前記第2RF信号を第2電磁波に変換する送信アンテナと、を備えており、前記第1無線ICと前記第2無線ICとは、前記基板上に形成された配線であって、前記ベースバンド信号を伝送するための配線で接続されている、ことを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、第1無線ICと第2無線ICとを接続する配線は、第1RF信号及び第2RF信号と比べて周波数の低いベースバンド信号を伝送する。したがって、マイクロ波又はミリ波を用いた無線通信に適用した場合に、特許文献1に記載された無線中継装置と比較して、当該配線における電磁波の伝送損失を抑制することができる。
【0011】
そのうえで、上記の構成によれば、第1無線IC及び第2無線ICにおいて、それぞれ第1RF信号をデータ信号に復号化する処理、及び、このデータ信号を第2RF信号に符号化する処理を行う必要がない。したがって、特許文献2に記載された無線中継装置と比較して無線通信の中継に伴い生じ得る時間遅延を短縮することができる。また、この復号化及び符号化の処理を行う必要がないため、第1無線IC及び第2無線ICにかかる負荷を減らすことができ、結果として第1無線IC及び第2無線ICのコストを抑えることができる。
【0012】
以上のように、本無線中継装置は、マイクロ波又はミリ波を用いた無線通信における無線中継装置において、電波の伝送損失を抑制しつつ、無線通信の中継に伴い生じ得る時間遅延を短縮することができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る無線中継装置において、前記基板は、フレキシブル基板であり、前記受信アンテナと前記送信アンテナとが互いに異なる方向を向くように折り曲げられていることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、受信アンテナの最大利得方向と送信アンテナの最大利得方向とを、互いに異なる方向を向かせることが可能となる。したがって、受信アンテナ及び送信アンテナの最大利得方向の各々を容易に任意の方向に調整可能である。
【0015】
また、本発明の一態様に係る無線中継装置は、前記基板において前記受信アンテナ及び前記第1無線ICが配置された領域を補強する第1補強板と、前記基板において前記送信アンテナ及び前記第2無線ICが配置された領域を補強する第2補強板と、を更に備えており、前記基板は、前記第1補強板と前記第2補強板との間が稜線となるように折り曲げられていることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、基板における受信アンテナの直下、基板における第1無線ICの直下、基板における送信アンテナの直下、及び基板における第2無線ICの直下が折り曲げられることを防ぐことができる。したがって、受信アンテナの特性、第1無線ICの特性、送信アンテナの特性、及び第2無線ICの特性が、基板の折り曲げに伴い生じる応力よって不安定になることを防ぐことができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る無線中継装置において、前記受信アンテナ及び前記送信アンテナのそれぞれは、互いに最大利得方向の異なる指向性アンテナであることが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、予め、無線中継装置と基地局との相対的な位置関係と、無線中継装置と端末との相対的な位置関係とが定まっている場合に、受信アンテナの最大利得方向を基地局の方向に向くように、且つ、送信アンテナの最大利得方向を端末の方向に向くように無線中継装置を設置することによって、基地局と端末との無線通信をより効率的に行うことができる。
【0019】
また、本発明の一態様に係る無線中継装置において、前記受信アンテナ及び前記送信アンテナのそれぞれは、最大利得方向が可変である指向性アンテナであることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、無線中継装置を設置したあとに、無線中継装置と基地局との相対的な位置関係、及び/又は、無線中継装置と端末との相対的な位置関係が変化した場合であっても、受信アンテナ及び送信アンテナの各々の最大利得方向を、基地局及び端末の各々の方向に、容易に調整することができる。
【0021】
また、本発明の一態様に係る無線中継装置において、前記基板は、液晶ポリマーを基材とする基板であることが好ましい。
【0022】
液晶ポリマーの表面上又は内層に形成した配線からなる伝送路は、周波数が数GHzから数十GHzの電気信号を伝送するときの伝送損失を樹脂材料の中では抑制することができる。また、無線中継装置を、ミリ波帯(例えば60GHz帯)を用いた無線通信に適用した場合、ベースバンド信号の周波数は、数GHz程度であることが好ましい。したがって、上記の構成によれば、本発明の一態様に係る無線中継装置は、ミリ波帯(例えば60GHz帯)を用いた無線通信に好適に利用できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、マイクロ波又はミリ波を用いた無線通信における無線中継装置において、電気信号の伝送損失を抑制しつつ、無線通信の中継に伴い生じ得る時間遅延を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る無線中継装置の概略構成を示す平面図及び側面図である。
図2】(a)及び(b)はそれぞれ、図1に示した無線中継装置を折り曲げた状態を示す側面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る無線中継装置の概略構成を示す平面図である。
図4】本発明に係る無線中継装置の使用例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態について、図1図4を参照して説明する。
【0026】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係る無線中継装置201の概略構成を示す平面図及び側面図(当該平面図の下側から上側に見た図)である。図1に示す無線中継装置201は、基板11、受信アンテナ21,22、無線IC31,32、複数の配線41、送信アンテナ51,52、制御IC6、エッジコネクタ7、並びに補強板81〜83を備えている。なお、図示していないが、無線中継装置201は、無線IC31又は無線IC32の周辺に、無線IC31,32を駆動させるために必要な電子部品である、コンデンサ、抵抗、及び水晶発振器などを備えていてもよい。
【0027】
基板11は、無線中継装置201を構成する各種部材が実装される基板である。基板11は、LCP(Liquid Crystal Polymer:液晶ポリマー)を基材とするフレキシブル基板である。基板11の基材をLCPとしているため、無線中継装置201を数GHz〜数十(例えば60)GHz帯の無線通信に用いた場合に、基板11に起因する電気信号やRF信号の損失を抑制することができる。基板11の表面(おもてめん)には、受信アンテナ21,22、無線IC31,32、複数の配線41、送信アンテナ51,52、制御IC6、並びにエッジコネクタ7が形成されている。基板11の裏面には、補強板81〜83が形成されている。ここでは、基板11の長手方向の長さをW1としている。なお、図示していないが、基板11は多層構造である。また、基板11の基材の材質は、LCPに限定されず、例えばポリイミドであってもよい。さらに、図1において基板11は1枚の板であるが、基板11は複数の板が結合されたものであってもよい。
【0028】
受信アンテナ21,22のそれぞれは、基板11上に、金属からなるパターンとして形成されている。受信アンテナ21,22のそれぞれは、第1電磁波を受信し、受信した第1電磁波を第1RF信号に変換する。これらの第1RF信号は例えば、ミリ波帯に属する、周波数30GHz〜300GHzの信号である。なお、図示を簡潔にするために、図1においては、受信アンテナ21,22のそれぞれを平面視矩形の部材としているが、受信アンテナ21,22のそれぞれの形状は特に限定されない。
【0029】
無線IC31,32のそれぞれは、基板11上に実装されている。無線IC31は、受信アンテナ21と電気的に接続されており、受信アンテナ21にて得られた第1RF信号を復調してベースバンド信号に変換する。無線IC32は、受信アンテナ22と電気的に接続されており、受信アンテナ22にて得られた第1RF信号を復調してベースバンド信号に変換する。各ベースバンド信号としては、例えば、周波数が数GHz(例えば1〜3GHz)のIQ変調された変調信号であって、差動の変調信号を採用できる。
【0030】
複数の配線41は、基板11上に形成されている。複数の配線41のそれぞれは、金属(例えば、銅、銅にニッケルメッキを施したもの、銅に金メッキを施したもの、及び、銅にニッケルメッキと金メッキとを施したもの)からなるパターンとして形成されている。複数の配線41は、無線IC31と無線IC32とを電気的に接続するものであり、上記の両ベースバンド信号を伝送するものである。複数の配線41の一例として、基板上あるいは基板内層にグランド、信号線、信号線、グランドの順に並んだ(いわゆるGSSG方式の)コプレーナ線路が挙げられる。また、複数の配線41の別の例として、複数の同軸ケーブルが挙げられる。複数の配線41のそれぞれにおける、上記の何れかのベースバンド信号の伝送速度は例えば、毎秒数GHzである。複数の配線41のそれぞれの特性インピーダンスは例えば、100Ωや50Ωである。ここでは、複数の配線41の各々の長さ、換言すれば、無線IC31と無線IC32との離間距離をW2としている。
【0031】
また、無線IC32は、無線IC31にて得られたベースバンド信号を変調して第2RF信号に変換する。無線IC31は、無線IC32にて得られたベースバンド信号を変調して第2RF信号に変換する。これらの第2RF信号の周波数は、変換元のベースバンド信号のさらに変換元の第1RF信号の周波数と同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2RF信号の周波数を第1RF信号の周波数と異ならせることによって、第1RF信号と第2RF信号とが混信する恐れを軽減することができる。
【0032】
送信アンテナ51,52のそれぞれは、基板11上に、金属からなるパターンとして形成されている。送信アンテナ51は、無線IC32と電気的に接続されており、無線IC32にて得られた第2RF信号を第2電磁波に変換(空間に放射)する。送信アンテナ52は、無線IC31と電気的に接続されており、無線IC31にて得られた第2RF信号を第2電磁波に変換する。なお、図示を簡潔にするために、図1においては、送信アンテナ51,52のそれぞれを平面視矩形のパターンとしているが、送信アンテナ51,52のそれぞれの形状は特に限定されない。また、送信アンテナ51,52は、基板11の表面(おもて面)だけでなく、基板11の裏面にも形成可能であるし、基板11の内層にも形成可能である。
【0033】
受信アンテナ21が第1電磁波を受信した場合の動作においては、無線IC31が請求の範囲に記載の「第1無線IC」に対応し、無線IC32が請求の範囲に記載の「第2無線IC」に対応する。一方、受信アンテナ22が第1電磁波を受信した場合の動作においては、無線IC32が請求の範囲に記載の「第1無線IC」に対応し、無線IC31が請求の範囲に記載の「第2無線IC」に対応する。
【0034】
受信アンテナ21及び送信アンテナ51のそれぞれは、互いに最大利得方向の異なる指向性アンテナであるか、又は、最大利得方向が可変である指向性アンテナであることが好ましい。これにより、受信アンテナ21による電磁波の受信角度、及び送信アンテナ51による電磁波の送信角度を明確に決定することが容易である。同様に、受信アンテナ22及び送信アンテナ52のそれぞれは、互いに最大利得方向の異なる指向性アンテナであるか、又は、最大利得方向が可変である指向性アンテナであることが好ましい。これにより、受信アンテナ22による電磁波の受信角度、及び送信アンテナ52による電磁波の送信角度を明確に決定することが容易である。なお、最大利得方向が可変である指向性アンテナの一例として、フェイズドアレイアンテナが挙げられる。アレイアンテナでは、各放射素子に入力するRF信号に与える時間遅延を制御することによって、放射する電磁波(各放射素子から放射される電磁波を重ね合わせたもの)の主ビーム方向を変化させることが可能である。フェイズドアレイアンテナとは、このようなビームフォーミング機能を有するアレイアンテナである。
【0035】
制御IC6は、基板11上に形成されている。制御IC6は、無線IC31,32を制御するものであり、無線IC31,32のそれぞれにおける、各出力信号の周波数、及び各出力信号のレベル(電力)などを制御する。
【0036】
エッジコネクタ7は、基板11の長手方向の一端に形成されたコネクタである。エッジコネクタ7は、無線IC31,32、並びに制御IC6と接続されている。無線中継装置201の外部の電源(図示しない)から、エッジコネクタ7のうち無線IC31と接続された端子を介して、無線IC31に対して電源電圧を供給することが可能である。また、無線中継装置201の外部の電源(図示しない)から、エッジコネクタ7のうち無線IC32と接続された端子を介して、無線IC32に対して電源電圧を供給することが可能である。また、無線中継装置201の外部の電源(図示しない)から、エッジコネクタ7のうち制御IC6と接続された端子を介して、制御IC6に対して電源電圧を供給することが可能である。さらに、無線中継装置201の外部の信号源(図示しない)から、エッジコネクタ7のうち制御IC6と接続された端子を介して、制御IC6に対して信号を供給することが可能である。なお、エッジコネクタ7と無線IC31,32、並びに制御IC6との接続は、基板11に形成された配線によって行われる。この配線は、基板11における上述した多層構造におけるいずれかの層に形成されている。エッジコネクタ7を基板11に対して形成する代わりに、コネクタを構成する複数の端子を基板11に対して半田付けしてもよい。
【0037】
補強板81は、受信アンテナ21の真裏、無線IC31の真裏、送信アンテナ52の真裏、及び制御IC6の真裏に亘って形成されており、基板11において受信アンテナ21、無線IC31、送信アンテナ52、及び制御IC6が配置された領域91を補強している。
【0038】
補強板82は、受信アンテナ22の真裏、無線IC32の真裏、及び送信アンテナ51の真裏に亘って形成されており、基板11において受信アンテナ22、無線IC32、及び送信アンテナ51が配置された領域92を補強している。
【0039】
補強板83は、エッジコネクタ7の真裏に形成されており、エッジコネクタ7が配置された領域93を補強している。
【0040】
補強板81〜83のそれぞれは、折り曲げが困難な程度に硬いものである。補強板81〜83のそれぞれの材質の一例として、樹脂板、金属板、又は金属のベタパターンが挙げられる。
【0041】
受信アンテナ21が第1電磁波を受信した場合の動作においては、補強板81が請求の範囲に記載の「第1補強板」に対応し、補強板82が請求の範囲に記載の「第2補強板」に対応する。一方、受信アンテナ22が第1電磁波を受信した場合の動作においては、補強板82が請求の範囲に記載の「第1補強板」に対応し、補強板81が請求の範囲に記載の「第2補強板」に対応する。
【0042】
無線中継装置201において、無線IC31と無線IC32とを接続する複数の配線41は、第1RF信号及び第2RF信号と比べて周波数の低いベースバンド信号を伝送する。したがって、当該複数の配線41における電気信号の伝送損失を抑制することができる。すなわち、無線中継装置201は、特許文献1に記載された無線中継装置と比較して、電磁波の伝送損失の影響を抑制することができる。ベースバンド信号部分は電磁波を伝送しているわけではないので、電磁波を伝送する場合と比較して、見かけ上の電磁波の損失が抑制されている。
【0043】
また、無線中継装置201では、無線IC31において第1RF信号を無線信号に復号化する処理、及び、無線IC32において復号化された無線信号を改めて第2RF信号に符号化する処理が不要である。したがって、無線中継装置201は、特許文献2に記載された無線中継装置と比較して無線通信の中継に伴い生じ得る時間遅延を短縮することができる。また、無線IC31及び無線IC32において復号化及び符号化の処理を行う必要がないため、無線IC31及び無線IC32にかかる負荷を減らすことができる。その結果として、無線中継装置201は、無線IC31及び無線IC32のコストを抑えることができる。
【0044】
以上のように、無線中継装置201は、マイクロ波又はミリ波を用いて運用する場合に、電波の伝送損失を抑制しつつ、無線通信の中継に伴い生じ得る時間遅延を短縮することができる。
【0045】
図2の(a)及び(b)はそれぞれ、無線中継装置201を折り曲げた状態を示す側面図である。
【0046】
上述したとおり、基板11はフレキシブル基板である。このため、基板11のうち、領域91〜93以外については、容易に折り曲げることが可能であり、領域91〜93については、折り曲げることが困難である。つまり、基板11は、補強板81(領域91と対応)と補強板82(領域92と対応)との間の領域101、及び補強板81と補強板83(領域93と対応)との間の領域102のそれぞれが稜線となるように、折り曲げることができる。
【0047】
図2の(a)においては、領域101を稜線とした基板11の折り曲げ角度を90°としている。これにより、受信アンテナ21及び送信アンテナ52の向きと、受信アンテナ22及び送信アンテナ51の向きとは、互いに90°異なっている。この場合、受信アンテナ21が受信した第1電磁波は、無線中継装置201にて90°曲げられて、第2電磁波として送信アンテナ51から送信される。同様にこの場合、受信アンテナ22が受信した第1電磁波は、無線中継装置201にて90°曲げられて、第2電磁波として送信アンテナ52から送信される。
【0048】
図2の(b)においては、領域101を稜線とした基板11の折り曲げ角度を180°としている。これにより、受信アンテナ21及び送信アンテナ52の向きと、受信アンテナ22及び送信アンテナ51の向きとは、互いに180°異なっている。この場合、受信アンテナ21が受信した第1電磁波は、無線中継装置201にて曲げられることなく、第2電磁波として送信アンテナ51から送信される。同様にこの場合、受信アンテナ22が受信した第1電磁波は、無線中継装置201にて曲げられることなく、第2電磁波として送信アンテナ52から送信される。
【0049】
無線中継装置201は、受信アンテナ21が配置された領域91の法線の向きと、送信アンテナ51が配置された領域92の法線の向きとを、容易に異ならせることがでる。したがって、無線中継装置201は、受信アンテナ21及び送信アンテナ51の最大利得方向の各々を容易に任意の方向に調整可能である。なお、領域101を稜線とした基板11の折り曲げ角度は、90°又は180°以外であってもよい。
【0050】
また、補強板81により、基板11における受信アンテナ21の直下、基板11における無線IC31の直下、基板11における送信アンテナ52の直下、及び基板11における制御IC6の直下が折り曲げられることを防ぐことができる。また、補強板82により、基板11における受信アンテナ22の直下、基板11における無線IC32の直下、及び基板11における送信アンテナ51の直下が折り曲げられることを防ぐことができる。したがって、受信アンテナ21,22の特性、無線IC31,32の特性、送信アンテナ51,52の特性、及び制御IC6の特性が、基板11の折り曲げによって予期せぬ変動を起こすことを防ぐことができる。また、補強板83により、エッジコネクタ7の直下が折り曲げられることを防ぐことができる。
【0051】
また、領域102を稜線とした基板11の折り曲げ角度についても、任意に設定することができる。これにより、エッジコネクタ7の向きを自由に変えることができるので、エッジコネクタ7に対する配線などの接続の自由度が向上する。
【0052】
無線中継装置201を保護すると共に、上述した各折り曲げ後の形状の記憶が妨げられる虞を低減するために、無線中継装置201は、例えば樹脂製のクラムシェルタイプのケース(図示しない)に収められて使用されることが好ましい。この場合、当該ケースは、第1電磁波の経路において、開口が形成されているか、第1電磁波の波長の電磁波を透過させ易い材質によって構成されていることが好ましい。第2電磁波に関しても同様である。
【0053】
また、無線中継装置201における上述した各折り曲げ後の形状を記憶させるために、例えば無線中継装置201の裏面に所望の形状を持たせた治具(図示しない)を貼り付けてもよい。
【0054】
さらに、電磁的なシールド及び/又は機械的な補強を目的として、無線IC31,32、並びに制御IC6、さらにはこれらの周辺を、金属製のカバー(図示しない)によって覆ってもよい。
【0055】
〔第2の実施形態〕
図3は、本発明の第2の実施形態に係る無線中継装置202の概略構成を示す平面図である。なお、説明の便宜上、先に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0056】
図3に示す無線中継装置202の構成は、基板11の代わりに基板12を備えており、複数の配線41の代わりに複数の配線42を備えている点が、図1に示した無線中継装置201の構成と異なっている。以下に説明する点を除けば、基板12及び複数の配線42は、それぞれ、基板11及び複数の配線41と同じ機能を有している。
【0057】
基板12の長手方向の長さW3は、基板11の長手方向の長さW1と比べて長い。そして、基板12における複数の配線42の各々の長さW4は、基板11における複数の配線42の各々の長さW2と比べて長い。
【0058】
無線中継装置202においては、無線中継装置201と比べて、受信アンテナ21及び送信アンテナ52と、受信アンテナ22及び送信アンテナ51とが離れて配置されている。
【0059】
ところで、ミリ波帯の周波数を持つ電磁波は、壁及びドアを透過し難い。このため例えば、廊下に配置された基地局と、室内に配置された少なくとも1つの端末機とが、壁又はドア越しに、ミリ波帯の周波数を持つ電磁波によって通信するためには、当該電磁波の中継が必要となる。無線中継装置202を例えば、ドアの上の隙間を通して配置することによって、無線中継装置202は、基地局(廊下側)と少なくとも1つの端末機(室内側)との間の電磁波の中継を行うことができる。つまり、無線中継装置202は、基地局と、少なくとも1つの端末機とが、壁又はドア越しに通信することに有用である。また、当該少なくとも1つの端末機が、固定された1つの端末機である場合、無線中継装置202のうち当該端末機側に配置される各アンテナは、指向性の高いアンテナであり、当該端末機に向けられていることが好ましい。一方、当該少なくとも1つの端末機が、複数の端末機である場合、又は移動する端末機を含んでいる場合、無線中継装置202のうち当該端末機側に配置される各アンテナは、指向性を適度に抑えたアンテナであることが好ましい。
【0060】
無線中継装置202においては、用途に応じて、長さW4を大きくすることができるが、長さW4が大き過ぎる場合、複数の配線42の各々における電気信号の減衰が大きくなるため、注意が必要である。基板12の基材の材質がポリイミドであり、例えばマイクロストリップラインで3GHzのベースバンド信号を伝送する場合、10cmで2〜3dBの損失が生じる。この部分にLCPを使う場合、ポリイミドを使う場合と比べて、誘電率や誘電正接が小さいことから、より損失の少ない配線とすることが可能となる。
【0061】
〔使用例〕
図4は、本発明に係る無線中継装置20の使用例を示すイメージ図である。
【0062】
無線中継装置20は、無線親機111と無線子機112との間の電磁波の中継を行うものである。無線中継装置20として、図1に示した無線中継装置201、又は図3に示した無線中継装置202を用いることができる。
【0063】
無線親機111と無線子機112とは、例えばミリ波帯の周波数を持つ電磁波によって、互いに通信することが可能な機能を有している。しかしながら、図4において、無線親機111及び無線子機112は、建物121〜124の存在、特に建物121の存在によって、無線中継装置20を使用しない場合、これらの一方が発した電磁波が、これらの他方に届かない位置関係で配置されている。
【0064】
無線中継装置20は、無線親機111及び無線子機112の一方が発した電磁波を第1電磁波として、無線親機111及び無線子機112の他方に第2電磁波を導く。これによって、無線中継装置20は、無線親機111と無線子機112との間の電磁波の中継を行うことができる。
【0065】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
11、12 基板
21、22 受信アンテナ
31、32 無線IC(第1無線IC、第2無線IC)
41、42 配線
51、52 送信アンテナ
81〜83 補強板(第1補強板、第2補強板)
20、201、202 無線中継装置
図1
図2
図3
図4