(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成形工具を被加工板材に対して垂直な方向に相対的に押圧しながら被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に相対的に移動させることで被加工板材に局所的な変形を繰り返し与えて製品を製造する逐次成形方法のうち、被加工板材を成形工具と弾性体で挟み弾性体から被加工板材に反力を及ぼすことにより被加工部を成形工具側へ持ち上げて成形する逐次成形方法において、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする逐次成形方法。
成形工具の押圧の強さを変化させることで弾性体と接する被加工板材の表面が弾性体に相対的に押圧される深さを前記の2方向の位置に応じて成形中に変化させることにより、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
被加工板材と接する弾性体の表面をあらかじめ浅い凹凸形状とすることで弾性体と接する被加工板材の表面が弾性体に相対的に押圧される深さを前記の2方向の位置に応じて変化させることにより、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
被加工板材と接する弾性体の弾性率が前記の2方向の位置に応じて異なるように弾性体を配置することにより、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
被加工板材と接する弾性体の厚さが前記の2方向の位置に応じて異なるように弾性体を配置することにより、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
成形工具を被加工板材に対して垂直な方向に相対的に押圧しながら被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に相対的に移動させることで被加工板材に局所的な変形を繰り返し与えて製品を製造するための逐次成形装置において、被加工板材と弾性体における位置及び角度の関係を固定する板材・弾性体固定具と、成形工具の押圧による弾性変形により被加工板材に局所的な弾性力を及ぼして塑性変形を与える弾性体と、被加工板材に対して押圧しながら相対的に移動させることで弾性体に局所的な弾性変形を与える成形工具と、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させるために弾性体から被加工板材に及ぼされる反力が前記の2方向の位置に応じて変化するように成形工具が相対的に移動させる加工機械とを備えたことを特徴とする逐次成形装置。
【背景技術】
【0002】
板状や管状の被加工材に対して、局所的な塑性変形を繰り返し与えることにより目的とする形状に成形する塑性加工法の総称を、逐次成形(インクリメンタルフォーミング)という。
【0003】
逐次成形に分類される加工法としては、スピニング加工(主に旋盤形の加工機械を用い、被加工材を円盤状や棒状の工具で接触点が螺旋状に周回するように押しつけて加工する方法で、へら絞りとも言われる)、逐次張出し成形(主にフライス盤形の加工機械を用い、被加工材を棒状の工具で接触点が等高線状に周回するように押しつけて加工する方法で、製品が工具側に起き上がる場合を逐次逆張出し成形という場合もある)、ハンマリング(被加工材をハンマーで繰り返し変形させることにより成形する方法で、鎚起とも言われる)、ピーンフォーミング(被加工材に鋼球などの堅い物体を繰り返し投射して変形を与えることにより成形する方法で、表面処理としてもしばしば用いられる)、イングリッシュホイール加工(被加工材を2つの円盤状工具で挟み繰り返し往復させて変形させることで目的の形状に成形する方法)などが挙げられる。なお、鍛造や転造やリングローリングも被加工材に変形を繰り返し与える塑性加工法ではあるが、被加工材の形状が板状や管状ではなく、被加工材の一番薄い方向の厚さでもその方向に互いに直交する2方向のいずれかの厚さに対して基本的に10分の1より大きく、被加工材の方向による厚さの差異が少ないため、通常、逐次成形としては扱われない。
【0004】
逐次成形は、プレス加工や対向液圧成形など大量生産向きの多くの塑性加工法と比べて、局所的な塑性変形を繰り返し与える必要性から、一品あたりの加工に多くの時間を要する。しかし、プレス加工などでは精度の揃った雌雄一対の型が必要になることに対して、逐次成形では基本的に、成形型は雄型か雌型のいずれか一つで良いか、汎用的な成形型で良いか、そもそも成形型を必要としないかのいずれかである。このため、少量生産であっても初期コストを抑えることができ、特注品や試作品など多品種の少量・中量生産に適している。
【0005】
逐次成形において専用の成形型を必要としない場合には、製品の形状が、主に円盤状や棒状の工具と被加工材の相対的な運動による変形の履歴によって決定されるという特徴がある。すなわち、工具と被加工材の相対軌道を決定するソフトウェア次第によって、異なった製品形状を被加工材に与えることができる。一方、被加工部の肉厚変化は、逐次成形における専用の成形型の有無に限らずに、工具と被加工材との相対的な運動によって決定されるという特徴がある。これらの特徴は、多品種の小量・中量生産における逐次成形の優位性を高めており、近年さまざまな逐次成形方法が考案されている。
【0006】
特許文献1には、被加工板材の回転角度に同期して円盤状の工具を軸方向と半径方向の両方に動かすことにより、中心軸が湾曲した形状のように従来成形が困難であった形状の製品が成形可能なスピニング加工の方法及び装置が示されている。また、この特許文献1の加工方法では、被加工板材の縁をあらかじめ曲げておくことで被加工板材の未加工部分の形状を加工中において平面に保つことによって、部分的な成形型のみを用いて加工する方法が示されている。これにより、工具と被加工材の相対軌道を決定するソフトウェア次第によって、異なった製品形状が得られる。被加工板材の外縁の形状が保たれたまま成形が完了することが特徴の一つであるスピニング加工はしごきスピニング加工(shear spinning)といわれる。しごきスピニング加工においては、被加工部の材料は元の被加工板材に垂直な方向に移動するが被加工板材に平行な方向には基本的に移動しないため、被加工部が被加工板材に垂直となる形状やオーバーハングした形状はそもそも成形できない。しかし、この特許文献1の加工方法では、加工中に被加工板材の傾き角度を変えることで中心軸が湾曲した形状に加工できるため、被加工部が被加工板材に対して垂直となる形状やオーバーハングした形状も加工することができる。なお、スピニング加工では、被加工材に対する成形工具(円盤状の工具や先端が曲面の棒状工具がしばしば用いられる)の相対軌道が必ずしも螺旋状である必然性はなく、逐次張出し成形のように等高線状の軌道を描いても加工は可能である。しかし一般的には加工時間の長時間化につながるため行われない。
【0007】
特許文献2には、特許文献1の方法と同じように、被加工材の回転角度に同期して円盤状の工具を軸方向と半径方向の両方に動かすことにより、加工中に被加工板材の傾き角度を変えることで、製品の被加工部の肉厚を円盤状工具の軌道次第で変化させることができるスピニング加工方法及び装置が示されている。すなわち、同じ形状であっても製品の周方向の肉厚分布が異なる製品を、工具軌道を決めるソフトウェア次第で製作することができる。従来、製品の周方向の肉厚分布を変えるためには、あらかじめ被加工板材の肉厚分布を場所によって変えておくかスピニング加工後に切削加工などにより余分な肉厚を削り落とす必要があったため、この方法には利点がある。
【0008】
特許文献3には、板材の逐次張出し成形において、特許文献1に示されるように中心軸が湾曲した形状などの成形が困難であった形状の製品が成形可能で、なおかつ特許文献2に示されるように製品の被加工部の肉厚を工具の軌道次第で変化させることができる逐次成形方法及び装置が示されている。この方法及び装置では、たとえば、特許文献4に示されるように、被加工板材の外縁を把持して成形工具を被加工板材に対して垂直な方向に相対的に押圧しながら被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に相対的に移動させることで被加工板材に局所的な変形を繰り返し与えて製品を製造する。被加工材の外縁を把持する主な理由は、被加工板材の未加工部分の形状を加工中において平面に保つことと、成形工具を被加工板材に押圧し被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に動かす際に被加工板材がずれることを防ぐことにある。また、このような逐次張出し成形においては、被加工材に対する成形工具(先端が半球状の棒や、縁が丸く加工された円盤がしばしば用いられる)の相対軌道が必ずしも等高線状である必然性がないことが明らかであり、スピニング加工のように螺旋状の軌道を描いても加工は可能である。むしろその方が加工機械に負担が少なく製品の表面は良好に成形されやすい。しかし、目的とする形状が二こぶ形やドーナツ形となり等高線で描かれる輪郭が移動させる成形工具の本数よりも多くなる場合や、工具軌道を決定するソフトウェアの計算が複雑になることを嫌う場合には、行われないこともある。
【0009】
特許文献5には、被加工材における変形周囲に引張力を生じさせることなく成形限界の向上を可能とする逐次張出成形方法及びその装置が示されている。この方法は、成形工具を被加工板材に対して垂直な方向に相対的に押圧しながら被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に相対的に移動させることで被加工板材に局所的な変形を繰り返し与えて製品を製造する逐次成形方法のうち、被加工板材を成形工具と弾性体で挟み弾性体から被加工板材に反力を及ぼすことにより被加工部を成形工具側へ持ち上げて成形する逐次成形方法といえる。すなわちこの方法の特徴は、
図1及びその断面図である
図2に示すように、弾性体表面に接するように板材・弾性体固定具40で保持された被加工板材10に対して、成形工具20を被加工板材10に垂直な方向に押圧することで被加工板材10を弾性体30へ押し込み、弾性変形した弾性体30の弾性力によって被加工板材10を成形工具側へ持ち上げるような局所的な変形を繰り返し与えることで被加工板材10を成形することである。この特徴のため、工具と被加工材の相対軌道を決定するソフトウェア次第によって、異なった製品形状が得られる。また、特許文献5に示されているように、被加工板材に引張が作用されにくいという特徴がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この特許文献5に代表されるような逐次成形方法における被加工部は、成形工具20と弾性体30によって変形が与えられた部分であり、その変形部分の多くは成形工具側へ持ち上げられるように成形(逆張出し成形)される。この際には、
図1のハッチング部に示すように、基本的に変形を受けていない被加工板材10の一部も被加工部に持ち上げられるが、成形前の被加工板材10に対して傾斜することはない。
【0012】
このため、特許文献5の方法及び装置を用いた成形法においては、特許文献1に示されるように従来成形が困難であった形状の製品の成形方法は明らかではなく、特許文献2に示されるように製品の被加工部の肉厚を工具の軌道次第で変化させる方法も明らかではない。また、装置の機械的構造の差異によって、特許文献3の方法及び装置を特許文献5の方法及び装置に適用することも不可能である。
【0013】
したがって、特許文献5の方法及び装置を例とするような、弾性体基台を用いた逐次成形方法においては、従来成形が困難であった形状の製品の成形は実施できず、被加工部の肉厚を工具の軌道次第で変化させる成形も実施できなかった。この制約は、
図1のハッチング部に示すような、被加工部に持ち上げられるも変形を受けていない被加工板材10の一部が、成形前の被加工板材10に対して傾斜するように成形できないことに起因している。
【0014】
本発明はこのような課題を解決するものである。
【0015】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、成形工具を被加工板材に対して垂直な方向に相対的に押圧しながら被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に相対的に移動させることで被加工板材に局所的な変形を繰り返し与えて製品を製造する逐次成形方法のうち、被加工板材を成形工具と弾性体で挟み弾性体から被加工板材に反力を及ぼすことにより被加工部を成形工具側へ持ち上げて成形する逐次成形方法において、従来成形が困難であった形状の製品を成形可能とすることと、製品の被加工部の肉厚を工具軌道次第で変えることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため
、本発明の逐次成形方法に係わる請求項
1の逐次成形方法は、成形工具を被加工板材に対して垂直な方向に相対的に押圧しながら被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に相対的に移動させることで被加工板材に局所的な変形を繰り返し与えて製品を製造する逐次成形方法のうち、被加工板材を成形工具と弾性体で挟み弾性体から被加工板材に反力を及ぼすことにより被加工部を成形工具側へ持ち上げて成形する逐次成形方法において、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする。
【0017】
すなわち、成形工具を被加工板材に対して垂直な方向へ押し当てて、被加工板材を通して弾性体に弾性変形を与えることで、弾性体から被加工板材に対して及ぼされる反力(すなわち弾性力)を、成形工具が相対的に移動する2方向(元の被加工板材に平行かつ互いに直交する2方向)の位置に応じて意図的に変化させることによって、工具が相対的に移動する前記2方向の位置に応じて被加工板材が成形工具の押圧方向と反対向きに張り出される変形量に変化を生じさせることで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることが
、本発明の請求項
1の逐次成形方法の特徴であると言い換えられる
。
【0018】
本発明の逐次成形方法に係わる請求項2から請求項5まで
は本発明の請求項
1に示される逐次成形方法を実施するための主要な方法である
。請求項
2から請求項
5までのいずれか一つの方法を用いて請求項
1に示される逐次成形方法を実施することもでき、請求項
2から請求項
5までを複数組み合わせて請求項
1に示される逐次成形方法を実施することもでき、場合によっては請求項
2から請求項
5までのいずれの方法も用いずに請求項
1に示される逐次成形方法を実施することもできる。
【0019】
本発明の逐次成形方法に係わる請求項
2は、本発明の請求項
1に示される逐次成形方法を実施するために、成形工具の押圧の強さを変化させることで弾性体と接する被加工板材の表面が弾性体に相対的に押圧される深さを成形中に変化させることにより、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする。
【0020】
本発明の逐次成形方法に係わる請求項
3は、本発明の請求項
1に示される逐次成形方法を実施するために、被加工板材と接する弾性体の表面をあらかじめ浅い凹凸形状とすることで弾性体と接する被加工板材の表面が弾性体に相対的に押圧される深さを成形中に変化させることにより、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする。
【0021】
本発明の逐次成形方法に係わる請求項
4は、本発明の請求項
1に示される逐次成形方法を実施するために、被加工板材と接する弾性体の弾性率が場所によって異なるように弾性体を配置することにより、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする。
【0022】
本発明の逐次成形方法に係わる請求項
5は、本発明の請求項
1に示される逐次成形方法を実施するために、被加工板材と接する弾性体の厚さが場所によって異なるように弾性体を配置することで弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することにより、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の基礎となる逐次成形方法において被加工板材の被加工部を円錐台形製品に成形する例を表す模式図である。
【
図2】本発明の基礎となる逐次成形方法において被加工板材の被加工部を円錐台形製品に成形する例を表す模式図についての断面図である。
【
図3】本発明の逐次成形方法において被加工板材の被加工部を湾曲した円錐台形製品に成形する例を表す模式図である。(実施例1)
【
図4】本発明の逐次成形方法において被加工板材の被加工部を湾曲した円錐台形製品に成形する例を表す模式図についての断面図である。(実施例1)
【
図5】本発明の逐次成形方法に用いることができる被加工板材と成形工具と弾性体と板材・弾性体固定具の例を示す写真である。
【
図6】本発明の逐次成形方法に用いることができる直交座標型の加工機械の例を表す模式図である。
【
図7】本発明の逐次成形方法に用いることができるロボットアーム形の加工機械の例を表す模式図である。
【
図8】本発明の逐次成形方法に用いることができる円筒座標型の加工機械の例を表す模式図である。
【
図9】本発明の逐次成形方法に用いることができる円盤状の成形工具により被加工板材を湾曲した円錐台形製品に成形する例を表す模式図である。(実施例1)
【
図10】本発明の逐次成形方法において被加工板材上の被加工部の内側を板材・弾性体固定具に固定し成形工具の押圧の強さを変えながら円錐台形の製品に成形する途中の例を表す模式図である。(実施例3)
【
図11】本発明の逐次成形方法において被加工板材上の被加工部の内側を板材・弾性体固定具に固定し成形工具の押圧の強さを変えながら円錐台形の製品に成形する途中の例を表す模式図についての断面図である。(実施例3)
【
図12】本発明の基礎となる逐次成形方法において被加工板材に成形工具を押圧する強さが押し付ける位置によって変化しない例を表す模式図である。
【
図13】本発明の逐次成形方法において被加工板材に成形工具を押圧する強さが押し付ける位置によって変化する例を表す模式図である。
【
図14】本発明の逐次成形方法において被加工板材に成形工具を押圧する強さが押し付ける位置によって変化する別の例を表す模式図である。
【
図15】本発明の逐次成形方法における被加工板材に平行な2方向における工具軌道のうち閉曲線状の軌道を徐々に外側へ切り替えながら周回する工具軌道の例を表す模式図である。
【
図16】本発明の逐次成形方法における被加工板材に平行な2方向における工具軌道のうち閉曲線状の軌道を徐々に外側へ切り替えながら周回方向も交互に切り替えて周回する工具軌道の例を表す模式図である。
【
図17】本発明の逐次成形方法における被加工板材に平行な2方向における工具軌道のうち内側から外側へ向かう渦巻形の工具軌道の例を示す模式図である。
【
図18】本発明の逐次成形方法における被加工板材に平行な2方向における工具軌道のうち閉曲線状の軌道を徐々に内側へ切り替えながら周回する工具軌道の例を表す模式図である。
【
図19】本発明の逐次成形方法における被加工板材に平行な2方向における工具軌道のうち閉曲線状の軌道を徐々に外側へ切り替えながら周回する工具軌道が複数ある場合の例を表す模式図である。
【
図20】本発明の逐次成形方法における被加工板材に平行な2方向における工具軌道のうち閉曲線状の軌道を徐々に外側へ切り替えながら周回する工具軌道が複数あり交互に切り替えながら成形する場合の例を表す模式図である。
【
図21】本発明の逐次成形方法の実施により湾曲した円錐台形の製品に成形された被加工板材の例を示す写真である。
【
図22】本発明の逐次成形方法の実施により湾曲した四角錐台形の製品に成形された被加工板材の例を示す写真である。
【
図23】本発明の逐次成形方法の実施によりねじれた五角錐台が湾曲した形状の製品に成形された被加工板材の例を示す写真である。
【
図24】本発明の逐次成形方法において被加工板材の複数箇所に成形する例を表す模式図である。(実施例2)
【
図25】本発明の逐次成形方法において被加工板材の複数箇所に成形する例を表す模式図についての断面図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明における代表的な実施例を
図3に示し、
図3の断面図を
図4に示す。
図3及び
図4に示すように、本発明の実施のための装置には、成形によって局所的な塑性変形が繰り返し与えられて目的の形状に成形される被加工板材10と、被加工板材に対して押圧しながら相対的に移動させることで弾性体に局所的な弾性変形を与えることにより被加工板材に変形を与えるための成形工具20と、成形工具の押圧による弾性変形により被加工板材に局所的な弾性力を及ぼして塑性変形を与えるための弾性体30と、被加工板材と弾性体における位置及び角度の関係を固定して加工中にずれることを防止するための板材・弾性体固定具40の4点が必要となる。
【0025】
なお、本明細書では、
図1や
図3に示すように、円形の被加工板材10や弾性体30や板材・弾性体固定具40を例として図示しているが、これらが円形である必要性はなく、四角形や他の形状でもかまわない。
図5には、被加工板材10と成形工具20と弾性体30と板材・弾性体固定具40の実際の例を示す。
【0026】
本発明は、成形工具を被加工板材に対して垂直な方向に相対的に押圧しながら被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に相対的に移動させることで被加工板材に局所的な変形を繰り返し与えて製品を製造する逐次成形方法のうち、被加工板材を成形工具と弾性体で挟み弾性体から被加工板材に反力を及ぼすことにより被加工部を成形工具側へ持ち上げて成形する逐次成形方法に関するものである。したがって、本発明の逐次成形方法を実施するための装置としては、各請求項に示される範囲内に厳密に限定したうえで、さまざまな種類の加工機械で実用することができる。
図6、
図7、
図8に加工機械50の例を示す。加工機械の加工可能領域51に被加工板材10と弾性体30と板材・弾性体固定具40を設置して加工機械50に成形工具20を取付ければ、いずれも本発明の逐次成形方法を用いることができる。
図6の加工機械では剛性が高く大型の製品を加工することができる。
図7の加工機械では、成形工具が被加工板材に接触する相対的な位置だけではなく方向も柔軟に変えることができる。
図8の加工機械では加工可能領域を回転させるため、断面が円形に近い製品を比較的高速に成形することができるため、
図9に示すように円盤状の成形工具20を用いることで成形工具と被加工板材の間の摩擦を低減することができる。成形済みの被加工部と工具の物理的干渉も避けることができるため、複雑な形状の成形にも適する。成形された被加工板材の一部のみを製品とする場合には、成形後に切断を行う。
【0027】
被加工板材10は、被加工部が板状であり板材・弾性体固定具40に取り付けられる形状であるならば、
図9に示すように、あらかじめ縁が曲げられた形状や被加工部以外が3次元的に成形された形状でも本発明の逐次成形方法を用いることができる。被加工板材10の材質は、基本的には金属を対象とするが、外力を及ぼすことにより塑性変形が発生する材料であれば被加工板材10の材質として用いることができる。高分子材料のなかでもプラスチックに属するポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)なども被加工板材10の材質として本発明の逐次成形方法に適用して成形することができる。ただし、金属と同様に、材料の機械的性質に依存して加工限界やスプリングバックなどの成形性はそれぞれ異なる。
【0028】
成形工具20は、従来の逐次成形において用いられてきた成形工具を用いれば、本発明の逐次成形方法を実施することができる。特に、
図1に示したように先端が球面で棒状の成形工具20と
図9に示したようにベアリングを用いた円盤状の成形工具20は代表的な例である。このほかにも、従来の逐次成形において用いられてきた成形工具を用いることができる。
【0029】
弾性体30の材質としては、ウレタンエラストマなどを用いることができる。成形工具20の押圧よって弾性体30に弾性変形が与えられ、成形工具20が移動して押圧が除かれた部分は、成形工具20が付近を再び押圧するまでに元の形状に回復する必要がある。このため弾性体30としては、形状の回復に要する時間が短く、温度によって体積や弾性率の変化が少ない材質が適している。
【0030】
板材・弾性体固定具40は、被加工板材と弾性体における位置及び角度の関係を固定して加工中にずれることを防止し、なおかつ、被加工板材10のうち固定された未加工部分を元の板形状のまま保つ役割をする。大きく分けて、
図3や
図9に示したように被加工部の周囲を固定する方法と、
図10及びその断面図である
図11に示すように被加工部の内側を1箇所もしくは複数箇所で固定する方法がある。前者の方法において、被加工板材10の被加工部の周囲の形状は板材・弾性体固定具40によって元の板形状のまま保たれるが、後者の方法においては固定されていない。このため、後者の方法において、被加工板材10の被加工部の周囲の形状を元の板形状のまま保ちたい場合には、
図10に示したように被加工板材10の外縁をあらかじめ曲げておく工夫を施す方法がある。
【0031】
本発明の逐次成形方法を実施する準備として、被加工板材10と弾性体30の位置関係が加工中にずれないようにするため、被加工板材10と弾性体30を板材・弾性体固定具40により固定する。
図3においては、被加工板材10の被加工部分の周囲にあたる外縁部分を輪状の部品とボルトによって固定しているが、ボルトではなくトグルクランプを用いる方法や、
図9に示したように周囲をあらかじめ加工済みの被加工板材10を取り付ける方法や、
図10に示したように被加工板材10の被加工部分の内側を固定する方法もある。すなわち、いずれの場合にも、成形完了時までに変形が与えられる板材の被加工部のうち、成形途中における未加工部分の形状が、元の被加工板材10の形状になるべく保たれるようにするとよい。成形工具20は、
図3に示したように、先端が球面状の工具を用いると、製品形状と工具軌道の関係が比較的単純となることにより目的の形状を得るための工具軌道が比較的計算しやすい利点がある一方で、成形工具20と被加工板材10の接触する曲面内において両者の接する相対速度が大きくなりやすく、潤滑などの条件によっては被加工部の表面における荒れや破断の原因となる欠点がある。そこで、たとえば、
図9のように、内部にベアリングを備えた円盤状の工具を用い、工具軌道の進行方向と円盤の転がる方向が近くなるように動かすと、成形工具20と被加工板材10の接触する曲面内において両者の接する相対速度を低減して、これらの欠点を克服しやすい。成形工具20を被加工板材10と弾性体30に対して相対的に動かすための加工機械50としては、前述のように、加工機械の形状に特段の制約がなく、たとえば
図6、
図7、
図8に示したような加工機械を用いることができる。すなわち、成形工具20を加工機械50に固定し、被加工板材10と弾性体30とを固定する板材・弾性体固定具40を動かすことによっても本発明の逐次成形方法を実施することもできる。
【0032】
図12と
図13と
図14は、本発明の逐次成形方法において、被加工板材10に対して平行な2方向の位置に応じて、成形工具20を被加工板材10に対して垂直な方向に相対的に押圧する際における押圧の強さを白黒の濃淡によって表した、成形工具20の押圧の強さ(被加工材10を弾性体30に押し付ける深さ)の設定例を表す。
【0033】
図12は特許文献5に示された従来法と同様に、被加工板材に対して平行な2方向の位置に対して押圧の強さを一定として加工することを表す。一方、
図13と
図14は、本発明の逐次成形方法の特徴である被加工板材10に対して平行な2方向の位置に対して押圧の強さを一定とせずに加工することによって、被加工材10を弾性体30に押し付ける深さを変えることを表す。
【0034】
押圧の強さの調整方法は使用する加工機械50によって異なる。すなわち、数値制御の加工機械で成形工具を動かす場合には成形工具20と板材・弾性体固定具40を相対的に移動させる目標の位置指令値によって調整する方法が一般的と考えられ、力制御の可能な加工機械で成形工具20を動かす場合には板材・弾性体固定具40に取り付けられた被加工板材10に対する押し付け力の指令値によって調整する方法が考えられる。
【0035】
ここで注意すべきは、成形工具20と被加工板材10と弾性体30の相対的な位置関係によって、
図13と
図14に示したような押圧の強さの調整が、様々な方法により実施可能であることである。一つの方法として、成形工具20自体の動きは平面的で変化がない場合であっても、板材・弾性体固定具40ごと被加工板材10と弾性体30を意図的に傾斜させれば、
図13に示したように被加工板材10に対して平行な2方向の位置に対して押圧の強さを一定とせずに加工することができる。別の方法として、たとえば弾性体30の表面をあらかじめ切削加工し弾性体の表面をあらかじめ浅い凹凸形状としておけば、被加工板材10と弾性体30の間に場所によって異なる空隙を設けることができるため、たとえば
図14に示したように被加工板材10を弾性体30に押し付ける深さすなわち弾性体30から被加工板材10へ与えられる反力(弾性力)を変えることができる。なお、成形工具20により被加工板材10を弾性体30へ押し付けることで弾性体30から被加工板材10へ与えられる成形のための反力を変えることは、弾性体30の弾性率や厚さを場所によって変えることによっても可能である。
【0036】
図15から
図20までは、本発明の成形方法において、被加工板材10と弾性体30に対して相対的な運動をする成形工具20について、被加工板材10に対して平行な2方向における工具軌道60の例を示している。いずれの図においても、軌道をわかりやすくするために、成形工具20の送り量を実際の工具軌道よりも大きくとることで、模式的に表しているため、実際に工具が周回する軌道同士の間隔はこれらの図よりもずっと狭い。
【0037】
図15は、成形工具20が閉曲線を描いて移動したのち一つ外側にある閉曲線における任意の開始点に移動して次の閉曲線描くことを繰り返して、工具の周回する軌道を次第に外側へ変える軌道である。
【0038】
この
図15の軌道を成形に用いると、周回方向が毎回同じであるため製品にねじれが生じることがある。そこで
図16のように閉曲線を一周するごとに周回方向を変える軌道とすれば、製品のねじれを抑制することができる。
【0039】
しかし、これら
図15や
図16の方法では、
図21に示す実際の成形例の被加工部に見られるように、一周ごとに次の閉曲線に移る部分において製品の被加工部に比較的目立つ圧痕が残ってしまう。そこで
図17のように軌道を閉曲線とせず渦巻状とすれば、被加工部の表面を比較的滑らかに成形することができる。
【0040】
なお、成形工具10と被加工板材10の摩擦を減らすなどの目的によれば、被加工板材10に対して垂直方向に成形工具20を振動させながら成形することもできる。
【0041】
被加工板材10を被加工部の内側で板材・弾性体固定具40に固定した場合には、
図18のように固定部分から一番離れた輪郭から順に、周回する軌道を内側に変えて成形を行う。
【0042】
被加工板材10上に成形する形状が複数ある場合には、被加工板材10に対して平行な2方向における工具軌道60を
図19のように複数設けることで成形を行う。
図20のように輪郭を交互に切り替えて成形することもできるが、被加工部の内側を固定する加工条件でないならば基本的には必要ではない。
【0043】
以上のように、本発明の成形方法実施する際には、被加工板材10に対して平行な2方向における工具軌道60として様々な種類がある。
【実施例1】
【0044】
本発明の逐次成形方法による、湾曲した円錐台形状の製品の成形の実施例を
図3に示し、
図3の断面図を
図4に示す。
図9のように成形工具20や固定方法を変えて加工を実施することもできる。このように湾曲した円錐形状の成形は、被加工板材10に対して平行な2方向における成形工具の軌道を
図15や
図16や
図17とし、被加工板材10に対して垂直な方向における成形工具の押圧の強さ(深さ)を
図13のように場所によって変えることによって成形することができる。これによって、
図3のハッチング部に示したように、被加工部によって成形工具側に持ち上げられた、被加工板材の未加工部分を、被加工板材が固定された元の平面に対して傾斜して成形することができる。
【0045】
実際の成形例は
図21に示す。この成形例では一辺が180 mmのアルミニウム板を、被加工板材10として成形している。当然ではあるが被加工板材10に対して平行な2方向における成形工具の軌道は、円形に限定されない。湾曲した四角錐台形状の成形例を
図22に示し、ねじれた五角錐台が湾曲した形状の成形例を
図23に示す。
【0046】
本発明の逐次成形方法は、弾性体から被加工板材に及ぼされる反力を成形工具が相対的に移動する前記の2方向の位置に応じて意図的に変化させながら加工することで、被加工部の変形によって持ち上げられた被加工板材の未加工部を成形前の被加工板材に対して傾斜させることを特徴とするから、たとえば、被加工板材10に対して垂直な方向における成形工具の押圧の強さ(深さ)を
図12のように一定とするなどによって、結果的に弾性体から被加工板材に及ぼされる弾性力を意図的に変化させない場合には本発明の逐次成形方法には該当しない。この場合に、たとえば、被加工板材10に対して平行な2方向における成形工具の軌道を
図15や
図16や
図17とすれば、特許文献5に示された従来法に従い、
図1のように湾曲していない円錐台形状の製品が成形される。なお、成形工具を被加工板材に対して垂直な方向に相対的に押圧しながら被加工板材に対して平行で互いに直交する2方向に相対的に移動させることで被加工板材に局所的な変形を繰り返し与えて製品を製造する逐次成形方法のうち、被加工板材を成形工具と弾性体で挟み弾性体から被加工板材に反力を及ぼすことにより被加工部を成形工具側へ持ち上げて成形する逐次成形方法においては、工具を押し付ける深さと工具が周回する閉曲線同士の間隔を一定として加工しても、
図1に示したような円錐台形状の製品には、基本的に成形されない。すなわち、工具が周回する閉曲線は成形完了後の製品に対する等高線には、基本的に対応しない。すなわち、この点は、弾性体を用いた逐次張出し成形法と、弾性体を用いない従来形の逐次張出し成形法とで異なる。
【0047】
図4に示すように湾曲した被加工部に対する接平面が被加工板材10の元の形状に対して垂直な部分のある形状、あるいはオーバーハングした部分のある形状(ひさしのように突き出た形状)は、従来法では被加工部の肉厚がゼロとなり原理的に成形不可能であったが、本発明の逐次成形方法では成形することができる。
【実施例2】
【0048】
本発明の逐次成形方法による、一枚の被加工材10に対する複数箇所の成形の実施例を
図24に示し、
図24の断面図を
図25に示す。このような湾曲した円錐形状の成形は、被加工板材10に対して平行な2方向における成形工具の軌道を
図19のようにして、被加工板材10に対して垂直な方向における成形工具の押圧の強さ(深さ)を
図14のように平行面内において変えることによって成形することができる。
【0049】
被加工板材10のうち成形工具20が接しなかった部分は成形終了後も元の板厚を保つから、
図24のハッチング部分の板厚は、被加工板材10の元の板厚を保ったまま、被加工板材10の元の平面に対しては傾斜して成形される。
【実施例3】
【0050】
特許文献5に示された従来法では、製品の形状によって被加工部の肉厚が決定する。本発明の逐次成形方法を用いれば、同様の製品形状であっても被加工部における肉厚分布が異なる製品を成形することができる。この実施例を、
図10に示し、
図10の断面図を
図11に示す。この実施例では、あらかじめ縁を曲げた被加工板材10を被加工部の内側で板材・弾性体固定具40に固定し、被加工板材の初期形状101から被加工板材の最終形状102まで、被加工板材10に対して垂直な方向における成形工具の押圧の強さ(深さ)を成形の途中で変えながら成形すれば、縁を曲げた被加工板材10の未加工部分が被加工板材の初期状態101に対して傾斜した状態を経て成形することができる。このようにすれば、製品の最終的な形状は同一であってもその成形途中における傾斜角を変えることにより、製品の被加工部における肉厚分布を変えることができる。