特許第6868565号(P6868565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868565
(24)【登録日】2021年4月14日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】不死化幹細胞、及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20210426BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C12N5/10ZNA
   C12N15/09 Z
【請求項の数】9
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-549145(P2017-549145)
(86)(22)【出願日】2016年11月7日
(86)【国際出願番号】JP2016082975
(87)【国際公開番号】WO2017078176
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-217428(P2015-217428)
(32)【優先日】2015年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512139205
【氏名又は名称】株式会社Cysay
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 靖弘
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/147082(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/104246(WO,A1)
【文献】 特開2004−497(JP,A)
【文献】 特開2010−46019(JP,A)
【文献】 特開2016−210730(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/118877(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/175164(WO,A1)
【文献】 照沼裕,他,不死化体性幹細胞の培養上清による糖尿病治療の安全性に関する臨床研究,再生医療,2015年 2月 1日,第14巻増刊号,p. 327, P-02-032
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)bmi-1遺伝子、ヒトパピローマウイルスE6遺伝子及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)遺伝子;又は(b)ヒトパピローマウイルスE6遺伝子、同E7遺伝子及びTERT遺伝子;のいずれかの遺伝子のセットを含むDNA断片を作製する工程と;
前記遺伝子を含むDNA断片を組み込んだウイルスベクターを作製する工程と;
前記ウイルスベクターを哺乳類の歯髄幹細胞にトランスフェクトさせて前記遺伝子を同時に前記幹細胞に導入する工程と;
前記遺伝子が導入された前記歯髄幹細胞を培養し、薬剤によって不死化幹細胞を選択する工程と;
を備える不死化幹細胞の作製方法。
【請求項2】
前記テロメラーゼ逆転写酵素遺伝子は、ヒト由来のものであることを特徴とする、請求項1に記載の不死化幹細胞の作製方法。
【請求項3】
前記ウイルスは、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルスからなる群から選ばれるいずれかのものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の不死化細胞の作製方法。
【請求項4】
前記哺乳類の歯髄幹細胞は、ヒト歯髄幹細胞又はブタ歯髄幹細胞であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の不死化細胞の作製方法。
【請求項5】
前記薬剤は、GENETICINであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の不死化細胞の作製方法。
【請求項6】
前記選択された不死化幹細胞をクローニングする工程をさらに備える、請求項1〜5のいずれかに記載の不死化細胞の作製方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の不死化細胞の作製方法によって作製された、導入遺伝子すべてが発現されている不死化幹細胞。
【請求項8】
前記不死化幹細胞は、少なくとも200PD以上の分裂が可能であることを特徴とする、請求項7に記載の不死化幹細胞。
【請求項9】
前記不死化幹細胞は、200PDの時点におけるSTRO-1の発現量が、不死化前の幹細胞とほぼ同等であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の不死化幹細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不死化幹細胞、及びその作製方法に関する。より詳細には、テロメラーゼ逆転写酵素を含む複数の遺伝子を導入した不死化幹細胞及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の機能は、疾病、外傷等によって損傷を受けることがある。こうした損傷は自然に治癒する程度の場合もあれば、自然に治癒できる程度を越えている場合もある。そして、自然治癒の程度を越えた損傷は、可能であれば復元することが好ましい。
【0003】
このような損傷された生体の機能を復元する方法には、大きく分けて、移植医療と再生医療とがある。移植医療は、ドナーから臓器の提供を受け、これを移植することによって生体の機能を復元させようとするものである。
【0004】
これに対し、再生医療は、本人を含む何人かの細胞又は組織を培養し、これを加工することによって、失われた組織や臓器を修復又は再生する医療といわれる。そして、これには、幹細胞等が用いられる。現在、再生医療に現実に応用されているか、または応用可能とされているのは、ヒト体性幹細胞、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)、及びヒト人工多能性幹(iPS)細胞の3種類であることが知られている。
【0005】
ここで、既に研究で使用されているヒト体性幹細胞は、成人の組織中に存在する細胞であるため、自己細胞を利用した自家移植を行なえば、免疫応答による拒絶反応は起こらず、生着も良い。さらに、これらの幹細胞の長期培養で腫瘍化したとされる報告はない。しかし、体性幹細胞は、骨髄や脂肪組織中に存在する「間葉系幹細胞」を除いて、特定の組織、器官や臓器にしか分化しないことが知られている。また、ヒトの組織から採取する際に侵襲を伴うこと、及び培養継代可能数が四十数回、日数にして100〜200日間と短いことも知られている。
【0006】
ヒト胚性幹細胞(ES細胞)は、生殖医療などで生じた余剰胚(胚盤胞)中の「内部細胞塊」を取り出し、これを培養した幹細胞である。分化万能性を有することの指標となる奇形腫を形成するため、三胚葉いずれにも分化できると考えられており、心筋、神経、網膜へ分化させたという報告もある。ES細胞は不死化した株化細胞であるため、一つの細胞株を無限に培養し続けることができ、適当な培養条件下で、細胞として均質な製品を大量製造することができることが知られている。
【0007】
一方で、ES細胞の作製では受精卵を利用することとなるため、提供時には倫理的な問題が生じないよう、厳密な対応が必要とされる。また、基本的に他家移植となるため、免疫応答による拒絶反応への対処が必要となる。さらに、細胞培養に際しては、異種細胞や血清を用いる必要があること、及び移植した再生組織に、少しでも未分化細胞が混在していると奇形腫(良性腫瘍)を形成しやすいということが知られている。
【0008】
ヒト人工多能性幹(iPS)細胞は、成人の細胞(皮膚等)に、ES細胞に特異的に発現している遺伝子の一部を導入することで樹立される。自己由来のiPS細胞を使えば、免疫拒絶の問題は生じず、ES細胞の分化技術をそのまま応用することができる。そして、iPS細胞は、ES細胞のように受精卵を利用するものではなく、成人の組織を用いて胚性幹細胞とほぼ同質の細胞を作製でき、自己由来のiPS細胞を利用すれば、免疫反応による拒絶反応の問題もない。
【0009】
一方で、良性腫瘍のみならず、悪性腫瘍(胚細胞癌)化しやすいこと、及び遺伝子を導入した全細胞の中から、形態的にES細胞と類似した細胞を選別するため、iPS細胞として樹立される細胞の割合は低いことが知られている。
【0010】
幹細胞自体を再生医療に使用するに当たっては、以上のような問題点があるため、種々の幹細胞自体を使用するのではなく、それらが産生する種々の生体因子、例えば、各種の成長因子を使用する方法が模索されてきた(WO 2011/118795号、以下、「従来技術1」という)。
【0011】
従来技術1には、不死化していない細胞が産生する培養上清に、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子−ベータ(TGF-β)等の成長因子が含まれること、及びそれらを損傷部治療用の薬剤として、特定の組織の損傷の回復・再生に使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO 2011/118795号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、従来技術1で開示されているのは、正常細胞から樹立された株化細胞である。一般的に、正常細胞は、継代する度にテロメアが短くなり、50〜60回の継代後には細胞が分裂できなくなって死を迎えることが知られている。
すなわち、従来技術1で開示された細胞は老化する細胞であり、細胞の老化、すなわち時間の経過に伴って、産生される生体因子の組成も変化するという問題がある。このことは、一定した組成の培養上清を入手することができないことを意味し、安定した品質の治療剤を提供できないという問題につながる。このため、無限増殖が可能な株化細胞を樹立することに対して、強い社会的要請があった。
【0014】
一方で、正常細胞はその本来の性質として無限増殖はできない。天然に存在する無限増殖細胞の例としては、腫瘍細胞(癌細胞)が知られている。癌細胞が無限増殖できるのは、通常であれば生体によって適切な分裂や増殖の制御ができなくなり、無制限に増殖するようになったからである。そして、癌細胞は生体にとって有害な生体因子を産生することも知られている。このため、無限増殖できる細胞であっても、癌化したものは、培養上清ですら使用することはできない。
【0015】
すなわち、培養上清を医薬組成物として使用するためには、上記の不死化幹細胞を培養したときに、その培養上清中に含まれる生体因子の量と組成とが、長期間に渡って安定している必要がある。このため、無限増殖は可能であるが、癌化していない不死化幹細胞の樹立に対する、強い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以上のような状況の下でなされたものである。
すなわち、本発明の第1の態様は、(a)bmi-1遺伝子、ヒトパピローマウイルスE6遺伝子及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)遺伝子;又は(b)ヒトパピローマウイルスE6遺伝子、同E7遺伝子及びTERT遺伝子;のいずれかの遺伝子のセットを含むDNA断片を作製する工程と;前記遺伝子を含むDNA断片を組み込んだウイルスベクターを作製する工程と;前記ウイルスベクターを哺乳類の歯髄幹細胞にトランスフェクトさせて前記遺伝子を同時に前記幹細胞に導入する工程と;前記遺伝子が導入された前記歯髄幹細胞を培養し、薬剤によって不死化幹細胞を選択する工程と;を備える不死化幹細胞の作製方法である。
【0017】
ここで、前記DNA断片としては、上記(a)bmi-1遺伝子、ヒトパピローマウイルスE6遺伝子及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)遺伝子;又は(b)ヒトパピローマウイルスE6遺伝子、同E7遺伝子及びTERT遺伝子の他、(c)bmi-1及びTERT;(d)bmi-1、ヒトパピローマウイルスE6及びTERT;(e)bmi-1、ヒトパピローマウイルスE6、ヒトパピローマウイルスE7、及びTERT;を挙げることができる。また、前記テロメラーゼ逆転写酵素は、ヒト又はブタ由来のものであることが好ましい。


【0018】
また、前記ウイルスは、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルスからなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましく、レンチウイルスであることが好ましい。また、前記哺乳類の歯髄幹細胞は、ヒト歯髄幹細胞又はブタ歯髄幹細胞であることが好ましい。
【0019】
前記薬剤は、抗生物質であることが好ましく、GENETICINであることが好ましい。本発明の方法はまた、前記選択された不死化幹細胞をクローニングする工程をさらに備えることが好ましい。
【0020】
本発明の第2の態様は、不死化幹細胞の作製方法によって作製された、不死化幹細胞である。ここで、前記不死化幹細胞は、少なくとも200PD以上の分裂が可能であることが好ましい。また、前記不死化幹細胞は、200PDの時点におけるSTRO-1の発現量が、不死化前の幹細胞とほぼ同等であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明よれば、染色体に上述した遺伝子が組み込まれるため、これらの遺伝子は安定して発現される。このため、少なくとも200PD以上の分裂が可能な不死化幹細胞を効率よく得ることができる。
また、導入する遺伝子数が2以上であればよいため、多数の遺伝子を導入する場合に比べて簡便な操作によって不死化幹細胞を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、レンチウイルスプラスミドベクターpLVSIN-CMV Neoの構造を示す模式図である。
図2図2は、作製したレンチウイルスプラスミドベクターが細胞内に存在しているか否かの確認結果を示す図である。(A)は陽性対照、(B)はSYN4122-1-7、(C)はSYN4122-2-2、(D)はSYN4122-3-3、(E)はSYN4122-4-4をそれぞれ示す。
図3図3は、トランスフェクションプラスミドのアガロースゲル電気泳動像である。
【0023】
図4図4は、ブタ乳歯歯髄幹細胞又はブタ脂肪幹細胞にウイルスベクターを感染させた後の遺伝子の増幅量を求めるための検量線である。
図5図5は、ブタ乳歯歯髄幹細胞又はブタ脂肪幹細胞にウイルスベクターを感染させた後の遺伝子の増幅の相対値を示すグラフである。
【0024】
図6図6は、ウイルスベクターを用いて遺伝子を導入した後の細胞集団(プール細胞)又はクローニング後の各細胞における遺伝子の発現量の相対値を示すグラフである。(A)はウイルスベクター#1及び#2を用いて遺伝子導入を行った細胞とプール細胞における遺伝子発現の相対値を、(B)はウイルスベクター#3及び#4を用いて遺伝子導入を行った細胞とプール細胞における遺伝子発現の相対値をそれぞれ示すグラフである。
【0025】
図7図7は、レトロウイルスベクターpDON−5 Neoの構造を示す模式図である。図中、MCSはマルチクローニングサイトを示し、この部位に組み込むための制限酵素がPmaCI(1370)以下に列記されている。
図8図8は、ヒト歯髄幹細胞にウイルスベクターを感染させた後の遺伝子の増幅量を求めるための検量線である。
図9図9は、ヒト歯髄幹細胞にレトロウイルスベクターを感染させた後の遺伝子(hTERT)の発現量の相対値を示すグラフである。
図10図10は、本発明の方法で作製した不死化ブタ歯髄幹細胞、及び不死化ヒト歯髄幹細胞をそれぞれ培養したときの顕微鏡像((A)〜(E))である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の不死化幹細胞の作製方法は、上述した通り、(1)Bmi−1遺伝子、ヒトパピローマウイルスE6遺伝子及び/又は同E7遺伝子と、テロメラーゼ逆転写酵素遺伝子(TERT)から成る群から選ばれる3つの遺伝子を含むDNA断片を作製する工程と;(2)前記遺伝子を含むDNA断片を組み込んだウイルスベクターを作製する工程と;(3)前記ウイルスベクターを哺乳類の歯髄幹細胞にトランスフェクトさせて前記遺伝子を前記幹細胞に同時に導入する工程と;(4)前記遺伝子のセットが導入された前記幹細胞を培養し、薬剤によって不死化幹細胞を選択する工程と;を備えている。
【0027】
上記(1)〜(4)の作製方法を用いることにより、不死化のために導入された遺伝子すべてが安定して発現している幹細胞を得ることができる。一方で、このようにして得られた不死化幹細胞は、染色体上の同じ位置に遺伝子が導入されたものではなく、異なる位置に遺伝子が組み込まれた複数の細胞が混在する集団(以下、単に「プール細胞」ということがある。)として得られる。このため、こうしたプール細胞をさらに選別するためのクローニング工程をさらに備えるものとすることができる。
以下に、本発明の方法及びその方法を用いて産生された不死化幹細胞をさらに詳細に説明する。
【0028】
1.DNA断片の作製及びウイルスベクター作製工程
1.1 ウイルス組込み用DNA断片の作製
まず、ウイルスにDNA断片を組み込むために使用するベクターの配列情報を入手する。本発明の方法で、遺伝子導入用ベクターとして使用するウイルスは、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルスからなる群から選ばれるいずれかのものであることが、導入した遺伝子が一過性ではなく発現されることから好ましい。レンチウイルスを使用することが、導入遺伝子の安定発現株の産生効率が高いことから好ましい。
【0029】
以下に、レンチプラスミドベクター(pLVSIN)を使用した場合を例に挙げて説明する。pLVSINの配列情報を、例えば、タカラバイオウェブカタログからダウンロードし、マルチクローニングサイトを確認する。
【0030】
次いで、以下のようにしてDNA断片を作製する。本発明では、上記DNA断片に2〜4遺伝子を組み込んで、不死化幹細胞を作製する。使用する細胞は、哺乳類から得られる幹細胞であれば特に限定されないが、入手が容易で、かつ、形質が安定した不死化幹細胞を得ることができることから、ブタ歯髄組織又はヒト歯髄組織を使用することが好ましい。
【0031】
また、ここで導入する遺伝子は、2つのパピローマウイルスの初期遺伝子、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、及びbmiからなる群から選ばれる少なくとも3以上の遺伝子のセットであることが、安定した形質を有する不死化幹細胞を作製できることから好ましい。また、前記パピローマウイルスの初期遺伝子は、ヒトパピローマウイルスE6、ヒトパピローマウイルスであることが、発現効率の点から好ましい。
【0032】
(a)bmi−1遺伝子、ヒトパピローマウイルスE6遺伝子及びTERT遺伝子;又は(b)ヒトパピローマウイルスE6遺伝子、ヒトパピローマウイルスE7遺伝子及びTERT遺伝子;のいずれかの遺伝子のセットを含むDNA断片を作製し、使用することがさらに好ましい。TERTは、hTERTを使用することが遺伝子の発現効率の点から好ましい。
【0033】
上記遺伝子のうち、TERTは加齢に従って短くなるテロメア配列を伸長させる酵素をコードする遺伝子である。ヒトパピローマウイルスE6及びE7はいずれも、ヒトパピローマウイルスの初期遺伝子であり、E6は、TERTの再活性化やPDZドメインを持つタンパク質を分解することが知られている。bmi-1は、ポリコーム群遺伝子であり、幹細胞の自己複製や分化制御に関わっていることが知られている。
【0034】
上記のような遺伝子のセットを組み込むことにより、こうした遺伝子をどのような組み合わせで導入すれば、効率よくこれらが発現され、細胞が不死化できるのかを確認することができる。
【0035】
以下に、レンチウイルスベクターを作製して、2つの遺伝子を導入する場合を説明する。上記(a)のセットであるヒトパピローマウイルスE7の遺伝子及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を組み込むために、配列情報に従って、例えば、EcoRI/KoZal/E7/T2A4/hTERT/BamHIの二本鎖DNA(配列表の配列番号1)を標準的な手順で合成する。得られたDNA断片を、上記のレンチプラスミドベクター(pLVSIN-CMV Neo)のマルチクローニングサイトに標準的な手順でクローニングし、上記2つの遺伝子を組み込んだレンチベクター(E7T)を得ることができる。
【0036】
同様にして、異なる2つの遺伝子を導入する場合、例えば、上記(b)のセットを導入する場合には、まず、Bmi-1を含むEcoRI/KoZal/Bmi-1/T2A4/hTERT/BamHIの二本鎖DNA(配列表の配列番号2)を標準的な手順で合成する。得られたDNA断片を、上記のレンチプラスミドベクター(pLVSIN-CMV Neo)のマルチクローニングサイトに標準的な手順でクローニングし、上記2つの遺伝子を組み込んだレンチベクター(BT)を得ることができる。
【0037】
同様にして、3つの遺伝子を導入する場合には、配列情報に従ってT2A3E6の二本鎖DNAを合成し、上記(v2)で作製したレンチウイルスベクターのBmi-1とT2A4との間に挿入し、EcoRI/KoZal/Bmi-1/T2A3/E6/T2A4/hTERT/BamHIの二本鎖DNAを作製する(配列表の配列番号3)。得られたDNA断片を、上記のレンチプラスミドベクター(pLVSIN-CMV Neo)のマルチクローニングサイトに標準的な手順でクローニングし、上記3つの遺伝子を組み込んだレンチベクター(BE6T)を得ることができる。
【0038】
同様にして、4つの遺伝子を導入する場合には、E6T2A3の二本鎖DNAを合成し、上記(d)で作製したレンチウイルスベクターE7TのKozak配列とE7との間に挿入し、EcoRI/KoZal/E6/T2A3/E7/T2A4/hTERT/BamHIを作製する(配列表の配列番号4)を標準的な手順で合成する。得られたDNA断片を、上記のレンチプラスミドベクター(pLVSIN-CMV Neo)のマルチクローニングサイトに標準的な手順でクローニングし、上記3つの遺伝子を組み込んだレンチベクター(E6E7T)を得ることができる。以上のようなDNA断片の合成は、DNAの合成を受託する企業に委託して行ってもよい。
【0039】
レトロウイルスの場合には、レンチウイルスベクターの場合とは異なって、個別の遺伝子を組み込んだベクターを作製して共感染により導入を行なう。例えば、開始コドンの上流にKozak配列(gccacc)を付加した5種類の不死化遺伝子(hTERT(配列表の配列番号5)、ヒトパピローマウイルスのE6(配列表の配列番号6)及びヒトパピローマウイルスのE7(配列表の配列番号7)、pigTERT(配列表の配列番号8)、及びhBmi-1(配列表の配列番号9))を常法に従って調製し、pDON-5 NEO DNA(TaKaRa Code 3657:図7参照)のPmaC I-Hpa Iサイトに常法に従ってクローニングし、レトロウイルスプラスミドベクター(pDON-5 Neo hTERTベクター、pDON-5 Neo HPV16E6ベクター、pDON-5 Neo HPV16E7ベクター、pDON-5 Neo pHTERTベクター及びpDON-5 Neo hBmi1ベクター)を調製することができる。
【0040】
その後、上記のようにして作製した5種類のプラスミドDNAを用いて常法に従って大腸菌を形質転換させ、得られた形質転換体をCO2インキュベータ中で培養して、トランスフェクショングレードのプラスミドDNAを得ることができる。
【0041】
次いで、5.5〜6.5x106個/dishでG3T-hi細胞を所望のプレートに播種し、5%CO2インキュベータ中、約37℃で約20〜28時間培養し、所望の量のトランスフェクション試薬(例えば、0.3〜0.5mLのTransIT-293)を加えて、上記の5種類プラスミドベクターのうちから3種類を選択し、pGP及びpE-Ampho(いずれもRetrovirus Packaging Kit Amphoに付属するベクター))を共導入し、さらに同じ条件の下で40〜56時間培養を行なって、これらの遺伝子を導入することができる。
【0042】
1.2 ベクター産生細胞の調製
上記の作業と並行して、組換えレンチウイルスベクター産生細胞を準備する。こうした細胞株としては、例えば、Lenti-X 293T(クロンテック社製、コード番号:632180)その他の市販の細胞株を使用することができる。Lenti-X 293Tの培養には、ウシ胎児血清及び抗生物質を含む培地を使用することができる。こうした培地としては、例えば、最小培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等を挙げることができる。例えば、5〜15%のウシ胎児血清(FBS、ハイクローン社製)、0.5〜2%の抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン、ギブコ社製)を含有するDMEM(SIGMA社製, St. Louis, MO)等を使用することが、細胞の増殖効率の点から好ましい。
【0043】
例えば、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEMを調製し、この培地を基本培地として使用することもできる。以下、本明細書中では、この培地を「293T基本培地」という。
【0044】
例えば、上記の細胞株としてLenti-X 293Tを使用する場合には、1〜5x105cells/mLの細胞懸濁液を調製して、10cmディッシュにこの懸濁液を10mL入れ、5%CO2インキュベーター中にて約24時間培養し、その後、使用するまで、細胞の状態に合わせて継代する。使用に際しては、まず、継代を続けた細胞の培養上清を除去してPBSで洗浄し、市販の剥離剤を加えて細胞をディッシュから剥離させて回収する。次いで、約3〜5倍希釈した細胞懸濁液を所望量とってトリパンブルー染色液を加え、血球計算盤を用いて生細胞数を計数する。上記基本培地を加えて約5x105cells/mLの細胞懸濁液を調製し、例えば、所望の濃度でディッシュに播種し、所望の条件で培養する。例えば、直径6cmのコラーゲンコートディッシュに、1〜4x106cells/4mLで上清細胞を播種し、その後、5%CO2インキュベーター中にて約37℃にて約24時間培養し、培地を交換してさらに培養を続ける。
【0045】
また、レトロウイルス調製細胞として、ヒト腎臓由来の細胞株293T(G418耐性)にハイグロマイシン耐性遺伝子を用いてヒトN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ III(N-acetylglucosaminyltransferase III :GnT-III)を導入したGnT-III高発現細胞株である、G3T-hi細胞を使用することが好ましい(タカラバイオ(株)製)。
【0046】
上記G3T-hi細胞は、Retrovirus Packaging Kit Eco又はAmpho(タカラバイオ(株)製、製品コード 6160、6161)を用いて、gag-pol、env遺伝子の発現ベクタープラスミドと目的遺伝子を組み込んだ組換えレトロウイルスベクタープラスミドを共導入することにより、迅速かつ一過性に高力価の組換えウイルスを産生できるようデザインされている。そして、上記G3T-hi細胞は293T由来であるため、SV40のT抗原遺伝子が導入されており、この遺伝子の働きによってレトロウイルスのRNAが増幅され、高力価ウイルス液が得られるからである。通常、Retrovirus Packaging Kitを用いた一過性発現では105〜107 cfu/mLのウイルスを含む溶液が得られる。
【0047】
上記G3T-hi細胞では、細胞膜糖鎖がGnT-IIIにより修飾される。発芽するレトロウイルスは宿主細胞膜を纏うため、上記G3T-hi細胞より得られた組換えレトロウイルスの膜タンパク質の糖鎖は、GnT-IIIにより修飾を受けていると推測される。この糖鎖修飾により、上記G3T-hi細胞を用いて調製したレトロウイルスは、RetroNectin(組換えヒトフィブロネクチンフラグメント)への親和性が高くなっているため、培養器のコート剤としてRetroNectinを用いることにより標的細胞への遺伝子導入効率が大きく向上する。RetroNectinは、特に、血球系細胞を標的とした遺伝子導入に有効である。
【0048】
G3T-hi細胞を使用する場合には、上記293T基本培地に代えて、グルコース(4.5 g/L)及びL-グルタミン(584 mg/L)を含むDMEMに、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した培地を使用することが、レトロウイルスの産生効率の面から好ましい。
【0049】
1.3 ウイルスベクターの作製
以下に、レンチウイルスベクターの場合を例に挙げて説明する。
以上説明したように培養している細胞の入った複数のディッシュに、上記のようにして作製したレンチウイルスベクタープラスミドをそれぞれ加えてコトランスフェクションを行なう。こうしたコトランスフェクションには、市販のパッケージングシステム、例えば、Lenti-X HTXパッケージングシステム(クロンテック社製)等を使用することができる。具体的な手順は、こうしたシステムに付属しているマニュアルに従いえばよい。
【0050】
コトランスフェクション終了後に、培地を新鮮な完全培地に交換し、約37℃で24〜48時間培養する。ウイルスベクターの力価測定を行って回収のタイミングを決定し、ウイルス力価が最大となった時点でウイルスベクターを含む培養上清を回収する。ウイルスベクターの力価測定には、市販の簡易力価測定キットを使用することができ、こうしたキットとしては、例えば、Lenti-X GoStix(クロンテック社製)等を挙げることができる。
【0051】
例えば、培地を交換した翌日に、上記のシャーレの培養上清を所望の大きさのシリンジで吸い取って回収し、回収した培養上清を濾過してウイルスベクターを得る。例えば、10mLのディスポーザブルシリンジ(テルモ(株)製)で培養上清を吸い取り、その後、このシリンジに、例えば、0.45μmのフィルター(MILEX-HV、ミリポア社製)を装着し、シリンジ内の培養上清をろ過しながら、例えば、15mLチューブに、ウイルスベクター溶液を回収する。
【0052】
次いで、市販の簡易力価測定キットに含まれている試薬を用いて、組換えレンチウイルスベクターの存在を確認する。例えば、上記のLenti-X GoStixのSに、所望量のウイルスベクター溶液、例えば20μLを加え、さらにChase Buffer 1を添加して室温にて所望の時間、例えば10分間反応させ、バンドの有無によって、組換えレンチウイルスベクターの存在を確認することができる。
【0053】
以上のようにして得られた4つのプラスミド(E7T、BT、BE6T及びE6E7T)を含む細胞を寒天培地上にストリークし、形成されたコロニーを取って、所望量の培地、例えば、抗生物質を含む約2mLのLB培地に播種し、約37℃で約8時間、激しく撹拌しながら振盪培養する。
【0054】
次いで、異なる抗生物質、例えば、アンピシリン、を含むLB培地、例えば、約50mL中に、上記のように培養した細胞の培養液を所望量、例えば100μL移植し、約37℃で約14〜18時間、激しく撹拌しながら振盪培養する。
市販のキット、例えば、MN NucleoBond Xtra Mid Kit(クロンテック社製)を用いて水で溶出させたプラスミドの量を測定する。これとともに、所望のゲル、例えば、約1%のアガロースゲルで分析を行ない、組み込まれたDNAがそれぞれ異なるものであることを確認する。ゲル電気泳動分析のマーカーとしては、例えば、スーパーコイルのDNAラダー、λ−Hind III消化DNA等を使用することができる。以上のようにして、ウイルスベクターを作製することができる。
【0055】
2.哺乳類の幹細胞の調製
2.1 ブタ歯髄幹細胞の調製
生後5〜6ヶ月のブタの顎骨(下顎歯のついた下顎骨)及び腸間膜を入手する。以下の手順に従って、上記のブタの歯と下顎骨とからブタの歯髄幹細胞(以下、「SHED」ということがある。)を得る。
【0056】
まず、上記ブタの歯と下顎骨を、適当な消毒剤、例えば、イソジンで消毒する。その後、例えば、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、下顎歯の歯冠を水平方向に切断、次いで、垂直方向に切削して天蓋を除去する。歯冠及び歯根部より、例えば、歯科用手術用スケーラーを用いて歯髄を採取する。
【0057】
得られた歯髄を、例えば、眼下用穿刀を用いてチョッピングし、所望の濃度、例えば、1〜3mg/mLのコラゲナーゼ溶液に懸濁させ、約37℃の恒温槽中に所望の時間、例えば、1時間置いて細胞を単離する。単離した細胞を、所望の培地、例えば、10%FBS及び1%Anti-Anti(Invitrogen社製, Carlsbad, CA)を含むDMEM中にて、約37℃にて、5%CO2インキュベーター中で予備培養し、継代用の細胞を得る。
【0058】
まず、サブコンフルエントになるまで、週2〜3回の頻度で培地を交換ながら培養し、サブコンフルエントとなった細胞を、剥離剤、例えば、0.05%トリプシンを含むHepes溶液を用いて剥離させ、所望の条件、例えば、室温にて1,500rpmで約3分間遠心して集める。得られた細胞を新鮮な培地に移し、上記と同様の条件の下で、所望の量、例えば、全量を用いて継代培養を行う。
【0059】
2.2 ブタ脂肪幹細胞の調製
ブタの腸間膜から、例えば、解剖用はさみ及び穿刀にて脂肪組織を切り出して集め、余分な組織を除去し、生理食塩水中で血液を洗い流す。得られた脂肪細胞を、所望の培地、例えば、5〜15%のウシ血清及び所望の濃度の抗生物質を含むDMEM中に移し、上記と同様の条件下に予備培養し、ついで、上記DMEM中で、37℃、5%CO2の条件下でサブコンフレントになるまで培養する。上記の添加量は、すべて終濃度表示である。こうした培地としては、例えば、約10%ウシ血清、約100U/mLのペニシリン及び約100μg/mLのストレプトマイシンを含有するDMEMを使用することができる。
ブタSHEDと同様に、剥離剤を使用して剥離し、遠心分離し、得られた細胞を継代培養して脂肪幹細胞を得ることができる。
【0060】
2.3 ヒト乳歯歯髄幹細胞の調製
健常児から得られた脱落乳歯又は抜歯した乳歯を入手する。こうした乳歯を、適当な消毒剤、例えば、イソジン溶液で消毒した後、ブタの歯髄を得たのと同様にして歯髄組織を回収する。得られた歯髄組織を、所望の濃度のコラゲナーゼ及びディスパーゼ、例えば、約3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び約4mg/mLのディスパーゼの溶液中、所望の温度で所望の時間、例えば、約37℃にて約1時間、消化する。ついで、この溶液を、例えば、70mmの細胞ストレーナ(Falcon社製)を用いて濾過し、細胞を濾別する。
【0061】
このように濾別した細胞を、所望量、例えば、4mLの上記培地に再懸濁し、所望の径、例えば、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。ここに、所望の培地、例えば、約10%FCSを含有するDMEMを添加し、5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて、所望の期間、例えば2週間程度培養する。コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を、所望の剥離剤、例えば、約0.05%トリプシンを含む約0.2mM EDTAにて所望の時間、例えば、5分間、約37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収する。
【0062】
次に、上記のようにして回収した接着性細胞を、例えば、付着性細胞培養用ディッシュ(コラーゲンコートディッシュ)に播種し、例えば、5%CO2、37℃に調整したインキュベータ中にて一次培養し、初代培養細胞とする。肉眼観察でサブコンフルエント又はコンフルエントになったときに、上記と同様の剥離剤を用いて同様に処理し、ディッシュ内包の細胞を回収する。
【0063】
その後、一次培養細胞を上記の培地を用いて所望の濃度、例えば、約1×104cells/cm2濃度で継代培養し、1〜3回程度継代した細胞を実験に用いる。以上のようにして、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)を得ることができる。
【0064】
必要に応じて、上記のようにして得られたブタ乳歯歯髄幹細胞、ブタ脂肪幹細胞及びヒト乳歯歯髄幹細胞をそれぞれバイアルに入れ、マイナス80度で凍結保存してもよい。
【0065】
3.遺伝子導入細胞の作製
3.1 レンチウイルスベクターによる遺伝子導入
以上のようにして得られたブタ歯髄幹細胞、ブタ脂肪幹細胞、及びヒト歯髄幹細胞を上記と同様に培養し、約70〜90%コンフルエントになったところで、市販のキットを用いてマイコプラズマチェックを行なう。こうしたキッとしては、例えば、MycoAlert Mycoplasma Detection Kit(Lonza社製、LT07-318)等を使用することができる。
【0066】
次いで、ポリブレン試薬を用いて、上記のようにして作製したレンチウイルスベクターを、上記の各幹細胞に感染させ、薬剤選択を行なって目的遺伝子の安定発現株を選択する。
【0067】
上記のように培養した各幹細胞の培養上清を除去し、例えば、PBS(pH 7.4)で洗浄した後に、所望の剥離剤を使用して細胞を剥離させ、個別に回収する。こうした剥離剤としては、例えば、ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞に対してはStemPro(登録商標:GIBCO社製)、ヒト乳歯歯髄幹細胞に対してはTrypsin‐EDTA等を使用することができる。
【0068】
得られた細胞を定法に従って計数し、例えば、組織培養処理(T.C.trematment)した6ウェルプレート(CORNING社製)の各wellに、約1×105cells/wellとなるように播種し、約37℃のCO2インキュベーター内で約24時間培養し、細胞が全体に均一に存在していることを確認する。
【0069】
その後、培養上清を除去し、ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞に対しては、所望の濃度のポリブレンを含む所望の培地、例えば、約8μg/mLのポリブレン及び約10%FBSを含むDMEM培地を所望量、例えば、750μL/wellずつ添加する。次いで、各ウェルに上記のようにして得られたレンチウイルスベクター溶液を、例えば、約250μL/wellずつ添加する。
【0070】
ヒト乳歯歯髄幹細胞の場合は、上記と同様のポリブレン及びFBSを含むDMEMを、所望の量、例えば、約1.2mL/wellずつ添加し、次いで、各ウェルに上記レンチウイルスベクター溶液を所望量、例えば、約400μL/wellずつ添加する。
【0071】
以上のようにウイルスベクターを添加したそれぞれのプレートを、所望の条件、例えば、約1,000×gで約30分間、約32℃にて遠心し、細胞にウイルスを感染させる。その後、所望の条件、例えば、約37℃のCO2インキュベーター内で約4〜約6時間培養し、その後、各ウェル中に培養培地を所望の量、例えば、約1mL/wellずつ添加し、さらに所望の条件、例えば、37℃のCO2インキュベーター内で約24時間培養し、遺伝子導入を行なう。
【0072】
3.2 薬剤選択
以上のように培養した幹細胞(ブタ歯髄幹細胞、ブタ脂肪幹細胞及びヒト歯髄幹細胞)の培養プレートの各ウェルから培養上清を除去し、所望の濃度の選択薬剤、例えば、約0.4mg/mL又は約0.8mg/mLのGENETICIN(G418、GIBCO社製)を含む選択培地を、所望の量、例えば、約2mL/well各ウェルに加え、選択培地に交換する。以後、培地交換を行いながら所望の期間、例えば、約3〜約5日間培養し、遺伝子導入細胞の選択を行う。
【0073】
上記の各培養細胞の一部をクローニングに供し、残りはプール細胞として選択用培地で培養を続ける。クローニングは以下のように行うことができる。
【0074】
例えば、抗生物質を含まない選択培地、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン及びG418を含まない選択培地、を用いて細胞を希釈し、所望の濃度、例えば、約1x103cells/4mL又は約5x103cells/4mLを、各ディッシュに播種し、次いで、約37℃のCO2インキュベーター内で約24時間培養する。形成されたコロニーをディッシュの裏側からマーキングし、コロニー数が所望の数、例えば、約100個になったところで培養上清を除去してPBSで洗浄する。クローニングリングをディッシュにセットし、剥離剤を用いて剥がしたコロニーの細胞を、それぞれ所望の量、例えば、約1mLの培地を入れた48ウェルプレートの各ウェルに別々に入れる。
【0075】
3.3 総RNAの調製
遺伝子発現の確認用に、例えば、NucleoSpin RNA II (MACHEREY- NAGEL社製のキット)を用いて総RNAを調製する。以下で使用する種々のバッファー、リングフィルター等は上記のキットに付属するものを使用し、キットに付属するマニュアルに従って、操作を行なうことが、高純度の総mRNAを得られることから好ましい。
【0076】
所望の数、例えば、約5×105個の細胞で作製した細胞ペレットを溶解させて溶解液を調製し、紫色のリングフィルターにこの溶解液を入れ、所望の条件、例えば、約11,000×gで約1分間遠心する。遠心後、フィルターを捨てて、コレクションチューブに所望量のエタノール、例えば、約350μLの約70%エタノールを加えて、所望の回数、例えば、約5回ピペッティングを行なう。
【0077】
次いで、得られた溶液を所望量、例えば、約700μL取ってコレクションチューブにセットした薄青のリングカラムにロードし、所望の条件、例えば、約11,000×gで約30秒間遠心してRNAを結合させる。遠心後、このカラムを新しいコレクションチューブにセットし、所望量の試薬、例えば、約350μLのMDBを加えて、所望の条件、例えば、約11,000×gで約1分間遠心分離を行い、脱塩する。
【0078】
遠心後、所望量、例えば、約10μLのrDNaseと約90μLのDNase用反応バッファーとを軽く混ぜてDNA反応混合液を調製し、所望量、例えば、約95μLをこのカラムに加え、所望の条件、例えば、室温で約15分間インキュベートしてDNAを消化する。引き続き、所望量、例えば、200μLのバッファーRA2をカラムに加え、所望の条件、例えば、約11,000×gで約30秒間遠心して洗浄する。引き続き、カラムを新しいコレクションチューブにセットし、所望量、例えば、約700μLのバッファーRA3をこのカラムに加え、所望の条件、例えば、約11,000×gで、さらに約30秒間遠心して洗浄する。
【0079】
引き続き、コレクションチューブに流出した溶液を捨て、再度、所望量、例えば、約250μLのバッファーRA3をこのカラムに加え、さらに所望の条件、例えば、約11,000×gで約2分間遠心し、このカラムのシリカメンブレンを風乾させる。このカラムを、所望の大きさ、例えば、約1.5mLのコレクションチューブにセットし、所望量、例えば、約60μLのRNAase-free水をこのカラムに加え、所望の条件、例えば、約11,000×gで約1分間遠心して、総RNAサンプルを得る。
【0080】
3.4 逆転写反応
上記のようにして得られた総RNAサンプルから逆転写を行ない、引き続きリアルタイムPCRを行なってPCR産物を得る。逆転写には、例えば、PrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real time、TaKaRa Bio社製)等の市販品を使用し、こうしたキットに付属しているマニュアルに従って逆転写を行なえばよい。
【0081】
リアルタイムPCRは、例えば、SYBR Premix Ex Taq等の市販のキットを使用しておこなうことができる。また、ここで使用する標準遺伝子としては、例えば、ブタβ−アクチン、ヒトβ−アクチン等を挙げることができ、プライマーとして、例えば、配列表の配列番号10〜15に示すようなプライマーを調製して使用することができる。
【0082】
まず、所望量、例えば、約350μLのSYBR Premix Ex Taq II(x2)と、約28μLのPrimer mix(約10μL)と、約266μLの二回蒸留水と、を混合してリアルタイムPCR用Premixを調製する。ついで、所望量、例えば、上記のPremixを約23μLずつリアルタイムPCR用チューブに分注し、各チューブに鋳型cDNAを約2μLずつ加える。次いで、所望の条件、例えば、約95℃で約30秒、(約95℃で約5秒その後、約60℃で約30秒)を約40サイクルという条件で、リアルタイムPCRを行なう。引き続き、約95℃で約15秒、約60℃で約30秒、約95℃で約15秒という条件で解離させ、融解曲線を求める。ヒト歯髄幹細胞についても同様の操作を行う。
【0083】
以上のようにして作成した検量線から、各ウイルスベクターで遺伝子を導入した細胞における各遺伝子の発現量を求めることができる。内部標準遺伝子の発現量で補正を行なうことにより、精度のよい結果を得ることができる。
【0084】
遺伝子を導入した各幹細胞において、導入された遺伝子が発現されていることを確認する。この確認によって、上述したように作製した各ウイルスベクターによる遺伝子の導入効率を求めることができる。
【0085】
次いで、以上のようにして得られた遺伝子導入細胞(以下、「導入遺伝子安定発現細胞集団」又は「プール細胞」ということがある。)から、細胞のシングルセルクローニングを行なう。
【0086】
まず、上記のプール細胞を、所望の大きさのディッシュに所望の個数、例えば、60mmディッシュに約1×103個/ディッシュの細胞濃度で播種し、CO2インキュベーター中にて、所望の温度で所望の時間、例えば、37℃にて24時間培養する。その後、上述した選択薬剤を含む生育培地も培地を交換し、培養を継続してコロニーを形成させる。形成されたコロニーを、クローニングリング及び剥離剤を用いてコロニーごとに剥離させ、それぞれ所望のプレート、例えば、24ウェルプレートに播種する。
【0087】
播種した細胞を増殖させた後に、培養用ディッシュ等に播種して増殖させ、拡大培養を行なうことにより、導入遺伝子安定細胞をシングルクローンとして得ることができる。次いで、得られたクローンを、上述したのと同様に培養し、増殖させて総mRNAを得る。得られ総RNAを鋳型として、所望のキット、例えば、PrimeScript RT reagent Kitを用いて逆転写反応を行い、鋳型cDNAを得る。
【0088】
その後、例えば、cDNA(逆転写産物)を鋳型とし、上述したSYBR Premix Ex TaqII (Tli RNaseH Plus)、プライマー(導入遺伝子及び内部標準遺伝子のそれぞれに特異的なプライマー、例えば、配列表の配列番号10〜15に示すプライマー)を用いて、上記と同様にしてリアルタイムPCRを行なう。
【0089】
上記リアルタイムPCRの二次微分曲線から算出したCt値をX軸に、総RNAの相対値をY軸にそれぞれプロットして、各遺伝子の発現量測定用の検量線を作成する。プール細胞の発現量を1としたときの、ブタ歯髄幹細胞由来の導入遺伝子及びヒト歯髄幹細胞由来の導入遺伝子の発現量の相対値を求めることにより、導入した遺伝子がすべて発現されているか、また、それらの発現量を求め、目的とするクローンを選択する。
【0090】
以上のようにして、所望の遺伝子を導入した不死化幹細胞の集団、及びその集団からクローニングされた不死化幹細胞のクローンを得ることができる。
【実施例】
【0091】
(実施例1)ウイルスベクター調製(その1)
(1)ウイルス調製用細胞の調製
(1−1)試薬等及び細胞の起床
組換えレンチウイルスベクター産生細胞株として、Lenti-X 293T(クロンテック社製、コード番号:632180)を使用した。Lenti-X 293Tの培養には、10%ウシ胎児血清(FBS、ハイクローン社製、ロット番号:GRD0051)及び抗生物質(1%ペニシリン/ストレプトマイシン、ギブコ社製、コード番号15140-122)を含有するDMEM(シグマ社製、コード番号:D5796-500ML)を使用した。以下、この培地を、本明細書中では、「293T基本培地」という。細胞凍結保存(セルバンカー、コード番号:BLC-1)は日本全薬工業社より購入した。
【0092】
まず、Lenti-X 293T細胞を293T基本培地に懸濁し、一部を取って8倍希釈した。上記希釈液20μLに140μLのトリパンブルー染色液を加え、血球計算板で計数したところ、2.94x106cells/mLであった。得られた10mLの懸濁液を、2.0x106 cellsの保存バイアル4本を遠心チューブに移した。この遠心チューブを200xgで3分間、室温にて遠心し細胞を回収した。回収した細胞から上清を完全に除去し、必要量の細胞保存液に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を1mL/バイアルで分注し、−80℃で保存した。必要に応じて、翌日、液体窒素保存容器中に移して保存した。
【0093】
(1−2)組換えレンチウイルスベクター産生用細胞の調製
DMEM、抗生物質、FBSは、上記(1−1)と同じものを使用した。また、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-)、コード番号:10010-049、以下、単に「PBS」ということがある。)はギブコ社より購入した。T.C.処理したディッシュ(直径10cm)は、イワキ(株)より購入した。剥離剤として、0.25%トリプシン−EDTA(1x)は、ギブコ社より購入した。
【0094】
15mLの遠心チューブに10mLの293T基本培地を加えた。上記(1−1)で保存したバイアルを37℃のウォーターバスで温めて細胞懸濁液を急速融解させ、上記の遠心チューブに加えた。200xgで3分間、室温にて遠心し、細胞を回収した。上記(1−1)と同様にしてトリパンブルー染色を行ない、血球計算板を用いて細胞を計数した。1バイアル当たりの細胞数は、2.0x106 cellsであった。
1〜5x106cells/10mL/10cmディッシュで細胞を播種し、5%CO2インキュベーター中にて約24時間培養した。その後、使用するまで、細胞の状態に合わせて継代した。
【0095】
(2)組換えレンチウイルスベクターの調製
(2−1)試薬等
DMEM、抗生物質、FBS、剥離剤、PBSは、上記(1−1)と同じものを使用した。コラーゲンコートしたディッシュ(6cm)はイワキ(株)より、また、トランスフェクション試薬(TransIT-293、コード番号:MIR2700)はMirus社より、それぞれ購入した。組換えレンチウイルスベクター産生用試薬(Lenti-XTM HTX Packaging System、コード番号:631247、クロンテック社製)及びLenti-X HTX Packaging Mix(VSV-G)は、クロンテック社より購入した。
【0096】
(2−2)組換えレンチウイルスベクター(トランスフェクションプラスミド)の調製
以下の4種類のレンチウイルスベクターを構築した。pLVSINベクターの配列情報を、タカラバイオウェブカタログからダウンロードし、以下の手順により構築した。
(v1)レンチベクターE7T(EcoRI/KoZal/E7/T2A4/hTERT/BamHI)
配列情報に従って、EcoRI/KoZal/E7/T2A4/hTERT/BamHIの二本鎖DNA(配列表の配列番号1)を合成し、レンチプラスミドベクター(pLVSIN-CMV Neo、図1参照)のマルチクローニングサイトに標準的な手順でクローニングし、SYN4122-1-7(配列表の配列番号1)を得た。
【0097】
(v2)レンチベクターBT(EcoRI/KoZal/Bmi-1/T2A4/hTERT/BamHI)
配列情報に従って、Bmi-1の二本鎖DNAを合成し、上記(v1)で作製したレンチウイルスベクターE7TのE7と入れ換えた(配列表の配列番号2)。
【0098】
(v3)レンチベクターBE6T(EcoRI/KoZal/Bmi-1/T2A3/E6/T2A4/hTERT/BamHI)
配列情報に従って、T2A3E6の二本鎖DNAを合成し、上記(v2)で作製したレンチウイルスベクターのBmi-1とT2A4との間に挿入した(配列表の配列番号3)。
(v4)レンチベクターE6E7T(EcoRI/KoZal/E6/T2A3/E7/T2A4/hTERT/BamHI)
配列情報に従って、E6T2A3の二本鎖DNAを合成し、上記(v1)で作製したレンチウイルスベクターE7TのKozak配列とE7との間に挿入した(配列表の配列番号4)。
【0099】
(2−3)コトランスフェクション用細胞の調製
上記(1)(1−2)で継代してきたLenti-X 293T細胞の培養上清を除去し、PBSで洗浄し、剥離剤をディッシュに加えて細胞を剥離させて回収した。
4倍希釈した細胞懸濁液を50μL取り、等量のトリパンブルーを加えて、血球計算板を用いて細胞を計数したところ、2.38x106cells/mLであった。この懸濁液に上記基本培地を加えて5x105cells/mLに調製し、直径6cmのコラーゲンコートディッシュに、2x106cells/4mL/ディッシュで播種した。その後、5%CO2インキュベーター中、37℃にて約24時間培養し、培地を交換してさらに培養を続けた。
【0100】
(2−4)レンチウイルスベクターのトランスフェクション及びパッケージング
Lenti-X HTXパッケージングシステム(以下、単に「パッケージングシステム」ということがある。)を用いてコトランスフェクションを行った。Xfect Polymerを十分にボルテックスし、トランスフェクション用の各サンプルについて2本のマイクロチューブ(チューブ1及び2)を用意した。チューブ1には、179〜182μLのXfect Reactionバッファーを入れ、ここに15μLのLenti-X 293 T Packaging Mixを加え、最後に3〜6μLの表1に示すベクタープラスミドを加えた(プラスミド溶液、合計200μL)。また、チューブ2には、197μLのXfect Reactionバッファーを入れ、ここに3μLのXfect Polymerを加えた(ポリマー溶液、200μL)。
【0101】
【表1】
【0102】
これら2本チューブをそれぞれボルテックスして十分に混合し、次いで、ポリマー溶液をプラスミド溶液に添加して、中程度の強さでボルテックスして混合し、DNA-Xfect混合液とした。このDNA-Xfect混合液を室温で10分間静置し、ナノ粒子を形成させた。上記(2−3)で調製したLenti-X 293T細胞をCO2インキュベーターから取り出し、2mLの培地を除去した。ここに、上記のDNA-Xfect混合液の全量(400μL)を滴下して加えた。ディッシュをそっと揺らして、DNA-Xfect混合液がディッシュ内全体に行きわたるようにした。
【0103】
引き続き、ディッシュをCO2インキュベーターに戻して37℃でインキュベートした。4時間後に2mLの高濃度グルコース(4.5g/L)、4mM L-グルタミン及び3.7g/L炭酸水ナトリウムを含むDMEMに、10% Tet System Aproved FBS、1mMピルビン酸ナトリウムを加えたLenti-X 293 T 細胞株増殖培地(以下単に、「完全培地」ということがある。)を追加し、37℃で一晩培養した。
【0104】
次いで、培地を新鮮な完全培地(4mL)で交換し、37℃で24〜48時間培養した。Lenti-X GoStix(3テスト分、クロンテック社製)を用いてウイルスベクターの簡易力価測定を行いつつ、回収のタイミングを決定した。ウイルス力価が最大となった時点でレンチウイルスを含む培養上清を回収した。
【0105】
(2−5)レンチウイルスベクターの回収
培地を交換した翌日に、上記のシャーレの培養上清を10mLのディスポーザブルシリンジ(テルモ(株)製)で吸い取って回収した。このシリンジに0.45μmのフィルター(MILEX-HV、ミリポア社製)を装着し、シリンジ内の培養上清をろ過しながら、15mLチューブに、ウイルスベクター溶液を回収した。チューブ内に回収されたろ過済の培養上清を混和し、1mL/バイアルに分注し、−80℃にて保存した。約200μLを力価測定用ウイルスベクター溶液として別途保存した。
【0106】
(2−6)レンチウイルスベクターの簡易力価測定
Lenti-X GoStixに、上記のようにして得られた力価測定用ウイルスベクター溶液を20μL加え、Chase Buffer 1を4滴添加した。次いで、室温にて10分間反応させ、バンドの有無を確認した。図2(A)〜(E)に示すように、測定したSYN4122-1-7、SYN4122-2-2、SYN4122-3-3及びSYN4122-4-4の全てにおいて、2本のバンドが認められ、組換えレンチウイルスベクターの存在が確認された。図中、左側は対照を示すバンド、右側が組換えレンチウイルスベクターを示す。
【0107】
(3)SYN4122トランスフェクションプラスミド
上記のようにして得られた4つのプラスミド(SYN4122-1-7、SYN4122-2-2、SYN4122-3-3及びSYN4122-4-4)を含むLenti-X 293 T細胞を、寒天培地上にストリークしてコロニーを形成させた。形成されたコロニーを取って抗生物質を含む2mLのLB培地に播種し、37℃で約8時間、激しく撹拌しながら(200rpm)培養した。
【0108】
次いで、アンピシリンを含む50mLのLB培地に、上記のように培養した細胞の培養液を100μL移植し、37℃で約16時間、激しく撹拌しながら(200rpm)培養した。
MN NucleoBond Xtra Mid Kit(クロンテック社製)を使用し、水でプラスミドを溶出させ、溶出量を測定した。これとともに、アガロースゲル(1%)で分析を行なった。マーカーは、M1がスーパーコイルのDNAラダー、M2がλ−Hind III消化DNAとした。結果を表1及び図3に示す。アガロースゲル電気泳動分析の結果から、組み込まれたDNAがそれぞれ異なることが示された。
【0109】
(実施例2)ウイルスベクター調製(その2)
(1)レトロウイルス調製用細胞の調製
(1−1)試薬等及び細胞の起床
レトロウイルス調製細胞株として、G3T-hi細胞を使用した。G3T-hi細胞の培養には、グルコース(4.5 g/L)、L-グルタミン(584 mg/L)、10%ウシ胎児血清(FBS、ハイクローン社製、ロット番号:GRD0051)及び抗生物質(1%ペニシリン/ストレプトマイシン、ギブコ社製、コード番号15140-122)を含有するDMEM(シグマ社製、コード番号:D5796-500ML)を使用した。
【0110】
細胞培養については、Lenti-X 293T細胞を293T基本培地に懸濁した場合と同様にして行った。回収した細胞から上清を完全に除去し、必要量の細胞保存液に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。また、この細胞懸濁液を1mL/バイアルで分注し、−80℃で保存した。必要に応じて、翌日、液体窒素保存容器中に移して保存した。
【0111】
(1−2)レトロウイルスベクター産生用細胞の調製
DMEM、抗生物質、FBS、グルコース及びL-グルタミンは、上記(1−1)と同じものを使用した。また、PBS、T.C.処理したディッシュ(直径10cm)及び0.25%トリプシン−EDTA(1x)は、上記実施例1と同じものを使用した。
【0112】
15mLの遠心チューブに10mLの上記培地を加えた。上記(1−1)で保存したバイアルを37℃のウォーターバスで温めて細胞懸濁液を急速融解させ、上記の遠心チューブに加えた。200xgで3分間、室温にて遠心し、細胞を回収した。上記(1−1)と同様にしてトリパンブルー染色を行ない、血球計算板を用いて細胞を計数した。1バイアル当たりの細胞数は、3.0x106 cellsであった。
1〜5x106cells/10mL/10cmディッシュで細胞を播種し、5%CO2インキュベーター中にて約24時間培養した。その後、使用するまで、細胞の状態に合わせて継代した。
【0113】
(2)組換えレトロウイルスベクターの調製
(2−1)試薬等
DMEM、抗生物質、FBS、剥離剤、PBS等は、上記(1−1)と同じものを使用した。コラーゲンコートしたディッシュ(6cm)、トランスフェクション試薬(TransIT-293、コード番号:MIR2700)は、上記実施例1と同じものを使用した。また、Retrovirus Packaging Kit Ampho、Retrovirus Titer Set (for Real Time PCR)、及びOne Step SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(いずれもタカラバイオ(株)製)を使用した。
【0114】
(2−2)レトロウイルスベクター(トランスフェクションプラスミド)の調製
以下の5種類のレトロウイルスベクターを構築した。pDON-5 NEO ベクターの配列情報を用いて、以下の手順により構築した。
開始コドンの上流にKozak配列(gccacc)を付加した5種類の不死化遺伝子(hTERT(配列表の配列番号5)、ヒトパピローマウイルスのE6(配列表の配列番号6)及びE7(配列表の配列番号7)、pigTERT(配列表の配列番号8)、及びhBmi-1(配列表の配列番号9))を常法に従って調製し、pDON-5 NEO DNA(TaKaRa Code 3657:図7参照)のPmaC I-Hpa Iサイトにクローニングし、5種類のレトロウイルスベクター(pDON-5 Neo hTERTベクター、pDON-5 Neo HPV16E6ベクター、pDON-5 Neo HPV16E7ベクター、pDON-5 Neo pHTERTベクター及びpDON-5 Neo hBmi1ベクター)を調製した。
【0115】
以上のようにして作製した5種のプラスミドDNAを用いて、常法に従って大腸菌を形質転換させ、形質転換体を37℃にてCO2インキュベータ中で培養して、トランスフェクショングレードのプラスミドDNA(約50μg)をそれぞれ調製した。各プラスミドDNAを滅菌水に溶解させてDNA溶液を調製した。
【0116】
(2−3)組換えレトロウイルスベクターの産生
5枚のTissue Culture Dish (100 mm)に、6x106個/dishでG3T-hi細胞を播種し、5%CO2インキュベータ中にて37℃で約24時間培養し、0.4mLのトランスフェクション試薬(TransIT-293)を加えて、上記の5種類プラスミドベクターのうちから3種類を選択し、pGP及びpE-Ampho(いずれもRetrovirus Packaging Kit Amphoに付属するベクター))を共導入し、さらに同じ条件の下で40〜56時間培養を行なって、これらの遺伝子を導入し、さらに同じ条件の下で48時間培養を行なった。培養終了後にレトロウイルスベクターが含まれる培養上清を回収し、0.45μmのフィルター(ミリポア社製)で濾過滅菌し、1mLずつチューブに分注した。
【0117】
(2−4)組換えレトロウイルスベクターの力価の算出
組換えレトロウイルスベクターの力価を、Retrovirus Titer Set (for Real Time PCR)及びOne Step SYBR PrimeScript RT-PCR Kit (Perfect Real Time)(いずれもタカラバイオ(株)製)を用いて、それぞれの使用説明書に従って定量を行なった。各キットに付属しているRNAコントロールテンプレートのコピー数をX軸に、また、二次微分曲線(2nd Derivative)から求めたCt値をY軸にプロットして検量線を作成した。この検量線に基づいて被検試料の力価を求めた。
【0118】
12.5μLの組換えレトロウイルスベクター、2.5μLの10xDNase I バッファー、2.0μLのDNase I (5U/μL)、0.5μLのRNase インヒビター(40U/μL)及び7.5μLのRNase フリーの滅菌蒸留水を用いて(合計量25.0μL)、37℃で30分、次いで70℃で10分、その後4℃に冷却してDNase I処理を行なった。DNase I処理反応の終了後、速やかにリアルタイムPCRを行なった。
【0119】
PCR用に、下記表2に示す4種類のプライマーを設計し、作製した。PCR用プライマーミックス(各10μL)の組成を、40μLのフォーワードプライマー(50μM;目的遺伝子:CH000987-F、標準遺伝子:HA067803-F))、40μLのリバースプライマー(50μM;目的遺伝子:CH000987-R、標準遺伝子:HA067803-R))、及び滅菌蒸留水120μLとした。このPCRプライマーミックスを用いて、実施例1と同様の条件でリアルタイムPCRを行なった。
【0120】
【表2】
【0121】
引き続き、12.5μLの2xOne Step SYBR RT-PCR バッファーIII、0.5μLのTaKaRa ExTaq HS (5U/μL)、0.5μLのPrimeScript RT Enzyme Mix II、0.5μLのフォワードタイタープライマーFRT-1(10pmol/μL)、0.5μLのリバースタイタープライマーFRT-1(10pmol/μL)、8.5μLのRNase フリーの滅菌蒸留水、及び2μLの鋳型を用いて(合計量25.0μL)、42℃で5分、95℃で10秒反応させた後に、(95℃で5秒その後60℃で30秒)を40回サイクルという条件でリアルタイムPCRを行った。引き続き、95℃で15秒、60℃で30秒、95℃で15秒という条件で解離させ、解離曲線を求めた。被検試料(各ベクター)の力価を下記表3に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
(実施例3)幹細胞の調製
上記実施例1で得られたレンチウイルスベクターを、以下のように作製したブタ乳歯幹細胞、ブタ脂肪幹細胞、ヒト歯髄幹細胞それぞれに感染させ、目的遺伝子の安定発現株を作製した。
【0124】
(1)幹細胞の調製
(1−1)ブタ歯髄幹細胞
食肉公社(日本国愛知県名古屋市港区)より、生後5〜6ヶ月のブタの顎骨(下顎歯のついた下顎骨)及び腸間膜を入手した。屠殺直後の食肉用ブタの下顎歯、顎骨及び腸間膜は、保冷剤入りのアイスボックス(-30℃)にて搬送した。以下の手順に従って、上記のブタの歯と下顎骨とからブタの歯髄幹細胞(SHED)を得て、ラボへ搬送した。
【0125】
搬送したブタの歯と下顎骨をイソジンで消毒し、その後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、下顎歯の歯冠を水平方向に切断し、次いで、髄腔に沿って垂直方向に切削して天蓋を除去した。このように処理した歯冠及び歯根部より、歯科用手術用スケーラーを用いて歯髄を採取した。
【0126】
得られた歯髄を、眼下用穿刀を用いてチョッピングし、2mg/mLのコラゲナーゼ溶液に懸濁した。この懸濁液を、37℃の恒温槽中に1時間おき、細胞を単離した。単離した細胞を10%FBS及び1%Anti-Anti(インビトロジェン社製)を含むDMEM(SIGMA社製)中にて、37℃、5%CO2の条件下で予備培養し、継代用の細胞を得た。
【0127】
まず、培養初期は、サブコンフルエントになるまで、週2〜3回の頻度で培地を交換ながら培養した。サブコンフルエントとなった細胞を、0.05%トリプシンを含むHepes溶液を用いて剥離させ、1,500rpmで、室温にて、3分間遠心分離して集めた。得られた細胞を新鮮な培地に移し、上記と同様の条件の下に、全量を用いて継代培養を行った。
【0128】
(1−2)ブタ脂肪幹細胞
ブタの腸間膜から、解剖用はさみ及び穿刀にて脂肪組織を切り出して集め、余分な組織を除去し、生理食塩水中で血液を洗い流した。得られた脂肪細胞を、10%ウシ血清、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを含有するDMEM中に移して、上記と同様の条件下に予備培養し、ついで、上記DMEM中で、37℃、5%CO2の条件下でサブコンフレントになるまで培養した。上記の添加量は、すべて終濃度で表示した。ブタSHEDと同様に、上記の0.05%トリプシン溶液を使用して剥離し、1,500rpmで3分間遠心分離し、継代培養して脂肪幹細胞を得た。
【0129】
(1−3)ヒト乳歯歯髄幹細胞
10歳の健常男児から得られた脱落乳歯を使用した。この脱落乳歯をイソジン溶液で消毒した後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、歯冠を水平方向に切断し、歯科用リーマーを用いて歯髄組織を回収した。得られた歯髄組織を、3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。ついで、この溶液を70mmの細胞ストレーナ(Falcon社製)を用いて濾過した。
【0130】
濾別した細胞を、4mLの上記培地に再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種した。10%FCSを含有するDMEMをこのディッシュに添加し、5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて2週間程度培養した。コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を、0.05%トリプシンを含む0.2mM EDTAにて5分間、37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収した。
【0131】
次に、上記のようにして回収した接着性細胞を、付着性細胞培養用ディッシュ(コラーゲンコートディッシュ)に播種し、5%CO2、37℃に調整したインキュベータ中にて一次培養し、初代培養細胞とした。肉眼観察でサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントになったときに、0.05%トリプシンを含む0.2m MEDTAにて5分間、37℃で処理して細胞を培養容器から剥離させて回収した。
【0132】
こうして得られた細胞を、再度、上記の培地を入れたディッシュに播種し、継代培養を数回行って、約1×107個/mLまで増殖させた。得られた細胞を、液体窒素中で保存した。
その後、一次培養細胞を上記の培地を用いて約1×104細胞/cm2濃度で継代培養した。1〜3回継代した細胞を実験に用いた。以上のようにして、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)を得た。上記のようにして得られたブタ乳歯歯髄幹細胞、ブタ脂肪幹細胞及びヒト乳歯歯髄幹細胞をそれぞれバイアルに入れ、マイナス80度で凍結保存した。
【0133】
(実施例4)遺伝子導入用細胞の準備
(1)細胞のセットアップ
(1−1)ブタ歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞の培養
ブタ歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞の培養には、培養培地(10%FBSを含むDMEM(GIBCO社製))を使用した。15mLの遠心チューブに、10mLの上記培養培地を加えた。ブタ歯髄幹細胞の保存用バイアルを37℃のウォーターバスで温めて急速融解し、上記の遠心チューブに加えた。200xgで3分間、室温にて遠心した。上清を除去して、10mLの培養培地を加えて懸濁液とし、その一部を取ってトリパンブルー染色を行ない、血球計算盤を用いて細胞数を計測した。結果は、5x105cells/vialであった。
【0134】
ついで、直径10cmのディッシュ(Iwaki社製、T.C.処理)に、1〜5x105cells/10mL/ディッシュで播種し、5%CO2インキュベーター内で、37℃にて約24時間培養した。その後、細胞の状態を顕微鏡で観察した。このディッシュの培地を完全に除去し、10mLの新鮮な培養培地を加えて、5%CO2インキュベーター内で、37℃にて約24時間培養した。その後、使用するまで、細胞の状態に合わせて継代を続けた。ディッシュからの細胞の剥離には、0.25%トリプシン−EDTA(GIBCO社製)を使用した。ブタ脂肪幹細胞についても、同様の操作を行なった。
【0135】
(1−2)ヒト歯髄幹細胞
ヒト歯髄幹細胞の培養には、10%FBSを含むDMEM(SIGMA社製)を使用した以外は、上記(1−1)と同様の操作を行なった。なお、細胞数の計測結果は、1.0x105cells/vialであった。
【0136】
(実施例5)遺伝子導入株の薬剤選択及び遺伝子発現解析(プール細胞の調製)
(1)レンチウイルスベクター遺伝子導入細胞の作製
上記のようにセットアップした細胞のうちの生細胞数を、トリパンブルー染色と血球計算盤とを使用して計数し、培養培地が入った直径10cmのディッシュに1×106cells/10mLとなるように播種し、37℃のCO2インキュベーター内で約24時間培養した。細胞密度が7〜9割のコンフルエントに達したところで、1×104cells/mLの濃度に希釈して継代を行った。また、以下のようにマイコプラズマ感染の有無を確認した。
【0137】
(2)培養細胞のマイコプラズマチェック
MycoAlert Mycoplasma Detection Kit(Lonza社製、LT07-318)を使用して、マイコプラズマ感染の有無を確認した。
96ウェルプレート(コーニング社製、平底)にMycoplasma Alert試薬を100μL/ウェルで加えた。ここに、ブタ歯髄幹細胞又はブタ脂肪幹細胞の培養上清を、100μL/ウェルで加えた(各6ウェル)。各ウェルについて5回ずつ、ピペッティングを行なった。室温で5分間静置し、ドライヤーを用いて気泡を除去した。Kinetic Cycles 5でルミノメーター(Tecan(infinite 200、マルチ検出モードマイクロプレートリーダー))を用いて測定Aを行なった。
【0138】
次いで、MycoAlert基質を100μL/ウェルで加え、各ウェルについて5回ずつ、ピペッティングを行なった。室温で5分間静置し、ドライヤーを用いて気泡を除去した。Kinetic Cycles 5でルミノメーターを用いて測定Bを行なった。サンプル中の生きているマイコプラズマを溶解し、マイコプラズマの酵素(ルシフェリン)をMycoAlert基質に作用させると、ADPがATPに変換される。MycoAlert添加前後のサンプル中のATPレベルを測定し、下記の式で計算を行い、Rが1以上の場合を陽性、1未満を陰性と判定した。励起波長は565nmとした。結果を下記表4に示す。
R=測定値Bの平均/測定値Aの平均
【0139】
【表4】
【0140】
ヒト歯髄幹細胞についても同様の検査を行った。結果を表5に示す。いずれの幹細胞も、マイコプラズマには感染していないことが確認された。
【0141】
【表5】
【0142】
(2)レンチウイルスベクター遺伝子の導入
ポリブレン試薬を用いて、上記実施例1で作製したレンチウイルスベクターを、上記実施例3で得た各幹細胞に感染させ、GENETICIN添加培地により、目的遺伝子の安定発現株を選択した。
【0143】
上記のように培養した各幹細胞の培養上清を除去し、PBS(pH7.4)で洗浄後、剥離剤(ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞に対してはStemPro(登録商標:GIBCO社製)、ヒト乳歯歯髄幹細胞に対してはTrypsin‐EDTA)を使用して細胞を剥離させ、個別に回収した。上記と同様にトリパンブルー染色と血球計算盤を使用して細胞数を計数し、組織培養処理(T.C.trematment)6ウェルプレート(CORNING社製)の各wellに適量の培養培地を入れ、1×105 cells/wellとなるように播種し、37℃のCO2インキュベーター内で約24時間培養し、細胞が全体に均一に存在していることを確認した。
その後、上清を除去し、ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞の場合、8μg/mLのポリブレン及び10%FBSを含むDMEM培地を750μL/wellずつ添加し、次いで、各ウェルに実施例1で得られた上記のレンチウイルスベクター溶液を250μL/wellずつ添加した。
【0144】
ヒト歯髄幹細胞の場合は、8μg/mLのポリブレン及び10%FBSを含むDMEM培地を1.2mL/wellずつ添加し、各ウェルに上記レンチウイルスベクター溶液を400μL/wellずつ同様に添加した。以上のようにウイルスベクターを添加したプレートを、1,000×gで30分間、32℃にて、遠心し、細胞にウイルスを感染させた。37℃のCO2インキュベーター内で約4〜6時間培養し、その後、培養培地を1mL/wellずつ添加した。次いで、37℃のCO2インキュベーター内で約24時間培養し、遺伝子導入を行なった。
【0145】
(3)薬剤選択
以上のように培養した6ウェルプレートの各ウェルから培養上清を除去し、0.4 mg/mL又は0.8 mg/mLのGENETICIN(G418、GIBCO社製)を含む選択用培地に交換した(2 mL/well)。以後、培地交換を行いながら3〜5日間培養し、遺伝子導入細胞の選択を行った。薬剤選択は、ブタ歯髄幹細胞、ブタ脂肪幹細胞及びヒト歯髄幹細胞のいずれについても、同様に行った。
【0146】
上記の各培養細胞の一部を使用してクローニングを行い、残りはプール細胞として選択用培地で培養を続けた。クローニング用に、ペニシリン、ストレプトマイシン及びG418を含まない選択培地を用いて細胞を希釈し、60mmディッシュに、1x103cells/4mL/ディッシュ又は5x103 cells/4 mL/ディッシュで細胞を播種した。次いで、37℃のCO2インキュベーター内で約24時間培養した。
【0147】
形成されたコロニーをディッシュの裏側からマーキングし、マーキングしたコロニー数が100個程度になったところで培養上清を除去してPBSで洗浄した。クローニングリングをディッシュにセットし、剥離剤を用いて剥がしたコロニーの細胞を、1 mLの培地を入れた48ウェルプレートの各ウェルに別々に入れた。37℃のCO2インキュベーター内で培養を続け、細胞密度を観察しながらスケールアップを行なった。薬剤選択の開始から約2〜3週間後、薬剤耐性となって増殖してきた細胞集団を、個別に凍結保存した。5x106 cells/mL程度まで増殖したところで、2x106 cells/バイアルでストックした。
【0148】
凍結保存液としては、ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞の場合にはセルバンカー(全薬工業(株)製)を、また、ヒト乳歯歯髄幹細胞の場合にはバンバンカー(日本ジェネティックス社製))を用いた。これらの凍結保存液を用いて、各幹細胞を0.5×106 cells//s/vial(ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞)又は1×106 cells/vial(ヒト乳歯幹細胞)で凍結し、マイナス80℃で使用まで保存した。
【0149】
(4)総RNAの調製
総RNA(トータルRNA)の調製には、NucleoSpin RNA II (MACHEREY-NAGEL社製のキット)を用いた。先ず、発現確認用のRNA抽出用に、5×105個の細胞ペレットを作製した。ここに、350μLのRA1バッファー(上記のキットに付属している)及び0.22μmのフィルターで滅菌した7μLの1M DTT(ジチオトレイトール)を加えて良く混合し、細胞を溶解させて溶解液を得た。コレクションチューブにセットした紫色のリングフィルター(上記のキットに付属している)にこの溶解液を入れ、11,000×gで1分間遠心した。遠心後、フィルターを捨て、コレクションチューブに350μLの70%エタノールを加えて、5回ピペッティングを行い、RNAの結合条件を調整した。
【0150】
次いで、この溶液700μLを、コレクションチューブにセットした薄青のリングカラム(上記のキット付属している)にロードし、11,000×gで30秒間遠心してRNAを結合させた。遠心後、このカラムを新しいコレクションチューブにセットし、350μLのMDB(上記のキットに付属している)を加えて、11,000×gで1分間遠心分離を行い、脱塩した。
【0151】
遠心後、10μLのrDNase(540μL/バイアル)と90μLとDNase用反応バッファー(上記のキットに付属している)とを軽く混ぜてDNA反応混合液を調製し、95μLをこのカラムに加え、室温で15分間インキュベートしてDNAを消化した。インキュベート終了後、200μLのバッファーRA2(上記のキットに付属している)をカラムに加え、11,000×gで30秒間遠心して洗浄した。引き続き、カラムを新しいコレクションチューブにセットし、700μLのバッファーRA3(上記のキットに付属している)をこのカラムに加え、11,000×gで、さらに30秒間遠心して洗浄した。
【0152】
この遠心後、コレクションチューブに流出した溶液を捨て、再度、250μLのバッファーRA3をこのカラムに加え、さらに11,000×gで2分間遠心し、このカラムのシリカメンブレンを風乾させた。このカラムを、1.5mLのコレクションチューブにセットし、60μLのRNAase-free水をこのカラムに加え、11,000×gで1分間遠心して、高純度のトータルRNAサンプル(40〜60μL)を得た。
【0153】
(5)逆転写反応
上記のようにして得られた総RNA試料から、PrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real time、TaKaRa Bio社製)を用いて逆転写を行った。
【0154】
(5−1)PrimeScript RT reagent Kitを用いた逆転写
上記のようにして得た総RNAサンプルを、上記のキットに付属しているEASY Dilutionを用いて、下記表6に示すように、20ng/μLに希釈した。
【0155】
【表6】
【0156】
72μLの5xPrimeScript Buffer, 18μLのPrimeScript RT Enzyme Mix, 18μLのRandom 6 mer(100μM)、及び72μLの2回蒸留水(D2W)を含む180μLのPremix(反応液)を調製した。次いで、Premixを10μLずつPCRチューブに分注し、10μLの鋳型RNAを各チューブに加えて、37℃で15分、85℃で5秒反応させ、その後4℃とするという条件で逆転写を行なった。得られた産物は、以下のリアルタイムPCRに供した。
【0157】
(5−2)SYBR Premix Ex Taqを用いたリアルタイムPCR
350μLのSYBR Premix Ex Taq II(x2)、28μLのPrimer mix(10μM)、266μLの二回蒸留水を混合してリアルタイムPCR用Premixを調製した。プライマーは、終濃度を0.4μMで使用した。標準遺伝子として、ブタβ−アクチン、ヒトβ−アクチンを使用した。下記表7に示す塩基配列のプライマーをPCRで使用した(配列表の配列番号10〜15)。また、下記表8に示すように、標準サンプルを調製した。
【0158】
【表7】
【0159】
【表8】
【0160】
上記のPremixを23μLずつリアルタイムPCR用チューブに分注し、各チューブに鋳型cDNAを2μLずつ加えた。次いで、95℃で30秒、(95℃で5秒その後60℃で30秒)を40サイクルという条件でリアルタイムPCRを行なった。引き続き、95℃で15秒、60℃で30秒、95℃で15秒という条件で解離させ、融解曲線を求めた。ヒト歯髄幹細胞についても同様の操作を行なった。結果を下記表9〜11、図4及び図5に示す。
【0161】
【表9】
*1:ブタ由来導入遺伝子標準試料の増幅曲線(二次微分曲線)より求めた。
【0162】
【表10】
*2:レンチウイルス
*3:ヒトパピローマウイルスE7、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)
*4:bmi、hTERT
*5:bmi、ヒトパピローマウイルスE6、hTERT
*6:bmi、ヒトパピローマウイルスE6、ヒトパピローマウイルスE7、hTERT
【0163】
【表11】
【0164】
(7)結果
上記のリアルタイムPCRの二次微分曲線から算出したCt値をX軸に、トータルRNAの相対値をY軸に、それぞれプロットし、各遺伝子の検量線を作成した。この検量線から各遺伝子の発現量を算出し、導入遺伝子の発現量を、それぞれの内部標準遺伝子であるβアクチンの発現量で割ることにより、サンプル間の補正を行った。
【0165】
ブタ由来導入遺伝子試料のリアルタイムPCRの結果から、遺伝子を導入したブタ歯髄幹細胞では導入遺伝子の増幅が見られたのに対し、遺伝子を導入していない同細胞では増幅が見られなかったことが示された。このことは、上記実施例1で作製したレンチウイルスベクターを用いて導入した遺伝子は、遺伝子を導入したブタ歯髄幹細胞において発現していることを示すものである。
【0166】
また、ブタ由来内部標準遺伝子試料のリアルタイムPCRの結果から、内部標準遺伝子が増幅されていることが示された。図4及び図5に、Virus #1の発現量を1としたときの、ブタ歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞における各導入遺伝子の発現量の相対値を示した。相対的発現量で見る限り、ブタ歯髄幹細胞おける導入遺伝子の発現量は、Virus #4がVirus #1に近いが、他の2つは半分以下であることが示された。ブタ脂肪幹細胞の場合には、Virus #4の発現率がVirus #1のほぼ半分であり、Virus #2及びVirus #3を用いた場合の発現量は、1/3〜1/5未満と低くなっていた。
【0167】
上記表10及び図6(A)及び図6(B)には、ヒト歯髄幹細胞における遺伝子発現状態を示した。ヒト歯髄幹細胞においても、上記のブタの各幹細胞の場合と同様に、Virus #4がVirus #1により近いことが示された。また、他の2つを用いた場合の発現率は、1/5〜1/10以下とブタ幹細胞の場合よりも低いことが示された。
以上より、発現効率に種差及び相違はあるものの、上記の遺伝子導入細胞では、導入された遺伝子がすべて発現していることが確認された。
【0168】
(実施例6)遺伝子導入株の薬剤選択及び遺伝子発現解析(プール細胞の調製)
(1)レトロウイルスベクター遺伝子導入細胞の作製
上記のようにセットアップした細胞のうちの生細胞数を、トリパンブルー染色と血球計算盤とを使用して計数し、培養培地が入った直径10 cmのディッシュに6×106 cells/10 mLとなるように播種し、37℃のCO2インキュベーター内で約24時間培養した。細胞密度が7〜9割のコンフルエントに達したところで、6×104cells/mLの濃度に希釈して継代を行った。また、マイコプラズマ感染の有無については、上記実施例5と同様に行った。判定結果はすべて陰性であった。
【0169】
(2)レトロウイルスベクター遺伝子の導入及び薬剤選択
上記実施例2で作製したレトロウイルスベクターを、上記実施例3で得た各幹細胞に感染させ、GENETICIN添加培地により、目的遺伝子の安定発現株を選択した。このときの不死化遺伝子搭載レトロウイルスベクター中の遺伝子の組合せは、細胞A-1及びA-2が(hTERT, HPV16_E6, HPV16_E7)の3遺伝子、細胞B-1及びB-2が(hTERT, hBmi-1, HPV16_E6, HPV16_E7)の4遺伝子であった。感染に際しては、細胞A-1及びB-1は、レトロウイルスベクター溶液を4倍に希釈して調製し、細胞A-2及びB-2は、レトロウイルスベクターを10倍に希釈して調製した。
【0170】
各幹細胞(標的細胞)へのレトロウイルスベクターの導入、及び導入後の薬剤選択を、上記実施例5に準じて行った。薬剤選択後の細胞集団を、薬剤耐性プール細胞として回収し、凍結保存した。また、リアルタイムPCR解析用に、5x105 個の細胞ペレットを調製し、−80℃で保存した。
【0171】
(3)総RNAの調製
総RNAの調製は、NucleoSpin RNA II (MACHEREY-NAGEL社製のキット)を用いて、上記実施例5と同様に行った。各細胞ペレットから得られた総RNAの抽出結果を下記表12に示す。
【0172】
【表12】
*:未処理の標的細胞株
【0173】
(4)逆転写反応及びリアルタイムPCR
(4−1)逆転写反応
上記のようにして得られたトータルRNAサンプルから、逆転写反応キット(PrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real time、TaKaRa Bio社製))を用いて逆転写反応を行った。
【0174】
4μLの5xPrimeScript バッファー(終濃度は1倍)、1μLのPrimeScript RT Enzyme Mix、1μLのRandom 6 mer(100μM、終濃度は5μM)、10μLのトータルRNA及び4μLの2回蒸留水(D2W)を含む20μLのPremix(反応液)を調製した。次いで、Premixを10μLずつPCRチューブに分注し、10μLの鋳型RNAを各チューブに加えて、37℃で15分、85℃で5秒反応させ、その後4℃とするという条件で逆転写を行なった。得られた産物(逆転写反応液)は、以下のリアルタイムPCRに供した。
【0175】
(4−2)SYBR Premix Ex Taqを用いたリアルタイムPCR
12.5μLのSYBR Premix Ex Taq II(x2、終濃度は1倍)、0.5μLのPCR Primer mix(10μM、終濃度は各0.2μM)、2.0μLの逆転写反応液、及び10.0μLの滅菌蒸留水を混合してリアルタイムPCR用Premix(25.0μL)を調製した。プライマーは、終濃度を0.4μMで使用した。標準遺伝子としてヒトβ−アクチンを使用した。上記表7に示す塩基配列のプライマーをPCRで使用し(配列表の配列番号10〜15)、上記表8に示すように、標準サンプルを調製した。
【0176】
上記のPremixを25μLずつリアルタイムPCR用チューブに分注し、リアルタイムPCR装置(Thermal Cycler Dice Real Time System:タカラバイオ(株)製)を用いて、95℃で30秒、(95℃で5秒その後60℃で30秒)を40サイクルという条件でリアルタイムPCRを行なった。引き続き、95℃で15秒、60℃で30秒、95℃で15秒という条件で解離させ、融解曲線を求めた。
【0177】
融解曲線は、PCR後の反応液の温度を上げて、温度をX軸に、蛍光強度をY軸にそれぞれプロットしたグラフである。また、1次微分曲線のピークは、各PCR増幅産物の2本鎖DNAが1本鎖DNAに解離する温度であるTm値(melting temperature)を示し、PCR増幅産物が同じものであることの目安となる。本実施例では、ヒト歯髄幹細胞について作業を行なった。結果を下記表13、図8及び図9に示す(n=2)。また、下記表13の相対発現量は、試料1のβ-アクチンの補正後の併記相対発現量を1とした場合の各試料の相対発現量である。
【0178】
【表13】
*1:二次微分曲線(PCR産物の増幅曲線の蛍光強度を2回微分したグラフ)
【0179】
(5)結果
上記のリアルタイムPCRの二次微分曲線から算出したCt値をX軸に、総RNAの相対値をY軸に、それぞれプロットし、各遺伝子の検量線を作成した。この検量線から各遺伝子の発現量を算出し、導入遺伝子の発現量を、それぞれの内部標準遺伝子であるβアクチンの発現量で割ることにより、試料間の補正を行った。
【0180】
ヒト由来導入遺伝子試料のリアルタイムPCRの結果から、遺伝子を導入したヒト歯髄幹細胞では導入遺伝子の増幅が見られたのに対し、遺伝子を導入していない同細胞では増幅が見られなかったことが示された。このことは、上記実施例1で作製したレトロウイルスベクターを用いて導入した遺伝子は、遺伝子を導入したヒト歯髄幹細胞において発現していることを示すものである。
【0181】
また、ヒト由来内部標準遺伝子試料のリアルタイムPCRの結果から、内部標準遺伝子が増幅されていることが示された。図9に、試料1の発現量を1としたときの、ヒト歯髄幹細胞における各導入遺伝子の発現量の相対値を示した。相対的発現量で見る限り、ヒト歯髄幹細胞おける導入遺伝子の発現量は、試料3が試料1に近いが、他の2つは6割前後であることが示された。
【0182】
上記表13及び図9から明らかなように、ヒト歯髄幹細胞において、3遺伝子を導入した場合でも、4遺伝子を導入した場合のいずれでも、hTERTは発現することが確認された。
【0183】
(実施例7)シングルセルクローニング及び遺伝子発現解析
(1)材料と方法
シングルセルクローニング用の細胞として、実施例5で調製した遺伝子導入細胞を使用した。また、使用する培養培地や選択薬剤、逆転写反応やリアルタイムPCRに使用するキットや試薬等は、実施例1〜6に記載したものと同様であり、培養方法その他の実験方法、及び各種条件も同様とした。
【0184】
(2)拡大培養
上記導入遺伝子安定発現細胞集団を、60mmディッシュに1×103個/ディッシュの細胞濃度となるように播種し、CO2インキュベーター中にて、37℃にて24時間培養した。その後、上記選択薬剤(G418)を含む生育培地(10%FBSを含むDMEM)に交換し、培養を継続してコロニーを形成させた。上記実施例4及び5と同様に、形成されたコロニーを、クローニングリング及び剥離剤を用いてクローンごとに剥離させ、それぞれ24ウェルプレートに播種した。24ウェルプレートで増殖させた後に、60mmディッシュに播種して増殖させ、引き続き100mmディッシュ、次にT-225フラスコの順に播種して増殖させ、拡大培養を行った。遺伝子導入に使用したウイルスベクターは上記と同様とした。
【0185】
(3)シングルクローニングの結果
ブタ乳歯歯髄幹細胞由来の導入遺伝子安定発現細胞株については、2回のシングルセルクローニングを行ない、下記表14に示す5クローンを取得した。ブタ脂肪幹細胞由来の導入遺伝子安定発現細胞株についても2回のシングルセルクローニングを行なったが、培養の過程で全ての細胞が死滅し、クローンは取得できなかった。
【0186】
一方、ヒト乳歯歯髄幹細胞由来の導入遺伝子安定発現細胞株については、Virus #1, Virus #3及びVirus #4について、それぞれ下記表14に示す5クローンを取得した。一方、Virus # 2を感染させた細胞では、拡大培養中に細胞が肥大化し必要な細胞数まで増殖しなかったため、作業を中断した。
【0187】
【表14】
【0188】
(4)遺伝子発現解析
上記(3)で得られた遺伝子安定発現細胞株のクローン細胞について、導入遺伝子及び内包標準遺伝子の発現を、リアルタイムPCRを用いて測定した。上記実施例3と同様に、上記の表14に示されている各クローン細胞約5×105個から、NucleoSpin RNAを用いてトータルRNAを調製した。得られたトータルRNAを鋳型としてPrimeScript RT reagent Kitを用いて逆転写反応を行い、鋳型cDNAを得た。
【0189】
その後、SYBR Premix Ex TaqII (Tli RNaseH Plus)、導入遺伝子と内部標準遺伝子のそれぞれに特異的なプライマー(配列表の配列番号16〜19)とを用いて、逆転写産物を鋳型として、上記のリアルタイムPCR装置(Thermal Cycler Dice Real Time System)にて、実施例3と同じ反応条件でリアルタイムPCRを行った。各操作は上記キットに付属するマニュアルに従って行った。
【0190】
(5)導入遺伝子の発現結果
上記リアルタイムPCRの二次微分曲線から算出したCt値をX軸に、トータルRNAの相対値をY軸にそれぞれプロットして、各遺伝子の発現量測定用の検量線を作成した。上記実施例6(5)と同様にして、サンプル間の補正を行なった。
下記表15〜17、図6(A)及び(B)に、Virus #1を用いて遺伝子を導入したプール細胞の発現量を1としたときの、ブタ歯髄幹細胞由来の導入遺伝子及びヒト歯髄幹細胞由来の導入遺伝子の発現量の相対値を、それぞれ示した。
【0191】
【表15】
*1:ブタ由来導入遺伝子標準試料の増幅曲線(二次微分曲線)より求めた。
【0192】
【表16】
【0193】
【表17】
【0194】
以上から、ヒトの乳歯歯髄幹細胞由来の導入遺伝子安定発現株においても、導入した遺伝子はすべての株で発現していることが確認された。また、導入した遺伝子によって、発現量にかなり大きな差異があることが示された。
また、得られたクローンを培養したときの顕微鏡写真を図10(A)〜(E)に示す。いずれも、細胞の大きさが良く揃って、きれいにコンフレントとなっており、正常に増殖していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明は、医薬及び診断薬の分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0196】
配列番号1:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(1)である。
配列番号2:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(2)である。
配列番号3:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(3)である。
配列番号4:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(4)である。
【0197】
配列番号5:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(5)である。
配列番号6:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(6)である。
配列番号7:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(7)である。
配列番号8:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(8)である。
配列番号9:細胞に導入する遺伝子を含むDNA断片の塩基配列(9)である。
【0198】
配列番号10:PCR用プライマー(1)である。
配列番号11:PCR用プライマー(2)である。
配列番号12:PCR用プライマー(3)である。
配列番号13:PCR用プライマー(4)である。
配列番号14:PCR用プライマー(5)である。
配列番号15:PCR用プライマー(6)である。
【0199】
配列番号16:PCR用プライマー(7)である。
配列番号17:PCR用プライマー(8)である。
配列番号18:PCR用プライマー(9)である。
配列番号19:PCR用プライマー(10)である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]