【実施例】
【0091】
(実施例1)ウイルスベクター調製(その1)
(1)ウイルス調製用細胞の調製
(1−1)試薬等及び細胞の起床
組換えレンチウイルスベクター産生細胞株として、Lenti-X 293T(クロンテック社製、コード番号:632180)を使用した。Lenti-X 293Tの培養には、10%ウシ胎児血清(FBS、ハイクローン社製、ロット番号:GRD0051)及び抗生物質(1%ペニシリン/ストレプトマイシン、ギブコ社製、コード番号15140-122)を含有するDMEM(シグマ社製、コード番号:D5796-500ML)を使用した。以下、この培地を、本明細書中では、「293T基本培地」という。細胞凍結保存(セルバンカー、コード番号:BLC-1)は日本全薬工業社より購入した。
【0092】
まず、Lenti-X 293T細胞を293T基本培地に懸濁し、一部を取って8倍希釈した。上記希釈液20μLに140μLのトリパンブルー染色液を加え、血球計算板で計数したところ、2.94x10
6cells/mLであった。得られた10mLの懸濁液を、2.0x10
6 cellsの保存バイアル4本を遠心チューブに移した。この遠心チューブを200xgで3分間、室温にて遠心し細胞を回収した。回収した細胞から上清を完全に除去し、必要量の細胞保存液に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を1mL/バイアルで分注し、−80℃で保存した。必要に応じて、翌日、液体窒素保存容器中に移して保存した。
【0093】
(1−2)組換えレンチウイルスベクター産生用細胞の調製
DMEM、抗生物質、FBSは、上記(1−1)と同じものを使用した。また、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-)、コード番号:10010-049、以下、単に「PBS」ということがある。)はギブコ社より購入した。T.C.処理したディッシュ(直径10cm)は、イワキ(株)より購入した。剥離剤として、0.25%トリプシン−EDTA(1x)は、ギブコ社より購入した。
【0094】
15mLの遠心チューブに10mLの293T基本培地を加えた。上記(1−1)で保存したバイアルを37℃のウォーターバスで温めて細胞懸濁液を急速融解させ、上記の遠心チューブに加えた。200xgで3分間、室温にて遠心し、細胞を回収した。上記(1−1)と同様にしてトリパンブルー染色を行ない、血球計算板を用いて細胞を計数した。1バイアル当たりの細胞数は、2.0x10
6 cellsであった。
1〜5x10
6cells/10mL/10cmディッシュで細胞を播種し、5%CO
2インキュベーター中にて約24時間培養した。その後、使用するまで、細胞の状態に合わせて継代した。
【0095】
(2)組換えレンチウイルスベクターの調製
(2−1)試薬等
DMEM、抗生物質、FBS、剥離剤、PBSは、上記(1−1)と同じものを使用した。コラーゲンコートしたディッシュ(6cm)はイワキ(株)より、また、トランスフェクション試薬(TransIT-293、コード番号:MIR2700)はMirus社より、それぞれ購入した。組換えレンチウイルスベクター産生用試薬(Lenti-X
TM HTX Packaging System、コード番号:631247、クロンテック社製)及びLenti-X HTX Packaging Mix(VSV-G)は、クロンテック社より購入した。
【0096】
(2−2)組換えレンチウイルスベクター(トランスフェクションプラスミド)の調製
以下の4種類のレンチウイルスベクターを構築した。pLVSINベクターの配列情報を、タカラバイオウェブカタログからダウンロードし、以下の手順により構築した。
(v1)レンチベクターE7T(EcoRI/KoZal/E7/T2A4/hTERT/BamHI)
配列情報に従って、EcoRI/KoZal/E7/T2A4/hTERT/BamHIの二本鎖DNA(配列表の配列番号1)を合成し、レンチプラスミドベクター(pLVSIN-CMV Neo、
図1参照)のマルチクローニングサイトに標準的な手順でクローニングし、SYN4122-1-7(配列表の配列番号1)を得た。
【0097】
(v2)レンチベクターBT(EcoRI/KoZal/Bmi-1/T2A4/hTERT/BamHI)
配列情報に従って、Bmi-1の二本鎖DNAを合成し、上記(v1)で作製したレンチウイルスベクターE7TのE7と入れ換えた(配列表の配列番号2)。
【0098】
(v3)レンチベクターBE6T(EcoRI/KoZal/Bmi-1/T2A3/E6/T2A4/hTERT/BamHI)
配列情報に従って、T2A3E6の二本鎖DNAを合成し、上記(v2)で作製したレンチウイルスベクターのBmi-1とT2A4との間に挿入した(配列表の配列番号3)。
(v4)レンチベクターE6E7T(EcoRI/KoZal/E6/T2A3/E7/T2A4/hTERT/BamHI)
配列情報に従って、E6T2A3の二本鎖DNAを合成し、上記(v1)で作製したレンチウイルスベクターE7TのKozak配列とE7との間に挿入した(配列表の配列番号4)。
【0099】
(2−3)コトランスフェクション用細胞の調製
上記(1)(1−2)で継代してきたLenti-X 293T細胞の培養上清を除去し、PBSで洗浄し、剥離剤をディッシュに加えて細胞を剥離させて回収した。
4倍希釈した細胞懸濁液を50μL取り、等量のトリパンブルーを加えて、血球計算板を用いて細胞を計数したところ、2.38x10
6cells/mLであった。この懸濁液に上記基本培地を加えて5x10
5cells/mLに調製し、直径6cmのコラーゲンコートディッシュに、2x10
6cells/4mL/ディッシュで播種した。その後、5%CO
2インキュベーター中、37℃にて約24時間培養し、培地を交換してさらに培養を続けた。
【0100】
(2−4)レンチウイルスベクターのトランスフェクション及びパッケージング
Lenti-X HTXパッケージングシステム(以下、単に「パッケージングシステム」ということがある。)を用いてコトランスフェクションを行った。Xfect Polymerを十分にボルテックスし、トランスフェクション用の各サンプルについて2本のマイクロチューブ(チューブ1及び2)を用意した。チューブ1には、179〜182μLのXfect Reactionバッファーを入れ、ここに15μLのLenti-X 293 T Packaging Mixを加え、最後に3〜6μLの表1に示すベクタープラスミドを加えた(プラスミド溶液、合計200μL)。また、チューブ2には、197μLのXfect Reactionバッファーを入れ、ここに3μLのXfect Polymerを加えた(ポリマー溶液、200μL)。
【0101】
【表1】
【0102】
これら2本チューブをそれぞれボルテックスして十分に混合し、次いで、ポリマー溶液をプラスミド溶液に添加して、中程度の強さでボルテックスして混合し、DNA-Xfect混合液とした。このDNA-Xfect混合液を室温で10分間静置し、ナノ粒子を形成させた。上記(2−3)で調製したLenti-X 293T細胞をCO
2インキュベーターから取り出し、2mLの培地を除去した。ここに、上記のDNA-Xfect混合液の全量(400μL)を滴下して加えた。ディッシュをそっと揺らして、DNA-Xfect混合液がディッシュ内全体に行きわたるようにした。
【0103】
引き続き、ディッシュをCO
2インキュベーターに戻して37℃でインキュベートした。4時間後に2mLの高濃度グルコース(4.5g/L)、4mM L-グルタミン及び3.7g/L炭酸水ナトリウムを含むDMEMに、10% Tet System Aproved FBS、1mMピルビン酸ナトリウムを加えたLenti-X 293 T 細胞株増殖培地(以下単に、「完全培地」ということがある。)を追加し、37℃で一晩培養した。
【0104】
次いで、培地を新鮮な完全培地(4mL)で交換し、37℃で24〜48時間培養した。Lenti-X GoStix(3テスト分、クロンテック社製)を用いてウイルスベクターの簡易力価測定を行いつつ、回収のタイミングを決定した。ウイルス力価が最大となった時点でレンチウイルスを含む培養上清を回収した。
【0105】
(2−5)レンチウイルスベクターの回収
培地を交換した翌日に、上記のシャーレの培養上清を10mLのディスポーザブルシリンジ(テルモ(株)製)で吸い取って回収した。このシリンジに0.45μmのフィルター(MILEX-HV、ミリポア社製)を装着し、シリンジ内の培養上清をろ過しながら、15mLチューブに、ウイルスベクター溶液を回収した。チューブ内に回収されたろ過済の培養上清を混和し、1mL/バイアルに分注し、−80℃にて保存した。約200μLを力価測定用ウイルスベクター溶液として別途保存した。
【0106】
(2−6)レンチウイルスベクターの簡易力価測定
Lenti-X GoStixに、上記のようにして得られた力価測定用ウイルスベクター溶液を20μL加え、Chase Buffer 1を4滴添加した。次いで、室温にて10分間反応させ、バンドの有無を確認した。
図2(A)〜(E)に示すように、測定したSYN4122-1-7、SYN4122-2-2、SYN4122-3-3及びSYN4122-4-4の全てにおいて、2本のバンドが認められ、組換えレンチウイルスベクターの存在が確認された。図中、左側は対照を示すバンド、右側が組換えレンチウイルスベクターを示す。
【0107】
(3)SYN4122トランスフェクションプラスミド
上記のようにして得られた4つのプラスミド(SYN4122-1-7、SYN4122-2-2、SYN4122-3-3及びSYN4122-4-4)を含むLenti-X 293 T細胞を、寒天培地上にストリークしてコロニーを形成させた。形成されたコロニーを取って抗生物質を含む2mLのLB培地に播種し、37℃で約8時間、激しく撹拌しながら(200rpm)培養した。
【0108】
次いで、アンピシリンを含む50mLのLB培地に、上記のように培養した細胞の培養液を100μL移植し、37℃で約16時間、激しく撹拌しながら(200rpm)培養した。
MN NucleoBond Xtra Mid Kit(クロンテック社製)を使用し、水でプラスミドを溶出させ、溶出量を測定した。これとともに、アガロースゲル(1%)で分析を行なった。マーカーは、M1がスーパーコイルのDNAラダー、M2がλ−Hind III消化DNAとした。結果を表1及び
図3に示す。アガロースゲル電気泳動分析の結果から、組み込まれたDNAがそれぞれ異なることが示された。
【0109】
(実施例2)ウイルスベクター調製(その2)
(1)レトロウイルス調製用細胞の調製
(1−1)試薬等及び細胞の起床
レトロウイルス調製細胞株として、G3T-hi細胞を使用した。G3T-hi細胞の培養には、グルコース(4.5 g/L)、L-グルタミン(584 mg/L)、10%ウシ胎児血清(FBS、ハイクローン社製、ロット番号:GRD0051)及び抗生物質(1%ペニシリン/ストレプトマイシン、ギブコ社製、コード番号15140-122)を含有するDMEM(シグマ社製、コード番号:D5796-500ML)を使用した。
【0110】
細胞培養については、Lenti-X 293T細胞を293T基本培地に懸濁した場合と同様にして行った。回収した細胞から上清を完全に除去し、必要量の細胞保存液に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。また、この細胞懸濁液を1mL/バイアルで分注し、−80℃で保存した。必要に応じて、翌日、液体窒素保存容器中に移して保存した。
【0111】
(1−2)レトロウイルスベクター産生用細胞の調製
DMEM、抗生物質、FBS、グルコース及びL-グルタミンは、上記(1−1)と同じものを使用した。また、PBS、T.C.処理したディッシュ(直径10cm)及び0.25%トリプシン−EDTA(1x)は、上記実施例1と同じものを使用した。
【0112】
15mLの遠心チューブに10mLの上記培地を加えた。上記(1−1)で保存したバイアルを37℃のウォーターバスで温めて細胞懸濁液を急速融解させ、上記の遠心チューブに加えた。200xgで3分間、室温にて遠心し、細胞を回収した。上記(1−1)と同様にしてトリパンブルー染色を行ない、血球計算板を用いて細胞を計数した。1バイアル当たりの細胞数は、3.0x10
6 cellsであった。
1〜5x10
6cells/10mL/10cmディッシュで細胞を播種し、5%CO
2インキュベーター中にて約24時間培養した。その後、使用するまで、細胞の状態に合わせて継代した。
【0113】
(2)組換えレトロウイルスベクターの調製
(2−1)試薬等
DMEM、抗生物質、FBS、剥離剤、PBS等は、上記(1−1)と同じものを使用した。コラーゲンコートしたディッシュ(6cm)、トランスフェクション試薬(TransIT-293、コード番号:MIR2700)は、上記実施例1と同じものを使用した。また、Retrovirus Packaging Kit Ampho、Retrovirus Titer Set (for Real Time PCR)、及びOne Step SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(いずれもタカラバイオ(株)製)を使用した。
【0114】
(2−2)レトロウイルスベクター(トランスフェクションプラスミド)の調製
以下の5種類のレトロウイルスベクターを構築した。pDON-5 NEO ベクターの配列情報を用いて、以下の手順により構築した。
開始コドンの上流にKozak配列(gccacc)を付加した5種類の不死化遺伝子(hTERT(配列表の配列番号5)、ヒトパピローマウイルスのE6(配列表の配列番号6)及びE7(配列表の配列番号7)、pigTERT(配列表の配列番号8)、及びhBmi-1(配列表の配列番号9))を常法に従って調製し、pDON-5 NEO DNA(TaKaRa Code 3657:
図7参照)のPmaC I-Hpa Iサイトにクローニングし、5種類のレトロウイルスベクター(pDON-5 Neo hTERTベクター、pDON-5 Neo HPV16E6ベクター、pDON-5 Neo HPV16E7ベクター、pDON-5 Neo pHTERTベクター及びpDON-5 Neo hBmi1ベクター)を調製した。
【0115】
以上のようにして作製した5種のプラスミドDNAを用いて、常法に従って大腸菌を形質転換させ、形質転換体を37℃にてCO
2インキュベータ中で培養して、トランスフェクショングレードのプラスミドDNA(約50μg)をそれぞれ調製した。各プラスミドDNAを滅菌水に溶解させてDNA溶液を調製した。
【0116】
(2−3)組換えレトロウイルスベクターの産生
5枚のTissue Culture Dish (100 mm)に、6x10
6個/dishでG3T-hi細胞を播種し、5%CO
2インキュベータ中にて37℃で約24時間培養し、0.4mLのトランスフェクション試薬(TransIT-293)を加えて、上記の5種類プラスミドベクターのうちから3種類を選択し、pGP及びpE-Ampho(いずれもRetrovirus Packaging Kit Amphoに付属するベクター))を共導入し、さらに同じ条件の下で40〜56時間培養を行なって、これらの遺伝子を導入し、さらに同じ条件の下で48時間培養を行なった。培養終了後にレトロウイルスベクターが含まれる培養上清を回収し、0.45μmのフィルター(ミリポア社製)で濾過滅菌し、1mLずつチューブに分注した。
【0117】
(2−4)組換えレトロウイルスベクターの力価の算出
組換えレトロウイルスベクターの力価を、Retrovirus Titer Set (for Real Time PCR)及びOne Step SYBR PrimeScript RT-PCR Kit (Perfect Real Time)(いずれもタカラバイオ(株)製)を用いて、それぞれの使用説明書に従って定量を行なった。各キットに付属しているRNAコントロールテンプレートのコピー数をX軸に、また、二次微分曲線(2
nd Derivative)から求めたCt値をY軸にプロットして検量線を作成した。この検量線に基づいて被検試料の力価を求めた。
【0118】
12.5μLの組換えレトロウイルスベクター、2.5μLの10xDNase I バッファー、2.0μLのDNase I (5U/μL)、0.5μLのRNase インヒビター(40U/μL)及び7.5μLのRNase フリーの滅菌蒸留水を用いて(合計量25.0μL)、37℃で30分、次いで70℃で10分、その後4℃に冷却してDNase I処理を行なった。DNase I処理反応の終了後、速やかにリアルタイムPCRを行なった。
【0119】
PCR用に、下記表2に示す4種類のプライマーを設計し、作製した。PCR用プライマーミックス(各10μL)の組成を、40μLのフォーワードプライマー(50μM;目的遺伝子:CH000987-F、標準遺伝子:HA067803-F))、40μLのリバースプライマー(50μM;目的遺伝子:CH000987-R、標準遺伝子:HA067803-R))、及び滅菌蒸留水120μLとした。このPCRプライマーミックスを用いて、実施例1と同様の条件でリアルタイムPCRを行なった。
【0120】
【表2】
【0121】
引き続き、12.5μLの2xOne Step SYBR RT-PCR バッファーIII、0.5μLのTaKaRa ExTaq HS (5U/μL)、0.5μLのPrimeScript RT Enzyme Mix II、0.5μLのフォワードタイタープライマーFRT-1(10pmol/μL)、0.5μLのリバースタイタープライマーFRT-1(10pmol/μL)、8.5μLのRNase フリーの滅菌蒸留水、及び2μLの鋳型を用いて(合計量25.0μL)、42℃で5分、95℃で10秒反応させた後に、(95℃で5秒その後60℃で30秒)を40回サイクルという条件でリアルタイムPCRを行った。引き続き、95℃で15秒、60℃で30秒、95℃で15秒という条件で解離させ、解離曲線を求めた。被検試料(各ベクター)の力価を下記表3に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
(実施例3)幹細胞の調製
上記実施例1で得られたレンチウイルスベクターを、以下のように作製したブタ乳歯幹細胞、ブタ脂肪幹細胞、ヒト歯髄幹細胞それぞれに感染させ、目的遺伝子の安定発現株を作製した。
【0124】
(1)幹細胞の調製
(1−1)ブタ歯髄幹細胞
食肉公社(日本国愛知県名古屋市港区)より、生後5〜6ヶ月のブタの顎骨(下顎歯のついた下顎骨)及び腸間膜を入手した。屠殺直後の食肉用ブタの下顎歯、顎骨及び腸間膜は、保冷剤入りのアイスボックス(-30℃)にて搬送した。以下の手順に従って、上記のブタの歯と下顎骨とからブタの歯髄幹細胞(SHED)を得て、ラボへ搬送した。
【0125】
搬送したブタの歯と下顎骨をイソジンで消毒し、その後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、下顎歯の歯冠を水平方向に切断し、次いで、髄腔に沿って垂直方向に切削して天蓋を除去した。このように処理した歯冠及び歯根部より、歯科用手術用スケーラーを用いて歯髄を採取した。
【0126】
得られた歯髄を、眼下用穿刀を用いてチョッピングし、2mg/mLのコラゲナーゼ溶液に懸濁した。この懸濁液を、37℃の恒温槽中に1時間おき、細胞を単離した。単離した細胞を10%FBS及び1%Anti-Anti(インビトロジェン社製)を含むDMEM(SIGMA社製)中にて、37℃、5%CO
2の条件下で予備培養し、継代用の細胞を得た。
【0127】
まず、培養初期は、サブコンフルエントになるまで、週2〜3回の頻度で培地を交換ながら培養した。サブコンフルエントとなった細胞を、0.05%トリプシンを含むHepes溶液を用いて剥離させ、1,500rpmで、室温にて、3分間遠心分離して集めた。得られた細胞を新鮮な培地に移し、上記と同様の条件の下に、全量を用いて継代培養を行った。
【0128】
(1−2)ブタ脂肪幹細胞
ブタの腸間膜から、解剖用はさみ及び穿刀にて脂肪組織を切り出して集め、余分な組織を除去し、生理食塩水中で血液を洗い流した。得られた脂肪細胞を、10%ウシ血清、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを含有するDMEM中に移して、上記と同様の条件下に予備培養し、ついで、上記DMEM中で、37℃、5%CO
2の条件下でサブコンフレントになるまで培養した。上記の添加量は、すべて終濃度で表示した。ブタSHEDと同様に、上記の0.05%トリプシン溶液を使用して剥離し、1,500rpmで3分間遠心分離し、継代培養して脂肪幹細胞を得た。
【0129】
(1−3)ヒト乳歯歯髄幹細胞
10歳の健常男児から得られた脱落乳歯を使用した。この脱落乳歯をイソジン溶液で消毒した後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、歯冠を水平方向に切断し、歯科用リーマーを用いて歯髄組織を回収した。得られた歯髄組織を、3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。ついで、この溶液を70mmの細胞ストレーナ(Falcon社製)を用いて濾過した。
【0130】
濾別した細胞を、4mLの上記培地に再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種した。10%FCSを含有するDMEMをこのディッシュに添加し、5%CO
2、37℃に調整したインキュベータにて2週間程度培養した。コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を、0.05%トリプシンを含む0.2mM EDTAにて5分間、37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収した。
【0131】
次に、上記のようにして回収した接着性細胞を、付着性細胞培養用ディッシュ(コラーゲンコートディッシュ)に播種し、5%CO
2、37℃に調整したインキュベータ中にて一次培養し、初代培養細胞とした。肉眼観察でサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントになったときに、0.05%トリプシンを含む0.2m MEDTAにて5分間、37℃で処理して細胞を培養容器から剥離させて回収した。
【0132】
こうして得られた細胞を、再度、上記の培地を入れたディッシュに播種し、継代培養を数回行って、約1×10
7個/mLまで増殖させた。得られた細胞を、液体窒素中で保存した。
その後、一次培養細胞を上記の培地を用いて約1×10
4細胞/cm
2濃度で継代培養した。1〜3回継代した細胞を実験に用いた。以上のようにして、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)を得た。上記のようにして得られたブタ乳歯歯髄幹細胞、ブタ脂肪幹細胞及びヒト乳歯歯髄幹細胞をそれぞれバイアルに入れ、マイナス80度で凍結保存した。
【0133】
(実施例4)遺伝子導入用細胞の準備
(1)細胞のセットアップ
(1−1)ブタ歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞の培養
ブタ歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞の培養には、培養培地(10%FBSを含むDMEM(GIBCO社製))を使用した。15mLの遠心チューブに、10mLの上記培養培地を加えた。ブタ歯髄幹細胞の保存用バイアルを37℃のウォーターバスで温めて急速融解し、上記の遠心チューブに加えた。200xgで3分間、室温にて遠心した。上清を除去して、10mLの培養培地を加えて懸濁液とし、その一部を取ってトリパンブルー染色を行ない、血球計算盤を用いて細胞数を計測した。結果は、5x10
5cells/vialであった。
【0134】
ついで、直径10cmのディッシュ(Iwaki社製、T.C.処理)に、1〜5x10
5cells/10mL/ディッシュで播種し、5%CO
2インキュベーター内で、37℃にて約24時間培養した。その後、細胞の状態を顕微鏡で観察した。このディッシュの培地を完全に除去し、10mLの新鮮な培養培地を加えて、5%CO
2インキュベーター内で、37℃にて約24時間培養した。その後、使用するまで、細胞の状態に合わせて継代を続けた。ディッシュからの細胞の剥離には、0.25%トリプシン−EDTA(GIBCO社製)を使用した。ブタ脂肪幹細胞についても、同様の操作を行なった。
【0135】
(1−2)ヒト歯髄幹細胞
ヒト歯髄幹細胞の培養には、10%FBSを含むDMEM(SIGMA社製)を使用した以外は、上記(1−1)と同様の操作を行なった。なお、細胞数の計測結果は、1.0x10
5cells/vialであった。
【0136】
(実施例5)遺伝子導入株の薬剤選択及び遺伝子発現解析(プール細胞の調製)
(1)レンチウイルスベクター遺伝子導入細胞の作製
上記のようにセットアップした細胞のうちの生細胞数を、トリパンブルー染色と血球計算盤とを使用して計数し、培養培地が入った直径10cmのディッシュに1×10
6cells/10mLとなるように播種し、37℃のCO
2インキュベーター内で約24時間培養した。細胞密度が7〜9割のコンフルエントに達したところで、1×10
4cells/mLの濃度に希釈して継代を行った。また、以下のようにマイコプラズマ感染の有無を確認した。
【0137】
(2)培養細胞のマイコプラズマチェック
MycoAlert Mycoplasma Detection Kit(Lonza社製、LT07-318)を使用して、マイコプラズマ感染の有無を確認した。
96ウェルプレート(コーニング社製、平底)にMycoplasma Alert試薬を100μL/ウェルで加えた。ここに、ブタ歯髄幹細胞又はブタ脂肪幹細胞の培養上清を、100μL/ウェルで加えた(各6ウェル)。各ウェルについて5回ずつ、ピペッティングを行なった。室温で5分間静置し、ドライヤーを用いて気泡を除去した。Kinetic Cycles 5でルミノメーター(Tecan(infinite 200、マルチ検出モードマイクロプレートリーダー))を用いて測定Aを行なった。
【0138】
次いで、MycoAlert基質を100μL/ウェルで加え、各ウェルについて5回ずつ、ピペッティングを行なった。室温で5分間静置し、ドライヤーを用いて気泡を除去した。Kinetic Cycles 5でルミノメーターを用いて測定Bを行なった。サンプル中の生きているマイコプラズマを溶解し、マイコプラズマの酵素(ルシフェリン)をMycoAlert基質に作用させると、ADPがATPに変換される。MycoAlert添加前後のサンプル中のATPレベルを測定し、下記の式で計算を行い、Rが1以上の場合を陽性、1未満を陰性と判定した。励起波長は565nmとした。結果を下記表4に示す。
R=測定値Bの平均/測定値Aの平均
【0139】
【表4】
【0140】
ヒト歯髄幹細胞についても同様の検査を行った。結果を表5に示す。いずれの幹細胞も、マイコプラズマには感染していないことが確認された。
【0141】
【表5】
【0142】
(2)レンチウイルスベクター遺伝子の導入
ポリブレン試薬を用いて、上記実施例1で作製したレンチウイルスベクターを、上記実施例3で得た各幹細胞に感染させ、GENETICIN添加培地により、目的遺伝子の安定発現株を選択した。
【0143】
上記のように培養した各幹細胞の培養上清を除去し、PBS(pH7.4)で洗浄後、剥離剤(ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞に対してはStemPro(登録商標:GIBCO社製)、ヒト乳歯歯髄幹細胞に対してはTrypsin‐EDTA)を使用して細胞を剥離させ、個別に回収した。上記と同様にトリパンブルー染色と血球計算盤を使用して細胞数を計数し、組織培養処理(T.C.trematment)6ウェルプレート(CORNING社製)の各wellに適量の培養培地を入れ、1×10
5 cells/wellとなるように播種し、37℃のCO
2インキュベーター内で約24時間培養し、細胞が全体に均一に存在していることを確認した。
その後、上清を除去し、ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞の場合、8μg/mLのポリブレン及び10%FBSを含むDMEM培地を750μL/wellずつ添加し、次いで、各ウェルに実施例1で得られた上記のレンチウイルスベクター溶液を250μL/wellずつ添加した。
【0144】
ヒト歯髄幹細胞の場合は、8μg/mLのポリブレン及び10%FBSを含むDMEM培地を1.2mL/wellずつ添加し、各ウェルに上記レンチウイルスベクター溶液を400μL/wellずつ同様に添加した。以上のようにウイルスベクターを添加したプレートを、1,000×gで30分間、32℃にて、遠心し、細胞にウイルスを感染させた。37℃のCO
2インキュベーター内で約4〜6時間培養し、その後、培養培地を1mL/wellずつ添加した。次いで、37℃のCO
2インキュベーター内で約24時間培養し、遺伝子導入を行なった。
【0145】
(3)薬剤選択
以上のように培養した6ウェルプレートの各ウェルから培養上清を除去し、0.4 mg/mL又は0.8 mg/mLのGENETICIN(G418、GIBCO社製)を含む選択用培地に交換した(2 mL/well)。以後、培地交換を行いながら3〜5日間培養し、遺伝子導入細胞の選択を行った。薬剤選択は、ブタ歯髄幹細胞、ブタ脂肪幹細胞及びヒト歯髄幹細胞のいずれについても、同様に行った。
【0146】
上記の各培養細胞の一部を使用してクローニングを行い、残りはプール細胞として選択用培地で培養を続けた。クローニング用に、ペニシリン、ストレプトマイシン及びG418を含まない選択培地を用いて細胞を希釈し、60mmディッシュに、1x10
3cells/4mL/ディッシュ又は5x10
3 cells/4 mL/ディッシュで細胞を播種した。次いで、37℃のCO
2インキュベーター内で約24時間培養した。
【0147】
形成されたコロニーをディッシュの裏側からマーキングし、マーキングしたコロニー数が100個程度になったところで培養上清を除去してPBSで洗浄した。クローニングリングをディッシュにセットし、剥離剤を用いて剥がしたコロニーの細胞を、1 mLの培地を入れた48ウェルプレートの各ウェルに別々に入れた。37℃のCO
2インキュベーター内で培養を続け、細胞密度を観察しながらスケールアップを行なった。薬剤選択の開始から約2〜3週間後、薬剤耐性となって増殖してきた細胞集団を、個別に凍結保存した。5x10
6 cells/mL程度まで増殖したところで、2x10
6 cells/バイアルでストックした。
【0148】
凍結保存液としては、ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞の場合にはセルバンカー(全薬工業(株)製)を、また、ヒト乳歯歯髄幹細胞の場合にはバンバンカー(日本ジェネティックス社製))を用いた。これらの凍結保存液を用いて、各幹細胞を0.5×10
6 cells//s/vial(ブタ乳歯歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞)又は1×10
6 cells/vial(ヒト乳歯幹細胞)で凍結し、マイナス80℃で使用まで保存した。
【0149】
(4)総RNAの調製
総RNA(トータルRNA)の調製には、NucleoSpin RNA II (MACHEREY-NAGEL社製のキット)を用いた。先ず、発現確認用のRNA抽出用に、5×10
5個の細胞ペレットを作製した。ここに、350μLのRA1バッファー(上記のキットに付属している)及び0.22μmのフィルターで滅菌した7μLの1M DTT(ジチオトレイトール)を加えて良く混合し、細胞を溶解させて溶解液を得た。コレクションチューブにセットした紫色のリングフィルター(上記のキットに付属している)にこの溶解液を入れ、11,000×gで1分間遠心した。遠心後、フィルターを捨て、コレクションチューブに350μLの70%エタノールを加えて、5回ピペッティングを行い、RNAの結合条件を調整した。
【0150】
次いで、この溶液700μLを、コレクションチューブにセットした薄青のリングカラム(上記のキット付属している)にロードし、11,000×gで30秒間遠心してRNAを結合させた。遠心後、このカラムを新しいコレクションチューブにセットし、350μLのMDB(上記のキットに付属している)を加えて、11,000×gで1分間遠心分離を行い、脱塩した。
【0151】
遠心後、10μLのrDNase(540μL/バイアル)と90μLとDNase用反応バッファー(上記のキットに付属している)とを軽く混ぜてDNA反応混合液を調製し、95μLをこのカラムに加え、室温で15分間インキュベートしてDNAを消化した。インキュベート終了後、200μLのバッファーRA2(上記のキットに付属している)をカラムに加え、11,000×gで30秒間遠心して洗浄した。引き続き、カラムを新しいコレクションチューブにセットし、700μLのバッファーRA3(上記のキットに付属している)をこのカラムに加え、11,000×gで、さらに30秒間遠心して洗浄した。
【0152】
この遠心後、コレクションチューブに流出した溶液を捨て、再度、250μLのバッファーRA3をこのカラムに加え、さらに11,000×gで2分間遠心し、このカラムのシリカメンブレンを風乾させた。このカラムを、1.5mLのコレクションチューブにセットし、60μLのRNAase-free水をこのカラムに加え、11,000×gで1分間遠心して、高純度のトータルRNAサンプル(40〜60μL)を得た。
【0153】
(5)逆転写反応
上記のようにして得られた総RNA試料から、PrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real time、TaKaRa Bio社製)を用いて逆転写を行った。
【0154】
(5−1)PrimeScript RT reagent Kitを用いた逆転写
上記のようにして得た総RNAサンプルを、上記のキットに付属しているEASY Dilutionを用いて、下記表6に示すように、20ng/μLに希釈した。
【0155】
【表6】
【0156】
72μLの5xPrimeScript Buffer, 18μLのPrimeScript RT Enzyme Mix, 18μLのRandom 6 mer(100μM)、及び72μLの2回蒸留水(D2W)を含む180μLのPremix(反応液)を調製した。次いで、Premixを10μLずつPCRチューブに分注し、10μLの鋳型RNAを各チューブに加えて、37℃で15分、85℃で5秒反応させ、その後4℃とするという条件で逆転写を行なった。得られた産物は、以下のリアルタイムPCRに供した。
【0157】
(5−2)SYBR Premix Ex Taqを用いたリアルタイムPCR
350μLのSYBR Premix Ex Taq II(x2)、28μLのPrimer mix(10μM)、266μLの二回蒸留水を混合してリアルタイムPCR用Premixを調製した。プライマーは、終濃度を0.4μMで使用した。標準遺伝子として、ブタβ−アクチン、ヒトβ−アクチンを使用した。下記表7に示す塩基配列のプライマーをPCRで使用した(配列表の配列番号10〜15)。また、下記表8に示すように、標準サンプルを調製した。
【0158】
【表7】
【0159】
【表8】
【0160】
上記のPremixを23μLずつリアルタイムPCR用チューブに分注し、各チューブに鋳型cDNAを2μLずつ加えた。次いで、95℃で30秒、(95℃で5秒その後60℃で30秒)を40サイクルという条件でリアルタイムPCRを行なった。引き続き、95℃で15秒、60℃で30秒、95℃で15秒という条件で解離させ、融解曲線を求めた。ヒト歯髄幹細胞についても同様の操作を行なった。結果を下記表9〜11、
図4及び
図5に示す。
【0161】
【表9】
*1:ブタ由来導入遺伝子標準試料の増幅曲線(二次微分曲線)より求めた。
【0162】
【表10】
*2:レンチウイルス
*3:ヒトパピローマウイルスE7、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)
*4:bmi、hTERT
*5:bmi、ヒトパピローマウイルスE6、hTERT
*6:bmi、ヒトパピローマウイルスE6、ヒトパピローマウイルスE7、hTERT
【0163】
【表11】
【0164】
(7)結果
上記のリアルタイムPCRの二次微分曲線から算出したCt値をX軸に、トータルRNAの相対値をY軸に、それぞれプロットし、各遺伝子の検量線を作成した。この検量線から各遺伝子の発現量を算出し、導入遺伝子の発現量を、それぞれの内部標準遺伝子であるβアクチンの発現量で割ることにより、サンプル間の補正を行った。
【0165】
ブタ由来導入遺伝子試料のリアルタイムPCRの結果から、遺伝子を導入したブタ歯髄幹細胞では導入遺伝子の増幅が見られたのに対し、遺伝子を導入していない同細胞では増幅が見られなかったことが示された。このことは、上記実施例1で作製したレンチウイルスベクターを用いて導入した遺伝子は、遺伝子を導入したブタ歯髄幹細胞において発現していることを示すものである。
【0166】
また、ブタ由来内部標準遺伝子試料のリアルタイムPCRの結果から、内部標準遺伝子が増幅されていることが示された。
図4及び
図5に、Virus #1の発現量を1としたときの、ブタ歯髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞における各導入遺伝子の発現量の相対値を示した。相対的発現量で見る限り、ブタ歯髄幹細胞おける導入遺伝子の発現量は、Virus #4がVirus #1に近いが、他の2つは半分以下であることが示された。ブタ脂肪幹細胞の場合には、Virus #4の発現率がVirus #1のほぼ半分であり、Virus #2及びVirus #3を用いた場合の発現量は、1/3〜1/5未満と低くなっていた。
【0167】
上記表10及び
図6(A)及び
図6(B)には、ヒト歯髄幹細胞における遺伝子発現状態を示した。ヒト歯髄幹細胞においても、上記のブタの各幹細胞の場合と同様に、Virus #4がVirus #1により近いことが示された。また、他の2つを用いた場合の発現率は、1/5〜1/10以下とブタ幹細胞の場合よりも低いことが示された。
以上より、発現効率に種差及び相違はあるものの、上記の遺伝子導入細胞では、導入された遺伝子がすべて発現していることが確認された。
【0168】
(実施例6)遺伝子導入株の薬剤選択及び遺伝子発現解析(プール細胞の調製)
(1)レトロウイルスベクター遺伝子導入細胞の作製
上記のようにセットアップした細胞のうちの生細胞数を、トリパンブルー染色と血球計算盤とを使用して計数し、培養培地が入った直径10 cmのディッシュに6×10
6 cells/10 mLとなるように播種し、37℃のCO
2インキュベーター内で約24時間培養した。細胞密度が7〜9割のコンフルエントに達したところで、6×10
4cells/mLの濃度に希釈して継代を行った。また、マイコプラズマ感染の有無については、上記実施例5と同様に行った。判定結果はすべて陰性であった。
【0169】
(2)レトロウイルスベクター遺伝子の導入及び薬剤選択
上記実施例2で作製したレトロウイルスベクターを、上記実施例3で得た各幹細胞に感染させ、GENETICIN添加培地により、目的遺伝子の安定発現株を選択した。このときの不死化遺伝子搭載レトロウイルスベクター中の遺伝子の組合せは、細胞A-1及びA-2が(hTERT, HPV16_E6, HPV16_E7)の3遺伝子、細胞B-1及びB-2が(hTERT, hBmi-1, HPV16_E6, HPV16_E7)の4遺伝子であった。感染に際しては、細胞A-1及びB-1は、レトロウイルスベクター溶液を4倍に希釈して調製し、細胞A-2及びB-2は、レトロウイルスベクターを10倍に希釈して調製した。
【0170】
各幹細胞(標的細胞)へのレトロウイルスベクターの導入、及び導入後の薬剤選択を、上記実施例5に準じて行った。薬剤選択後の細胞集団を、薬剤耐性プール細胞として回収し、凍結保存した。また、リアルタイムPCR解析用に、5x10
5 個の細胞ペレットを調製し、−80℃で保存した。
【0171】
(3)総RNAの調製
総RNAの調製は、NucleoSpin RNA II (MACHEREY-NAGEL社製のキット)を用いて、上記実施例5と同様に行った。各細胞ペレットから得られた総RNAの抽出結果を下記表12に示す。
【0172】
【表12】
*:未処理の標的細胞株
【0173】
(4)逆転写反応及びリアルタイムPCR
(4−1)逆転写反応
上記のようにして得られたトータルRNAサンプルから、逆転写反応キット(PrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real time、TaKaRa Bio社製))を用いて逆転写反応を行った。
【0174】
4μLの5xPrimeScript バッファー(終濃度は1倍)、1μLのPrimeScript RT Enzyme Mix、1μLのRandom 6 mer(100μM、終濃度は5μM)、10μLのトータルRNA及び4μLの2回蒸留水(D2W)を含む20μLのPremix(反応液)を調製した。次いで、Premixを10μLずつPCRチューブに分注し、10μLの鋳型RNAを各チューブに加えて、37℃で15分、85℃で5秒反応させ、その後4℃とするという条件で逆転写を行なった。得られた産物(逆転写反応液)は、以下のリアルタイムPCRに供した。
【0175】
(4−2)SYBR Premix Ex Taqを用いたリアルタイムPCR
12.5μLのSYBR Premix Ex Taq II(x2、終濃度は1倍)、0.5μLのPCR Primer mix(10μM、終濃度は各0.2μM)、2.0μLの逆転写反応液、及び10.0μLの滅菌蒸留水を混合してリアルタイムPCR用Premix(25.0μL)を調製した。プライマーは、終濃度を0.4μMで使用した。標準遺伝子としてヒトβ−アクチンを使用した。上記表7に示す塩基配列のプライマーをPCRで使用し(配列表の配列番号10〜15)、上記表8に示すように、標準サンプルを調製した。
【0176】
上記のPremixを25μLずつリアルタイムPCR用チューブに分注し、リアルタイムPCR装置(Thermal Cycler Dice Real Time System:タカラバイオ(株)製)を用いて、95℃で30秒、(95℃で5秒その後60℃で30秒)を40サイクルという条件でリアルタイムPCRを行なった。引き続き、95℃で15秒、60℃で30秒、95℃で15秒という条件で解離させ、融解曲線を求めた。
【0177】
融解曲線は、PCR後の反応液の温度を上げて、温度をX軸に、蛍光強度をY軸にそれぞれプロットしたグラフである。また、1次微分曲線のピークは、各PCR増幅産物の2本鎖DNAが1本鎖DNAに解離する温度であるTm値(melting temperature)を示し、PCR増幅産物が同じものであることの目安となる。本実施例では、ヒト歯髄幹細胞について作業を行なった。結果を下記表13、
図8及び
図9に示す(n=2)。また、下記表13の相対発現量は、試料1のβ-アクチンの補正後の併記相対発現量を1とした場合の各試料の相対発現量である。
【0178】
【表13】
*1:二次微分曲線(PCR産物の増幅曲線の蛍光強度を2回微分したグラフ)
【0179】
(5)結果
上記のリアルタイムPCRの二次微分曲線から算出したCt値をX軸に、総RNAの相対値をY軸に、それぞれプロットし、各遺伝子の検量線を作成した。この検量線から各遺伝子の発現量を算出し、導入遺伝子の発現量を、それぞれの内部標準遺伝子であるβアクチンの発現量で割ることにより、試料間の補正を行った。
【0180】
ヒト由来導入遺伝子試料のリアルタイムPCRの結果から、遺伝子を導入したヒト歯髄幹細胞では導入遺伝子の増幅が見られたのに対し、遺伝子を導入していない同細胞では増幅が見られなかったことが示された。このことは、上記実施例1で作製したレトロウイルスベクターを用いて導入した遺伝子は、遺伝子を導入したヒト歯髄幹細胞において発現していることを示すものである。
【0181】
また、ヒト由来内部標準遺伝子試料のリアルタイムPCRの結果から、内部標準遺伝子が増幅されていることが示された。
図9に、試料1の発現量を1としたときの、ヒト歯髄幹細胞における各導入遺伝子の発現量の相対値を示した。相対的発現量で見る限り、ヒト歯髄幹細胞おける導入遺伝子の発現量は、試料3が試料1に近いが、他の2つは6割前後であることが示された。
【0182】
上記表13及び
図9から明らかなように、ヒト歯髄幹細胞において、3遺伝子を導入した場合でも、4遺伝子を導入した場合のいずれでも、hTERTは発現することが確認された。
【0183】
(実施例7)シングルセルクローニング及び遺伝子発現解析
(1)材料と方法
シングルセルクローニング用の細胞として、実施例5で調製した遺伝子導入細胞を使用した。また、使用する培養培地や選択薬剤、逆転写反応やリアルタイムPCRに使用するキットや試薬等は、実施例1〜6に記載したものと同様であり、培養方法その他の実験方法、及び各種条件も同様とした。
【0184】
(2)拡大培養
上記導入遺伝子安定発現細胞集団を、60mmディッシュに1×10
3個/ディッシュの細胞濃度となるように播種し、CO
2インキュベーター中にて、37℃にて24時間培養した。その後、上記選択薬剤(G418)を含む生育培地(10%FBSを含むDMEM)に交換し、培養を継続してコロニーを形成させた。上記実施例4及び5と同様に、形成されたコロニーを、クローニングリング及び剥離剤を用いてクローンごとに剥離させ、それぞれ24ウェルプレートに播種した。24ウェルプレートで増殖させた後に、60mmディッシュに播種して増殖させ、引き続き100mmディッシュ、次にT-225フラスコの順に播種して増殖させ、拡大培養を行った。遺伝子導入に使用したウイルスベクターは上記と同様とした。
【0185】
(3)シングルクローニングの結果
ブタ乳歯歯髄幹細胞由来の導入遺伝子安定発現細胞株については、2回のシングルセルクローニングを行ない、下記表14に示す5クローンを取得した。ブタ脂肪幹細胞由来の導入遺伝子安定発現細胞株についても2回のシングルセルクローニングを行なったが、培養の過程で全ての細胞が死滅し、クローンは取得できなかった。
【0186】
一方、ヒト乳歯歯髄幹細胞由来の導入遺伝子安定発現細胞株については、Virus #1, Virus #3及びVirus #4について、それぞれ下記表14に示す5クローンを取得した。一方、Virus # 2を感染させた細胞では、拡大培養中に細胞が肥大化し必要な細胞数まで増殖しなかったため、作業を中断した。
【0187】
【表14】
【0188】
(4)遺伝子発現解析
上記(3)で得られた遺伝子安定発現細胞株のクローン細胞について、導入遺伝子及び内包標準遺伝子の発現を、リアルタイムPCRを用いて測定した。上記実施例3と同様に、上記の表14に示されている各クローン細胞約5×10
5個から、NucleoSpin RNAを用いてトータルRNAを調製した。得られたトータルRNAを鋳型としてPrimeScript RT reagent Kitを用いて逆転写反応を行い、鋳型cDNAを得た。
【0189】
その後、SYBR Premix Ex TaqII (Tli RNaseH Plus)、導入遺伝子と内部標準遺伝子のそれぞれに特異的なプライマー(配列表の配列番号16〜19)とを用いて、逆転写産物を鋳型として、上記のリアルタイムPCR装置(Thermal Cycler Dice Real Time System)にて、実施例3と同じ反応条件でリアルタイムPCRを行った。各操作は上記キットに付属するマニュアルに従って行った。
【0190】
(5)導入遺伝子の発現結果
上記リアルタイムPCRの二次微分曲線から算出したCt値をX軸に、トータルRNAの相対値をY軸にそれぞれプロットして、各遺伝子の発現量測定用の検量線を作成した。上記実施例6(5)と同様にして、サンプル間の補正を行なった。
下記表15〜17、
図6(A)及び(B)に、Virus #1を用いて遺伝子を導入したプール細胞の発現量を1としたときの、ブタ歯髄幹細胞由来の導入遺伝子及びヒト歯髄幹細胞由来の導入遺伝子の発現量の相対値を、それぞれ示した。
【0191】
【表15】
*1:ブタ由来導入遺伝子標準試料の増幅曲線(二次微分曲線)より求めた。
【0192】
【表16】
【0193】
【表17】
【0194】
以上から、ヒトの乳歯歯髄幹細胞由来の導入遺伝子安定発現株においても、導入した遺伝子はすべての株で発現していることが確認された。また、導入した遺伝子によって、発現量にかなり大きな差異があることが示された。
また、得られたクローンを培養したときの顕微鏡写真を
図10(A)〜(E)に示す。いずれも、細胞の大きさが良く揃って、きれいにコンフレントとなっており、正常に増殖していることが確認された。