(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868566
(24)【登録日】2021年4月14日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】アルカン酸アルキルの気相生成
(51)【国際特許分類】
C07C 67/38 20060101AFI20210426BHJP
C07C 69/24 20060101ALI20210426BHJP
C07C 67/343 20060101ALI20210426BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20210426BHJP
B01J 27/043 20060101ALN20210426BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
C07C67/38
C07C69/24
C07C67/343
C07C69/54 Z
!B01J27/043 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-550163(P2017-550163)
(86)(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公表番号】特表2018-510877(P2018-510877A)
(43)【公表日】2018年4月19日
(86)【国際出願番号】US2016023571
(87)【国際公開番号】WO2016154196
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2019年3月4日
(31)【優先権主張番号】62/138,754
(32)【優先日】2015年3月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジローラモ・ブドローニ
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン・エル・エフ・コータルス
【審査官】
山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−51825(JP,A)
【文献】
特開昭57−88146(JP,A)
【文献】
米国特許第3501518(US,A)
【文献】
特表2012−532104(JP,A)
【文献】
特許第6474794(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/00−69/96
B01J 27/00−27/32
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)>1モル%のアルカンを含む気体供給流を提供することと、(b)前記アルカンを少なくとも部分的に変換して、水、未反応のアルカン、及び>1モル%のアルケンを含む気体状の第1の中間流を生成することと、(c)前記気体状の第1の中間流から前記水の大部分を除去して、少なくとも1つのアルケンを含む気体状の第2の中間流を生成することと、(d)気相カルボニル化条件下で、前記気体状の第2の中間流、一酸化炭素ガス、アルカノールガス、及び固体硫化物系金属触媒を接触させて、アルカン酸アルキルを生成することと、を含み、前記固体硫化物系金属触媒が硫化コバルトである、アルカン酸アルキルの生成方法。
【請求項2】
(a)>1モル%のアルカンを含む気体供給流を提供することと、(b)前記アルカンを少なくとも部分的に変換して、水、他の炭化水素、H2、CO、CO2、未反応のアルカン、及び>1モル%のアルケンを含む気体状の第1の中間流を生成することと、(c)前記気体状の第1の中間流から前記水の大部分を除去して、少なくとも1つのアルケン、他の炭化水素、H2、CO、CO2、及び未反応のアルカンを含む気体状の第2の中間流を生成することと、(d)気相カルボニル化条件下で、前記気体状の第2の中間流、一酸化炭素ガス、アルカノールガス、及び固体硫化物系金属触媒を接触させて、アルカン酸アルキルを生成することと、を含み、前記固体硫化物系金属触媒が硫化コバルトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルケンは、CnH2nの式(式中、nは、2〜12)のものであり、前記アルカノールは、1〜30個の炭素原子を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカンは、メタンであり、前記アルケンは、エチレンである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記触媒は、支持される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記カルボニル化条件は、ハロゲンを含まない、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記アルカノールは、1〜30個の炭素原子を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記アルカノールは、メタノールである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記カルボニル化条件は、200℃〜400℃の温度及び0.1MPa〜10MPaの圧力を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記アルカンは、メタンであり、ステップ(b)は、OCMを含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記アルカン酸アルキルは、プロパン酸メチルである、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
(e)縮合条件下で、前記アルカン酸アルキルをアルデヒドと接触させて、脂肪族カルボン酸のアルキルエステルを生成することを更に含み、前記アルカン酸アルキルは、プロパン酸メチルであり、前記アルデヒドは、ホルムアルデヒドであり、前記生成物は、メタクリル酸メチルである、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
(a)>1%のメタンを含む気体供給流を提供することと、(b)OCMプロセスを介して、前記メタンを少なくとも部分的に変換して、水、他の炭化水素、H2、CO、CO2、未反応のメタン、及び>1%のエチレンを含む気体状の第1の中間流を生成することと、(c)前記気体状の第1の中間流から前記水の大部分を除去して、エチレン、他の炭化水素、H2、CO、CO2、及び未反応のメタンを含む気体状の第2の中間流を生成することと、(d)カルボニル化条件下で、前記気体状の第2の中間流、一酸化炭素ガス、気体状メタノール、及び固体硫化物系金属触媒を接触させて、プロパン酸メチルを生成することと、を含み、前記固体硫化物系金属触媒が硫化コバルトである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカン酸アルキルの気相生成に関する。一態様において、本発明は、不均一硫化物系金属触媒を使用した、アルカノールによるエチレンのカルボニル化によるプロパン酸アルキルの気相生成であり、エチレンは、シェールガス等のメタンに富む気体から生成される。
【背景技術】
【0002】
シェールガス及び天然ガスの改善された抽出方法の開発は、炭化水素供給原料の豊富な供給源を提供している。これらの供給原料は典型的には、80〜99%のメタン、1〜20%のエタン、1〜5%の高級炭化水素、ならびに他の非炭化水素構成物(CO
2及び窒素等)を含有する、気体混合物である。湿性シェールガスの利用が増加し、新たなエタンクラッカーが構築されている一方で、今日のシェールガスに由来するメタンの大部分は主に燃料として、または合成ガス生産のための供給原料として使用されている。
【0003】
化学生成物へのメタンの直接変換は、技術的な困難を呈する。メタンの酸化的カップリング(OCM)は、生成物へのメタンの直接変換のための最も探索されている経路のうちの1つである。エチレンに対するOCM反応は、2CH
4+O
2→C
2H
4+2H
2Oである。OCM触媒開発に対して精力的な研究が捧げられたという事実にも関わらず、エチレン及び他の所望のC
2+炭化水素分子の収率は、約20〜30%の最大値に達し、限界を示唆しているようである。OCMプロセスの主な問題は、酸素が、メタンとよりも生成物と反応性であることである。生成物の濃度が増加するにつれて、副反応の速度も増加する。OCM反応は高温、例えば、400−1000℃で起こるため、触媒の選択は副反応の速度にほとんど影響を与えず、メタンの大部分は二酸化炭素へと非選択的に酸化される。OCMの第2の主な問題は、未反応のメタン、H
2、CO、H
2O、CO
2、ならびにC
2+炭化水素(エチレン及びエタン等であるが、これらに限定されない)を含有するOCM生成物流からのエチレンの分離が、高価であることである。OCMプロセスの生成物の組成は、触媒の種類だけでなく、酸素源の種類(空気または純酸素等)ならびに操作条件(CH
4/O
2比率、P、T、接触時間、及び反応器の種類)にも依存する。OCMプロセスの生成物組成に対する、触媒の種類、操作条件、及び同時供給の選択肢の影響は、当業者にとって既知である。
【0004】
生成物流からのエチレンの高価な分離を避けながら、シェールガスの増加した供給物を利用して、それを有用な化学生成物に変換することができるプロセスを有することが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態において、本発明は、(a)>1モル%のアルカンを含む気体供給流を提供することと、(b)該アルカンを少なくとも部分的に変換して、水、未反応のアルカン、及び>1モル%のアルケンを含む気体状の第1の中間流を生成することと、(c)該気体状の第1の中間流から該水の大部分を除去して、少なくとも1つのアルケンを含む気体状の第2の中間流を生成することと、(d)気相カルボニル化条件下で、該気体状の第2の中間流、一酸化炭素ガス、アルカノールガス、及び固体硫化物系金属触媒を接触させて、アルカン酸アルキルを生成することと、を含む、プロセスである。
【0006】
一実施形態において、本発明は、(a)>1モル%のアルカンを含む気体供給流を提供することと、(b)該アルカンを少なくとも部分的に変換して、水、他の炭化水素、H
2、CO、CO
2、未反応のアルカン、及び>1モル%のアルケンを含む気体状の第1の中間流を生成することと、(c)該気体状の第1の中間流から該水の大部分を除去して、少なくとも1つのアルケン、他の炭化水素、H
2、CO、CO
2、及び未反応のアルカンを含む気体状の第2の中間流を生成することと、(d)気相カルボニル化条件下で、該気体状の第2の中間流、一酸化炭素ガス、アルカノールガス、及び固体硫化物系金属触媒を接触させて、アルカン酸アルキルを生成することと、を含む、プロセスである。
【0007】
別の実施形態において、本発明は、(a)>1%のメタンを含む気体供給流を提供することと、(b)OCMプロセスを介して、該メタンを少なくとも部分的に変換して、水、他の炭化水素、H
2、CO、CO
2、未反応のメタン、及び>1%のエチレンを含む気体状の第1の中間流を生成することと、(c)該気体状の第1の中間流から該水の大部分を除去して、エチレン、他の炭化水素、H
2、CO、CO
2、及び未反応のメタンを含む気体状の第2の中間流を生成することと、(d)カルボニル化条件下で、該気体状の第2の中間流、一酸化炭素ガス、気体状メタノール、及び固体硫化物系金属触媒を接触させて、プロパン酸メチルを生成することと、を含む、プロセスである。
【0008】
有利に、カルボニル化反応前に高価なアルケン/アルカン分離を必要としない一方で、この気相プロセスによってアルカン酸アルキルに対する驚くほど高い選択性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
元素周期表への全ての言及は、CRC Handbook of Chemistry and Physics,71
st Ed.(1990−1991)の1〜10ページに公開されている周期表を指す。また、族(単数または複数)へのいずれの言及も、族の番号付けに関するIUPACシステムを用いてこの元素周期表に反映される族(単数または複数)に対するものとする。反対の記述がない限り、文脈から黙示的ではない限り、または当該技術分野において通例ではない限り、全ての部及びパーセンテージは重量に基づき、全ての試験方法は本開示の出願日時点で最新のものである。気体流に関して示されるパーセンテージは、その流中に存在する総モルに基づくモルパーセントで示される。米国における特許慣行の目的で、参照されるあらゆる特許、特許出願、または刊行物の内容が、特に、合成技術、生成物及びプロセス設計、ポリマー、触媒、定義(本開示に具体的に提供されるいずれの定義とも矛盾しない程度まで)、及び当該技術分野における一般常識の開示に関して、参照により、それらの全体が本明細書に組み込まれる(またはそれらの均等な米国版が参照によりそのように組み込まれる)。
【0010】
本開示における数値範囲は近似であり、よって、別途指定のない限り、範囲外の値を含んでもよい。数値範囲は、下限値及び上限値を含めた全ての値を1単位刻みで含むが、但し、任意の下限値と任意の上限値との間に少なくとも2単位の隔たりがあるものとする。一例として、組成特性、物理特性、または他の特性、例えば、分子量、重量百分率等が100〜1,000である場合、全ての個々の値、例えば、100、101、102等、及び下位範囲、例えば、100〜144、155〜170、197〜200等は、明示的に列挙されることが意図される。1未満の値を含む範囲または1より大きい小数(例えば、1.1、1.5等)を含む範囲の場合、1単位は、必要に応じて、0.0001、0.001、0.01、または0.1であるとみなされる。10未満の1桁の数を含む範囲(例えば、1〜5)の場合、1単位は、典型的には0.1であるとみなされる。これらは、具体的に意図されるものの例であるに過ぎず、列挙される最低値と最高値との間の数値の全ての可能な組み合わせが、本開示に明示的に記載されているとみなされるべきである。数値範囲は、中でも、本発明の方法における種々の反応物の量、及び本発明の方法の操作条件について、本開示内に提供される。
【0011】
「組成物」及び同様の用語は、2つ以上の成分の混合物またはブレンドを意味する。
【0012】
「カルボニル化条件」及び同様の用語は、アルケン、一酸化炭素、及びアルカノール(それらのうちの1つ以上は、少なくとも部分的に気体の形態である)が、固体硫化物系触媒上で、かつそれと接触した状態で互いに反応してアルカン酸アルキルを形成するために必要な温度、圧力、及び他の条件を意味する。一実施形態において、アルケン、CO、及びアルカノールの各々は、少なくとも部分的に気体の形態である。一実施形態において、アルケン、CO、及びアルカノールの各々は、完全にまたはほぼ完全に気体の形態である。
【0013】
「縮合条件」及び同様の用語は、各々が気体の形態であるアルカン酸アルキル及びアルデヒドが、固体縮合触媒上で、かつそれと接触した状態で互いに反応して脂肪族カルボン酸のアルキルエステルを形成するために必要な温度、圧力、及び他の条件を意味する。
【0014】
「ハロゲンを含まないカルボニル化条件」及び同様の用語は、アルケン、CO、及びアルカノールを硫化物系金属触媒上で接触させてアルカン酸アルキルを形成する空間に、あらゆる形態のハロゲンが存在しないかまたは本質的に存在しないカルボニル化条件を意味する。「本質的に存在しない」とは、反応空間に存在するあらゆるハロゲンが、所望のアルカン酸アルキルへの変換または反応物の選択性に実質的に影響しない量で存在することを意味する。そのようなハロゲンの源は、例えば、反応もしくは触媒への供給物のうちの1つ以上から(例えば、汚染物質として)、または機器等の表面からであってもよい。一実施形態において、「ハロゲンを含まない」とは、反応物の総重量に基づいて1000部/100万(ppm)未満(<)、好ましくは<10ppm、より好ましくは<1ppmを意味する。
【0015】
本開示の目的で、「炭化水素」という用語は、少なくとも1つの水素及び1つの炭素原子を有する、全ての許容可能な化合物を含むことが企図される。広い一態様において、許容可能な炭化水素として、非環式及び環式、分岐鎖及び非分岐鎖、炭素環式及び複素環式、芳香族及び非芳香族、飽和及び不飽和の有機化合物(置換または非置換であり得る)が挙げられる。
【0016】
本開示の目的で、「アルカン」という用語は、C
nH
2n+2の式を有する直鎖または分岐鎖炭素鎖を特徴とする、脂肪族炭化水素を指す。アルカンの例として、メタン、エタン、プロパン、及びブタン等が挙げられる。
【0017】
本開示の目的で、「アルケン」という用語は、C
nH
2nの式を有する直鎖または分岐鎖炭素鎖を特徴とする、炭化水素の分類を指す。アルケンの例として、エテン、プロペン、ブテン、及びペンテン等が挙げられる。
【0018】
本発明のプロセスは、ステップ(b)において、アルカンを含む気体供給流、ならびにステップ(d)において、アルケン、一酸化炭素ガス、アルカノールガス、及び固体硫化物系金属触媒を用いる。
【0019】
ステップ(a)の気体供給流は、少なくとも1モル%のアルカンを含み、好ましくは少なくとも20モル%のアルカンを含む。有利に、アルカンは、1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜8個の炭素原子、及びより好ましくは1〜5個の炭素原子を含む。アルカンの例は、上文に示される。メタンが、好ましいアルカンである。気体供給流は、アルカンの混合物を含み得る。本発明の一実施形態において、気体供給流は、種々の成分を除去するための処理を行なうか、または行なわないかのいずれかである、シェールガスまたは天然ケース生産に由来する気体流であり得る。処理方法は、当業者にとって周知である。本発明の種々の実施形態において、アルカン含有気体は、少なくとも20モルパーセントのアルカン、少なくとも50モルパーセントのアルカン、または少なくとも80モルパーセントのアルカンを含む。本発明の一実施形態において、気体供給流は、80〜99%のメタン、1〜20%のエタン、ならびに1〜5%の他の炭化水素及び他の非炭化水素構成物(CO
2及び窒素等)を含有する、メタン含有気体混合物であり、成分のパーセンテージは、モルベースで総計100%になる。
【0020】
ステップ(b)
本発明のプロセスは、アルカン及び他の成分を含む気体混合物から、アルカンが少なくとも部分的にアルケンに変換されるステップを含む。アルカンからアルケンを生成するために、例えば、OCM、合成ガスへのメタンの変換及び後続するフィッシャー・トロプシュ反応、メタン熱分解、エタンクラッキング等の、当業者にとって既知であるいくつかのプロセスが想起され得る。アルカンがメタンである場合、OCMが好ましい。ステップ(b)において、アルカン含有気体供給流を処理して、アルカンを少なくとも1つのアルケンに少なくとも部分的に変換する。ステップ(b)の生成物、つまり気体状の第1の中間流は、アルケン、未反応のアルカン、H
2、CO、CO
2、及び他の炭化水素を含む気体流である。本発明の一実施形態において、気体状の第1の中間流は、1〜25%のアルケン及び1〜66%のアルカンを含み、残りは、水、H
2、CO、CO
2、及び任意で他の炭化水素である。OCMが用いられる本発明の一実施形態において、気体状の第1の中間流は、1〜30%のエチレン、1〜60%のメタンを含み、残りは、水、H
2、CO、CO
2、及び任意で他の炭化水素である。本発明の一実施形態において、ステップ(b)の変換プロセスは、OCMを含む。OCM反応器への供給物は、メタン及び酸素を含む。酸素は、空気及び産業用純酸素等の酸素含有気体として供給されてもよい。メタン対酸素のモル比は、0.1:1〜25:1、または好ましくは2:1〜5:1である。
【0021】
OCM反応は、当業者にとって周知である。好適な反応条件及びプロセス構成が、所望の生成物を得るために選択され得る。OCM反応の温度及び圧力は、特に重要ではない。例えば、反応の温度は、400℃〜1000℃または700℃〜900℃であり得る。圧力は、0.08〜2MPaまたは0.1〜1MPaであり得る。OCM反応のための好適な触媒は、当業者にとって周知であり、それらの例として、例えば、Li−MgO及びMn−Na
2WO
4/SiO
2等の混合酸化物触媒が挙げられる。OCM反応は、任意の好適な機器内で実行され得る。当業者は、好適な機器の仕様を容易に決定し、好適な機器設計を開発することができる。
【0022】
OCMプロセスは任意で、OCM反応器の前端または後端への同時供給を伴い得る。これは、OCMプロセスの生成物の組成に影響を与えるだろう。例えば、OCM反応器の前での水の同時供給は、OCM生成物流のCO
2含有量に対して影響を有する。同様に、OCM反応器の出口に向かってエタンが同時供給されてもよく、これは、エチレン収率の増加をもたらす。
【0023】
ステップ(c)
本プロセスのステップ(c)は、気体状の第1の中間流から水の大部分を除去して、未反応のアルカン、少なくとも1つのアルケン、任意で他の炭化水素、H
2、CO、及びCO
2を含む気体状の第2の中間流を生成することを含む。気体状流から水を除去するための技術は、当業者にとって周知である。よって、この除去は、例えば、縮合(圧縮による縮合を含む)を含む、任意の好適な手段によって達成することができる。本発明の一実施形態において、所望のアルケンの副反応を防ぐために、気体状の第1の中間流は、例えば、急冷塔内で、ステップ(b)の反応後に反応停止されてもよい。水除去ステップの条件は、特に重要ではない。
【0024】
アルカン酸アルキルの生成−ステップ(d)
カルボニル化ステップ(d)は、気体状の第2の中間流中のアルケンを所望のアルカン酸塩生成物に変換する。カルボニル化反応器を通過するあらゆるアルカンが、ステップ(b)に再循環され得る。したがって、本プロセスは、OCM生成物流に対して、アルカンからのアルケンの高価かつ困難な分離を実行する必要性なく、OCM及び関連するプロセスとともに使用することができる。一実施形態において、本発明は、エチレン、一酸化炭素、及びアルカノールからの、プロパン酸アルキルの生成ためのプロセスである。エチレンは、少なくとも部分的にまたは全体的に気体状中間供給流によって提供される。
【0025】
カルボニル化反応物
アルカノール、すなわち、アルコールは、シアノ、カルボニル、アルコキシ、またはアリール基等の1つ以上の置換基を含有し得るC
1−30アルカノールである。例示的なアルカノールとして、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、及びカプリルアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の目的で、ジオール及び糖等のポリヒドロキシル化合物は、本発明の実施において使用することができるアルカノールであるとみなされる。メタノールは、好ましいアルカノールである。アルカノールの混合物が用いられてもよい。
【0026】
一酸化炭素は、未希釈でまたは1つ以上の他の気体と組み合わせて使用することができる。本発明の一実施形態において、これらの他の気体は、反応条件下で、カルボニル化反応の反応試薬、生成物、及び副生成物に関して不活性である。これらの他の気体の例として、窒素、二酸化炭素、及び貴ガスが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一実施形態において、一酸化炭素が、少なくとも部分的にまたは全体的に気体状の第2の中間流によって提供されてもよい。
【0027】
カルボニル化触媒
カルボニル化触媒は、硫化物系触媒、具体的には金属硫化物触媒、更に具体的には固体硫化物系金属触媒である。触媒は、1つ以上の金属を含むことができる。典型的には、触媒は、少なくとも1つのVIII族金属、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム等を含み、1つ以上の他の金属、例えば、カリウム等のIA族金属、またはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、銅、亜鉛、タングステン等の別の遷移金属も含有することができる。触媒は硫化物であり、それは、触媒の少なくとも1つの金属が少なくとも1つの硫黄原子と共有結合またはイオン結合していることを意味する。カルボニル化ステップにおける使用に好適な触媒として、硫化鉄、硫化コバルト、カリウム助触媒を有する硫化ロジウム、及び硫化ニッケルが挙げられるが、これらに限定されず、硫化コバルトが好ましい。
【0028】
金属硫化物は、当該技術分野で周知であり、種々のプロセス、例えば、沈殿/共沈殿によってそれらを調製することができる。例えば、硫化コバルトは、(NH
4)
2Sの水溶液及び硝酸コバルト溶液等のコバルト塩水溶液の沈殿によって調製することができる。沈殿物を濾過し、乾燥させ、例えば500℃の炉内にて、窒素ガスブランケット下で処理する。例えば、Sigma Aldrich及びMaterion等の供給業者から入手可能なCAS1317−42−6等の購入される硫化コバルトも、効果的な触媒である。
【0029】
カルボニル化触媒は、支持されてもよい。好適な支持の例として、アルミナ、アルファアルミナ、ガンマアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、沸石、苦土、水酸化マグネシウム、チタニア、炭酸カルシウム、及び活性炭素等が挙げられる。支持された触媒の調製は、当該技術分野において周知である。
【0030】
カルボニル化プロセス条件及び機器
カルボニル化反応は、気相中、固体触媒上で実行される。したがって、アルケン、CO、及びアルカノールは、気体として導入され、固体触媒床上で、かつそれと接触した状態で互いに接触される。反応物は、単一または複数の供給流中に導入されてもよい。本発明の種々の実施形態において、CO対アルケンのモル比は、少なくとも1:1、少なくとも2:1、2:1〜50:1、または4:1〜15:1である。本発明の種々の実施形態において、アルケン対アルカノールのモル比は、少なくとも0.1:1、少なくとも0.5:1、または0.1:1〜10:1、または0.2:1〜2:1である。
【0031】
カルボニル化プロセスは、連続モードまたはバッチモードのいずれにおいても動作され得るものの、本プロセスは、典型的に及び好ましくは連続モードで動作される。
【0032】
カルボニル化温度は有利に、120℃〜450℃、好ましくは250℃〜380℃、及びより好ましくは280℃〜340℃である。本プロセスの総圧力は有利に、0.1〜20MPaであり、好ましくは1.5〜6MPaである。本プロセスの空間速度は有利に、1リットルの触媒当たり1時間当たり100〜1,000,000リットル(L/L
*時)の気体供給であり、好ましくは500〜5,000L/L
*時である。
【0033】
一実施形態において、カルボニル化反応は、高圧固定床反応器で実行される。一実施形態において、反応器は、管反応器である。典型的なプロトコルにおいて、温度及び圧力は、反応条件まで緩徐に増加される。触媒は、不活性気体(窒素またはヘリウム等)、水素、少量のH
2S、一酸化炭素、オレフィン、アルカノール、及び上記のものの任意の組み合わせからなる供給物に曝露され得る。本発明の一実施形態において、カルボニル化反応器への供給物のうちの少なくとも一部分は、気体状中間供給流を含む。カルボニル化反応器からの流出気体を、例えば、ガスクロマトグラフィー等の好適な分析技術を介して分析して、生成物組成及び変換されたCOの量を決定することができる。
【0034】
一実施形態において、反応器は、カルボニル化触媒が固体であり、反応物のうちの少なくとも1つが少なくとも部分的に気相にある、トリクル床反応器である。典型的には、エチレン及び一酸化炭素は完全に気体状であるが、アルカノールは、その沸点及びカルボニル化条件によって、部分的にまたは完全に液体であってもよい。本発明の目的で、トリクル床反応器で実行されるもの等のプロセスは、アルケン、CO、及びアルカノールのうちの少なくとも1つが、少なくとも部分的に、好ましくはほとんど、及びより好ましくは完全にまたはほぼ完全に気相にある限り、気相プロセスとみなされる。そのようなプロセスにおいて、アルケン及びCOは有利に、カルボニル化条件下で、完全にまたはほぼ完全に気相にある。
【0035】
ステップ(d)の生成物は、アルカン酸アルキルである。本発明の一実施形態において、エチレン、CO、メタノール、及び固体硫化物系金属触媒は、プロパン酸メチルとも呼ばれるプロピオン酸メチルを形成するのに十分なカルボニル化条件下で接触される。
【0036】
プロピオン酸のアルキルエステルの生成
本発明の一実施形態において、上述のプロセスにおいて作製されるアルカン酸アルキルは、アルデヒドとともに縮合されて、脂肪族カルボン酸のアルキルエステルを形成する。アルカン酸アルキルがプロパン酸メチルであり、アルデヒドがホルムアルデヒドである場合、生成物はメタクリル酸メチル(MMA)である。この縮合反応の機器、条件、及びプロトコルは、当業者にとって周知である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態は、(a)>1モル%のメタンを含む気体供給流を提供することと、(b)OCMプロセスを介して、該メタンを少なくとも部分的に変換して、水、H
2、CO、CO
2、未反応のメタン、他の炭化水素、及び>1モル%のエチレンを含む気体状の第1の中間流を生成することと、(c)該気体状の第1の中間流から大部分の該水を除去して、エチレン、他の炭化水素、H
2、CO、CO
2、及び未反応のメタンを含む気体状の第2の中間流を生成することと、(d)カルボニル化条件下で、該気体状の第2の中間流、一酸化炭素ガス、気体状メタノール、及び固体硫化物系金属触媒を接触させて、プロパン酸メチルを生成することと、を含む。
【0039】
実施例1
(NH
4)
2S(20%)の水溶液及び1.2モルの硝酸コバルト水溶液の沈殿によって、硫化コバルト触媒を調製する。沈殿物を濾過し、50℃で4時間乾燥させ、500℃の炉内にて、窒素ガス雰囲気下で処理する。
【0040】
固定床高圧マイクロ反応器において、後述の280〜290℃の温度及び1,700〜4,000L/L
*時の空間速度範囲で3日間、表1に示される供給組成物使用して、5MPaで硫化コバルト触媒を用いる。供給物はOCMプロセスの乾燥出口流に典型的なものであり、表1に示す。結果を表2に示す。選択性は、モル%C生成物に基づく。
【0043】
供給流中のCO
2、H
2、CH
4、及びC
2H
6の存在に関わらず、プロパン酸メチルに対する選択性は、最大83%まで驚くほど良好である。