(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868637
(24)【登録日】2021年4月14日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】少なくとも1種のケイ皮酸アリルを含有する塩化ビニリデンポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/08 20060101AFI20210426BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20210426BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20210426BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20210426BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20210426BHJP
B29C 48/18 20190101ALI20210426BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20210426BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
C08L27/08
C08K5/10
B32B27/30 C
B32B27/18 Z
B32B27/00 H
B29C48/18
B29C48/08
B65D65/40 D
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-546754(P2018-546754)
(86)(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公表番号】特表2018-538426(P2018-538426A)
(43)【公表日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】EP2016078848
(87)【国際公開番号】WO2017089562
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年10月25日
(31)【優先権主張番号】15306884.6
(32)【優先日】2015年11月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(73)【特許権者】
【識別番号】518185277
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス−マルセイユ
(73)【特許権者】
【識別番号】505041416
【氏名又は名称】セントレ ナショナル ドゥ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ショーヴェ, エロディ
(72)【発明者】
【氏名】ギグメ, ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】ギラヌフ, ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】シャポト, アグネス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィナス, ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】デュバエル, パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデルヴェーケン, イヴ
【審査官】
尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第02/017973(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0113570(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
B32B 1/00− 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物[組成物(C)]であって、
− 塩化ビニリデンポリマー[VDCポリマー];及び
− VDCポリマーの重量に対して0.05〜5重量%の、少なくとも1種の下記式(I)のシンナメートジエノフィル[ケイ皮酸エステル(I)]:
(式中、
R
1、R
2、R
3のそれぞれは、互いに同じ又は異なり、H又はC
1〜C
12炭化水素基である)
を含有
し、前記塩化ビニリデンポリマー中の塩化ビニリデン由来の繰り返し単位の量が、前記VDCポリマーの総重量に対して50〜99.5重量%で変動する、組成物[組成物(C)]。
【請求項2】
VDCポリマーが、塩化ビニル、マレイン酸無水物、イタコン酸、スチレン、スチレン誘導体、及び、下記一般式:
CH2=CR1R2
(式中、R1は水素及び−CH3から選択され、R2は−CN及び−COR3から選択され、R3は−OH及び−OR4から選択され、R4は、任意選択的に1つ以上の−OH基を有していてもよいC1〜C18の直鎖又は分岐のアルキル基、C3〜C10エポキシアルキル基、及びC2〜C10アルコキシアルキル基であり、R3は−NR5R6ラジカルからも選択され、R5及びR6は、同じ又は異なり、水素、及び任意選択的に1つ以上の−OH基を有していてもよいC1〜C10アルキル基から選択される)
に対応するアクリルモノマー又はメタクリルモノマーからなる群から選択される、塩化ビニリデンと共重合可能な少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー由来の繰り返し単位を含むコポリマーである、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項3】
塩化ビニリデンと共重合可能な前記エチレン性不飽和モノマーが、マレイン酸無水物、イタコン酸、アクリルモノマー又はメタクリルモノマー(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルからなる群から選択されるもの)、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、及びN,N−ジ(アルキル)アクリルアミドからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物(C)。
【請求項4】
VDCポリマーが、塩化ビニリデン(VDC)/アクリル酸メチル(MA)コポリマー、特には90/10〜94/6のVDC/MAの重量比を有するVDC/MAコポリマーからなる群から選択される、請求項3に記載の組成物(C)。
【請求項5】
前記ケイ皮酸エステル(I)が、式(II)のケイ皮酸シンナミル及び式(III)のケイ皮酸アリル:
からなる群から選択される、請求項1〜
4のいずれか1項に記載の組成物(C)。
【請求項6】
前記組成物(C)中の前記ケイ皮酸エステル(I)の量が、VDCポリマーの総重量に対して少なくとも0.25重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%である;及び/又はVDCポリマーの総重量に対して最大4重量%、より好ましくは最大3重量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項7】
VDCポリマーと、ケイ皮酸エステル(I)と、他の成分とが一緒に混錬される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物(C)の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物(C)から製造される、層[層(B)]。
【請求項9】
組成物(C)が最初に押出機に供給され、加熱及びせん断力の同時の作用により溶融状態にされ;溶融した組成物(C)が環状のダイを通して押し出され、ダイ表面から離れるにつれてそのようにして得られたチューブの中で気体が膨張し、結果として層(B)が得られる、請求項8に記載の層(B)の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の少なくとも1つの層(B)を含む多層組立体[組立体(A)]であって、前記層(B)が少なくとも1つの追加的な層[層(O)]に取り付けられている、多層組立体[組立体(A)]。
【請求項11】
層(B)に取り付けられる層(O)を得るために使用される材料が、ポリオレフィン、特にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン;ポリスチレン;例えば酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、硝酸セルロースなどのセルロースエステル;ポリ酢酸ビニル;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル;ポリビニルアルコール;ポリビニルアセタール;ポリアリルアルコール;ポリ酢酸アリル;例えばポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル;例えばナイロンなどのポリアミドからなる群から選択される、請求項10に記載の組立体。
【請求項12】
少なくとも1つの層(O)がポリエチレン(PE)を含む熱可塑性組成物から製造される、及び/又は少なくとも1つの層(O)がエチレン−酢酸ビニルコポリマー(EVA)を含む熱可塑性組成物から製造される、請求項11に記載の組立体。
【請求項13】
組成物(C)の層(B)が、場合により1つ以上の追加的な接着層又は結合層[層(T)]の使用により、外層(O)と内層(O)との間に挟まれている多層組立体である、請求項10〜12のいずれか一項に記載の組立体。
【請求項14】
層(B)が、共押出積層、接着積層、キャストシート押出、管状水冷押出、エアブロー押出、又は任意の他の同様のフィルム製造工程によって形成される組立体の中に組み込まれる、請求項10〜13のいずれか一項に記載の組立体の製造方法。
【請求項15】
請求項10〜12のいずれか一項に記載の組立体(A)から製造される包装であって、好ましくは、従来型のパウチ;ボイルインバッグパウチ;ターキーバッグ;収縮パウチ;耐油性パウチ;さび及び/又はカビ防止フィルム、パウチ及び袋;赤身肉保護フィルム、パウチ及び袋;水分調整フィルム;真空形成原料;窓フィルム;改良された耐候フィルム;幅広い温度で改良された耐酷使フィルム;ドラム及び他の容器の裏張り;パンの包装;チーズの包装;薬剤、医薬品、化粧品、香水などのための、気体及び液体の耐透過性が必要とされる容器;配管の覆い;フロアタイル;例えば王冠のライナーなどの瓶のキャップのライナーからなる群から選択される、包装。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年11月27日出願の欧州特許出願第15306884.6号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、中に物品を包装するためのフレキシブルフィルムの製造のために好適な、添加剤として特定のジエノフィルを有する塩化ビニリデンポリマー組成物に関する。更に、本発明は、前記塩化ビニリデンポリマー組成物から製造される気体及び/又は蒸気の分子の拡散を防止する特性を有するバリア層を含む複数の層を有する、フレキシブルフィルムにも関する。塩化ビニリデンポリマー組成物の中に含まれる特定のジエノフィル添加剤は、熱、紫外線などの光、及び/又は電子線照射によって引き起こされるフィルム構造の変質から、バリアフィルムを保護することができる。
【背景技術】
【0003】
塩化ビニリデンポリマーは、その良好なバリア特性、すなわちこれを通り抜けての例えば気体(酸素等)、蒸気、風味分子等などの流体の侵入及び拡散を防止するその能力について、包装産業においてよく知られている。これは例えば包装及び貯蔵用途において、特には食品分野のために必要とされており、結果として包装内部の中身の有効保存期間が延長される。
【0004】
塩化ビニリデンポリマーから製造されるバリア層は、一般的には多層フィルム構造で構成され、この中の異なる層が複数の望ましい特性を付与するために協働する。そのため、バリア層は、各層が複数の特徴を有している多数の他のフィルム層により構成される(例えば取り囲まれる)場合がある。
例えば、引き裂き、引っ掻き、及び/又は亀裂に耐える特性をフィルムに付与するために、酷使層(abuse layer)がフィルム構造の外側に設けられる場合がある。更に、加熱するとそれ自体若しくは他の層に又は物品を密封することができる層を付与するために、フィルム構造の代替表面上にシーラント層が設けられる場合もある。加えて、フィルム構造の中に、多層フィルム構造内のバリア層、酷使層、シーラント層、又は任意の他の層などの内部層を結合させるための複数の「結合層」又は接着層を有する複数の層が含まれる場合がある。
【0005】
気体、特には酸素に対するバリア特性を有する収縮性多層フィルムは、肉、チーズ、家禽、及び多数の他の食品、並びに非食用品の包装において多くの有用な用途が見出されてきた。これらのフィルムの、例えばより優れた耐酷使性(abuse resistance)、より優れた耐引き裂き性、改善された透明性、及びより優れた取り扱い易さなどの、より優れたバリア特性をこれらに持たせるための改良が常に必要とされている。
【0006】
結合層と組み合わされていてもよい、ポリオレフィン及び塩化ビニリデンポリマーの層を有する多層フィルムは、70年代から知られており、例えば米国特許第3821182号明細書(W.R.GRACE)28/06/1974又は米国特許第4640856号明細書(W.R.GRACE)03/02/1987に開示されている。
【0007】
前記多層フィルムの耐収縮性及び耐酷使性を改善するために一般的であり高く評価されている手法としては、ポリオレフィン層を架橋させるためのフィルムの照射工程が挙げられる。架橋の程度は、ポリマーの種類と放射線量に依存する。架橋のために照射を使用することの1つの利点は、放射線量を調整することによって架橋の程度を容易に制御できることである。
【0008】
塩化ビニリデンポリマー(PVDC又はVDCポリマー)は、酸素や水蒸気などの気体及び蒸気に対する低い透過性のため最適な材料であるが、これらの材料は、本質的に熱に不安定であることから高エネルギー照射下で変色する傾向がある。
【0009】
分解反応によって、共役ポリエンの形成と共に副生成物としてのHClが生成し得る。PVDCの中に特定のエチレン性不飽和モノマー(例えばアルキル(メタ)アクリレート)を組み込むと分解プロセスが低減されるものの、熱及び/又は照射はなお著しい分解を生じさせ得る。
【0010】
分解反応は、一般的には次の通りに進行すると理解されている:
−(CH
2CCl
2)
n−→−(CH=CCl)
n−+nHCl
【0011】
HClなどの有害な副生成物の生成に加えて、分解はPVDCの結晶性も低下させる場合があり、それにより気体又は蒸気がこれを透過する可能性が増加し得る。そのため、架橋を生じさせるために利用される照射は、バリア材料としてのPVDCの品質を低下させる場合がある。
【0012】
更に、共役ポリエンの形成は、塩化ビニリデンポリマーによって製造されるフィルムを透明から黄色へと変色させる。著しい分解が生じる場合、前記PVDCフィルムは褐色、更には黒色へと変色し得る。特に、フィルムの光学特性は、熱、光、又は電子線の照射による塩化ビニリデンポリマーの分解によって大きく低下する。
【0013】
塩化ビニリデンポリマーを安定化させるための技術は、大々的には開発されていないものの、これまでに述べられている。
【0014】
特に、例えばマレイン酸無水物及び二塩基性マレイン酸鉛などのジエノフィルは、共役ジエンと反応し、それにより反応しない場合にポリマーに色を付与し得る共役ジエンを安定化させることによって塩化ビニリデンポリマーフィルムの変色を防止することが見出されている。ジエノフィルは、通常、複数のDiels−Alder反応においてこれらの二重結合と反応することによりこれらの共役ポリエンを安定化させる。反応が共役二重結合を取り除き、その結果フィルムの特性、特にはその光学的な透明性が改善される。ジエノフィルを使用することの追加的な利点は、HClがフィルムの中に残り、そのため反応の進行が遅くなることである。
【0015】
しかし、上に述べたもの以外には、ジエノフィルを有するPVDCの処方は、これまでのところほとんど利用されていない。
【0016】
この枠内では、米国特許第5679465号明細書(W.R.GRACE)21/10/1997に、無水物部位を有するコポリマーであるジエノフィルを使用することが教示されている。具体的には、米国特許第5679465号明細書には、エチレン/アルキルアクリレート/マレイン酸無水物ターポリマーなどの、オレフィン、アクリル、及び無水物のコモノマーを有するターポリマー、又はジエノフィルとしてのマレイン酸無水物のグラフト化されたコポリマーが開示されている。
【0017】
塩化ビニリデンポリマーフィルムマトリックスの結晶性を妨げ得るコポリマー添加剤を使用することの難しさを克服するために、米国特許第6911242号明細書(PECHINEY EMBALLAGE FLEXIBLE EUROPE)28/06/2005は、一般的なマレイン酸エステル構造(R
1OOCCH=CHCOOR
2)又は一般的なケイ皮酸エステル構造(C
6H
5−CH=CH−COOR)を有する特定のジエノフィルを含むPVDC層を含むフレキシブルなフィルムを提供しており、特にはtrans−ケイ皮酸エチル、trans−ケイ皮酸メチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジメチル、及びマレイン酸無水物の使用を推奨している。
【0018】
この状況の中で、熱、光、及び電子線の照射によるPVDCの分解によって形成される共役ポリエンと反応する、フレキシブルフィルム包装のためにその中に組み込まれるジエノフィルを有し、その結果、バリア特性を確実に維持して都合のよい環境/食品接触特性を有しながらも、黄変/黒ずみを最小限にする、改良されたPVDC配合物が継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、本明細書において、放射線照射された際にバリア特性への悪影響なしに変色を防止する最適化された効果のバランスを有する、食品との接触に適切な、特定のシンナメートジエノフィルを含有する改良されたPVDC組成物を提供する。
【0020】
かくして、本発明は、
− 塩化ビニリデンポリマー[VDCポリマー];及び
− VDCポリマーの重量に対して0.05〜5重量%(wt%)の、少なくとも1種の下記式(I)のシンナメートジエノフィル[ケイ皮酸エステル(I)]:
(式中、
R
1、R
2、R
3のそれぞれは、互いに同じ又は異なり、H又はC
1〜C
12炭化水素基である)
を含有する、組成物[組成物(C)]を提供する。
【0021】
出願人らは、驚くべきことに、式(I)のシンナメートジエノフィル、特にはケイ皮酸部位のエステル酸素ブリッジに対してβ,γ位にエチレン性不飽和二重結合を含むものは、放射線照射された際にガス(特には酸素)の透過性への悪影響なしにVDCポリマーの変色を防止するのに特に有効でありながらも、食品包装において使用するための食品と接触する適性を有することを見出した。
【0022】
本発明の別の目的は、上述した組成物(C)から製造される層[層(B)]である。
【0023】
本発明のまた別の目的は、上述した少なくとも1つの層(B)を含む多層組立体[組立体(A)]であって、前記層(B)が少なくとも1つの追加的な層に取り付けられている、組立体(A)である。
【0024】
本発明のまた別の目的は、上述した組立体(A)から製造される包装である。
【0025】
本明細書において、「塩化ビニリデンポリマー」、「VDCポリマー」、及び「PVDC」という表現は、PVDCの総重量に対して少なくとも50重量%の繰り返し単位が塩化ビニリデン由来であるポリマーを指すために、同義語として使用される。典型的には、塩化ビニリデンポリマー中の塩化ビニリデン由来の繰り返し単位の量は、PVDCの50〜99.5重量%、好ましくは60〜98重量%、より好ましくは82〜93重量%、最も好ましくは85〜90重量%で変動する。
【0026】
乳化重合及び懸濁重合が好ましい工業的な製造方法である一方で、塩化ビニリデンホモポリマーはほとんど加工に適しておらず、一般的にはコポリマーが商業的にはより重要であるとみなされている。そのため、塩化ビニリデンポリマーは、通常、より良好な加工性を持たせる目的で、及び対象の性能を微調整する目的で、例えばアクリル酸メチルなどの、塩化ビニリデンと共重合可能な少なくとも1種の追加的なエチレン性不飽和モノマー由来の繰り返し単位を含む。
【0027】
塩化ビニリデンと共重合可能な、使用できる少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーの非限定的な例としては、例えば塩化ビニル;酢酸ビニルなどのビニルエステル;ビニルエーテル;アクリル酸、そのエステル及びアミド;メタクリル酸、そのエステル及びアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;スチレン;スチレンスルホン酸及びその塩などのスチレン誘導体;ビニルホスホン酸及びその塩;ブタジエン;エチレン及びプロピレンなどのオレフィン;イタコン酸、及びマレイン酸無水物が挙げられる。
【0028】
好ましくは、塩化ビニリデンと共重合可能な前記エチレン性不飽和モノマーは、塩化ビニル、マレイン酸無水物、イタコン酸、スチレン、スチレン誘導体、及び、下記一般式に対応するアクリルモノマー又はメタクリルモノマーからなる群から選択される:
CH
2=CR
1R
2
(式中、R
1は水素及び−CH
3から選択され、R
2は−CN及び−COR
3から選択され、R
3は−OH及び−OR
4から選択され、R
4は、任意選択的に1つ以上の−OH基を有していていてもよいC
1〜C
18の直鎖又は分岐のアルキル基、C
2〜C
10エポキシアルキル基、及びC
2〜C
10アルコキシアルキル基であり、R
3は−NR
5R
6ラジカルからも選択され、R
5及びR
6は、同じ又は異なり、水素、及び任意選択的に1つ以上の−OH基を有していてもよいC
1〜C
10アルキル基から選択される)。
【0029】
より好ましくは、塩化ビニリデンと共重合可能な前記エチレン性不飽和モノマーは、塩化ビニル、マレイン酸無水物、イタコン酸、アクリルモノマー又はメタクリルモノマー(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルからなる群から選択されるもの)、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、及びN,N−ジ(アルキル)アクリルアミドからなる群から選択される。
【0030】
更に好ましくは、塩化ビニリデンと共重合可能な前記エチレン性不飽和モノマーは、マレイン酸無水物、イタコン酸、アクリルモノマー又はメタクリルモノマー(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルからなる群から選択されるもの)、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、及びN,N−ジ(アルキル)アクリルアミドからなる群から選択される。
【0031】
最も好ましくは、塩化ビニリデンと共重合可能な前記エチレン性不飽和モノマーは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、及びN,N−ジ(アルキル)アクリルアミドからなる群から選択される。
【0032】
典型的には、塩化ビニリデンポリマー中の塩化ビニリデンと共重合可能な前記エチレン性不飽和モノマー由来の繰り返し単位の量は、VDCポリマーの総重量に対して0.5〜50重量%、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは4〜18重量%、最も好ましくは5〜15重量%で変動する。
【0033】
本発明の枠内で特に有用であることが見出されたVDCポリマーの分類は、塩化ビニリデン(VDC)/アクリル酸メチル(MA)コポリマーの群、特には90/10〜94/6のVDC/MAの重量比を有するVDC/MAコポリマーである。
【0034】
ケイ皮酸エステル(I)は、有利には、式(II)のケイ皮酸シンナミル及び式(III)のケイ皮酸アリルからなる群から選択される:
【0035】
組成物(C)中のケイ皮酸エステル(I)の量は、VDCポリマーの重量に対して通常は少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも0.25重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%である。0.05重量%未満の量で使用される場合には、ケイ皮酸エステル(I)は黄変に対する十分な安定化を与えないことが見出された。
【0036】
組成物(C)中のケイ皮酸エステル(I)の量は、通常、VDCポリマーの重量に対して最大5重量%、好ましくは最大4重量%、より好ましくは最大3重量%である。5重量%を超える量で使用される場合には、ケイ皮酸エステル(I)は、VDCポリマーの結晶性を不利に損ない、これを受け入れる前記VDCポリマーのバリア特性を低下させる場合がある。
【0037】
組成物(C)は、他の成分を更に含有していてもよく、これは、フィルム製造工程時に組成物(C)の押出又はブロー成形における助剤として組み込まれてもよい。前記成分の例示的な実施形態は、特には加工助剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、滑剤、帯電防止剤等である。
【0038】
VDCポリマーとは異なる別の熱可塑性ポリマーが追加的な成分として組成物(C)の中に含まれる実施形態も、本発明に包含される。これらの場合、追加的な熱可塑性樹脂の量は、通常はVDCポリマーの量に対して少量である。組成物(C)の中でVDCポリマーと組み合わせることができる追加的な熱可塑性樹脂の非限定的な例は、特にはポリエチレン(PE)、エチレン−酢酸ビニルコポリマー(EVAコポリマー)、ポリエステル等である。
【0039】
組成物(C)は、通常、多量のVDCポリマーと、少量の全ての他の成分(上で詳述したジエノフィルとしてのケイ皮酸エステル(I)等)とを含有する。
【0040】
組成物(C)の中に含まれるVDCポリマーの量は期待される性能の観点から最適化される。しかし、バリア特性を最適化するという目的のためには、組成物中のVDCポリマーの量は、組成物の総重量に対して少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%であることが理解される。
【0041】
組成物(C)は、熱可塑性樹脂の混錬のための標準的な方法によって製造することができる。典型的には、VDCポリマーと、ケイ皮酸エステル(I)と、適切な場合には他の成分とが特には適切な混合装置の中で一緒に混錬される。
【0042】
通常、混錬は、VDCポリマーが溶融状態にある際に、ケイ皮酸エステル(I)をこのVDCポリマーとせん断応力の作用により混合することによって、押出機の中で行うことができる。押出手法によれば、対象の製品の輪郭形状(例えば幾何学的形状及び大きさ)はダイから得られ、これは溶融プラスチックが押出機のバレルからダイへと均一に流動するように設計される。
【0043】
上で述べたように、本発明の別の目的は、上で詳述した組成物(C)から製造される層[層(B)]である。
【0044】
前記層(B)は、任意の方法によって製造することができる。しかし、前記層(B)は、通常は押出−ブロー法によって製造することが好ましい。この手法によれば、組成物(C)は最初に押出機に供給され、加熱及びせん断力の同時の作用により溶融状態にされる。溶融した組成物(C)は環状のダイを通して押し出され、これは空気圧によって急速に膨張させられ、その結果これは横方向と延伸方向の両方でプラスチックが生じるように延伸される。延伸及びブローイングにより、フィルムは環状のダイからの押出物よりも薄くなる。層(B)はチューブとして使用することができ、あるいはフィルムを得るために縦方向に切り込みを入れることができる。
【0045】
しかし、組成物(C)から製造される層(B)は、典型的には多層組立体の中で有用であり、この中でこれは追加的な層と組み合わされてバリア層として機能することが通常理解される。
【0046】
そのため、本発明の別の目的は、上で詳述した少なくとも1つの層(B)を含む多層組立体[組立体(A)]であって、前記層(B)が少なくとも1つの追加的な層[層(O)]に取り付けられる、多層組立体[組立体(A)]である。
【0047】
本明細書において、用語「組立体」は、反対の意味が明確に指示されていない限り、チューブ/チューブ状のフィルムとシート素材の両方に対する総称である。
【0048】
前記追加的な層は、例えば酷使層として、シーラント層として、等のこれらの機能的な用途の観点から適切に選択されるポリマー組成物から製造される。
【0049】
本発明の多層組立体中の層(B)に取り付けられる層(O)を得るために使用できる例示的な材料としては、ポリオレフィン、特にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン;ポリスチレン;例えば酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、硝酸セルロースなどのセルロースエステル;ポリ酢酸ビニル;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル;ポリビニルアルコール;ポリビニルアセタール;ポリアリルアルコール;ポリ酢酸アリル;例えばポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル;例えばナイロンなどのポリアミド;を挙げることができる。
【0050】
好ましい実施形態は、少なくとも1つの層(O)がPEを含む熱可塑性組成物から製造される及び/又は少なくとも1つの層(O)がEVAコポリマーを含む熱可塑性組成物から製造されるものである。
【0051】
本明細書において、用語「ポリエチレン」(PE)は、場合により少量の異なるα−オレフィン(典型的には1−ブテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン)と組み合わされてもよい、式C
2H
4の気相炭化水素を重合することによって得られる樹脂の群を意味する。重合の触媒及び方法を変更することで、密度、メルトインデックス、結晶化度、分岐及び架橋の程度、分子量及び分子量分布などの特性を、幅広い範囲にわたって調節することができる。ポリエチレンは、主にその密度及び分岐に基づく複数の異なるカテゴリーに分類される。約0.915g/cm
3〜0.925g/cm
3の範囲の密度を有するポリエチレンは「直鎖低密度ポリエチレン」(LLDPE)と呼ばれる。約0.926g/cm
3〜約0.940g/cm
3の密度を有するものは「中密度ポリエチレン」(MDPE)と呼ばれ、約0.940g/cm
3より大きい密度を有するものは「高密度ポリエチレン」(HDPE)と呼ばれる。本明細書においては、用語「超低密度ポリエチレン」(VLDPE)は、0.880g/cm
3〜0.915g/cm
3の範囲の密度を有する直鎖PEコポリマーを意味する。
【0052】
上述したポリエチレンのいずれも、上で詳述した層(O)の中で使用することができる。
【0053】
本明細書において、用語「エチレン−酢酸ビニルコポリマー」(EVAコポリマー)は、エチレンモノマーと酢酸ビニルモノマーとから形成されるコポリマーであって、エチレン単位が多量に存在し、酢酸ビニル単位が少量で存在するコポリマーのことをいう。
【0054】
層(B)は、共押出積層、接着積層、キャストシート押出、管状水冷押出、エアブロー押出、又は任意の他の同様のフィルム製造工程によって形成されるフレキシブルフィルムなどの、任意の種類の多層組立体の中に組み込むことができる。
【0055】
本明細書において、用語「共押出」は、急冷前に押出物が融合して層状構造へと合体するように配置されている2つ以上のオリフィスを有する単一のダイから2種以上の材料を押し出す工程のことをいう。すなわち、共押出とは、同時に材料の複数の層を押し出しすることを意味し、多くの場合、UV吸収、特有の構造、酸素透過防止性能、耐摩耗性、強度等などの具体的な特性を得るために、ベース材料の上面に1つ以上の層を設ける目的で使用される。層の厚さは、材料を供給するそれぞれの押出機の相対速度及び大きさによって制御される。
【0056】
組立体(A)は、通常共押出ブロー法によって得られ、この中でダイは、適切なアダプターを介して、VDCポリマーを含有する溶融組成物(C)を運ぶ少なくとも1つの押出機及び別の溶融熱可塑性組成物を運ぶ少なくとも1つの押出機へと接続される。溶融組成物の一体化した流れは、多層チューブの形態でダイを離れ、空気又は気体状の媒体がこの中で膨らみ、その結果これがバブルとしてこれを膨張させる。通常、これはダイを離れると少なくとも2〜2.5倍に膨張し、その結果非常に薄い層厚さが得られる。
【0057】
特に有利であることが見出された多層組立体は、場合により1つ以上の追加的な接着層又は結合層[層(T)]の使用により、組成物(C)の層(B)が外層(O)と内層(O)との間に挟まれているものである。例示的な実施形態は、特には層を製造するために使用される組成物の主成分が次の通りである組立体である:
PE/VDCポリマー/PE;PE/VDCポリマー/EVA;EVA/VDCポリマー/EVA;PE/接着層/VDCポリマー/接着層/PE。
【0058】
本発明の組立体(A)は、概して配向しているか熱により収縮可能な組立体である。
【0059】
「配向している」又は「熱により収縮可能な」組立体は、本明細書では、室温より高い適切な温度(例えば96℃、すなわちお湯の中)まで加熱された場合に少なくとも1つの直線方向に5%以上自由収縮する材料として定義される。
【0060】
ダブルバブルブローフィルム法と呼ばれる収縮包装組立体を形成するための典型的な周知の方法の際、上で詳述した層(B)を含む多層組立体は、環状ダイの中で共押出されて空気が吹き込まれることで第1のバブルを形成することができる。第1のバブルは、冷たい浴に浸漬されることによってクエンチされてもよい。バブルはその後つぶれてもよく、また多層組立体を二軸に配向させる第2のバブルの中へ吹き込まれるために、再加熱浴又は他の任意の再加熱方法(例えば赤外線照射など)により供給されてもよい。第2のバブルはその後つぶれてもよく、また巻き取りシリンダ―へと送られてもよい。この具体的な方法は、つぶれたチューブとしてのフィルムを維持することによって収縮包装袋を製造するために使用することができる。しかし、フィルムは、巻き取りシリンダ―に送られる前につぶれた第2のバブルを切り取ることによって製造されてもよい。
【0061】
多層組立体は、その後多層組立体の隣接層の中のポリマー鎖の架橋のための電子線照射チャンバーを通って送られてもよい。例えば、EVAコポリマーは、例えばより大きな引張強さなどの特定の特徴を有するフィルムの層を製造するために容易に架橋することができる。
【0062】
照射が行われる場合、これは電子、X線、ガンマ線、β線等を使用する高エネルギー照射の使用によって行うことができる。好ましくは、電子は少なくとも10’電子ボルトエネルギーのものが使用される。照射源は、ヴァンデグラフ型の電子加速器であってもよく、これは、様々な作動電圧及び出力の様々な種類で、例えば500ワット(W)の出力で2,000,000ボルト(V)で作動するもの、並びに3,000,000V及び12,000Wのものなどを利用することができる。あるいは、General Electricの2,000,000V、10kWの共振変換器、又は対応する1,000,000V、5kWの共振変換器などの、高エネルギー電子の他の供給源を用いることもできる。電圧は、10kV〜1000kV、好ましくは50kV〜500kVであってもよい。照射は、通常は10kGy〜100kGyで行われ、好ましい範囲は20kGy〜60kGyである。グレイ(Gy)は吸収された線量及び比エネルギー(単位質量当たりのエネルギー)のSI単位であり、これは100Radに等しい。照射は簡便には室温で行うことができるものの、それより高い温度及び低い温度も利用することができる。
【0063】
本発明のまた別の目的は、上で詳述した組立体(A)から製造される包装、及び包装のための、特には食品包装のための、組立体(A)の使用である。
【0064】
本発明の組立体(A)は、従来型のパウチ;ボイルインバッグパウチ;ターキーバッグ;収縮パウチ;耐油性パウチ;さび及び/又はカビ防止フィルム、パウチ及び袋;赤身肉保護フィルム、パウチ及び袋;水分調整フィルム;真空形成原料;窓フィルム;改良された耐候フィルム;幅広い温度で改良された耐酷使フィルム;ドラム及び他の容器の裏張り;パンの包装;チーズの包装;薬剤、医薬品、化粧品、香水などのための、気体及び液体の耐透過性が必要とされる容器;配管の覆い;フロアタイル;例えば王冠のライナーなどの瓶のキャップのライナー;として使用することができる。
【0065】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0066】
本発明は、以下の実施例を参照しつつこれから説明されるが、その目的は、単なる例示であり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0067】
実施例では次の試薬を使用した:
【0068】
PVDC組成物のマスターバッチ(M/B):VDC/MAの重量比が92/8であるVDC/MAコポリマー、PV910 TAX5A−24−01として市販、微量の添加剤を含有(Solvayより);
ジエノフィル(全てAldrichから入手可能):
trans−ケイ皮酸メチル(CAS No.1754−62−7;純度99%);
trans−ケイ皮酸エチル(CAS No.103−36−6;純度99%);
ケイ皮酸シンナミル(CAS No.122−69−0;純度≧95%);
ケイ皮酸アリル(CAS No.1866−31−5;純度≧99%)。
【0069】
異なるジエノフィルを組み込んだPVDC単層フィルムの製造:
PVDC組成物の単層フィルムは、2重量%の異なるジエノフィルが組み込まれたPVD組成物の98重量%の前記M/Bを、200×0.6mmのシートダイを有する1台の押出機(D=19mm、スクリューのL/D比=20)を使用して押し出すことによって製造した。ダイから出たフィルムをクエンチのために冷却し、3ロールチルカレンダーにより縦方向に大きく又は小さく引き伸ばした。フィルムの延伸率を制御することによって、10〜60μmの様々な厚さを有する複数のフィルムを製造した。
【0070】
フィルムをオーブンの中で40℃で2日間処理し、その後50%の相対湿度の下で23℃で貯蔵した。
【0071】
実施例の中で使用したPVDC組成物は下の表1の中にまとめられている。
【0072】
【0073】
異なるジエノフィルを組み込んだPVDC組成物から製造したバリア層を含む、多層組立体の製造:
A/B/Aの3層フィルムサンプル(A:EVAコポリマー、Exxon Mobilから入手可能なESCORENE(登録商標)UL909;B:Solvayから入手可能なPVDC組成物のM/B)は、複数の温度ゾーンを有するフィードブロックと200×0.6mmのシートダイとを備えた2つの押出機を使用して共押出することにより製造した。
【0074】
ダイから出た多層フィルムを同様にクエンチのために冷却し、様々な厚さにするために3ロールチルカレンダーにより縦方向に大きく又は小さく引き伸ばした。
【0075】
単層及び多層フィルムへの照射:
単層フィルム及び多層フィルムに対して、IONISOS SAによる20kWの出力及び10MeVの電子加速器を使用して照射した。前記フィルムは、パレット層コンベアにより自動連続処理するコンピューターにより処理した。放射線量は、コンベアベルトの速度を制御することによって30kGy及び/又は120kGyに調整した。
【0076】
黄色度指数(YI)の決定:
ポリマーフィルムのYI測定は、ASTM規格E−313(D65及び10°)に従って、BYK Gardner分光光度計を使用して行った。
【0077】
単層及び多層フィルムを用いた実験結果は、ジエノフィルとしてのケイ皮酸アリル(実施例1)及びケイ皮酸シンナミル(実施例2)が、特には「参照」、すなわち92/8のVDC/MA重量比を有するジエノフィルなしのVDC−MAコポリマーであるPV910 TAX5A−24−01と比較して、変色の防止、すなわち照射後の黄変の防止に非常に有効であることを示した。
【0078】
単層フィルムに関しては、下の表2中で示されているように、特には参照と比較したYIに関し、trans−ケイ皮酸メチル(比較例1)以外のケイ皮酸エステル官能基を有する全てのジエノフィルは、30kGyの放射線量で有効であった。
【0079】
【0080】
共押出した多層フィルムに関しては、下の表3に示されているように、実験結果から、本発明のシンナメートジエノフィルが、参照と比較して、PVDCフィルムのΔYI(30kGy及び120kGyの放射線量での照射前と照射後のYIの差)の低減に大きく寄与すること、特にはケイ皮酸シンナミル(実施例2)が中でも30kGyで0.10という優れたΔYIを示すことが明らかになった。
【0081】
【0082】
酸素透過率(OTr)の決定:
OTr測定は、MOCON,Incから入手可能なOX−TRAN(登録商標)2/21を使用して、23℃及び0%の相対湿度で、ASTM D−3985に従って行った。電量センサがフィルムを透過する酸素を測定できるように、各多層フィルムを、酸素を含む1台のチャンバーと、酸素がない別のチャンバーとの間に封じ込めた。
【0083】
照射後、単層フィルムは、その脆性のためOTr測定時に破れた。そのため、30kGy及び120kGyの放射線量での照射前及び照射後の共押出多層フィルムについてのみOTr測定を実施した。結果は下の表4にまとめられている。
【0084】
【0085】
表4に示されているように、全ての共押出多層フィルムは、30kGy及び120kGyの放射線量で照射した後OTrに関して優れた性能を示し、これらは食品包装用途での使用に十分に適している。
【0086】
全ての実験的な裏付けデータは、少なくとも1種のケイ皮酸エステル、特にはケイ皮酸シンナミル又はケイ皮酸アリルをジエノフィルとして組み込んだ本発明のPVDC組成物を使用することによって作製されるフィルムが、黄変の減少、すなわち黄変に対する十分な安定化に寄与し得ることを証明した。簡潔にいうと、本発明のPVDC組成物を使用することによって作製されるフィルムは、バリア特性を確実に維持しながらも、放射線照射された際のフィルムの変色の防止の有効性の最適なバランスを示し、そのため好都合な環境/食品に接触する特性を有する。